説明

自動車のアンダーカバー装置

【課題】 車体への取り付けレイアウトが簡易であり、空気流を用いて発生させた逆揚力をショックアブソーバを介さずに車輪に印加し、高速走行時の車輪の接地荷重の減少を防ぐ自動車のアンダーカバー装置を提供する。
【解決手段】 自動車の左右のタイヤハウジング付近に設けられ、車輪を回動自在に支持する支持部材4FL、4FR,4RL、4RRと、前記自動車の床下部を覆うアンダーカバー本体1A、1Bとを備えた自動車のアンダーカバー装置であって、前記アンダーカバー本体1A、1Bは該アンダーカバー本体1A、1Bの上面と前記床下部が所定の距離を隔てて前記支持部材4FL、4FR,4RL、4RRに取り付けられ、走行時に前記アンダーカバー本体1A、1Bの前記上面と下面を流れる空気の速度の違いによって生じる圧力差により、前記アンダーカバー本体1A、1B本体が車輪の接地荷重を増加させる逆揚力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のアンダーカバー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高速走行をする自動車には、車体上面と車体の床下部を流れる空気流の速度の違いによって車体上面と車体の床下部に加わる圧力に差が生じ、車体に対して揚力が発生することが知られている。
【0003】
車体上面は前方に傾斜するエンジンフードや、エンジンフードより上方に位置するルーフ、ルーフより下方に設けられるトランクルーム等によって、車体の床下部に比べ凸部分が大きい。このため、走行時には車体上面を流れる空気流の速度は車体の床下部を流れる空気流の速度に比べて速くなり、車体上面にかかる空気圧は車体の床下部にかかる空気圧よりも低くなる。この圧力差によって、車体には車体を押し上げる揚力が発生する。
【0004】
このような揚力が発生すると、車体は路面から上方に押し上げられる状態となるため、タイヤにかかる荷重が減ってタイヤと路面の摩擦力が減少してしまう。このため、操縦安定性が低下したり、スリップしやすくなるなどの問題が発生する。
【0005】
このような問題に対し、車体の後端部、例えばセダンタイプの車両ではトランクルームの上部後端にいわゆるスポイラと呼ばれる翼を取り付けて、揚力によるタイヤと路面の摩擦力の減少を防ぐ技術が知られている(図1参照)。
【0006】
スポイラ101は航空機の主翼と上下が逆になった断面形状、すなわち上面が路面に略平行で下面が車体前方から車体後方に向かって下方に傾斜した後に再び車体上方に傾斜する傾斜面を有しており、スポイラの上面を流れる空気流が下面を流れる空気流よりも遅くなることでスポイラを路面方向に押しつける力(以下、逆揚力と呼ぶ)が発生する。この作用によって、車体を路面に押し付け、高速走行時のタイヤと路面の摩擦力の減少を防いでいる。
【0007】
さらに、左右の前輪の間と左右の後輪の間に、前述したスポイラと同様の断面形状を有する翼を取り付けて、車体に逆揚力を働かせる技術が提案されている。(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−171554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、車体の後端部にスポイラを装着した場合は、スポイラで発生した逆揚力により車体をサスペンションより上側から路面に対して押し付けるため、サスペンションのショックアブソーバが縮んでショックアブソーバのストローク量が短くなる。このため、ショックアブソーバでの路面の凹凸の吸収しろが少なくなって乗り心地が悪くなるという問題がある。
【0009】
さらに、特許文献1の構造では、翼に逆揚力を発生させるために左右の車輪の間で車体前方から後方に空気が流れる場所に翼を取り付けるスペースを確保しなければならないが、左右前輪前方にはエンジンや変速機等が配置されており、また左右後輪の前方には車体フロアが位置しているため、これらの構造物により左右の車輪の間で車体前方から後方に空気が流れる経路上に翼を配置することは、取り付けレイアウトが非常に困難であるという問題がある。
【0010】
本発明の課題は、車体への取り付けレイアウトが簡易であり、空気流を用いて発生させた逆揚力をショックアブソーバを介さずに車輪に印加し、高速走行時の車輪の接地荷重の減少を防ぐ自動車のアンダーカバー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、自動車の左右のタイヤハウジング付近に設けられ、車輪を回動自在に支持する支持部材と、前記自動車の床下部を覆うアンダーカバー本体とを備えた自動車のアンダーカバー装置であって、前記アンダーカバー本体は該アンダーカバー本体の上面と前記床下部が所定の距離を隔てて前記支持部材に取り付けられ、走行時に前記アンダーカバー本体の前記上面と下面を流れる空気の速度の違いによって生じる圧力差により、前記アンダーカバー本体が車輪の接地荷重を増加させる逆揚力を発生させることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、アンダーカバー本体は、アンダーカバー本体の上面と自動車の床下部が所定の距離を隔てて、車輪を支える支持部材に取り付けられている。このため、走行時にはアンダーカバー本体下面と路面との間に空気が流れるとともに、アンダーカバー本体の上面と床下部との間にも空気が流れる。このとき、アンダーカバー本体の下面を流れる空気の速度は、アンダーカバー本体の上面を流れる空気の速度よりも遅くなり、この速度差によって、アンダーカバー本体の上面と下面で空気圧の圧力差が生じる。その結果、アンダーカバー本体にはこの圧力差によって車輪の接地荷重を増加させる逆揚力を発生する。この逆揚力は、アンダーカバー本体が取り付けられている支持部材を介して、ショックアブソーバを介することなく、直接車輪に印加される。したがって、ショックアブソーバのストローク量を減少させることなく、車輪の接地荷重を増加させることができる。
【0013】
また、アンダーカバー本体を車輪の支持部材に直接取り付ければ良く、取り付けレイアウトの工夫や取り付けスペースを確保する必要がないため、取り付けレイアウトが簡易である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、車体への取り付けレイアウトが簡易であり、空気流を用いて発生させた逆揚力をショックアブソーバを介さずに車輪に印加し、高速走行時の車輪の接地荷重の減少を防ぐ自動車のアンダーカバー装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【0016】
なお、以下の文章中、引用符号の番号の後に続く「FL」は左前輪の部材を、「FR」は右前輪の部材を、「RL」は左後輪の部材を、「RR」は右後輪の部材を指し示すものとする。
【実施例1】
【0017】
図2は、本発明の自動車の車体床下部構造の実施例を車体下方より見た図である。
【0018】
アンダーカバー本体1Aは車体の床下部を車体前方から前輪の後端にかけて覆うように設置されている。またアンダーカバー本体1Bは車体の床下部を床下部の略中央から後輪の後端にかけて覆うように設置されている。
【0019】
図3はアンダーカバー本体1Aの図2におけるSA−SA断面を表した図である。アンダーカバー本体1Aは、その断面が、上面が路面に略平行で、下面が下方に凸形状の曲面を有している。アンダーカバー本体1Bの断面形状も、アンダーカバー本体1Aと同様の形状を有している。
【0020】
図4は、左前輪の構造を示した図である。この図では、簡略化のため、タイヤの回転軸部分の構造は省略している。
【0021】
支持部材4FLは、その上方に位置する上部支持部材5および下方に位置する下部支持部材6に挟まれて設置されている。上部支持部材5および下部支持部材6は車体(図示省略)に取り付けられている。また下部支持部材6は、さらにショックアブソーバ7を介して車体に取り付けられている。
【0022】
図5は、図4におけるSB−SBに沿った断面図の下方を示す図である。タイヤ2およびブレーキディスク8が取り付けられたホイール3は、ベアリング9を介して左前輪支持部材4FLに回動自在に取り付けられている。左前輪支持部材4FLの下方部分で車体中心側の端部には、アンダーカバー本体1Aがボルト10FLによって取り付けられている。
【0023】
ここで、アンダーカバー本体1Aは、車体の床下部に対しあらかじめ設定された距離を隔てて支持部材4FLに取り付けられている。
【0024】
なお、図5は左前輪部分の構造を示しているが、図示しない右前輪部分の構造は本図と左右対称である以外は同じ構造を有し、アンダーカバー本体1Aは右前輪の支持部材4FRの下方部分で車体中心側の端部にボルト10FRによって取り付けられている。また図示しない左右後輪部分は、車体への取り付け部分、いわゆるサスペンションを構成する部材が左右前輪とは異なるが、左右後輪とアンダーカバー本体1Bの取り付け位置関係は、左右前輪とアンダーカバー本体1Aの取り付け位置関係と同等である。すなわち、アンダーカバー本体1Bは左右後輪支持部材4RL,4RRの下方部分で車体中心側の端部に、ボルト10RL、10RRによって固定されている。
【0025】
次に、本実施例の作用について説明する。
【0026】
高速走行によって車体下側に発生した空気流は、アンダーカバー本体1Aの上面と車体の床下部との隙間と、アンダーカバー本体1Aの下面と路面との空間を流れる。ここでアンダーカバー本体1Aの上面は路面に略平行で、下面は下方に凸形状の曲面を有している。このため、アンダーカバー本体1Aの上面を流れる空気流の速度はアンダーカバー本体1Aの下面を流れる空気流の速度に比べて遅くなり、アンダーカバー本体1Aの上面の圧力の方がアンダーカバー本体1Aの下面の圧力に比べて高くなる。したがってアンダーカバー本体1Aには逆揚力が働き、アンダーカバー本体1Aは路面側に押し付けられる。
【0027】
アンダーカバー本体1Bの作用も、上述したアンダーカバー本体1Aと同様になる。
【0028】
アンダーカバー本体1A、1Bが路面側に押し付けられると、アンダーカバー本体1Aが取り付けられている左前輪支持部材4FL、右前輪支持部材4FR、およびアンダーカバー本体1Bが取り付けられている左後輪支持部材4RL、右後輪支持部材4RRも路面側に押し付けられる。その結果、各支持部材4FL、4FR、4RL、4RRにベアリング9、9・・を介して取り付けられているホイール3、3・・が路面側に押し付けられ、ホイール3、3・・に装着されているタイヤ2、2・・が路面に押し付けられる。この作用により、高速走行時のタイヤ2、2・・の接地荷重の減少を防ぐことが可能になる。
【0029】
また本実施例では、アンダーカバー本体1A、1Bに働く逆揚力は、ショックアブソーバを介さずに各車輪を支持する支持部材4FL、4FR、4RL、4RRを通じて各車輪に印加される。このため、車体にスポイラを取り付けた従来例のように、スポイラで発生した逆揚力がショックアブソーバを介して車体を路面に押し付け、ショックアブソーバのストローク量を減少させることがない。したがって、逆揚力が発生した場合でも乗り心地を損なわないという利点がある。
【0030】
さらに本実施例では、逆揚力が発生した場合でも、アンダーカバー本体1A,1Bと路面との距離は、逆揚力により路面に押し付けられたタイヤの変形量分しか変化しない。このため、アンダーカバー本体1A,1Bと路面との距離の変化は少なく、アンダーカバー本体1A,1Bの下面を流れる空気の流路がほぼ一定しており、空気の流路の変化にともなう空気の速度の変化が少ない。したがって、アンダーカバー本体1A、1Bの上面と下面の圧力差の変化が少なくなり、逆揚力を安定して発生することができるという効果も得られる。
【実施例2】
【0031】
図6は本発明の第2の実施例において、図4のSB−SB断面に相当する断面を示す図である。
【0032】
本発明では、アンダーカバー本体1Aは、左前輪支持部材4FLの下方部分で車体中心側の端部にラバーブッシュ11FLを介してボルト12FLによって取り付けられている。
【0033】
それ以外の構造については、第1の実施例と同じである。
【0034】
なお、図6は左前輪部分の構造を示しているが、図示しない右前輪部分の構造は本図と左右対称である以外は同じ構造を有し、アンダーカバー本体1Aは右前輪支持部材4FRの下方部分で車体中心側の端部にラバーブッシュ11FRを介してボルト12FRによって取り付けられている。また図示しない左右後輪部分は、車体への取り付け部分、いわゆるサスペンションを構成する部材が左右前輪とは異なるが、左右後輪とアンダーカバー本体1Bの取り付け位置関係は、左右前輪とアンダーカバー本体1Aの取り付け位置関係と同等である。すなわち、アンダーカバー本体1Bは左右後輪支持部材4RL,4RRの下方部分で車体中心側の端部に、ラバーブッシュ11RL、11RRを介してボルト12RL、12RRによって取り付けられている。
【0035】
本実施例では、アンダーカバー本体1Aがラバーブッシュ11FL、11FRを介して左右前輪支持部材4FL、4FRに固定されており、また、アンダーカバー本体1Bがラバーブッシュ11RL、11RRを介して左右後輪支持部材4RL、4RRに固定されているため、第1の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0036】
凹凸のある路面を走行した場合には、前後左右の車輪が独立して上下し、アンダーカバー本体1A,1Bには各支持部材4FL、4FR、4RL、4RRを介してアンダーカバー本体1A,1Bを変形させる力が働く。しかしながら本実施例では各支持部材4FL、4FR、4RL、4RRとアンダーカバー本体1A,1Bとの間に設けたラバーブッシュ11FL、11FR、11RL、11RRが変形して、各支持部材4FL、4FR、4RL、4RRの上下動によるアンダーカバー本体1A,1Bの変形を和らげる作用を有するため、アンダーカバー本体1A,1Bの破損を防ぐことができるという利点がある。
【実施例3】
【0037】
図7は本発明の第3の実施例において、図4のSB−SB断面に相当する断面を示す図である。
【0038】
本発明では、アンダーカバー本体1Aは、左前輪支持部材4FLの下方部分で車体中心側の端部にスプリング13FLを介してボルト14FLによって取り付けられている。
【0039】
それ以外の構造については、第1の実施例と同じである。
【0040】
なお、図7は左前輪部分の構造を示しているが、図示しない右前輪部分の構造は本図と左右対称である以外は同じ構造を有し、アンダーカバー本体1Aは右前輪支持部材4FRの下方部分で車体中心側の端部にスプリング13FRを介してボルト14FRによって取り付けられている。また図示しない左右後輪部分は、車体への取り付け部分、いわゆるサスペンションを構成する部材が左右前輪とは異なるが、左右後輪とアンダーカバー本体1Bの取り付け位置関係は、左右前輪とアンダーカバー本体1Aの取り付け位置関係と同等である。すなわち、アンダーカバー本体1Bは左右後輪支持部材4RL、4RRの下方部分で車体中心側の端部に、スプリング13RL、13RRを介してボルト14RL、14RRによって取り付けられている。
本実施例では、アンダーカバー本体1Aがスプリング13FL、13FRを介して左右前輪支持部材4FL、4FRに固定されており、また、アンダーカバー本体1Bがスプリング13RL、13RRを介して左右後輪支持部材4RL、4RRに固定されているため、第1の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0041】
凹凸のある路面を走行した場合には、前後左右の車輪が独立して上下し、アンダーカバー本体1A,1Bには各支持部材4FL、4FR、4RL、4RRを介してアンダーカバー本体1A,1Bを変形させる力が働く。しかしながら本実施例では各支持部材4FL、4FR、4RL、4RRとアンダーカバー本体1A,1Bとの間に設けたスプリング13FL、13FR、13RL、13RRが変形して、各支持部材4FL、4FR、4RL、4RRの上下動によるアンダーカバー本体1A,1Bの変形を和らげる作用を有するため、アンダーカバー本体1A,1Bの破損を防ぐことができるという利点がある。
【実施例4】
【0042】
図8は本発明の第4の実施例において、図4のSB−SB断面に相当する断面を示す図である。
【0043】
本発明では、アンダーカバー本体1Aを下側から保持する保持部材17FLが設けられ、保持部材17FLの下端とアンダーカバー本体1A下面との間にはスプリング15FLが、またアンダーカバー本体1A上面と支持部材4FLとの間にはスプリング16FLがそれぞれ介装されて、アンダーカバー本体1Aが保持部材17FLにより支持部材4FLに取り付けられている。
【0044】
それ以外の構造については、第1の実施例と同じである。
【0045】
なお、図8は左前輪部分の構造を示しているが、図示しない右前輪部分の構造は本図と左右対称である以外は同じ構造を有し、アンダーカバー本体1Aは右前輪支持部材4FRの下方部分で車体中心側の端部に、スプリング15FR、16FRに挟まれる状態で保持部材17FRによって取り付けられている。また図示しない左右後輪部分は、車体への取り付け部分、いわゆるサスペンションを構成する部材が左右前輪とは異なるが、左右後輪とアンダーカバー本体1Bの取り付け位置関係は、左右前輪とアンダーカバー本体1Aの取り付け位置関係と同等である。すなわち、アンダーカバー本体1Bは左右後輪支持部材4RL,4RRの下方部分で車体中心側の端部に、スプリング15RL、16RLおよび15RR、16RRに挟まれる状態で保持部材17RL、17RRによって取り付けられている。
【0046】
本実施例では、高速走行時には第1の実施例と同様に、アンダーカバー本体1Aに逆揚力が働く。このとき、アンダーカバー本体1Aはスプリング15FL、15FRを縮めながら保持部材17FL、17FRを路面側に押し付ける。この作用により、保持部材17FL、17FRが固定されている左右前輪支持部材4FL,4FRも路面側に押し付けられる。その結果、左右前輪支持部材4FL,4FRにベアリング9、9を介して取り付けられているホイール3、3が路面側に押し付けられ、ホイール3、3に装着されているタイヤ2、2が路面に押し付けられる。
【0047】
同様に、高速走行時には第1の実施例と同様に、アンダーカバー本体1Bに逆揚力が働く。このとき、アンダーカバー本体1Bはスプリング15RL、15RRを縮めながら保持部材17RL、17RRを路面側に押し付ける。この作用により、保持部材17RL、17RRが固定されている左右後輪支持部材4RL,4RRも路面側に押し付けられる。その結果、左右後輪支持部材4RL,4RRにベアリング9、9を介して取り付けられているホイール3、3が路面側に押し付けられ、ホイール3、3に装着されているタイヤ2、2が路面に押し付けられる。
【0048】
したがって、高速走行時のタイヤ2、2・・の接地荷重の減少を防ぐことが可能となる。
【0049】
凹凸のある路面を走行した場合には、前後左右の車輪が独立して上下し、アンダーカバー本体1A,1Bには各支持部材4FL、4FR、4RL、4RRを介してアンダーカバー本体1A,1Bを変形させる力が働く。しかしながら本実施例では各支持部材4FL、4FR、4RL、4RRとアンダーカバー本体1A,1Bとの間に設けたスプリング16FL、16FR、16RL、16RRが変形して、各支持部材4FL、4FR、4RL、4RRの上下動によるアンダーカバー本体1A,1Bの変形を和らげる作用を有するため、アンダーカバー本体1A,1Bの破損を防ぐことができるという利点がある。
【0050】
さらに本実施例では、アンダーカバー本体1A、1Bに逆揚力が働かない速度で走行している場合に、アンダーカバー本体1Aはスプリング16FL、16FRに,アンダーカバー本体1Bはスプリング16RL、16RRによって上方に押し上げられるため、アンダーカバー本体1A,1Bと路面との距離が大きくなる。したがって、路面に大きな凹凸があるような場合にアンダーカバー本体1A,1Bと路面との干渉を防ぐことが可能になる。
【実施例5】
【0051】
図9は本発明の第5の実施例において、図4のSB−SB断面に相当する断面を示す図である。
【0052】
本発明では、左前輪支持部材4FLに、中心部に上下方向に移動が可能なシャフト19FLを有するシリンダ18FLが固定されており、アンダーカバー本体1Aはシャフト19FLに取り付けられている。
【0053】
それ以外の構造については、第1の実施例と同じである。
【0054】
なお、図9は左前輪部分の構造を示しているが、図示しない右前輪部分の構造は本図と左右対称である以外は同じ構造を有し、アンダーカバー本体1Aは右前輪支持部材4FRに固定され、中心部に上下可動なシャフト19FRを有するシリンダ18FRのシャフト19FRに取り付けられている。また図示しない左右後輪部分は、車体への取り付け部分、いわゆるサスペンションを構成する部材が左右前輪とは異なるが、左右後輪とアンダーカバー本体1Bの取り付け位置関係は、左右前輪とアンダーカバー本体1Aの取り付け位置関係と同等である。すなわち、アンダーカバー本体1Bは、左右後輪支持部材4RL,4RRに固定され、中心部に上下可動なシャフト19RL、19RRを有するシリンダ18RL、18RRのシャフト19RL、19RR取り付けられている。
【0055】
図10に示すように、シリンダ18FL、18FR、18RL、18RRは制御ユニット30に電気的に接続されている。
【0056】
さらに、制御ユニット30には、車速を検出する車速センサ50Aと、路面の凹凸を検出する路面凹凸状態検出センサ、ここでは超音波センサ50Bが電気的に接続されている。
【0057】
本実施例では、車速センサ50Aによって検出された車速がアンダーカバー本体1A,1Bに逆揚力が働かない所定の速度以下で走行している場合は、超音波センサ50Bによって検出される路面の凹凸状態によらずに、制御ユニット30がシリンダ18FL、18FR、18RL、18RRを作動させてシャフト19FL、19FR、19RL、19RRを上方に引き上げ、アンダーカバー本体1A,1Bと路面との距離を大きくする。これにより、路面に大きな凹凸があってもアンダーカバー本体1A,1Bと路面との干渉を防ぐことが可能になる。
【0058】
また本実施例では、車速センサ50Aによって検出された車速が所定地を越える場合には、超音波センサ50Bによって検出された路面の凹凸状態が小さい場合に、制御ユニット30がシリンダ18FL、18FR、18RL、18RRを作動させてシャフト19FL、19FR、19RL、19RRを下方に下げることで、アンダーカバー本体1A、1Bのそれぞれの上面と車体の床下部との間に空気の流路を設ける。これにより、第1の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0059】
なお、車速センサ50Aによって検出された車速が所定地を越える場合でも、超音波センサ50Bによって検出された路面の凹凸状態が大きい場合には、アンダーカバー本体1A、1Bと路面との干渉をさけるために、制御ユニット30はシリンダ18FL、18FR、18RL、18RRを作動させてシャフト19FL、19FR、19RL、19RRを上方に引き上げ、アンダーカバー本体1A,1Bと路面との距離を大きくする。
【0060】
さらに本実施例では、前後左右の車輪に設けたシリンダ18FL、18FR、18RL、18RRを独立して作動させることで、アンダーカバー本体1A,1Bと路面との距離、路面に対するアンダーカバー本体1A,1Bの角度を任意に設定することが可能である。したがって、走行速度や路面状況等の走行条件に応じたアンダーカバー本体1A,1Bと路面との距離、角度をあらかじめ設定しておき、この設定値と車速センサ50Aおよび超音波センサ50Bの出力に基づいてシリンダ18FL、18FR、18RL、18RRを制御ユニット30で制御するようにしておくことで、走行状況に応じてそれぞれの車輪の接地荷重が最適となるような逆揚力を発生させることが可能となる。
【0061】
図10はシリンダ18FLの油圧制御装置の一実施例を示した図である。
【0062】
油圧により上下に可動するシャフト19FLを中心部に備えたシリンダ18FLは、配管40A、40Bにより第2のサーボバルブ35に接続されている。第2のサーボバルブ35は配管40Cにより蓄圧器34に接続され、また配管40Fによりオイルタンク31に接続されている。蓄圧器34は第1のサーボバルブ33をその中間に有する配管40Dによってオイルポンプ32に接続されている。オイルポンプ32は配管40Eによりオイルタンク31に接続されている。
【0063】
オイルポンプ32、第1のサーボバルブ33、蓄圧器34、第2のサーボバルブ35は電気的に制御ユニット30に接続されている。
【0064】
シリンダ18FLには、シリンダ18FL内の油圧を検出する圧力センサ36とシャフト19FLのストローク量を検出するストロークセンサ37が取り付けられている。これらのセンサは、制御ユニット30に電気的に接続されている。
【0065】
制御ユニット30には、前述したように、車速を検出する車速センサ50A(図示省略)と、路面の凹凸を検出する超音波センサ50B(図示省略)が電気的に接続されている。
【0066】
次に制御ユニット30によるシリンダ18FLの制御動作を説明する。
【0067】
シャフト19FLに固定されたアンダーカバー本体1A(図示省略)を稼動させる場合は、制御ユニット30がオイルポンプ32を稼動して、配管40E、40Dを通じてオイルタンク31からオイルを蓄圧器34に供給する。この時、配管40Dの中間に位置する第1のサーボバルブ33は制御ユニット30によって開かれている。また、第2のサーボバルブ35は制御ユニット30によって閉じられている。蓄圧器34内には気体が封入されており、オイルを供給することにより気体が圧縮され、圧力が蓄えられる。制御ユニット30は蓄圧器34内の圧力が所定の圧力に達した時点で第1のサーボバルブ33を閉じるとともに、オイルポンプ32を停止してオイルの供給を止める。
【0068】
続いて制御ユニット30が第2のサーボバルブ35を開くと、蓄圧器34内に蓄えられていた圧力が開放されてオイルが押し出され、配管40Cと40Aまたは40Bを通じてシリンダ18FL内にオイルの圧力が伝わり、シャフト19FLを上下させる。ストロークセンサ37はシャフト19FLのストローク量をモニタしており、所定のストローク量になった時点で制御ユニット30は第2のサーボバルブ35を閉じる。
【0069】
なお、圧力センサ37はシリンダ18FL内の圧力を常時モニタし、シリンダ18FL内の圧力が下がった場合は制御ユニット30がその都度サーボバルブ35を開けてシャフト19FLを所定の位置に保持するのに必要な圧力をシリンダ18FL内に伝える。
【0070】
シリンダ18FR、18RL、18RRについても上記と同様の動作によって制御される。
【0071】
制御ユニット30は、車速センサ50Aと、超音波センサ50Bのセンサの出力に基づいて、前記シリンダ18FL、18FR、18RL、18RRを制御してシャフト19FL、19FR、19RL、19RRを動かし、シャフト19FL、19FRに固定されたアンダーカバー本体1Aおよびシャフト19RL、19RRに固定されたアンダーカバー本体1Bを所定の位置に設定することができる。
【0072】
なお、シリンダ18FL、18FR、18RL、18RRはここで説明した油圧制御に限らず、空気圧や電動駆動で制御しても良い。
【実施例6】
【0073】
図11は本発明の第6の実施例を車体上方から見た図である。
【0074】
本実施例では、車体の床下部全体を覆うアンダーカバー本体1Cを、左前輪支持部材4FL、右前輪支持部材4FR、左後輪支持部材4RL、右後輪支持部材4RRに取り付けている。アンダーカバー本体1Cは、上面が路面に略平行で、下面の中央部にその断面が下方に凸形状の曲面部分を有している。また、アンダーカバー本体1Cは、車体の床下部に対しあらかじめ設定された距離を隔てて各支持部材4FL、4FR、4RL、4RRに取り付けられている。
【0075】
本実施例では、車体の床下部全体をアンダーカバー本体1Cが覆う構造をなしているため、アンダーカバー本体1C下面の空気流は床下部の凹凸により流れを乱されることがなく、より速い速度で流れることができる。このため、アンダーカバー本体1Cの上面と下面の速度差、すなわち圧力差が大きくなり、より強い逆揚力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】車体に装着されたスポイラを示す図である。
【図2】本発明の車体下部構造の斜視図である。
【図3】図2のSA−SAに沿ったアンダーカバー本体の断面図である。
【図4】本発明における左前輪の構成図である。
【図5】本発明の実施例において、図4のSB−SBに沿った断面図である。
【図6】本発明の第2の実施例において、図4のSB−SB断面に相当する断面図である。
【図7】本発明の第3の実施例において、図4のSB−SB断面に相当する断面図である。
【図8】本発明の第4の実施例において、図4のSB−SB断面に相当する断面図である。
【図9】本発明の第5の実施例において、図4のSB−SB断面に相当する断面図である。
【図10】本発明の第5の実施例のシリンダ制御回路のブロック図である。
【図11】本発明の第6の実施例の車体下部構造の斜視図である。
【符号の説明】
【0077】
1 アンダーカバー装置
1A アンダーカバー本体
1B アンダーカバー本体
1C アンダーカバー本体
2 タイヤ
3 ホイール
4FL 左前輪支持部材
4FR 右前輪支持部材
4RL 左後輪支持部材
4RR 右後輪支持部材
5 上部支持部材
6 下部支持部材
7 ショックアブソーバ
8 ブレーキディスク
9 ベアリング
10FL、10FR、10RL、10RR ボルト
11FL、11FR、11RL、11RR ラバーブッシュ
12FL、12FR、12RL、12RR ボルト
13FL、13FR、13RL、13RR スプリング
14FL、14FR、14RL、14RR ボルト
15FL、15FR、15RL,15RR スプリング
16FL、16FR、16RL、16RR スプリング
17FL、17FR、17RL,17RR 保持部材
18FL、18FR、18RL、18RR シリンダ
19FL、19FR、19RL、19RR シャフト
30 制御ユニット
31 オイルタンク
32 オイルポンプ
33 第1のサーボバルブ
34 蓄圧器
35 第2のサーボバルブ
36 圧力センサ
37 ストロークセンサ
40A〜40F 配管
50A 車速センサ
50B 超音波センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の左右のタイヤハウジング付近に設けられ、車輪を回動自在に支持する支持部材と、
前記自動車の床下部を覆うアンダーカバー本体と
を備えた自動車のアンダーカバー装置であって、
前記アンダーカバー本体は該アンダーカバー本体の上面と前記床下部が所定の距離を隔てて前記支持部材に取り付けられ、
走行時に前記アンダーカバー本体の前記上面と下面を流れる空気の速度の違いによって生じる圧力差により、前記アンダーカバー本体が車輪の接地荷重を増加させる逆揚力を発生させることを特徴とする自動車のアンダーカバー装置。
【請求項2】
前記アンダーカバー本体が、前記支持部材に弾性体を介して取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の自動車のアンダーカバー装置。
【請求項3】
前記支持部材には前記アンダーカバー本体を下側から保持する保持部材が設けられ、
該保持部材の下端と前記アンダーカバー本体下面との間にはスプリングが、前記アンダーカバー本体上面と前記支持部材との間には弾性体がそれぞれ介装され、
通常走行時は前記アンダーカバー本体が前記スプリングの付勢力によって前記弾性体に押し付けられ、
高速走行時は前記アンダーカバー本体に働く逆揚力により、該アンダーカバー本体が前記スプリングの付勢力に抗して下方に移動し、前記弾性体から離間することを特徴とする請求項1に記載の自動車のアンダーカバー装置。
【請求項4】
前記アンダーカバー本体が前記支持部材の車幅方向の内側端部に取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の自動車のアンダーカバー装置。
【請求項5】
自動車の床下部を覆うアンダーカバー本体が、前記自動車のタイヤハウジング付近に配置され、かつ上下方向に移動可能なシャフトを有するシリンダの該シャフト下端に取り付けられ、
走行速度や路面状況等の走行条件を検出する検出手段の出力に基づいて、前記シリンダを制御して前記シャフトを上方向または下方向に稼動させることにより、前記アンダーカバー本体下面と路面との距離を変化させる制御部を有することを特徴とする自動車のアンダーカバー装置。
【請求項6】
前記検出手段が前記自動車の車速を検出する車速センサを備え、
前記車速センサで検出された車速が所定値以下の場合は、前記制御部が前記シリンダを制御して前記シャフトを上方に引き上げ、
前記車速センサで検出された車速が所定値を超える場合は、前記制御部が前記シリンダを制御して前記シャフトを下方に押し下げ、前記アンダーカバー本体上面と前記床下部との間に空気を流入させて、前記アンダーカバー本体の上方と下方を流れる空気の速度の違いによって生じる圧力差により、前記アンダーカバー本体が車輪の接地荷重を増加させる逆揚力を発生させることを特徴とする請求項5に記載の自動車のアンダーカバー装置。
【請求項7】
前記検出手段が路面の凹凸を検出する路面凹凸状態検出センサを備え、
前記路面凹凸状態検出センサにより検出した路面の凹凸状態が大きい場合は、前記制御部が前記シリンダを制御して前記シャフトを上方に引き上げ、
前記路面凹凸状態検出センサにより検出した路面の凹凸状態が小さい場合は、前記制御部が前記シリンダを制御して前記シャフトを下方に押し下げ、前記アンダーカバー本体上面と前記床下部との間に空気を流入させて、前記アンダーカバー本体の上方と下方を流れる空気の速度の違いによって生じる圧力差により、前記アンダーカバー本体が車輪の接地荷重を増加させる逆揚力を発生させることを特徴とする請求項5に記載の自動車のアンダーカバー装置。
【請求項8】
前記検出手段が、前記自動車の車速を検出する前記車速センサと、路面の凹凸を検出する路面凹凸状態検出センサとを備え、
前記車速センサで検出された車速が所定値以下の場合は、前記路面凹凸状態検出センサにより検出した路面の凹凸状態の上方によらずに前記制御部が前記シリンダを制御して前記シャフトを上方に引き上げ、
前記車速センサで検出された車速が所定値を超えた場合は、前記路面凹凸状態検出センサにより検出した路面の凹凸状態が大きいとき、前記制御部が前記シリンダを制御して前記シャフトを上方に引き上げ、前記路面凹凸状態検出センサにより検出した路面の凹凸状態が小さいとき、前記制御部が前記シリンダを制御して前記シャフトを下方に押し下げ、前記アンダーカバー本体上面と前記床下部との間に空気を流入させて、前記アンダーカバー本体の上方と下方を流れる空気の速度の違いによって生じる圧力差により、前記アンダーカバー本体が車輪の接地荷重を増加させる逆揚力を発生させることを特徴とする請求項5に記載の自動車のアンダーカバー装置。
【請求項9】
前記アンダーカバー本体の車体前後方向の垂直断面が、上面は路面に略平行で、下面が車体前方から車体後方に向かって下方に傾斜した後に再び車体上方に傾斜する傾斜面を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の自動車のアンダーカバー装置。
【請求項10】
前記アンダーカバー本体の車体前後方向の垂直断面が、上面は路面に略平行で、下面が下方に凸形状の曲面を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の自動車のアンダーカバー装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−160000(P2006−160000A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351310(P2004−351310)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】