説明

自動車のカウル部構造

【課題】カウルルーバの衝撃吸収機能を確保しつつ、カバー部材と車体構造部材との間の距離が大きくなる場合にも製造が容易な自動車のカウル構造を提供する。
【解決手段】カバー部材6は、フェンダパネル5,フード2及びカウルルーバ4と略連続面をなすように形成された意匠面を有するアウタ部材15と、車体構造部材(フェンダパネル,エプロンメンバ)5,8に取り付けられる複数の取付け部16a,16bを有するインナ部材16とで構成され、インナ部材16の各取付け部16a,16bは、該取付け部同士を結ぶ直線Sが前記アウタ部材15とカウルルーバ4との見切り線A又は車両前後方向に延びる車体中心線Cと略平行で、かつアウタ部材15の車幅方向中途部に位置するよう配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フードとフロントガラスとの間に配設されたカウルルーバと、フード及びカウルルーバの車幅方向外側方に配設されたフェンダパネルと、フェンダパネル,フード,フロントガラス及びカウルルーバで囲まれた隙間を覆うように配設されたカバー部材とを備えた自動車のカウル部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のカウル部として、例えば、特許文献1では、フードとフロントガラスとの間を覆うように配設されたカウルルーバを車体構造部材であるカウルパネルに取り付け、該カウルルーバと、左,右のフェンダパネルとの間に生じた隙間をカバー部材で覆う構造を採用している。
【0003】
一方、最近の自動車では、外観を高める観点から、カウルルーバをフードと連続面をなすように高所に配置し、カバー部材をフード,カウルルーバ及びフェンダパネルと連続面をなすように配置する意匠とする場合がある。
【特許文献1】実開平4−19348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来公報のように、カウルルーバをカウルパネルに近接させて取り付ける構造とした場合には、上方から被衝突物が落下したときのカウルルーバの衝撃力吸収機能が低いという懸念がある。
【0005】
また前記カウルルーバをフードと連続面をなすように高所に位置させる場合には、カウルルーバとカウルパネルとの間に上下方向の隙間が生じることから、前記カウルルーバの衝撃力吸収機能を高めることが可能となる。ところが、カウルルーバを高所に配置すると、カバー部材と車体構造部材との間の高さ方向の隙間も大きくなることから、車体構造部材に取り付けるためのカバー部材の脚部を長くする必要があり、製造が困難になるおそれがある。
【0006】
本発明は、前記従来の上記状況に鑑みてなされたもので、カウルルーバの衝撃吸収機能を確保しつつ、カバー部材と車体構造部材との間の高さ方向の隙間が大きくても、カバー部材の製造が容易な自動車のカウル構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、フードとフロントガラスとの間を覆うように配設されたカウルルーバと、該カウルルーバ及び前記フードの車幅方向外側方に配設されたフェンダパネルと、該フェンダパネル,フード,フロントガラス及び前記カウルルーバで囲まれた隙間を覆うように配設されたカバー部材とを備えた自動車のカウル部構造であって、前記カバー部材は、前記フェンダパネル,フード及びカウルルーバと略連続面をなすように形成された意匠面を有するアウタ部材と、車体構造部材に取り付けられる複数の取付け部を有するインナ部材とで構成され、該インナ部材の各取付け部は、該取付け部同士を結ぶ直線が前記アウタ部材とカウルルーバとの見切り線又は車両前後方向に延びる車体中心線と略平行で、かつ前記アウタ部材の車幅方向中途部に位置するよう配置されていることを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の自動車のカウル部構造において、前記アウタ部材とインナ部材とは、何れか一方に形成された爪部と他方に形成された係合部とを爪勘合させることにより結合されており、前記アウタ部材とカウルルーバとは、何れか一方に形成された爪部と他方に形成された係合部とを爪勘合させることにより結合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明に係るカウル部構造によれば、カバー部材を、フェンダパネル,フード及びカウルルーバと略連続面をなすように形成されたアウタ部材と、車体構造部材に取り付けられたインナ部材とから構成したので、カバー部材と車体構造部材との間の高さ方向の隙間が大きくても、製造が容易となる。
【0010】
本発明では、前記インナ部材の取付け部を、該取付け部同士を結ぶ直線がアウタ部材とカウルルーバとの見切り線又は車体中心線と略平行で、かつアウタ部材の車幅方向中途部に位置するよう配置したので、カウルルーバ又はカバー部材に上方から被衝突物が落下すると、アウタ部材を介してインナ部材が取付け部を起点に車幅方向に変位して倒れ易くなり、被衝突物の荷重を吸収することができ、衝撃力の吸収機能を高めることができる。
【0011】
請求項2の発明では、アウタ部材とインナ部材とを爪勘合により結合し、該アウタ部材とカウルルーバとを爪勘合により結合したので、カウルルーバ又はアウタ部材に被衝突物が落下した場合には、インナ部材の車幅方向への変位に伴って爪勘合が外れることで、アウタ部材が脱落し易くなり、衝撃力吸収機能をより一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1ないし図13は、本発明の一実施形態による自動車のカウル部構造を説明するための図であり、図1,図2,図3は自動車のカウル部の平面図,正面図,側面図、図4,図5はアウタ部材の斜視図,底面図、図6はインナ部材の平面図、図7はカバー部材の断面図(図1のVII-VII線断面図)、図8〜図13はカバー部材の断面図(図6のVIII-VIII線,IX-IX線,X-X線,XI-XI線,XII-XII線,XIII-XIII線断面図)である。
【0014】
図において、1は自動車のカウル部を示している。該カウル部1は、エンジン室を開閉するフード2と、該フード2の後方に配置されたフロントガラス3と、前記フード2とフロントガラス3との間を覆うように配置されたカウルルーバ4と、前記フード2及びカウルルーバ4の車幅方向外側方に配設された左,右のフェンダパネル5,5と、該フェンダパネル5,フード2,フロントガラス3及びカウルルーバ4で囲まれた隙間を覆うように配設された左,右のカバー部材6,6とを備えている。
【0015】
前記フロントガラス3の左,右側部には、該フロントガラス3の側縁部を支持するフロントピラー7,7が配設されている。該左,右のフロントピラー7には、前記フロントガラス3の下縁部を支持するとともに、エンジン室と車室とを画成するカウルパネル(不図示)が接続されている。また前記左,右のフロントピラー7には、該フロントピラー7から車両前方に延びる閉断面角筒状のエプロンメンバ8,8が接続されている。
【0016】
前記左,右のフェンダパネル5の前端部には、フード2の下方を覆うフロントバンパ10が取り付けられており、該フロントバンパ10,フード2及びフェンダパネル5とで左,右のヘッドライト開口11,11が形成されている。
【0017】
前記左,右のフェンダパネル5の下部には前輪(不図示)の上方を覆うホイールアーチ部5aが形成され、上縁部には車幅方向内側に屈曲して延びるフランジ部5bが形成されている。
【0018】
前記左,右のフェンダパネル5は、後縁部に形成された上,下取付け部5c,5dが前記フロントピラー7にボルト締め固定され、前記フランジ部5bがエプロンメンバ8にボルト締め固定されている。
【0019】
前記フード2は、フードアウタ2bとフードインナ2cとを中空状をなすように外縁部同士を結合した構造を有する。
【0020】
前記フード2は、前記左,右のフェンダパネル5のフランジ部5bを上方から覆うように配置されている。また前記フード2は、車両側方から見ると、略水平をなすように形成され、該フード2の左,右側縁部2a,2aは、フェンダパネル5と略連続面をなすように下方に湾曲形成されている。
【0021】
前記左,右のカバー部材6の下方には、前記フード2を上下方向に回動可能に支持するフードヒンジ13,13が配置されている。このフードヒンジ13は、左,右のエプロンメンバ8にボルト締め固定されたヒンジブラケット13aと、前記フード2のフードインナ2cにボルト締め固定されたヒンジアーム13bとをヒンジピン13cにより連結した構造を有する(図7参照)。
【0022】
前記カウルルーバ4は、前記フード2と連続面をなすよう形成され、意匠面を有するカウル本体4aと、該カウル本体4aの車幅方向左,右側縁部に段落ち状に形成された段落ち部4bと、該段落ち部4bに続いて下方に延びる遮蔽壁部4cとを有する。この遮蔽壁部4cは、エンジン室内の空気がカウルルーバ4内に進入して車室に入り込むのを防止している。
【0023】
前記カウル本体4aは、フロントガラス3の下縁部3aを覆うように配置されている。またカウル本体4aには、フロントガラス3に洗浄液を噴射するウォッシャノズル(不図示)の取付け孔4dと、ワイパーユニット(不図示)のピボット軸挿入孔4e,4eと、空気を室内に導入するための外気導入孔4fとが形成されている。
【0024】
前記左,右のカバー部材6は、前記フェンダパネル5,フード2及びカウルルーバ4と連続面をなし、かつフロントガラス3の下縁部3aを覆うように形成されたアウタ部材15と、車体構造部材である前記フェンダパネル5及びエプロンメンバ8に取り付けられる前,後一対の前,後取付け部16a,16bを有するインナ部材16とにより構成されている。
【0025】
前記アウタ部材15は、意匠面を有するアウタカバー部15aと、該アウタカバー部15aの下面に下方に突出するよう形成された4つの係合孔部(係合部)15bと、車幅方向内縁部に下方に突出するよう形成された前,後一対の爪部15cと、両爪部15cの間に下方に突出するよう形成された1つの位置決め突起部15dとを有する。前記各係合孔部15bは、アウタ部材15の車幅方向中央部の前,後及び左,右にそれぞれ振り分けて配置されている。
【0026】
前記カウルルーバ4の段落ち部4bには、前後方向に3つの係合孔(係合部)4gが形成されている。そして前記アウタ部材15は、前,後の爪部15c及び位置決め突起15dを各係合孔4gに爪勘合させることにより、前記カウルルーバ4に結合されている(図8,図10参照)。
【0027】
前記インナ部材16は、前記アウタ部材15の下面に沿って前後方向に延びる上壁部16cと、該上壁部16cに下方に膨出するよう形成された4つの凹部16dと、該各凹部16dに弾性変形可能に切欠き形成された爪部16eと、前記上壁部16cの前後方向中央部に下方に延びるように形成された有底筒状の脚部16fと、前記上壁部16cの前縁に続いて前下がりに傾斜して延びる延長部16gとを有する。
【0028】
前記各爪部16eは、前記アウタ部材15の各係合孔部15bに対応した位置に形成されている。そしてアウタ部材15は、各係合孔部15bとインナ部材16の爪部16eとを爪勘合させることにより、インナ部材16に結合されている(図9参照)。
【0029】
前記上壁部16cの上面には、アウタ部材15に当接する前,後一対のリブ16i,16iが突出形成され、該上壁部16cの内縁部には、前記カウル本体4aの段落ち部4bに当接する段部16jが上方に屈曲形成されている。
【0030】
また前記上壁部16cには、前,後一対の位置決め孔16k,16kが形成されており、該位置決め孔16kには前記アウタ部材15に形成された位置決めピン15f,15fが挿入されている(図9,図11参照)。
【0031】
前記延長部16gの前端部は、前記フェンダパネル5のフランジ部5bに当接しており、該前端部が前取付け部16aとなっている。また前記脚部16fの底壁は、前記エプロンメンバ8の上面に当接しており、該底壁が後取付け部16bとなっている。そして前記インナ部材15は、前,後取付け部16a,16bに装着されたクリップ18,18をそれぞれ前記フランジ部5b,エプロンメンバ8に嵌装させることにより、フェンダパネル5及びエプロンメンバ8に取り付けられている(図7,図12,図13参照)。
【0032】
前記インナ部材16の前,後取付け部16a,16bは、該前,後取付け部16a,16b同士を結ぶ直線Sが前記アウタ部材15とカウルルーバ4との見切り線Aと大略平行をなし、かつ前記アウタ部材15の車幅方向中央部に位置するよう配置されている(図1,図6,図12参照)。前記見切り線Aは、車両の車幅方向中央を前後方向に延びる車体中心線Cと略平行をなしている。
【0033】
本実施形態によれば、左,右のカバー部材6を、フェンダパネル5,フード2及びカウルルーバ4と連続面をなすように形成されたアウタ部材15と、車体構造部材であるフェンダパネル5及びエプロンメンバ8に取り付けられたインナ部材16とから構成したので、カバー部材6とフェンダパネル5との間の高さ方向の隙間H(図12参照)が大きく、かつアウタ部材15及びインナ部材16が複雑な構造であっても製造が容易となる。
【0034】
本実施形態では、前記インナ部材16の前,後取付け部16a,16bを、該取付け部同士を結ぶ直線Sがアウタ部材15とカウルルーバ4との見切り線Aと大略平行で、かつアウタ部材15の車幅方向中央部に位置するよう配置したので、カウルルーバ4又はカバー部材6に上方から被衝突物の落下により荷重F1,F2が加わると、アウタ部材15を介してインナ部材16が前,後取付け部16a,16bを起点に車幅方向に変位して倒れることで前記荷重F1,F2が吸収されることとなり、カウルルーバ4及びカバー部材6の衝撃力の吸収機能を高めることができる。詳細には、カウルルーバ4に荷重F1が加わると、該カウルルーバ4に変形によりインナ部材16が車幅方向内側に変位し、これに伴ってアウタ部材15が内側に引っ張られて移動することで衝撃力が吸収される。
【0035】
本実施形態では、前記アウタ部材15に形成された各係合孔部15bに、インナ部材16に形成された爪部16eを爪勘合させることにより、アウタ部材15とインナ部材16とを結合し、前記アウタ部材15に形成された各爪部15cを、カウルルーバ4に形成された係合孔4gに爪勘合させることにより、アウタ部材15をカウルルーバ4に結合したので、カウルルーバ4又はアウタ部材15に前記荷重F1,F2が加わると、インナ部材16の車幅方向への変位に伴って爪勘合が外れることで、アウタ部材15が脱落し易くなり、衝撃力吸収機能をより一層高めることができる。
【0036】
また前記インナ部材16に、上壁部16cから下方に膨出する各凹部16dと、下方に筒状に延びる脚部16fとを形成し、該凹部16d及び脚部16fを横断面で上向きに開くハット形状のものとしたので、前記荷重F1,F2が加わると凹部16d,脚部16fが口開きして変形することとなり、この点からも衝撃力吸収機能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態による自動車のカウル部の平面図である。
【図2】前記カウル部の正面図である。
【図3】前記カウル部の側面図である。
【図4】前記カウル部を構成するカバー部材のアウタ部材の斜視図である。
【図5】前記アウタ部材の底面図である。
【図6】前記カバー部材のインナ部材の平面図である。
【図7】前記カバー部材の断面図(図1のVII-VII線断面図)である。
【図8】前記カバー部材の断面図(図6のVIII-VIII線断面図)である。
【図9】前記カバー部材の断面図(図6のIX-IX線断面図)である。
【図10】前記カバー部材の断面図(図6のX-X線断面図)である。
【図11】前記カバー部材断面図(図6のXI-XI線断面図)である。
【図12】前記カバー部材の断面図(図6のXII-XII線断面図である。
【図13】前記カバー部材の断面図(図6のXIII-XIII線断面図)である。
【符号の説明】
【0038】
1 カウル部
2 フード
3 フロントガラス
4 カウルルーバ
4g 係合孔(係合部)
5 フェンダパネル(車体構造部材)
6 カバー部材
8 エプロンメンバ(車体構造部材)
15 アウタ部材
15b 係合孔部(係合部)
15c 爪部
16 インナ部材
16a 前取付け部
16b 後取付け部
16e 爪部
A 見切り線
C 車体中心線
S 結ぶ直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フードとフロントガラスとの間を覆うように配設されたカウルルーバと、該カウルルーバ及び前記フードの車幅方向外側方に配設されたフェンダパネルと、該フェンダパネル,フード,フロントガラス及び前記カウルルーバで囲まれた隙間を覆うように配設されたカバー部材とを備えた自動車のカウル部構造であって、
前記カバー部材は、前記フェンダパネル,フード及びカウルルーバと略連続面をなすように形成された意匠面を有するアウタ部材と、車体構造部材に取り付けられる複数の取付け部を有するインナ部材とで構成され、
該インナ部材の各取付け部は、該取付け部同士を結ぶ直線が前記アウタ部材とカウルルーバとの見切り線又は車両前後方向に延びる車体中心線と略平行で、かつ前記アウタ部材の車幅方向中途部に位置するよう配置されていることを特徴とする自動車のカウル部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車のカウル部構造において、
前記アウタ部材とインナ部材とは、何れか一方に形成された爪部と他方に形成された係合部とを爪勘合させることにより結合されており、
前記アウタ部材とカウルルーバとは、何れか一方に形成された爪部と他方に形成された係合部とを爪勘合させることにより結合されていることを特徴とする自動車のカウル部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−149547(P2010−149547A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326869(P2008−326869)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】