説明

自動車のサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータ

【課題】部品構成が単純で、耐久性に富み、長期にわたって安定して、円滑なガラス昇降を可能にするサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータを安価に提供すること。
【解決手段】鉄鋼材料から成るガイドレール基材の表面上に、金属石鹸、リン酸塩、非鉄金属の3成分を含む表面層を備え、望ましくは、上記基材の表面に、非鉄金属を含有する少なくとも1層の金属層が接合され、さらにこの金属層の上に、金属石鹸及びリン酸塩の2成分を含む層が上層として接合されている構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の窓ガラスを開閉するための窓ガラス昇降装置に係わり、さらに詳しくは自動車用の摺動部品の1種であるサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の窓ガラスを開閉するために用いられる窓ガラス昇降装置において、ガイドレールに沿ってスライダ等が接触摺動する構造を有するウィンドウレギュレータにおいては、ガイドレールとスライダの摺動性を向上させるために、スライダの摺接部材に二硫化モリブデンや潤滑油を添加して摺動抵抗を低下させる技術(例えば、特許文献1参照)や、スライダの摺接部が回転摺動するローラ形状となったもの(例えば、特許文献2参照)、摺動すると同時に潤滑剤を捕集する突出部が付加された構造や、潤滑剤を維持するための切り欠き構造をもつスライダ(例えば、特許文献3及び4参照)、ガイドレール摺動部に摩擦調整層を設け、この摩擦調整層を乾性皮膜潤滑剤で成るものとし、リン酸亜鉛の前処理を行い、その上にバインダとして熱硬化性エポキシ、潤滑固形分として二硫化モリブデン、フッ素樹脂微粉末を均一に分散させた溶剤をスプレー塗付することによって、乾性皮膜を構成する(例えば、特許文献5参照)といった技術が開示されている。
【0003】
また、鉄鋼材料の塑性加工時の摺動性向上技術としては、工具寿命延命、強加工時の焼付防止、離型性向上、塑性加工時の外観仕上がり向上、等を目的として、鉄鋼材料/リン酸亜鉛/金属石鹸/表層という表面処理を施すことが知られている(特許文献6参照)。
【特許文献1】特開平9−112125号公報
【特許文献2】特開2003−312254号公報
【特許文献3】特開平7−3127432号公報
【特許文献4】特開平10−37586号公報
【特許文献5】特開平9−14310号公報
【特許文献6】特公平60−20463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらのスライダでは、確かに摺動性は向上するものの、二硫化モリブデンや潤滑油を添加したものについては、スライダ部材自体が軟化することにより、ガラス昇降を長期間繰り返した場合、条件によっては摩耗を発生することがあり、耐摩耗性という点で必ずしも満足のいくものではなかった。
また、ロ−ラ形状のものは部品点数が多く、コスト高になること、回転摺動時に、寸法精度等の影響により転動音が発生する等の問題点があった。
【0005】
さらに、グリスを捕集する突出部を持つ構造のスライダや、切り欠き構造を持つスライダについては、摺動性能がグリスあるいは潤滑剤の保持量に依存するため、適切なグリス量が保持されない場合には、円滑な摺動を損なうことがあった。
また、ガイドレールに摩擦調整剤層を設けたものについても、この摩擦調整剤層が溶剤スプレー塗装によるものであることから、塗料希釈、塗料攪拌、塗布、焼付け、膜厚管理等の多くの工程や、その管理が必要であり、性能バラツキの制御が複雑で難しい。しかも、塗着効率が悪い(3〜4割程度)ために、コストが高いという問題点がある。
【0006】
さらにまた、鉄鋼材料の塑性加工時の摺動性向上技術として、鉄鋼材料/リン酸亜鉛/金属石鹸/表層という表面処理をウィンドウレギュレーターのガイドレールに施した場合には、リン酸塩の下地が鉄鋼材料である場合、金属石鹸は耐摩耗性に劣るため、初期摺動により摩滅が著しく進行し、鉄鋼材料が露出した状態での摺動になるため、耐久性に乏しく、安定した摺動性が維持できないという問題がある。
【0007】
本発明は、従来のガイドレールに対するスライダの摺動性に関する上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、部品構成が単純で、コストが安価であると共に、長期にわたって安定して、円滑なガラス昇降を可能にするサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、ガイドレールに沿って接触摺動するスライダ等の部材を持つウィンドウレギュレータの構造や、ガイドレール及びスライダ材料の組合せ等について鋭意検討を重ねた結果、ガイドレールに、金属石鹸、リン酸塩、非鉄金属の3成分を含む表面層を付与することによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の自動車のサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータは、鉄鋼材料から成るガイドレール基材の表面上に、金属石鹸、リン酸塩、非鉄金属の3成分を含む表面層を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ウィンドウレギュレータのガイドレール表面に、金属石鹸、リン酸塩、非鉄金属の3成分を含む表面層が形成されているため、部品点数を増すことなく、円滑な摺動性を発揮し、スティックスリップやこれに伴う異音の発生を長期に亘って防止し得るサイドガラス昇降用のウィンドウレギュレータを安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のウィンドウレギュレータについて、さらに詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を意味するものとする。
【0012】
本発明のサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータは、上記したように、ガイドレールとなる鉄鋼材料基材の表面に、金属石鹸、リン酸塩、非鉄金属の3成分を含む表面層を形成したことにより、ガイドレールに沿って接触摺動するスライダ等の部材とガイドレールの間の円滑な摺動性を長期に亘って維持することができる。
【0013】
本発明において、少なくとも1層の金属層に含まれる「非鉄金属」とは、Fe以外の金属、具体的にはZn,Al,Mg等を意味し、これら非鉄金属が上記金属層中に、3%以上含まれていることを要する。なお、金属層中に非鉄金属が上記含有量で含まれていさえすれば、残部が鉄族元素であっても差し支えない。なお、非鉄金属を含む金属層の量は、5g/m〜400g/mが好ましい。
上記金属層に適用できる単体金属や合金としては、例えばZn、Zn−Al合金、Zn−Al−Mg合金、Zn−Al−Mg合金、Zn−Ni合金、Zn−Fe合金、Zn−Mo−Co合金などを列挙することができる。
【0014】
また、上記リン酸塩としては、リン酸マンガン、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛−カルシウム、リン酸アルミニウム、リン酸鉄を例示することができ、中でもリン酸亜鉛、リン酸亜鉛−カルシウムが特に好ましいリン酸塩と言える。
そして、上記金属石鹸としては、ステアリン酸亜鉛、イソステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、オレイン酸亜鉛などの好ましい脂肪酸塩を例示することができる。
【0015】
本発明のウィンドウレギュレータにおいて、上記ガイドレ−ル基材表面上の金属石鹸、リン酸塩、非鉄金属については特に限定されるものではないが、これら3成分を含む表面層の構成としては、基材である鉄鋼材料の表面に、非鉄金属を含有する少なくとも1層の金属層が接合されており、この金属層の上に、金属石鹸及びリン酸塩の2成分を含む層が上層として接合されている構造であることが望ましい。
すなわち、このような構造ではない場合には、ガイドレールと接触摺動するスライダ等の部材との間の面圧が高いと、窓ガラス昇降を長期的に繰り返した時に、ガイドレール表面のリン酸塩や金属石鹸が早期に摩耗し、ガイドレールの鉄鋼基材が露出することによって、スティックスリップ、異音の発生等が起こり、円滑な窓ガラス昇降性能を損なうことがある。
【0016】
また、鉄鋼製ガイドレール基材の表面に接合された1層以上の金属層(非鉄金属含有金属層)のうち、金属石鹸及びリン酸塩の2成分を含む層と接合されている金属層については、ビッカース硬度が30〜300Hv、さらには100〜200Hvである金属から成る層であることが好ましい。
これは、ビッカース硬度が30Hv未満である金属からなる層である場合には、耐摩耗性を損ない、リン酸塩、金属石鹸を摺動部に長期的に保持することができず、窓ガラスの昇降を繰り返した時に、ガイドレールの鉄鋼基材が露出することによって、スティックスリップ、異音の発生等が生じ、円滑な窓ガラス昇降性能を損なうことがある一方、ビッカース硬度が300Hvを超えた場合には、硬度が高過ぎるために、摺動時に引っ掛かりや相手材の摩耗を生じ、同様に窓ガラス昇降性能を損なうことがあることによる。
【0017】
さらに、上記非鉄金属含有金属層のうち、金属石鹸及びリン酸塩の2成分を含む層と接合されている金属層については、Al(アルミニウム)又はZn(亜鉛)、又はZnを含む合金からなる層であること、さらには3〜65%のAlを含むAl−Zn合金であることが望ましい。
すなわち、上記金属や合金以外の金属層とした場合、摩耗性、摺動性の悪化と共に、防錆性能が損なわれ、円滑な窓ガラス昇降性能を損なうことがあることによる。
【0018】
また、上記非鉄金属含有金属層のうち、金属石鹸及びリン酸塩の2成分を含む層と接合されている金属層の付着量については、10〜300g/mの範囲内とすることが好ましい。
これは、当該金属層が10g/mに満たない付着量である場合には、耐摩耗性が悪化し、長期に亘る窓ガラス昇降を繰り返した時に、ガイドレール表面のリン酸塩や金属石鹸が早期に摩耗し、ガイドレール基材が露出することによって、スティックスリップ、異音の発生等が発生し、円滑な窓ガラス昇降性能が損なわれることがあり、逆に、当該付着量が300g/mを超えた場合には、プレス成形などによってガイドレール基材の接合された金属に割れを生じることがあり、このような割れが摺動部に存在すると局部的な異常摩耗や引っ掛かりを生じることがないとは言えないことによる。
【0019】
さらには、上記1層以上の非鉄金属含有金属層のうち、金属石鹸及びリン酸塩の2成分を含む層と接合されている金属層における、金属石鹸及びリン酸塩の2成分を含む層との接合面の表面粗さは、Rz(十点平均粗さ)で2〜20μmであることが好ましい。
すなわち、接合面の表面粗さRzが2μmよりも細かい場合、リン酸塩や金属石鹸が摺動部に長期的に保持されず、スティックスリップや異音の発生等が生じて、円滑な窓ガラス昇降性能を損なうことがある。また、表面粗さRzが20μmよりも粗い場合、初期ガラス昇降時の摩擦抵抗が大きくなり、同様に、スティックスリップ、異音の発生等が起こり、円滑な窓ガラス昇降性能を損なうことがある。
【0020】
そして、金属石鹸とリン酸塩の2成分を含む層については、リン酸塩の付着量が0.2〜20g/m、金属石鹸の付着量が0.3〜30g/mの範囲内とすることが好ましい。
これは、リン酸塩の付着量が0.2〜20g/mの範囲を外れた場合、金属石鹸の密着性が悪化し、耐摩耗性を損なったり、長期に使用した時に金属石鹸が剥離して円滑な窓ガラス昇降性能を損なうことがあることによる。なお、リン酸塩付着量のより好ましい範囲は1〜10g/mである。一方、金属石鹸の付着量が0.3〜30g/mの範囲内にない場合、摩擦抵抗が大きくなってスティックスリップ、異音の発生等が起こり、円滑な窓ガラス昇降性能を損なうことがある。なお、より好ましい金属石鹸の付着量範囲は1〜10g/mである。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて、さらに詳細を説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
まず、溶融亜鉛めっき法によって、非鉄金属を含む金属としてアルミニウムを55%含むZn−Al合金を鋼板の表面に、付着量が約70g/mとなるように接合し、当該Zn−Al合金からなる金属層を備えためっき鋼板を準備した。
そして、当該めっき鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、リン酸亜鉛処理液で浸漬処理して、リン酸亜鉛皮膜を接合形成させた。
【0023】
次いで、約90℃のステアリン酸ナトリウム水溶液に浸漬して反応させ、リン酸亜鉛皮膜表面にステアリン酸亜鉛を含む金属石鹸層を接合形成し、本例のガイドレールとした。そして、得られたガードレールについて、後述する要領による各種の評価試験を行い、その結果を表1に示す。
【0024】
(実施例2)
非鉄金属を含む金属としてアルミニウムを11%、マグネシウムを3%、Siを0.2%含むZn−Al−Mg−Si合金を鋼板の表面に、その付着量が約70g/mとなるように、溶融亜鉛めっき法によって接合し、当該Zn−Al−Mg−Si合金からなる金属層を備えためっき鋼板を準備した。
そして、当該めっき鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、カルシウムを含むリン酸亜鉛処理液で浸漬処理して、カルシウムを含むリン酸亜鉛皮膜を接合形成させた。
【0025】
次いで、約90℃のステアリン酸ナトリウム水溶液に浸漬して反応させ、リン酸亜鉛皮膜表面にステアリン酸亜鉛及びステアリン酸カルシウムを含む金属石鹸層を接合形成させた。処理後のガイドレールを水洗、乾燥した後、150℃で5分間加熱処理して本例のガイドレールとした。
得られたガードレールについて、後述する要領による各種の評価試験を行い、その結果を表1に併せて示す。
【0026】
(実施例3)
溶融アルミニウムめっき法によって、非鉄金属を含む金属としてアルミニウムを鋼板の表面に、その付着量が約70g/mとなるように接合して、Al層を備えためっき鋼板を準備し、当該めっき鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、リン酸亜鉛処理液で浸漬処理して、リン酸亜鉛皮膜を接合形成させた。
【0027】
次いで、約90℃のパルミチン酸ナトリウム水溶液に浸漬して反応させ、リン酸亜鉛皮膜表面にパルミチン酸亜鉛を含む金属石鹸層を接合形成し、本例のガイドレールとした。そして、得られたガードレールについて、後述する要領による各種の評価試験を行い、その結果を表1に併せて示す。
【0028】
(実施例4)
鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、この表面に、非鉄金属を含む金属として亜鉛を電気亜鉛めっき法によって、付着量が約50g/mとなるように接合し、ガイドレール形状の鋼板の表面に多孔質亜鉛層を形成した。
そして、リン酸亜鉛処理液で浸漬処理することによって、リン酸亜鉛皮膜を接合形成させた。
【0029】
次いで、約90℃のステアリン酸ナトリウム水溶液に浸漬して反応させ、リン酸亜鉛皮膜表面にステアリン酸亜鉛を含む金属石鹸層を接合形成させて、本例のガイドレールとした。
得られたガードレールについて、後述する要領による各種の評価試験を行い、その結果を表1に併せて示す。
【0030】
(実施例5)
鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、この表面に、非鉄金属を含む金属として銅を55%、ニッケルを5%含むZn−Cu−Ni合金を電気亜鉛めっき法によって、その付着量が約70g/mとなるように接合し、ガイドレール形状の鋼板の表面にZn−Cu−Ni合金層を形成した。
次に、これをリン酸亜鉛処理液で浸漬処理し、リン酸亜鉛皮膜を接合形成させた。
【0031】
さらに、約90℃のステアリン酸ナトリウム水溶液に浸漬して反応させ、リン酸亜鉛皮膜表面にステアリン酸亜鉛を含む金属石鹸層を接合形成させて、本例のガイドレールとした。
そして、得られたガードレールについて、後述する要領による各種の評価試験を行い、その結果を表1に併せて示す。
【0032】
(実施例6)
鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、この表面に、非鉄金属を含む金属として亜鉛を電気亜鉛めっき法によって、付着量が約70g/mとなるように接合し、ガイドレール形状の鋼板の表面に光沢亜鉛層を形成した。
そして、リン酸亜鉛処理液で浸漬処理することによって、リン酸亜鉛皮膜を接合形成させた。
【0033】
次いで、約90℃のイソステアリン酸ナトリウム水溶液に浸漬して反応させ、リン酸亜鉛皮膜表面にイソステアリン酸亜鉛を含む金属石鹸層を接合形成させて、本例のガイドレールとした。
そして、得られたガードレールについて、後述する要領による各種の評価試験を行い、その結果を表1に併せて示す。
【0034】
(実施例7)
溶融亜鉛めっき法によって、鋼板の表面に、非鉄金属を含む金属として亜鉛を付着量が約150g/mとなるように接合し、亜鉛めっき層を備えためっき鋼板を準備し、当該めっき鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、ショットブラストによって表面粗さをRzで20〜30μmに調整したのち、リン酸亜鉛処理液で浸漬処理して、リン酸亜鉛皮膜を接合形成させた。
【0035】
次いで、約90℃のステアリン酸ナトリウム水溶液に浸漬して反応させ、リン酸亜鉛皮膜表面にステアリン酸亜鉛を含む金属石鹸層を接合形成させて、本例のガイドレールとした。
そして、得られたガードレールについて、同様の評価試験を行い、その結果を表1に併せて示す。
【0036】
(実施例8)
鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、電気亜鉛めっき法によってこの表面に、非鉄金属を含む金属として亜鉛をその付着量が約5g/mとなるように接合し、ガイドレール形状の鋼板の表面に亜鉛の金属層を形成した。
そして、リン酸亜鉛処理液で浸漬処理することによって、リン酸亜鉛皮膜を接合形成させた。
【0037】
次いで、約90℃のステアリン酸ナトリウム水溶液に浸漬して反応させ、リン酸亜鉛皮膜表面にステアリン酸亜鉛を含む金属石鹸層を接合形成させて、本例のガイドレールとした。
そして、得られたガードレールについて、同様の評価試験を行い、その結果を表1に併せて示す。
【0038】
(実施例9)
溶融亜鉛めっき法によって、鋼板の表面に、非鉄金属を含む金属としてアルミニウムを55%含むZn−Al合金を付着量が約350g/mとなるように接合し、当該Zn−Al合金からなる金属層を備えためっき鋼板を準備した。
そして、このめっき鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、リン酸亜鉛処理液で浸漬処理して、リン酸亜鉛皮膜を接合形成させた。
【0039】
次いで、約90℃のステアリン酸ナトリウム水溶液に浸漬して反応させ、リン酸亜鉛皮膜表面にステアリン酸亜鉛を含む金属石鹸層を接合形成し、本例のガイドレールとした。 そして、得られたガードレールについて、後述する要領による各種の評価試験を行い、その結果を表1に示す。
【0040】
(実施例10)
実施例2で使用したZn−Al−Mg−Si合金めっき鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、カルシウムを含むリン酸亜鉛処理液で浸漬処理するに際して、標準処理温度よりも低い温度で処理したこと以外は、上記実施例2と同様の操作を繰り返すことによって、本例のガイドレールを得た。
そして、得られたガードレールについて、同様の評価試験を実施し、その結果を表1に併せて示す。
【0041】
(実施例11)
実施例2で使用したZn−Al−Mg−Si合金めっき鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、カルシウムを含むリン酸亜鉛処理液で浸漬処理し、次いで約90℃のステアリン酸ナトリウム水溶液に浸漬して反応させるに際して、標準処理時間よりも短時間の処理条件を採用したこと以外は、上記実施例2と同様の操作を繰り返すことによって、本例のガイドレールを得た。
そして、得られたガードレールについて、同様の評価試験を実施し、その結果を表1に併せて示す。
【0042】
(比較例1)
鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき法によって、非鉄金属を含む金属としてアルミニウムを11%、マグネシウムを3%、Siを0.2%含むZn−Al−Mg−Si合金を付着量が約70g/mとなるように接合し、当該Zn−Al−Mg−Si合金からなる金属層を備えためっき鋼板を準備した。
そして、当該めっき鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、カルシウムを含むリン酸亜鉛処理液で浸漬処理して、カルシウムを含むリン酸亜鉛皮膜を接合形成させ、金属石鹸層を形成することなく、本例のガイドレールとした。
【0043】
そして、得られたガードレールについて、後述する要領による各種の評価試験を行い、その結果を表1に併せて示す。
【0044】
(比較例2)
溶融亜鉛めっき法によって、鋼板の表面に、非鉄金属を含む金属としてアルミニウムを55%含むZn−Al合金をその付着量が約70g/mとなるように接合し、当該Zn−Al合金からなる金属層を備えためっき鋼板を準備した。
そして、当該めっき鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、リン酸塩処理を施すことなく、溶剤の溶かしたステアリン酸亜鉛を塗布して、乾燥し、本例のガイドレールとした。
【0045】
そして、得られたガードレールについて、同様の評価試験を行い、その結果を表1に併せて示す。
【0046】
(比較例3)
鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、リン酸亜鉛処理液で浸漬処理して、リン酸亜鉛皮膜を接合形成させた。
【0047】
次いで、約90℃のステアリン酸ナトリウム水溶液に浸漬して反応させ、リン酸亜鉛皮膜表面にステアリン酸亜鉛を含む金属石鹸層を接合形成させて、本例のガイドレールとした。そして、得られたガードレールについて、同様の評価試験を行い、その結果を表1に併せて示す。
【0048】
(比較例4)
鋼板をガイドレールの形状にプレス成型加工した後、金属層を接合することなく、そのままリン酸亜鉛処理液に浸漬処理することによって、リン酸亜鉛皮膜を接合形成させた。
【0049】
次いで、約90℃のステアリン酸ナトリウム水溶液に浸漬して反応させ、リン酸亜鉛皮膜表面にステアリン酸亜鉛を含む金属石鹸層を接合形成させて、本例のガイドレールとした。そして、得られたガードレールについて、同様の評価試験を行い、その結果を表1に併せて示す。
【0050】
上記した実施例及び比較例によって得られた各ガイドレールについて、以下の評価を実施した。
【0051】
(付着量と表面粗さの測定)
金属石鹸、リン酸塩及びめっき付着量の測定については、処理後のガイドレールを湯洗して可溶性セッケンを除去したのち、重量を精密天秤で測定(測定値:A)し、さらに金属石鹸が溶解する有機溶剤に浸漬したのち2回目の重量測定(測定値:B)を行い、さらに重クロム酸アンモニウム溶液でリン酸塩を剥離したのち3回目の重量測定(測定値C)を行って、(A)−(B)から金属石鹸付着量を、(B)−(C)からリン酸塩付着量を算出した。
【0052】
また、界面の表面粗さ(Rz、単位:μm)は3回目の重量測定後の表面について、触針式表面粗さ計を使用して測定した。
めっきの付着重量は、表面粗さ測定後のガイドレールをインヒビターを添加した塩酸溶液に浸漬し、めっきが剥離したのち4回目の重量測定(測定値D)を行い、(C)−(D)の数値から算出した。
【0053】
(ビッカース硬度)
ビッカース硬度は、リン酸塩処理前の金属層の表面をビッカース硬度計によりダイヤモンド圧子の圧痕のサイズにより算出した。なお、測定荷重は、5kgとした。
【0054】
(性能評価)
上記実施例及び比較例によって得られた各ガイドレールを所定の治具に固定したのち、このガイドレールに、TPEE樹脂(東レ・デュポン(株)製ハイトレル5557)から成るスライダを備えたキャリヤプレートを装着し、往復摺動装置(新東科学(株)製 HEIDEN)を用いて、80℃の雰囲気下で当該キャリヤプレートとガイドレールの間に2kgの荷重をかけ、150mmのストロークを100mm/秒の速度で30000回往復摺動させた後の耐摩耗性、摺動性について調査した。
【0055】
耐摩耗性の評価としては、試験終了後のガイドレールの摺接面を光学顕微鏡で観察し、素地の露出状況を調査し、露出のないものを「○」、摺動面の一部が露出したものを「△」、摺動面の半分以上が露出したものを「×」と評価した。
また、摺動性としては、スティックスリップ及び異音の発生状況を確認し、スティックスリップのないものを「○」、弱いスティックスリップがあるものを「△」、強いスティックスリップがあるものを「×」と評価した。異音については、ないものを「○」、振動音が認められるものを「△」、強い軋み音があるものを「×」と評価した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1の結果から明らかなように、基材表面に非鉄金属、リン酸塩、金属石鹸の3成分を含む表面層を備えたガイドレールにおいては、素地の露出や、スティックスリップ、異音発生などが一部に認められるものの、極めて軽度であるのに対して、上記3成分のいずれかが欠けたガイドレールにおいては、摺動面の半分以上の素地が露出したり、強いスティックスリップ、強度の軋み音が発生したりすることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼材料から成るガイドレール基材の表面上に、金属石鹸、リン酸塩、非鉄金属の3成分を含む表面層を備えていることを特徴とする自動車のサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータ。
【請求項2】
上記表面層が、基材表面に接合され、非鉄金属を含む少なくとも1層の金属層と、該金属層上に接合され、金属石鹸とリン酸塩の2成分を含む層を有していることを特徴とする請求項1に記載のサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータ。
【請求項3】
上記金属層のうち、金属石鹸とリン酸塩の2成分を含む層に接合されている金属層が、ビッカース硬度が30〜300である金属から成るものであることを特徴とする請求項2に記載のサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータ。
【請求項4】
上記金属層のうち、金属石鹸とリン酸塩の2成分を含む層に接合されている金属層が、Al、Zn又はZnを含む合金から成るものであることを特徴とする請求項2又は3に記載のサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータ。
【請求項5】
上記金属層のうち、金属石鹸とリン酸塩の2成分を含む層に接合されている金属層が、質量比でAlを3〜65%含有するZn含有合金であることを特徴とする請求項4に記載のサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータ。
【請求項6】
上記金属層のうち、金属石鹸とリン酸塩の2成分を含む層に接合されている金属層の付着量が10〜300g/mであることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1つの項に記載のサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータ。
【請求項7】
上記金属層における金属石鹸とリン酸塩の2成分を含む層との接合界面の表面粗さRzが2〜20μmであることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1つの項に記載のサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータ。
【請求項8】
金属石鹸とリン酸塩の2成分を含む層におけるリン酸塩付着量が0.2〜20g/mであることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1つの項に記載のサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータ。
【請求項9】
金属石鹸とリン酸塩の2成分を含む層における金属石鹸付着量が0.3〜30g/mであることを特徴とする請求項2〜8のいずれか1つの項に記載のサイドガラス昇降用ウィンドウレギュレータ。

【公開番号】特開2009−41309(P2009−41309A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209307(P2007−209307)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】