説明

自動車のフロア構造

【課題】重量増加を抑えてフロア構造の剛性向上を図り、併せてNVH性能の向上を図ること。
【解決手段】フロアパネル18と、フロアパネル18の一方の面に貼り合わせられたカバーパネル36とを有し、フロアパネル18とカバーパネル36の少なくとも何れか一方に複数条のビード26がプレス成形され、ビード26の凹凸による空間を含むフロアパネル18とカバーパネル36との間の空間に発泡材36が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のフロア構造に関し、特に、複数条のビードを形成されたフロアパネルを含むフロア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロア構造として、剛性向上のために複数条のビードをプレス形成されたフロアパネルを用いたものが知られている。(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−298076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フロア構造の更なる剛性向上は、フロアパネルの板厚を厚くし、フロアパネル自体の剛性を高めることにより達成できる。しかし、フロアパネルの板厚を厚くすることは、フロアパネルの重量増加を招き、パフォーマンスのよい剛性向上の手法ではない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、重量増加を抑えてフロア構造の剛性向上を図り、併せてNVH性能の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による自動車のフロア構造は、フロアパネル(18)と、前記フロアパネル(18)の一方の面に貼り合わせられたカバーパネル(36)とを有し、前記フロアパネル(18)と前記カバーパネル(36)の少なくとも何れか一方に複数条のビード(26)がプレス成形され、前記ビード(26)の凹凸による空間を含む前記フロアパネル(18)と前記カバーパネル(36)との間の空間に発泡材(36、38)が充填されている。
【0007】
この構成によれば、フロントパネル(18)とカバーパネル(32)とで、閉じ断面形状による二重壁構造が得られ、更に発泡材(36)によって中実の二重壁構造になる。これにより、重量増加を抑えてフロア構造の剛性が向上し、併せてNVH性能の向上が図られる。
【0008】
本発明による自動車のフロア構造は、好ましくは、前記フロアパネル(18)と前記カバーパネル(32)とは前記ビード(26)が形成されているビード形成領域の周縁を互いに溶接され、前記フロアパネル(18)と前記カバーパネル(32)とにより画定されるパネル間空間(34)は前記ビード形成領域の全域に亘って面状に延在する空間を含んでいる。
【0009】
この構成によれば、パネル間空間(34)がビード形成領域の全域に亘って面状に延在する空間を含んでいることにより、発泡材(36)として、取り扱い性がよい固形の発泡メルシートを使用することができる。
【0010】
本発明による自動車のフロア構造は、好ましくは、前記ビード(26)は前記フロアパネル(18)に対する前記カバーパネル(32)の貼り合わせ面の側から見て凹状をなし、前記フロアパネル(18)と前記カバーパネル(32)の少なくとも何れか一方に、前記複数条のビード(26)を横切る方向に延在して隣接する前記ビード(26)の凹側空間(28)を互いに連通する連通空間(44)を画定する連通用ビード(42)が形成されている。
【0011】
この構成によれば、発泡材(38)として、未発泡状態では液状をなす発泡材を使用でき、連通用ビード(42)の連通空間(44)によってすべてのビード(26)の凹側空間(28)に発泡材(38)が行き渡るようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による自動車のフロア構造によれば、フロントパネル(18)とカバーパネル(32)とで、閉じ断面形状による二重壁構造が得られ、更に発泡材(36)によって中実の二重壁構造になる。これにより、重量増加を抑えてフロア構造の剛性が向上し、併せてNVH性能の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による自動車のフロア構造の一つの実施例を示す斜視図。
【図2】本実施例によるフロア構造の平面図。
【図3】図2の線A−Aに沿った発泡前の断面図。
【図4】図2の線A−Aに沿った発泡後の断面図。
【図5】他の実施例による図2の線A−A断面相当の断面図。
【図6】他の実施例によるフロア構造の平面図。
【図7】図6の線B−Bに沿った断面図。
【図8】他の実施例の図6の線B−Bに沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明による自動車のフロア構造の一つの実施例を、図1〜図4を参照して説明する。
【0015】
自動車は、フロア構造として、車体幅方向の左右両側にあって車体前後方向に延在する左右の箱形断面形状のサイドシル10と、車体幅方向に延在して左右両端部を左右のサイドシル10の前端部に接合されたフロントクロスメンバ12と、車体幅方向に延在して左右両端部を左右のサイドシル10の後端部に接合されたリアクロスメンバ14と、車体幅方向の中央部を車体前後方向に延在して前端部をフロントクロスメンバ12に接合され、後端部をリアクロスメンバ14に接合されたセンタトンネルメンバ16とを有する。
【0016】
更に、センタトンネルメンバ16の左右両側にあって、センタトンネルメンバ16とサイドシル10とフロントクロスメンバ12とリアクロスメンバ14とにより画定される矩形領域には、鋼板製の左右のフロントパネル18が設けられている。左右のフロントパネル18は、各々矩形で、前後左右の四辺をフロントクロスメンバ12とリアクロスメンバ14とサイドシル10とセンタトンネルメンバ16とに接合されている。
【0017】
更に、左右のフロントパネル18の車体前後方向中間部には車体幅方向に延在して左右両端部をサイドシル10とセンタトンネルメンバ16とに接合された左右のフロアクロスメンバ20が接合されている。フロアクロスメンバ20はフロントパネル18と協働として箱形断面形状をなしている。
【0018】
なお、フロントクロスメンバ12とリアクロスメンバ14は、単独で、あるいはフロントパネル18と協働として箱形断面形状をなしていればよい。
【0019】
フロントクロスメンバ12には車体前後方向に延在する左右の箱形断面形状のフロントサイドメンバ22の後端部が接合されている。リアクロスメンバ14には車体前後方向に延在する左右の箱形断面形状のリアサイドメンバ24の前端部が接合されている。
【0020】
左右のフロントパネル18は、各々、左右のフロアクロスメンバ20によって前後二つの領域に区画されている。このように区画された左右のフロントパネル18のうち、左前側部分には左側のサイドシル10とフロントクロスメンバ12との交点を中心として、左後側部分には左側のサイドシル10とリアクロスメンバ20との交点を中心として、右前側部分には右側のサイドシル10とフロントクロスメンバ12との交点を中心として、右後側部分には右側のサイドシル10とリアクロスメンバ20との交点を中心として、各々、円弧状のビード26が、同心に複数個、プレス形成されている。
【0021】
ビード26は、本実施例では、フロントパネル18のパネル主面18A(図3参照)より車室内側(上面側)に突出した突条であり、車室外側(下底面側)に凹側空間28を画定している。大部分のビード26は、一端にてサイドシル10の延在方向に直交する方向(車体幅方向)に向いており、更にそのうちの一部のビード26は、他端にてフロントクロスメンバ12あるいはリアクロスメンバ20の延在方向に直交する方向(車体前後方向)に向いている。つまり、一部のビード26は、90度の回転角をもって円弧状に延在している。
【0022】
このように、ビード26が円弧状で、その大部分が一端にて車体幅方向に向いており、更にそのうちの一部のビード26は、90度の回転角をもって円弧状に延在して他端にて車体前後方向に向いていることにより、前突・後突と側突の何れにも強いフロアパネル18となる。
【0023】
左右のフロントパネル18は、各々、フロアクロスメンバ20によって区切られた前後二つの領域の各々の外縁部、つまりビード形成領域の周縁に、パネル主面18Aより所定高さhだけ車外側(下方)に偏倚してパネル主面18Aと平行な四角枠状のフランジ部30を有する。左右のフロントパネル18の前後二つの領域の車室外側には、各々、当該前後二つの各領域と略同じ大きさの四角形のカバーパネル32が、外縁部をフランジ部30に接合された態様で貼り合わされている。つまり、フロントパネル18とカバーパネル32とはビード形成領域の周縁を互いにスポット溶接されている。図3、図4において、符号wは、このスポット溶接点を示している。
【0024】
これにより、カバーパネル32は、フロントパネル18のパネル主面18Aより所定高さhだけ離間した状態でフロントパネル18とで閉じ断面形状による二重壁構造をなし、フロントパネル18との間にパネル間空間34を画定している。この構成により、ビード26はパネル間空間34の側から見て凹状をなし、凹側空間28はパネル間空間34に連通している。
【0025】
このようにして、パネル間空間34は、左右のフロントパネル18の前後二つの領域の各々に略全域、換言すると、ビード形成領域の全域に亘って面状に延在し、隣接するビード26の凹側空間28を互いに連通する連通空間をなしている。
【0026】
パネル間空間34には発泡材36が充填されている。発泡材36は、加熱発泡型の発泡ポリウレタン等による発泡メルシートにより構成されており、図3は発泡前の状態を、図4は発泡後の状態を各々示している。発泡材36は、発泡前は、パネル間空間34と略同一の大きさ(体積)の平板状をなし、カバーパネル32の接合前にフロントパネル18の下底面側、つまり、カバーパネル32の接合によってパネル間空間34になる部位の全体に亘って存在し、カバーパネル32の接合後に、フロントパネル18、カバーパネル32の外面の焼付け塗装工程等による加熱処理により発泡膨張し、パネル間空間34とすべてのビード26の凹側空間28の全域に亘って充填される。この実施例では、発泡材36として、取り扱い性のよい固形の発泡メルシートを使用できるので、作業性がよい。
【0027】
この発泡材36の発泡膨張は、気密空間ではないが、フロントパネル18とカバーパネル32とによる閉じ断面空間内で、当該閉じ断面空間に倣うように行われるので、発泡材36の充填が、パネル間空間34とビード26の凹側空間28の全域に亘って、作業性よく確実に隙間なく行われることになる。なお、カバーパネル32は、最低限、発泡材36の発泡時の圧力に耐える板厚を有していればよく、フロントパネル18より薄いものでよい。
【0028】
上述したように、フロントパネル18に多数のビード26が設けられていて、フロントパネル18とカバーパネル32とで、閉じ断面形状による二重壁構造をなしていることにより、フロントパネル18とカバーパネル32とによるフロア構造の剛性、ついてはフロントパネル18の見かけ状の剛性が向上する。更に、フロントパネル18とカバーパネル32との間の全域、つまり、パネル間空間34とすべてのビード26の凹側空間28の全域に亘って発泡材36が充填されていることにより、中実の二重壁構造となってフロア構造の剛性が更に向上する。
【0029】
これらのことにより、フロア構造の所要の剛性を確保した上で、フロントパネル18の板厚を低減でき、全体で見てフロア構造の軽量化を図ることができる。特に、発泡材36は、発泡材36が鋼材より低比重の材料であることにより、重量増加を抑えてフロア構造の剛性の向上を行う効果がある。
【0030】
また、発泡材36は、フロントパネル18とカバーパネル32との間に隙間なく面状に存在しているので、遮音・吸音材としても良好に作用する。これにより、発泡材36は、フロア構造の効率のよい剛性向上に併せてNVH性能の向上にも寄与し、フロントパネル18の車室内側に設けられる遮音・吸音材を低減することができる。このことによってもフロア構造の軽量化が図られる。
【0031】
図5に示されているように、フロントパネル18の車室内側に、車室内側を平らにすべく、複数状のビード26の凹凸形状に倣って遮音・吸音材による遮音・吸音層40が更に設けられてよい。
【0032】
この場合、発泡材36は、発泡ポリウレタン等による発泡樹脂により構成されて、専ら1000Hz以下、特に400〜500Hzの騒音の遮音・吸音を行う。遮音・吸音層40は、インシュレータ、メルシート等により構成されていて、1000Hz以上の騒音の遮音・吸音を行う。このように、発泡材36と遮音・吸音層40とで、異なる周波数域の遮音・吸音を行うようになっていればよい。これにより、広域に亘る周波数の遮音・吸音効果が得られることになる。
【0033】
次に、図6〜図8を参照して本発明によるフロア構造の他の実施例について説明する。なお、図6〜図8において、図1〜図4に対応する部分は、図1〜図4に付した符号と同一の符号を付けて、その説明を省略する。
【0034】
この実施例でも、ビード26はフロアパネル18に対するカバーパネル32の貼り合わせ面の側から見て凹状をなしている。そして、この実施例では、フロントパネル18のパネル主面18Aにカバーパネル32がスポット溶接によって接合されている。これにより、各ビード26の凹側空間28が各ビード26毎に個別の閉じ断面形状の空間になる。なお、図7において、符号wは、フロントパネル18とカバーパネル32とのスポット溶接点を示しており、スポット溶接点wは、フロントパネル18とカバーパネル32とが全面に亘って強く接合されるよう、ビード26間のパネル主面18Aにも多数存在する。
【0035】
フロアパネル18とカバーパネル32の少なくとも何れか一方には、複数のビード26の延在方向と交差する方向に延在して連通用ビード42が形成されている。図7はフロアパネル18に連通用ビード42を設けた実施例を、図8はカバーパネル32に連通用ビード42を設けた実施例を各々示している。カバーパネル32に連通用ビード42が設けられると、カバーパネル32の剛性が向上する。なお、連通用ビード42は、必要に応じて複数設けられていもよい。
【0036】
連通用ビード38は、何れの実施例でも、隣接するビード26の凹側空間28を互いに連通する連通空間44を画定する。これにより、すべてのビード26の凹側空間28が互いに連通する。
【0037】
凹側空間28と連通空間44の少なくとも一方には、液状の未発泡の発泡材38が入れられる。液状の発泡材38は、連通空間44によってすべてのビード26の凹側空間28に行き渡り、フロントパネル18、カバーパネル32の外面の焼付け塗装工程等による加熱処理により発泡膨張して固形化し、すべてのビード26の凹側空間28と連通空間44の全域に亘って充填される。
【0038】
上述したように、フロントパネル18に多数のビード26が設けられていて、カバーパネル32により各ビード26が閉じ断面形状をなしていることにより、フロントパネル18とカバーパネル32とによるフロア構造の剛性が向上する。更に、すべてのビード26の凹側空間28に発泡材38が充填され、ビード26の凹側空間28が中実となってフロア構造の剛性が更に向上する。
【0039】
これらのことにより、フロア構造の所要の剛性を確保した上で、フロントパネル18の板厚を低減でき、全体で見てフロア構造の軽量化を図ることができる。この実施例でも、発泡材36は、発泡材36が鋼材より低比重の材料であることにより、重量増加を抑えてフロア構造の剛性の向上を行う効果が得られる。
【0040】
また、ビード26の凹側空間28に充填された発泡材38は、遮音・吸音材としても作用する。これにより、発泡材38は、フロア構造の効率のよい剛性向上に併せてNVH性能の向上にも寄与し、フロントパネル18の車室内側に設けられる遮音・吸音材を低減することができる。このことによってもフロア構造の軽量化が図られる。
【0041】
なお、ビード26は円弧状のものに限られることなく、車体前後方向や車体幅方向に直線状に延在するものであってもよい。また、ビード26は、フロントパネル18のパネル主面18Aより車室外側に突出した突条であってもよい。また、ビード26は、カバープレート32に形成されていても、フロントパネル18とカバープレート32の双方に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0042】
10 サイドシル
12 フロントクロスメンバ
14 リアクロスメンバ
16 センタトンネルメンバ
18 フロントパネル
26 ビード
28 凹側空間
32 カバーパネル
34 パネル間空間
36、38 発泡材
40 遮音・吸音層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアパネルと、
前記フロアパネルの一方の面に貼り合わせられたカバーパネルとを有し、
前記フロアパネルと前記カバーパネルの少なくとも何れか一方に複数条のビードがプレス成形され、
前記ビードの凹凸による空間を含む前記フロアパネルと前記カバーパネルとの間の空間に発泡材が充填されている自動車のフロア構造。
【請求項2】
前記フロアパネルと前記カバーパネルとは前記ビードが形成されているビード形成領域の周縁を互いに溶接され、前記フロアパネルと前記カバーパネルとにより画定されるパネル間空間は前記ビード形成領域の全域に亘って面状に延在する空間を含んでいる請求項1に記載の自動車のフロア構造。
【請求項3】
前記ビードは前記フロアパネルに対する前記カバーパネルの貼り合わせ面の側から見て凹状をなし、前記フロアパネルと前記カバーパネルの少なくとも何れか一方に、前記複数条のビードを横切る方向に延在して隣接する前記ビードの凹側空間を互いに連通する連通空間を画定する連通用ビードが形成されている請求項1に記載の自動車のフロア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−20608(P2012−20608A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158389(P2010−158389)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】