説明

自動車のフロントフードパネル構造

【課題】 通常走行やフード開閉動作に耐えうる剛性を確保する一方で、一定以上の過大な衝撃が作用した場合に適度に変形して歩行者頭部への負荷を低減することができる自動車のフロントフードパネル構造を提供する。
【解決手段】 インナーパネル(12)には、アウターパネル(11)と反対側に突出した補強ビード(21〜25)が格子状の配列で形成され、該補強ビードで囲まれた平坦部に軽減孔(31〜36)が開口され、該軽減孔の周囲に、前記アウターパネルの裏面に近接した軽減孔フランジ(31a)が形成されており、前記アウターパネルが、その裏面の間隙部にスポット状に介在するシーラント材(51〜56)で支持されており、前記軽減孔フランジに、前記アウターパネルに外部から過大な衝撃が加わった場合に前記インナーパネルの変形の起点となる切欠部(41a〜47a)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室の前方にエンジン室や荷室などの前部空間を有する自動車のフロントフードパネル構造に関し、さらに詳しくは、歩行者との衝突時における歩行者頭部への負荷の低減を考慮したフロントフードパネル構造に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
フロントエンジンタイプ、フロントミッドシップタイプのように車室前方にエンジン室を有する自動車や、リアエンジンタイプ、ミッドシップタイプのように車室前方に荷室を有する自動車は、エンジン室や荷室などの前部空間の上面側を開閉可能に覆うフロントフードを備えている。
【0003】
このうち、車室の前方にエンジン室を有する自動車では、エンジンのメンテナンス性を考慮するとエンジン室上方の開口部が大きい方が有利であり、そのためエンジン室の上部を開閉可能に覆うフロントフードは、概して大型で扁平である。エンジン室や荷室などの前部空間を、歩行者との衝突時における歩行者頭部への負荷吸収エリアに利用する観点からも、車幅方向全体に亘る大型のフロントフードが選択されることになる。
【0004】
このようなフロントフードは、車体外表面を形成するアウターパネルと、その裏面側に間隔を有して配設されたインナーパネルとがそれらの周縁で一体に接合された二重構造をなしている(特許文献1参照)。これらのうちアウターパネルは、意匠面として外観および空力特性を考慮して平滑な曲面で構成され、剛性向上が困難であるのに対し、インナーパネルには、補強ビードなどの凹凸が形成されることで所望する剛性が確保され、かつ、補強ビードで囲まれた部分に軽減孔と称する打ち抜き孔が開口されることで軽量化が図られている。
【0005】
【特許文献1】実開昭61−174388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、不慮の事態により、走行中の自動車の前部に歩行者が衝突した場合、上記のように車室の前方にエンジン室や荷室などの前部空間を有し、該前部空間の上部を覆うフロントフードを備えた自動車では、歩行者の頭部が前方の斜上方からフロントフードに衝突することが衝突実験などにより予見された。したがって、上述したように、フロントフードに通常走行やフード開閉動作に耐えうる剛性を確保する一方で、一定以上の衝撃が作用した場合には、フロントフードが適度に変形して歩行者頭部への負荷を低減するような構造が求められている。
【0007】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、通常走行やフード開閉動作に耐えうる剛性を確保する一方で、一定以上の過大な衝撃が作用した場合に適度に変形して歩行者頭部への負荷を低減することができる自動車のフロントフードパネル構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来技術の有する課題を解決するため、本発明は、車室の前方にエンジン室、荷室等の前部空間を有し、前記前部空間の上部を開閉可能に覆うフロントフードを備えた自動車の前記フロントフードのパネル構造であって、
アウターパネル(11)とその裏面側に間隔を有して配設されたインナーパネル(12)とがそれらの周縁で一体に接合され、前記インナーパネルには、前記アウターパネルと反対側に突出した補強ビード(21〜25)が格子状の配列で形成されるとともに、前記補強ビードで囲まれた平坦部に軽減孔(31〜36)が開口され、該軽減孔の周囲に、前記アウターパネルの裏面に近接した軽減孔フランジ(31a)が形成されており、前記アウターパネルが、その裏面と、前記軽減孔フランジを含む前記インナーパネルとの間隙部にスポット状に介在するシーラント材(51〜59)で支持されているような構造において、
前記軽減孔フランジに、前記アウターパネルに外部から過大な衝撃が加わった場合に前記インナーパネルの変形の起点となる切欠部(41a〜47a)が設けられていることにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る自動車のフロントフードパネル構造は、上述の通り、アウターパネルとその裏面側に間隔を有して配設され、格子状配列の補強ビードが形成されたインナーパネルとが、それらの周縁部で一体に接合された構造により、フロントフードに、通常走行やフード開閉動作に耐えうる剛性が確保される一方で、アウターパネルの外表面に、歩行者の頭部が前方斜上方から衝突するなどして、一定以上の過大な衝撃荷重が作用した場合には、軽減孔フランジの切欠部を起点としてインナーパネルおよびアウターパネルが適度に変形でき、歩行者頭部への負荷を低減することができる。
【0010】
しかも、切欠部の設定は、軽減孔パンチ型に微少形状を追加するだけで対応可能であるので、大幅な型改造を必要とせず、成形性の低下などのリスクを伴わずに実施できる。また、軽減孔フランジに切欠部を設けるだけの変更であるため、アウターパネルやインナーパネル自体の強度や耐デント性には殆ど影響無く対応できる。
【0011】
本発明において、前記切欠部が、前記補強ビードの会合部(21c、22c、12c)に隣接した前記軽減孔の隅部(41a、43a、44a、46a、47a)に設けられている態様では、格子状配列の補強ビードが形成されたインナーパネルにおいて変形の起点となり易い補強ビード会合部の変形容易性が切欠部で高められることにより、フロントフードの剛性をより確実にコントロールでき、歩行者頭部への負荷を確実に低減することができる。
【0012】
また、本発明において、前記軽減孔フランジには、前記軽減孔内に張出した張出部(42、45)が設けられ、前記アウターパネルの裏面と前記張出部との間に前記シーラント材(52、55)が介在しており、前記切欠部が、前記張出部の一側または両側(42a、45a)に設けられている態様では、面剛性が高い張出部の両側には応力集中が起こりやすく、この箇所の変形容易性が切欠部で高められることにより、フロントフードの剛性をより確実にコントロールでき、歩行者頭部への負荷を確実に低減することができる。
【0013】
また、本発明において、前記切欠部が、ヒンジ取付け部(13)に隣接した前記軽減孔の隅部(44a)に設けられている態様では、剛性が高いヒンジ取付け部に隣接して切欠部を設けることにより、インナーパネルの変形をより確実に誘導でき、かつ、フロントフード全体として見た時に、中央部に比較して相対的に剛性が高い車幅方向両側部分の変形容易性が高められることで、フロントフード全体に、変形の起点となる箇所が分散し、歩行者頭部への負荷低減がなされる確率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1および図2は、本発明に係るフロントフードパネル構造が実施されるフロントフード1(ボンネット)を備えた自動車を示している。図示例の自動車は、車室2の前方にエンジン室3を備えたフロントエンジン自動車であり、図2に示すように、車幅方向全体に亘るフロントフード1が採用されている。
【0015】
図3は、フロントフード1をエンジン室3側から見た状態を示している。図において、フロントフード1は、車体外側の意匠面を構成するアウターパネル11の裏面側、すなわちエンジン室3側に、適宜間隔を有してインナーパネル12を重合し、それらの周縁部においてヘミング加工などで接合することにより、扁平な最中状に形成されている。
【0016】
インナーパネル12の車室2寄りの両側端部には、フロントフード1を車体側に開閉可能に連結するフードヒンジ14、14の取付け部13、13が設けられている。各取付け部13、13の裏面には図示しないウエルドナットを溶着した補強板が接合されており、各フードヒンジ14、14およびインナーパネル12の孔を貫通した図示しないボルトを前記各ウエルドナットに締結することにより、各フードヒンジ14、14が取付け部13、13に固定される。
【0017】
インナーパネル12の中央部には、アウターパネル11の裏面から離れる方向に向かって凸となる複数のビード形状部21〜25が、インナーパネル12の外枠部12aに架け渡されるように縦横に格子状の配列で形成されており、インナーパネル12及びアウターパネル11の面剛性を確保している。各ビード形状部21〜25は、図4〜図7に示すように、アウターパネル11とほぼ平行に延びる頂面21a(22a)と、その両側に沿って延在する傾斜した側面21b(22b)で構成されている。
【0018】
上記複数のビード形状部21〜25で囲まれたインナーパネル12の各平坦部には、フロントフード1の重量削減を目的として、軽減孔31〜36が開口されている。各軽減孔31〜36は、基本的に外枠部12aおよびビード形状部21〜25の格子状配列に対応して不定形の略多角形状をなしており、各軽減孔31〜36の周囲には、上記平坦部の残余の部分によりフランジ31a(図4〜6)、32a(図7)が形成されている。
【0019】
図4は、インナーパネル12の一方のフードヒンジ14に隣接した軽減孔31付近を示す拡大図である。軽減孔31は、インナーパネル12の前側および後側の縁部に沿った外枠部12aとビード形状部21とで画成される平行四辺形状の領域に開口され、外枠部12aに沿った側面12bも、ビード形状部21の側面21bと同様に傾斜してフランジ31aに連続している。
【0020】
フランジ31aは、アウターパネル11の裏面と略平行に近接配置され、該フランジ31aと、アウターパネル11の裏面との間隙部10にシーラー材51〜56(マスチックシーラー等の熱硬化性の緩衝材)をスポット状に介在させることで、厚さ1mmにも満たないアウターパネル11に面剛性(耐デント性)を確保している。このうち、軽減孔31のビード形状部21および外枠部12aに沿ったフランジ31aの直線区間の中間部では、シーラー材の設置面を確保するために軽減孔31内に張出した張出部42、45が形成され、該張出部42、45によって拡張されたフランジ31aにシーラー材52、55が設置されている。
【0021】
軽減孔31〜36は、重量削減効果を高めるために、外枠部12aやビード形状部21〜25およびその他の部品の取り付け座面を除く平坦部を最大限に切除する要請から、多角形状を基調とした異形孔となる。したがって、このような軽減孔31〜36を取り囲む各辺から傾斜して立ち上がる各側面12b、21bが相互に会合する部分に折れ面(12c、21c)が形成される。
【0022】
フロントフード1に外部から衝撃荷重を受けた場合には、上記のような折れ面(12c、21c)に応力が集中し、この部分から変形が開始する。その際、前記折れ面(12c、21c)に隣接した軽減孔31隅部のフランジ31aには、圧縮応力が作用することになる。そこで、軽減孔31の隅部のフランジ31aに、切欠部41a、44a、46a、47aを設け、局所的にフランジ31aの強度を低下させることにより、衝撃荷重付加時におけるインナーパネル12の初期変形の起点を、より高精度に誘導可能となり、これによりフロントフード1の変形に対する強度のコントロールが可能となる。
【0023】
また、シーラー材52、55を介在させた張出部42、45は、他のフランジ31a部分に比べて剛性が高いので、フロントフード1に外部から衝撃荷重を受けた場合には、張出部42、45の両側にも応力が集中し易い。そこで、張出部42、45の両側に切欠部42a、45aを設けることにより、この部分を衝撃荷重付加時における初期変形の起点の1つに加えることができ、初期変形の起点を増やしかつ分散させることが可能となる。
【0024】
このように、外枠部12aおよびビード形状部21〜25相互の会合部12c、21cに隣接した隅部(41a、44a、46a、47a)や、剛性が高いシーラー材設置用の張出部42、45の側部(42a、45a)など、初期変形の起点となる箇所に切欠部41a〜47aを設けることにより、衝撃時に折れ面(12c、21c)などに発生する応力集中によって、フランジ31aによる突っ張りの影響を受けずに相対的に容易に変形が開始され、かつフロントフード1全体に変形が波及し易くなることで、衝撃エネルギーを効率的に吸収できるようになる。
【0025】
さらに、上記軽減孔31(32)は、フロントフード1の左右両側のヒンジ取付け部13に隣接して配設されているが、このヒンジ取付け部13は、先述したように補強板とフードヒンジ14が締結固定され、他の箇所よりも剛性が高くなっている。したがって、このような剛性の高いヒンジ取付け部13に隣接した軽減孔31(32)の隅部に切欠部44aが設けられることで、衝撃時に該切欠部44aを起点とした変形が誘導され、衝撃の吸収効果を高めることができる。
【0026】
上記実施形態のフロントフード1と、切欠部(41a〜47a)を有さない同構造のフロントフードとの頭部傷害値(HIC)比較試験を行ったところ、切欠部(41a〜47a)を備えた上記実施形態のフロントフード1の方が、減速度を抑えることができていることが確認できた。
【0027】
特に、試験においてインナーパネル12の剛性が大きく関与するインパクタストローク後半部分の減速度を抑えることができ、HIC低減効果を得るうえで有効であることが確認された。場所による差異はあるが、パネル変形によるインパクタのストロークが平均10%程度伸びるという結果が得られた。これは、インナーパネル12の変形量が増し、効率的に衝撃エネルギーを吸収できていることを示している。実際、試験によりHICを100〜200程度軽減することができた。
【0028】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【0029】
例えば、上記実施形態では、本発明を、車室2の前方にエンジン室3を備えたフロントエンジン自動車のフロントフード1(ボンネット)に実施する場合を示したが、リアエンジンタイプ、ミッドシップタイプ等、車室前方に荷室を有する自動車のフロントフード(トランクリッド)に実施することもできる。
【0030】
なお、補強ビードの格子状またはネット状配列は、四角格子や三角格子(トラス)など特定の格子状配列に限定されるものではなく、それらが混在した不定形の格子状またはネット状配列である場合も含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るフロントフードパネル構造が実施される自動車を示す側面図である。
【図2】本発明に係るフロントフードパネル構造が実施される自動車を示す正面図である。
【図3】本発明に係るフロントフードをエンジン室側から見た図である。
【図4】図3の要部拡大図である。
【図5】図4のX−X断面図である。
【図6】図5のY−Y断面図である。
【図7】図3のZ方向から見た要部斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 フロントフード
2 車室
3 エンジン室
10 間隙部
11 アウターパネル
12 インナーパネル
12a 外枠部
12b 側面
12c 会合部(折れ面)
13 ヒンジ取付け部
14 フードヒンジ
21,22,23,24,25 ビード形状部(補強ビード)
21a,22a 頂面
21b,22b 側面
21c,22c 会合部(折れ面)
31,32,33,34,35,36 軽減孔
31a,32a フランジ
41a,42a,43a,44a,45a,46a,47a 切欠部
42,45 張出部
51,52,53,54,55,56,57,58,59 シーラー材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の前方にエンジン室、荷室等の前部空間を有し、前記前部空間の上部を開閉可能に覆うフロントフードを備えた自動車の前記フロントフードのパネル構造であって、
アウターパネルとその裏面側に間隔を有して配設されたインナーパネルとがそれらの周縁で一体に接合され、前記インナーパネルには、前記アウターパネルと反対側に突出した補強ビードが格子状の配列で形成されるとともに、前記補強ビードで囲まれた平坦部に軽減孔が開口され、該軽減孔の周囲に、前記アウターパネルの裏面に近接した軽減孔フランジが形成されており、前記アウターパネルが、その裏面と、前記軽減孔フランジを含む前記インナーパネルとの間隙部にスポット状に介在するシーラント材で支持されているような構造において、
前記軽減孔フランジに、前記アウターパネルに外部から過大な衝撃が加わった場合に前記インナーパネルの変形の起点となる切欠部が設けられていることを特徴とする自動車のフロントフードパネル構造。
【請求項2】
前記切欠部が、前記補強ビードの会合部に隣接した前記軽減孔の隅部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の自動車のフロントフードパネル構造。
【請求項3】
前記軽減孔フランジには、前記軽減孔内に張出した張出部が設けられ、前記アウターパネルの裏面と前記張出部との間に前記シーラント材が介在しており、前記切欠部が、前記張出部の一側または両側に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車のフロントフードパネル構造。
【請求項4】
前記切欠部が、ヒンジ取付け部に隣接した前記軽減孔の隅部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の自動車のフロントフードパネル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−248699(P2009−248699A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97840(P2008−97840)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】