説明

自動車の後部車体構造

【課題】車体重量及びコストの上昇を招くことなく、バックドア開口の下辺コーナー部全体の必要剛性を確保しつつ、応力集中や成形時の皺による亀裂の問題を回避できる自動車の後部車体構造を提供する。
【解決手段】エクステンションパネル15の凹部15bの少なくとも下部縦壁面15g′と、凸部15cの少なくとも上部縦壁面15h′とを略連続面をなすように形成し、凹部15bの下部縦壁面15g′の車外側稜線L1を、凸部15cの上部縦壁面15h′の車外側コーナー部15kまで延びるように形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックドア開口の下辺部を形成するロアバックパネルと、側辺部を形成するリヤピラーと、下辺コーナー部を形成するエクステンションパネルとを備えた自動車の後部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の後部車体においては、リヤサスペンションからの突き上げ荷重に対するバックドア開口の下辺コーナー部の剛性を高める構造を採用している。例えば、特許文献1には、ロアバックインナパネルに凸形状の結合補強部を形成し、該結合補強部にピラーインナパネルを結合した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−62565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のように、結合補強部をコーナー部の一部分に形成する構造では、補強が部分的なものとなり、バックドア開口の下辺コーナー部全体の剛性アップが得られないという懸念がある。
【0005】
一方、本件出願人は、バックドア開口の下辺コーナー部全体の剛性を高める観点から、コーナー部材の閉断面部を、ロアバックパネル及びリヤピラーの各閉断面部に連続するように形成し、この連続した閉断面部をバックドア開口縁に沿って配置した構造を提案している(特願2010−053974号)。
【0006】
ところで、図9(a)及び図9(b)に示すように、コーナー部材を形成するエクステンションパネル30のリヤピラー側30aに車両前方に張り出すリヤコンビネーションランプ収容凹部30bを形成し、ロアバック側30cに車両後方に張り出す凸部30dを形成する構造とした場合には、凹部30bと凸部30dとの間の一般面Aに段差部30eが生じる。この段差部30eは突き上げ荷重に対するバックドア開口部の変形には強度的に有利であるものの、その高い強度により凹部30bの溶接部(×印参照)に応力が集中し、場合によって溶接剥離や亀裂が生じるおそれがある。またエクステンションパネル30をプレス成形する際に段差部30eに皺が発生し易く、前記同様に亀裂が生じるおそれがある。
【0007】
このような応力集中や皺による亀裂の問題を回避するには、エクステンションパネルの板厚を大きくして溶接部の強度を高めるか、あるいは補強部材を新たに追加することが考えられるが、このようにすると車体重量及びコストが上昇するという問題が生じる。
【0008】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、車体重量及びコストの上昇を招くことなく、バックドア開口の下辺コーナー部全体の必要剛性を確保しつつ、応力集中や成形時の皺による亀裂の問題を回避できる自動車の後部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車両後端に形成されたバックドア開口の下辺部を形成するロアバックパネルと、前記バックドア開口の側辺部を形成するリヤピラーと、該リヤピラーと前記ロアバックパネルとに結合され、前記バックドア開口の下辺コーナー部を形成するエクステンションパネルとを備えた自動車の後部車体構造であって、前記エクステンションパネルのリヤピラー側には、車両前方に張り出すリヤコンビネーションランプ取付け凹部が形成され、前記エクステンションパネルのロアバックパネル側には、車両後方に張り出す凸部が形成され、前記凹部の少なくとも下部縦壁面と、前記凸部の少なくとも上部縦壁面とを略連続面をなすように形成し、前記凹部の下部縦壁面の車外側稜線を、前記凸部の上部縦壁面の車外側コーナー部まで延びるように形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る後部車体構造によれば、エクステンションパネルの凹部の下部縦壁面と凸部の上部縦壁面とを略連続面をなすように形成し、凹部の下部縦壁面の車外側稜線を凸部の上部縦壁面の車外側コーナー部まで延びるように形成した。
【0011】
このように構成したので、凹部と凸部との間の段差をなくすことができ、凹部と凸部とが連続したなだらかな曲面形状となり、突き上げ荷重による局部的な応力集中を緩和することができ、バックドア開口の下辺コーナー部の剛性を確保しつつ、溶接部の剥離や亀裂の発生を防止できる。
【0012】
また前記凹部の車外側稜線を凸部の外側コーナー部に連続して延びるように形成したので、稜線部が皺取りビードとして機能するため、皺の発生による亀裂の問題を防止でき、ひいてはエクステンションパネルをプレス成形する際の成形性を改善することができる。
【0013】
また前記エクステンションパネルに形成した凹部と凸部とを連続させるだけの構造であるので、前述の板厚を大きくしたり、補強部材を追加したりする必要はなく、車体重量及びコストの上昇を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1による自動車の後部車体の背面図である。
【図2】前記後部車体のエクステンションパネルの背面図である。
【図3】前記エクステンションパネルの断面図(図2のIII-III線断面図)である。
【図4】前記エクステンションパネルの断面図(図2のIV-IV線断面図)である。
【図5】前記エクステンションパネルの断面図(図2のV-V線断面図)である。
【図6】前記エクステンションパネルの断面図(図2のVI-VI線断面図)である。
【図7】前記エクステンションパネルの断面図(図2のVII-VII線断面図)である。
【図8】前記後部車体のロアバックパネルの断面図(図2のVIII-VIII線断面図)である。
【図9】本発明の成立過程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1ないし図8は、本発明の実施例1による自動車の後部車体構造を説明するための図である。
【0017】
図において、1は自動車の後部車体を示している。この後部車体1の後端面には、これの全域に広がる大きさのバックドア開口1aが形成されており、該バックドア開口1aには、跳ね上げ式のバックドア2が配設されている。
【0018】
前記後部車体1は、バックドア開口1aの下辺部を形成する車幅方向に延びるロアバックパネル5と、前記バックドア開口1aの車幅方向左,右側辺部を形成する上下方向に延びるリヤピラー6,6と、前記バックドア開口1aの左,右下辺コーナー部を形成するエクステンションパネル7,7とを備えている。
【0019】
また前記後部車体1は、バックドア開口1aの上辺部を形成する車幅方向に延びるアッパバックパネル8を備えており、該アッパバックパネル8は前記左,右のリヤピラー6の上端部間に結合されている。このアッパバックパネル8には、前記バックドア2を回動可能に支持するヒンジ部材(不図示)が取り付けられている。
【0020】
前記ロアバックパネル5は、断面ハット形状のロアバックアウタ5aとロアバックインナ5bとの上フランジ部5c同士及び下フランジ部5d同士を結合することにより、車幅方向に延びる筒状の閉断面部aを形成した構造を有する。
【0021】
前記ロアバックパネル5の上フランジ部5cによりバックドア開口1aが形成されている。この上フランジ部5cには、前記バックドア2との間をシールするシール部材10が装着されており、該シール部材10はバックドア開口1aの全周に渡って配置されている。また前記ロアバックパネル5の後側にはリヤバンパ11が配設されている。なお、12はベントダクトである。
【0022】
前記左,右のリヤピラー6は、外装が施されたサイドアウタパネル6aとサイドインナパネル6bとの後フランジ部6c同士及び不図示の前フランジ部同士を結合することにより、上下方向に延びる筒状の閉断面部bを形成した構造を有する(図2参照)。このリヤピラー6の後フランジ部6cによりバックドア開口1aが形成されている。
【0023】
前記左,右のリヤピラー6の下縁部には、不図示の後輪の上方を覆うホイールハウス13が接続されている。このホイールハウス13には、前記後輪を支持する不図示のショックアブソーバが連結されている。
【0024】
前記サイドアウタパネル6aは、該サイドアウタパネル6aの後縁から車内側に屈曲して延びる後壁部6eを有し、該後壁部6eは、前記サイドインナパネル6bに前記閉断面部bをなすよう結合されている。
【0025】
前記後壁部6eは、サイドアウタパネル6aの上半部に形成されている。この後壁部6eの下半部は、該後壁部6eを段付き状に切り欠くことにより形成された切欠き部6fとなっており、該切欠き部6fと前記サイドインナパネル6bとの間には隙間が設けられている。
【0026】
前記左,右のエクステンションパネル7は、エクステンションアウタパネル15とエクステンションインナパネル16とを筒状の閉断面部cをなすよう結合した構造を有し、前記リヤピラー6とロアバックパネル5とに結合されている。
【0027】
このエクステンションパネル7の閉断面部cは、前記ロアバックパネル5の閉断面部aと前記リヤピラー6の閉断面部bとに連続している。また各閉断面部a,c,bは、バックドア開口縁に沿って形成されており、これによりバックドア開口1aの左,右側辺部,下辺コーナー部は剛性の高い連続した閉断面構造となっている。
【0028】
詳細には、エクステンションパネル7の閉断面部cは、エクステンションアウタパネル15の後フランジ部15aと、エクステンションインナパネル16の後フランジ部16aとを結合するとともに、エクステンションアウタパネル15の後述する凹部15bと、前記エクステンションインナパネル16の前フランジ部16bとを結合することにより形成されている。前記後フランジ部15a,16aによりバックドア開口1aが形成されている。
【0029】
前記エクステンションアウタパネル15の凹部15bとエクステンションインナパネル16の前フランジ部16bとの外側結合部には、前記ホイールハウス13のフランジ部13aが重ね合わせて結合されている。また上側結合部には、サイドインナパネル6bの下縁部6gが重ね合わせて結合されている。
【0030】
前記エクステンションアウタパネル15は、前記ロアバックアウタ5aに続いて車幅方向外側に延びるロアバック側部15Aと、該ロアバック側部15Aから前記サイドアウタパネル6aの切欠き部6fとサイドインナパネル6bとの間を覆うように上方に延びるリヤピラー側部15Bとを有する。
【0031】
前記ロアバック側部15Aの内縁部は、ロアバックアウタ5aに重ね合わせて結合されている。
【0032】
前記リヤピラー側部15Bの外縁部15dは、前記サイドアウタパネル6aの切欠き部6fに重ね合わせて結合されており、上縁部15eは、サイドアウタパネル6aの後壁部6eに重ね合わせて結合されている。
【0033】
またリヤピラー側部15Bの後フランジ部15aは、前記サイドインナパネル6bの後フランジ部6cに重ね合わせて結合されており、該後フランジ部15a,6cによりバックドア開口1aが形成されている。
【0034】
前記リヤピラー側部15Bには、前記凹部15bが車両前方に張り出すように形成されている。この凹部15bは、リヤピラー側部15Bの略全域に広がる大きさを有し、該凹部15b内には、リヤコンビネーションランプ18,18が取り付けられている。
【0035】
前記凹部15bは、縦長の底壁15fと、該底壁15fを囲む周壁15gとを有し、この底壁15fに前記エクステンションインナパネル16が結合されている。
【0036】
前記ロアバック側部15Aには、断面ハット形状の凸部15cが車両後方に張り出すように形成されている。この凸部15cは、前記ロアバックアウタ5aの断面形状に沿うように形成されており、斜め後下向きに延びる上壁15hと、該上壁15hに続いて下方に延びる縦壁15iと、該縦壁15iに続いて斜め前下向きに延びる下壁15jとを有する。
【0037】
そして前記凹部15bの周壁15gの車外側縦壁面15g′と、前記凸部15cの上壁15hの車外側縦壁面15h′とは、連続面をなすよう形成されている。詳細には、凹部15bの下辺部分15b′と、凸部15cの上辺部分15c′とは段差のない連続面となっている。
【0038】
前記凹部15bの縦壁面15g′の車外側稜線L1は、前記凸部15cの縦壁面15h′の車外側コーナー部15kの稜線L2に連続して延びるように形成されている。
【0039】
本実施例によれば、エクステンションアウタパネル15の凹部15bの縦壁面15g′と、凸部15cの縦壁面15h′とを段差のない略連続面をなすように形成し、前記凹部15bの縦壁面15g′の車外側稜線L1を、前記凸部15cの縦壁面15h′の車外側コーナー部15kの稜線L2に連続して延びるように形成した。
【0040】
このように構成したので、エクステンションアウタパネル15の凹部15bと凸部15cとの間の段差をなくすことができ、該凹部15bと凸部15cとが連続したなだらかな曲面形状となり、突き上げ荷重による局部的な応力集中を緩和することができ、バックドア開口1aの下辺コーナー部の剛性を確保しつつ、溶接部の剥離や亀裂の発生を防止できる。
【0041】
また前記凹部15bの車外側稜線L1を凸部15cの外側コーナー部15kの稜線L2に連続するよう形成したので、稜線L1,L2部が皺取りビードとして機能することとなり、皺の発生による亀裂の問題を防止でき、ひいてはエクステンションアウタパネル15を深絞り成形する際の成形性を改善することができる。
【0042】
前記エクステンションアウタパネル15の凹部15bと凸部15cとを連続面をなすよう形成するだけの構造であるので、前述の板厚を大きくしたり、補強部材を追加したりする必要はなく、車体重量及びコストの上昇を防止できる。
【0043】
本実施例では、エクステンションパネル7の閉断面部cを、ロアバックパネル5の閉断面部aとリヤピラー6の閉断面部bとに連続させるとともに、バックドア開口縁に沿って形成したので、バックドア開口1aの下辺コーナー部全体の剛性をより一層高めることができ、応力集中及び溶接部の亀裂の問題をより確実に防止することができる。
【0044】
なお、前記実施例では、エクステンションアウタパネル15の凹部15bの下辺部分15b′と凸部15cの上辺部分15c′とを連続面としたが、本発明では、図2に示すように、この連続面に加えて、凹部15bの周壁15gに稜線L2に連なるビード15mを前方に凹むように形成してもよい。このようにした場合には、応力集中及び成形時の皺をより確実に防止できる。
【符号の説明】
【0045】
1 後部車体
1a バックドア開口
5 ロアバックパネル
6 リヤピラー
7 エクステンションパネル
15 エクステンションアウタパネル
15A ロアバック側部
15B リヤピラー側部
15b 凹部
15c 凸部
15g′ 凹部の縦壁面
15h′ 凸部の縦壁面
15k 車外側コーナー部
L1,L2 稜線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両後端に形成されたバックドア開口の下辺部を形成するロアバックパネルと、
前記バックドア開口の側辺部を形成するリヤピラーと、
該リヤピラーと前記ロアバックパネルとに結合され、前記バックドア開口の下辺コーナー部を形成するエクステンションパネルとを備えた自動車の後部車体構造であって、
前記エクステンションパネルのリヤピラー側には、車両前方に張り出すリヤコンビネーションランプ取付け凹部が形成され、
前記エクステンションパネルのロアバックパネル側には、車両後方に張り出す凸部が形成され、
前記凹部の少なくとも下部縦壁面と、前記凸部の少なくとも上部縦壁面とを略一致した連続面をなすように形成し、
前記凹部の下部縦壁面の車外側稜線を、前記凸部の上部縦壁面の車外側コーナー部まで延びるように形成した
ことを特徴とする自動車の後部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−236553(P2012−236553A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107990(P2011−107990)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】