説明

自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法

【課題】2つの破砕工程も簡単に行うことによって、ハニカム構造体から粒子段階で貴金属である白金族触媒を簡単かつ効率的に1次濃縮する。
【解決手段】自動車排ガスコンバータとして利用され、内壁面4に白金族触媒を担持するアルミナ層5がコートされたハニカム構造体1を、破砕機又はハンマによって圧縮力又は衝撃力を与えて1次破砕を行い粒子とし、白金族触媒を担持するアルミナ層5を外表面に露出させ、1次破砕で得られた粒子同士を水中又は空気中で衝突させて2次破砕を行い、粒子の基材2であるハニカム構造体1をほとんど破壊せずに、粒子表面にコートされたアルミナ層5のみを剥離させることにより、アルミナ層5を微粒子化することを特徴とする自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車排ガスコンバータから白金族触媒を回収し濃縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車排ガスコンバータはハニカム構造体ごと乾式製錬炉に入れて貴金属を回収するか、酸などにより貴金属を溶解抽出する方法が行われてきた。これらの改善方法については、既にいくつかの発明が知られている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第2717935号公報
【特許文献2】特許第3839431号公報
【特許文献3】特許第3679985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ハニカム構造体に含有する貴金属濃度は低く(0.1%〜0.5%程度)、大規模施設でないと採算がとれないことから、リサイクル率は必ずしも高くない。ハニカム構造体をあらかじめ粒子段階で簡便に分離して貴金属を1次濃縮すれば、付加価値の高い金属粉末として市場に流通しやすくなると考えられ、基礎研究の結果が学会等で報告されている。しかしながら、磁選、浮選、液−液抽出を用いた従来の粒子分離技術ではうまく回収できない。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点を解決することを目的とするものであり、ハニカム構造体から粒子段階で貴金属を1次濃縮する方法として、いわゆる粒子分離技術(比重選別,磁選,浮選等)ではなく、2段階の破砕工程による選択粉砕方法によって効率的な濃縮する方法を実現することを課題とするものである。
【0006】
そして、本発明では、それぞれの破砕工程は、簡便に行うことができ、かつ回収は篩い分けだけとして、中小のスクラップ回収業等において簡単に導入する技術を実現することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、自動車排ガスコンバータとして利用され、内壁面に白金族触媒を担持するアルミナ層がコートされたハニカム構造体を、破砕機又はハンマによって圧縮力又は衝撃力を与えて1次破砕を行い粒子とし、白金族触媒を担持するアルミナ層を外表面に露出させることを特徴とする自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法を提供する。
【0008】
本発明は上記課題を解決するために、自動車排ガスコンバータとして利用され、内壁面に白金族触媒を担持するアルミナ層がコートされたハニカム構造体を、破砕機又はハンマによって圧縮力又は衝撃力を与えて1次破砕を行い粒子とし、白金族触媒を担持するアルミナ層を外表面に露出させ、1次破砕で得られた粒子同士を水中又は空気中で衝突させて2次破砕を行い、粒子の基材であるハニカム構造体をほとんど破壊せずに、粒子表面にコートされたアルミナ層のみを剥離させることにより、ハニカム構造体に比べ、アルミナ層を優先的に微粒子化することを特徴とする自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法を提供する。
【0009】
本発明は上記課題を解決するために、自動車排ガスコンバータとして利用され、内壁面に白金族触媒を担持するアルミナ層がコートされたハニカム構造体を、破砕機又はハンマによって圧縮力又は衝撃力を与えて1次破砕を行い粒子とし、白金族触媒を担持するアルミナ層を外表面に露出させ、1次破砕で得られた粒子同士を水中又は空気中で衝突させて2次破砕を行い、粒子の基材であるハニカム構造体をほとんど破壊せずに、粒子表面にコートされたアルミナ層のみを剥離させることにより、ハニカム構造体に比べ、アルミナ層を優先的に微粒子化し、2次破砕により微粒子化したアルミナ微粒子のみをスクリーンにより回収し、アルミナ微粒子に担持した白金族触媒の濃縮をすることを特徴とする自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、1次破砕でハニカム構造体の内壁面から白金族触媒を担持するアルミナ層を外表面に露出させ、2次破砕でアルミナ層をはぎ取ってアルミナ層を優先的に微粒子化し、このアルミナ微粒子のみを回収するので、2つの破砕工程も簡単に行うことによって、ハニカム構造体から粒子段階で貴金属である白金族触媒を簡単かつ効率的に1次濃縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法の実施の形態を実施例に基づいて図面を参照して、以下に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1(a)、(b)、(c)は、それぞれ自動車排ガスコンバータのハニカム構造体の全体構成、断面及びその拡大状態を示す図である。本実施例におけるハニカム構造体1は、その基材はコーディエライトから形成されており、このコーディエライト基材2から形成されたハニカム構造体1の格子状の孔3の内壁面4には、図1(c)に示すように、アルミナ層5が付着されている。
【0013】
なお、本実施例では、ハニカム構造体1は、その基材はコーディエライトから形成されているもので説明するが、別の材料で形成されているものであっても本発明は利用可能である。
【0014】
アルミナ層5は、白金族触媒を担示しているが、本発明の方法は、このアルミナ層5を濃縮して回収する方法である。即ち、本発明は、ハニカム構造体1の孔3内の内壁面4にコートされているアルミナ層5を剥がし取り、このアルミナ層5のみを微細化して篩い分けによって回収し、アルミナ層5に担示されている白金族触媒を濃縮して回収する方法である。
【0015】
なお、この明細書では「白金族触媒を濃縮」とは、白金族触媒自体の濃度を高めることではなく、ハニカム構造体1から白金族触媒を担持するアルミナ層5を回収することで、ハニカム構造体1全体の量に対する白金族触媒の回収比率を高めるという意味である。
【0016】
本発明の方法では、まず、ハニカム構造体1の孔3内の内壁面4に塗布されているアルミナ層5を剥がし取る必要がある。そのための方法として、次の2つの方法がある。
【0017】
第1の方法は、アルミナ層5を剥がしとるには、孔3内にショット材等を流し衝突させて削り取る方法である。孔3内にショット材等を流し衝突させて削り取る第1の方法は、有力な方法ではあるが、ショット材等が孔3内に入ってアルミナ層5に満遍なく衝突するのに十分小さな微粒子ショット材では、質量が小さく衝突力が小さくなって剥がす効果が低くなる。
【0018】
また、この第1の方法は、剥離したアルミナ層5とこの微粒子ショット材との分離工程が新たに必要となるばかりか、回収されたアルミナ層5に少なからずこの微粒子ショット材が残留するため回収品の品位の低下や、微粒子ショット材再利用率の低下によるコスト増大に繋がる。
【0019】
第2の方法は、1次破砕として、コーディエライト基材2からなるハニカム構造体1をある程度壊して、ハニカム構造体1の多数のハニカム孔3のそれぞれを形成する各内壁が1粒子となるようにし、アルミナ層5を粒子の外表面に露出させたのち、2次破砕として、コーディエライト粒子相互を衝突させてアルミナ層5を剥がし取る方法である。上記1粒子は、粒径数mm程度の粒子であり、本明細書では、内壁面4にアルミナ層5を有するコーディエライト基材2を破砕して得られるから、「コーディエライト粒子」とも言う。
【0020】
このように、ハニカム構造体1をある程度壊して各内壁が1粒子(コーディエライト粒子)を構成する第2の方法は、破砕工程が2段階となるが、1段目の破砕(1次破砕)は、ハンマによる打撃、プレス機による圧縮、あるいは圧縮力や衝撃力を主体とした市販のクラッシャなどで比較的容易に達成可能である。
【0021】
2段階目の破砕(2次破砕)は乾式(空気中)で行っても良いが、破砕中にアルミナが微粉化するため、その速やかな回収には水中での操作が有利である。水中で攪拌羽根によるスクラビングをすることにより、1次破砕されたコーディエライト粒子同士が緩やかに衝突して、コーディエライト粒子はほとんど破壊せずに、外表面に露出しているアルミナ層5を容易に剥がし取ることができる。
【0022】
このようにして剥がされたアルミナ層5の粒子は、主として数10μmオーダーの大きさを有しており、mmオーダーのコーディエライト粒子と、篩い分けにより容易に分離可能である。本発明の方法では、この第2の方法を採用した。
【0023】
以下さらに、本発明の方法をより詳細に説明する。本発明の方法では、まず、ハニカム構造体1を、ハンマで打撃するか、プレス機で圧縮するか、ジョークラッシャなど圧縮力や衝撃力を主体とした市販のクラッシャで衝撃を与え1次破砕する(図2(a)参照)。
【0024】
この1次破砕により、圧縮力あるいは衝撃力をハニカム構造体1の空洞に逃がしながら、ハニカム構造体1が潰れるように破壊するため、ハニカム構造体1の多数の孔3の各内壁4がコーディエライト粒子6として単離する(図2(a)〜(c)参照)。これにより、ハニカム構造体1の多数の孔3の内壁面4にコートされたアルミナ層5が、ハニカム構造体1の1次破砕で得られるコーディエライト粒子6の外表面に露出する。
【0025】
その後、1次破砕粒子の2次破砕を行う。例えば、図3に示すような2次破砕機7を使用する。この2次破砕機7では、水の流れを乱れ易くする邪魔板8を設けた円筒状水槽9にコーディエライト粒子6(1次破砕粒子)と水を投入し、羽根の向きが互いに異なる2枚のインペラ10、11を挿入し、回転により上のインペラ10は水を下方に、下のインペラ11は水を上方に送り出す、いわゆるスクラバ装置により、1次破砕で得られたコーディエライト粒子6同士の衝突を促す。
【0026】
この衝突によって、コーディエライト粒子6から、アルミナ層5がアルミナ微粒子としてはぎ取られる。
【0027】
図3では、水槽9内でスクリーン(篩)12を設け、一定の粒径以下(例えば45μm以下)になったアルミナ微粒子は速やかにスクリーン12の篩目を通過して、下方のアルミナ微粒子回収ポケット13によって回収する構造をとっている。
【0028】
しかし、スクリーンは2次破砕後、別工程で実施しても良い。その場合、一定時間、攪拌して2次破砕を終えたならば、例えば45μmの篩目を有するスクリーンで2次破砕物を篩い分け、篩目を通してスクリーンの下方に落下したアルミナ微粒子を回収する。この結果、アルミナ微粒子に担持されている状態ではあるが、白金族触媒をハニカム構造体1の量全体に対して濃縮状態で回収できる。
【0029】
図4は、本発明の方法による効果を実証する試験結果を示す図であり、本発明の方法で回収された45μm以下産物の組成の一例を示す。具体的には、図4は、2次破砕時間と、アルミナ層5及びコーディエライト基材2の各々について全体の何%が破砕によって45μm以下となったかを示したものである。
【0030】
この図4に示すとおり、破砕時間5分〜60分の間に、45μm以下となったアルミナの割合が37.3%〜68.8%であったのに対し、コーディエライトは2.3%〜6.4%であり、アルミナが45μm以下となる割合はコーディエライトの10〜16倍であった。
【0031】
もともと、コーディエライトはアルミナの5倍程度多く存在しているため、未処理のハニカム構造体1中の白金族濃度と、処理後の45μm以下のアルミナ粒群に対する白金族濃度とを比較すると、少なくとも4〜5倍の濃縮は可能である。
【0032】
以上、本発明に係る自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法の最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内で、いろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の方法は、以上のような構成であるから、自動車排ガスコンバータから白金族触媒を回収し濃縮する以外に、その他のリサイクル技術分野でも適用可能であるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法の実施例において対象とするハニカム構造体を説明する図であり、(a)、(b)、(c)は、それぞれハニカム構造体の全体構成、断面及びその拡大状態を示す図である。
【図2】本発明に係る自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法の実施例の工程を説明する図であり、(a)はハニカム構造体に破砕力を加える状態を示し、(b)は1次破砕物(コーディエライト粒子群)を示し、(c)は1次破砕物であるコーディエライト粒子の拡大図を示す図である。
【図3】本発明に係る自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法の実施例において2次破砕で使用する2次破砕機を説明する図である。
【図4】本発明に係る自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法による効果を実証する試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ハニカム構造体
2 コーディエライト基材
3 ハニカム構造体の孔
4 内壁面
5 アルミナ層
6 コーディエライト粒子
7 2次破砕機
8 邪魔板
9 円筒状水槽
10、11 インペラ
12 スクリーン
13 微粒子回収ポケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車排ガスコンバータとして利用され、内壁面に白金族触媒を担持するアルミナ層がコートされたハニカム構造体を、破砕機又はハンマによって圧縮力又は衝撃力を与えて1次破砕を行い粒子とし、白金族触媒を担持するアルミナ層を外表面に露出させることを特徴とする自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法。
【請求項2】
自動車排ガスコンバータとして利用され、内壁面に白金族触媒を担持するアルミナ層がコートされたハニカム構造体を、破砕機又はハンマによって圧縮力又は衝撃力を与えて1次破砕を行い粒子とし、白金族触媒を担持するアルミナ層を外表面に露出させ、
1次破砕で得られた粒子同士を水中又は空気中で衝突させて2次破砕を行い、粒子から粒子表面にコートされたアルミナ層のみを剥離させることにより、アルミナ層を微粒子化することを特徴とする自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法。
【請求項3】
自動車排ガスコンバータとして利用され、内壁面に白金族触媒を担持するアルミナ層がコートされたハニカム構造体を、破砕機又はハンマによって圧縮力又は衝撃力を与えて1次破砕を行い粒子とし、白金族触媒を担持するアルミナ層を外表面に露出させ、
1次破砕で得られた粒子同士を水中又は空気中で衝突させて2次破砕を行い、粒子から粒子表面にコートされたアルミナ層のみを剥離させることにより、アルミナ層を微粒子化し、
2次破砕により得られたアルミナ微粒子のみをスクリーンにより回収し、アルミナ微粒子に担持した白金族触媒の濃縮をすることを特徴とする自動車排ガスコンバータから白金族触媒を濃縮する方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−69351(P2010−69351A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236137(P2008−236137)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省産業技術研究開発事業(中小企業支援型)「表面剥離粉砕特性評価装置の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】