説明

自動車用アルミニウム合金板及びその製造方法

【課題】安定化処理を施すことなく、成形性及び形状凍結性に優れたAl−Mg系合金板を製造する。
【解決手段】Mg:3.0〜3.5mass%、Fe:0.05〜0.3mass%、Si:0.05〜0.15mass%を含み、さらにMn:0.1mass%未満に規制し、残部実質的に不可避的不純物とAlからなる溶湯を、双ベルト式鋳造機により1/4厚みにおける冷却速度が20〜200℃/secとなるよう厚さ5〜15mmの薄スラブを鋳造してコイルに巻き取った後、ロール粗度Ra:0.2〜0.7μmのロールにより冷延率60〜98%の冷間圧延を施し、CALにより保持温度400〜520℃で連続的に、あるいはバッチ焼鈍炉により保持温度300〜400℃で最終焼鈍を施した後、レベラーで歪矯正することを特徴とするプレス成形性、肌荒れ性および形状凍結性に優れた自動車用アルミニウム合金板の製造方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用アルミニウム合金板及びその製造方法に係り、特に自動車用ボディシートなどの成形用に好適なアルミニウム合金板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車用の外板には、主として冷延鋼板が用いられている。しかし、最近になって自動車車体の軽量化に伴い、Al−Mg系、Al−Mg−Si系等のアルミニウム合金板の使用が検討されている。特にAl−Mg系合金板は、強度、成形性及び耐食性が優れることから、自動車用ボディシートとして提案されている。
【0003】
これらアルミニウム合金板の製造方法として、従来、DC鋳造によってスラブを鋳造し、スラブの両面を面削後、ソーキング炉によって均質化処理を施し、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延、最終焼鈍を施し、所定の板厚に仕上げる方法が採用されている(特許文献1)。
【0004】
これに対して、ベルト式鋳造機によって連続的に薄スラブを鋳造、これを直接コイルに巻き取って、冷間圧延、最終焼鈍を施し、所定の板厚に仕上げる方法が提唱されている。例えば、Mg:3.3〜3.5wt%、Mn:0.1〜0.2wt%を含み、さらにFe:0.3wt%以下、Si:0.15wt%以下のいずれか1種または2種以上を含み、残部通常の不純物とAlからなる溶湯を、双ベルト式鋳造機により1/4厚みにおける冷却速度が40〜90℃/secとなるよう厚さ5〜10mmの薄スラブを速度5〜15m/minで鋳造してロールに巻き取った後、ロール表面粗度Ra0.2〜0.7μmのロールにより冷間圧延し、焼鈍を施すことを特徴とするプレス成形性および耐応力腐食割れ性に優れたことを特徴とする自動車用アルミニウム合金板の製造方法が開示されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、この方法では、再結晶粒微細化を目的として、溶湯の化学組成として、Mn0.1〜0.2wt%が含有されており、凝固冷却速度が比較的速いため、Al−(Fe・Mn)−Siなどの金属間化合物のサイズが小さくなって成形性に優れている反面、マトリックス中のMnの固溶量が高くなりすぎるため、耐力が高く成形後のスプリングバックが大きくなるという問題がある。
【0006】
この問題を解決するため、例えば、Mg:3〜6%を含有するアルミニウム合金の連続鋳造圧延板を焼鈍処理した後、歪矯正を施し、240乃至340℃の入る所定の温度で1時間以上行い、その後徐冷するといういわゆる安定化処理も提唱されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3155678号
【特許文献2】WO2006/011242
【特許文献3】特開平11−80913
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、連続鋳造圧延板に安定化処理を施すことはコスト面から不利であるため、安定化処理を施すことなく、成形性および形状凍結性に優れたAl−Mg系合金板を製造することが課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本願発明では、Mg:3.0〜3.5mass%、Fe:0.05〜0.3mass%、Si:0.05〜0.15mass%を含み、さらにMn:0.1mass%未満に規制し、残部実質的に不可避的不純物とAlからなる溶湯を、双ベルト式鋳造機により1/4厚みにおける冷却速度が20〜200℃/secとなるよう厚さ5〜15mmの薄スラブを鋳造してコイルに巻き取った後、ロール粗度Ra:0.2〜0.7μmのロールにより冷延率60〜98%の冷間圧延を施し、CALにより保持温度400〜520℃で連続的に最終焼鈍を施した後、レベラーで歪矯正することを特徴とするプレス成形性、肌荒れ性および形状凍結性に優れた自動車用アルミニウム合金板の製造方法を採用した。また、上記最終焼鈍は、バッチ焼鈍炉により保持温度300〜400℃で施してもよい。
【0010】
このような製造方法を採用することにより、Mg:3.0〜3.5mass%、Fe:0.05〜0.3mass%、Si:0.05〜0.15mass%を含み、さらにMn:0.1mass%未満に規制し、残部実質的に不可避的不純物とAlからなり、板厚1/4厚さの領域における金属間化合物の円相当径の最大径が5μm以下、平均再結晶粒径が15μm以下であり、かつ表面粗度がRa0.2〜0.6μmで、耐力145MPa以下、引張強さ225MPa以上であることを特徴とするプレス成形性、肌荒れ性および形状凍結性に優れた自動車用アルミニウム合金板を提供することが可能となった。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、連続鋳造圧延板に安定化処理を施すことなく、成形性および形状凍結性に優れたAl−Mg系合金板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において合金の化学組成を限定した理由を説明する。本明細書中で化学組成を表す「%」は特に断らない限り「質量%」の意味である。
【0013】
〔Mg:3.0〜3.5%〕
Mgは固溶強化によって強度を高める元素であり、3.0%未満であるとこの効果を発現することができず、引張り強度が低下する。Mg含有量が3.5%を超えると耐力が高くなりすぎて形状凍結性が低下する。
【0014】
〔Fe:0.05〜0.3%〕
Feは鋳造時にAl−Fe−Si系などの金属間化合物の微細粒子として晶出し、冷間圧延後の焼鈍の際に再結晶の核生成サイトとして機能する。したがって、これら金属間化合物の粒子個数が多いほど生成する再結晶核が多くなり、その結果、多数の微細な再結晶粒が形成される。また、金属間化合物の微細粒子は、生成した再結晶粒の粒界をピン止めして結晶粒の合体による成長を抑制し、微細な再結晶粒を安定に維持する。この効果を発現するにはFe含有量を0.05%以上とする必要がある。ただし、Fe含有量が0.3%を超えると晶出する金属間化合物が粗大化する傾向が強くなり、成形時にこの金属間化合物を起点としてボイドを形成し成形性が劣る。したがって、Fe含有量は0.05〜0.3%に限定する。好ましい範囲は0.05〜0.25%である。
【0015】
〔Si:0.05〜0.15%〕
Siは鋳造時にAl−Fe−Si系などの金属間化合物の微細粒子として晶出し、冷間圧延後の焼鈍の際に再結晶の核生成サイトとして機能する。したがって、これら金属間化合物の粒子個数が多いほど生成する再結晶核が多くなり、その結果、多数の微細な再結晶粒が形成される。また、金属間化合物の微細粒子は、生成した再結晶粒の粒界をピン止めして結晶粒の合体による成長を抑制し、微細な再結晶粒を安定に維持する。この効果を発現するにはSi含有量を0.05%以上とする必要がある。ただし、Si含有量が0.15%を超えると晶出する金属間化合物が粗大化する傾向が強くなり、成形時にこの金属間化合物を起点としてボイドを形成し成形性が劣る。したがって、Si含有量は0.05〜0.15%に限定する。好ましい範囲は0.05〜0.1%である。
【0016】
〔Mn:0.1%未満〕
Mn含有量が0.1%以上の場合、鋳造時の凝固冷却速度が高いため、マトリックス中のMn固溶量が大きくなり、最終板における耐力が高くなりすぎて形状凍結性が低下する。更に上限を制限して0.08%未満とすることが好ましく、0.06%未満とすることがより好ましい。
【0017】
〔任意成分のTi:0.001〜0.1%〕
本発明においては、鋳造塊の結晶粒を微細化するためにTiを0.001〜0.1%の範囲で含有することが好ましい。この効果を発現するにはTi含有量を0.001%以上とする必要がある。ただし、Ti含有量が0.1%を超えるとTiAl等の粗大な金属間化合物が生成し、成形時にボイドを形成し成形性が低下する。Ti含有量のさらに好ましい範囲は、0.001〜0.05%である。TiはAl−10%Tiなどの母合金で添加してもよいし、Al−5%Ti−1%B、Al−10%Ti−1%Bなどの結晶粒微細化剤(ロッドハードナー)として添加してもよい。
【0018】
〔任意成分としてのB:0.0005〜0.01%〕
本発明においては、鋳造塊の結晶粒を微細化するためにBを0.0005〜0.01%の範囲で含有することが好ましい。Bの効果はTiと共存することで、溶湯中にαAl結晶粒生成の起点となる核(TiBx)を生成させることである。B含有量のさらに好ましい範囲は、0.0005〜0.005%の範囲である。BはAl−5%Bなどの母合金で添加してもよいし、Al−5%Ti−1%B、Al−10%Ti−1%Bなどの結晶粒微細化剤(ロッドハードナー)として添加してもよい。
【0019】
本発明によるアルミニウム合金板の製造法については以下に説明する方法に限定されるものではないが、鋳造条件、最終焼鈍条件があり、これらの意義及び限定理由を以下に説明する。
【0020】
〔薄スラブの鋳造条件〕
双ベルト鋳造法とは、上下に対峙し水冷されている回転ベルト間に溶湯を注湯してベルト面からの冷却で溶湯を凝固させてスラブとし、ベルトの反注湯側より該スラブを連続して引き出してコイル状に巻き取る連続鋳造方法である。
【0021】
本発明においては、鋳造するスラブの厚さは5〜15mmが好ましい。薄スラブ厚さが5mm未満であると、単位時間当たりに鋳造機を通過するアルミニウム量が小さくなりすぎて、鋳造が困難になる。逆に厚さが15mmを超えると、ロールによる巻取りができなくなるため、スラブ厚さの範囲を5〜15mmに限定する。この厚さであるとスラブ鋳造時の1/4厚みにおける凝固冷却速度が20〜200℃/secとなり、金属間化合物の円相当径の最大径を5μm以下に制御することが可能である。
【0022】
〔冷間圧延ロール表面粗度Ra0.2〜0.7μm〕
さらに冷間圧延ロール表面の粗度をRa0.2〜0.7μmと限定した理由は、最終焼鈍板の面粗度を調整するためである。冷間圧延工程によってロール表面の形状が圧延板表面に転写されるため、最終焼鈍板の表面粗度は、Ra0.2〜0.6μmとなる。最終焼鈍板の面粗度が、Ra0.2〜0.6μmの範囲内であれば、最終板の表面形状が成形時に使用する低粘性潤滑油を均一に保持するミクロプールの役目を果たし、プレス成形性に優れた板となる。なお、冷間圧延ロール表面の粗度はRa0.3〜0.7μmであることが好ましく、この場合、最終焼鈍板の面粗度はRa0.3〜0.6μmである。冷間圧延ロール表面の粗度はRa0.4〜0.7μmであることが更に好ましく、この場合、最終焼鈍板の面粗度はRa0.4〜0.6μmである。
【0023】
〔金属間化合物の円相当径の最大径5μm以下〕
本発明によるアルミニウム合金板の厚み1/4の領域における金属組織中の金属間化合物については、円相当径の最大径5μm以下に限定する。このように非常に微細な金属間化合物がマトリックス中に分散されることにより、アルミニウム板成形中の転位の動きが抑制され、Mgによる固溶強化により引張り強さが高くなるとともに、成形性に優れた板となる。
【0024】
〔平均再結晶粒径15μm以下〕
最終焼鈍板の板厚1/4厚さの領域における平均再結晶粒径は、15μm以下に限定する。これを超えると、材料変形時に結晶粒界に生じる段差が大きくなりすぎて、変形後のオレンジピールが顕著となり、肌荒れ性が低下する。
【0025】
〔冷延率60%〜98%の限定理由〕
冷間圧延時における圧下率は60%〜98%であることが好ましく、圧延による塑性加工により発生する転位はこれら微細な晶出物の周囲に蓄積されることにより、最終焼鈍時の微細な再結晶組織を得るために必要となる。冷間圧延時における圧下率が60%未満である場合、転位の蓄積が十分ではなく微細な再結晶組織が得られない。冷間圧延時における圧下率が98%を超えると圧延時の耳割れが顕著になり歩留まりが低下する。さらに好ましい冷延率は70%〜96%の範囲である。
【0026】
〔連続焼鈍炉による最終焼鈍条件〕
連続焼鈍炉による最終焼鈍の温度は400〜520℃に限定する。400℃未満の場合、再結晶に必要なエネルギーが不足するため、微細な再結晶組織を得ることができない。保持温度が520℃を超えると、再結晶粒の成長が顕著となり、平均再結晶粒径が15μmを超えてしまい、成形性及び肌荒れ性が低下する。
【0027】
連続焼鈍の保持時間は5min以内とすることが好ましい。連続焼鈍の保持時間が5minを超えると、再結晶粒の成長が顕著となり、平均再結晶粒径が15μmを超えてしまい、成形性及び肌荒れ性が低下する。
【0028】
連続焼鈍処理時の昇温速度及び冷却速度は、昇温速度については100℃/min以上とすることが好ましい。連続焼鈍処理時の昇温速度が100℃/min未満の場合、微細な再結晶組織が得られず、成形性及び肌荒れ性が低下する。
【0029】
〔バッチ炉による最終焼鈍条件〕
バッチ炉による最終焼鈍の温度は300〜400℃に限定する。300℃未満の場合、再結晶に必要なエネルギーが不足するため、微細な再結晶組織を得ることができない。保持温度が400℃を超えると、再結晶の成長が顕著となり、再結晶粒の平均粒径が15μmを超えてしまい、成形性及び肌荒れ性が低下する。
【0030】
バッチ炉による最終焼鈍の保持時間は特に限定はしないが、1〜8時間が好ましい。1時間未満では、コイルが均一に昇温されない可能性がある。保持時間が8時間を超えると、再結晶粒の平均粒径が15μmを超えてしまい、成形性及び肌荒れ性が低下する。
【0031】
〔レベラーによる歪矯正〕
最終焼鈍後は、板が熱歪によって変形しているため、コイル又は板の状態でレベラーロールでの繰り返し曲げ等の矯正加工が施され、形状が矯正され平坦度が回復する。この歪矯正によって、所定の引張り強さ、耐力を得ることが可能となり、成形性、肌荒れ性及び形状凍結性に優れたアルミニウム合金板とすることができる。
【実施例】
【0032】
以下、発明にかかる実施例について比較例と対比して説明する。表1に示す化学組成(合金A、B、C、D、E、F、I)の溶湯を脱ガス鎮静後、双ベルト鋳造機により10mm厚さの薄スラブを連続的に鋳造して直接コイルに巻き取った。同様に表1に示す化学組成(合金G)の溶湯を脱ガス鎮静後、DC鋳造法により、(幅)1000mm×(厚さ)500mm×(長さ)4000mmのスラブを鋳造して、両面を面削後、ソーキング炉にて450℃×8時間の均質化処理を施し、熱間圧延を行って、6mm厚さの熱間圧延板としてコイルに巻き取った。同様に表1に示す化学組成(合金H)の溶湯を脱ガス鎮静後、双ロール鋳造機により6mm厚さの薄スラブを連続的に鋳造して直接コイルに巻き取った。
【0033】
【表1】

【0034】
次にこれら薄スラブ、熱間圧延板を所定の表面粗さ(Ra0.6μm、1.0μm)に仕上げた冷間圧延ロールで冷間圧延して厚さ1mmの板を形成し、次いでこれらの板をCALに通して保持温度460℃で連続焼鈍処理した。さらにこの最終焼鈍板の熱歪を除去するため、レベラーに通して歪矯正を行った後、切断して試験材を得た。なお、表2は、実施例、比較例について各製造工程における試験材の製造条件を示している。
【0035】
【表2】

【0036】
次に、この試験材の再結晶粒径、金属間化合物の円相当径の最大径、表面粗度、0.2%耐力(0.2%YS)、引張り強度(UTS)、伸び(EL)、張出し高さについて測定を行った。
【0037】
試験材の再結晶粒径(D)は、クロスカット法で測定した。試験材を切り出して樹脂に埋め込み研磨して、ホウフッ酸水溶液中でアルマイト処理を行って試験材断面の表面に陽極酸化皮膜を施した。偏光顕微鏡を用いて試験材断面の結晶粒写真(200倍)を撮影し、縦横方向に3本ずつ線を引いて、その線とクロスする結晶粒界の数(n)をカウントし、線の全長(L)を(n−1)で割ることにより求めた粒径の平均値(D)を試験材の平均再結晶粒径とした。また、金属間化合物の円相当径の最大径は、画像解析装置(商品名:ルーゼックス)を用いて測定した。
D=L/(n−1)
【0038】
試験材の表面粗度は、表面粗さ計を用いて、JISB0601に準じて測定し、測定方向は圧延方向に対して垂直方向とし、測定領域を4mm、カットオフを0.8mmとしたときの平均粗さRaとした。なお、ロール表面粗さは、試験材の表面粗度と同様、表面粗さ計を用いて、JISB0601に準じて測定し、測定方向はロール横方向とし、測定領域を4mm、カットオフを0.8mmとしたときの平均粗さRaとした。
【0039】
張出し高さは、以下の金型を用い、破断時の限界成形高さを示している。
(ポンチ:100mmφ、肩R:50mm、ダイ:105mmφ、肩R:4mm)
【0040】
肌荒れ性は、引張試験後の試験片破断箇所付近の表面状態を目視で観察することにより、3段階評価(○:優れる、△:やや劣る、×:劣る)した。
【0041】
以上により測定した実施例、比較例の結果を表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
実施例1、2は、適度なMg含有量であり、Mn含有量も0.1%未満に抑えられているため、耐力が145MPa以下であって形状凍結性に優れ、微細な再結晶粒を有しており肌荒れ性に優れ、しかも微細な金属間化合物を有し、表面が適度な表面粗さ0.35、0.41μmを示すことから張出し高さが29mm以上であり成形性に優れている。
【0044】
これに対し、比較例1は、Mg含有量3.75%と高いため、0.2%耐力が高くなりすぎて形状凍結性が低下している。比較例2は、Mg含有量2.5%と低いため、引張強さ、伸びがいずれも不足している。
【0045】
比較例3は、適度なMg含有量であるが、Mn含有量0.2%と高いため、0.2%耐力が高くなりすぎて形状凍結性が低下している。
【0046】
比較例4は、Mg含有量4.0%、Mn含有量0.3%と共に高いため、0.2%耐力が高くなりすぎて形状凍結性が低下している。
【0047】
比較例5は、DC鋳造法によるスラブ鋳造時の凝固冷却速度が低いため、金属間化合物の最大径が大きくなりすぎ、再結晶粒径も大きくなりすぎて、引張り強さが低下し、肌荒れ性が低下している。
【0048】
比較例6は、双ロール法による鋳造圧延板の凝固冷却速度が高いため、最終焼鈍時に再結晶粒の核となる金属間化合物の数、再結晶粒の粒界の動きを妨げるいわゆるピン止め効果を有する金属間化合物の数が不足するため、再結晶粒径が大きくなりすぎて、引張り強度、伸びが不足しており、肌荒れ性が低下している。
【0049】
比較例7は、冷間圧延ロールの表面粗さがRa1.0μmであり、試験材の表面粗さがRa0.8μmであるため、張出し高さ28mmであり成形性が低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:3.0〜3.5mass%、Fe:0.05〜0.3mass%、Si:0.05〜0.15mass%を含み、さらにMn:0.06mass%未満に規制し、残部実質的に不可避的不純物とAlからなり、板厚1/4厚さの領域における金属間化合物の円相当径の最大径が5μm以下、平均再結晶粒径が15μm以下であり、かつ表面粗度がRa:0.3〜0.6μmで、耐力145MPa以下、引張強さ225MPa以上、張出し成形高さ29mm以上であることを特徴とするプレス成形性、肌荒れ性及び形状凍結性に優れた自動車用アルミニウム合金板。
【請求項2】
さらにTi:0.001〜0.1%を含むことを特徴とする請求項1に記載のプレス成形性、肌荒れ性及び形状凍結性に優れた自動車用アルミニウム合金板。
【請求項3】
Mg:3.0〜3.5mass%、Fe:0.05〜0.3mass%、Si:0.05〜0.15mass%を含み、さらにMn:0.06mass%未満に規制し、残部実質的に不可避的不純物とAlからなる溶湯を、双ベルト式鋳造機により1/4厚みにおける冷却速度が20〜200℃/secとなるよう厚さ5〜15mmの薄スラブを鋳造してコイルに巻き取った後、ロール表面粗度Ra:0.3〜0.7μmのロールにより冷延率60〜98%の冷間圧延を施し、CALにより保持温度400〜520℃で連続的に最終焼鈍を施した後、レベラーで歪矯正することを特徴とするプレス成形性、肌荒れ性及び形状凍結性に優れた自動車用アルミニウム合金板の製造方法。
【請求項4】
上記最終焼鈍をバッチ焼鈍炉により保持温度300〜400℃で施すことを特徴とする請求項3に記載のプレス成形性、肌荒れ性及び形状凍結性に優れた自動車用アルミニウム合金板の製造方法。


【公開番号】特開2012−107339(P2012−107339A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−287228(P2011−287228)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【分割の表示】特願2006−350698(P2006−350698)の分割
【原出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】