説明

自動車用クリヤー塗料組成物及びそれを用いた複層塗膜の形成方法

【課題】 優れた耐傷性が長期間に亘って高水準に維持され、同時に水シミ等に対する耐汚染性も優れている塗膜を形成することが可能な自動車用クリヤー塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 水酸基含有重合体と、多官能イソシアネート化合物とを含有するクリヤー塗料組成物であって、前記クリヤー塗料組成物は、下記一般式(1):
−(CH− (1)
(式中、nは4以上の整数を表す。)
で表されるソフトセグメント部を、前記水酸基含有重合体及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対して25〜50質量%有しており、得られる塗膜の動的ガラス転移点が60〜80℃でかつ架橋密度が0.8×10−3mol/cc以上となるように調製されていることを特徴とする自動車用クリヤー塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用クリヤー塗料組成物及びそれを用いた複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の上塗り塗料に用いられるバインダーとしては、水酸基含有重合体とメラミン重合体硬化剤とを組み合わせて用いることが一般的であった。しかしながら、このようなメラミン重合体を硬化剤として用いることにより得られる硬化塗膜は、一般に耐酸性に劣り、近年問題となっている酸性雨により特に劣化され易く、外観上の不具合を生じるという問題を有していた。このようにメラミン重合体を硬化剤として用いることにより得られる塗膜が耐酸性に劣るのはメラミン重合体中のトリアジン環に起因するので、メラミン重合体を硬化剤として用いる限り耐酸性に劣る欠点は解消されなかった。
【0003】
このような欠点を解決するために、特開平2−45577号公報(特許公報1)及び特開平3−287650号公報(特許公報2)には、メラミン重合体を使用しない塗料組成物が記載されている。このような塗料組成物は、カルボン酸基とエポキシ基とを反応させることにより生じるエステル結合を架橋点とするので、耐酸性は良好であり、自動車用上塗り塗膜として充分な耐候性も有している。
【0004】
さらに、特開2003−253191号公報(特許公報3)には、ハーフエステル酸基含有アクリル共重合体と、エポキシ基含有アクリル共重合体と、カルボキシル基含有ポリエステル重合体及びカルボキシル基含有アクリル重合体からなる群より選択される少なくとも1つのカルボキシル基含有重合体とからなり、式:−(CH−(式中、nは4以上の整数を表す)で表されるソフトセグメント部を所定量有しているクリヤー塗料組成物が記載されている。このようなクリヤー塗料組成物は、耐傷性、耐酸性及び耐溶剤性の全ての性質においてバランスの良い物性を有する塗膜を形成することができるものである。
【特許文献1】特開平2−45577号公報
【特許文献2】特開平3−287650号公報
【特許文献3】特開2003−253191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術をベースとし、さらに優れた耐傷性が長期間に亘って高水準に維持され、同時に水シミ等に対する耐汚染性も優れている塗膜を形成することが可能な自動車用クリヤー塗料組成物、並びにそれを用いた複層塗膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、水酸基含有重合体と多官能イソシアネート化合物とを含有するクリヤー塗料組成物において、ソフトセグメント部を所定量とすると共に、得られる塗膜の動的ガラス転移点及び架橋密度を所定の範囲とすることにより上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の自動車用クリヤー塗料組成物は、水酸基含有重合体と、多官能イソシアネート化合物とを含有するクリヤー塗料組成物であって、前記クリヤー塗料組成物は、下記一般式(1):
−(CH− (1)
(式中、nは4以上の整数を表す。)
で表されるソフトセグメント部を、前記水酸基含有重合体及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対して25〜50質量%有しており、得られる塗膜の動的ガラス転移点が60〜80℃でかつ架橋密度が0.8×10−3mol/cc以上となるように調製されていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の自動車用クリヤー塗料組成物においては、前記水酸基含有重合体が、水酸基含有アクリル共重合体及び水酸基含有ポリエステル共重合体からなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0009】
また、本発明の複層塗膜の形成方法は、被塗装物に対してトップコートを有する複層塗膜を形成する方法であって、前記本発明の自動車用クリヤー塗料組成物を前記トップコートとして塗装することを特徴とする方法である。
【0010】
本発明の複層塗膜の形成方法においては、前記被塗装物にベース塗料組成物を塗布してベース未硬化塗膜を得た後、前記ベース未硬化塗膜に前記自動車用クリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー未硬化塗膜を得、前記ベース未硬化塗膜及びクリヤー未硬化塗膜を同時に加熱して硬化させることが好ましい。
【0011】
なお、本発明にかかる動的ガラス転移点(Tm)は以下の方法により求めたものである。すなわち、強制伸縮振動型粘弾性測定装置(オリエンテック株式会社製、バイブロン)を用いて、昇温時に発生する応力と振動ひずみの間に生じる位相差から各温度のtanδを求め、このtanδが極大値を与える温度をTmとした。なお、測定周波数は11Hzとした。
【0012】
また、本発明にかかる架橋密度は以下の方法により求めたものである。すなわち、Tmを求める場合と同条件にて、昇温時の動的弾性率(E')を求め、このE'が極小となる温度とその極小値から次式により算出した。
【0013】
E'=3nRT (n:架橋密度、R:気体定数、T:絶対温度)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れた耐傷性が長期間に亘って高水準に維持され、同時に水シミ等に対する耐汚染性も優れている塗膜を形成することが可能な自動車用クリヤー塗料組成物、並びにそれを用いた複層塗膜の形成方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
先ず、本発明のクリヤー塗料組成物について説明する。すなわち、本発明の自動車用クリヤー塗料組成物は、塗膜形成性樹脂としての水酸基含有重合体と、硬化剤としての多官能イソシアネート化合物とを含有するクリヤー塗料組成物であって、前記クリヤー塗料組成物は、下記一般式(1):
−(CH− (1)
(式中、nは4以上の整数を表す。)
で表されるソフトセグメント部を、前記水酸基含有重合体及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対して25〜50質量%有しており、得られる塗膜のTmが60〜80℃でかつ架橋密度が0.8×10−3mol/cc以上となるように調製されていることを特徴とするものである。
【0017】
上記水酸基含有重合体と多官能イソシアネート化合物とを含有する本発明のクリヤー塗料組成物における硬化システムは、以下のようなものである。すなわち、加熱により多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基と水酸基含有重合体中の水酸基とが反応することにより架橋点が形成され、水酸基含有重合体が多官能イソシアネート化合物を介して架橋されることにより硬化が進行して高い架橋密度が達成されるものである。そして、本発明のクリヤー塗料組成物を用いて塗膜形成後に加熱硬化して成形した塗膜において、上記ソフトセグメント部は主鎖中又は架橋結合鎖中に存在することとなる。このように主鎖中又は架橋鎖中にソフトセグメント部が存在していることによって、塗膜に優れた耐擦り傷性が有効に付与されることとなる。
【0018】
上記一般式(1)で表されるソフトセグメント部の量は、水酸基含有重合体及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量中に含まれるソフトセグメント部の質量の割合を表す数値である。上記一般式(1)で表されるソフトセグメント部は、一般式(1)中のnが、4以上であることが必要である。nが3以下の場合は、ソフトセグメントとしての性質を充分に有さないためである。上記nは4以上の整数を表し、4又は5であることがより好ましい。n=4又は5であるものは、上記一般式(1)で表されるソフトセグメント部を有する単量体及び重合体の製造が容易であり、取扱性にも優れる傾向にある。また、上記nの値が相違する2種類以上のソフトセグメント部を併用しても良い。
【0019】
本発明のクリヤー塗料組成物においては、上記割合でソフトセグメント部を有することによって、塗膜の耐擦り傷性が向上するという効果が奏される。上記ソフトセグメント部の割合が25質量%未満の場合は、耐擦り傷性の効果が充分に得られない。他方、上記ソフトセグメント部の割合が50質量%を超える場合は、充分な耐酸性及び耐溶剤性が得られないという問題がある。また、上記ソフトセグメント部の割合の下限は30質量%であることが好ましく、他方、上記ソフトセグメント部の割合の上限は45質量%であることが好ましい。
【0020】
上記ソフトセグメント部は、水酸基含有重合体及び多官能イソシアネート化合物の少なくとも一方に存在していればよく、塗膜焼付け硬化後の遊離イソシアネート基と水との反応により、塗膜の弾性が低下し耐傷性が低下する傾向があるという観点から少なくとも水酸基含有重合体中に存在していることが好ましい。上記ソフトセグメント部が水酸基含有重合体中に存在する場合、その重合反応時に上記一般式(1)で表されるソフトセグメント部を有する単量体を配合することによって水酸基含有重合体中に導入することができる。
【0021】
上記ソフトセグメント部の水酸基含有重合体中の含有量は、重合するために使用した単量体組成物の配合量及び単量体中に含まれるソフトセグメント部の量に基づいて理論的に計算することによって算出することができる。
【0022】
本発明のクリヤー塗料組成物において塗膜形成性樹脂として使用する水酸基含有重合体は、水酸基を含有する重合体であればよく特に限定されず、例えば、水酸基含有アクリル共重合体、水酸基含有ポリエステル共重合体、水酸基含有アルキド樹脂、水酸基含有シリコン樹脂等が挙げられる。このような水酸基含有重合体は、水酸基を有していればよく、更にカルボキシル基、エポキシ基等を有していてもよい。また、本発明に係る水酸基含有重合体は、水酸基価が50〜300mgKOH/gであり、酸価が5〜32mgKOH/gであり、数平均分子量(Mn)が1000〜10000であることが好ましい。水酸基価及び酸価が前記下限未満であると塗膜の硬化性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると塗膜の耐水性が低下する傾向にある。また、Mnが前記下限未満であると塗膜の強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると塗料の粘度が高くなり塗膜の外観が低下する傾向にある。なお、本明細書における水酸基価及び酸価は、固形分換算の値である。また、本発明に係る水酸基含有重合体における前記ソフトセグメント部の含有割合は、その固形分全量に対して7〜50質量%であることが好ましい。このような水酸基含有重合体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明に好適な水酸基含有アクリル共重合体としては、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーとその他のエチレン性不飽和モノマーとを共重合させて得られるものが挙げられる。本発明にかかる水酸基含有アクリル共重合体は、数平均分子量(Mn)が1000〜10000であることが好ましく、1100〜8000であることが更に好ましい。数平均分子量が前記下限未満では塗装作業性及びクリヤー塗膜との混層性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると塗装時の不揮発分が低くなり、作業性が悪くなる傾向にある。また、水酸基含有アクリル共重合体の数平均分子量が1200〜7000の範囲であることが、塗膜外観の観点から特に好ましい。また、本発明にかかる水酸基含有アクリル共重合体の水酸基価は、50〜280mgKOH/gであることが好ましく、70〜260mgKOH/gであることが更に好ましい。水酸基価が前記上限を超えると塗膜にした場合に耐水性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では塗膜の硬化性が低下する傾向にある。更に、本発明にかかる水酸基含有アクリル共重合体の酸価は、7〜32mgKOH/gであることが好ましく、10〜27mgKOH/gであることが更に好ましい。酸価が前記上限を超えると塗膜にした場合に耐水性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では塗膜の硬化性が低下する傾向にある。また、本発明に係る水酸基含有アクリル共重合体における前記ソフトセグメント部の含有割合は、その固形分全量に対して7〜50質量%であることが好ましい。
【0024】
本発明にかかる水酸基含有アクリル共重合体は、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーとその他のエチレン性不飽和モノマーとを共重合させることにより得ることができるが、この共重合における配合割合は、上記アクリル共重合体を製造するのに用いるエチレン性不飽和モノマーの総量を基準にして、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーが5〜60質量%(より好ましくは8〜50質量%)、その他のエチレン性不飽和モノマーが95〜40質量%(より好ましくは92〜50質量%)であることが好ましい。上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマーの含有量が前記下限を下回ると製造安定性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると塗膜にした場合の耐水性が低下する傾向にある。
【0025】
上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコール、並びにこれらとラクトン類(β−プロピオラクロン、ジメチルプロピオラクトン、ブチルラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、クロトラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン等)との付加物等が挙げられる。また、得られる塗膜の耐擦り傷性をより向上させるという観点から、上記水酸基含有エチレン性不飽和モノマーの少なくとも一部として前記ソフトセグメント部を有するものを用いることが好ましく、中でも4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとε−カプロラクトンとの付加物を用いることが特に好ましい。なお、このような水酸基含有エチレン性不飽和モノマーは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0026】
上記その他のエチレン性不飽和モノマーとしては、特に限定されるものではないが、先ず、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーを挙げることができる。その例として、(メタ)アクリル酸誘導体{例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アクリル酸二量体、アクリル酸にε−カプロラクトンを付加させたα−ハイドロ−ω−((1−オキソ−2−プロペニル)オキシ)ポリ(オキシ(1−オキソ−1,6−ヘキサンジイル))等};並びに不飽和二塩基酸、そのハーフエステル、ハーフアミド及びハーフチオエステル{例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、そのハーフエステル、ハーフアミド及びハーフチオエステル等}が挙げられる。更に、カルボキシル基を有するもの以外のエチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリレートエステルモノマー{例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリルメタアクリレート、フェニルアクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート等}、重合性芳香族化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルケトン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン、ビニルナフタレン等)、重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、α−オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン等)、ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等)、ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレン等)、必要によりイソシアネート基含有モノマー等を挙げることができる。なお、このようなその他のエチレン性不飽和モノマーは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0027】
上記の水酸基含有エチレン性不飽和モノマーとその他のエチレン性不飽和モノマーとを共重合させることにより本発明に好適な水酸基含有アクリル共重合体を得ることができるが、重合方法は特に制限されず、溶液ラジカル重合のような公知文献等に記載されている通常の方法を用いることができる。例えば、重合温度60〜160℃で2〜10時間かけて適当なラジカル重合開始剤とモノマー混合溶液とを適当な溶媒中へ滴下しながら撹拌する方法が挙げられる。ここで用いうるラジカル重合開始剤は、通常重合に際して使用するものであれば特に限定されず、アゾ系化合物(例えば、ジメチル−2,2´−アゾビスイソブチレート)、過酸化物(例えば、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)等が挙げられる。このような開始剤の量は、不飽和モノマーの総量に対して一般に0.1〜10質量%であり、好ましくは0.5〜8質量%である。また、ここで用いうる溶媒は、反応に悪影響を与えないものであれば特に限定されず、例えば、アルコール、ケトン、炭化水素系溶媒(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、キシレン)等が挙げられる。更に、分子量を調節するために、ラウリルメルカプタンのようなメルカプタンや、α−メチルスチレンダイマーのような連鎖移動剤を必要に応じて用いることができる。
【0028】
本発明に好適な水酸基含有ポリエステル共重合体としては、多価カルボン酸及び/又は酸無水物と多価アルコールとを重縮合させて得られるものが挙げられ、また低分子多価アルコールにラクトン化合物を付加することにより得られる重合体を使用することもできる。本発明にかかる水酸基含有ポリエステル共重合体は、数平均分子量(Mn)が1000〜4500であることが好ましい。数平均分子量が前記下限未満では十分な硬化が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると平滑性が不十分となり良好な外観が得られなくなると同時に塗着時の粘度が高くなり過ぎる傾向にある。また、本発明にかかる水酸基含有ポリエステル共重合体の水酸基価は、70〜300mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が前記上限を超えると弾性が低下して耐チッピング性が不良となる傾向にあり、他方、前記下限未満では硬化性が不良となる傾向にある。更に、本発明にかかる水酸基含有ポリエステル共重合体の酸価は、5〜20mgKOH/gであることが好ましい。酸価が前記上限を超えると耐水性が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では塗膜の硬化性が低下する傾向にある。また、本発明に係る水酸基含有ポリエステル共重合体における前記ソフトセグメント部の含有割合は、その固形分全量に対して7〜50質量%であることが好ましい。
【0029】
本発明にかかる水酸基含有ポリエステル共重合体は、多価カルボン酸及び/又は酸無水物と多価アルコールとを重縮合させることにより得ることができるが、この重縮合における配合割合は、水酸基とカルボン酸基及び/又は酸無水物基のモル比が1.105〜2であることが好ましい。水酸基が前記下限未満では数平均分子量(Mn)が大きくなりすぎるため架橋密度が低下し、充分な硬化性を得られず、他方、前記上限を超えると耐水性が低下する傾向にある。
【0030】
上記多価カルボン酸及び/又は酸無水物としては、特に限定されず、例えば、フタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、テレフタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、無水コハク酸、ドデセニルコハク酸、ドデセニル無水コハク酸等が挙げられる。なお、このような多価カルボン酸及び/又は酸無水物は単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0031】
また、上記多価アルコールとしては、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピル−2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピオネート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカプロラクトンポリオール、グリセリン、ソルビトール、アンニトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。なお、このような多価アルコールは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。
【0032】
また、本発明に好適な水酸基含有ポリエステル共重合体を得る際には、上記多価カルボン酸及び/又は酸無水物と多価アルコール成分以外の他の反応成分として、モノカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類等を含んでいてもよい。このような他の反応成分としては、前記ソフトセグメント量を増すという観点から、ラクトン類も用いることができる。このようなラクトン類は、多価カルボン酸及び多価アルコールのポリエステル鎖へ開環付加してグラフト鎖を形成し得るものであり、例えば、β−プロピオラクロン、ジメチルプロピオラクトン、ブチルラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、クロトラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン等が挙げられ、中でもε−カプロラクトンが最も好ましい。
【0033】
更に、得られる塗膜の耐擦り傷性をより向上させるという観点から、上記水酸基含有ポリエステル共重合体を得る際に使用する成分の少なくとも一部として前記ソフトセグメント部を有するものを用いることが好ましく、中でもε−カプロラクトン、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールを用いることが特に好ましい。
【0034】
また、低分子多価アルコールにラクトン化合物を付加することにより得られる重合体を得る際に用いられる多価アルコールとしては特に限定されず、例えば1分子中に少なくとも3個の水酸基を有するものが好ましく、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,4−ブタントリオール、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グリセリン等が挙げられる。上記ラクトン化合物は上記低分子多価アルコール化合物に対して開環付加反応を生じることができるラクトン化合物であれば特に限定されない。上記開環付加反応を起こし易いことから、上記ラクトン化合物は炭素数4〜7個であることが好ましく、例えばε―カプロラクトン、γ―カプロラクトン、γ―バレロラクトン、δ―バレロラクトン、γ―ブチロラクトン等を挙げることができる。これは単独で用いても良く、2種類以上を併用しても良い。これらのなかでもε―カプロラクトン及びδ―バレロラクトンがより好ましく、反応性などの点からε―カプロラクトンが更に好ましい。
【0035】
本発明のクリヤー塗料組成物において硬化剤として使用する多官能イソシアネート化合物としては、脂環式、芳香族基含有脂肪族又は芳香族の多官能イソシアネート化合物を挙げることができ、好適な例として、ジイソシアネート又はそのイソシアヌレート(ジイソシアネートの三量体)を挙げることができる。
【0036】
上記ジイソシアネートとしては、一般に5〜24、好ましくは6〜18個の炭素原子を含んでいるものを使用することができる。このようなジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ジイソシアナトへキサン(HDI)、2,2,4−トリメチルへキサンジイソシアネート、ウンデカンジイソシアネート−(1,11)、リジンエステルジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−及び1,4−ジイソシアネート、1−イソシアナト−3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン(IPDI)、4,4’−ジイソシアナトジシクロジシクロメタン、ω,ω’−ジプロピルエーテルジイソシアネート、チオジプロピルジイソシアネート、シクロヘキシル−1,4−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,5−ジメチル−2,4−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,5−トリメチル−2,4−ビス(ω−イソシアナトエチル)−ベンゼン、1,3,5−トリメチル−2,4−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、1,3,5−トリエチル‐2,4−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、ジシクロヘキシルジメチルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート等が挙げられる。また、2,4−ジイソシアナトトルエン及び/又は2,6−ジイソシアナトトルエン、4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、1,4−ジイソシアナトイソプロピルベンゼン、シクロヘキシル−1,4−ジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートのような芳香族ジイソシアネートも用いることができる。更に、上記イソシアヌレートとしては、上述したジイソシアネートの三量体を挙げることができる。なお、このような多官能イソシアネート化合物は単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。また、上記のジイソシアネートとイソシアヌレート(三量体)との混合物として使用することもできる。
【0037】
なお、前記ソフトセグメント部は上述の多官能イソシアネート化合物中に存在していてもよく、本発明に係る多官能イソシアネート化合物における前記ソフトセグメント部の含有割合は、その固形分全量に対して60質量%以下であることが好ましい。
【0038】
本発明の自動車用クリヤー塗料組成物は、塗膜形成性樹脂としての水酸基含有重合体と、硬化剤としての多官能イソシアネート化合物とを含有するものであり、水酸基含有重合体と多官能イソシアネート化合物との配合割合は水酸基含有重合体中の水酸基の数1に対して多官能イソシアネート化合物中のイソシアネート基が0.5〜1.5の範囲内であることが好ましい。上記多官能イソシアネート化合物の配合割合が前記下限未満では十分な硬化が得られなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると未反応のイソシアネート基が空気中の水分と反応して塗膜のTmが上昇し耐擦り傷性が悪くなる傾向にある。
【0039】
上記クリヤー塗料組成物は、有機スズ化合物硬化触媒を有するものであっても良い。上記有機スズ化合物触媒としては特に限定されず、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクテート等が挙げられる。硬化触媒の配合量は、クリヤー塗料組成物中の重合体固形分全量100重量部に対し、下限0.005重量部、上限0.05重量部であることが好ましい。
【0040】
上記クリヤー塗料組成物中には、上記重合体の他、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、架橋樹脂粒子、表面調整剤等を配合しても良い。上記架橋樹脂粒子を用いる場合は、本発明のクリヤー塗料組成物の樹脂固形分に対して、下限0.01質量%、上限10質量%の割合で配合することが好ましい。上記下限は、0.1質量%であることがより好ましく、上記上限は、5質量%であることがより好ましい。上記架橋樹脂粒子の添加量が10質量%を超えると得られる塗膜の外観が悪化する傾向にあり、他方、0.01質量%未満であるとレオロジーコントロール効果が得られない傾向にある。
【0041】
以上説明した本発明のクリヤー塗料組成物は、得られる塗膜の動的ガラス転移点(Tm)が60〜80℃(特に好ましくは65〜75℃)でかつ架橋密度が0.8×10−3mol/cc以上(特に好ましくは1.0×10−3〜2.5×10−3mol/cc)となるように調製されている。得られる塗膜の動的ガラス転移点が上記下限未満の場合は、水シミ等に対する耐汚染性が十分に向上せず、耐傷性の維持性も低下してしまい、他方、上記上限を超える場合は、初期の耐傷性が低下してしまう。また、得られる塗膜の架橋密度が上記下限未満の場合も、水シミ等に対する耐汚染性が十分に向上せず、耐傷性の維持性も低下してしまう。
【0042】
このような得られる塗膜の動的ガラス転移点及び架橋密度を満足し、耐傷性を達成するための条件としては、前記ソフトセグメント部の量が前記水酸基含有重合体及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対して25〜50質量%(好ましくは30〜45質量%)であることが重要である。
【0043】
本発明のクリヤー塗料組成物は、スプレー塗装、刷毛塗り塗装、浸漬塗装、ロール塗装、流し塗装等により塗装することができる。また、本発明のクリヤー塗料組成物は、いかなる基板、例えば、木、金属、ガラス、布、プラスチック、発泡体等、特に、プラスチック及び金属表面(例えば、スチール、アルミニウム及びこれらの合金)に有利に用いることができ、自動車用のクリヤー塗料として好適に使用することができる。
【0044】
次に、本発明の複層塗膜の形成方法について説明する。すなわち、本発明の複層塗膜の形成方法は、被塗装物に対してトップコートを有する複層塗膜を形成する方法であって、前記本発明の自動車用クリヤー塗料組成物を前記トップコートとして塗装することを特徴とする方法である。
【0045】
上記被塗装物としては、種々の基材、例えば金属成型品、プラスチック成型品、発泡体等に用いることができるが、自動車用の複層塗膜を形成させる被塗装物としては、鉄、アルミニウム及びこれらの合金等の金属成型品やプラスチック成型品等を挙げることができる。カチオン電着塗装可能な金属成型品に対して適用することが好ましい。上記被塗装物は、表面が化成処理されていることが好ましい。更に、被塗装物は、電着塗膜が形成されていてもよい。上記電着塗料としては、カチオン型及びアニオン型を使用できるが、防食性の観点から、カチオン型電着塗料であることが好ましい。
【0046】
また、更に必要に応じて、中塗り塗膜が形成されていてもよい。中塗り塗膜の形成には中塗り塗料が用いられる。上記中塗り塗料としては特に限定されず、当業者によってよく知られている水性又は有機溶剤型のもの等を挙げることができる。
【0047】
本発明の複層塗膜の形成方法においては、前記被塗装物にベース塗料組成物を塗布してベース未硬化塗膜を得た後、前記ベース未硬化塗膜に本発明の自動車用クリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー未硬化塗膜を得、前記ベース未硬化塗膜及びクリヤー未硬化塗膜を同時に加熱して硬化させることが好ましい。また、ベース、クリヤー硬化塗膜上に第2クリヤーとして本発明の自動車用クリヤーを塗布し、加熱して硬化させることも可能である。
【0048】
上記ベース塗料としては特に限定されず、例えば、塗膜形成性樹脂、硬化剤、有機系、無機系又は光輝材等の着色顔料及び体質顔料等を含んでいてもよい。上記ベース塗料の形態としては特に限定されず、水性又は有機溶剤型のもの等を挙げることができる。
【0049】
上記被塗装物に対して、上記ベース塗料を塗装する方法としては特に限定されず、スプレー塗装、回転霧化式塗装等を挙げることができ、外観向上の観点から、これらの方法を用いた多ステージ塗装、又は、これらを組み合わせた塗装方法であることが好ましい。
【0050】
本発明の複層塗膜の形成方法における上記ベース塗料による塗装膜厚は、乾燥膜厚で下限が10μm、上限が20μmの範囲内であることが好ましい。また、本発明の複層塗膜の形成方法において、上記ベース塗料が水性のものである場合、良好な仕上がり塗膜を得るために、上記クリヤー塗料組成物を塗装する前に、ベース未硬化塗膜を40〜100℃で2〜10分間加熱しておくことが望ましい。
【0051】
本発明の複層塗膜の形成方法において本発明のクリヤー塗料組成物を塗装する方法としては、具体的には、マイクロマイクロベル、マイクロベルと呼ばれる回転霧化式の静電塗装機による塗装方法を挙げることができる。
【0052】
本発明の複層塗膜の形成方法における上記クリヤー塗料の塗装膜厚は、乾燥膜厚で下限が30μm、上限が45μmの範囲内であることが好ましい。また、上記の方法によって形成されたベースの未硬化塗膜及びクリヤーの未硬化塗膜は、同時に加熱されて硬化されることが好ましく、それによって複層塗膜が形成される。上記加熱温度は、下限が100℃、上限が180℃の範囲内で行うことが好ましい。また、下限が120℃、上限が160℃であることがより好ましい。加熱硬化時間は、硬化温度等によって変化するが、上記加熱硬化温度で行う場合は、10〜30分であることが適当である。
【0053】
このようにして得られた複層塗膜の膜厚は、下限が40μm、上限が65μmの範囲内であることが好ましい。上記本発明の複層塗膜の形成方法によって得られた複層塗膜は、優れた耐傷性が長期間に亘って高水準に維持されるものであり、同時に水シミ等に対する耐汚染性にも優れている。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、本実施例中でおいて単に「%」と記載した場合は、「質量%」を指すものとする。
【0055】
(合成例1)水酸基含有アクリル共重合体aの合成
撹拌羽根、窒素導入管、冷却コンデンサー及び滴下ロートを備えた1Lのガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを224.0g加え、窒素雰囲気下130℃に加温した。その容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50.0g、tert‐ブチルパーオキシ−2‐エチルヘキサノエート50.0g、スチレン50.0g、2−エチルヘキシルメタクリレート50.0g、2‐ヒドロキシエチルアクリレート50.0g、4‐ヒドロキシブチルアクリレート200.0g、プラクセルFM‐2D(2‐ヒドロキシエチルメタクリレートとε‐カプロラクトンの1:2付加物;ダイセル工業社製)150.0gを3時間かけて等速滴下した。その後130℃で0.5時間保持し、25.0gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解したtert‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート5.0gを30分で等速滴下した。更に、130℃で1.0時間加温を続けることによって、目的の水酸基含有アクリル共重合体aを得た。
【0056】
合成した水酸基含有アクリル共重合体aについて、GPCを用いて得られた標準ポリスチレン換算の分子量の値はMn=5100、Mw=12000、Mw/Mn=2.35であった。また、水酸基価は251mgKOH/g、計算Tgは−23℃、樹脂固形分は61.5%であった。更に、水酸基含有アクリル共重合体aにおける前記ソフトセグメント部の含有率は、その固形分全量に対して27.29%であった。上記の水酸基含有アクリル共重合体aの組成及び諸物性を表1に示す。
【0057】
(合成例2)水酸基含有アクリル共重合体bの合成
撹拌羽根、窒素導入管、冷却コンデンサー及び滴下ロートを備えた1Lのガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを224.0g加え、窒素雰囲気下130℃に加温した。その容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50.0g、tert‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート50.0g、スチレン10.0g、2−エチルヘキシルアクリレート90.0g、2‐ヒドロキシエチルアクリレート50.0g、4‐ヒドロキシブチルアクリレート200.0g、プラクセルFM‐2D(2‐ヒドロキシエチルメタクリレートとε‐カプロラクトンの1:2付加物;ダイセル工業社製)150.0gを3時間かけて等速滴下した。その後130℃で0.5時間保持し、25.0gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解したtert‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート5.0gを30分で等速滴下した。更に、130℃で1.0時間加温を続けることによって、目的の水酸基含有アクリル共重合体bを得た。
【0058】
合成した水酸基含有アクリル共重合体bについて、GPCを用いて得られた標準ポリスチレン換算の分子量の値はMn=4300、Mw=9900、Mw/Mn=2.30であった。また、水酸基価は251mgKOH/g、計算Tgは−40℃、樹脂固形分は62.2%であった。更に、水酸基含有アクリル共重合体bにおける前記ソフトセグメント部の含有率は、その固形分全量に対して27.29%であった。上記の水酸基含有アクリル共重合体bの組成及び諸物性を表1に示す。
【0059】
(合成例3)水酸基含有アクリル共重合体cの合成
撹拌羽根、窒素導入管、冷却コンデンサー及び滴下ロートを備えた1Lのガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを224.0g加え、窒素雰囲気下130℃に加温した。その容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50.0g、tert‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート50.0g、スチレン10.0g、2−エチルヘキシルアクリレート47.5g、2‐ヒドロキシエチルアクリレート50.0g、4‐ヒドロキシブチルアクリレート217.5g、プラクセルFM‐2D(2‐ヒドロキシエチルメタクリレートとε‐カプロラクトンの1:2付加物;ダイセル工業社製)35.0g、プラクセルFM‐5(2‐ヒドロキシエチルメタクリレートとε‐カプロラクトンの1:5付加物;ダイセル工業社製)140.0gを3時間かけて等速滴下した。その後130℃で0.5時間保持し、25.0gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解したtert‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート5.0gを30分で等速滴下した。更に、130℃で1.0時間加温を続けることによって、目的の水酸基含有アクリル共重合体cを得た。
【0060】
合成した水酸基含有アクリル共重合体cについて、GPCを用いて得られた標準ポリスチレン換算の分子量の値はMn=4700、Mw=11300、Mw/Mn=2.40であった。また、水酸基価は251mgKOH/g、計算Tgは−40℃、樹脂固形分は63.3%であった。更に、水酸基含有アクリル共重合体cにおける前記ソフトセグメント部の含有率は、その固形分全量に対して33.65%であった。上記の水酸基含有アクリル共重合体cの組成及び諸物性を表1に示す。
【0061】
(合成例4)水酸基含有アクリル共重合体dの合成
撹拌羽根、窒素導入管、冷却コンデンサー及び滴下ロートを備えた1Lのガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを112.0g、キシレンを112.0g加え、窒素雰囲気下130℃に加温した。その容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50.0g、tert‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート50.0g、スチレン75.0g、n−ブチルアクリレート175.0g、n−ブチルメタクリレート18.0g、2‐ヒドロキシエチルアクリレート50.0g、4‐ヒドロキシブチルアクリレート50.0g、プラクセルFM‐2D(2‐ヒドロキシエチルメタクリレートとε‐カプロラクトンの1:2付加物;ダイセル工業社製)132.0gを3時間かけて等速滴下した。その後130℃で0.5時間保持し、25.0gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解したtert‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート5.0gを30分で等速滴下した。更に、130℃で1.0時間加温を続けることによって、目的の水酸基含有アクリル共重合体dを得た。
【0062】
合成した水酸基含有アクリル共重合体dについて、GPCを用いて得られた標準ポリスチレン換算の分子量の値はMn=4800、Mw=11800、Mw/Mn=2.46であった。また、水酸基価は129mgKOH/g、計算Tgは−24℃、樹脂固形分は62.5%であった。更に、水酸基含有アクリル共重合体dにおける前記ソフトセグメント部の含有率は、その固形分全量に対して14.21%であった。上記の水酸基含有アクリル共重合体dの組成及び諸物性を表1に示す。
【0063】
(合成例5)水酸基含有アクリル共重合体eの合成
撹拌羽根、窒素導入管、冷却コンデンサー及び滴下ロートを備えた1Lのガラス容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを200.0g、キシレンを24.0g加え、窒素雰囲気下130℃に加温した。その容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50.0g、tert‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート50.0g、スチレン100.0g、メチルメタクリレート95.0g、2‐ヒドロキシエチルアクリレート80.0g、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート225.0gを3時間かけて等速滴下した。その後130℃で0.5時間保持し、25.0gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解したtert‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート5.0gを30分で等速滴下した。更に、130℃で1.0時間加温を続けることによって、目的の水酸基含有アクリル共重合体eを得た。
【0064】
合成した水酸基含有アクリル共重合体eについて、GPCを用いて得られた標準ポリスチレン換算の分子量の値はMn=5200、Mw=12600、Mw/Mn=2.42であった。また、水酸基価は271mgKOH/g、計算Tgは56.9℃、樹脂固形分は63.0%であった。更に、水酸基含有アクリル共重合体eにおける前記ソフトセグメント部の含有率は、その固形分全量に対して0%であった。上記の水酸基含有アクリル共重合体eの組成及び諸物性を表1に示す。
【0065】
(合成例6)水酸基含有ポリエステル共重合体fの合成
撹拌羽根、窒素導入管、冷却コンデンサーを備えた2Lのガラス容器に、ジペンタエリスリトール254.0g、ε−カプロラクトン974.7g及びジブチル錫オキサイド0.25gを加え170℃に加温した。その後、170℃で3.0時間保持し、3−エトキシプロピオン酸エチル409.3gを加えて目的の水酸基含有ポリエステル共重合体fを得た。
【0066】
合成した水酸基含有ポリエステル共重合体fについて、GPCを用いて得られた標準ポリスチレン換算の分子量の値はMn=2200、Mw=2800、Mw/Mn=1.27であった。また、水酸基価は274mgKOH/g、樹脂固形分は75.0%であった。更に、水酸基含有ポリエステル共重合体fにおける前記ソフトセグメント部の含有率は、その固形分全量に対して48.71%であった。上記の水酸基含有ポリエステル共重合体fの組成及び諸物性を表1に示す。
【0067】
(合成例7)水酸基含有アクリル共重合体gの合成
撹拌羽根、窒素導入管、冷却コンデンサー及び滴下ロートを備えた1Lのガラス容器に、酢酸ブチルを201.5g加え、窒素雰囲気下130℃に加温した。その容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート90.0g、tert‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート90.0g、スチレン100.0g、2−エチルヘキシルアクリレート66.0g、2−エチルヘキシルメタクリレート132.0g、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート197.0g、メタクリル酸5.0gを3時間かけて等速滴下した。その後130℃で0.5時間保持し、25.0gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解したtert‐ブチルパーオキシ2‐エチルヘキサノエート10.0gを30分で等速滴下した。更に、130℃で1.0時間加温を続けることによって、目的の水酸基含有アクリル共重合体gを得た。
【0068】
合成した水酸基含有アクリル共重合体gについて、GPCを用いて得られた標準ポリスチレン換算の分子量の値はMn=2700、Mw=5000、Mw/Mn=1.85であった。また、水酸基価は170mgKOH/g、計算Tgは19.5℃、樹脂固形分は57.0%であった。更に、水酸基含有アクリル共重合体gにおける前記ソフトセグメント部の含有率は、その固形分全量に対して0%であった。上記の水酸基含有アクリル共重合体gの組成及び諸物性を表1に示す。
【0069】
(合成例8)水酸基含有ポリエステルhの合成
撹拌羽根、窒素導入管、冷却コンデンサー、水分離器及び精留塔を備えた2Lのガラス容器に、1.6−ヘキサンジオール566g、トリメチロールプロパン437g、アジピン酸467g、ヘキサヒドロ無水フタル酸308g及びジブチル錫オキサイド0.81gを加え180℃に加温した。反応水が出始めたところで、反応水を留去しながら230℃まで3時間かけてゆっくり昇温し、230℃で保温した。酸価が7以下になってから冷却し、100℃以下で3−エトキシプロピオン酸エチルを596gを加えて目的の水酸基含有ポリエステルhを得た。合成した水酸基含有ポリエステルhについて、GPCを用いて得られた標準ポリスチレン換算の分子量の値はMn=1800、Mw=3960、Mw/Mn=2.2であった。また、水酸基価は289mgKOH/g、樹脂固形分は70.0%であった。上記の水酸基含有ポリエステルhの組成及び諸物性を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
(実施例1〜4及び比較例1〜7)
表2に示した配合に従い、各成分を混合し、ディスパーで攪拌することによって実施例1〜4及び比較例1〜7のクリヤー塗料組成物を得た。上記クリヤー塗料組成物を、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート/3−エトキシプロピオン酸エチル=1/2(質量比)からなるシンナーによってNo.4フォードカップで25秒/20℃となるようにそれぞれ希釈した。なお、ビュレット型イソシアネート硬化剤としては、住化バイエルウレタン(株)社製スミジュールN−75を用い、イソシアヌレート型イソシアネート硬化剤としては、住化バイエルウレタン(株)社製スミジュールN3300を用いた。
【0072】
次に、リン酸亜鉛処理した150×300×0.8mmのダル鋼板に、パワートップU−50(日本ペイント社製カチオン電着塗料)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼付けた塗板に、No.4フォードカップで25秒/20℃となるように、予め希釈されたオルガP−2(日本ペイント社製メラミン硬化型ポリエステル樹脂系グレー中塗り塗料)を、乾燥膜厚が35μmとなるようにエアスプレーで2ステージ塗装し、140℃で30分間焼き付けた後冷却して、中塗り基板を得た。上記中塗り基板上に、スーパーラックM−260ブラック(日本ペイント社製水性ベース塗料)を、室温25℃、湿度85%の条件下で、乾燥膜厚15μmとなるようにスプレー塗装した後、80℃で3分間のプレヒートを行った。プレヒート後、塗装板を室温まで放冷し、第1クリヤーとしてスーパーラックO−170(日本ペイント社製アクリル系メラミン硬化型クリヤ塗料)を乾燥膜厚30μmになるように塗装し、140℃で25分間加熱硬化した。上記第1クリヤー基板を#2000水研ペーパーで研磨した後、希釈した上記各クリヤー塗料組成物を、乾燥膜厚35μmとなるようにスプレー塗装した後、乾燥炉にて140℃で25分間加熱して、基板上に複層塗膜を形成した。
【0073】
実施例1〜4及び比較例1〜7のクリヤー塗料組成物を用いて得た塗膜の動的ガラス転移点及び架橋密度を測定し、得られた結果を表2に示す。また、実施例1〜4及び比較例1〜7のクリヤー塗料組成物における前記ソフトセグメント部の含有率(水酸基含有重合体及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対する含有率(質量%))は、表2に示す通りである。
【0074】
<耐擦り傷性試験>
実施例1〜4及び比較例1〜7のクリヤー塗料組成物を用いて得られた複層塗膜について、以下の評価方法によって耐擦り傷性の評価を行った。
【0075】
すなわち、先ず、ミニ洗車機の台上に、試験用ダスト(7種類混合、粒度27〜31μm)15g及び水100gからなる試験用ダスト組成物を広げた後、水を流さずにミニ洗車機を回転(45rpm)、一往復させて、洗車機ブラシにダストを付着させた。その後、台上に塗板(70mm×150mm)を固定し、塗板上に鋳物砂約5gをふりかけた後、水を流さずにミニ洗車機を回転(96rpm)させて3往復させた。試験後、水洗及び乾燥を行った。塗板の20°光沢を測定し、この20°光沢の試験前の20°光沢に対する割合である光沢保持率(初期20°GR(%))を算出した。
【0076】
また、実施例1〜4及び比較例1〜7のクリヤー塗料組成物を用いて得られた複層塗膜に対してキセノンランプ光(照射強度:180W/m)を800時間照射し、その後の複層塗膜について上記と同様の方法により塗板の20°光沢を測定し、この20°光沢の試験前の20°光沢に対する割合である光沢保持率(キセノン800時間後20°GR(%))を算出した。
【0077】
そして、キセノン促進後の耐擦り傷性の維持率を、初期20°GRに対するキセノン800時間後20°GRの割合として算出し、以下の基準に基づいて評価した。得られた結果を表2に示す。
◎:耐擦り傷性の維持率が95%以上
○:耐擦り傷性の維持率が80%以上95%未満
△:耐擦り傷性の維持率が70%以上80%未満
×:耐擦り傷性の維持率が70%未満。
【0078】
<耐汚染性試験>
実施例1〜4及び比較例1〜7のクリヤー塗料組成物を用いて得られた複層塗膜について、以下の評価方法によって耐汚染性の評価を行った。
【0079】
すなわち、屋外曝露試験JIS K5600−7−6に準拠して屋外曝露試験を以下の条件:
暴露場:鹿児島
暴露架台の角度:水平
の下で行い、また、3ヶ月経過後における塗板をネル布で水洗いした後の水シミの有無を以下の基準に基づいて評価した。得られた結果を表2に示す。
雨シミ無:雨シミが全くないもの
雨シミ有り:雨シミがあるもの。
【0080】
【表2】

【0081】
表2に示した結果から明らかなように、本発明のクリヤー塗料組成物を用いて得られた複層塗膜は、優れた耐傷性が長期間に亘って高水準に維持され、同時に水シミ等に対する耐汚染性も優れていたのに対し、比較例のクリヤー塗料組成物を用いて得られた複層塗膜においては、耐傷性、耐傷性の維持性及び耐汚染性の全てを満足するものは存在しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、本発明によれば、優れた耐傷性が長期間に亘って高水準に維持され、同時に水シミ等に対する耐汚染性も優れている塗膜を形成することが可能な自動車用クリヤー塗料組成物を得ることが可能となる。したがって、本発明のクリヤー塗料組成物を用いた本発明の複層塗膜の形成方法によれば、優れた耐傷性が長期間に亘って高水準に維持され、同時に水シミ等に対する耐汚染性も優れている自動車用塗膜を効率良くかつ確実に形成することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有重合体と、多官能イソシアネート化合物とを含有するクリヤー塗料組成物であって、前記クリヤー塗料組成物は、下記一般式(1):
−(CH− (1)
(式中、nは4以上の整数を表す。)
で表されるソフトセグメント部を、前記水酸基含有重合体及び多官能イソシアネート化合物の固形分全量に対して25〜50質量%有しており、得られる塗膜の動的ガラス転移点が60〜80℃でかつ架橋密度が0.8×10−3mol/cc以上となるように調製されていることを特徴とする自動車用クリヤー塗料組成物。
【請求項2】
前記水酸基含有重合体が、水酸基含有アクリル共重合体及び水酸基含有ポリエステル共重合体からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用クリヤー塗料組成物。
【請求項3】
被塗装物に対してトップコートを有する複層塗膜を形成する方法であって、請求項1又は2に記載の自動車用クリヤー塗料組成物を前記トップコートとして塗装することを特徴とする複層塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記被塗装物にベース塗料組成物を塗布してベース未硬化塗膜を得た後、前記ベース未硬化塗膜に前記自動車用クリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー未硬化塗膜を得、前記ベース未硬化塗膜及びクリヤー未硬化塗膜を同時に加熱して硬化させることを特徴とする請求項3に記載の複層塗膜の形成方法。

【公開番号】特開2006−8936(P2006−8936A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191480(P2004−191480)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】