説明

自動車用フード

【課題】車両の幅方向と平行な方向にビードを形成した場合であっても頭部等が衝突したときの2次衝突時において変形荷重を小さくすることができる自動車用フードを提供する。
【解決手段】自動車用フード1において、インナーパネル3は、インナー周縁部3aと、枠凹部31と、枠凹部31よりパネル中央部となる位置で長手方向が車両の幅方向と平行となるビード33とを備え、ビード33は、パネル接合部33aを有する上面33bと、車両進行方向に対して上面33bよりも前側のパネル平面32にかけて斜面を形成する前側傾斜面33cと、車両進行方向に対して上面33bよりも後側のパネル平面32にかけて斜面を形成する後側傾斜面33dとを有し、前側傾斜面33cと前側のパネル平面32との角度θ1と、後側傾斜面33dと前記後側のパネル平面32との角度θ2と、をいずれも155°以上に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウターパネルとインナーパネルとを接合して用いられる自動車用フードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車事故における歩行者保護が法規化され、歩行者保護性能が自動車用フードのレーティングの指標としても注目されている。一方で、自動車は、エンジシの高出力化により、エンジンが大型化されると共に、多機能化によりエンジンルーム内の部品も増加するため、歩行者保護に必要なフード下のスペースも小さくなってきている。そのため、スポーティなデザインと歩行者保護性能とを両立するためには、小スペースで効率よく衝突エネルギーを吸収できる自動車用フードの開発が重要である。
【0003】
前記のような自動車用フードとして、特許文献1では、アウターパネルとインナーパネルとを接合したときに両パネルの間に空間部を介した断面構造を備えるフード構造を持った自動車用フードが記載されている。
【0004】
特許文献1に記載されたフード構造と類似したフード構造を持った自動車用フードの例を、図10(a)〜(c)に示す。図10(a)〜(c)に示すように、自動車用フード101は、所定の曲率を有するアウターパネル102と、周縁部に枠凹部131を、中央部に車幅方向と平行な配置で複数の凸状のビード133(横ビード)およびビード133の間に形成される凹状部分の底面となるパネル平面132を有するインナーパネル103とから構成され、アウターパネル102の周縁部と、インナーパネル103の枠凹部131の端部をヘム加工によって接合することによって、空間部104を介した断面構造をとっている。また、ビード133の上面にパネル接合部133aを所定間隔に配置し、このパネル接合部133aを介して、ビード133とアウターパネル102の裏面とが接着されている。なお、図10には、横ビードのインナーパネルを示しているが、車両進行方向に対して縦方向にビード(縦ビード)が設けられたインナーパネルも知られている(図示せず)。
【0005】
また、自動車用フードの歩行者保護性能は、一般的には頭部傷害値(以下HIC値と略す)により評価され、HIC値は、下式(2)(任意時間内の平均加速度の2.5乗と発生時間の積の最大値)で与えられる。そして、HIC値が小さいほど、歩行者保護性能が優れている。
【0006】
【数1】

【0007】
ここで、aは頭部重心における3軸合成加速度(単位はG)、t1、t2は0<t1<t2となる時間tでHIC値が最大となる時間で、計算時間(t2−t1)は15msec以下と決められている。
【0008】
ここで、歩行者の頭部が自動車用フードに衝突するときの加速度は、通常、頭部が自動車用フード101に衝突して発生する1次衝突時の衝突加速度と、その後、自動車用フード101がエンジンルーム内の設置構造物に接触して発生する2次衝突時の衝突加速度に大別できる。
【0009】
一方、自動車用フードは、張り剛性、耐デント性、曲げ剛性、ねじり剛性など、従来から求められる基本性能も満足しなければならない。また、高速衝突の際には、自動車用フードが客室(自動車)に進入しないように、車体前後方向の中心位置近傍で折れ曲がり変形する必要がある。張り剛性は、ワックスがけ時や自動車用フードをロックする際に押込む時の弾性変形を抑制するために必要であり、アウターパネルのヤング率と板厚、および、アウターパネルとインナーパネルの接合位置(図10(a)〜(c)ではパネル接合部133aの接着位置)により決定される。耐デント性は、飛石などにより残留する塑性変形を抑制するために必要で、アウターパネルの耐力と板厚に影響を受ける。曲げ剛性は、自動車用フードをロックする際の引込み力と、クッションゴム、ダンパーステイ、シールゴムなどの反力により発生する自動車用フード周縁部の弾性変形を抑制するために必要であり、自動車用フード周縁部のインナーパネルおよびレインフォースメントの形状(断面2次モーメント)、ヤング率に影響される。ねじり剛性は、自動車用フード周縁部の曲げ剛性と、インナーパネル中央部の板厚および形状に影響される。
【特許文献1】特許第3674918号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
自動車用フードは、これらの基本性能と歩行者保護性能の両方を満足しなければならないが、自動車用フードとエンジン等の構造物との間となる自動車用フード下方のスペースが制限されるため、基本性能だけを満足するように材質、板厚、形状を設計したフードでは歩行者保護性能を満足できない場合が多い。
【0011】
例えば、前記した従来の自動車用フード101においては、自動車用フード101下のスペースが小さい場合には、当該自動車用フード101の周縁部において1次衝突よりも2次衝突の衝突加速度が大きくかつ継続時間も長くなるため、2次衝突の衝突加速度が上式(2)で計算されるHIC値に悪影響を与える(つまり、HIC値が満足するレベルに達しない)。
【0012】
また、縦ビードのインナーパネルでは、高速衝突時にフードを折れ曲がり変形させやすくするためのクラッシュビードやトリム穴などの、初期不正として作用する構造を設けることが一般的に行われているが、これらの初期不正は、歩行者の頭部の一次衝突時のエネルギー吸収量を減少させるため、2次衝突時の衝突加速度が増大してHIC値にさらに悪影響を与える。
【0013】
そして、特許文献1に記載されているように、車両の幅方向と平行な方向にビードを形成した場合、歩行者の頭部は車両の前方から衝突すると、歩行者の頭部の衝突位置によっては2次衝突時におけるビードの変形が発生しにくくなるため、変形荷重が大きくなってしまい、さらにHIC値が悪化する場合がある。
【0014】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、車両の幅方向と平行な方向にビードを形成した場合であっても、頭部などが衝突したときの2次衝突時において変形荷重を小さくすることができる自動車用フードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、本発明の自動車用フードは、アウターパネルとインナーパネルのそれぞれの周縁部を接合したときに、両パネルの所定位置の間に空間部を介した断面構造を備える自動車用フードにおいて、前記インナーパネルは、前記アウターパネルのアウター周縁部と接合するインナー周縁部と、前記インナー周縁部に連続して形成され前記アウターパネルとの間に前記空間部を形成する枠凹部と、前記枠凹部よりパネル中央部となる位置で長手方向が車両の幅方向と略平行となるようにパネル平面から凸状に設けられた複数のビードと、を備え、前記ビードは、前記アウターパネルに接合するパネル接合部を有する上面と、車両進行方向に対して前記上面よりも前側のパネル平面にかけて斜面を形成する前側傾斜面と、車両進行方向に対して前記上面よりも後側のパネル平面にかけて斜面を形成する後側傾斜面と、を有し、前記前側傾斜面と前記前側のパネル平面との角度θ1と、前記後側傾斜面と前記後側のパネル平面との角度θ2と、をいずれも155°以上に形成する構成とした。
【0016】
本発明の自動車用フードは、前側傾斜面と前側のパネル平面との角度θ1、および後側傾斜面と後側のパネル平面との角度θ2を、いずれも特定の角度以上に形成したことによって、頭部などが衝突した際のインナーパネルの変形荷重(前側傾斜面および/または後側傾斜面に発生する圧縮力)を小さくすることができるので、HIC値を低減することができる。
【0017】
本発明に係る自動車用フードは、前記角度θ1と前記角度θ2の関係がθ1≦θ2を満たすのが好ましい。
【0018】
本発明の自動車用フードは、角度θ1と角度θ2の関係を適切なものとすることによって、前側傾斜面に前方斜め上方方向から頭部が衝突した場合であっても、当該前側傾斜面は曲げ変形するだけであり、圧縮力を生じにくくすることができる。つまり、インナーパネルの変形荷重を小さくすることができるので、2次衝突の際の衝突加速度を低減させることが可能となる。
また、かかる構成の自動車用フードとしたことによって、後側傾斜面に前方斜め上方方向から頭部が衝突すると、前側傾斜面と上面における折れ線、後側傾斜面と上面における折れ線が曲げ変形するので変形荷重を小さくすることができる。したがって、2次衝突の際の衝突加速度を低減させることが可能となる。
【0019】
本発明に係る自動車用フードは、前記上面の中心位置における接線と直交する直交線を引いたときに、当該直交線から前側傾斜面と連続するパネル平面までの長さL1と、前記直交線から後側傾斜面と連続するパネル平面までの長さL2と、の関係が下記式(1)を満たすように構成するのが好ましい。
【0020】
【数2】

【0021】
このような構成とすることによって、例えば、ビードの上面の中心位置に頭部などが衝突した場合にビードが均等に変形しやすくなり、変形荷重をさらに小さくすることが可能となる。
【0022】
本発明に係る自動車用フードにおいて、前記した直交線から前側傾斜面と連続するパネル平面までの長さL1を15〜100mmとし、前記記した直交線から後側傾斜面と連続するパネル平面までの長さL2を25〜125mmとするのが好ましい。
このように、長さL1と長さL2を特定の範囲に規定することによって、変形荷重を小さくしつつ、頭部が衝突した場合であってもこれを保護するために有効なストロークを確実に確保することができる。
【0023】
本発明に係る自動車用フードにおいて、前記ビードのピッチpを50〜200mmとするのが好ましい。
ビードのピッチpをこのような特定の範囲に規定することで、ビードの剛性を高くしつつ、プレス成形しやすい自動車用フードとすることができる。また、インナーパネルとアウターパネルの接着(マスチック)が適切に行われるため張り剛性を十分に確保することができる。
【0024】
本発明に係る自動車用フードにおいて、前記パネル平面からの前記ビードの高さhを5〜30mmとするのが好ましい。
パネル平面からのビードの高さhをこのような特定の範囲に規定することで、変形荷重を小さくしつつ、ビードの剛性が高く、プレス成形しやすい自動車用フードとすることができる。
【0025】
本発明に係る自動車用フードにおいて、前記ビードの上面の平坦な部分の幅寸法Luを5〜30mmとするのが好ましい。
このように、ビードの上面の平坦な部分の幅寸法Luをこのような特定の範囲に規定することで、本発明の自動車用フードは、インナーパネルとアウターパネルの接着(マスチック)をより適切に行うことができるため、変形荷重を小さくしつつ、張り剛性を十分に確保とすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の自動車用フードによれば、前側傾斜面と前側のパネル平面との角度θ1を、後側傾斜面と後側のパネル平面との角度θ2以下となるように形成することによって、車両の幅方向と平行な方向にビードを形成した場合であっても、頭部などが前方斜め上方方から衝突したときの2次衝突時においてビードが変形しやすくなり、変形荷重を小さくすることができるので、HIC値に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、適宜図面を参照して本発明に係る自動車用フードを実施するための最良の形態について詳細に説明する。参照する図面において、図1は、自動車用フードの分解斜視図である。図2は、自動車用フードのインナーパネルの斜視図である。図3は、図2のA−A線断面図であり、本発明の自動車用フードにおいて頭部が衝突した際の作用を説明する図である。図4は、図2の要部拡大断面図であり、本発明の自動車用フードの一態様において頭部が衝突した際の作用を説明する図である。図5は、角度θ1と角度θ2の形成角度の関係を説明する図であって、(a)は、θ1≦θ2とした場合において、頭部が前方斜め上方から衝突した様子を説明する図であり、(b)は、θ1>θ2とした場合において、頭部が前方斜め上方から衝突した様子を説明する図である。図6は、角度θ1と角度θ2をθ1≦θ2とした場合と、θ1>θ2とした場合におけるストロークS(mm)と衝突加速度a(G)との関係を示すグラフである。図7は、角度θ1の形成角度について説明する図であって、(a)は、θ1≧155°とした場合において、頭部が前方斜め上方から衝突した様子を説明する図であり、(b)は、θ1<155°とした場合において、頭部が前方斜め上方から衝突した様子を説明する図である。図8および図9は、本発明の自動車用フードのビードの形状を説明する図である。
【0028】
図1および図2に示すように、本発明に係る自動車用フード1は、アウターパネル2とインナーパネル3のそれぞれのアウター周縁部2a,3aを接合したときに、両パネル2,3の所定位置の間に空間部4を介した断面構造を備えている。
【0029】
アウターパネル2は、所定の曲率を有し(図3参照)、軽量で高張力な金属製板材で構成されている。これに用いられる金属としては、鋼、または、3000系、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金であることが好ましい。また、アウターパネル2の板厚は、例えば、鋼板では0.5〜1.1mm以下、アルミニウム合金板では0.8〜1.5mm以下が好ましい。なお、アウターパネル2は、樹脂製、カーボンファイバー製の板材で構成されていてもよい。
また、アウターパネル2は、そのアウター周縁部2aにおいて、ヘム加工等による嵌合、接着、ろう付け等によって後記するインナーパネル3のインナー周縁部3aと接合され、アウターパネル2とインナーパネル3との間に空間部4を介した断面構造をとる。
【0030】
インナーパネル3は、アウターパネル2のアウター周縁部2aと接合するインナー周縁部3aと、当該インナー周縁部3aに連続して形成され、アウターパネル2との間に空間部4を形成する枠凹部31と、この枠凹部31よりパネル中央部となる位置で長手方向が車両の幅方向と平行となるようにパネル平面32から畝状の凸条に設けられた複数のビード33と、を備えている。
【0031】
このビード33は、図3に示すように、アウターパネル2に接合するパネル接合部33aを有する上面33bと、車両進行方向に対して上面33bよりも前側のパネル平面32にかけて斜面を形成する前側傾斜面33cと、車両進行方向に対して上面33bよりも後側のパネル平面32にかけて斜面を形成する後側傾斜面33dと、を有している。
そして、このビード33は、図3および図4に示すように、前側傾斜面33cと前側のパネル平面32との角度θ1と、後側傾斜面33dと後側のパネル平面32との角度θ2と、をいずれも155°以上に形成している。
【0032】
そして、当該ビード33は、前側傾斜面33cと前側のパネル平面32との角度θ1、および後側傾斜面33dと後側のパネル平面32との角度θ2の関係がθ1≦θ2を満たすように形成するのが好ましい。
角度θ1と角度θ2との関係がθ1>θ2となると、頭部などが前方斜め上方から衝突した場合に、後側傾斜面33dに圧縮力が発生して変形しにくくなるので、ビード33が変形しにくくなる。
【0033】
この場合において、角度θ1および角度θ2は、前記の関係を満たしつつ、角度θ1を155〜175°の範囲で設定するのが好ましく、角度θ2も155〜175°の範囲で設定するのがより好ましい。
角度θ1が155°未満であると、前側傾斜面33cが急となるために、例えば、当該前側傾斜面33c付近に前方斜め上方の方向から(例えば、車両進行方向と水平な線HLから所定角度α(αは、65°や50°など)の方向から)頭部などが衝突すると、前側傾斜面33cを圧縮する方向に圧縮力が発生するためビード33が変形しにくくなり、HIC値が悪化する。一方、角度θ1が175°を超えると、ビード33の高さや個数を確保しにくくなるので好ましくない。
また、角度θ2が155°未満であると、後側傾斜面33dが急となるために、例えば、当該後側傾斜面33d付近に頭部などが衝突すると、後側傾斜面33dを圧縮する方向に圧縮力が発生するためビード33が変形しにくくなり、HIC値が悪化する。一方、角度θ2が175°を超えると、ビード33の高さや個数を確保しにくくなるので好ましくない。
【0034】
また、例えば、上面33bの中心位置における接線TLと直交する直交線OLを引いたときに、当該直交線OLから前側傾斜面33cと連続するパネル平面32までの長さL1と、前記した直交線OLから後側傾斜面33dと連続するパネル平面32までの長さL2、ビード33のピッチp、ビード33の高さh、ビード33の上面33bの平坦な部分の幅寸法Luなどで規定される、インナーパネル3の形状(図3および図4参照)や板厚は、頭部が衝突した際に、頭部と自動車用フード1の相対速度差により発生する慣性力に影響を与える。そのため、形状および板厚を適正化することにより、1次衝突の際の加速度が大きくなり、十分なエネルギー吸収量が確保され、自動車用フード1の歩行者保護性能を向上させることが可能となる。
【0035】
本発明の自動車用フード1は、ビード33に頭部などが衝突した際に車両進行方向に均等に変形しやすくし、2次衝突時における衝突エネルギーを小さくするために、前記した長さL1と長さL2との関係が下記式(1)を満たすのが好ましい(図4参照)。所定角度α(αは、65°や50°など)で衝突した場合に、前側傾斜面33cと後側傾斜面33dが略同形状となるように変形させることができれば、前側傾斜面33cや後側傾斜面33dのどちらか一方向のみに圧縮する圧縮力が発生しにくくなる。このとき、全く同じ形状に変形させるには、長さL1と長さL2を、L2−L1=2・h・tan(90−α−β)の関係式を満たすようにすればよく、この関係式を満たす一定の範囲内であれば、略同じ形状となるように変形させることが可能である。
【0036】
【数3】

なお、L2−L1がLu/2以下であると、長さを変更しても前記した効果を得ることができない。一方、L2−L1が2・h・tan(90°−α−β)+Lu/2以上であると、角度θ1、角度θ2のそれぞれが前記した上限値となり、かつビード33の高さhが後記する上限値となったときにマスチック間隔が広がるため、張り剛性を確保することができない。
【0037】
図4に示すように、本発明の自動車用フード1の前記した長さL1は、例えば、15〜100mmとするのがよく、前記した長さL2は、例えば、25〜125mmとするのがよい。
長さL1および長さL2が前記した適正範囲未満であると、前記した角度θ1や角度θ2が大きくなる場合が多く、前側傾斜面33cや後側傾斜面33dが急となりすぎるために、例えば、当該前側傾斜面33c付近や後側傾斜面33d付近に頭部などが衝突すると、前側傾斜面33cや後側傾斜面33dを圧縮する方向に圧縮力が発生するためビード33が変形しにくくなり、HIC値が悪化するおそれがある。
一方、長さL1および長さL2が前記した適正範囲を超えると、ビード33の高さや個数を確保しにくくなるおそれがあるので好ましくない。
【0038】
なお、長さL1は、例えば、前側傾斜面33cから連続するパネル平面32において、当該前側傾斜面33cからの屈曲部分(R部分)の開始部分、中央部分、終点部分などとすることができ、長さL2も同様に、後側傾斜面33dから連続するパネル平面32において、当該後側傾斜面33dからの屈曲部分(R部分)の開始部分、中央部分、終点部分などとすることができる。なお、屈曲部分(R部分)の開始部分、中央部分、終点部分は、任意に設定することが可能であるが、長さL1、L2の定義は一定とさせる必要があるので、例えば、一方の長さL1を、「前側傾斜面33cから連続するパネル平面32の屈曲部分(R部分)の終点部分」と定義したのであれば、他方の長さL2を、「後側傾斜面33dから連続するパネル平面32の屈曲部分(R部分)の終点部分」と定義する。
【0039】
ビード33のピッチpは50〜200mmとするのがよい。また、パネル平面32からのビード33の高さhは5〜30mmとするのがよい。
いずれも、その下限値が前記した適正範囲未満であると、ビード33の剛性が不足するため、1次衝突で衝突エネルギーを十分に吸収することができない。そのため、2次衝突の衝突加速度が増大してしまう。一方、その上限値が前記した適正範囲を超えると、プレス成形が困難になるだけでなく、アウターパネル2とインナーパネル3の接着ピッチが広がることになるため、張り剛性が不足する。
【0040】
また、ビード33の上面33bの平坦な部分の幅寸法Luは5〜30mmとするのがよい。アウターパネル2とインナーパネル3との接着を確実に行うためである。
【0041】
インナーパネル3の板厚は、自動車用フード1が使用される自動車の車種によって決定されるアウターパネル2の曲げ剛性によって選択される。
このうち、インナーパネル3の枠凹部31における板厚の適正値は、アルミニウム合金板の場合には0.7〜1.5mm、鋼板の場合には0.5〜1.1mmとするのが好ましい。当該板厚が下限値未満であると、自動車用フード1の曲げ剛性が不足しやすく、板厚が上限値を超えると、つぶれ変形荷重が増大するため、歩行者保護性能が低下しやすい。なお、インナーパネル3だけで曲げ剛性を確保して、レインフォースメント(不図示)を省略することも可能であるが、この場合のインナーパネル3の板厚は、前記よりもさらに増大させた板厚が好ましく、アルミニウム合金板では1.5〜3.5mm、鋼板では1.1〜2.5mmが好ましい。
【0042】
なお、インナーパネル3をアルミニウム合金、鋼以外の金属で作製する場合には、当該板厚の上限値を、使用する金属の比重に反比例して決定するのがよい。
【0043】
そして、このようなビード33を有するインナーパネル3は、プレス成形等によって一体に形成するのが好ましいが、その形状が複雑である場合などは、適宜の形状の複数の部材を別々に製造し、これらを、例えば、ヘム加工によって接合する機械的接合や、溶接、樹脂層等による接着等によって一体的に形成してもよい。
【0044】
かかるインナーパネル3は、例えば、鋼製の板材や、3000系、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金製の板材などの軽量で高張力な金属製板材を用いて構成するのがよい。
【0045】
前記したように、本発明に係る自動車用フード1の主たる構成は、図1から図4に示すように、アウターパネル2とインナーパネル3のそれぞれのアウター周縁部2a,3aを接合したときに、両パネル2,3の所定位置の間に空間部4を介した断面構造を備えたものであり、このインナーパネル3は、アウターパネル2のアウター周縁部2aと接合するインナー周縁部3aと、当該インナー周縁部3aに連続して形成されアウターパネル2との間に空間部4を形成する枠凹部31と、枠凹部31よりパネル中央部となる位置で長手方向が車両の幅方向と平行となるようにパネル平面32から凸状に設けられた複数のビード33と、を備えたものであり、このビード33は、アウターパネル2に接合するパネル接合部33aを有する上面33bと、車両進行方向に対して上面33bよりも前側のパネル平面32にかけて斜面を形成する前側傾斜面33cと、車両進行方向に対して上面33bよりも後側のパネル平面32にかけて斜面を形成する後側傾斜面33dと、を有し、前側傾斜面33cと前側のパネル平面32との角度θ1を、後側傾斜面33dと後側のパネル平面32との角度θ2以下となるように形成している。
本発明の自動車用フード1は、前記した構成とすることによって、以下に示すように、歩行者保護性能を向上させるとともに、剛性を確保している。
【0046】
すなわち、角度θ1と角度θ2との関係を適切化すると、頭部が後側傾斜面33d付近に衝突した場合にビード33が変形しやすくなり、好適である。図5(a)は、ビード33の位置自体は後記する図5(b)と同じであるが、角度θ1を、角度θ2以下となるように(θ1≦θ2)することで、上面33bを車両進行方向に対して前寄りに設けている。これに対し、(b)では、角度θ1を大きく、角度θ2を小さく(θ1>θ2)することで、上面33bを車両進行方向に対して後ろ寄りに設けている。
(a)では、頭部が衝突すると、主として後側傾斜面33dが前方側に変位するように変形するため、図6の実線(θ1≦θ2:本発明に係る自動車用フード)で示すように、ストロークが増大することで2次衝突における衝突加速度a(G)を低減できることがわかる。これに対し、(b)では、同じ位置で頭部が衝突すると、主として後側傾斜面33dがさらに後方側に変位するように変形するため、図6の破線(θ1>θ2)に示すように、2次衝突における衝突加速度a(G)が著しく上昇している。
【0047】
また、本発明の自動車用フード1は、例えば、角度θ1がθ1≧155°となるようにビード33を形成した場合は、当該ビード33に頭部の衝突があると、図7(a)の左図の破線のようにビード33が変形する。このときのビード33に作用する力の成分は、図7(a)の右図に示すとおりとなる。すなわち、水平方向から、例えば、65°の角度でビード33に入力があった場合、ビード33の前側傾斜面33cには圧縮力が発生しないので、ビード33が変形しやすくなる。
【0048】
これに対して、従来の自動車用フード1のように、例えば、角度θ1がθ1>155°となるようにビード33を形成した場合は、当該ビード33に頭部の衝突があると、図7(b)の左図の破線のようにビード33が変形する。このときのビード33に作用する力の成分は、図7(b)の右図に示すとおりとなる。すなわち、水平方向から、例えば、65°の角度でビード33に入力があった場合、ビード33の前側傾斜面33cには圧縮力が発生することになるので、ビード33が変形しにくくなる。
なお、図7では、ビード33の上面のほぼ中心に頭部が衝突する様子を示しているが、頭部が前側傾斜面33c付近に衝突した場合もほぼ同等の結果となる。
【0049】
(剛性確保の機構)
図3などに示すように、自動車用フード1では、空間部4により、フードの断面部面積が確保されるため、フードとして必要とされる曲げ剛性、ねじり剛性を得ることができる。それと共に、インナーパネル3のインナー周縁部3aとアウターパネル2のアウター周縁部2aとを接合(接着)したり、パネル接合部33aでインナーパネル3とアウターパネル2とを接合(接着)したりすることにより、フードとして必要とされる張り剛性、耐デント性を得ることができる。
【0050】
以上、本発明に係る自動車用フードについて詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されるべきである。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて下記のように広く改変・変更等することができる。
【0051】
例えば、本発明の自動車用フード1は、前記したようにビード33を車両の幅方向と平行となるように設けるのが好適であるが、これに限定されるものではなく、前側傾斜面の角度θ1を後側傾斜面の角度θ2以下となるように形成すれば、ビード33を車両の幅方向に対して斜め方向となるように設けてもよい。そして、かかる構成のビード33は、平面視でインナーパネル3の外形に沿って湾曲等させて設けてもよい。
【0052】
また、自動車用フード1に歩行者が衝突した際、歩行者が子供であるか、大人であるかによって、その衝突領域が異なる。そのため、図2に示すように、車両進行方向に対して、自動車用フード1の前側は子供が衝突する子供衝突領域CAとし、自動車用フード1の後側は大人が衝突する大人衝突領域AAとしている。
【0053】
本発明に係る自動車用フード1は、子供衝突領域CAと大人衝突領域AAとで、以下に示すような形状変更を行ってもよい。
なお、後記する形状変更は、前側(子供衝突領域CA)と後側(大人衝突領域AA)とで明確に分けて形成してもよく、前側の端部から後側の端部にかけて形状が漸次変化するように形成してもよく、また、前側と後側との境界近傍においてそれらの形状が繋がるように漸次変化するように形成してもよい。
【0054】
インナーパネル3の板厚T(図8参照)を子供衝突領域CAで薄く、大人衝突領域AAで厚くする。このように板厚Tの変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード1の子供衝突領域CAでは、変形荷重が小さくなる。また、自動車用フード1の大人衝突領域AAでは、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。
【0055】
ビード33の車両進行方向と平行な方向におけるビードの裾部分の全長W(図8参照)を子供衝突領域CAで小さく、大人衝突領域AAで大きくする。このような幅Wの変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード1の大人衝突領域AAでは、剛性が向上すると共に、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。また、自動車用フード1の前側では、変形荷重が小さくなる。
【0056】
ビード33の断面R1、R2(図8参照)を子供衝突領域CAで大きく、大人衝突領域AAで小さくする。このような断面R1、R2の変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード1の子供衝突領域CAでは、変形荷重が小さくなる。また、自動車用フード1の大人衝突領域AAでは、剛性が向上すると共に、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。
【0057】
ビード33(上面33b)におけるパネル接合部33aのピッチMPを、張り剛性および耐デント性が要求される自動車用フード1の前側で小さくする。なお、ピッチMPは、自動車用フード1の前側と後側との間で徐々に変化するように設定してもよい。
【0058】
本発明に係る自動車用フード1は、インナーパネル3のビード33として、ビード傾斜面に段状の平坦部33eを形成したビード33A(図9(a)参照)、ビード傾斜面に棚部33fおよび/または上面33bに凹部35を形成したビード33B(図9(b)参照)を使用してもよい。このようにすると、衝突時の変形を助長することができる。なお、図9の(a)、(b)は、本発明の自動車用フードの他の形態を示す図である。なお、平坦部33eや棚部33fは、自動車用フード1の前側または後側のみに設けることとしてもよい。
【0059】
自動車用フード1は、アウターパネル2の外形、段差をつけたデザインなどに合わせて、ビード33の車両進行方向と平行な方向におけるビードの裾部分の全長Wを適宜変更させてもよい。また、ビード33を分岐させてもよい(図示せず)。また、フードサイレンサー、ウオシャーホース、クッションゴム等の取付けを目的として、インナーパネル3に適宜の穴部(図示せず)を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】自動車用フードの分解斜視図である。
【図2】自動車用フードのインナーパネルの斜視図である。
【図3】図2のA−A線断面図であり、本発明の自動車用フードの一態様において頭部が衝突した際の作用を説明する図である。
【図4】図2の要部拡大断面図であり、本発明の自動車用フードの一態様において頭部が衝突した際の作用を説明する図である。
【図5】角度θ1と角度θ2の形成角度の関係を説明する図であって、(a)は、θ1≦θ2とした場合において、頭部が前方斜め上方から衝突した様子を説明する図であり、(b)は、θ1>θ2とした場合において、頭部が前方斜め上方から衝突した様子を説明する図である。
【図6】角度θ1と角度θ2をθ1≦θ2とした場合と、θ1>θ2とした場合におけるストロークS(mm)と衝突加速度a(G)との関係を示すグラフである。
【図7】角度θ1の形成角度について説明する図であって、(a)は、θ1≧155°とした場合において、頭部が前方斜め上方から衝突した様子を説明する図であり、(b)は、θ1<155°とした場合において、頭部が前方斜め上方から衝突した様子を説明する図である。
【図8】本発明の自動車用フードのビードの形状を説明する図である。
【図9】本発明の自動車用フードのビードの形状を説明する図である。
【図10】従来の自動車用フードの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 自動車用フード
2 アウターパネル
2a アウター周縁部
3 インナーパネル
3a インナー周縁部
31 枠凹部
32 パネル平面
33,33A,33B ビード
33a パネル接合部
33b 上面
33c 前側傾斜面
33d 後側傾斜面
33e 平坦部
33f 棚部
35 凹部
4 空間部
θ1 前側傾斜面と前側のパネル平面との角度
θ2 後側傾斜面と後側のパネル平面との角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターパネルとインナーパネルのそれぞれの周縁部を接合したときに、両パネルの所定位置の間に空間部を介した断面構造を備える自動車用フードにおいて、
前記インナーパネルは、
前記アウターパネルのアウター周縁部と接合するインナー周縁部と、
前記インナー周縁部に連続して形成され前記アウターパネルとの間に前記空間部を形成する枠凹部と、
前記枠凹部よりパネル中央部となる位置で長手方向が車両の幅方向と略平行となるようにパネル平面から凸状に設けられた複数のビードと、を備え、
前記ビードは、
前記アウターパネルに接合するパネル接合部を有する上面と、車両進行方向に対して前記上面よりも前側のパネル平面にかけて斜面を形成する前側傾斜面と、
車両進行方向に対して前記上面よりも後側のパネル平面にかけて斜面を形成する後側傾斜面と、を有し、
前記前側傾斜面と前記前側のパネル平面との角度θ1と、前記後側傾斜面と前記後側のパネル平面との角度θ2と、をいずれも155°以上に形成したことを特徴とする自動車用フード。
【請求項2】
前記角度θ1と前記角度θ2の関係がθ1≦θ2を満たすことを特徴とする請求項1に記載の自動車用フード。
【請求項3】
前記上面の中心位置における接線と直交する直交線を引いたときに、
当該直交線から前側傾斜面と連続するパネル平面までの長さL1と、
前記直交線から後側傾斜面と連続するパネル平面までの長さL2と、
の関係が下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車用フード。
【数1】

【請求項4】
前記ビードのピッチpを50〜200mmとしたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の自動車用フード。
【請求項5】
前記パネル平面からの前記ビードの高さhを5〜30mmとしたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の自動車用フード。
【請求項6】
前記ビードの上面の平坦な部分の幅寸法Luを5〜30mmとしたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の自動車用フード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−24186(P2008−24186A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200061(P2006−200061)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】