自動車用フード
【課題】自動車用フードの基本性能を満足すると同時に、歩行者保護性能に優れた自動車用フードを提供する。
【解決手段】アウターパネル2とインナーパネル3とが接合したときに両パネルの間に空間部を形成した断面構造を備える自動車用フード1において、インナーパネル3は、アウターパネル2のアウター周縁部2aと接合するインナー周縁部3aと、インナー周縁部3aに連続して形成されアウターパネル2との間に空間部を形成する枠凹部4と、枠凹部4よりパネル中央側で車両進行方向に対して直交する方向に形成されると共に、アウターパネル2に接合する接合面5を有する凸状の複数の横ビード7と、横ビード7と隣り合いアウターパネル2との間に空間部を形成するパネル平面6とを備え、横ビード7は、車両進行方向の後方側において、接合面5からパネル平面6まで連続する後側傾斜面の少なくとも一部に衝突の際の変形を助長する形状不整合部8Aを有する。
【解決手段】アウターパネル2とインナーパネル3とが接合したときに両パネルの間に空間部を形成した断面構造を備える自動車用フード1において、インナーパネル3は、アウターパネル2のアウター周縁部2aと接合するインナー周縁部3aと、インナー周縁部3aに連続して形成されアウターパネル2との間に空間部を形成する枠凹部4と、枠凹部4よりパネル中央側で車両進行方向に対して直交する方向に形成されると共に、アウターパネル2に接合する接合面5を有する凸状の複数の横ビード7と、横ビード7と隣り合いアウターパネル2との間に空間部を形成するパネル平面6とを備え、横ビード7は、車両進行方向の後方側において、接合面5からパネル平面6まで連続する後側傾斜面の少なくとも一部に衝突の際の変形を助長する形状不整合部8Aを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウターパネルとインナーパネルとを接合して用いられる自動車用フードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車事故における歩行者保護が法規化され、歩行者保護性能が自動車用フードのレーティングの指標としても注目されている。一方で、自動車は、エンジシの高出力化により、エンジンが大型化されると共に、多機能化によりエンジンルーム内の部品も増加するため、歩行者保護に必要なフード下のスペースも小さくなってきている。そのため、スポーティなデザインと歩行者保護性能とを両立するためには、小スペースで効率よく衝突エネルギーを吸収できる自動車用フードの開発が重要である。
【0003】
前記のような自動車用フードとして、特許文献1では、アウターパネルとインナーパネルとを接合したときに両パネルの間に空間部を介した断面構造を備えるフード構造を持った自動車用フードが記載されている。また、前記空間部を形成するために、インナーパネルの中央領域に、車両進行方向に所定の間隔を開けて複数の横ビードが車幅方向(車両進行方向に直交する方向)に沿って直線状に連続形成されたフード構造が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載されたフード構造と類似したフード構造を持った自動車用フードの例を、図14(a)〜(c)に示す。図14(a)〜(c)に示すように、自動車用フード21は、所定の曲率を有するアウターパネル22と、周縁部に凹状部24を、中央部に車両進行方向に直交する配置で複数の横ビード25を有するインナーパネル23とから構成され、アウターパネル22の周縁部と、インナーパネル23の凹状部24の端部をヘム加工によって接合することによって、空間部26を介した断面構造をとっている。また、横ビード25の頂部に接着部27を所定間隔に配置し、この接着部27を介して、横ビード25とアウターパネル22の裏面とが接着されている。
なお、図示しないが、横ビード25の代わりに、車両進行に平行な配置で複数の縦ビードを有するインナーパネルを使用した自動車用フードも従来から知られている。
【0005】
また、自動車用フードの歩行者保護性能は、一般には頭部傷害値(以下HIC値と略す)により評価され、HIC値は、下式(1)(任意時間内の平均加速度の2.5乗と発生時間の積の最大値)で与えられる。そして、HIC値が小さいほど、歩行者保護性能が優れている。
【0006】
【数1】
【0007】
ここで、aは頭部重心における3軸合成加速度(単位はG)、t1、t2は0<t1<t2となる時間tでHIC値が最大となる時間で、計算時間(t2−t1)は15msec以下と決められている。
【0008】
図15(a)は、従来の自動車用フード(図14に示す横ビードを有する自動車用フード、および、横ビードの代わりに縦ビードを有する図示しない自動車用フード)における、頭部衝突の際の加速度aとストローク(頭部衝突の際のエンジンルーム内への頭部侵入変位量)Sとの関係を示す説明図、図15(b)は、加速度aと時間tとの関係を示す説明図である。図15(a)、(b)に示すように、歩行者の頭部が自動車用フードに衝突するときの加速度は、通常、頭部が自動車用フードに衝突して発生する1次衝突加速度と、その後、自動車用フード21がエンジンルーム内の設置構造物に接触して発生する2次衝突加速度に大別できる。
【0009】
一方、自動車用フードは、張り剛性、耐デント性、曲げ剛性、ねじり剛性など、従来から求められる基本性能も満足しなければならない。また、高速衝突の際には、自動車用フードが客室(車内)に進入しないように、車両進行方向の中心位置近傍で折れ曲がり変形する必要がある。張り剛性は、ワックスがけや自動車用フードをロックする際に押込む時の弾性変形を抑制するために必要であり、アウターパネルのヤング率と板厚、および、アウターパネルとインナーパネルの接合位置(図14(a)〜(c)では接着部27の接着位置)により決定される。耐デント性は、飛石などにより残留する塑性変形を抑制するために必要で、アウターパネルの耐力と板厚に影響を受ける。曲げ剛性は、自動車用フードをロックする際の引込み力と、クッションゴム、ダンパーステイ、シールゴムなどの反力により発生する自動車用フード周縁部の弾性変形を抑制するために必要であり、自動車用フード周縁部のインナーパネルおよびレインフォースメントの形状(断面2次モーメント)、ヤング率に影響される。ねじり剛性は、自動車用フード周縁部の曲げ剛性と、インナーパネル中央部の板厚および形状に影響される。
【特許文献1】特開2006−44311号公報(段落0014〜0043、図1〜図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
自動車用フードは、これらの基本性能と歩行者保護性能の両方を満足しなければならないが、自動車用フードとエンジン等の構造物との間となる自動車用フード下方のスペースが制限されるため、基本性能だけを満足するように材質、板厚、形状を設計したフードでは歩行者保護性能を満足できない場合が多い。
【0011】
そして、縦ビードを有するインナーパネルを使用した自動車用フードにおいては、高速衝突の際にフードを折れ曲がり変形させるために、インナーパネルがクラッシュビードやトリム穴等の変形を助長する構造を備える必要がある。しかしながら、これらを設定すると、図15(a)、(b)に示すように、歩行者頭部の1次衝突の際のエネルギー吸収量を減少させるため、2次衝突加速度が増大して、上式(1)で計算さるHIC値が悪化するという問題があった。
【0012】
また、図14(a)〜(c)に示すような横ビード25を有するインナーパネル23を使用した自動車用フード21では、頭部は車両の前方向から衝突するため、横ビード25の頂部に斜め上方から衝突することとなる。このような場合には、2次衝突の際に横ビード25の後側傾斜面25aが変形しにくい。そのため、図15(a)、(b)に示すように、2次衝突の際の変形荷重が増大して、2次衝突加速度が増大する。その結果、HIC値が悪化するという問題があった。ここで、横ビード25の後側傾斜面25aの傾斜角度βを小さくして、傾斜を十分に穏やかにすれば、2次衝突の際に変形荷重を低減できるが、横ビード25のピッチFPが大きくなり、アウターパネル22との接着間隔(接着部27の間隔)が広がるため、アウターパネル22の張り剛性が低下するという問題があった。
【0013】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、その目的は、自動車用フードの基本性能を満足すると同時に、歩行者保護性能に優れた自動車用フードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、アウターパネルとインナーパネルとをそれぞれの周縁部で接合すると共に、両パネルが接合したときに両パネルの間に空間部を形成した断面構造を備える自動車用フードにおいて、前記インナーパネルは、前記アウターパネルのアウター周縁部と接合するインナー周縁部と、前記インナー周縁部に連続して形成され前記アウターパネルとの間に前記空間部を形成する枠凹部と、前記枠凹部よりパネル中央側で車両進行方向に対して直交する方向に形成されると共に、前記アウターパネルに接合する接合面を有する凸状の複数の横ビードと、前記横ビードと隣り合い前記アウターパネルとの間に前記空間部を形成するパネル平面とを備え、前記横ビードは、車両進行方向の後方側において、前記接合面から前記パネル平面まで連続する後側傾斜面の少なくとも一部に衝突の際の変形を助長する形状不整合部を有する自動車用フードとして構成したものである。
【0015】
このように構成すれば、インナーパネルがアウターパネルとの間に空間部(枠凹部およびパネル平面)を有し、かつ、後側傾斜面が形状不整合部を有する横ビードを備えることによって、自動車用フードの曲げ剛性等が確保される。また、インナーパネルの横ビードがアウターパネルと接合する接合面を有することによって、アウターパネルの張り剛性等も確保される。さらに、横ビードが変形を助長する形状不整合部を有することによって、自動車用フードの斜め上方から頭部が衝突した際にも、横ビードがつぶれ変形しやすくなる。それによって、自動車用フードのつぶれ変形荷重が小さくなり、ストロークも確保されるため、2次衝突加速度が低減される。
【0016】
請求項2に係る発明は、前記横ビードは、前記後側傾斜面に加えて、当該横ビードの長手方向の両端部の少なくとも一方において、前記接合面から前記パネル平面まで連続する端部傾斜面の少なくとも一部に衝突の際の変形を助長する形状不整合部を有する自動車用フードとして構成したものである。
【0017】
このように構成すれば、横ビードが後側傾斜面に加えて端部傾斜面にも形状不整合部を有することによって、自動車用フードの斜め上方から頭部が衝突した際にも、横ビードがより一層つぶれ変形しやすくなる。それによって、自動車用フードのつぶれ変形荷重がより一層小さくなり、ストロークもより一層確保されるため、2次衝突加速度がより一層低減される。
【0018】
請求項3に係る発明は、前記形状不整合部が、切欠部である自動車用フードとして構成したものである。
このように構成すれば、自動車用フードの斜め上方から頭部が衝突した際にも、横ビードがより一層つぶれ変形しやすくなる。それによって、自動車用フードのつぶれ変形荷重がより一層小さくなり、ストロークもより一層確保されるため、2次衝突加速度がより一層低減される。
【0019】
請求項4に係る発明は、前記形状不整合部が、平坦部または棚部である自動車用フードとして構成したものである。
このように構成すれば、自動車用フードの斜め上方から頭部が衝突した際にも、横ビードがより一層つぶれ変形しやすくなる。それによって、自動車用フードのつぶれ変形荷重がより一層小さくなり、ストロークもより一層確保されるため、2次衝突加速度がより一層低減される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る自動車用フードによれば、インナーパネルが枠凹部、接合面を有する横ビードおよびパネル平面を備えることによって、自動車用フードとしての基本性能(張り剛性、耐デント性、曲げ剛性、ねじり剛性など)を満足する。それと同時に、インナーパネルに備えられた横ビードが後側傾斜面に形状不整合部を有することによって、自動車用フードの斜め上方からの衝突においても、HIC値が小さくなり、歩行者保護性能が優れる。また、横ビードが後側傾斜面に加えて端部傾斜面にも形状不整合部を有する、さらに、形状不整合部が切欠部、平坦部または棚部であることによって、HIC値がより一層小さくなり、歩行者保護性能をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る自動車用フードの実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は自動車用フードの構成を示す分解斜視図、図2は自動車用フードの構成を示す斜視図、図3は図2の自動車用フードの車両進行方向(A−A線)の端面図、図4は図2の自動車用フードの車両進行方向に直交する車幅方向(B−B線)の端面図、図5(a)は図2の自動車用フードの横ビードの平面図、(b)、(c)は(a)の変形例を示す平面図、図6(a)は図2の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図、(b)は別の形態の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図、図7は自動車用フードにおける、(a)は頭部衝突の際の加速度とストロークとの関係を示す説明図、(b)は加速度と時間との関係を示す説明図である。なお、前記図面の一部では、アウターパネルおよびインナーパネルの厚みを記載せず、線で示した。
【0022】
図1〜図4に示すように、本発明に係る自動車用フード1は、アウターパネル2とインナーパネル3とをそれぞれの周縁部で接合すると共に、両パネル2、3が接合したときに両パネル2、3の所定位置の間に空間部10を形成した断面構造を備える。
【0023】
<アウターパネル>
図1、図2に示すように、アウターパネル2は、所定の曲率を有し、軽量で高張力な金属製板材で構成され、金属は鋼、または、3000系、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金であることが好ましい。また、アウターパネル2の板厚は、例えば、鋼板では1.1mm以下、アルミニウム合金板では1.5mm以下が好ましい。なお、アウターパネル2は、樹脂製、カーボンファイバー製の板材で構成されていてもよい。
【0024】
また、図3、図4に示すように、アウターパネル2のアウター周縁部2aは、後記するインナーパネル3のインナー周縁部3aとヘム加工等による嵌合、接着、ろう付け等によって接合されるもので、インナー周縁部3aと接合できれば、その形状は特に限定されない。
【0025】
<インナーパネル>
図1、図2に示すように、インナーパネル3は、軽量で高張力な金属製板材で構成され、金属は鋼、または、3000系、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金であることが好ましい。
【0026】
インナーパネル3の板厚は、自動車用フード1が使用される自動車の車種によって決定される曲げ剛性によって選択される。それと共に、頭部衝突の際の頭部と自動車用フード1の相対速度により発生する慣性力に影響を与える。そのため、板厚を適正化することにより、1次衝突の際の加速度が大きくなり、十分なエネルギー吸収量が確保され、自動車用フード1の歩行者保護性能を向上させることが可能となる。
【0027】
また、板厚の適正値は、アルミニウム合金板の場合には0.7〜1.5mm、鋼板の場合には0.5〜1.1mmが好ましい。板厚が下限値未満であると、自動車用フード1の曲げ剛性が不足しやすく、後記する枠凹部4、横ビード7(パネル平面6)のプレス成形または圧延が困難になりやすい。板厚が上限値を超えると、つぶれ変形荷重が増大するため、歩行者保護性能が低下しやすく、特に、1次衝突でのHIC値が基準値(HIC値=1000)をオーバーしやすい。なお、板厚を、枠凹部4が形成される領域と、横ビード7(パネル平面6)が形成される領域とで異なるものとしてもよい。
【0028】
図2〜図4に示すように、インナーパネル3は、インナー周縁部3aと、枠凹部4と、接合面5を有する横ビード7と、パネル平面6とを備え、横ビード7が形状不整合部8Aを有する。以下、各構成について説明する。
【0029】
(インナー周縁部)
インナー周縁部3aは、前記したように、アウターパネル2のアウター周縁部2aとヘム加工等による嵌合、接着、ろう付け等によって接合されるもので、アウターパネル2のアウター周縁部2aと接合できれば、その形状は特に限定されない。
【0030】
(枠凹部)
枠凹部4は、前記インナー周縁部3aに連続して枠状に形成され、前記アウターパネル2との間に空間部10を形成するものである。そして、枠凹部4の断面形状は、自動車用フード1の剛性、歩行者保護性能を確保できれば、特に限定されない。
【0031】
(横ビード)
横ビード7は、畝状の凸条であって、前記枠凹部4よりパネル中央側で車両進行方向に直交する方向に、前記アウターパネル2側に突出するように凸状に複数形成され、その頂部にはアウターパネル2に接合する接合面5を有するものである。また、横ビード7と隣り合う位置には、後記するパネル平面6が形成され、アウターパネル2とインナーパネル3とが接合されたときに、両パネルの間に空間部10を形成する。なお、横ビード7は、図2では車両進行方向に直交する方向に直線状に形成された例を図示したが、平面視で車両進行方向に蛇行して形成されたもの(図示せず)、または、アウターパネル2(インナーパネル3)の外形に沿うように車両進行方向に湾曲して形成されたものでもよい(図示せず)。
【0032】
接合面5は、樹脂層等で構成された接着部11(○印で接着されるポイントを示している)を介して、アウターパネル2に接着(接合)される。接合方法は、接着部11を介する接着に限定されず、機械的接合、溶接等による接合でもよい。また、接合面5の最も周縁部側の接着(接合)位置、すなわち、アウターパネル2のアウター周縁部2aからの間隔L(図4参照)は、自動車用フード1が使用される車種によって異なるアウターパネル2の張り剛性によって選択され、その適正値は250mm以下が好ましい。さらに、接合面5の幅W1(図3参照)は、アウターパネル2にインナーパネル3が確実に接合するために、5〜30mm以上とすることが好ましい。
【0033】
横ビード7の形状は、その長手方向に直交する断面において、図3に示すように、台形状を有している。この横ビード7は、その前側傾斜面9b、頂部に形成された接合面5、後側傾斜面9a、および、横ビード7と隣り合う位置に形成されるパネル平面6によって、自動車用フード1としての剛性、歩行者保護性能が確保できれば、当該横ビード7の形状として、台形状に限定されない。例えば、横ビード7およびパネル平面6を波状に形成し、横ビード7の長手方向に直交する方向において、サイン波状またはサインn乗波状に連続する断面形状を有してもよい。また、図3、図4に示すように、横ビード7を形成する各辺(前側傾斜面9b、接合面5、後側傾斜面9a、端部傾斜面9c)にR取りがなされていてもよい。
【0034】
横ビード7は、その前側傾斜面9bの断面高さH1が5〜30mm、ピッチFPが50〜200mmであることが好ましい。断面高さH1およびピッチFPの両方が下限値未満であると、インナーパネル3の板厚を上限値に設定しても、横ビード7の剛性が低下しやすい。その結果、頭部衝突の際に、衝突位置の近傍だけが変形して、衝突位置の周囲に応力が伝播しないため、インナーパネル3の質量が慣性力として有効に作用しにくく、1次衝突の際に十分なエネルギー吸収量が確保されず、2次衝突加速度が増大し、HIC値が悪化しやすい。そして、断面高さH1およびピッチFPの両方が上限値を越えると、自動車用フード下方のスペースにもよるが、インナーパネル3がエンジン等の設置構造物に衝突するタイミングが早くなりやすく、2次衝突加速度が増大してHIC値が悪化しやすい。また、横ビード7を形成する際のプレス成形が困難になりやすい。さらに、アウターパネル2とインナーパネル3の接着(接合)のピッチ(接着部11間の距離)が広がるため、アウターパネルの張り剛性が不足しやすくなる。
【0035】
インナーパネル3の板厚、横ビード7の断面高さH1の両方が上限値に近い場合には、横ビード7の斜面の傾斜角度でつぶれ変形荷重を調整することにより、HIC値の悪化を防止できるが、接着部11間の距離が広がりやすく、アウターパネル2の張り剛性を確保しにくくなる。したがって、板厚、断面高さH1のいずれか一方が上限値に近い値である場合には、他方は上限値に遠くなる値に設定されることが好ましい。
【0036】
図2〜図4に示すように、横ビード7は、車両進行方向の後方側において、接合面5からパネル平面6まで連続する後側傾斜面9aの少なくとも一部に形状不整合部8Aを有する。
(形状不整合部)
形状不整合部8Aとは、横ビード7の前側傾斜面9bと異なる形状である非定常な部分であって、衝突の際の変形を助長するものである。非定常な部分とは、例えば、通常は滑らかである傾斜面の少なくとも一部に設けた、切欠部8、平坦部13(図8(a)参照)、棚部14(図8(b)参照)、凹部、スリット部、板厚の減少部等である。この非定常な部分を有することによって、自動車用フード1の斜め上方から頭部が衝突した際、横ビード7が容易に変形する。そして、形状不整合部8Aは、切欠部8であることが好ましい。
【0037】
切欠部8は、横ビード7の長手方向において、図2、図5(a)に示すように、切欠部8を所定長さに形成し、横ビード7の後方側に後側傾斜面9aを切り欠かないで1〜数箇所残した形態が好ましい。このような形態にすることによって、頭部衝突の際に、横ビード7の変形を広範囲に広げられるため、自動車用フード1が衝突エネルギーを効果的に吸収できる。また、後側傾斜面9aの全部を切り欠いた形態でもよい。
【0038】
切欠部8は、図5(a)では、接合面5からパネル平面6まで連続して切り欠いた形態を記載したが、図5(b)に示すように、後側傾斜面9aのみを切り欠いた形態、接合面5から後側傾斜面9aまでを切り欠いた形態、または、後側傾斜面9aからパネル平面6までを切り欠いた形態であってもよい。そして、切欠部8の形状は、矩形に限定されず、楕円を含む円形であってもよい。
【0039】
切欠部8は、図3に示すように、その(切欠深さH2)が(横ビード7の断面高さH1)の1/3以上であることが好ましい。(切欠深さH2)が(横ビード7の断面高さH1)の1/3未満であると、切欠部8を切り欠いた後の後側傾斜面9aが、頭部衝突の際に、横ビード7の変形の妨げとなりやすい。
【0040】
なお、インナーパネル3における形状不整合部8Aの配置は、全ての横ビード7に形状不整合部8Aを有する配置を図2に図示したが、このような配置に限定されることはない。一部の横ビード7のみが形状不整合部8Aを有する配置であってもよい(図示せず)。
【0041】
図5(c)に示すように、横ビード7は、後側傾斜面9aに加えて、横ビード7の長手方向の両端部の少なくとも一方において、接合面5からパネル平面6まで連続する端部傾斜面9cの少なくとも一部にも変形を助長する形状不整合部8Aを有してもよい。
【0042】
なお、端部傾斜面9cでの形状不整合部8Aの配置は、図示しないが、全ての横ビード7の両端部の位置に形成した例が好ましい。しかしながら、変形を助長する目的が達成されれば、例えば、図示しないが、一方の端部の位置に形状不整合部8Aを形成した横ビード7と他方の端部の位置に形状不整合部8Aを形成した横ビード7とを配置した例、一方の端部の位置に形状不整合部8Aを形成した横ビード7と両端部の位置に形状不整合部8Aを形成した横ビード7とを配置した例、または、一部の横ビード7の端部傾斜面9cにのみ形状不整合部8Aを配置した例であっても構わない。
(パネル平面)
図3に示すように、パネル平面6は横ビード7と隣り合う位置に形成されるもので、パネル平面6の幅は、横ビード7のピッチFP、および、アウター周縁部2aと接着部11との間隔L(図4参照)が所定範囲を満足するように適宜設定される。
【0043】
前記したように、本発明に係る自動車用フード1は、アウターパネル2のアウター周縁部2aとインナーパネル3のインナー周縁部3aとを接合することにより、両パネル2、3の所定位置の間に、枠凹部4およびパネル平面6から形成された空間部10を形成すると共に、横ビード7の頂部に形成された接合面5をアウターパネル2に接着部11を介して接着(接合)し、かつ、車両進行方向の後方側において、横ビード7が形状不整合部8Aを有する断面構造を備える(図2〜図4参照)。または、横ビード7が後側傾斜面9aに加えて端部傾斜面9cにも形状不整合部8Aを有する断面構造を備える(図5(c)参照)。
【0044】
(歩行者保護性能向上の機構)
図6(a)に示すように、自動車用フード1が前記のような断面構造、特に、横ビード7の後側傾斜面9aに形状不整合部8A(切欠部8)を有する断面構造、または、横ビード7が後側傾斜面9aに加えて端部傾斜面9cに形状不整合部8A(切欠部8)(図5(c)参照)を有する断面構造を備えることにより、自動車用フード1の斜め上方から頭部が衝突した際には、横ビード7の前側傾斜面9bが切欠部8側に倒れ込み、横ビード7が容易に変形する。すなわち、従来の自動車用フード21のように、後側傾斜面25a(図14(b)参照)によって横ビード25の変形が妨げられることがない。
【0045】
そして、自動車用フード1の斜め上方から頭部が衝突した際の加速度は、図7(a)、(b)の実線に示すような加速度推移をとる。図7(a)、(b)に示すように、自動車用フード1では横ビード7の後側傾斜面9aに形状不整合部8A(切欠部8)を有するため、従来の自動車用フード21、および、縦ビード(クラッシュビードあり)を有する自動車用フードに比べて、1次衝突の際のエネルギー吸収量は減少するが、変形荷重が小さいので、有効ストロークが増大して、2次衝突の際の加速度が大幅に減少する。このような加速度推移から、前記した数式(1)によって計算された歩行者保護性能の指標となるHIC値は、任意時間内の平均加速度が減少することにより、小さいものとなる。したがって、自動車用フード1は歩行者保護性能が向上することがわかる。
【0046】
一方、図6(b)に示すように、横ビード7の後側傾斜面9aの代わりに前側傾斜面9b(図6(a)参照)を切り欠いた自動車用フード31では、自動車用フード31の斜め上方から頭部が衝突した際には、後側傾斜面9aが屈曲して重なり合い、変形荷重が大きな部分が形成される。その結果、横ビード7が容易には変形しなくなり、2次衝突の際の加速度が増大する。そのため、HIC値は大きいものとなる。
【0047】
(剛性確保の機構)
図3、図4に示すように、自動車用フード1では、枠凹部4およびパネル平面6により形成された空間部10により、フードの断面部面積が確保されるため、フードとして必要とされる曲げ剛性、ねじり剛性が得られる。それと共に、横ビード7の接合面5が接着部11を介してアウターパネル2に接合(接着)するため、フードとして必要とされる張り剛性、耐デント性が得られる。
【0048】
次に、本発明に係る自動車用フードの変形例について説明する。
図8(a)、(b)は自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図、図9(a)は図8(a)の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図、(b)は別の形態の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図、図10は自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの端部を切断した状態での拡大斜視図、図11(a)、(b)は自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図、図12(a)〜(c)、図13(a)〜(c)は自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図である。
【0049】
本発明に係る自動車用フード1は、前記した形状不整合部8Aとして、衝突の際の変形を助長する目的が達成されれば、切欠部8(図6(a)参照)の代わりに、平坦部13(図8(a)参照)または棚部14(図8(b))を横ビードの後側傾斜面9aの少なくとも一部に有してもよい。また、インナーパネル3における形状不整合部8A(平坦部13または棚部14)の配置は、前記した切欠部8の場合と同様である。さらに、後側傾斜面9aに加えて、端部傾斜面9c(図5参照)の少なくとも一部にも平坦部13または棚部14を有してもよい(図示せず)。
【0050】
図9(a)に示すように、自動車用フード1が、横ビードの後側傾斜面9aに形状不整合部8A(平坦部13)を有する断面構造を備えることにより、自動車用フード1の斜め上方から頭部が衝突した際には、横ビードの後側傾斜面9aの変形により、横ビード(前側傾斜面9b)が容易に変形する。そのため、有効ストロークが増大して、2次衝突の際の加速度が大幅に減少する。したがって、HIC値が小さいものとなる。
【0051】
一方、図9(b)に示すように、横ビードの前側傾斜面9bに形状不整合部8A(平坦部13)を有する自動車用フード32では、自動車用フード32の斜め上方から頭部が衝突した際には、前側傾斜面9bの変形により、横ビード7(後側傾斜面9a)の変形が阻害される。そのため、有効ストロークが減少して、2次衝突の際の加速度が増加する。したがって、HIC値が大きいものとなる。
【0052】
図2に示すように、自動車用フード1に歩行者が衝突した際、歩行者が子供であるか、大人であるかによって、その衝突領域が異なる。そして、車両進行方向に対して、自動車用フード1の前側は子供が衝突する子供衝突領域CAであり、自動車用フード1の後側は大人が衝突する大人衝突領域AAである。
【0053】
本発明に係る自動車用フード1は、前側(子供衝突領域CA)と後側(大人衝突領域AA)とで、以下に示すような形状変更を行ってもよい(図10、図11参照)。
【0054】
インナーパネル3は、その板厚T(図10参照)を前側で薄く、後側で厚くするようにしても構わない。このように板厚Tの変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード1の前側では、変形荷重が小さくなる。また、自動車用フード1の後側では、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。
【0055】
インナーパネル3は、横ビード7の幅W2、断面高さH3(図10参照)を前側で小さく、低く、後側で大きく、高くするようにしても構わない。このような幅W2、高さH3の変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード1の後側では、剛性が向上すると共に、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。また、自動車用フード1の前側では、変形荷重が小さくなる。
【0056】
インナーパネル3は、横ビード7の断面R1、R2(図10参照)を前側で大きく、後側で小さくするようにしても構わない。このような断面R1、R2の変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード1の前側では、変形荷重が小さくなる。また、自動車用フード1の後側では、剛性が向上すると共に、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。
【0057】
インナーパネル3は、横ビード7の斜面角度α(図10参照)を前側で小さく、後側で大きくするようにしても構わない。このような斜面角度αの変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード1の前側では、変形荷重が小さくなる。また、自動車用フード1の後側では、剛性が向上すると共に、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。
【0058】
インナーパネル3は、横ビード7(接合面5)における接着部11のピッチMPを、張り剛性および耐デント性が要求される前側で小さくするようにしても構わない。
【0059】
本発明に係る自動車用フード1は、インナーパネル3の横ビード7として、前側傾斜面9bに平坦部13を形成した横ビード7A(図11(a)参照)、前側傾斜面9bに棚部14または接合面5に凹部15を形成した横ビード7B(図11(b)参照)を使用してもよい。平坦部13、棚部14または凹部15の形成によって、衝突の際の横ビード7A、7Bの変形が助長される。
なお、ここで、前側傾斜面9bの平坦部13または棚部14が定常な部分であり、後側傾斜面9aの切欠部8が非定常な部分(形状不整合部8A)である。
【0060】
本発明に係る自動車用フード1は、インナーパネル3の横ビード7として、図12(a)〜(c)に示すように、形状不整合部8Aとして後側傾斜面9aに切欠部8と共に平坦部13を有する横ビード7C〜7Eを使用してもよい。また、図12(a)では、前側傾斜面9bに平坦部13を有する。
図12(a)、(b)は後側傾斜面9aの略中央部に平坦部13を有し、パネル平面6側に切欠部8を有する例、図12(c)は後側傾斜面9aの略中央部に平坦部13を有し、接合面5側に切欠部8を有する例である。
なお、ここで、前側傾斜面9bの平坦部13(図12(a))または滑らかな傾斜面(図12(b)、(c))が定常な部分であり、後側傾斜面9aの平坦部13および切欠部8(図12(a)〜(c))が非定常な部分である。
【0061】
また、図13(a)〜(c)に示すように、切欠部8と共に、平坦部13の代わりに棚部14を有する横ビード7F〜7Hを使用してもよい。また、図13(a)では、前側傾斜面9bに棚部14を有する。
なお、ここで、前側傾斜面9bの棚部14(図13(a))または滑らかな傾斜面(図13(b)、(c))が定常な部分であり、後側傾斜面9aの棚部14および切欠部8(図13(a)〜(c))が非定常な部分である。
【0062】
自動車用フード1は、アウターパネル2の外形、デザインによる段差に合わせて、横ビード7の幅W2、断面高さH3を適宜変更、または、横ビード7を分岐させてもよい(図示せず)。また、フードサイレンサー、ウオシャーホース、クッションゴム等の取付、塗装の際の液ぬき等を目的として、インナーパネル3に穴部(図示せず)を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る自動車用フードの構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明に係る自動車用フードの構成を示す斜視図である。
【図3】図2の自動車用フードの車両進行方向(A−A線)の端面図である。
【図4】図2の自動車用フードの車両進行方向に直交する車幅方向(B−B線)の端面図である。
【図5】(a)は図2の自動車用フードの横ビードの平面図、(b)、(c)は(a)の変形例を示す平面図である。
【図6】(a)は図2の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図、(b)は別の形態の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図である。
【図7】自動車用フードにおける、(a)は頭部衝突の際の加速度とストロークとの関係を示す説明図、(b)は加速度と時間との関係を示す説明図である。
【図8】(a)、(b)は本発明に係る自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図である。
【図9】(a)は図8(a)の横ビードを有する自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図、(b)は別の形態の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図である。
【図10】本発明に係る自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの端部を切断した状態での拡大斜視図である。
【図11】(a)、(b)は本発明に係る自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図である。
【図12】(a)〜(c)は本発明に係る自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図である。
【図13】(a)〜(c)は本発明に係る自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図である。
【図14】従来の自動車用フードの構成を示す、(a)は斜視図、(b)は(a)の車両進行方向(A−A線)の端面図、(c)は(a)の車両進行方向に直交する車幅方向(B−B線)の端面図である。
【図15】従来の自動車用フードにおける、(a)は頭部衝突の際の加速度とストロークとの関係を示す説明図、(b)は加速度と時間との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1 自動車用フード
2 アウターパネル
2a アウター周縁部
3 インナーパネル
3a インナー周縁部
4 枠凹部
5 接合面
6 パネル平面
7 横ビード
8 切欠部
8A 形状不整合部
9a 後側傾斜面
9c 端部傾斜面
10 空間部
13 平坦部
14 棚部
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウターパネルとインナーパネルとを接合して用いられる自動車用フードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車事故における歩行者保護が法規化され、歩行者保護性能が自動車用フードのレーティングの指標としても注目されている。一方で、自動車は、エンジシの高出力化により、エンジンが大型化されると共に、多機能化によりエンジンルーム内の部品も増加するため、歩行者保護に必要なフード下のスペースも小さくなってきている。そのため、スポーティなデザインと歩行者保護性能とを両立するためには、小スペースで効率よく衝突エネルギーを吸収できる自動車用フードの開発が重要である。
【0003】
前記のような自動車用フードとして、特許文献1では、アウターパネルとインナーパネルとを接合したときに両パネルの間に空間部を介した断面構造を備えるフード構造を持った自動車用フードが記載されている。また、前記空間部を形成するために、インナーパネルの中央領域に、車両進行方向に所定の間隔を開けて複数の横ビードが車幅方向(車両進行方向に直交する方向)に沿って直線状に連続形成されたフード構造が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載されたフード構造と類似したフード構造を持った自動車用フードの例を、図14(a)〜(c)に示す。図14(a)〜(c)に示すように、自動車用フード21は、所定の曲率を有するアウターパネル22と、周縁部に凹状部24を、中央部に車両進行方向に直交する配置で複数の横ビード25を有するインナーパネル23とから構成され、アウターパネル22の周縁部と、インナーパネル23の凹状部24の端部をヘム加工によって接合することによって、空間部26を介した断面構造をとっている。また、横ビード25の頂部に接着部27を所定間隔に配置し、この接着部27を介して、横ビード25とアウターパネル22の裏面とが接着されている。
なお、図示しないが、横ビード25の代わりに、車両進行に平行な配置で複数の縦ビードを有するインナーパネルを使用した自動車用フードも従来から知られている。
【0005】
また、自動車用フードの歩行者保護性能は、一般には頭部傷害値(以下HIC値と略す)により評価され、HIC値は、下式(1)(任意時間内の平均加速度の2.5乗と発生時間の積の最大値)で与えられる。そして、HIC値が小さいほど、歩行者保護性能が優れている。
【0006】
【数1】
【0007】
ここで、aは頭部重心における3軸合成加速度(単位はG)、t1、t2は0<t1<t2となる時間tでHIC値が最大となる時間で、計算時間(t2−t1)は15msec以下と決められている。
【0008】
図15(a)は、従来の自動車用フード(図14に示す横ビードを有する自動車用フード、および、横ビードの代わりに縦ビードを有する図示しない自動車用フード)における、頭部衝突の際の加速度aとストローク(頭部衝突の際のエンジンルーム内への頭部侵入変位量)Sとの関係を示す説明図、図15(b)は、加速度aと時間tとの関係を示す説明図である。図15(a)、(b)に示すように、歩行者の頭部が自動車用フードに衝突するときの加速度は、通常、頭部が自動車用フードに衝突して発生する1次衝突加速度と、その後、自動車用フード21がエンジンルーム内の設置構造物に接触して発生する2次衝突加速度に大別できる。
【0009】
一方、自動車用フードは、張り剛性、耐デント性、曲げ剛性、ねじり剛性など、従来から求められる基本性能も満足しなければならない。また、高速衝突の際には、自動車用フードが客室(車内)に進入しないように、車両進行方向の中心位置近傍で折れ曲がり変形する必要がある。張り剛性は、ワックスがけや自動車用フードをロックする際に押込む時の弾性変形を抑制するために必要であり、アウターパネルのヤング率と板厚、および、アウターパネルとインナーパネルの接合位置(図14(a)〜(c)では接着部27の接着位置)により決定される。耐デント性は、飛石などにより残留する塑性変形を抑制するために必要で、アウターパネルの耐力と板厚に影響を受ける。曲げ剛性は、自動車用フードをロックする際の引込み力と、クッションゴム、ダンパーステイ、シールゴムなどの反力により発生する自動車用フード周縁部の弾性変形を抑制するために必要であり、自動車用フード周縁部のインナーパネルおよびレインフォースメントの形状(断面2次モーメント)、ヤング率に影響される。ねじり剛性は、自動車用フード周縁部の曲げ剛性と、インナーパネル中央部の板厚および形状に影響される。
【特許文献1】特開2006−44311号公報(段落0014〜0043、図1〜図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
自動車用フードは、これらの基本性能と歩行者保護性能の両方を満足しなければならないが、自動車用フードとエンジン等の構造物との間となる自動車用フード下方のスペースが制限されるため、基本性能だけを満足するように材質、板厚、形状を設計したフードでは歩行者保護性能を満足できない場合が多い。
【0011】
そして、縦ビードを有するインナーパネルを使用した自動車用フードにおいては、高速衝突の際にフードを折れ曲がり変形させるために、インナーパネルがクラッシュビードやトリム穴等の変形を助長する構造を備える必要がある。しかしながら、これらを設定すると、図15(a)、(b)に示すように、歩行者頭部の1次衝突の際のエネルギー吸収量を減少させるため、2次衝突加速度が増大して、上式(1)で計算さるHIC値が悪化するという問題があった。
【0012】
また、図14(a)〜(c)に示すような横ビード25を有するインナーパネル23を使用した自動車用フード21では、頭部は車両の前方向から衝突するため、横ビード25の頂部に斜め上方から衝突することとなる。このような場合には、2次衝突の際に横ビード25の後側傾斜面25aが変形しにくい。そのため、図15(a)、(b)に示すように、2次衝突の際の変形荷重が増大して、2次衝突加速度が増大する。その結果、HIC値が悪化するという問題があった。ここで、横ビード25の後側傾斜面25aの傾斜角度βを小さくして、傾斜を十分に穏やかにすれば、2次衝突の際に変形荷重を低減できるが、横ビード25のピッチFPが大きくなり、アウターパネル22との接着間隔(接着部27の間隔)が広がるため、アウターパネル22の張り剛性が低下するという問題があった。
【0013】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、その目的は、自動車用フードの基本性能を満足すると同時に、歩行者保護性能に優れた自動車用フードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、アウターパネルとインナーパネルとをそれぞれの周縁部で接合すると共に、両パネルが接合したときに両パネルの間に空間部を形成した断面構造を備える自動車用フードにおいて、前記インナーパネルは、前記アウターパネルのアウター周縁部と接合するインナー周縁部と、前記インナー周縁部に連続して形成され前記アウターパネルとの間に前記空間部を形成する枠凹部と、前記枠凹部よりパネル中央側で車両進行方向に対して直交する方向に形成されると共に、前記アウターパネルに接合する接合面を有する凸状の複数の横ビードと、前記横ビードと隣り合い前記アウターパネルとの間に前記空間部を形成するパネル平面とを備え、前記横ビードは、車両進行方向の後方側において、前記接合面から前記パネル平面まで連続する後側傾斜面の少なくとも一部に衝突の際の変形を助長する形状不整合部を有する自動車用フードとして構成したものである。
【0015】
このように構成すれば、インナーパネルがアウターパネルとの間に空間部(枠凹部およびパネル平面)を有し、かつ、後側傾斜面が形状不整合部を有する横ビードを備えることによって、自動車用フードの曲げ剛性等が確保される。また、インナーパネルの横ビードがアウターパネルと接合する接合面を有することによって、アウターパネルの張り剛性等も確保される。さらに、横ビードが変形を助長する形状不整合部を有することによって、自動車用フードの斜め上方から頭部が衝突した際にも、横ビードがつぶれ変形しやすくなる。それによって、自動車用フードのつぶれ変形荷重が小さくなり、ストロークも確保されるため、2次衝突加速度が低減される。
【0016】
請求項2に係る発明は、前記横ビードは、前記後側傾斜面に加えて、当該横ビードの長手方向の両端部の少なくとも一方において、前記接合面から前記パネル平面まで連続する端部傾斜面の少なくとも一部に衝突の際の変形を助長する形状不整合部を有する自動車用フードとして構成したものである。
【0017】
このように構成すれば、横ビードが後側傾斜面に加えて端部傾斜面にも形状不整合部を有することによって、自動車用フードの斜め上方から頭部が衝突した際にも、横ビードがより一層つぶれ変形しやすくなる。それによって、自動車用フードのつぶれ変形荷重がより一層小さくなり、ストロークもより一層確保されるため、2次衝突加速度がより一層低減される。
【0018】
請求項3に係る発明は、前記形状不整合部が、切欠部である自動車用フードとして構成したものである。
このように構成すれば、自動車用フードの斜め上方から頭部が衝突した際にも、横ビードがより一層つぶれ変形しやすくなる。それによって、自動車用フードのつぶれ変形荷重がより一層小さくなり、ストロークもより一層確保されるため、2次衝突加速度がより一層低減される。
【0019】
請求項4に係る発明は、前記形状不整合部が、平坦部または棚部である自動車用フードとして構成したものである。
このように構成すれば、自動車用フードの斜め上方から頭部が衝突した際にも、横ビードがより一層つぶれ変形しやすくなる。それによって、自動車用フードのつぶれ変形荷重がより一層小さくなり、ストロークもより一層確保されるため、2次衝突加速度がより一層低減される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る自動車用フードによれば、インナーパネルが枠凹部、接合面を有する横ビードおよびパネル平面を備えることによって、自動車用フードとしての基本性能(張り剛性、耐デント性、曲げ剛性、ねじり剛性など)を満足する。それと同時に、インナーパネルに備えられた横ビードが後側傾斜面に形状不整合部を有することによって、自動車用フードの斜め上方からの衝突においても、HIC値が小さくなり、歩行者保護性能が優れる。また、横ビードが後側傾斜面に加えて端部傾斜面にも形状不整合部を有する、さらに、形状不整合部が切欠部、平坦部または棚部であることによって、HIC値がより一層小さくなり、歩行者保護性能をより一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る自動車用フードの実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1は自動車用フードの構成を示す分解斜視図、図2は自動車用フードの構成を示す斜視図、図3は図2の自動車用フードの車両進行方向(A−A線)の端面図、図4は図2の自動車用フードの車両進行方向に直交する車幅方向(B−B線)の端面図、図5(a)は図2の自動車用フードの横ビードの平面図、(b)、(c)は(a)の変形例を示す平面図、図6(a)は図2の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図、(b)は別の形態の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図、図7は自動車用フードにおける、(a)は頭部衝突の際の加速度とストロークとの関係を示す説明図、(b)は加速度と時間との関係を示す説明図である。なお、前記図面の一部では、アウターパネルおよびインナーパネルの厚みを記載せず、線で示した。
【0022】
図1〜図4に示すように、本発明に係る自動車用フード1は、アウターパネル2とインナーパネル3とをそれぞれの周縁部で接合すると共に、両パネル2、3が接合したときに両パネル2、3の所定位置の間に空間部10を形成した断面構造を備える。
【0023】
<アウターパネル>
図1、図2に示すように、アウターパネル2は、所定の曲率を有し、軽量で高張力な金属製板材で構成され、金属は鋼、または、3000系、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金であることが好ましい。また、アウターパネル2の板厚は、例えば、鋼板では1.1mm以下、アルミニウム合金板では1.5mm以下が好ましい。なお、アウターパネル2は、樹脂製、カーボンファイバー製の板材で構成されていてもよい。
【0024】
また、図3、図4に示すように、アウターパネル2のアウター周縁部2aは、後記するインナーパネル3のインナー周縁部3aとヘム加工等による嵌合、接着、ろう付け等によって接合されるもので、インナー周縁部3aと接合できれば、その形状は特に限定されない。
【0025】
<インナーパネル>
図1、図2に示すように、インナーパネル3は、軽量で高張力な金属製板材で構成され、金属は鋼、または、3000系、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金であることが好ましい。
【0026】
インナーパネル3の板厚は、自動車用フード1が使用される自動車の車種によって決定される曲げ剛性によって選択される。それと共に、頭部衝突の際の頭部と自動車用フード1の相対速度により発生する慣性力に影響を与える。そのため、板厚を適正化することにより、1次衝突の際の加速度が大きくなり、十分なエネルギー吸収量が確保され、自動車用フード1の歩行者保護性能を向上させることが可能となる。
【0027】
また、板厚の適正値は、アルミニウム合金板の場合には0.7〜1.5mm、鋼板の場合には0.5〜1.1mmが好ましい。板厚が下限値未満であると、自動車用フード1の曲げ剛性が不足しやすく、後記する枠凹部4、横ビード7(パネル平面6)のプレス成形または圧延が困難になりやすい。板厚が上限値を超えると、つぶれ変形荷重が増大するため、歩行者保護性能が低下しやすく、特に、1次衝突でのHIC値が基準値(HIC値=1000)をオーバーしやすい。なお、板厚を、枠凹部4が形成される領域と、横ビード7(パネル平面6)が形成される領域とで異なるものとしてもよい。
【0028】
図2〜図4に示すように、インナーパネル3は、インナー周縁部3aと、枠凹部4と、接合面5を有する横ビード7と、パネル平面6とを備え、横ビード7が形状不整合部8Aを有する。以下、各構成について説明する。
【0029】
(インナー周縁部)
インナー周縁部3aは、前記したように、アウターパネル2のアウター周縁部2aとヘム加工等による嵌合、接着、ろう付け等によって接合されるもので、アウターパネル2のアウター周縁部2aと接合できれば、その形状は特に限定されない。
【0030】
(枠凹部)
枠凹部4は、前記インナー周縁部3aに連続して枠状に形成され、前記アウターパネル2との間に空間部10を形成するものである。そして、枠凹部4の断面形状は、自動車用フード1の剛性、歩行者保護性能を確保できれば、特に限定されない。
【0031】
(横ビード)
横ビード7は、畝状の凸条であって、前記枠凹部4よりパネル中央側で車両進行方向に直交する方向に、前記アウターパネル2側に突出するように凸状に複数形成され、その頂部にはアウターパネル2に接合する接合面5を有するものである。また、横ビード7と隣り合う位置には、後記するパネル平面6が形成され、アウターパネル2とインナーパネル3とが接合されたときに、両パネルの間に空間部10を形成する。なお、横ビード7は、図2では車両進行方向に直交する方向に直線状に形成された例を図示したが、平面視で車両進行方向に蛇行して形成されたもの(図示せず)、または、アウターパネル2(インナーパネル3)の外形に沿うように車両進行方向に湾曲して形成されたものでもよい(図示せず)。
【0032】
接合面5は、樹脂層等で構成された接着部11(○印で接着されるポイントを示している)を介して、アウターパネル2に接着(接合)される。接合方法は、接着部11を介する接着に限定されず、機械的接合、溶接等による接合でもよい。また、接合面5の最も周縁部側の接着(接合)位置、すなわち、アウターパネル2のアウター周縁部2aからの間隔L(図4参照)は、自動車用フード1が使用される車種によって異なるアウターパネル2の張り剛性によって選択され、その適正値は250mm以下が好ましい。さらに、接合面5の幅W1(図3参照)は、アウターパネル2にインナーパネル3が確実に接合するために、5〜30mm以上とすることが好ましい。
【0033】
横ビード7の形状は、その長手方向に直交する断面において、図3に示すように、台形状を有している。この横ビード7は、その前側傾斜面9b、頂部に形成された接合面5、後側傾斜面9a、および、横ビード7と隣り合う位置に形成されるパネル平面6によって、自動車用フード1としての剛性、歩行者保護性能が確保できれば、当該横ビード7の形状として、台形状に限定されない。例えば、横ビード7およびパネル平面6を波状に形成し、横ビード7の長手方向に直交する方向において、サイン波状またはサインn乗波状に連続する断面形状を有してもよい。また、図3、図4に示すように、横ビード7を形成する各辺(前側傾斜面9b、接合面5、後側傾斜面9a、端部傾斜面9c)にR取りがなされていてもよい。
【0034】
横ビード7は、その前側傾斜面9bの断面高さH1が5〜30mm、ピッチFPが50〜200mmであることが好ましい。断面高さH1およびピッチFPの両方が下限値未満であると、インナーパネル3の板厚を上限値に設定しても、横ビード7の剛性が低下しやすい。その結果、頭部衝突の際に、衝突位置の近傍だけが変形して、衝突位置の周囲に応力が伝播しないため、インナーパネル3の質量が慣性力として有効に作用しにくく、1次衝突の際に十分なエネルギー吸収量が確保されず、2次衝突加速度が増大し、HIC値が悪化しやすい。そして、断面高さH1およびピッチFPの両方が上限値を越えると、自動車用フード下方のスペースにもよるが、インナーパネル3がエンジン等の設置構造物に衝突するタイミングが早くなりやすく、2次衝突加速度が増大してHIC値が悪化しやすい。また、横ビード7を形成する際のプレス成形が困難になりやすい。さらに、アウターパネル2とインナーパネル3の接着(接合)のピッチ(接着部11間の距離)が広がるため、アウターパネルの張り剛性が不足しやすくなる。
【0035】
インナーパネル3の板厚、横ビード7の断面高さH1の両方が上限値に近い場合には、横ビード7の斜面の傾斜角度でつぶれ変形荷重を調整することにより、HIC値の悪化を防止できるが、接着部11間の距離が広がりやすく、アウターパネル2の張り剛性を確保しにくくなる。したがって、板厚、断面高さH1のいずれか一方が上限値に近い値である場合には、他方は上限値に遠くなる値に設定されることが好ましい。
【0036】
図2〜図4に示すように、横ビード7は、車両進行方向の後方側において、接合面5からパネル平面6まで連続する後側傾斜面9aの少なくとも一部に形状不整合部8Aを有する。
(形状不整合部)
形状不整合部8Aとは、横ビード7の前側傾斜面9bと異なる形状である非定常な部分であって、衝突の際の変形を助長するものである。非定常な部分とは、例えば、通常は滑らかである傾斜面の少なくとも一部に設けた、切欠部8、平坦部13(図8(a)参照)、棚部14(図8(b)参照)、凹部、スリット部、板厚の減少部等である。この非定常な部分を有することによって、自動車用フード1の斜め上方から頭部が衝突した際、横ビード7が容易に変形する。そして、形状不整合部8Aは、切欠部8であることが好ましい。
【0037】
切欠部8は、横ビード7の長手方向において、図2、図5(a)に示すように、切欠部8を所定長さに形成し、横ビード7の後方側に後側傾斜面9aを切り欠かないで1〜数箇所残した形態が好ましい。このような形態にすることによって、頭部衝突の際に、横ビード7の変形を広範囲に広げられるため、自動車用フード1が衝突エネルギーを効果的に吸収できる。また、後側傾斜面9aの全部を切り欠いた形態でもよい。
【0038】
切欠部8は、図5(a)では、接合面5からパネル平面6まで連続して切り欠いた形態を記載したが、図5(b)に示すように、後側傾斜面9aのみを切り欠いた形態、接合面5から後側傾斜面9aまでを切り欠いた形態、または、後側傾斜面9aからパネル平面6までを切り欠いた形態であってもよい。そして、切欠部8の形状は、矩形に限定されず、楕円を含む円形であってもよい。
【0039】
切欠部8は、図3に示すように、その(切欠深さH2)が(横ビード7の断面高さH1)の1/3以上であることが好ましい。(切欠深さH2)が(横ビード7の断面高さH1)の1/3未満であると、切欠部8を切り欠いた後の後側傾斜面9aが、頭部衝突の際に、横ビード7の変形の妨げとなりやすい。
【0040】
なお、インナーパネル3における形状不整合部8Aの配置は、全ての横ビード7に形状不整合部8Aを有する配置を図2に図示したが、このような配置に限定されることはない。一部の横ビード7のみが形状不整合部8Aを有する配置であってもよい(図示せず)。
【0041】
図5(c)に示すように、横ビード7は、後側傾斜面9aに加えて、横ビード7の長手方向の両端部の少なくとも一方において、接合面5からパネル平面6まで連続する端部傾斜面9cの少なくとも一部にも変形を助長する形状不整合部8Aを有してもよい。
【0042】
なお、端部傾斜面9cでの形状不整合部8Aの配置は、図示しないが、全ての横ビード7の両端部の位置に形成した例が好ましい。しかしながら、変形を助長する目的が達成されれば、例えば、図示しないが、一方の端部の位置に形状不整合部8Aを形成した横ビード7と他方の端部の位置に形状不整合部8Aを形成した横ビード7とを配置した例、一方の端部の位置に形状不整合部8Aを形成した横ビード7と両端部の位置に形状不整合部8Aを形成した横ビード7とを配置した例、または、一部の横ビード7の端部傾斜面9cにのみ形状不整合部8Aを配置した例であっても構わない。
(パネル平面)
図3に示すように、パネル平面6は横ビード7と隣り合う位置に形成されるもので、パネル平面6の幅は、横ビード7のピッチFP、および、アウター周縁部2aと接着部11との間隔L(図4参照)が所定範囲を満足するように適宜設定される。
【0043】
前記したように、本発明に係る自動車用フード1は、アウターパネル2のアウター周縁部2aとインナーパネル3のインナー周縁部3aとを接合することにより、両パネル2、3の所定位置の間に、枠凹部4およびパネル平面6から形成された空間部10を形成すると共に、横ビード7の頂部に形成された接合面5をアウターパネル2に接着部11を介して接着(接合)し、かつ、車両進行方向の後方側において、横ビード7が形状不整合部8Aを有する断面構造を備える(図2〜図4参照)。または、横ビード7が後側傾斜面9aに加えて端部傾斜面9cにも形状不整合部8Aを有する断面構造を備える(図5(c)参照)。
【0044】
(歩行者保護性能向上の機構)
図6(a)に示すように、自動車用フード1が前記のような断面構造、特に、横ビード7の後側傾斜面9aに形状不整合部8A(切欠部8)を有する断面構造、または、横ビード7が後側傾斜面9aに加えて端部傾斜面9cに形状不整合部8A(切欠部8)(図5(c)参照)を有する断面構造を備えることにより、自動車用フード1の斜め上方から頭部が衝突した際には、横ビード7の前側傾斜面9bが切欠部8側に倒れ込み、横ビード7が容易に変形する。すなわち、従来の自動車用フード21のように、後側傾斜面25a(図14(b)参照)によって横ビード25の変形が妨げられることがない。
【0045】
そして、自動車用フード1の斜め上方から頭部が衝突した際の加速度は、図7(a)、(b)の実線に示すような加速度推移をとる。図7(a)、(b)に示すように、自動車用フード1では横ビード7の後側傾斜面9aに形状不整合部8A(切欠部8)を有するため、従来の自動車用フード21、および、縦ビード(クラッシュビードあり)を有する自動車用フードに比べて、1次衝突の際のエネルギー吸収量は減少するが、変形荷重が小さいので、有効ストロークが増大して、2次衝突の際の加速度が大幅に減少する。このような加速度推移から、前記した数式(1)によって計算された歩行者保護性能の指標となるHIC値は、任意時間内の平均加速度が減少することにより、小さいものとなる。したがって、自動車用フード1は歩行者保護性能が向上することがわかる。
【0046】
一方、図6(b)に示すように、横ビード7の後側傾斜面9aの代わりに前側傾斜面9b(図6(a)参照)を切り欠いた自動車用フード31では、自動車用フード31の斜め上方から頭部が衝突した際には、後側傾斜面9aが屈曲して重なり合い、変形荷重が大きな部分が形成される。その結果、横ビード7が容易には変形しなくなり、2次衝突の際の加速度が増大する。そのため、HIC値は大きいものとなる。
【0047】
(剛性確保の機構)
図3、図4に示すように、自動車用フード1では、枠凹部4およびパネル平面6により形成された空間部10により、フードの断面部面積が確保されるため、フードとして必要とされる曲げ剛性、ねじり剛性が得られる。それと共に、横ビード7の接合面5が接着部11を介してアウターパネル2に接合(接着)するため、フードとして必要とされる張り剛性、耐デント性が得られる。
【0048】
次に、本発明に係る自動車用フードの変形例について説明する。
図8(a)、(b)は自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図、図9(a)は図8(a)の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図、(b)は別の形態の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図、図10は自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの端部を切断した状態での拡大斜視図、図11(a)、(b)は自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図、図12(a)〜(c)、図13(a)〜(c)は自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図である。
【0049】
本発明に係る自動車用フード1は、前記した形状不整合部8Aとして、衝突の際の変形を助長する目的が達成されれば、切欠部8(図6(a)参照)の代わりに、平坦部13(図8(a)参照)または棚部14(図8(b))を横ビードの後側傾斜面9aの少なくとも一部に有してもよい。また、インナーパネル3における形状不整合部8A(平坦部13または棚部14)の配置は、前記した切欠部8の場合と同様である。さらに、後側傾斜面9aに加えて、端部傾斜面9c(図5参照)の少なくとも一部にも平坦部13または棚部14を有してもよい(図示せず)。
【0050】
図9(a)に示すように、自動車用フード1が、横ビードの後側傾斜面9aに形状不整合部8A(平坦部13)を有する断面構造を備えることにより、自動車用フード1の斜め上方から頭部が衝突した際には、横ビードの後側傾斜面9aの変形により、横ビード(前側傾斜面9b)が容易に変形する。そのため、有効ストロークが増大して、2次衝突の際の加速度が大幅に減少する。したがって、HIC値が小さいものとなる。
【0051】
一方、図9(b)に示すように、横ビードの前側傾斜面9bに形状不整合部8A(平坦部13)を有する自動車用フード32では、自動車用フード32の斜め上方から頭部が衝突した際には、前側傾斜面9bの変形により、横ビード7(後側傾斜面9a)の変形が阻害される。そのため、有効ストロークが減少して、2次衝突の際の加速度が増加する。したがって、HIC値が大きいものとなる。
【0052】
図2に示すように、自動車用フード1に歩行者が衝突した際、歩行者が子供であるか、大人であるかによって、その衝突領域が異なる。そして、車両進行方向に対して、自動車用フード1の前側は子供が衝突する子供衝突領域CAであり、自動車用フード1の後側は大人が衝突する大人衝突領域AAである。
【0053】
本発明に係る自動車用フード1は、前側(子供衝突領域CA)と後側(大人衝突領域AA)とで、以下に示すような形状変更を行ってもよい(図10、図11参照)。
【0054】
インナーパネル3は、その板厚T(図10参照)を前側で薄く、後側で厚くするようにしても構わない。このように板厚Tの変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード1の前側では、変形荷重が小さくなる。また、自動車用フード1の後側では、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。
【0055】
インナーパネル3は、横ビード7の幅W2、断面高さH3(図10参照)を前側で小さく、低く、後側で大きく、高くするようにしても構わない。このような幅W2、高さH3の変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード1の後側では、剛性が向上すると共に、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。また、自動車用フード1の前側では、変形荷重が小さくなる。
【0056】
インナーパネル3は、横ビード7の断面R1、R2(図10参照)を前側で大きく、後側で小さくするようにしても構わない。このような断面R1、R2の変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード1の前側では、変形荷重が小さくなる。また、自動車用フード1の後側では、剛性が向上すると共に、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。
【0057】
インナーパネル3は、横ビード7の斜面角度α(図10参照)を前側で小さく、後側で大きくするようにしても構わない。このような斜面角度αの変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード1の前側では、変形荷重が小さくなる。また、自動車用フード1の後側では、剛性が向上すると共に、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。
【0058】
インナーパネル3は、横ビード7(接合面5)における接着部11のピッチMPを、張り剛性および耐デント性が要求される前側で小さくするようにしても構わない。
【0059】
本発明に係る自動車用フード1は、インナーパネル3の横ビード7として、前側傾斜面9bに平坦部13を形成した横ビード7A(図11(a)参照)、前側傾斜面9bに棚部14または接合面5に凹部15を形成した横ビード7B(図11(b)参照)を使用してもよい。平坦部13、棚部14または凹部15の形成によって、衝突の際の横ビード7A、7Bの変形が助長される。
なお、ここで、前側傾斜面9bの平坦部13または棚部14が定常な部分であり、後側傾斜面9aの切欠部8が非定常な部分(形状不整合部8A)である。
【0060】
本発明に係る自動車用フード1は、インナーパネル3の横ビード7として、図12(a)〜(c)に示すように、形状不整合部8Aとして後側傾斜面9aに切欠部8と共に平坦部13を有する横ビード7C〜7Eを使用してもよい。また、図12(a)では、前側傾斜面9bに平坦部13を有する。
図12(a)、(b)は後側傾斜面9aの略中央部に平坦部13を有し、パネル平面6側に切欠部8を有する例、図12(c)は後側傾斜面9aの略中央部に平坦部13を有し、接合面5側に切欠部8を有する例である。
なお、ここで、前側傾斜面9bの平坦部13(図12(a))または滑らかな傾斜面(図12(b)、(c))が定常な部分であり、後側傾斜面9aの平坦部13および切欠部8(図12(a)〜(c))が非定常な部分である。
【0061】
また、図13(a)〜(c)に示すように、切欠部8と共に、平坦部13の代わりに棚部14を有する横ビード7F〜7Hを使用してもよい。また、図13(a)では、前側傾斜面9bに棚部14を有する。
なお、ここで、前側傾斜面9bの棚部14(図13(a))または滑らかな傾斜面(図13(b)、(c))が定常な部分であり、後側傾斜面9aの棚部14および切欠部8(図13(a)〜(c))が非定常な部分である。
【0062】
自動車用フード1は、アウターパネル2の外形、デザインによる段差に合わせて、横ビード7の幅W2、断面高さH3を適宜変更、または、横ビード7を分岐させてもよい(図示せず)。また、フードサイレンサー、ウオシャーホース、クッションゴム等の取付、塗装の際の液ぬき等を目的として、インナーパネル3に穴部(図示せず)を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る自動車用フードの構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明に係る自動車用フードの構成を示す斜視図である。
【図3】図2の自動車用フードの車両進行方向(A−A線)の端面図である。
【図4】図2の自動車用フードの車両進行方向に直交する車幅方向(B−B線)の端面図である。
【図5】(a)は図2の自動車用フードの横ビードの平面図、(b)、(c)は(a)の変形例を示す平面図である。
【図6】(a)は図2の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図、(b)は別の形態の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図である。
【図7】自動車用フードにおける、(a)は頭部衝突の際の加速度とストロークとの関係を示す説明図、(b)は加速度と時間との関係を示す説明図である。
【図8】(a)、(b)は本発明に係る自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図である。
【図9】(a)は図8(a)の横ビードを有する自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図、(b)は別の形態の自動車用フードの2次衝突の際の横ビードの変形状態を示す模式図である。
【図10】本発明に係る自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの端部を切断した状態での拡大斜視図である。
【図11】(a)、(b)は本発明に係る自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図である。
【図12】(a)〜(c)は本発明に係る自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図である。
【図13】(a)〜(c)は本発明に係る自動車用フードのインナーパネルにおける横ビードの変形例を示す端面図である。
【図14】従来の自動車用フードの構成を示す、(a)は斜視図、(b)は(a)の車両進行方向(A−A線)の端面図、(c)は(a)の車両進行方向に直交する車幅方向(B−B線)の端面図である。
【図15】従来の自動車用フードにおける、(a)は頭部衝突の際の加速度とストロークとの関係を示す説明図、(b)は加速度と時間との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1 自動車用フード
2 アウターパネル
2a アウター周縁部
3 インナーパネル
3a インナー周縁部
4 枠凹部
5 接合面
6 パネル平面
7 横ビード
8 切欠部
8A 形状不整合部
9a 後側傾斜面
9c 端部傾斜面
10 空間部
13 平坦部
14 棚部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターパネルとインナーパネルとをそれぞれの周縁部で接合すると共に、両パネルが接合したときに両パネルの間に空間部を形成した断面構造を備える自動車用フードにおいて、
前記インナーパネルは、前記アウターパネルのアウター周縁部と接合するインナー周縁部と、前記インナー周縁部に連続して形成され前記アウターパネルとの間に前記空間部を形成する枠凹部と、前記枠凹部よりパネル中央側で車両進行方向に対して直交する方向に形成されると共に、前記アウターパネルに接合する接合面を有する凸状の複数の横ビードと、前記横ビードと隣り合い前記アウターパネルとの間に前記空間部を形成するパネル平面とを備え、
前記横ビードは、車両進行方向の後方側において、前記接合面から前記パネル平面まで連続する後側傾斜面の少なくとも一部に衝突の際の変形を助長する形状不整合部を有することを特徴とする自動車用フード。
【請求項2】
前記横ビードは、前記後側傾斜面に加えて、当該横ビードの長手方向の両端部の少なくとも一方において、前記接合面から前記パネル平面まで連続する端部傾斜面の少なくとも一部に衝突の際の変形を助長する前記形状不整合部を有することを特徴とする請求項1に記載の自動車用フード。
【請求項3】
前記形状不整合部が、切欠部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車用フード。
【請求項4】
前記形状不整合部が、平坦部または棚部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車用フード。
【請求項1】
アウターパネルとインナーパネルとをそれぞれの周縁部で接合すると共に、両パネルが接合したときに両パネルの間に空間部を形成した断面構造を備える自動車用フードにおいて、
前記インナーパネルは、前記アウターパネルのアウター周縁部と接合するインナー周縁部と、前記インナー周縁部に連続して形成され前記アウターパネルとの間に前記空間部を形成する枠凹部と、前記枠凹部よりパネル中央側で車両進行方向に対して直交する方向に形成されると共に、前記アウターパネルに接合する接合面を有する凸状の複数の横ビードと、前記横ビードと隣り合い前記アウターパネルとの間に前記空間部を形成するパネル平面とを備え、
前記横ビードは、車両進行方向の後方側において、前記接合面から前記パネル平面まで連続する後側傾斜面の少なくとも一部に衝突の際の変形を助長する形状不整合部を有することを特徴とする自動車用フード。
【請求項2】
前記横ビードは、前記後側傾斜面に加えて、当該横ビードの長手方向の両端部の少なくとも一方において、前記接合面から前記パネル平面まで連続する端部傾斜面の少なくとも一部に衝突の際の変形を助長する前記形状不整合部を有することを特徴とする請求項1に記載の自動車用フード。
【請求項3】
前記形状不整合部が、切欠部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車用フード。
【請求項4】
前記形状不整合部が、平坦部または棚部であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車用フード。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−24193(P2008−24193A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200091(P2006−200091)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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