説明

自動車用フード

【課題】自動車用フードの周縁部に求められる基本性能を満足すると同時に、歩行者保護性能に優れた自動車用フードを提供することにある。
【解決手段】アウターパネル20とインナーパネル1が接合したときに両パネルの間に空間部A1,A2を形成して断面構造を備える自動車用フード30において、前記インナーパネル1は、車両進行方向に直交する横ビード2と、隣り合う横ビード2の長手方向における両端部分を互いに接続する接続ビード3とを備え、前記接続ビードの頂部となる接続平面3aから底面5まで連続するように形成した第1傾斜面4a,4aを有し、第1傾斜面の傾斜角度について、傾斜面と接続平面との境から底面までの同一平面上における距離をLとし、底面あから接続平面までの高さをhとしたときに、1.5h<Lの関係とし、かつ、底面の中央までの距離をDとしたき、L<Dの関係の位置になることにより設定されるように構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウターパネルとインナーパネルとを接合して用いられる自動車用フードに係り、特に、衝突時のエネルギー吸収に優れた自動車用フードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車事故における歩行者保護が法規化され、歩行者保護性能が自動車用フードのレーティングの指標としても注目されている。一方で、自動車は、エンジシの高出力化により、エンジンが大型化されると共に、多機能化によりエンジンルーム内の設置構造物も増加するため、歩行者保護に必要なフード下のスペースも小さくなってきている。そのため、スポーティなデザインと歩行者保護性能とを両立するためには、小スペースで効率よく衝突エネルギーを吸収できる自動車用フードの開発が重要である。
【0003】
このような要求を満足する自動車用フードとして特許文献1では、アウターパネルとインナーパネルとを接合したときに両パネルの間に空間部を介した断面構造を備えるフード構造を持った自動車用フードが提案されている。また、前記空間を形成するために、インナーパネルに深さの異なる複数のディンプルを形成したフード構造ついても提案されている。
【0004】
従来の自動車用フードを図14ないし図16に示す。図14(a)は従来の自動車用フードの構成を示す斜視図、(b)は(a)のY−Y線端面図、(c)は(a)のX−X線端面図、図15(a)は、図14(a)の自動車用フードのa点における頭部衝突の際の加速度とストロークとの関係を示す説明図、(b)は、図14(a)の自動車用フードのa点における頭部衝突の際の加速度と時間との関係を示す説明図、(c)は、図14(a)のXIdにおける部分の端面図、(d)は、図14(a)のXIcにおける部分の端面図、(e)は、図14(a)のXIeにおける部分の端面図、図16(a)は従来の自動車用フードにおける頭部衝突状態を模式的に示す模式図、(b)は自動車用フードの中央における頭部衝突の際の加速度と時間との関係を示す説明図、(c)は(b)の頭部衝突の際の加速度とストロークとの関係を示す説明図である。
【0005】
図14(a)、(b)、(c)に示すように、自動車用フード(波状ビード型フード構造)121は、所定の曲率を有するアウターパネル122と、周縁部に凹状部125を、中央部に車両前進方向に直交する方向に凸状の波型ビード129を複数有するインナーパネル123とから構成され、アウターパネル122の周縁部と、インナーパネル123の凹状部125の端部をヘム加工などによって接合することによって、凹状部125と波型ビード129の位置に空間部124を介した断面構造をとっている。また、波型ビード129の頂部上に接着部127を所定間隔に配置し、この接着部127を介して、波型ビード129とアウターパネル122の裏面とが接着されている。
【0006】
また、自動車用フードの歩行者保護性能は、一般には頭部傷害値(以下HIC値と略す)により評価され、HIC値は、下式(1)(任意時間内の平均加速度の2.5乗と発生時間の積の最大値)で与えられる。そして、HIC値が小さいほど、歩行者保護性能が優れている。
【0007】
【数1】

【0008】
ここで、aは頭部重心における3軸合成加速度(単位はG)、t1、t2は0<t1<t2となる時間tでHIC値が最大となる時間で、計算時間(t2−t1)は15msec以下と決められている。
【0009】
図16(b)、(c)に示すように、歩行者の頭部が自動車用フードに衝突するときの加速度は、通常、頭部が自動車用フードに衝突して発生する1次衝突加速度と、その後、自動車用フード121がエンジンルーム内のエンジン等の設置構造物に接触して発生する2次衝突加速度に大別できる。なお、インナーパネルの構造がある程度異なる自動車用フード(コーン型フード構造、ビーム型フード構造)においても、1次衝突加速度と2次衝突加速度の大小関係に差異はあるが、図16(b)、(c)と同様な加速度aと時間tとの関係、および加速度aとストロークSとの関係を示すことになる。
【0010】
一方、自動車用フードは、張り剛性、耐デント性、曲げ剛性、ねじり剛性など、従来から求められる基本性能も満足しなければならない。張り剛性は、ワックスがけや自動車用フードをロックする際に押込む時の弾性変形を抑制するために必要であり、アウターパネルのヤング率と板厚、および、アウターパネルとインナーパネルの接合位置(接着部127の接着位置)により決定される。耐デント性は、飛石などにより残留する塑性変形を抑制するために必要で、アウターパネルの耐力と板厚に影響を受ける。曲げ剛性は、自動車用フードをロックする際の引込み力と、クッションゴム、ダンパーステイ、シールゴムなどの反力により発生する自動車用フード周縁部の弾性変形を抑制するために必要であり、自動車用フード周縁部のインナーパネルおよびリインフォースメントの形状(断面二次モーメント)、ヤング率に影響される。ねじり剛性は、自動車用フード周縁部の曲げ剛性と、インナーパネル中央部の板厚および形状に影響される。
【特許文献1】特許第3674918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
自動車用フードは、これらの基本性能と歩行者保護性能の両方を満足しなければならないが、自動車用フードとエンジン等の設置構造物との間となる自動車用フード下方のスペースが制限されるため、基本性能だけを満足するように材質、板厚、形状を設計したフードでは歩行者保護性能を満足できない場合が多い。
【0012】
そして、前記した従来の自動車用フード121においては、自動車用フード下のスペースが小さい場合には、図16(b)、(c)に示すように、1次衝突よりも2次衝突の方が発生する加速度が大きく、継続時間も長くなるため、2次衝突の加速度が上式(1)で計算されるHIC値に悪影響を与える(HIC値が満足するレベルに達しない)。また、特に曲げ剛性が要求される自動車用フード121の周縁部では、インナーパネル123の波型ビード129の断面二次モーメントを大きくしなければならず、さらに、張り剛性も確保する必要があるために、図15(c)、(d)、(e)に示すように、波型ビード129の両端側の位置においてつぶれ変形しにくい。そのため、図15(a)、(b)に示すように、2次衝突の際の加速度を低減できず、歩行者保護性能を向上させることができないという問題がある。
【0013】
歩行者保護性能を向上するため前記した問題を自動車用フードのフード構造で解決するための1つの対策は、1次衝突の際のエネルギー吸収量を保持または増大すると同時に、フードのつぶれ変形荷重を低下させ、2次衝突の際の加速度を低減することにある。これを実現するためには、インナーパネル123の波型ビード129の両端側の傾斜面129aの形状をつぶれやすい形状にする方法、具体的には、波型ビードの傾斜面129aの形状を緩やかにする(傾斜面129aの傾斜角度αを小さくする)方法が考えられる。しかしながら、図14に示す波型ビード129において、単に傾斜面129aの傾斜角度αを小さくすると、インナーパネルの両端におけるアウターパネルの接合位置が、アウターパネルの周縁部から遠くなり、自動車用フードの張り剛性を確保することができないので、アウターパネル122の弾性変形量が大きくなる。
【0014】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、その目的は、自動車用フードの中央はもとより、特に自動車用フードの周縁部に求められる基本性能を満足すると同時に、歩行者保護性能に優れた自動車用フードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、アウターパネルのアウター周縁部とインナーパネルのインナー周縁部とを接合すると共に、両パネルが接合したときに両パネルの間に空間部を形成して断面構造を備える自動車用フードにおいて、前記インナーパネルは、車両進行方向に対して直交する方向に凸状に形成される複数の横ビードと、隣り合う前記横ビードの長手方向における両端部分を互いに接続するように凸状に延出して形成した接続ビードと、前記横ビードの頂部を前記アウターパネルに接合するように形成した接合面と、前記接続ビードの頂部を前記接合面と同一平面で連続するように形成した接続平面と、この接続平面から前記横ビードおよび接続ビードで囲まれて底となる底面まで連続するように形成した第1傾斜面と、この第1傾斜面に隣接すると共に前記接合面から前記底面まで連続するように形成した第2傾斜面と、前記横ビードおよび接続ビードの領域を枠状に囲む縁枠部分に形成した枠凹部と、を備えている。そして、この自動車用フードは、前記空間部として、前記アウターパネルと前記インナーパネルの前記枠凹部との間、および、前記アウターパネルの前記底面との間に形成し、さらに、前記第1傾斜面の傾斜角度について、前記接続平面と傾斜面との境から前記底面までの同一平面上における距離をLとし、前記接続平面から前記底面までの高さをhとしたときに、1.5h<Lの条件となるように設定された構成とした。
【0016】
このように構成したことにより、自動車用フードは、インナーパネルのインナー周縁部あるいはアウターパネルのアウター周縁部から、インナーパネルの横ビードの両端位置までを、従来の自動車用フードと同等の位置を保つことができる。また、隣接する横ビードが接続ビードにより各横ビード間に連続しているので、歩行者の頭部が衝突したときには、連続した線がつぶれる曲げ変形になると共に、フードのつぶれ変形荷重が小さくなりストロークが確保されるため、2次衝突加速度が低減される。
【0017】
また、請求項2に係る発明は、請求項1の自動車用フードにおいて、前記接続平面部を接合面と同一平面に設けるのではなく、接合面に対して低くなるように段差を設けて連続させる構成とした。
このように構成することで、自動車用フードは、横ビードの両端位置におけるマスチックポイント(アウターパネルとの接合位置)をインナー周縁部から距離を開けることなく、横ビードの第1傾斜面をよりなだらかに設定できる。
【0018】
さらに、請求項3に係る発明は、アウターパネルのアウター周縁部とインナーパネルのインナー周縁部とを接合すると共に、両パネルが接合したときに両パネルの間に空間部を形成して断面構造を備える自動車用フードにおいて、前記インナーパネルは、車両進行方向とほぼ平行に凸状に形成される複数の縦ビードと、隣り合う前記縦ビードの長手方向における一端側および他端側の少なくとも一方を互いに接続するように凸状に延出して形成した接続ビードと、前記縦ビードの頂部を前記アウターパネルに接合するように形成した接合面と、前記接続ビードの頂部を前記接合面と同一平面で連続するように形成した接続平面と、この接続平面から前記縦ビードおよび接続ビードで囲まれて底となる底面まで連続するように形成した第1傾斜面と、この第1傾斜面に隣接すると共に前記接合面から前記底面まで連続するように形成した第2傾斜面と、前記縦ビードおよび接続ビードの領域を枠状に囲む縁枠部分に形成した枠凹部と、を備え、前記空間部は、前記アウターパネルと前記インナーパネルの前記枠凹部との間、および、前記アウターパネルと前記インナーパネルの前記底面との間に形成し、前記第1傾斜面の傾斜角度は、前記接続平面と傾斜面との境から前記底面までの同一平面上における距離をLとし、前記接続平面から前記底面までの高さをhとしたときに、1.5h<Lの条件となるように設定された自動車用フードとして構成とした。
【0019】
このように構成したことにより、自動車用フードは、インナーパネルのインナー周縁部あるいはアウターパネルのアウター周縁部から、インナーパネルの縦ビードの両端位置までを、従来の自動車用フードと同等の位置を保つことができる。また、隣接する縦ビードが接続ビードにより各縦ビード間に連続しているので、歩行者の頭部が衝突したときには、連続した線がつぶれる曲げ変形になると共に、フードのつぶれ変形荷重が小さくなりストロークが確保されるため、2次衝突加速度が低減される。
【0020】
そして、請求項4に係る発明は、請求項3の自動車用フードにおいて、前記接続平面部を接合面と同一平面に設けるのではなく、接合面に対して低くなるように段差を設けて連続させる構成とした。
このように構成することで、自動車用フードは、縦ビードの両端位置におけるマスチックポイント(アウターパネルとの接合位置)をインナー周縁部から距離を開けることなく、縦ビードの第1傾斜面をよりなだらかに設定できる。
【0021】
さらに、請求項5に係る発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかの自動車用フードにおいて、前記Lは、前記1.5h<Lの条件を満たし、かつ、長手方向における前記底面の両端の一方から中央までの距離をDとしたとき、L<Dになることにより設定される構成としたものである。
このように構成したことにより、自動車用フードは、第1傾斜面の強度を確保して、フードのつぶれ変形荷重が小さくなりストロークが確保されるため、2次衝突加速度が低減される。
【0022】
そして、請求項6に係る発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか一項の自動車用フードにおいて、前記第1傾斜面の少なくとも一部を切り欠いて切欠部として構成したものである。
このように構成したことにより、自動車用フードは、第1傾斜面の強度を切欠部により調整して、フードのつぶれ変形荷重が小さくなりストロークが確保できるようにして、2次衝突加速度の低減を図ることができる。
【0023】
また、請求項7に係る発明は、請求項1ないし請求項6のいずれか一項の自動車用フードにおいて、前記ビードの底面が、長手方向に沿って所定間隔においてトリム穴を形成した自動車用フードとして構成したものである。
このように構成したことにより、頭部衝突の際、1次衝突でのエネルギー吸収量がより一層増大するため、2次衝突加速度がより一層低減される。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る自動車用フードは、横ビードあるいは縦ビードに接続する接続ビードの接続平面から底面に連続する第1傾斜面をなだらかに構成することができるため、自動車用フードとしての基本性能(張り剛性、耐デント性、曲げ剛性、ねじり剛性など)を満足すると同時に、自動車用フードの中央部および周縁部のいずれにおいても、HIC値が小さくなり、歩行者保護性能に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。
図1は、自動車用フードをインナーパネルとアウターパネルに分離して示す分解斜視図、図2は、図1におけるY−Y線での断面を模式的に示す縦端面図、(b)は、図1におけるX−X線での断面を模式的に示す横端面図、(c)は、(b)における2点鎖線の円で囲む位置において拡大して模式的に示す端面図、図3は、自動車用フードのインナーパネルの衝撃位置について例示して示す斜視図である。
【0026】
[第1の実施の形態]
図1および図2に示すように、自動車用フード30は、アウターパネル20とインナーパネル1とを接合すると共に、両パネル20、1が接合したときに両パネル20、1の所定位置の間に空間部A1、A2を介して断面構造を形成するものである。
【0027】
<アウターパネル>
図1に示すように、アウターパネル20は、平面状に形成され、あるいは、所定の曲率を有し、軽量で高張力な金属製板材で構成され、素材金属として鋼、または、3000系、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金であることが好ましい。また、アウターパネル20の板厚は、例えば、鋼板では1.1mm以下、アルミニウム合金板では1.5mm以下が好ましい。なお、アウターパネル20は、樹脂製、カーボンファイバー製の板材で構成されていてもよい。また、アウターパネル20は、その周縁部において、ヘム加工等による嵌合、接着、ろう付け等によって後記するインナーパネル1の周縁部と接合され、アウターパネル20とインナーパネル1との間に空間部A1,A2を介して断面構造を形成する。
【0028】
<インナーパネル>
図1ないし図3に示すように、インナーパネル1は、パネル中央部分に、複数の横ビード2および接続ビード3を備えると共に、そのパネル中央部分を枠状に囲む縁枠部分に枠凹部7を備え、この枠凹部7の縁となる位置にインナー周縁部8を有している。このインナーパネル1は、軽量で高張力な金属製板材で構成され、金属として鋼、または、3000系、5000系、6000系あるいは7000系のアルミニウム合金であることが好ましい。
【0029】
インナーパネル1の板厚Tは、特に自動車用フード30が使用される自動車の車種によって決定される曲げ剛性によって選択され、その適正値はアルミニウム合金板の場合には0.7〜1.5mm、鋼板の場合には0.5〜1.1mmが好ましい。板厚Tが下限値未満であると、自動車用フード30の曲げ剛性が不足しやすく、板厚Tが上限値を超えると、つぶれ変形荷重が増大するため、歩行者保護性能が低下しやすい。なお、インナーパネル1だけで曲げ剛性を確保せずに、リインフォースメント(図示せず)を設置する構成にしても構わない。
【0030】
図3および図2(a)、(b)に示すように、横ビード2は、車両進行方向に直交する方向に複数(図面では4本)が形成され、その長手方向における両端部分を互いに凸状に延出した接続ビード3により接続されている。この横ビード2は、アウターパネル20の下面に対して上に凸状(あるいは上に凹状)に形成されており、その頂部をアウターパネル20の下面に接合する接合面2aとしている。
また、接続ビード3は、横ビード2の長手方向における両端部分を当該横ビード2にほぼ直交する方向に凸状に延出して連続するように形成されている。そして、この接続ビード3は、その頂部となる面を横ビード2の接合面2aと同一平面になるように接続平面3aとして形成している。
なお、横ビード2および接続ビード3は、アウターパネル20の裏面側に向かって張り出した断面がなだらかな円弧状あるいは長手方向に畝状の凸条として形成されてもよい。
【0031】
横ビード2および接続ビード3は、頂部となる位置に形成した接合面2a,2aおよび接続平面3a,3aと、この接合面2a,2aおよび接続平面3a,3aにより囲まれる位置の底となる底面5から接続平面3a,3aまで連続して形成される第1傾斜面4a、4aと、この第1傾斜面4a、4aに隣接して接合面2a,2aから底面5まで連続して形成される第2傾斜面4b,4bと、接合面2aから枠凹部7に連続する第3傾斜面4c,4cと、この第3傾斜面4c,4cの両端側に隣接すると共に、接続平面3a、3aから枠凹部7に連続する第4傾斜面4d,4dと、を備えている。
【0032】
横ビード2の接合面2aおよび接続ビード3の接続平面3aは、ここでは同一高さで、かつ、同一幅となるように形成されている。この接合面2aは、アウターパネル20との接合するためのピッチMP(図7参照)が、所定の間隔で接合されるように構成されている。なお、図面では、接合面2aにのみアウターパネル20との接合位置(接合ピッチ:○印で示す部位)を配置しているが、接続平面3aの位置においてもアウターパネル20との接合位置を配置する構成としても構わない。
【0033】
図2(c)に示すように、第1傾斜面4aは、その傾斜角度βを、接続平面3aと傾斜面との境から底面5までの同一平面上における距離をLとし、接続平面3aから底面5までの高さをhとしたときに、1.5h<Lの関係とし、かつ、図2(b)に示すように、底面5の長手方向における両端の一方から中央までの距離をDとしたとき、L<D、つまり、LがDを超えないように設定されている。この第1傾斜面4aは、自動車用フード30の歩行者保護性能に影響し、接合面2aの接合ポイントをパネル中央側に移動することなく、傾斜角度βをなだらかにすることができるため、歩行者の頭部がアウターパネル20を介してインナーパネル1の周縁部分に衝突したときに、2次衝突加速度を抑制してHIC値を小さくすることができる。
【0034】
第1傾斜面4aの傾斜角度βは、高さhと距離Lとの関係において、高さ1.5hと距離Lが1.5h≧Lの関係であると、傾斜角度βが大きくなり、つぶれ変形荷重が増大して頭部衝突時の有効ストロークが減少し、インナーパネル1の横ビード2の両端側においてつぶれ難くなる。また、第1傾斜面4aの下端の位置がDと同等あるいはDを超える位置に設定されると、今度は、傾斜角度βが小さくなりすぎて、中央部の曲げ剛性が小さくなるため、パネル中央部に衝突した際の一次衝突エネルギーを十分に確保できない。
【0035】
また、第4傾斜面4dは、各横ビード2の設置範囲において連続する平面となり、その傾斜角度γが、所定の範囲となるように形成されている。
さらに、第2傾斜面4bおよび第3傾斜面4cは、その傾斜角度が所定の範囲になるように形成されている。第2傾斜面4b、第3傾斜面4cおよび第4傾斜面4dは、横ビード2の高さあるいはピッチFP(図12参照)等により設定される。
【0036】
横ビード2および接続ビード3の断面高さH3(凸高さあるいは凹高さ)の適正値は、アルミニウム合金製板材、鋼製板材の場合には、3〜30mmであり、ピッチFPが30〜200mmであることが好ましい。断面高さH3が下限値未満およびピッチFPが上限値を超える場合であると、アウターパネル20の板厚Tを上限値に設定しても、横ビード2の曲げ剛性が低下しやすく、パネル中央部の張り剛性が不足する。断面高さH3が、下限値未満であると前記板厚Tを上限値に設定しても、横ビード2および接続ビード3の凹凸形状による剛性の向上効果が小さくなりやすい。その結果、頭部衝突の際に、衝突位置の近傍だけが変形して、衝突位置の周囲に応力が伝播しないため、インナーパネル1およびアウターパネル20の質量が慣性力として有効に作用しにくく、1次衝突の際に十分なエネルギー吸収量が確保されずHIC値が悪化しやすい。また、断面高さH3が、上限値を超えると、自動車用フード30下方のスペースにもよるが、インナーパネル1がエンジン等の構造設置物に衝突するタイミングが早くなりやすく、2次衝突加速度が増大してHIC値が大きくなりやすい。
【0037】
インナーパネル1の板厚T、断面高さH3の両方が上限値に近い場合には、横ビード2および接続ビード3の各傾斜面の傾斜角度でつぶれ変形荷重を調整することにより、HIC値の悪化を防止できるが、アウターパネル20とインナーパネル1との接合(接着)間隔が広がりやすく、アウターパネル20の張り剛性を確保しにくくなる。また、インナーパネル1の板厚Tおよび断面高さH3の両方が下限値に近い場合には、インナーパネル1の剛性が不足する。したがって、板厚T、高さH3は、両者の値が設定される範囲の中間の値をとることが好ましく、また、いずれか一方が上限値に近い値である場合には、他方は上限値に遠くなる値に設定されることが好ましい。
【0038】
図1および図2(a)、(b)に示すように、インナーパネル1の枠凹部7は、その形状が、自動車用フード30の周縁における剛性、歩行者保護性能に影響し、また、形状を決定する断面高さH1、H2(外側と内側)の適正値は、5mm<H1<60mm、10mm<H2<80mm、20mm<H1+H2<120mmが好ましい。断面高さH1、H2が下限値以下では、自動車用フード30の曲げ剛性が不足しやすい、断面高さH1、H2が上限値以上では、インナーパネル1がエンジン等の設置構造物に接触するタイミングが早いため、2次衝突加速度が増大してHIC値が大きくなりやすい(歩行者保護性能が低下しやすい)。
【0039】
図1および図2(a)、(b)に示すように、インナー周縁部8は、アウターパネル20のアウター周縁部21と接合するように枠凹部7の外周側を折り曲げて形成されている。このインナー周縁部8とアウターパネル20のアウター周縁部21の接合は、機械的接合、例えば、ヘム加工によって接合することが好ましいが、溶接、樹脂層等による接着等でもよい。
【0040】
底面5は、アウターパネル20の曲率形状に沿った状態に形成されており、第1傾斜面4a,4aおよび第2傾斜面4b,4bにより囲まれる位置に形成されている。この底面5は、長手方向においてトリム穴6(図1参照)を所定間隔において形成するように構成しても構わない。底面5にトリム穴6を形成することにより自動車用フード30の剛性の調整を行うことができる。なお、トリム穴6は、剛性を小さくしたい部位に形成されるものであり、すべての底面5に設けることや、また、一つおきの底面5に設ける構成としても構わない。
【0041】
(歩行者保護性能)
図4(a)は、図3に示す自動車用フードにおいてa点における頭部衝突の際の加速度とストロークとの関係を示す説明図、(b)はa点における頭部衝突の際の加速度と時間との関係を示す説明図、図5(a)、(c)、(d)はそれぞれ図3のVa、Vb、Vc方向からの頭部衝突の状態を模式的に示す模式図である。
【0042】
自動車用フード30では、前記のような断面構造を備えることにより、図3に示すa点において頭部衝突の際の加速度は、図4(a)の実線に示すような加速度推移をとる。図4(a)に示すように、自動車用フード30では、従来の自動車用フードに比べて、1次衝突の際の加速度が増大し、1次衝突の際のエネルギー吸収量が増大する。また、自動車用フード30のつぶれ変形量が増大してつぶれ残りが小さくなり、ストロークが増大する。その結果、2次衝突の際の加速度が減少する。このような加速度推移から、前記した数式(1)によって計算された歩行者保護性能の指標となるHIC値は、任意時間内の平均加速度が減少することにより、小さいものとなる。なお、図4(a)の点線は従来である図15(a)の実線をしめし、図4(b)の点線は、従来である図15(b)の実線を示している。
【0043】
したがって、図4(a)、(b)に示す曲線であれば、自動車用フード30は歩行者保護性能が従来と比較して向上していることがわかる。また、図4(b)に示すように、加速度と時間の関係で見てみると、2次衝突時点での加速度を小さく抑えていることが分かる。このように、自動車用フード30は、従来の自動車用フードに比べて、2次衝突加速度が低減され、HIC値も低くなる。
【0044】
(剛性確保)
図2(a)、(b)に示すように、自動車用フード30では、第1傾斜面4aの傾斜角度βが、前記したように1.5h<LおよびDとの関係から設定されるため、図5(a)〜(c)に示すように、衝突したときに変形しやすくなる。また、形成された空間部A1により、フードの断面部面積が確保されるため、自動車用フード30として必要とされる曲げ剛性、ねじり剛性が得られる。それと共に、インナーパネル1の横ビード2における接合面2aの接合位置がパネル中央側に移動することなく配置されていることにより、自動車用フード30として必要とされる張り剛性、耐デント性が得られる。
【0045】
次に、本発明に係る自動車用フードのインナーパネルの変形例について、図面を参照して説明する。図6は自動車用フードの他の実施の形態を示すインナーパネルの斜視図である。なお、すでに説明した自動車用フードの各構成と同じ部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0046】
(接続平面の変形例)
インナーパネル1Aにおける接続ビード3Aの接続平面13aは、図1では、横ビード2の接合面2aと同一平面となるように形成したが、図6では、接合面2aより低くなるように段差を設けて形成されている。そして、接続平面13aから底面5に連続するように第1傾斜面4aを1.5h(接続ビード3Aの高さ)<LでかつL<Dとなるように形成している。なお、接合面2aと接続平面13aとを接続する段差部分は、ここでは傾斜面になるように形成しているが、なだらかな曲面により形成するように構成しても構わない。このように、接続ビード3Aの接続平面13aは、接合面2aより低く形成されるように段差を設けることで、図1に示す構造の自動車用フード30に比較して剛性は低くなるが、従来の自動車用フードと比較すれば、2次衝突における加速度を抑制して頭部衝突の際、1次衝突でのエネルギー吸収量が増大し、2次衝突加速度が低減され、HIC値も低くなる。
【0047】
以上、説明したように、自動車用フード30では、隣り合う横ビード2の長手方向における両端側を互いに接続ビード3により接続して接続平面3a、13aを接合面2aと同一平面または段差を設けて低く形成し、その接続平面3a、13aから第1傾斜面4a,4aを傾斜角度βとして形成できるため、横ビード2および接続ビード3の形成エリアの周縁に頭部が衝突したとしても、パネル中央と同等のHIC値として歩行者の保護を図ることができる。
[第2の実施の形態]
【0048】
つぎに、本発明について第2の実施の形態について説明する。図1から図6では、インナーパネル1は、車両進行方向に対して直交する横ビード2として説明したが、図7に示すように、車両進行方向に対してほぼ平行となる方向の縦ビード12として構成しても構わない。図7(a)、(b)は、第2の実施の形態を示す自動車用フードのインナーパネルを示す斜視図および断面図、図8(a)、(b)は、第2の実施の形態を示す自動車用フードのインナーパネルについての応用例を示す斜視図である。なお、横ビードですでに説明した構成は、向きが異なるのみで略同等の役割を果たすことから同じ符号を付して説明を省略する。
【0049】
インナーパネル11は、図7(a)、(b)に示すように、縦ビード12は、車両進行方向にほぼ平行となる方向に複数(図面では6本)が形成され、その長手方向における両端側を互いに凸状に延出した接続ビード13により接続されている。この縦ビード12は、アウターパネル20の下面に対して上に凸状に形成されており、その頂部をアウターパネル20の下面に接合する接合面2aとしている。なお、縦ビード12の配置は、車両進行方向にほぼ平行であればよく、必ず車両進行方向に平行に沿った位置である必要はない。
【0050】
また、接続ビード13は、縦ビード12の長手方向における両端部分を当該縦ビード12にほぼ直交する方向に凸状に延出して連続するように形成されている。そして、この接続ビード13は、その頂部となる面を縦ビード12の接合面2aと同一平面になるように接続平面3aとして形成している。
なお、縦ビード12および接続ビード13は、アウターパネル20の裏面側に向かって張り出した断面が、なだらかな円弧状あるいは長手方向に畝状の凸条として形成されてもよい。
【0051】
縦ビード12および接続ビード13は、頂部となる位置に形成した接合面2a,2aおよび接続平面3a,3aと、この接合面2a,2aおよび接続平面3a,3aにより囲まれる位置の底となる底面5から接続平面3a,3aまで連続して形成される第1傾斜面4a、4aと、この第1傾斜面4a、4aに隣接して接合面2a,2aから底面5まで連続して形成される第2傾斜面4b,4bと、接続平面3a、3aから枠凹部7に連続する第3傾斜面4c,4cと、この第3傾斜面4c,4cの両端側に隣接すると共に、接合面2aから枠凹部7に連続する第4傾斜面4d,4dと、を備えている。
【0052】
このように構成されたインナーパネル11をアウターパネル20と接合して自動車用フード30とした場合、すでに説明した図4および図5で説明したように、第1傾斜面4aの傾斜角度βとして形成できるため、縦ビード12および接続ビード13の形成エリアの周縁に頭部が衝突したとしても、パネル中央と同等のHIC値として歩行者の保護を図ることができる。なお、図4および図5は、第1および第2の実施の形態において略同じ値をとるため、共通に使用される図面である。また、インナーパネル11では、仮想線で示すように、クラッシュビードKBをパネル中央に車両進行方向に直交する方向に設ける構成としても構わないものである。
【0053】
また、図8(a)、(b)に示すように、接続ビード13は、縦ビード12の両端側の少なくとも一方に形成する構成としても構わない。この場合、車種によって、縦ビード12の車両進行方向前側に接続ビード13を備えるインナーパネル11Aaを使用する場合と、縦ビード12の車両進行方向後側に接続ビード13を備えるインナーパネル11Abを使用する場合と、その車種においてフードの形状に合った適切な構成となるように使い分ける構成とする(接続ビード13の有無は、第1次衝突および第2次衝突のエネルギー吸収の差異に影響することから、子供衝突領域CAおよび大人衝突領域AAとして使い分ける方が望ましい[図7参照])。すなわち、質量が比較的小さい子供の頭部が衝突するエリアでは、インナーパネル11Aa,11Abがつぶれ変形しやすいように接続ビード13を設けて変形荷重を小さくしたほうが望ましい。これとは逆に、質量が比較的大きい大人の頭部が衝突するエリアでは、接続ビード13を設置せず、つぶれ変形によりエネルギー吸収するほうが望ましい場合がある。ただし、フード下のスペースによって、適正な変形荷重が異なるため、接続ビード13の有無およびビード高さ、斜面の角度は適宜選択される。なお、図8(a)、(b)において、すでに説明した構成は同じ符号を付して説明を省略する。また、インナーパネル11(11Aa,11Ab)では、仮想線で示すように、クラッシュビードKBをパネル中央に車両進行方向に直交する方向に設ける構成としても構わないものである。
【0054】
(接続平面の変形例)
さらに、図9(a)、(b)、(c)に示すように、インナーパネル11A,11B,11Cにおける接続ビード13Aの接続平面13aは、図7および図8では、縦ビード12の接合面2aと同一平面となるように形成したたが、図9(a)、(b)、(c)では、接合面2aより低くなるように段差を設けて形成されている。そして、接続平面13aから底面5に連続するように第1傾斜面4aを1.5h(接続ビード13Aの高さ)<LでかつL<Dとなるように形成している。なお、接合面2aと接続平面13aとを接続する段差部分は、ここでは傾斜面として形成しているが、なだらかな曲面により形成するように構成しても構わない。このように、接続ビード13Aの接続平面13aは、接合面2aより低く形成されるように段差を設けることで、図7、図8(a)、(b)に示すインナーパネル11,11Aa,11Abを用いたときに比較して剛性は低くなるが、従来の自動車用フードと比較すれば、2次衝突における加速度を抑制して頭部衝突の際、1次衝突でのエネルギー吸収量が増大し、2次衝突加速度が低減され、HIC値も低くなる。なお、図示してはいないが、図7および図8と同様にインナーパネル11A,11B,11Cのパネル中央にクラッシュビードを設ける構成とすることが好ましい。
【0055】
(本発明における各構成の変形例)
自動車用フードの各構成の変形例についてつぎに説明する。
第1傾斜面4aは、図1等においては、車両進行方向に対して左右の位置に対称となるように形成される例として示したが、例えば、図10(a)、(b)に示すように、左右の位置の第1傾斜面4a、4aのように非対称となるように形成しても構わない。図10(a)、(b)は自動車用フードのインナーパネルにおける第1傾斜面を非対称にした状態をそれぞれ示す斜視図である。なお、すでに説明した構成は同じ符号を付してその説明を省略する。
【0056】
インナーパネル1Aa,11Acでは、それぞれの第1傾斜面4aは、隣接する横ビード2あるいは縦ビード12を隔てて交互に右左となるように配置されている。この第1傾斜面4aは、傾斜面の長さが対となる第1傾斜面4aより長くなるように形成されている。この第1傾斜面4aは、すでに説明したように、1.5h<Lの条件を満たし、かつ、L<Dの条件を満足する範囲内において設定されている。このように第1傾斜面4a,4aを非対称な状態とすることで、車両の構成に対応させて使用することができる。
【0057】
また、インナーパネル1(1A,1Aa),11(11Aa,11Ab,11Ac,11A,11B,11C)において、図11に示すように、第1傾斜面4a(4a)の位置に切欠部を形成しても構わない。図11(a)、(b)、(c)は、自動車用フードの第1傾斜面に切欠部を形成した状態をそれぞれ示す斜視図である。なお、すでに説明した構成は同じ符号を付してその説明を省略する。
図11(a)に示すように、インナーパネル1Aは、第1傾斜面が形成される位置を切欠いて(板厚方向に貫通する)切欠部24aを形成している。この切欠部24aは、一旦、第1傾斜面を形成した後に切断して形成するようにしてもよく、また、プレス加工の工程内において横ビード2等と同時期に形成するようにしても構わない。
【0058】
図11(b)に示すように、インナーパネル1Aは、第1傾斜面が形成される位置の中央から底面5側までの範囲を切欠いて切欠部24aとして形成している。この切欠部24aは、傾斜面24Aを残した状態で形成されている。なお、切欠部24aは、高さ方向のほぼ中央から底面5側を切欠くように形成しているが、この切欠き幅は適宜調整することが可能である。
【0059】
図11(c)に示すように、インナーパネル1Aは、第1傾斜面が形成される位置の両サイドに傾斜面24Aを残して中央側を切欠いて切欠部24aを形成している。この切欠部24aは、第1傾斜面の形状に対応した逆台形状の切欠に形成されている。なお、この切欠部24aは、図示していないが、接続平面3a側から底面5側まで同一幅に形成されてもよく、また、接続平面3a側の幅を、底面5側の幅より小さくした台形状に形成されても構わない。
【0060】
このように、図11(a)、(b)、(c)に示すように、本来、第1傾斜面となる位置の全部または一部に形成された切欠部24a,24a,24aを有することで、インナーパネル1A,1A,1Aにおける衝突時の変形荷重等をつぶれ易くなるように調整することができる。
なお、切欠部24a,24a,24aは、インナーパネル1A,1A,1Aに形成される全ての第1傾斜面となる位置に設けることや、あるいは、特定の位置の第1傾斜面となる位置に設ける構成としても構わない。そして、切欠部24a,24a,24aの切欠形状は、特に限定されるものではなく、例えば複数の貫通孔、スリット長穴等により切欠部としても構わない。
【0061】
次に、図12および図13を参照して自動車用フードにおける各構成の他の変形例について説明する。図12は、横ビードの断面状態を示す断面図、図13(a)、(b)は、横ビードの他の構成をそれぞれ示す断面図である。
自動車用フード30は、歩行者が衝突した際、歩行者が子供であるか、大人であるかによって、その衝突領域が異なるため、車両進行方向に対して、自動車用フード30の前側は子供が衝突する子供衝突領域CAとし、自動車用フード30の後側は大人が衝突する大人衝突領域AAとして構成を変えても構わない(図3参照)。
【0062】
例えば、インナーパネル1(1A,1Aa),11(11Aa,11Ab,11Ac,11A,11B,11C)は、その板厚Tを前側で薄く、後側で厚くする。このように板厚Tの変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード30の前側では、変形荷重が小さくなる。また、自動車用フード30の後側では、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。
【0063】
また、インナーパネル1(1A,1Aa),11(11Aa,11Ab,11Ac,11A,11B,11C)は、横ビード2あるいは縦ビード12の幅W、断面高さH3を(図3、図7参照)前側CAで小さく、低く、後側AAで大きく、高くしても構わない。このような幅W、高さH3の変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード30の後側AAでは、剛性が向上すると共に、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。また、自動車用フード30の前側CAでは、変形荷重が小さくなる。
【0064】
インナーパネル1は、横ビード2または縦ビード12の断面における曲げR1、R2を前側CAで大きく、後側AAで小さくしても構わない(図3、図12参照)。このような断面における曲げR1、R2の変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード30の前側では、変形荷重が小さくなる。また、自動車用フード30の後側では、剛性が向上すると共に、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。
【0065】
インナーパネル1(1A,1Aa),11(11Aa,11Ab,11Ac,11A,11B,11C)は、横ビード2または縦ビード12の斜面角度αを前側で小さく、後側で大きくしても構わない。このような斜面角度αの変更によって、頭部衝突の際、自動車用フード30の前側では、変形荷重が小さくなる。また、自動車用フード30の後側では、剛性が向上すると共に、1次衝突でのエネルギー吸収量が十分確保される。
【0066】
さらに、インナーパネル1(1A,1Aa),11(11Aa,11Ab,11Ac,11A,11B,11C)は、横ビード2または縦ビード12(接合面2a)における接合部位のピッチMPを、張り剛性および耐デント性が要求される前側で小さくしても構わない。
【0067】
また、図13(a)に示すように、本発明に係る自動車用フード30は、第2傾斜面の位置に平坦部16を形成した横ビード2Aあるいは縦ビード12Aとすることや、また、図13(b)に示すように、第2傾斜面に棚部14を形成することや、あるいは、接合面の所定位置に凹部15を形成した横ビード2Bあるいは縦ビード12Bとしても構わない。平坦部16、棚部14または凹部15の形成によって、衝突の際の横ビード2A、2Bあるいは縦ビード12A,12Bの変形が助長される。
【0068】
自動車用フード30は、アウターパネル20の外形、デザインによる段差に合わせて、横ビード2あるいは縦ビード12の幅W、断面高さH3を適宜変更、または、横ビード2あるいは縦ビード12を分岐させてもよい(図示せず)。自動車用フード30が客室(車内)に突っ込まないように、インナーパネル1にクラッシュビード(図示せず)を設けてもよい。さらに、フードサイレンサー、または、ウオシャーホース、クッションゴム等の取り付けを目的として、インナーパネル1に穴部(図示せず)を設けてもよい。
なお、インナーパネル1(1A,1Aa),11(11Aa,11Ab,11Ac,11A,11B,11C)は、電着塗装したときの電着液の抜け穴、あるいは、水洗いしたときの抜け穴を適宜設けても構わない。
また、図1ないし図13で示す自動車用フード30では、各傾斜面同士、各傾斜面と接続平面、接合面と底面との接続部分等、各構成部分において角が形成されているように記載しているが、角ではなく曲面となるように形成されても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明における第1の実施の形態に係る自動車用フードの構成をアウターパネルおよびインナーパネルに分解して示す分解斜視図である。
【図2】(a)は、本発明に係る自動車用フードの図1におけるY−Y線での断面を模式的に示す縦端面図、(b)は、図1におけるX−Xでの断面を模式的に示す横端面図、(c)は、(b)における2点鎖線の円で囲む位置において拡大して模式に示す端面図である。
【図3】本発明における第1の実施の形態に係る自動車用フードのインナーパネルの衝突位置について例示して示す斜視図である。
【図4】(a)は、本発明の自動車用フードにおける頭部衝突の際の加速度とストロークとの関係を示す説明図、(b)は本発明の自動車用フードにおける頭部衝突の際の加速度と時間との関係を示す説明図である。
【図5】(a)、(b)、(c)はそれぞれ図3の点aにおけるVa、Vb、Vc方向からの頭部衝突の状態を模式的に示す端面図である。
【図6】本発明に係る自動車用フードの他の実施の形態を示すインナーパネルの斜視図である。
【図7】(a)、(b)は、本発明における第2の実施の形態に係る自動車用フードのインナーパネルを示す斜視図および断面図である。
【図8】(a)、(b)は、本発明における図7のインナーパネルの接続ビードの応用例を示す斜視図である。
【図9】(a)、(b)、(c)は、図7(a)および図8(a)、(b)の自動車用フードのインナーパネルについて接続平面の他の形態を示す斜視図である。
【図10】(a)、(b)は、本発明に係る自動車用フードのインナーパネルにおける第1傾斜面を非対称にした状態をそれぞれ示す斜視図である。
【図11】(a)、(b)、(c)は、本発明に係る自動車用フードの第1傾斜面に切欠部を形成した状態をそれぞれ示す斜視図である。
【図12】本発明に係る自動車用フードの横ビード、縦ビードおよび接続ビードの構成の応用例を示す斜視図である。
【図13】(a)、(b)は本発明に係る自動車用フードの横ビード、縦ビードおよび接続ビードの構成の応用例を示す断面図である。
【図14】(a)は従来の自動車用フードの構成を示す斜視図、(b)は(a)のY−Y線端面図、(c)は(a)のX−X線端面図である。
【図15】(a)は、図14(a)の自動車用フードのa点における頭部衝突の際の加速度とストロークとの関係を示す説明図、(b)は、図14(a)の自動車用フードのa点における頭部衝突の際の加速度と時間との関係を示す説明図、(c)は、図14(a)のXIcにおける部分の端面図、(d)は、図14(a)のXIdにおける部分の端面図、(e)は、図14(a)のXIeにおける部分の端面図である。
【図16】(a)は従来の自動車用フードにおける頭部衝突状態を模式的に示す模式図、(b)は自動車用フードの中央における頭部衝突の際の加速度と時間との関係を示す説明図、(c)は(b)の頭部衝突の際の加速度とストロークとの関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0070】
1,1A インナーパネル
2 横ビード
2a 接合面
3,3A 接続ビード
3a 接続平面
4a 第1傾斜面
4b 第2傾斜面
4c 第3傾斜面
4d 第4傾斜面
5 底面
6 トリム穴
7 枠凹部
8 インナー周縁部
11 インナーパネル
12 縦ビード
13 接続ビード
13a 接続平面
14 棚部
15 凹部
16 平坦部
20 アウターパネル
21 アウター周縁部
30 自動車用フード
A1 空間部
A2 空間部
AA 大人衝突領域
CA 子供衝突領域
FP ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターパネルのアウター周縁部とインナーパネルのインナー周縁部とを接合すると共に、両パネルが接合したときに両パネルの間に空間部を形成して断面構造を備える自動車用フードにおいて、
前記インナーパネルは、車両進行方向に対して直交する方向に凸状に形成される複数の横ビードと、隣り合う前記横ビードの長手方向における両端部分を互いに接続するように凸状に延出して形成した接続ビードと、前記横ビードの頂部を前記アウターパネルに接合するように形成した接合面と、前記接続ビードの頂部を前記接合面と同一平面で連続するように形成した接続平面と、この接続平面から前記横ビードおよび接続ビードで囲まれて底となる底面まで連続するように形成した第1傾斜面と、この第1傾斜面に隣接すると共に前記接合面から前記底面まで連続するように形成した第2傾斜面と、前記横ビードおよび接続ビードの領域を枠状に囲む縁枠部分に形成した枠凹部と、を備え、
前記空間部は、前記アウターパネルと前記インナーパネルの前記枠凹部との間、および、前記アウターパネルと前記インナーパネルの前記底面との間に形成し、
前記第1傾斜面の傾斜角度は、前記接続平面と傾斜面との境から前記底面までの同一平面上における距離をLとし、前記接続平面から前記底面までの高さをhとしたときに、1.5h<Lの条件となるように設定されたことを特徴とする自動車用フード。
【請求項2】
アウターパネルのアウター周縁部とインナーパネルのインナー周縁部とを接合すると共に、両パネルが接合したときに両パネルの間に空間部を形成して断面構造を備える自動車用フードにおいて、
前記インナーパネルは、車両進行方向に対して直交する方向に凸状に形成される複数の横ビードと、隣り合う前記横ビードの長手方向における両端部分を互いに接続するように凸状に延出して形成した接続ビードと、前記横ビードの頂部を前記アウターパネルに接合するように形成した接合面と、前記接続ビードの頂部を前記接合面と段差を設けて連続するように形成した接続平面と、この接続平面から前記横ビードおよび接続ビードで囲まれて底となる底面まで連続するように形成した第1傾斜面と、この第1傾斜面に隣接すると共に前記接合面から前記底面まで連続するように形成した第2傾斜面と、前記横ビードおよび接続ビードの領域を枠状に囲む縁枠部分に形成した枠凹部と、を備え、
前記空間部は、前記アウターパネルと前記インナーパネルの前記枠凹部との間、および、前記アウターパネルと前記インナーパネルの前記底面との間に形成し、
前記第1傾斜面の傾斜角度は、前記接続平面と傾斜面との境から前記底面までの同一平面上における距離をLとし、前記接続面から前記底面までの高さをhとしたときに、1.5h<Lの条件となるように設定されたことを特徴とする自動車用フード。
【請求項3】
アウターパネルのアウター周縁部とインナーパネルのインナー周縁部とを接合すると共に、両パネルが接合したときに両パネルの間に空間部を形成して断面構造を備える自動車用フードにおいて、
前記インナーパネルは、車両進行方向とほぼ平行に凸状に形成される複数の縦ビードと、隣り合う前記縦ビードの長手方向における一端側および他端側の少なくとも一方を互いに接続するように凸状に延出して形成した接続ビードと、前記縦ビードの頂部を前記アウターパネルに接合するように形成した接合面と、前記接続ビードの頂部を前記接合面と同一平面で連続するように形成した接続平面と、この接続平面から前記縦ビードおよび接続ビードで囲まれて底となる底面まで連続するように形成した第1傾斜面と、この第1傾斜面に隣接すると共に前記接合面から前記底面まで連続するように形成した第2傾斜面と、前記縦ビードおよび接続ビードの領域を枠状に囲む縁枠部分に形成した枠凹部と、を備え、
前記空間部は、前記アウターパネルと前記インナーパネルの前記枠凹部との間、および、前記アウターパネルと前記インナーパネルの前記底面との間に形成し、
前記第1傾斜面の傾斜角度は、前記接続平面と傾斜面との境から前記底面までの同一平面上における距離をLとし、前記接続平面から前記底面までの高さをhとしたときに、1.5h<Lの条件となるように設定されたことを特徴とする自動車用フード。
【請求項4】
アウターパネルのアウター周縁部とインナーパネルのインナー周縁部とを接合すると共に、両パネルが接合したときに両パネルの間に空間部を形成して断面構造を備える自動車用フードにおいて、
前記インナーパネルは、車両進行方向とほぼ平行に凸状に形成される複数の縦ビードと、隣り合う前記縦ビードの長手方向における一端側および他端側の少なくとも一方を互いに接続するように凸状に延出して形成した接続ビードと、前記縦ビードの頂部を前記アウターパネルに接合するように形成した接合面と、前記接続ビードの頂部を前記接合面と段差を設けて連続するように形成した接続平面と、この接続平面から前記縦ビードおよび接続ビードで囲まれて底となる底面まで連続するように形成した第1傾斜面と、この第1傾斜面に隣接すると共に前記接合面から前記底面まで連続するように形成した第2傾斜面と、前記縦ビードおよび接続ビードの領域を枠状に囲む縁枠部分に形成した枠凹部と、を備え、
前記空間部は、前記アウターパネルと前記インナーパネルの前記枠凹部との間、および、前記アウターパネルと前記インナーパネルの前記底面との間に形成し、
前記第1傾斜面の傾斜角度は、前記接続平面と傾斜面との境から前記底面までの同一平面上における距離をLとし、前記接続面から前記底面までの高さをhとしたときに、1.5h<Lの条件となるように設定されたことを特徴とする自動車用フード。
【請求項5】
前記Lは、前記1.5h<Lの条件を満たし、かつ、長手方向における前記底面の両端の一方から中央までの距離をDとしたとき、L<Dになることにより設定されることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の自動車用フード。
【請求項6】
前記第1傾斜面の少なくとも一部を切り欠いて切欠部としたことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の自動車用フード。
【請求項7】
前記ビードの底面は、長手方向に沿って所定間隔においてトリム穴を形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の自動車用フード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−30574(P2008−30574A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205181(P2006−205181)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】