説明

自動車用ロックのストライカ

【課題】応力を分散させることによって、強度的に優れた自動車用ロックのストライカを提供する。
【解決手段】一枚の金属板を折り曲げることによって、取付面に固定される左右の取付板部3と、左右の取付板部3に対してほぼ直角で、かつ互いに対向する背面同士が当接すると共に、ロック装置に噛合可能な左右の係合板部4とを一体形成した自動車用ロックのストライカにおいて、左右の係合板部4と左右の取付板部3とをそれぞれ繋ぐ部分に、左右の係合板部4の下端から左右の取付板部3にそれぞれ接近するにしたがって互いの背面同士の間隔が漸増するように傾斜する応力分散部をなす左右の傾斜面部5を設け、左右の傾斜面部5の高さ及び左右方向の幅を、少なくとも金属板の板厚の2倍以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のドア、トランクリッド、バックドア等のロック装置に噛合可能な自動車用ロックのストライカに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ロックのストライカにおいて、一枚の連続した金属板を折曲げ加工することによって、車体の取付面にボルトにより固定される左右の取付板部と、各取付板部に対してほぼ直角に起立する左右の係合板部とを一体的に形成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】実公昭55−6920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のような自動車用ロックのストライカにおいて、左右の係合板部101a、101bに設けられる噛合柱部102a、102bにロック装置(図示略)が噛合することから、例えば図9、10に示すように、自動車の側面衝突等によって、ストライカ100に対して、右方向(横方向)から荷重Fが作用すると、図10に実線で示すように、左右の係合板部101a、101bが左右の曲げ部103a、103bから左方向へ傾き変形し、さらに変形が進行すると、ついには傾きの外側となる右側の曲げ部103bに亀裂Aが生じて破断することとなり、これが強度の低下を招く原因となる。これは、右側の係合板部101bが左方へ傾き変形すると、折曲げ部103bの隅角に引張応力が集中するためと考察される。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、応力を分散させることによって、強度的に優れた自動車用ロックのストライカを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、第1の発明では、一枚の金属板を折り曲げることによって、取付面に固定される左右の取付板部と、前記左右の取付板部に対してほぼ直角で、かつ互いに対向する背面同士が当接し、ロック装置に噛合可能な左右の係合板部とを一体形成した自動車用ロックのストライカにおいて、前記左右の係合板部と前記左右の取付板部とをそれぞれ繋ぐ部分に、前記左右の係合板部の下端から前記左右の取付板部にそれぞれ接近するにしたがって互いの背面同士の間隔が漸増するように傾斜する応力分散部をなす左右の傾斜面部を設け、前記左右の傾斜面部の高さ及び左右方向の幅を、少なくとも前記金属板の板厚の2倍以上とする。この構成により、側面衝突等によってストライカに対して横方向の荷重が入力されると、係合板部の傾き変形に伴って、傾斜面部も同時に変形することから、応力が分散され、この結果、強度向上を図ることができる。
【0007】
また、第2の本発明では、一枚の金属板を折り曲げることによって、取付面に固定される左右の取付板部と、前記左右の取付板部に対してほぼ直角で、かつ互いに対向する背面同士が当接し、ロック装置に噛合可能な左右の係合板部とを一体形成した自動車用ロックのストライカにおいて、前記左右の係合板部と前記左右の取付板部とをそれぞれ繋ぐ部分に、前記左右の係合板部の下端から前記左右の取付板部にそれぞれ接近するにしたがって互いの背面同士の間隔が漸増するように内向きに湾曲する応力分散部をなす左右の湾曲面部を設け、前記左右の湾曲面部の半径を、少なくとも前記金属板の板厚の2倍以上とする。この構成により、側面衝突等によってストライカに対して横方向の荷重が入力されると、係合板部の傾き変形に伴って、湾曲面部も同時に変形することから、応力が分散され、この結果、強度向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、ストライカに対して横方向の荷重が入力された場合、係合板部に傾き変形に伴って応力分散部も変形することから、応力が分散されて強度向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を、図1〜図7に基づいて説明する。図1は、本発明に係わるストライカの斜視図、図2は、同じく正面図、図3は、同じく平面図、図4は、同じく底面図、図5は、同じく側面図、図6は、図3におけるVI−VI線断面図、図7は、ストライカの変形状態を示す正面断面図である。
【0010】
ストライカ1は、自動車のルーフ後部に左右方向を向くヒンジ軸により上下方向へ開閉自在に枢支されたバックドア(図示略)に設けられるロック装置(図示略)に噛合することによって、バックドアを閉止位置に保持するもので、車体の取付面2に固定される左右の取付板部3、3と、左右の取付板部3、3に対してほぼ直角な左右の係合板部4、4と、各取付板部3、3と各係合板部4、4とを繋ぐ応力分散部をなす左右の傾斜面部5、5とを有し、左右の係合板部4、4の背面同士が互いに当接するように、一枚の連続した金属板を折り曲げることによって形成される。
【0011】
左右の取付板部3、3のほぼ中央部には、取付板部3、3を取付面2に固定するためのボルト6、6が挿入されるボルト挿入孔31、31が穿設されている。
【0012】
左右の係合板部4、4は、上端に形成される下方へ折り返された折曲部41を介して互いの上端同士が繋がっていると共に、側面視におけるほぼ中央には、左右方向へ貫通する窓孔42、42が形成され、この窓孔42、42の前側には、ロック装置が噛合する噛合柱部43、43が形成される。なお、噛合柱部43、43は、板厚方向へ圧潰して円弧状に形成されることで、ラッチの回転を助長させるようになっている。左右の係合板部4、4の背面下部の中央部は、金属板を折曲成型した際、係合板部4、4の背面同士がスプリングバックによって離間しないように溶接により固着される。溶着部7は、係合板部4、4の背面同士を密着させるだけの強度で十分であって、ストライカ1に対して横方向から過大な力が作用した場合には破断し得るように設定されている。
【0013】
左右の傾斜面部5、5は、表面に平滑な斜面を形成するように、正面視において互いに対向する背面同士の間隔が下方へ行くにしたがって漸増するように傾斜している。これにより、左右の傾斜面部5、5の左右の取付板部3、3及び係合板部4、4に対する曲げ部R1及びR2(図2、7参照)の内角θ1及びθ2(図2、7参照)は鈍角となる。なお、左右の傾斜面部5、5の外角θ3は、45°前後が好ましい。また、傾斜面部5の表面に形成される斜面の高さH(図6参照)(取付板部3の表面から曲げ部R1までの寸法)、及び底辺の長さL(係合板部4の表面から曲げ部R2までの寸法)は、少なくとも金属板の板厚tの2倍以上とするのが好ましい。この理由としては、傾斜面部5の斜面の長さが短いと、係合板部4が後述のように傾き変形しても、傾斜面部5の変形量が小さく、応力が十分に分散されないためである。したがって、応力を確実に分散させるには、係合板部4の傾き変形に伴って傾斜面部5も同時に変形しうるだけの長さが必要となる。
【0014】
次に、本実施形態におけるストライカ1の変形を実験結果に基づいて説明する。
車体の取付面2に固定されたストライカ1にロック装置が噛合した状態において、側面衝突等によりロック装置からストライカ1に対して右方向から荷重Fが入力されると、図7に示すように、荷重Fの方向に対向する右の係合板部4は、各曲げ部R1、R2の内角が大きくなるように左方向へ傾き変形すると共に、右側の取付板部3の内端が取付面2から若干浮き上がるように変形する。また、左側の傾斜面部5は、係合板部4の傾き変形に伴って、正面視において若干下向き凸状に湾曲するように変形する。これにより、横方向の荷重Fが作用したときの応力は分散され、特に曲げ部R1が早期に破断するようなことはない。
【0015】
また、左右の係合板部4、4がさらに左方へ傾き変形すると、傾き方向に対して内側となる左側の係合板部4と外側となる右側の係合板部4との背面同士に位置ズレが生じる。この場合、左右の係合板部4、4の背面同士が位置ズレを生じないように強固に固着されていると、特に右側の曲げ部R1に引張応力が集中して破断するおそれがある。しかし、本実施形態においては、左右の係合板部4、4が互いに位置ズレが生じるような力が作用すると、溶着部7が破断して、左右の係合板部4、4の位置ズレを可能とするため、特に右側の曲げ部R1に応力が集中することが少なくなり、右側の曲げ部R1が早期に破断することはない。
【0016】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、本実施形態に対して、次のような種々の変形や変更を施すことが可能である。
(i)応力吸収部を、図8に示すように、係合板部4の下端から取付板部3に接近するにしたがって互いの背面同士の間隔が漸増するように内向きに湾曲する湾曲面部8とし、この湾曲面部8の半径rを、少なくとも金属板の板厚tの2倍以上とする。
(ii)ロック装置を、トランクリッドまたはサイドドアのロック装置とする。
(iii)ストライカを、バックドア、トランクリッドまたはサイドドアに固定する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明におけるストライカの斜視図である。
【図2】同じくストライカの正面図である。
【図3】同じくストライカの平面図である。
【図4】同じくストライカの底面図である。
【図5】同じくストライカの側面図である。
【図6】図3におけるIII−III線横断面図である。
【図7】変形時のストライカの正面断面図である。
【図8】他の実施形態におけるストライカの正面断面図である。
【図9】従来技術におけるストライカの斜視図である。
【図10】同じく変形時のストライカの正面断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 ストライカ
2 取付面
3 取付板部
4 係合板部
5 傾斜面部(応力分散部)
6 ボルト
7 溶着部
8 湾曲面部(応力分散部)
31 ボルト挿入孔
41 折曲部
42 窓孔
43 噛合柱部
R1、R2 曲げ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一枚の金属板を折り曲げることによって、取付面に固定される左右の取付板部と、前記左右の取付板部に対してほぼ直角で、かつ互いに対向する背面同士が当接し、ロック装置に噛合可能な左右の係合板部とを一体形成した自動車用ロックのストライカにおいて、
前記左右の係合板部と前記左右の取付板部とをそれぞれ繋ぐ部分に、前記左右の係合板部の下端から前記左右の取付板部にそれぞれ接近するにしたがって互いの背面同士の間隔が漸増するように傾斜する応力分散部をなす左右の傾斜面部を設け、
前記左右の傾斜面部の高さ及び左右方向の幅を、少なくとも前記金属板の板厚の2倍以上としたことを特徴とする自動車用ロックのストライカ。
【請求項2】
一枚の金属板を折り曲げることによって、取付面に固定される左右の取付板部と、前記左右の取付板部に対してほぼ直角で、かつ互いに対向する背面同士が当接し、ロック装置に噛合可能な左右の係合板部とを一体形成した自動車用ロックのストライカにおいて、
前記左右の係合板部と前記左右の取付板部とをそれぞれ繋ぐ部分に、前記左右の係合板部の下端から前記左右の取付板部にそれぞれ接近するにしたがって互いの背面同士の間隔が漸増するように内向きに湾曲する応力分散部をなす左右の湾曲面部を設け、
前記左右の湾曲面部の半径を、少なくとも前記金属板の板厚の2倍以上としたことを特徴とする自動車用ロックのストライカ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−19005(P2010−19005A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180600(P2008−180600)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】