説明

自動車用絶縁電線

【課題】難燃性を持つと共に、耐摩耗性などの機械的特性を併せ持つ自動車用絶縁電線を提供する。
【解決手段】(A)ポリプロピレン系樹脂70〜90重量部と、(B)オレフィン系熱可塑性エラストマーもしくはスチレン系熱可塑性エラストマー30〜10重量部と、でなるベース樹脂100重量部に対して、不飽和結合を含む脂肪酸もしくはシラン系処理剤で表面処理された、ハロゲンを含まない金属水和物でなる(C)金属水和物難燃剤70〜200重量部を配合してなる難燃性樹脂組成物を絶縁被覆3として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物で絶縁被覆された自動車用絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用絶縁電線の絶縁被覆材に用いられる難燃性樹脂組成物は、人体に対する影響や機器の腐食の原因となるハロゲン系ガスを発生させないことが要求されている。このような難燃性樹脂組成物では、水酸化マグネシウムなどの難燃剤が配合されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−40947号公報
【特許文献2】特開2008−169273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記難燃性樹脂組成物では、難燃性を持たせるための水酸化マグネシウムなどの難燃剤の添加量が多いため、耐摩耗性を初めとする各種機械的特性が大幅に低下するという問題があった。なお、電線絶縁体に求められる難燃性は年々高くなっており、従来検討されていた水酸化マグネシウムの添加量60〜90重量部の範囲では難燃性を満足することができないとの報告がある。したがって、難燃剤の添加量がさらに増して、各種機械的特性をさらに低下させてしまうという問題点がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、ハロゲン系ガスを発生させずに難燃性を満足させつつ、耐摩耗性などの各種機械的特性を保持した自動車用絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の特徴は、導体と、この導体を被覆する絶縁被覆とを備える自動車用絶縁電線であって、絶縁被覆が、(A)ポリプロピレン系樹脂70〜90重量部と、(B)オレフィン系熱可塑性エラストマーもしくはスチレン系熱可塑性エラストマー30〜10重量部と、でなるベース樹脂100重量部に対して、不飽和結合を含む脂肪酸もしくはシラン系処理剤で表面処理された、ハロゲンを含まない金属水和物でなる(C)金属水和物難燃剤70〜200重量部が、配合されてなる難燃性樹脂組成物でなることを要旨とする。
【0007】
(A):ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン・エチレン−α−オレフィンランダム共重合体の単独または2種以上からなることが好ましい。
【0008】
(B):オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンから選ばれるハードセグメントと、エチレン・プロピレン−ジエンゴム、エチレン・プロピレンゴムから選ばれるソフトセグメントとでなることが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレンでなるハードセグメントと、ポリブタジエン、ポリイソプレンから選ばれるソフトセグメントとでなることが好ましい。
【0009】
(C):金属水和物難燃剤としては、不飽和結合を含む脂肪酸、もしくは、シラン系処理剤で表面処理された、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、この他にハイドロタルサイト、タルク、クレー等の金属水酸化物を含有して難燃性を示すものを用いることができる。
【0010】
ここで、不飽和結合を含む脂肪酸とは、オレイン酸、リノレン酸、クロトン酸、ミストレイン酸、パルミトレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、エレオステアリン酸、ステアリドン酸、ガドレイン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、イワシ酸、ドコサヘキサエン酸、ネルボン酸等を挙げることができる。
【0011】
また、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、この他にハイドロタルサイト、タルク、クレー等の金属水酸化物に対して施す、シラン系処理剤の表面処理剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤を挙げることができる。
【0012】
さらに、上記シラン系処理剤(シランカップリング剤)を用いて、上記の金属水酸化物粒子に表面コーティング処理するには、公知の湿式法または乾式法を用いて行うことができる。例えば、湿式法としては、例えば水酸化マグネシウム粒子のスラリーに、上記シラン系処理剤を液状またはエマルジョン状で加え、約100℃までの温度で機械的に混合させればよい。また、乾式法としては、例えば水酸化マグネシウム粒子を混合機により撹拌しながら、シラン系処理剤を液状またはエマルジョン状または固形状で加え、加熱または非加熱下で十分混合すればよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、難燃性を有しかつ耐摩耗性などの機械的特性を保持した絶縁被覆を有する信頼性の高い自動車用絶縁電線が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1〜7の配合割合と難燃性、延伸性、摩耗性の試験結果を示す図である。
【図2】実施例8〜12の配合割合と難燃性、延伸性、摩耗性の試験結果を示す図である。
【図3】比較例1〜6の配合割合と難燃性、延伸性、摩耗性の試験結果を示す図である。
【図4】本発明に係る自動車用絶縁電線を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る自動車用絶縁電線について詳細に説明する。
【0016】
[自動車用絶縁電線]
図4は、本発明の実施の形態に係る難燃性電線1を示す断面図である。図4に示すように、この難燃性電線1は、複数本の導体2の束を、後述する難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆3で被覆して構成される。なお、本実施の形態では、複数本の導体2の束に、難燃性樹脂組成物を被覆したが、単数の導体2に難燃性樹脂組成物を被覆する構成としても勿論よい。
[難燃性樹脂組成物]
本発明に係る難燃性樹脂組成物は、(A)ポリプロピレン系樹脂70〜90重量部と、(B)オレフィン系熱可塑性エラストマーもしくはスチレン系熱可塑性エラストマー30〜10重量部と、でなるベース樹脂100重量部に対して、不飽和結合を含む脂肪酸もしくはシラン系処理剤で表面処理された、ハロゲンを含まない金属水和物でなる(C)金属水和物難燃剤70〜200重量部が配合されてなることを特徴とする。ここで、使用される樹脂は、全て非架橋型の樹脂である。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン・エチレン−α−オレフィンランダム共重合体などのプロピレンを主成分とする他のα−オレフィンとのブロック共重合体あるいはランダム共重合体などの公知のプロピレン(共)重合体のうち、単独または2種以上からなることが好ましい。
【0018】
オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、ハードセグメントとしてのポリエチレン、もしくはポリプロピレンと、ソフトセグメントとしてのエチレン・プロピレン−ジエンゴム、もしくはエチレン・プロピレンゴムとを含むことが好ましい。
【0019】
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、ハードセグメントとしてのポリスチレンと、ソフトセグメントとしてのポリブタジエン、もしくはポリイソプレンとを含むことが好ましい。
【0020】
金属水和物難燃剤としては、オレイン酸、リノレン酸などの不飽和結合を含む脂肪酸、もしくはシラン系処理剤で表面処理された、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどを用いる。
【0021】
上述した構成の自動車用絶縁電線1は、難燃性が高くかつ耐摩耗性、延伸性などの機械的特性が高い難燃性樹脂組成物でなる絶縁被覆を有するため、自動車の配線として信頼性が高い。
【0022】
特に、本実施の形態に係る自動車用絶縁電線1は、その絶縁被覆3の厚さを、自動車用の電線として多く用いられる0.2〜0.9mmに設定することで耐摩耗性を向上させることができる。このような絶縁被覆3の厚さ範囲が0.2〜0.9mmの自動車用絶縁電線1の品名としては、CHFUS-0.13〜1.5sq、HFSS-0.35〜2f、HF-3〜8sqが対応する。因みに、絶縁被覆3の厚さを0.9mmより厚くすると、燃焼するものが多くなる(単位面積当たりの絶縁体が増加する)ため、難燃性が低下してしまう。また、絶縁被覆3の厚さが増すため、導体2が燃焼時の熱を吸収しにくくなる。これは、絶縁被覆3の厚さが厚い分、中心の導体2に熱が伝わりにくいためである。なお、自動車用絶縁電線1の規格としては、絶縁被覆3の厚さが0.2mmよりも薄い電線仕様は存在しないが、もし絶縁被覆3の厚さを0.2mmよりも薄くした場合は、耐摩耗性が低下して導体2が露出するなどの不具合が発生するため自動車用絶縁電線としては好ましくない。
【0023】
[実施例]
以下、本発明の実施例、比較例について図2〜図4を用いて具体的に説明する。
【0024】
[実施例、比較例で用いた配合樹脂および配合材料]
(A)ポリプロピレン系樹脂
ポリプロピレン単独重合体として、PS201A(サンアロマー株式会社製)を用いた。
【0025】
(B)オレフィン系熱可塑性エラストマーもしくはスチレン系熱可塑性エラストマーとして、Q200f(サンアロマー株式会社製)を用いた。
(C)金属水和物難燃剤として、キスマ5A(協和化学株式会社製)を用いた。
【0026】
この他に、(D)金属補足剤としてMD1024(cibaスペシャリティーケミカルズ株式会社製)および(E)酸化防止剤としてIrganox1010(cibaスペシャリティーケミカルズ株式会社製)を適用添加してもよい。
【0027】
(試験評価について)
○難燃性の試験は、難燃性樹脂組成物を押出成形してなる自動車用絶縁電線を600mmの長さに切断した試料を、無風槽に45°の角度に傾斜させて固定し、試料の上端から約200mm±5mmの部分にブンゼンバーナーより還元炎を15秒間当て、炎を静かに取り去った後、消炎するまでの時間を測定した。その目標となる値は70秒以下である。したがって、目標値である70秒以内に消火した場合を合格(○)とし、70秒を越えて消火した場合を不合格(×)とした。
【0028】
○延伸性の試験は、JIS B 7721に準拠して行った。絶縁電線を150mmの長さに切り出し、導体を取り除いて被覆層のみの管状試験片とした後、その中央部に50mmの間隔で標線を記した。次いで、室温下にて試験片の両端を引張試験機のチャックに取り付けた後、引張速度25〜500mm/分で引っ張り、標線間の距離を測定した。伸びが500%以上のものを合格(○)とし、伸びが500%未満のものを不合格(×)とした。
【0029】
○摩耗性の試験は、スクレープ摩耗試験装置を用いて行った。すなわち、長さ約1mの絶縁電線をサンプルホルダーに載置し、クランプで固定する。そして、絶縁電線の先端に直径0.45mmのピアノ線を備えるプランジを、押圧を用いて総荷重7Nで絶縁電線に押し当てて往復させ(往復距離14mm)、絶縁電線の被覆層が摩耗してプランジのピアノ線が絶縁電線の導体に接するまでの往復回数を測定し、300回以上のものを合格(○)とし、300回未満のものを不合格(×)とした。
【0030】
以下、本発明の具体的な実施例を説明するともに、実施例と比較例とを比較する。実施例1〜12、比較例1〜6は、図1〜図3に示した配合で材料をブレンドした後、200℃の温度で溶融混練して押出成型機で押出成形を行って絶縁被覆を被覆し、図4に示した構造の絶縁電線を製造した。ここで、試験例(実施例および比較例)で用いた絶縁電線としては、SHFUS-1.0sq、HFSS-2fの規格と同等のものとした。なお、実施例1〜18、比較例1〜6の全ての例において酸化防止剤の配合割合は1重量部とした。図1〜図3には、上記難燃性、延伸性、摩耗性の試験結果も合わせて記載する。
【0031】
(実施例1〜12)
(A)ポリプロピレン系樹脂を70〜90重量部と、(B)オレフィン系熱可塑性エラストマーもしくはスチレン系熱可塑性エラストマーを30〜10重量部とでなるベース樹脂100重量部に対して、(C)金属水和物難燃剤として、水酸化マグネシウムをオレイン酸で表面処理したものを70〜200重量部とした。
【0032】
(比較例1〜6)
(A)ポリプロピレン系樹脂を70〜90重量部と、(B)オレフィン系熱可塑性エラストマーもしくはスチレン系熱可塑性エラストマーを30〜10重量部とでなるベース樹脂100重量部に対して、(C)金属水和物難燃剤として、水酸化マグネシウムをオレイン酸で表面処理したものを65重量部、配合する場合と、205重量部を配合する場合とした。
【0033】
図1〜図3に示した結果から、ベース樹脂100重量部に対して、金属水和物難燃剤が70〜200重量部の範囲であることが好ましいことが判る。
【0034】
実施例1〜7と比較例1〜3とを比較検討すると、(C)金属水和物難燃剤が70重量部である実施例1〜7は難燃性、延伸性、摩耗性の全ての試験結果で良好な結果が得られるが、比較例1〜3では、実施例1〜3の配合において、(C)金属水和物難燃剤を65重量部に変えただけで、難燃性が不合格(×)であった。このような結果から、(C)金属水和物難燃剤を70重量部以上にすることが好ましいことが判る。
【0035】
また、実施例10〜12と比較例4〜6とを比較検討すると、(C)金属水和物難燃剤が200重量部である実施例10〜12は難燃性、延伸性、摩耗性の全ての試験結果で良好な結果が得られるが、比較例4では摩耗性および延伸性が不合格(×)であり、比較例5および比較例6では摩耗性が不合格(×)であった。このような結果から、(C)金属水和物難燃剤を200重量部以下にすることが好ましいことが判る。
【0036】
以上のように、金属水和物である例えば水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどに、オレイン酸、リノレン酸などの不飽和結合を含む脂肪酸、もしくはシラン系処理剤のうちの単独または複数を併用して表面処理を施してなる金属水和物難燃剤を用いることにより、難燃性を満足させつつ、耐摩耗性、延伸性、難燃性などの各種機械的特性を保持した難燃性樹脂組成物を得ることができた。
【符号の説明】
【0037】
1…自動車用絶縁電線
2…導体
3…絶縁被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆とを備える自動車用絶縁電線であって、
前記絶縁被覆は、(A)ポリプロピレン系樹脂70〜90重量部と、(B)オレフィン系熱可塑性エラストマーもしくはスチレン系熱可塑性エラストマー30〜10重量部と、でなるベース樹脂100重量部に対して、不飽和結合を含む脂肪酸もしくはシラン系処理剤で表面処理された、ハロゲンを含まない金属水和物でなる(C)金属水和物難燃剤70〜200重量部が、配合されてなる難燃性樹脂組成物でなることを特徴とする自動車用絶縁電線。
【請求項2】
前記絶縁被覆の厚さは、0.2〜0.9mmであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−20699(P2013−20699A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31374(P2010−31374)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】