説明

自動車用駆動装置

【課題】ハイブリッド自動車で電気自動車として走行する場合に、2個のM/Gの同時駆動を可能にして、より小さい容量のM/Gで済ませる。
【解決手段】入力軸10と、出力軸12と、第1サンギヤ22、第1リングギヤ24、第1キャリア28の、3つの回転要素を有する第1遊星歯車20で構成され、動力分割が可能な動力分割遊星歯車組と、第1モーター・ジェネレーター56と、第2モーター・ジェネレーター58と、を備え、入力軸10は第1リングギヤ24と連結するか、または連結可能であり、出力軸12は第1キャリア28と連結し、第1モーター・ジェネレーター56は第1サンギヤ22と連結し、第2モーター・ジェネレーター58は、機械的連結・解除手段70を介して第1キャリア28と、第1クラッチ60を介して第1リングギヤ24と、それぞれ連結可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電気モーターの2種類の動力源を有する、いわゆるハイブリッド自動車の駆動装置に関し、特にエンジンより入力される動力を、遊星歯車を介して出力軸へ伝達可能で、複数のモーターを備えた自動車用駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動車用駆動装置としては、2個のモーター・ジェネレーター(以下、M/Gと記す)、2組の遊星歯車組を備え、電気的無段変速機としてハイブリッド駆動する例が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,478,705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、2個のモーター・ジェネレーター(以下、M/Gと記す)、2組の遊星歯車組を備え、電気的無段変速機としてハイブリッド駆動する上記従来の自動車用駆動装置にあっては、バッテリーに蓄えた電力のみを動力源として、電気自動車と同じような走行をする場合に、1個のM/Gでしか駆動することができず、せっかく2個のM/Gを備えているにもかかわらず、両M/Gを有効活用できず、これによる強力な駆動力を得ることができないという問題があった。
【0005】
解決しようとする問題点は、バッテリーの電力のみを動力源として電気自動車と同じ走行をする場合に、1個のM/Gでしか駆動することができず、このため、大きな駆動力を発揮するには大きな容量のM/Gが必要となる点である。
本発明の目的は、2個のM/Gを備えたハイブリッド自動車にあって、電気自動車として走行する場合に同時に2個のM/Gを使った駆動を可能にし、これにより、より小さい容量のM/Gの適用で済ませることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動車用駆動装置は、エンジンからの動力を受け入れ可能な入力軸と、出力軸と、第1サンギヤ、第1リングギヤ、第1キャリアの、3つの回転要素を有する第1遊星歯車で構成され、動力分割が可能な動力分割遊星歯車組と、第1モーター・ジェネレーターと、第2モーター・ジェネレーターと、を備え、入力軸は第1リングギヤと連結するか、または連結可能であり、出力軸は第1キャリアと連結し、第1モーター・ジェネレーターは第1サンギヤと連結し、第2モーター・ジェネレーターは、機械的連結・解除手段を介して第1キャリアと、第1クラッチを介して第1リングギヤと、それぞれ連結可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の自動車用駆動装置は、ハイブリッド自動車(HV)用でありながら、バッテリーのみを動力源とした電気自動車(EV)走行において2個のM/Gで同時駆動することができる。したがって、2個のM/Gの合計容量を小さくして、コスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図2】図1のA部の拡大断面図である。
【図3】図2のB−B線に沿って切断した拡大断面図である。
【図4】図2のH−H線に沿って切断した断面図である。
【図5】実施例1の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図6】本発明の実施例2に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図7】本発明の実施例3に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図8】実施例3の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図9】本発明の実施例4に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図10】実施例4の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図11】本発明の実施例5に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図12】実施例5の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る自動車用駆動装置を、各実施例に基づき図とともに説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の実施例1に係る自動車用駆動装置における主要部のスケルトン図である。
実施例1の自動車用駆動装置は、エンジン1から駆動される入力軸10と、該入力軸10と同軸心上に設けられた出力軸12を備えている。出力軸12は図示しない差動装置などを介して自動車の車輪を駆動する。
入力軸10と出力軸12との間には、第1遊星歯車組20、第2遊星歯車組30、第3遊星歯車組40の3つの遊星歯車組が配置してある。第1遊星歯車組20と、第2遊星歯車組30と、第3遊星歯車組40は、いずれも一般的にシングルピニオン型と呼ばれるもので、それぞれが同様の構成になっている。
【0011】
すなわち、第1遊星歯車組20は、第1サンギヤ22と、第1リングギヤ24と、第1サンギヤ22および第1リングギヤ24に噛み合った複数の第1ピニオン26を回転自在に軸支する第1キャリア28と、の3つの回転要素で構成され、本発明の動力分割遊星歯車組を構成する。
また、第2遊星歯車組30は、第2サンギヤ32と、第2リングギヤ34と、第2サンギヤ32および第2リングギヤ34に噛み合った複数の第2ピニオン36を回転自在に軸支する第2キャリア38と、の3つの回転要素で構成され、本発明の入力変速歯車群を構成する。
同様に第3遊星歯車組40は、第3サンギヤ42と、第3リングギヤ44と、第3サンギヤ42および第3リングギヤ44に噛み合った複数の第3ピニオン46を回転自在に軸支する第3キャリア48と、の3つの回転要素で構成され、本発明の減速歯車を構成する。
【0012】
次に、上記各回転要素と他の回転メンバーとの連結関係を説明する。
入力軸10は、第2キャリア38と連結している。
第2サンギヤ32はブレーキ50によりケース(静止部)52に固定可能であるとともに、第1ワンウエイクラッチ54により一方の回転方向にのみにおいて第2リングギヤ34と連結可能である。また第2リングギヤ34は第1リングギヤ24と連結している。
【0013】
なお、第1ワンウエイクラッチ54は、第2サンギヤ32が第1リングギヤ24に対してエンジン1の回転方向と同じ方向に相対回転するのを係止(係合)するようになっているもので、本実施例では周知の機械式のものを用いるが、油圧多板式クラッチで締結・開放制御するものなどでもよい。
したがって、入力軸10と連結した第2キャリア38がエンジン1に駆動され、ブレーキ50が解放されていて第2サンギヤ32がエンジン1の回転方向と同じ方向回転しようとすると第1ワンウエイクラッチ54により第1リングギヤ24に係止され、第2遊星歯車組30が一体になる。
【0014】
これとは逆に、第2リングギヤ34がエンジン1の回転方向と逆の方向に回転しようとした場合も、第2サンギヤ32との間で第1ワンウエイクラッチ54が係合して、第2遊星歯車組30が一体になる。
また、第1ワンウエイクラッチ54は上記に限らず、第2キャリア38と第2サンギヤ32との間、または第2キャリア38と第2サンギヤ32との間に設けても同様の機能を果たすことができる。
【0015】
第1サンギヤ22は第1M/G56と連結している。
第1キャリア28は出力軸12と連結しているとともに、後述するように第3キャリア48と連結可能である。
第3サンギヤ42はケース52に固定されており、第3リングギヤは第2M/G58と連結されている。
したがって、第2M/G58の出力トルクは常に第3遊星歯車組40によって減速されて第3キャリア48から出力し、その逆の場合は、第3キャリア48から入ったトルクにより第3遊星歯車組40によって増速されて第2M/G58を駆動し発電させる。
【0016】
第3キャリア38と第1キャリア28とは、第2ワンウエイクラッチ74を介して一方の回転方向にのみにおいて連結されるとともに、スリーブ70とドッグクラッチ28cの噛み合いにより回転方向に関わらず連結可能である。
スリーブ70とドッグクラッチ28cは本発明の機械的連結・解除手段を構成する。
スリーブ70は、図示しないフォークにより軸方向に移動できるようになっている。
したがって、第2M/G58のトルクで第3遊星歯車組40によって減速されて第3キャリア48から第1キャリア28を経て出力軸12を駆動する場合、後述する前進時は第2ワンウエイクラッチ74を介して駆動し、後進時は互いに噛み合ったスリーブ70とドッグクラッチ28cを介して駆動する。
【0017】
ここで、スリーブ70とドッグクラッチ28cの噛み合いを解除する場合の作動を、図2乃至図4を用いて説明する。
なお、以下の説明ではエンジン1の回転方向と同じ方向の回転を「正回転」、その逆を「逆回転」と定義する。
【0018】
一般にワンウエイクラッチと並行して機械的な噛み合いを設けると、機械的な噛み合いを解除するのに大きな力が必要になるとともに、噛み合いが外れる瞬間に衝撃が生じることがある。
すなわち、対象メンバー間(本実施例では第3キャリア48−第1キャリア28間)に作用するトルクを、一方の回転方向はでワンウエイクラッチ(本実施例では第2ワンウエイクラッチ74)で伝え、他方の回転方向では機械的な噛み合い(本実施例ではスリーブ70とドッグクラッチ28c)で伝えると、機械的な噛み合いで伝えた後に対象メンバー間に作用するトルクがなくなっても、ワンウエイクラッチと機械的な噛み合いの両者間にトルクが残留することになる。
【0019】
このため、機械的な噛み合いを解除する際に、その残留トルクに抗して外す必要があるからである。以下の説明はその解除を容易にするための構成と作用である。
図2は図1のA部の断面を示す拡大図であり、図3は図2のB−B線に沿って切断した断面を示す拡大図である。また、図4は図2のC−C線に沿って切断した断面を示す図である。
【0020】
図2において、第1キャリア28には第2ワンウエイクラッチ74のスプラグ74aが接する外周面28bと、スリーブ70のスプライン70aが噛み合うドッグクラッチ28cが形成されている。
スリーブ70は、図2に示す位置から軸方向に右側へ移動することにより、スプライン70a、28c同士が噛み合う。両スプライン70a、28cの先端70b、28dは傾斜している。
【0021】
第2ワンウエイクラッチ74は、第1キャリア28の外周面28bとアウターリング74bとの間に楔作用をする複数のスプラグ74aがあり、第3キャリア48に対して第1キャリア28が正回転するのは自由であるが、逆回転するのはスプラグ74aの楔作用で阻止する。
すなわち、第3キャリア48が第1キャリア28を正回転方向に駆動する場合は楔作用でトルクを伝達し、第1キャリア28が第3キャリア48より高速で正回転する場合は楔作用が解除されてフリーになる。
図2、図3に見るように、アウターリング74bの外側に形成されたスプライン歯74cが第3キャリア48に形成されたスプライン溝48cに係合している。スプライン歯74cとスプライン溝48cとの間にはスプリング72が挿入されているとともに、回転方向に「D」で示す回転量の遊びがある。
【0022】
スプリング72は板バネである。スプリング72は、図2に示すリング部72aがアウターリング74bに対応したリング状になっている。リング部72aの半径方向最外部分からスプライン溝52cとスプライン歯74cの径方向の隙間に外周部分72bが入り込み、図3に見るように外周部分72bの一端側部分から半径方向内側方向に曲げられた舌部72cが、スプライン歯74cをスプライン溝52cの壁面に対し回転量Dの遊びを詰める方向の回転方向に押圧するように形成されている。
【0023】
そのため、舌部72cの弾性でスプライン歯74cがスプライン溝52cの左側(反時計回り方向)へ寄せられている。そして、第2ワンウエイクラッチ74が第1キャリア28を駆動する際には、舌部72cをたわませて遊びDを詰めるようになっている。
【0024】
図4に示すスプライン70a、28cが噛み合った場合に、第1キャリア28と第3キャリア48との間に回転方向に若干の遊び(隙間)が存在するので、両者が噛み合う際や、これを解除する際に第1キャリア28と第3キャリア48間で僅かに回転する。この回転量を上述の回転量Dに相当する値として「G」と定義する。
この両者が噛み合った状態で第1キャリア28と第3キャリア48間にトルクが作用して、それが正回転方向であれば第2ワンウエイクラッチ74がトルクを伝達し、逆回転方向になった場合は楔作用を解除する。
【0025】
このため、正回転方向のトルクが作用して第2ワンウエイクラッチ74が楔作用によってトルク伝達した後に、スリーブ70とドッグクラッチ28cの噛み合いを解除するには第1キャリア28が正回転方向に最大、回転量Gだけ回転すれば、噛み合いがスムーズに外れることができる。
したがって、回転量Dを回転量Gより大きく設定しておくことにより、スリーブ70とドッグクラッチ28cの噛み合いを解除する際に、舌部72cの弾性力に打ち勝つだけの力があればよく、衝撃も起きない。
【0026】
次に、図1に示した自動車用駆動装置の作動を、図5に示した作動表を参考にしながら説明する。
図5の作動表において、縦方向にこれから説明する走行モードと各駆動モードを割り当て、横方向にはブレーキなどの締結要素とM/Gをそれぞれ割り当ててある。すなわち、クラッチ60を「C」、ブレーキ50を「B」、スリーブ70を「S」、第1ワンウエイクラッチ54を「OWC1」、第2ワンウエイクラッチ74を「OWC2」、第1M/G56を「M/G1」、第2M/G58を「M/G2」とした。
【0027】
表中の○印はクラッチ60などの締結要素にあっては締結・係合を表し、第1M/G56、第2M/G58にあっては駆動を表し、△印は第1M/G56、第2M/G58において発電を表している。また、第1M/G56、第2M/G58における−印は停止可能であることを表す。
【0028】
なお、図示は省略するが図1に示した自動車用駆動装置は、これを作動させるため、必要に応じて油圧ポンプ、バッテリー、各種センサ、コントローラー、アクチュエーターなどを備えており、以下の作動はコントローラーの指示に基づいて行われる。
さらに、各遊星歯車組の歯数比(サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)を、第1遊星歯車組20にあってはα1、第2遊星歯車組30にあってはα2、第3遊星歯車組40にあってはα3とする。
したがって、第2M/G58と連結した第3リングギヤ44と第3キャリア48間の変速比(第3リングギヤ44の回転速度/第3キャリアの回転速度)は(1+α3)であり、以下、これをIとする。
【0029】
始めに、バッテリーに蓄えた電力のみを動力源として、電気自動車(EV)として走る、EV走行について説明する。
EV走行は、前進のE−1モード乃至E−4モードと、後進のE−Rモードの、計5種類の駆動モードがある。
E−1モードは、第2M/G58のみを使った駆動である。つまり、第3サンギヤ42がケース52に固定され、第3キャリア48は第2ワンウエイクラッチ74の楔作用で第1キャリア28と連結するので、出力軸12を減速駆動する。
この場合の出力トルクToは、第2M/G58のトルクをT2とした場合、T2・Iである。このとき第1M/G56は停止していることができる。
【0030】
次に、E−2モードは、ブレーキ50の締結と、第1ワンウエイクラッチ54の自動的な締結により行う。これにより、第2遊星歯車組30は一体になってケース52に固定されるので、第1M/G56が第1遊星歯車組20を介して出力軸12を減速駆動する。
この場合の出力トルクToは、第1M/G56のトルクをT1とした場合、T1(1+α1)/α1である。このとき第2ワンウエイクラッチ74の係合は自動的に解除されるので、第2M/G58は停止していることができる。
【0031】
次に、E−3モードは、ブレーキ50を締結し第2ワンウエイクラッチ74が自動的に係合することで駆動する。この場合、第1ワンウエイクラッチ54も自動的に締結され、上記のE−1モードとE−2モードを合わせた駆動になる。したがって、この場合の出力トルクToは、T1(1+α1)/α1+T2・Iである。
【0032】
次に、E−4モードは、ブレーキ50を解除してクラッチ60を締結して駆動する。
これにより、第2M/G58が第3遊星歯車組40を介して第1リングギヤ24と連結されるので、出力軸12は第1M/G56と第2M/G58とにより協調して駆動されるようになる。この場合の出力トルクToは、T1+T2・Iである。
したがって、いずれも減速駆動のE−1モード乃至E−3モードは、低速から中速の走行に適し、E−4モードは高速走行に適している。特にE−1モード乃至E−3モードは自動車の走行負荷などに応じて自由に切り替えて駆動することができる。
また、E−1モード乃至E−3モードは、第1M/G56と第2M/G58の容量を異なるものとした場合、それぞれの単独での駆動と、両方同時の駆動の計3種類の容量のM/Gで減速駆動できるので、自動車の走行負荷などに応じた最適の駆動モードの選択ができる。
【0033】
次にEV走行で後進するE−Rモードについて説明する。
E−Rモードは、スリーブ70とドッグクラッチ28cとを係合することで第3キャリア48と第1キャリア28とを連結することにより、第2M/G58による後進駆動が可能である。
E−Rモードの出力軸トルクは、回転方向が異なるがE−1モードと同じである。
【0034】
続いて、前進走行中においてエンジン1が停止した状態で、第1M/G56と第2M/G58のいずれも駆動せずに惰行するか、あるいはいずれかが発電して自動車を制動する作用について説明する。この走行は作動表のEB欄に記載してある。
【0035】
EB走行はE−4モードと同じ締結関係であり、第1M/G56と第2M/G58の両方での発電を行う。この場合の出力軸のトルクも、発電と駆動の違いはあるが、E−4モードと同様である。B−1モードは高速走行から低速まで幅広い走行をカバーし、制動力の制御も自由度が高い。
EB走行で発電した電力は、バッテリーに蓄えて次の加速等に使うことにより、いわゆるエネルギー回生を行って自動車の電力消費を少なくする。
【0036】
次に、エンジン1を始動してエンジン1と第1M/G56および第2M/G58のいずれかとを併用して走行するハイブリッド自動車(HV)として走る、HV走行について説明する。
HV走行は、バッテリーの充電量が少なくなった場合の一般走行や、EV走行では得られない大きな駆動力を要する加速または登坂、および高速走行等において用いる。
【0037】
始めにエンジン1の始動について説明する。
自動車が停止中または低速走行中のエンジン1の始動は、ブレーキ50を締結した上で、第1M/G56に電力を供給して逆回転させる。これにより第1遊星歯車組20の作用で第1リングギヤ24と第2リングギヤ34が正回転し、第2遊星歯車組30の作用で第2キャリア38が減速駆動され、これと連結したエンジン1が正回転する。そこで、燃料供給や点火動作などの一般的な方法でエンジン1が始動する。
このエンジン1の始動中に、第1M/G56による駆動で第1キャリア28に逆回転方向のトルクが作用するので、これによる自動車の後進を防ぐために第2M/G58に正回転方向のトルクを出させる。
むろん、第2M/G58の駆動によるE−1モードで前進駆動中に、第1M/G56による駆動でエンジン1を始動することができる。
【0038】
また、自動車が一定速以上の速度で上記EB走行中のエンジン1の始動にあっては、第2リングギヤ34が正回転しているので、ブレーキ50で第2サンギヤ32を制動することでエンジン1を減速回転させて行う。このとき、ブレーキ50は締結(第2サンギヤ32の固定)ではなく、制動力の付与(第2サンギヤ32の制動回転)でよい。
【0039】
エンジン1が始動した後は、自動車の速度等に応じてH−1モード(HV走行での低速モード)乃至H−2モード(同、中速モード)へ移行する。
【0040】
はじめに、H−1モードは第1ワンウエイクラッチ54と第2ワンウエイクラッチ74の係合で駆動する。すなわち、エンジン1により入力軸10が正回転すると、第1ワンウエイクラッチ54の係合で第2遊星歯車組30が入力軸10と一体になって、第1リングギヤ24を駆動する。
第1リングギヤ24は第1遊星歯車組20において出力軸12と一体の第1キャリア28を減速駆動するとともに、その反力トルクで第1M/G56を逆回転させ発電させる。すなわち、ここでエンジン1のトルクは第1キャリア28を機械的に減速駆動するトルクと第1M/G56に発電させるトルクとに分割される。
【0041】
そして、第1M/G56が発電した電力を第2M/G58に供給してE−1モードと同様に第3遊星歯車組40を介して出力軸12を減速駆動する。このとき、出力軸12のトルクToは、T1(1+α1)/α1+T2・Iであり、他方エンジン1のトルクをTeとすると、To=Te(1+α1)+T2・Iでもある。
H−1モードにおいて車速が上昇していくと、第1サンギヤ22とともに第1M/G56がごく低速回転になって発電効率が悪い運転域になるので、そうなる前にH−2モードへ切り替える。
【0042】
H−2モードは、ブレーキ50を締結することで駆動する。これにより、H−1モードにおいて入力軸10と同じ回転速度であった第1リングギヤ24が、第2遊星歯車組30によって増速駆動されるようになる。
したがって、出力軸12の回転速度を切り替え前と同じとした場合、第1サンギヤ22と第1M/G56の回転速度が上昇し、上記の発電効率が悪い運転域から脱する結果、動力伝達効率が向上する。
このとき、出力軸12のトルクToは、T1(1+α1)/α1+T2・Iであり、他方エンジン1のトルクをTeとすると、To=Te(1+α1)/(1+α2)+T2・Iでもある。
【0043】
続いてH−3モードは、ブレーキ50の締結を解除してクラッチ60を締結する結果、エンジン1により入力軸10が正回転すると、第1ワンウエイクラッチ54の作用で、第2遊星歯車組30が入力軸10と一体になって第2M/G58および第1リングギヤ24を駆動するとともに、第2ワンウエイクラッチ74の作用で第3キャリア48と第1キャリア28が連結されるので、第1遊星歯車組20も一体になる。
すなわち、入力軸10と出力軸12とが機械的に一体に連結され、第1M/G56と第2M/G58とは発電も駆動もする必要はない。
【0044】
このH−3モードの状態で第2M/G58が発電して、その電力を第1M/G36供給して駆動させるとH−4モードに切り替わる。
このとき、エンジン1のトルクTeは第2M/G58を駆動するトルクと第1リングギヤ24を駆動するトルクとに分割され、これにより第2M/G58が発電し、その電力を第1M/G56に供給して第1サンギヤ22を駆動する。したがって、出力軸12はエンジン1のトルクの一部で駆動される第1リングギヤ24と第1M/G56とに駆動される。
これにより、入力軸10の回転速度より出力軸12の回転速度が速くなるオーバードライブになる。
このとき、出力軸12のトルクはTe+T1−T2・Iであり、T1(1+α1)/α1でもある。
【0045】
なお、エンジン1のトルクTeのうち、分割されて第1リングギヤ24を駆動するトルクは、第1M/G56が第1サンギヤ22を駆動するトルクの反力として第1リングギヤ24に作用するトルク、T1/α1である。
H−4モードにおいて車速が上昇すると、第1M/G56の回転速度が上がって、第1M/G56の駆動効率が悪い運転域になるので、そうなる前にH−5モードへ切り替える。
【0046】
H−5モードは、クラッチ60とともにブレーキ50を締結して駆動する。
その結果、入力軸10の回転は第2遊星歯車組30において増速され、第2M/G58と第1リングギヤ24とを入力軸10の(1+α2)倍の回転速度で駆動する。
そして、H−3モードと同様に第2ワンウエイクラッチ74の作用で第3キャリア48と第1キャリア28が連結されるので、第1遊星歯車組20が一体になり、出力軸12も入力軸10の(1+α2)倍の回転速度で回転する機械的なオーバードライブになり、第1M/G56と第2M/G58とは発電も駆動もする必要はない。
出力軸12のトルクはTe/(1+α2)である。
【0047】
このH−5モードの状態で第2M/G58が発電して、その電力を第1M/G36供給して駆動させるとH−6モードに切り替わる。
H−6モードは、出力軸12の回転速度を切り替え前とH−5モードと同じとした場合、第2サンギヤ32と第2M/G58の回転速度が低下し、上記の発電効率が悪い運転域から脱する結果、H−5モードに比べて動力伝達効率が向上する。
これにより、H−4モードと同様に、第2M/G58が発電し、その電力を第1M/G56に供給して第1サンギヤ22を駆動する。したがって、出力軸12はエンジン1のトルクの一部で駆動される第1リングギヤ24と第1M/G56とに駆動される。
このとき、出力軸12のトルクはTe/(1+α2)+T1−T2であり、T1(1+α1)/α1でもある。
H−6モードの回転速度比はH−5モードの1/(1+α1)より高変速比になる。
【0048】
以上のH−1モード乃至H−6モードは、機械的な駆動であるH−3モードとH−5モードを除いて、本発明の動力分割遊星歯車組である第1遊星歯車組20において、エンジン1のトルクの一部を機械的に、残りを電気的に出力軸12に伝えて駆動するので、常に機械的な動力伝達比率が高く、したがって動力伝達効率が高い。
それに加えて、上記したように発電効率や駆動効率の悪い運転領域を回避した駆動ができるのが特徴である。
【0049】
次にHV走行の後進であるH−Rモードについて説明する。
エンジン1を回転させての後進は、スリーブ70とドッグクラッチ28cとを噛み合わせた上で、ブレーキ50により第2サンギヤ32をケース52に固定して駆動する。
これは、後述するようにH−2モードと同様の連結にした駆動である。その場合、第2M/G58の回転方向が逆になるだけで、作動は実質的にH−2モードの場合と同様である。
つまり、例えば前進のH−1モードと同じ連結関係にして第2M/G58の回転方向を逆にした場合の出力軸12のトルクは、Te(1+α1)−T2・Iであるのに対して、図5のH−Rモードに書いたようにH−2モードと同じ締結にした場合の出力軸12のトルクは、Te(1+α1)/(1+α2)−T2・Iとなるので、後進方向の駆動力は後者の方が大きい。
【0050】
すなわち、エンジン1のトルクのうち機械的に伝達するトルクは常に前進方向のトルクであるので、これを少なくした方が後進駆動トルクを大きく確保できる。
したがって、バッテリーの残量が少ない場合などの後進には、H−2モードと同様の締結のH−Rモードが適している。
【0051】
なお、上記のHV走行は第1M/G56と第2M/G58のいずれか一方が発電した電力を他方に供給して駆動する前提で説明したが、これに限ることなく発電した電力の一部をバッテリーの充電にあててもいいし、発電した電力にバッテリーから追加して供給して駆動することもできる。
【0052】
以上説明したように、本実施例1の自動車用駆動装置は、第1リングギヤ24をケース52(静止部)に固定する固定手段として、ブレーキ50と第1ワンウエイクラッチ54の同時締結を行うようにした。これによる第1リングギヤ24の固定で、エンジン1が停止した状態において、第1M/G56が第1遊星歯車組20を介して出力軸12を減速駆動可能であるとともに、同時に第2M/G58も出力軸12を減速駆動可能とした。
【0053】
したがって、EV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴である。その結果、第1M/G56と第2M/G58の合計容量が自動車の必要とするモーター容量を満足すればいいので、1個のM/Gでしか駆動できなかった従来例に比べてM/Gのトータル容量を減らすことができる。これにより、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
【0054】
そして、EV走行では必要に応じて第2M/G58と第1M/G56の両者での駆動が可能であるとともに、第1M/G56のみでの駆動と第2M/G58のみでの駆動を選択できるので、自動車の走行負荷に応じて最適な制御を行うことができる。
特に、低負荷走行のE−1モードとE−2モードは、第1M/G56と第2M/G58の一方が駆動して他方は停止していることができるので、無駄な連れ回りを回避して、電力消費を少なくする効果もある。
【0055】
また、上記の機能を得るための摩擦要素としては、ブレーキ50とクラッチ60の2個だけであることが、本実施例の効果である。これは、第2ワンウエイクラッチ74と並列にスリーブ70とドッグクラッチ28cを設けたことによるものである。
そして、第3遊星歯車組40が存在して、第2M/G58が出力軸12を減速駆動可能であるため、低トルク高速回転型の第2M/G58を使うことができるので、そのサイズを小さくすることができる。
【0056】
さらに、第2遊星歯車組30による増速作用で、H−1モードおよびH−4モードにおける発電効率や駆動効率が悪化する領域での駆動を回避して、H−2モード、H−6モードという駆動を可能にしたので、動力伝達効率を高く維持するとともに駆動モードの選択自由度が高まり、燃費の向上が期待できる。
【0057】
上記したように、EB走行ではクラッチ60を締結して第1M/G56と第2M/G58とで発電しながら制動を行うが、クラッチ60の締結を解除すると第1M/G56と第2M/G58の両方を停止させておくことも可能である。
例えばHV走行における高速走行中にアクセルペダルの踏み込みをゆるめて、加速はしないけれども積極的な制動はしたくない場合、エンジン1を停止させて惰行すると、従来例では少なくとも一方のM/Gが回転するので、それが発電することによって制動に至らないように若干の電力を供給する必要があり、電力を消費することになる。
上記のような制御により第1M/G56と第2M/G58が回転しないで済むので、余計な電力消費を抑えられるという効果があり、その分、燃費が向上する。
【0058】
したがって、第1M/G56と第2M/G58の両方をフルに活用できることを生かして、たとえば市街地走行などの短距離は主に電気自動車として走行して、バッテリーの電力が少なくなった場合にエンジン1の動力で走行する、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例2】
【0059】
次に、本発明の実施例2の自動車用駆動装置につき説明する。
図6は、本発明の実施例2に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0060】
実施例2における実施例1との違いは、実施例1における第3遊星歯車組40がないことである。
各回転メンバーの連結関係は次のようになっている。
第2M/G58は第2ワンウエイクラッチ74を介して第1キャリア28と連結可能であり、これと並行してスリーブ70とドッグクラッチ28cを介しての連結が可能であるのは実施例1と同様である。
また、第2M/G58はクラッチ60を介して第2リングギヤ34および第1リングギヤ24と連結可能である。
ブレーキ50の配置が実施例1と異なるが機能面での相違はない。
その他の連結関係は実施例1と同様である。
【0061】
続いて実施例2の作動を説明する。
実施例2の作動は、図5の作動表を含めて実施例1と同様である。
ただ、第3遊星歯車組40がないので、前述のように第2M/G58の第1キャリア28と第2リングギヤ34および第1リングギヤ24との連結は、歯車を介さずに直接行われる。したがって、実施例1で説明した出力軸12のトルクの計算式で、減速比Iとしていた部分を1に置き換えればよい。
【0062】
実施例2の自動車用駆動装置もEV走行において、第1M/G56と第2M/G58の両方による同時駆動ができることが特徴である点は実施例1と同様である。
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
そして、EV走行では自動車の走行速度や負荷に応じて駆動モードを選択して走行できるとともに、無駄なM/Gの連れ回りを回避して電力消費を少なくする効果もある。
また、上記の機能を得るための摩擦要素としては、ブレーキ50とクラッチ60の2個だけであることが、本実施例の効果である。これは、第2ワンウエイクラッチ74と並列にスリーブ70とドッグクラッチ28cを設けたことによるものである。
【0063】
また、EB走行でクラッチ60の締結を解除すると、第1M/G56と第2M/G58の両方を回転させないことが可能である点も実施例1と同様である。
実施例2もいわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例3】
【0064】
次に、本発明の実施例3の自動車用駆動装置につき説明する。
図7は、本発明の実施例3に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0065】
実施例3における実施例1との違いは、実施例1における第2遊星歯車組30と第3遊星歯車組40がないことである。
各回転メンバーの連結関係は次のようになっている。
入力軸10と第1リングギヤ24とは第1クラッチ60により連結可能である。
第2M/G58は、第2ワンウエイクラッチ74を介して第1キャリア28と連結可能であり、これと並行してスリーブ70とドッグクラッチ28cを介しての連結が可能であるのは実施例1と同様である。
また、第2M/G58は第2クラッチ68を介して第1リングギヤ24と連結可能である。
【0066】
また、入力軸10を機械的に静止部(ケース52またはエンジン1の本体)に固定可能な固定装置52aを設けている。
すなわち入力軸10にドッグクラッチ10aを形成して、これに固定装置52aを噛み合わせて入力軸10を固定するものである。固定装置52aは原則としてエンジン1が停止した状態でドッグクラッチ10aと係合(噛み合わせ)させるものである。
固定装置52aは、後述するようにE−Rモードにおいて、第1クラッチ60の締結と組み合わせれば第1リングギヤ24を固定することができる。
固定装置52aは一般的な自動変速機に用いられるパーキングロック機構と同様のものでよく、ドッグクラッチ10aは入力軸10に限らずエンジン1のフライホイールの外周に形成してもよい。
その他の連結関係は実施例1と同様である。
【0067】
続いて実施例3の作動を、図8に示した作動表を参考にしながら説明する。
図8は、第1クラッチ60を「C1」、第2クラッチ68を「C2」、固定装置52aを「L」、第2ワンウエイクラッチ74を「OWC」とした以外は実施例1の図5と同様である。
【0068】
はじめに、E−1モードは第2ワンウエイクラッチ74の作用で第2M/G58が直接第1キャリア24を介して出力軸12を駆動する。出力軸12のトルクはT2である。
このとき、第1M/G56は停止していることができる。
E−2モードは、第2クラッチ68を締結することで、第2M/G58と第1リングギヤ24が連結されるので、第1M/G56と第2M/G58の協調駆動が行われる。
ただし、第2ワンウエイクラッチ74があるので、出力軸12の回転速度は常に第2M/G58と同じか、または高い回転速度である。
【0069】
E−Rモードは、前述の固定装置52aの締結と第1クラッチ60の締結により、第1リングギヤ24を固定して、第1M/G56による減速駆動と第2M/G58による駆動で後進する。出力軸12のトルクは、−{T1(1+α1)/α1+T2}である。
【0070】
EB走行は、第3遊星歯車組40はないので、実施例2と基本的に同様である。
続いてHV走行は、第2遊星歯車組30、第3遊星歯車組40がないので、実施例2におけるH−2モード、H−5モード、H−6モードがない。
したがって、H−1モードは実施例2と同様であり、H−2モードは実施例2のH−3モードに、H−3モードは実施例2におけるH−4モードと同様である。
【0071】
実施例3の自動車用駆動装置も、第1M/G56と同時に第2M/G58も出力軸12を駆動可能とした。
したがって、EV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を活用できることが特徴である点は実施例1と同様である。
【0072】
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
そして、EV走行では自動車の走行負荷に応じて最適な駆動モードを選択して走行できるとともに、無駄なM/Gの連れ回りを回避して電力消費を少なくする効果もある。
【0073】
さらに、HV走行では、H−2モードにおいて機械的な駆動を可能にするなど、動力伝達効率を高く維持するとともに駆動モードの選択自由度が高まり、燃費の向上が期待できる。
また、上記の機能を得るための摩擦要素としては、第1クラッチ60と第2クラッチ68の2個だけであることが、本発明の大きな効果である。これは、第2ワンウエイクラッチ74と並列にスリーブ70、ドッグクラッチ28cを設けたことによるものである。
【0074】
また、EB走行中に第2クラッチ68の締結を解除すると、第1M/G56と第2M/G58の両方を回転させないことが可能である点も実施例1と同様である。
【0075】
そして、図7で分かるように、第1クラッチ60と第2クラッチ68とは、歯車やワンウエイクラッチのような潤滑を必須とする構成要素と隔離した位置に配置することが可能である。したがって、乾式クラッチにすることが可能であり、これに伴って一般的な自動変速機が備える油圧ポンプを用いないことが容易である。
実施例3もいわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例4】
【0076】
次に、本発明の実施例4の自動車用駆動装置につき説明する。
図9は、本発明の実施例4に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1および実施例3と異なる部分を中心に説明し、それらと実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0077】
実施例4における実施例1との違いは、実施例1における第2遊星歯車組30がないことと、第3遊星歯車組40の連結関係が異なることである。
各回転メンバーの連結関係は次のようになっている。
実施例3と同様に、入力軸10と第1リングギヤ24とは第1クラッチ60により連結可能である。
【0078】
第2M/G58は第3サンギヤ42と連結し、第3キャリア48はケース52に固定されており、第3リングギヤ44が第2ワンウエイクラッチ74を介して第1キャリア28と連結可能であり、これと並行してスリーブ70とドッグクラッチ28cを介しての連結が可能になっている。
第3リングギヤ44はまた、第2クラッチ68を介して第1リングギヤ24と連結可能である。
その他の連結関係は実施例1と同様である。
【0079】
続いて実施例4の作動を、図10に示した作動表を参考にしながら説明する。
図10の描き方は、実施例3と同様であるが固定装置52aの「L」はない。
E−1モードは基本的に実施例1と同様であるが、第3遊星歯車組40の連結関係が異なるので出力軸12のトルクは異なる。すなわち、第3遊星歯車組40は第2M/G58のトルクを逆転減速駆動するので、この変速比−1/α3である。
E−1モードの出力軸12のトルクは−T2(−1/α3)=T2/α3である。
以下、第2M/G58が駆動するトルクはT2/α3である。
同様にE−2モードは、実施例1におけるE−4モードに相当し、出力軸12のトルクはT1+T2/α3である。
また、E−Rモードはスリーブ70とドッグクラッチ28cの噛み合いにより第2M/G58のみで駆動する。出力軸12のトルクは−T2/α3である。
EB走行は実施例1と同様である。
【0080】
続くHV走行のH−1モードは、基本的に実施例1と同様であり、出力軸12のトルクはTe(1+α1)+T2/α3であり、T1(1+α1)/α1+T2/α3でもある。
H−2モードは実施例1のH−3モードと同様であり、機械的な直結駆動である。
H−3モードは、実施例1におけるH−4モードと同様であり、オーバードライブである。このとき、出力軸12のトルクはTe+T1−T2・α3であり、T1(1+α1)/α1でもある。
H−Rモードは基本的に実施例1と同様であり、出力軸12のトルクはTe(1+α1)−T2/α3である。
【0081】
実施例4の自動車用駆動装置も、第1M/G56と同時に第2M/G58も出力軸12を駆動可能とした。
したがって、EV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を活用できることが特徴である点は実施例1と同様である。
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
そして、EV走行では自動車の走行負荷に応じて最適な駆動モードを選択して走行できるとともに、無駄なM/Gの連れ回りを回避して電力消費を少なくする効果もある。
【0082】
さらに、HV走行では、H−2モードにおいて機械的な駆動を可能にするなど、動力伝達効率を高く維持するとともに駆動モードの選択自由度が高まり、燃費の向上が期待できる。
また、上記の機能を得るための摩擦要素としては、第1クラッチ60と第2クラッチ68の2個だけであることが、本実施例の大きな効果である。これは、第2ワンウエイクラッチ74と並列にスリーブ70、ドッグクラッチ28cを設けたことによるものである。
【0083】
また、EB走行中に第2クラッチ68の締結を解除すると、第1M/G56と第2M/G58の両方を回転させないことが可能である点も実施例1と同様である。
そして、実施例3と同様に、第1クラッチ60と第2クラッチ68とは、乾式クラッチにすることが可能であり、油圧ポンプを用いないことが容易である。
実施例4もいわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例5】
【0084】
次に、本発明の実施例5の自動車用駆動装置につき説明する。
図11は、本発明の実施例5に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0085】
実施例5における実施例1との違いは、第3リングギヤ44と第1キャリア28とを連結可能な第3クラッチ72を有することである。
すなわち、第3クラッチ72は第3リングギヤ44と中間部材72aとを連結可能になっていて、中間部材72aはスリーブ70を介して第1キャリア28と常に連結している。スリーブ70は、中間部材72aと第1キャリア28の両方に、図示しないスプラインで常に噛み合ったまま軸方向に移動可能であり、図11で左側へ移動するとドッグクラッチ48cとも噛み合うことができる。
【0086】
スリーブ70とドッグクラッチ48cの配置と連結関係が実施例1とやや異なるが、これらは本発明の機械的連結・解除手段を構成する。
その他の連結関係は実施例1と同様であるので、説明を省略する。
【0087】
続いて実施例5の作動を、図11に示した作動表を参考にしながら説明する。
図11の描き方は、実施例1と同様であるが、第1クラッチ60を「C1」第3クラッチ72を「C3」とした。
実施例1との作動上の違いは第3クラッチ72が関係する駆動モードのみであるので、その部分に絞って説明する。
【0088】
E−4モードは、第3クラッチ72を締結することにより、第2M/G58と出力軸12とが直結される。したがって、出力軸12のトルクはT2である。
H−7モードは、H−6モードにおけるブレーキ50と第1クラッチ60に加えて第3クラッチ72を締結することで、入力軸10と出力軸12とは機械的に連結される。
すなわち、第2遊星歯車組30と第3遊星歯車組40とで増速されて、変速比は1/(1+α2)(1+α3)である。
したがって、出力軸12のトルクはTe/(1+α2)(1+α3)である。
【0089】
実施例5の自動車用駆動装置も、第1M/G56と同時に第2M/G58も出力軸12を駆動可能とした。
したがって、EV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を活用できることが特徴である点は実施例1と同様である。
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
そして、EV走行では自動車の走行負荷に応じて最適な駆動モードを選択して走行できるとともに、無駄なM/Gの連れ回りを回避して電力消費を少なくする効果もある。
【0090】
さらに、HV走行では、H−3モード、H−5モード、H−7モードにおいて機械的な駆動を可能にするなど、動力伝達効率を高く維持するとともに駆動モードの選択自由度が高まり、燃費の向上が期待できる。
また、上記の機能を得るための摩擦要素としては、ブレーキ50、第1クラッチ60と第3クラッチ72の3個だけであることが、本実施例の大きな効果である。これは、第2ワンウエイクラッチ74と並列にスリーブ70、ドッグクラッチ28cを設けたことによるものである。
【0091】
また、EB走行中に第1クラッチ60の締結を解除すると、第1M/G56と第2M/G58の両方を回転させないことが可能である点も実施例1と同様である。
実施例5もいわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【0092】
以上説明したように、本発明の自動車用駆動装置にあっては、いずれもエンジン1が停止したEV走行で第1M/G56と第2M/G58の両者で出力軸を駆動可能としたことが特徴である。
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
【0093】
そして、EV走行では無駄なM/Gの連れ回りを回避して、電力消費を少なくする効果もある。
したがって、第1M/G56と第2M/G58の両方をフルに活用できることを生かして、たとえば市街地走行などの短距離は主に電気自動車として走行して、バッテリーの電力が少なくなった場合にエンジン1の動力で走行する、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【0094】
また、各実施例は以上の特徴を有しながら摩擦要素の数がいずれも2個または3個と少ないことが特徴である。したがって、制御装置も含めてコストが安くなる。
【0095】
さらに、上記した各実施例は、第1遊星歯車組20、第2遊星歯車組30などを、シングルピニオン型と呼ばれる遊星歯車組を用いたが、これをダブルピニオン型に置き換えることも可能である。図示は省略したが、ダブルピニオン型の場合の連結関係は、シングルピニオン型に対してキャリアとリングギヤを入れ替えればよい。
【0096】
本発明の自動車用駆動装置は、当業者の一般的な知識に基づいて、自動車の走行条件に応じて最適な駆動モードを選択し、M/Gの最も効率の高いゾーンでの駆動を行うことや、GPS(全地球測位システム)、カーナビゲーションシステムなどの情報を基に、長い坂道の走行時や高速道路の入り口において、さらには気温が低くて自動車の暖房熱源が足りない場合などに、自動的にHV走行に切り替えるなどの制御面での工夫と合わせた態様で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の自動車用駆動装置は、特に走行コストを重視し、環境負荷の低減を要求される小型乗用車などに適用することができるが、それらに限らず内燃機関および電気モーター・ジェネレーターを利用したさまざまな車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 エンジン
10 入力軸
12 出力軸
20 第1遊星歯車組(動力分割遊星歯車組)
22 第1サンギヤ
24 第1リングギヤ
26 第1ピニオン
28 第1キャリア
30 第2遊星歯車組(入力変速歯車群)
32 第2サンギヤ
34 第2リングギヤ
36 第2ピニオン
38 第2キャリア
40 第3遊星歯車組(減速歯車)
42 第3サンギヤ
44 第3リングギヤ
46 第3ピニオン
48 第3キャリア
50 ブレーキ、(第1締結要素、固定手段)
52 ケース(静止部)
52a 固定装置(固定手段、機械的連結・解除手段)
54 第1ワンウエイクラッチ(第2締結要素、固定手段)
56 第1M/G
58 第2M/G
60 クラッチ(第1締結要素、固定手段)
68 第2クラッチ
70 スリーブ(機械的連結・解除手段)
72 スプリング
74 第2ワンウエイクラッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力を受け入れ可能な入力軸と、
出力軸と、
第1サンギヤ、第1リングギヤ、第1キャリアの、3つの回転要素を有する第1遊星歯車で構成され、動力分割が可能な動力分割遊星歯車組と、
第1モーター・ジェネレーターと、
第2モーター・ジェネレーターと、
を備え、
前記入力軸は前記第1リングギヤと連結するか、または連結可能であり、
前記出力軸は前記第1キャリアと連結し、
前記第1モーター・ジェネレーターは前記第1サンギヤと連結し、
前記第2モーター・ジェネレーターは、機械的連結・解除手段を介して前記第1キャリアと、第1クラッチを介して前記第1リングギヤと、それぞれ連結可能としたことを特徴とする自動車用駆動装置。
【請求項2】
前記入力軸と前記第1リングギヤとの連結は、第2サンギヤ、第2リングギヤ、第2キャリアの、3つの回転要素を有する第2遊星歯車で構成され、増速駆動が可能な入力歯車群を介して行われることを特徴とする請求項1に記載の自動車用駆動装置。
【請求項3】
前記第2モーター・ジェネレーターは、第3サンギヤ、第3リングギヤ、第3キャリアの、3つの回転要素を有する第3遊星歯車で構成され、減速駆動が可能な減速歯車と前記機械的連結・解除手段とを介して前記出力軸に連結可能であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車用駆動装置。
【請求項4】
前記第2モーター・ジェネレーターは前記第3リングギヤと連結し、前記第3キャリアは前記機械的連結・解除手段を介して前記出力軸と連結可能であり、前記第3キャリアをケースに固定するか、または固定したことを特徴とする請求項3に記載の自動車用駆動装置。
【請求項5】
前記第3リングギヤと前記出力軸とを連結可能としたことを特徴とする請求項4に記載の自動車用駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−112318(P2013−112318A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263191(P2011−263191)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(393011821)有限会社ファインメック (13)
【出願人】(594008626)協和合金株式会社 (49)
【Fターム(参考)】