説明

自動車部品用発泡成形体の製造方法およびその発泡成形体

【課題】比較的長い繊維長を有する有機繊維を用いた場合であっても繊維塊の発生を抑制ないし防止することができ、製品強度に優れ、外観良好な発泡成形体を得ることができる自動車部品用発泡成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】物理発泡剤を溶解した繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を、金型の金型キャビティ内に供給し、充填する充填工程、および、充填完了後、前記金型を所定量開くことにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を発泡させる発泡工程、を有し、前記充填工程において、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の前記金型キャビティ内への供給が、前記金型を所定量開いた状態で開始され、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給しながら、または供給完了後に前記金型を型締めすることにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を前記金型キャビティ内へ充填することを特徴とする自動車部品用発泡成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品用発泡成形体の製造方法およびその発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
成形体の剛性向上を目的に、強化繊維を用いた成形体は数多く実用化されている。最近では従来のガラス繊維等に代表される無機強化繊維だけではなく、有機繊維を用いることも検討されている。
このような有機繊維を用いた成形において、有機繊維の長さが長くなるほど成形体の機械強度向上効果は大きくなるが、成形工程において有機繊維が絡まりあい糸玉状の繊維塊となり外観を悪化させるとともに、この繊維塊発生箇所が成形不良を起こすという不具合が生じやすくなる。
【0003】
このような繊維塊を対策する方法として特許文献1には、天然繊維に代表される有機繊維を含む繊維含有樹脂を用いて射出成形する場合において、せん断力を作用させる方法や、発泡剤等を添加することにより繊維を延伸し、有機繊維が糸玉状に絡まることを防止する方法などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−245348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の繊維を延伸することによる繊維塊対策手法は、1〜3mm程度の比較的短い繊維長の場合には有効であるが、4mm以上の長い繊維長を有する繊維を用いる場合には十分な効果は得られなかった。
本発明は、溶融樹脂を金型キャビティ内に充填し、賦形する際に生じる繊維塊の発生を対策するものであり、比較的長い繊維長を有する有機繊維を用いた場合であっても繊維塊の発生を抑制ないし防止することができ、製品強度に優れ、外観良好な発泡成形体を得ることができる自動車部品用発泡成形体の製造方法、および、自動車部品用発泡成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、以下の手段<1>、<2>または<3>により解決された。
<1>(1)ポリオレフィン樹脂と、重量平均繊維長が4mm以上の有機繊維とを含有する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を溶融する溶融工程、(2)溶融状態の前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物に超臨界状態の物理発泡剤を溶解する溶解工程、(3)前記物理発泡剤を溶解した前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を一対の金型間に構成される金型キャビティ内に供給し、充填する充填工程、(4)充填完了後、前記金型を所定量開くことにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を発泡させる発泡工程、および、(5)発泡させた前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を冷却した後、前記金型から取り出す取出工程、を有し、前記(3)充填工程において、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の前記金型キャビティ内への供給が、前記金型を所定量開いた状態で開始され、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給しながら、または供給完了後に前記金型を型締めすることにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を前記金型キャビティ内へ充填することを特徴とする自動車部品用発泡成形体の製造方法、
<2>(1)ポリオレフィン樹脂と、重量平均繊維長が4mm以上の有機繊維とを含有する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を溶融する溶融工程、(2)溶融状態の前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物に超臨界状態の物理発泡剤を溶解する溶解工程、(3)前記物理発泡剤を溶解した前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を一対の金型間に構成される金型キャビティ内に供給し、充填する充填工程、(4)充填完了後、前記金型を所定量開くことにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を発泡させる発泡工程、および、(5)発泡させた前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を冷却した後、前記金型から取り出す取出工程、を有し、前記(3)充填工程において、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の前記金型キャビティ内への供給が、前記金型を所定位置まで閉じた状態で開始され、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給しながら前記金型を所定位置まで開いた後、更に、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給しながら、または供給完了後に前記金型を型締めすることにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を前記金型キャビティ内へ充填することを特徴とする自動車部品用発泡成形体の製造方法、
上記<1>または<2>に記載の自動車部品用発泡成形体の製造方法により得られた自動車部品用発泡成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、比較的長い繊維長を有する有機繊維を用いた場合であっても繊維塊の発生を抑制ないし防止することができ、製品強度に優れ、外観良好な発泡成形体を得ることができる自動車部品用発泡成形体の製造方法、および、自動車部品用発泡成形体を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の自動車部品用発泡成形体の製造方法に用いられる金型の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の自動車部品用発泡成形体の製造方法における製造工程を示す概略断面図(その1)である。
【図3】本発明の自動車部品用発泡成形体の製造方法における製造工程を示す概略断面図(その2)である。
【図4】本発明の自動車部品用発泡成形体の製造方法における製造工程を示す概略断面図(その3)である。
【図5】本発明の自動車部品用発泡成形体の製造方法における製造工程を示す概略断面図(その4)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、同一の部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。また、図1〜図5の各図において、紙面の左右方向にX軸をとり、紙面の上下方向にX軸に直交するY軸をとり、必要に応じて説明にはX軸、Y軸を用いる。
【0010】
本発明の自動車部品用発泡成形体の製造方法は、(1)ポリオレフィン樹脂と、有機繊維とを含有する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を溶融する溶融工程、(2)溶融状態の前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物に超臨界状態の物理発泡剤を溶解する溶解工程、(3)前記物理発泡剤を溶解した前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を一対の金型間に構成される金型キャビティ内に供給し、充填する充填工程、(4)充填完了後、前記金型を所定量開くことにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を発泡させる発泡工程、および、(5)発泡させた前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を冷却した後、前記金型から取り出す取出工程、を有する。
【0011】
本発明の一態様による自動車部品用発泡成形体の製造方法は、前記(3)充填工程において、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の前記金型キャビティ内への供給が、前記金型を所定量開いた状態で開始され、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給しながら、または供給完了後に前記金型を型締めすることにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を前記金型キャビティ内へ充填することを特徴とする。
また、本発明の他の態様による自動車部品用発泡成形体の製造方法は、前記(3)充填工程において、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の前記金型キャビティ内への供給が、前記金型を所定位置まで閉じた状態で開始され、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給しながら前記金型を所定位置まで開いた後、更に、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給しながら、または供給完了後に前記金型を型締めすることにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を前記金型キャビティ内へ充填することを特徴とする。
【0012】
[金型]
まず、本発明に用いられる成形用金型(以下、単に「金型」ともいう。)について図1を用いて説明する。図1は、本発明に用いられる金型の一例を示す概略断面図である。
図示するように、金型Mは、射出成形用の金型であり、固定側金型2と、前記固定側金型2に接して固定側金型2との間に金型キャビティ3を形成する可動側金型1とを有している。可動側金型1および固定側金型2は、X軸方向に対向して配置されている。可動側金型1は、図示しない型開閉機構によりX軸方向に往復動する。可動側金型1と固定側金型2とは、可動側金型1の往復動に伴って、可動側金型1と固定側金型2とが接触した閉状態(図1参照)と、可動側金型1と固定側金型2とが離間した開状態との間を移行する。可動側金型1と固定側金型2とは、閉状態において、その内部に例えば板状等の所望の形状を有する金型キャビティ3を形成する。
【0013】
固定側金型2には、物理発泡剤を含有した溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物(以下、単に「溶融樹脂」ともいう。)を供給するためのゲート部4が設けられており、溶融樹脂供給通路5に接続されている。溶融樹脂供給通路5のゲート部4側の先端部には、その通路を遮断できるバルブピン6等の開閉機構が設けられている。バルブピン6は、X軸方向に往復運動可能であり、溶融樹脂供給時にはバルブピン6を後退させて溶融樹脂の流路を確保し、溶融樹脂の供給完了後にバルブピン6を前進させて溶融樹脂の流路を遮断することができる。バルブピン6は、油圧や空気圧、電動等の駆動源(図示せず)により駆動する。このようなバルブピン6等の開閉機構を動作することにより、ゲート部4を複数有する場合には溶融樹脂の供給タイミングを自在に制御することができる。ゲート部4の設置場所や数は、成形品の形状や大きさによって適宜決定される。なお、図1に示す例では金型MがX軸方向に開閉可能であるが、Y軸方向に開閉可能であってもよく、これらの相違は本発明の本質ではない。
【0014】
[自動車部品用発泡成形体の製造方法]
次に、上述したような金型を用い、ポリオレフィン樹脂と強化繊維となる有機繊維とを含有する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物からなる自動車部品用発泡成形体を製造する本発明の一態様による自動車部品用発泡成形体の製造方法について図2〜図4を用いて説明する。
まず、ポリオレフィン樹脂と有機繊維とを含有する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7を可塑化装置を用いて溶融させ、溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7に超臨界状態の物理発泡剤を溶解させる。
次いで、超臨界状態の物理発泡剤を溶解させた溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7を金型キャビティ3内に供給する。
図2は、超臨界状態の物理発泡剤を溶解させた溶融状態の前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7を金型キャビティ3内に供給したときの状態を示す概略断面図である。
なお、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7の金型キャビティ3内への供給は、金型Mを所定量開いた状態で開始する。
【0015】
前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給するときの金型キャビティのクリアランスは、供給する前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の容積よりも金型キャビティの容積が大きくなるクリアランスであれば特に制限はないが、2.0mm以上10mm以下であることが好ましく、2.5mm以上5mm以下であることがより好ましい。なお、本発明における金型キャビティのクリアランスとは、可動側金型1の金型キャビティ3を形成する面と固定側金型2の金型キャビティ3を形成する面との型締め方向の間隔を意味する。金型キャビティのクリアランスが2.0mm以上であると、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物が金型キャビティ内を流動するときのせん断力を小さくすることができ、繊維塊の発生を抑制ないし防止することができる。また、金型キャビティのクリアランスが10mm以下であると、繊維塊の発生を抑制ないし防止しつつ、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の供給跡が発泡成形品の表面に残存するのを抑制ないし防止し、外観品質を向上することができる。
このように、本発明によれば、溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂を金型キャビティ内に供給し、充填する充填工程において、金型を所定量開いて溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂を供給することにより、供給時における溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂へのせん断力を低減することができる。
【0016】
前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を金型キャビティに供給するときの該樹脂組成物の温度は、好ましくは該樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂成分の融点以上であって、(有機繊維の融点−30℃)以下、より好ましくは170〜220℃、更に好ましくは180〜200℃である。
また、上記のような温度範囲に設定された繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物が供給される金型キャビティのキャビティ温度は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは5〜70℃、更に好ましくは30〜70℃である。
【0017】
前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を金型キャビティ内に供給するときの金型キャビティ内の圧力は、大気圧でも大気圧以下に減圧した状態であってもよいが、予め金型キャビティ内の圧力を大気圧以上に加圧しておくことが好ましく、0.3MPa以上に加圧しておくことがより好ましく、0.5MPa以上に加圧しておくことが更に好ましい。大気圧以上に加圧しておくことで、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の供給時におけるフローフロントでの破泡を抑制し、シルバーストリークの発生を抑制することができる。金型キャビティ内の圧力を加圧する方法としては、コンプレッサーや圧縮ガスボンベ等を用いて金型キャビティ内部に空気や窒素、炭酸ガス等を圧入することが好ましい。
【0018】
本発明では、上記のように前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7を供給しながら、または供給完了後に、金型Mを型締めする。
図3は、可動側金型1を固定側金型2の方向に移動させ、金型Mを型締めした状態を示す概略断面図である。型締めするタイミングは、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給している途中であっても、供給完了後であってもよいが、供給完了後に型締めを行う場合は、供給完了後速やかに型締めすることが好ましい。
型締めによる圧縮代は供給する前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の容積と、供給するときの金型キャビティのクリアランスによって決定されるが、圧縮代が0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。このときの型締め速度は1mm/秒以上30mm/秒以下であることが好ましい。型締め速度が1mm/秒以上であると、型締めに要する時間を短縮し、供給された前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の冷却の進行を抑えることでき、金型キャビティ内への充填性を良好なものとすることができる。また、型締め速度が30mm/秒以下であると、溶融樹脂充填時のせん断力が小さくなり、繊維塊の発生を抑制ないし防止することができる。
このように、本発明では、金型を所定量開いて溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂を供給することに加えて、溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂の金型キャビティ内への充填および賦形について型締め圧縮を用いる。このため、溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂の供給から充填および賦形に至るまでの過程において常にせん断力を低減することができる。したがって、本発明によれば、繊維塊の発生を抑制ないし防止することができ、製品強度に優れ、軽量で外観良好な発泡成形体を得ることができる。
【0019】
なお、溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を金型キャビティ内に供給する前に、金型キャビティ内の圧力を大気圧以上に加圧した場合は、型締めが完了する前に金型キャビティ内を減圧し、大気圧または大気圧以下に減圧することが好ましい。減圧しなかった場合や、減圧するタイミングが遅い場合には、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の充填が不完全であったり、ヤケが発生したりすることがある。型締めが完了する前に金型キャビティ内を大気圧以下に減圧することにより、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を確実に充填することができるとともに、ヤケの発生を防止することができる。
【0020】
次に、溶融状態の前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7の金型キャビティ3内への充填を完了した後、金型Mを所定量開いて前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7を発泡させる。
図4は、可動側金型1を固定側金型2とは反対の方向に所定量開いて金型キャビティ3の容積を拡大し、金型Mを所定量開いた状態を示す概略断面図である。可動側金型1を開くタイミングは、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の未固化部分が発泡層のセルを形成するのに適した温度となった時点とすることが好ましい。この温度が高すぎるとポリオレフィン樹脂組成物中に溶解している物理発泡剤の発泡圧力により粗大セルが形成されやすくなり、物性低下の虞がある。また、この温度が低すぎるとポリオレフィン樹脂組成物の溶融粘度が低下し所望の発泡倍率が得られなくなってしまう。未硬化部分の温度を適切な温度とすることにより、粗大セルによる物性の低下を防止しつつ、所望の発泡倍率を得ることができる。この未固化部分の温度は、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を金型キャビティ内に充填し、型締め完了した時点から金型キャビティの容積を拡大するまでの時間を制御することで調整可能である。
【0021】
可動側金型1を開く量には特に制限はなく、所望の発泡倍率が得られるように拡大すればよいが、型締めしたときの金型キャビティのクリアランスの0.5〜5倍であることが好ましく、1〜4倍であることがより好ましい。可動側金型1を開く量を型締めしたときの金型キャビティのクリアランスの0.5倍以上とすることにより、大きな軽量化効果が期待できる。また、可動側金型1を開く量を型締めしたときの金型キャビティのクリアランスの5倍以下とすることにより、発泡セルの粗大化を防止し、得られる発泡成形体の強度を良好なものとすることができる。
【0022】
金型キャビティ3の容積を拡大した後、次に前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7からなる発泡成形体の冷却を行う。この冷却の際、金型キャビティのクリアランスを所定量狭め前記発泡成形体に圧縮力を加えながら冷却してもよい。
【0023】
冷却が完了した後、可動側金型1を固定側金型2から離間する方向に移動させ、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7からなる発泡成形体を金型Mから取り出す。
こうして、自動車部品用発泡成形体が製造される。
【0024】
次に、本発明の他の態様による自動車部品用発泡成形体の製造方法について図5、図3および図4を用いて説明する。
図5は、可動側金型1を固定側金型2の方向に所定位置まで移動させ、上記と同様に超臨界状態の物理発泡剤を溶解させた溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7を金型キャビティ3内に供給開始したときの状態を示す概略断面図である。
図2に示す場合とは異なり、図5に示す場合では、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7の金型キャビティ3内への供給を、金型Mを所定位置まで閉じた状態で開始する。
【0025】
前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7の供給を開始するときの金型キャビティのクリアランスは特に制限はないが、供給開始時の金型キャビティのクリアランスの下限としては1mm以上とすることが好ましい。1mm未満の場合は、瞬間的にではあるが前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物に加わるせん断力が大きくなりすぎ、繊維塊が発生しやすくなる。供給開始時の金型キャビティのクリアランスの下限を1mm以上とすることにより、かかるせん断力が小さくなり、繊維塊の発生を抑制ないし防止することができる。また、供給開始時の金型キャビティのクリアランスの上限は、後述する金型キャビティのクリアランスの拡大を停止する所定の金型キャビティのクリアランス未満であれば特に制限を受けない。
このように前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の供給開始時における金型キャビティのクリアランスを後述の型締め開始位置(金型キャビティのクリアランス拡大停止位置)よりも狭めるのは、ゲート部の周辺における外観品質をより高めやすくするためである。
【0026】
次に、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7の供給を開始した後、供給を継続しながら金型キャビティ3のクリアランスを所定位置まで拡大する(図2参照)。金型キャビティのクリアランスを拡大する方法としては、射出成形機の型締め装置を用いて機械的に制御して拡大する方法や、型締め装置の型締め力を溶融樹脂の供給圧力により若干開く程度に低く設定し、溶融樹脂の供給圧力により金型キャビティのクリアランスを拡大する方法等をとることができる。機械的に制御して金型キャビティのクリアランスを拡大する場合の拡大速度は0.5mm/秒以上20mm/秒以下であることが好ましい。拡大速度が0.5mm/秒以上であると、拡大に要する時間を短縮し、成形サイクルを短縮することができる。また、拡大速度が20mm/秒以下であると、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の発泡が金型キャビティのクリアランスの拡大速度に追従することができ、発泡成形体の表面に光沢ムラ等の外観不良が発生するのを防止することができる。また、金型キャビティのクリアランスを拡大する速度は、途中で減速や増速してもよい。
拡大を停止するタイミングは、所定の金型キャビティのクリアランスとなったところである。停止するタイミングは、供給するポリオレフィン樹脂組成物の全量を供給した後であっても、供給している途中であってもよいが、供給している途中で拡大を停止し、型締めを行うのが好ましい。
このように、本発明によれば、溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂を金型キャビティ内に供給し、充填する充填工程において、金型を開きながら溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂を供給することにより、供給時における溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂へのせん断力を低減することができる。
【0027】
金型キャビティのクリアランスの拡大を停止する所定の金型キャビティのクリアランスは、2.0mm以上10mm以下であることが好ましく、2.5mm以上5mm以下であることがより好ましい。拡大を停止する所定の金型キャビティのクリアランスが2.0mm以上であると、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物が金型キャビティ内を流動するときのせん断力を小さくすることができ、繊維塊の発生を抑制ないし防止することができる。また、拡大を停止する所定の金型キャビティのクリアランスが10mm以下であると、繊維塊の発生を抑制ないし防止しつつ、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の供給跡が発泡成形品の表面に残存するのを抑制ないし防止し、外観品質を向上することができる。
【0028】
次に、金型キャビティのクリアランスの拡大が所定位置に達した後、可動側金型1を固定側金型2の方向に移動させ、型締めを行う(図3参照)。型締めするタイミングは前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給している途中であっても、供給完了後であってもよいが、供給完了後に型締めを行う場合は、供給完了後速やかに型締めすることが好ましい。型締めによる圧縮代は供給する前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の容積と、供給するときの金型キャビティのクリアランスによって決定されるが、圧縮代が0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。このときの型締め速度は1mm/秒以上30mm/秒以下であることが好ましい。型締め速度が1mm/秒以上であると、型締めに要する時間を短縮し、供給された前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の冷却の進行を抑えることでき、金型キャビティ内への充填性を良好なものとすることができる。また、型締め速度が30mm/秒以下であると、溶融樹脂充填時のせん断力が小さくなり、繊維塊の発生を抑制ないし防止することができる。
このように、本発明では、金型を開きながら溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂を供給することに加えて、溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂の金型キャビティ内への充填および賦形について型締め圧縮を用いる。このため、溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂の供給から充填および賦形に至るまでの過程において常にせん断力を低減することができる。したがって、本発明によれば、繊維塊の発生を抑制ないし防止することができ、製品強度に優れ、軽量で外観良好な発泡成形体を得ることができる。
【0029】
次に、溶融状態の前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7の金型キャビティ3内への充填を完了した後、金型Mを所定量開いて前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7を発泡させる(図4参照)。
なお、この際の可動側金型1を開くタイミング、および可動側金型1を開く量は、前述した通りである。
【0030】
以後、前述したのと同様にして、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物7からなる発泡成形体の冷却および金型Mからの取り出しを行い、自動車部品用発泡成形体の製造を完了する。
【0031】
[繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物]
本発明に用いられる繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物は、樹脂成分としてポリオレフィン樹脂と、繊維成分として強化繊維となる有機繊維とを含有している。
【0032】
<有機繊維>
本発明の有機繊維とは、重量平均繊維長が4mm以上の有機繊維をいう。具体的にはポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、綿、麻、絹、竹等の有機繊維が挙げられる。これら有機繊維は2種類以上を併用してもよい。なかでも、ポリエステル繊維が好ましく、ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなる有機繊維がより好ましい。
【0033】
ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなる有機繊維はポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートからなることが好ましい。
【0034】
(ポリアルキレンナフタレンジカルボキシレート)
ポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートとは、アルキレンジオールとナフタレンジカルボン酸との縮重合生成物であり、下記式(P)または式(Q)で表されるアルキレンナフタレンジカルボキシレート単位が全繰り返し単位の量の80モル%以上を占めるポリエステルが好ましい。アルキレンナフタレンジカルボキシレート単位の含有量は、好ましくは全繰り返し単位量の90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは96〜100モル%である。
【0035】
【化1】

(式(P)中、nは1以上の整数を表す。)
【0036】
【化2】

(式(Q)中、nは1以上の整数を表す。)
【0037】
アルキレンナフタレンカルボキシレートの主鎖を形成するアルキレン基としては、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。アルキレン基として、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基が挙げられる。ポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートは、好ましくはポリエチレンナフタレンジカルボキシレート、より好ましくはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートである。
【0038】
(ポリアルキレンテレフタレート)
ポリアルキレンテレフタレートとは、アルキレンジオールとテレフタル酸との縮重合体であり、下記式(R)で表されるアルキレンテレフタレート単位が全繰り返し単位の量の80モル%以上を占めるポリエステルが好ましい。アルキレンテレフタレート単位の含有量は、好ましくは全繰り返し単位量の90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは96〜100モル%である。
【0039】
【化3】

(式(R)中、nは1以上の整数を表す。)
【0040】
ポリアルキレンテレフタレートの主鎖を形成するアルキレン基としては、炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。アルキレン基として、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基が挙げられる。ポリアルキレンテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0041】
有機繊維を構成する繰り返し単位中に、他の単位(第三成分)を含んでいてもよい。かかる第三成分として、(a)2個のエステル形成性官能基を有する化合物残基が挙げられる。このような2個のエステル形成性官能基を有する化合物残基を与える化合物としては、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロプロパンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等の脂環族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム等のカルボン酸;グリコール酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸等のオキシカルボン酸;プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール A、p,p’−ジヒドロキシフェニルスルホン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(p−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ポリアルキレングリコール等のオキシ化合物;等が挙げられる。またこれらの誘導体が挙げられる。
また前記オキシカルボン酸および/または前記オキシカルボン酸の誘導体からなる高分子化合物も前記第三成分の源の例として挙げられる。
更に、前記カルボン酸および前記カルボン酸の誘導体から選ばれる少なくとも1種類の化合物、前記オキシカルボン酸および前記オキシカルボン酸の誘導体から選ばれる少なくとも1種類の化合物、前記オキシ化合物および前記オキシ化合物の誘導体から選ばれる少なくとも1種類の化合物、のうち2種類以上の化合物からなる高分子化合物も前記第三成分の源の例として挙げられる。
【0042】
かかる第三成分として、(b)1個のエステル形成性官能基を有する化合物残基が挙げられる。このような1個のエステル形成性官能基を有する化合物残基を与える化合物としては、例えば安息香酸、ベンジルオキシ安息香酸、メトキシポリアルキレングリコール等が挙げられる。
【0043】
(c)3個以上のエステル形成性官能基を有する化合物残基を与える、例えばグリセリン、ペンタエリストール、トリメチロールプロパン等も、重合体が実質的に線状である範囲内で第三成分源として使用可能である。
有機繊維の全繰り返し単位の量の80モル%以上を占めるポリエステル中には、二酸化チタン等の艶消し剤、リン酸、亜リン酸、それらのエステル等の安定剤が含まれてもよい。
【0044】
このような有機繊維は、機械的な衝撃に対する耐性が高く、また樹脂となじみやすい。一方実際に使用する低温領域においては繊維補強の効果が効率的に発揮される。
【0045】
有機繊維の単糸繊度は、好ましくは1〜30dtex、より好ましくは3〜15dtexである。単糸繊度の上限値は、好ましくは20dtex、より好ましくは16dtexである。単糸繊度の下限値は、好ましくは2dtexである。有機繊維の単糸繊度がこのような範囲にあることにより本発明の目的を達成しやすくなる。単糸繊度が1dtex末満では製糸性に問題が生じる傾向にあり、単糸繊度が大きすぎると繊維/樹脂間の界面強度が低下する傾向にある。また繊維の分散の面からすれば、単糸繊度が1dtex以上であることが好ましく、補強効果の面では単糸繊度が30dtex以下であることが好ましい。
【0046】
有機繊維の表面には、該有機繊維100質量部に対して、収束剤が0.1〜10質量部付着していることが好ましく、0.1〜3質量部付着していることがより好ましい。収束剤として、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、澱粉、植物油、およびこれらとエポキシ化合物の混合物が挙げられる。収束剤は、ポリオレフィン樹脂およびポリウレタン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。なお、収束剤に含まれるポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン樹脂組成物に含有される以下に述べるポリオレフィン樹脂と同一であってもよい。
【0047】
<ポリオレフィン樹脂>
ポリオレフィン樹脂としては、オレフィンの単独重合体または2種類以上のオレフィンの共重合体からなる樹脂を含むポリオレフィン樹脂が好ましく適用できる。ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂として好ましくは、ポリプロピレン樹脂である。ポリオレフィン樹脂は、単一のポリオレフィン樹脂でもよく、2種以上のポリオレフィン樹脂の混合物でもよい。
【0048】
ポリプロピレン樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体であるプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレンを単独重合してプロピレン単独重合体を生成させた後に、該プロピレン単独重合体の存在下にエチレンとプロピレンを共重合して得られるプロピレン系ブロック共重合体等が挙げられる。耐熱性の観点から、ポリプロピレン樹脂として好ましくは、プロピレン単独重合体、プロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンを共重合して得られるプロピレン系ブロック共重合体である。
【0049】
プロピレン−エチレンランダム共重合体のエチレンに由来する構成単位の含有量(ただし、プロピレンとエチレンの合計量を100モル%とする。)、炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体であるプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体のα−オレフィンに由来する構成単位の含有量(ただし、プロピレンとα−オレフィンの合計量を100モル%とする。)、プロピレン−エチレン−α−オレフィンランダム共重合体のエチレンとα−オレフィンに由来する構成単位の合計含有量(ただし、プロピレンとエチレンとα−オレフィンの合計量を100モル%とする。)は、いずれも50モル%未満であることが好ましい。前記エチレンの含有量、α−オレフィンの含有量およびエチレンとα−オレフィンの合計含有量は、“新版 高分子分析ハンドブック”(日本化学会、高分子分析研究懇談会編 紀伊国屋書店(1995))に記載されているIR法またはNMR法を用いて測定される。
【0050】
ポリエチレン樹脂としては、例えば、エチレン単独重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体等が挙げられる。なお、エチレン−プロピレンランダム共重合体のプロピレンに由来する構成単位の含有量(ただし、エチレンとプロピレンの合計量を100モル%とする。)、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体に含有されるα−オレフィンの含有量(ただし、エチレンとα−オレフィンの合計量を100モル%とする。)、エチレン−プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体に含有されるプロピレンとα−オレフィンの合計含有量(ただし、エチレンとプロピレンとα−オレフィンの合計量を100モル%とする。)は、いずれも50モル%未満であることが好ましい。
【0051】
ポリオレフィン樹脂の構成成分であるα−オレフィンとしては、炭素数4〜20のα−オレフィンが挙げられる。具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、メチルエチル−1−ブテン、1−オクテン、メチル−1−ペンテン、エチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ヘキセン、プロピル−1−ヘプテン、メチルエチル−1−ヘプテン、トリメチル−1−ペンテン、プロピル−1−ペンテン、ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等が挙げられる。好ましくは、炭素数4〜8のα−オレフィン(例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン)である。
【0052】
ポリオレフィン樹脂は、溶液重合法、スラリー重合法、バルク重合法、気相重合法等によって製造することができる。また、これらの重合法を単独で用いてもよく、2種以上の重合法を組み合わせてもよい。ポリオレフィン樹脂のより具体的な製造方法の例としては、例えば、“新ポリマー製造プロセス”(佐伯康治・尾見信三編著、工業調査会(1994年発行))、特開平4−323207号公報、特開昭61−287917号公報等に記載されている重合法が挙げられる。
【0053】
ポリオレフィン樹脂の製造に用いられる触媒としては、マルチサイト触媒やシングルサイト触媒が挙げられる。好ましいマルチサイト触媒として、チタン原子、マグネシウム原子およびハロゲン原子を含有する固体触媒成分を用いて得られる触媒が挙げられ、また、好ましいシングルサイト触媒として、メタロセン触媒が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としてのポリプロピレン樹脂の製造に用いられる好ましい触媒として、上記のチタン原子、マグネシウム原子およびハロゲン原子を含有する固体触媒成分を用いて得られる触媒が挙げられる。
【0054】
ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)は、発泡成形体中における表面処理繊維(A)の分散性、発泡成形体の外観不良の発生防止や耐衝撃強度の向上という観点から、好ましくは1〜500g/10分、より好ましくは10〜400g/10分、更に好ましくは20〜300g/10分である。なお、MFRは、ASTM D1238に従い、230℃、21.2N荷重で測定した値である。
【0055】
ポリオレフィン樹脂としてのプロピレン単独重合体のアイソタクチックペンタッド分率は、好ましくは0.95〜1.0、より好ましくは0.96〜1.0、更に好ましくは0.97〜1.0である。アイソタクチックペンタッド分率とは、A. ZambelliらによってMacromolecules, 第6巻, 第925頁(1973年)に発表されている方法、すなわち13C−NMRを使用して測定されるプロピレン分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖、換言すればプロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。ただし、NMR吸収ピークの帰属は、Macromolecules, 第8巻, 第687頁(1975年)に基づいて行う。
【0056】
ポリオレフィン樹脂がプロピレンを単独重合した後にエチレンとプロピレンを共重合して得られるプロピレンブロック共重合体の場合、前記プロピレン単独重合体部のアイソタクチックペンタッド分率は、好ましくは0.95〜1.0、より好ましくは0.96〜1.0、更に好ましくは0.97〜1.0である。
【0057】
ポリオレフィン樹脂は、下記の変性ポリオレフィン樹脂を更に含むことが好ましい。
<変性ポリオレフィン樹脂>
変性ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン樹脂を不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性して得られた樹脂である。ここで、変性ポリオレフィン樹脂の原料となるポリオレフィン樹脂とは、上記ポリオレフィン樹脂成分のポリオレフィンと同様のポリオレフィン樹脂である。また、変性ポリオレフィン樹脂は、オレフィンの単独重合体または2種類以上のオレフィンの共重合体に不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1種類の化合物を反応させて生成した樹脂であって、分子中に不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸誘導体に由来する部分構造を有している樹脂である。変性ポリオレフィン樹脂の例として、下記(d)、(e)および(f)の変性ポリオレフィン樹脂が挙げられる。変性ポリオレフィン樹脂として、下記(d)、(e)および(f)の変性ポリオレフィン樹脂の中から選択される1種以上を使用することができる。
【0058】
(d)オレフィンの単独重合体に、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体をグラフト重合して得られる変性ポリオレフィン樹脂。
(e)2種以上のオレフィンを共重合して得られる共重合体に、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体をグラフト重合して得られる変性ポリオレフィン樹脂。
(f)オレフィンを単独重合した後に2種以上のオレフィンを共重合して得られるブロック共重合体に、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体をグラフト重合して得られる変性ポリオレフィン樹脂。
【0059】
変性ポリオレフィン樹脂は、溶液法、バルク法、溶融混練法等によって製造することができる。また、2種以上の方法を併用してもよい。溶液法、バルク法、溶融混練法等の具体的な例としては、例えば、“実用ポリマ−アロイ設計”(井出文雄著、工業調査会(1996年発行))、Prog. Polym. Sci., 24, 81−142(1999)、特開2002−308947号公報、特開2004−292581号公報、特開2004−217753号公報、特開2004−217754号公報等に記載されている方法が挙げられる。
【0060】
変性ポリオレフィン樹脂としては、市販されている変性ポリオレフィン樹脂を用いてもよく、例えば、商品名モディパー(日油(株)製)、商品名ブレンマーCP(日油(株)製)、商品名ボンドファースト(住友化学(株)製)、商品名ボンダイン(住友化学(株)製)、商品名レクスパール(日本ポリエチレン(株)製)、商品名アドマー(三井化学(株)製)、商品名モディックAP(三菱化学(株)製)、商品名ポリボンド(クロンプトン(株)製)、商品名ユーメックス(三洋化成(株)製)等が挙げられる。
【0061】
変性ポリオレフィン樹脂の製造に用いられる不飽和カルボン酸としては、炭素数3以上の不飽和カルボン酸、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸誘導体としては、不飽和カルボン酸の酸無水物、エステル化合物、アミド化合物、イミド化合物、金属塩等が挙げられる。不飽和カルボン酸誘導体の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸モノアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、メタクリル酸ナトリウム等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸によるポリオレフィンの変性には、該不飽和カルボン酸の源として、クエン酸やリンゴ酸のように、ポリオレフィンにグラフトする工程で脱水して不飽和カルボン酸を生じるものを用いることができる。不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸誘導体として、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸グリシジル、無水マレイン酸、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルである。
【0062】
変性ポリオレフィン樹脂として、エチレンおよびプロピレンから選ばれる少なくとも1種のオレフィンに由来する単位を主な構成単位として含有するポリオレフィン樹脂に、無水マレイン酸、メタクリル酸グリシジルまたはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルをグラフト重合することによって得られる樹脂を用いることが好ましい。
【0063】
変性ポリオレフィン樹脂の、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に由来する構成単位の含有量は、耐衝撃強度、疲労特性、剛性等の機械的強度の向上という観点から、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%、更に好ましくは0.2〜2質量%、特に好ましくは0.4〜1質量%である。なお、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に由来する構成単位の含有量は、赤外吸収スペクトルまたはNMRスペクトルによって、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体に基づく吸収を定量して算出した値である。
【0064】
本発明の発泡成形体を構成する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物は、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性されたポリオレフィン樹脂である変性ポリオレフィン樹脂を樹脂成分として含有してもよい。
繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の樹脂成分中の不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体由来の構成単位の含有量が同じである場合を比較すると、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物は、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体での変性の程度の少ない変性ポリオレフィン樹脂のみを樹脂成分として含有するよりは、多量の変性されていないポリオレフィン樹脂と、少量の高度に変性された変性ポリオレフィン樹脂とを組み合わせて含有する方が、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物全体の機械的強度の向上という観点から好ましい。これは、変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸誘導体で変性すると、生成した変性ポリオレフィン樹脂中の重合体は、変性前のポリオレフィン樹脂中の重合体の分子量よりも小さな分子量を有することになる傾向があるためである。そのため、本発明においては、射出成形に付されるポリオレフィン樹脂成分として、変性されていないポリオレフィン樹脂に加えて変性ポリオレフィン樹脂を含有する態様が好ましい。
【0065】
本発明の発泡成形体を構成する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂中の変性ポリオレフィン樹脂の含有量は、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物における樹脂成分の剛性や機械的強度の向上という観点や、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物における繊維束への樹脂成分の含浸性の向上という観点から、0.5〜40質量%であることが好ましく、0.5〜30質量%であることがより好ましく、1〜20質量%であることが更に好ましい。
【0066】
上述のように、本発明の発泡成形体を構成する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物は、繊維成分としての有機繊維と、樹脂成分としてのポリオレフィン樹脂とを含有する。繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物中の有機繊維の含有量およびポリオレフィン樹脂の含有量は、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の剛性や機械的強度の向上という観点や、発泡成形体の外観の観点から、それぞれ1〜70質量%および30〜99質量%であることが好ましく、5〜68質量%および32〜95質量%であることがより好ましく、10〜65質量%および35〜90質量%であることが更に好ましく、15〜60質量%および40〜85質量%であることが特に好ましく、20〜55質量%および45〜80質量%であることが最も好ましい。
【0067】
<その他の成分>
本発明の発泡成形体を構成する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物には、有機繊維およびポリオレフィン樹脂以外に、その他の成分として以下に述べるものを配合してもよい。
例えば、本発明の発泡成形体を構成する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物には、1種以上のエラストマーを配合してもよい。エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、PVC系エラストマー等が挙げられる。
【0068】
また、本発明の発泡成形体を構成する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物には、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤等の安定剤、気泡防止剤、難燃剤、難燃助剤、分散剤、帯電防止剤、滑剤、シリカ等のアンチブロッキング剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤、造核剤や結晶化促進剤等を配合してもよい。
【0069】
また、本発明の発泡成形体を構成する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物には、ガラスフレーク、マイカ、ガラス粉、ガラスビーズ、タルク、クレー、アルミナ、カーボンブラック、ウォールスナイト等の板状、粉粒状、ウィスカー状の無機化合物等を配合してもよい。
【0070】
<繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法>
本発明の発泡成形体の製造方法に用いる繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の製造方法としては、例えば、次の(1)〜(3)の方法等が挙げられる。
(1)各成分の全てを混合して混合物とした後、その混合物を溶融混練する方法。
(2)全成分を逐次添加することにより混合物を得た後、その混合物を溶融混練する方法。
(3)プルトルージョン法。
上記の(1)または(2)の方法において、溶融混練する混合物を得る方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダー等によって混合する方法が挙げられる。そして、溶融混練する方法としては、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸または二軸押出機等によって溶融混練する方法が挙げられる。
【0071】
本発明の発泡成形体の製造方法に用いる繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物はプルトルージョン法で製造することが好ましい。プルトルージョン法は、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の製造の容易さ、得られる成形体の剛性と耐衝撃強度等の機械的強度や制振特性の向上という観点から好ましい。プルトルージョン法とは、基本的には連続した繊維束を引きながら、繊維束に樹脂を含浸させる方法であり、例えば、次の(1)〜(3)の方法等が挙げられる。
(1)ポリオレフィン樹脂と溶媒からなるエマルジョン、サスペンジョンあるいは溶液を入れた含浸槽の中に繊維束を通し、繊維束に該エマルジョン、サスペンジョンまたは溶液を含浸させた後、溶媒を除去する方法。
(2)ポリオレフィン樹脂の粉末を繊維束に吹き付けたのち、または、ポリオレフィン樹脂の粉末を入れた槽の中に繊維束を通し繊維にポリオレフィン樹脂の粉末を付着させたのち、該粉末を溶融して繊維束にポリオレフィン樹脂成分を含浸させる方法。
(3)クロスヘッドの中に繊維束を通しながら、押出機等からクロスヘッドに溶融ポリオレフィン樹脂成分を供給し、繊維束に該ポリオレフィン樹脂成分を含浸させる方法。
【0072】
本発明の発泡成形体の製造方法に用いる繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物は、上記(3)のクロスヘッドを用いるプルトルージョン法、より好ましくは、特開平3−272830号公報等に記載されているクロスヘッドを用いるプルトルージョン法で製造することが好ましい。
【0073】
上記のプルトルージョン法において、樹脂成分の含浸操作は1段で行ってもよく、2段以上に分けて行ってもよい。また、プルトルージョン法によって製造された繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物ペレットと、溶融混練法によって製造された繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物ペレットをブレンドしてもよい。
【0074】
繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物ペレットを射出成形に適用した場合、射出発泡成形における金型キャビティへの充填しやすさ、強度が高い発泡成形体が得られるという観点から、プルトルージョン法で製造された繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物ペレットの長さは重量平均長で4〜50mmであることが好ましい。より好ましい長さは、5〜15mmである。この範囲内であると、残存する有機繊維の重量平均繊維長を4mm以上としやすい。
【0075】
プルトルージョン法で製造された繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物ペレットの長さとその繊維強化リオレフィン樹脂組成物ペレットに含有される有機繊維の長さは等しい。繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物ペレットの長さとその繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物ペレット中に含有される有機繊維の長さとが等しいということは、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物ペレットに含有される有機繊維の長さが、ペレットの全長の90〜110%の範囲内にあることをいう。長さはいずれも重量平均とする。
本発明において、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物として、プルトルージョン法で製造された繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物ペレットが好ましく使用される。
【0076】
繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物ペレット中の有機繊維の重量平均繊維長は、好ましくは4〜50mm、より好ましくは5〜15mmである。また、本発明の発泡成形体に製造に用いられる繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物ペレットにおいて、強化繊維は、通常、互いに平行に配列している。
【0077】
[発泡剤]
本発明の発泡成形体の製造には、超臨界状態の物理発泡剤が用いられる。
【0078】
物理発泡剤としては、例えば、二酸化炭素、窒素、アルゴン、ネオン、ヘリウム等が挙げられる。安価、安全性という観点から、二酸化炭素、窒素、ならびにこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0079】
発泡剤の添加量は、上記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物100質量部に対し、好ましくは0.3〜10質量部、より好ましくは0.6〜5質量部、更に好ましくは0.6〜4質量部である。
【0080】
なお、発泡剤として、物理発泡剤とともに、化学発泡剤を加えてもよく、適用可能な化学発泡剤としては、無機系化学発泡剤や有機系化学発泡剤等が挙げられる。
【0081】
無機系化学発泡剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム等の炭酸水素塩、炭酸アンモニウム等が挙げられる。
【0082】
有機系化学発泡剤としては、例えば、ポリカルボン酸、アゾ化合物、スルホンヒドラジド化合物、ニトロソ化合物、p−トルエンスルホニルセミカルバジド、イソシアネート化合物等が挙げられる。
【0083】
ポリカルボン酸としては、例えば、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、フタル酸等が挙げられる。
【0084】
繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物に超臨界状態の物理発泡剤を溶解させる方法としては、物理発泡剤を射出成形装置のノズルまたはシリンダ内に注入する方法が挙げられる。溶融状態の繊維強化ポリオレフィン樹脂と物理発泡剤とを均一に混合しやすいことから、シリンダ内に物理発泡剤を注入する方法が好ましい。
【0085】
[発泡成形体の用途]
本発明の発泡成形体の製造方法により得られる発泡成形体の用途は、例えば、自動車内装部品や外装部品ならびにエンジンルーム内部品やトランクルーム内部品等の自動車部品用である。
【実施例】
【0086】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0087】
実施例または比較例では、以下に示した樹脂を用いた。
(1)有機繊維(A)
下記の特性のPEN繊維
材料:ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート
繊度:1,670dtex/144f
単糸繊度:13dtex
単糸の直径:33μm
引張強度:7.9cN/dtex
引張弾性率:170cN/dtex
有機繊維には3質量%のポリウレタン樹脂で表面処理が施されている。
【0088】
(2)変性ポリオレフィン樹脂(B)
特開2004−197068号公報の実施例1(米国特許出願公開第2004/0002569号明細書に記載された実施例1がこれに対応する。)に記載された方法に従って作成した無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂
MFR:60g/10分
無水マレイン酸グラフト量:0.6質量%
(3)ポリオレフィン樹脂(C)
住友化学(株)製プロピレン単独重合体「商品名:U501E1」
MFR:120g/10分
【0089】
[実施例1]
発泡成形体を次の方法で製造した。
特開平3−121146号公報に記載されている方法に準じて、有機繊維(A)が30質量%、変性ポリオレフィン樹脂(B)が3質量%、ポリオレフィン樹脂(C)が67質量%の組成で、ペレット長が11mmの繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物ペレットを作成した。
得られたペレットを用い、射出成形機として、エンゲル社製射出成形機 ES2550/400HL−MuCell(型締力400トン)、金型として、成形品部寸法が350mm×450mm、高さ105mm、厚み1.5mmtの箱型形状(ゲート構造:バルブゲート)を用いて発泡成形を実施した。発泡剤である炭酸ガスを前記射出成形機のシリンダ内に8MPaに加圧して供給した(発泡剤注入量:充填する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物100質量部に対し1質量部)。シリンダ温度180℃で成形体厚みが1.5mmに相当する容量の繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を溶融、可塑化した。金型キャビティ温度を50℃とし、金型キャビティのクリアランスを3.5mmに保持した状態で、溶融状の繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を金型キャビティ内に供給し、供給完了後、金型キャビティのクリアランスが1.5mmとなるまで2mm/秒の速度で型締めを行った。型締め完了後から3秒が経過した後、一方の金型の金型キャビティ壁面を1.5mm後退させてキャビティの容積を増加させ、繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を発泡させた。その状態を保持したまま冷却、固化させて繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物からなる発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の表面には繊維塊がなく、外観良好であった。
【0090】
[実施例2]
金型キャビティのクリアランスが2.5mmの状態で溶融状の繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給開始し、金型キャビティのクリアランスが3.5mmとなるまで拡大しながら繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の供給を継続し、供給完了後、金型キャビティのクリアランスが1.5mmとなるまで2mm/秒の速度で型締めを行ったこと以外は実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。得られた発泡成形体の表面には繊維塊がなく、外観良好であった。
【0091】
[比較例1]
金型キャビティのクリアランスを1.5mmに保持した状態で溶融状の繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給し、溶融樹脂供給完了後、3秒が経過した後、一方の金型キャビティ面を後退させてキャビティ容積を増加させたこと以外は実施例1と同様にして成形体を得た。得られた発泡成形体の表面には繊維塊が多く発生しており、外観の悪いものであった。
【符号の説明】
【0092】
M:金型
1:可動側金型
2:固定側金型
3:金型キャビティ
4:ゲート部
5:溶融樹脂供給通路
6:バルブピン
7:繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリオレフィン樹脂と、重量平均繊維長が4mm以上の有機繊維とを含有する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を溶融する溶融工程、
(2)溶融状態の前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物に超臨界状態の物理発泡剤を溶解する溶解工程、
(3)前記物理発泡剤を溶解した前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を一対の金型間に構成される金型キャビティ内に供給し、充填する充填工程、
(4)充填完了後、前記金型を所定量開くことにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を発泡させる発泡工程、および、
(5)発泡させた前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を冷却した後、前記金型から取り出す取出工程、を有し、
前記(3)充填工程において、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の前記金型キャビティ内への供給が、前記金型を所定量開いた状態で開始され、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給しながら、または供給完了後に前記金型を型締めすることにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を前記金型キャビティ内へ充填することを特徴とする
自動車部品用発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
(1)ポリオレフィン樹脂と、重量平均繊維長が4mm以上の有機繊維とを含有する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を溶融する溶融工程、
(2)溶融状態の前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物に超臨界状態の物理発泡剤を溶解する溶解工程、
(3)前記物理発泡剤を溶解した前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を一対の金型間に構成される金型キャビティ内に供給し、充填する充填工程、
(4)充填完了後、前記金型を所定量開くことにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を発泡させる発泡工程、および、
(5)発泡させた前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を冷却した後、前記金型から取り出す取出工程、を有し、
前記(3)充填工程において、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の前記金型キャビティ内への供給が、前記金型を所定位置まで閉じた状態で開始され、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給しながら前記金型を所定位置まで開いた後、更に、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を供給しながら、または供給完了後に前記金型を型締めすることにより前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物を前記金型キャビティ内へ充填することを特徴とする
自動車部品用発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
前記(3)充填工程において、前記繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物の前記金型キャビティ内への供給が、前記金型キャビティ内を加圧した状態で行われる、請求項1または2に記載の自動車部品用発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
前記有機繊維が、ポリアルキレンテレフタレートおよび/またはポリアルキレンナフタレンジカルボキシレートである、請求項1〜3のいずれか1つに記載の自動車部品用発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の自動車部品用発泡成形体の製造方法により得られた自動車部品用発泡成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−240664(P2011−240664A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116633(P2010−116633)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】