説明

自動車

【課題】太陽光からの熱を有効利用でき、例えば冬場の自動車内の温度を高くすることができる自動車を提供する。
【解決手段】太陽光Xを内部に透過する採光部11が設けられた自動車本体2と、採光部11を透過した太陽光Xが照射されるように自動車本体2内に配置されており、かつ太陽光Xの熱を蓄える蓄熱材3とを備える自動車1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光を内部に透過する採光部が設けられており、かつ蓄熱材を利用した自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
現在実用化されている自動車としては、内燃機関を用いた燃料自動車、電気モータを用いた電気自動車、又は内燃機関と電気モータとを用いたハイブリッド自動車等が存在する。これらの自動車では、車内の温度を調節するために、冷暖房装置が備えられている。
【0003】
自動車内の温度を調節するために、蓄熱材を利用することが提案されている。例えば、下記の特許文献1には、蓄熱材を自動車内に配置し、自動車内の熱源から発生した熱を蓄熱材により蓄えることが開示されている。蓄熱材により蓄えられた熱は、車内の冷暖房に用いられている。上記自動車内の熱源としては、内燃機関又は電気モータ等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−99724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、車外ではなく車内の熱源から発生した熱を蓄えるために、蓄熱材を用いているにすぎない。ここでは、熱源の近くに蓄熱材を配置する必要があったり、熱源から発生した熱を蓄熱材に伝送するために、複雑な機構を設けなければならなかったりする。また、多くの蓄熱材を用いることが困難であり、充分な熱を蓄えることができないことがある。
【0006】
また、燃料自動車では、エンジンの駆動により多くの熱量が発生する。このため、エンジンの駆動により発生した熱を利用することにより、車内を暖めることができる。これに対して、電気自動車では、電気モータの駆動により発生する熱量が極めて少ない。このため、電気モータの駆動により発生する熱を利用し、車内を充分に暖めることは困難である。また、ハイブリッド自動車でも、例えば、電気モータによる始動時又は電気モータによる走行時には発生する熱量が少ない。
【0007】
従って、電気自動車では、電気モータの駆動により発生する熱を蓄熱材に充分に蓄えることが困難なことがある。また、ハイブリッド自動車でも、内燃機関を用いた自動車と比べて、熱を蓄熱材に充分に蓄えることが困難なことがある。このため、例えば、冬場に車内の温度を充分に高くすることが困難なことがある。
【0008】
さらに、電気自動車又はハイブリッド自動車では、車内を暖めるために、例えば加熱用の電気ヒータ等を用いる必要があったりする。このため、車内を暖めるために電力を消費し、自動車の走行コストが極めて悪くなることがある。
【0009】
本発明の目的は、太陽光からの熱を有効利用でき、例えば冬場の車内の温度を高くすることができる自動車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の広い局面によれば、太陽光を内部に透過する採光部が設けられた自動車本体と、上記採光部を透過した太陽光が照射されるように上記自動車本体内に配置されており、かつ太陽光からの熱を蓄える蓄熱材とを備える、自動車が提供される。
【0011】
本発明に係る自動車のある特定の局面では、上記採光部に断熱材が配置されている。
【0012】
本発明に係る自動車の他の特定の局面では、上記採光部に太陽電池が配置されている。
【0013】
本発明に係る自動車の別の特定の局面では、上記採光部はサンルーフである。
【0014】
本発明に係る自動車は、電気自動車又はハイブリッド自動車であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、採光部を透過した太陽光が照射されるように自動車本体内に蓄熱材が配置されているため、太陽光からの熱を有効利用できる。このため、例えば冬場に車内の温度を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る自動車の斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る自動車を、該自動車の一部を断面で示す側面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る自動車に用いることができる断熱材の一例を示す部分切欠断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0018】
図1に、本発明の一実施形態に係る自動車の斜視図を示す。
【0019】
図1に示す自動車1は、自動車本体2を備える。自動車本体2には、採光部11が設けられている。採光部11は、自動車本体2の天井に設けられている。採光部11はサンルーフである。採光部11は、太陽光Xを自動車本体2の内部に透過するように構成されている。
【0020】
自動車本体2は、前方に自動車窓2a、側方に自動車窓2b及び後方に自動車窓2cを有する。自動車窓2a〜2cは、太陽光を自動車本体2の内部に透過する採光部である。採光部は、自動車窓であってもよい。ただし、太陽光からの熱をより一層有効利用できるので、自動車窓2a〜2c以外の採光部11が設けられていることが好ましい。太陽光からの熱をさらに一層有効利用できるので、採光部11は、自動車本体2の天井に設けられていることが好ましく、サンルーフであることがより好ましい。
【0021】
図2は、自動車1を、該自動車1の一部を断面で示す側面図である。図2に示すように、自動車本体2内には、床部材12が配置されている。床部材12上に複数の座席13が配置されている。座席13は、座席本体13aと、座席本体13aの表面を被覆している被覆層13bとを有する。座席本体13aは、着座部、背もたれ部及び枕部を有する。被覆部13bは、人が着席する側の表面に設けられており、着座部、背もたれ部及び枕部のそれぞれに設けられている。
【0022】
本実施形態では、床部材12及び被覆層13bが、蓄熱材3である。床部材12及び被覆層13bは、該床部材12及び被覆層13bの少なくとも一部の領域が、採光部11を透過した太陽光が照射され得るように配置されている。
【0023】
蓄熱材3は、採光部11を透過した太陽光が照射されるように自動車本体2内に配置されていればよく、蓄熱材3の配置箇所は特に限定されない。例えば、ダッシュボード、ドアトリム、床部材12上に配置されるフロアマット、座席13間に配置されるボックス、又は荷台に配置されるトノカバー等の内装部品が蓄熱材3であってもよい。これらの内装部品としての蓄熱材は、該蓄熱材の少なくとも一部の領域が、採光部11を透過した太陽光が照射され得るように配置される。
【0024】
本実施形態では、採光部11が自動車本体2に設けられており、かつ採光部11を透過した太陽光が照射されるように自動車本体2内に蓄熱材3が配置されているため、太陽光からの熱を蓄熱材3に蓄えることができる。自動車1は、ソーラーシステムを利用し、動力などを使わなくても、素材及び設計上の工夫により、自動車本体2内を冷暖房できるパッシブソーラーカーである。自動車1では、太陽光からの熱を有効利用できる。例えば、蓄熱材3により車内を暖めて、冬場に自動車本体2の内部空間の温度を高くすることができる。
【0025】
蓄熱材3は、温度により相変化する性質を有することが好ましい。蓄熱材3は、例えば、液状から固体状、固体状から液状に相変化する際に、熱を吸収又は放出する性質を有する。蓄熱材3を構成する蓄熱材料としては、無機系蓄熱材料及び有機系蓄熱材料の内のいずれも使用できる。上記無機系蓄熱材料としては、塩化カルシウム五水和物及び硫酸ナトリウム水和物等が挙げられる。上記有機系蓄熱材料としては、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪酸及びアルコール等が挙げられる。上記蓄熱材料は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
上記有機系蓄熱材料は、0℃以上50℃未満の融点を持つ脂肪族炭化水素であることが好ましい。このような脂肪族炭化水素としては、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン及びドコサン等が挙げられる。
【0027】
蓄熱材3は、蓄熱材料と、該蓄熱材料の表面を被覆している被覆層とを有する被覆蓄熱粒子等であってもよい。上記被覆蓄熱粒子の使用により、蓄熱材料の液状時の流動、揮発を抑制できる。
【0028】
上記被覆蓄熱粒子としては、脂肪族炭化水素等の有機系蓄熱成分が芯材(コア部)であり、アクリル樹脂、メラミン樹脂等が被覆層であるマイクロカプセル化蓄熱粒子が挙げられる。これらの蓄熱粒子は、例えば、既知の界面重合法によって水中で調整される。
【0029】
また、多孔性粒子と、該多孔性粒子の孔内に充填された有機系蓄熱成分とを含み、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ウレア樹脂及び変性シリコーン樹脂等が被覆層である蓄熱粒子等も挙げられる。上記多孔性粒子としては、ケイ藻土、非晶質湿式法シリカ、非晶質乾式法シリカ、ケイ酸カルシウム系多孔体、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、結晶性セルロース及び連続気泡発泡ウレタン等が挙げられる。
【0030】
この被覆蓄熱粒子は、蓄熱成分と、多孔性粒子とを水中で撹拌分散させることにより形成されていることが好ましい。撹拌分散の際に、例えば、イソシアネート、イソシアネートと多官能アルコール、変性シリコーン樹脂と錫触媒、並びにエポキシ樹脂とアミン化合物を水中に添加することで被覆層が形成される。
【0031】
被覆蓄熱粒子を蓄熱材として用いる方法、及び蓄熱材の形態は限定されない。
【0032】
水懸濁状態の被覆蓄熱粒子を、織布、不織布又はグラスウールに吸収させた後、水分を乾燥させたのち圧密化したシート状の蓄熱材も挙げられる。また、水懸濁状態の被覆蓄熱粒子にセメント又は石膏等の水硬化系無機材を加えて板状に形成された蓄熱材も挙げられる。
【0033】
これらの被覆蓄熱粒子は水中の懸濁状態で得られたのち、スプレードライ法等により乾燥することができる。乾燥状態の被覆蓄熱粒子は、車内被覆材に充填されたり、ウレタンからなるシートクッション材に充填される。あるいは、乾燥された粒子がアルミ材又はプラスチィク材で包装されたものも使用できる。
【0034】
採光部11に、断熱材が配置されていることが好ましい。自動車本体2内に蓄熱材3が配置されており、かつ採光部11に断熱材が配置されていることにより、例えば冬場に車内の温度をより一層効果的に高めることができる。
【0035】
断熱材は、太陽光を透過する採光断熱材であることが好ましい。太陽光からの熱を有効利用する観点からは、上記採光断熱材の可視光線透過率は20%以上であることが好ましく、60%以上であることが特に好ましい。また、熱伝導率としては0.04W/K・m
以下であることが好ましい。
【0036】
図3に、本実施形態の自動車1に用いることができる断熱材の一例を部分切欠断面図で示す。
【0037】
図3に示す断熱材21は、複数の樹脂フィルム22と、該複数の樹脂フィルム22間に空気層Sを形成するように複数の樹脂フィルム22間に配置された第1,第2の隙間形成部材23,24とを有する。断熱効果を高める観点からは、上記断熱材は、複数の樹脂フィルムと、該複数の樹脂フィルム間に空気層を形成するように複数の樹脂フィルム間に配置された隙間形成部材とを有することが好ましい。上記断熱材は、3枚以上の樹脂フィルムを備えることが好ましい。
【0038】
第1の隙間形成部材23は、樹脂フィルム22の外周縁の領域に配置されている。第1の隙間形成部材23により、空気層Sは封止されていることが好ましい。第1の隙間形成部材23は封止部材であることが好ましい。これらの場合には、断熱効果をより一層高めることができる。
【0039】
第2の隙間形成部材24は、樹脂フィルム22の外周縁の内側の領域に配置されている。第2の隙間形成部材24は、複数の樹脂フィルム22間の空気層Sを複数に仕切るように、複数の樹脂フィルム22間に配置された仕切部材であることが好ましい。この場合には、断熱効果をより一層高めることができる。
【0040】
樹脂フィルム22を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、アクリル、塩化ビニル、ポリビニルアルコール及びトリ酢酸セルロース等が挙げられる。
【0041】
樹脂フィルム22の厚みは、10〜300μm程度である。断熱効果をより一層高めることができるので、空気層Sの厚さは100μm〜3mmの範囲内であることが好ましい。また、第1,第2の隙間形成部材22,23は、中空体であることが好ましい。
【0042】
強度を高めるために、複数の樹脂フィルム22の積層体の両表面に、樹脂板25がそれぞれ積層されている。従って、断熱材21の両側の表面に、樹脂板25がそれぞれ配置されている。ただし、樹脂板25は、配置されていなくてもよい。また、樹脂板25は、上記積層体の一方の表面に積層されていていてもよい。従って、樹脂板25は、上記積層体の少なくとも一方の表面に積層されていればよい。樹脂板25としては、ポリカーボネート板等が挙げられる。樹脂板25の厚みは、3mm程度である。
【0043】
また、太陽光からの熱を有効利用する観点からは、採光部11に、太陽電池が配置されていることが好ましい。上記太陽電池として、太陽光を透過する採光太陽電池が好適に用いられる。上記太陽電池として、従来公知の太陽電池を用いることができる。
【0044】
自動車1としては、燃料自動車、電気自動車、及びハイブリッド自動車等が挙げられる。電気自動車では、電気モータの駆動により発生する熱量が比較的少ない。このため、電気モータの駆動により発生する熱を利用し、車内を充分に暖めることは困難である。また、ハイブリッド自動車では、電気モータによる始動時又は電気モータによる走行時には発生する熱量が少ない。従って、電気自動車又はハイブリッド自動車では、車内を暖めるために、例えば加熱用の電気ヒータを用いる必要があったりする。このため、電気自動車又はハイブリッド自動車では、車内を暖めるために多くの電力を消費し、自動車の走行コストが極めて悪くなることがある。
【0045】
本実施形態では、自動車内の内燃機関又は電気モータ等の車内の熱源から発生する熱ではなく、太陽光からの熱を利用する。採光部11を透過した太陽光からの熱が照射されるように、蓄熱材3を自動車本体2内に配置するだけで、例えば冬場に車内の温度を充分に高くすることができる。また、電気自動車及びハイブリッド自動車の場合には、採光部11と蓄熱材3とを備えることによって、加熱用の電気ヒータで消費される電力を無くしたり、少なくしたりすることができる。このため、走行コストを低くすることができる。従って、太陽光からの熱をより一層有効利用する観点からは、自動車1は、電気自動車及びハイブリッド自動車であることが好ましい。
【0046】
また、採光部11を設け、かつ採光部11を透過した太陽光が照射されるように蓄熱材3を配置するだけでよいので、自動車1は容易に構成できる。さらに、採光部11を透過した太陽光が照射されるように蓄熱材3を自動車本体2内に配置するだけでよいので、蓄熱材3を広い領域に配置でき、かつ蓄熱材3の使用量を多くすることができる。
【0047】
次に、本実施形態の自動車1について、以下の試験を行った。
【0048】
床部材12及び被覆層13bを蓄熱材3とした自動車1Aを用意した。蓄熱材3として、オクタデカンを蓄熱成分とするマイクロカプセル化蓄熱粒子を用いた。
【0049】
また、比較のために、蓄熱材を用いていない自動車Cを用意した。
【0050】
用意した2つの自動車1A,Cを気温10〜20℃で太陽光の照射下に4時間放置した。その後、太陽光を照射せずに0℃で12時間放置した。次に、放置後の車内の温度を観察した。この結果、床部材12及び被覆層13bを蓄熱材3とした自動車1Aでは、蓄熱材を用いなかった自動車Cと比べて、車内の温度は1.5℃高かった。
【0051】
さらに、本実施形態において、床部材12及び被覆層13bを蓄熱材3とし、かつ採光部11に断熱材21を配置した自動車1Bを用意した。蓄熱材3として、自動車1Aと同様の蓄熱材を用いた。また、断熱材21として、エアサンドイッチ(積水化学工業社製、縦70cm×横150cm×厚み6mm)の両面に、ポリカーボネート板(縦70cm×横150cm×厚み3mm)を積層した断熱材を用いた。
【0052】
用意した自動車1B,Cを、気温10〜20℃で太陽光の照射下に4時間放置した。その後、太陽光を照射せずに0℃で12時間放置した。次に、放置後の車内の温度を観察した。この結果、床部材12及び被覆層13bを蓄熱材3とし、かつ採光部11に断熱材21を配置した自動車1Bでは、蓄熱材及び断熱材の内のいずれも用いなかった自動車Cと比べて、車内の温度は6℃高かった。
【符号の説明】
【0053】
1…自動車
2…自動車本体
2a〜2c…自動車窓
11…採光部
12…床部材
13…座席
13a…座席本体
13b…被覆層
X…太陽光
21…断熱材
22…樹脂フィルム
23,24…第1,第2の隙間形成部材
25…樹脂板
S…空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光を内部に透過する採光部が設けられた自動車本体と、
前記採光部を透過した太陽光が照射されるように前記自動車本体内に配置されており、かつ太陽光からの熱を蓄える蓄熱材とを備える、自動車。
【請求項2】
前記採光部に断熱材が配置されている、請求項1に記載の自動車。
【請求項3】
前記採光部に太陽電池が配置されている、請求項1又は2に記載の自動車。
【請求項4】
前記採光部がサンルーフである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車。
【請求項5】
電気自動車又はハイブリッド自動車である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−264943(P2010−264943A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119691(P2009−119691)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】