説明

自在継手の加工方法

【課題】ボルトに生ずる曲げ応力を軽減して、ボルトに生ずる平均応力を小さくし、許容応力振幅を大きくして、大きな回転トルクを伝達することを可能にした自在継手を提供する。
【解決手段】加工用クランプ治具71でフランジ部54A、54Bを図3の左右方向から挟持して弾性変形させ、軸6の雄セレーション61を雌セレーション531で締め付けた状態に相当する変形をフランジ部54A、54Bに生じさせる。この状態で、フランジ部54A、54Bに、ボルト孔541A、541B、フランジ部54Aの座面542A、フランジ部54Bの座面542Bを加工する。その結果、ボルト孔541A、541Bは同一軸線上(同心状)に形成され、ボルト孔541A、541Bの軸線に対して、座面542A、座面542Bが直交して形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自在継手、特に、ステアリング装置のステアリングシャフトの回転を伝達する軸同士を連結する自在継手、および、その加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前輪を操舵するステアリング装置では、ステアリングホイールの操作で回転するステアリングシャフトの動きを、自在継手を介してステアリングギヤの入力軸に伝達している。
【0003】
ステアリングホイールの動きはステアリングコラム内に回転自在に設けたステアリングシャフトおよび中間シャフトを介してステアリングギアに伝達され、ステアリングギアによって車輪の方向を操舵する。通常、ステアリングシャフトとステアリングギアの入力軸とは互いに同一直線上に設けることが出来ない。
【0004】
このため従来から、ステアリングシャフトとステアリングギアへの入力軸との間に中間シャフトを設け、この中間シャフトの端部とステアリングシャフト、および、中間シャフトの端部とステアリングギアの入力軸の端部とを、自在継手を介して結合することにより、同一直線上に存在しないステアリングシャフトと入力軸との間での動力伝達が行えるようにしている。
【0005】
近年、ステアリングシャフトに操舵補助力を付与するアシスト装置を、中間シャフトとステアリングホイールとの間に設けたコラムアシスト式の電動パワーステアリング装置が多くなってきた。
【0006】
このような、コラムアシスト式の電動パワーステアリングでは、中間シャフトに負荷される回転トルクが大きくなるため、中間シャフトと自在継手との結合部の結合剛性を大きくする必要がある。
【0007】
特許文献1及び特許文献2に示す自在継手は、ヨークの結合筒部の軸方向の全長にわたって切り割りを形成することで、結合筒部の弾性変形を容易にし、切り割りを挟んで結合筒部と一体に設けられた一対のフランジ部をボルトで締め付けた時の、ヨークの結合筒部と軸との結合剛性を大きくしている。
【0008】
図14から図16は、ヨークの結合筒部の軸方向の全長にわたって切り割りを形成した従来の自在継手を示し、図14(1)は従来の自在継手を示す斜視図であり、図14(2)は図14(1)の縦断面図である。図15は従来の自在継手にボルトを締め付ける前の状態を示す図14(2)のC−C拡大断面図である。図16(1)は従来の自在継手にボルトを締め付けた状態を示す図14(2)のC−C拡大断面図であり、図16(2)は従来の自在継手にボルトを締め付けた時のボルト単体を示す部品図である。
【0009】
図14から図15に示すように、ヨーク51の左側(図14)には二股状の結合アーム部52、52が形成され、この結合アーム部52、52に形成された円孔521、521に、軸受を介して挿入された図示しない十字軸を介して、他方のヨーク51と結合されている。
【0010】
ヨーク51の右側(図14)には略円筒状の結合筒部53が形成され、この結合筒部53の内周面に形成された雌セレーション531に、図14の右側から、結合筒部53の軸方向に平行に軸6を挿入する。そして、軸6の外周面に形成された雄セレーション61を、雌セレーション531にセレーション係合させて、回転トルクを伝達可能に構成している。
【0011】
ヨーク51の結合筒部53には、結合筒部53から接線方向に延びた後、内側に折り返された左右一対のフランジ部54A、54Bが形成されている。フランジ部54A、54Bの間には、雌セレーション531に連通するスリット(切り割り)56が形成されている。スリット56は、結合筒部53の軸方向の全長にわたって形成されている。
【0012】
軸6の雄セレーション61の軸方向の略中間位置には、環状の凹部62が形成されている。そのため、軸6がヨーク51の結合筒部53から図14の右側に抜け出そうとすると、ボルト55のボルト軸部552が凹部62に当接して、軸6がヨーク51の結合筒部53から抜け出すのを防止する。
【0013】
フランジ部54A、54Bには、ボルト55を挿入するためのボルト孔541A、541Bが同心状に形成されている。また、フランジ部54A、54Bには、座面542A、座面542Bが形成されている。座面542Aは、ボルト55のボルト頭部553の下面553Aに当接する。座面542Bは、ボルト55のボルト軸部552の雄ねじ552Aにねじ込まれるナット551の下面551Aに当接する。ボルト孔541A、541Bは同一軸線上(同心状)に形成され、ボルト孔541A、541Bの軸線に対して、座面542A、座面542Bが直交して形成されている。
【0014】
図16(1)に示すように、結合筒部53の雌セレーション531に軸6を挿入し、ボルト孔541A、541Bに、図16(1)の右側からボルト55、ばね座金554を挿入する。ナット551をボルト55の雄ねじ552Aにねじ込むと、フランジ部54A、54Bが弾性変形してスリット56の溝幅が狭まり、軸6の雄セレーション61を雌セレーション531で強く締付けて固定することができる。
【0015】
フランジ部54A、54Bが弾性変形して、スリット56の溝幅が狭まり、座面542A、座面542Bは、図16(1)の下方側に角度βだけ狭まった形状(非平行)になる。そのため、ボルト孔541A、541Bの軸線に対して、座面542A、座面542Bが傾斜するため、ボルト55には曲げ応力と引っ張り応力の両方が作用する。その結果、ボルト55のボルト軸部552の軸方向長さの略中央部の応力が大きくなり、許容応力振幅が小さくなって、ボルト55が疲労破壊を起こしやすくなるため、大きな回転トルクを伝達することが困難になる。
【0016】
【特許文献1】特開平10−205547号公報
【特許文献2】特開2000−192982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、ボルトに生ずる曲げ応力を軽減して、ボルトに生ずる平均応力を小さくし、許容応力振幅を大きくして、大きな回転トルクを伝達することを可能にした自在継手を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題は以下の手段によって解決される。すなわち、第1番目の発明は、基端寄り部分に回転トルクを伝達可能に軸を嵌合するための内周面を備えた結合筒部、上記結合筒部に形成され、上記内周面に貫通する切り割り、上記切り割りを挟んで上記結合筒部と一体に設けられた一対のフランジ部、上記内周面とは反対側で、上記結合筒部と一体に設けられ、十字軸を軸支するための軸受け孔を有する一対の結合アーム部、上記結合筒部の内周面に挿入され、結合筒部の内周面に回転トルクを伝達可能に内嵌する外周面を有する軸、上記一対のフランジ部に形成された同心のボルト孔にボルト軸部が内嵌され、上記一対のフランジ部の間の切り割りの間隔を狭めて、上記結合筒部の内周面を縮径し、上記軸の外周面を結合筒部の内周面で締め付けるボルトを備えた自在継手において、上記ボルトを締め付けて軸の外周面を結合筒部の内周面で締め付けた状態に相当する変形を上記一対のフランジ部に付与した状態で、上記ボルト頭部の下面に当接する上記フランジ部の座面と上記ボルト孔を上記一対のフランジ部に加工することを特徴とする自在継手の加工方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の自在継手は、基端寄り部分に回転トルクを伝達可能に軸を嵌合するための内周面を備えた結合筒部と、結合筒部に形成され、上記内周面に貫通する切り割りと、切り割りを挟んで結合筒部と一体に設けられた一対のフランジ部と、内周面とは反対側で、結合筒部と一体に設けられ、十字軸を軸支するための軸受け孔を有する一対の結合アーム部と、結合筒部の内周面に挿入され、結合筒部の内周面に回転トルクを伝達可能に内嵌する外周面を有する軸と、一対のフランジ部に形成された同心のボルト孔にボルト軸部が内嵌され、一対のフランジ部の間の切り割りの間隔を狭めて、結合筒部の内周面を縮径し、軸の外周面を結合筒部の内周面で締め付けるボルトと、ボルトを締め付けて軸の外周面を結合筒部の内周面で締め付けた状態で、ボルト頭部の下面に当接するフランジ部の座面と上記ボルト孔が直交するように形成している。
【0020】
従って、ボルトを締め付けた時に、ボルト孔は同一軸線上に形成され、ボルト孔の軸線に対して、フランジ部の座面が直交するため、ボルトには引っ張り応力だけが作用し、曲げ応力はほとんど作用しない。その結果、ボルトに生ずる平均応力を小さくし、許容応力振幅を大きくすることが可能となるため、大きな回転トルクを伝達することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施例1から実施例4を説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の実施例の自在継手を備えたステアリング装置の全体側面図である。図2は本発明の実施例1の自在継手にボルト孔と座面を加工している状態を示す縦断面図である。図3は図2のA−A断面図である。図4はボルト孔と座面の加工が終了した自在継手のクランプを解除した状態を示す図3相当図である。図5は本発明の実施例1の自在継手にボルトを締め付けた状態を示す図3相当図である。
【0023】
図1に示すように、本発明の実施例1の自在継手備えたステアリング装置は、車体後方側(図1の右側)にステアリングホイール11を装着可能なステアリングシャフト12と、このステアリングシャフト12を挿通したステアリングコラム13と、このステアリングシャフト12に補助トルクを付与する為のアシスト装置(操舵補助部)20と、このステアリングシャフト12の車体前方側(図1の左側)に、図示しないラック/ピニオン機構を介して連結されたステアリングギヤ30とを備える。
【0024】
ステアリングシャフト12は、雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bとを、回転トルクを伝達可能に、かつ軸方向に関して相対移動可能にスプライン嵌合している。従って、上記雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bとは、衝突時に、このスプライン嵌合部が相対移動して、全長を縮めることができる。
【0025】
また、上記ステアリングシャフト12を挿通した筒状のステアリングコラム13は、アウターコラム13Aとインナーコラム13Bとをテレスコピック移動可能に組み合わせている。そのため、ステアリングコラム13は、衝突時に軸方向の衝撃が加わった場合に、この衝撃によるエネルギを吸収しつつ全長が縮まる、所謂コラプシブル構造としている。
【0026】
そして、上記インナーコラム13Bの車体前方側端部を、ギヤハウジング21の車体後方側端部に圧入嵌合して固定している。また、上記雄ステアリングシャフト12Bの車体前方側端部を、このギヤハウジング21の内側に通し、アシスト装置20の図示しない入力軸の車体後方側端部に連結している。
【0027】
ステアリングコラム13は、その中間部を支持ブラケット14により、ダッシュボードの下面等、車体18の一部に支承している。また、この支持ブラケット14と車体18との間に、図示しない係止部を設けて、この支持ブラケット14に車体前方側に向かう方向の衝撃が加わった場合に、この支持ブラケット14が上記係止部から外れ、車体前方側に移動するようにしている。
【0028】
また、上記ギヤハウジング21の上端部も、上記車体18の一部に支承している。また、本実施例の場合には、チルト機構及びテレスコピック機構を設けることにより、上記ステアリングホイール11の車体前後方向位置、及び、高さ位置の調節を自在としている。このようなチルト機構及びテレスコピック機構は、従来から周知であり、本発明の特徴部分でもない為、詳しい説明は省略する。
【0029】
上記ギヤハウジング21の車体前方側端面から突出した出力軸23は、自在継手(上側自在継手)4を介して、中間シャフト15の後端部に連結している。また、この中間シャフト15の前端部に、別の自在継手(下側自在継手)5を介して、ステアリングギヤ30のピニオン軸(以下軸と呼ぶ)6を連結している。中間シャフト15は、雄中間シャフト(雄シャフト)15Aの車体前方側に、雌中間シャフト(雌シャフト)15Bの車体後方側が外嵌し、回転トルクを伝達可能に、かつ、軸方向に関して相対移動可能に嵌合している。
【0030】
図示しないピニオンが、軸6の下端(車体前方側端部)に形成されている。また、図示しないラックが、このピニオンに噛み合っており、ステアリングホイール11の回転が、タイロッド31を移動させて、図示しない車輪を操舵する。
【0031】
アシスト装置20のギヤハウジング21には、電動モータ26のケース261が固定され、この電動モータ26の図示しない回転軸にウォームが結合されている。出力軸23には図示しないウォームホイールが取り付けられ、このウォームホイールに電動モータ26の回転軸のウォームが噛合っている。
【0032】
また、出力軸23の中間部の周囲には、図示しないトルクセンサが設けられている。上記ステアリングホイール11からステアリングシャフト12に加えられるトルクの方向と大きさを、トルクセンサで検出し、この検出値に応じて、電動モータ26を駆動し、ウォームとウォームホイールから成る減速機構を介して、出力軸23に、所定の方向に所定の大きさで補助トルクを発生させる。補助トルクを発生させるアシスト装置は、電動式に限定されるものではなく、油圧式のアシスト装置でもよい。
【0033】
図2から図5は、本発明の実施例1の自在継手を示し、図1の自在継手5の一方のヨーク51と軸6との結合部に適用した例を示す。本発明の自在継手は、図1の自在継手4と雄中間シャフト15Aとの結合部や、自在継手4と出力軸23との結合部に適用してもよい。
【0034】
図2から図5には、本発明の実施例1の自在継手5を構成する一対のヨーク51、51のうちの一方のヨーク51と、軸6との結合部を示している。ヨーク51の左側(図2)には二股状の結合アーム部52、52が形成され、この結合アーム部52、52に形成された円孔521、521に、軸受を介して挿入された図示しない十字軸を介して、他方のヨーク51と結合されている。従って、上記両ヨーク51、51の中心が同一直線上に位置しなくても、両ヨーク51、51同士の間で回転力を伝達することができる。
【0035】
ヨーク51の右側(図2)には略円筒状の結合筒部53が形成され、この結合筒部53の内周面に形成された雌セレーション531に、図2の右側から、結合筒部53の軸方向に平行に軸6を挿入する。軸6の外周面に形成された雄セレーション61を、雌セレーション531にセレーション係合させて、回転トルクを伝達可能に構成している。
【0036】
図2から図3に示すように、ヨーク51の結合筒部53には、結合筒部53から接線方向に延びた後、内側に折り返された左右一対のフランジ部54A、54Bが形成されている。フランジ部54A、54Bの間には、雌セレーション531に連通するスリット(切り割り)56が形成されている。スリット56は、結合筒部53の軸方向の全長にわたって形成されている。
【0037】
軸6の雄セレーション61の軸方向の略中間位置には、環状の凹部62が形成されている。そのため、軸6がヨーク51の結合筒部53から図2の右側に抜け出そうとすると、ボルト55のボルト軸部552が凹部62に当接して、軸6がヨーク51の結合筒部53から抜け出すのを防止する。
【0038】
フランジ部54A、54Bにボルト55を挿入するためのボルト孔541A、541Bは、下記の加工方法で形成する。すなわち、結合筒部53の雌セレーション531に、雄セレーション61を有する軸6、または、軸6と同一形状の加工用治具としての軸6を挿入して、セレーション係合させる。
【0039】
次ぎに、加工用クランプ治具71でフランジ部54A、54Bを図3の左右方向から挟持し、フランジ部54A、54Bを弾性変形させ、軸6の雄セレーション61を雌セレーション531で締め付けた状態に相当する変形をフランジ部54A、54Bに付与する。すなわち、正規の組み付け状態の時に、ボルト55を締め付けて、軸6の雄セレーション61を、雌セレーション531で締め付けた状態に相当する変形をフランジ部54A、54Bに付与する。
【0040】
この状態で、フランジ部54A、54Bに、ボルト孔541A、541B、フランジ部54Aの座面542A、フランジ部54Bの座面542Bを加工する。フランジ部54Aの座面542Aは、ボルト55のボルト頭部553の下面553Aに当接する。フランジ部54Bの座面542Bは、ボルト55のボルト軸部552の雄ねじ552Aにねじ込まれるナット551の下面551Aに当接する。その結果、ボルト孔541A、541Bは同一軸線上(同心状)に形成され、ボルト孔541A、541Bの軸線に対して、座面542A、座面542Bが直交して形成される。
【0041】
ボルト孔541A、541Bは、ドリル72で加工し、フランジ部54Aの座面542Aは座ぐりバイト73で加工し、フランジ部54Bの座面542Bは座ぐりバイト74で加工する。フランジ部54Bの座面542Bは、図示しない裏座ぐりバイトを使用して、座ぐりバイト73と同じ側から加工してもよい。
【0042】
図示はしないが、他の例として、ナット551は使用せず、一方のフランジ部54Aにボルト孔(バカ孔)541Aを形成し、他方のフランジ部54Bにボルト孔(雌ねじ)を形成し、ボルト軸部552の雄ねじ552Aをこの雌ねじにねじ込んで、フランジ部54A、54Bを締め付けるねじ込みボルト方式に本発明を適用してもよい。
【0043】
このねじ込みボルト方式の場合には、他方のフランジ部54Bの座面542Bの加工は不要で、フランジ部54Aにボルト孔541A、フランジ部54Bにボルト孔(雌ねじ)、フランジ部54Aの座面542Aを加工することになる。
【0044】
図4(1)は、ボルト孔541A、541Bと座面542A、542Bの加工が終了したヨーク51を、加工用クランプ治具71から取り外した状態を示す。図4(1)に示すように、フランジ部54A、54Bの弾性変形が元に戻るため、スリット56の溝幅が拡がり、座面542A、座面542Bは、図4の下方側に角度θだけ広がった形状になる。
【0045】
このようにして製造したヨーク51を車体に組み付けるために、図4(2)に示すように、結合筒部53の雌セレーション531に軸6を挿入し、ボルト孔541A、541Bに図4(2)の右側からボルト55、ばね座金554を挿入する。ナット551をボルト55の雄ねじ552Aにねじ込むと、図5に示すように、フランジ部54A、54Bが弾性変形してスリット56の溝幅が狭まり、軸6の雄セレーション61を雌セレーション531で強く締付けて固定することができる。
【0046】
その結果、ボルト孔541A、541Bは同一軸線上(同心状)に配置され、ボルト孔541A、541Bの軸線に対して、座面542A、座面542Bが直交するため、ボルト55には引っ張り応力だけが作用し、曲げ応力はほとんど作用しない。その結果、ボルト55に生ずる平均応力が小さくなり、許容応力振幅を大きくすることが可能となるため、大きな回転トルクを伝達することができる。
【実施例2】
【0047】
次に本発明の実施例2について説明する。図6は本発明の実施例2の自在継手と軸の結合構造を示し、自在継手に軸を圧入途中の状態を示す縦断面図であり、図6(2)は図6(1)のP部拡大縦断面図である。図7は本発明の実施例2の自在継手と軸の結合構造を示し、自在継手に対する軸の圧入が完了した状態を示す縦断面図であり、図7(2)は図7(1)のQ部拡大縦断面図である。
【0048】
図8は本発明の実施例2の自在継手と軸の結合構造に使用する結合リングの二つの例を示す斜視図である。以下の説明では、上記実施例1と異なる構造部分と作用についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。
【0049】
実施例2は、自在継手5のヨーク51と軸6との結合構造の変形例を示す。実施例2の結合構造は、図1の自在継手4と雄中間シャフト15Aとの結合部、自在継手4と出力軸23との結合部、自在継手5と雌中間シャフト15Bとの結合部、及び、互いに嵌合する任意の雄軸と雌軸の結合部に適用することができる。
【0050】
すなわち、実施例2は、雄軸と雌軸との間で回転トルクを伝達するために、精度の必要なセレーション等の非円形加工が不要であり、雄軸に雌軸を圧入するだけで、回転トルクの伝達と、雄軸に対する雌軸の軸方向の移動を不能に結合することを可能にした結合構造の例を示す。
【0051】
図6(1)に示すように、ヨーク51の右側(図2)には円筒状の結合筒部57が形成され、この結合筒部57の内周面には、円筒状孔571が形成されている。この円筒状孔571に、図6の右側から、結合筒部57の軸方向に平行に軸6を挿入し、軸6の左側外周面に形成された小径の円柱状軸部63を、円筒状孔571に内嵌する。円筒状孔571に対して軸6の円柱状軸部63を楽に挿入しやすくするために、円筒状孔571と円柱状軸部63の嵌合は、適度なすきまばめが好ましいが、とまりばめ、または、しまりばめにしてもよい。
【0052】
結合筒部57の右端面572には、薄肉円筒部573が形成され、薄肉円筒部573は、結合筒部57の右端面572よりも、右側にα(図6(2)参照)だけ突出している。軸6には、小径の円柱状軸部63の右側に、矩形断面の環状溝64が形成され、環状溝64の右側に、円柱状軸部63よりも若干直径の大きな円柱状の中径軸部65が形成されている。
【0053】
また、中径軸部65の右側には、結合筒部57の外周面574の直径と同一直径の円柱状の大径軸部66が形成されている。大径軸部66の左端面67と結合筒部57の右端面572との間には、結合リング58が介挿されている。結合リング58は、図8に詳細形状を示すように、断面形状が矩形の環状で、図8(1)の例では、左右の側面に円錐状突起581、581が、円周上に等間隔に、各々4個形成されている。また、図8(2)の例では、左右の側面に半球状突起582、582が、各々4個形成されている。
【0054】
結合リング58の内周面の円筒状孔583(図6(2)参照)は、中径軸部65の直径と略同一直径に形成され、中径軸部65に円筒状孔583が適度の嵌合で外嵌するように形成されている。
【0055】
図7に示すように、結合筒部57の円筒状孔571に軸6の円柱状軸部63を更に押し込むと、結合リング58の円錐状突起581、581(図8(2)の例の場合には、半球状突起582、582)が、大径軸部66の左端面67と結合筒部57の右端面572に食い込み、ヨーク51の結合筒部57と軸6との間で回転トルクが伝達可能となる。
【0056】
また、結合リング58の円錐状突起581が、結合筒部57の右端面572に食い込むため、結合筒部57の薄肉円筒部573が半径方向内側に折り曲げられて、軸6の環状溝64に入り込み、ヨーク51の結合筒部57に対して軸6を軸方向に移動不能に結合する。従って、ヨーク51の結合筒部57や軸6に対して、精度の必要なセレーション等の非円形加工が不要であり、ヨーク51の結合筒部57に対して軸6を軸方向に圧入するだけで、回転トルクの伝達と軸方向の固定の両方が同時に可能となるため、製造コストの削減が可能となる。
【実施例3】
【0057】
次に本発明の実施例3について説明する。図9(1)は本発明の実施例3の自在継手を示す縦断面図であり、図9(2)は図9(1)のR矢視図である。図10(1)は従来の自在継手を示す縦断面図であり、図10(2)は図10(1)のS矢視図である。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分と作用についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。
【0058】
実施例3は、実施例1のスリット56の形状を変えて、ヨーク51の剛性を向上させた例である。すなわち、実施例1では、スリット56は、結合筒部53の軸方向の全長にわたって形成されている。これに対して、実施例3のスリット56は、結合筒部53からの切り上がり位置561が、結合筒部53の軸方向の長さの途中に形成されているため、結合アーム部52の右端と結合筒部53の左端は、連結壁562によって連結されて、スリット56によって完全に分断されることが無い。
【0059】
従って、図10に示すように、スリット56が結合筒部53の軸方向の全長にわたって形成されている実施例1のヨーク51の場合には、ヨーク51に大きな回転トルクが作用すると、二点鎖線で示すように、スリット56、結合アーム部52の変形が大きくなり、回転トルクの変動に応じてヨーク51の応力振幅が大きくなって、ヨーク51が破損する恐れがある。
【0060】
しかし、実施例3のヨーク51は、結合アーム部52の右端と結合筒部53の左端が、連結壁562によって連結されて、スリット56によって完全に分断されることが無い。従って、ヨーク51に大きな回転トルクが作用した時に、スリット56、結合アーム部52の変形が小さく、回転トルクの変動によるヨーク51の応力振幅が小さくなるため、ヨーク51の破損が回避されるとともに、従来のヨーク51よりも小型化することが可能となる。
【実施例4】
【0061】
次に本発明の実施例4について説明する。図11(1)は本発明の実施例4の雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bの嵌合状態を示す要部側面図であり、図11(2)は図11(1)のB−B拡大断面図である。図12(1)から図12(3)は、図11(2)の変形例を示し、図11(1)のB−B拡大断面図相当である。
【0062】
図13は、本発明の実施例4の雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bの樹脂被膜の厚さと剛性の関係をFEM解析で求めたグラフである。以下の説明では、上記実施例と異なる構造部分と作用についてのみ説明し、重複する説明は省略する。また、同一部品には同一番号を付して説明する。
【0063】
実施例4は、安定的に小さな摺動抵抗が得られるとともに、ガタつきを確実に防止することを可能にした、雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bの例である。実施例4の構造は、雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bとから構成される伸縮軸に限定されるものではなく、雄中間シャフト15Aと雌中間シャフト15Bとで構成される伸縮軸等、回転トルクを伝達可能で互いに摺動可能に嵌合する任意の雄軸と雌軸で構成される伸縮軸に適用することができる。
【0064】
このような伸縮軸では、伸縮時の摺動抵抗が小さく、かつ、ステアリングホイールを操作した時のガタ感が小さいことが必要となる。そのために、雄軸または雌軸のいずれか一方に樹脂被膜を被覆し、潤滑油としてグリース等を塗布している。
【0065】
この樹脂被膜が薄いと、雄軸と雌軸の加工精度によって変動する締代に対して摺動抵抗の変動割合が大きくなり、適切な摺動抵抗を安定して確保することが難しくなる。また、樹脂被膜が厚いと、回転トルクに対する雄軸と雌軸の間の剛性が低下するため、ステアリングホイールを操作した時のガタ感が大きくなり、好ましくない。
【0066】
図11(1)、(2)に示すように、本発明の実施例4の伸縮軸であるステアリングシャフト12は、雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bとを、回転トルクを伝達可能に、かつ軸方向に関して相対移動可能にスプライン嵌合している。
【0067】
図11(2)に示すように、雌ステアリングシャフト12Aには、雌スプライン121Aが形成され、雄ステアリングシャフト12Bには雄スプライン121Bが形成されて、互いにスプライン嵌合し、雄スプライン121Bの外周に樹脂被膜122Bがコーティングされている。本発明の実施例4の樹脂被膜の材質は、ナイロン11を使用している。従って、上記雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bとは、衝突時に、このスプライン嵌合部が相対移動して、全長を縮めることができる。
【0068】
また、図12(1)の例では、雌ステアリングシャフト12Aには、雌スプライン121Aが形成され、雄ステアリングシャフト12Bには雄スプライン121Bが形成されて、互いにスプライン嵌合し、雌スプライン121Aの内周に樹脂被膜122Aがコーティングされている。
【0069】
図12(2)に示すように、雌ステアリングシャフト12Aの内周に、四角形孔123Aを形成し、雄ステアリングシャフト12Bの外周に四角形軸123Bを形成して、互いに回転トルクを伝達可能に嵌合させ、四角形軸123Bの外周、または、四角形孔123Aの内周に樹脂被膜125をコーティングしてもよい。
【0070】
また、図12(3)に示すように、雌ステアリングシャフト12Aの内周に、三角形孔124Aを形成し、雄ステアリングシャフト12Bの外周に三角形軸124Bを形成して、互いに回転トルクを伝達可能に嵌合させ、三角形軸124Bの外周、または、三角形孔124Aの内周に樹脂被膜125をコーティングしてもよい。
【0071】
図13のグラフに示すように、樹脂被膜の厚さが厚くなると、回転トルクに対する雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bの間の剛性が低下する。樹脂被膜の厚さが0.2mm以下では、剛性は大きいが、剛性の変化が大きく、雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bの締代の小さな誤差によって、摺動抵抗が大きく変動するため好ましくない。
【0072】
また、樹脂被膜の厚さが0.8mm以上では、剛性が低下する割合が小さく、ほぼ一定の剛性になると考えてよい。従って、雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bの加工寸法の管理が容易で、適切な摺動抵抗を安定して確保するためには、樹脂被膜の厚さを0.2mm〜0.8mmに設定するのが適当であり、樹脂被膜の厚さを0.4mm〜0.8mmに設定すれば、より好ましい。
【0073】
上記実施例では、略円筒状の結合筒部53が形成されたヨークに本発明を適用した例について説明したが、略コの字断面の結合筒部を有するヨークに本発明を適用してもよい。
【0074】
また、上記実施例では、ヨーク51のフランジ部54A、54Bにボルト孔(バカ孔)541A、541Bが形成され、ボルト55とナット551でフランジ部54A、54Bを挟んで締め付ける通しボルト方式に本発明を適用した例について説明した。他の例として、ナット551は使用せず、フランジ部54A、54Bの一方に雌ねじを形成し、ボルト軸部552の雄ねじ552Aをこの雌ねじにねじ込んで、フランジ部54A、54Bを締め付けるねじ込みボルト方式に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施例の自在継手を備えたステアリング装置の全体側面図である。
【図2】本発明の実施例1の自在継手にボルト孔と座面を加工している状態を示す縦断面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】ボルト孔と座面の加工が終了した自在継手のクランプを解除した状態を示す図3相当図である。
【図5】本発明の実施例1の自在継手にボルトを締め付けた状態を示す図3相当図である。
【図6】本発明の実施例2の自在継手と軸の結合構造を示し、自在継手に軸を圧入する途中の状態を示す縦断面図であり、(2)は(1)のP部拡大縦断面図である。
【図7】本発明の実施例2の自在継手と軸の結合構造を示し、自在継手に対する軸の圧入が完了した状態を示す縦断面図であり、(2)は(1)のQ部拡大縦断面図である。
【図8】本発明の実施例2の自在継手と軸の結合構造に使用する結合リングの二つの例を示す斜視図である。
【図9】(1)は本発明の実施例3の自在継手を示す縦断面図であり、(2)は(1)のR矢視図である。
【図10】(1)は従来の自在継手を示す縦断面図であり、(2)は(1)のS矢視図である。
【図11】(1)は本発明の実施例4の雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bの嵌合状態を示す要部側面図であり、(2)は(1)のB−B拡大断面図である。
【図12】(1)から(3)は、図11(2)の変形例を示し、図11(1)のB−B拡大断面図相当である。
【図13】本発明の実施例4の雌ステアリングシャフト12Aと雄ステアリングシャフト12Bの樹脂被膜の厚さと剛性の関係をFEM解析で求めたグラフである。
【図14】(1)は従来の自在継手を示す斜視図であり、(2)は(1)の縦断面図である。
【図15】従来の自在継手にボルトを締め付ける前の状態を示す図14(2)のC−C拡大断面図である。
【図16】(1)は従来の自在継手にボルトを締め付けた状態を示す図14(2)のC−C拡大断面図であり、(2)は従来の自在継手にボルトを締め付けた時のボルト単体を示す部品図である。
【符号の説明】
【0076】
11 ステアリングホイール
12 ステアリングシャフト
12A 雌ステアリングシャフト
121A 雌スプライン
122A 樹脂被膜
123A 四角形孔
124A 三角形孔
12B 雄ステアリングシャフト
121B 雌スプライン
122B 樹脂被膜
123B 四角形軸
124B 三角形軸
125 樹脂被膜
13 ステアリングコラム
13A アウターコラム
13B インナーコラム
14 支持ブラケット
15 中間シャフト
15A 雄中間シャフト
15B 雌中間シャフト
18 車体
20 アシスト装置
21 ギヤハウジング
23 出力軸
26 電動モータ
261 ケース
30 ステアリングギヤ
31 タイロッド
4 自在継手(上側自在継手)
5 自在継手(下側自在継手)
51 ヨーク
52 結合アーム部
521 円孔
53 結合筒部
531 雌セレーション
54A、54B フランジ部
541A、541B ボルト孔
542A、542B 座面
55 ボルト
551 ナット
551A 下面
552 ボルト軸部
552A 雄ねじ
553 ボルト頭部
553A 下面
554 ばね座金
56 スリット(切り割り)
561 切り上がり位置
562 連結壁
57 結合筒部
571 円筒状孔
572 右端面
573 薄肉円筒部
574 外周面
58 結合リング
581 円錐状突起
582 半球状突起
583 円筒状孔
6 軸(ピニオン軸)
61 雄セレーション
62 凹部
63 円柱状軸部
64 環状溝
65 中径軸部
66 大径軸部
67 左端面
71 加工用クランプ治具
72 ドリル
73 座ぐりバイト
74 座ぐりバイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端寄り部分に回転トルクを伝達可能に軸を嵌合するための内周面を備えた結合筒部、
上記結合筒部に形成され、上記内周面に貫通する切り割り、
上記切り割りを挟んで上記結合筒部と一体に設けられた一対のフランジ部、
上記内周面とは反対側で、上記結合筒部と一体に設けられ、十字軸を軸支するための軸受け孔を有する一対の結合アーム部、
上記結合筒部の内周面に挿入され、結合筒部の内周面に回転トルクを伝達可能に内嵌する外周面を有する軸、
上記一対のフランジ部に形成された同心のボルト孔にボルト軸部が内嵌され、上記一対のフランジ部の間の切り割りの間隔を狭めて、上記結合筒部の内周面を縮径し、上記軸の外周面を結合筒部の内周面で締め付けるボルトを備えた自在継手において、
上記ボルトを締め付けて軸の外周面を結合筒部の内周面で締め付けた状態に相当する変形を上記一対のフランジ部に付与した状態で、上記ボルト頭部の下面に当接する上記フランジ部の座面と上記ボルト孔を上記一対のフランジ部に加工すること
を特徴とする自在継手の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−107756(P2012−107756A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−34582(P2012−34582)
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【分割の表示】特願2008−53089(P2008−53089)の分割
【原出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】