説明

自己免疫性脱髄疾患の診断と治療

本発明はCLM−1アゴニストによる多発性硬化症(MS)等の自己免疫性脱髄疾患の診断及び治療に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多発性硬化症(MS)等の自己免疫性脱髄疾患の診断と治療に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄細胞は、自己免疫性脱髄性疾患の主要なエフェクター細胞である(Barnett等、Multiple Sclerosis 12,121−132,2006;Benveniste,Journal of Molecular Medicine 75,165−173,1997)。中枢神経系浸潤性骨髄個体群は常駐ミクログリア、マクロファージ、炎症性樹状細胞、形質細胞様樹状細胞及び通常の樹状細胞で構成される。MHCII及びCD86を発現する骨髄性樹状細胞(DC)は、抗原特異的T細胞を再活性化する能力(Deshpande等、J Immunol 178,6695−6699,2007)と病気の再発につながるエピトープ拡散へのその関与のために特別な注意が払われている(Miller等、J Immunol 178,6695−6699,2007)。抗原提示細胞として役割を果たした次に、骨髄性樹状細胞は炎症誘発性サイトカインや活性酸素中間体を分泌することで、直接局所細胞外環境を調節し、進行性脱髄と軸索損失をもたらす。これらのTNF−及びiNOS産生前駆体細胞は、TipDCsとも称され(Serbina等、Immunity 19,59−70,2003)、循環中に存在する炎症性単球であり、中枢神経系の炎症部位へ補充される。炎症を、多発性硬化症に対して承認された薬剤である酢酸グラチラマーによりII型抗炎症単球へ変換することで、EAEの重症度の逆転をもたらし(Weber等、Nature Medicine 13,935−943,2007)、疾患の重症度の調節におけるこれらの骨髄細胞の重要な役割が更に強調されている。
【0003】
中枢神経系浸潤性骨髄細胞の他の負の調節因子は以前に特定されている。例えば、常駐ミクログリアと浸潤性骨髄細胞の両方で発現するTREM−2は、ミエリン残骸の貪食による中枢神経系の炎症の消散に重要な役割を果たしている(Piccio等、European Journal of Immunology 37,1290−1301,2007;Takahashi等、PLoS Medicine 4,e124,2007;Takahashi等、The Journal of Experimental Medicine 201,647−6572005,2005)。同様に、骨髄細胞のIFNARは中枢神経系で炎症反応を下方調節する(Prinz等、Immunity 28,675−686,2008)。しかしながら、何れの受容体も中枢神経系にホーミングする炎症性の骨髄由来の単球に特異的ではない。
【0004】
ミエロイド機能の負の制御に重要なミエロイド特異的細胞表面受容体を求めて、CLM−1(MAIR−V、LMIR−3、DigR2)が同定された。CLM−1はCMRFファミリーの一部であり、第11番染色体に位置するマウスオルソログとともに、ヒト第17染色体上の多重遺伝子クラスターである。全てのファミリーメンバーは細胞外IgVドメインを含む。本クラスターのうち2つのファミリーメンバー(CLM−1及びCLM−8)は細胞内ドメインにITIM配列を含み、残りはシグナル伝達のアダプターを補充するのに役に立つ可能性のある荷電残基を膜貫通領域に有する。CLM−1は、ヒトCD300fのマウスのオルソログであり(Clark等、Trends in Immunology 30,209−217,2009)、破骨細胞形成の負の調節因子として最初に説明された(Chung等、J.Immunol 171,6541−6548,2003)。続く研究では、CLM−1がFc受容体を介した細胞応答において阻害的役割を果たすことが示された(Alvarez−Errico等、The Journal of Experimental Medicine 206,595−606,2004;Fujimoto等、International Immunology 18,1499−1508,2006)。自己免疫疾患における生物学的役割はこれまでに開示されていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は少なくとも一部分は、炎症性サイトカインや活性酸素種の放出を抑制することで、CNSにおける炎症性樹状細胞活性の負の調節因子としてのCLM−1の同定にもとずく。従って、本明細書においてCLM−1は中枢神経系の炎症や脱髄の骨髄特異的な負の調節因子として特定される。
【0006】
一態様において、本発明はCLM−1アゴニストの有効量を哺乳動物被験体に投与することを含む哺乳動物被験体の脱髄疾患の治療方法に関する。
【0007】
別の態様において、本発明は、薬学的に許容される賦形剤と混合してCLM−1アゴニストの有効量を含む、脱髄疾患の治療のための薬学的組成物に関する。
【0008】
更に別の態様において、本発明は、脱髄疾患の治療のための医薬の製造におけるCLM−1アゴニストの有効量の使用に関する。
【0009】
更なる態様において、本発明は、脱髄疾患の治療のためのCLM−1アゴニストに関する。
【0010】
更なる態様において、本発明は、CLM−1の機能の欠陥を検出することを含む脱髄疾患の診断方法に関する。
【0011】
更なる態様において、本発明は、CLM−1アゴニスト及び脱髄疾患の治療のための使用説明書を含むキットに関する。
【0012】
全ての態様において、本発明は以下の実施態様を特に含む:
一実施態様において、哺乳動物被験体はヒトである。
その他の実施態様において、脱髄性疾患は脱髄性自己免疫疾患である。
更に別の実施態様において、脱髄性自己免疫疾患は中枢神経系(CNS)に影響を及ぼす。
更なる実施態様において、脱髄性自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)、原発性進行型及び二次性進行型多発性硬化症、進行性再発型多発性硬化症、脳脊髄炎、白質脳炎、横断性脊髄炎、視神経脊髄炎(Devic病)、及び視神経炎からなる群から選択される。
【0013】
更なる実施態様において、脱髄性自己免疫疾患は多発性硬化症である。
【0014】
異なる実施態様において、脱髄性自己免疫疾患は、限定しないが、急性炎症性脱髄性多発神経炎(AIDP;ギランバレー症候群);慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー;抗MAG末梢神経障害;及び運動感覚性ニューロパチー(HMSN)、(遺伝性知覚運動性ニューロパチー(HSMN)、又は腓骨筋萎縮、又はシャルコー・マリー・トゥース病としても知られる)を含み、末梢神経系に影響を与える。
【0015】
その他の実施態様において、CLM−1アゴニストはアゴニスト抗CLM−1抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】CLM−1は中枢神経系炎症性病変では炎症性樹状細胞に発現する。(A)病気のピーク時に脊髄で増加したCLM−mRNA転写産物。(B)中枢神経系常在CD11b+細胞におけるCLM−1発現の欠如。(C)CD11bCD11c+骨髄細胞におけるCLM−1の発現(D)病気のピーク時(胸部、脊髄後角)での中枢神経系炎症性病変においてCNSCLM−1 CD11cを共発現した樹状細胞(E)CLM−1を発現する樹状細胞がiNOSとTNFを発現する。値は平均±標準偏差(S.D)として表される。(D)のスケールバーは50μmである。
【図2】CLM−1は炎症性単球及び樹状細胞において発現する。(A)CLM−1はCx3cr1lo CD11c Ly6hi陽性炎症性単球において発現するが、Cx3cr1loの通常の樹状細胞前駆体には発現しない。(B)CLM−1は放射線に敏感な骨髄由来細胞に発現するが、放射線照射耐性の中枢神経系常駐ミクログリアには発現しない。(C)Cx3cr1lo炎症性樹状細胞においてCLM−1は発現するがCx3cr1hiミクログリアには発現しない。(D)免疫感作後14日後の脊髄部(胸部)におけるCx3cr1とCLM−1の発現。共染色が髄膜(矢頭)周囲に観察されるが、Cx3cr1hiマクログリア(矢印)はCLM−1を運ばない。スケールバー:B(100μm)、D(50μm)。
【図3】CLM−1の欠損又はCLM−1融合タンパク質による処置が実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の亢進をもたらす。(A)CLM−1ノックアウト(ko)マウス(左のパネル)から得た骨髄由来樹状細胞におけるCLM−1タンパク質の発現の欠如。病気のピーク時に脊髄から得た樹状細胞における同様なレベルのMHC II及びCD86(右パネル)。(B)ノックアウトマウスと比較した野生型CLM−1における、CLM−1染色の欠如、保存された形態及び類似の炎症性細胞数。(C)CLM−1ノックアウトマウスにおける疾患の重症度の増大、又は(D)CLM−1−Fc融合タンパク質により処置されたCLM−1野生型マウス。(B)のスケールバーは50μmである。
【図4】CLM−1の欠如はT細胞プライミングには影響しない。(A)再刺激抗原特異的末梢リンパ節のT細胞の増殖とサイトカイン応答は、CLM−1野生型及びノックアウトマウスにおいて同様である。(B)CLM−1ノックアウト又は野生型ドナーマウス由来のT−細胞は野生型レシピエントにおいて似た疾患を誘導する(左パネル)。CLM−1野生型ドナー由来のT−細胞はCLM−1野生型レシピエントに比べてCLM−1ノックアウトレシピエントに疾患の重症度の増加をもたらす(右パネル)。
【図5】骨髄(しかしT−細胞でない)特異的炎症性メディエーターのCLM−1に制御される放出。(A)免疫付与されたCLM−1野生型及びノックアウトマウルから得たMOG反応性脊髄T−細胞の再活性化によりTh1、Th17及び調節性T細胞の数に違いはない。(B)中枢神経系炎症性病変から得られたCLM−1野生型及びノックアウト骨髄細胞における樹状細胞の活性化の増大。*p<0.01。
【図6】CLM−1は自己免疫性脱髄を調節する。(A)中枢神経系病変におけるCLM−1陽性細胞及びMOG陽性ミエリンのデコンボリューション画像。(B)及び(C):野生型マウスと比べてCLM−1ノックアウトにおいて、(Bで白い線でマークされた領域によって示されCで定量化される)増加した脱髄。
【図7】マウス(配列番号1)及びヒト(配列番号2)CLM−1ポリペプチドのアミノ酸配列。
【0017】
[補足図1]マウスClm−1遺伝子の標的破壊の戦略。
Clm−1エクソン−1とネオマイシン耐性遺伝子を置換したES細胞が相同組換えによって生成された。Clm−1遺伝子の標的領域の構造を示す。E1とE2はClm−1遺伝子のエクソン1及びエクソン2を示す。サザンブロット法によるESクロンーンのスクリーニングに用いたプローブの位置(5’及び3’)を示す。
[補足図2]CLM−1はT−細胞増殖に影響を与えない。
(A)OVAトランスジェニックT−細胞から得られたT細胞を、OVAペプチドの濃度を増加させながらCLM−1野生型又はノックアウトマウスから得られた骨髄由来樹状細胞と共にインキュベートした。(B)混合リンパ球反応。BALB/cバックグランドのCLM−1野生型又はノックアウトマウスから得られた骨髄樹状細胞が、C57B1/6バックグランドのマウスから得られたT−細胞の様々な割合とともにインキュベートした。増殖はH3チミジンの取り込み量に反映された。
[補足図3](A)Clm−1は末梢リンパ節において調節性Tリンパ球の生成には影響しない。(B)Clm−1は中枢神経系においてTリンパ球の偏光に影響を及ぼさない。
【0018】
好ましい実施態様の詳細な説明
I.定義
「CLM−1」及び「Cmrf−様分子−1」なる用語(MAIR−V、LMIR−3、DigR2及びIgSF13としても知られる)は本明細書では、哺乳類のCLM−1受容体の天然配列を指すために、限定しないが、特に配列番号1(NCBI CAM21607)のマウスCLM−1ポリペプチド及びそのヒトオルソログである配列番号2(NCBI AAH28188(CD300f、IREM1、IgSF13、35−L5、及びCMRF−35A5としても知られる))、並びに天然に存在するその変異体を含み、同義に用いられる。更なる詳細及び命名については上掲のクラーク等(2009)を参照のこと。
【0019】
「天然配列」ポリペプチドは天然由来のポリペプチド(例えば、ErbB受容体又はErbBリガンド)と同じアミノ酸配列を有するものである。そのような天然配列ポリペプチドは天然のものから単離することができ、又は組換え体又は合成手段により生産することができる。従って、天然配列ポリペプチドは天然に存在するヒトポリペプチド、マウスポリペプチド、又は任意の他の哺乳類由来のポリペプチドを有し得る。
【0020】
「アミノ酸配列変異体」なる用語は、天然配列ポリペプチドとはある程度異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。通常、アミノ酸配列変異体は天然ErbBリガンドの少なくとも1つの受容体結合ドメインと、又は天然ErbB受容体の少なくとも1つのリガンド結合ドメインと少なくとも約70%の相同性を有し、かつ好ましくは、該変異体はそのような受容体又はリガンド結合ドメインと少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%相同であり得る。アミノ酸配列変異体は天然アミノ酸配列のアミノ酸配列内の所定の位置に置換、欠失、及び/又は挿入を有する。
【0021】
「相同性」は配列をアラインし、最大パーセントの相同性を達成するため必要あらばギャップを導入した後において、アミノ酸配列変異体中の同一である残基の百分率として定義される。アラインメントの方法とコンピュータープログラムは当該技術分野において良く知られている。そうしたコンピュータープログラムの一つは、1991年12月10日にアメリカ合衆国著作権庁(ワシントン、DC20559)にユーザードキュメンテーションと一緒に提出されたジェネンテック社により著作された「アライン2(Align2)」である。
【0022】
ここでの「抗体」なる用語は最も広い意味で使用され、特にモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つのインタクトな抗体から形成された多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の生物活性を示す限り、抗体断片を包含する。
【0023】
ここで使用される「モノクロナール抗体」なる用語は、実質的に同種の抗体の集団から得た抗体、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量存在しうる可能性のある天然に生じる変異を除いて、同一である抗体を指す。モノクローナル抗体は、単一の抗原部位に対するもので、高度に特異的である。更に、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対する。その特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の抗体によって汚染されずに合成できるという点で有利である。修飾の「モノクローナル」は実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohler等、Nature,256:495(1975)により最初に説明されたハイブリドーマ法、又は組換えDNA法(例えば米国特許第481656号を参照)により作成することができる。「モノクロナール抗体」はまた、例えばClackson等、Nature,352:624−628(1991)及びMarks等、J.Mol.Biol.,222:581−597(1991)に記載された技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離され得る。
【0024】
ここでモノクロナール抗体は、特に重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種から由来する抗体、又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体に対応する配列と同一又は相同であるが、鎖の残りの部分は他の種から由来する抗体、又は他のクラス若しくはサブクラスに属する抗体、並びに所望の生物活性を示す限り、そうした抗体の断片に対応する配列と同一か又は相同である「キメラ抗体」を含む(米国特許第4816567号;及びMorrison等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851−6855(1984))。ここで関心のあるキメラ抗体は非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿等)及びヒト定常領域配列由来の可変ドメイン抗原結合配列を含む「霊長類化」抗体を含む。
【0025】
「抗体断片」は好ましくはその抗原結合領域又はその可変領域を含むインタクトな抗体の一部を含む。抗体断片の例は、Fab、Fab’、F(ab’)、及びFv断片;二重特異性抗体、直鎖状抗体、単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成された多重特異的抗体を含む。
【0026】
「インタクトな」抗体とは抗原結合可変領域並びに軽鎖定常ドメイン(C)及び重鎖定常ドメイン、C1、C2、及びC3を含むものである。定常ドメインは天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体であってもよい。好ましくは、インタクトな抗体は1つ以上のエフェクター機能を備えている。
【0027】
抗体「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(天然配列のFc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に起因する生物学的活性を言う。抗体のエフェクター機能の例としては、C1q結合;補体依存性細胞傷害、Fc受容体結合、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、貪食、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体、BCR)のダウンレギュレーション等を含む。
【0028】
重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、インタクトな抗体は異なる「クラス」に割り当てることができる。インタクトな抗体の5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、かつこれらの幾つかは更に「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2に分けることができる。抗体の異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、及びμと称される。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造と3次元立体構造は良く知られている。
【0029】
「抗体依存性細胞傷害」及び「ADCC」は、Fc受容体(FcR)(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、マクロファージ)を発現する非特異的細胞傷害性細胞が、標的細胞上に結合した抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介反応を言う。ADCC、NK細胞を仲介するための主要な細胞は、FcγRIIIのみを発現する一方、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞におけるFcR発現はRavetch及びKinet,Annu.Rev.Immunol 9:457−92(1991)の頁464の表3に要約される。関心ある分子のADCC活性を評価するために、米国特許第5500362号又は5821337号で説明されるインビトロADCCアッセイが実施され得る。そのようなアッセイのための有用なエフェクター細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞を含む。あるいは、又は追加として、対象の分子のADCC活性は、例えばClynes等、PNAS(USA)95:652−656(1998)に開示された動物モデルにおいてインビトロで評価され得る。
【0030】
「ヒトエフェクター細胞」は、一つ以上のFcRを発現し、エフェクター機能を果たす白血球である。好ましくは、細胞は少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を果たす。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞及び好中球を含み;末梢血単核細胞とNK細胞が好ましい。エフェクター細胞は天然の由来から、例えば血液又は本明細書に記載されるPBMCから単離することができる。
【0031】
「Fc受容体」又は「FcR」なる用語は抗体のFc領域に結合する受容体を説明するために使用される。好ましいFcRは天然配列のヒトFcRである。更に、好ましいFcRはIgG抗体(ガンマ受容体)と結合するもので、対立遺伝子変異体とこれらの受容体のオルタナティブスプライシング型を含む、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIサブクラスの受容体を含む。FcγRII受容体は、FcγRIIA(「活性化レセプター」)及びFcγRIIB(「阻害レセプター」)を包含し、これらは主にその細胞質ドメインにおいて異なる類似のアミノ酸配列を有する。FcγRIIA(「活性化レセプター」)及びFcγRIIB(「阻害レセプター」)を含む。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン系活性化モチーフ(ITAM)を含む。阻害性受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含む。(Daeron,Annu.Rev.Immunol.15:203−234(1997)のレビューMを参照)。FcRはRavetch及びKinet、Annu.Rev.Immunol 9:457−92(1991);Capel等、Immunomethods 4:25−34(1994);及びde Haas等、J.Lab.Clin.Med.126:330−41(1995)にレビューされる。他のFcRは、将来同定されるべきものを含め、本明細書において「FcR」なる用語で網羅される。本用語はまた新生児の受容体であって胎児への母性IgGの転移に関与するFcRを含む(Guyer等、J.Immunol.117:587(1976)及びKim等、J.Immunol.24:249(1994))。
【0032】
「補体依存性細胞傷害」又は「CDC」は補体の存在下で標的を溶解する分子の能力を指す。補体活性化経路は、同系の抗原と複合体形成した分子(抗体など)へ補体系(C1qの)の第一成分が結合することにより開始される。補体活性化を評価するために、例えばGazzano−Santoro等、J.Immunol.Methods 202:163(1996)に記載されたようにCDCアッセイが実施され得る。
【0033】
「天然抗体」は、通常、二つの同一の軽鎖(L)と2つの同一の重鎖(H)から成る約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に結合しており、ジスルフィド結合の数は異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で変化する。各重鎖及び軽鎖はまた一定間隔の鎖内ジスルフィド結合を有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(V)を有し多数の定常ドメインが続く。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(V)を、他端に定常ドメインを持つ。軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が軽鎖及び重鎖の可変ドメイン間のインタフェースを形成すると考えられている。
【0034】
「可変」なる用語は、可変ドメインの特定の部分が、抗体間の配列で広範囲に異なり、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合及び特異性に用いられているという事実を指す。しかしながら可変性は抗体の可変ドメイン全体に均等には分布していない。それは軽鎖及び重鎖の可変ドメイン両方の超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれている。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインの各々は、大部分がβ-シート構造をとり、そのβ-シート構造を連結し、場合によってはβ-シート構造の一部を形成するループを形成する3つの超可変領域により連結された4つのFRを含む。各鎖の超可変領域は、FRによって近接して一緒に保持され、他の鎖からの超可変領域とともに抗体の抗原結合部位の形成に寄与している。(Kabat等、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、公衆衛生局、米国国立衛生研究所、 ベテスダ、メリーランド州(1991)を参照)。定常ドメインは抗体の抗原への結合に直接関与してないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)における抗体の関与など様々なエフェクター機能を発揮する。
【0035】
ここで使用される用語「超可変領域」とは、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を意味する。超可変領域は、一般的に「相補性決定領域」又は「CDR」からのアミノ酸残基を含み(例えば、軽鎖可変ドメインの残基24−34(L1)、50−56(L2)及び89−97(L3)、及び重鎖可変ドメインの31−35(H1)、50−65(H2)及び95−102(H3);Kabat等、Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版、公衆衛生局、米国国立衛生研究所、ベテスダ、メリーランド州(1991)、及び/又は「超可変ループ」由来の残基(例えば、軽鎖可変ドメインの残基26−32(L1)、50−52(L2)及び91−96(L3)、及び重鎖可変ドメインの26−32(H1)、53−55(H2)及び96−101(H3);Chothia及びLesk J.Mol.Biol.196:901−917(1987))を含む。「フレームワーク領域」又は「FR」残基は、ここで定義される超可変領域残基以外の可変ドメインの残基である。
【0036】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれ、単一の抗原結合部位を持つ2つの同一な抗原結合断片、及びその名が容易に結晶化する能力を反映する残りの「Fc」断片を産生する。ペプシン処理は、2つの抗原結合部位を有し、更に抗原を架橋する能力を持つF(ab’)断片を生成する。
【0037】
「Fv」は、完全なる抗原認識及び抗原結合部位を含む最小の抗体断片である。この領域は、強固な非共有結合性結合した1つの重鎖及び1つの軽鎖の可変ドメインの二量体からなる。各可変ドメインの3つの超可変領域が相互作用して、VH−L−二量体の表面に抗原結合部位を定めるのはこの立体構造においてである。合計で6つの超可変領域が抗体に抗原結合の特異性を与える。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つの超可変領域のみを含むFvの半分)でさえも、結合部位全体より親和性は低いものの、抗原を認識しかつ結合する能力を有する。
【0038】
Fab断片はまた、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第一定常ドメイン(CH1)を含む。Fab’断片は、抗体のヒンジ領域由来の1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に数個の残基が付加する点がFab断片とは異なる。Fab’−SHは、ここでは定常ドメインのシステイン残基が少なくとも1つの遊離のチオール基を有するFab’の名称である。F(ab’)抗体断片はもともとヒンジのシステインを間に持つFab’断片のペアとして産生された。抗体断片の他の化学的な結合も知られている。
【0039】
任意の脊椎動物種由来の抗体の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づきカッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明らかに異なるタイプのうちの1つに割り当てることができる。
【0040】
「単鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、これらのドメインが単一のポリペプチド鎖に存在する抗体のV及びVドメインを含む。好ましくは、FvポリペプチドはscFvが抗原結合のための所望の構造を形成できるようにするV及びVドメインの間にポリペプチドリンカーを更に含む。scFvのレビューとして、Plueckthunによる、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,113巻、Rosenburg及びMoore編集、Springer−Verlag,ニューヨーク、269−315頁(1994)を参照のこと。抗ErbB2抗体scFv断片は、国際公開第93/16185号;米国特許第5571894号及び米国特許第5587458号に記載されている。
【0041】
「二重特異性抗体」なる用語は、2つの抗原結合部位を持つ小さな抗体断片を指し、該断片は同じポリペプチド鎖(V−V)の可変軽鎖ドメイン(V)に連結された可変重鎖ドメイン(V)を含む。同じ鎖上の2つのドメイン間のペア形成を可能にするには短すぎるリンカーを使用することによって、そのドメインは別の鎖の相補ドメインとペアを組まざるをえず、2つの抗原結合部位を作る。二重特異性抗体は例えば、欧州特許第404097号;国際公開第93/11161号;及びHollinger等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444−6448(1993)により更に十分説明される。
【0042】
非ヒト(例えば、齧歯類)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。大部分において、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域由来の残基が、例えば、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ、又はヒト以外の霊長類等の非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域由来の残基によって置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)の残基は、対応する非ヒトの残基によって置換されている。更にヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体に見出されない残基を含み得る。これらの修飾は抗体の特性を更に洗練するために作られている。一般的に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、及び典型的には2つの可変ドメインの全てを実質的に含み、超可変ループの全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのそれに対応し、FRの全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、必要に応じて、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含む。更に詳細はJones等、Nature 321:522 525(1986);Riechmann等、Nature 332:323−329(1988);及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596(1992)を参照のこと。
【0043】
「単離された」抗体はその自然環境の成分から同定、分離され、及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分は、抗体の診断又は治療への使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質又は非タンパク質の溶質が含まれる場合がある。好ましい実施態様において、抗体は(1)ローリー法で決定される抗体の95重量%以上に、及び最も好ましくは99重量%以上に、(2)スピニングカップシーケネーター(spinning cup sequenator)の使用により、N末端又は内部のアミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度に、(3)クーマシーブルー又は好ましくは銀染色を使用して還元下又は非還元下でSDS−PAGEにより均一になるまで精製される。単離された抗体は、抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在し得ないため、組換え細胞内のインサイツの抗体を含む。しかしながら通常は単離された抗体は、少なくとも1つの精製工程により調製され得る。
【0044】
目的の抗原に「結合する」抗体は、抗体が抗原を発現する細胞を標的とする治療薬として有益であるように十分な親和性でその抗原に結合可能なものである。
【0045】
ここで使用される「脱髄性疾患」なる用語は、ニューロンのミエリン鞘が損傷される神経系の任意の疾患を言う。本定義は、オリゴデンドロサイトの完全性とミエリンを産生し維持する能力に影響を与える疾患と、直接ミエリン鞘を損傷する疾患の両方が含まれている。このような疾患は、有髄白質経路の伝導を妨げ、中枢神経系(CNS)及び末梢神経の神経を含み、神経が関与する感覚、運動、認知、及び/又は他の機能の障害を含め、広範にわたって運動、感覚、及び認知障害を作り出す。
【0046】
ここでの「自己免疫疾患」とは、個体独自の組織に起因し及び該組織に対する疾患又は傷害、又は共分離又はその発現、又は結果としてそこから得た状態である。自己免疫疾患又は障害の例は、限定しないが、関節リウマチ(関節リウマチ、若年性関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、及び強直性脊椎炎)、アトピー性皮膚炎を含む乾癬、皮膚炎;慢性自己免疫性蕁麻疹を含む慢性特発性蕁麻疹、多発性筋炎/皮膚筋炎、中毒性表皮壊死症、全身性強皮症及び硬化症、炎症性腸疾患(IBD)(クローン病、潰瘍性大腸炎)と関連する反応、及び壊疽性膿皮症、結節性紅斑、原発性硬化性胆管炎、及び/又は上強膜炎の共分離によるIBD、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)を含む呼吸困難症候群、髄膜炎、アナフィラキシー、アレルギー性鼻炎等のIgE媒介性疾患、ラスムッセン脳炎等の脳炎、ブドウ膜炎、顕微鏡的大腸炎やコラーゲン大腸炎などの大腸炎、タイプI及びタイプII、及び急性進行性GNを含む、膜性GN、特発性膜性GN、膜増殖性GN(MPGN)等の糸球体腎炎(GN)、急性進行性GN、アレルギー症状、湿疹、喘息、T細胞の浸潤、慢性炎症性反応、アテローム性動脈硬化症、自己免疫性心筋炎、白血球接着不全症、皮膚のSLE等の全身性エリテマトーデス(SLE)を伴う状態、皮膚のSLE等、ループス(腎炎、脳炎、小児、非腎性、円板状、脱毛症を含む)若年発症糖尿病、脊髄−視覚(MS)等の多発性硬化症(MS)、アレルギー性脳脊髄炎、サイトカイン及びTリンパ球によって媒介される、急性及び遅延性過敏症に関連する免疫応答、結核、サルコイドーシス、ウェゲナー肉芽腫症を含む肉芽腫症、無顆粒球症、血管炎(大血管の血管炎(リウマチ性多発筋痛症と巨大細胞(Takayasu)動脈炎を含む)、中血管の血管炎(川崎病と結節性多発性動脈炎を含む)、中枢神経系血管炎、及びチャーグ・ストラウス血管炎又は症候群(CSS)等のANCA関連血管炎)、再生不良性貧血、クームス陽性の貧血、ダイヤモンドブラックファン貧血、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)を含む免疫性溶血性貧血、悪性貧血、赤芽球癆(PRCA)、第VIII因子欠乏症、血友病A、自己免疫性好中球減少症、汎血球減少症、白血球減少、白血球漏出が関与する疾患、中枢神経系炎症性疾患、多臓器損傷症候群、重症筋無力症、抗原−抗体複合体媒介疾患、抗糸球体基底膜抗体病、抗リン脂質抗体症候群、アレルギー性神経炎、ベーチェット病、キャッスルマン症候群、グッドパスチャー症候群、ランバート・イートン筋無力症症候群、レイノー症候群、シェーグレン症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群、臓器移植の拒絶反応(高いパネル反応性抗体価、組織中のIgAの蓄積のための前処理、及び腎移植、肝移植、小腸移植、心臓移植などに起因する拒絶反応を含む)、移植片対宿主病(GVHD)、水疱性類天疱瘡、天疱瘡(尋常性、落葉状、及び天疱瘡粘液膜類天疱瘡を含む)、自己免疫性多腺性内分泌障害、ライター病、スティッフマン症候群、免疫複合体腎炎、IgMの多発ニューロパチー又はIgMが介在するニューロパチー、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、血小板減少症(例えば、心筋梗塞の患者によって発症した)、自己免疫性血小板減少症、自己免疫睾丸炎や卵巣炎、原発性甲状腺機能低下症を含む精巣と卵巣の自己免疫疾患を含む;自己免疫性甲状腺炎、慢性甲状腺炎(橋本甲状腺炎)、亜急性甲状腺炎、特発性甲状腺機能低下症、アジソン病、グレーブス病、自己免疫性多腺症候群(又は多腺性内分泌障害症候群)を含む自己免疫性内分泌疾患、インスリン依存性真性糖尿病(IDDM)とも呼ばれ、小児IDDMを含む、タイプI糖尿病、及びシーハン症候群;自己免疫性肝炎、リンパ間質性肺炎(HIV)、閉塞性細気管支炎(非移植)対NSIP、ギラン・バレー症候群、ベルガー病(IgA腎症)、原発性胆汁性肝硬変、セリアック病(グルテン性腸症)、難治性スプルー共分離性疱疹状皮膚炎、クリオグロブリン血症、筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルーゲーリッグ病)、冠動脈疾患、自己免疫性内耳疾患(AIED)、自己免疫性難聴、眼球クローヌス筋クローヌス症候群(OMS)、難治性多発性軟骨炎等の多発性軟骨炎、肺胞タンパク症、アミロイドーシス、巨細胞性肝炎、強膜炎、有意性が不明/未知の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)、末梢神経障害、腫瘍随伴症候群、てんかん、片頭痛、不整脈、筋障害、難聴、失明、周期性四肢麻痺などのチャンネル病、及び中枢神経系のチャンネル病;自閉症、炎症性筋疾患、及び巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)を含む。
【0047】
「自己免疫性脱髄により特徴付けられる疾患」及び 「脱髄性自己免疫性疾患」なる用語は、互換的に使用され、自己免疫反応によって少なくとも部分的に引き起こされる脱髄性疾患を言う。脱髄性自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)とその亜種等の、再発又は慢性的に進行性の脱髄疾患、及び、視神経炎、急性散在性脳脊髄炎、及び横断性脊髄炎等の単相性脱髄性疾患を含む。中枢神経系(CNS)の脱髄性自己免疫疾患は、限定されないが、多発性硬化症(MS)及び多発性硬化症(MS)の亜種、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)及び原発性、二次性進行型、及び進行性再発型の多発性硬化症(MS)、脳脊髄炎、白質脳炎、横断性脊髄炎、視神経脊髄炎(Devic病)、及び視神経炎を含む。末梢神経系に影響を及ぼす脱髄性自己免疫疾患としては、例えば、急性炎症性脱髄性多発神経炎(AIDP、ギラン・バレー症候群)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、抗MAG末梢神経障害、及び遺伝性感覚運動神経障害(HSMN)としても知られる運動感覚性神経障害(HMSN)、又は腓骨筋萎縮、又はシャルコー・マリー・トゥース病を含む。
【0048】
「治療」とは治療法及び予防又は再発防止策の両方を指す。治療が必要な者は、既に障害を有する者並びに障害が予防されるべき者を含む。従って、ここで治療されるべき哺乳動物は、疾患を有すると診断されている可能性があるか、又は疾患にかかりやすいか又は影響を受けやすい可能性がある。例えば、予防的治療は、完全進行臨床型、又は再発寛解型多発性硬化症(RRMS)によるMSの進行の予防等、より深刻な疾患型を予防することを含む。治療処置は病気の進行を減速し、病気(発病)の症状発現の頻度を減らし、発病後に機能を回復し、新たな発病を防ぎ、疾患に関連するか又はそれに起因する障害の進行を予防又は減速することを目的とする。
【0049】
「CLM−1」アゴニストなる用語はここでは広い意味で使用され、CLM−1の1以上の生物学的活性を、インビトロ、インサイツ、又はインビボで、部分的又は完全に増強、刺激し又は活性化する任意の分子を含む。例えば、アゴニストは、CLM−に直接結合する結果、CLM−1の生物学的活性をインビトロ、インサイツ、又はインビボで部分的又は完全に増強、刺激し又は活性化するために機能することができ、受容体の活性化又はシグナル伝達を引き起こす。アゴニストは、例えば、CLM−1活性化又はシグナル伝達を引き起こす他のエフェクター分子を刺激するなどの結果として、インビトロ、インサイツ、又はインビボで、間接的に部分的又は完全にCLM−1の一以上の生物学的活性を増強し、刺激し又は活性化し得る。ここでの生物学的活性とは、上掲に定義される脱髄性自己免疫疾患等の脱髄疾患の負の調節である。アゴニストは、特にCLM−1リガンド、及びCLM−1に対するアゴニスト抗体を含む。
【0050】
治療目的のための 「哺乳動物」は、ヒト、ヒト以外の高等霊長類、イヌ、ウマ、ネコ、ウシ等、家庭や農場の動物、動物園、スポーツ、又はペット動物を含む哺乳動物として分類される任意の動物を指す。好ましくは哺乳動物はヒトである。
【0051】
「治療に有効な量」なる用語は、哺乳動物における疾患又は障害を治療するのに有効な薬剤の量を指す。本事例において、治療上有効な量は、上記に定義される脱髄性自己免疫疾患等の脱髄疾患の(予防を含む)治療に効果的なCLM−1アゴニストの量である。
【0052】
「リポソーム」とは、様々なタイプの脂質、リン脂質、及び/又は界面活性剤からなる小胞であり、哺乳動物に(例えば、本明細書に開示される抗ErbB2の抗体、及び必要に応じて化学療法剤等の)薬物を送達するために有用である。リポソームの成分は、一般的に生体膜の脂質配列に類似した二重層形態に配置されている。
【0053】
「添付文書」なる用語は、こうした治療製品の使用に関する適応症、用法、用量、投与、禁忌、及び/又は警告に関する情報を含む治療製品の商用パッケージに通例に含まれる指示を参照するために使用される。
【0054】
II.詳細な説明
多発性硬化症(MS)とその臨床的に同等な実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は血管周囲炎症及び脱髄によってマークされる。循環する前駆細胞に由来する骨髄細胞は、炎症性浸潤物の主要成分であり、サイトカイン産生、脱髄、軸索損傷と運動機能障害に関与する究極のエフェクター細胞を構成すると考えられている。どのようにこれらの骨髄細胞の細胞傷害活性が調節されているかはよくわかっていない。本発明は、自己免疫性脱髄の負の調節因子として、Cmrf様分子−1(CLM−1)を同定することに少なくとも一部は基づく。CLM−1は、末梢血中の炎症性単球、及びMOGペプチドによるマウスの免疫化後に中枢神経系の脱髄領域に存在する炎症性樹状細胞に発現される。中枢神経系の浸潤性炎症性樹状細胞におけるCLM−1の欠損は、軸索脱髄の増加と悪化する臨床スコアとともに、一酸化窒素の著しい増加と炎症性サイトカインの産生をもたらす一方、T−細胞応答は影響を受けない。従って、CLM−1はここでは骨髄系細胞の活性化と自己免疫性脱髄の負の調節因子として同定される。
【0055】
骨髄細胞は、自己免疫性脱髄性疾患の主要なエフェクター細胞である(Barnett等、Multiple sclerosis (Houndmills,Basingstoke,England)12,121−132,2006;Benveniste,Journal of Molecular Medicine(ベルリン、ドイツ)75,165−173,1997)。中枢神経系浸潤性骨髄集団は常駐ミクログリア、マクロファージ、炎症性樹状細胞、形質細胞様樹状細胞と通常の樹状細胞で構成される。MHCII及びCD86を発現する骨髄性樹状細胞(DC)は、抗原特異的T細胞を再び活性化する能力と(Deshpande等、J Immunol 178,6695−6699,2007)、病気の再発につながるエピトープ拡散への関与のため(Miller等、Annals of the New York Academy of Sciences 1103,179−191,2007)特別に注視される。抗原提示細胞として機能した次に、炎症性樹状細胞は、炎症性サイトカインや反応性酸素中間体の分泌により、局所細胞外環境を直接的に調節し、進行性脱髄及び軸索損失をもたらす。これらのTNF−α及び樹状細胞産生の前駆体細胞は、TipDCsとも命名され(Serbina等、Immunity 19,59−70,2003)、循環中に存在する炎症性単球であり、中枢神経系の炎症領域に補充される。MSに対して承認された薬剤である酢酸グラチラマーにより、II抗炎症単球を炎症性へ変換することで、EAEの重症度の逆転をもたらし(Weber等、Nature Medicine 13,935−943,2007)、疾患の重症度を調節におけるこれらの骨髄細胞の役割の重要性を更に強調している。
【0056】
中枢神経系の浸潤性骨髄細胞の他の負の調節因子は以前に同定されている。例えば、TREM−2は常駐ミクログリアと浸潤性骨髄細胞の両方で発現するTREM−2は、ミエリンの残骸の貪食による中枢神経系の炎症の消散に重要な役割を果たしている(Piccio等、European Journal of Immunology 37,1290−1301,2007)(Takahashi等、PLoS medicine 4, e124,2007)(Takahashi等、The Journal of Experimental Medicine 201,647−657,2005)。同様に、骨髄細胞のIFNARは中枢神経系で炎症反応を下方制御する(Prinz等、Immunity 28,675−686,2008)。しかし、どちらの受容体も中枢神経系にホーミングする炎症性骨髄由来単球に特異的ではない。
【0057】
CLM−1(MAIR−V、LMIR−3、DigR2)は、骨髄機能の負の調節のために重要な骨髄特異的な細胞表面受容体の検索において同定された。CLM−1は、CMRFファミリーの一部であり、11番染色体上にあるマウスのオーソログとともに、ヒトの第17番染色体上の多重遺伝子クラスターである。ファミリーのメンバー全ては細胞外IgVドメインを含む。このクラスターの2つのファミリーメンバー(CLM−1及びCLM−8)は細胞内ドメインにITIM配列を含み、残りはシグナル伝達アダプターの補充に働き得る荷電残基を膜貫通領域に有する。CLM−1(配列番号1)、ヒトCD300f(配列番号2;Clark等、Trends in Immunology 30,209−217,2009)のマウスオーソログは最初に破骨細胞形成の負の調節因子として説明された。続く研究は、CLM−1がFc受容体が媒介する細胞応答において抑制的な役割を果たすことを示した(Alvarez−Errico等、2004;Fujimoto等、2006)。自己免疫疾患における生物学的役割はこれまで説明されていない。ここで我々は、炎症性サイトカインや活性酸素種の放出を抑制することで、中枢神経系における炎症性樹状細胞の活性の負の調節因子としてCLM−1を特定する。本研究は、このように中枢神経系の炎症や脱髄の骨髄特異的な負の調節因子としてCLM−1を特定する。
【0058】
本発明は、CLM−1アンタゴニストとともに、脱髄性自己免疫疾患等の脱髄疾患の診断と治療のための方法に関係する。
【0059】
特定の実施態様では、CLM−1アゴニストは、CLM−1に対するアゴニスト抗体である。
【0060】
抗体
本発明の抗体は、抗CLM−1抗体又はCLM−1の抗原結合断片、又は本明細書に記載の他の抗体が含まれる。典型的な抗体は、例えば、ポリクローナル、モノクローナル、ヒト化、断片、多重特異的、ヘテロコンジュゲート、多価、エフェクター機能等の抗体を含む。本発明の所定の実施態様において抗体はアゴニスト抗体である。
【0061】
ポリクロナール抗体
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体を含み得る。ポリクローナル抗体を調製する方法は当業者に知られている。例えば、CLM−1に対するポリクローナル抗体は、関連する抗原とアジュバントを1つ又は複数の皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射することで動物に発生する。それは免疫される種において免疫原性であるタンパク質、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシチログロブリン、又は二官能性又は誘導体化剤、例えば、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介して結合)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基を介して)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、又はSOClを用いた大豆トリプシンインヒビター等に対して、関連抗原を結合するために役に立つかもしれない。
【0062】
動物は、CLM−1、免疫原性複合体、又は誘導体に対して、例えばそのタンパク質又は複合体の100μg又は5μgを(それぞれウサギ又はマウスにおいて)フロイントの完全アジュバントの三倍量と組合わせて複数部位で皮内に溶液を注入することにより、免疫される。一ヶ月後に動物は、複数の部位での皮下注射によって、フロイント完全アジュバント中のペプチド又は複合体の元の量の5分の1から10分の1で追加免疫される。7から14日後に動物は採血され、血清抗体価についてアッセイされる。動物は力価がプラトーになるまで追加免疫される。典型的には、動物は同一抗原の複合体で、しかし異なるタンパク質と、及び/又は異なる架橋剤を介して結合した同一抗原の複合体で追加免疫される。複合体はまたタンパク質融合体として組換え細胞培養で作成可能である。また、ミョウバン等の凝集剤が適切に免疫応答を増強するために使用される。
【0063】
モノクロナール抗体
モノクロナール抗体はKohler等、Nature,256:495(1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法を使用して作成可能であり、又は組換えDNA法により作成され得る(米国特許第4816567号)。
【0064】
ハイブリドーマ法では、ハムスターやマカク猿等のマウス又はその他の適切な宿主動物が、上記に記載された通り免疫され、免疫に用いた蛋白質に特異的に結合する抗体を産生することができるリンパ球を誘発する。あるいはリンパ球がインビトロで免疫される場合がある。リンパ球は、その後、ハイブリドーマ細胞を形成するために、ポリエチレングリコールなどの適切な融合剤を用いて骨髄腫細胞と融合される(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,頁59−103(Academic Press,1986))。
【0065】
このようにして調製したハイブリドーマ細胞を播種し、融合しない親の骨髄腫細胞の増殖又は生存を阻害する一以上の物質を典型的に含む適切な培養培地で増殖させる。例えば、親の骨髄腫細胞が酵素のヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠いている場合は、ハイブリドーマの培養培地は、典型的には、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジン(HAT培地)(その物質はHGPRT欠乏細胞の生育を阻害する)を含み得る。
【0066】
典型的な骨髄腫細胞は効率的に融合し、選ばれた抗体産生細胞による抗体の安定した高レベルの生産をサポートするものであり、HAT培地等の培地に感受性である。これらの中で、好ましい骨髄腫細胞株は、ソーク研究所の細胞分配センター(米国カリフォルニア州サンディエゴ)から入手できるMOPC−21及びMPC−11マウス腫瘍由来のもの等のマウス骨髄腫系統であり、又はアメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(米国メリーランド州ロックビル)から入手できるX63−Ag8−653細胞である。ヒト骨髄腫及びマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞株もまたヒトモノクローナル抗体産生のために記載されている(Kozbor,J.Immunol.,133:3001(1984);Brodeur等、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,頁51−63(マーセル・デッカー社、ニューヨーク州 1987))。
【0067】
ハイブリドーマ細胞が増殖する培地は、CLM−1に対するモノクローナル抗体の産生についてアッセイされる。ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降によって、又はラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)等のインビトロ結合アッセイで決定することができる。そのような技術とアッセイは当該技術分野で知られる。モノクロナール抗体の結合親和性は、例えば、Munson及びPollard Anal.Biochem.,107:220(1980)のスキャッチャード分析により決定される。
【0068】
望まれる特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定後に、クローンは限界希釈法によってサブクローニングし、標準的な方法で増殖させることができる(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,頁59−103(Academic Press,1986))。この目的に適した培地は、例えば、D−MEM又はRPMI−1640培地を含む。更に、ハイブリドーマ細胞は動物の腹水腫瘍としてインビボで増殖させることができる。
【0069】
サブクローンによって分泌されるモノクローナル抗体は、例えば、プロテインAセファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィー等の従来の免疫グロブリン精製手順により培地、腹水、又は血清から適切に分離される。
【0070】
モノクローナル抗体はまた、米国特許第4816567号に記載される組換えDNA法によって作ることができる。モノクローナル抗体をコードするDNAは容易に分離され、従来の手順を用いて配列決定される(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用することで)。ハイブリドーマ細胞は、そうしたDNAの供給源として機能する。ひとたび単離されるとDNAは発現ベクター中に配され、それらは次いで大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、あるいは免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫細胞等の宿主細胞に形質移入され、組換え宿主細胞におけるモノクローナル抗体の合成を達成する。抗体の組換え生産は、以下に詳細に説明する。
【0071】
その他の実施態様において、抗体又は抗体断片は、McCafferty等、Nature,348:552−554(1990)に記載の技術を使用して作られた抗体ファージライブラリーから単離することができる。Clackson等、Nature,352:624−628(1991)及びMarks等、J.Mol.Biol.,222:581−597(1991)はそれぞれマウスとヒトの抗体の単離をファージライブラリーを用いて説明している。続く出版物では、チェインシャッフリングによる高親和性(nM範囲)ヒト抗体の生産、並びにコンビナトリアル感染、及び非常に大きなファージライブラリーを構築するための戦略としてのインビボ組換えを記載している(Waterhouse等、Nuc.Acids.Res.,21:2265−2266(1993))。従って、これらの技術はモノクローナル抗体の単離のための伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ技術に対する実行可能な選択肢である。
【0072】
DNAはまた、例えば、相同なマウス配列に代えて、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインをコードする配列で置換することにより(米国特許第4816567号;Morrison等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851(1984))、又は非免疫グロブリンポリペプチドをコードする配列の全て若しくは一部を、免疫グロブリンをコードする配列に共有結合で結合することにより改変される場合がある。
【0073】
通常、そうした非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインと置換されるか、又は抗体の一抗原結合部位の可変ドメインと置換され、一つの抗原に対して特異性を有する一抗原結合部位、及び異なる抗原に対して特異性を有するその他の抗原結合部位を含むキメラ二価抗体を創り出す。
【0074】
ヒト化及びヒト抗体
本発明の抗体は、ヒト化抗体又はヒト抗体を含むことができる。ヒト化抗体は、非ヒトである供給源から導入された一以上のアミノ酸残基を有する。しばしばこれらの非ヒトアミノ酸残基は、典型的に「移入」可変ドメインから持ち込まれる「移入」残基と呼ばれる。ヒト化は本質的にはWinterとその共同研究者による方法(Jones等、Nature,321:522−525(1986);Riechmann等、Nature,332:323−327(1988);Verhoeyen等、Science,239:1534−1536(1988))に従い、齧歯類CDR又はCDR配列を、ヒト抗体の対応する配列と置換することによって行うことができる。従って、このような「ヒト化」抗体は、インタクトなヒト可変ドメインより実質的に小さいドメインが非ヒト種由来の対応する配列で置換されたキメラ抗体である(米国特許第4816567号)。実際にヒト化抗体は典型的にはいくつかのCDR残基と恐らくはいくつかのFR残基が齧歯類抗体の類似部位からの残基によって置換されているヒト抗体である。
【0075】
ヒト化抗体を作る際に使われるヒト可変ドメインの選択は、軽鎖及び重鎖ともに、抗原性を低減するために非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」方法によれば、齧歯類抗体の可変ドメインの配列は、既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリ全体に対してスクリーニングされる。齧歯類のそれに最も近いヒト配列は、その後ヒト抗体に対するヒトフレームワーク(FR)として受容される(Sims等、J.Immunol.,151:2296(1993);Chothia等、J.Mol.Biol.,196:901(1987))。もう一つの方法は、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループのすべてのヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワークを使用する。同じフレームワークをいくつかの異なるヒト化抗体に使用することができる(Carter等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4285(1992);Presta等、J.Immunol.,151:2623(1993))。
【0076】
抗体は抗原に対する高親和性及びと他の好ましい生物学的性質を保持してヒト化されることが重要である。この目標を達成するために、典型的な方法によれば、ヒト化抗体は親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物を分析する方法により調製される。三次元の免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者によく知られている。選択された候補の免疫グロブリン配列の推測される三次元立体配座構造を説明し表示するコンピュータプログラムが利用可能である。これらの表示を調べることで、候補の免疫グロブリン配列の機能における残基の推定される役割、すなわち候補の免疫グロブリンのその抗原への結合能に影響する残基の分析が可能となる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性が高まるといった、望ましい抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的に、CDR残基は、直接かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
【0077】
あるいは、内因性の免疫グロブリン産生が無い場合、免疫感作時に、ヒト抗体の全レパートリーを産生できるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作ることが今や可能である。例えば、キメラ及び生殖系列変異マウスにおける抗体の重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合体欠失は、内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすと説明されている。このような生殖系列変異マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子配列の転移は、抗原投与によりヒト抗体の産生をもたらし得る。例えば、Jakobovits等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551(1993);Jakobovits等、Nature,362:255−258(1993);Bruggermann等、Year in Immuno.,7:33(1993);及びDuchosal等、Nature 355:258(1992)を参照。ヒト抗体はファージディスプレイライブラリーから得ることもできる(Hoogenboom等、J.Mol.Biol.,227:381(1991);Marks等、J.Mol.Biol.,222:581−597(1991);Vaughan等、Nature Biotech 14:309(1996))。
【0078】
ヒト抗体はまた、ファージディスプレイライブラリーを含む当該技術分野で公知の様々な手法を用いて産生することができる(Hoogenboom及びWinter,J.Mol.Biol.,227:381(1991);Marks等、J.Mol.Biol.,222:581(1991))。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子は、M13又はfdのような糸状バクテリオファージのメジャー又はマイナーコートタンパク質遺伝子の何れかにインフレームでクローン化され、ファージ粒子の表面上に機能性抗体断片として提示される。繊維状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAのコピーを含むため、抗体の機能的特性に基づいた選択はまた、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択にもなる。従って、ファージはB細胞の特性のいくつかを模倣している。ファージディスプレイは、さまざまな形式で行うことができる(例えばJohnson,K S,及びChiswell,D J.,Cur Opin in Struct Biol 3:564−571(1993)にレビューされる。V−遺伝子セグメントのいくつかの起源がファージディスプレイに使用することができる。例えば、Clackson等、Nature、352:624−628(1991)は、免疫したマウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さなランダムな組合せのライブラリーから抗オキサゾロン抗体の多様な配列を単離した。Marks等、J.Mol.Biol.222:581−597(1991),又はGriffith等、EMBO J.12:725−734(1993)により説明される手法に本質的に従うことにより、例えば、予防接種を受けていない人間のドナーからV遺伝子のレパートリーを構築することができ、抗原の多様な配列(自己抗原を含む)に対する抗体を単離することができる。米国特許第5565332号及び5573905号も参照のこと。Cole等、及びBoerne等の技術はまたヒトモノクローナル抗体の調製にも利用可能である(Cole等、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss,p.77(1985)及びBoerer等、J.Immunol.,147(1):86−95(1991))。ヒト抗体はまた、インビトロ活性B細胞によって産生され得る(米国特許第5567610号及び5229275号を参照)。
【0079】
抗体断片
抗体断片もまた本発明に含まれる。様々な技術が抗体断片の産生のために開発されている。伝統的にはこれらの断片はインタクトな抗体のタンパク質分解消化に由来する(Morimoto等、Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107−117(1992)及びBrennan等、Science,229:81(1985)を参照)。しかしながら、これらの断片は、現在組換え宿主細胞により直接産生することができる。例えば、抗体断片は、上述の抗体ファージライブラリーから単離することができる。あるいは、Fab’−SH断片は大腸菌から直接回収することができ、F(ab’)断片を形成するために化学的に結合される(Carter等、Bio/Technology 10:163−167(1992))。別のアプローチによると、F(ab’)断片は、組換え宿主細胞培養から直接単離することができる。抗体断片の生産のための他の技術は当業者に明らかであろう。他の実施態様では、最適な抗体は単鎖Fv断片(scFv)である。国際公開第93/16185号;米国特許第5571894号;米国特許第5587458号を参照。FvとsFvは定常領域を欠いているインタクトな結合部位を持つ唯一の種であり、依ってそれらはインビボで使用中に減少する非特異的結合に適している。SFv融合タンパク質は、sFvのアミノ末端又はカルボキシ末端のいずれかでエフェクタータンパク質との融合を生じさせるために構築することができる。前掲のAntibody Engineering,Borrebaeck編集を参照。抗体断片は例えば、米国特許第5641870号に記載の「直鎖状抗体」であっても良い。うした直鎖状抗体断片は、単一特異性又は二重特異性である可能性がある。
【0080】
多重特異性(例えば、二重特異性)抗体
本発明の抗体はまた、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有する、例えば多重特異的抗体をも含む。このような分子は、通常二つの抗原(すなわち、二重特異性抗体、BsAbs)にのみ結合するであろうが、ここで使用される場合には三重抗体などの更なる特異性を有する抗体がこの表現により包含される。
【0081】
二重特異性抗体を作製する方法は当該技術分野において周知である。伝統的には、二重特異性抗体の組換え生産は、二つの重鎖が異なる特異性を持つ二つの免疫グロブリン重鎖/軽鎖対の同時発現に基づく(Milstein及びCuello,Nature,305:537−539(1983))。免疫グロブリンの重鎖と軽鎖を無作為に取り揃えるため、これらハイブリドーマ(クアドローマ)は10種の異なる抗体分子の潜在的混合物を生成し、その内の一種のみが正しい二重特異性構造を有する。通常アフィニティークロマトグラフィーの工程により行われる正しい分子の精製はかなり面倒であり、産物の収率は低い。同様の手順は国際公開第93/08829号及びTraunecker等、EMBO J.,10:3655−3659(1991)に開示されている。
【0082】
異なったアプローチ法では、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗原−抗体結合部位)を免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。該融合は好ましくは、少なくともヒンジの一部、CH2及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合である。軽鎖の結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を、融合の少なくとも一つに存在させることが望ましい。免疫グロブリン重鎖の融合、望まれるならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを、別個の発現ベクター中に挿入し、適当な宿主生物に同時トランスフェクトする。これにより、組立に使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が最適な収率をもたらす態様において、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又はその比率が特に重要性を持たないときは、2または3個全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
【0083】
このアプローチ法の好適な実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖と他方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖がないと容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、国際公開94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を産生することの詳細については例えばSuresh等、Methods in Enzymology,121:210(1986)を参照。
【0084】
国際公開第96/27011号に記載のその他のアプローチによれば、抗体分子のペア間の境界面は、組換え細胞培養から回収されるヘテロ二量体の割合を最大化するように設計可能である。好まれる境界面は、抗体の定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第一の抗体分子の界面からの1つ又は複数の小さいアミノ酸側鎖は、より大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることによって、大きな側鎖と同一又は類似の大きさである相補的「キャビティ」が第二の抗体分子の界面に作成される。これによりホモ二量体などの他の不要な最終産物に対するヘテロ二量体の収率を増加させるためのメカニズムが提供される。
【0085】
抗体断片から二重特異性抗体を生成するための技術も文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は化学結合を用いて調製することができる。Brennan等、Science,229:81(1985)は、インタクトな抗体が、F(ab ')2断片を生成するためにタンパク質分解性に切断される手順について説明している。これらの断片は、ジチオール錯化剤の亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元され、隣接ジチオールを安定化させ、分子間ジスルフィド形成を防止する。生成されたFab’断片は、その後チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換される。Fab'−TNB誘導体の一つは次いでメルカプトエチルアミンでの還元によりFab'−チオールに再変換され、他のFab'−TNB誘導体の等モル量と混合され、二重特異性抗体を形成する。生成した二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化剤として使用することができる。
【0086】
組換え細胞培養から直接二重特異性抗体断片を作成し単離するための様々な技術も記載されている。例えば、二重特異性抗体はロイシンジッパーを使用して産生される。Kostelny等、J.Immunol.,148(5):1547−1553(1992).Fos及びJunタンパク質由来のロイシンジッパーペプチドは遺伝子融合により2つの異なる抗体のFab’部分に結合していた。抗体のホモ二量体は単量体を形成するためにヒンジ領域で還元され、次いでヘテロ二量体を形成するために再酸化された。この方法はまた抗体ホモ二量体の産生に利用することができる。Hollinger等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444−6448(1993)に記載されたこの「二重特異性抗体」技術は二重特異的抗体断片を作成する別のメカニズムを提供している。断片は、同一鎖上の2つのドメイン間でペアリングできるようにするには短すぎるリンカーにより軽鎖可変ドメイン(V)へ連結された重鎖可変ドメイン(V)を含む。したがって、一つの断片のV及びVドメインは、別の断片の相補的なV及びVドメインとペアを作ることを強制され、それによって2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)二量体の使用により二重特異性抗体断片を作成するための別の戦略も報告されている。Gruber等、J.Immunol.,152:5368(1994)を参照。
【0087】
二価より大きい抗体が熟考されている。例えば、三重特異性抗体が調製可能である。Tutt等、J.Immunol.147:60(1991)を参照。
【0088】
ヘテロコンジュゲート抗体
二重特異性抗体は、本発明の抗体である架橋又は「ヘテロコンジュゲート」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲート抗体の一つがアビジンと、他方がビオチンに結合することができる。このような抗体は、例えば、不要な細胞に対して(米国特許第4676980号)、及びHIV感染の治療のために(国際公開第91/00360号、国際公開第92/200373号、及び欧州特許03089号)、免疫系細胞を標的とすることが提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体は、任意の好都合な架橋方法を用いて作製することができる。好適な架橋剤は当技術分野で知られており米国特許第4676980号に多数の架橋技術とともに開示されている。
【0089】
多価抗体
本発明の抗体は多価抗体を含む。多価抗体はその抗体が結合する抗原を発現する細胞によって、二価抗体よりも迅速に内部移行(及び/又は異化)されることがある。本発明の抗体は、3つ以上の抗原結合部位(例えば、四価抗体)を持つ多価抗体(IgMクラスの以外である)であって良く、抗体のポリペプチド鎖をコードしている核酸を組換え発現することにより容易に作ることができる。多価抗体は、二量体化ドメインと三つ以上の抗原結合部位を含むことができる。好ましい二量化ドメインはFc領域又はヒンジ領域を含む(又はそれからなる)。このシナリオでは、抗体は、Fc領域とFc領域のアミノ末端側に三つ以上の抗原結合部位を含む。ここでの好ましい多価抗体は、3から約8つの、しかし好ましくは4つの抗原結合部位を含む(又はそれからなる)。多価抗体は、ポリペプチド鎖が二つ以上の可変ドメインを含む、少なくとも一つのポリペプチド鎖(好ましくは2つのポリペプチド鎖)を含む。例えば、ポリペプチド鎖はVD1−(X1)n−VD2−(X2)n−Fcを含む可能性があり、ここでVD1は第一の可変ドメインであり、VD2は第二の可変ドメインであり、FcはFc領域の一つのポリペプチド鎖であり、X1とX2はアミノ酸又はポリペプチドを表し、nは0又は1である。例えば、ポリペプチド鎖はVH−CH1−柔軟なリンカー−VH−CH1−Fc領域鎖;又はVH−CH1−VH−CH1−Fc領域鎖を含んでいてもよい。ここでの多価抗体は好ましくは更に少なくとも2つの(好ましくは4つの)軽鎖可変ドメインポリペプチドを含む。ここでの多価抗体は、例えば約2つから約8つの軽鎖可変ドメインポリペプチドを含み得る。ここで検討される軽鎖可変ドメインポリペプチドは軽鎖可変ドメインを含み、必要に応じて、更にCLドメインを含む。
【0090】
エフェクター機能工学
例えば、疾患の治療における抗体の有効性を向上させるように、エフェクター機能に関して本発明の抗体を改変することが望まれる場合がある。例えば、システイン残基がFc領域に導入されることがあり、それによってこの領域にジスルフィド結合の形成を可能にする。こうして産生されたホモ二量体抗体は内部移行能力を改善している可能性がある。Caron等、J.Exp Med.176:1191−1195(1992)及びShopes,B.J.Immunol.148:2918−2922(1992)を参照。抗体の血清半減期を増やすために、例えば米国特許第5739277号に記載された抗体(特に抗体断片)にサルベージ受容体結合エピトープを組み込むことができる。ここで使用される「サルベージ受容体結合エピトープ」なる用語は、IgG分子のインビボ血清半減期が増大する原因となるIgG分子のFc領域のエピトープ(例えば、IgG.sub.1、IgG.sub.2、IgG.sub.3、又はIgG.sub.4)を指す。
【0091】
他の抗体改変
抗体の他の改変をここで検討する。例えば、抗体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体等の、様々な非タンパク質ポリマーの1つに結合し得る。抗体はまた、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)において、又はマクロエマルジョンにおいて、例えばコアセルベーション技術又は界面重合により(例えば、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン−マイクロカプセル、及びポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルのそれぞれにより)、調製したマイクロカプセルに捕捉されることがある。そうした技術はRemington’s Pharmaceutical Sciences、第16版、Oslo,A.編集(1980)に開示されている。
【0092】
リポソームとナノ粒子
本発明のCLM−1抗体はまた免疫リポソームとして製剤化される場合がある。ポリペプチドを含むリポソームは当業者に知られた方法、例えば、Epstein等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:3688(1985);Hwang等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4030(1980);及び米国特許第4485045号及び第4544545号に記載された方法で調製される。循環時間が延びたリポソームは米国特許第5013556号に開示されている。一般的にリポソームの処方と使用は当業者に知られている。
【0093】
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を含有する脂質組成物により逆相蒸発法によって作ることができる。リポソームは、所望の直径を有するリポソームを生みだすために規定の細孔径フィルターを通して押し出される。本発明のポリペプチド(例えば、抗体のFab '断片)は、Martin等、J.Biol.Chem.257:286−288(1982)に記載された通り、ジスルフィド交換反応を経由してリポソームに結合させることができる。ナノ粒子又はナノカプセルは、本発明のポリペプチドを捕捉するために使用することができる。一実施態様において、生分解性ポリアクリル−シアノアクリレートナノ粒子は、本発明のポリペプチドと共に使用することができる。
【0094】
本発明の更なる詳細は以下の限定しない実施例により示される。本明細書のすべての引用文献の開示は、参照により本明細書に明確に援用される。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0095】
材料と方法
動物。
すべての動物は、無菌の病原体フリーの条件下におかれ、動物実験はジェネンテック社の動物実験委員会により承認された。CLM−1ノックアウト(KO)マウスを作成するために、ネオマイシン耐性遺伝子(Neo)を含む直鎖状ターゲティングベクターをC57BL/6由来のC2胚性幹(ES)細胞に電気穿孔した。ネオマイシン耐性ESクローンが相同組換え(補足図)のサザンブロット分析のために選択された。CLM−1エクソン1をNeo遺伝子で首尾良く置換したESクローンをC57BL/6未分化胚芽細胞に注入し、その後キメラ子孫を生成するために偽妊娠雌に移した。キメラは、ヘテロ接合体を生成するためにC57BL/6マウスと交配させた。CLM−1野生型(WT)とノックアウトマウスを作製するために、ターゲットを絞った対立遺伝子の生殖細胞系列伝達を持つヘテロ接合体は、交配前の少なくとも10世代のためにC57BL/6に戻し交配された。C57BL/6(CD45.1又はCD45.2コンジェニックバックグランド上)マウスは、ジャクソン研究所から購入した。ジェネンテック社の病原体フリーの動物施設でCx3cr1gfp/+C57BL/6レポーターマウスを繁殖させ維持した。6週齢のC57BL/6(CD45.1)が骨髄レシピエントとして用いられたCD45.1/CD45.2骨髄キメラ実験を除いて、全てのマウスは8−12週齢にて用いられた。すべての実験プロトコルは、ジェネンテック社の動物実験委員会により承認された。
【0096】
抗体及び組換えタンパク質。
以下の抗体をBD Biosciences社から購入した:抗−FcγRIII/II(CD32/16,クローン2.4G2);PE−,APC−,APC−Cy7−標識抗−CD11b(M1/70);ビオチン−,PE−,APC標識抗−CD11c(HL3);PE−,APC−標識抗−CD4(GK1.5);APC−標識抗−CD3(145−2C11);PE−Cy7−標識抗−B220(RA3−6B2);PE−標識抗−I−A/I−E(M5/114.15.2);ビオチン−,PE−標識抗−CD86(GL1);APC−Cy7−標識抗−Gr−1(RB6−8C5);PE−標識抗−CD45.1(A20);ビオチン−,FITC−標識抗−CD45.2(104);Alexa Fluor488−標識抗−FoxP3(MF23);PE−標識抗−IL−17(TC11−18H10);FITC−標識抗−IFND(XMG1.2);FITC−,PE−標識抗−TNFα(MP6−XT22);ビオチン−,PE−,PerCP−Cy5.5−標識抗−CD45(30−F11);ポリクロナールウサギ抗−iNOS タイプII抗体。以下の抗体はeBioscience社から購入した:パシフィックブルー−標識抗−CD11b(M1/70);PE−Cy7−標識抗−CD11c(N418);PE−Cy5−標識抗−I−A/I−E(M5/114.15.2);APC−Alexa Fluor 750−標識抗−F4/80(BM8)。ストレプトアビジンパシフィックオレンジはインビトロジェンから購入した。PE−標識ロバ抗ウサギIgG及びCy3−標識抗−ハムスターIgGはジャクソンイムノリサーチから購入した。モノクロナール抗体(AC−40)はシグマアルドリッチから購入した。マウスCLM−1−Fc融合タンパク質をを生成するために、マウスCLM−1の細胞外ドメイン(ECD)はマウスIgG1のFc断片をコードする改変pRK5発現ベクターにクローニングした。発現ベクターをCHO細胞に形質移入し、細胞培養上清に含まれているCLM−1−Fc融合タンパク質は、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィー及びその後のSuperdex200ゲルろ過で精製した。精製タンパク質の同一性は質量分析によって検証し、エンドトキシンレベルは<0.05EU/mgであった。マウス抗gp120抗体(IgG1)をコントロールとして用いた。マウスClm−1のECDに対するモノクローナル抗体はアルメニアのハムスターをマウスCLM−1−ECD−His融合タンパク質で免疫することにより生成された。免疫動物由来の脾臓B細胞は、ハイブリドーマを生成するために骨髄腫に融合させた。陽性クローンをELISA、FACS、ウェスタンブロッティング及び免疫組織化学分析によりマウスCLM−1に対する反応性に基づいて選択した。クローン3F6が上記の基準に基づいて研究で使用するために選ばれた。Alexa蛍光色素(488又は647)結合Clm−1抗体のAlexa Fluor(登録商標)タンパク質ラベリングキット(インビトロジェン)を用いて生成された。
【0097】
EAEのアクティブな誘導及び臨床評価。
マウスは、PBSを100μlと完全フロイントアジュバント(CFA)を100μlを含むエマルジョン200μl中のMOG35−55ペプチド200μgにより皮下免疫した。CFAは、ヒト型結核菌H37RA(生育不能で乾燥した;DIFCO研究所)を8ml/mlとフロイントの不完全アジュバント(DIFCO研究所)を混合することによって調製される。各マウスに0日目と免疫感作後2日目にPBS100μl中の200ngの百日咳毒素(Calbiochem)を腹腔内に注射した。臨床徴候は、次の評点方式を用いて評価した:0,異常なし;1、ぐったりした尾又は後肢の脱力;2、ぐったりした尾及び後肢の脱力;3、部分的な後肢の麻痺;4、完全な後肢麻痺;5、瀕死の状態。免疫感作後0日目に開始するClm−1−Fc融合タンパク質実験において、マウスは100μlのPBS中のClm−1−Fc融合タンパク質を200μg、又はコントロールのFcタンパク質(抗gp120)を週3回皮下処置された。データは毎日の臨床スコアの平均と平均の標準誤差(SEM)として報告される。
【0098】
骨髄キメラ。
6週齢のC57BL/6(CD45.1)レシピエントマウスは1回につき500ラドを2回、致死量照射された。大腿骨と脛骨由来の骨髄細胞を、シリンジと27ゲージの針で5%FBSを含むハンクス平衡塩溶液(HBSS;ハイクローン)で骨をフラッシングすることにより、C57BL/6(CD45.2)ドナーマウスから無菌的に採取した。赤血球はACK溶解バッファーで溶菌した。細胞を5分間400gでHBSS/FBSで洗浄し、再懸濁し、ナイロンメッシュ(BD Falcon)に通過させてゴミを除去した。次に、細胞をPBSで2回洗浄し、10細胞/mlの濃度で再懸濁した。照射されたレシピエントマウスは、尾静脈を経由して2×10細胞/200μlが注入された。再構成されたマウスは、ドナーの骨髄を完全に生着させるために8週間病原体フリーの施設で維持された。骨髄の完全な再構成は、リンパ系及び骨髄系コンパートメントのCD45.1とCD45.2コンジェニックマーカーについて末梢血のFACS解析により確認した。EAEが上述のように再構成されたレシピエントマウスに誘導された。
【0099】
EAEの養子移入
Clm−1野生型又はノックアウトマウスは、マウスに百日咳毒素が注入されない場合を除き、アクティブなEAEの誘導について説明された通りにMOG35−55ペプチドで免疫した。免疫後10日から12日目に、流入領域リンパ節(鼠径部及び上腕)を採取し、単一細胞懸濁液を70μmのセルストレーナーを介してすりつぶすことによって得た。完全培地中(RPMI 1640、10%FBS、2mMグルタミン、10mMのHEPES、1mMピルビン酸ナトリウム、0.05mMのβ−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシン)5×10細胞/mlにて、細胞を20μg/mlのMOG35−55ペプチドと20ng/mlの組換えマウスIL−2(R&D Systems)により4日間再刺激した。レシピエントマウスは、尾静脈を経由して10個の細胞を注射した。同日と二日後に、レシピエントマウスは上記のように200ngの百日咳毒素を注射される。EAE疾患の臨床評価を上記の通り実施した。
【0100】
脊髄とリンパ節のFACS分析。
EAE疾患(免疫後14日目から15日目)のピーク時に、マウスを麻酔し、10U/mlのヘパリンを含有するPBSで経心的に灌流した。脊髄を解剖し、コラゲナーゼD(2mg/ml;ロシュ ダイアグノスティックス)で消化した。単核細胞を70μmのセルストレーナー(BD Biosciences社)を介して組織を通し、続いてパーコール勾配(80%/70%/60%/30%)遠心分離により単離した。細胞を30%/60%のインターフェイスから収集し洗浄した。細胞はまた、上記のように流入領域リンパ節(DLN)から分離された。細胞は、FACS染色緩衝液中(PBS、0.5%ウシ血清アルブミン、2mMのEDTA)で30分間4℃で抗−FcγRIII/IIによりFcブロックされた。洗浄後、細胞を30分間4℃で蛍光コンジュゲートモノクローナル抗体で染色した。iNOSの細胞内染色のために、細胞をClm−1(3F6)、CD45、CD11b及びCD11cに対する抗体で染色し、その後PBS溶液中の3%パラホルムアルデヒドで20分間室温で固定した。細胞を次いで、100μl透過液(PBS中の0.1%トリトン−X)に再懸濁した。細胞を、室温で15分間、透過液中で1μg/mlのウサギ抗iNOS抗体で染色し、続いて室温で15分間、PE標識ロバ抗ウサギIgGで染色した。Treg細胞を分析するために、上記のように脊髄とDLN(流入領域リンパ節)から単離された単一細胞懸濁液をCD45及びCD4で染色し、続いて製造元の指示に従ってCytofix/Cytopermの固定/透過処理キット(BD Biosciences)を用いてFoxp3の細胞内染色を行った。サイトカインの細胞内染色のために、細胞を96ウェル丸底プレート中の4x10細胞/200μl完全培地で100μg/mlのMOG35−55ペプチドにより37℃で18時間から20時間にわたって刺激した。刺激の最後の4時間の間、細胞を1:1000の希釈でGolgiPlug(BD Biosciences社)で処理した。IL−17及びIFNDの細胞内染色は本質的にFoxP3の染色として実施した。染色した細胞をFACSCaliber又はLSRIIフローサイトメーター(Becton Dickinson)を用いて分析した。データはFlowJoソフトウェア(Tree Star)を用いて分析した。
【0101】
ウェスタンブロット法によるClm−1の発現
骨髄由来樹状細胞(BMDCs)が説明の通りに生成された(Inaba等、The Journal of Experimental Medicine 176,1693−1702,1992)。BMDCsは10ng/mlのGM−CSF(R&D Systems)の存在下で3日ごとの培地リフレッシュメントにより培養した。7日目に細胞をFACSで解析した。BMDCsの純度は90−95% CD11c、CD11bであった。BMDCsからの全細胞溶解物は、標準的な方法を用いて抗Clm−1抗体(3F6)でイムノブロットにより分析した。
【0102】
Clm−1発現のリアルタイムPCR解析
脊髄とDLN(流入領域リンパ節)は、上述のようにEAEの0日目、7日目、14日目、及び21日目にマウスから単離された。全RNAをRNeasyプロテクト ミニ キット(QIAGEN社)を用いて単離した。cDNAは、大容量cDNA逆転写キット(Applied Biosystems)を用いて1μgのRNAにより合成した。Clm−1のmRNAと18s rRNAは、TaqManユニバーサルPCRマスターミックス、及び検証されたプライマーとプローブのセット、それぞれMm00467508_m1とHs03003631_g1(Applied Biosystems)を用いて測定した。
【0103】
サイトカインと一酸化窒素の生成の測定
単核細胞は、上述のようにEAEの15日目に脊髄から単離した。単一細胞懸濁液を96ウェル丸底プレート中で、100μg/mlのMOG35−55ペプチド有り又は無しで、完全培地(5x10細胞/200μL)で37℃で培養した。培養上清を36時間後に回収した。サイトカイン放出をバイオプレックスマウスサイトカイン23−プレックスパネル(Bio−Rad)を用いてルミネックスにより測定した。一酸化窒素の生成は、製造元の指示に従ってグリースアッセイ(Promega)を用いて測定した。
【0104】
インビトロ抗原特異的なリコールレスポンス
流入領域リンパ節は上述のようにEAEの14日目にマウスから採取した。単一細胞懸濁液を96ウェル丸底プレート中で、滴定量のMOG35−55ペプチドの有り又は無しで、完全培地(5x10細胞/200μL)で37℃で3日間再刺激した。その後、細胞を培養の最後の6時間に対して0.5μCi/ウェルの[H]チミジンでパルスした。増殖は、トップカウントマイクロプレートシンチレーションカウンター(Packard Instruments)を用いて検出される[H]チミジンの取り込みによって判断された。また、上清をサイトカイン分析のために3日目に収集した。サイトカイン測定はELISA(BD Biosciences社)により行った。
【0105】
免疫組織化学
免疫感作後の指定された日にマウスを麻酔し、上記の通り30mlのPBSで灌流し、10mlの4%パラホルムアルデヒド(PFA)で灌流した。脊髄は、解剖により除去し、4パーセントPFA中で一晩固定し、続いて10%、20%、40%のショ糖溶液中に浸した。脊髄は、その後、ドライアイス上のOCTの中で凍結し、脱水を防ぐためプラスチック袋に入れて−80℃で保存された。セブン−マイクロメートル厚の断面を切断し、スーパーフロストプラススライド(フィッシャーサイエンティフィック)にマウントした。Clm−1及びCD45.2との共染色のために、スライドをハムスター血清及びビオチンブロッキングキット(Sigma社)を使用してブロックした。組織は、ハムスター抗Clm−1(3F6)及びビオチン結合抗CD45.2で染色し、Cy3−抗ハムスターIgG抗体及びAlexa Fluor488−ストレプトアビジン(インビトロジェン)を用いて検出した。Clm−1及びCD11cの共染色ために、スライドは、最初に抗Clm−1で染色し、Cy3−抗ハムスターIgGで検出した。スライドはその後ビオチン抗CD11c(HL3)で染色され、Alexa Fluor488−ストレプトアビジンで検出した。ミエリン及びCD11cの共染色のために、スライドは最初にビオチン−抗CD11cで染色し、Alexa Fluor594−ストレプトアビジン(インビトロジェン)を用いて検出された。ミエリンは、その後FluoroMyelinTM緑色蛍光ミエリン染色キット(インビトロジェン)を用いて染色した。切片は、DAPI(インビトロジェン)を用いてProlong Gold退色防止培地により封入された。スライドを検討し、画像をオリンパスBX61蛍光顕微鏡を用いて得た。脱髄の程度を決定するために、脊髄の頸部及び胸部の切片をFluoroMyelinTM緑色蛍光ミエリン染色キットで染色した。脱髄の領域は各切片の総断面積と脱髄領域を手作業でトレースすることにより評価した。総脱髄は全脊髄領域の割合として表した。
【0106】
統計分析。
マウスの任意の2つのグループ間のEAE臨床スコア、脱髄又は他の細胞数、及びサイトカイン産生の比較は、不等分散を仮定して両側検定ペアのスチューデントt検定により行った。p値<0.05を有意とみなした。
【0107】
結果と議論
Clm−1は中枢神経系の炎症部位でTNFとiNODを生産するCD11c+細胞に発現される。
Clm1は、単一膜貫通である免疫−チロシン阻害モチーフ(ITIM)を含むIgスーパーファミリーメンバーをコードすると予測される配列を検索するバイオインフォマティクスアプローチによって最初に同定された(Abbas等、Genes and Immunity 6,319−331,2005)。候補のITIM含有遺伝子のマウスホモログは次いで、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)のペプチドによる免疫感作後に、脊髄における発現レベルの変化に基づいて選択された。Clm−1の発現は、ナイーブマウスに比べて疾患ピークで100倍以上に増加した(図1A,左パネル)。CLM−1細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体が、CLM−1の細胞源を決定するために生成された。CLM−1は、ナイーブマウスの局所的ミクログリア集団では存在しなかった(図1B)。MOG免疫マウス由来の脊髄では、CLM−1は高いMHCクラスII及びCD86の発現とともに、CD11b/CD11c二重陽性細胞上に発現していた(図1C)。発症時に、CLM−1のCD11c二重陽性細胞は髄膜と血管に沿って分布していた(結果は非表示)。病気のピーク時には、Clm−1+細胞は、胸部と腰部の脊髄の背側と腹側角の白質のクラスターに位置していた(図1D)。更なる分析では、Clm−1+細胞はiNOSとTNF(図1E)を発現し、従って、効率的な病原体除去に必要な骨髄細胞のサブセットとして最初に記述されたTip−DCに表現型的に似ていることを示した(Serbina等、Immunity 19,59−70,2003)。EAEのその後の研究では、EAEにおける疾患の病因に寄与する病原性エフェクター細胞として、TipDCs及びそれらの前駆体を同定した(King等、Blood 113,3190−3197,2009)。従って、中枢神経系の炎症骨髄細胞のCLM−1の発現増加は、EAE疾患の病因における調節機能を示すことがある。
【0108】
CLM−1は自己免疫性脱髄性疾患の間、中枢神経系へ移行する循環Ly6+骨髄性前駆体上に発現される。
更に、CLM−1陽性細胞が由来する骨髄細胞系列を決定するために、我々は単球とマクロファージ/樹状細胞系統の細胞に緑色蛍光タンパク質を発現するCx3cr1+/gfpレポーター株を利用した(Geissmann等、Immunity 19,71−82,2003)。末梢血では、MOG免疫化後、CLM−1はCx3cr1lo Ly6ChiCD115CD62LLy6G炎症性単球に発現していたが、しかし、ナイーブ及び免疫マウスにおけるCx3cr1hiCD11cの共通樹状細胞前駆体上に存在しなかった(図2A)(Auffray等、The Journal of Experimental Medicine 206,595−606,2009; Liu等、Science,324,392−397,2009)。更に、炎症を起こした中枢神経系のCLM−1陽性細胞が照射耐性中枢神経系ミクログリア由来ではなく、照射に敏感な骨髄由来細胞に確かに由来するかを決めるために、CD45.1アロタイプをもつマウスが照射され、CD45.2アロタイプを持つドナー細胞で再構成された。CLM−1の発現は、照射耐性ミクログリアに存在しないが、中枢神経系にホーミングする骨髄由来ドナー細胞上に存在していた(図2B)。これらの結果を確認し、CLM−1はナイーブ脊髄のCxcr3hi常駐ミクログリア細胞には欠損していたが、病気のピーク時に、Cx3crlCD11c細胞の亜集団に高度に発現していた(図2C)。CLM−1Cx3cr1lo二重陽性細胞は、胸部と腰部の脊髄並びに正中隆起の背側と腹側角の髄膜に隣接して見いだされたが、脊髄の背側と腹側角の灰白質に位置する常駐ミクログリア細胞には存在しなかった(図2D)。まとめると、これらの結果は、CLM−1は中枢神経系炎症性病変の炎症性単球及び骨髄由来の炎症性樹状細胞に発現するが、循環する共通樹状細胞前駆体又は中枢神経系の常駐ミクログリアには発現しないことを示している。
【0109】
CLM−1の欠如はMOG誘導EAEにおいて疾患の重症度の増加をもたらす。
CLM−1はその細胞質ドメインに2つのITIM及び一つのITSMモチーフを含み、強制的過剰発現系において活性化受容体と架橋した後にSHP−1を補充することができるため、我々はCLM−1がMOG誘導EAEにおける炎症反応の阻害に働くことが可能かについて決定した。マウスは、相同組換えによりCLM−1のエキソン1を欠いて生成され、その結果、転写産物及びタンパク質の欠如をもたらした(補足図1)。CLM−1ノックアウトマウスは生存可能であり、予想されるメンデル比で生まれた。マウスは、生後6、9及び12週で測定した重量や骨のパラメータにおいて差は認められなかった(結果は非表示)。鼠径部リンパ節、脾臓、血液中の骨髄及びリンパ球サブセットは、CLM−1ノックアウトと野生型マウスで同等であった(結果は非表示)。ノックアウトマウスにおけるCLM−1遺伝子のアブレーションの成功は、フローサイトメトリー及びウェスタンブロット解析によって確認された(図3A、左のパネル)。抗原提示及び共刺激に伴う細胞表面分子の発現レベルは、CMRFクラスター内の他のメンバーの発現レベルと同様に(結果は非表示)、CLM−1野生型及びノックアウトマウス由来の骨髄由来樹状細胞上(BMDC)において類似していた(図3A、右パネル)。樹状細胞の形態(図3B、左パネル)と、疾患ピーク時の(図3B、右パネル)種々の炎症性細胞集団の数は、CLM−1野生型及びノックアウトマウスで同様であった。MOG免疫化により、CLM−1野生型及びノックアウトマウスの両方が同様の発生率で疾患を発症した。しかし、疾患の重症度は大幅にCLM−1を欠損したマウスで増加した(図3C)。この表現型は推定リガンドによるCLM−1の関与によるものであったかどうかを判断するために、マウスはCLM−1の可溶性バージョン(CLM−1−Fc融合タンパク質)で処理した。CLM−1ノックアウトマウスで得られた結果と一致し、コントロールの融合タンパク質を投与したマウスに比べて、疾患の重症度が大幅にCLM−1−Fcを投与したマウスで増加した一方、病気の発生率は同様のままであった(図3D)。従って、CLM−1受容体機能の欠如は、中枢神経系の炎症における潜在的な阻害的役割を指す疾患の重症度の増加につながる。
【0110】
Clm−1はT細胞プライミングを制御しない。
CLM−1のスプライスされたバリアント、Digr1は、以前にT細胞応答の負の調節因子として同定された(Shi等、Blood 108,2678−2686,2006)。EAEは、抗原特異的T細胞プライミングにより誘導可能なため、我々は更にCLM−1がT細胞応答に影響を与えるかを決定した。CLM−1野生型及びノックアウトマウス由来の脾臓樹状細胞又はBMDCを、同種T細胞と、又はOVAペプチドに対して特異的なTCRを発現するT細胞とインキュベートした。増殖(補足図2)及びサイトカイン応答(結果は非表示)は、CLM−1の状態に依存しなかった。更に、CLM−1がT細胞プライミングにインビボで影響を与えるかを決定するために、MOGの免疫後7日に末梢リンパ節から単離されたT細胞が単離され、MOGペプチドで再刺激された。CLM−1の状態は、末梢リンパ節(PLN)細胞におけるT細胞増殖、サイトカイン応答又はFoxp3制御T細胞の産生に影響を及ぼさなかった(図4A及び補足図3a)。最後に、生体内でT細胞のエフェクター機能を調節するCLM−1の役割を強化するために、CLM−1野生型及びノックアウトドナー由来T細胞はそれぞれノックアウト型及び野生型レシピエントに養子導入された。疾患の重症度は、T細胞ドナーにおけるCLM−1ステータスにより影響は受けなかったが、CLM−1が欠けているT細胞のレシピエントで大幅に増加した(図4B)。これはCLM−1がMOG免疫後、最初のT細胞のプライミング段階ではなく、エフェクター段階で疾患の重症度を調節するために働くことを示している。
【0111】
次に、CLM−1が浸潤中枢神経系の浸潤性CD4+T細胞の再活性化及び炎症性樹状細胞の細胞傷害活性に影響を与えたかどうかを決定した。病気のピーク時に脊髄から採取し、抗原提示細胞の存在下でMOGペプチドで再刺激された中枢神経系の白血球は、Th1、Th17及びFoxp3 Treg細胞に対して似た偏光を示し、かつ同様のT細胞特異的なサイトカイン応答を示した(図5A及び補足図3b)。対照的に、CLM−1ノックアウトマウスの脊髄から得られた白血球は、野生型マウスに比べて、一酸化窒素と骨髄固有の炎症性サイトカインの有意な上昇を生み出した(図5B)。従って、CLM−1はT細胞応答に影響を与えずに、MOG誘導EAEにおける骨髄エフェクター機能を負に調節する。
【0112】
次に我々は、MOGペプチドで免疫したCLM−1ノックアウトマウスの麻痺の増加が脊髄の骨髄細胞の活性の増強に起因するかを決定した。CLM−1陽性細胞は子宮頸部及び胸部脊髄の後角の脱髄部位でクラスター化されていることが見いだされた。細胞はミエリンシートに並列し、しばしば巻き付いているのが見つかり(図6A)、いくつかのケースではMOG陽性ミエリンの残遺物は、CLM−1陽性細胞の内部に存在する(結果非表示)。CLM−1は抑制性受容体であり、CLM−1野生型及びノックアウトマウスにおいて浸潤性骨髄細胞の度合いは同様であるため、我々はCLM−1の欠損が細胞あたりの活性化の増大とエフェクター活性をもたらし、その結果脱髄の増大をもたらすと推論した。CLM−1の欠如が脱髄の増大をもたらし(図6B及びC)、CLM−1を欠くCD11c+細胞の細胞傷害活性の増大を示している。従って、CLM−1は骨髄細胞の活性化を負に調節し、脊髄中の軸索の脱髄に歯止めをかけている。
【0113】
細胞内ドメインにITIM−配列を含む受容体の数は着実に増加している一方、これらの多くの受容体の生物学的役割はまだよく理解されてない。この研究は、中枢神経系の浸潤性炎症樹状細胞上の抑制性受容体として最初にCLM−1を特定する。我々は更に、受容体の可溶性バージョンは、疾患の重症度を悪化させ得ることを示し、細胞外ドメインがまだ確認されてないリガンドに対するおとり受容体として機能することを示唆している。
推定リガンドの同定は疑い無くCLM−1生物学に対する我々の理解を増やす一方、本研究は、CLM−1は中枢神経系における骨髄細胞の活性化と脱髄の制御のおいて非重複な役割を果たしていることを明らかに示している。
【図1A−1B−1C】

【図1D−1E】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図3A】

【図3B】

【図3C−3D】

【図4A−4B】

【図5A−5B】

【図6A−6B】

【図6C−6D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物被験体における脱髄疾患の治療方法において、前記被験体にCLM−1アゴニストの有効量を投与することを含む方法。
【請求項2】
哺乳動物被験体がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脱髄疾患が脱髄性自己免疫疾患である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
脱髄性自己免疫疾患が中枢神経系(CNS)に影響を与える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
脱髄性自己免疫疾患が、多発性硬化症(MS)、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)、原発性及び二次性進行型の多発性硬化症、再発進行性型多発性硬化症、脳脊髄炎、白質脳炎、横断性脊髄炎、視神経脊髄炎(Devic病)、及び視神経炎からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
脱髄性自己免疫疾患が多発性硬化症である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
脱髄性自己免疫疾患が末梢神経系に影響を与える、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
脱髄性自己免疫疾患が、限定しないが、急性炎症性脱髄性多発神経炎(AIDP;ギランバレー症候群);慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー;抗MAG末梢神経障害;及び運動感覚性ニューロパチー(HMSN)、(遺伝性知覚運動性ニューロパチー(HSMN)、又は腓骨筋萎縮、又はシャルコー・マリー・トゥース病としても知られる)からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
CLM−1アゴニストがアゴニスト抗CLM−1抗体である、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
薬学的に許容される賦形剤と混合されたCLM−1アゴニストの有効量を含有する、脱髄疾患の治療のための薬学的組成物。
【請求項11】
脱髄疾患が脱髄性自己免疫疾患である、請求項11に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
脱髄性自己免疫疾患が多発性硬化症(MS)である、請求項11に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
脱髄疾患の治療のための医薬の調製におけるCLM−1アゴニストの有効量の使用。
【請求項14】
脱髄疾患が脱髄性自己免疫疾患である、請求項13の使用。
【請求項15】
請求項14の脱髄性自己免疫疾患が多発性硬化症(MS)である、請求項11に記載の使用。
【請求項16】
CLM−1アゴニストがアゴニスト抗CLM−1抗体である、請求項13から15の何れか一項の使用。
【請求項17】
脱髄疾患の治療のためのCLM−1アゴニスト。
【請求項18】
脱髄疾患が脱髄性自己免疫疾患である請求項17に記載のCLM−1アゴニスト。
【請求項19】
脱髄性自己免疫疾患が多発性硬化症(MS)である、請求項18に記載のCLM−1アゴニスト。
【請求項20】
CLM−1アゴニストがアゴニスト抗CLM−1抗体である、請求項17から19の何れかに記載のCLM−1アゴニスト。
【請求項21】
CLM−1の機能の欠陥を検出することを含む、脱髄疾患の診断のための方法。
【請求項22】
脱髄疾患が脱髄性自己免疫疾患である、請求項21の方法。
【請求項23】
脱髄性自己免疫疾患が多発性硬化症(MS)である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
CLM−1アゴニスト、及び脱髄疾患の治療のための使用説明書を含むキット。
【請求項25】
脱髄疾患が脱髄性自己免疫疾患である、請求項24のキット。
【請求項26】
脱髄性自己免疫疾患が多発性硬化症(MS)である、請求項25のキット。

【図7】
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【図8】
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【図9−10】
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【図11A】
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【図11B】
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【公表番号】特表2012−532873(P2012−532873A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519635(P2012−519635)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/040992
【国際公開番号】WO2011/005715
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】