説明

自己免疫性T細胞の単離および処理のためのペプトイドリガンド

本発明は、多発性硬化症およびEAEのような自己免疫疾患を有する個体からの自己反応性T細胞集団の同定を提供する。自己反応性T細胞により認識されるペプトイドは、様々な型の自己免疫疾患を同定するために使用され得、そのような集団を治療の標的とするためにも使用され得る。
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【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、各々、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、2009年5月29日出願の米国仮特許出願第61/182,368号、および2009年11月12日出願の第61/260,608号に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、National Heart,Lung and Blood Instituteからの助成金番号NO1-HV28185およびNational Institutes of Healthからの助成金番号DP10D00066301の下で政府の援助を受けてなされた。政府は、本発明における一定の権利を有する。
【0003】
発明の背景
1. 発明の領域
本発明は、分子生物学、免疫学、および医薬の領域に一般に関する。より具体的には、自己免疫性T細胞により認識されるペプトイドの同定に関する。これらのペプトイドは、自己免疫疾患に罹患しているかまたはそのリスクを有する対象を同定するために使用され得、これらの細胞を除去、阻害、または破壊の標的とするためにも使用され得る。
【背景技術】
【0004】
2. 関連分野の説明
多くの自己免疫疾患の分子的な基礎は、未知のままである。一つにはこの分子レベルの理解の欠如に起因して、自己免疫疾患のための診断剤および効果的な治療の開発における技術分野の状態は、最適にはほど遠い。例えば、大部分の自己免疫疾患の診断のための、信頼性の高い血清タンパク質マーカーは存在しない。ほぼ例外なしに、これらの状態を処置するために利用される薬物は、炎症のような自己免疫応答自体の下流にあるイベントを阻害するか、または有意な望ましくない副作用を伴いつつ、免疫系全体を非選択的にモジュレートもしくは抑制することを試みるか、のいずれかである(Hemmer & Hartung,2007(非特許文献1))。診断的適用にも、治療的な適用にも、理想的には、自己反応性B細胞(およびそれらが産生する抗体)ならびにT細胞を直接標的とし、異種抗原を認識するB細胞およびT細胞は無視する分子を有することが望まれる。そのような分子は、自己免疫性の抗体、B細胞、およびT細胞の検出および濃縮のための診断剤および研究道具として利用され得る。さらに、これらの分子は、免疫系の適切な機能に影響を与えることなく、これらの自己反応性細胞を根絶することを目標とした新薬開発プログラムのための土台として役立つ可能性がある。
【0005】
従って、(i)正確かつ客観的であり、(ii)単純かつ再現性があり、かつ(iii)初期の症例においても後期の症例においても有用である、これらの疾患の両方のための診断法が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hemmer & Hartung,2007
【発明の概要】
【0007】
本発明は、複雑な生物学的混合物の中に存在するタンパク質、核酸、糖質、または非接着細胞のようなリガンド結合モエティに結合する合成分子、即ち、リガンドを、特定の生理学的状態についてのバイオマーカーとして使用する方法を提供する。ある種の局面において、リガンドはペプトイドである。
【0008】
従って、本発明によると、(a)第一の検出可能標識により標識された、健常対象に由来する第一のT細胞集団を準備する工程;(b)第二の検出可能標識により標識された、自己免疫疾患を有する対象に由来する第二のT細胞集団を準備する工程;(c)第一および第二のT細胞集団を、複数の候補ペプトイドに接触させる工程;ならびに(d)第一および第二のT細胞集団と候補ペプトイドとの結合を査定する工程を含む、自己免疫性T細胞により特異的に認識されるリガンドまたはペプトイドを同定する方法が提供される。本法において、ペプトイドが、第二のT細胞集団に結合し、第一のT細胞集団には結合しない場合、該ペプトイドは、自己免疫性T細胞により認識され、健常T細胞によっては認識されない。
【0009】
自己免疫疾患は多発性硬化症または慢性関節リウマチであり得る。リガンドまたはペプトイドは、3残基長、4残基長、5残基長、6残基長、7残基長、8残基長、9残基長、または10残基長であり得る。第一および第二の標識は、蛍光性もしくは化学発光性、または量子ドットであり得る。ペプトイドは、ビーズ、チップ、フィルター、ディップスティック、膜、ポリマーマトリックス、またはウェルのような支持体に結合していてもよい。接触工程は、支持体を第一および第二のT細胞集団に同時に接触させることを含み得る。T細胞集団はCD4+T細胞を含み得る。対象はヒトまたはマウスであり得る。
【0010】
別の態様において、(a)支持体に結合している、自己免疫性T細胞に特異的に結合するリガンドまたはペプトイドを準備する工程;(b)自己免疫性T細胞の、支持体に結合しているリガンドまたはペプトイドへの結合を可能にするのに十分な時間、対象に由来するT細胞含有試料を、支持体に結合しているリガンドに接触させる工程;および(c)試料から支持体を分離する工程:を含む、自己免疫疾患に罹患している対象から自己免疫性T細胞を除去する方法が提供される。本法は、工程(c)の試料を対象に戻す工程をさらに含み得る。自己免疫疾患は多発性硬化症または慢性関節リウマチであり得る。
【0011】
リガンドまたはペプトイドは、3残基長、4残基長、5残基長、6残基長、7残基長、8残基長、9残基長、または10残基長であり得る。支持体は、ビーズ、チップ、フィルター、ディップスティック、膜、ポリマーマトリックス、またはウェルであり得る。試料は、血液、脳脊髄液、または精液であり得る。試料が血液である場合、それは、対象から入手され、エクスビボで処理され、対象に戻されてもよく、さらに、血液は、閉鎖循環式で、支持体に結合しているリガンドまたはペプトイドを横切るように灌流されて対象に戻されてもよい。本法は、対象から試料を入手する工程をさらに含み得る。対象はヒトまたはマウスであり得る。
【0012】
さらに別の態様において、(a)毒素にコンジュゲートしている、自己免疫性T細胞に特異的に結合するリガンドまたはペプトイドを準備する工程;および(b)少なくとも一つの自己免疫性T細胞のコンジュゲートへの結合を可能にするのに十分な時間、対象に由来するT細胞含有試料をコンジュゲートに接触させる工程:を含む、自己免疫疾患に罹患している対象から入手された自己免疫性T細胞を死滅させる方法が提供される。本法において、コンジュゲートが自己免疫性T細胞の死滅を引き起こす。試料はエクスビボで処理され得、本法は、試料を対象に戻す工程をさらに含み得る。自己免疫疾患は多発性硬化症または慢性関節リウマチであり得る。
【0013】
リガンドまたはペプトイドは、3残基長、4残基長、5残基長、6残基長、7残基長、8残基長、9残基長、または10残基長であり得る。毒素は、リシン、ジフテリア毒素、またはコレラ毒素であり得る。あるいは、毒素は、ルテニウム(II)トリス-ビピリジルのような光により活性化される毒素であり得、工程(b)は試料を可視光に曝す工程をさらに含み得る。試料は、血液、脳脊髄液、または精液であり得る。本法は、対象から試料を入手する工程をさらに含み得る。対象はヒトまたはマウスであり得る。
【0014】
さらに別の態様において、(a)IgG Fc含有分子にコンジュゲートしている、自己免疫性T細胞に特異的に結合するリガンドまたはペプトイドを準備する工程;および(b)少なくとも一つの自己免疫性T細胞のコンジュゲートへの結合を可能にするのに十分な時間、自己免疫性T細胞集団をコンジュゲートに接触させる工程:を含む、自己免疫疾患に罹患している対象から入手された自己免疫性T細胞または対象における自己免疫性T細胞を死滅させる方法が提供される。本法において、自己免疫性T細胞に対する免疫エフェクターをコンジュゲートが動員し、それによって該細胞の死滅がもたらされる。自己免疫性T細胞集団はエクスビボで処理され得、本法は、工程(b)の試料を対象に戻す工程をさらに含み得る。自己免疫疾患は多発性硬化症または慢性関節リウマチであり得る。
【0015】
リガンドまたはペプトイドは、3残基長、4残基長、5残基長、6残基長、7残基長、8残基長、9残基長、または10残基長であり得る。IgG Fc含有分子は、抗体、単鎖抗体、またはFc断片であり得、例えば、抗体もしくは単鎖抗体であって、該リガンドもしくは該ペプトイドが該抗体の抗原結合部位に係留されているか、またはIgG可変領域を欠くFc断片であって、該リガンドもしくは該ペプトイドが該Fc断片のカルボキシ末端に係留されている。試料は、血液、脳脊髄液、または精液であり得る。本法は、対象から試料を入手する工程をさらに含み得る。対象はヒトまたはマウスであり得る。
【0016】
ある種の態様において、本発明の化合物は、薬学的に許容されるそれらの塩を含む、下記式を有する:

[式中、nは0〜8であり;Lはリンカーであり;Yは毒素または抗体断片であり;ZはNH2、N(C1-C6アルキル)2、OH、またはO(C1-C6アルキル)であり;かつR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8(4を超えるnの各値は、式Iまたは式IIに次のR基を番号順に追加する)は、水素;アルキル;アリル;メチル;エチル;n-プロピル;イソプロピル;n-ブチル;イソブチル;sec-ブチル;tert-ブチル;ペンチル;ヘキシル;イソペンチル;アリール;ヘテロアリール;フラニル;インドリル;チオフェニル;チアゾリル;イミダゾリル;イソオキサゾイル;オキサゾイル;ピペロニル;ピラゾイル;ピロリル;ピラジニル;ピリジル;ピリミジル;ピリミジニル;プリニル;シンノリニル;ベンゾフラニル;ベンゾチエニル;ベンゾトリアゾリル;ベンゾオキサゾリル;キノリン;イソオキサゾリル;イソキノリンシクロアルキル;アルケニル;シクロアルケニル;フェニル;ピリジル;メトキシエチル;(R)-メチルベンジル;非置換型C1-C6アルキル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC1-C6アルキル;非置換型C2-C6アルキニル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC2-C6アルキニル;非置換型C2-C6アルケニル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC2-C6アルケニルであり得る]。
【0017】
ある種の態様において、R1、R2、および/またはR3は、独立に、非置換型C1-C6アルキル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC1-C6アルキル;非置換型C2-C6アルキニル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC2-C6アルキニル;非置換型C2-C6アルケニル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC2-C6アルケニルであり得る。
【0018】
ある種の局面において、R1は、末端がNH2により置換されたC1-C6アルキル、特に、4アミノブタンである。
【0019】
さらなる局面において、R2は、末端がNH2により置換されたC1-C6アルキル、特に、4アミノブタンである。
【0020】
さらなる局面において、R3は、C1-C6アルキル、C2-C6アルキニル、またはC2-C6アルケニルである。ある種の局面において、R3はイソブチルである。
【0021】
ある種の局面において、R4は、末端がNH2基により置換されたC1-C6アルキル、特に、4アミノブタンである。
【0022】
さらなる局面において、R5は(R)-メチルベンジルである。
【0023】
さらなる局面において、R6はフラニルである。
【0024】
ある種の局面において、R7は、末端がNH2により置換されたC1-C6アルキル、特に、4アミノブタンである。
【0025】
さらなる局面において、R8はC1-C6アルキル、特に、イソブチルである。
【0026】
本発明のある種の局面には、R1、R2、R4、およびR7が4-アミノブタンであり;R3およびR8がイソブチルであり;R5が(R)-メチルベンジルであり;かつR6がフラニルである8残基長(化合物AG12A)が含まれる。AG12Aは、リジル基(4-アミノブタン)、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基を末端に有し得る。
【0027】
他の局面において、末端R基は、リジル基、カルボキシル基、またはヒドロキシル基を末端に有する。
【0028】
本明細書に記載された任意の方法または組成物が、本明細書に記載された他の任意の方法または組成物に関して実行され得ることが企図される。
【0029】
特許請求の範囲および/または明細書において「含む」という用語と共に使用された場合、「(a)」または「(an)」という単語の使用は、「一つ」を意味するかもしれないが、「一つまたは複数」、「少なくとも一つ」、および「一つ以上」の意味とも一致する。
【0030】
本明細書中に記述された任意の態様が、本発明の任意の方法または組成物に関して実行され得、その逆もそうであることが、企図される。さらに、本発明の組成物およびキットは、本発明の方法を達成するために使用され得る。
【0031】
本願の全体にわたって、「約」という用語は、値が、その値を決定するために利用された装置、方法についての誤差の固有の変動、または研究対象間に存在する変動を含むことを示すために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある種の局面をさらに証明するために含まれている。本発明は、本明細書に提示された具体的な態様の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面のうちの一つまたは複数を参照することにより、よりよく理解され得る。
【0033】
【図1】図1A〜D:二色オンビーズスクリーニングプロトコルを使用した自己反応性T細胞結合ペプトイドの同定。(図1A)ペプトイドスクリーニングプロトコルの模式図。(図1B)スクリーニングおよび洗浄の後のペプトイドビーズの蛍光顕微鏡画像(100倍;DAPIフィルター);(i)および(ii):赤色に染色された細胞にのみ結合することが観察された、ヒットとして選択された二つのビーズ;(iii):健常マウスおよびEAEマウスに由来するCD4+T細胞へのビーズの結合。(図1C)スクリーニングにおいて同定された二つのヒットの化学構造。(図1D)自己反応性T細胞に結合したAG12Aを提示しているTentagelビーズの蛍光顕微鏡画像;(i):B10.PL野生型対照マウスに由来するCD4+T細胞は、AG12Aペプトイドビーズに結合しない;(i)i:Vα2.3/Vβ8.2 MBP Ac1-11 TCRトランスジェニックマウスに由来するCD4+T細胞は、AG12Aペプトイドビーズに結合する。
【図2】図2A〜C:AG12Aは中マイクロモルの親和性および高い特異性でMBP Ac1-11特異的T細胞に結合する。(図2A)増加する濃度のビオチン-DOPA-AG12Aの存在下でのVα2.3/Vβ8.2 MBP Ac1-11 TCRトランスジェニック細胞対B10.PL野生型CD4+T細胞のフローサイトメトリー分析。細胞を、1μM、10μM、100μM、250μM、または500μMの濃度のビオチン-DOPA-AG12Aと共にプレインキュベートし、架橋し、抗CD4-PerCP-Cy5.5および抗ストレプトアビジン-アロフィコシアニン(APC)により染色した。二色フローサイトメトリーを、自己反応性CD4+T細胞に対するビオチン化AG12Aの推定結合親和性を決定するために使用した。結果は、Vα2.3/Vβ8.2 MBP Ac1-11 TCRトランスジェニックT細胞を表す緑色の線と、B10.PL野生型CD4+T細胞を表す青色の線とを重ね合わせたヒストグラムとして示される。赤色の線はペプトイドなしの陰性対照を表す。平均蛍光強度(MFI)は、Flowjoソフトウェアを使用して、試験されたペプトイドの各濃度について決定された。Vα2.3/Vβ8.2 MBP Ac1-11 TCRトランスジェニックT細胞のみが、AG12Aに結合することが見出された。示された結果は、3回の独立の実験の代表である。(図2B)フローサイトメトリーにより評価されたVα2.3/Vβ8.2 MBP Ac1-11 TCRトランスジェニックT細胞に対するAG12Aの結合等温線。試験されたペプトイドの各濃度についてのMFIを、TCRトランスジェニックT細胞+AG12A、WT T細胞+AG12A、TCRトランスジェニックT細胞+対照ペプトイド、およびWT T細胞+対照ペプトイドについてプロットした。Kdは、Graphpad Prismソフトウェアを使用して計算され、およそ40μMであると推定された。(図2C)ビオチン-DOPA-AG12AのVα2.3/Vβ8.2 MBP Ac1-11 TCRトランスジェニックT細胞への過ヨウ素酸により誘発される架橋、それに続く、SDSゲル電気泳動およびNeutrAvidin-HRP(NA-HRP)を用いたウエスタンブロッティングは、およそ45kDaの分子量を有する主要な架橋産物をもたらした(右側)。WTマウスに由来するCD4+T細胞またはTCRトランスジェニックマウスに由来するCD4陰性脾細胞が使用された場合には、この産物は見られなかった。レーン1:WT CD4+T細胞、レーン2:Vα2.3/Vβ8.2トランスジェニックT細胞、レーン3:CD4陰性脾細胞。右側:ブロットが抗Vα2 TCR抗体により探索されたことを除き、左側と同一。示された結果は2回の独立の実験の代表である。
【図3】図3A〜C:AG12Aは用量依存的に自己反応性T細胞の増殖を阻害する。(図3A)CD4+MBP Ac1-11特異的マウスTCRトランスジェニックT細胞を単離し、CFSEにより標識し、増加する濃度のAG12Aペプトイドまたは対照ペプトイドと共にインキュベートした。細胞を、野生型のB10.PLマウスの脾臓から単離された抗原提示細胞により希釈し、10μg/mlの最終濃度でMBP Ac1-11ペプチドにより刺激した。細胞を抗CD4+-PerCP-CY5.5抗体により染色し、分裂細胞の割合を決定するため、フローサイトメトリーにより分析した。結果は、X軸上にペプトイド濃度が示され、Y軸上に分裂%が示される折れ線グラフとして図示される。AG12Aペプトイドにより処理された細胞は、四角で図示され、対照ペプトイドにより処理された細胞は、三角で図示される。(図3B)B細胞を、B10.PL野生型マウスから単離し、(図3A)に記載されたようにして処理した。細胞をLPSにより刺激し、上記と同様にフローサイトメトリーを実施した。(図3C)細胞を抗原提示細胞の存在下でMOG 35-55ペプチドにより刺激したことを除き、上記と同様に、MOG 35-55 TCRトランスジェニックマウスに由来するCD4+T細胞を単離し処理した。示された結果は、全て、3回の独立の実験の代表である。
【図4】図4A〜D:ルテニウムウォーヘッド(warhead)の付加は、AG12Aの効力を増加させ、養子移入EAEを防止する。(図4A)自己反応性TCRの光触媒による破壊を図示する模式図。AG12Aを、Ru2+に化学的にカップリングさせた。ルテニウムペプトイド錯体と共にインキュベートした後、細胞に可視光(<380nm)を照射する。照射は、標的受容体を不活化するであろう一重項酸素の生成をもたらす。(図4B)CD4+MBP Ac1-11特異的マウスTCRトランスジェニックT細胞を、B10.PLマウスから単離し、1μMまたは100nMの濃度のAG12A-Ru2+、対照-Ru2+ペプトイド、または溶媒のみ(PBSもしくはDMSO)と共にインキュベートした。細胞を、10分間<380nmで照射するか(斜線入りのバー)、または光に曝さなかった(黒バー)。培養物を、野生型B10.PLマウスの脾臓から単離された抗原提示細胞により希釈し、10μg/mlの最終濃度でMBP Ac1-11ペプチドにより刺激した。培養の最後の16時間に、細胞に[3H]チミジンを添加することにより、増殖を決定した。抗原により刺激されなかった細胞からのバックグラウンド増殖レベルを、示された結果から差し引いた。(図4C)使用されたCD4+T細胞がMOG 35-55特異的TCRトランスジェニックマウスから単離されたことを除き、パネル(B)と同一。これらの細胞の増殖は、AG12A-Ru2+により影響を受けなかった。(図4D)AG12A-Ru2+による処理は養子移入EAEを防止する。CD4+T細胞を、MBP Ac1-11特異的TCRトランスジェニックマウスから単離し、100nm AG12A-Ru2+または対照-Ru2+ペプトイドと共にインキュベートし、照射した。次いで、細胞を、72時間、抗原提示細胞および10μg/ml MBP Ac1-11ペプチドにより刺激し、腹腔内注射により未感作B10.PLマウスに移入した。マウスを、EAEの臨床兆候について毎日モニタリングし、平均臨床スコアを、AG12A-Ru2+により処理された群(白丸)、対照-Ru2+により処理された群(白四角)、抗原のみにより処理された群(白三角)、および抗原により処理されていない群(星印)についてグラフで図示した。示された結果は、全て、2回の独立の実験の代表である。
【図5】図5A〜B:スクリーニングに使用されたEAEマウスの平均臨床スコアおよびスクリーニングにおいて利用されたペプトイドライブラリーの構造図。(図5A)EAEを誘導するため、完全フロイントアジュバント(CFA)で乳化した50μgのMBP Ac1-11ペプチドにより、B10.PLマウスを免疫感作した。マウスを、疾患の臨床兆候について毎日モニタリングし、標準的な基準に基づく臨床スコアを割り当てた。対照マウスは、CFAのみにより免疫感作され、EAEを発症しなかった。マウスを疾患のピークで屠殺し、CD4+T細胞を単離し、ペプトイドライブラリースクリーニングのために使用した。EAEマウス(四角)および対照マウス(三角形)のスコアがグラフ上に示される。(図5B)スクリーニングに使用されたペプトイドライブラリーの例示。上:ライブラリー内の化合物の一般的な化学構造。C末端の3残基を固定し、残りの6残基を多様化した。囲み:ライブラリーを作成するために使用されたアミン。
【図6】対照ペプトイドおよび対照-Ru2+ペプトイドの構造。これらの研究のために使用された対照ペプトイドの化学構造が示される。
【発明を実施するための形態】
【0034】
例示的な態様の説明
本発明者らは、ここで、自己反応性CD4+T細胞に高い特異性で結合する合成分子を同定する方法を記載する。ヒト多発性硬化症(MS)の動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)に関してここで実施されたこのプロトコルは、ネイティブ抗原の性質の予備知識を必要としない。その代りに、それは、ライブラリー内の各化合物の、ネイティブ集団内の自己反応性T細胞および正常T細胞に結合する能力を、同時に査定する、比較結合戦略を利用する。自己反応性T細胞に対する高い選択性を示す化合物のみが「ヒット」として選択される。EAEスクリーニングからのあるヒットの詳細な特徴決定は、それがT細胞受容体(TCR)に結合することを示唆する。さらに、この化合物が、インビトロで抗原により駆動されるT細胞増殖のアンタゴニストであることが示される。最後に、光分解された時に近傍のタンパク質に対する酸化的傷害を媒介することができるルテニウム錯体(Lee et al.,2008)に、この化合物をコンジュゲートさせると、コンジュゲートは、養子移入実験において疾患を媒介する自己反応性T細胞の能力を阻害する。総合すると、これらのデータは、抗原特異的自己反応性T細胞に結合し、それを阻害することができる合成化合物を同定する、この技術の能力を立証する。
【0035】
I. 自己免疫疾患
本発明は、上述のように、多様な疾患状態に由来する自己免疫性T細胞に結合することができる分子の同定を提供する。実施例はMSの動物モデルであるEAEに関するが、本発明は多様な自己免疫疾患に関して有用であるはずであり、それらのうちのいくつを以下に記述する。ある種の局面において、疾患状態には、急性播種性脳脊髄炎(ADEM)、急性壊死性出血性白質脳炎、アジソン病、無ガンマグロブリン血症、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、円形脱毛症、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、抗GBM/抗TBM腎炎、抗リン脂質症候群(APS)、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性自律神経障害、自己免疫性肝炎、自己免疫性高脂血症、自己免疫性免疫不全、自己免疫性内耳疾患(AIED)、自己免疫性心筋炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、自己免疫性血小板減少性紫斑病(ATP)、自己免疫性甲状腺疾患、軸索型およびニューロン型のニューロパシー、バロー病、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、キャッスルマン(Castlemen)病、セリアックスプルー(非熱帯性)、シャーガス病、慢性疲労症候群、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー(CIDP)、慢性再発性多巣性骨髄炎(CRMO)、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡/良性粘膜類天疱瘡、クローン病、コーガン症候群、寒冷凝集素病、先天性心ブロック、コクサッキー心筋炎、クレスト病、本態性混合型クリオグロブリン血症、脱髄性ニューロパシー、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、円板状ループス、ドレスラー症候群、子宮内膜症、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、実験的アレルギー性脳脊髄炎、エヴァンス症候群、線維筋痛症、線維性肺胞炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本脳炎、橋本甲状腺炎、溶血性貧血、ヘノッホ・シェーンライン(Henock-Schoniein)紫斑病、妊娠性疱疹、低ガンマグロブリン血症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、免疫調節性リポタンパク質、封入体筋炎、インスリン依存性糖尿病(1型)、間質性膀胱炎、若年性関節炎、若年性糖尿病、川崎症候群、ランバート・イートン症候群、白血球破壊性血管炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、木質性結膜炎、線状IgA病(LAD)、ループス(SLE)、ライム病、メニエール病、顕微鏡的多発血管炎、混合性結合組織病(MCTD)、モーレン潰瘍、ムッハ・ハーベルマン病、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、ナルコレプシー、視神経脊髄炎(デビック病)、好中球減少症、眼瘢痕性類天疱瘡、視神経炎、回帰性リウマチ、PANDAS(溶連菌関連性小児自己免疫性神経精神疾患)、傍腫瘍性小脳変性症、発作性夜間血色素尿症(PNH)、パリー・ロンベルグ症候群、パーソネージ・ターナー症候群、毛様体扁平部炎(末梢ブドウ膜炎)、天疱瘡、末梢ニューロパシー、静脈周囲脳脊髄炎、悪性貧血、POEMS症候群、結節性多発動脈炎、I型、II型、およびIII型の多腺性自己免疫症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、心筋梗塞後症候群、心膜切開後症候群、プロゲステロン皮膚炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、乾癬、乾癬性関節炎、特発性肺線維症、壊疽性膿皮症、赤芽球癆、レイノー現象、反射性交感神経性ジストロフィー、ライター症候群、再発性多発性軟骨炎、下肢静止不能症候群、後腹膜線維症、リウマチ熱、慢性関節リウマチ、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、強皮症、スログレン(Slogren)症候群、精子および精巣の自己免疫、全身硬直症候群、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、交感性眼炎、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、血小板減少性紫斑病(TPP)、トロサ・ハント症候群、横断性脊髄炎、潰瘍性大腸炎、未分化型結合組織病(UCTD)、ブドウ膜炎、血管炎、小水疱性皮膚症、白斑、ウェゲナー肉芽腫症、慢性活動性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、拡張型心筋症、心筋炎、多内分泌腺自己免疫(autoimmune polyendocrine)症候群I型(APS-I)、嚢胞性繊維症性血管炎(cystic fibrosis vasculitides)、後天性副甲状腺機能低下症、冠動脈疾患、落葉状天疱瘡、尋常性天疱瘡、ラスムッセン脳炎、自己免疫性胃炎、インスリン低血糖(insulin hypoglycemic)症候群(平田病)、B型インスリン抵抗性、表皮肥厚、全身性エリテマトーデス(SLE)、悪性貧血、治療抵抗性ライム関節炎、多発ニューロパシー、脱髄疾患、アトピー性皮膚炎、自己免疫性甲状腺機能低下症、白斑、甲状腺関連眼疾患、自己免疫性腹腔疾患、ACTH欠損症、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、全身性硬化症、進行性全身性硬化症、モルフェア、原発性抗リン脂質症候群、慢性特発性じん麻疹、結合組織症候群、壊死性半月体形成性糸球体腎炎(NCGN)、全身性血管炎、レイノー症候群、慢性肝疾患、内臓リーシュマニア、自己免疫性C1欠損症、膜増殖性糸球体腎炎(MPGN)、凝固時間延長、免疫不全、アテローム性動脈硬化症、神経細胞障害、腫瘍随伴性天疱瘡、腫瘍随伴性全身硬直症候群、腫瘍随伴性脳脊髄症、亜急性自律神経性ニューロパシー、癌関連網膜症、腫瘍随伴性眼球クローヌス・ミオクローヌス運動失調、下位運動ニューロン症候群、およびランバート・イートン筋無力症候群のような疾患が含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
A. 強直性脊椎炎
ASは、脊椎関節症というより広い疾患分類の中の疾患サブセットである。脊椎関節症の様々なサブセットにより影響を受けた患者は、細菌感染から遺伝にまで及ぶ、極めて異なる病因を有することが多い。さらに、全てのサブグループにおいて、疾患過程の最終結果は体軸関節炎である。様々な患者集団において見られる初期の臨床的な違いにも関わらず、それらの多くは、10〜20年の疾患の経過の後にはほぼ同一となる。最近の研究は、疾患の発病から強直性脊椎炎との臨床診断までの平均時間が、7.5年であることを示唆している(Khan,1998)。これらの同一の研究は、脊椎関節症が慢性関節リウマチのものに近い有病率を有することを示唆している(Feldtkeller et al.,2003;Doran et al.,2003)。
【0037】
ASは、骨外性の徴候を伴うか、または伴わない、体軸骨格の慢性全身性炎症性リウマチ性障害である。仙腸関節および脊椎が主として影響を受けるが、股関節および肩関節が関与することもあるし、一般的ではないが、末梢関節、または眼、血管系、神経系、および胃腸系のようなある種の関節外構造が関与することもある。その病因は未だ完全には理解されていない(Wordsworth,1995;Calin and Taurog,1998)。それは、主要組織適合性クラスI(MHC I)HLA-B27対立遺伝子と強く関連している(Calin and Taurog,1998)。ASは、人生の最盛期にある個体に影響を与え、腱、靭帯、関節、および骨の慢性的な疼痛および不可逆的な傷害を引き起こす可能性があるため恐ろしい(Brewerton et al.,1973;Brewerton et al.,1973;Schlosstein et al.,1973)。ASは、単独で起こることもあるし、または反応性関節炎、乾癬、乾癬性関節炎、腱付着部炎、潰瘍性大腸炎、過敏性腸疾患、もしくはクローン病のような別の型の脊椎関節症に関連して起こることもあり、その場合には、二次性ASとして分類される。
【0038】
典型的には、影響を受ける部位には、脊椎の椎間板椎骨(discovertebral)関節、椎間関節、肋椎関節、および肋横突関節、ならびに脊椎傍靭帯構造が含まれる。筋腱および靭帯の骨への付着部位である腱付着部の炎症も、この疾患において顕著である(Calin and Taurog,1998)。腱付着部炎の部位には、形質細胞、リンパ球、および多形核細胞が浸潤することが公知である。炎症過程は、高頻度に、線維性強直および骨性強直を徐々にもたらす(Ball,1971;Khan,1990)。
【0039】
症状が、比較的一般的な背部問題に起因することが多いため、診断が遅れることは一般的である。腰椎における柔軟性の劇的な喪失が、ASの初期の兆候である。その他の一般的な症状には、下部脊椎が骨盤に接合される場所、または殿部から通常始まる、下背部における慢性の疼痛および硬直が含まれる。
【0040】
大部分の症状は、腰椎部および仙腸関節部で始まるが、頸部および上背部が関与することもある。関節炎は、肩、殿部、および足にも起こり得る。眼炎症を有する患者もおり、心臓弁関与については、より重度の症例が観察されるに違いない。
【0041】
最も高頻度の症候は背部痛であるが、疾患は、特に、小児および女性において、末梢関節において非定型的に始まることもあり、まれに急性虹彩炎(前部ブドウ膜炎)を伴うこともある。付加的な初期の症状および兆候は、びまん性の肋椎関与による胸の拡張制限、微熱、疲労、拒食症、体重減少、および貧血である。夜間性で、強度が変動することが多い再発性の背部痛が、活動により典型的に軽減される朝の硬直と同様に、最終的な愁訴である。曲げるかまたは屈む姿勢は、背部痛および傍脊椎筋痙攣を緩和する;従って、ある程度の円背が、未処置の患者においては一般的である。
【0042】
全身性の徴候が、患者の3分の1に起こる。再発性の、一般的には一定の経過をたどる急性虹彩炎(前部ブドウ膜炎)は、視覚を損なう程に長引き、重度となることは稀である。神経学的兆候が、時に、圧迫性の神経根炎または坐骨神経痛、脊椎の骨折または亜脱臼、ならびに(インポテンス、夜間尿失禁、膀胱および直腸の感覚低下、ならびにアキレス腱反射の欠如からなる)馬尾症候群に起因し得る。心血管徴候には、大動脈弁閉鎖不全、狭心症、心膜炎、およびECG伝導異常が含まれ得る。稀な肺所見は、TBと誤られることがあり、アスペルギルス感染を合併することもある、時に空洞化を伴う、上葉繊維症である。
【0043】
ASは、活動性脊椎炎の軽度または中程度の再燃が、炎症がほぼまたは完全に非活動性である期間と交互に起こることを特徴とする。大部分の患者において、適切な処置は、背部硬直にも関わらず、能力障害を最小限に抑えるかまたはなくし、充実した生産的な生活をもたらす。時に、経過は、重度かつ進行性であって、著しい能力障害を引き起こす変形をもたらすこともある。難治性虹彩炎を有する患者および二次性アミロイドーシスを有する稀な患者についての予後は不良である。
【0044】
ESRおよびその他の急性相反応物質(例えば、C反応性タンパク質および血清Igレベル)が、活動性ASを有する大部分の患者において軽度に上昇している。IgMリウマチ因子および抗核抗体についてのテストは陰性である。HLA-B27陽性結果が一般的であるが、不変ではなく、特異的でない(診断における陽性結果よりも、ASの排除を助けるための陰性結果の方が有用である)。このテストは、典型的な疾患を有する患者においては必要でない。
【0045】
診断はX線により確認されなければならない。最も初期の異常(肋軟骨下腐食による偽開大、硬化症、またはその後の狭窄化)は、仙腸関節で起こる。脊椎における初期の変化は、上腰椎の方形化(squaring)および脱ミネラル化、斑状の靭帯石灰化、ならびに一つまたは二つの進行性靱帯骨棘形成である。顕著な靱帯骨棘形成およびびまん性の傍脊椎靭帯石灰化を伴う古典的な竹様脊柱は、早期診断のためには有用でない;これらの変化は、平均して10年の期間にわたり少数の患者において進展する。
【0046】
関節関与の重度および全身症状の程度は、個体間で大いに変動する。早期の正確な診断および治療は、疼痛および能力障害の年数を最小化することができる。
【0047】
関節不快感は薬物により軽減され得る。処置プランは、一般的に、変形および心理社会的必要およびリハビリテーションの必要の防止、遅延、または補正を解決する。適切な姿勢および関節運動のため、毎日の運動およびその他の支持措置(例えば、姿勢の訓練、治療的運動)が、可能性のある変形の方向に反する筋肉群を強化(即ち、屈筋群ではなく伸筋群を強化)するのに不可欠である。うつ伏せに横たわり、従って、頸部を伸ばしながら読書することは、背部の柔軟性の維持に役立ち得る。
【0048】
NSAIDは、関節の炎症、疼痛、および筋痙攣を抑制することにより、運動およびその他の支持措置を容易にする。大部分のNSAIDがASにおいて有益であることが立証されているが、効力のわずかな差ではなく、耐容性および毒性によって薬物が選択される。患者は、モニタリングされ、可能性のある有害反応について警告されるべきである。NSAIDの1日用量は、可能な限り低くあるべきであるが、活動性疾患ではインドメタシンのような薬物の最大用量が必要とされるかもしれない。退薬は、活動性疾患の全身兆候および関節兆候が数か月間抑制された後、徐々に試みられるべきである。COX-2薬と呼ばれるいくつかの新たなNSAIDは、シクロオキシゲナーゼ-2を阻害するため、COX-1を阻害する薬物と等しい有効性を提供するが、胃粘膜に対する有害効果および血小板凝集の確率はより低い。
【0049】
副腎皮質ステロイドは、限定された治療的価値を有する;長期使用は、硬直した脊椎の骨粗鬆症を含む、多くの重篤な有害効果に関連している。急性虹彩炎には、外用副腎皮質ホルモン(および散瞳薬)が一般的に十分であり;経口副腎皮質ステロイドの必要性が示されることは稀である。特に、1箇所または2箇所の末梢関節が他より重度に炎症を起こしており、それにより、運動およびリハビリテーションに支障がある場合には、関節内副腎皮質ステロイドが有益であるかもしれない。
【0050】
RAのための大部分の遅効性(緩解)薬物(例えば、金の筋肉内投与)は、研究されていないか、またはASには効果的でないか、のいずれかである。特に、末梢関節が関与している場合には、スルファサラジンが有用であり得る。投薬量は、500mg/日で開始され、1週間間隔で500mg/日ずつ増加させ、1g、1日2回になったところで維持されるべきである(Rheumatoid Arthritis in Ch. 50も参照のこと)。最も一般的な副作用は、主に中枢性である悪心であるが、腸溶錠は耐容性が比較的よい。用量低下が役立つ場合がある。
【0051】
麻酔薬、その他の強力な鎮痛薬、および筋弛緩薬は、抗炎症特性を欠き、重度の背部痛および痙攣のコントロールを助けるための補助薬として短期的にのみ処方されるべきである。脊椎への放射線療法は、効果的ではあるが、急性骨髄性白血病のリスクを10倍に増加させるため、最後の手段として推奨される。
【0052】
リハビリテーション治療は必須である。腹部および背部の運動と併せた、適切な睡眠時および歩行時の姿勢は、姿勢の維持を助ける。運動は、関節柔軟性の維持を助ける。呼吸運動は肺活量を増強し、水泳は有酸素運動を提供する。最適の処置ですら、脊椎の硬直または「強直」を発症する人々もいるであろうが、この癒合が直立位で起これば、機能性が維持されるであろう。ケアを継続することが重大である。ASは一生涯の問題であり、人々は処置を継続し得ないことが多く、その場合には、永久の姿勢および可動性の喪失が起こる。
【0053】
B. 乾癬性関節炎
乾癬は、1.5〜3%の有病率を有する炎症性かつ増殖性の皮膚障害である。乾癬を有する患者のおよそ20%は、いくつかのパターンを有する特徴的な型の関節炎を発症する(Gladman,1992;Jones et al.,1994;Gladman et al.,1995)。まず関節症状を呈する個体もいるが、過半数においては、皮膚乾癬がまず現われる。患者の約3分の1は、皮膚疾患および関節疾患の同時の増悪を有し(Gladman et al.,1987)、爪疾患と遠位指節間関節疾患との間に組織分布的な関係がある(Jones et al.,1994;Wright,1956)。皮膚疾患と爪疾患と関節疾患とを関係づける炎症過程は未だ不明であるが、免疫により媒介される病理が関連していることが示されている。
【0054】
乾癬性関節炎(PsA)は、関節炎および乾癬の関連を特徴とする慢性炎症性関節症であり、1964年に慢性関節リウマチ(RA)とは別個の臨床的実体として認識された(Blumberg et al.,1964)。その後の研究は、PsAが、強直性脊椎炎、反応性関節炎、および腸炎性関節炎を含む疾患群である他の脊椎関節症(SpA)と、多数の遺伝学的、病原的、および臨床的な特色を共有することを明らかにした(Wright,1979)。PsAがSpA群に属するという概念は、最近、PsAに含まれRAには含まれない広汎な腱付着部炎を証明する画像化研究から、さらに支持された(McGonagle et al.,1999;McGonagle et al.,1998)。より具体的には、腱付着部炎は、SpAで起こる最も初期のイベントのうちの一つであって、脊椎における骨リモデリングおよび強直をもたらし、炎症を起こした腱付着部が末梢関節に近い場合には、関節滑膜炎をもたらすと仮定されている。しかしながら、PsAは、重度が可変性である、かなり不均一な関節関与のパターンを呈し得るため、PsAにおける腱付着部炎と臨床徴候との間の関係は概して不明瞭なままである(Marsal et al.,1999;Salvarani et al.,1998)。従って、他の因子がPsAの多彩な特色の原因となっているに違いないが、(体軸疾患に強く関連しているHLA-B27分子の発現のような)その中の極少数しか同定されていない。結果として、特定の病原機序を疾患徴候に割り当てることは困難なままであり、即ち、この状態の処置は概して経験的なままである。
【0055】
家系研究により、PsAの発症への遺伝学的寄与が示唆されている(Moll & Wright,1973)。強直性脊椎炎および慢性関節リウマチのようなその他の慢性炎症型関節炎は、複雑な遺伝学的基礎を有すると考えられる。しかしながら、PsAの遺伝成分は、いくつかの理由のため、査定するのが困難であった。PsAの発症にとって重要な遺伝因子を隠し得る、乾癬単独の遺伝子的素因についての強力な証拠が存在する。PsAは別個の疾患実体としてほぼ認められているが、慢性関節リウマチおよび強直性脊椎炎との表現型のオーバーラップが存在することがある。また、PsA自体、均質の状態ではなく、様々なサブグループが提唱されている。これらの交絡因子の全てが本研究において克服されたわけではないが、本発明者らは、疾患スペクトルをカバーするPsAを有する患者の三つの広いカテゴリーにおいて候補遺伝子を調査することに集中した。
【0056】
TNFA領域のプロモーター領域における多形は、TNF-α分泌のレベルに影響を及ぼすことができるため、非常に重要である(Jacob et al.,1990;Bendzen et al.,1988)。TNF-α量の増加は、乾癬皮膚(Ettehadi et al.,1994)および滑液(Partsch et al.,1997)の両方において報告されている。
【0057】
最近の治験は、PsA(Mease et al.,2000)および強直性脊椎炎(Brandt et al.,2000)の両方における抗TNF処置の正の利益を示した。さらに、TNF-αの遺伝子座は、MHCのクラスIII領域内にあり、従って、隣接するクラスI領域およびクラスII領域により提供されるものより緊密なPsAとの関連を提供し得る。全PsA群においてTNFA対立遺伝子との比較的弱い関連が存在した。珍しいTNFA-238A対立遺伝子が、末梢性多発関節炎を有する群においては頻度が増加しており、脊椎炎を有する患者には存在しなかったが、この所見は、HLA-Cw*0602との連鎖不平衡により説明されるかもしれない。TNFA-238対立遺伝子における多形に関連した機能的結果が存在するか否かは不明瞭である(Pociot et al.,1995)。にも関わらず、乾癬を有する患者において進展する関節炎のパターンは、この特定の対立遺伝子と直接または間接的に関連している可能性がある。
【0058】
Hohlerら(1997)は、PsAを有する患者および若年発病型乾癬におけるTNFA-238A対立遺伝子の頻度の増加を見出した。TNFA-238Aの若年発症型乾癬およびPsAの両方との関連は、HLA-Cw6とのものより強力であった。同様に、当研究において、若年発症型乾癬とHLA-Cw*0602およびTNFA-238Aの両方との間の強力な関連が存在したが、いずれの対立遺伝子も関節炎の発症年齢とは関係がなかった。当研究において、TNFA-238A対立遺伝子を少なくとも一つ有する、PsAを有する患者は、全て、HLA-Cw6陽性であり、PsAにおけるこれらの対立遺伝子の密接な連鎖が強調された。しかしながら、Hohlerら(1997)による研究とは対照的に、そしてHLA-Cw*0602との密接な連鎖により説明可能なように、TNFA-238A対立遺伝子は、末梢性関節炎を有する患者においてのみ増加していた。強直性脊椎炎の別の研究において、同一グループが、珍しいTNFA-308AおよびTNFA-238A対立遺伝子が、脊椎炎の発症に対する防御効果を有することを見出したことも興味深い(Hohler et al.,1998)。
【0059】
C. 反応性関節炎
反応性関節炎(ReA)において、関節傷害の機序は不明瞭であるが、サイトカインが重大な役割を果たしている可能性が高い。より優勢なTh1プロファイル、高いインターフェロンγ(IFN-γ)のレベル、および低いインターロイキン4(IL-4)のレベルが報告されているが(Lahesmaa et al.,1992;Schlaak et al.,1992;Simon et al.,1993;Schlaak et al.,1996;Kotake et al.,1999;Ribbens et al.,2000)、いくつかの研究は、慢性関節リウマチ(RA)患者と比較した、反応性関節炎患者の滑膜(Simon et al.,1994;Yin et al.,1999)および滑液(SF)(Yin et al.,1999;Yin et al.,1997)におけるIL-4およびIL-10の相対的な優勢ならびにIFN-γおよび腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)の相対的な不足を示した。反応性関節炎においては、末梢血単核細胞(PBMC)のエクスビボ刺激の後のTNF-α分泌レベルも、RA患者より低いことが報告されている(Braun et al.,1999)。
【0060】
反応性関節炎に関連した細菌のクリアランスが、適切なレベルのIFN-γおよびTNF-αの産生を必要とし、その一方でIL-10が、これらの応答を抑制することにより作用していることが主張された(Autenrieth et al.,1994;Sieper & Braun,1995)。IL-10は、活性化されたマクロファージによるIL-12およびTNF-γの合成(de Waal et al.,1991;Hart et al.,1995;Chomarat et al.,1995)、ならびにT細胞によるIFN-γの合成(Macatonia et al.,1993)を阻害する調節性サイトカインである。
【0061】
D. 腸炎性関節炎
腸炎性関節炎(EA)は、クローン病または潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患(IBD)との組み合わせで起こる。脊椎および仙腸関節に影響を与える場合もある。腸炎性関節炎には、一般的に、膝または足首のような下肢の末梢関節が関与する。一般的に、少数または限られた数の関節のみが関与し、腸状態の直後に起こり得る。これは、潰瘍性大腸炎を有する患者のおよそ11%、クローン病を有する患者の21%で起こる。滑膜炎は、一般に、一定の経過をたどり、変形性ではない。
【0062】
腸炎性関節症には、GI病理との関係を共有するリウマチ学的状態の集合が含まれる。これらの状態には、細菌(例えば、シゲラ(Shigella)、サルモネラ(Salmonella)、カンピロバクター(Campylobacter)、エルシニア(Yersinia)種、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile))、寄生虫(例えば、ストロンギロイデス・ステルコラリス(Strongyloides stercoralis)、タエニア・サギナタ(Taenia saginata)、ギアルディア・ランブリア(Giardia lamblia)、アスカリス・ランブリコイデス(Ascaris lumbricoides)、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium)種)による反応性の(即ち、感染に関連した)関節炎、および炎症性腸疾患(IBD)に関連した脊椎関節症が含まれる。その他の状態および障害には、腸バイパス(空回腸)、関節炎、腹腔疾患、ウィップル病、およびコラーゲン形成大腸炎が含まれる。
【0063】
腸炎性関節症の正確な原因は未知である。GI管の炎症が、透過性を増加させ、細菌抗原を含む抗原性材料の吸収をもたらすのかもしれない。次いで、これらの関節炎発症性(arthrogenic)抗原が、(腱付着部および滑膜を含む)筋骨組織に局在し、従って、炎症応答を誘発するのかもしれない。あるいは、これらの抗原に対する宿主の免疫応答が、滑膜にある自己抗原と交差反応する、分子擬態によって、自己免疫応答が誘導されるのかもしれない。
【0064】
特に興味深いのは、反応性関節炎と、HLAクラスI分子であるHLA-B27との間の強力な関連である。関節炎発症性である可能性のある、細菌由来の抗原ペプチドが、B27分子の抗原提示溝に適合し、CD8+T細胞応答をもたらすのかもしれない。HLA-B27トランスジェニックラットは、関節炎および消化管炎症と共に腸炎性関節症の特色を発症する。
【0065】
E. 潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎は、大腸の裏打ちにおいて、潰瘍と呼ばれる炎症および傷を引き起こす疾患である。炎症は、一般的に、直腸および結腸の下部に起こるが、結腸全体に影響を与えることもある。潰瘍性大腸炎は、回腸末端と呼ばれる最後の区域を除いて、小腸にはほとんど影響を与えない。潰瘍性大腸炎は、大腸炎または直腸炎とも呼ばれる。炎症は、高頻度に結腸を空にし、下痢を引き起こす。潰瘍は、結腸を裏打ちしている細胞が炎症によって死滅した場所に形成され;潰瘍は、出血し、膿を産生する。
【0066】
潰瘍性大腸炎は、炎症性腸疾患(IBD)(小腸および結腸における炎症を引き起こす疾患についての一般名)である。潰瘍性大腸炎は、その症状が、他の腸障害、および別の型のIBD、クローン病と類似しているため、診断が困難である場合がある。クローン病は、腸壁内のより深部で炎症を引き起こすため、潰瘍性大腸炎と異なる。また、クローン病は、一般的に、小腸において起こるが、口、食道、胃、十二指腸、大腸、虫垂、および肛門においても起こり得る。
【0067】
潰瘍性大腸炎は、いかなる年齢の人々にも起こり得るが、15〜30歳の間に始まることが最も多く、50〜70歳の間に始まる頻度は比較的低い。小児および青年も、時に、疾患を発症する。潰瘍性大腸炎は、男女に等しく影響を与え、家族内で遺伝することもあるようである。潰瘍性大腸炎の原因についての理論は多数あるが、いずれも立証されていない。最も主流の理論は、身体の免疫系が、腸壁において進行性の炎症を引き起こすことにより、ウイルスまたは細菌に反応するというものである。潰瘍性大腸炎を有する人々は、免疫系の異常を有するが、医師には、これらの異常の因果関係は不明である。潰瘍性大腸炎は、感情的苦悩またはある種の食物もしくは食品に対する感受性により引き起こされることはないが、これらの因子は、一部の人々において症状を誘発することがある。
【0068】
潰瘍性大腸炎の最も一般的な症状は、腹痛および血性下痢である。患者は、疲労、体重減少、食欲不振、直腸出血、ならびに体液および栄養素の損失も経験するかもしれない。患者の約半分は軽度の症状を有する。頻繁な発熱、血性下痢、悪心、重度の腹部疝痛に苦しむ患者もいる。潰瘍性大腸炎は、関節炎、眼の炎症、肝疾患(肝炎、肝硬変、および原発性硬化性胆管炎)、骨粗鬆症、発疹、および貧血のような問題を引き起こすこともある。問題が結腸外に起こる理由は不明である。科学者は、免疫系が身体の他の部分において炎症を誘発する時、これらの合併症が起こるのかもしれないと考えている。これらの問題のいくつかは、大腸炎が処置された時、消失する。
【0069】
潰瘍性大腸炎を診断するためには、詳細な理学的検査および一連のテストが必要とされるかもしれない。血液検査が、結腸または直腸における出血を示し得る貧血についてチェックするために行われ得る。血液検査は、身体の何らかの場所における炎症の兆候である、高い白血球数を発見することもできる。大便試料を試験することにより、医師は、結腸または直腸における出血または感染を検出することができる。医師は、結腸内視鏡検査またはS状結腸鏡検査を行うこともできる。いずれのテストのためにも、医師は、結腸および直腸の内部を見るために、内視鏡(コンピューターおよびテレビモニターに接続された長い柔軟なライト付きチューブ)を肛門へ挿入する。医師は、結腸壁上の炎症、出血、または潰瘍を見ることができるであろう。検査の間、医師は、顕微鏡で観察するため、組織試料を結腸の裏打ちから採取することを含む、生検を行うことができる。結腸のバリウム注腸X線も必要とされるかもしれない。この手技は、結腸に白亜色の溶液であるバリウムを充填することを含む。バリウムは、X線フィルム上に白色で現れるため、医師は、存在する可能性のある潰瘍またはその他の異常を含め、結腸を明瞭に観察することができる。
【0070】
潰瘍性大腸炎のための処置は、疾患の重篤度に依る。大部分の人々は、薬物治療により処置される。重症例において、患者は、罹患した結腸を除去するために手術を必要とするかもしれない。手術は、潰瘍性大腸炎のための唯一の治療法である。症状がある種の食物により誘発される人々は、味付けの濃い食物、生の果実および野菜、または乳糖(ラクトース)のような、腸を混乱させる食物を回避することにより、症状をコントロールし得ることがある。どのような潰瘍性大腸炎を経験するかは各人によって異なるかもしれず、従って、処置は各個体のために調整される。感情的および精神的な支持が重要である。数ヶ月またはさらには数年も続く寛解期(症状が消失する期間)を有する人々もいる。しかしながら、大部分の患者の症状は、最終的に復帰する。この疾患の変化パターンのため、処置がいつ役立ったのかは必ずしも明らかでない。潰瘍性大腸炎を有する人々は、状態をモニタリングするための定期的な医師の診察と共に、ある期間の医療を必要とし得る。
【0071】
治療の目標は、寛解を誘導し、維持し、潰瘍性大腸炎を有する人々の生活の質を改善することである。いくつかの型の薬物が利用可能である:
・5-アミノサリチル酸(5-ASA)を含有している薬物であるアミノサリチル酸類は、炎症のコントロールを助ける。スルファサラジンは、スルファピリジンと5-ASAとの組み合わせであり、寛解を誘導し維持するために使用される。スルファピリジン成分は、抗炎症性の5-ASAを腸へ運搬する。しかしながら、スルファピリジンは、悪心、嘔吐、胸焼け、下痢、および頭痛を含むような副作用をもたらすことがある。オルサラジン、メサラミン、およびバルサラジドのようなその他の5-ASA剤は、異なる担体を有し、より少ない副作用を示し、スルファサラジンの投与が不可能な人々により使用され得る。5-ASAは、結腸内の炎症の位置に依って、経口、浣腸、または坐剤により与えられる。軽度または中程度の潰瘍性大腸炎を有する大部分の人々は、まず、この薬物群により処置される。
・プレドニゾンおよびヒドロコルチゾンのような副腎皮質ステロイドも、炎症を低下させる。それらは、中程度〜重度の潰瘍性大腸炎を有する人々、または5-ASA薬に応答しない人々により使用され得る。ステロイドとしても公知の副腎皮質ステロイドは、炎症の位置に依って、経口、静脈内、浣腸、または坐剤により与えられ得る。これらの薬物は、体重増加、ざ瘡、顔面多毛、高血圧、情緒不安定、および感染リスクの増加のような副作用を引き起こし得る。この理由のため、それらは長期使用のためには推奨されない。
・アザチオプリンおよび6-メルカプトプリン(6-MP)のような免疫調整剤は、免疫系に影響を与えることにより炎症を低下させる。それらは、5-ASAもしくは副腎皮質ステロイドに応答しなかった患者、または副腎皮質ステロイドに依存性の患者のために使用される。しかしながら、免疫調整剤は、遅効性であり、完全な利益が見られるまでに6ヶ月もかかる場合がある。これらの薬物を投与される患者は、膵炎および肝炎を含む合併症、白血球数低下、ならびに感染リスクの増加についてモニタリングされる。シクロスポリンAは、静脈内副腎皮質ステロイドに応答しない人々において、活動性の重度の潰瘍性大腸炎を処置するために、6-MPまたはアザチオプリンと共に使用され得る。
【0072】
患者をリラックスさせるか、または疼痛、下痢、もしくは感染を軽減するために、その他の薬物が与えられることもある。
【0073】
時に、症状は、入院が必要であるほど重度になる。例えば、脱水を引き起こす重度の出血または重度の下痢を有することがある。そのような場合、医師は、下痢、ならびに血液、液体、およびミネラル塩の損失を止めることを試みるであろう。患者は、特別食、経静脈栄養、薬物治療を必要とするかもしれず、または手術を必要とすることもあり得る。
【0074】
潰瘍性大腸炎患者の約25〜40%においては、大出血、重度の疾病、結腸の破裂、または癌のリスクのため、最終的には、結腸が除去されなければならない。内科的処置が失敗した場合、または副腎皮質ステロイドもしくはその他の薬物の副作用が患者の健康を脅かす場合、医師は、結腸の除去を推奨することがあるであろう。直腸結腸切除術として公知の結腸および直腸を除去するための手術の後には、以下のうちの一つが行われる:
・外科医が腹部にストーマと呼ばれる小さな開口部を作出し、回腸と呼ばれる小腸の末端をそれに付着させる、回腸瘻造設術。排泄物は小腸内を移動し、ストーマを通って身体から排出されるであろう。ストーマは、大体クオーターサイズで、一般的に、ベルトライン付近の腹部の右下部分に位置付けられる。開口部には、排泄物を収集するための嚢を着用し、患者は必要に応じて嚢を空にする。
・肛門の一部が温存されるため、患者が正常な便通を有することを可能にする、回腸肛門吻合術または貫通手術。この手術においては、外科医は、結腸の罹患部および直腸の内部を除去し、直腸の外側の筋肉を残す。次いで、外科医は、直腸の内部および肛門に回腸を付着させ、嚢を作出する。排泄物は嚢に保管され、通常の様式で肛門を通過する。便通は、手技の前より頻繁で、水様になるかもしれない。嚢の炎症(嚢炎)が、可能性のある合併症である。
【0075】
全ての手術が、全ての者にとって適切であるわけではない。どの手術を受けるかは、疾患の重度、ならびに患者の必要性、期待、および生活様式に依る。この決断に直面した人々は、医師、結腸手術患者を看護する看護師(ストーマ療法士)、および他の結腸手術患者との会話により、可能な限り多くの情報を得るべきである。患者支援団体は、人々を、サポートグループおよびその他の情報リソースへ導くことができる。
【0076】
潰瘍性大腸炎を有する大部分の人々は、手術を受ける必要がないであろう。しかしながら、手術が必要になった場合、手術後には、大腸炎が治癒し、大部分の人々が普通の活動的な生活を送る、ということを知って安心感を得る人々もいる。
【0077】
F. クローン病
免疫抑制が試みられている別の障害はクローン病である。クローン病の症状には、腸の炎症、ならびに腸狭窄およびフィステルの発症が含まれ;これらの症状はニューロパシーを伴うことが多い。典型的には、5-アミノサリチル酸類(例えば、メサラミン)または副腎皮質ステロイドのような抗炎症薬が処方されるが、必ずしも効果的でない(Botoman et al.,1998に概説されている)。シクロスポリンによる免疫抑制は、副腎皮質ステロイドに抵抗性または不耐性の患者にとって有益であることがある(Brynskov et al.,1989)。
【0078】
にも関わらず、最終的には、患者の90%において外科的矯正が必要となり;50%が結腸切除を受ける(Leiper et al.,1998;Makowiec et al.,1998)。術後の再発率は高く、50%が5年以内にさらなる手術を必要とする(Leiper et al.,1998;Besnard et al.,1998)。
【0079】
クローン病の病因についての一つの仮説は、遺伝的感受性および環境因子(例えば、喫煙)に恐らく起因する腸粘膜関門の不全により、細菌抗原および食物抗原を含む、腸管腔に由来する抗原に免疫系が曝されるというものである(例えば、Soderholm et al.,1999;Hollander et al.,1986;Hollander,1992)。別の仮説は、ヨーネ菌(Mycobacterium paratuberculosis)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、異常な大腸菌(Escherichia coli)、またはパラミクソウイルスのような病原体による持続性の腸感染が、免疫応答を刺激するか;あるいは、正常な腸内細菌叢ならびにそれらが産生する代謝物および毒素のような遍在性の抗原に対する調節不全の免疫応答に、症状が起因するというものである(Sartor,1997)。血清中のIgA型およびIgG型の抗サッカロミセス・セレビシエ(Sacccharomyces cerevisiae)抗体(ASCA)の存在が、小児クローン病を高度に診断することが見出された(Ruemmele et al.,1998;Hoffenberg et al.,1999)。
【0080】
クローン病において、調節不全の免疫応答は、細胞性免疫病理学に偏向している(Murch,1998)。しかし、シクロスポリン、タクロリムス、およびメサラミンのような免疫抑制薬が、副腎皮質ステロイド抵抗性のクローン病例を処置するために使用されているが、成功率は様々である(Brynskov et al.,1989;Fellerman et al.,1998)。
【0081】
クローン病の診断および処置のためのツールを開発する最近の努力は、サイトカインの中心的な役割に焦点を当てている(Schreiber,1998;van Hogezand & Verspaget,1998)。サイトカインは、細胞間相互作用、細胞間コミュニケーション、または他の細胞の挙動に対して特異的な効果を有する、低分子の分泌型のタンパク質または因子(5〜20kD)である。サイトカインは、リンパ球、特に、TH1リンパ球およびTH2リンパ球、単球、腸マクロファージ、顆粒球、上皮細胞、ならびに繊維芽細胞により産生される(Rogler & Andus,1998;Galley & Webster,1996に概説されている)。炎症促進性であるサイトカインもあるし(例えば、TNF-α、IL-1(αおよびβ)、IL-6、IL-8、IL-12、または白血病抑制因子もしくはLIF);抗炎症性であるサイトカインもある(例えば、IL-1受容体アンタゴニスト、IL-4、IL-10、IL-11、およびTGF-β)。しかしながら、ある種の炎症条件の下では、それらの効果のオーバーラップおよび機能的重複が存在し得る。
【0082】
活動性のクローン病例においては、上昇した濃度のTNF-αおよびIL-6が血液循環内へ分泌され、TNF-α、IL-1、IL-6、およびIL-8が、粘膜細胞により局所的に過剰産生される(同上;Funakoshi et al.,1998)。これらのサイトカインは、骨の発達、造血、ならびに肝臓機能、甲状腺機能、および精神神経機能を含む、生理学的な系に対して広範囲にわたる効果を有し得る。また、炎症促進性のIL-1βが優位なIL-1β/IL-1ra比率の不均衡が、クローン病を有する患者において観察されている(Rogler & Andus,1998;Saiki et al.,1998;Dionne et al.,1998;Kuboyama,1998を参照のこと)。ある研究は、大便試料中のサイトカインプロファイルが、クローン病についての有用な診断ツールとなり得ることを示唆した(Saiki et al.,1998)。
【0083】
クローン病のために提唱されている処置には、様々なサイトカインアンタゴニスト(例えば、IL-1ra)、阻害剤(例えば、IL-1β変換酵素および抗酸化薬)、ならびに抗サイトカイン抗体(Rogler and Andus,1998;van Hogezand & Verspaget,1998;Reimund et al.,1998;Lugering et al.,1998;McAlindon et al.,1998)の使用が含まれる。特に、TNF-αに対するモノクローナル抗体は、クローン病の処置において試みられ、ある程度の成功を収めている(Targan et al.,1997;Stack et al.,1997;van Dullemen et al.,1995)。
【0084】
クローン病の処置のための別のアプローチは、炎症応答を誘発し得る細菌集団を少なくとも部分的に根絶し、非病原性集団へと交換することに焦点を当てている。例えば、米国特許第5,599,795号は、ヒト患者におけるクローン病の防止および処置の方法を開示している。その方法は、既存の細菌叢を殺菌除去し、正常なヒトから採取された、異なる、選択された、よく特徴決定された細菌へと交換するため、少なくとも1種の抗生物質および少なくとも1種の抗真菌剤により腸管を無菌化するためのものであった。Borodyは、既存の腸内細菌叢を洗浄により少なくとも部分的に除去し、疾患スクリーニングを受けたヒトドナーに由来する排泄物接種、またはバクテロイデス(Bacteroides)および大腸菌種を含む組成物により導入される新たな細菌集団に交換することにより、クローン病を処置する方法を教示した(米国特許第5,443,826号)。しかしながら、診断および/または処置を差し向けることができるクローン病の原因は未だ不明である。
【0085】
G. 慢性関節リウマチ
RAの正確な病因は未知のままであるが、滑膜繊維芽細胞の増殖および関節端の関節表面へのそれらの付着を含む、関節疾患の最初の兆候は、滑膜裏打ち層に出現する(Lipsky,1998)。その後、マクロファージ、T細胞、およびその他の炎症細胞が関節へと動員され、そこで、それらは、骨および軟骨の破壊をもたらす慢性後遺症に寄与するサイトカイン、インターロイキン-1(IL-1)、ならびに炎症において役割を果たす腫瘍壊死因子(TNF-α)を含む、多数のメディエーターを産生する(Dinarello,1998;Arend & Dayer,1995;van den Berg,2001)。血漿中のIL-1の濃度は、健常個体よりRAを有する患者において有意に高く、注目すべきことに、血漿IL-1レベルがRA疾患の活動性と相関する(Eastgate et al.,1988)。さらに、滑液IL-1レベルは、RAの様々なX線特色および組織学的特色と相関している(Kahle et al.,1992;Rooney et al.,1990)。
【0086】
正常な関節において、これらおよびその他の炎症促進性サイトカインの効果は、多様な抗炎症性サイトカインおよび調節因子によりバランスを保たれている(Burger & Dayer,1995)。このサイトカインバランスの意義は、一日を通して周期的な発熱を有する若年性RA患者において例示される(Prieur et al.,1987)。各発熱ピークの後、IL-1の効果を阻止する因子が、血清中および尿中に見出される。この因子は、単離され、クローニングされ、IL-1遺伝子ファミリーのメンバー、IL-1受容体アンタゴニスト(IL-1ra)として同定されている(Hannum et al.,1990)。IL-1raは、その名称が示す通り、I型IL-1受容体との結合に関してIL-1と競合し、結果として、IL-1の効果を阻止する天然の受容体アンタゴニストである(Arend et al.,1998)。IL-1を効果的に阻止するためには10〜100倍過剰のIL-1raが必要とされ得る;しかしながら、RAを有する患者から単離された滑膜細胞は、IL-1の効果に対抗するのに十分なIL-1raを産生しないようである(Firestein et al.,1994;Fujikawa et al.,1995)。
【0087】
H. 全身性エリテマトーデス
全身性エリテマトーデスのような自己免疫疾患の原因も未知である。全身性エリテマトーデス(SLE)は、組織損傷をもたらす自己抗体および免疫複合体の組織内の沈着を特徴とする自己免疫性リウマチ性疾患である(Kotzin,1996)。MSおよび1型糖尿病のような自己免疫疾患とは対照的に、SLEには、複数の臓器系が直接関与する可能性があり、その臨床徴候は多様で可変性である(Kotzin & O'Dell,1995により概説されている)。例えば、主として発疹および関節痛を示し、自然緩解を示し、薬物治療をほとんど必要としない患者も存在する。スペクトルのもう一端には、高用量のステロイド、およびシクロホスファミドのような細胞障害性薬物による治療を必要とする重度かつ進行性の腎臓関与を示す患者がいる(Kotzin,1996)。
【0088】
SLEの血清学的な最大の特徴および利用可能な一次診断テストは、二本鎖DNA(dsDNA)、一本鎖DNA(ss-DNA)、およびクロマチンのような細胞核の成分に対するIgG抗体の血清レベルの上昇である。これらの自己抗体の中で、IgG型抗dsDNA抗体は、ループス糸球体腎炎(GN)の発症において主要な役割を果たす(Hahn & Tsao,1993;Ohnishi et al.,1994)。糸球体腎炎は、腎臓の血液を浄化する糸球体の毛細管壁が、糸球体基底膜の上皮側の癒着により肥厚化する重篤な状態である。疾患は、慢性かつ進行性であることが多く、最終的には腎不全をもたらし得る。
【0089】
これらの自己免疫疾患において自己抗体が誘導される機序は、不明瞭なままである。診断および/または処置を差し向けることができるSLEの原因は未知であるため、処置は、根底にある原因ではなく、例えば、マクロライド系抗生物質による、免疫応答の抑制に向けられている(例えば、米国特許第4,843,092号)。
【0090】
I. 過敏性腸症候群
過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛および排便習慣の改変を特徴とする機能障害である。この症候群は、青年期に発生するかもしれず、有意な能力障害に関連し得る。この症候群は均質の障害ではない。むしろ、主な症状、下痢、便秘、または疼痛に基づき、IBSの亜型が記載されている。発熱、体重減少、および消化管出血のような「警告」症状がない場合には、限られた精密検査が必要となる。IBSの診断がなされた後は、統合的な処置アプローチにより、症状の重度を効果的に低下させることができる。罹患率は変動しているが、IBSは一般的な障害である。一般に、IBSは、米国の成人の約15%に影響を与え、男性より女性の方が約3倍発症しやすい(Jailwala et al.,2000)。
【0091】
IBSは、各年240万〜350万件の医師の診察の原因となっている。それは、胃腸科医が見る最も一般的な状態であるのみならず、プライマリケア医が見る最も一般的な胃腸状態のうちの一つでもある(Everhart et al.,1991;Sandler,1990)。
【0092】
IBSは高コストな障害でもある。IBSを有する者は、腸症状を有していない者と比較して、3倍多くの仕事日を欠勤し、出勤してもあまりにも不調であるため働けない可能性がより高い(Drossman et al.,1993;Drossman et al.,1997)。さらに、IBSを有する者は、腸障害のない者より、数百ドル多く医療費がかかる(Talley et al.,1995)。
【0093】
IBSを有する患者が経験する腹痛および排便習慣の改変の増悪および寛解を説明する特異的な異常はない。発展中のIBSの理論は、脳消化管軸の複数のレベルにおける調節不全を示唆している。運動不全、内臓過敏、中枢神経系(CNS)の異常なモジュレーション、および感染が、全て、関連付けられている。さらに、心理社会的因子が、重要な修飾的な役割を果たす。異常な腸運動は、長く、IBSの病原因子として見なされてきた。食後の小腸内の通過時間は、便秘優勢亜型または疼痛優勢亜型を有する患者より、下痢優勢IBSを有する患者において短いことが示されている(Cann et al.,1983)。
【0094】
空腹時の小腸の研究において、不連続の集中発生的な収縮と、長引いた伝播性の収縮との両方が存在することが、IBSを有する患者において報告されている(Kellow & Phillips,1987)。不規則な収縮による疼痛を経験することも、健常者より多い(Kellow & Phillips,1987;Horwitz & Fisher,2001)。
【0095】
これらの運動性所見は、IBSを有する患者における症候群全体を説明しない;実際、これらの患者の大部分は証明可能な異常を有していない(Rothstein,2000)。IBSを有する患者は、内臓痛に対する、増加した感受性を有する。直腸S状結腸のバルーン拡張を含む研究は、IBSを有する患者が、対照対象よりはるかに低い圧力および体積で、疼痛および膨満感を経験することを示した(Whitehead et al.,1990)。これらの患者は、身体刺激の正常な知覚を維持している。
【0096】
複数の理論が、この現象を説明するために提唱されている。例えば、内臓の受容体が、拡張または腔内内容物に応答する、増加した感受性を有するのかもしれない。脊髄後角のニューロンが、増加した興奮性を有するのかもしれない。さらに、感覚のCNSプロセシングの改変が関与しているのかもしれない(Drossman et al.,1997)。機能的な磁気共鳴画像化研究は、IBSを有する患者が、対照対象と比較して、痛みを伴う直腸刺激に応答する、重要な疼痛中心である前帯状皮質の増加した活性化を有することを最近示した(Mertz et al.,2000)。
【0097】
さらに、証拠は、感染性腸炎とその後のIBSの発症と間の関係を示唆している。炎症性サイトカインが役割を果たすのかもしれない。確認された細菌性胃腸炎歴を有する患者の調査において(Neal et al.,1997)、25%が排便習慣の持続性の改変を報告した。症状の持続性は、急性感染時の心理的ストレスによるかもしれない(Gwee et al.,1999)。
【0098】
最近のデータは、小腸内の細菌異常増殖がIBS症状において役割を果たしていることを示唆している。ある研究(Pimentel et al.,2000)において、水素呼気試験に送られたIBS患者202人のうち157人(78%)が、細菌異常増殖について陽性とのテスト所見を有していた。追跡試験を受けた対象47人のうち25人(53%)が、抗生物質処置により症状(即ち、腹痛および下痢)の改善を報告した。
【0099】
IBSはある範囲の症状を呈し得る。しかしながら、腹痛および排便習慣の改変は、主要な特色のままである。腹部不快感は痙攣性として記載され、左下部分に位置することが多いが、重度および位置は大きく異なり得る。患者は、下痢、便秘、または下痢と便秘の交互のエピソードを報告し得る。下痢症状は、典型的には、少量の軟便として記載され、便は粘液排出を伴うことがある。患者は、膨満感、便意切迫、残便感、および腹部膨張も報告することがある。胃食道逆流、消化不良、または悪心のような上部胃腸症状も、存在し得る(Lynn & Friedman,1993)。
【0100】
症状の持続性は、さらなる試験の必要性を示すものではない;それはIBSの特徴であり、それ自体、症候群の予想される症状である。症状が悪化または変化している患者においては、より広範な診断的評価の必要性が示される。さらなる試験の必要性を示すものには、警告症状の存在、50歳以降の症状の発症、および結腸癌の家族歴が含まれる。テストには、結腸内視鏡検査、腹部および骨盤のコンピューター断層撮影、ならびに小腸または大腸のバリウム検査が含まれ得る。
【0101】
J. 若年性関節リウマチ
小児における最も有病率の高い関節炎の型を表す用語である若年性関節リウマチ(JRA)とは、慢性炎症および滑膜の肥厚を特徴とする疾病ファミリーに適用される。この用語は、欧州において、若年性慢性関節炎および/または若年性特発性関節炎と呼ばれる疾病のファミリーとオーバーラップするが、完全に同義ではない。
【0102】
Jarvis(1998)およびその他(Arend,2001)は、成人および小児におけるリウマチ様疾患の病原が、自然免疫と適応免疫との間の複雑な相互作用を含むことを提唱した。この複雑さが、疾患の病原解明の困難さの中核をなしている。
【0103】
自然免疫系および適応免疫系は、いずれも、複数の細胞型、多数の細胞表面タンパク質および分泌型タンパク質、ならびにポジティブフィードバックおよびネガティブフィードバックの相互に連結されたネットワークを使用している(Lo et al.,1999)。さらに、思想的には分離可能であるが、免疫系の自然ウィングおよび適応ウィングは、機能的に交差しており(Fearon & Locksley,1996)、これらの交差点において起こる病理学的イベントは、成人型および小児型の慢性関節炎の病原の理解に高度に関連している可能性が高い(Warrington,et al.,2001)。
【0104】
多関節型JRAは、手の小関節を含む複数の関節(4箇所以上)における炎症および滑膜増殖を特徴とする明確な臨床亜型である(Jarvis,2002)。JRAのこの亜型は、複数の関節の関与、および経時的に急速に進行する能力の両方のため、重度となり得る。臨床的に明確ではあるが、多関節型JRAは均質ではなく、患者は、疾患の徴候、発症年齢、予後、および治療的応答に関して異なっている。これらの違いは、この疾患において起こり得る免疫および炎症発作の性質の変動スペクトルを反映する可能性が極めて高い(Jarvis,1998)。
【0105】
K. シェーグレン症候群
原発性シェーグレン症候群(SS)は、中年の女性に主に影響を与えるが(男女比1:9)、小児を含む全ての年齢において見られ得る、慢性の、進行の遅い、全身性の自己免疫疾患である(Jonsson et al.,2002)。それは、CD4+リンパ球、CD8+リンパ球、およびB細胞を含む単核細胞が浸潤する、外分泌腺のリンパ球浸潤および破壊を特徴とする(Jonsson et al.,2002)。さらに、腺外(全身性)徴候が、患者の3分の1に見られる(Jonsson et al.,2001)。
【0106】
腺へのリンパ球浸潤は、進行性の特色であり(Jonsson et al.,1993)、広範な場合、器官の大部分に取って代わる。興味深いことに、一部の患者における腺浸潤物は、(異所性胚中心と呼ばれる)唾液腺内の異所性リンパ様ミクロ構造に密接に類似している(Salomonsson et al.,2002;Xanthou & Polihronis,2001)。SSにおいて、異所性GCとは、濾胞性樹状細胞および活性化された内皮細胞のネットワークを含む、増殖性細胞のT細胞およびB細胞の凝集物として定義される。標的組織内に形成されたGC様構造は、自己抗体(抗Ro/SSAおよび抗La/SSB)の産生を含む機能的特性も描く(Salomonsson &,Jonsson,2003)。
【0107】
RAのような他の全身性自己免疫疾患においては、異所性GCのための重大な因子が同定されている。GCを有するリウマチ様滑膜組織は、ケモカインCXCL13、CCL21、およびリンホトキシン(LT)-βを産生することが示された(濾胞中心および外套帯B細胞に検出された)。これらのアナライトの多変数回帰分析は、CXCL13およびLT-βを、リウマチ様滑膜炎におけるGCを予測する孤立性のサイトカインとして同定した(Weyand & Goronzy,2003)。最近、SSにおいて、唾液腺内のCXCL13およびCXCR5が、B細胞およびT細胞を動員し、従って、リンパ新生および異所性GC形成に寄与することにより、炎症過程において本質的な役割を果たしていることが示された(Salomonsson & Larsson,2002)。
【0108】
L. 初期関節炎
異なる炎症性関節症の臨床症候が、疾患の初期には、類似している。結果として、関節炎が比較的一定の経過をたどる患者から、浸食性の関節傷害をもたら重度かつ持続性の滑膜炎を発症するリスクを有する患者を区別することは、困難であることが多い。そのような鑑別は、治療を適切に仕向け、浸食性の疾患を有するものは侵襲的に処置し、比較的一定の経過をたどる疾患を有する患者においては不必要な毒性を回避するために重大である。慢性関節リウマチ(RA)のような浸食性の関節症を診断するための現在の臨床基準は、初期の疾患においては効果が低く、関節数および急性期応答のような疾患活動性の伝統的なマーカーは、不良転帰を有する可能性が高い患者を十分に同定しない(Harrison & Symmons et al.,1998)。滑膜において起こる病理学的イベントを反映するパラメーターは、予後判定のために有意に有益である可能性が最も高い。
【0109】
初期炎症性関節炎の不良転帰の予測因子を同定するための最近の努力は、初期炎症性関節炎のコホートにおいて、RA特異的自己抗体、特に、シトルリン化ペプチドに対する抗体の存在が、浸食性かつ持続性の疾患に関連していることを同定した。これに基づき、環式シトルリン化ペプチド(CCP)が、患者の血清中の抗CCP抗体の同定を補助するために開発されている。このアプローチを使用して、抗CCP抗体の存在は、RAに特異的かつ高感度であることが示されており、RAを他の関節症から区別することができ、これらの転帰が臨床的に顕性になる前に、持続性、浸食性の滑膜炎を可能性として予測することができる(Schellekens et al.,2000)。重要なことに、抗CCP抗体は、臨床症状より何年も前に、血清中に検出可能であることが多く、このことは、それらが無症状免疫イベントを反映していることを示唆している(Nielen et al.,2004;Rantapaa-Dahlqvist et al.,2003)。
【0110】
異なる炎症性関節症の臨床症候は、疾患の初期には、類似している。結果として、関節炎が比較的一定の経過をたどる患者から、浸食性の関節傷害をもたらす重度かつ持続性の滑膜炎を発症するリスクを有する患者を区別することは、困難であることが多い。そのような鑑別は、治療を適切に仕向け、浸食性の疾患を有するものは侵襲的に処置し、比較的一定の経過をたどる疾患を有する患者においては不必要な毒性を回避するために重大である。慢性関節リウマチ(RA)のような浸食性の関節症を診断するための現在の臨床基準は、初期の疾患においては効果が低く、関節数および急性期応答のような疾患活動性の伝統的なマーカーは、悪い転帰を有する可能性が高い患者を十分に同定しない(Harrison et al.,1998)。滑膜において起こる病理学的イベントを反映するパラメーターは、予後判定のために有意に有益である可能性が最も高い。
【0111】
初期炎症性関節炎の悪い転帰の予測因子を同定するための最近の努力は、初期炎症性関節炎のコホートにおいて、RA特異的自己抗体、特に、シトルリン化ペプチドに対する抗体の存在が、浸食性かつ持続性の疾患に関連していることを同定した。これに基づき、環式シトルリン化ペプチド(CCP)が、患者の血清中の抗CCP抗体の同定を補助するために開発されている。このアプローチを使用して、抗CCP抗体の存在は、RAに特異的かつ高感度であることが示されており、RAを他の関節症から区別することができ、これらの転帰が臨床的に顕性になる前に、持続性、浸食性の滑膜炎を可能性として予測することができる。重要なことに、抗CCP抗体は、臨床症状より何年も前に、血清中に検出可能であることが多く、このことは、それらが無症状免疫イベントを反映していることを示唆している(Nielen et al.,2004;Rantapaa-Dahlqvist et al.,2003)。
【0112】
M. 乾癬
乾癬は、米国の人口の2〜2.6%または580〜750万人に影響を与えている鱗屑および炎症の慢性皮膚疾患である。この疾患は、全ての年齢群において起こるが、主として成人に影響を与える。それは男女にほぼ等しく現れる。皮膚細胞が、皮膚表面下の起源から急速に上昇し、成熟する機会を得る前に表面上に積み重なる時、乾癬が起こる。一般的に、(代謝回転とも呼ばれる)この移動には、約1ヵ月かかるが、乾癬においては、わずか数日でそれが起こり得る。典型的な型において、乾癬は、銀色の鱗屑により覆われた厚い赤色の(炎症を起こした)皮膚の斑をもたらす。プラークと呼ばれることもある、これらの斑は、一般的に、痒みまたは痛みを伴う。それらは、肘、膝、脚のその他の部分、頭皮、下背部、顔面、手掌、および足の裏に起こることが最も多いが、身体上のいかなる場所の皮膚にも起こり得る。この疾患は、爪、足の爪、ならびに性器および口内の軟部組織にも影響を与えることがある。影響を受けた関節の周囲の皮膚に亀裂が入ることは珍しくないが、乾癬を有するおよそ100万人が、関節炎の症状を生ずる関節の炎症を経験する。この状態は、乾癬性関節炎と呼ばれる。
【0113】
乾癬は、特に、T細胞と呼ばれる型の白血球が関与する、免疫系により駆動される皮膚障害である。通常、T細胞は、感染および疾患からの身体の防御を助ける。乾癬の場合、T細胞が誤作用し、他の免疫応答を誘発するほどに高活性となり、炎症および皮膚細胞の急速な代謝回転をもたらす。症例の約3分の1に、乾癬の家族歴が存在する。研究者は、乾癬により影響を受けた多数の家族を研究し、疾患と関係のある遺伝子を同定した。乾癬を有する人々は、皮膚が悪化し、次いで、改善する時があることに気づくかもしれない。再燃を引き起こし得る条件には、感染、ストレス、および皮膚を乾燥させる気候の変化が含まれる。高血圧のために処方されるリチウムおよびベータブロッカーを含む、ある種の医薬も、突発を誘発するかまたは疾患を悪化させることがある。
【0114】
N. 多発性硬化症
多発性硬化症(MSと略され、播種性硬化症または播種性脳脊髄症としても公知)は、免疫系が、中枢神経系を攻撃し、脱髄をもたらす、自己免疫状態である。疾患発症は、一般的に、青年において起こり、女性の方が一般的である。100,000人中2〜150人という範囲の有病率を有する。MSは、Jean-Martin Charcotにより1868年に最初に記載された。
【0115】
MSは、脳内および脊髄内の神経細胞の相互に連絡する能力に影響を与える。神経細胞は、ミエリンと呼ばれる絶縁物質により覆われた、軸索と呼ばれる長い繊維の下方へ、活動電位と呼ばれる電気信号を送ることにより連絡する。MSにおいては、身体の自己の免疫系がミエリンを攻撃し傷害を与える。ミエリンが失われると、軸索はもはや効果的にシグナルを伝導することができない。多発性硬化症という名称は、主としてミエリンから構成される脳および脊髄の白質における瘢痕(硬化−プラークまたは病変として、よりよく公知)をさす。疾患過程に関与している機序に関しては多くのことが公知であるが、原因は未知のままである。理論には、遺伝学または感染が含まれる。種々の環境的リスクファクターも見出されている。
【0116】
ほぼいかなる神経学的症状も、この疾患により出現する可能性があり、身体および認知の能力障害へと進行することが多い。MSは、不連続の発作において新たな症状が起こるもの(再発型)、または経時的に徐々に蓄積するもの(進行型)を含む、いくつかの型をとる。発作間に、症状が完全に消失することもあるが、特に、疾患が進行するにつれ、永久の神経学的問題が起こることが多い。
【0117】
MSのための公知の治療法は存在しない。処置は、発作後に機能を戻し、新たな発作を防止し、能力障害を防止することを試みる(下記の詳細な考察を参照のこと)。MSの薬物治療は、有害効果を有するかまたは低い耐容性を有することがあり、支持する科学研究が欠如しているにも関わらず、多くの患者が代替処置を追求する。予後は予測するのが困難であり;疾患の亜型、個々の患者の疾患の特徴、初期症状、および時が経つにつれ経験する能力障害の程度に依る。患者の平均余命は、影響を受けていない集団のものとほぼ同一である。
【0118】
MSの症状は、一般的に、突発性の急性の悪化期(再発、増悪、病期、もしくは発作)に出現するか、神経学的機能の徐進行性の劣化において出現するか、またはその両方の組み合わせで出現する。
【0119】
MSの最も一般的な症候は、最初のエピソードからなる症候群(clinically isolated syndrome:CIS)である。CISにおいて、患者は、脱髄を示唆する発作を有するが、多発性硬化症の基準を満たさない。CISを経験する者の30〜70%のみが、後にMSを発症する。この疾患は、一般的に、感覚症状(症例の46%)、視覚症状(33%)、小脳症状(30%)、および運動症状(26%)を呈する。失語症、精神病、およびてんかんを含む、多くの稀な初期症状も報告されている。最初に医療を求める患者は、一般的に、複数の症状を呈する。MSの初期の兆候および症状は、一過性で、軽度で、一定の経過をたどることが多い。これらの兆候および症状は、医療を求める動機とならないことが多く、時には、MSの診断がなされた後に初めて遡及的に同定される。MSの症例は、その他の原因のために実施された神経学的検査において偶発的に同定されることもある。そのような症例は、無症候性MSと呼ばれる。
【0120】
MSを有する者は、感覚の変化(知覚鈍麻および知覚異常)、筋力低下、筋痙攣、または移動困難;協調およびバランスの困難(運動失調);言語(構音障害)または嚥下(嚥下障害)の問題、視覚問題(眼振、視神経炎、または複視)、疲労、急性または慢性の疼痛、ならびに膀胱および腸の困難を含む、ほぼいかなる神経学的な症状または兆候にも罹患し得る。様々な程度の認知障害、および抑うつまたは不安定な気分といった情緒症状も、一般的である。能力障害の進行および症状の重度の主要な臨床的な測定法は、総合障害度評価尺度(Expanded Disability Status Scale)またはEDSSである。
【0121】
多発性硬化症の再発は、予測不能であって、警告なしに、明白な刺激因子なしに起こることが多い。しかしながら、一般的な誘発因子が発作に先行することがある。再発は、春および夏に、より頻発する。感冒、インフルエンザ、または胃腸炎のような感染は、再発のリスクを増加させる。ストレスも、発作を誘発し得る。妊娠は、再発感受性に影響を与えることがあり、例えば、最後の3か月間は保護を提供する。しかしながら、産後の最初の数か月間は、再発のリスクが増加する。全体として、妊娠は、長期的な能力障害に影響を及ぼさないようである。多くの可能性のある誘発因子が調査され、MS再発率に影響を及ぼさないことが見出されている。インフルエンザ、B型肝炎、水痘、破傷風、または結核のための予防接種が、再発のリスクを増加させるという証拠は存在しない。身体的外傷は再発を誘発しない。通常の外気温より高い温度への曝露は、現存の症状を増悪することがあり、この効果はウートフ現象として公知である。しかしながら、ウートフ現象は、確立された再発誘発因子ではない。
【0122】
いくつかの亜型または進行のパターンが記載されている。亜型は、将来の経過を予測する試みにおいて、疾患の過去の経過を使用する。それらは、予後判定のみならず、治療決断のためにも重要である。1996年に、United States National Multiple Sclerosis Societyは四つの亜型の定義を標準化した:再発・寛解型(relapsing remitting)、二次性進行型(secondary progressive)、一次性進行型(primary progressive)、および進行性再発型(progressive relapsing)。
【0123】
再発・寛解亜型は、予測不能の再発と、その後の、疾患活動性の新たな兆候がない、比較平穏な数ヶ月〜数年の期間(寛解)を特徴とする。発作中に被った欠陥は、消散することもあるし、または後遺症を残すこともある。これは、MSを有する個体の85〜90%の初期の経過を表す。欠陥が発作間に常に消散する場合、これは、良性MSと呼ばれることもある。
【0124】
二次性進行型MSとは、初期には、再発・寛解型MSを有し、次いで、明確な寛解期のない、急性発作の間の進行性の神経学的衰退を有するようになった者を表す。時々の再発および軽微な寛解が出現することもある。疾患発症から、再発・寛解型から二次性進行型MSへの転換までの時間の中央値は、19年である。
【0125】
一次性進行亜型は、初期MS症状の後に寛解を有しない、個体のおよそ10〜15%を表す。それは、寛解および改善が全くないかまたは時々で軽微でしかない、発症時からの能力障害の進行を特徴とする。一次性進行亜型の発症年齢は、その他の亜型より遅い。
【0126】
進行性再発型MSは、発症時から着実な神経学的衰退を有するのみならず、明瞭な重積発作にも苦しむ個体を表す。これは全ての亜型の中で最も少ない。
【0127】
非標準的な作用を有する症例も記載されている。境界型多発性硬化症と呼ばれることもあるが、これらには、デビック病、バロー同心円性硬化症、シルダーびまん性硬化症、およびマールブルグ多発性硬化症が含まれる。また、多発性硬化症は、小児においては異なって作用する。これらがMSの非定型の異型であるのか、それとも異なる疾患であるのか、については論争中である。
【0128】
多発性硬化症は、兆候および症状が他の多くの医学的問題に類似しているかもしれないため、診断するのが困難であり得る。医学的組織によって、開業医のため診断プロセスを容易にし標準化するための診断基準が作出されている。歴史的には、Schumacher基準およびPoser基準の両方が優勢であった。現在は、McDonald基準が、時間的および空間的なMS病変の多発性の臨床的データ、実験的データ、および放射線学的データによる証明に焦点を当てている。診断は、他の可能性のある状態が除外され、解剖学的にも時間的にも分離された脱髄イベントの証拠が存在するまで、なされ得ない。
【0129】
個体がMSに特徴的な神経学的症状の別々のエピソードに苦しんでいる場合には、臨床データ単独で、MSの診断のために十分であるかもしれない。ただ1回の発作の後に医療を求める人々もいるため、他の試験が、診断を早め、容易にすることもある。最も一般的に使用されている診断ツールは、神経画像化、脳脊髄液分析、および誘発電位である。脳および脊椎の磁気共鳴画像化は、脱髄の区域(病変またはプラーク)を示す。活動性のプラークを強調するため、ガドリニウムを造影剤として静脈内投与することができ、それを除去することにより、評価の時点での症状に関連しない過去の病変の存在を示すことができる。腰椎穿刺から入手された脳脊髄液の試験は、中枢神経系の慢性炎症の証拠を提供することができる。脳脊髄液は、MSを有する人々の75〜85%に見出される炎症マーカーであるオリゴクローナルバンドについて試験される。MSを有する者の神経系は、視神経および感覚神経の刺激に対する応答が弱いことがあるが、それは、そのような経路の脱髄のためである。これらの脳応答は、視覚および感覚の誘発電位を使用して検査することができる。
【0130】
MSは、現在、ウイルス性の病因を有するかもしれない、初期誘発因子による、免疫により媒介される障害であると考えられているが、この概念は長年議論されており、今なおそれに反対する者もいる。傷害は、患者の自己の免疫系により引き起こされると考えられる。免疫系は、恐らく、自己のものに類似している構造を有する分子への曝露の結果として、神経系を攻撃する。
【0131】
小脳の脳室に近い白質区域、脳幹、基底神経節、および脊髄;ならびに視神経が、最も一般的に、MS病変に関与する。白質細胞の機能は、処理がなされる灰白質区域と、身体の残りとの間でシグナルを伝達することである。末梢神経系はまれにしか関与しない。
【0132】
より具体的には、MSは、ニューロンが電気信号を伝達するのを助ける脂肪層(ミエリン鞘としても公知)の作出および維持を担う細胞であるオリゴデンドロサイトを破壊する。MSは、ミエリンの希薄化または完全な喪失をもたらし、疾患が進行するにつれ、ニューロンの伸張または軸索の切断(離断)をもたらす。ミエリンが失われると、ニューロンは、もはや効果的に電気信号を伝導することができない。疾患の初期には、再ミエリン化と呼ばれる修復過程が起こるが、オリゴデンドロサイトは細胞のミエリン鞘を完全には再構築し得ない。反復的な発作は、効果的な再ミエリン化を次第に少なくし、ついには、瘢痕様のプラークが、傷害を受けた軸索の周囲に成形される。四つの異なる病変パターンが記載されている。
【0133】
脱髄とは別に、疾患の他の病理学的な最大の特徴は炎症である。MSの厳密に免疫学的な説明によると、炎症過程は、リンパ球の一種、T細胞により引き起こされる。リンパ球とは、身体の防御において重要な役割を果たす細胞である。MSにおいて、T細胞は、T細胞の神経系への進入を防止するはずである毛細管系、血液脳関門を介して脳へと侵入する。関門を形成する密着結合の完全性を減少させる感染またはウイルスにより誘発されない限り、血液脳関門は、通常、これらの型の細胞にとって透過性ではない。一般的には感染またはウイルスが除去された後、血液脳関門がその完全性を回復する時、T細胞は脳の内部に閉じ込められる。T細胞は、ミエリンを外来のものとして認識し、あたかも侵入してきたウイルスであるかのように、それを攻撃する。これが、その他の免疫細胞、ならびにサイトカインおよび抗体のような可溶性因子を刺激して、炎症過程を誘発する。血液脳関門にリークが形成され、それが、膨潤、マクロファージの活性化、ならびにサイトカインおよびその他の破壊性タンパク質のさらなる活性化のような、多数のその他の傷害効果を引き起こす。
【0134】
多発性硬化症のための公知の治療法は存在しないが、いくつかの治療は有用であることが立証されている。治療の第一の目標は、発作後に機能を戻し、新たな発作を防止し、能力障害を防止することである。任意の医学的処置と同様に、MSの管理において使用される薬物治療はいくつかの有害効果を有する。支持する、比較可能で、再現された科学的研究は不足しているにも関わらず、代替処置を追求する患者もいる。
【0135】
症候性発作においては、メチルプレドニソロンのような静脈内副腎皮質ステロイドの高用量の投与が、急性再発のためのルーチンの治療である。この種の処置の目標は、発作をより早く終わらせ、患者に残る永続的な欠陥をより少なくすることである。一般に、短期的には、症状を軽減するために効果的であるが、副腎皮質ステロイド処置は、長期的な回復に有意な影響を及ぼさないようである。可能性のある副作用には、骨粗鬆症および記憶障害が含まれ、後者は可逆性である。
【0136】
疾患修飾処置は、高価であり、これらの大部分は頻繁な(毎日もの)注射を必要とする。1〜3ヶ月間隔でのIV注入を必要とするものもある。再発・寛解型MS(RRMS)の最も初期の臨床症候は、最初のエピソードからなる症候群(CIS)である。いくつかの研究は、初期発作中のインターフェロンによる処置が、患者が臨床的MSを発症する確率を減少させ得ることを示した。
【0137】
2007年の時点で、6種の疾患修飾処置が、RRMSのため、種々の国の規制当局により認可されている。3種がインターフェロンであり:2種はインターフェロンβ1aの製剤(商標Avonex、CinnoVex、ReciGen、およびRebif)、1種はインターフェロンβ1bの製剤(米国商標Betaseron、欧州および日本においてはBetaferon)である。第4の薬物治療はグラチラマー酢酸塩(Copaxone)である。第5の薬物治療ミトキサントロンは、米国においてのみ、概して二次性進行型MSのため認可された、癌化学療法においても使用される免疫抑制薬である。第6は、(Tysabriとして市販されている)ナタリズマブである。6種の薬物治療は、全て、発作の回数を減少させ、能力障害への進行を遅くすることにおいて中程度に効果的であるが、それらの有効率は異なり、長期的効果の研究が未だ不足している。免疫調整剤との比較(ミトキサントロン以外の全て)は、再発率低下および能力障害進行の停止の両方に関して、最も効果的であるのが、ナタリズマブであることを示し;それがMSの重度を低下させることも示された。ミトキサントロンは、それら全ての中で最も効果的であり得る;しかしながら、その使用は重度の心毒性により限定されるため、長期治療としては一般に考慮されない。
【0138】
インターフェロンおよびグラチラマー酢酸塩は、グラチラマー酢酸塩の1日1回からAvonexの週1回(筋肉内)まで、多様な頻繁な注射により送達される。ナタリズマブおよびミトキサントロンは、隔月でIV注入により与えられる。
【0139】
進行性MSの処置は、再発・寛解型MSより困難である。ミトキサントロンは、二次性進行型および進行性再発型の経過を有する患者において正の効果を示した。それは、短期追跡において、患者における疾患の進行および再発の頻度を低下させることにおいて中程度に効果的である。一次性進行型MSの経過を修飾することが立証されている処置は存在しない。
【0140】
任意の医学的処置と同様に、これらの処置は、いくつかの有害効果を有する。最も一般的なものの一つは、グラチラマー酢酸塩およびインターフェロンによる処置のための注射部位における刺激である。脂肪萎縮症として公知の、脂肪組織の局所的な破壊による、注射部位における可視の傷が、経時的に、発生し得る。インターフェロンはインフルエンザに類似した症状を生ずる;グラチラマーを投与された患者は、紅潮、胸部絞扼感、心臓動悸、呼吸困難、および不安により顕在化する注射後反応を経験することがあるが、それらの持続時間は、一般的に、30分未満である。より危険なのは、インターフェロンおよびミトキサントロンによる肝傷害、後者の免疫抑制効果および心毒性;ならびにナタリズマブと、進行性多巣性白質脳症のいくつかの症例との間の推定される関係である。
【0141】
疾患修飾処置は、疾患の進行速度を低下させるが、止めることはない。多発性硬化症が進行するにつれ、総体症状が増加する傾向がある。疾患は、ある範囲の進行性の障害および能力障害をもたらす多様な症状および機能的欠陥に関連している。従って、これらの欠陥の管理は極めて重要である。薬物治療および神経リハビリテーション(neurorehabilitation)は、両方とも、いくつかの症状の負荷を緩和することが示されているが、いずれも、疾患進行には影響を及ぼさない。神経学的欠陥を有する患者に関しては、集学的なアプローチが、能力障害の制限および克服のために不可欠である;しかしながら、MSを有する人々は、何らかの点において、ほぼ任意の健康専門職または健康サービスからの援助を必要とし得るため、「コアチーム」の指定が、特に困難である。同様に、各症状のため、異なる処置オプションが存在する。従って、処置は、患者および医師の両方に依って、個別化されるべきである。
【0142】
大部分の慢性疾患と同様に、支持する、比較可能で、反復された科学的研究は不足しているにも関わらず、代替処置を追求する患者もいる。例は、食事計画、症状の軽減を助けるための医療用大麻の使用を含む生薬、および高圧酸素療法である。太極拳のような武道、ヨガのようなリラクゼーション訓練、または一般的な運動の治療的実施は、疲労を和らげるようであるが、認知機能に対しては効果がない。
【0143】
II. 自己免疫疾患における診断的決定
本発明は、一つの局面において、上述のもののような自己免疫疾患についての診断を提供することができる。これは、医師が、オーバーラップする症状のセットを有する様々な疾患をより容易に識別し、それにより、患者の症状の根底にある生理学的基礎を正確に同定し、早期の介入および疾患管理に着手することを可能にするであろう。実際、多くの自己免疫疾患の処置は、進行を遅くし、症状を解決するが、疾患を防止したり治癒させることはないため、より重度の症状の発生を遅延させるためには、これらの疾患についての早期診断を提供する能力が重大である。さらに、不正確な診断に起因することがある「試行錯誤」なしに、症状を解決するための正確な薬物を患者に提供することができれば、医療費が有意に低下し、患者の不快および可能性のある危害が回避されるであろう。
【0144】
これらのアッセイは、全て、T細胞を含有している患者試料を利用するであろう。最も一般的に利用される生物学的試料は、T細胞が多く含まれることから、血液または血清であろう。しかしながら、涙、唾液、痰、脳脊髄液、精液、または尿のようなその他の試料も、同様に有用であることが判明するかもしれない。
【0145】
対象における自己反応性T細胞の存在の査定において、観察された反応性パターンは、標準物と比較され得る。標準物は、疾患対象および正常対象の両方について確立されたペプトイド結合の既知のパターンに頼ってもよく、従って、反応対照、即ち、陽性反応のために必要な試薬および条件が存在することを示す対照以外のものを使用者が準備する必要を取り除くことができる。あるいは、健常状態または疾患状態が既知である実際の者に由来する類似試料を含む実際の対照を実行することを選んでもよい。さらに、疾患進行の指標として、自己反応性T細胞の増加傾向について調べるため、経時的に同一の対象に由来する一連の試料を実行することもできる。
【0146】
本発明に従って自己反応性T細胞を検出するためには、多数の異なる方式が存在する。一つの型のアッセイは、少数を挙げるとすれば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、イムノラジオメトリックアッセイ、フルオロイムノアッセイ、化学発光アッセイ、生物発光アッセイ、FACS、FRET、およびウェスタンブロットのようなフォーマットを含む、抗体に基づくアッセイを含むか、またはそれらに基づきモデル化されるであろう。様々な免疫検出法の工程は、例えば、Doolittle and Ben-Zeev(1999)、Gulbis and Galand(1993)、De Jager et al.(1993)、およびNakamura et al.(1987)のような科学文献に記載されている。一般に、そのようなアッセイは、支持体上に配置されたペプトイドの使用を含むであろう。ペプトイドは、自己反応性T細胞集団についての関連リガンドとして以前に同定されているものであってもよいし、そうではなく、T細胞結合パターン全体が疾患または健常を予測する一連の特徴決定されていないペプトイドの一部であってもよい。
【0147】
固体支持体は、カラムマトリックス、ビーズ、フィルター、膜、スティック、プレート、またはウェルの形態であってよく、試料が、固定化されたペプトイドに適用されるであろう。試料に接触させた後、不要な(非特異的に結合した)成分を支持体から洗浄し、ペプトイドと複合体化したT細胞を残し、次いで、支持体に結合したT細胞上の表面マーカー(例えば、CD4、CD8)、または標識されたペプトイドを認識する抗体のその後の添加のような、様々な手段を使用して、それを検出する。
【0148】
効果的な条件の下で、ペプトイド-T細胞複合体の形成を可能にするのに十分な期間、選ばれた生物学的試料をペプトイドに接触させることとは、一般に、単純に、試料をペプトイドに接触させ、T細胞がペプトイドに結合するのに十分長い期間、混合物をインキュベートすることである。この時間の後、一般に、非特異的に結合した細胞種または砕片を除去し、固定化されたペプトイドに特異的に結合した細胞のみを検出することを可能にするため、プレート、フィルター、またはブロットのような試料-ペプトイド組成物を洗浄する。
【0149】
一般に、生物学的複合体形成の検出は、当技術分野において周知であり、多数のアプローチの適用を通して達成され得る。これらの方法は、一般に、放射性タグ、蛍光性タグ、生物学的タグ、および酵素タグのいずれかのような標識またはマーカーの検出に基づく。そのような標識の使用に関する特許には、米国特許第3,817,837号、第3,850,752号、第3,939,350号、第3,996,345号、第4,277,437号、第4,275,149号、および第4,366,241号が含まれる。当然、当技術分野において公知であるように、二次抗体のような二次結合リガンドおよび/またはビオチン/アビジンリガンド結合配置の使用が、さらに有利であることも見出され得る。
【0150】
様々なその他のフォーマットも企図され、当業者に周知である。本発明に直ちに適用可能であると考えられる三種の具体的なアッセイを、以下に記述する。
【0151】
A. ELISA
イムノアッセイは、最も単純で直接的な意味において、結合アッセイである。本発明において特に有用である、ある種のイムノアッセイは、当技術分野において公知の様々な型の酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)およびラジオイムノアッセイ(RIA)である。
【0152】
一つの例示的なELISAにおいては、本発明のペプトイドを、ポリスチレンマイクロタイタープレート内のウェルのような選択された表面に固定化する。次いで、T細胞を含有していると推測されるテスト組成物を、ウェルに添加する。結合および非特異的に結合した複合体を除去するための洗浄の後、結合したT細胞を検出することができる。検出は、検出可能標識に連結された別のペプトイドの添加により達成され得る。この型のアッセイは、標識された薬剤の結合がT細胞受容体の抗原結合部分において直接である以外は、単純な「サンドイッチELISA」と類似している。検出は、T細胞特異的な表面抗原に結合する、例えば、T細胞全般またはT細胞の特定のクラスに特有の構造を認識する、標識された抗体の添加によっても達成され得る。任意で、抗体を標識せず、その後、検出可能標識に連結された、一次抗体(Fc)に対する結合親和性を有する二次抗体を添加してもよい。
【0153】
別の例示的なELISAにおいては、T細胞を含有していると推測される試料を、ウェル表面に固定化し、次いで、本発明の標識されたペプトイドに接触させる。結合および非特異的に結合した免疫複合体を除去するための洗浄の後、結合した標識されたペプトイドを検出する。
【0154】
利用されるフォーマットに関係なく、ELISAは、コーティング、インキュベーションおよび結合、非特異的に結合した種を除去するための洗浄、ならびに結合した免疫複合体の検出のような、ある種の共通の特色を有する。ペプトイドは、その単純で予測可能な化学のため、特定の化学反応によって支持体に付着させられ得る。
【0155】
「免疫複合体形成を可能にするのに効果的な条件の下で」とは、条件が、好ましくは、BSA、ウシγグロブリン(BGG)、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)/Tweenのような溶液によるT細胞の希釈を含むことを意味する。これらの添加される薬剤は、非特異的なバックグラウンドの低下も補助する傾向がある。「適当な」条件とは、インキュベーションが、効果的な結合を可能にするのに十分な温度または期間でなされることも意味する。インキュベーション工程は、典型的には、約1〜2時間から4時間程度まで、好ましくは、およそ25℃〜27℃の温度でなされ、または一夜、約4℃程度でなされてもよい。
【0156】
ELISAにおける全てのインキュベーション工程の後、接触させた表面を、非複合体化材料を除去するために洗浄する。好ましい洗浄法には、PBS/Tweenまたはホウ酸緩衝液のような溶液による洗浄が含まれる。テスト試料と、最初に結合していた材料との間の特異的な免疫複合体の形成、およびその後の洗浄の後、たとえ微量であっても免疫複合体の存在が決定され得る。
【0157】
検出は、適切な発色性基質と共にインキュベートした時に、発色を生ずる酵素を利用してもよい。従って、例えば、その免疫複合体の発達に好都合の期間および条件で、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはペルオキシダーゼとコンジュゲートした抗体もしくはペプトイドと、免疫複合体を接触させるか、または共にインキュベートすることが望ましい(例えば、PBS-TweenのようなPBS含有溶液における室温での2時間のインキュベーション)。
【0158】
標識された抗体またはペプトイドとのインキュベーションの後、未結合の材料を除去するための洗浄に続き、例えば、尿素もしくはブロモクレゾールパープル、またはペルオキシダーゼが酵素標識である場合には2,2'-アジノ-ジ-(3-エチル-ベンゾチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)もしくはH2O2のような発色性基質とのインキュベーションにより、標識の量を定量化する。次いで、例えば、可視スペクトル分光光度計を使用して、生成した色の程度を測定することにより、定量化を達成する。
【0159】
B. 量子ドット
後述されるように、本発明は、本発明のある種の局面において細胞集団を標識するため、量子ドットを有利に使用する。量子ドットとは、励起子が、三つ全ての空間的次元において制限されている半導体である。結果として、それらは、バルク半導体のものと、不連続分子のものとの中間の特性を有する。それらは、当時Bell LabsにいたLouis E.Brusにより発見された。研究者は、トランジスター、太陽電池、LED、およびダイオードレーザーにおいて量子ドットを研究している。量子ドットは、医学的画像化のための薬剤としても調査されており、キュービットとして使用されることが望まれる。
【0160】
量子ドットを作製するためのいくつかの方式が存在する。一般に、量子ワイヤ、量子井戸、および量子ドットは、化学的方法もしくはイオン注入により作製されたナノ結晶において、または最先端リソグラフィー技術により作成されたナノ装置において、高度エピタキシャル(advanced epitaxial)技術により成長させられる。
【0161】
コロイド半導体ナノ結晶は、伝統的な化学的過程と同様に、溶液に溶解した前駆化合物から合成される。コロイド量子ドットの合成は、前駆物質、有機界面活性剤、および溶媒から構成される三成分系に基づく。反応媒体を十分に高い温度に加熱すると、前駆物質が化学的にモノマーへ変換される。モノマーが十分に高い過飽和レベルに到達すると、ナノ結晶成長が核形成過程から始まる。成長過程中の温度は、ナノ結晶成長のための最適条件を決定するための重大因子のうちの一つである。それは、合成過程中の原子の再配置およびアニーリングを可能にするのには十分に高く、結晶成長を促進するのには十分に低くなければならない。ナノ結晶成長中に厳密に制御されなければならない別の重大因子は、モノマー濃度である。ナノ結晶の成長過程は、二つの異なる型「フォーカシング」および「デフォーカシング」で起こり得る。高いモノマー濃度では、臨界サイズ(ナノ結晶が成長もしないし縮小もしないサイズ)が比較的小さく、ほぼ全ての粒子が成長する。この型においては、より小さな粒子は、大きい粒子より速く成長し(より大きな結晶は小さな結晶より多くの原子を成長するために必要とするため)、ほぼ単分散の粒子を与えるサイズ分布の「フォーカシング」がもたらされる。存在する平均ナノ結晶サイズが臨界サイズより常にわずかに大きいよう、モノマー濃度が維持された場合、サイズフォーカシングは最適となる。モノマー濃度が成長中に枯渇した場合、臨界サイズが、存在する平均サイズより大きくなり、オストワルド熟成の結果として、分布の「デフォーカシング」が起こる。
【0162】
セレン化カドミウム、硫化カドミウム、砒化インジウム、およびリン化インジウムを含む種々の半導体を作製するためのコロイド法が存在する。これらの量子ドットは、10〜50原子の直径を有する量子ドット体積内に100〜100,000個の原子しか含有し得ない。これは、約2〜10ナノメートルに相当し、10nmの直径では、ほぼ300万個の量子ドットを一列に並べ、ヒトの親指の幅に適合させることができる。
【0163】
大量の量子ドットが、コロイド合成を介して合成され得る。コロイド合成は、現在のところ、最も安価であり、ベンチトップ条件で実施され得るという利点を有する。それは、全ての異なる型の合成の中で最も低毒性であることが認められている。
【0164】
自己集合した量子ドットは、典型的には、10〜50nmのサイズである。リソグラフィーによりパターン化されたゲート電極により、または半導体ヘテロ構造における二次元電子ガス上でのエッチングにより画定された量子ドットは、100nmを越える横寸法を有し得る。
【0165】
ある量子ドットは、より大きなバンドギャップを有する別の材料に埋め込まれた一つの材料の小さな領域である。これらは、いわゆるコアシェル構造であり得、例えば、コアにCdSeを有し、シェルにZnSを有するか、またはオルモシル(ormosil)と呼ばれる特別な型のシリカに由来し得る。
【0166】
量子ドットは、ウェルの厚みにおける単層変動のため、量子井戸構造で自然に発生することがある。
【0167】
分子線エピタキシー(MBE)および有機金属気相エピタキシー(MOVPE)において、ある種の条件の下では、材料が格子不整合の基質上で成長する時、自己集合した量子ドットが自然に核形成する。得られた歪みは、二次元「湿潤層」の上に、コヒーレントに(coherently)歪んだアイランドを生ずる。この成長モードは、ストランスキ・クラスタノフ(Stranski-Krastanov)成長として公知である。アイランドは、その後、量子ドットを形成するため、埋め込まれ得る。この製作法は、量子暗号(即ち、単一光子源)および量子計算における適用の可能性を有する。この方法の主要な限界は、製作のコスト、および個々のドットの位置付けの制御の欠如である。
【0168】
個々の量子ドットは、遠隔ドープされた量子井戸または横方向量子ドットと呼ばれる半導体ヘテロ構造に存在する二次元電子ガスまたはホールガスから作出され得る。試料表面は、レジストの薄層によりコーティングされる。次いで、横方向パターンが、電子ビームリソグラフィーによりレジストにおいて画定される。次いで、このパターンが、エッチングまたは電子ガスと電極との間への外部電位の適用を可能にする金属電極の沈着により(リフトオフ(lift-off)過程)、電子ガスまたはホールガスに移され得る。そのような量子ドットは、主に、電子またはホールの輸送、即ち、電流を含む実験および適用にとって興味深い。
【0169】
量子ドットのエネルギースペクトルは、幾何学的サイズ、形、および制限ポテンシャルの強度を制御することにより操作され得る。また、原子とは対照的に、トンネルバリアにより量子ドットを伝導動線に接続することは比較的容易であり、従って、それらの調査のためのトンネル分光法の技術の適用が可能である。量子ドットにおける制限は、(外部電極、ドープ、歪み、または不純物により生じた)静電ポテンシャルからも発生し得る。
【0170】
電気化学的技術により、量子ドットの高度に規則正しいアレイを自己集合させることもできる。金属上で量子ドットを含むナノストラクチャーの自発的集合をもたらす電解液-金属界面におけるイオン反応を引き起こすことにより鋳型が作出され、次いで、その金属が、選ばれた基質上でのこれらのナノストラクチャーのメサエッチングのためのマスクとして使用される。
【0171】
従来の小規模な量子ドット製造は、「高温二重射出」と呼ばれる過程に頼っていたが、これは大量の量子ドットを必要とする大部分の商業的適用にとっては非実用的である。より大量の一貫した高品質の量子ドットを作出するための再現性のある方法は、分子クラスターの完全性が維持され、予め製作された種鋳型として機能するような条件の下で、分子クラスター化合物の存在下で、化学的前駆物質からナノ粒子を作製することを含む。クラスター化合物の個々の分子は、ナノ粒子成長が開始し得る種または核形成点として機能する。このように、適当な核形成部位が分子クラスターにより系内に既に提供されているため、高温核形成工程はナノ粒子成長を開始させるのに必要でない。この方法の有意な利点は、高度に大規模化可能であるという点である。
【0172】
現代の生物学的分析においては、様々な種類の有機色素が使用されている。しかしながら、年々、さらなる柔軟性がこれらの色素に要求されるようになってきており、伝統的な色素はその期待に応えられないことが多い。このため、量子ドットは、急速に代用されるようになり、いくつかの点で伝統的な有機色素より優れていることが見出された。その中で最も直ちに明白なものの一つは、(高い量子収量による)明るさ、および(はるかに少ない光退色を可能にする)安定性である。量子ドットは、伝統的な蛍光性レポーターより20倍明るく、100倍安定していると推定されている。単一粒子の追跡のためには、量子ドットの不規則な明滅が、軽微な欠点である。
【0173】
高感度の細胞画像化のための量子ドットの使用は、過去十年で大きく進歩した。量子ドットの改善された光安定性は、例えば、高分解能三次元画像へ再構築され得る、多くの連続する焦点面画像の取得を可能にする。量子ドットプローブの極めて高い光安定性を活用する別の適用は、長期間にわたる分子および細胞のリアルタイム追跡である。研究者は、4ヶ月以上にわたり、マウスのリンパ節に量子ドットを観察することができた。
【0174】
半導体量子ドットは、予め標識された細胞のインビトロの画像化のためにも利用されている。リアルタイムで単細胞遊走を画像化する能力は、胚形成、癌転移、幹細胞治療薬、およびリンパ球免疫学のようないくつかの研究領域にとって重要であると予想される。
【0175】
C. 検出キット
さらなる態様において、本発明は、上記方法と共に使用するための検出キットに関する。本発明に係るペプトイドが、キットに含まれるであろう。従って、キットは、検出試薬および/または支持体に任意で連結されていてもよい、自己反応性T細胞に結合する一つまたは複数のペプトイドを、適当な容器手段の中に含むであろう。
【0176】
ペプトイドが固体支持体に予め結合させられる、ある種の態様においては、支持体が提供され、それには、カラムマトリックス、ビーズ、スティック、またはマイクロタイタープレートのウェルが含まれる。キットの免疫検出試薬は、所定のペプトイドまたは抗体と会合したまたは連結された検出可能標識を含む、多様な型をとることができる。例示的な抗体は、T細胞受容体上の表面抗原に対する結合親和性を有するものである。
【0177】
キットの容器手段には、一般に、ペプトイドを置くことができ、好ましくは、適当に分注することができる、少なくとも一つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、注射器、またはその他の容器手段が含まれると考えられる。本発明のキットは典型的には、ペプトイド、抗体、およびその他の任意の試薬を含有するための手段、販売のために密封された容器も含むと考えられる。そのような容器には、所望のバイアルが保持される、射出成形または吹き付け成形されたプラスチック容器が含まれ得る。
【0178】
III. 治療
本発明は、自己反応性T細胞に対する結合特異性を有するペプトイドの、処置に関連した使用を企図する。自己免疫疾患においては、身体の自己の免疫応答が自己に向かっている。この過程は、ある種のT細胞が宿主の自己抗原に感作されることにより開始するが、これは、健常対象においては起こらない過程である。選択的に、即ち、正常な免疫監視および活性のために必要な他のT細胞に影響を与えることなく、これらの自己反応性T細胞を低下させるかまたは排除することができれば、自己免疫疾患の症状が、完全には排除されないにしても、少なくとも軽減されるはずである。
【0179】
A. T細胞を排除するための接着に基づく方法
一つの態様において、自己反応性T細胞に対する立証された特異性を有するペプトイドによりコーティングされた支持体が、自己免疫疾患に罹患した対象の血液を「パニング」するために使用され得ることが提唱される。このアプローチは、癌治療のような他の状況または幹細胞の収集において適用されるパラメーターに従い、かつそれらにおいて適用されるのと同一の白血球除去用装置を使用すると考えられる。
【0180】
より一般に、白血球除去は、白血球が血液試料から分離される実験手技である。これは、癌(白血病)を有する個体における極めて高い白血球数を減少させるため、または輸血用に白血球を除去するため、行われ得る。あるいは、リンパ球数をほぼ変化させることなく、顆粒球、マクロファージ、および単球のみを除去することができる。これは、これらの細胞が炎症過程において活発な役割を果たしている、潰瘍性大腸炎および慢性関節リウマチのような自己免疫疾患のための処置として使用される。
【0181】
ペプトイドを支持体に結合させ、該支持体を横切るように血液を通過させ、自己反応性T細胞を支持体に結合させ、自己反応性T細胞を試料から除去した後に、血液を患者に戻す。対照的に、ペプトイドに結合しないT細胞は、結合せず、患者に戻されるであろう。血液は静脈内ラインを介して患者から入手され、一般的には反対の腕に、同様に戻される。血液は典型的には、支持体を横切るようにポンプによって駆動される。手技の典型的な所要時間は3〜4時間である。
【0182】
B. 毒素およびイムノコンジュゲートによる治療
別の態様において、本発明のペプトイドは、それらが結合するT細胞へと特異的にペイロードを送達するためのターゲティング剤として使用される。一つの態様において、ペイロードは、毒素であり得、それは標準的な架橋化学を使用して、ペプトイドに付着させられ得る。さらに後述されるように、毒素は多様な型および作用を有する。別のオプションは、T細胞へのターゲティングのため、免疫エフェクターをペプトイドに連結することである。一つのそのような免疫効果は、IgG Fc含有分子である。Fc含有分子の考察も、以下に提供される。
【0183】
多様なリンカーのうちの任意のものが、ペプトイドの接合をもたらすために利用され得る。ある種のリンカーは、一般に、異なる薬理学的な特徴および能力に基づき、その他のリンカーより好ましいであろうが、一般に、アビジン-ビオチン結合、アミド結合、エステル結合、チオエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ホスホエステル(phosphoester)結合、ホスホルアミド結合、無水物結合、ジスルフィド結合、イオン性相互作用、および疎水性相互作用のような、当業者に公知の任意の連結/カップリング剤が、本発明のペプトイドを毒素と化合させるために使用され得る。
【0184】
(表1)ヘテロ二官能性クロスリンカー

【0185】
例示的なヘテロ二官能性クロスリンカーは、二つの反応性基:一級アミン基と反応する反応性基(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド)、およびチオール基と反応する反応性基(例えば、ピリジルジスルフィド、マレイミド、ハロゲン等)を含有している。一級アミン反応性基により、クロスリンカーが、一つのタンパク質(例えば、選択された抗体または断片)のリジン残基と反応し、チオール反応性基により、第一のタンパク質と既に結ばれたクロスリンカーが、他方のタンパク質(例えば、選択剤)のシステイン残基(遊離スルフヒドリル基)と反応する。
【0186】
特に、適切な血中安定性を有するクロスリンカーが利用されると考えられる。ターゲティング剤と治療/防止剤とをコンジュゲートするために成功裡に利用され得る、多数の型のジスルフィド結合含有リンカーが公知である。立体的に障害されたジスルフィド結合を含有しているリンカーは、より高いインビボ安定性を与え、作用部位への到達前のターゲティングペプチドの放出を防止することが判明するかもしれない。従って、これらのリンカーは連結剤の一つの群である。
【0187】
別の架橋試薬は、隣接したベンゼン環およびメチル基により「立体的に障害された」ジスルフィド結合を含有している二官能性クロスリンカーであるSMPTである。ジスルフィド結合の立体障害は、組織内および血中に存在するかもしれないグルタチオンのようなチオラートアニオンによる攻撃から結合を防御し、それにより、付着した薬剤が標的部位へ送達される前にコンジュゲートのデカップリングが起こるのを防止するのを助ける機能を果たすと考えられる。
【0188】
SMPT架橋試薬は、他の多くの公知の架橋試薬と同様に、システインまたは一級アミンのSH(例えば、リジンのεアミノ基)のような官能基を架橋する能力を与える。別の可能性のあるクロスリンカーの型には、スルホスクシンイミジル-2-(p-アジドサリチルアミド)エチル-1,3'-ジチオプロピオネートのような切断可能なジスルフィド結合を含有しているヘテロ二官能性光反応性フェニルアジドが含まれる。N-ヒドロキシ-スクシンイミジル基は一級アミノ基と反応し、フェニルアジド(光分解時)は、任意のアミノ酸残基と非選択的に反応する。
【0189】
障害されたクロスリンカーに加え、障害のないリンカーも、それに応じて利用され得る。保護されたジスルフィドを含有しないかまたは生じないと考えられる、その他の有用なクロスリンカーには、SATA、SPDP、および2-イミノチオランが含まれる(Wawrzynczak & Thorpe,1986)。そのようなクロスリンカーの使用は、当技術分野においてよく理解されている。別の態様は、フレキシブルリンカーの使用を含む。
【0190】
米国特許第4,680,338号は、特に、キレート化剤、薬物、酵素、検出可能標識等との抗体コンジュゲートの形成のため、リガンドと、アミンを含有するポリマーおよび/またはタンパク質とのコンジュゲートを作製するために有用な二官能性リンカーを記載している。米国特許第5,141,648号および第5,563,250号は、多様な温和な条件の下で切断可能な不安定な結合を含有している切断可能なコンジュゲートを開示している。このリンカーは、関心対象の薬剤をリンカーに直接結合させることができ、その切断により活性剤が放出されるため、特に有用である。好ましい使用には、抗体のようなタンパク質または薬物への遊離アミノ基または遊離スルフヒドリル基の付加が含まれる。
【0191】
米国特許第5,856,456号は、融合タンパク質、例えば、単鎖抗体を作成するためのポリペプチド成分の接続において使用するためのペプチドリンカーを提供する。リンカーは約50アミノ酸までの長さで、電荷を有するアミノ酸(好ましくは、アルギニンまたはリジン)とそれに続くプロリンの少なくとも一つの存在を含有しており、より高い安定性および低下した凝集を特徴とする。米国特許第5,880,270号は、多様な免疫診断技術および分離技術において有用なアミノオキシ含有リンカーを開示している。
【0192】
ある細胞環境において優先的に位置するかまたは活性である酵素の切断部位を含むペプチドリンカーも企図される。そのようなペプチドリンカーの例示的な型は、ウロキナーゼ、プラスミン、トロンビン、第IXa因子、第Xa因子、またはコラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、もしくはストロメライシンのようなメタロプロテイナーゼにより切断されるものである。
【0193】
しかしながら、ペプトイドは、合成であるため、ペプチドおよびタンパク質と比較してより単純でより効果的な付着点の組み込みのための独特の機会も提供する。
【0194】
1. 毒素
多様な生物学的毒素が本発明に従い使用され得る。「生物毒素」という用語は、本明細書において使用されるように、生物学的起源の毒素をさす。微生物により産生される毒素は、微生物の病原性および/または宿主免疫応答の回避を担う重要な病原性決定基である。生物毒素は、目的および機序が極めて多様であり、高度に複雑であるか(コーンスネールの毒液は、多数の小さなタンパク質を含有しており、その各々が特異的な神経チャンネルもしくは受容体を標的とする)、または比較的小さなタンパク質であり得る。自然界の生物毒素は、捕食(クモ、ヘビ、サソリ、クラゲ、スズメバチ)および防御(ハチ、アリ、シロアリ、ミツバチ、スズメバチ、ヤドクガエル(poison dart frog))という二つの主要機能を有する。さらなる周知の生物毒素の型のいくつかには、シアノトキシン(ラン藻により産生される)、血液毒(赤血球を標的とし破壊する;ガラガラヘビのようなマムシ)、ネクロトキシン(necrotoxin)(壊死を引き起こす;ドクイトグモ、「パフアダー」−ビチス・アリエタンス(Bitis arietans))、神経毒(クロゴケグモ、サソリ、アンドンクラゲ)が含まれる。
【0195】
本発明において特に興味深いのは、トウゴマ植物由来のリシンのような細胞毒である。クロストリジウム:テタニ(tetani)(テタノスパスミン)、パーフリンゲンス(perfringens)(α毒素、エンテロトキシン)、ディフィシル(difficile)(A、B)、ボツリナム(botulinum)(ボトックス)、スタフィロコッカス(S.アウレウス(aureus)α/β/δ、エクスフォリアチン、毒素性ショック症候群毒素、SEB)に由来するもの、ならびに炭疸毒素、リステリオリジンO、ストレプトリジン、ロイコシジン(パントン・バレンタイン型ロイコシジン)、コードファクター、ジフテリア毒素、志賀毒素、ベロ毒素/志賀様毒素(大腸菌)、大腸菌耐熱性エンテロトキシン/エンテロトキシン、コレラ毒素、百日咳毒素、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素、細胞外アデニル酸シクラーゼI型(スーパー抗原)、II型(ポア形成毒素)、III型(AB毒素/AB5)、リポ多糖(リピドA)、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)δ内毒素、クランピング因子A、およびフィブロネクチン結合タンパク質Aを含む細菌毒素も、有用である。
【0196】
タンパク質の発色団支援光不活化(Chromophore assisted light inactivation)(CALI)は、光を使用して、高度に反応性の種(しばしば一重項酸素)を発色団(ウォーヘッド)から生成させることを含む。反応性種は、標的タンパク質に傷害を与え、その生物学的機能を不活化する。これらの分子は、タンパク質の機能をノックアウトするために使用され得る。
【0197】
本発明者らによる実験は、ルテニウムに基づく発色団が効果的なウォーヘッドであることを示した。ルテニウム発色団は、細胞内に入り、標的を不活化し、それにより、インビボおよびエクスビボで、生細胞のCALI処置を可能にすることが証明された。
【0198】
2. Fc含有分子
二価である抗体は、4本のポリペプチド鎖−可変領域を有する2本の短いセグメント、ならびに可変領域および定常領域の両方を有する2本のより長いセグメントから構成される。長鎖および短鎖がジスルフィド結合を介して相互作用し、普通の抗体の半分を構成し、可変部(Fvまたは可変フラグメント)が抗原結合を担う。二つの抗体の半分が、Fc(結晶化可能フラグメント)部において別個のジスルフィド結合を介して相互作用する。
【0199】
Fc部分は、様々な細胞受容体および補体タンパク質のような免疫分子との結合のような免疫細胞活性のモジュレーションにおいて重要な役割を果たす。これを行うことにより、それは、肥満細胞、好塩基球、および好酸球のオプソニン作用、細胞溶解、および脱顆粒を含む種々の生理学的効果を媒介する。特に、それは、他の免疫成分による破壊のために細胞をマークすることができる。本発明は、T細胞を破壊の標的とするため、抗体またはそのFc含有断片を利用しようとする。
【0200】
使用され得る一つの具体的な技術は、Popkovら(2009)により記載されている。著者らは、インテグリンα(v)β(3)およびα(v)β(5)アダプターリガンドを含有するよう抗体を操作した。それは、自己集合し、これらの標的を有する移植された腫瘍に対する、即時型の化学的にプログラムされたポリクローナル応答を開始した。有意な治療的応答が、アジュバント治療に頼ることなく、観察された。化学的にプログラムされた免疫応答は、抗体依存性細胞障害性および補体依存性細胞障害性により駆動された。これは、結合特異性の方向を変えることにより抗体を「ハイジャック」する低分子リガンドの能力を証明している。
【0201】
C. 組み合わせ治療
上述の治療は、自己免疫疾患の処置のための別の薬剤と組み合わせて投与されてもよい。薬剤を組み合わせることにより、単独治療に関連した毒性(もしあれば)を増加させないまま、相加効果が達成され得る。さらに、相加効果以上のもの(「相乗効果」)が観察される可能性もある。従って、組み合わせ治療は、新たな治療計画を開拓するための一般的な方式である。
【0202】
ペプトイド処置は、他の薬剤と同時であってもよいし、かつ/または数分から数週までの範囲の間隔で前後してもよい。ペプトイド処置および他の薬剤が適用、投与される態様においては、一般に、ペプトイド処置および他の薬剤が、有利に組み合わせられた効果を対象に対して発揮することができるよう、各送達時点の間に有意な期間が空かないことが確実にされるであろう。例えば、そのような場合、2種、3種、4種、またはそれ以上のモダリティが、ペプトイド処置と実質的に同時に(即ち、約1分以内に)提供されることが企図される。その他の局面において、一つまたは複数の薬剤は、ペプトイド投与の前かつ/または後に、実質的に同時に、約1分、約5分、約10分、約20分、約30分、約45分、約60分、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約22時間、約23時間、約24時間、約25時間、約26時間、約27時間、約28時間、約29時間、約30時間、約31時間、約32時間、約33時間、約34時間、約35時間、約36時間、約37時間、約38時間、約39時間、約40時間、約41時間、約42時間、約43時間、約44時間、約45時間、約46時間、約47時間、約48時間、約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、約14日、約15日、約16日、約17日、約18日、約19日、約20日、約21日、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、または約8週間、またはそれ以上、およびその中から導出され得る任意の範囲の内に投与され得る。
【0203】
ペプトイド処置と一つまたは複数の薬剤との様々な組み合わせ計画が利用され得る。そのような組み合わせの非限定的な例を、以下に示す(式中、ペプトイド処置が「A」であり、第二の薬剤が「B」である):

【0204】
このように、本発明のペプトイド治療は、様々な抗炎症処置および免疫抑制処置を含む、上述の障害の処置のために使用される他の治療と併用され得る。
【実施例】
【0205】
IV. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を示すために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施においてよく機能することが本発明者らによって発見された技術を表し、従って、その実施のための好ましいモードを構成すると考えられることが、当業者によって認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示を考慮すれば、開示された具体的な態様に多くの変化を施しても、本発明の本旨および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似した結果を入手し得ることを、認識するべきである。
【0206】
実施例1−方法
ペプトイドライブラリー合成。ペプトイドライブラリーの設計に関する詳細は、以前に発表されている(Udugamasooriya et al.,2008)。簡単に説明すると、ライブラリーを、TentaGelマクロビーズ(直径140〜170μM;置換率:0.48mmol/g樹脂;Rapp Polymere)上で合成した。ライブラリーの合成は、262,144化合物という理論上の多様性をもたらす8種の異なるアミンを使用して実施された。マイクロ波(1000W)支援合成プロトコルおよびスプリット・プール(split and pool)法(Olivos et al.,2002)を使用して、9残基長ライブラリーを合成した。ライブラリー合成の完了時、ビーズを、2時間、95%TFA、2.5%トリイソプロピルシラン、および2.5%水の混合物により、側鎖保護基を除去するために処理し、次いで、10%ジイソプロピルエチルアミンを含むDMFにより中和した。ビーズを、ジクロロメタンにより洗浄し、乾燥させ、使用時まで4℃で保存した。
【0207】
可溶性ペプトイドの再合成。ペプトイドリガンドおよびスクランブル対照ペプトイドの再合成は、標準的なマイクロ波支援プロトコル(Olivos et al.,2002)を使用して、KnorrアミドMBHA樹脂(Novabiochem)上で実施された(1000Wマイクロ波オーブン、10%の力を、15秒間、2回伝送、間に軽く混合した)。その後、ビオチン化ペプトイドおよびビオチン-DOPAペプトイドのため、Fmoc-Glu(biotinyl-PEG)-OH(Novabiochem)およびFmoc-DOPA(Novabiochem)を、Fmoc化学(Udugamasooriya et al.,2008)を使用した標準的なペプチド合成プロトコルにより、KnorrアミドMBHA樹脂上でカップリングした。標準的なマイクロ波支援プロトコルを、上記のような分子のペプトイド部分を作出するために使用した。95%TFA、2.5%トリイソプロピルシラン、および2.5%水により、2時間、樹脂からペプトイドを切断し、Waters Breeze HPLC系を使用して精製した。ペプトイドの質量を、MALDI-Voyager DE Pro質量分析計を使用して検出した。
【0208】
マウス。雌B10.PLマウスおよび2D2 MOG 35-55 TCRトランスジェニックマウスは、Jackson Laboratories(Bar Harbor,ME)から購入され、Institutional Animal Care and Use Committeeに従って、University of Texas Southwestern Medical Center(Dallas,TX)の連邦政府によって認可された動物施設において維持された。B10.PL Vα2.3Vβ8.2 TCRトランスジェニックマウスは、Olaf Stuve博士(UT Southwestern Medical Center,Dallas,TX)から厚意により寄贈され、交配され、当動物施設において維持された。実験が実施された時、全てのマウスが7〜10週齢であった。
【0209】
EAE誘導。完全フロイントアジュバントで乳化した50μgのミエリン塩基性タンパク質ペプチドMBP Ac1-11を側腹部の4箇所に皮下注射することにより、WT B10.PLマウスにおいてEAEを誘導した。免疫感作時および48時間後に腹腔内注射により百日咳毒素を投与した。マウスを、EAEの臨床兆候について毎日モニタリングし、以下の基準に基づく臨床スコアを与えた:0=疾患なし、1=尾の引きずり、2=後肢虚弱、3=重度の後肢虚弱/部分麻痺、4=後肢麻痺、5=瀕死、6=EAEによる死亡(Racke,2001)。
【0210】
CD4+T細胞単離。EAEマウス、WTマウス、またはTCRトランスジェニックマウスから脾臓およびリンパ節を単離し、70μmナイロンセルストレーナー(BD Biosciences)に通すことにより、単細胞懸濁物を作成した。次いで、CD4+T細胞を、製造業者の説明に従って、CD4+T細胞濃縮キット(BD Biosciences)を使用して、ネガティブセレクションにより単離した。簡単に説明すると、ビオチン化マウスCD4+Tリンパ球濃縮カクテルを、細胞懸濁物に添加した。このカクテルの添加は、赤血球およびCD4+T細胞でない白血球の標識をもたらす。洗浄後、磁性ストレプトアビジン粒子を懸濁物に添加し、全ての標識された細胞を磁石に向かって遊走させ、懸濁物中に未標識CD4+T細胞を残した。CD4+T細胞を保持し、全ての他の細胞を廃棄した。単離後、下流の適用のため、細胞を洗浄し、計数し、完全RPMI 1640培地に再懸濁させた。
【0211】
フローサイトメトリー結合アッセイ。TCRトランスジェニックマウスおよびWT対照に由来するCD4+T細胞の単離の後、細胞を洗浄し、0.1%PBS/BSA(FACS緩衝液)に再懸濁させた。細胞を、増加する濃度(1μM、10μM、100μM、250μM、または500μM)のビオチン-DOPA-AG12Aペプトイドまたはビオチン-DOPA-対照ペプトイドのいずれかと共にインキュベートし、37℃で30分間インキュベートした。ペプトイドを標的受容体と架橋するため、短時間、5mM過ヨウ素酸ナトリウムを細胞に添加した。この反応をDTTにより中止し、細胞を0.1%PBS/BSAにより2回洗浄した。Fc受容体への非特異的結合を低下させるため、氷上で15分間、Fc block(BD Biosciences)を細胞に添加した。氷上で15分間、1μgの抗CD4-PerCp Cy5.5抗体および0.02μgのストレプトアビジン-APC抗体(BD Biosciences)により細胞を染色した。染色後、.1%PBS/BSAにより2回洗浄し、ペプトイド結合を査定するため、細胞をFACS Caliburフローサイトメーター上で実行した。平均蛍光強度を決定するため、データをFlowjoソフトウェア(Treestar)を使用して分析し、ヒストグラムとして示した。推定Kd値を決定するため、平均蛍光強度(MFI)をGraphpad Prismソフトウェアを使用してプロットし、折れ線グラフとして図示した。
【0212】
化学的架橋。上記と同様に、Vα2.3/Vβ8.2 TCRトランスジェニックマウスおよび野生型マウスからCD4+T細胞を単離した。さらに、CD4+T細胞を枯渇させた脾細胞も、陰性対照として使用した。架橋反応は、以前に記載されたようにして(Lim et al.,2007)、1/2 Nuclear Extract Buffer(NEB)で行われた。各条件につきおよそ10×106個の細胞を、室温で30分間、5μMのビオチン-DOPA-AG12Aペプトイドと共にインキュベートした。インキュベーション後、ペプトイドを標的受容体へ架橋するため、5mM NaIO4を添加した。短時間のインキュベーションの後、反応を、100mM DTTを含有している6×負荷緩衝液により中止した。標準的なSDS-PAGEを実施し、neutrAvidin-HRPおよび抗Vα2 TCR抗体(eBioscience)によりイムノブロッティングを行った。
【0213】
CFSE増殖アッセイ。CD4+T細胞単離後、Vα2.3Vβ8.2 TCRトランスジェニックT細胞、B細胞、またはMOG-35-55 TCRトランスジェニックT細胞を、製造業者の説明に従って、CFSE(molecular probes)により標識した。簡単に説明すると、細胞を、PBSに1ml当たり1×106個の濃度で再懸濁させ、10分間37℃で0.5μM CFSEと共にインキュベートした。5倍容量の10%FBS含有培養培地の添加により染色を中止した。細胞を遠心分離し、洗浄し、完全RPMI 1640培地に再懸濁させた。次いで、細胞を1ml当たり1×106個で播種し、37℃で30分間、増加する濃度(1μM、10μM、20μM、40μM、60μM、80μM、100μM、200μM、または500μM)のAG12Aペプトイドまたは対照ペプトイドのいずれかと共にインキュベートした。抗原提示細胞をWT B10.PLマウスの脾臓から単離し、次いで、細胞を刺激するため、10μg/mlのMBP Ac1-11、MOG 35-55、またはLPSを培養物に添加した。細胞を5日間培養物中に放置し、抗CD4-PerCp抗体(BD Biosciences)により染色し、細胞分裂を査定するためFACS Caliburフローサイトメーター上で実行した。分裂細胞の割合を決定するため、データをFlowjoソフトウェア(Treestar)増殖プラットフォームを使用して分析した。分裂率を、Graphpad Prismソフトウェアを使用してグラフ化し、折れ線グラフとして図示した。
【0214】
ルテニウム-ペプトイドコンジュゲートの調製。ビス(2,2'-ビピリジン)-4'-メチル-4-カルボキシビピリジン-ルテニウム-ビス(ヘキサフルオロホスフェート)、ジイソプロピルカルボジイミド、およびHOBtを、DMFに溶解させ、室温で2時間、予め生成された脱保護されたペプトイドと反応させた(Lee et al.,2008)。化合物を、上記と同様に、洗浄し、樹脂から切断し、HPLCにより精製した。各ペプトイドの質量を、MALDI-Voyager DE Pro質量分析計を使用して決定した。
【0215】
トリチウム標識チミジン取り込み増殖アッセイ。未感作Vα2.3/Vβ8.2 TCRトランスジェニックマウスまたは2D2 MOG 35-55 TCRトランスジェニックマウスから脾臓を採集し、70μmセルストレーナー(BD Biosciences)に通すことにより単細胞懸濁物を作成した。上記と同様に、CD4+T細胞を単離し、フェノールレッド不含完全RPMI培地に再懸濁させた。1ウェル当たり1×105個の細胞を96穴プレートに播種し、4連で、1μMまたは100nMの濃度のAG12A-Ru2+、対照ペプトイド-Ru2+、DMSO、またはPBSと共にインキュベートした。次いで、細胞を、以前に記載されたようにして(Lee et al.,2008)、150Wキセノンアークランプ(Oriel,Stamford,CT)を使用して10分間照射した。照射後、10μg/mlのMBP Ac1-11および1ウェル当たり3×105個の抗原提示細胞により、T細胞を活性化した。培養物を、加湿された5%CO2/空気中で37℃で96時間、96穴平底プレートで維持した。培養の最後の16時間、ウェルを0.5μCi/ウェルの[メチル-3H]チミジンによりパルス処理した。細胞をガラスフィルター上に採集し、取り込まれた[メチル-3H]チミジンを、Betaplate計数器(PerkinElmer Wallac,Gaithersburg,MD)により測定した。各条件について最大増殖パーセントを決定するため、抗原により刺激されなかった細胞からのバックグラウンド増殖レベルを差し引いた。結果を4連培養物からの平均値として決定し、SEMと共に示した。
【0216】
養子移入。未感作Vα2.3/Vβ8.2 TCRトランスジェニックマウスから脾臓を採集し、70μmセルストレーナー(BD Biosciences)に通すことにより単細胞懸濁物を調製した。上記と同様に、CD4+T細胞を単離し、AG12A-Ru2+または対照ペプトイド-Ru2+により処理し、照射し、MBP Ac1-11により活性化した。72時間後、細胞をPBSにより洗浄し、10×106個の細胞を未感作B10.PLマウスへ腹腔内注射した。以前に記載されたようにして(Racke,2001)、マウスをEAEの臨床兆候について毎日評価した。
【0217】
二色オンビーズスクリーニングアッセイ。およそ300,000個のビーズをDMFで膨潤させ、PBSにより洗浄し、3%BSAを含有している完全RPMI 1640培地で平衡化した。EAEマウスまたは野生型マウスのいずれかから単離されたCD4+T細胞を、RPMIに再懸濁させ、製造業者の説明に従って量子ドット(Invitrogen)を使用して標識した。EAEマウスに由来するCD4+T細胞をQtracker 655(赤色)により標識し、野生型マウスに由来するCD4+T細胞をQtracker 565(緑色)により標識した。全部でおよそ10×106個の各細胞型を用いて、標識された細胞を1:1比率で混合した。次いで、細胞を、5%CO2を含む37℃インキュベーターで、温和に振とうしながら、ペプトイドビーズライブラリーと共に一夜インキュベートした。ビーズをRPMI培地により穏和に2回洗浄し、次いで、DAPIフィルターを使用して340〜380nmの励起により蛍光顕微鏡(Olympus BX-51)下で可視化した(全倍率100倍)。赤色標識細胞のみと結合するビーズを、20μlピペットを使用して手動で選択した。次いで、「ヒット」ビーズを洗浄し、30分間1%SDSと共に煮沸し、自動Edman配列決定に供した。
【0218】
実施例2−結果
EAEにおける特異的自己反応性T細胞リガンドのスクリーニング。EAEの多発性硬化症(MS)(Noseworthy et al.,2000)様状態は、ミエリンタンパク質もしくはペプチドによる免疫感作により、またはミエリン特異的CD4+T細胞の受動移入により、げっ歯動物の遺伝学的に感受性の系統において誘導される(Zamvil and Steinman,1990)。EAEにおける研究は、末梢で活性化されたミエリン特異的CD4+T細胞が、炎症促進性サイトカインを産生し、MSの病原において主要な役割を果たすことを示している(Zamvil and Steinman,1990)。さらに、これらのT細胞は、ミエリン鞘の破壊をもたらし、最終的には、神経学的欠陥をもたらす、影響を受けた個体の中枢神経系のミエリン塩基性タンパク質を優先的に認識すると考えられるT細胞受容体を発現する(Zamvil and Steinman,1990)。従って、MSのみならず、他のT細胞媒介性疾患についても、自己反応性T細胞のみを特異的に標的とする治療戦略を調査することは興味深いであろう。第一工程として、本発明者らは、EAEにおける自己反応性T細胞に高度に特異的に結合することができる合成化合物の単離に焦点を当てた。
【0219】
これを達成するため、本発明者らは、高い特異性で膜内在型受容体に結合するペプトイド(Simon et al.,1992)の単離のため、当研究室において以前に開発されたスクリーニング戦略を適用した(Udugamasooriya et al.,2008)。このプロトコルにおいては、他の点に関しては同一であると推定される、標的受容体を発現する細胞または発現しない細胞を、赤色および緑色の量子ドットによりそれぞれ標識する。次いで、二つの細胞型を混合し、各々独特のペプトイドを提示する数千種の親水性ビーズと共にインキュベートする。次いで、赤色標識細胞のみに結合し、緑色細胞には結合しないビーズを収集する。緑色細胞を排除し、「ヒット」としてスコア化されるためには、ペプトイドは細胞表面上の全ての他の分子を無視しなければならないため、これは、標的受容体との高度に特異的な結合を反映すると推定される(図1A)。
【0220】
当問題にこの二色スクリーニング技術を適用するため、ミエリン塩基性タンパク質ペプチドAc1-11(MBP Ac1-11)による免疫感作により、B10.PLマウスにおいてEAEを誘導した。このミエリンペプチドによる免疫感作は、MBP Ac1-11特異的Vα2.3/Vβ8.2 TCRを発現するCD4+T細胞の活性化および拡大をもたらす(Ando et al.,1989)。EAEマウスおよび健常対照マウスを、臨床的に明確なEAEの発症の後(図5A)、屠殺し、CD4+T細胞を単離した。EAEマウスに由来するCD4+T細胞を、赤色を発する量子ドットにより標識し、対照マウスに由来するT細胞を、緑色を発する量子ドットにより標識した。次いで、細胞を1:1比率で混合し、およそ300,000種のペプトイド(図5B)を含有している、ビーズ上に提示されたペプトイドライブラリーと共にインキュベートした。本発明者らの仮説は、集団全体の中の数百万の異なるT細胞は全て低レベルで存在し、二つの集団が極めて類似しているであろうということであった。主要な例外は、EAEマウスにおける自己抗原による免疫感作に応答して拡大したMBP Ac1-11特異的自己反応性T細胞の数の増加であろう。これは、ビーズが赤色細胞のみに結合することが見出された場合、これらが自己反応性T細胞である可能性が極めて高いことを示唆した(図1A)。
【0221】
ペプトイドビーズとのインキュベーションの後、本発明者らは、EAEマウスに由来するCD4+T細胞に特異的に結合し、健常対照マウスに由来するT細胞には結合しないことが観察された二つの推定ヒットペプトイドを同定した(図1B、パネルiおよびii)。EAEマウスおよび健常対照マウスの両方に由来するCD4+T細胞に非特異的に結合したペプトイドビーズを示す付加的な写真も示される(図1B、パネルiii)。ヒットとしてスコア化された二つのビーズ上のペプトイドを、エドマン分解(Alluri et al.,2003)により配列決定し、それらの推定される構造を図1Cに図示した。二つの「ヒット」は、いくつかの配列類似性を有することが見出された。本発明者らは、より詳細な特徴決定のため、ペプトイドのうちの一つ(AG12A)に焦点を当てることに決めた。
【0222】
AG12AペプトイドはEAE自己反応性T細胞のリガンドである。AG12Aが自己反応性TCRに結合するか否かを決定するため、本発明者らは、CD4+T細胞の大部分がMBP Ac1-11特異的TCR(Vα2.3/Vβ8.2 TCR)(Goverman et al.,1993)を発現するトランスジェニックマウスの存在を活用した。CD4+T細胞をこれらのマウスから単離し、AG12Aへの結合について試験した。これは、いくつかの方式で行われた。最初に、AG12Aをビーズ上で再合成し、T細胞リガンドとして選択されていない対照ペプトイド(図6)も再合成した。次いで、ビーズを赤色量子ドット標識T細胞と共にインキュベートした。図1Dに示されるように、MBP Ac1-11 TCRトランスジェニックマウスに由来するCD4+T細胞は、ビーズ上に提示されたAG12Aに結合したが、野生型CD4+T細胞は結合しなかった(図1D)。
【0223】
AG12AのMBP Ac1-11特異的T細胞との結合をさらに調査するため、本発明者らは、ペプトイドに付着させたジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)のオルトキノン中間体への酸化を含む化学的架橋実験を実施した。次いで、この中間体は、標的受容体タンパク質上の近傍の求核性残基へと架橋され得る(Burdine et al.,2004;Liu et al.,2006;Lim et al.,2007)。この化学は、複合体内にない限り、分子をカップリングさせないことが、広範な対照実験により示されているため(Liu et al.,2006)、DOPA-AG12Aと受容体標的とが近接している場合にのみ、架橋が観察されるであろう。Vα2.3/Vβ8.2 TCRトランスジェニックマウスに由来するCD4+T細胞を、増加する濃度のビオチン標識DOPA-AG12Aまたはビオチンにより標識された対照DOPA-ペプトイドと共にインキュベートした。過ヨウ素酸ナトリウムによる処理の後、次いで、細胞を、蛍光色素とコンジュゲートしたストレプトアビジン、および異なる蛍光色素とコンジュゲートした抗CD4+抗体により染色した。ペプトイドのT細胞との結合を、CD4+/ストレプトアビジン+細胞の平均蛍光強度を計算することにより査定した。AG12Aは、およそ40μMのKDで、MBP Ac1-11特異的T細胞に結合することが見出された(図2A〜B)。しかしながら、ビオチン化AG12Aと野生型マウスから入手されたT細胞との間の相互作用は検出され得ず、ビオチン化対照ペプトイドも、Vα2.3/Vβ8.2 TCRトランスジェニックT細胞に結合しなかった(図2B)。
【0224】
ペプトイド-細胞相互作用を、SDS-PAGEおよびNeutrAvidin西洋ワサビペルオキシダーゼ(NA-HRP)によるウエスタンブロッティングによっても分析した。ビオチン-DOPA-AG12AをTCRトランスジェニックT細胞と共にインキュベートした場合には、45kDaという見かけの質量を有するビオチン含有産物が検出されたが、野生型マウスに由来するCD4-細胞またはCD4+T細胞と共にインキュベートした場合には、検出されなかった(図2C)。TCRのα鎖およびβ鎖の分子量は、それぞれおよそ45kDaおよび40kDaであり(Zamvil and Steinman,1990)、従って、AG12AのTCRへの架橋が示唆された。さらに、ブロットをα-Vα2 TCR抗体で探索すると、NA-HRPにより検出されたバンドとオーバーラップするおよそ45kDaの産物が観察され、このことから、AG12AがMBP Ac1-11特異的TCRに架橋されることがさらに示唆された(図2C)。
【0225】
AG12Aは抗原により媒介される自己反応性T細胞増殖の特異的アンタゴニストである。ペプトイド-TCR結合が抗原特異的T細胞増殖に拮抗する可能性を試験するため、MBP Ac1-11 TCRトランスジェニックマウスに由来するCD4+T細胞を、増加する濃度のAG12Aまたは対照ペプトイドと共にインキュベートし、カルボキシフルオレセイン二酢酸スクシンイミジルエステル(CFSE)により標識し、MBP Ac-11ペプチドおよび抗原提示細胞により刺激した。CSFEはエステル型においては細胞透過性であるが、化合物が細胞内に入ると、これらの基が加水分解され、細胞不透過性となる。従って、細胞分裂は、フルオロフォアの細胞内濃度の希釈をもたらす。5日間のインキュベーションの後、細胞分裂をフローサイトメトリーを使用して測定した。AG12Aは、およそ60〜80μMのIC50で、用量依存的にMBP Ac1-11自己反応性T細胞の増殖を阻害することが見出された(図3A)。この増殖の減少は、トランスジェニックT細胞を対照ペプトイドの存在下で刺激した場合には見られず(図3A)、AG12AがB細胞の増殖を阻害することもなかった(図3B)。最も重要なことに、AG12Aは、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)35-55特異的TCRトランスジェニックT細胞の抗原により刺激される増殖も阻害しなかった(図3C)。この実験は、AG12Aの効果が、MBP Ac1-11抗原を認識するT細胞に対して特異的であって、活性化されたT細胞に対する全般的な親和性によるのではないことを明瞭に証明している。
【0226】
ルテニウム-ペプトイドコンジュゲートを使用した自己反応性T細胞のエクスビボの不活化。実際の適用には、(一次スクリーニングヒットに典型的な(Kodadek et al.,2004))AG12Aにより示された40μM IC50より強い効力を有するアンタゴニストが望ましいであろう。これを達成するため、AG12Aを、可視光を照射された時に一重項酸素を生成させる効果的な触媒であるルテニウム(II)トリス-ビピリジル錯体にコンジュゲートさせた(Lee et al.,2008)。一重項酸素は、大部分のタンパク質を修飾し不活化するであろうが、わずか40〜80Åという限られた拡散半径を有する、高度に反応性の種である。従って、ルテニウム「ウォーヘッド」の直近のタンパク質のみが影響を受ける。ペプトイドリガンドにより標的タンパク質へと送達された場合、高度に特異的な、光により誘発されるタンパク質不活化が達成され得る(Lee et al.、発表のために提出中)。MBP Ac-1-11特異的TCRトランスジェニックT細胞を、増加する濃度のAG12A-ルテニウムコンジュゲート(図4A)または対照ペプトイド-ルテニウムコンジュゲート(図6)と共にインキュベートし、細胞に可視光(<380nmカットオフフィルター)を照射した。10分間の照射の後、抗原提示細胞の存在下で自己抗原MBP Ac1-11によりT細胞を活性化した。細胞増殖を、トリチウム標識チミジンアッセイを使用して査定した。図4Bに示されるように、AG12A-ルテニウムコンジュゲートは、100nMの濃度で、MBP Ac1-11特異的自己反応性T細胞の増殖を強力に阻害した(図4B)。これは、ペプトイド単独の活性と比べて、およそ700倍の改善を表す。この阻害は、MOG 35-55 TCRトランスジェニックマウスに由来するCD4+T細胞を使用した場合には見られず(図4C)、このことから、再び、AG12AのMBPAc1-11特異的自己反応性T細胞に対する特異性が証明された。
【0227】
細胞を除去し、光反応性薬物により処理し、UV光に曝し、患者へ再注入して戻すフォトフェレーシス治療が存在する(Rostami et al.,1999;Besnier et al.,2002;Cavaletti et al.,2006)。従って、ルテニウムトリス-ビピリジルにより触媒される一重項酸素生成を誘発するのに必要とされる青色光は、生存している生物へ透過することができないが、この前例があるため、ペプトイド-ルテニウムコンジュゲートによる自己免疫性T細胞のエクスビボ不活化は、実行可能であると考えられる。この理論を試験し、自己反応性T細胞がペプトイド-ルテニウムコンジュゲートおよび光による処理の後、非応答性になることを確認するため、本発明者らは、EAEの養子移入モデルを使用した。CD4+T細胞をMBP Ac1-11 TCRトランスジェニックマウスから単離し、AG12A-ルテニウムコンジュゲートまたは対照ペプトイド-ルテニウムコンジュゲートにより処理し、照射し、抗原提示細胞の存在下でMBP Ac1-11ペプチドにより刺激し、未感作レシピエントへ注射して戻した。次いで、これらの動物を、EAEの臨床兆候について観察した。予測通り、対照ペプトイド-ルテニウムコンジュゲートに曝されたか、またはペプトイドに曝されなかった、抗原により刺激された自己反応性T細胞細胞を注射された動物は、EAEを発症した(図4D)。T細胞を抗原により刺激せず、ペプトイドにも曝さなかった場合、養子移入は、予想通り、EAEをもたらさなかった。注目すべきことに、抗原により刺激され、AG12A-ルテニウムコンジュゲートにより処理されたMBP Ac1-11特異的CD4+T細胞は、レシピエント動物においてEAEを誘導しなかった(図4D)。この実験は、自己反応性T細胞へとターゲティングされたルテニウム-ペプトイドコンジュゲートを、エクスビボで、自己免疫性T細胞活性化の強力な光誘発型阻害剤として使用することの実行可能性を証明している。
【0228】
実施例3−考察
本発明者らは、ここで、高い特異性で抗原特異的自己免疫性T細胞に結合する合成分子を与えることができるコンビナトリアルライブラリースクリーニングプロトコルを証明した。この研究においては、EAEを有するマウスに由来するCD4+T細胞および健常対照マウスに由来するCD4+T細胞を、異なる色の量子ドットにより標識し、共に混合し、親水性ビーズ上に提示されたおよそ300,000種のペプトイドのライブラリーと共にインキュベートした(図1A)。ライブラリーは、各ビーズが独特のペプトイドを提示するよう、スプリット・プール戦略を使用して作出された。赤色標識T細胞に結合し、緑色標識T細胞には結合しないことが観察された二つのビーズを単離した。本発明者らの仮説は、二つの集団が、EAEを駆動する高レベルの自己反応性T細胞の有無に関して最も異なっており、従って、EAEマウスに由来する細胞に対する優先を示すペプトイドは、これらの自己反応性T細胞のリガンドである可能性が高いであろうというものであった。さらに、本発明者らは、ペプトイドが異なるT細胞を判別することができる、最も可能性の高い機序が、T細胞受容体(TCR)への直接結合によるものであると推論した。
【0229】
このスクリーニングから明らかになったペプトイドのうちの一つ、AG12A(図1C)を、詳細に特徴決定したところ、これらのデータは上記の推測をバリデートした。AG12Aは、このモデルにおいて疾患を駆動するMBP Ac1-11特異的自己反応性T細胞の高度に特異的なリガンドであることが示された。再合成されたペプトイドは、ペプトイドがビーズ上にある時、トランスジェニックMBP Ac1-11反応性Vα2.3/Vβ8.2 TCR含有T細胞には結合するが、正常T細胞には結合しないことが示された(図1D)。蛍光標識された可溶性ペプトイドを自己免疫性T細胞と共にインキュベートした時にも、フローサイトメトリーに基づくアッセイを使用して、特異的な結合が観察された(図2A〜B)。機能的に、AG12Aは、MBP Ac1-11特異的T細胞の抗原依存性の増殖のアンタゴニストであることが判明した。重要なことに、ペプトイドは、異なる抗原を認識するミエリン特異的T細胞に対しては効果がなく(図3C)、このことから、再び、MBP Ac1-11特異的T細胞との結合の高い特異性が証明された。最後に、架橋データは、これらの細胞のTCRにペプトイドが直接結合することを示す(図2C)。ただし、これらのデータは、TCR鎖のうちの一つに類似した質量を有し、MBP Ac1-11特異的細胞にのみ存在する異なるタンパク質にペプトイドが架橋される可能性を絶対的に排除することはできない。しかしながら、これは極めて可能性が低いと考えられる。
【0230】
本発明者らの知る限り、これは、MHC提示の必要なしに、抗原特異的T細胞に特異的に結合することができる合成の非天然分子の最初の例である。自己反応性T細胞を標的とするための従来の努力は、疾患に関連していることが既知であるかまたは推測されるペプチド抗原を特異的に利用し、これらの種またはわずかに改変させた誘導体、例えば、Dアミノ酸の挿入による予防接種を含んでいた(Vandenbark et al.,1989;Howell et al.,1989;Wraith et al.,1989)。これは、ここで採られたものとは極めて異なるアプローチである。さらに、ヒト治験におけるそのような改変型ペプチドリガンドの使用は、良好な結果を与えず、むしろ疾患を増悪し(Bielekova et al.,2000;de Haan et al.,2005)、自己反応性T細胞を標的とした治療薬の合理的設計が困難であることを強調した。これらの分子が同定されたスクリーニング技術の重要な特色は、T細胞により認識されるネイティブ抗原の知識が必要でないという点である。AG12Aの利用可能性をバリデートするため、EAEにおける自己反応性T細胞のよく特徴決定された性質を本発明者らが活用したのは確かであるが、スクリーニング自体は、ある集団において他の集団よりはるかに豊富に存在する細胞に結合する、ビーズ上に提示された化合物の同定を単純に含んでいた。従って、この技術は、ペプトイド-自己免疫性細胞複合体の単離全般のための強力なアプローチを構成する。
【0231】
例えば、ここに提示されたアプローチは、ヒトにおいて高度に増幅されたT細胞に結合するペプトイドを同定するため、患者の試料および対応する対照の試料をスクリーニングするために適用され得ると考えられる。同アプローチは、抗原特異的B細胞に結合するペプトイドの単離においても同様に効果的である可能性も高いと考えられる。当然、ヒト自己免疫疾患における免疫応答の性質は、ここで利用された単純なマウスEAEモデルの場合よりポリクローナルであるはずである。これは、おそらく、異なるT細胞が結合する異なる抗原を模倣する、いくつかのペプトイドの同定をもたらすであろう。にも関わらず、ポリクローナル性の程度が圧倒的でない限り、ここで使用されたのと同一の型のアプローチが、少なくとも、最も豊富に存在する抗原特異的自己免疫性細胞を認識するペプトイドの同定において有益であるはずである。
【0232】
本発明者らは、この技術が、基礎免疫学および応用免疫学の両方のための有用なツールを提供するであろうと予測する。図2Bに示されるフローサイトメトリー実験は、集団内の自己反応性T細胞を濃縮し、それらを詳細に研究することを可能にするため、これらのペプトイドが利用され得ることを示している。この型のプロトコルは、MSのような、良好な分子的テストが存在しない自己免疫疾患のための有用な診断法であることも判明するかもしれない。最後に、これらの自己反応性T細胞結合ペプトイドは、治療モードにおいて有用であり得る。図4に詳細に示された実験は、ペプトイドのルテニウムトリス-ビピリジルコンジュゲートが、可視光を照射された時に、エクスビボで、自己反応性T細胞を不活化し得ることを示しており、このことは、フォトフェレーシス型治療において適用可能であることを示唆している。あるいは、T細胞標的へと何らかの種類の毒性カーゴを送達するために、ペプトイドが利用され得る可能性がある。このアプローチの利点は、当然、異なる抗原特異性を有するT細胞の機能は変化させないまま、ペプトイドが標的とする自己反応性T細胞のみが影響を受けるであろうという点である。自己免疫疾患における免疫系機能の阻止またはモジュレーションを目標とした現在の治療は、全て、「良い」T細胞と「悪い」T細胞とを判別することができず、包括的な応答を生じ、有意な副作用をもたらす(Hauser,2008;Hemmer and Hartung,2007;Stuve,2008;Schneider,2008;Coles et al.,2008)。
【0233】
本明細書に開示され特許請求の範囲に記載された組成物および方法は、全て、本開示を考慮すれば、過度の実験なしに作成され実行され得る。本発明の組成物および方法は好ましい態様に関して説明されたが、本発明の概念、本旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された組成物および方法、工程、または方法の工程の順序に変動が適用され得ることは当業者には明らかであろう。より具体的には、化学的にも生理学的にも関係しているある種の薬剤が、本明細書に記載された薬剤の代わりに用いられても、同一または類似の結果が達成されることが明白であろう。当業者に明白なそのような類似している代用物および修飾は、全て、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の本旨、範囲、および概念に含まれるものと見なされる。
【0234】
V. 参照
以下の参照は、それらが本明細書に示されたものを補足する例示的な手法またはその他の詳細を提供するという程度に、参照により具体的に本明細書に組み入れられる。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫性T細胞により特異的に認識されるリガンドを同定する方法であって、
該方法が、
(a)第一の検出可能標識により標識された、健常対象に由来する第一のT細胞集団を準備する工程;
(b)第二の検出可能標識により標識された、自己免疫疾患を有する対象に由来する第二のT細胞集団を準備する工程;
(c)第一および第二のT細胞集団を、複数の候補リガンドに接触させる工程;ならびに
(d)第一および第二のT細胞集団と候補リガンドとの結合を査定する工程
を含み、
該リガンドが第二のT細胞集団には結合するが第一のT細胞集団には結合しない場合、該リガンドは自己免疫性T細胞によっては認識されるが健常T細胞によっては認識されない、
方法。
【請求項2】
自己免疫疾患が多発性硬化症または慢性関節リウマチである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
リガンドが、3残基長、4残基長、5残基長、6残基長、7残基長、8残基長、9残基長、または10残基長である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
第一および第二の標識が蛍光性または化学発光性である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
第一および第二の標識が量子ドットである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
リガンドが支持体に結合している、請求項1記載の方法。
【請求項7】
支持体が、ビーズ、チップ、フィルター、ディップスティック、膜、ポリマーマトリックス、またはウェルである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
接触させる工程が、前記支持体を第一および第二のT細胞集団に同時に接触させることを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
T細胞集団がCD4+T細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
対象がヒトまたはマウスである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
自己免疫疾患に罹患している対象から自己免疫性T細胞を除去する方法であって、
(a)支持体に結合している、自己免疫性T細胞に特異的に結合するリガンドを準備する工程;
(b)支持体に結合しているリガンドへの自己免疫性T細胞の結合を可能にするのに十分な時間、該対象に由来するT細胞含有試料を、支持体に結合しているリガンドに接触させる工程;および
(c)試料から支持体を分離する工程
を含む、方法。
【請求項12】
工程(c)の試料を前記対象に戻す工程をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
自己免疫疾患が多発性硬化症または慢性関節リウマチである、請求項11記載の方法。
【請求項14】
リガンドが、3残基長、4残基長、5残基長、6残基長、7残基長、8残基長、9残基長、または10残基長である、請求項11記載の方法。
【請求項15】
支持体が、ビーズ、チップ、フィルター、ディップスティック、膜、ポリマーマトリックス、またはウェルである、請求項11記載の方法。
【請求項16】
試料が、血液、脳脊髄液、または精液である、請求項11記載の方法。
【請求項17】
試料が血液であり、該血液が、前記対象から入手され、エクスビボで処理されて、前記対象に戻される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記血液が、閉鎖循環式で、支持体に結合しているリガンドを横切るように灌流されて前記対象に戻される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記対象から前記試料を入手する工程をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項20】
対象がヒトまたはマウスである、請求項11記載の方法。
【請求項21】
リガンドが請求項44〜63のいずれか一項記載のペプトイドである、請求項11記載の方法。
【請求項22】
自己免疫疾患に罹患している対象から入手された自己免疫性T細胞を死滅させる方法であって、
該方法が、
(a)毒素にコンジュゲートしている、自己免疫性T細胞に特異的に結合するリガンドを準備する工程;および
(b)該コンジュゲートへの少なくとも一つの自己免疫性T細胞の結合を可能にするのに十分な時間、該対象に由来するT細胞含有試料を該コンジュゲートに接触させる工程
を含み、
該コンジュゲートが自己免疫性T細胞の死滅を引き起こす、
方法。
【請求項23】
前記試料がエクスビボで処理され、該試料を前記対象に戻す工程を前記方法がさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
自己免疫疾患が多発性硬化症または慢性関節リウマチである、請求項22記載の方法。
【請求項25】
リガンドが、3残基長、4残基長、5残基長、6残基長、7残基長、8残基長、9残基長、または10残基長である、請求項22記載の方法。
【請求項26】
毒素が、リシン、ジフテリア毒素、またはコレラ毒素である、請求項22記載の方法。
【請求項27】
毒素が、光により活性化される毒素である、請求項22記載の方法。
【請求項28】
光により活性化される毒素がルテニウム(II)トリス-ビピジジルであり、工程(b)が前記試料を可視光に曝す工程を前記方法がさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項29】
試料が、血液、脳脊髄液、または精液である、請求項22記載の方法。
【請求項30】
前記対象から前記試料を入手する工程をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項31】
対象がヒトまたはマウスである、請求項22記載の方法。
【請求項32】
リガンドが請求項44〜63のいずれか一項記載のペプトイドである、請求項22記載の方法。
【請求項33】
自己免疫疾患に罹患している対象から入手された自己免疫性T細胞または該対象における自己免疫性T細胞を死滅させる方法であって、
該方法が、
(a)IgG Fc含有分子にコンジュゲートしている、自己免疫性T細胞に特異的に結合するリガンドを準備する工程;および
(b)該コンジュゲートへの少なくとも一つの自己免疫性T細胞の結合を可能にするのに十分な時間、自己免疫性T細胞集団を該コンジュゲートに接触させる工程
を含み、
該自己免疫性T細胞に対する免疫エフェクターを該コンジュゲートが動員し、それによって該細胞の死滅がもたらされる、
方法。
【請求項34】
自己免疫性T細胞集団がエクスビボで処理され、工程(b)の試料を前記対象に戻す工程を前記方法がさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
自己免疫疾患が多発性硬化症または慢性関節リウマチである、請求項33記載の方法。
【請求項36】
リガンドが、3残基長、4残基長、5残基長、6残基長、7残基長、8残基長、9残基長、または10残基長である、請求項33記載の方法。
【請求項37】
IgG Fc含有分子が、抗体、単鎖抗体、またはFc断片である、請求項33記載の方法。
【請求項38】
IgG Fc含有分子が抗体または単鎖抗体であり、かつ該抗体の抗原結合部位に前記リガンドが係留されている、請求項37記載の方法。
【請求項39】
IgG Fc含有分子がIgG可変領域を欠くFc断片であり、かつ該Fc断片のカルボキシ末端に前記ペプトイドが係留されている、請求項38記載の方法。
【請求項40】
試料が、血液、脳脊髄液、または精液である、請求項33記載の方法。
【請求項41】
前記対象から前記試料を入手する工程をさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項42】
対象がヒトまたはマウスである、請求項33記載の方法。
【請求項43】
リガンドが請求項44〜63のいずれか一項記載のペプトイドである、請求項33記載の方法。
【請求項44】
下記式を有するペプトイド:

式中、nは0〜8であり;Lはリンカーであり;Yは毒素または抗体断片であり;かつR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8(4を超えるnの各値は、式Iまたは式IIに次のR基を番号順に追加する)は、水素;アルキル;アリル;メチル;エチル;n-プロピル;イソプロピル;n-ブチル;イソブチル;sec-ブチル;tert-ブチル;ペンチル;ヘキシル;イソペンチル;アリール;ヘテロアリール;フラニル;インドリル;チオフェニル;チアゾリル;イミダゾリル;イソオキサゾイル;オキサゾイル;ピペロニル;ピラゾイル;ピロリル;ピラジニル;ピリジル;ピリミジル;ピリミジニル;プリニル;シンノリニル;ベンゾフラニル;ベンゾチエニル;ベンゾトリアゾリル;ベンゾオキサゾリル;キノリン;イソオキサゾリル;イソキノリンシクロアルキル;アルケニル;シクロアルケニル;フェニル;ピリジル;メトキシエチル;(R)-メチルベンジル;非置換型C1-C6アルキル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC1-C6アルキル;非置換型C2-C6アルキニル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC2-C6アルキニル;非置換型C2-C6アルケニル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC2-C6アルケニルであり得る。
【請求項45】
nが5である、請求項44記載のペプトイド。
【請求項46】
R1が、非置換型C1-C6アルキル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC1-C6アルキル;非置換型C2-C6アルキニル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC2-C6アルキニル;非置換型C2-C6アルケニル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC2-C6アルケニルである、請求項44記載のペプトイド。
【請求項47】
R1が、末端がNH2により置換されたC1-C6アルキルである、請求項44記載のペプトイド。
【請求項48】
R1が4アミノブタンである、請求項47記載のペプトイド。
【請求項49】
R2が、非置換型C1-C6アルキル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC1-C6アルキル;非置換型C2-C6アルキニル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC2-C6アルキニル;非置換型C2-C6アルケニル、またはNH2、OH、SH、N(C1-C6アルキル)2、O(C1-C6アルキル)、もしくはS(C1-C6アルキル)により置換されたC2-C6アルケニルである、請求項44記載のペプトイド。
【請求項50】
R2が、末端がNH2により置換されたC1-C6アルキルである、請求項44記載のペプトイド。
【請求項51】
R1が4アミノブタンである、請求項50記載のペプトイド。
【請求項52】
R3が、C1-C6アルキル、C2-C6アルキニル、またはC2-C6アルケニルである、請求項44記載のペプトイド。
【請求項53】
R3がイソブチルである、請求項52記載のペプトイド。
【請求項54】
R4が、末端がNH2基により置換されたC1-C6アルキルである、請求項44記載のペプトイド。
【請求項55】
R4が4アミノブタン基である、請求項54記載のペプトイド。
【請求項56】
R5が(R)-メチルベンジル基である、請求項44記載のペプトイド。
【請求項57】
R6がフラニル基である、請求項44記載のペプトイド。
【請求項58】
R7が、末端がNH2により置換されたC1-C6アルキルである、請求項44記載のペプトイド。
【請求項59】
R7が4アミノブタン基である、請求項58記載のペプトイド。
【請求項60】
R8がC1-C6アルキルである、請求項44記載のペプトイド。
【請求項61】
R8がイソブチル基である、請求項60記載のペプトイド。
【請求項62】
R1、R2、R4、およびR7が4アミノブタン基であり;R3およびR8がイソブチル基であり;R5が(R)-メチルベンジル基であり;かつR6がフラニル基である、請求項44記載のペプトイド。
【請求項63】
R8が、末端のリジル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基を含む、請求項62記載のペプトイド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−527904(P2012−527904A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513284(P2012−513284)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/036537
【国際公開番号】WO2010/138797
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(508152917)ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (17)
【出願人】(511287891)オプコ ヘルス インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】