説明

自己免疫疾患の診断薬と治療薬となるペプチド類

【課題】HLA依存性自己免疫疾患を診断および治療するためのHLA-B27のα-1またはα-2ドメインまたはヒトケラチンVI由来のペプチドの提供。
【解決手段】以下の一般配列の1つを有することを特徴とする1つ以上のペプチドの使用。BL1-X-BL2-Y-BL3-Z又はBL1-X-BL2-Y-BL3-Z-BL4-W-BL5さらに具体的には、以下のペプチド、Trp-Asp-Arg-Glu-Thr-Gln-Ile-Cys-Lys-Ala-Lys-Ala-Gln-Thr-Asp-Arg-Glu-Asn-Leu-Arg-Thrの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HLA-B27のα-1またはα-2ドメインまたはヒトケラチンVI(human keratin IV)由来のペプチドと、HLA依存性自己免疫疾患を診断と治療するためのHLA-B27のα-1またはα-2ドメインまたはヒトケラチンVI由来のペプチドの利用に関する。
【0002】
リウマチや、乾癬、多発性硬化症と潰瘍性大腸炎のような自己免疫性ブドウ膜炎(uveitis)等の自己免疫疾患は、生体の防御システム(免疫システム)が自身の生体構造の一部であってももはや許容できず、侵入してきた病原体と見なしてそれらを攻撃してしまう。これによって、生体自身の組織は、損傷あるいは破壊さえされ、疼痛と身体の機能不全症状、例えば、リウマチの場合には関節の硬直、乾癬の場合には薄片、また場合によっては、広範な皮膚病変、多発性硬化症の場合には運動低下、失禁、言語障害であり、潰瘍性大腸炎の場合には重度の下痢と栄養障害から致命的結果を生じる小腸穿孔まで、またはブドウ膜炎の場合には失明の可能性を有する視力低下等を引き起こす。
【0003】
自己免疫疾患は、再発したり、あるいは潜行性に進行し続けながら、ほぼ全例において慢性的に進行する。免疫システムにより破壊された組織を再生することは殆ど不可能である。リウマチ性疾患において、自己攻撃性の免疫応答は、非常に強い疼痛を伴う関節の炎症と関節の変性を引き起こし、最終的に廃疾状態となる。乾癬における皮膚病変は、場合によっては広範にわたり、強い掻痒感があり、目立ち、患者において、特に対人関係において心理的問題を引き起こすことが非常に多い。
【0004】
これらの自己免疫疾患の発生理由は、未だに殆ど判明していない。多くの場合、免疫システムを狂わせる細菌またはウイルス感染が自己免疫疾患の誘発に主要な役割を果たしていると考えられている。細胞性免疫応答が、リウマチ疾患と乾癬の両者において重要な役割を果たしていることが証明されているが、抗体反応も共に検出されている。
自己免疫疾患において開始される従来の治療方法は、免疫システムの自己反応(「自己攻撃」)部分だけに作用するのではなく、実際には侵入する病原体または腫瘍細胞に抵抗するために使用される免疫反応性細胞全体を抑制する。全身の免疫抵抗性の減弱と腫瘍発生の可能性を引き起こす以外に、コルチコステロイド、シクロスポリンAと細胞増殖抑制薬などの従来の免疫抑制薬は、多くの非免疫性の副作用、場合によっては致命的な副作用も増加させる。
【0005】
多くの(自己免疫)疾患と主要組織適合遺伝子複合体 (major histocompatibility complex (MHC))、あるいは同義のHLA (human leucocyte antigens)(ヒト白血球抗原、元々移植抗原として発見された)の特定抗原の間に統計的相関関係が存在することから、これらの疾患には遺伝的素因が疑われる。この機序は、生体自身のHLA抗原と共に、免疫システムを乱す病原体の抗原(細菌とウイルス)に基づくものと仮定されている。
HLA-B27抗原は、虹彩炎(iritis)、乾癬(psoriasis)、ベーチェテレフ病(Bechterew’s disease)(強直性脊椎炎(ankylosing))、乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)、青少年における若年性リウマチ性関節炎(juvenile rheumatoid arthritis)などの特定のリウマチ疾患に特に高頻度で認められることから、特殊な例であることは明らかである。
【0006】
自己免疫性ブドウ膜炎の場合、HLA-クラスI抗原は、その病因において抗原提示成分としてその役割を果たしているのではなく、HLA-クラスIIまたはその他の分子に提示されるペプチドの形態で、そのものが抗原として作用していることが既に明らかにされている(G. WildnerとR. ThurauのEur. J. Immunol. 24, 2579-2585(1994))。そこで、自己攻撃免疫反応の臓器特異性も、特定の自己抗原との交差反応性によるものとして説明できる(例えば、ブドウ膜炎の場合における虹彩S抗原)。
【0007】
本発明に関連して、HLA抗原が病因において重要な役割を果たす自己免疫疾患は、「HLA依存性」自己免疫疾患と呼ばれる。
リウマチ疾患群(the rheumatic disease complex)の中のHLA依存性疾患(強直性脊椎炎、反応性関節炎および乾癬性関節炎)において、今の所、最も疑わしい抗原は、HLA-クラスIとHLA-クラスIIに、場合によってはHLA-B27に優先的に、さもなければHLA-B27との関連性は確立できていないが、(関節に特異的な)コラーゲンII型に示される細菌蛋白質である。連鎖球菌蛋白質、および恐らくケラチン生成細胞蛋白質は、乾癬における抗原と考えられている。
【0008】
HLA-B27および/または皮膚ケラチンの配列に由来するペプチドに対するリウマチと乾癬患者の細胞性免疫反応から、これらのペプチドが、生体自身のペプチドすなわち「自己」ペプチドであるとはもはや認識されないペプチド、つまり自己抗原性ペプチドの可能性があることが示唆されている。HLA-B27の最初の2つのドメインに対する細胞性免疫反応は、1986年と早期に報告された(G. Wildnerらの抄録 2.33.13、Sixth International Congress of Immunology、トロント、カナダ、1986年7月6-11日;G. Wildnerの学位論文、IMU, ミュンヘン、1987年;G. WildnerらのMol. Immunol. 26, 33-40, 1989)。
【0009】
最近数年間、自己に対する寛容性と病原体に対する抵抗性の間に「正常な」平衡状態を回復するべく、免疫システムを操作する数多くの試みがなされている。この様な場合には、全ての免疫反応を非特異的に抑制するのではなく、自己攻撃的に作用する免疫応答の一部に影響を及ぼすことだけが意図される。従って、感染または腫瘍形成リスクの上昇の様な副作用を回避することが可能である。
【0010】
因みに、自己免疫疾患または急性または慢性移植拒絶反応を引き起こす、知られている限りの生理学的機序を比較することは興味深いものである。これらの機序も、これらの症例における治療法を発見するために、しばらくの間、集中的に研究されてきた。そこで、細胞毒性作用、特にCD8-ポジティブ細胞毒性Tリンパ球によるものは、急性移植拒絶反応における一次的事象として顕著であるが、慢性移植拒絶反応においては、細胞毒性作用は二次的重要性しかない様に見えることが確立されている。CD4-ポジティブTリンパ球、特にヘルパーTリンパ球とサプレッサーTリンパ球、サイトカインなどは、この場合、細胞性免疫応答レベルにおいてより重要であるように見える。最新の知識によれば、自己免疫疾患における状況は、慢性移植拒絶反応の状況に類似している。
従って、自己免疫疾患の治療手段は、急性移植拒絶反応の予防手段とは対照的に、主に細胞毒性Tリンパ球活性を調節することではなく、細胞性と液性免疫応答の両者のレベルで広範にわたる影響を指向することになる。
【0011】
HLA-依存性自己免疫疾患、特にHLA-クラスI関連自己免疫疾患とHLA-クラスII関連自己免疫疾患、また特にHLA-B27に特異的に関係する自己免疫疾患に関する上記に定義された問題の解決方法は、本発明によれば、HLA-B27のα1またはα2ドメインおよび/またはヒトケラチンVIから得られる特異的ペプチドをHLA-依存性自己免疫疾患の診断と治療のために使用することにある。
【0012】
1986、1987、1989年と早期に、G. Wildner et al.は(上記引用文献)、HLA-B27のα1またはα2ドメインから得られたペプチドを含む融合蛋白質を報告した。HLA-クラスIのα1またはα2ドメインから得られるペプチドも、Krensky et al. による国際公開第WO 88/05784号公報、C.A. ClaybergerとA.M. Krenskyによる国際公開第WO 93/17699号公報、C.A.Claybergerらによる国際公開第WO 95/26979号公報とC.A. ClaybergerとA.M. KrenskyのCurrent Opinion in Immunology 7, 644-648(1995)の報告と、E. NossnerらのJ. Exp. Med. 183, 339-348(1996)の報告に記載されている。
【0013】
国際公開第WO 88/05784号公報、国際公開第WO 93/17699号公報、国際公開第WO 95/ 26979号公報、Current Opinion in Immunoloby(1995、上記引用文献)とJ. Exp. Med.(1996、上記引用文献)は、以下の目的のそれぞれの場合について留意すべき特定のペプチド群を発表している。
【0014】
・ 特にT細胞受容体を介してペプチドをCTLに結合し、CTLによる標的細胞の溶解を阻害することにより、
(CTLへの結合に対し、正常のリガンドとの競合によるものと思われる(Current Opinion Immunol.(1995)、上記引用文献中)および/または
・ これまでは関連T細胞表面に関与する熱ショック蛋白質を検出することは不可能だったので、その他の免疫調節化合物、すなわちFK506およびシクロスポリンAの作用と恐らく類似の方法で、HSP 70熱ショック蛋白質群に属する物質に結合することにより(J. Exp. Med.(1996)、上記引用文献)、
・ CTLの分化を阻害/遮断することにより(国際公開第WO 93/17699号公報)、
-- CTL活性を阻害する形態で、あるいは、
-- 恐らく、あるMHCに関してCTLにペプチドを提示することにより、MHC限定標的細胞をCTLに感作させる/CTL活性を刺激するという形態で、
【0015】
患者において細胞障害性T細胞、特に細胞障害性Tリンパ球(CTL)の細胞障害性/細胞溶解性活性を調節する。
CTLを対応するペプチドに結合することにより、CTLを同定する、あるいは特定のCTLの存在を診断する。
CTLを対応するペプチドに結合することにより、T細胞混合物から特定のCTL集団を除去する。
【0016】
全ての文献が、報告されているペプチドの応用範囲を、特に急性移植拒絶反応に関連する移植時の薬物(Claybergerらによる国際公開第WO 95/26979号公報、C.A. ClaybergerとA.M.KrenskyのCurrent Opinion in Immunology 7, 644-648(1995)とE. NossnerらのJ. Exp. Med. 183, 339-348(1996)も参照。)並びにウイルス、細菌、および寄生虫感染の治療と新生物の治療としている。
【0017】
国際公開第WO 88/05784号公報と国際公開第WO 93/17699号公報は、自己免疫疾患を一般的な方法で診断および/または治療するためのペプチドの使用を言及しているのみで、例えば、特定の自己免疫疾患に関して具体的に述べているわけではない。しかし、自己免疫疾患の場合、上記に既に述べたように、CD4-ポジティブTリンパ球、特にヘルパーTリンパ球およびサプレッサーTリンパ球の活性、サイトカインとその他の機序が、細胞毒性Tリンパ球の活性よりも細胞性免疫応答のレベルでより重要と思われるため、自己免疫疾患を治療するためと考えられるペプチドは、別のかなり広い範囲の活性を持っていなくてはならないであろう。
【0018】
完全な抗原蛋白質またはこれらの蛋白質から得られる長鎖フラグメントの代わりにペプチドを利用することは多くの理由から推奨される。なぜならば、特にヒトまたは動物への計画投与に関連して、この様な完全な抗原蛋白質またはそれら由来の長鎖フラグメントは、以下の問題点を生じるからである。
1)免疫活性断片(エピトープ)のいわゆる「処理」、すなわち正確な切除は、受容生体において常に絶対的に保証されるわけではない。
2)よくても、莫大な費用と労力をかけなくては、抗原は「組み換え」により合成できない。
3)従って、抗原は一般に天然組織から分離されることになる。これに関連して、細菌、ウイルスおよび/またはビリオンによる感染が起こりやすくなり、(レトロ)ウイルスまたは細菌DNAによる感染が引き続き起こる可能性がある。
4)抗原蛋白質は、乾燥物質でも在庫期間が非常に短く、特別で入念な保存条件を更に必要とする。
5)抗原蛋白質をヒトまたは動物に使用する場合、マスト細胞の細胞表面のIgEと好酸球の架橋作用が起こりやすいため、食料品または接触アレルギーという意味で、感作の危険性が非常に高いと予想される。
【0019】
前記の様に、本発明の目的は、本発明に従って、HLA-依存性自己免疫疾患を診断および治療するための、HLA-B27のα1またはα2ドメインまたはヒトケラチンVI由来の特異的ペプチドの利用により達成される。
ここで検討される自己免疫疾患はHLA-クラスI関連およびHLA-クラスII関連自己免疫疾患で、特に関節炎、リウマチ、反応性関節炎、乾癬性関節炎と若年性リウマチ性関節炎等のリウマチ疾患群、および虹彩炎、乾癬およびブドウ膜炎等の疾患が含まれるが、これらに限定されない。上記に定義された本発明のペプチドをその診断と治療に同様に利用できるHLA-B27関連自己免疫疾患も言及されるべきである。例えば、強直性脊椎炎(ベーチェテレフ病)の場合、またリウマチ疾患群の上記疾患の特定の形態、特に若年性リウマチ性関節炎と乾癬性関節炎の場合にも、また特定の形態の虹彩炎、ブドウ膜炎と乾癬の場合にも、HLA-B27抗原との関連性が存在する。上記に定義されたペプチドの適切性は、HLA-B27関連自己免疫疾患の診断と治療および/またはHLA-B27関連自己免疫疾患の予防に限定されるのではないことを強調すべきである。そうではなく、HLA-B27関連疾患ではない若年性リウマチ性関節炎と乾癬性関節炎等のその他のクラスI HLA抗原との関連性を示す自己免疫疾患にも拡大される。更に、適切性は特定のHLA-クラスII関連関節炎の様なHLA-クラスII関連自己免疫疾患にも拡大される。
【0020】
本発明に従って使用できるペプチドは、HLA-B27のα1またはα2ドメインまたはヒトケラチンVI由来のペプチドから成り、より正確には以下のコア配列B27PA、B27PA*、B27PB、B27PC、Ker333であり、あるいはこれらのコア配列から得られる。
ペプチドB27PA:
Trp-Asp-Arg-Glu-Thr-Gln-Ile-Cys-Lys-Ala-Lys-Ala-Gln-Thr-Asp-Arg-
Glu-Asn-Leu-Arg-Thr
ペプチドB27PA*:
Trp-Asp-Arg-Glu-Thr-Gln-Ile-Cys-Lys-Ala-Lys-Ala-Gln
ペプチドB27PB:
Leu-Leu-Arg-Gly-Tyr-His-Gln-Asp-Ala-Tyr
ペプチドB27PC:
Arg-Val-Ala-Glu-Gln-Leu-Arg-Ala-Tyr-Leu-Glu-Gly-Glu-Cys-Val
ペプチドKer333:
Leu-Asp-Leu-Asp-Ser-Ile-Ile-Ala-Glu-Val-Lys-Ala-Gln-Tyr-Glu-Glu-Ile-
Ala-Asn-Arg-Ser
【0021】
HLA-B27に関してH. Szots, G. Riethm・ler, E. WeissとT. Meo, のProc. Natl. Acad. Sci. USA 83, 1428-1432(1986)によって示されたアミノ酸配列によれば、
− ペプチド B27PAは、HLA-B27のα1ドメイン内のアミノ酸60-80に対応し、
− ペプチド B27PA*は、HLA-B27のα1ドメイン内のアミノ酸60-72に対応し、
− ペプチド B27PBは、HLA-B27のα2ドメイン内のアミノ酸109-118に対応し、
− ペプチド B27PCは、HLA-B27のα2ドメイン内のアミノ酸151-165に対応する。
【0022】
発明者等は、前記コア配列内に不連続に分布する限られた数のアミノ酸だけが、HLA依存性自己免疫疾患の予防または治療におけるペプチド活性にとって、あるいはこれらの疾患の診断に不可欠であることを見いだした。従って、この観点から必須ではないアミノ酸の位置に関して、ペプチドの前記生物活性を損なわずに、広範にわたる削除、挿入、反転、置換を行うことができる。基礎となるアミノ酸の誘導および修飾(メチル化、アミド化、グリコシル化、脂肪酸残基(飽和および不飽和脂肪族残基)の付加、その他)も当然これらに含まれる。
【0023】
コア配列との比較において、ペプチドに変更を加える場合に不可欠な事は、上記に定義された配列の結果生じる電荷および/または表面構造の変化により、得られたペプチドが、目的を達成するために不利であることが証明されない様な空間または三次元構造を示すことであり、好ましくは、変更されたペプチドの空間構造が、その表面構造と電荷分布に関して、上記コアペプチドに、あるいは少なくとも生物活性に不可欠なコアペプチドの断片と一致することである。
【0024】
従って、本発明に従って、利用可能であり、B27PA、B27PA*およびKer333から得られるペプチドは以下の式、
BL-X-BL-Y-BL-Z-BL-W-BL
および
BL-X-BL-Y-BL-Z
により示すことができる。
【0025】
略語BLは、アミノ酸ブロックを表し、下記の表によれば、1から8個のアミノ酸を含む。特徴的で、上記生物活性に必須と思われる個々のアミノ酸またはアミノ酸グループ(X、Y、Z、W)は、これらのブロックの間に位置する。従って、ペプチドB27PAとKer333は、アミノ酸の位置X、Y、Z、Wを一致させるということを基礎として、それぞれ完全な配列から選択された。
【0026】
しかし、コア配列内のその他のアミノ酸も、ペプチドの生物活性にとって重要である可能性も考慮に入れられる。既に述べたように、本発明の状況においては、得られたペプチドの空間または三次元構造が、上記コアペプチドまたは少なくともその断片と一致することが重要である。
【0027】
B27PAおよび/またはB27PA*の上記コア配列に関して、
− X(ペプチドの2位、Szotsら(上記引用文献)の61位)はアミノ酸アスパラギン酸(Asp)に相当し、
− Y(ペプチドの7位、Szotsら(上記引用文献)の66位)はアミノ酸イソロイシン(Ile)に相当し、
− Z(ペプチドの11〜13位、Szotsら(上記引用文献)の70〜72位)はトリペプチド配列Lys-Ala-GlnまたはLys-Ala-Gluに相当し、
− W(ペプチドの20位、Szotsら(上記引用文献)の79位)はアミノ酸アルギニン(Arg)に相当し、
これらの全て(X、Y、ZおよびWまたはX、YおよびZ)は、置換の場合には好ましくは、相同の(すなわち、構造的に、また化学的に近い関係にある)アミノ酸またはアミノ酸グループにより置換される。
【0028】
上記コア配列のKer333に関して、残基X、Y、Z、Wは、B27PAおよびB27PA*から得られるペプチドの場合と同じアミノ酸に対応する。すなわち、
− X(ペプチドの2位)はアミノ酸アスパラギン酸(Asp)に相当し、
− Y(ペプチドの7位)はアミノ酸イソロイシン(Ile)に相当し、
− Z(ペプチドの11〜13位)はトリペプチド配列Lys-Ala-GlnまたはLys-Ala-Gluに相当し、
− W(ペプチドの20位)はアミノ酸アルギニン(Arg)に相当し、
これらの全て(X、Y、ZおよびW)は同様に、置換の場合には好ましくは、相同の(すなわち、構造的に、また化学的に近い関係にある)アミノ酸またはアミノ酸グループにより置換される。
【0029】
下記表のブロック配列BLに関して表示されているアミノ酸およびペプチドは、B27PA、B27PA*、Ker333のこれらの位置に存在するアミノ酸に対応する。従って、BLは、1から2個のアミノ酸のブロックで、例えば、ペプチドB27PA、B27PA*またはKer333のこの位置に存在する場合には、TrpまたはLeuである。BL2は、4から5個のアミノ酸のブロックから成る。広範にわたる反転、修飾、置換を両ブロックに関して想定できる。3から4、6から8、1から2個のアミノ酸をそれぞれ含むBL3からBL5のペプチドブロックに関しても、同様に対応する方法で適用することが可能である。しかし、この場合にも、BLの位置に関しては、所望の生物活性を維持しつつ更に大規模な置換を行うことも可能なはずであるが、コア配列B27PA、B27PA*、Ker333と比較して、相同なアミノ酸と置換することが好ましい。
【0030】
既に繰り返し述べたように、最終的に重要なのは、上記に定義された配列の結果生じる電荷および/または表面構造の変化により、得られたペプチドが、目的を達成するために不利であることが証明されない様な空間構造が得られることであり、好ましくは、変更されたペプチドの空間構造全体的が、あるいは少なくとも6アミノ酸長、好ましくは8アミノ酸長の断片が、その表面構造と電荷分布に関して、上記コアペプチドに、あるいは対応するその断片と一致することである。
【0031】
【表1】

【0032】
上記コア配列B27PAから得られるペプチドにおいて、BLは特に以下のアミノ酸グループ、
Thr-Asp-Arg-Glu-Asp-Leu
または、
Thr-Asp-Arg-Glu-Ser-Leu
または、
Thr-Tyr-Arg-Glu-Asn-Leu
または、
Thr-Tyr-Arg-Glu-Asp-Leu
または、
Thr-Tyr-Arg-Glu-Ser-Leu
の1つも表している。
【0033】
これは、上記コア配列B27PBおよびB27PCから得られた配列、
Bl-O-BL-M-BL
を有するペプチドにも同様に適用される。
ペプチドB27PBおよびB27PCは、OとMと名付けられたペプチドの位置を有する点で一致している。
【0034】
上記コア配列B27PBに関して、
− O(ペプチドの2-3位、Szotsら(上記引用文献)の110から111位)はジペプチド配列Leu-Argに相当し、
− M(ペプチドの5位、Szotsら(上記引用文献)の113位)はアミノ酸チロシン(Tyr)に相当する。
上記コア配列B27Pに関して、
− O(ペプチドの6-7位、Szotsら(上記引用文献)の156〜157位)は同様にジペプチド配列Leu-Argに相当し、
− M(ペプチドの9位、Szotsら(上記引用文献)の159位)は同様にアミノ酸チロシン(Tyr)に相当する。
【0035】
この場合にも、OおよびMの位置と、BLの位置は、置換の場合には好ましくは、相同の(すなわち、構造的に、また化学的に近い関係にある)アミノ酸またはアミノ酸グループにより置換される。この場合にも、目的を達成する観点から、上記に定義された配列の結果生じる電荷および/または表面構造に不利な影響を与えない範囲で、アミノ酸の置換、修飾、反転、削除および挿入を実施でき、好ましくは、これによって生じる空間構造が、その表面構造と電荷分布に関して、少なくとも一部は、すなわち少なくとも6アミノ酸長、好ましくは少なくとも8アミノ酸長の長さを有し、ペプチドの生物活性にとって必須である断片全体が、基礎となるコア配列と一致することである点が適用される。
【0036】
以下の表は、単に具体例として、基礎となるコア配列B27PBとB27PCに見いだされる対応するアミノ酸またはペプチド配列を示す。
【表2】

【0037】
しかし、上記一般式の1つにあてはまるペプチドはそれぞれ、例えば、これらのペプチドによって治療可能なHLA依存性自己免疫疾患に関して、必ずしも同じ活性範囲を示すとは限らないことを強調しなくてはならない。個々のアミノ酸に、あるいはほんの数個のアミノ酸における変化により、虹彩炎、乾癬、リウマチ性疾患、ベーチェテレフ病(強直性脊椎炎)、乾癬性関節炎または青少年における若年性リウマチ性関節炎等のHLA依存性自己免疫疾患の治療に使用するためのペプチドを十分得ることができ、変化させる前のペプチドを使用した場合とは異なるものである。
上記に示される配列由来の8から20、好ましくは10から18、至適には12から16個のアミノ酸を含むペプチドも、上記の診断または治療への適用に関して、本発明のペプチドである。
【0038】
本発明の目的の範囲内で、ペプチドはN末端および/またはC末端を置換することも可能である。置換の具体例は、脂肪酸およびリン脂質、糖残基とC−C12-アルキル基またはC-C12-アルケニル基である。これに必要な結合試薬および結合方法は、本技術に精通する者にとって公知である。ペプチドのNH基により活性化されたオレフィンと結合させるためのメチルジチオ安息香酸(MDTB)の利用、ホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンなどのリン脂質と結合させるためのMBSE、グルタルアルデヒド、メチルジチオ安息香酸(MDTB)等の二官能基の結合剤の利用も、具体例として本明細書に言及される。
【0039】
本発明の目的のペプチドは、直接、あるいは置換基または結合系(例えば、ビオチン/アビジン)により有機または無機支持材料に、あるいは下記に詳細に説明されているように、検出可能な標識物質に直接または間接的に、結合または吸着することが可能である。
【0040】
活性を基本的に喪失させずに、上記に定義されたペプチドを多様に変化させることができる。例えば、
1)ペプチドは、N末端とC末端の両方で延長できる。
2)ペプチドは、N末端とC末端の両方で切断できるが、これは原則として少なくとも6個のアミノ酸、好ましくは少なくとも8個のアミノ酸を持つペプチドまでしか小さくできない。
【0041】
B27PAおよびKer333から得られるペプチドの場合特に、上記に定義された生物活性を喪失させずに、個々の特徴的なアミノ酸を超えて、N末端とC末端の両方で切断することも可能である。C末端切断の一例は、B27PA由来ペプチド、B27PA*であり、上記に説明されている様に、Szotzら(上記引用文献)によって数えられた様に、HLA-B27のアミノ酸配列アミノ酸60〜72から成る。
【0042】
本発明は、本発明に従って使用できる以下のペプチドも包含する:
ペプチドB27PA:
Trp-Asp-Arg-Glu-Thr-Gln-Ile-Cys-Lys-Ala-Lys-Ala-Gln-Thr-Asp-Arg-
Glu-Asn-Leu-Arg-Thr
ペプチドB27PA*:
Trp-Asp-Arg-Glu-Thr-Gln-Ile-Cys-Lys-Ala-Lys-Ala-Gln
ペプチドB27PB:
Leu-Leu-Arg-Gly-Tyr-His-Gln-Asp-Ala-Tyr
ペプチドB27PC:
Arg-Val-Ala-Glu-Gln-Leu-Arg-Ala-Tyr-Leu-Glu-Gly-Glu-Cys-Val
ペプチドKer333:
Leu-Asp-Leu-Asp-Ser-Ile-Ile-Ala-Glu-Val-Lys-Ala-Gln-Tyr-Glu-Glu-Ile-
Ala-Asn-Arg-Ser
【0043】
本発明は更に、上記ペプチドの配列から得られ、診断に関する同等の適切性、および/またはHLA依存性自己免疫疾患の治療に同等の活性を示すペプチドにも関する。本明細書において、同等の活性とは、200%までの高い活性で、個々の場合には300%までの高い活性、あるいは25%までの低い活性と考えられる。上記配列から得られる本発明のペプチドは特に、個々のアミノ酸または比較的小さいアミノ酸グループの置換により得られる。好ましくは、これらのペプチドは、以下の方法によって得られる。
− 原則として4または5個を超えない少数のアミノ酸を、個々に、あるいは小さなグループで、1個以上の好ましくは相同のアミノ酸により置換し、
および/または、
− 原則として3個を超えない任意のアミノ酸残基をN末端および/またはC末端に付加し、
および/または、
− ペプチドをN末端および/またはC末端で少数のアミノ酸を切断し、原則として切断は少なくとも6個、好ましくは、少なくとも8個のアミノ酸を有するペプチドが得られる場所でのみ行われる。
【0044】
既に説明した様に、ペプチドB27PAとKer333は、特定のアミノ酸の位置における配列の相同性に基づき、それぞれ完全な配列から選択された。これらのアミノ酸の位置の少なくとも幾つかが、ペプチドの生物活性にとって重要と考えられる。以下のコア配列B27PAおよびKer333、並びにC末端切断によりB27PAから得られるコア配列B27PA*において、配列の相同性が、個々のアミノ酸に下線を付けて表示されている。
ペプチドB27PA:
Trp-Asp-Arg-Glu-Thr-Gln-Ile-Cys-Lys-Ala-Lys-Ala-Gln-Thr-Asp-Arg-Glu-Asn-Leu-Arg-Thr
ペプチドKer333:
Leu-Asp-Leu-Asp-Ser-Ile-Ile-Ala-Glu-Val-Lys-Ala-Gln-Tyr-Glu-Glu-Ile-Ala-Asn-Arg-Ser
ペプチドB27PA*:
Trp-Asp-Arg-Glu-Thr-Gln-Ile-Cys-Lys-Ala-Lys-Ala-Gln
【0045】
従って、下線を付けたアミノ酸の位置に関しては、相同なアミノ酸の置換が好ましいが、相同でないアミノ酸による置換も残りの位置に関してはある程度可能と思われる。しかし、ペプチド配列内のその他のアミノ酸の位置もペプチドの生物活性に重要な可能性があるという事実が考慮に入れられる。既に何回も述べたように、この様なペプチドにより形成される三次元構造がペプチドの生物活性にとって基本的に重要であり、上記に定義された配列の結果生じる電荷および/または表面構造の変化に対して、これらの変化が目的の観点から不利な影響を及ぼさない限り、構造に変更を加える事は可能と思われ、好ましくは、修飾されたペプチドの三次元構造は、生物活性にとって必須のコア配列またはコア配列の断片と比較して、本質的に変わらない。
【0046】
診断に関する上記同等の適切性および/またはHLA依存性自己免疫疾患の治療における同等の活性の条件、およびペプチドの空間構造に関する上文の考察は、置換に加えて適宜、個々のアミノ酸または比較的小さなアミノ酸グループの修飾(例えば、メチル基、脂肪酸または糖による)、反転、削除および/または挿入により、上記配列から得られる本発明のペプチドも包含する。
【0047】
更に、本発明は、本質的に公知の方法で、アミノ酸またはその誘導体を適切な配列に結合することにより上記に定義されたペプチドを生成する工程にも関する。従って、上記コア配列から改変されたペプチドを生成する可能な方法は、コア配列またはこれらのコア配列の断片に固有のこの様な空間構造を考慮に入れた方法から成る。既に述べた相同なアミノ酸の置換は、アミノ酸の置換、修飾、削除または挿入により得られたペプチドの空間構造にどの程度影響が生じるかを確立することを目的とした、コンピュータ支援分子モデリングの一例として本明細書に引用できる。特定の開始ペプチド、この場合には上記コア配列またはその断片に極めて類似した三次元構造を形成する非ペプチド類似体を生成する目的のペプチド疑似物の概念により、「天然」アミノ酸から成るブロックから代替物が供給される。
【0048】
上記定義に対応するペプチドには、標識物質がHLA依存性自己免疫疾患の診断に関してペプチドの適切性を障害しない限り、上記に記載されているように、標識物質を結合することができる。
本発明に従って使用できるペプチド、または本発明のペプチドは、多くの方法で作製できる。例えば、BeckmanまたはApplied Biosystems, Inc.により市販されている自動または手動操作によるペプチド合成器を用いて実施できる。この場合、ペプチド合成のプロトコールは、これらの装置の製造者により提供されるプロトコールに従い、これには使用される試薬および方法の条件に関する正確な説明書が含まれている。
【0049】
その他の可能性として、手動による化学合成の実施がある。本技術に精通する者にとって公知の方法の中で、例としてR. B. Merrifieldにより開発された固相法(”Solid Phase Synthesis”, Science 232, 341-347(1986))、開始アミノアシル化合物または所望の構造の開始ペプチド部分配列のカルボキシル基を活性化するためのジシクロヘキシルカルボイミド(DCCI)を使用し、この方法でカルボキシ末端を活性化された化合物を、最終ペプチドの対応する位置に配置される適切な化合物または断片のアミノ基と反応させて、溶液中で実施される方法を引用することができる。後者の場合、これらの条件において同様に反応性を有する反応物内部の更なる基を遮断する必要がある。例えば、アミノ基に、tert-ブチルオキシカルボニル基を使用することが確立されている。
【0050】
ペプチドは天然供給源、特に細菌または真核細胞からも分離でき、これらはDNAを発現できる様な方法でペプチドをエンコードするDNAにより形質転換されている。このために必要な方法、例えば、DNA操作、形質転換、例えば、公知のクロマトグラフィー法(イオン交換クロマトグラフィーおよびイムノアフィニティクロマトグラフィー、ゲル濾過、その他)および電気泳動法による精製法を用いるペプチド分離は、精通した技術者にとって公知である。天然供給源から分離されたこの様なペプチドは、HLA依存性自己免疫疾患の診断利用に特に適している。
【0051】
既に述べたように、本発明は特に、HLA依存性自己免疫疾患の診断と治療のための前記ペプチドの利用を包含する。
a)HLA-B27およびケラチンVIから得られるペプチドは、細胞性および液性免疫応答を検出するための診断に利用できる。これにより、臨床徴候を免疫学的により正確な方法で分類することが可能となり、それによってより具体的な治療が可能となる。表示されている配列に基づき、これらのペプチドは、それぞれの対応する完全な蛋白質の抗原よりも、より特異性の高い抗原となる。更に、ケラチンの場合、蛋白質と対照的にペプチドが可溶性である事は、利用にあたり顕著な利点となる。
【0052】
ここで検討される自己免疫疾患はHLA-クラスI関連およびHLA-クラスII関連自己免疫疾患から成り、特に関節炎、リウマチ、反応性関節炎、乾癬性関節炎および若年性リウマチ性関節炎等のリウマチ疾患群、および虹彩炎、乾癬およびブドウ膜炎等の疾患も含まれるが、これらに限定されない。上記に定義された本発明のペプチドをその診断と治療に同様に利用できるHLA-B27関連自己免疫疾患も言及されるべきである。例えば、強直性脊椎炎(ベーチェテレフ病)の場合、またリウマチ疾患群の上記疾患の特定の形態、特に若年性リウマチ性関節炎および乾癬性関節炎の場合にも、また特定の形態の虹彩炎、ブドウ膜炎および乾癬の場合にも、HLA-B27抗原との関連性が存在する。上記に定義されたペプチドの適切性は、HLA-B27関連自己免疫疾患の診断および治療および/またはHLA-B27関連自己免疫疾患の予防に限定されるのではないことを強調すべきである。そうではなく、HLA-B27関連疾患ではない若年性リウマチ性関節炎および乾癬性関節炎等のその他のクラスI HLA抗原との関連性を示す自己免疫疾患にも拡大される。更に、適切性は特定のHLA-クラスII関連関節炎の様なHLA-クラスII関連自己免疫疾患にも拡大される。
【0053】
ペプチドは、例えば、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)または免疫蛍光分析の様な抗体を測定するための、また、T細胞刺激分析の様な細胞性免疫応答を測定するための、in vitro検出システムの抗原としての利用に特に適している。
これらの分析において、ペプチドは溶解された状態で直接使用しても、あるいは支持材料に吸着または共有結合させてもよい。使用されるペプチドは、分析方法に応じて、直接あるいは間接的に検出可能な標識物質に結合される。この様な標識物質は、本技術に精通する者にとって公知であり、特に蛍光物質、酵素、放射性元素( 3H、13C、32P、125I、その他)を含む基または分子、および磁性粒子から成り、これらはカップリング系(例えば、ビオチン/アビジン)により間接的に結合される。更に、ペプチドは、分析方法を実行するのに必要な試薬と共に、キットの形態で、遊離または適切に修飾された形態で利用できる。
【0054】
ペプチドは、診断を目的として人体にて同様に直接使用できる。この場合、溶液中のペプチドあるいは支持物質に吸着または結合させたペプチドを皮内または皮下注入することにより免疫反応を誘導することができ、それを測定する。ペプチドは、診断的探索方法として健常者において、あるいは患者において具体的な診断を目的として、遅延型の免疫反応を誘導するのに特に適している。このため、ペプチドは例えば、経口、静脈内、皮下、筋肉内、その他の通例の経路で、この種々のの利用に精通している技術者にとって公知の添加剤または補助物質を含む処方形態で投与される。
【0055】
b)HLA依存性自己免疫疾患の予防/治療
HLA-B27およびケラチンVIから得られる上記に定義されたペプチドは、具体例として上記a)に表示されているHLA依存性自己免疫疾患の治療薬として利用できる。
従って、本発明は、HLA依存性自己免疫疾患を予防または治療するための、特にHLA依存性自己免疫疾患を予防および/または治療するための薬物を調製するための、本発明のペプチドの利用にも関する。
【0056】
本発明は、上記に定義されたペプチドを投与することから成る、ヒトにおけるHLA依存性自己免疫疾患を治療するための手順にも関する。
本発明に従って前記ペプチドを投与する目的は、自己免疫活性が目標とする免疫反応の標的である種々の自己抗原に対する寛容性を患者に賦与する事である。この様な状況において、ペプチドは寛容性、アネルギー化、または抗原に特異的なT細胞の削除として現れる特異的免疫反応を誘導する。しかし、寛容性は、プロフェッショナルまたはノン-プロフェッショナル抗原提示細胞の抗原提示制限成分を遮断することによっても誘導できる。
【0057】
既に述べた様に、この性質の自己免疫疾患に関連する免疫システムの反応は、血液リンパ球に制限されない。抗体、マクロファージ、および免疫システムのその他の細胞による液性免疫応答も、本発明のペプチドにとって可能な標的を包含するものと予想される。
患者および正常ドナーにおける実験所見を使用して、ペプチドによる治療の可能性が決定される。一方、in vitroの研究が実施され、その中でベーチェテレフ病(強直性脊椎炎)患者と健常ドナーの末梢血液(PBL)からリンパ球が分離された。次に、これらのリンパ球を種々の蛋白質およびペプチドとインキュベーションし、細胞増殖の増加として、反応を3H-チミジンの取り込み量により測定した。これに関して、ベーチェテレフ病患者のリンパ球は、健常者のリンパ球と対照的に、上記の定義に一致しない比較ペプチド(B27PD)よりもペプチドB27PA*と明らかにより強く反応することが見いだされた。ペプチドの一次構造(アミノ酸配列)から、リンパ球が自己免疫反応の原因である交差反応性を示しているものと推定できる。
【0058】
更に、ペプチドB27PA*およびKer333を使用して、ラットにおいて免疫感作実験を実施し、この実験により、それぞれ4匹中1匹、4匹中2匹に、乾癬性関節炎の所見に匹敵する指関節の浮腫が生じた。これらの所見も、反応した動物において、ペプチドが指関節間接の領域に本来存在するエピトープと交差反応を示すことができる可能性を示すもので、この交差反応性は自己免疫疾患の原因である。この様な結果の達成が可能な場合には、例えば、前記パラグラフに記載されているように、対応するペプチドを診断手順またはそれぞれの自己免疫疾患を特徴づけるための手順に含めることは有用と思われる。
自己免疫性ブドウ膜炎の場合、この様な交差反応性が直接治療方法となることは過去に既に証明されている(例えば、国際公開第WO 95/299199944号公報と、S.R. ThurauらのImmunology Letters 57, 193-201(1997))。従って、ペプチドの免疫反応性に関する知見は、患者を治療するために診断学的に重要である。なぜならば、この反応性により、正にこれらのペプチドを治療に利用できることに直接つながるからである。すなわち、ペプチドを使用して自己攻撃性免疫応答を弱めることにより、治療に利用できるのである。
【0059】
寛容性は、上記に定義されたペプチド、またはこれらのペプチドを含む製剤を、静脈内、皮下または筋肉内投与により、また特に鼻咽頭領域、肺または胃腸管(特に経口投与において)等の粘膜表面に塗布することにより誘導できる。
これに関して、上記に定義されたペプチドを個々に、あるいは2つ以上のグループで投与することが検討される。2つ以上のペプチドが投与される場合には、同時に投与しても、順に投与してもよい。
【0060】
前記ペプチドを含む製剤は、鼻用スプレイまたは吸入スプレイの形態で、懸濁液またはエアゾールとして溶液に含めた乾燥物質として投与可能なペプチドから成る。その場合、製剤は活性物質に加えて、通常の補助剤および担体を含む。ペプチドは、1日量、体重1kgあたり10μgから1000mgを投与する。
本発明の特に好ましい投与方法は、鼻用または吸入スプレイを用いて、あるいはペプチドを経口投与することにより、特に、鼻、肺、胃腸管粘膜の粘膜から投与する。経口、経鼻または吸入による寛容性の誘導機序は、まだ大部分が判明していない。現在の知識によれば、細胞毒性作用は重要ではなく、少なくともCTLによるものではない。粘膜からの抗原投与により誘導される調節細胞は今のところ十分同定されておらず、機能に関しても特徴は明らかにされていない。
【0061】
経口投与に関しては、胃腸管の特定区分、例えば、小腸の特定部分においてのみ放出され、適切であれば、比較的長時間にわたり放出が持続する放出システム、例えば、カプセルを使用できる。これによって、例えば、胃の中に存在する攻撃的な酸性媒質に製剤が接触するのを回避することができる。この場合には植え込まれた放出装置も、皮下投与に利用できる。熟練技術者は、上記のタイプの放出装置に精通している。
治療を目的としてペプチドの局所投与は今回の場合除外されないが、現在の知識によれば、好ましくは思われない。例えば、乾癬の場合、皮膚病変の自己攻撃性Tリンパ球は、MHCに関して既に適切に調製された、すなわち蛋白質加水分解により断片化された局所投与されたペプチドを抗原として認識する可能性があり、これによって事項攻撃反応が増大される可能性がある。
【0062】
寛容性を誘導するために完全な蛋白質を使用する場合と比較して、寛容性を誘導するために上記ペプチドの1つを使用した方が、HLA依存性自己免疫疾患の場合には種々の利点がある。すなわち、
1)蛋白質化学を用いて、比較的簡単にペプチドを合成することができる。
2)ペプチドが天然組織から分離されない。組織が感染され、適切な場合には引き続き対応する(レトロ)ウイルスまたは細菌DNAによりトランスフェクションされる可能性がある、ウイルス、ビリオンまたは細菌による感染のリスク全てが除外される。
3)動物材料から蛋白質を分離する方法の代替法として使用できるが、手の込んだ、通常比較的低い収率しか得られない組み換え作製方法を必要としない。
4)原則として、ペプチドは、乾燥状態でも在庫期間が非常に短く、特別な保存条件を必要としない。
5)蛋白質を用いる状況と対照的に、ペプチドの場合には、マスト細胞のIgEと好酸球表面の架橋作用が起こり得ないため、食料品または接触アレルギーという意味で、感作の危険性は考えられない。
【0063】
具体例:
細胞性免疫応答を測定するためのin vitro検出システム用抗原として使用するための上記定義に対応するペプチドの本発明に従う適切性は、ペプチドB27PA*を用いる種々の研究により証明された。
【0064】
ペプチド:
テストされたペプチドは、上記のペプチドB27PA*で、コア配列B27PAと比較するとC末端で8個のアミノ酸が切断され、Szots et al.(上記引用文献)によれば、HLA-B27配列のアミノ酸60〜72を含んでいる。
【0065】
B27PA*:
Trp-Asp-Arg-Glu-Thr-Gln-Ile-Cys-Lys-Ala-Lys-Ala-Gln
および本発明に従ってしようできるペプチドに関する上記原則に対応せず、対照ペプチドB27PD Szotsら(上記引用文献)によれば、HLA-B27配列のアミノ酸125〜138を含んでいる。
【0066】
B27PD:
Ala-Leu-Asn-Glu-Asp-Leu-Ser-Ser-Trp-Thr-Ala-Ala-Asp-Thr
ペプチドB27PDは、実験的自己免疫性ブドウ膜炎(EAU)のラットモデルにおいて、ブドウ膜炎を誘発することが過去に証明されている(国際公開第WO 95/29194号公報と、G. Wildner & S.R. Thurau, Eur. J. Immunol. 24, 2579-2585(1994))。
ペプチドB27PA*は、製造者の指示に従って、半自動ペプチド合成器で調製した。ペプチドB27PDは、NEosystems, ストラスブルグ、フランスから入手した。ペプチドは、補助剤を添加しないRPMI-1640に溶解された。
【0067】
患者:
HLA-B27+強直性脊椎炎(AS)患者およびHLA-B27+のその他の脊椎関節症患者、HLA-B27-慢性関節リウマチ(RA)患者、HLA-B27+健常対照被験者およびHLA-B27-健常対照被験者を検討した。
【0068】
HLA-B27+強直性脊椎炎(AS)患者:
研究に含められた55例の強直性脊椎炎(AS)患者は全て、明確なASに関する修正されたニューヨーク基準(S. Van der Linden, H.AA. Valkenburg, A. Cats, Arthritis Rheum. 27, 361-368,(1984))を満たした(男性36例、女性19例、平均年齢:40.9才、年令範囲:18〜71才)。全ての患者が臨床的「活動性」疾患の必要条件を満たした。
【0069】
HLA-B27+のその他の脊椎関節症患者:
研究に含められた28例のその他の脊椎関節症患者には、5例の反応性関節炎の患者、10例の乾癬性関節炎の患者および13例のクローン病または潰瘍性大腸炎を合併した腸疾患に基づく関節炎の患者から構成された。(男性15例、女性13例、平均年齢:42.4才、年令範囲:22〜76才)。
【0070】
HLA-B27+健常対照被験者:
30例の被験者が研究に含められた(男性18例、女性12例、平均年齢:46.2才、年令範囲:20〜78才)。
【0071】
HLA-B27-健常対照被験者:
22例の被験者が研究に含められた(男性10例、女性12例、平均年齢:30.8才、年令範囲:22〜53才)。
HLA-B27-慢性関節リウマチ(RA)患者:
7例のHLA-B27-活動性慢性関節リウマチ(RA)患者が研究に含められた(男性1例、女性4例、平均年齢:56.8才、年令範囲:30〜72才)。
対照血液ドナーには、脊椎関節症の個人の病歴または家族歴を有する者も、胃腸管または泌尿生殖器に細菌感染の徴候が認められた者も皆無であった。
【0072】
末梢血リンパ球(PBL)の分離:
ヘパリン添加末梢血から得られたPBLsは、Ficoll-HYpaque勾配で標準遠心分離法により分離し、3回洗浄し、RH10培養培地に再懸濁した(2mM L-グルタミン、HEPES、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび10%熱による不活化されたヒトAB培地を含むRPMI-1640培地)。
【0073】
リンパ球増殖分析:
96-ウェル丸底ミクロタイタープレート(Nunc, Roskilde、デンマーク)にて、刺激剤を含む、あるいは含まないRH10培養培地を用いて 、5×104個のPBLsを、最終容量100μlとした。ペプチドは最終濃度10μg/mlで使用された。全てのテストを、3回ずつ実施した。培養は、高湿度の雰囲気(CO 5%、空気95%)で37℃で6日間インキュベーションされた。5日目に、0.25μCiの3H-チミジン(3H-TdR、Amersham, Braunschweig、ドイツ)を各ウェルに加えた。6日目に、標準収集法を用いてガラスフィルター濾紙に細胞を収集した。3H-TdRの取り込み量を液体シンチレーションカウンティングにより定量した。結果は、刺激指数([刺激剤を含む場合のcpm-刺激剤を含まない場合のcpm]:[刺激剤を含む場合のcpm]として示す。
【0074】
ペプチドB27PA*の用量/反応曲線の測定:
B27PA*に反応する1例の患者(AS1)から得られた1×105個のPBLsを0.1から50.0μg/mlの異なる濃度の合成ペプチドB27PA*を加えるか、あるいは加えずに6日間100μlのRH培地でインキュベーションし、5日目に0.25μCiの3H-チミジン(3H-TdR)を加え、6日目に、ガラスフィルター濾紙に細胞を収集した。結果は、試料3例の平均カウント数/分(cpm)±標準偏差として示す。
【0075】
B27PA*に特異的なT細胞系の作製:
3×106個のPBLsを、12ウェルプレートにて容量2mlのRH10培地内で10μg/mlのペプチドB27PA*と共にインキュベーションした。PBLsは、強直性脊椎炎患者、AS1およびAS2、健常HLA-B27+血液ドナーH1から分離したが、被験者は全て、過去のリンパ球増殖分析において、ペプチドB27PA*に対する有意な増殖反応を示した;増殖反応を全く示さなかった別の強直性脊椎炎患者、AS2から得られたPBLsを対照として採取した。培養3日後、20U/mlの組み換えIL-2(rIL-2、Boehringer Ingelheim、ドイツ)培地を補足した新鮮RH10と交換した。10日目、培地を、支持細胞として自己由来の照射された(4000rads)PBLs、10μ/mlのB27PA*ペプチドおよびrIL-2補足RH10で洗浄し、再刺激した。再刺激には、1×106個の応答細胞あたり2×106個の支持細胞を使用した。E. Hermann, B. Fleiscvher, W.-J. Mayet, T. Poralla, K.-H Meyer zum Buschenfelde, Clin. Exp. Immunol. 75, 365-370(1989)に報告された方法により、20日目に、総容量150μLのRH10において、応答細胞として1×104個のT細胞を、支持細胞として1×104個の自己由来のE-(すなわちヒツジ赤血球を用いるロゼット形成による自己由来PBLsから分離された単核細胞/B細胞に富む分画T細胞)を用いて、得られたT細胞系の機能的な特徴を明らかにした。ペプチドB27PA*(10または1μg/ml)とB27PD(10μg/ml)を刺激剤として使用し、フィトヘマグルチニン(PHA、1μg/ml)をポジティブコントロールとして使用した。モノクローナル抗体(Mabs)がペプチドに特異的なT細胞の増殖を遮断できるかどうかを検討するために、Mabs W6/32(抗HLAクラスI、1:400)、DA6.231(抗HLA-クラスII、1:400)と1μg/ml TCR-δ1(γδ-TCRのδ鎖のフレームワーク決定基に特異的、T cell Sciences、ケンブリッジ、マサチューセッツ州、USA))B27PA*含有培養に加えた。培養3日目に、細胞に0.25μCiの3H-TdRを適用し、収集し、上記のように計数した。
【0076】
ペプチドで刺激されたT細胞系の表現型分析:
T細胞系および未刺激のPBLsを、培養8日目と20日目に細胞選別機で分析した。テストあたり3×105個の細胞をまず未結合Mabs抗CD3(OKT3)、抗CD4(OKT4)、抗CD8(OKT8)(ハイブリドーマ上清)、EMA.031(TCR-αβのフレームワーク決定基に特異的)およびTCR-δ1で標識し、次いでRPMI-1640/10%胎児ウシ血清に含めたフルオレセインイソチオシアナート結合ポリクローナルヤギ抗マウスIgG抗体(Madec、ハンブルグ、ドイツ)で標識した。試料をそれぞれの工程の間に2回洗浄した。試料あたり6000個の細胞が計数される細胞蛍光定量分析を、蛍光活性化細胞選別機(FACStar, Becton Dickinson)で実施した。結果を、CD3ポジティブT細胞のパーセンテージに基づき、モノクローナル抗体(Mab)により定義されるポジティブの染色細胞のパーセンテージとして示す。
【0077】
結果
HLA-B27由来ペプチドに対するPBLsの増殖反応:
図1に示すように、B27PA*は、検討されたAS患者55例中17例(SIは、2.5から17)に、健常HLA-B27+血液ドナー30例中3例(SIは、2.5から9.8)においてPBL増殖を有意に誘導した。AS患者群と健常HLA-B27+血液ドナー群の差は統計的に有意であった(P=0.0135; マン-ホイットニーの順位和検定、Stat Exact Programme)。その他のHLA-B27関連炎では28例中2例、健常HLA-B27−対照被験者では22例中2例に軽度のPBL増殖(SI=2.5)が証明できたに過ぎなかった。
【0078】
抗原と反応中に、一部のT細胞は、刺激されてサイトカインは分泌できるが、増殖はしないことが知られている事から、ペプチドに反応したAS患者(AS1)とペプチドに反応しなかったAS患者(AS2)のPBLsの内IFN-γ-分泌T細胞の発生頻度を、酵素結合イムノスポット(ELISPOT)アッセイを用いて決定した[D.M. Klinman, T.B. Nutman、「サイトカインを分泌するネズミおよびヒト細胞を検出するためのELISPOTアッセイ」、 Current Protocols in Immunology, 第7版: J.E. Coligan, A.M. Kruisbeek, D.H. Margulies, E.MM. Shevach, W. Strober編、ブルックリン、ニューヨーク、Greenee Publishing Associates, 1994]。この鋭敏なELISPOT法により、ドナーAS1のPBLs105個中8個と、ドナーAS2のPBLs105個中1個が、B27PA*で刺激されたT細胞により特異的なIFN-γ-の生産を示した。
【0079】
RA患者のPBLsは、使用された2つのペプチドのいずれによっても刺激されなかった。
興味深いことに、健常HLA-B27+被験者群内でB27PA*に対して最も強いPBL増殖反応を示した健常HLA-B27+血液ドナー(H1と呼ぶ)、30才男性血液ドナーは、炎症型の背部痛、1時間持続する朝のこわばりを血液試料採取8ヶ月後に発症した。残念ながら、この血液ドナー、H1は、リウマチ専門医による医学的検査を受ける様になっていない。
下表に示すように、ペプチドB27PA*に反応したAS患者のPBLsにおけるB27PA*に特異的な反応は、用量依存性で、培養培地において最終濃度10μg/mlで最大に達した。
【0080】
【表3】

これらの結果は、HLA-B27配列から得られる合成ペプチド、すなわちB27PA*は、HLA-B27+強直性脊椎炎患者のPBLsにより、または程度は小さいが、HLA-B27+対照被験者のPBLsにより自己抗原として特異的に認識されることを証明している。
HLA-B27由来ペプチドB27PA*およびB27PDは、これらのペプチドがPBLドナーにとって異物であるにもかかわらず、PBLHLA-B27-対照被験者において全く増殖を誘導しないか、僅かな増殖を誘導したに過ぎなかった。これらのHLA-B27決定基に反応して、対照による増殖が誘導されなかったことは、この種の反応性が、宿主のMHC制限T細胞の自己反応を特徴とし、公知の様に常に外来MHC抗原の1つ、あるいは幾つかの優性決定基を常に指向する、間接的な「同種認識」であるという事実により説明することができる(G. Benichou, R.C. Tam, L.R.B. Loares, E.v. Fedoseyeva, Immunol. Today 18: 67-71,(1997))。従って、本試験において検討されたペプチドは、HLA-B27-ドナーにおいて自己反応性T細胞反応を誘発することができると思われるHLA-B27分子の対応する決定基である様には見えない。
【0081】
B27PA*に特異的なT細胞系の機能的特徴:
上記に記載した方法により、患者AS1およびAS3、および健常HLA-B27+血液ドナー(H1)由来のPBLs を、B27PA*を用いてインキュベーションし、再刺激することにより、3種類のB27PA*に特異的なT細胞系を生成した。AS1とAS3は、ペプチドB27PA*に反応して、PBLsが強度に増殖するAS患者であった(AS1:SI=17.5、AS3:SI=15.4)。血液ドナーH1のPBLsをB27PA*により刺激し、SIは9.8であった。対照T細胞系B27PA*-AS2は、B27PA*に反応して増殖しなかったPBLsから得られた(SI=1)。T細胞系を培養20日目に分析した。下表に示すように、細胞系B27PA*-AS1、B27PA*-AS3およびB27PA*-H1は、B27PA*ペプチドに反応して特異的に増殖したが、対照細胞系B27PA*-AS2はこの様に増殖しなかった。この特異的T細胞増殖を抗MHCクラスI Mabs(W6/32)または抗MHCクラスII Mabs(DA6.231)により阻害することは不可能であった。一方、モノクローナル抗体TCR-δ1(抗γδ-TCR)は、1μg/mlのB27PA*により刺激された培養において50%以上B27PA*に特異的な増殖反応を遮断することが可能であったが、PHAにより誘導された増殖には影響を及ぼさなかった。
【0082】
【表4】

B27PA*に特異的T細胞系のフローサイトメトリック分析:
下表に明らかなように、B27PA*に特異的なT細胞系、B27PA*-AS1、B27PA*-AS3、およびB27PA*-H1の表現型決定により(培養8日目と20日目に実施)、未刺激PBLs(0日目)またはrIL-2によってのみ刺激されたPBL系と比較して、B27PA*により刺激された細胞系において、γδ-TCR+リンパ球の実質的増加が引き起こされた。20日目に、γδ-TCR+リンパ球はCD3ポジティブ細胞集団総数の25.5%(ドナーAS1)、30.4%(ドナーAS3)および32.7%(ドナーH1)を構成した。これに反して、B27PA*により刺激された対照細胞系B27PA*-AS2は、7.4%しかγδ-TCR+細胞を含んでいなかった。下表に示すデータは、CD3ポジティブ細胞総数のパーセンテージとして表示されている。
【0083】
【表5】

【0084】
FACスキャン分析から引用されたデータおよびモノクローナル抗体によるB27PA*に特異的なT細胞系の遮断を検討する実験から引用されたデータから、CD4ポジティブαβ-TCR+T細胞ではなく、γδ-TCR+T細胞が、HLA-B27由来ペプチドにより刺激され、in vitroインキュベーション後に増加した主な集団であることが証明されている。これに関連して、自己反応性γδ-TCR+細胞の慢性関節リウマチを含む幾つかのヒト自己免疫疾患の病因への関与が疑われている(J. Socerstrom, E. Halapi, E. Nilsson, A. Gronberg, J. van Embden, L. Klareskog, R. Kiessling, Scand. J. Immunol. 32, 503-515(1990))が、γδ-TCR+細胞の相対的な数は、RA患者の末梢血液においても滑液においても、また滑膜においても増加していない(M. Smith, B. Broker, L. Moretta, E. Ciccone, C.E. Grossi, J.C.W, Edwards, F. Yuksel, B. Colaco, C. Worman, L. Mackenzie, R. Kinne, G. Weseloh, K. Gluckert, P.M. Lydyard, Scand. J. Immunol. 32, 585-593(1990))。脊椎関節症において、肺炎棹菌に反応して増殖した(E. Hermann, B. Sucke, U. Droste, K.-H. Meyer zum Buschenfelde, Arthritis Rheum. 38, 1277-12822(1995))、あるいは自己標的に対して、Daudi細胞系に対して、あるいは腸内細菌に感染したB細胞系に対して、細胞毒性作用を示した(E. Hermann, B. Ackermann, R. Duchmann, K.-H. Meyer zum Buschenfelde, Clin. Exp. Rheumatol. 13, 187-191,(1995))γδ-TCR+細胞が、滑液から分離されている。従って、脊椎関節症の病因に関して、γδ-TCR+細胞は、関節炎原因菌に感染した細胞に対する、あるいは自己の炎症を起こした「ストレスがかかった」組織に対する初期防御機序において重要な役割を果たしているものと推測されている(E. Hermann, B. Ackermann, R. Duchmann, K.-H. Meyerzum Buschenfelde, Clin. Exp. Rheumatol. 13, 187-191,(1995))。HLA-B27ペプチドに特異的なγδ-TCR+細胞の役割に関するもう1つの観察結果が、実験的自己免疫性ブドウ膜炎(EAU)の動物モデルにおいて得られている。ブドウ膜炎を引き起こす自己抗原S-Agペプチドまたは交差反応性ペプチドB27PDの経口投与により寛容性が誘導されたラットから養子免疫伝達されたγδ-TCR+細胞は、抗原特異的にブドウ膜炎の抑制を引き起こすことができた(G. Wildner, T. Hunig, S. Thurau, Eur. J. Immunol. 26, 2140-48,(1996))。これらの結果の観点から、病気に関連性のあるHLA-B抗原27由来ペプチドに対し特異性を有するγδ-TCR+細胞は、ヒトの疾患である強直性脊椎炎における炎症の免疫修飾、あるいはダウンレギュレーションにも関与している可能性がある。健常HLA-B27ポジティブ血液ドナーの末梢T細胞がB27PA*ペプチドに対して反応するという上記研究の観察結果は、後者の可能性と矛盾しない。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】健常者、AS患者およびRA患者におけるPBL増殖反応を比較した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLA依存性自己免疫疾患の診断及び/又は治療のための、以下の一般配列の1つを有することと特徴とする1つ以上のペプチドの使用。
BL-X-BL-Y-BL-Z
又は
BL-X-BL-Y-BL-Z-BL-W-BL
これらの一般配列中、
BLは1から2個のアミノ酸を表し、
XはAspを表し、
BL2は4から5個のアミノ酸を表し、
Y はIleを表し、
BL3は3から4個のアミノ酸を表し、
ZはLys-Ala-GlnまたはLys-Ala-Glu を表し、
BL4は6から8個のアミノ酸を表し、
WはArgを表し、
BL5は1から2個のアミノ酸を表し、
この場合、個々のアミノ酸または比較的小さなアミノ酸グループの挿入、削除、置換、修飾および反転が含まれ、適切な場合には、更なるアミノ酸残基、グリコシル残基、脂肪酸残基またはアルキル/アルケニル残基(C1-C16)がC末端および/またはN末端に存在し、および/または適切な場合には、ペプチドはC末端またはN末端領域で1個以上のアミノ酸が切断されている。
【請求項2】
以下のペプチド、
Trp-Asp-Arg-Glu-Thr-Gln-Ile-Cys-Lys-Ala-Lys-
Ala-Gln-Thr-Asp-Arg-Glu-Asn-Leu-Arg-Thr
又は個々のアミノ酸或いは比較的小さなアミノ酸グループの置換、修飾、削除、挿入および/または末端における付加により上記配列から得られるペプチドが利用されることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項3】
以下のペプチド、
Trp-Asp-Arg-Glu-Thr-Gln-Ile-Cys-Lys-Ala-Lys-Ala-Gln
または個々のアミノ酸或いは比較的小さなアミノ酸グループの置換、修飾、削除、挿入および/または末端における付加により上記配列から得られるペプチドが利用されることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項4】
以下のペプチド、
Leu-Asp-Leu-Asp-Ser-Ile-Ile-Ala-Glu-Val-Lys-
Ala-Gln-Tyr-Glu-Glu-Ile-Ala-Asn-Arg-Ser
または個々のアミノ酸或いは比較的小さなアミノ酸グループの置換、修飾、削除、挿入および/または末端における付加により上記配列から得られるペプチドが利用されることを特徴とする、請求項1記載の使用。
【請求項5】
HLA依存性自己免疫疾患の診断および/または治療のための、以下の一般配列を有することを特徴とする1つ以上のペプチドの利用。
BL-O-BL-M-BL
これらの一般配列中、
BLは1から5個のアミノ酸を表し、
OはLeu-Argを表し、
BL7は1個のアミノ酸を表し、
MはTyrを表し、
BL8は0から6個のアミノ酸を表し、
この場合、個々のアミノ酸または比較的小さなアミノ酸グループの挿入、削除、置換、修飾および反転が含まれ、適切な場合には、更なるアミノ酸残基、グリコシル残基、脂肪酸残基またはアルキル/アルケニル残基(C1-C16)がC末端および/またはN末端に存在し、および/または適切な場合には、ペプチドはC末端またはN末端領域で1個以上のアミノ酸が切断されている。
【請求項6】
以下のペプチド、
Leu-Leu-Arg-Gly-Tyr-His-Gln-Asp-Ala-Tyr
または個々のアミノ酸または比較的小さなアミノ酸グループの置換、修飾、削除、挿入および/または末端における付加により上記配列から得られるペプチドが利用されることを特徴とする、請求項5記載の使用。
【請求項7】
以下のペプチド、
Arg-Val-Ala-Glu-Gln-Leu-Arg-Ala-Tyr-Leu-Glu-Gly-Glu-Cys-Val
または個々のアミノ酸或いは比較的小さなアミノ酸グループの置換、修飾、削除、挿入および/または末端における付加により上記配列から得られるペプチドが利用されることを特徴とする、請求項5記載の使用。
【請求項8】
HLA依存性自己免疫疾患の診断および/または治療のための請求項1から7に定義されたいずれかの1つ以上のペプチドをそれぞれの症例における同時、適切な場合に逐次に用いることを特徴とする使用。
【請求項9】
HLA-クラスI関連自己免疫疾患またはHLA-クラスII患者関連自己免疫疾患の診断および/または治療のための請求項1から7に定義されたいずれかの1つ以上のペプチドを用いることを特徴とする使用。
【請求項10】
虹彩炎(iritis)、ブドウ膜炎(uveitis)、乾癬(psoriasis)又はリウマチ疾患群(the rheumatic disease complex)の疾患のような非HLA-B27関連疾患の診断および/または治療のために、請求項10に従って請求項1から7に定義されたいずれかの1つ以上のペプチドを用いることを特徴とする使用。
【請求項11】
関節炎(arthritides)、乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)または若年性リウマチ性関節炎(juvenile rheumatoid arthritis)等のリウマチ疾患群(rheumatic disease)の疾患の診断および/または治療のために、請求項10に従って請求項1から7に定義されたいずれかの1つ以上のペプチドを用いることを特徴とする使用。
【請求項12】
HLA-B27関連自己免疫疾患の診断および/または治療のための請求項1から7に定義されたいずれかの1つ以上のペプチドを用いることを特徴とする使用。
【請求項13】
強直性脊椎炎(ankylosing)(ベーチェテレフ病(Bechterew’s disease))、乾癬性関節炎または若年性リウマチ性関節炎、虹彩炎、ブドウ膜炎または乾癬の診断および/または治療のために、請求項12に従って請求項1から7に定義されたいずれかの1つ以上のペプチドを用いることを特徴とする使用。
【請求項14】
請求項1から7に定義されたいずれかの1つ以上のペプチドを患者に投与する事を含むことを特徴とする、HLA依存性自己免疫疾患に罹患した患者の治療手順。
【請求項15】
請求項1から7に定義されたいずれかの1つ以上のペプチドを患者に投与する事を含むことを特徴とする、患者におけるHLA依存性自己免疫疾患のin vitroでの診断手順。
【請求項16】
分析に必要なその他の試薬に加えて、請求項1から7に定義されたいずれかの1つ以上のペプチドを含む、HLA依存性自己免疫疾患を診断するための分析に使用することを特徴とするキット。
【請求項17】
以下の配列、
Trp-Asp-Arg-Glu-Thr-Gln-Ile-Cys-Lys-Ala-Lys-Ala-Gln-
Thr-Asp-Arg-Glu-Asn-Leu-Arg-Thr
または個々のアミノ酸或いは比較的小さなアミノ酸グループの置換、修飾、削除、挿入および/または末端における付加により上記配列から得られる配列を有することを特徴とするペプチド。
【請求項18】
以下の配列、
Trp-Asp-Arg-Glu-Thr-Gln-Ile-Cys-Lys-Ala-Lys-Ala-Gln
または個々のアミノ酸或いは比較的小さなアミノ酸グループの置換、修飾、削除、挿入および/または末端における付加により上記配列から得られる配列を有することを特徴とするペプチド。
【請求項19】
以下の配列、
Leu-Asp-Leu-Asp-Ser-Ile-Ile-Ala-Glu-Val-Lys-Ala-Gln-
Tyr-Glu-Glu-Ile-Ala-Asn-Arg-Ser
または個々のアミノ酸あるいは比較的小さなアミノ酸グループの置換、修飾、削除、挿入および/または末端における付加により上記配列から得られる配列を有することを特徴とするペプチド。
【請求項20】
以下の配列、
Leu-Leu-Arg-Gly-Tyr-His-Gln-Asp-Ala-Tyr
または個々のアミノ酸或いは比較的小さなアミノ酸グループの置換、修飾、削除、挿入および/または末端における付加により上記配列から得られる配列を有することを特徴とするペプチド。
【請求項21】
以下の配列、
Arg-Val-Ala-Glu-Gln-Leu-Arg-Ala-Tyr-Leu-Glu-Gly-Glu-Cys-Val
または個々のアミノ酸或いは比較的小さなアミノ酸グループの置換、修飾、削除、挿入および/または末端における付加により上記配列から得られる配列を有することを特徴とするペプチド。
【請求項22】
それ自体公知の方法で、アミノ酸を適性な配列に結合することによる、請求項18から22のいずれかの1つのペプチドの調製方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−235607(P2010−235607A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−89593(P2010−89593)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【分割の表示】特願平10−514292の分割
【原出願日】平成9年9月18日(1997.9.18)
【出願人】(500554841)
【Fターム(参考)】