自己免疫障害を治療するためのTrkBアゴニスト
多発性硬化症等の自己免疫疾患における白血球の中枢神経系への侵入を低下させるためのチロシン受容体キナーゼ(TrkB)アゴニストを提供する。TrkBアゴニストは、NT4およびBDNF等の天然に存在するアゴニスト、ならびにアゴニスト抗体等のアゴニストを包含する。
【図1】
【図1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年12月20日に出願した米国仮特許出願第60/870918号の優先権を主張するものであり、その全体は参照によって本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、多発性硬化症を含めた、中枢神経系に影響を及ぼす自己免疫疾患の治療に関する。本発明は、白血球の中枢神経系組織への侵入を低下させるためのチロシン受容体キナーゼB(TrkB)のアゴニストを提供する。
【背景技術】
【0003】
多発性硬化症(MS)は、炎症、脱髄および軸索損傷によって特徴付けられる中枢神経系(CNS)の脱髄性自己免疫疾患である。この疾患は、全世界で100万人以上の人々を襲い、女性の有病率は、男性の有病率の2倍である。MSの症状は通常、20歳から40歳の間に出現する。
【0004】
MSの特色が研究されているが、この疾患の病因は不明である。そのような特色には、CNS組織の損傷、ミクログリアの活性化、炎症促進性サイトカインの産生、T細胞の遊走およびクローン型増殖の停止、マクロファージのエフェクター機能、産生の変化、MHCの上方制御、ならびに浸潤性T細胞によるCNSの直接的な攻撃を包含する。
【0005】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)が、MSの標準的なモデルであるとみなされている。マウス疾患モデルが、MSの病因を研究し、その治療用の薬物を評価するのに使用されている(Aharoni,R.ら、2005a)。EAEの臨床的な特色には、非常に多数の浸潤性リンパ球およびマクロファージによるCNSの炎症および脱髄がある。ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)を含めた、ミエリンのいくつかの異なるタンパク質構成成分を用いたマウスの能動免疫は、自己免疫抗体の産生および上行性麻痺の臨床症状を誘発する。この疾患は、マウスの系統、および免疫感作に使用したミエリンタンパク質に依存して、急性または慢性となる場合がある。EAEは、MSの病因を研究し、その治療用の薬物を評価するのに使用されている(Aharoni,R.ら、2005a)。
【0006】
MSは、多くの場合、神経細胞組織中に豊富に存在するポリペプチドであるミエリンに対するT細胞の応答によって生じる。脱髄および臨床上の麻痺は、ミエリン抗原に対する特異性を有するTh1表現型のT細胞の、CNS組織への侵入によって生じる。Th1細胞は、TNF−αおよびIFN−γを含めた、炎症性サイトカインを産生する。また、CNSに対する損傷は、自己免疫抗体の産生および補体の活性化を含めた、その他の免疫学的応答によっても引き起こされる可能性がある。B細胞が、MSおよびEAEの早期および後期の段階の間に関与し、種々のアイソタイプのミエリン塩基性タンパク質(MBP)特異的抗体が疾患の経過全体を通して認められる。脳および脊髄の組織から調製した切片が、白血球の侵入(特に、リンパ球およびマクロファージ)ならびに神経系の下層組織の破壊を示す。
【0007】
酢酸グラチラマー(GA、COPAXONE)は、MSおよびその他の疾患の治療について承認された免疫抑制薬である(Arnon,R.ら、2003)。また、この薬物は、EAEモデルにおいても有効である。GAは、Th2/3細胞の誘発物質であり、この細胞は、抗炎症性サイトカインを産生し、これらのサイトカインは、血液脳関門を横断して、CNS中に蓄積する。これらのサイトカインは、CNS組織において種々の効果をもたらし、その他の増殖因子、例えば、IL−10、TGF−βおよびBDNFの局所的な産生に至る(Aharoni,R.ら、2003)。長期的なGAの投与は、NT3、NT4およびBDNFのより高いレベルの発現を伴った(Aharoni,R.ら、2005b)。
【0008】
NT3、NT4およびBDNFは、神経細胞の発達、成長過程、シナプス可塑性、保護および生存に関して重要な小型のホモ二量体タンパク質のニューロトロフィン(NT)ファミリーのメンバーである。NTは、神経増殖因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、NT3、NT4(また、NT4/5とも呼ばれる)、NT6およびNT7を包含する。NTは、受容体チロシンキナーゼ(また、チロシン受容体キナーゼとも呼ばれる)として知られる受容体ファミリーとの相互作用を通して、標的細胞に影響を及ぼす。これらの受容体は、いくつかの高分子量(130〜150kDa)で、高親和性(約10−11M)のチロシン受容体キナーゼ(Trk)である受容体および低分子量(65〜80kDa)で、低親和性(約10−9M)の受容体(LNGFR、p75NTRまたはp75)として知られる受容体を包含する。特異的な受容体チロシンキナーゼへのNTの結合が、受容体の二量体化および内在性チロシンキナーゼドメインの活性化を引き起こす。NGFは、チロシン受容体キナーゼA(TrkA)に、BDNFおよびNT4は、チロシン受容体キナーゼB(TrkB)に、ならびにNT3は、チロシン受容体キナーゼC(TrkC)に優先的に結合する。全てのNTは、p75に弱く結合する。
【0009】
EAEマウスのCNS組織中のBDNFおよびNT4の報告(Aharoni,R.ら、2003、2005b)は、多発性硬化症および関連する疾患におけるNTおよび/またはそれらの受容体の役割を示唆している。
【0010】
参照文献
Aharoni,R.et
al.(2005a)J.Neurosci.25:8217-28.
Aharoni,R.et
al.(2005b)Proc.Nat'l.Acad.Sci.USA 102:19045-50.
Aharoni,R.et al.(2003)Proc.Nat'l.Acad.Sci.USA
100:14157-62.
Aharoni,R.et
al.(1997)Proc.Nat'l.Acad.Sci.USA 94:10821-26.
Arnon,R.et
al.(2003)J.Mol.Recognit.16:412-21.
Davies,A.et al.(1993)Neuron 11565-74.
Karnezis,T.et al(2004)Nat.
Neurosci.7:736-44.
Padlan,E.et al.(1995)FASEB J.133-39.
Steinman and
Zamvil(2006)Ann.Neurol.60:12-21.
【0011】
追加の参照文献、特に、標準的な手順および方法に関連する参照文献を、本文を通して引用する。本出願中、上記および他所で引用する全ての特許、特許出願、Genbankへの登録、参照マニュアルおよび刊行物は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、本発明は、白血球の中枢神経系組織への侵入を低下させるための方法を提供し、この方法は、TrkBアゴニストを含む組成物を、そのような治療を必要とする哺乳動物対象に、TrkB受容体を活性化するのに有効な量で投与するステップを含み、それによって、白血球の中枢神経系組織への侵入を低下させる。本発明は、哺乳動物において白血球の中枢神経系組織への侵入を低下させるのに使用する医薬品の製造におけるTrkBアゴニストの使用もさらに提供する。
【0014】
いくつかの実施形態では、哺乳動物は、自己免疫障害を有する。一実施形態では、自己免疫障害は実験的自己免疫性脳脊髄炎である。別の実施形態では、自己免疫障害は多発性硬化症である。その他の実施形態では、自己免疫疾患は、免疫拒絶、視神経症、炎症性腸疾患またはパーキンソン病に関係する。好ましい実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0015】
いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、天然に存在するTrkBアゴニストである。一実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストはNT4である。関連する実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストは、NT4の天然に存在する断片または誘導体を含む。いくつかの実施形態では、NT4の断片または誘導体は、TrkBに結合して、それを活性化する。別の実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストはBDNFである。関連する実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストは、BDNFの天然に存在する断片または誘導体を含む。いくつかの実施形態では、BDNFの断片または誘導体は、TrkBに結合して、それを活性化する。
【0016】
別の実施形態では、TrkBアゴニストは抗体である。特定の実施形態では、抗体は、抗体38B8である。別の実施形態では、抗体は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生される。いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、ヒト抗体である。関連する実施形態では、TrkBアゴニストは、ヒト化抗体である。いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、抗体断片または誘導体である。特定の実施形態では、抗体断片は、Fab抗体、Fab’抗体、F(ab’)2抗体、Fv抗体、Fc抗体または一本鎖(ScFv)抗体から選択される。いくつかの実施形態では、抗体断片は、アゴニスト抗体38B8の抗原結合領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された抗体の抗原結合領域を含む。関連する実施形態では、抗体断片は、アゴニスト抗体38B8の相補性決定領域(CDR)を含む。関連する実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された抗体の相補性決定領域(CDR)を含む。
【0017】
好ましい実施形態では、侵入する白血球は、T細胞およびマクロファージを含む。特定の実施形態では、侵入する白血球は、CD3を発現する白血球およびCD68を発現する白血球を含む。好ましい実施形態では、中枢神経系組織は、脳組織または脊髄組織である。
【0018】
関連する態様では、本発明は、中枢神経系に影響を及ぼす自己免疫障害を治療するための方法を提供し、この方法は、TrkB受容体を活性化するのに十分な量のTrkBアゴニストを含む組成物を、そのような治療を必要とする哺乳動物対象に投与するステップを含み、それによって、白血球の中枢神経系組織への侵入を低下させる。本発明は、哺乳動物において中枢神経系に影響を及ぼす自己免疫障害を治療するのに使用する医薬品の製造におけるTrkBアゴニストの使用もさらに提供する。
【0019】
一実施形態では、自己免疫障害は実験的自己免疫性脳脊髄炎である。別の実施形態では、自己免疫障害は多発性硬化症である。その他の実施形態では、自己免疫疾患は、免疫拒絶、視神経症、炎症性腸疾患またはパーキンソン病に関係する。好ましい実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0020】
いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、天然に存在するTrkBアゴニストである。一実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストはNT4である。関連する実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストは、NT4の天然に存在する断片または誘導体を含む。いくつかの実施形態では、NT4の断片または誘導体は、TrkBに結合して、それを活性化する。別の実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストはBDNFである。関連する実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストは、BDNFの天然に存在する断片または誘導体を含む。いくつかの実施形態では、BDNFの断片または誘導体は、TrkBに結合して、それを活性化する。
【0021】
別の実施形態では、TrkBアゴニストは抗体である。特定の実施形態では、抗体は、抗体38B8である。別の実施形態では、抗体は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生される。いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、ヒト抗体である。関連する実施形態では、TrkBアゴニストは、ヒト化抗体である。いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、抗体断片または誘導体である。特定の実施形態では、抗体断片は、Fab抗体、Fab’抗体、F(ab’)2抗体、Fv抗体、Fc抗体または一本鎖(ScFv)抗体から選択される。いくつかの実施形態では、抗体断片は、アゴニスト抗体38B8の抗原結合領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された抗体の抗原結合領域を含む。関連する実施形態では、抗体断片は、アゴニスト抗体38B8の相補性決定領域を含む。関連する実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された抗体の相補性決定領域(CDR)を含む。
【0022】
好ましい実施形態では、侵入する白血球は、T細胞およびマクロファージを含む。特定の実施形態では、侵入する白血球は、CD3を発現する白血球およびCD68を発現する白血球を含む。好ましい実施形態では、中枢神経系組織は、脳組織または脊髄組織である。
【0023】
さらなる態様では、本発明は、白血球の中枢神経系組織への侵入を低下させるためのキットオブパーツを提供し、このキットオブパーツは、TrkB受容体を活性化するのに有効な量のTrkBアゴニストおよび使用のための指示を含む。関連する態様では、本発明は、中枢神経系に影響を及ぼす自己免疫障害を治療するためのキットオブパーツを提供し、このキットオブパーツは、TrkB受容体を活性化するのに有効な量のTrkBアゴニストおよび使用のための指示を含む。
【0024】
さらなる実施形態では、本発明は、TrkBアゴニスト抗体38B8、例えば、単離モノクローナル38B8抗体に関する。別の実施形態では、本発明は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された単離TrkBアゴニスト抗体に関する。いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、38B8の抗体断片または誘導体である。さらなる実施形態では、TrkBアゴニストは、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された抗体の抗体断片または誘導体である。特定の実施形態では、抗体断片は、38B8に由来するFab抗体、Fab’抗体、F(ab’)2抗体、Fv抗体、Fc抗体または一本鎖(ScFv)抗体から選択される。特定の実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された抗体に由来するFab抗体、Fab’抗体、F(ab’)2抗体、Fv抗体、Fc抗体または一本鎖(ScFv)抗体から選択される。いくつかの実施形態では、抗体断片は、アゴニスト抗体38B8の抗原結合領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生されたアゴニスト抗体の抗原結合領域を含む。関連する実施形態では、抗体断片は、アゴニスト抗体38B8の相補性決定領域(CDR)を含む。関連する実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生されるアゴニスト抗体の相補性決定領域(CDR)を含む。さらなる実施形態は、TrkBアゴニスト抗体38B8を産生する細胞または38B8に由来する断片を産生する細胞である。さらなる実施形態は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株である。
【0025】
また、本発明は、本明細書に記載する自己免疫障害のいずれかの治療における使用のための、本明細書に記載する任意のTrkBアゴニストにも関する。また、本発明は、本明細書に記載するTrkBアゴニストのいずれかおよび薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物も提供する。
【0026】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載するTrkBアゴニストのいずれかをコードするヌクレオチド配列を含む、単離核酸分子に関する。特定の一実施形態は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生されるアゴニスト抗体をコードするヌクレオチド配列を含む、単離核酸分子である。本発明は、本明細書に記載する核酸分子のいずれかを含むベクターにもさらに関し、ベクターは、核酸分子に動作可能に連結している発現制御配列を場合により含む。
【0027】
別の実施形態は、本明細書に記載するベクターのいずれかを含むか、本明細書に記載する核酸分子のいずれかを含む宿主細胞を提供する。また、本発明は、本明細書に記載する抗体または抗原に結合する部分のいずれかを産生するか、前記抗体または前記抗原に結合する部分のいずれかの重鎖または軽鎖を産生する、単離細胞系統も提供する。
【0028】
別の実施形態では、本発明は、TrkBアゴニスト抗体またはその抗原に結合する部分を産生するための方法に関し、この方法は、本明細書に記載する宿主細胞または細胞系統のいずれかを適切な条件下で培養するステップと、前記の抗体または抗原に結合する部分を回収するステップとを含む。
【0029】
また、本発明は、本明細書に記載する核酸のいずれかを含む、非ヒトの遺伝子導入動物または遺伝子導入植物にも関し、非ヒトの遺伝子導入動物または遺伝子導入植物は、前記核酸を発現する。
【0030】
本発明は、TrkBアゴニスト抗体またはその抗原に結合する部分を単離するための方法もさらに提供し、この方法は、抗体を本明細書に記載する非ヒトの遺伝子導入動物または遺伝子導入植物から単離するステップを含む。
【0031】
本発明のこれらおよびその他の態様は、以下の本発明の説明および実施例から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1A】MOGによる誘発後の数週間のEAE動物における相対的な病的状態を示すグラフである。MOGを、第0日に投与した。(A)動物に、第10日から、NT4(10mg/kg)または対照としてのビヒクル単独のいずれかを毎日投与した。(B)動物を、対照であるIgGを用いて(10mg/kg;n=9)、第3日から第9日までNT4を用いて(10mg/kg)(n=8)、または第9日から第15日までNT4を用いて(10mg/kg)(n=8)のいずれかで治療した。
【図1B】MOGによる誘発後の数週間のEAE動物における相対的な病的状態を示すグラフである。MOGを、第0日に投与した。(A)動物に、第10日から、NT4(10mg/kg)または対照としてのビヒクル単独のいずれかを毎日投与した。(B)動物を、対照であるIgGを用いて(10mg/kg;n=9)、第3日から第9日までNT4を用いて(10mg/kg)(n=8)、または第9日から第15日までNT4を用いて(10mg/kg)(n=8)のいずれかで治療した。
【図2】4つの受容体チロシンキナーゼアゴニスト(すなわち、NGF、BDNF、NT4および38B8)の、4つの受容体チロシンキナーゼ(すなわち、TrkA、TrkB、TrkCおよびp75)に対する相対的な親和性を示す一連のグラフである。x軸は、時間(全て、300〜450秒の範囲)を示す。y軸は、相対的な親和性を示す。最大目盛、上の行(左から右へ):90、20、50および60単位;2番目の行:32、60、60、140単位;3番目の行:35、35、16および20単位;下の行:90、80、100および90単位。これらのデータは、本文および(表2を含めた)実施例4においてさらに説明する。
【図3】MOGによる誘発9日後にTrkBアゴニストを用いて治療した動物における病的状態を示すグラフである。動物に、5mg/kgのTrkBアゴニスト抗体38B8または非特異性であるIgG(対照)のいずれかを、第9日および第16日に投与した。マウスを、EAEの臨床徴候について、以下のスコア化システムに従って毎日査定した:0=正常;1=尾を引きずる;2=中等度の後肢の衰弱;3=中等度に重度の後肢の衰弱(動物は依然として歩行することができるが、困難が伴う);4=重度の後肢の衰弱(動物は後肢を動かすことができるが、歩行することはできない);5=完全な後肢の麻痺;および6=死亡。
【図4】MOGによる誘発16日後にTrkBアゴニストを用いて治療した動物における病的状態を示すグラフである。動物に、5mg/kgのTrkBアゴニスト抗体38B8またはビヒクル(PBS)のいずれかを、第16日および第23日に投与した。
【図5A】疾患の進行のより遅い時期に治療した動物における病的状態を示すグラフである。(A)動物に、5mg/kgのTrkBアゴニスト抗体38B8または非特異性であるIgGのいずれかを、第18日および第23日に投与した。(B)動物に、GA(COPAXONE)またはビヒクル単独(対照)のいずれかを、第22日から毎日投与した。
【図5B】疾患の進行のより遅い時期に治療した動物における病的状態を示すグラフである。(A)動物に、5mg/kgのTrkBアゴニスト抗体38B8または非特異性であるIgGのいずれかを、第18日および第23日に投与した。(B)動物に、GA(COPAXONE)またはビヒクル単独(対照)のいずれかを、第22日から毎日投与した。
【図6A】TrkBアゴニストまたはデキサメタゾンのいずれかの投与後の動物における病的状態および体重を示すグラフである。動物に、38B8(5mg/kg、第9日および第16日に週1回)を投与するか、またはデキサメタゾン(4mg/kg)もしくはエタノールビヒクル(対照)を第3日から第12日まで毎日投与した。(A)上記に従って、病的状態を測定した。(B)動物の体重を疾患の進行の経過にわたって測定した。
【図6B】TrkBアゴニストまたはデキサメタゾンのいずれかの投与後の動物における病的状態および体重を示すグラフである。動物に、38B8(5mg/kg、第9日および第16日に週1回)を投与するか、またはデキサメタゾン(4mg/kg)もしくはエタノールビヒクル(対照)を第3日から第12日まで毎日投与した。(A)上記に従って、病的状態を測定した。(B)動物の体重を疾患の進行の経過にわたって測定した。
【図7A】TrkBアゴニストの、疾患の病的状態の低下における有効性は、用量依存性であることを示すグラフである。(A)動物に、1mg/kgまたは5mg/kgのTrkBアゴニスト38B8のいずれかを、第9日および第16日に投与した。(B)動物に、5mg/kg38B8もしくは10mg/kg38B8、またはPBS(対照)のいずれかを、第9日および第16日に投与した。
【図7B】TrkBアゴニストの、疾患の病的状態の低下における有効性は、用量依存性であることを示すグラフである。(A)動物に、1mg/kgまたは5mg/kgのTrkBアゴニスト38B8のいずれかを、第9日および第16日に投与した。(B)動物に、5mg/kg38B8もしくは10mg/kg38B8、またはPBS(対照)のいずれかを、第9日および第16日に投与した。
【図8】in vitroのアッセイを使用して、いくつかのTrkBアゴニスト抗体(38B8、23B8、36D1、37D12および19H8)の増加する量の存在下で生存する神経細胞の相対的な量を示すグラフである。実験の手順および結果を、本文および実施例1(例えば、表1)に記載する。神経細胞生存アッセイにおける各抗体のEC50値を、表1の第3列に示す。
【図9】未治療(対照)動物およびTrkBアゴニスト抗体38B8を用いて治療した動物における、MOGに特異的な抗体の表示したアイソタイプの相対的なレベルを示す一連のグラフである。各グラフは、TrkBアゴニスト(38B8)治療動物または未治療(対照)動物における、(450μmにおける吸収を測定することによって決定した)表示した抗体のアイソタイプの量を示す。
【図10】脾細胞刺激アッセイの結果を示すグラフである。MOGで誘発した未治療(対照)動物由来の脾臓細胞またはMOGで誘発したTrkBアゴニスト抗体(38B8)治療動物由来の脾臓細胞を、MOG単独、またはTrkBアゴニスト抗体(38B8;50μl/mg)もしくは2つの異なる濃度(10−8Mおよび10−5M)のうちの1つにおけるデキサメタゾンと組み合わせたMOGの存在下で、in vitroにおいて培養した。
【図11】対照動物から取り出した脊髄の切片(A)およびTrkBアゴニスト治療動物から取り出した脊髄の切片(B)の免疫化学的染色の結果を示す図である。切片は、ミエリンについてはLuxol Fast Blueを用いて、かつ細胞体についてはクレシルバイオレットを用いて染色した。
【図12】対照動物から取り出した脊髄の切片(A)およびTrkBアゴニスト治療動物から取り出した脊髄の切片(B)の免疫化学的染色の結果を示す図である。切片は、CD3に対して特異的な抗体を用いて染色した。
【図13】対照動物から取り出した脊髄の切片(A)およびTrkBアゴニスト治療EAE動物から取り出した脊髄の切片(B)の免疫化学的染色の結果を示す図である。切片は、CD68に対して特異的な抗体を用いて染色した。
【図14】対照動物から取り出した脊髄の切片およびTrkBアゴニスト治療EAE動物から取り出した脊髄の切片の組織学的染色の結果を示す図である。切片を、ミエリン染色、すなわちLuxol Fast Blueを用いて染色した。染色されていない場所は、脱髄の領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
本明細書で使用する場合、「チロシン受容体キナーゼ」および「受容体チロシンキナーゼ」用語は、互換的に使用して、TrkBがそのメンバーである、分子のクラスを指す。リガンド(アゴニスト)の受容体チロシンキナーゼへの結合が、リガンド誘発性の受容体の二量体化および細胞内キナーゼドメイン中のチロシン残基の自己リン酸化を引き起こす。チロシンのリン酸化に、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)/Akt経路、MAPK経路およびPLC経路等の多様なシグナル伝達カスケードの活性化が続き、これらの経路は、遺伝子発現を、典型的には細胞型に特異的な様式で調節する。
【0034】
本明細書で使用する場合、「侵入する白血球」は、自己免疫疾患、好ましくは、CNSに影響を及ぼす自己免疫疾患の結果として、脳および脊髄の組織を含めた、中枢神経系(CNS)組織中に侵入、浸潤または遊走する白血球である。侵入する白血球は、主としてT細胞および単核球であるが、その他の白血球も存在する場合がある。
【0035】
本明細書で使用する場合、「白血球の侵入を低下させる」とは、脳および脊髄の組織を含めた、白血球のCNS組織中への遊走(すなわち、侵入または浸潤)を減少させることを指す。白血球の侵入を低下させるとはまた、白血球の侵入によって媒介される細胞傷害性の効果を、特に、CNS組織の下層の神経細胞および/またはその他の支持細胞に関して低下させることも指す。白血球の侵入は、T細胞および単核球による侵入を包含する。白血球の侵入の低下は、CNS組織の自己免疫性の攻撃からの保護を包含する。白血球の侵入によって破壊されるCNS細胞は、ミエリン発現細胞および付近の非ミエリン発現細胞を包含する。細胞の破壊は、アポトーシス、壊死またはそれらの組合せであってよい。白血球の侵入の低下は、疾患の進行の緩慢化、病的状態の発症および重症化の遅延、生存の延長、生活の質の改善、認知、運動または行動の症状の減少または安定化等の臨床的な指標によって特徴付けられる。白血球の侵入の低下はまた、白血球の中枢神経系(CNS)組織中への遊走の危険の予防または低下も包含する。白血球の侵入の低下は、部分的であっても、または完全であってもよく、例えば、低下は、本明細書に記載するように、相対的なまたは実際の低下として、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%またはさらに約95%であってよい。
【0036】
本明細書で使用する場合、「TrkB受容体アゴニスト」または「TrkBアゴニスト」は、TrkB受容体の活性化の量を増加させる分子であり、天然に存在するアゴニストであるBDNFおよびNT4によってもたらされる効果に類似する効果をもたらす。TrkBの活性化は、通例、受容体誘発性の自己リン酸化によって生じ、これは、細胞内シグナル伝達事象の特徴的なカスケードを開始する。TrkB受容体アゴニストは、この活性化を、例えば、受容体の二量体化またはリン酸化を調節することによって、天然に存在するアゴニストの結合を調節することによって、天然に存在するアゴニストの結合を模倣することによって、TrkB受容体を活性化された(例えば、リン酸化された)状態に(無期限を含めた)より長い期間留めさせることによって、またはその他の形でTrkBの活性化を調節し、もしくはTrkB受容体の活性化に特徴的である細胞内事象のカスケードを開始させることによって増加させる。TrkBアゴニストは、これらに限定されないが、既知のTrkBアゴニストであるNT4およびBDNFを含めた、天然に存在するアゴニストのポリペプチド、それらの断片、変異体および誘導体を包含する。TrkBアゴニストは、アゴニスト抗体、それらの断片、変異体および誘導体を包含する。TrkBアゴニストの好ましい特性を、本明細書に記載する。本発明のTrkBアゴニストは、TrkBの活性化を、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、またはそれ以上増加させることができる。
【0037】
本明細書で使用する場合、「断片」ポリペプチドは、より大きなポリペプチドの部分であり、これは、TrkB受容体を活性化する能力等、そのより大きなポリペプチドの生物学的特性のうちの少なくともいくつかを保持する。好ましい断片は、そのより大きなポリペプチドの生物学的特性をもたらす、そのより大きなポリペプチドのアミノ酸残基および/または構造を含む。ポリペプチド断片は、ペプチドと呼ばれる場合があるが、本明細書では、ポリペプチドとペプチドを区別しない。例示的な断片を、本明細書に記載する。断片は、本明細書に記載するように、誘導体化することができる。
【0038】
本明細書で使用する場合、「誘導体」ポリペプチドは、官能基または官能性部分の付加または除去等、1つまたは複数の共有結合性または非共有結合性の修飾を有する。誘導体の例を、本明細書に提供する。
【0039】
本明細書で使用する場合、特定のポリペプチド配列の「変異体」を、Clustal VまたはBLAST、例えば、デフォルトパラメータに設定した「BLAST 2 Sequence」ツールのVersion 2.0.9(1999年5月7日)等のアルゴリズムを使用した場合、ポリペプチド配列のうちの1つの特定の長さにわたる特定のポリペプチド配列に対して、少なくとも40%の配列同一性を有するポリペプチド配列と定義する。そのような一対のポリペプチドは、例えば、ポリペプチドのうちの1つの特定の定義した長さにわたり、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%以上の配列同一性を示すことができる。
【0040】
本明細書で使用する場合、ポリペプチド配列に適用する場合の「配列同一性」は、Clustal V、MEGALIGNまたはBLAST等の標準化されたアルゴリズムを使用して整列させた、少なくとも2つのポリペプチド配列間における残基の一致のパーセントを指す。ポリペプチド配列のアラインメントの方法は、周知である。いくつかのアラインメントの方法は、保存的アミノ酸置換を考慮に入れる。本明細書に記載する、そのような保存的置換は、一般に、置換部位において電荷および疎水性を保存し、したがって、当該ポリペプチドの構造(したがって、機能)を保存する。
【0041】
本明細書で使用する場合、「TrkB受容体を活性化するのに有効な量」またはTrkBアゴニストに関する類似表現は、TrkB受容体アゴニスト投与前の活性化のベースラインレベルと比較して、(本明細書に記載し、当技術分野で既知である)TrkB受容体の活性化を増加させるのに十分な量を指す。活性化の増加は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、またはそれ以上であってよい。この量は、投与経路、TrkBアゴニストの体内半減期、TrkBアゴニストの溶解性、生物学的利用率、クリアランス速度およびその他の薬物動態学的特徴、動物または患者の体重および代謝等を考慮に入れる。また、TrkBアゴニストも参照されたい。
【0042】
本明細書で使用する場合、「治療を必要とする動物」または類似表現は、CNSが関与する自己免疫疾患を有するまたはそれを発症する危険を有する動物、好ましくは、ヒトを含めた哺乳動物を意味する。CNSに影響を及ぼす自己免疫性の疾患(または区別なく、障害)の例は、マウスにおける実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)、ヒトにおける多発性硬化症(MS)、およびその他の哺乳動物において見出される類似の自己免疫疾患である。また、CNSの自己免疫性の攻撃は、例えば、免疫拒絶、視神経症、炎症性腸疾患およびパーキンソン病においても観察される。
【0043】
本明細書で使用する場合、「天然に存在するTrkBアゴニスト」は、天然に存在し、TrkB受容体の活性化物質として機能する分子である。TrkB受容体の既知の天然に存在するアゴニストは、ニューロトロフィンであるNT4およびBDNFである。天然に存在するTrkBアゴニストは、変異型TrkB対立遺伝子を有する動物において発現したニューロトロフィンポリペプチド等、天然に存在する変異体分子を包含する。
【0044】
「単離抗体」は、本明細書で使用する場合、異なる抗原特異性を有するその他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことを意図する(例えば、TrkBに特異的に結合する、単離抗体は、TrkB以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかし、TrkBに特異的に結合する単離抗体は、他の種由来のTrkB分子等のその他の抗原に対する交差反応性を有する場合がある。さらに、単離抗体は、その他の細胞性物質および/または化学物質を実質的に含まない場合がある。
【0045】
「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、本明細書で使用する場合、単一の分子組成物である抗体分子調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す。
【0046】
一般的技術
本発明は、分子生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の分野において使用される従来の技術を利用する。そのような技術は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,second edition(Sambrookら、1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編、1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis編、1998)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney編、1987);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.MatherおよびP.E.Roberts、1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle、J.B.GriffithsおよびD.G.Newell編、1993−8)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.MillerおよびM.P.Calos編、1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubelら編、1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullisら編、1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coliganら編、1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons、1999);Immunobiology(C.A.JanewayおよびP.Travers、1997);Antibodies(P.Finch、1997);Antibodies:a practical approach(D.Catty編、IRL Press、1988−1989);Monoclonal antibodies:a practical approach(P.ShepherdおよびC.Dean編、Oxford University Press、2000);Using antibodies:a laboratory manual(E.HarlowおよびD.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1999);The Antibodies(M.ZanettiおよびJ.D.Capra編、Harwood Academic Publishers、1995)等の参照文献に記載されている。
【0047】
TrkBアゴニスト
本発明は、多発性硬化症および中枢神経系(CNS)に影響を及ぼすその他の自己免疫障害の治療のために、TrkBアゴニストを使用する方法を提供する。本発明の1つの特色によれば、TrkBアゴニストは、白血球のCNS組織への侵入を低下させる点およびCNSの下層神経細胞組織の破壊を低下させる点において有効であり、したがって、四肢麻痺等、こうした疾患の臨床所見を緩和する。具体的には、TrkBアゴニストは、単核球およびT細胞の遊走を低下させる。これらの細胞は、ミエリン抗原を提示する点およびミエリン抗原を産生する細胞に対して細胞傷害性の効果を与える点で活性がある。
【0048】
MSについて一般に認められている動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスを使用して、本発明を導いた観察がなされた。EAEは、ヒトにおけるMSと多くの臨床的および病理学的な特色を共有する実験的な疾患状態である。多くのFDAが承認したMSの療法は、最初に、マウスおよびラットにおけるEAEモデルに基づいて発見および開発された(SteinmanおよびZamvil、2006による総説)。EAEを、C57BL/6マウスにおいて、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)のペプチド35〜55を用いた免疫感作後に誘発することができる(Aharoni,R.ら、2005a)。MOGを用いた免疫感作は、ミエリンに特異的な自己免疫性反応を誘発し、これは、MSのものに類似する脱髄および病的状態を引き起こす。
【0049】
TrkBアゴニストを使用する動物実験
本発明の裏付けとして実施した実験では、TrkBアゴニストの直接的な投与が、CNSに特異的な自己免疫疾患を有する動物において、病的状態およびCNS組織の損傷を低下させることが示された(図1Aおよび1B)。天然に存在するTrkBアゴニストであるNT4の組換えの形態を、MOGによる誘発後のEAE動物に投与した(実施例5)。NT4を用いて治療した動物は、対照動物と比較して、有意に低下した病的状態を示した。この結果から、TrkBアゴニストの投与が、慢性EAEの進行の緩慢化において有効であることが実証された。さらなる実験からは、より早い時期の間に投与した場合、より遅い時期の間に投与した場合と比較して、症状の発症に関して、NT4によって与えられる保護は、(より良好ではないにしても)少なくとも同等に良好であり、TrkBアゴニストを用いた治療を、治療が有効となるように症状の発症時まで継続する必要がないことが示された(図1B)。TrkBの活性化は、EAEの誘発の比較的上流の段階を標的にしている可能性がある。
【0050】
実施例1〜4および6は、TrkBの生物学的活性を刺激する、すなわち、TrkBを活性化する(例えば、実施例6、ならびに表1および2)能力に基づいて、いくつかがTrkBアゴニストとして機能したTrkB抗体について記載する。抗体38B8を含めた、いくつかの抗体は、TrkBに対して特異的であり、アッセイしたその他の受容体チロシンキナーゼに対しては顕著な結合を示さなかった。抗体38B8は、何らかの交差反応性を示した、天然に存在するアゴニストであるBDNFおよびNT4よりも、TrkB受容体に対して、さらにより選択的であった。これらのリガンド−受容体の相互関係の動態解析を、実施例4および表2に提供する。
【0051】
動物実験からは、TrkBアゴニスト抗体が、対照の免疫グロブリンと比較して、EAEの病的状態に対して有意な保護をもたらすことが示された(図3、実施例7)。TrkBアゴニスト抗体は、MOGによる誘発16日後とまで遅れて投与した場合でも、臨床症状が発症した後で投与した場合でも有効であった(図4)。酢酸グラチラマー(GA)との比較から、TrkBアゴニストの作用機構が、GAおよびその他の現行のMS薬物の作用機構とは異なることが示唆された(図5)。その他の結果からは、TrkBアゴニストの有益な効果は、免疫抑制剤であるデキサメタゾンの効果に類似することが実証されている(図6Aおよび6B)。TrkBアゴニスト抗体の有益な効果は、用量依存性であった(図7Aおよび7B)。
【0052】
神経細胞生存アッセイを使用して、TrkBアゴニスト抗体が、天然に存在するTrkBアゴニストと一致する様式で神経細胞に影響を及ぼすことが実証された(実施例8)。TrkBアゴニスト抗体の増加する量を添加した結果、神経細胞の生存が増加した(図8)。神経細胞生存アッセイおよびヒトKIRAアッセイにおけるTrkBアゴニスト抗体である38B8、23B8、36D1および37D12のEC50値を、実施例1に記載し、その概要を表1に示す。
【0053】
(GAおよびデキサメタゾンを含めた)MSの治療用の現行の薬物は、免疫調節物質である。TrkBアゴニスト抗体は、抗MOG抗体の産生を抑制することによって機能するようには見えず、したがって、従来の免疫抑制剤としては機能しないと思われる(図9、実施例9)。さらに、TrkBアゴニスト抗体の存在は、脾細胞の刺激に対して、免疫抑制剤であるデキサメタゾンが示したような明らかな効果は何ら示さなかった(図10)。TrkBアゴニストを用いて治療した動物は、抗MOG性T細胞および/または抗MOG性B細胞の正常な応答をもたらす能力を保持する。これらの観察から、免疫抑制剤であるデキサメタゾンの作用機構は、TrkBアゴニストの作用機構とは異なること、およびTrkBアゴニストの主要な作用機構は、白血球増殖のレベルにおいてではないことが示唆される。
【0054】
TrkBアゴニストを用いて治療した動物から調製した切片において、組織学的解析により、白血球侵入の低下が示された。数匹のTrkBアゴニスト治療動物は、白血球のCNSへの侵入の証拠を全く示さなかった(図11)。侵入する細胞の同定を、CD3を発現するT細胞およびCD68を発現するマクロファージについて染色することによって実施した。TrkBアゴニスト治療動物由来の脊髄組織は、対照動物と比較した場合、T細胞および単核球の侵入のかなりの低下を示す(図12および13)。重度の脱髄の領域が、対照マウスにおいては明らかであったが、TrkBアゴニストを用いて治療したマウスにおいてはそうではなかった(図14)。CNS組織切片の組織化学的染色の結果から、TrkBアゴニストによる治療によって、リンパ球および単核球のCNSへの侵入が低下することが実証された。
【0055】
上記に記載した結果から、TrkBアゴニストは、白血球のCNSへの侵入を低下させ、MSについて一般的に認められている動物モデルであるEAEの進行を緩慢化させる点において有効であることが実証されている。天然に存在するTrkBアゴニストであるNT4およびTrkBアゴニスト抗体の両方は、疾患の進行の緩慢化において有効であった。当該アゴニスト抗体は、TrkBに対して最も大きな選択性を示し、これを、さらなる研究に使用した。TrkBアゴニストの有益な効果は、用量依存性であり、TrkBアゴニストの用量の増加に伴って病的状態が低下した。現行のMS薬物とは異なり、TrkBアゴニストは、主に免疫抑制を介して機能するものではない。組織化学的な実験により、TrkBアゴニストは、T細胞および単核球のCNS組織への侵入を低下させることが示された。
【0056】
CNS自己免疫障害のためのTrkBアゴニスト
何らかの理論に限定されることなく、TrkBアゴニストは、主として、白血球の遊走を調節することによって機能すると考えられている。MSにおいては、細胞性免疫が優勢である可能性があり、このことは、TrkBアゴニストを、液性免疫に影響を及ぼす現行の免疫抑制剤より有効な型の薬物となす。さらに、本方法は、現行の免疫抑制剤治療と組み合わせて、追加の治療効果をもたらすことができる。
【0057】
いくつかの自己免疫疾患または関連する疾患において、本発明のTrkBアゴニストを使用して、白血球のCNS組織への侵入を低下させることができる。EAEマウスは、MSのモデルであることに加えて、また、視神経炎を研究するためにも使用される。TrkBアゴニストは、全てのこれらの疾患、およびとりわけ白血球の侵入によって媒介されるその他の自己免疫障害において、免疫のCNSへの侵入を緩和することが予想される。疾患および障害という用語は、区別なく使用されていることに留意されたい。
【0058】
本発明の特色は、TrkBアゴニストの、自己免疫疾患に罹患している動物への直接的な投与である。本発明の好ましい実施形態を、ポリペプチドの観点から記載するが、本発明は、当該TrkBアゴニストのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの投与を包含し、このポリヌクレオチドは、体内において、コードするTrkBアゴニストの発現を導く。直接的なDNA注入および遺伝子療法の送達の方法は、当技術分野で既知である。GA等の薬物の投与によって誘発させる場合とは異なり、TrkBアゴニストのポリペプチドまたはそれらをコードするポリヌクレオチドを、動物に直接的に投与する。本発明はまた、天然に存在するTrkBアゴニストおよび/またはアゴニスト抗体と一致する様式でTrkBに結合し、これを活性化するペプチド模倣分子も包含する。
【0059】
本明細書に記載する方法により使用するための具体的なTrkBアゴニストを、以下に、さらに詳細に記載する。当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく、追加のTrkBアゴニストが明らかとなるであろう。
【0060】
天然に存在するTrkBアゴニストおよびそれらの誘導体
TrkBアゴニストは、これらに限定されないが、既知のTrkBアゴニストであるNT4およびBDNFを含めた、天然に存在するアゴニストのポリペプチドを包含する。NT4および/またはBDNFのポリペプチド配列は、得られるポリペプチドがTrkBに結合し、アゴニストとして機能するという条件で、対応するTrkB受容体と同一の種からであっても、または異なる種からであってもよい。
【0061】
TrkBアゴニストは、天然に存在するNT4および変異体NT4(すなわち、NT−4/5および類似名)を包含する。NT4ポリペプチドは、米国特許出願公開第2005/0209148号、第2003/0203383号および第2002/0045576号、ならびにPCT第WO2005/08240号に記載されている。NT4(すなわち、NT4/5)ポリペプチドは、いくつかの哺乳動物において同定されている。対象とするアミノ酸置換には、G77のK、H、QまたはRへの置換;およびR84のE、F、P、YまたはWへの置換がある。プロテアーゼ切断部位を除去して、NT4およびBDNFのポリペプチドの半減期を延長させてもよく、またはプロテアーゼ切断部位を付加して、それらの活性を制御してもよい。TrkBアゴニストを、PEG、IgGのFc領域、アルブミン、またはMyc、HA(赤血球凝集素)、His−6やFLAG等のペプチドもしくはエピトープ等の半減期延長部分にコンジュゲートまたは融合させることができる。
【0062】
また、BDNFポリペプチドも、いくつかの哺乳動物において同定されている(例えば、米国特許第5180820号および米国特許出願公開第2003/0203383号を参照されたい)。
【0063】
本発明の天然に存在するおよび変異体のNT4およびBDNFのポリペプチドは、それらのキメラ、変異体、断片(ペプチドを包含する)および/または誘導体を包含する。好ましい断片は、天然に存在するポリペプチドのTrkB結合部分、またはキメラ、コンセンサスもしくは変異型の同等な結合部分を包含する。断片は、合成ペプチドを包含する。変異体は、保存的および非保存的なアミノ酸の置換を有する、天然に存在するアミノ酸配列の変異体を包含する。
【0064】
保存的置換には、類似の大きさ、電荷または疎水性のアミノ酸残基が関与する。例えば、Alaは、Val、LeuまたはIleで置換してよい。Argは、Lys、GlnまたはAsnで置換してよい。Asnは、Gln、His、LysまたはArgで置換してよい。Aspは、Gluで置換してよい。Cysは、Serで置換してよい。Glnは、Asnで置換してよい。Gluは、Aspで置換してよい。Glyは、Proで置換してよい。Hisは、Asn、Gln、LysまたはArgで置換してよい。Ileは、Leu、Val、Met、Ala、Pheまたはノルロイシンで置換してよい。Leuは、ノルロイシン、Ile、Val、Met、AlaまたはPheで置換してよい。Lysは、Arg、GlnまたはAsnで置換してよい。Metは、Leu、PheまたはIleで置換してよい。Pheは、Leu、Val、IleまたはAlaで置換してよい。Proは、Glyで置換してよい。Serは、Thrで置換してよい。Thrは、Serで置換してよい。Trpは、Tyrで置換してよい。Tyrは、Trp、Phe、ThrまたはSerで置換してよい。Valは、Ile、Leu、Met、Phe、Alaまたはノルロイシンで置換してよい。
【0065】
機能の実質的な改変は、(a)置換領域におけるポリペプチド骨格の構造、例えば、シート状もしくはらせん状の高次構造を維持する、(b)標的部位における分子の電荷もしくは疎水性を維持する、または(c)側鎖のかさを維持することに対する置換の効果が顕著に異なる置換を選択することによって達成することができる。天然に存在する残基は、側鎖の共通の特性に基づいてグループに分けられる(これらのうちのいくつかは、複数の機能グループに属する場合がある):
(1)疎水性:Met、Ala、Val、Leu、Ile、ノルロイシン;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:Asn、Gln、His、Lys、Arg;
(5)芳香族性:Trp、Tyr、Phe;ならびに
(6)曲がりを誘発する残基:GlyおよびPro。
【0066】
非保存的置換では、1つのクラスのメンバーが、別のクラスのメンバーと交換されるか、前段落において保存的であると同定されていない置換が関与する。
【0067】
変異体は、得られるポリペプチドまたは誘導体がTrkBに結合し、アゴニストとして機能することを条件として、天然に存在するアミノ酸配列の変異体および遺伝子操作した変異体を含む。TrkBの活性化を測定するためのアッセイが、本明細書および引用する参照文献に記載されている。
【0068】
さらなる変異体は、NT3およびNGFを含めた、チロシン受容体キナーゼのTrkファミリーのその他の関連するリガンド由来の部分的なアミノ酸配列を有する、TrkBアゴニストのポリペプチドを含む。変異体は、コンセンサスTrkまたはコンセンサス受容体チロシンキナーゼ結合および/もしくは活性化配列を有するポリペプチドもさらに含む。
【0069】
その他の誘導体は、共有結合性および非共有結合性に修飾されたペプチドおよびポリペプチド(例えば、アセチル化、ペグ化、ファルネシル化、グリコシル化またはリン酸化されたポリペプチド)を含む。NT4の具体的なペグ化された形態およびその他の修飾された形態が、米国特許出願公開第2005/0209148号に記載されている。ポリペプチドは、追加の官能基を包含して、結合および/もしくは活性を調節し、体内での画像診断を可能にし、半減期を調節し、血液脳関門を越えての輸送を調節し、またはポリペプチドが特定の細胞型もしくは組織を標的にするのを援助することができる。ポリペプチドは、アミノ酸置換がポリペプチドのTrkBへの結合にも、アゴニストの活性にも実質的に影響を及ぼさないならば、アミノ酸置換を含んで、修飾(例えば、ペグ化部位、グリコシル化部位またはその他の部位の付加)を促進することができる。
【0070】
一般的な修飾は、ペグ化であり、生物学的活性の最小限の損失を伴って全身クリアランスを低下させる。ポリエチレングリコールポリマー(PEG)は、当技術分野で既知の方法を使用して、NT4およびBDNFのポリペプチド(ならびにTrkBアゴニスト抗体)の種々の官能基に連結させることができる(例えば、Robertsら(2002)、Advanced Drug Delivery Reviews 54:459−476;Sakaneら(1997)Pharm.Res.14:1085−91を参照されたい)。PEGは、例えば、アミノ基、カルボキシル基、修飾したまたは天然のN末端、アミン基およびチオール基に連結させることができる。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の表面アミノ酸残基を、PEG分子を用いて修飾する。PEG分子は、種々の大きさ(例えば、約2から40kDaの範囲)であってよい。NT4、BDNFまたはその他のポリペプチドに連結させるPEG分子は、約2000、10,000、15,000、20,000、25,000、30,000、35,000、40,000Daのいずれかの分子量を有してよい。PEG分子は、一本鎖であっても、または分枝鎖であってもよい。PEGをTrkBアゴニストのポリペプチドに連結させるためには、一方または両方の末端に官能基を有する、PEGの誘導体を使用することができる。官能基は、ポリペプチド上の利用可能な反応性の基の型に基づいて選ばれる。誘導体をポリペプチドに連結させる方法は、当技術分野で既知である。
【0071】
ペグ化されたNT4が、生成され、動物においてNT4として機能することが示されている(例えば、米国特許出願公開第2005/0209148号の実施例6および7、ならびにPCT第WO2005/082401号を参照されたい)。成熟したヒトNT4の50位のセリン残基をシステインに変化させて、NT4−S50Cを生成することができ、次いで、これをペグ化し、PEGを、50位のシステインに連結させる。PEGへのN末端に特異的な結合の1つの例が、1位の残基をセリンまたはスレオニンに変異させて、ペグ化を促進する場合である。類似の方法が、BDNFおよび本発明において使用するためのその他のポリペプチドに適用される。
【0072】
ポリペプチドまたはそれらの誘導体は、その他の分子に、直接的にまたは合成リンカーを介して連結させることができる。好ましいTrkBアゴニストのポリペプチド、それらの断片または誘導体は、それらの値が報告されている天然に存在するTrkBアゴニストと比較して、類似またはより良好な結合親和性、選択性および活性化を示す。アゴニストのポリペプチドの小さな部分は、「ペプチド」と呼ぶことができるが、この用語法は、限定的であると解釈されてはならない。
【0073】
好ましいTrkBアゴニストは、動態アッセイ、EAE動物モデル、KIRAアッセイおよび神経細胞生存アッセイを含めた、本明細書に記載するおびただしい数の実験およびアッセイにおいて、BDNFおよびNT4と比較して、類似の生物学的特性を示す。
【0074】
TrkB抗体アゴニストおよびそれらの誘導体
TrkBアゴニストは、アゴニスト抗体、それらの断片、変異体および誘導体を包含する。適切なアゴニスト抗体は、TrkBに対して選択的であり、天然に存在するNT4およびBDNFのポリペプチドに類似するまたはそれより大きな親和性で結合する。しかし、天然に存在するTrkBアゴニストと比較して、抗体の循環半減期が長いことから、結合親和性の重大性は低下する。抗体38B8の結合親和性は、46±10nMであると決定された(上記および実施例4を参照されたい)。好ましいTrkBアゴニスト抗体は、実施例4に記載する特定のアッセイ条件を使用する場合、100nM未満、10nM未満、1nM未満、100pM未満またはさらに10pM未満のKdを有する。
【0075】
好ましいTrkBアゴニストはまた、結合アッセイ、EAE動物モデル、KIRAアッセイおよび神経細胞生存アッセイを含めた、本明細書に記載するおびただしい数の実験およびアッセイにおいて、抗体38B8(および天然に存在するアゴニスト)と比較して、類似の生物学的特性を示す。例えば、好ましいTrkBアゴニストは、(表1を含めた)実施例1に記載する神経細胞生存アッセイにおいて、11pM未満のEC50値を示す。好ましいTrkBアゴニストは、約1pMから約10pMまで、約0.1pMから約1pMまで、約0.01pMから約0.1pMまで、またはさらに0.01pM未満のEC50値を有する。例示的なEC50値は、38B8の場合、0.2pMであり、36D1の場合、5pMである。好ましいTrkBアゴニストはまた、KIRAアッセイを使用する場合、抗体38B8と比較して、類似の生物学的特性を示す(表1を含めた、実施例1)。好ましいTrkBアゴニストは、KIRAアッセイにおいて、50nM未満、好ましくは、約5nMから50nM未満まで、約0.5nMから約5nMまで、またはさらに0.5nM未満のEC50値を有する。例示的なEC50値は、提供したアッセイ条件下では、約5nMである。
【0076】
TrkBアゴニスト抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、ハイブリッド抗体、コンセンサス抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体またはコンジュゲート抗体を包含する。抗体は、該当する場合、いずれかのアイソタイプ(すなわち、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)であってよい。抗体は、抗体断片(例えば、Fab抗体、Fab’抗体、F(ab’)2抗体、Fv抗体、Fc抗体および一本鎖(ScFv)抗体)を包含する。適切なTrkBアゴニスト抗体またはその機能性断片もしくは誘導体は、例えば、モノクローナル抗体アゴニスト38B8の場合、本明細書に記載する様式で、TrkBに結合し、それを活性化する。TrkBアゴニスト抗体は、抗体断片を包含し、これは、抗体に由来したアミノ酸配列を含むポリペプチドを包含する。特に重要なのは、CDR領域中のアミノ酸配列等の抗原認識に関与するアミノ酸配列である。
【0077】
モノクローナル抗体およびマウスのハイブリドーマの方法は、当技術分野では周知である。ヒトの治療のための非ヒト抗体の使用は、免疫抑制薬の併用により許容され得る。そのような薬物は、日常的に投与されて、MSならびにその他の自己免疫性および炎症性の疾患の症状を治療し、または低下させる。免疫調節薬は、当技術分野では既知であり、それには、糖質コルチコイド、細胞分裂阻害剤(例えば、アルキル化剤、抗代謝剤、メトトレキセート、アザチオプリンおよびメルカプトプリン)、細胞傷害性抗体(例えば、T細胞受容体抗体およびIL−2に特異的な抗体)、イムノフィリンに作用する薬物(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、ラパマイシン、RAPAMUNE、PROGRAFおよびFK506)、インターフェロン(例えば、IFN−β)、オピオイド、TNF結合性タンパク質(例えば、循環する受容体)、ミコフェノール酸、および外来の抗体または治療用抗原に対する動物の免疫応答を抑制するのに使用されるその他の生物学的薬剤を包含する。
【0078】
異なる種、例えば、マウスに由来するモノクローナル抗体をヒト化するための方法は、当技術分野では周知である。ヒトの治療のためには、ヒト抗体またはヒト化抗体が好ましい。ヒト化抗体は、最小限の数の非ヒトのアミノ酸配列を含み、したがって、ヒトにおいては、最低限に免疫原性、または非免疫原性となる。好ましいヒト化抗体は、ヒトの免疫系によって異物として認識されない。そのような抗体は、キメラの免疫グロブリン、免疫グロブリンの断片(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、または抗原結合のために必要なアミノ酸残基を含む、免疫グロブリン鎖のその他の部分)であってよく、抗原結合部位以外の大部分のアミノ酸配列は、ヒト免疫グロブリンに由来する。また、抗原結合が不利な影響を受けない限り、相補性決定領域(CDR)の内部のアミノ酸残基を、ヒトに特異的な残基で置換することもできる。
【0079】
ヒト抗体は、ヒト抗体のアミノ酸配列をもっぱらまたは実質的に含む抗体である。ヒト抗体はまた、少なくとも1つのヒトの重鎖のポリペプチドもしくは少なくとも1つのヒトの軽鎖のポリペプチド、またはそれらの相当の断片を含む抗体も包含し、別の動物由来の重鎖または軽鎖と場合により組み合わせる。そのような1つの例が、マウスの軽鎖のポリペプチドおよびヒトの重鎖のポリペプチドを含む抗体である。
【0080】
適切なTrkBアゴニスト抗体、それらの断片または誘導体は、遺伝子導入動物、(B細胞を含めた)哺乳動物細胞、トリ細胞、昆虫細胞、酵母または細菌中で発現または分泌させることができる。例えば、適切なヒト抗体を、完全にヒトまたは実質的にヒトの免疫グロブリンを産生することが可能な遺伝子導入動物(例えば、マウス)を免疫感作することによって生成することができる。抗体はまた、遺伝子シャッフリング、ファージディスプレイ、大腸菌ディスプレイ、リボゾームディスプレイ、mRNAディスプレイ、タンパク質断片コンプリメンテーションまたはRNA−ペプチドスクリーニングによって産生させてもよい。ヒト化抗体およびヒト抗体ならびにそれらの誘導体を設計および産生するための方法は、例えば、米国特許第7005504号、第6800738号、第6407213号、第6054297号、第6331415号および第5750373号(Genentech);米国特許第6833268号、第6207418号、第6114598号および第6075181号(Abgenix);米国特許第6498285号(Alexion);米国特許第7074557号、第5885793号、第5837242号、第5733743号、第5565332号(Cambridge Antibody Technology);米国特許第7118879号、第6979538号、第6326155号、第5994125号、第5837500号(Dyax);米国特許第6753136号、第6667150号、第6300064号、第5514548号(MorphoGen/Protein Design Labs);ならびに6,461,824、6,204,023、5,821,123、5,595,898、5,576,184、4,698,420(Xoma);米国特許第7041870号、第6680209号、第6500931号、第6111166号、第6096311号、第6071517号、第6063116号(Medarex);ならびに米国特許第4816397号(Celltech)に記載されている。ヒト抗体またはヒト化抗体を産生するための方法はまた、Vaughanら(1996)Nature Biotechnology 14:309−14;Sheetsら(1998)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 95:6157−6162;HoogenboomおよびWinter(1991)J.Mol.Biol.、227:381;Marksら(1991)J.Mol.Biol.、222:581;Coleら(1985)、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy(Alan R.Liss)p.77;ならびにBoernerら、1991、J.Immunol.、147(1):86−95にも記載されている。
【0081】
TrkBアゴニスト抗体は、共有結合または非共有結合によって修飾(例えば、アセチル化、ペグ化(例えば、実施例5を参照されたい)、ファルネシル化、グリコシル化、リン酸化等)することができ、追加の官能基を包含して、結合を調節し、アゴニスト活性を調節し、体内でのポリペプチドの画像診断を可能にし、ポリペプチドの半減期を調節し、または血液脳関門を越えての輸送を調節することができる。ポリペプチドは、アミノ酸置換がポリペプチド(複数のポリペプチド)のTrkBへの結合にも、アゴニストの活性にも実質的に影響を及ぼさないならば、アミノ酸置換を含んで、修飾(例えば、追加のペグ化部位、グリコシル化部位またはその他の部位の付加)を促進することができる。ポリペプチドまたはそれらの誘導体は、その他の分子に、直接的にまたは合成リンカーを介して連結させることができる。
【0082】
適切な抗体断片または誘導体は、本明細書および引用する参照文献に記載されているように、TrkBへの結合およびその活性化を媒介するアミノ酸残基を含む。抗体の特異性は、主として、軽鎖および重鎖のN−末端の付近に位置する相補性決定領域(CDR)または高頻度可変ループとして知られる、6つの小さなループ状領域中の残基によって決定される。軽鎖中のCDRは、一般に、アミノ酸残基の24と34との間(CDR1−L)、50〜56(CDR2−L)および89〜97(CDR3−L)にある。重鎖中のCDRは、一般に、アミノ酸残基の31と35bとの間(CDR1−H)、50〜65(CDR2−H)および95〜102(CDR3−H)にある。いくつかのCDRの長さは、その他のCDRよりも可変である。CDR1−Lは、長さが約10〜17残基相当変動し、一方、CDR3−Hは、長さが約4〜26残基相当変動する。その他のCDRは、かなり標準的な長さを有する。Padlan,E.A.ら(1995)FASEB.J.133−39。本発明において使用するための好ましいTrkBアゴニスト抗体断片は、CDRからまたはCDRの内部の重鎖および/もしくは軽鎖のドメイン由来のアミノ酸残基を含む。
【0083】
本発明と共に使用するための抗体は、上記に記載し、当技術分野で既知である保存的および非保存的なアミノ酸置換を有する、天然に存在するアミノ酸配列の変異体を包含する。
【0084】
好ましいTrkBアゴニスト抗体、それらの断片または誘導体は、天然に存在するTrkBアゴニストと比較して、類似またはより良好な結合親和性、選択性および活性化能を示す。アゴニストのポリペプチドの小さな部分は、「ペプチド」と呼ぶことができるが、この用語法は、限定的であると解釈されてはならない。
【0085】
TrkBアゴニストの製剤
TrkBアゴニストは、多発性硬化症等の中枢神経系に影響を及ぼす自己免疫疾患の治療用の医薬品の製造において使用することができる。このようにして、TrkBアゴニストを含む組成物を使用して、本明細書で定義する(ヒト患者を含めた)哺乳動物における疾患を治療することができる。TrkBアゴニストの組成物は、適切な薬学的に許容できる賦形剤をさらに含むことができ、これらの賦形剤は、当技術分野では既知である。一般に、TrkBアゴニストの組成物を、(例えば、腹腔内、静脈内、皮下、筋肉内等の)注射による投与のために製剤化するが、その他の投与形態も使用してよい。TrkBアゴニストは、水性、または植物油もしくはその他の類似の油、合成の脂肪族酸グリセリド、高級脂肪族酸のエステルやポリエチレングリコール等の非水性の溶媒中に、それらを、所望により、可溶化剤、等張化剤、懸濁剤、乳化剤、安定化剤および保存剤等の従来の添加剤と共に、溶解、懸濁または乳化させることによって、注射のための調製物に製剤化することができる。
【0086】
適切な担体、希釈剤および賦形剤は、当技術分野では周知であり、炭水化物、ろう、水に可溶性および/または膨潤性のポリマー、親水性または疎水性の材料、ゼラチン、油、溶媒、水ならびにその他等の材料を包含する。使用する具体的な担体、希釈剤または賦形剤は、本発明の化合物が適用される手段および目的によって異なる。一般に、安全な溶媒は、水等の無毒性の水性溶媒および水に可溶性または混和性であるその他の無毒性溶媒である。適切な水性溶媒は、水、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、PEG400、PEG300)等、およびそれらの混合物を包含する。製剤はまた、1つまたは複数の緩衝剤、安定化剤、界面活性剤、湿潤剤、滑沢剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤、抗酸化剤、遮光剤、流動促進剤、加工助剤、着色剤、甘味剤、矯臭剤、矯味剤およびその他の既知の添加剤を含めて、薬物(すなわち、本発明の化合物またはその医薬組成物)を、洗練された形で提供し、または薬学的な製品(すなわち、医薬品)の製造を支援することができる。製剤のうちのいくつかは、リポソーム等の担体を含めることができる。リポソームの調製物には、これらに限定されないが、サイトフェクチン(cytofectin)、多層ベシクルおよび単層ベシクルがある。非経口および経口の薬物送達のための賦形剤および製剤が、Remington、The Science and Practice of Pharmacy(2000)に記載されている。
【0087】
投与および投与量
本明細書に例示する投与スケジュールおよび治療用量は、動物の体重、TrkBアゴニストの血液中の半減期およびTrkBアゴニストの親和性等の要因に基づいた。好ましい投与スケジュールおよび用量は、投与と投与の間に、体内に治療量のTrkBアゴニストを維持する。(天然に存在するTrkBアゴニストを含めた)NTの有効用量の範囲が、本明細書、Daviesら(1993)およびその他の参照文献に例示されている。アゴニスト抗体の有効用量の範囲を、本明細書に例示し(例えば、EAE動物の場合、1〜10mg/kg)、類似のアゴニスト抗体の最適用量を決定するための開始点を提供する。
【0088】
本発明の裏付けとして実施した実験によって実証されたように(例えば、図1B、3および4を参照されたい)、疾患の経過の早期における「パルス治療」が、動物における病的状態を低下させるのに十分であるようである。治療に効力をもたせるために、TrkBアゴニストを継続して投与する必要がない場合がある。
【0089】
具体的な投与計画、すなわち、用量、時期および反復は、治療しようとするヒトまたは動物の年齢、状態および体重によって異なる。最初の投与計画は、動物実験から外挿することができる。TrkBアゴニストの投与の時期/頻度は、適用に際して、特定のTrkBアゴニストの循環半減期(または神経細胞組織中の半減期)、血液脳関門を通過するアゴニストの量、細胞中のアゴニストの半減期、毒性および副作用に基づかなければならない。
【0090】
本研究では、TrkBアゴニストの投与を、腹腔内(i.p.)注射により実施したが;その他の投与経路(例えば、静脈内、皮下、筋肉内)も有効であることが予想される。頭蓋内もしくは脊髄内への投与(またはCNSのその他の組織への投与)も有効である可能性がある。その他の投与経路は、特定のTrkBアゴニスト、その被覆、コンジュゲーションまたは特定の生物学的特性に応じて、適切である場合がある(例えば、経口、舌下、骨膜内、粘膜、経皮、関節内、膣、肛門、尿道内、経鼻、経耳、吸入による、送気、カテーテルによる、ボーラスとして、ステントまたはその他の埋込み型の装置の上、塞栓症用の組成物中、静脈内点滴中、パッチまたは溶解性薄膜の上等)。
【0091】
TrkBアゴニストを、好ましくは、適切な末梢経路を介して投与する。それにもかかわらず、数パーセントのアゴニストは、血液脳関門を横切り、中枢神経系細胞に送達され得ることを理解されたい。場合によっては、末梢から投与され、CNSに接近するTrkBアゴニストの量は、少量である(1%未満に過ぎない)。
【0092】
本発明の特色は、TrkBアゴニストの自己免疫疾患に罹患している哺乳動物対象への直接的な投与である。「直接的な」は、TrkBアゴニストのポリペプチドまたはそのようなポリペプチドの発現を導くことが可能なポリヌクレオチドを、標準的な接種経路によって動物に送達することを意味する。TrkBアゴニストは、糖質コルチコイド等の免疫抑制剤、細胞分裂阻害剤(例えば、アルキル化剤、抗代謝剤、メトトレキセート、アザチオプリンおよびメルカプトプリン)、細胞傷害性抗体(例えば、T細胞受容体抗体およびIL−2に特異的な抗体)、イムノフィリンに作用する薬物(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、ラパマイシン)、インターフェロン(例えば、IFN−β)、オピオイド、TNF結合性タンパク質(例えば、循環する受容体)、ミコフェノール酸、および外来の抗体または治療用抗原に対する動物の免疫応答を抑制するのに使用されるその他の生物学的薬剤を含めた、その他の薬学的な物質と組み合わせて動物に送達することができる。
【0093】
TrkBアゴニスト抗体の、天然に存在するTrkBアゴニストを上回る利点は、抗体が、循環するタンパク質−リガンドと比較して、比較的長い循環半減期を有する傾向を示す点である。例えば、天然に存在するアゴニストは、毎日投与する必要がある場合があるが、抗体は、週1回の投与を必要とするに過ぎない場合がある。別の利点は、抗体が、より高い結合親和性を有する傾向を示し、当該抗体のそれらの抗原に対する選択性が、細胞の受容体のそれらのタンパク質リガンドに対する選択性よりも高い点である。
【0094】
TrkBアゴニストを用いる治療は、多発性硬化症および関連する障害のための従来の治療と組み合わせることができる。多発性硬化症の治療および管理のための従来の薬物には、これらに限定されないが、ABC(すなわち、Avonex−Betaseron/Betaferon−Copaxone)治療(例えば、インターフェロンベータ1a(AVONEX、REBIF)、インターフェロンベータ1b(BETASERON、BETAFERON)および酢酸グラチラマー(COPAXONE));化学療法剤(例えば、ミトキサントロン(NOVANTRONE)、アザチオプリン(IMURAN)、シクロホスファミド(CYTOXAN、NEOSAR)、シクロスポリン(SANDIMMUNE)、メトトレキセートおよびクラドリビン(LEUSTATIN));副腎皮質ステロイドおよび副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)(例えば、メチルプレドニゾロン(DEPO−MEDROL、SOLU−MEDROL)、プレドニゾン(DELTASONE)、プレドニゾロン(DELTA−CORTEF)、デキサメタゾン(MEDROL、DECADRON)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)およびコルチコトロピン(ACTHAR));疼痛管理(感覚異常)(例えば、カルバマゼピン(TEGRETOL、EPITOL、ATRETOL、CARBATROL)、ガバペンチン(NEURONTIN)、トピラメート(TOPAMAX)、ゾニサミド(ZONEGRAN)、フェニトイン(DILANTIN)、デシプラミン(NORPRAMIN)、アミトリプチリン(ELAVIL)、イミプラミン(TOFRANIL、IMAVATE、JANIMINE)、ドキセピン(SINEQUAN、ADAPIN、TRIADAPIN、ZONALON)、プロトリプチリン(VIVACTIL)、カンナビスおよび合成カンナビノイド(MARINOL)、ペントキシフィリン(TRENTAL)、イブプロフェン(NEUROFEN)、アスピリン、アセトアミノフェンおよびヒドロキシジン(ATARAX));ならびにその他の治療(例えば、ナタリズマブ(ANTEGREN)、アレムツズマブ(CAMPATH−1H)、4−アミノピリジン(FAMPRIDINE)、3,4 ジアミノピリジン、エリプロディル、IVイムノグロビン(IV immunoglobin)(GAMMAGARD、GAMMAR−IV、GAMIMUNE N、IVEEGAM、PANGLOBULIN、SANDOGLOBULIN、VENOGLOBULIN)、プレガバリンおよびジコノチド)がある。
【0095】
キットオブパーツ
本発明はまた、本発明の方法を実行するための、キットオブパーツ(キット)も提供する。キットは、適切に単離および滅菌したTrkBアゴニストならびに本明細書に記載する本発明の方法のいずれかによる使用のための指示を包含する。一般に、これらの指示は、TrkBアゴニストの投与方法の説明を含む。キットは、治療を必要とする動物を同定するためおよび治療の有効性をモニターまたは測定するための指示をさらに含むこともできる。指示は、一般に、用量、投与スケジュール(投与頻度)および投与経路に関連する情報を包含する。キット中の指示は、書面で供給しても、またはデータファイルもしくはスプレッドシートの形態として機械/コンピュータが読取り可能にして供給してもよい。
【0096】
キットはまた、シリンジ、針、カテーテル、吸入器、ポンプ、アルコール消毒綿、ガーゼ、CNSの生検用の器具、組織学的な抗体および染色等を含めた、TrkBアゴニストを投与するための器具を含むこともできる。キットの構成成分は、必要に応じて滅菌する。キットはまた、これらに限定されないが、GAおよびデキサメタゾン等の免疫抑制剤を含めた、追加の医薬物質を提供することもできる。キットは、日付印、不正開封防止包装、および無線IC(RFID)タグまたはその他の商品管理機能を含んでよい。
【実施例】
【0097】
以下の実施例を、本発明をさらに例証するために提供する。当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の追加の態様が明らかとなるであろう。
【0098】
(実施例1)
TrkBアゴニスト抗体の生成およびスクリーニング
モノクローナル抗TrkBアゴニスト抗体を生成するための免疫感作
Balb/Cマウスに、8μgのヒトTrkB細胞外ドメインを、抗原として規則的なスケジュールで5回注射した。ヒス−タグ化ヒトTrkB細胞外ドメイン(残基31〜430)を、293細胞中で、ベクターpTriEx−2 Hygro(Novagen製、Madison、ウィスコンシン州)を使用して発現させた。TrkB細胞外ドメインは、Ni−NTA樹脂を使用して製造者の指示により精製した(Qiagen製、Valencia、カリフォルニア州)。最初の4回の注射については、抗原を、ヒトTrkBをRIBIアジュバントシステムおよびミョウバンと混合することによって調製した。全量8μgの抗原を、首筋、足パッドへの注射およびIPによって、約3日毎に11日にわたって投与した。第13日に、マウスを安楽死させ、脾臓を取り出した。リンパ球を、8653細胞と融合させて、ハイブリドーマのクローンを作製した。クローンを増殖させ、次いでヒトおよびラットの両方のTrkBのELISAを用いるELISAによるスクリーニングによって、抗TrkB陽性として選択した。
【0099】
ELISAによる抗TrkB抗体のスクリーニング:
増殖中のハイブリドーマのクローンからの上清を、ヒトおよびラットの両方のTrkBに結合する能力についてスクリーニングした。アッセイは、0.5μg/mlのラットまたはヒトのTrkB−Fc融合タンパク質100μlを用いて一晩コートした96ウエルプレートを用いて実施した。過剰な試薬を、ウエルから、各ステップの間に0.05%Tween−20を含有するPBSを用いて洗浄した。次いで、プレートを、0.5%BSAを含有するリン酸緩衝溶液(PBS)を用いてブロッキングした。上清を、プレートに添加し、室温で2時間インキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートヤギ抗マウスFcを添加して、TrkBに結合しているマウス抗体に結合させた。次いで、テトラメチルベンジジンを、HRPの基質として添加して、上清中に存在するマウス抗体の量を検出した。反応を停止し、抗体の相対的な量を、450nmにおける吸光度を読み取ることによって定量化した。50個の抗体が、ELISAアッセイにおいては、陽性を示した。これらの抗体のうち、5個をさらに試験し、これらが、アゴニスト活性を有することを示した。以下の表2を参照されたい。
【0100】
KIRAアッセイ:
このアッセイを使用して、ELISAにおいて受容体チロシンキナーゼの活性化を誘発する能力について陽性であることが見出された抗体を、ヒトTrkBについてスクリーニングした。Sadickら(1997)Experimental Cell Research 234:354−61。gDタグ化ヒトTrkBをトランスフェクトした安定な細胞系統を活用して、ハイブリドーマのクローンから精製したマウス抗体を、天然のリガンドであるBDNFおよびNT−4/5の場合に見られる活性化に類似する、細胞表面上の受容体を活性化する能力について試験した。天然のリガンドは、TrkB受容体のキナーゼドメインの自己リン酸化を誘発した。細胞を、抗体の種々の濃度に暴露した後、溶解させ、ELISAを実施して、TrkB受容体のリン酸化を検出した。EC50(以下の表2および図10に示す)を、それぞれの推定上のTrkBアゴニストについて決定し、天然のリガンドであるNT−4/5のEC50と比較した。
【0101】
E15の結節神経細胞生存アッセイ:
E15胚から得た下神経節の神経細胞を、BDNFにより支持し、それによって、神経栄養因子の飽和濃度では、生存は、培養48時間まで、100%に近かった。BDNFの非存在下では、5%未満の神経細胞が、48時間まで生存した。したがって、E15の結節神経細胞の生存は、抗TrkB抗体のアゴニスト活性を評価するための敏感なアッセイであり、すなわち、アゴニスト抗体は、E15の結節神経細胞の生存を促す。
【0102】
時期を定めて交尾させ、妊娠させたSwiss Websterマウス、雌を、CO2の吸入により安楽死させた。子宮角を取り出し、胎生期E15の胚を抽出した。下神経節を、解体し、次いで、トリプシン処理し、機械的に解離させ、ポリ−L−オルニチンおよびラミニンを用いてコートした96ウエルプレート中で、規定された無血清培地中に、1ウエル当たり200〜300個の細胞密度で蒔いた。抗TrkB抗体のアゴニスト活性を、ヒトBDNFを基準にして、用量−応答に関して、三つ組みで評価した。培養48時間後、細胞を、Biomek FX液体取扱いワークステーション(Beckman Coulter製)上で実施する自動化された免疫細胞化学プロトコールに供した。プロトコールは、固定化(4%ホルムアルデヒド、5%スクロース、PBS)、透過処理(PBS中の0.3%Triton X−100)、非特異的結合部位のブロッキング(5%正常ヤギ血清、0.1%BSA、PBS)、ならびに神経細胞を検出するための一次抗体および二次抗体を用いた逐次的なインキュベーションを包含した。確立された神経細胞の表現型マーカーであるタンパク質遺伝子産物9.5(PGP9.5、Chemicon製)に対するウサギポリクローナル抗体を、一次抗体として使用した。Alexa Fluor488ヤギ抗ウサギ(Molecular Probes製)を、二次試薬として、核染色素Hoechst33342(Molecular Probes製)と共に使用して、培養物中に存在する全ての細胞核を標識した。画像収集および画像解析を、Discovery−1/GenII Imager(Universal Imaging Corporation製)上で実施した。画像を、Alexa Fluor488およびHoechst33342のための2つの波長において自動的に収集し、核染色を基準点として使用した。これは、核染色は、このImagerの、画像に基づいた自動焦点系に対して、全てのウエル中に存在するからである。適切な対象および1ウエル当たりの撮像部位数を選択して、各ウエルの全表面を網羅した。画像解析を自動化して、培養48時間後に、各ウエル中に存在する神経細胞の数を、抗PGP9.5抗体を用いる、神経細胞に特異的な染色に基づいて計数した。画像の注意深い閾値化および形態学の適用および蛍光強度に基づいた選択性フィルターによって、1ウエル当たりの神経細胞の正確な数値を得た。EC50(以下の表1および図8に示す)を、それぞれの推定上のTrkBアゴニスト抗体について決定し、天然のリガンドのEC50と比較した。
【0103】
以下の表は、5つの同定した抗TrkB抗体、ならびにマウス神経細胞の生存に対するそれらの活性およびヒトTrkBに対するリン酸化活性を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
抗TrkBアゴニスト抗体のマウスへの頭蓋内注射:
退役させたC57B6繁殖用マウス、雄(8〜12月齢)を、Charles River Laboratories(Hollister施設)から得、温度/湿度を制御した環境中、12時間の明/暗サイクルで、飼料および水に自由に接近させて、注射まで少なくとも5日間順応させた。各マウスを、イソフルランを用いて麻酔し、頭蓋骨上の体毛のセクションを刈り込んだ。マウスを、定位固定用外科機器(Kopfモデル900)上に固定し、麻酔し、中位に設定した電気加熱用パッドを用いて暖かく保った。Betadineを、頭蓋骨のせん毛した部分上に擦り込んで、当該領域を滅菌した。頭蓋上、耳の直後から開始して目に向けて、長さ約1cmと小さく、正中長軸方向に切開した。頭蓋骨を露出させ、頭蓋骨表面の直径約1cmの円形部分を、綿棒を用いて浄化して、いずれの結合組織も除去した。表面は、30%過酸化水素中に浸漬した綿棒を用いて浄化して、十字縫合を露出させた。ドリルの先端部をプローブとして使用して頭蓋骨の深さを測定して、ドリルで穴を開ける前に頭蓋が水平であることを確実にするために、頭蓋を水平方向および垂直方向に加減した。0.5mm外側に比較して0.5mm内側から、および0.5mm後側に比較して0.5mm前側からの深さの偏位(十字縫合において、ゼロとする)を、±0.05mm以内の差に最小化した。マウスの脳の図譜(Franklin,K.B.J.およびPaxinos,G.、The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates.Academic Press、San Diego、1997)によれば、外側視床下部内への単回注射の座標は、以下のごとくである:十字縫合から1.30mm後側;正中線から−0.5mm;深さ、(十字縫合において)頭蓋骨表面から5.70mm。小さな穴を、頭蓋骨を通して、脳との接触を回避しながらドリルで開けた。ドリルを、Hamiltonシリンジ(モデル84851)に取り付けた斜めになった26ゲージ針で置き換え、これを、同一の座標に戻した。2μlの化合物を、外側視床下部内に、2分にわたって徐々に注射した。針を、注射後30秒間この位置に維持し、次いで、1mm上昇させた。さらなる30秒後に、針を、さらに1mm上昇させた。30秒後には、針を、完全に取り出した。次いで、切開を、閉鎖して、2〜9mmの創傷クリップ(Autoclip、Braintree Scientific,Inc.製)を用いて一緒に保持した。注射は、第0日に実施した。体重および試料の摂取を第15日まで毎日モニターした。
【0106】
表1(上記)に示すように、抗体38B8および抗体36D1の特定の用量における頭蓋内注射は、マウスにおいて、体重および飼料の摂取を顕著に減少させた。特定の用量で投与した対照のIgG抗体および23B8は、飼料の摂取に対しても、体重に対しても、いずれも顕著に影響を及ぼすことはなかった。抗体38B8を産生するマウスハイブリドーマ株は、2007年11月21日、the American Type Culture Collection、10801 University Boulevard、Manassas、バージニア州、20110−2209に寄託され、これには、ATCC寄託番号PTA−8766が割り当てられた。
【0107】
(実施例2)
TrkBアゴニストの同定
TrkBアゴニスト(抗体等)は、以下の方法のうちの1つまたは複数を含めた、当技術分野で認識されている方法を使用して同定することができる。例えば、米国特許第5766863号および第5891650号に記載されているキナーゼ受容体活性化(KIRA)アッセイを使用することができる。このELISA型のアッセイは、受容体タンパク質チロシンキナーゼ(rPTK、例えば、Trk受容体)のキナーゼドメインの自己リン酸化を測定することにより、キナーゼ活性化の定性的または定量的な測定に適しており、選択したrPTKの有望なアゴニストまたはアンタゴニストの同定および特徴付けにも適している。アッセイの第1段階では、キナーゼ受容体、本件では、TrkB受容体のキナーゼドメインのリン酸化が関与し、当該受容体は、真核細胞の細胞膜中に存在する。受容体は、内因性の受容体もしくは当該受容体をコードする核酸であっても、または受容体構築物を細胞中に形質転換してもよい。典型的には、第1の固相(例えば、第1アッセイのプレートのウエル)を、そのような細胞の実質的に均一な集団(通常、哺乳動物細胞系統)を用いてコートし、それによって、当該細胞を固相に接着させる。しばしば、細胞は、接着性であり、したがって、第1の固相に自然に接着する。「受容体構築物」を使用する場合、これは通常、キナーゼ受容体とflagポリペプチドとの融合体を含む。flagポリペプチドは、アッセイのELISA部分において、捕捉剤、しばしば、捕捉抗体によって認識される。次いで、候補アゴニスト等の分析対象を、接着細胞を有するウエルに添加し、それによって、チロシンキナーゼ受容体(例えば、TrkB受容体)を、分析対象に暴露(または接触)させる。このアッセイにより、対象とするチロシンキナーゼ受容体(例えば、TrkB)に対するアゴニストリガンドの同定が可能となる。分析対象に対する暴露に続いて、接着している細胞を、(その中に可溶化用界面活性剤を有する)溶解用緩衝液を使用して可溶化させ、穏やかに撹拌し、それによって、細胞可溶化液を放出させ、これは、細胞可溶化液の濃縮または清澄化の必要性なしで、アッセイのELISA部分に直接供することができる。
【0108】
次いで、こうして調製した細胞可溶化液は、アッセイのELISA段階に供する準備ができている。ELISA段階の第1のステップとして、第2の固相(通常、ELISA用マイクロタイタープレートのウエル)を、チロシンキナーゼ受容体に、または受容体構築物の場合、flagポリペプチドに特異的に結合する捕捉剤(しばしば、捕捉抗体)を用いてコートする。第2の固相のコーティングを実施し、それによって、捕捉剤を第2の固相に接着させる。捕捉剤は、一般的には、モノクローナル抗体であるが、また、本明細書の実施例に記載するように、ポリクローナル抗体またはその他の薬剤も使用してよい。次いで、得られた細胞可溶化液を、接着している捕捉剤に暴露または接触させ、それによって、受容体または受容体構築物を、第2の固相に接着させる(または第2の固相中に捕捉する)。次いで、洗浄ステップを実施し、それにより、未結合の細胞可溶化液を除去して、捕捉した受容体または受容体構築物を残す。次いで、接着しているまたは捕捉した受容体または受容体構築物を、チロシンキナーゼ受容体中のリン酸化されたチロシン残基を同定する抗リン酸化チロシン抗体に暴露または接触させる。好ましい実施形態では、抗リン酸化チロシン抗体を、非放射性の発色試薬の色の変化を触媒する酵素に(直接的または間接的に)コンジュゲートさせる。したがって、受容体のリン酸化を、それに続く試薬の色の変化によって測定することができる。酵素を、抗リン酸化チロシン抗体に直接結合させてもよく、またはコンジュゲートする分子(例えば、ビオチン)を、抗リン酸化チロシン抗体にコンジュゲートさせてもよく、それに続いて、酵素を、コンジュゲートする分子を介して、抗リン酸化チロシン抗体に結合させることができる。最後に、抗リン酸化チロシン抗体の、捕捉した受容体または受容体構築物に対する結合を、例えば、発色試薬の色の変化によって測定する。
【0109】
最初の同定に続いて、候補(例えば、抗TrkBモノクローナル抗体)のアゴニスト活性を、標的とする生物学的活性を試験することが知られているバイオアッセイによりさらに確認および精密化することができる。例えば、TrkBをアゴナイズする候補の能力を、完全長のTrkBをトランスフェクトしたPC12細胞を使用する、PC12神経突起伸長アッセイにおいて試験することができる(Jianら、Cell Signal.8:365−70、1996)。このアッセイは、神経突起の伸長過程を、適切なリガンドによる刺激に対して応答するラット褐色細胞腫細胞(PC12)によって測定する。これらの細胞は、内因性のTrkAを発現し、したがって、NGFに対して応答性である。しかし、これらの細胞は、内因性のTrkBを発現せず、したがって、TrkBアゴニストに対する応答を惹起するために、TrkB発現構築物をトランスフェクトする。トランスフェクトした細胞を候補と共にインキュベートした後、神経突起の伸長を測定し、例えば、当該細胞の直径の2倍超の神経突起を有する細胞を計数する。トランスフェクトしたPC12細胞において神経突起の伸長を刺激する候補(抗TrkB抗体等)は、TrkBアゴニスト活性を示す。
【0110】
TrkBの活性化はまた、胚の発達の特異的な段階における種々の特異的な神経細胞を使用することによっても決定することができる。適切に選択した神経細胞の生存は、TrkBの活性化に依存し得、したがって、これらの神経細胞のin vitroにおける生存を追跡することによって、TrkBの活性化を決定することが可能である。適切な神経細胞の一次培養物へ候補を添加すると、当該候補が、TrkBを活性化する場合には、これらの神経細胞を少なくとも数日の期間にわたって生存させる。これによって、候補(抗TrkB抗体等)の、TrkBを活性化する能力の決定が可能になる。この型のアッセイの1つの例では、マウスE15胚由来の下神経節を解体し、解離させ、得られた神経細胞を、組織培養皿中に低い密度で蒔く。次いで、候補の抗体を培地に添加し、プレートを24〜48時間インキュベートする。この時間の後、神経細胞の生存を、多様な方法のいずれかによって査定する。アゴニストを投与した試料は、典型的には、対照の抗体を投与した試料を上回る生存率の増加を示し、これによって、アゴニストの存在の決定が可能となる。例えば、Buchmanら(1993)Development 118(3):989−1001を参照されたい。
【0111】
TrkBアゴニストは、TrkBを自然にまたはTrkBをコードするDNAをトランスフェクトした後にのいずれかの場合発現する多様な細胞型における下流のシグナル伝達を活性化する能力によって同定することができる。このTrkBは、ヒトまたはその他の哺乳動物(げっ歯類もしくは霊長類等)のTrkBであってよい。下流のシグナル伝達カスケードは、タンパク質に関しては、タンパク質の発現レベルもしくはタンパク質のリン酸化レベル、または細胞に関しては、代謝状態もしくは増殖状態の変化(本明細書に記載するように、神経細胞の生存および/もしくは神経節の伸長を包含する)等、TrkB発現細胞の多様な生化学的または生理学的なパラメータの変化によって検出することができる。関連する生化学的または生理学的なパラメータを検出する方法は、当技術分野では既知である。
【0112】
(実施例3)
抗体の結合親和性の決定
TrkBに対する抗体の結合親和性の決定は、抗体の単機能性のFab断片の結合親和性を測定することによって実施することができる。単機能性のFab断片を得るためには、抗体(例えば、IgG)を、パパインを用いて切断するか、組換えにより発現させるかすることができる。抗体の抗TrkBのFab断片の親和性は、表面プラズモン共鳴(BlAcore3000(商標)表面プラズモン共鳴(SPR)システム、BIAcore,INC製、Piscaway、ニュージャージ州)によって決定することができる。CM5チップを、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイニドヒドロクロリド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いて、供給者の指示に従って活性化することができる。ヒトTrkB−Fc融合タンパク質(「hTrkB」)(またはラットTrkB等のいずれかのその他のTrkB)を10mM酢酸ナトリウム、pH5.0中に希釈して、活性化したチップの上に、0.0005mg/mlの濃度で注入することができる。個々のチップの経路にわたり可変のフロー時間を使用して、2つの範囲の抗原密度を達成することができる:詳細な動態研究のための200〜400反応単位(RU)、およびスクリーニングアッセイのための500〜1000RU。チップを、エタノールアミンを用いてブロッキングすることができる。再生研究から、Pierce製溶出用緩衝液(製品番号21004、Pierce Biotechnology、Rockford、イリノイ州)と4M NaClとの混合物(2:1)が、結合したFabを有効に除去し、一方、hTrkB活性を、チップ上に200回超の注入にわたり維持することが示されている。HBS−EP緩衝液(0.01M HEPES、pH7.4、0.15 NaCl、3mM EDTA、0.005% Surfactant P29)を、BIAcoreアッセイのための実行用緩衝液として使用する。精製したFab試料の段階希釈液(0.1〜10×推定KD)を、100μl/分で1分間注入し、最長2時間にわたり解離させる。Fabタンパク質の濃度を、(アミノ酸解析によって決定した)既知の濃度のFabを標準として使用して、ELISAおよび/またはSDS−PAGE電気泳動により決定する。(一般に、25°Cにおいて測定する)動態学的な結合速度(kon)および解離速度(koff)を、BIAevaluationプログラムを使用して、データを、1:1 Langmuir結合モデル(Karlsson,R.Roos、H.Fagerstam、L.Petersson,B.(1994).Methods Enzymology 6:99−110)にフィットさせることによって同時に得る。平衡解離定数(KD)の値を、koff/konとして計算する。
【0113】
(実施例4)
Biacoreにより測定したリガンド/受容体の相互作用の動態解析
一般的な方法:
相互作用解析を、CM5センサーチップを備えたBiacore3000機器(Biacore AB製、Uppsala、スウェーデン)を使用して、25℃において実施した。(受容体を固定化するのに使用する)HBS−EP実行用緩衝液は、Biacoreから、アミンのカップリング試薬(NHS、EDC、酢酸塩、pH4.5およびエタノールアミン)と共に購入した。Fc融合組換えヒト受容体(TrkA、TrkB、TrkCおよびP75)、ならびに自然のリガンド(NGF、BDNF、NT4/5およびNT3)は、R&D systemsから購入するまたは社内で調製するのいずれかであった。
【0114】
受容体の固定化:
受容体(1チップ当たり3つ)を、CM5センサーチップ上に、低いレベル(典型的には、500RUまたは4fmol/mm2)で固定化し、(1チップ当たり)1つのフローセルは、改変せずに残して、参照表面として供した。標準的なアミンのカップリングのプロトコールを、HBS−EP実行用緩衝液中、5μl/分で使用し、このプロトコールには、3つのステップが関与した。手短にいうと、このプロトコールには、3つのステップが関与した。最初に、フローセルを、50mM NHS中に新たに調製した200mM EDCの混合物を7分間注入して活性化した;このステップは、チップのカルボン酸基を反応性のエステルに変換した。次に、受容体を、pH4.5の10mM酢酸ナトリウム緩衝液中で約10μg/mLに希釈し、所望のレベルを達成するまでチップにカップリングさせた。最後に、過剰の反応性エステルを、1Mのナトリウムエタノールアミン−HCl(pH8.5)を7分間注入してブロッキングした。
【0115】
リガンド解析:
リガンド(NGF、BDNF、NT4/5およびNT3)を、実行用緩衝液(10mM Hepes(pH7.4)、150mM(NH4)2SO4、1.5mM CaCl2、1mM EGTA、および0.005%(v/v)Tween−20)中で5倍ずつ段階希釈して、0.08〜250nMに及ぶ濃度を得た。抗体200.38B8(38B8)のFab断片を、0.7から480nMまで3倍ずつ希釈した。試料を、100μl/分で30秒間注入し、最長10分にわたり解離させた。各結合サイクル後には、受容体表面を、弱酸性のカクテル(10mMグリシン−HCl(pH4.0)、500mM NaClおよび20mM EDTA)を用いて再生させた。注入を2回繰り返すことによって、当該アッセイには再現性があることを確認した。動態学的速度定数(konおよびkoff)を、結合のデータを物質輸送モデルに包括的にフィットさせることによって決定し、結合親和性を、それらの比、すなわち、KD=koff/konから計算した。
【0116】
結果:
パネル中の大部分のリガンド/受容体の相互作用は、迅速な、拡散に制限されるon速度によって特徴付けられ、これらの速度は、Biacoreの分解能(kon、約1×107 1/M・秒)を超えるものであった。顕著な例外は、ProNGFであり、これは、典型的には、緩慢なon速度を示した。off速度は、より可変であり、例えば、ProNGFまたは成熟NGFのTrkAとの相互作用は、非常に緩慢なoff速度(T1/2>1時間)を有し、一方、NT3/TrkAの相互作用は、数秒以内に減衰した(T1/2=9秒)。38B8−Fab/TrkBの相互作用は、二相性のoff速度を有し、この場合、最初の相の減衰のみがモデルに適合した。二量体リガンドが、隣接する受容体分子間で、分子相互にcis架橋することができないように、受容体の間に(平均的して)十分に広い間隔をあけるために、受容体を、チップ上に低いレベルでコートした。立体的な制約の故に、二量体リガンドが、Fc融合受容体分子の2つの腕の間で分子内架橋し得る可能性は低い。リガンドに、それらの2つの利用可能な結合部位のうちの1つのみを介して結合するのを強いる条件を促すことによって、親和力の課題が最少化され、我々のデータを単純な1:1の結合モデルにフィットさせることが妥当に感じられる。
【0117】
【表2】
【0118】
(実施例5)
TrkBアゴニストの直接的な投与により、動物における病的状態が低下する
本発明の裏付けとして実施した実験では、TrkBアゴニストの直接的な投与が、CNSに特異的な自己免疫疾患を有する動物において、病的状態およびCNS組織の損傷を低下させることが示された(図1Aおよび1B)。天然に存在するTrkBアゴニストであるNT4の組換えの形態を、米国特許出願公開第2005/0209148号の記載に従って産生し、MOGによる誘発後のC57BL/6マウス、雌に投与した(第0日)。
【0119】
動物に、NT4を、MOGによる誘発後第10日から毎日投与した(10mg/kg、n=8)(図1A)。対照動物には、ビヒクルを投与した(n=8)。動物を、病的状態について、以下のようにスコア化した:0=正常;1=尾を引きずる;2=中等度の後肢の衰弱;3=中等度に重度の後肢の衰弱(動物は依然として歩行することができるが、困難が伴う);4=重度の後肢の衰弱(動物は後肢を動かすことができるが、歩行することはできない);5=完全な後肢の麻痺;および6=死亡。NT4を用いて治療した動物は、対照動物と比較して、有意に低下した病的状態を示した。この結果から、TrkBアゴニストが、慢性EAEの進行の緩慢化において有効であることが実証された。
【0120】
図1Bは、MOGによる誘発後の異なる時期の間に、NT4を用いて毎日治療した動物の病的状態を示す。動物を、対照であるIgGを用いて(n=9)、第3日から第9日までNT4を用いて(n=8)、または第9日から第15日までNT4を用いて(n=8)のいずれかで治療した。両方の投与スケジュールが、動物の病的状態を低下させる点において有効であった。より早い時期の間に投与した場合(すなわち、早期の「パルス治療」)、より遅い時期の間に投与した場合と比較して、NT4によって与えられる保護は、(より良好ではないにしても)少なくとも同等に良好である。これらの結果から、TrkBアゴニストを用いた治療を、治療が有効となるように、症状の発症時まで継続する必要がないことが示されている。TrkBの活性化は、EAEの誘発の比較的上流の段階を標的にしている可能性がある。
【0121】
(実施例6)
高選択性TrkBアゴニスト抗体の同定
TrkBアゴニスト抗体の同定を導いた実験および観察は、実施例1〜4に記載されている。それらの抗体のうちの1つ、すなわち、抗体38B8のさらなる特徴付けから、当該抗体は、TrkBに対しては極めて選択的であり、一方、TrkA、TrkCまたはp75に対しては通常の結合性を示すことが明らかになった(図2)。38B8のFab断片の、TrkA、TrkB、TrkCおよびp75に対する相対的な親和性を、天然に存在するアゴニストであるNGF、BDNFおよびNT4の相対的な親和性と比較した。図2中の各パネルは、相対的な結合対時間を示すグラフである。抗体38B8は、TrkBに対して特異的であり、アッセイしたその他の受容体チロシンキナーゼに対しては顕著な結合を示さなかった。38B8は、何らかの交差反応性を示した、天然に存在するアゴニストであるBDNFおよびNT4よりも、TrkBに対して、さらにより選択的であった。予想されたように、NGFは、TrkBに対する結合性はほとんど示さず、TrkAおよびp75ニューロトロフィン受容体に優先的に結合した。38B8の結合親和性は、46±10nMであると決定された。(Kon、KoffおよびKdのデータを含めた)これらのリガンド−受容体の相互作用の動態解析を、実施例4、詳細には、表2に提供する。
【0122】
BDNFおよびNT4は、TrkBに対して、38B8抗体アゴニストよりも高い親和性を有するようである。しかし、結合実験は、天然に存在するリガンドの二量体の形態および38B8のFabの単量体の形態を用いて実施された。さらに、抗体は、一般に、増殖因子よりも、はるかに長い循環半減期を有し、このことは、抗体が、それらの標的の受容体に対してより低い結合親和性を有するにもかかわらず、有効であることを可能にする。このTrkBアゴニスト抗体を、さらなる研究に使用した。
【0123】
(実施例7)
TrkBアゴニスト抗体は、自己免疫疾患における病的状態を低下させる点において有効である
動物実験から、TrkBアゴニスト抗体は、対照の免疫グロブリンと比較して、EAEの病的状態に対して有意な保護をもたらすことが示された(図3)。MOGによる誘発後、マウスを、5mg/kgのアゴニスト抗体(38B8、n=9)または対照のIgG(n=9)のいずれかを用いて治療した。これらを、第9日および第16日に投与した。TrkBアゴニスト抗体はまた、MOGによる誘発16日後とまで遅れて投与した場合でも、臨床症状が発症した後で投与した場合でも有効であった(図4)。より遅い投与、例えば、誘発18日後の場合には、病的状態の低下における有効性が低減した(図5A)。より遅い治療後の臨床症状の差は、2要因の分散分析に基づくと有意ではなかった。
【0124】
他の動物において、MOGによる誘発22日後の酢酸グラチラマー(GA、COPAXONE、TYSABRI)の投与は、病的状態の低下において有効であった(図5B)。これらの結果から、TrkBアゴニストの作用機構が、GAおよびその他の現行のMS薬物の作用機構とは異なることが示唆される。
【0125】
TrkBアゴニスト抗体を、MSの治療用の別の現行の薬物であるデキサメタゾンと比較した。図6Aは、TrkBアゴニスト抗体38B8(5mg/kg、第9日および第16日に週1回)の投与後、またはデキサメタゾン(4mg/kg)もしくはエタノールビヒクル(対照)の第3日から第12日までの毎日投与後のいずれかの場合の動物における病的状態を示すグラフを図示する。これらの結果からは、TrkBアゴニストの有益な効果は、免疫抑制剤であるデキサメタゾンの効果に類似することが実証されている。TrkBアゴニスト治療動物は、対照動物と比較して体重が減少する傾向を示した(図6B)。
【0126】
TrkBアゴニスト抗体の有益な効果は、用量依存性であった。図7Aおよび7Bに、1mg/kg(n=8)もしくは5mg/kg(n=9)の38B8投与後の動物の病的状態の差、または5mg/kg(n=10)および10mg/kg(n=9)の38B8投与後の動物の病的状態の差を示す。これらの結果から、5mg/kgのアゴニスト抗体は、1mg/kgよりも、病的状態に対するより多くの保護(すなわち、病的状態の低下)をもたらし、一方、10mg/kgは、5mg/kgと比較して、病的状態をさらに低下させることが実証された。保護の増加は、より高い用量においては、それほど顕著ではなく、このことは、TrkBアゴニストの追加の投与には、わずかな治療価値しかないことを示唆した。
【0127】
(実施例8)
TrkBアゴニスト抗体およびNTは、培養物中の神経細胞を保護する
in vitroにおける神経細胞生存アッセイを使用して、NTが、神経細胞の生存を促すことが示されている(Davies,A.ら(1993)Neuron 11565−74)。類似のアッセイを使用して、TrkBアゴニスト抗体が、神経細胞に、天然に存在するTrkBアゴニストと一致する様式で影響を及ぼすことを実証した(実施例1を参照されたい)。対照の(すなわち、神経栄養因子を欠く)培養物においては、事実上全ての神経細胞が、48時間以内に死滅する。しかし、BDNF、NT3、NT4またはNGFの存在下で培養した神経細胞のうちの60〜80%が、48時間にわたり生存する(同上)。
【0128】
本発明の裏付けとして実施した実験では、以前の記載に従って、TrkBアゴニスト抗体である38B8、23B8、36D1、37D12および19H8の増加する量(例えば、表1を含めた、実施例1を参照されたい)を、神経細胞の培養物に添加した(図8)。いくばくかの変動はあるものの、TrkBアゴニスト抗体の増加する量を添加すると、神経細胞の生存が、(38B8の場合、10〜100pMの範囲においては最大75%超、および19H8の場合、0.1〜10pMの範囲においては最大100%超)増加した。神経細胞生存アッセイにおける抗体38B8のEC50値は、0.2pMであった。神経細胞生存アッセイにおける38B8、23B8、36D1および37D12のEC50値、ならびにヒトKIRAアッセイにおけるこれらの抗体のEC50値および動物の体重に対するそれらの効果(認識されている、TrkBアゴニストに対する応答)は、実施例1において議論し、その概要を表1に示す。抗体23B8は、より高いEC50値である11pMを有するが、動物の体重に対して効果を示すことはできなかったことに注目されたい。このことは、11pM未満のEC50値が、TrkBアゴニストの生物学的活性のためには必要であることを示唆している。抗体36D1は、5pMのEC50値を有し、動物の体重に対して効果を示した。これらのデータは、NTについて報告されている結果と一致し、TrkBアゴニスト抗体は、神経細胞に、天然に存在するTrkBアゴニストと一致する様式で影響を及ぼすことを実証している。
【0129】
(実施例9)
TrkBアゴニストは、主に免疫抑制を介して機能するものではない
(GAおよびデキサメタゾンを含めた)MSの治療用の現行の薬物は、免疫調節物質であり、これらは、免疫応答に関して、免疫抑制性およびその他の効果を示す。TrkBアゴニストの治療効果もまた、免疫抑制のレベルのものであるか否かを決定するために、動物を、TrkBアゴニスト抗体(38B8)またはビヒクル単独(対照)を用いて治療し、異なるアイソタイプ(すなわち、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3およびIgM)の、循環するMOG(ミエリン)に特異的な抗体のレベルを測定した(図9)。TrkBアゴニストによる治療後には、MOGに特異的な抗体のレベルのいくばくかの変動を観察したが、これは、動物の病的状態の顕著な低下を説明するのに十分であるようには見えなかった。特定の機構を本発明に帰することなく、これらの結果からは、TrkBアゴニストは、抗MOG抗体の産生を抑制することによって機能するのではなく、したがって、従来の免疫抑制剤として機能するとは思われないことが示唆される。
【0130】
TrkBアゴニストが、T細胞およびB細胞の、ミエリンによって刺激される能力を阻害するか否かを決定するために、脾細胞増殖アッセイを使用して、TrkBアゴニストの存在下で、MOGの、単離した脾細胞を刺激する能力を測定した。比較のために、免疫抑制剤であるデキサメタゾンの存在下で、MOGを用いて脾細胞を刺激した。
【0131】
MOGで誘発した未治療(対照)動物(n=9)由来の脾臓細胞またはMOGで誘発したTrkBアゴニスト抗体(38B8)治療動物(n=8)由来の脾臓細胞を、MOG単独(0)、TrkBアゴニスト抗体(38B8;50μl/mg)または2つの異なる濃度(10−8Mおよび10−5M)のうちの1つにおけるデキサメタゾンと組み合わせたMOGの存在下のいずれかで、in vitroにおいて培養した。図10を参照すると、in vitroにおいてMOGで刺激されなかった脾細胞と比較した、脾細胞の刺激の種々の量が、y軸上に示されている。
【0132】
TrkBアゴニスト抗体の存在は、脾細胞刺激に対して、何ら明らかな効果を有さなかった。このことはまた、免疫抑制剤であるデキサメタゾンのより低い濃度の場合にもあてはまった。デキサメタゾンは、10−5Mのより高い濃度では、MOGによる刺激を妨げた。
【0133】
全体的に、TrkBアゴニスト治療動物から得た脾細胞は、MOGによる刺激に対して、対照治療動物と一致する様式で応答し、このことは、TrkBアゴニストを用いて治療した動物は、抗MOG性T細胞および/または抗MOG性B細胞の正常な応答をもたらす能力を保持することを示している。さらに、TrkBアゴニスト治療動物から得た脾細胞も、対照動物から得た脾細胞も、培地中のTrkBアゴニストの存在に対して同様に応答する。これらの観察から、免疫抑制剤であるデキサメタゾンの作用機構は、TrkBアゴニストの作用機構とは異なること、およびTrkBアゴニストの主要な作用機構は、白血球増殖のレベルにおいてではないことがさらに示唆される。
【0134】
(実施例10)
TrkBアゴニストは、炎症性細胞のCNSへの侵入を遮断し、脱髄を低下させる
動物においてTrkBアゴニストが保護を媒介する機構をよりよく理解するために、組織学的解析を実施した。脊髄の切片を、対照動物およびTrkBアゴニスト抗体(38B8)治療動物から調製し、次いで、ミエリンを染色するためにLuxol fast blueを用いて、かつ細胞体を染色するためにクレシルバイオレットを用いて染色した(図11)。対照動物では、染色は、ミエリンを発現している神経細胞の背景に対して白血球の侵入および細胞破壊の領域を示した。白血球侵入の低下が、TrkBアゴニストを用いて治療した動物から調製した切片中には観察された。数匹のTrkBアゴニスト治療動物は、白血球のCNSへの侵入の証拠を全く示さなかった。
【0135】
侵入する細胞の同定を、2つの白血球マーカーであるT細胞上に存在するCD3およびマクロファージ上に存在するCD68に対して特異的な抗体を使用して実施した。図12は、CD3抗体を用いた染色の結果を示す。おびただしい数の、染色により明るく強調された領域が、特に、クレシルバイオレットで暗く染色された場所と同一の場所において明らかである。TrkBアゴニスト治療マウスから得た脊髄の切片は、顕著に減少した染色を示し、このことから、T細胞の侵入が、治療動物においてはかなり低下することが示された。脊髄の切片はまた、単核球に伴うCD68マーカーに特異的な抗体でも染色された(図13)。対照マウスから調製した切片は、TrkBアゴニスト治療マウスからの切片よりも、特に、クレシルバイオレットおよびCD3に特異的な抗体で強力に染色された領域と同一の領域において、より強力に染色された。そのような観察から、TrkBアゴニスト治療動物由来の脊髄組織は、対照動物と比較した場合、T細胞および単核球の侵入のかなりの低下を示すことが示された。
【0136】
脊髄の切片を、Luxol Fast Blueで染色して、脱髄を測定した。対照マウスの脳は、リンパ球の激しい侵入を有する場所に対応して、重度の脱髄の領域を示し(すなわち、図14中、黒の矢印が示す染色されていない場所)、このような領域は、TrkBアゴニストを用いて治療したマウスにおいては明らかではなかった。重度の脱髄および/または神経細胞の死滅の領域は、TrkBアゴニスト治療動物からの切片においては観察されなかった。総合すると、CNS組織の切片の組織化学的な染色の結果から、TrkBアゴニストによる治療によって、リンパ球および単核球のCNSへの侵入が低下することが実証された。
【0137】
天然に存在するTrkBアゴニストおよび人工的なTrkBアゴニストの両方が、EAEの進行を緩慢化させる点において有効である。天然に存在するアゴニストであるNT4およびアゴニスト抗体の両方が、疾患の進行を緩慢化させる点において有効であった。アゴニスト抗体は、TrkBに対する最も高い選択性を示し、これを使用して、TrkBアゴニストがEAEの進行に影響を及ぼす機構をさらに検討した。TrkBアゴニストは、EAEの症状の発症(通常、これら特定の動物の場合、第12日または第13日)の前に投与しても、数日後に投与しても有効であった。MOGによる誘発16日後(または症状の発症約4日後)までの投与は、病的状態の低下において有効であった。アゴニストの有益な効果は、用量依存性であり、TrkBアゴニストの用量の増加に伴って病的状態が低下する。組織化学的な実験により、TrkBアゴニストは、T細胞および単核球のCNS組織への侵入を低下させることが示された。ミエリンの染色からは、TrkBアゴニスト治療動物における神経細胞に対する損傷の低下が示された。
【0138】
アッセイにおいて試験したその他の薬物とは異なり、TrkBアゴニストは、主に免疫抑制を介して機能するものではない。このことは、TrkBアゴニストが、MOGに特異的な自己免疫抗体の産生には影響を及ぼさないという観察において証明された。さらに、MOGにより誘発し、TrkBアゴニストを用いて治療した動物から単離した脾細胞は、MOGによって刺激される能力をin vitroで保持した。したがって、TrkBアゴニストは、GAおよびデキサメタゾン等のその他の化合物の様式とは異なる様式で機能する。
【0139】
本明細書に記載する実施例および実施形態は、説明する目的のものに過ぎず、ならびにそれらに照らした種々の改変形態または変形形態が当業者には示唆され、これらは本出願の精神および範囲のうちに含まれることを理解されたい。本明細書に引用する全ての刊行物、特許および特許出願は、それらの全体が、全ての目的のために、各刊行物、特許および特許出願が個々に、具体的かつ個別に参照によって組み込まれていると示されている場合と同程度に、本明細書によって、参照により組み込まれている。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年12月20日に出願した米国仮特許出願第60/870918号の優先権を主張するものであり、その全体は参照によって本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明は、多発性硬化症を含めた、中枢神経系に影響を及ぼす自己免疫疾患の治療に関する。本発明は、白血球の中枢神経系組織への侵入を低下させるためのチロシン受容体キナーゼB(TrkB)のアゴニストを提供する。
【背景技術】
【0003】
多発性硬化症(MS)は、炎症、脱髄および軸索損傷によって特徴付けられる中枢神経系(CNS)の脱髄性自己免疫疾患である。この疾患は、全世界で100万人以上の人々を襲い、女性の有病率は、男性の有病率の2倍である。MSの症状は通常、20歳から40歳の間に出現する。
【0004】
MSの特色が研究されているが、この疾患の病因は不明である。そのような特色には、CNS組織の損傷、ミクログリアの活性化、炎症促進性サイトカインの産生、T細胞の遊走およびクローン型増殖の停止、マクロファージのエフェクター機能、産生の変化、MHCの上方制御、ならびに浸潤性T細胞によるCNSの直接的な攻撃を包含する。
【0005】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)が、MSの標準的なモデルであるとみなされている。マウス疾患モデルが、MSの病因を研究し、その治療用の薬物を評価するのに使用されている(Aharoni,R.ら、2005a)。EAEの臨床的な特色には、非常に多数の浸潤性リンパ球およびマクロファージによるCNSの炎症および脱髄がある。ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)を含めた、ミエリンのいくつかの異なるタンパク質構成成分を用いたマウスの能動免疫は、自己免疫抗体の産生および上行性麻痺の臨床症状を誘発する。この疾患は、マウスの系統、および免疫感作に使用したミエリンタンパク質に依存して、急性または慢性となる場合がある。EAEは、MSの病因を研究し、その治療用の薬物を評価するのに使用されている(Aharoni,R.ら、2005a)。
【0006】
MSは、多くの場合、神経細胞組織中に豊富に存在するポリペプチドであるミエリンに対するT細胞の応答によって生じる。脱髄および臨床上の麻痺は、ミエリン抗原に対する特異性を有するTh1表現型のT細胞の、CNS組織への侵入によって生じる。Th1細胞は、TNF−αおよびIFN−γを含めた、炎症性サイトカインを産生する。また、CNSに対する損傷は、自己免疫抗体の産生および補体の活性化を含めた、その他の免疫学的応答によっても引き起こされる可能性がある。B細胞が、MSおよびEAEの早期および後期の段階の間に関与し、種々のアイソタイプのミエリン塩基性タンパク質(MBP)特異的抗体が疾患の経過全体を通して認められる。脳および脊髄の組織から調製した切片が、白血球の侵入(特に、リンパ球およびマクロファージ)ならびに神経系の下層組織の破壊を示す。
【0007】
酢酸グラチラマー(GA、COPAXONE)は、MSおよびその他の疾患の治療について承認された免疫抑制薬である(Arnon,R.ら、2003)。また、この薬物は、EAEモデルにおいても有効である。GAは、Th2/3細胞の誘発物質であり、この細胞は、抗炎症性サイトカインを産生し、これらのサイトカインは、血液脳関門を横断して、CNS中に蓄積する。これらのサイトカインは、CNS組織において種々の効果をもたらし、その他の増殖因子、例えば、IL−10、TGF−βおよびBDNFの局所的な産生に至る(Aharoni,R.ら、2003)。長期的なGAの投与は、NT3、NT4およびBDNFのより高いレベルの発現を伴った(Aharoni,R.ら、2005b)。
【0008】
NT3、NT4およびBDNFは、神経細胞の発達、成長過程、シナプス可塑性、保護および生存に関して重要な小型のホモ二量体タンパク質のニューロトロフィン(NT)ファミリーのメンバーである。NTは、神経増殖因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、NT3、NT4(また、NT4/5とも呼ばれる)、NT6およびNT7を包含する。NTは、受容体チロシンキナーゼ(また、チロシン受容体キナーゼとも呼ばれる)として知られる受容体ファミリーとの相互作用を通して、標的細胞に影響を及ぼす。これらの受容体は、いくつかの高分子量(130〜150kDa)で、高親和性(約10−11M)のチロシン受容体キナーゼ(Trk)である受容体および低分子量(65〜80kDa)で、低親和性(約10−9M)の受容体(LNGFR、p75NTRまたはp75)として知られる受容体を包含する。特異的な受容体チロシンキナーゼへのNTの結合が、受容体の二量体化および内在性チロシンキナーゼドメインの活性化を引き起こす。NGFは、チロシン受容体キナーゼA(TrkA)に、BDNFおよびNT4は、チロシン受容体キナーゼB(TrkB)に、ならびにNT3は、チロシン受容体キナーゼC(TrkC)に優先的に結合する。全てのNTは、p75に弱く結合する。
【0009】
EAEマウスのCNS組織中のBDNFおよびNT4の報告(Aharoni,R.ら、2003、2005b)は、多発性硬化症および関連する疾患におけるNTおよび/またはそれらの受容体の役割を示唆している。
【0010】
参照文献
Aharoni,R.et
al.(2005a)J.Neurosci.25:8217-28.
Aharoni,R.et
al.(2005b)Proc.Nat'l.Acad.Sci.USA 102:19045-50.
Aharoni,R.et al.(2003)Proc.Nat'l.Acad.Sci.USA
100:14157-62.
Aharoni,R.et
al.(1997)Proc.Nat'l.Acad.Sci.USA 94:10821-26.
Arnon,R.et
al.(2003)J.Mol.Recognit.16:412-21.
Davies,A.et al.(1993)Neuron 11565-74.
Karnezis,T.et al(2004)Nat.
Neurosci.7:736-44.
Padlan,E.et al.(1995)FASEB J.133-39.
Steinman and
Zamvil(2006)Ann.Neurol.60:12-21.
【0011】
追加の参照文献、特に、標準的な手順および方法に関連する参照文献を、本文を通して引用する。本出願中、上記および他所で引用する全ての特許、特許出願、Genbankへの登録、参照マニュアルおよび刊行物は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、本発明は、白血球の中枢神経系組織への侵入を低下させるための方法を提供し、この方法は、TrkBアゴニストを含む組成物を、そのような治療を必要とする哺乳動物対象に、TrkB受容体を活性化するのに有効な量で投与するステップを含み、それによって、白血球の中枢神経系組織への侵入を低下させる。本発明は、哺乳動物において白血球の中枢神経系組織への侵入を低下させるのに使用する医薬品の製造におけるTrkBアゴニストの使用もさらに提供する。
【0014】
いくつかの実施形態では、哺乳動物は、自己免疫障害を有する。一実施形態では、自己免疫障害は実験的自己免疫性脳脊髄炎である。別の実施形態では、自己免疫障害は多発性硬化症である。その他の実施形態では、自己免疫疾患は、免疫拒絶、視神経症、炎症性腸疾患またはパーキンソン病に関係する。好ましい実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0015】
いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、天然に存在するTrkBアゴニストである。一実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストはNT4である。関連する実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストは、NT4の天然に存在する断片または誘導体を含む。いくつかの実施形態では、NT4の断片または誘導体は、TrkBに結合して、それを活性化する。別の実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストはBDNFである。関連する実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストは、BDNFの天然に存在する断片または誘導体を含む。いくつかの実施形態では、BDNFの断片または誘導体は、TrkBに結合して、それを活性化する。
【0016】
別の実施形態では、TrkBアゴニストは抗体である。特定の実施形態では、抗体は、抗体38B8である。別の実施形態では、抗体は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生される。いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、ヒト抗体である。関連する実施形態では、TrkBアゴニストは、ヒト化抗体である。いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、抗体断片または誘導体である。特定の実施形態では、抗体断片は、Fab抗体、Fab’抗体、F(ab’)2抗体、Fv抗体、Fc抗体または一本鎖(ScFv)抗体から選択される。いくつかの実施形態では、抗体断片は、アゴニスト抗体38B8の抗原結合領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された抗体の抗原結合領域を含む。関連する実施形態では、抗体断片は、アゴニスト抗体38B8の相補性決定領域(CDR)を含む。関連する実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された抗体の相補性決定領域(CDR)を含む。
【0017】
好ましい実施形態では、侵入する白血球は、T細胞およびマクロファージを含む。特定の実施形態では、侵入する白血球は、CD3を発現する白血球およびCD68を発現する白血球を含む。好ましい実施形態では、中枢神経系組織は、脳組織または脊髄組織である。
【0018】
関連する態様では、本発明は、中枢神経系に影響を及ぼす自己免疫障害を治療するための方法を提供し、この方法は、TrkB受容体を活性化するのに十分な量のTrkBアゴニストを含む組成物を、そのような治療を必要とする哺乳動物対象に投与するステップを含み、それによって、白血球の中枢神経系組織への侵入を低下させる。本発明は、哺乳動物において中枢神経系に影響を及ぼす自己免疫障害を治療するのに使用する医薬品の製造におけるTrkBアゴニストの使用もさらに提供する。
【0019】
一実施形態では、自己免疫障害は実験的自己免疫性脳脊髄炎である。別の実施形態では、自己免疫障害は多発性硬化症である。その他の実施形態では、自己免疫疾患は、免疫拒絶、視神経症、炎症性腸疾患またはパーキンソン病に関係する。好ましい実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0020】
いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、天然に存在するTrkBアゴニストである。一実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストはNT4である。関連する実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストは、NT4の天然に存在する断片または誘導体を含む。いくつかの実施形態では、NT4の断片または誘導体は、TrkBに結合して、それを活性化する。別の実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストはBDNFである。関連する実施形態では、天然に存在するTrkBアゴニストは、BDNFの天然に存在する断片または誘導体を含む。いくつかの実施形態では、BDNFの断片または誘導体は、TrkBに結合して、それを活性化する。
【0021】
別の実施形態では、TrkBアゴニストは抗体である。特定の実施形態では、抗体は、抗体38B8である。別の実施形態では、抗体は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生される。いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、ヒト抗体である。関連する実施形態では、TrkBアゴニストは、ヒト化抗体である。いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、抗体断片または誘導体である。特定の実施形態では、抗体断片は、Fab抗体、Fab’抗体、F(ab’)2抗体、Fv抗体、Fc抗体または一本鎖(ScFv)抗体から選択される。いくつかの実施形態では、抗体断片は、アゴニスト抗体38B8の抗原結合領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された抗体の抗原結合領域を含む。関連する実施形態では、抗体断片は、アゴニスト抗体38B8の相補性決定領域を含む。関連する実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された抗体の相補性決定領域(CDR)を含む。
【0022】
好ましい実施形態では、侵入する白血球は、T細胞およびマクロファージを含む。特定の実施形態では、侵入する白血球は、CD3を発現する白血球およびCD68を発現する白血球を含む。好ましい実施形態では、中枢神経系組織は、脳組織または脊髄組織である。
【0023】
さらなる態様では、本発明は、白血球の中枢神経系組織への侵入を低下させるためのキットオブパーツを提供し、このキットオブパーツは、TrkB受容体を活性化するのに有効な量のTrkBアゴニストおよび使用のための指示を含む。関連する態様では、本発明は、中枢神経系に影響を及ぼす自己免疫障害を治療するためのキットオブパーツを提供し、このキットオブパーツは、TrkB受容体を活性化するのに有効な量のTrkBアゴニストおよび使用のための指示を含む。
【0024】
さらなる実施形態では、本発明は、TrkBアゴニスト抗体38B8、例えば、単離モノクローナル38B8抗体に関する。別の実施形態では、本発明は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された単離TrkBアゴニスト抗体に関する。いくつかの実施形態では、TrkBアゴニストは、38B8の抗体断片または誘導体である。さらなる実施形態では、TrkBアゴニストは、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された抗体の抗体断片または誘導体である。特定の実施形態では、抗体断片は、38B8に由来するFab抗体、Fab’抗体、F(ab’)2抗体、Fv抗体、Fc抗体または一本鎖(ScFv)抗体から選択される。特定の実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された抗体に由来するFab抗体、Fab’抗体、F(ab’)2抗体、Fv抗体、Fc抗体または一本鎖(ScFv)抗体から選択される。いくつかの実施形態では、抗体断片は、アゴニスト抗体38B8の抗原結合領域を含む。いくつかの実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生されたアゴニスト抗体の抗原結合領域を含む。関連する実施形態では、抗体断片は、アゴニスト抗体38B8の相補性決定領域(CDR)を含む。関連する実施形態では、抗体断片は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生されるアゴニスト抗体の相補性決定領域(CDR)を含む。さらなる実施形態は、TrkBアゴニスト抗体38B8を産生する細胞または38B8に由来する断片を産生する細胞である。さらなる実施形態は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株である。
【0025】
また、本発明は、本明細書に記載する自己免疫障害のいずれかの治療における使用のための、本明細書に記載する任意のTrkBアゴニストにも関する。また、本発明は、本明細書に記載するTrkBアゴニストのいずれかおよび薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物も提供する。
【0026】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載するTrkBアゴニストのいずれかをコードするヌクレオチド配列を含む、単離核酸分子に関する。特定の一実施形態は、ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生されるアゴニスト抗体をコードするヌクレオチド配列を含む、単離核酸分子である。本発明は、本明細書に記載する核酸分子のいずれかを含むベクターにもさらに関し、ベクターは、核酸分子に動作可能に連結している発現制御配列を場合により含む。
【0027】
別の実施形態は、本明細書に記載するベクターのいずれかを含むか、本明細書に記載する核酸分子のいずれかを含む宿主細胞を提供する。また、本発明は、本明細書に記載する抗体または抗原に結合する部分のいずれかを産生するか、前記抗体または前記抗原に結合する部分のいずれかの重鎖または軽鎖を産生する、単離細胞系統も提供する。
【0028】
別の実施形態では、本発明は、TrkBアゴニスト抗体またはその抗原に結合する部分を産生するための方法に関し、この方法は、本明細書に記載する宿主細胞または細胞系統のいずれかを適切な条件下で培養するステップと、前記の抗体または抗原に結合する部分を回収するステップとを含む。
【0029】
また、本発明は、本明細書に記載する核酸のいずれかを含む、非ヒトの遺伝子導入動物または遺伝子導入植物にも関し、非ヒトの遺伝子導入動物または遺伝子導入植物は、前記核酸を発現する。
【0030】
本発明は、TrkBアゴニスト抗体またはその抗原に結合する部分を単離するための方法もさらに提供し、この方法は、抗体を本明細書に記載する非ヒトの遺伝子導入動物または遺伝子導入植物から単離するステップを含む。
【0031】
本発明のこれらおよびその他の態様は、以下の本発明の説明および実施例から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1A】MOGによる誘発後の数週間のEAE動物における相対的な病的状態を示すグラフである。MOGを、第0日に投与した。(A)動物に、第10日から、NT4(10mg/kg)または対照としてのビヒクル単独のいずれかを毎日投与した。(B)動物を、対照であるIgGを用いて(10mg/kg;n=9)、第3日から第9日までNT4を用いて(10mg/kg)(n=8)、または第9日から第15日までNT4を用いて(10mg/kg)(n=8)のいずれかで治療した。
【図1B】MOGによる誘発後の数週間のEAE動物における相対的な病的状態を示すグラフである。MOGを、第0日に投与した。(A)動物に、第10日から、NT4(10mg/kg)または対照としてのビヒクル単独のいずれかを毎日投与した。(B)動物を、対照であるIgGを用いて(10mg/kg;n=9)、第3日から第9日までNT4を用いて(10mg/kg)(n=8)、または第9日から第15日までNT4を用いて(10mg/kg)(n=8)のいずれかで治療した。
【図2】4つの受容体チロシンキナーゼアゴニスト(すなわち、NGF、BDNF、NT4および38B8)の、4つの受容体チロシンキナーゼ(すなわち、TrkA、TrkB、TrkCおよびp75)に対する相対的な親和性を示す一連のグラフである。x軸は、時間(全て、300〜450秒の範囲)を示す。y軸は、相対的な親和性を示す。最大目盛、上の行(左から右へ):90、20、50および60単位;2番目の行:32、60、60、140単位;3番目の行:35、35、16および20単位;下の行:90、80、100および90単位。これらのデータは、本文および(表2を含めた)実施例4においてさらに説明する。
【図3】MOGによる誘発9日後にTrkBアゴニストを用いて治療した動物における病的状態を示すグラフである。動物に、5mg/kgのTrkBアゴニスト抗体38B8または非特異性であるIgG(対照)のいずれかを、第9日および第16日に投与した。マウスを、EAEの臨床徴候について、以下のスコア化システムに従って毎日査定した:0=正常;1=尾を引きずる;2=中等度の後肢の衰弱;3=中等度に重度の後肢の衰弱(動物は依然として歩行することができるが、困難が伴う);4=重度の後肢の衰弱(動物は後肢を動かすことができるが、歩行することはできない);5=完全な後肢の麻痺;および6=死亡。
【図4】MOGによる誘発16日後にTrkBアゴニストを用いて治療した動物における病的状態を示すグラフである。動物に、5mg/kgのTrkBアゴニスト抗体38B8またはビヒクル(PBS)のいずれかを、第16日および第23日に投与した。
【図5A】疾患の進行のより遅い時期に治療した動物における病的状態を示すグラフである。(A)動物に、5mg/kgのTrkBアゴニスト抗体38B8または非特異性であるIgGのいずれかを、第18日および第23日に投与した。(B)動物に、GA(COPAXONE)またはビヒクル単独(対照)のいずれかを、第22日から毎日投与した。
【図5B】疾患の進行のより遅い時期に治療した動物における病的状態を示すグラフである。(A)動物に、5mg/kgのTrkBアゴニスト抗体38B8または非特異性であるIgGのいずれかを、第18日および第23日に投与した。(B)動物に、GA(COPAXONE)またはビヒクル単独(対照)のいずれかを、第22日から毎日投与した。
【図6A】TrkBアゴニストまたはデキサメタゾンのいずれかの投与後の動物における病的状態および体重を示すグラフである。動物に、38B8(5mg/kg、第9日および第16日に週1回)を投与するか、またはデキサメタゾン(4mg/kg)もしくはエタノールビヒクル(対照)を第3日から第12日まで毎日投与した。(A)上記に従って、病的状態を測定した。(B)動物の体重を疾患の進行の経過にわたって測定した。
【図6B】TrkBアゴニストまたはデキサメタゾンのいずれかの投与後の動物における病的状態および体重を示すグラフである。動物に、38B8(5mg/kg、第9日および第16日に週1回)を投与するか、またはデキサメタゾン(4mg/kg)もしくはエタノールビヒクル(対照)を第3日から第12日まで毎日投与した。(A)上記に従って、病的状態を測定した。(B)動物の体重を疾患の進行の経過にわたって測定した。
【図7A】TrkBアゴニストの、疾患の病的状態の低下における有効性は、用量依存性であることを示すグラフである。(A)動物に、1mg/kgまたは5mg/kgのTrkBアゴニスト38B8のいずれかを、第9日および第16日に投与した。(B)動物に、5mg/kg38B8もしくは10mg/kg38B8、またはPBS(対照)のいずれかを、第9日および第16日に投与した。
【図7B】TrkBアゴニストの、疾患の病的状態の低下における有効性は、用量依存性であることを示すグラフである。(A)動物に、1mg/kgまたは5mg/kgのTrkBアゴニスト38B8のいずれかを、第9日および第16日に投与した。(B)動物に、5mg/kg38B8もしくは10mg/kg38B8、またはPBS(対照)のいずれかを、第9日および第16日に投与した。
【図8】in vitroのアッセイを使用して、いくつかのTrkBアゴニスト抗体(38B8、23B8、36D1、37D12および19H8)の増加する量の存在下で生存する神経細胞の相対的な量を示すグラフである。実験の手順および結果を、本文および実施例1(例えば、表1)に記載する。神経細胞生存アッセイにおける各抗体のEC50値を、表1の第3列に示す。
【図9】未治療(対照)動物およびTrkBアゴニスト抗体38B8を用いて治療した動物における、MOGに特異的な抗体の表示したアイソタイプの相対的なレベルを示す一連のグラフである。各グラフは、TrkBアゴニスト(38B8)治療動物または未治療(対照)動物における、(450μmにおける吸収を測定することによって決定した)表示した抗体のアイソタイプの量を示す。
【図10】脾細胞刺激アッセイの結果を示すグラフである。MOGで誘発した未治療(対照)動物由来の脾臓細胞またはMOGで誘発したTrkBアゴニスト抗体(38B8)治療動物由来の脾臓細胞を、MOG単独、またはTrkBアゴニスト抗体(38B8;50μl/mg)もしくは2つの異なる濃度(10−8Mおよび10−5M)のうちの1つにおけるデキサメタゾンと組み合わせたMOGの存在下で、in vitroにおいて培養した。
【図11】対照動物から取り出した脊髄の切片(A)およびTrkBアゴニスト治療動物から取り出した脊髄の切片(B)の免疫化学的染色の結果を示す図である。切片は、ミエリンについてはLuxol Fast Blueを用いて、かつ細胞体についてはクレシルバイオレットを用いて染色した。
【図12】対照動物から取り出した脊髄の切片(A)およびTrkBアゴニスト治療動物から取り出した脊髄の切片(B)の免疫化学的染色の結果を示す図である。切片は、CD3に対して特異的な抗体を用いて染色した。
【図13】対照動物から取り出した脊髄の切片(A)およびTrkBアゴニスト治療EAE動物から取り出した脊髄の切片(B)の免疫化学的染色の結果を示す図である。切片は、CD68に対して特異的な抗体を用いて染色した。
【図14】対照動物から取り出した脊髄の切片およびTrkBアゴニスト治療EAE動物から取り出した脊髄の切片の組織学的染色の結果を示す図である。切片を、ミエリン染色、すなわちLuxol Fast Blueを用いて染色した。染色されていない場所は、脱髄の領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
本明細書で使用する場合、「チロシン受容体キナーゼ」および「受容体チロシンキナーゼ」用語は、互換的に使用して、TrkBがそのメンバーである、分子のクラスを指す。リガンド(アゴニスト)の受容体チロシンキナーゼへの結合が、リガンド誘発性の受容体の二量体化および細胞内キナーゼドメイン中のチロシン残基の自己リン酸化を引き起こす。チロシンのリン酸化に、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)/Akt経路、MAPK経路およびPLC経路等の多様なシグナル伝達カスケードの活性化が続き、これらの経路は、遺伝子発現を、典型的には細胞型に特異的な様式で調節する。
【0034】
本明細書で使用する場合、「侵入する白血球」は、自己免疫疾患、好ましくは、CNSに影響を及ぼす自己免疫疾患の結果として、脳および脊髄の組織を含めた、中枢神経系(CNS)組織中に侵入、浸潤または遊走する白血球である。侵入する白血球は、主としてT細胞および単核球であるが、その他の白血球も存在する場合がある。
【0035】
本明細書で使用する場合、「白血球の侵入を低下させる」とは、脳および脊髄の組織を含めた、白血球のCNS組織中への遊走(すなわち、侵入または浸潤)を減少させることを指す。白血球の侵入を低下させるとはまた、白血球の侵入によって媒介される細胞傷害性の効果を、特に、CNS組織の下層の神経細胞および/またはその他の支持細胞に関して低下させることも指す。白血球の侵入は、T細胞および単核球による侵入を包含する。白血球の侵入の低下は、CNS組織の自己免疫性の攻撃からの保護を包含する。白血球の侵入によって破壊されるCNS細胞は、ミエリン発現細胞および付近の非ミエリン発現細胞を包含する。細胞の破壊は、アポトーシス、壊死またはそれらの組合せであってよい。白血球の侵入の低下は、疾患の進行の緩慢化、病的状態の発症および重症化の遅延、生存の延長、生活の質の改善、認知、運動または行動の症状の減少または安定化等の臨床的な指標によって特徴付けられる。白血球の侵入の低下はまた、白血球の中枢神経系(CNS)組織中への遊走の危険の予防または低下も包含する。白血球の侵入の低下は、部分的であっても、または完全であってもよく、例えば、低下は、本明細書に記載するように、相対的なまたは実際の低下として、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%またはさらに約95%であってよい。
【0036】
本明細書で使用する場合、「TrkB受容体アゴニスト」または「TrkBアゴニスト」は、TrkB受容体の活性化の量を増加させる分子であり、天然に存在するアゴニストであるBDNFおよびNT4によってもたらされる効果に類似する効果をもたらす。TrkBの活性化は、通例、受容体誘発性の自己リン酸化によって生じ、これは、細胞内シグナル伝達事象の特徴的なカスケードを開始する。TrkB受容体アゴニストは、この活性化を、例えば、受容体の二量体化またはリン酸化を調節することによって、天然に存在するアゴニストの結合を調節することによって、天然に存在するアゴニストの結合を模倣することによって、TrkB受容体を活性化された(例えば、リン酸化された)状態に(無期限を含めた)より長い期間留めさせることによって、またはその他の形でTrkBの活性化を調節し、もしくはTrkB受容体の活性化に特徴的である細胞内事象のカスケードを開始させることによって増加させる。TrkBアゴニストは、これらに限定されないが、既知のTrkBアゴニストであるNT4およびBDNFを含めた、天然に存在するアゴニストのポリペプチド、それらの断片、変異体および誘導体を包含する。TrkBアゴニストは、アゴニスト抗体、それらの断片、変異体および誘導体を包含する。TrkBアゴニストの好ましい特性を、本明細書に記載する。本発明のTrkBアゴニストは、TrkBの活性化を、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、またはそれ以上増加させることができる。
【0037】
本明細書で使用する場合、「断片」ポリペプチドは、より大きなポリペプチドの部分であり、これは、TrkB受容体を活性化する能力等、そのより大きなポリペプチドの生物学的特性のうちの少なくともいくつかを保持する。好ましい断片は、そのより大きなポリペプチドの生物学的特性をもたらす、そのより大きなポリペプチドのアミノ酸残基および/または構造を含む。ポリペプチド断片は、ペプチドと呼ばれる場合があるが、本明細書では、ポリペプチドとペプチドを区別しない。例示的な断片を、本明細書に記載する。断片は、本明細書に記載するように、誘導体化することができる。
【0038】
本明細書で使用する場合、「誘導体」ポリペプチドは、官能基または官能性部分の付加または除去等、1つまたは複数の共有結合性または非共有結合性の修飾を有する。誘導体の例を、本明細書に提供する。
【0039】
本明細書で使用する場合、特定のポリペプチド配列の「変異体」を、Clustal VまたはBLAST、例えば、デフォルトパラメータに設定した「BLAST 2 Sequence」ツールのVersion 2.0.9(1999年5月7日)等のアルゴリズムを使用した場合、ポリペプチド配列のうちの1つの特定の長さにわたる特定のポリペプチド配列に対して、少なくとも40%の配列同一性を有するポリペプチド配列と定義する。そのような一対のポリペプチドは、例えば、ポリペプチドのうちの1つの特定の定義した長さにわたり、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%以上の配列同一性を示すことができる。
【0040】
本明細書で使用する場合、ポリペプチド配列に適用する場合の「配列同一性」は、Clustal V、MEGALIGNまたはBLAST等の標準化されたアルゴリズムを使用して整列させた、少なくとも2つのポリペプチド配列間における残基の一致のパーセントを指す。ポリペプチド配列のアラインメントの方法は、周知である。いくつかのアラインメントの方法は、保存的アミノ酸置換を考慮に入れる。本明細書に記載する、そのような保存的置換は、一般に、置換部位において電荷および疎水性を保存し、したがって、当該ポリペプチドの構造(したがって、機能)を保存する。
【0041】
本明細書で使用する場合、「TrkB受容体を活性化するのに有効な量」またはTrkBアゴニストに関する類似表現は、TrkB受容体アゴニスト投与前の活性化のベースラインレベルと比較して、(本明細書に記載し、当技術分野で既知である)TrkB受容体の活性化を増加させるのに十分な量を指す。活性化の増加は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、またはそれ以上であってよい。この量は、投与経路、TrkBアゴニストの体内半減期、TrkBアゴニストの溶解性、生物学的利用率、クリアランス速度およびその他の薬物動態学的特徴、動物または患者の体重および代謝等を考慮に入れる。また、TrkBアゴニストも参照されたい。
【0042】
本明細書で使用する場合、「治療を必要とする動物」または類似表現は、CNSが関与する自己免疫疾患を有するまたはそれを発症する危険を有する動物、好ましくは、ヒトを含めた哺乳動物を意味する。CNSに影響を及ぼす自己免疫性の疾患(または区別なく、障害)の例は、マウスにおける実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)、ヒトにおける多発性硬化症(MS)、およびその他の哺乳動物において見出される類似の自己免疫疾患である。また、CNSの自己免疫性の攻撃は、例えば、免疫拒絶、視神経症、炎症性腸疾患およびパーキンソン病においても観察される。
【0043】
本明細書で使用する場合、「天然に存在するTrkBアゴニスト」は、天然に存在し、TrkB受容体の活性化物質として機能する分子である。TrkB受容体の既知の天然に存在するアゴニストは、ニューロトロフィンであるNT4およびBDNFである。天然に存在するTrkBアゴニストは、変異型TrkB対立遺伝子を有する動物において発現したニューロトロフィンポリペプチド等、天然に存在する変異体分子を包含する。
【0044】
「単離抗体」は、本明細書で使用する場合、異なる抗原特異性を有するその他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことを意図する(例えば、TrkBに特異的に結合する、単離抗体は、TrkB以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかし、TrkBに特異的に結合する単離抗体は、他の種由来のTrkB分子等のその他の抗原に対する交差反応性を有する場合がある。さらに、単離抗体は、その他の細胞性物質および/または化学物質を実質的に含まない場合がある。
【0045】
「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、本明細書で使用する場合、単一の分子組成物である抗体分子調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す。
【0046】
一般的技術
本発明は、分子生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の分野において使用される従来の技術を利用する。そのような技術は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,second edition(Sambrookら、1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編、1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis編、1998)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney編、1987);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.MatherおよびP.E.Roberts、1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle、J.B.GriffithsおよびD.G.Newell編、1993−8)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.MillerおよびM.P.Calos編、1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubelら編、1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullisら編、1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coliganら編、1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons、1999);Immunobiology(C.A.JanewayおよびP.Travers、1997);Antibodies(P.Finch、1997);Antibodies:a practical approach(D.Catty編、IRL Press、1988−1989);Monoclonal antibodies:a practical approach(P.ShepherdおよびC.Dean編、Oxford University Press、2000);Using antibodies:a laboratory manual(E.HarlowおよびD.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press、1999);The Antibodies(M.ZanettiおよびJ.D.Capra編、Harwood Academic Publishers、1995)等の参照文献に記載されている。
【0047】
TrkBアゴニスト
本発明は、多発性硬化症および中枢神経系(CNS)に影響を及ぼすその他の自己免疫障害の治療のために、TrkBアゴニストを使用する方法を提供する。本発明の1つの特色によれば、TrkBアゴニストは、白血球のCNS組織への侵入を低下させる点およびCNSの下層神経細胞組織の破壊を低下させる点において有効であり、したがって、四肢麻痺等、こうした疾患の臨床所見を緩和する。具体的には、TrkBアゴニストは、単核球およびT細胞の遊走を低下させる。これらの細胞は、ミエリン抗原を提示する点およびミエリン抗原を産生する細胞に対して細胞傷害性の効果を与える点で活性がある。
【0048】
MSについて一般に認められている動物モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスを使用して、本発明を導いた観察がなされた。EAEは、ヒトにおけるMSと多くの臨床的および病理学的な特色を共有する実験的な疾患状態である。多くのFDAが承認したMSの療法は、最初に、マウスおよびラットにおけるEAEモデルに基づいて発見および開発された(SteinmanおよびZamvil、2006による総説)。EAEを、C57BL/6マウスにおいて、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)のペプチド35〜55を用いた免疫感作後に誘発することができる(Aharoni,R.ら、2005a)。MOGを用いた免疫感作は、ミエリンに特異的な自己免疫性反応を誘発し、これは、MSのものに類似する脱髄および病的状態を引き起こす。
【0049】
TrkBアゴニストを使用する動物実験
本発明の裏付けとして実施した実験では、TrkBアゴニストの直接的な投与が、CNSに特異的な自己免疫疾患を有する動物において、病的状態およびCNS組織の損傷を低下させることが示された(図1Aおよび1B)。天然に存在するTrkBアゴニストであるNT4の組換えの形態を、MOGによる誘発後のEAE動物に投与した(実施例5)。NT4を用いて治療した動物は、対照動物と比較して、有意に低下した病的状態を示した。この結果から、TrkBアゴニストの投与が、慢性EAEの進行の緩慢化において有効であることが実証された。さらなる実験からは、より早い時期の間に投与した場合、より遅い時期の間に投与した場合と比較して、症状の発症に関して、NT4によって与えられる保護は、(より良好ではないにしても)少なくとも同等に良好であり、TrkBアゴニストを用いた治療を、治療が有効となるように症状の発症時まで継続する必要がないことが示された(図1B)。TrkBの活性化は、EAEの誘発の比較的上流の段階を標的にしている可能性がある。
【0050】
実施例1〜4および6は、TrkBの生物学的活性を刺激する、すなわち、TrkBを活性化する(例えば、実施例6、ならびに表1および2)能力に基づいて、いくつかがTrkBアゴニストとして機能したTrkB抗体について記載する。抗体38B8を含めた、いくつかの抗体は、TrkBに対して特異的であり、アッセイしたその他の受容体チロシンキナーゼに対しては顕著な結合を示さなかった。抗体38B8は、何らかの交差反応性を示した、天然に存在するアゴニストであるBDNFおよびNT4よりも、TrkB受容体に対して、さらにより選択的であった。これらのリガンド−受容体の相互関係の動態解析を、実施例4および表2に提供する。
【0051】
動物実験からは、TrkBアゴニスト抗体が、対照の免疫グロブリンと比較して、EAEの病的状態に対して有意な保護をもたらすことが示された(図3、実施例7)。TrkBアゴニスト抗体は、MOGによる誘発16日後とまで遅れて投与した場合でも、臨床症状が発症した後で投与した場合でも有効であった(図4)。酢酸グラチラマー(GA)との比較から、TrkBアゴニストの作用機構が、GAおよびその他の現行のMS薬物の作用機構とは異なることが示唆された(図5)。その他の結果からは、TrkBアゴニストの有益な効果は、免疫抑制剤であるデキサメタゾンの効果に類似することが実証されている(図6Aおよび6B)。TrkBアゴニスト抗体の有益な効果は、用量依存性であった(図7Aおよび7B)。
【0052】
神経細胞生存アッセイを使用して、TrkBアゴニスト抗体が、天然に存在するTrkBアゴニストと一致する様式で神経細胞に影響を及ぼすことが実証された(実施例8)。TrkBアゴニスト抗体の増加する量を添加した結果、神経細胞の生存が増加した(図8)。神経細胞生存アッセイおよびヒトKIRAアッセイにおけるTrkBアゴニスト抗体である38B8、23B8、36D1および37D12のEC50値を、実施例1に記載し、その概要を表1に示す。
【0053】
(GAおよびデキサメタゾンを含めた)MSの治療用の現行の薬物は、免疫調節物質である。TrkBアゴニスト抗体は、抗MOG抗体の産生を抑制することによって機能するようには見えず、したがって、従来の免疫抑制剤としては機能しないと思われる(図9、実施例9)。さらに、TrkBアゴニスト抗体の存在は、脾細胞の刺激に対して、免疫抑制剤であるデキサメタゾンが示したような明らかな効果は何ら示さなかった(図10)。TrkBアゴニストを用いて治療した動物は、抗MOG性T細胞および/または抗MOG性B細胞の正常な応答をもたらす能力を保持する。これらの観察から、免疫抑制剤であるデキサメタゾンの作用機構は、TrkBアゴニストの作用機構とは異なること、およびTrkBアゴニストの主要な作用機構は、白血球増殖のレベルにおいてではないことが示唆される。
【0054】
TrkBアゴニストを用いて治療した動物から調製した切片において、組織学的解析により、白血球侵入の低下が示された。数匹のTrkBアゴニスト治療動物は、白血球のCNSへの侵入の証拠を全く示さなかった(図11)。侵入する細胞の同定を、CD3を発現するT細胞およびCD68を発現するマクロファージについて染色することによって実施した。TrkBアゴニスト治療動物由来の脊髄組織は、対照動物と比較した場合、T細胞および単核球の侵入のかなりの低下を示す(図12および13)。重度の脱髄の領域が、対照マウスにおいては明らかであったが、TrkBアゴニストを用いて治療したマウスにおいてはそうではなかった(図14)。CNS組織切片の組織化学的染色の結果から、TrkBアゴニストによる治療によって、リンパ球および単核球のCNSへの侵入が低下することが実証された。
【0055】
上記に記載した結果から、TrkBアゴニストは、白血球のCNSへの侵入を低下させ、MSについて一般的に認められている動物モデルであるEAEの進行を緩慢化させる点において有効であることが実証されている。天然に存在するTrkBアゴニストであるNT4およびTrkBアゴニスト抗体の両方は、疾患の進行の緩慢化において有効であった。当該アゴニスト抗体は、TrkBに対して最も大きな選択性を示し、これを、さらなる研究に使用した。TrkBアゴニストの有益な効果は、用量依存性であり、TrkBアゴニストの用量の増加に伴って病的状態が低下した。現行のMS薬物とは異なり、TrkBアゴニストは、主に免疫抑制を介して機能するものではない。組織化学的な実験により、TrkBアゴニストは、T細胞および単核球のCNS組織への侵入を低下させることが示された。
【0056】
CNS自己免疫障害のためのTrkBアゴニスト
何らかの理論に限定されることなく、TrkBアゴニストは、主として、白血球の遊走を調節することによって機能すると考えられている。MSにおいては、細胞性免疫が優勢である可能性があり、このことは、TrkBアゴニストを、液性免疫に影響を及ぼす現行の免疫抑制剤より有効な型の薬物となす。さらに、本方法は、現行の免疫抑制剤治療と組み合わせて、追加の治療効果をもたらすことができる。
【0057】
いくつかの自己免疫疾患または関連する疾患において、本発明のTrkBアゴニストを使用して、白血球のCNS組織への侵入を低下させることができる。EAEマウスは、MSのモデルであることに加えて、また、視神経炎を研究するためにも使用される。TrkBアゴニストは、全てのこれらの疾患、およびとりわけ白血球の侵入によって媒介されるその他の自己免疫障害において、免疫のCNSへの侵入を緩和することが予想される。疾患および障害という用語は、区別なく使用されていることに留意されたい。
【0058】
本発明の特色は、TrkBアゴニストの、自己免疫疾患に罹患している動物への直接的な投与である。本発明の好ましい実施形態を、ポリペプチドの観点から記載するが、本発明は、当該TrkBアゴニストのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの投与を包含し、このポリヌクレオチドは、体内において、コードするTrkBアゴニストの発現を導く。直接的なDNA注入および遺伝子療法の送達の方法は、当技術分野で既知である。GA等の薬物の投与によって誘発させる場合とは異なり、TrkBアゴニストのポリペプチドまたはそれらをコードするポリヌクレオチドを、動物に直接的に投与する。本発明はまた、天然に存在するTrkBアゴニストおよび/またはアゴニスト抗体と一致する様式でTrkBに結合し、これを活性化するペプチド模倣分子も包含する。
【0059】
本明細書に記載する方法により使用するための具体的なTrkBアゴニストを、以下に、さらに詳細に記載する。当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく、追加のTrkBアゴニストが明らかとなるであろう。
【0060】
天然に存在するTrkBアゴニストおよびそれらの誘導体
TrkBアゴニストは、これらに限定されないが、既知のTrkBアゴニストであるNT4およびBDNFを含めた、天然に存在するアゴニストのポリペプチドを包含する。NT4および/またはBDNFのポリペプチド配列は、得られるポリペプチドがTrkBに結合し、アゴニストとして機能するという条件で、対応するTrkB受容体と同一の種からであっても、または異なる種からであってもよい。
【0061】
TrkBアゴニストは、天然に存在するNT4および変異体NT4(すなわち、NT−4/5および類似名)を包含する。NT4ポリペプチドは、米国特許出願公開第2005/0209148号、第2003/0203383号および第2002/0045576号、ならびにPCT第WO2005/08240号に記載されている。NT4(すなわち、NT4/5)ポリペプチドは、いくつかの哺乳動物において同定されている。対象とするアミノ酸置換には、G77のK、H、QまたはRへの置換;およびR84のE、F、P、YまたはWへの置換がある。プロテアーゼ切断部位を除去して、NT4およびBDNFのポリペプチドの半減期を延長させてもよく、またはプロテアーゼ切断部位を付加して、それらの活性を制御してもよい。TrkBアゴニストを、PEG、IgGのFc領域、アルブミン、またはMyc、HA(赤血球凝集素)、His−6やFLAG等のペプチドもしくはエピトープ等の半減期延長部分にコンジュゲートまたは融合させることができる。
【0062】
また、BDNFポリペプチドも、いくつかの哺乳動物において同定されている(例えば、米国特許第5180820号および米国特許出願公開第2003/0203383号を参照されたい)。
【0063】
本発明の天然に存在するおよび変異体のNT4およびBDNFのポリペプチドは、それらのキメラ、変異体、断片(ペプチドを包含する)および/または誘導体を包含する。好ましい断片は、天然に存在するポリペプチドのTrkB結合部分、またはキメラ、コンセンサスもしくは変異型の同等な結合部分を包含する。断片は、合成ペプチドを包含する。変異体は、保存的および非保存的なアミノ酸の置換を有する、天然に存在するアミノ酸配列の変異体を包含する。
【0064】
保存的置換には、類似の大きさ、電荷または疎水性のアミノ酸残基が関与する。例えば、Alaは、Val、LeuまたはIleで置換してよい。Argは、Lys、GlnまたはAsnで置換してよい。Asnは、Gln、His、LysまたはArgで置換してよい。Aspは、Gluで置換してよい。Cysは、Serで置換してよい。Glnは、Asnで置換してよい。Gluは、Aspで置換してよい。Glyは、Proで置換してよい。Hisは、Asn、Gln、LysまたはArgで置換してよい。Ileは、Leu、Val、Met、Ala、Pheまたはノルロイシンで置換してよい。Leuは、ノルロイシン、Ile、Val、Met、AlaまたはPheで置換してよい。Lysは、Arg、GlnまたはAsnで置換してよい。Metは、Leu、PheまたはIleで置換してよい。Pheは、Leu、Val、IleまたはAlaで置換してよい。Proは、Glyで置換してよい。Serは、Thrで置換してよい。Thrは、Serで置換してよい。Trpは、Tyrで置換してよい。Tyrは、Trp、Phe、ThrまたはSerで置換してよい。Valは、Ile、Leu、Met、Phe、Alaまたはノルロイシンで置換してよい。
【0065】
機能の実質的な改変は、(a)置換領域におけるポリペプチド骨格の構造、例えば、シート状もしくはらせん状の高次構造を維持する、(b)標的部位における分子の電荷もしくは疎水性を維持する、または(c)側鎖のかさを維持することに対する置換の効果が顕著に異なる置換を選択することによって達成することができる。天然に存在する残基は、側鎖の共通の特性に基づいてグループに分けられる(これらのうちのいくつかは、複数の機能グループに属する場合がある):
(1)疎水性:Met、Ala、Val、Leu、Ile、ノルロイシン;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:Asn、Gln、His、Lys、Arg;
(5)芳香族性:Trp、Tyr、Phe;ならびに
(6)曲がりを誘発する残基:GlyおよびPro。
【0066】
非保存的置換では、1つのクラスのメンバーが、別のクラスのメンバーと交換されるか、前段落において保存的であると同定されていない置換が関与する。
【0067】
変異体は、得られるポリペプチドまたは誘導体がTrkBに結合し、アゴニストとして機能することを条件として、天然に存在するアミノ酸配列の変異体および遺伝子操作した変異体を含む。TrkBの活性化を測定するためのアッセイが、本明細書および引用する参照文献に記載されている。
【0068】
さらなる変異体は、NT3およびNGFを含めた、チロシン受容体キナーゼのTrkファミリーのその他の関連するリガンド由来の部分的なアミノ酸配列を有する、TrkBアゴニストのポリペプチドを含む。変異体は、コンセンサスTrkまたはコンセンサス受容体チロシンキナーゼ結合および/もしくは活性化配列を有するポリペプチドもさらに含む。
【0069】
その他の誘導体は、共有結合性および非共有結合性に修飾されたペプチドおよびポリペプチド(例えば、アセチル化、ペグ化、ファルネシル化、グリコシル化またはリン酸化されたポリペプチド)を含む。NT4の具体的なペグ化された形態およびその他の修飾された形態が、米国特許出願公開第2005/0209148号に記載されている。ポリペプチドは、追加の官能基を包含して、結合および/もしくは活性を調節し、体内での画像診断を可能にし、半減期を調節し、血液脳関門を越えての輸送を調節し、またはポリペプチドが特定の細胞型もしくは組織を標的にするのを援助することができる。ポリペプチドは、アミノ酸置換がポリペプチドのTrkBへの結合にも、アゴニストの活性にも実質的に影響を及ぼさないならば、アミノ酸置換を含んで、修飾(例えば、ペグ化部位、グリコシル化部位またはその他の部位の付加)を促進することができる。
【0070】
一般的な修飾は、ペグ化であり、生物学的活性の最小限の損失を伴って全身クリアランスを低下させる。ポリエチレングリコールポリマー(PEG)は、当技術分野で既知の方法を使用して、NT4およびBDNFのポリペプチド(ならびにTrkBアゴニスト抗体)の種々の官能基に連結させることができる(例えば、Robertsら(2002)、Advanced Drug Delivery Reviews 54:459−476;Sakaneら(1997)Pharm.Res.14:1085−91を参照されたい)。PEGは、例えば、アミノ基、カルボキシル基、修飾したまたは天然のN末端、アミン基およびチオール基に連結させることができる。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の表面アミノ酸残基を、PEG分子を用いて修飾する。PEG分子は、種々の大きさ(例えば、約2から40kDaの範囲)であってよい。NT4、BDNFまたはその他のポリペプチドに連結させるPEG分子は、約2000、10,000、15,000、20,000、25,000、30,000、35,000、40,000Daのいずれかの分子量を有してよい。PEG分子は、一本鎖であっても、または分枝鎖であってもよい。PEGをTrkBアゴニストのポリペプチドに連結させるためには、一方または両方の末端に官能基を有する、PEGの誘導体を使用することができる。官能基は、ポリペプチド上の利用可能な反応性の基の型に基づいて選ばれる。誘導体をポリペプチドに連結させる方法は、当技術分野で既知である。
【0071】
ペグ化されたNT4が、生成され、動物においてNT4として機能することが示されている(例えば、米国特許出願公開第2005/0209148号の実施例6および7、ならびにPCT第WO2005/082401号を参照されたい)。成熟したヒトNT4の50位のセリン残基をシステインに変化させて、NT4−S50Cを生成することができ、次いで、これをペグ化し、PEGを、50位のシステインに連結させる。PEGへのN末端に特異的な結合の1つの例が、1位の残基をセリンまたはスレオニンに変異させて、ペグ化を促進する場合である。類似の方法が、BDNFおよび本発明において使用するためのその他のポリペプチドに適用される。
【0072】
ポリペプチドまたはそれらの誘導体は、その他の分子に、直接的にまたは合成リンカーを介して連結させることができる。好ましいTrkBアゴニストのポリペプチド、それらの断片または誘導体は、それらの値が報告されている天然に存在するTrkBアゴニストと比較して、類似またはより良好な結合親和性、選択性および活性化を示す。アゴニストのポリペプチドの小さな部分は、「ペプチド」と呼ぶことができるが、この用語法は、限定的であると解釈されてはならない。
【0073】
好ましいTrkBアゴニストは、動態アッセイ、EAE動物モデル、KIRAアッセイおよび神経細胞生存アッセイを含めた、本明細書に記載するおびただしい数の実験およびアッセイにおいて、BDNFおよびNT4と比較して、類似の生物学的特性を示す。
【0074】
TrkB抗体アゴニストおよびそれらの誘導体
TrkBアゴニストは、アゴニスト抗体、それらの断片、変異体および誘導体を包含する。適切なアゴニスト抗体は、TrkBに対して選択的であり、天然に存在するNT4およびBDNFのポリペプチドに類似するまたはそれより大きな親和性で結合する。しかし、天然に存在するTrkBアゴニストと比較して、抗体の循環半減期が長いことから、結合親和性の重大性は低下する。抗体38B8の結合親和性は、46±10nMであると決定された(上記および実施例4を参照されたい)。好ましいTrkBアゴニスト抗体は、実施例4に記載する特定のアッセイ条件を使用する場合、100nM未満、10nM未満、1nM未満、100pM未満またはさらに10pM未満のKdを有する。
【0075】
好ましいTrkBアゴニストはまた、結合アッセイ、EAE動物モデル、KIRAアッセイおよび神経細胞生存アッセイを含めた、本明細書に記載するおびただしい数の実験およびアッセイにおいて、抗体38B8(および天然に存在するアゴニスト)と比較して、類似の生物学的特性を示す。例えば、好ましいTrkBアゴニストは、(表1を含めた)実施例1に記載する神経細胞生存アッセイにおいて、11pM未満のEC50値を示す。好ましいTrkBアゴニストは、約1pMから約10pMまで、約0.1pMから約1pMまで、約0.01pMから約0.1pMまで、またはさらに0.01pM未満のEC50値を有する。例示的なEC50値は、38B8の場合、0.2pMであり、36D1の場合、5pMである。好ましいTrkBアゴニストはまた、KIRAアッセイを使用する場合、抗体38B8と比較して、類似の生物学的特性を示す(表1を含めた、実施例1)。好ましいTrkBアゴニストは、KIRAアッセイにおいて、50nM未満、好ましくは、約5nMから50nM未満まで、約0.5nMから約5nMまで、またはさらに0.5nM未満のEC50値を有する。例示的なEC50値は、提供したアッセイ条件下では、約5nMである。
【0076】
TrkBアゴニスト抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、ハイブリッド抗体、コンセンサス抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体またはコンジュゲート抗体を包含する。抗体は、該当する場合、いずれかのアイソタイプ(すなわち、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)であってよい。抗体は、抗体断片(例えば、Fab抗体、Fab’抗体、F(ab’)2抗体、Fv抗体、Fc抗体および一本鎖(ScFv)抗体)を包含する。適切なTrkBアゴニスト抗体またはその機能性断片もしくは誘導体は、例えば、モノクローナル抗体アゴニスト38B8の場合、本明細書に記載する様式で、TrkBに結合し、それを活性化する。TrkBアゴニスト抗体は、抗体断片を包含し、これは、抗体に由来したアミノ酸配列を含むポリペプチドを包含する。特に重要なのは、CDR領域中のアミノ酸配列等の抗原認識に関与するアミノ酸配列である。
【0077】
モノクローナル抗体およびマウスのハイブリドーマの方法は、当技術分野では周知である。ヒトの治療のための非ヒト抗体の使用は、免疫抑制薬の併用により許容され得る。そのような薬物は、日常的に投与されて、MSならびにその他の自己免疫性および炎症性の疾患の症状を治療し、または低下させる。免疫調節薬は、当技術分野では既知であり、それには、糖質コルチコイド、細胞分裂阻害剤(例えば、アルキル化剤、抗代謝剤、メトトレキセート、アザチオプリンおよびメルカプトプリン)、細胞傷害性抗体(例えば、T細胞受容体抗体およびIL−2に特異的な抗体)、イムノフィリンに作用する薬物(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、ラパマイシン、RAPAMUNE、PROGRAFおよびFK506)、インターフェロン(例えば、IFN−β)、オピオイド、TNF結合性タンパク質(例えば、循環する受容体)、ミコフェノール酸、および外来の抗体または治療用抗原に対する動物の免疫応答を抑制するのに使用されるその他の生物学的薬剤を包含する。
【0078】
異なる種、例えば、マウスに由来するモノクローナル抗体をヒト化するための方法は、当技術分野では周知である。ヒトの治療のためには、ヒト抗体またはヒト化抗体が好ましい。ヒト化抗体は、最小限の数の非ヒトのアミノ酸配列を含み、したがって、ヒトにおいては、最低限に免疫原性、または非免疫原性となる。好ましいヒト化抗体は、ヒトの免疫系によって異物として認識されない。そのような抗体は、キメラの免疫グロブリン、免疫グロブリンの断片(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、または抗原結合のために必要なアミノ酸残基を含む、免疫グロブリン鎖のその他の部分)であってよく、抗原結合部位以外の大部分のアミノ酸配列は、ヒト免疫グロブリンに由来する。また、抗原結合が不利な影響を受けない限り、相補性決定領域(CDR)の内部のアミノ酸残基を、ヒトに特異的な残基で置換することもできる。
【0079】
ヒト抗体は、ヒト抗体のアミノ酸配列をもっぱらまたは実質的に含む抗体である。ヒト抗体はまた、少なくとも1つのヒトの重鎖のポリペプチドもしくは少なくとも1つのヒトの軽鎖のポリペプチド、またはそれらの相当の断片を含む抗体も包含し、別の動物由来の重鎖または軽鎖と場合により組み合わせる。そのような1つの例が、マウスの軽鎖のポリペプチドおよびヒトの重鎖のポリペプチドを含む抗体である。
【0080】
適切なTrkBアゴニスト抗体、それらの断片または誘導体は、遺伝子導入動物、(B細胞を含めた)哺乳動物細胞、トリ細胞、昆虫細胞、酵母または細菌中で発現または分泌させることができる。例えば、適切なヒト抗体を、完全にヒトまたは実質的にヒトの免疫グロブリンを産生することが可能な遺伝子導入動物(例えば、マウス)を免疫感作することによって生成することができる。抗体はまた、遺伝子シャッフリング、ファージディスプレイ、大腸菌ディスプレイ、リボゾームディスプレイ、mRNAディスプレイ、タンパク質断片コンプリメンテーションまたはRNA−ペプチドスクリーニングによって産生させてもよい。ヒト化抗体およびヒト抗体ならびにそれらの誘導体を設計および産生するための方法は、例えば、米国特許第7005504号、第6800738号、第6407213号、第6054297号、第6331415号および第5750373号(Genentech);米国特許第6833268号、第6207418号、第6114598号および第6075181号(Abgenix);米国特許第6498285号(Alexion);米国特許第7074557号、第5885793号、第5837242号、第5733743号、第5565332号(Cambridge Antibody Technology);米国特許第7118879号、第6979538号、第6326155号、第5994125号、第5837500号(Dyax);米国特許第6753136号、第6667150号、第6300064号、第5514548号(MorphoGen/Protein Design Labs);ならびに6,461,824、6,204,023、5,821,123、5,595,898、5,576,184、4,698,420(Xoma);米国特許第7041870号、第6680209号、第6500931号、第6111166号、第6096311号、第6071517号、第6063116号(Medarex);ならびに米国特許第4816397号(Celltech)に記載されている。ヒト抗体またはヒト化抗体を産生するための方法はまた、Vaughanら(1996)Nature Biotechnology 14:309−14;Sheetsら(1998)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 95:6157−6162;HoogenboomおよびWinter(1991)J.Mol.Biol.、227:381;Marksら(1991)J.Mol.Biol.、222:581;Coleら(1985)、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy(Alan R.Liss)p.77;ならびにBoernerら、1991、J.Immunol.、147(1):86−95にも記載されている。
【0081】
TrkBアゴニスト抗体は、共有結合または非共有結合によって修飾(例えば、アセチル化、ペグ化(例えば、実施例5を参照されたい)、ファルネシル化、グリコシル化、リン酸化等)することができ、追加の官能基を包含して、結合を調節し、アゴニスト活性を調節し、体内でのポリペプチドの画像診断を可能にし、ポリペプチドの半減期を調節し、または血液脳関門を越えての輸送を調節することができる。ポリペプチドは、アミノ酸置換がポリペプチド(複数のポリペプチド)のTrkBへの結合にも、アゴニストの活性にも実質的に影響を及ぼさないならば、アミノ酸置換を含んで、修飾(例えば、追加のペグ化部位、グリコシル化部位またはその他の部位の付加)を促進することができる。ポリペプチドまたはそれらの誘導体は、その他の分子に、直接的にまたは合成リンカーを介して連結させることができる。
【0082】
適切な抗体断片または誘導体は、本明細書および引用する参照文献に記載されているように、TrkBへの結合およびその活性化を媒介するアミノ酸残基を含む。抗体の特異性は、主として、軽鎖および重鎖のN−末端の付近に位置する相補性決定領域(CDR)または高頻度可変ループとして知られる、6つの小さなループ状領域中の残基によって決定される。軽鎖中のCDRは、一般に、アミノ酸残基の24と34との間(CDR1−L)、50〜56(CDR2−L)および89〜97(CDR3−L)にある。重鎖中のCDRは、一般に、アミノ酸残基の31と35bとの間(CDR1−H)、50〜65(CDR2−H)および95〜102(CDR3−H)にある。いくつかのCDRの長さは、その他のCDRよりも可変である。CDR1−Lは、長さが約10〜17残基相当変動し、一方、CDR3−Hは、長さが約4〜26残基相当変動する。その他のCDRは、かなり標準的な長さを有する。Padlan,E.A.ら(1995)FASEB.J.133−39。本発明において使用するための好ましいTrkBアゴニスト抗体断片は、CDRからまたはCDRの内部の重鎖および/もしくは軽鎖のドメイン由来のアミノ酸残基を含む。
【0083】
本発明と共に使用するための抗体は、上記に記載し、当技術分野で既知である保存的および非保存的なアミノ酸置換を有する、天然に存在するアミノ酸配列の変異体を包含する。
【0084】
好ましいTrkBアゴニスト抗体、それらの断片または誘導体は、天然に存在するTrkBアゴニストと比較して、類似またはより良好な結合親和性、選択性および活性化能を示す。アゴニストのポリペプチドの小さな部分は、「ペプチド」と呼ぶことができるが、この用語法は、限定的であると解釈されてはならない。
【0085】
TrkBアゴニストの製剤
TrkBアゴニストは、多発性硬化症等の中枢神経系に影響を及ぼす自己免疫疾患の治療用の医薬品の製造において使用することができる。このようにして、TrkBアゴニストを含む組成物を使用して、本明細書で定義する(ヒト患者を含めた)哺乳動物における疾患を治療することができる。TrkBアゴニストの組成物は、適切な薬学的に許容できる賦形剤をさらに含むことができ、これらの賦形剤は、当技術分野では既知である。一般に、TrkBアゴニストの組成物を、(例えば、腹腔内、静脈内、皮下、筋肉内等の)注射による投与のために製剤化するが、その他の投与形態も使用してよい。TrkBアゴニストは、水性、または植物油もしくはその他の類似の油、合成の脂肪族酸グリセリド、高級脂肪族酸のエステルやポリエチレングリコール等の非水性の溶媒中に、それらを、所望により、可溶化剤、等張化剤、懸濁剤、乳化剤、安定化剤および保存剤等の従来の添加剤と共に、溶解、懸濁または乳化させることによって、注射のための調製物に製剤化することができる。
【0086】
適切な担体、希釈剤および賦形剤は、当技術分野では周知であり、炭水化物、ろう、水に可溶性および/または膨潤性のポリマー、親水性または疎水性の材料、ゼラチン、油、溶媒、水ならびにその他等の材料を包含する。使用する具体的な担体、希釈剤または賦形剤は、本発明の化合物が適用される手段および目的によって異なる。一般に、安全な溶媒は、水等の無毒性の水性溶媒および水に可溶性または混和性であるその他の無毒性溶媒である。適切な水性溶媒は、水、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、PEG400、PEG300)等、およびそれらの混合物を包含する。製剤はまた、1つまたは複数の緩衝剤、安定化剤、界面活性剤、湿潤剤、滑沢剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤、抗酸化剤、遮光剤、流動促進剤、加工助剤、着色剤、甘味剤、矯臭剤、矯味剤およびその他の既知の添加剤を含めて、薬物(すなわち、本発明の化合物またはその医薬組成物)を、洗練された形で提供し、または薬学的な製品(すなわち、医薬品)の製造を支援することができる。製剤のうちのいくつかは、リポソーム等の担体を含めることができる。リポソームの調製物には、これらに限定されないが、サイトフェクチン(cytofectin)、多層ベシクルおよび単層ベシクルがある。非経口および経口の薬物送達のための賦形剤および製剤が、Remington、The Science and Practice of Pharmacy(2000)に記載されている。
【0087】
投与および投与量
本明細書に例示する投与スケジュールおよび治療用量は、動物の体重、TrkBアゴニストの血液中の半減期およびTrkBアゴニストの親和性等の要因に基づいた。好ましい投与スケジュールおよび用量は、投与と投与の間に、体内に治療量のTrkBアゴニストを維持する。(天然に存在するTrkBアゴニストを含めた)NTの有効用量の範囲が、本明細書、Daviesら(1993)およびその他の参照文献に例示されている。アゴニスト抗体の有効用量の範囲を、本明細書に例示し(例えば、EAE動物の場合、1〜10mg/kg)、類似のアゴニスト抗体の最適用量を決定するための開始点を提供する。
【0088】
本発明の裏付けとして実施した実験によって実証されたように(例えば、図1B、3および4を参照されたい)、疾患の経過の早期における「パルス治療」が、動物における病的状態を低下させるのに十分であるようである。治療に効力をもたせるために、TrkBアゴニストを継続して投与する必要がない場合がある。
【0089】
具体的な投与計画、すなわち、用量、時期および反復は、治療しようとするヒトまたは動物の年齢、状態および体重によって異なる。最初の投与計画は、動物実験から外挿することができる。TrkBアゴニストの投与の時期/頻度は、適用に際して、特定のTrkBアゴニストの循環半減期(または神経細胞組織中の半減期)、血液脳関門を通過するアゴニストの量、細胞中のアゴニストの半減期、毒性および副作用に基づかなければならない。
【0090】
本研究では、TrkBアゴニストの投与を、腹腔内(i.p.)注射により実施したが;その他の投与経路(例えば、静脈内、皮下、筋肉内)も有効であることが予想される。頭蓋内もしくは脊髄内への投与(またはCNSのその他の組織への投与)も有効である可能性がある。その他の投与経路は、特定のTrkBアゴニスト、その被覆、コンジュゲーションまたは特定の生物学的特性に応じて、適切である場合がある(例えば、経口、舌下、骨膜内、粘膜、経皮、関節内、膣、肛門、尿道内、経鼻、経耳、吸入による、送気、カテーテルによる、ボーラスとして、ステントまたはその他の埋込み型の装置の上、塞栓症用の組成物中、静脈内点滴中、パッチまたは溶解性薄膜の上等)。
【0091】
TrkBアゴニストを、好ましくは、適切な末梢経路を介して投与する。それにもかかわらず、数パーセントのアゴニストは、血液脳関門を横切り、中枢神経系細胞に送達され得ることを理解されたい。場合によっては、末梢から投与され、CNSに接近するTrkBアゴニストの量は、少量である(1%未満に過ぎない)。
【0092】
本発明の特色は、TrkBアゴニストの自己免疫疾患に罹患している哺乳動物対象への直接的な投与である。「直接的な」は、TrkBアゴニストのポリペプチドまたはそのようなポリペプチドの発現を導くことが可能なポリヌクレオチドを、標準的な接種経路によって動物に送達することを意味する。TrkBアゴニストは、糖質コルチコイド等の免疫抑制剤、細胞分裂阻害剤(例えば、アルキル化剤、抗代謝剤、メトトレキセート、アザチオプリンおよびメルカプトプリン)、細胞傷害性抗体(例えば、T細胞受容体抗体およびIL−2に特異的な抗体)、イムノフィリンに作用する薬物(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、ラパマイシン)、インターフェロン(例えば、IFN−β)、オピオイド、TNF結合性タンパク質(例えば、循環する受容体)、ミコフェノール酸、および外来の抗体または治療用抗原に対する動物の免疫応答を抑制するのに使用されるその他の生物学的薬剤を含めた、その他の薬学的な物質と組み合わせて動物に送達することができる。
【0093】
TrkBアゴニスト抗体の、天然に存在するTrkBアゴニストを上回る利点は、抗体が、循環するタンパク質−リガンドと比較して、比較的長い循環半減期を有する傾向を示す点である。例えば、天然に存在するアゴニストは、毎日投与する必要がある場合があるが、抗体は、週1回の投与を必要とするに過ぎない場合がある。別の利点は、抗体が、より高い結合親和性を有する傾向を示し、当該抗体のそれらの抗原に対する選択性が、細胞の受容体のそれらのタンパク質リガンドに対する選択性よりも高い点である。
【0094】
TrkBアゴニストを用いる治療は、多発性硬化症および関連する障害のための従来の治療と組み合わせることができる。多発性硬化症の治療および管理のための従来の薬物には、これらに限定されないが、ABC(すなわち、Avonex−Betaseron/Betaferon−Copaxone)治療(例えば、インターフェロンベータ1a(AVONEX、REBIF)、インターフェロンベータ1b(BETASERON、BETAFERON)および酢酸グラチラマー(COPAXONE));化学療法剤(例えば、ミトキサントロン(NOVANTRONE)、アザチオプリン(IMURAN)、シクロホスファミド(CYTOXAN、NEOSAR)、シクロスポリン(SANDIMMUNE)、メトトレキセートおよびクラドリビン(LEUSTATIN));副腎皮質ステロイドおよび副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)(例えば、メチルプレドニゾロン(DEPO−MEDROL、SOLU−MEDROL)、プレドニゾン(DELTASONE)、プレドニゾロン(DELTA−CORTEF)、デキサメタゾン(MEDROL、DECADRON)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)およびコルチコトロピン(ACTHAR));疼痛管理(感覚異常)(例えば、カルバマゼピン(TEGRETOL、EPITOL、ATRETOL、CARBATROL)、ガバペンチン(NEURONTIN)、トピラメート(TOPAMAX)、ゾニサミド(ZONEGRAN)、フェニトイン(DILANTIN)、デシプラミン(NORPRAMIN)、アミトリプチリン(ELAVIL)、イミプラミン(TOFRANIL、IMAVATE、JANIMINE)、ドキセピン(SINEQUAN、ADAPIN、TRIADAPIN、ZONALON)、プロトリプチリン(VIVACTIL)、カンナビスおよび合成カンナビノイド(MARINOL)、ペントキシフィリン(TRENTAL)、イブプロフェン(NEUROFEN)、アスピリン、アセトアミノフェンおよびヒドロキシジン(ATARAX));ならびにその他の治療(例えば、ナタリズマブ(ANTEGREN)、アレムツズマブ(CAMPATH−1H)、4−アミノピリジン(FAMPRIDINE)、3,4 ジアミノピリジン、エリプロディル、IVイムノグロビン(IV immunoglobin)(GAMMAGARD、GAMMAR−IV、GAMIMUNE N、IVEEGAM、PANGLOBULIN、SANDOGLOBULIN、VENOGLOBULIN)、プレガバリンおよびジコノチド)がある。
【0095】
キットオブパーツ
本発明はまた、本発明の方法を実行するための、キットオブパーツ(キット)も提供する。キットは、適切に単離および滅菌したTrkBアゴニストならびに本明細書に記載する本発明の方法のいずれかによる使用のための指示を包含する。一般に、これらの指示は、TrkBアゴニストの投与方法の説明を含む。キットは、治療を必要とする動物を同定するためおよび治療の有効性をモニターまたは測定するための指示をさらに含むこともできる。指示は、一般に、用量、投与スケジュール(投与頻度)および投与経路に関連する情報を包含する。キット中の指示は、書面で供給しても、またはデータファイルもしくはスプレッドシートの形態として機械/コンピュータが読取り可能にして供給してもよい。
【0096】
キットはまた、シリンジ、針、カテーテル、吸入器、ポンプ、アルコール消毒綿、ガーゼ、CNSの生検用の器具、組織学的な抗体および染色等を含めた、TrkBアゴニストを投与するための器具を含むこともできる。キットの構成成分は、必要に応じて滅菌する。キットはまた、これらに限定されないが、GAおよびデキサメタゾン等の免疫抑制剤を含めた、追加の医薬物質を提供することもできる。キットは、日付印、不正開封防止包装、および無線IC(RFID)タグまたはその他の商品管理機能を含んでよい。
【実施例】
【0097】
以下の実施例を、本発明をさらに例証するために提供する。当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく、本発明の追加の態様が明らかとなるであろう。
【0098】
(実施例1)
TrkBアゴニスト抗体の生成およびスクリーニング
モノクローナル抗TrkBアゴニスト抗体を生成するための免疫感作
Balb/Cマウスに、8μgのヒトTrkB細胞外ドメインを、抗原として規則的なスケジュールで5回注射した。ヒス−タグ化ヒトTrkB細胞外ドメイン(残基31〜430)を、293細胞中で、ベクターpTriEx−2 Hygro(Novagen製、Madison、ウィスコンシン州)を使用して発現させた。TrkB細胞外ドメインは、Ni−NTA樹脂を使用して製造者の指示により精製した(Qiagen製、Valencia、カリフォルニア州)。最初の4回の注射については、抗原を、ヒトTrkBをRIBIアジュバントシステムおよびミョウバンと混合することによって調製した。全量8μgの抗原を、首筋、足パッドへの注射およびIPによって、約3日毎に11日にわたって投与した。第13日に、マウスを安楽死させ、脾臓を取り出した。リンパ球を、8653細胞と融合させて、ハイブリドーマのクローンを作製した。クローンを増殖させ、次いでヒトおよびラットの両方のTrkBのELISAを用いるELISAによるスクリーニングによって、抗TrkB陽性として選択した。
【0099】
ELISAによる抗TrkB抗体のスクリーニング:
増殖中のハイブリドーマのクローンからの上清を、ヒトおよびラットの両方のTrkBに結合する能力についてスクリーニングした。アッセイは、0.5μg/mlのラットまたはヒトのTrkB−Fc融合タンパク質100μlを用いて一晩コートした96ウエルプレートを用いて実施した。過剰な試薬を、ウエルから、各ステップの間に0.05%Tween−20を含有するPBSを用いて洗浄した。次いで、プレートを、0.5%BSAを含有するリン酸緩衝溶液(PBS)を用いてブロッキングした。上清を、プレートに添加し、室温で2時間インキュベートした。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートヤギ抗マウスFcを添加して、TrkBに結合しているマウス抗体に結合させた。次いで、テトラメチルベンジジンを、HRPの基質として添加して、上清中に存在するマウス抗体の量を検出した。反応を停止し、抗体の相対的な量を、450nmにおける吸光度を読み取ることによって定量化した。50個の抗体が、ELISAアッセイにおいては、陽性を示した。これらの抗体のうち、5個をさらに試験し、これらが、アゴニスト活性を有することを示した。以下の表2を参照されたい。
【0100】
KIRAアッセイ:
このアッセイを使用して、ELISAにおいて受容体チロシンキナーゼの活性化を誘発する能力について陽性であることが見出された抗体を、ヒトTrkBについてスクリーニングした。Sadickら(1997)Experimental Cell Research 234:354−61。gDタグ化ヒトTrkBをトランスフェクトした安定な細胞系統を活用して、ハイブリドーマのクローンから精製したマウス抗体を、天然のリガンドであるBDNFおよびNT−4/5の場合に見られる活性化に類似する、細胞表面上の受容体を活性化する能力について試験した。天然のリガンドは、TrkB受容体のキナーゼドメインの自己リン酸化を誘発した。細胞を、抗体の種々の濃度に暴露した後、溶解させ、ELISAを実施して、TrkB受容体のリン酸化を検出した。EC50(以下の表2および図10に示す)を、それぞれの推定上のTrkBアゴニストについて決定し、天然のリガンドであるNT−4/5のEC50と比較した。
【0101】
E15の結節神経細胞生存アッセイ:
E15胚から得た下神経節の神経細胞を、BDNFにより支持し、それによって、神経栄養因子の飽和濃度では、生存は、培養48時間まで、100%に近かった。BDNFの非存在下では、5%未満の神経細胞が、48時間まで生存した。したがって、E15の結節神経細胞の生存は、抗TrkB抗体のアゴニスト活性を評価するための敏感なアッセイであり、すなわち、アゴニスト抗体は、E15の結節神経細胞の生存を促す。
【0102】
時期を定めて交尾させ、妊娠させたSwiss Websterマウス、雌を、CO2の吸入により安楽死させた。子宮角を取り出し、胎生期E15の胚を抽出した。下神経節を、解体し、次いで、トリプシン処理し、機械的に解離させ、ポリ−L−オルニチンおよびラミニンを用いてコートした96ウエルプレート中で、規定された無血清培地中に、1ウエル当たり200〜300個の細胞密度で蒔いた。抗TrkB抗体のアゴニスト活性を、ヒトBDNFを基準にして、用量−応答に関して、三つ組みで評価した。培養48時間後、細胞を、Biomek FX液体取扱いワークステーション(Beckman Coulter製)上で実施する自動化された免疫細胞化学プロトコールに供した。プロトコールは、固定化(4%ホルムアルデヒド、5%スクロース、PBS)、透過処理(PBS中の0.3%Triton X−100)、非特異的結合部位のブロッキング(5%正常ヤギ血清、0.1%BSA、PBS)、ならびに神経細胞を検出するための一次抗体および二次抗体を用いた逐次的なインキュベーションを包含した。確立された神経細胞の表現型マーカーであるタンパク質遺伝子産物9.5(PGP9.5、Chemicon製)に対するウサギポリクローナル抗体を、一次抗体として使用した。Alexa Fluor488ヤギ抗ウサギ(Molecular Probes製)を、二次試薬として、核染色素Hoechst33342(Molecular Probes製)と共に使用して、培養物中に存在する全ての細胞核を標識した。画像収集および画像解析を、Discovery−1/GenII Imager(Universal Imaging Corporation製)上で実施した。画像を、Alexa Fluor488およびHoechst33342のための2つの波長において自動的に収集し、核染色を基準点として使用した。これは、核染色は、このImagerの、画像に基づいた自動焦点系に対して、全てのウエル中に存在するからである。適切な対象および1ウエル当たりの撮像部位数を選択して、各ウエルの全表面を網羅した。画像解析を自動化して、培養48時間後に、各ウエル中に存在する神経細胞の数を、抗PGP9.5抗体を用いる、神経細胞に特異的な染色に基づいて計数した。画像の注意深い閾値化および形態学の適用および蛍光強度に基づいた選択性フィルターによって、1ウエル当たりの神経細胞の正確な数値を得た。EC50(以下の表1および図8に示す)を、それぞれの推定上のTrkBアゴニスト抗体について決定し、天然のリガンドのEC50と比較した。
【0103】
以下の表は、5つの同定した抗TrkB抗体、ならびにマウス神経細胞の生存に対するそれらの活性およびヒトTrkBに対するリン酸化活性を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
抗TrkBアゴニスト抗体のマウスへの頭蓋内注射:
退役させたC57B6繁殖用マウス、雄(8〜12月齢)を、Charles River Laboratories(Hollister施設)から得、温度/湿度を制御した環境中、12時間の明/暗サイクルで、飼料および水に自由に接近させて、注射まで少なくとも5日間順応させた。各マウスを、イソフルランを用いて麻酔し、頭蓋骨上の体毛のセクションを刈り込んだ。マウスを、定位固定用外科機器(Kopfモデル900)上に固定し、麻酔し、中位に設定した電気加熱用パッドを用いて暖かく保った。Betadineを、頭蓋骨のせん毛した部分上に擦り込んで、当該領域を滅菌した。頭蓋上、耳の直後から開始して目に向けて、長さ約1cmと小さく、正中長軸方向に切開した。頭蓋骨を露出させ、頭蓋骨表面の直径約1cmの円形部分を、綿棒を用いて浄化して、いずれの結合組織も除去した。表面は、30%過酸化水素中に浸漬した綿棒を用いて浄化して、十字縫合を露出させた。ドリルの先端部をプローブとして使用して頭蓋骨の深さを測定して、ドリルで穴を開ける前に頭蓋が水平であることを確実にするために、頭蓋を水平方向および垂直方向に加減した。0.5mm外側に比較して0.5mm内側から、および0.5mm後側に比較して0.5mm前側からの深さの偏位(十字縫合において、ゼロとする)を、±0.05mm以内の差に最小化した。マウスの脳の図譜(Franklin,K.B.J.およびPaxinos,G.、The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates.Academic Press、San Diego、1997)によれば、外側視床下部内への単回注射の座標は、以下のごとくである:十字縫合から1.30mm後側;正中線から−0.5mm;深さ、(十字縫合において)頭蓋骨表面から5.70mm。小さな穴を、頭蓋骨を通して、脳との接触を回避しながらドリルで開けた。ドリルを、Hamiltonシリンジ(モデル84851)に取り付けた斜めになった26ゲージ針で置き換え、これを、同一の座標に戻した。2μlの化合物を、外側視床下部内に、2分にわたって徐々に注射した。針を、注射後30秒間この位置に維持し、次いで、1mm上昇させた。さらなる30秒後に、針を、さらに1mm上昇させた。30秒後には、針を、完全に取り出した。次いで、切開を、閉鎖して、2〜9mmの創傷クリップ(Autoclip、Braintree Scientific,Inc.製)を用いて一緒に保持した。注射は、第0日に実施した。体重および試料の摂取を第15日まで毎日モニターした。
【0106】
表1(上記)に示すように、抗体38B8および抗体36D1の特定の用量における頭蓋内注射は、マウスにおいて、体重および飼料の摂取を顕著に減少させた。特定の用量で投与した対照のIgG抗体および23B8は、飼料の摂取に対しても、体重に対しても、いずれも顕著に影響を及ぼすことはなかった。抗体38B8を産生するマウスハイブリドーマ株は、2007年11月21日、the American Type Culture Collection、10801 University Boulevard、Manassas、バージニア州、20110−2209に寄託され、これには、ATCC寄託番号PTA−8766が割り当てられた。
【0107】
(実施例2)
TrkBアゴニストの同定
TrkBアゴニスト(抗体等)は、以下の方法のうちの1つまたは複数を含めた、当技術分野で認識されている方法を使用して同定することができる。例えば、米国特許第5766863号および第5891650号に記載されているキナーゼ受容体活性化(KIRA)アッセイを使用することができる。このELISA型のアッセイは、受容体タンパク質チロシンキナーゼ(rPTK、例えば、Trk受容体)のキナーゼドメインの自己リン酸化を測定することにより、キナーゼ活性化の定性的または定量的な測定に適しており、選択したrPTKの有望なアゴニストまたはアンタゴニストの同定および特徴付けにも適している。アッセイの第1段階では、キナーゼ受容体、本件では、TrkB受容体のキナーゼドメインのリン酸化が関与し、当該受容体は、真核細胞の細胞膜中に存在する。受容体は、内因性の受容体もしくは当該受容体をコードする核酸であっても、または受容体構築物を細胞中に形質転換してもよい。典型的には、第1の固相(例えば、第1アッセイのプレートのウエル)を、そのような細胞の実質的に均一な集団(通常、哺乳動物細胞系統)を用いてコートし、それによって、当該細胞を固相に接着させる。しばしば、細胞は、接着性であり、したがって、第1の固相に自然に接着する。「受容体構築物」を使用する場合、これは通常、キナーゼ受容体とflagポリペプチドとの融合体を含む。flagポリペプチドは、アッセイのELISA部分において、捕捉剤、しばしば、捕捉抗体によって認識される。次いで、候補アゴニスト等の分析対象を、接着細胞を有するウエルに添加し、それによって、チロシンキナーゼ受容体(例えば、TrkB受容体)を、分析対象に暴露(または接触)させる。このアッセイにより、対象とするチロシンキナーゼ受容体(例えば、TrkB)に対するアゴニストリガンドの同定が可能となる。分析対象に対する暴露に続いて、接着している細胞を、(その中に可溶化用界面活性剤を有する)溶解用緩衝液を使用して可溶化させ、穏やかに撹拌し、それによって、細胞可溶化液を放出させ、これは、細胞可溶化液の濃縮または清澄化の必要性なしで、アッセイのELISA部分に直接供することができる。
【0108】
次いで、こうして調製した細胞可溶化液は、アッセイのELISA段階に供する準備ができている。ELISA段階の第1のステップとして、第2の固相(通常、ELISA用マイクロタイタープレートのウエル)を、チロシンキナーゼ受容体に、または受容体構築物の場合、flagポリペプチドに特異的に結合する捕捉剤(しばしば、捕捉抗体)を用いてコートする。第2の固相のコーティングを実施し、それによって、捕捉剤を第2の固相に接着させる。捕捉剤は、一般的には、モノクローナル抗体であるが、また、本明細書の実施例に記載するように、ポリクローナル抗体またはその他の薬剤も使用してよい。次いで、得られた細胞可溶化液を、接着している捕捉剤に暴露または接触させ、それによって、受容体または受容体構築物を、第2の固相に接着させる(または第2の固相中に捕捉する)。次いで、洗浄ステップを実施し、それにより、未結合の細胞可溶化液を除去して、捕捉した受容体または受容体構築物を残す。次いで、接着しているまたは捕捉した受容体または受容体構築物を、チロシンキナーゼ受容体中のリン酸化されたチロシン残基を同定する抗リン酸化チロシン抗体に暴露または接触させる。好ましい実施形態では、抗リン酸化チロシン抗体を、非放射性の発色試薬の色の変化を触媒する酵素に(直接的または間接的に)コンジュゲートさせる。したがって、受容体のリン酸化を、それに続く試薬の色の変化によって測定することができる。酵素を、抗リン酸化チロシン抗体に直接結合させてもよく、またはコンジュゲートする分子(例えば、ビオチン)を、抗リン酸化チロシン抗体にコンジュゲートさせてもよく、それに続いて、酵素を、コンジュゲートする分子を介して、抗リン酸化チロシン抗体に結合させることができる。最後に、抗リン酸化チロシン抗体の、捕捉した受容体または受容体構築物に対する結合を、例えば、発色試薬の色の変化によって測定する。
【0109】
最初の同定に続いて、候補(例えば、抗TrkBモノクローナル抗体)のアゴニスト活性を、標的とする生物学的活性を試験することが知られているバイオアッセイによりさらに確認および精密化することができる。例えば、TrkBをアゴナイズする候補の能力を、完全長のTrkBをトランスフェクトしたPC12細胞を使用する、PC12神経突起伸長アッセイにおいて試験することができる(Jianら、Cell Signal.8:365−70、1996)。このアッセイは、神経突起の伸長過程を、適切なリガンドによる刺激に対して応答するラット褐色細胞腫細胞(PC12)によって測定する。これらの細胞は、内因性のTrkAを発現し、したがって、NGFに対して応答性である。しかし、これらの細胞は、内因性のTrkBを発現せず、したがって、TrkBアゴニストに対する応答を惹起するために、TrkB発現構築物をトランスフェクトする。トランスフェクトした細胞を候補と共にインキュベートした後、神経突起の伸長を測定し、例えば、当該細胞の直径の2倍超の神経突起を有する細胞を計数する。トランスフェクトしたPC12細胞において神経突起の伸長を刺激する候補(抗TrkB抗体等)は、TrkBアゴニスト活性を示す。
【0110】
TrkBの活性化はまた、胚の発達の特異的な段階における種々の特異的な神経細胞を使用することによっても決定することができる。適切に選択した神経細胞の生存は、TrkBの活性化に依存し得、したがって、これらの神経細胞のin vitroにおける生存を追跡することによって、TrkBの活性化を決定することが可能である。適切な神経細胞の一次培養物へ候補を添加すると、当該候補が、TrkBを活性化する場合には、これらの神経細胞を少なくとも数日の期間にわたって生存させる。これによって、候補(抗TrkB抗体等)の、TrkBを活性化する能力の決定が可能になる。この型のアッセイの1つの例では、マウスE15胚由来の下神経節を解体し、解離させ、得られた神経細胞を、組織培養皿中に低い密度で蒔く。次いで、候補の抗体を培地に添加し、プレートを24〜48時間インキュベートする。この時間の後、神経細胞の生存を、多様な方法のいずれかによって査定する。アゴニストを投与した試料は、典型的には、対照の抗体を投与した試料を上回る生存率の増加を示し、これによって、アゴニストの存在の決定が可能となる。例えば、Buchmanら(1993)Development 118(3):989−1001を参照されたい。
【0111】
TrkBアゴニストは、TrkBを自然にまたはTrkBをコードするDNAをトランスフェクトした後にのいずれかの場合発現する多様な細胞型における下流のシグナル伝達を活性化する能力によって同定することができる。このTrkBは、ヒトまたはその他の哺乳動物(げっ歯類もしくは霊長類等)のTrkBであってよい。下流のシグナル伝達カスケードは、タンパク質に関しては、タンパク質の発現レベルもしくはタンパク質のリン酸化レベル、または細胞に関しては、代謝状態もしくは増殖状態の変化(本明細書に記載するように、神経細胞の生存および/もしくは神経節の伸長を包含する)等、TrkB発現細胞の多様な生化学的または生理学的なパラメータの変化によって検出することができる。関連する生化学的または生理学的なパラメータを検出する方法は、当技術分野では既知である。
【0112】
(実施例3)
抗体の結合親和性の決定
TrkBに対する抗体の結合親和性の決定は、抗体の単機能性のFab断片の結合親和性を測定することによって実施することができる。単機能性のFab断片を得るためには、抗体(例えば、IgG)を、パパインを用いて切断するか、組換えにより発現させるかすることができる。抗体の抗TrkBのFab断片の親和性は、表面プラズモン共鳴(BlAcore3000(商標)表面プラズモン共鳴(SPR)システム、BIAcore,INC製、Piscaway、ニュージャージ州)によって決定することができる。CM5チップを、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイニドヒドロクロリド(EDC)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を用いて、供給者の指示に従って活性化することができる。ヒトTrkB−Fc融合タンパク質(「hTrkB」)(またはラットTrkB等のいずれかのその他のTrkB)を10mM酢酸ナトリウム、pH5.0中に希釈して、活性化したチップの上に、0.0005mg/mlの濃度で注入することができる。個々のチップの経路にわたり可変のフロー時間を使用して、2つの範囲の抗原密度を達成することができる:詳細な動態研究のための200〜400反応単位(RU)、およびスクリーニングアッセイのための500〜1000RU。チップを、エタノールアミンを用いてブロッキングすることができる。再生研究から、Pierce製溶出用緩衝液(製品番号21004、Pierce Biotechnology、Rockford、イリノイ州)と4M NaClとの混合物(2:1)が、結合したFabを有効に除去し、一方、hTrkB活性を、チップ上に200回超の注入にわたり維持することが示されている。HBS−EP緩衝液(0.01M HEPES、pH7.4、0.15 NaCl、3mM EDTA、0.005% Surfactant P29)を、BIAcoreアッセイのための実行用緩衝液として使用する。精製したFab試料の段階希釈液(0.1〜10×推定KD)を、100μl/分で1分間注入し、最長2時間にわたり解離させる。Fabタンパク質の濃度を、(アミノ酸解析によって決定した)既知の濃度のFabを標準として使用して、ELISAおよび/またはSDS−PAGE電気泳動により決定する。(一般に、25°Cにおいて測定する)動態学的な結合速度(kon)および解離速度(koff)を、BIAevaluationプログラムを使用して、データを、1:1 Langmuir結合モデル(Karlsson,R.Roos、H.Fagerstam、L.Petersson,B.(1994).Methods Enzymology 6:99−110)にフィットさせることによって同時に得る。平衡解離定数(KD)の値を、koff/konとして計算する。
【0113】
(実施例4)
Biacoreにより測定したリガンド/受容体の相互作用の動態解析
一般的な方法:
相互作用解析を、CM5センサーチップを備えたBiacore3000機器(Biacore AB製、Uppsala、スウェーデン)を使用して、25℃において実施した。(受容体を固定化するのに使用する)HBS−EP実行用緩衝液は、Biacoreから、アミンのカップリング試薬(NHS、EDC、酢酸塩、pH4.5およびエタノールアミン)と共に購入した。Fc融合組換えヒト受容体(TrkA、TrkB、TrkCおよびP75)、ならびに自然のリガンド(NGF、BDNF、NT4/5およびNT3)は、R&D systemsから購入するまたは社内で調製するのいずれかであった。
【0114】
受容体の固定化:
受容体(1チップ当たり3つ)を、CM5センサーチップ上に、低いレベル(典型的には、500RUまたは4fmol/mm2)で固定化し、(1チップ当たり)1つのフローセルは、改変せずに残して、参照表面として供した。標準的なアミンのカップリングのプロトコールを、HBS−EP実行用緩衝液中、5μl/分で使用し、このプロトコールには、3つのステップが関与した。手短にいうと、このプロトコールには、3つのステップが関与した。最初に、フローセルを、50mM NHS中に新たに調製した200mM EDCの混合物を7分間注入して活性化した;このステップは、チップのカルボン酸基を反応性のエステルに変換した。次に、受容体を、pH4.5の10mM酢酸ナトリウム緩衝液中で約10μg/mLに希釈し、所望のレベルを達成するまでチップにカップリングさせた。最後に、過剰の反応性エステルを、1Mのナトリウムエタノールアミン−HCl(pH8.5)を7分間注入してブロッキングした。
【0115】
リガンド解析:
リガンド(NGF、BDNF、NT4/5およびNT3)を、実行用緩衝液(10mM Hepes(pH7.4)、150mM(NH4)2SO4、1.5mM CaCl2、1mM EGTA、および0.005%(v/v)Tween−20)中で5倍ずつ段階希釈して、0.08〜250nMに及ぶ濃度を得た。抗体200.38B8(38B8)のFab断片を、0.7から480nMまで3倍ずつ希釈した。試料を、100μl/分で30秒間注入し、最長10分にわたり解離させた。各結合サイクル後には、受容体表面を、弱酸性のカクテル(10mMグリシン−HCl(pH4.0)、500mM NaClおよび20mM EDTA)を用いて再生させた。注入を2回繰り返すことによって、当該アッセイには再現性があることを確認した。動態学的速度定数(konおよびkoff)を、結合のデータを物質輸送モデルに包括的にフィットさせることによって決定し、結合親和性を、それらの比、すなわち、KD=koff/konから計算した。
【0116】
結果:
パネル中の大部分のリガンド/受容体の相互作用は、迅速な、拡散に制限されるon速度によって特徴付けられ、これらの速度は、Biacoreの分解能(kon、約1×107 1/M・秒)を超えるものであった。顕著な例外は、ProNGFであり、これは、典型的には、緩慢なon速度を示した。off速度は、より可変であり、例えば、ProNGFまたは成熟NGFのTrkAとの相互作用は、非常に緩慢なoff速度(T1/2>1時間)を有し、一方、NT3/TrkAの相互作用は、数秒以内に減衰した(T1/2=9秒)。38B8−Fab/TrkBの相互作用は、二相性のoff速度を有し、この場合、最初の相の減衰のみがモデルに適合した。二量体リガンドが、隣接する受容体分子間で、分子相互にcis架橋することができないように、受容体の間に(平均的して)十分に広い間隔をあけるために、受容体を、チップ上に低いレベルでコートした。立体的な制約の故に、二量体リガンドが、Fc融合受容体分子の2つの腕の間で分子内架橋し得る可能性は低い。リガンドに、それらの2つの利用可能な結合部位のうちの1つのみを介して結合するのを強いる条件を促すことによって、親和力の課題が最少化され、我々のデータを単純な1:1の結合モデルにフィットさせることが妥当に感じられる。
【0117】
【表2】
【0118】
(実施例5)
TrkBアゴニストの直接的な投与により、動物における病的状態が低下する
本発明の裏付けとして実施した実験では、TrkBアゴニストの直接的な投与が、CNSに特異的な自己免疫疾患を有する動物において、病的状態およびCNS組織の損傷を低下させることが示された(図1Aおよび1B)。天然に存在するTrkBアゴニストであるNT4の組換えの形態を、米国特許出願公開第2005/0209148号の記載に従って産生し、MOGによる誘発後のC57BL/6マウス、雌に投与した(第0日)。
【0119】
動物に、NT4を、MOGによる誘発後第10日から毎日投与した(10mg/kg、n=8)(図1A)。対照動物には、ビヒクルを投与した(n=8)。動物を、病的状態について、以下のようにスコア化した:0=正常;1=尾を引きずる;2=中等度の後肢の衰弱;3=中等度に重度の後肢の衰弱(動物は依然として歩行することができるが、困難が伴う);4=重度の後肢の衰弱(動物は後肢を動かすことができるが、歩行することはできない);5=完全な後肢の麻痺;および6=死亡。NT4を用いて治療した動物は、対照動物と比較して、有意に低下した病的状態を示した。この結果から、TrkBアゴニストが、慢性EAEの進行の緩慢化において有効であることが実証された。
【0120】
図1Bは、MOGによる誘発後の異なる時期の間に、NT4を用いて毎日治療した動物の病的状態を示す。動物を、対照であるIgGを用いて(n=9)、第3日から第9日までNT4を用いて(n=8)、または第9日から第15日までNT4を用いて(n=8)のいずれかで治療した。両方の投与スケジュールが、動物の病的状態を低下させる点において有効であった。より早い時期の間に投与した場合(すなわち、早期の「パルス治療」)、より遅い時期の間に投与した場合と比較して、NT4によって与えられる保護は、(より良好ではないにしても)少なくとも同等に良好である。これらの結果から、TrkBアゴニストを用いた治療を、治療が有効となるように、症状の発症時まで継続する必要がないことが示されている。TrkBの活性化は、EAEの誘発の比較的上流の段階を標的にしている可能性がある。
【0121】
(実施例6)
高選択性TrkBアゴニスト抗体の同定
TrkBアゴニスト抗体の同定を導いた実験および観察は、実施例1〜4に記載されている。それらの抗体のうちの1つ、すなわち、抗体38B8のさらなる特徴付けから、当該抗体は、TrkBに対しては極めて選択的であり、一方、TrkA、TrkCまたはp75に対しては通常の結合性を示すことが明らかになった(図2)。38B8のFab断片の、TrkA、TrkB、TrkCおよびp75に対する相対的な親和性を、天然に存在するアゴニストであるNGF、BDNFおよびNT4の相対的な親和性と比較した。図2中の各パネルは、相対的な結合対時間を示すグラフである。抗体38B8は、TrkBに対して特異的であり、アッセイしたその他の受容体チロシンキナーゼに対しては顕著な結合を示さなかった。38B8は、何らかの交差反応性を示した、天然に存在するアゴニストであるBDNFおよびNT4よりも、TrkBに対して、さらにより選択的であった。予想されたように、NGFは、TrkBに対する結合性はほとんど示さず、TrkAおよびp75ニューロトロフィン受容体に優先的に結合した。38B8の結合親和性は、46±10nMであると決定された。(Kon、KoffおよびKdのデータを含めた)これらのリガンド−受容体の相互作用の動態解析を、実施例4、詳細には、表2に提供する。
【0122】
BDNFおよびNT4は、TrkBに対して、38B8抗体アゴニストよりも高い親和性を有するようである。しかし、結合実験は、天然に存在するリガンドの二量体の形態および38B8のFabの単量体の形態を用いて実施された。さらに、抗体は、一般に、増殖因子よりも、はるかに長い循環半減期を有し、このことは、抗体が、それらの標的の受容体に対してより低い結合親和性を有するにもかかわらず、有効であることを可能にする。このTrkBアゴニスト抗体を、さらなる研究に使用した。
【0123】
(実施例7)
TrkBアゴニスト抗体は、自己免疫疾患における病的状態を低下させる点において有効である
動物実験から、TrkBアゴニスト抗体は、対照の免疫グロブリンと比較して、EAEの病的状態に対して有意な保護をもたらすことが示された(図3)。MOGによる誘発後、マウスを、5mg/kgのアゴニスト抗体(38B8、n=9)または対照のIgG(n=9)のいずれかを用いて治療した。これらを、第9日および第16日に投与した。TrkBアゴニスト抗体はまた、MOGによる誘発16日後とまで遅れて投与した場合でも、臨床症状が発症した後で投与した場合でも有効であった(図4)。より遅い投与、例えば、誘発18日後の場合には、病的状態の低下における有効性が低減した(図5A)。より遅い治療後の臨床症状の差は、2要因の分散分析に基づくと有意ではなかった。
【0124】
他の動物において、MOGによる誘発22日後の酢酸グラチラマー(GA、COPAXONE、TYSABRI)の投与は、病的状態の低下において有効であった(図5B)。これらの結果から、TrkBアゴニストの作用機構が、GAおよびその他の現行のMS薬物の作用機構とは異なることが示唆される。
【0125】
TrkBアゴニスト抗体を、MSの治療用の別の現行の薬物であるデキサメタゾンと比較した。図6Aは、TrkBアゴニスト抗体38B8(5mg/kg、第9日および第16日に週1回)の投与後、またはデキサメタゾン(4mg/kg)もしくはエタノールビヒクル(対照)の第3日から第12日までの毎日投与後のいずれかの場合の動物における病的状態を示すグラフを図示する。これらの結果からは、TrkBアゴニストの有益な効果は、免疫抑制剤であるデキサメタゾンの効果に類似することが実証されている。TrkBアゴニスト治療動物は、対照動物と比較して体重が減少する傾向を示した(図6B)。
【0126】
TrkBアゴニスト抗体の有益な効果は、用量依存性であった。図7Aおよび7Bに、1mg/kg(n=8)もしくは5mg/kg(n=9)の38B8投与後の動物の病的状態の差、または5mg/kg(n=10)および10mg/kg(n=9)の38B8投与後の動物の病的状態の差を示す。これらの結果から、5mg/kgのアゴニスト抗体は、1mg/kgよりも、病的状態に対するより多くの保護(すなわち、病的状態の低下)をもたらし、一方、10mg/kgは、5mg/kgと比較して、病的状態をさらに低下させることが実証された。保護の増加は、より高い用量においては、それほど顕著ではなく、このことは、TrkBアゴニストの追加の投与には、わずかな治療価値しかないことを示唆した。
【0127】
(実施例8)
TrkBアゴニスト抗体およびNTは、培養物中の神経細胞を保護する
in vitroにおける神経細胞生存アッセイを使用して、NTが、神経細胞の生存を促すことが示されている(Davies,A.ら(1993)Neuron 11565−74)。類似のアッセイを使用して、TrkBアゴニスト抗体が、神経細胞に、天然に存在するTrkBアゴニストと一致する様式で影響を及ぼすことを実証した(実施例1を参照されたい)。対照の(すなわち、神経栄養因子を欠く)培養物においては、事実上全ての神経細胞が、48時間以内に死滅する。しかし、BDNF、NT3、NT4またはNGFの存在下で培養した神経細胞のうちの60〜80%が、48時間にわたり生存する(同上)。
【0128】
本発明の裏付けとして実施した実験では、以前の記載に従って、TrkBアゴニスト抗体である38B8、23B8、36D1、37D12および19H8の増加する量(例えば、表1を含めた、実施例1を参照されたい)を、神経細胞の培養物に添加した(図8)。いくばくかの変動はあるものの、TrkBアゴニスト抗体の増加する量を添加すると、神経細胞の生存が、(38B8の場合、10〜100pMの範囲においては最大75%超、および19H8の場合、0.1〜10pMの範囲においては最大100%超)増加した。神経細胞生存アッセイにおける抗体38B8のEC50値は、0.2pMであった。神経細胞生存アッセイにおける38B8、23B8、36D1および37D12のEC50値、ならびにヒトKIRAアッセイにおけるこれらの抗体のEC50値および動物の体重に対するそれらの効果(認識されている、TrkBアゴニストに対する応答)は、実施例1において議論し、その概要を表1に示す。抗体23B8は、より高いEC50値である11pMを有するが、動物の体重に対して効果を示すことはできなかったことに注目されたい。このことは、11pM未満のEC50値が、TrkBアゴニストの生物学的活性のためには必要であることを示唆している。抗体36D1は、5pMのEC50値を有し、動物の体重に対して効果を示した。これらのデータは、NTについて報告されている結果と一致し、TrkBアゴニスト抗体は、神経細胞に、天然に存在するTrkBアゴニストと一致する様式で影響を及ぼすことを実証している。
【0129】
(実施例9)
TrkBアゴニストは、主に免疫抑制を介して機能するものではない
(GAおよびデキサメタゾンを含めた)MSの治療用の現行の薬物は、免疫調節物質であり、これらは、免疫応答に関して、免疫抑制性およびその他の効果を示す。TrkBアゴニストの治療効果もまた、免疫抑制のレベルのものであるか否かを決定するために、動物を、TrkBアゴニスト抗体(38B8)またはビヒクル単独(対照)を用いて治療し、異なるアイソタイプ(すなわち、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3およびIgM)の、循環するMOG(ミエリン)に特異的な抗体のレベルを測定した(図9)。TrkBアゴニストによる治療後には、MOGに特異的な抗体のレベルのいくばくかの変動を観察したが、これは、動物の病的状態の顕著な低下を説明するのに十分であるようには見えなかった。特定の機構を本発明に帰することなく、これらの結果からは、TrkBアゴニストは、抗MOG抗体の産生を抑制することによって機能するのではなく、したがって、従来の免疫抑制剤として機能するとは思われないことが示唆される。
【0130】
TrkBアゴニストが、T細胞およびB細胞の、ミエリンによって刺激される能力を阻害するか否かを決定するために、脾細胞増殖アッセイを使用して、TrkBアゴニストの存在下で、MOGの、単離した脾細胞を刺激する能力を測定した。比較のために、免疫抑制剤であるデキサメタゾンの存在下で、MOGを用いて脾細胞を刺激した。
【0131】
MOGで誘発した未治療(対照)動物(n=9)由来の脾臓細胞またはMOGで誘発したTrkBアゴニスト抗体(38B8)治療動物(n=8)由来の脾臓細胞を、MOG単独(0)、TrkBアゴニスト抗体(38B8;50μl/mg)または2つの異なる濃度(10−8Mおよび10−5M)のうちの1つにおけるデキサメタゾンと組み合わせたMOGの存在下のいずれかで、in vitroにおいて培養した。図10を参照すると、in vitroにおいてMOGで刺激されなかった脾細胞と比較した、脾細胞の刺激の種々の量が、y軸上に示されている。
【0132】
TrkBアゴニスト抗体の存在は、脾細胞刺激に対して、何ら明らかな効果を有さなかった。このことはまた、免疫抑制剤であるデキサメタゾンのより低い濃度の場合にもあてはまった。デキサメタゾンは、10−5Mのより高い濃度では、MOGによる刺激を妨げた。
【0133】
全体的に、TrkBアゴニスト治療動物から得た脾細胞は、MOGによる刺激に対して、対照治療動物と一致する様式で応答し、このことは、TrkBアゴニストを用いて治療した動物は、抗MOG性T細胞および/または抗MOG性B細胞の正常な応答をもたらす能力を保持することを示している。さらに、TrkBアゴニスト治療動物から得た脾細胞も、対照動物から得た脾細胞も、培地中のTrkBアゴニストの存在に対して同様に応答する。これらの観察から、免疫抑制剤であるデキサメタゾンの作用機構は、TrkBアゴニストの作用機構とは異なること、およびTrkBアゴニストの主要な作用機構は、白血球増殖のレベルにおいてではないことがさらに示唆される。
【0134】
(実施例10)
TrkBアゴニストは、炎症性細胞のCNSへの侵入を遮断し、脱髄を低下させる
動物においてTrkBアゴニストが保護を媒介する機構をよりよく理解するために、組織学的解析を実施した。脊髄の切片を、対照動物およびTrkBアゴニスト抗体(38B8)治療動物から調製し、次いで、ミエリンを染色するためにLuxol fast blueを用いて、かつ細胞体を染色するためにクレシルバイオレットを用いて染色した(図11)。対照動物では、染色は、ミエリンを発現している神経細胞の背景に対して白血球の侵入および細胞破壊の領域を示した。白血球侵入の低下が、TrkBアゴニストを用いて治療した動物から調製した切片中には観察された。数匹のTrkBアゴニスト治療動物は、白血球のCNSへの侵入の証拠を全く示さなかった。
【0135】
侵入する細胞の同定を、2つの白血球マーカーであるT細胞上に存在するCD3およびマクロファージ上に存在するCD68に対して特異的な抗体を使用して実施した。図12は、CD3抗体を用いた染色の結果を示す。おびただしい数の、染色により明るく強調された領域が、特に、クレシルバイオレットで暗く染色された場所と同一の場所において明らかである。TrkBアゴニスト治療マウスから得た脊髄の切片は、顕著に減少した染色を示し、このことから、T細胞の侵入が、治療動物においてはかなり低下することが示された。脊髄の切片はまた、単核球に伴うCD68マーカーに特異的な抗体でも染色された(図13)。対照マウスから調製した切片は、TrkBアゴニスト治療マウスからの切片よりも、特に、クレシルバイオレットおよびCD3に特異的な抗体で強力に染色された領域と同一の領域において、より強力に染色された。そのような観察から、TrkBアゴニスト治療動物由来の脊髄組織は、対照動物と比較した場合、T細胞および単核球の侵入のかなりの低下を示すことが示された。
【0136】
脊髄の切片を、Luxol Fast Blueで染色して、脱髄を測定した。対照マウスの脳は、リンパ球の激しい侵入を有する場所に対応して、重度の脱髄の領域を示し(すなわち、図14中、黒の矢印が示す染色されていない場所)、このような領域は、TrkBアゴニストを用いて治療したマウスにおいては明らかではなかった。重度の脱髄および/または神経細胞の死滅の領域は、TrkBアゴニスト治療動物からの切片においては観察されなかった。総合すると、CNS組織の切片の組織化学的な染色の結果から、TrkBアゴニストによる治療によって、リンパ球および単核球のCNSへの侵入が低下することが実証された。
【0137】
天然に存在するTrkBアゴニストおよび人工的なTrkBアゴニストの両方が、EAEの進行を緩慢化させる点において有効である。天然に存在するアゴニストであるNT4およびアゴニスト抗体の両方が、疾患の進行を緩慢化させる点において有効であった。アゴニスト抗体は、TrkBに対する最も高い選択性を示し、これを使用して、TrkBアゴニストがEAEの進行に影響を及ぼす機構をさらに検討した。TrkBアゴニストは、EAEの症状の発症(通常、これら特定の動物の場合、第12日または第13日)の前に投与しても、数日後に投与しても有効であった。MOGによる誘発16日後(または症状の発症約4日後)までの投与は、病的状態の低下において有効であった。アゴニストの有益な効果は、用量依存性であり、TrkBアゴニストの用量の増加に伴って病的状態が低下する。組織化学的な実験により、TrkBアゴニストは、T細胞および単核球のCNS組織への侵入を低下させることが示された。ミエリンの染色からは、TrkBアゴニスト治療動物における神経細胞に対する損傷の低下が示された。
【0138】
アッセイにおいて試験したその他の薬物とは異なり、TrkBアゴニストは、主に免疫抑制を介して機能するものではない。このことは、TrkBアゴニストが、MOGに特異的な自己免疫抗体の産生には影響を及ぼさないという観察において証明された。さらに、MOGにより誘発し、TrkBアゴニストを用いて治療した動物から単離した脾細胞は、MOGによって刺激される能力をin vitroで保持した。したがって、TrkBアゴニストは、GAおよびデキサメタゾン等のその他の化合物の様式とは異なる様式で機能する。
【0139】
本明細書に記載する実施例および実施形態は、説明する目的のものに過ぎず、ならびにそれらに照らした種々の改変形態または変形形態が当業者には示唆され、これらは本出願の精神および範囲のうちに含まれることを理解されたい。本明細書に引用する全ての刊行物、特許および特許出願は、それらの全体が、全ての目的のために、各刊行物、特許および特許出願が個々に、具体的かつ個別に参照によって組み込まれていると示されている場合と同程度に、本明細書によって、参照により組み込まれている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物において中枢神経系に影響を及ぼす自己免疫障害を治療するのに使用する医薬品の製造におけるTrkBアゴニストの使用。
【請求項2】
自己免疫障害が、実験的自己免疫性脳脊髄炎である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
自己免疫障害が、多発性硬化症である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
TrkBアゴニストが、天然に存在するTrkBアゴニストである、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
天然に存在するTrkBアゴニストが、NT4である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
天然に存在するTrkBアゴニストが、BDNFである、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
TrkBアゴニストが抗体である、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
TrkBアゴニストが、その抗体断片または誘導体である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された単離モノクローナルTrkBアゴニスト抗体。
【請求項10】
ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株。
【請求項1】
哺乳動物において中枢神経系に影響を及ぼす自己免疫障害を治療するのに使用する医薬品の製造におけるTrkBアゴニストの使用。
【請求項2】
自己免疫障害が、実験的自己免疫性脳脊髄炎である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
自己免疫障害が、多発性硬化症である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
TrkBアゴニストが、天然に存在するTrkBアゴニストである、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
天然に存在するTrkBアゴニストが、NT4である、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
天然に存在するTrkBアゴニストが、BDNFである、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
TrkBアゴニストが抗体である、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
TrkBアゴニストが、その抗体断片または誘導体である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株によって産生された単離モノクローナルTrkBアゴニスト抗体。
【請求項10】
ATCC寄託番号PTA−8766の下に寄託されたハイブリドーマ株。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2010−513461(P2010−513461A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542266(P2009−542266)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【国際出願番号】PCT/IB2007/004145
【国際公開番号】WO2008/078179
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(505129415)ライナット ニューロサイエンス コーポレイション (33)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【国際出願番号】PCT/IB2007/004145
【国際公開番号】WO2008/078179
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(505129415)ライナット ニューロサイエンス コーポレイション (33)
【Fターム(参考)】
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