説明

自己組織化膜の作成方法およびその作成方法を用いた面電子放出源

【課題】
電子デバイスへ適応できる製造方法は、高温処理が必要で、量産には耐え難く、ナノ粒子の持っている凝集力を活用して自己組織化させる低価格のゾル・ゲル法を利用した電子デバイスはまだ実現されていない。
【解決手段】
自己組織化膜の形成方法であって、ナノ微粒子を溶媒で分散させる工程と、前記ナノ微粒子を溶媒で分散させた溶液を基板上に塗布する工程と、溶媒の蒸発が他の空間領域より遅延する空間領域を形成し、その空間領域は、該基板に対し垂直方向の成分を有するように形成し、その空間領域でナノ微粒子を自己組織的に成長させる工程を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子を自己組織的に作成する方法および、この自己組織化膜の作成方法を用いた電子デバイスにおいて、電圧を印加することにより面状に電子を放出させることができる面電子放出源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微粒子を自己組織化的に集合させて、微粒子が3次元的に規則正しく周期的に配列した微粒子構造体を形成する方法として、種々の方法が報告されている(例えば、非特許文献1及び2参照) 。
【0003】
その方法の1つとして引き上げ法が挙げられる。引き上げ法は、例えば微粒子を溶媒に分散させて微粒子溶液とし、ここに微粒子に対して親和性の良い基板を垂直に差し込んだ後、この基板を微粒子溶液から引き上げる。この基板の引き上げ時に、適量の微粒子溶液を基板表面に移し取る。その後、移し取られた微粒子溶液から溶媒が蒸発していく過程で、微粒子の自己組織化が起こり、微粒子が規則的に配列した微粒子構造体が基板上に形成されるという方法である( 例えば、非特許文献3 、4 および5参照) 。
【0004】
他の方法として自然沈降法が挙げられる。自然沈降法は、引き上げ法と同様に微粒子溶液を調製した後、基板を微粒子溶液の下部に静置する。微粒子は、自身の重みによって徐々に基板上に沈降し、微粒子が規則的に配列した微粒子構造体が形成される( 例えば、非特許文献6参照) 。
【0005】
これらを改良する手法として、3次元的に規則正しく配列した微粒子層の配列性を維持したまま、微粒子層の機械的強度、転写性を向上させ、微粒子層の剥がれを防止した微粒子構造体が特開2006−138980号公報、特開2006−138983号公報に提案されている。
【0006】
これらの方法は、高分子を塗布又は噴霧或いは微粒子溶液に混合して3次元的に規則正しく配列した微粒子を複数層形成することにより、微粒子層の配列性を保ったまま微粒子を固定化することができる。これにより、微粒子層の機械的強度、転写性が向上し、微粒子層の剥がれを防止する方法である。
【0007】
一方、開発されている面状のエミッタとしては、グラファイト、ダイアモンド、カーボンナノチューブなどのカーボン系列の物質があるが、これらはトンネル効果によって電子が障壁を通過して、低電界、低温においても、真空中に電子が放出されるとされている。特に、カーボンナノチューブのようなファイバー状の材料は、低い駆動電圧( 1 0 〜 5 0V ) でも、電子放出を円滑に行うことができる高効率材料として期待されている。球面状凹部と電界により電子を放出する電子放出突起が周期的に形成された新規な多孔質平面状電子放出電極構造を採用することにより、容易に、周期的に電子放出突起を基板面に垂直に形成することで、電子放出エミッタを形成する技術が特開2007−26790号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−138980号公報
【特許文献2】特開2006−138983号公報
【特許文献3】特開2007−26790号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】P . J i a n g e t a l . , C h e m . M a t e r . ( 1 9 9 9 ), 1 1 , 2 1 3 2
【非特許文献2】Y . X i a e t a l . , A d v . M a t e r . ( 2 0 0 0 ) , 1 2( 1 0 ) , 6 9 3
【非特許文献3】K . N a g a y a m a , J . S o c . P o w d e r T e c h n o l .J a p a n ( 1 9 9 5 ) , 3 2 , 4 7 6
【非特許文献4】J . D . J o a n n o p o u l o s , N a t u r e ( 2 0 0 1 ) , 4 14 ( 1 5 ) , 2 5 7
【非特許文献5】Y o n g − H o n g Y e e t a l . , A p p l . P h y s . L et t . ( 2 0 0 1 ) , 7 8 ( 1 ) , 5 2
【非特許文献6】H . M i g u e z e t a l . , A d v . M a t e r . ( 1 9 9 8 ), 1 0 ( 6 ) , 4 8 0
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら上記従来技術に記載の何れの方法も、高価な材料、精密な温度管理や材料制御が必要とされている。そのため、高温処理が必要で、量産には耐え難く、電子デバイスなどへの実用的適用はあまりなされていない状況となっている。
【0011】
一方、比較的低価格で実現できるゾル・ゲル法などを用いて自己組織化させるすなわち、ナノ粒子の持っている凝集力を活用して実用化に耐えうる電子デバイスはまだ実現されていない。
【0012】
また、金属ナノ粒子を用いて3次元的に成長させる手法はなかった。さらには、同一の溶媒を用いて、簡単な作成方法で、結晶成長させる方法は存在しなかった。
【0013】
また、面電子放出源としては、スピント型面電子放出源やCNT(カーボンナノチューブ)型面電子放出源が提案されているが、製造方法が複雑であった。さらに、これらの面電子放出源は、何れも平面的に形成しているため、有効に3次元空間を活用しているとはいえず、投入電力に対する電子放出の効率が悪かった。
【0014】
本発明は、溶媒に溶かした単一の微粒子、あるいは複数の粒子を塗布・乾燥するだけで、自己組織化的作用により、3次元的に結晶成長させる手法を見出し、量産可能で、かつ、この手法により作成した素子においては、新たな電子デバイスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の自己組織化膜の作成方法は、ナノ微粒子を溶媒で分散させる工程と、前記ナノ微粒子を溶媒で分散させた溶液を基板上に塗布する工程と、前記ナノ微粒子を自己組織的に成長させる工程を有することを特徴としている。このような作成方法をすることにより、ナノ微粒子を閉塞空間すなわち溶媒の蒸発遅延空間を利用することにより、簡単な方法、すなわち基板に塗布するだけでナノ粒子を配列させることができる。この作成方法を用いた電子放出デバイスは、良好な電子放出特性を示し、FPD(Flat Panel Display)などに適用できる。
【0016】
また、上記溶媒の蒸発が他の空間領域より遅延する空間領域を形成し、空間領域は、該基板に対し垂直方向の成分を有するように形成したことを特徴としている。この作成方法によれば、上記効果に加え、3次元的に所望の位置にナノ粒子を配列させることができる。
【0017】
また、上記空間領域は、上記ナノ微粒子より大きな粒子と基板とで形成されていることを特徴としている。この作成方法によれば、微粒子を用いることにより簡単に閉塞空間を構成でき、また、この構成で電子デバイスを作成した場合、電子放出効率の良い素子が形成できる。
【0018】
また、上記空間領域は、楔形形状をエッチングにより作成することを特徴としている。この方法によれば、簡単に閉塞空間を構成でき、電子デバイスを作成した場合には、より正確に発光位置を決定できるため、さらに発光効率の良いデバイスが得られる。
【0019】
さらに、前記溶媒の蒸発が遅延する空間領域は基板と該基板に対して90度以内の角度をなすように配置された部材で形成される空間領域であることを特徴としている。この作成方法によれば、上記効果に加え、自己組織化に最適な蒸発量を設定できるようになるため、デバイスに用いた場合により効率の良いデバイスが得られる。
【0020】
本発明の面電子放出源では、導電性部材に対し略平行方向に配列された第一の誘電体部材と、第一の誘電体部材間に前記導電性基板に対して略垂直方向成分を有するように配列された第二の誘電体部材により覆われたナノ微粒子とを備え、前記第一の誘電体部材に第二の誘電体部材に覆われたナノ微粒子が担持されていることを特徴としている。この構成によれば、導電性基板に対し垂直方向に絶縁皮膜ナノ微粒子が繰り返し配置されているため、簡単な構成、製造方法により弾道電子を放出することができる。
【0021】
また、上記担持された第二の誘電体部材で覆われたナノ微粒子を第一の誘電体部材と導電性部材で形成される略くさび状の領域に配置させ、自己組織的に結晶成長させたことを特徴としている。この構成によれば、自己組織的に誘電体皮膜ナノ微粒子を配置しているので、最小のエネルギーで結晶化させることができる。そのため、弾道電子放出に必要不可欠なナノ微粒子を繰り返し配置させることができるため、安価な製造コストで面電子放出源を作成できる。
【0022】
本発明の面電子放出源は、上記構成に加え、上記ナノ粒子を成す導電体は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいてもよい。このように、上記ナノ粒子を成す導電体が、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいることで、ナノ粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、面電子放出源の長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0023】
本発明の面電子放出源では、上記構成に加え、上記ナノ粒子の平均径は、導電性を制御する必要から、上記絶縁性部材の大きさよりも小さくなければならず、3〜20nmであるのが好ましい。このように、上記ナノ粒子の平均径を、上記絶縁性部材の微粒子径よりも小さく、好ましくは3〜20nmとすることにより、電子加速層内で、ナノ粒子による導電パスが形成されず、電子加速層内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、粒子径が上記範囲内のナノ粒子を用いることで、電子が効率よく生成される。
【0024】
さらに、詳細には、下記のような特徴を有している。
【0025】
本発明の面電子放出源では、上記構成に加え、上記絶縁性部材は、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいてもよい。または有機ポリマーを含んでいてもよい。上記絶縁性部材が、SiO、Al、及びTiOの少なくとも1つを含んでいる、あるいは、有機ポリマーを含んでいると、これら物質の絶縁性が高いことにより、上記電子加速層の抵抗値を任意の範囲に調整することが可能となる。特に、絶縁性部材として酸化物(SiO、Al、及びTiO)を用い、ナノ粒子として抗酸化力が高い導電体を用いる場合には、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化をより一層発生し難くなるため、大気圧中でも安定して動作させる効果をより顕著に発現させることができる。
【0026】
ここで、上記絶縁性部材は微粒子であってもよく、その平均径が10〜1000nmであるのが好ましく、12〜110nmであるのがより好ましい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであっても良く、例えば平均粒径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。上記微粒子である絶縁性部材の平均径を好ましくは10〜1000nm、より好ましくは12〜110nmとすることにより、上記絶縁性部材の大きさよりも小さい上記ナノ粒子の内部から外部へと効率よく熱伝導させて、素子内を電流が流れる際に発生するジュール熱を効率よく逃がすことができ、面電子放出源が熱で破壊されることを防ぐことができる。さらに、上記電子加速層における抵抗値の調整を行いやすくすることができる。
【0027】
本発明の面電子放出源では、上記構成に加え、上記電子加速層における上記絶縁性部材と絶縁皮膜金属微粒子の割合が、重量比で4:1〜19:1であるのが好ましい。上記重量比率の範囲内であると、上記電子加速層内の抵抗値を適度に上げることができ、大量の電子が一度に流れることで面電子放出源が破壊されるのを防ぐことができる。
【0028】
本発明の面電子放出源では、上記構成に加え、上記電子加速層の層厚は、12〜6000nmであるのが好ましく、300〜6000nmであるのがより好ましい。上記電子加速層の層厚を、好ましくは12〜6000nm、より好ましくは300〜6000nmとすることにより、電子加速層の層厚を均一化すること、また層厚方向における電子加速層の抵抗調整が可能となる。この結果、面電子放出源表面の全面から一様に電子を放出させることが可能となり、かつ素子外へ効率よく電子を放出させることができる。
【0029】
本発明の面電子放出源では、上記構成に加え、上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記薄膜電極に、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質の仕事関数の低さから、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせ、面電子放出源外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
【0030】
本発明の面電子放出源の絶縁皮膜ナノ粒子の絶縁被膜は、上記構成に加え、電子をトンネルさせることが可能な厚みであることを特徴としている。電子がトンネル可能な厚みでなければ、電子を導体から外部に放出させることはできず、面電子放出源としての基本的機能が実現できないためである。
【0031】
本発明の面電子放出源では、上記構成に加え、絶縁皮膜ナノ粒子の絶縁被膜は、アルカン、アルコール、脂肪酸、アルカンチオール、炭化水素系シラン化合物、有機系界面活性剤の少なくとも1つを含んでいてもよい。このような有機材料で、絶縁皮膜されていることで、素子作成時のナノ粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、ナノ粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁性部材の周囲に存在するナノ粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、面電子放出源の長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0032】
以上説明したように、本発明の面電子放出源によれば、電極間に電子加速層を塗布・常温で乾燥させるだけで簡単に面電子放出源が作成でき、また電子放出効率も格段に高く、大面積化の容易なデバイスを提供できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の自己組織化膜の作成方法は、ナノ微粒子を溶媒で分散させる工程と、前記ナノ微粒子を溶媒で分散させた溶液を基板上に塗布する工程と、溶媒の蒸発が他の空間領域より遅延する空間領域を形成し、その空間領域で自己組織的に成長させる工程を有することを特徴としている。このような作成方法をすることにより、ナノ微粒子を閉塞空間すなわち溶媒の蒸発遅延空間を利用することにより、簡単な方法、すなわち基板に塗布するだけでナノ粒子を配列させることができる。この作成方法を用いた電子放出デバイスは、良好な電子放出特性を示し、FPD(Flat Panel Display)などに適用できる。
【0034】
また、導電性部材に対し略平行方向に配列された第一の誘電体部材と、第一の誘電体部材間に前記導電性基板に対して略垂直方向成分を有するように配列された第二の誘電体部材により覆われたナノ微粒子とを備え、前記第一の誘電体部材に第二の誘電体部材に覆われたナノ微粒子が担持されていることを特徴としている。この構成によれば、導電性基板に対し垂直方向に絶縁皮膜ナノ微粒子が繰り返し配置されているため、簡単な構成、製造方法により弾道電子を放出することができる。このように構成された面電子放出源は、投入電力に対する電子放出量の効率がよく、ディスプレイや光源に用いた場合に、低電力化が図れる。また、金属微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いることから、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難いため、大気圧中でも安定して動作させることができる。
【0035】
また、上記第一の誘電体部材および絶縁皮膜ナノ微粒子は、電子加速層における抵抗値および電子の生成量を調整することができるため、電子加速層を流れる電流値と電子放出量の制御を可能とする。さらに、上記第一の誘電体部材は、電子加速層を流れる電流により生じるジュール熱を効率良く逃がす役割も有することができるため、面電子放出源が熱で破壊されるのを防ぐことができる。
【0036】
さらに、真空中だけでなく大気圧中で動作させても放電を伴わないためオゾンやNOx等の有害物質をほぼ生成せず、面電子放出源が酸化劣化しない。そのため、本発明の面電子放出源は、寿命が長く大気中でも長時間連続動作をさせることができる。よって、本発明により、真空中だけでなく大気圧中でも安定して電子を放出でき、オゾンやNOx等の有害物質の発生を抑制した面電子放出源を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】絶縁性部材に絶縁皮膜ナノ粒子を形成させる工程を説明した説明図である。
【図2】図1の電子放出素子における微粒子層の基板付近の断面の模式図である。
【図3】本発明の一実施形態の電子放出素子の構成を示す模式図である。
【図4】図1の電子放出素子における微粒子層付近の断面の模式図である。
【図5】本実施形態の電子放出素子における微粒子層のエネルギーバンドを示す図である。
【図6】電子放出実験の測定系を示す図である。
【図7】真空中における電子放出電流を示すグラフを表す図である。
【図8】真空中における電子放出時の素子内電流を示すグラフを表す図である。
【図9】大気中における電子放出電流及び素子内電流を示すグラフを表す図である。
【図10】大気中における電子放出電流及び素子内電流の経時変化を示す図である。
【図11】比較例としての電子放出素子の電子加速層付近の断面の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の自己組織化膜の作成方法および面電子放出源について、図1〜図9を参照しながら具体的に説明する。なお、以下に記述する実施の形態および実施例は本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらよって限定されるものではない。
(自己組織化膜の作成方法)
図1は、本発明の自己組織化膜の作成方法の一実施形態の構成を示す模式図である。本実施形態の自己組織化膜の作成フローは、基板(導電性部材)2上に、図1に示す微粒子層4の作成方法を施すことで実現できる。すなわち、第二の誘電体部材および第一の誘電体部材の2種類の微粒子を用いて、適切な溶媒で分散させる。それを基板2上に塗布し、室温で自然乾燥することで自己組織化作用を発現させることによって形成される。ここで、溶液中での複数の微粒子の分散度合いが大きいほうが良い。分散度合いを大きくするために超音波洗浄をすることが望ましい。適度に分散していない場合は、自己組織化作用が起こらず、3次元構造が形成できなくなる。
【0039】
ここで3次元構造を形成するための原理的モデルでの説明を図2に示す。溶液の分散状態は大きい場合、第二の誘電体部材は(1)溶液中に浮遊している第二の誘電体部材(2)第一の誘電体部材に付着した第二の誘電体部材に大別される。次に、前記(1)の溶液中に分散される第二の誘電体部材は、溶媒中に単独あるいは凝集体となって分散している。開放空間部では溶媒の蒸発が短時間で行なわれるため、微粒子の凝集は形成されにくい。しかし、閉塞空間部では溶媒の蒸発が長時間でゆっくりとなされる。この閉塞空間では、自己組織化作用が起こるため、微粒子は凝集する。したがって、粒子同士が整然と凝集した自己組織化膜が完成する。この原理で3次元のボトムアップ型構造が形成できる。
【0040】
上記原理的モデルでの説明では、2種類の微粒子を混合した溶液用いて3次元構造を形成する方法について説明を行なったが、最初に粒径の大きい第一の誘電体部材を基板上に配置し、その後、分散した第二の誘電体部材の溶液をインクジェット法などの方法を用いて塗布することでも3次元構造が得られる。また、基板に対し鋭角(逆三角形状)となるように絶縁物を配置し、その後、同様に分散した絶縁被膜された金属微粒子の溶液を塗布することでも3次元構造が得られることは言うまでもない。
【0041】
要するに、溶媒の蒸発の速度差を設ける構造となるようにすると良い。蒸発速度が遅延する領域で自己組織化膜が形成される。例えば、上記に説明した具体的な構造とすることにより、小さい空間(閉塞空間)をくさび状にしたり、エッチング技術を用いて逆テーパ型すなわち閉塞空間を鋭角状にすることで、蒸発速度を遅延する領域を形成でき、その領域に自己組織化膜を形成することができる。
【0042】
このような自己組織化作用を用いて、上記説明を行なった第二の誘電体部材の代わりに、金属ナノ粒子を利用して、面電子放出源の作成を試みた。以下に面電子放出源の構成、そのデバイス特性について説明を行なう。
(面電子放出源の構成)
まず、本発明の自己組織化膜を用いて面電子放出源の構成について説明する。
【0043】
図3に示すように、面電子放出源1は、第一の導電性部材2上に絶縁体5と絶縁皮膜金属微粒子6(以下電子放出層4という)と、第一の導電性部材2に対向するように第二の導電性部材3を備えるとともに、電源7と、対向電極8とが配置されている。
【0044】
電子放出層4は、第一の導電性部材2と第二の導電性部材3とにより挟持されている。また、電源7は、第一の導電性部材2と第二の導電性部材3との間に電圧を印加する。電子放出層4は、後述するように少なくとも絶縁皮膜された金属微粒子の凝集体が複数個所に形成されている。面電子放出源4は、第一の導電性部材2と第二の導電性部材3との間に電圧が印加されることで、第一の導電性部材2と第二の導電性部材3との間(すなわち、電子放出層4)で電子を加速し、対向電極8に向かって第二の導電性部材3から電子を放出させる。
【0045】
以上のような基本構成を基に、それぞれの部材および電子放出原理について、図1の電子放出層4の内部をモデル化した状態を図4に示して詳細に説明を行なう。
(第一の導電性部材)
第一の導電性部材となる基板2は、面電子放出源の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。例えばSUSやTi、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板、ガラス基板のような絶縁体基板、プラスティック基板等が挙げられる。例えばガラス基板のような絶縁体基板を用いるのであれば、その電子放出層4との界面に金属などの導電性物質を電極として付着させることによって、第一の導電性部材となる基板2として用いることができる。上記導電性物質としては、導電性に優れた貴金属系材料を、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、その構成材料は特に問わない。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよいが、これら材料および数値に限定されることはない。
(第二の導電性部材)
第二の導電性部材3は、電子放出層4内に電圧を印加させるものである。そのため、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子放出層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。また第二の導電性部材3の膜厚は、面電子放出源1から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、10〜55nmの範囲とすることが好ましい。第二の導電性部材3を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、面電子放出源1から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は100nm程度であり、これを超える膜厚では第二の導電性部材3で電子の吸収あるいは反射による電子放出層4への再捕獲が多く発生することになり、低消費電力で素子駆動ができなくなる。
(金属微粒子)
金属微粒子6の金属種としては、電子を生成するという動作原理の上ではどのような金属種でも用いることができる。ただし、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、抗酸化力が高い金属である必要があり、貴金属が好ましく、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。このような金属微粒子6は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀金属微粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。
(絶縁体)
絶縁体の微粒子5に関しては、その材料は絶縁性を持つものであれば特に制限なく用いることができる。ただし、後述の実験結果の通り微粒子層4を構成する微粒子全体における絶縁体の微粒子5の重量割合は80〜95%、すなわち金属微粒子との割合は4:1〜19:1が好ましい。またその大きさは、金属微粒子6に対して優位な放熱効果を得るため、金属微粒子6の直径よりも大きいことが好ましく、絶縁体の微粒子5の直径(平均径)は10〜1000nmであることが好ましく、12〜110nmがより好ましい。従って、絶縁体の微粒子5の材料はSiO、Al、TiOといったものが実用的となる。ただし、表面処理が施された小粒径シリカ粒子を用いると、それよりも粒子径の大きな球状シリカ粒子を用いるときと比べて、溶媒中に占めるシリカ粒子の表面積が増加し、溶液粘度が上昇するため、微粒子層4の膜厚が若干増加する傾向にある。また、絶縁体の微粒子5の材料には、有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよく、例えば、JSR株式会社の製造販売するスチレン/ジビニルベンゼンから成る高架橋微粒子(SX8743)、または日本ペイント株式会社の製造販売するスチレン・アクリル微粒子のファインスフェアシリーズが利用可能である。ここで、絶縁体の微粒子5は、2種類以上の異なる粒子を用いてもよく、また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよく、あるいは、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。
【0046】
また絶縁体の成す役割は微粒子形状に依存しないため、上記絶縁性部材に有機ポリマーから成るシート基板や、何らかの方法で絶縁性部材を塗布して形成した絶縁体層を用いてもよい。但しこのシート状基板や絶縁体層には厚さ方向を貫通する複数の微細孔を有する必要がある。このような用件を満たすシート状基板材料として、例えば、ワットマンジャパン株式会社の製造販売するメンブレンフィルターニュークリポア(ポリカーボネート製)が有用である。
(電子放出層)
電子放出層4は、上記絶縁体5および金属微粒子6を含んでいる。薄いほど強電界がかかるため低電圧印加で電子を加速させることができるが、電子放出層の層厚を均一化できること、また層厚方向における電子放出層の抵抗調整が可能となることなどから、微粒子層4の層厚は、100〜1000nm、より好ましくは300〜6000nmであるとよい。100nm未満では、電極間の接触あるいは高電圧印加による絶縁破壊が生じることがあり、6000nm以上では、電子放出に必要な高電界を印加することができなくなり、高電界を印加すれば消費電力が高くなる。
【0047】
以上のような、自己組織膜を用いた面電子放出源は、図4に示すように、微粒子層4において、絶縁被膜された金属微粒子6がある程度連なって接しており、その部分では絶縁体と導電体とが交互に凝集し存在している。ここに電圧が印加されると、それぞれの粒子における電子放出方向のエネルギーレベルは図5のようになる。
【0048】
図5は粒子が凝集している状態を示す。実線は、電界が多い場合の電子放出方向のエネルギーレベルで、破線は電界が少ない場合の電子放出方向の電子のエネルギーレベルである。電極基板2と薄膜電極3の間に電界を印加すると、電極基板2にかかる電界によって、電子が薄膜電極に流れようとする。MIM電極構造の中央部は文字通り絶縁体で構成されているため、電界放出により、電極基板2に強電界がかかり電子にエネルギーが付与される。そうすると、電子が最も近い粒子に移動する。この場合、基板とナノ粒子の距離が周囲の雰囲気(大気圧中あるいは真空中)の平均自由行程より大きければ、電子はナノ粒子へ到達する前に散乱の影響により、電子の薄膜電極方向への加速度が低減され、多方向へ散乱してしまう。一方、基板とナノ粒子の距離が平均自由行程より小さく、かつナノ粒子に設けられている絶縁皮膜をトンネルするだけのエネルギーを持っていれば、絶縁皮膜をトンネルし、ナノ粒子の金属内6に突入する。ここで、金属内の自由電子は、電界による加速度を有するが、原子による散乱の影響で、電子放出方向のエネルギーは少なくなる。このように、電子は、絶縁皮膜をトンネルするだけの新たなエネルギーを与えられ、電子が加速される。粒子間でこの状態を繰り返すことにより、電極基板と絶縁破壊しない距離に形成された薄膜電極に電子が到達する。最終的に、薄膜電極をトンネルするだけのエネルギーを電子が持っていれば、薄膜電極をトンネルし素子外へ放出される。このような原理により、微粒子層から電子を放出することができる。
(絶縁皮膜された金属微粒子)
ここで、絶縁被膜された金属微粒子の金属種としては、自己組織化により、金属微粒子を凝集させ、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような金属種でも用いることができる。ただし、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、酸化しにくい金属が好ましく、例えば、金、銀、白金、ニッケル、パラジウムいった材料が挙げられる。また、絶縁被膜された金属微粒子12の絶縁被膜としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁被膜でも用いることができる。金属微粒子6の平均径は、導電性を制御する必要から、以下で説明する絶縁体の微粒子5の大きさよりも小さくなければならず、3〜50nmであるのがより好ましい。このように、金属微粒子6の平均径を、絶縁体の微粒子5の粒子径よりも小さく、好ましくは5〜20nmとすることにより、微粒子層4内で、金属微粒子6による導電パスが形成されず、微粒子層4内での絶縁破壊が起こり難く、電子が効率よく生成される。
【0049】
ただし、絶縁被膜を金属微粒子の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまうおそれがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルカン、アルコール、脂肪酸、アルカンチオール、炭化水素系シラン化合物、有機系界面活性剤の少なくとも1つを含むのが好ましい。このような有機材料で、絶縁皮膜されていることで、素子作成時の金属微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、金属微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁性部材の周囲に存在する金属微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、面電子放出源の長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0050】
絶縁被膜された金属微粒子12の直径は10nm程度であることが重要であり、その絶縁被膜の厚さは薄いほうが有利であることが言える。
(電子放出原理)
電子放出の原理について、電子加速層4をモデル化した状態の図4により説明する。コロイド結晶化した絶縁皮膜された金属微粒子群6は自己組織化によって形成される。その原理を以下に示す。
【0051】
絶縁皮膜金属微粒子を溶媒に溶かした直後は、絶縁皮膜された金属微粒子同士が間隔を保って雑然と配置したアモルファス状態となっており、粒子間の静電斥力によって粒子同士が反発し、互いに距離を置くよう分布している。
【0052】
そして、ブラウン揺動力と静電斥力によって粒子の再配置がおこなわれ、系の内部エネルギーを最小化するようコロイド結晶化が進行し、一群の絶縁皮膜された金属微粒子が形成される。このような順序で自己組織化による絶縁皮膜金属微粒子のコロイド結晶ができる。このようなプロセスを経て、第一の導電性部材と第二の導電性部材の間に、複数のコロイド結晶化した絶縁皮膜された金属微粒子群が形成される。
【0053】
ここで、上記自己組織化膜の作成方法で説明したように、絶縁皮膜された金属微粒子は(1)溶液中に分散される第二の誘電体部材(2)第一の誘電体部材に付着した第二の誘電体部材に大別される。溶媒に第一の誘電体部材と第二の誘電体部材を混合した際、程度よく分散されていると、粒径の大きい第一の誘電体部材に第二の誘電体部材が凝集して存在する場合と、単独で存在する場合がある。溶液中に浮遊している第二の誘電体部材は、溶媒の蒸発の際に、沈降し、最終的には、上記説明した溶媒の蒸発が最後に起こる閉塞空間で、第二の誘電体部材が凝集し、自己組織化膜を形成する。この場合の自己組織化膜は、粒子が第一の誘電体に立体的に凝集した3次元構造となっており、その突端部分から弾道電子が放出される。
【0054】
すなわち、第一の導電性部材付近で凝集した絶縁皮膜金属微粒子群は空間内でランダムに形成されているが、その絶縁皮膜金属微粒子が任意の直列に連なる1次元構造の集合体によって、絶縁皮膜された金属微粒子内の電子は閉じ込められ、ランダムな運動を禁止されるが、電圧が外部より印加されると絶縁皮膜金属微粒子どうしの接触部分に強電界が発生し、電子は高い確率で隣接する絶縁皮膜された金属微粒子にトンネルすることになる。トンネルは絶縁皮膜された金属微粒子が接する部分に限られるため、連続して層内を伝導できるのは、直進する高いエネルギーをもった電子だけになる。この高エネルギー電子が、外部に弾道電子として電子放出されることになる。
【0055】
具体的には、まず、基板2上に、絶縁体の微粒子5と、金属微粒子6とを分散させた分散溶液をスピンコート法を用いて塗布することで、微粒子層4を形成する。ここで、分散溶液に用いる溶媒としては、絶縁体の微粒子5と、金属微粒子6とを分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができ、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。
【0056】
特に、絶縁皮膜金属微粒子を分散するためには、無極性溶媒(比誘電率の小さな溶媒。ヘキサンなど)の方が好ましい。ただし、水などは極性溶媒の代表格であるが、コストメリットがあるので、使用することができる。無極性溶媒を使用する理由としては、溶媒中で、金属微粒子がもつ電荷等で引き合わないようにするためには、金属微粒子がもつ電荷を遮蔽するような状態の方がよいからである。また、溶媒の粘度も金属微粒子の動きやすさに影響してくるので、分散性に影響する。特に、比誘電率が5以下の溶媒(ヘキサン 1.9、トルエン 2.3、キシレン 2.3)が好ましい。
【0057】
また、金属微粒子6の分散性を向上させる目的で、事前処理としてアルコラート処理を施すとよい。スピンコート法による成膜、乾燥、を複数回繰り返すことで所定の膜厚にすることができる。微粒子層4は、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法等の方法でも成膜することができる。この何れの方法でも、蒸発が最後に起こる空間部、すなわち、閉塞空間部を形成することができる。そして、電子加速層4上に薄膜電極3を成膜する。薄膜電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いればよい。
【0058】
すなわち、絶縁体及び絶縁皮膜金属微粒子を溶媒に溶かし、超音波洗浄器により金属微粒子を分散させ、第一の導電性部材上に塗布を行なう。その後、室温で放置し、ゆっくりと溶媒の除去を行なう。以上のような簡単なプロセスで、高温処理が必要なく電子加速層が形成できる。
【0059】
また、第一の導電性部材付近では電界集中を起こりやすくするため、基板を適度に荒らすほうが良い。電界集中が起こるため、低電圧の素子の作成が可能となるからである。
【0060】
以下、上記に説明した電子放出の原理に基づいて、本発明の実施例について説明を行なっていく。
【実施例】
【0061】
実施例として、本発明に係る面電子放出源を用いた電子放出実験について図6〜10を用いて説明する。なお、この実験は実施の一例であって、本発明の内容を制限するものではない。
【0062】
本実施例では、微粒子層4における絶縁体の微粒子5と絶縁被膜された金属微粒子6との割合いを変えた5種類の面電子放出源1を作製した。具体的には、基板2には30mm角のSUSの基板を用い、基板2上にスピンコートによって微粒子層4を堆積させた。スピンコートに用いた溶液は、次の通りである。溶媒にはトルエンを用い、絶縁被膜された金属微粒子6として銀ナノ粒子(平均径10nm、うち絶縁被膜アルコラート1nm厚)と、絶縁体の微粒子5としてシリカ粒子(平均径100nm)とを、粒子全体(銀ナノ粒子およびシリカ粒子)に対するシリカ粒子の比率70、80、90、95、99w%で混合して分散させた。スピンコートは500RPM・5sec+3000RPM・10secで3層堆積させ、焼成は行わずに室温で自然乾燥させた。膜厚は約500nmであった。上部電極3には金を用い、マグネトロンスパッタにより層厚を12nmにして微粒子層4上に堆積させた。電極面積は0.28cmであった。
【0063】
上記のように作製した面電子放出源について、図6に示すような測定系を用いて電子放出実験を行った。図6の実験系では、面電子放出源1の上部電極3側に、絶縁体スペーサ9を挟んで対向電極8を配置させる。そして、面電子放出源1および対向電極8は、それぞれ、電源7に接続されており、面電子放出源1にはV1の電圧、対向電極8にはV2の電圧がかかるようになっている。このような実験系を1x10−8ATMの真空中に配置して電子放出実験を行い、さらに、このような実験系を大気中に配置して電子放出実験を行った。これらの実験結果を図7〜11に示す。
【0064】
図7は、真空中にて電子放出実験した際の電子放出電流を測定した結果を示すグラフである。ここで、V1=1〜10V、V2=50Vとした。図7に示すように、1x10−8ATMの真空中において、シリカ粒子の割合が、70、99w%では電子放出が見られないのに対し、80、90、95w%では電子放出による電流が観測された。その値は、10Vの電圧印加で10−7A程度であった。
【0065】
図8は、上記と同様、真空中において電子放出実験した際の素子内電流を測定した結果を示すグラフである。ここでも、上記と同様、V1=1〜10V、V2=50Vとした。図8から、シリカ粒子の割合が70w%(銀ナノ粒子の割合は30w%)では、凝集体が大きくなりすぎ、適切な抵抗値が足りずに絶縁破壊を起こしているといえる。また、シリカ粒子の割合が99w%(銀ナノ粒子の割合は1%)では、抵抗値が大きすぎるため、適切な凝集体が形成できていないといえる。シリカの割合が90w%のものと、99%程度のものの基板付近において、TEM観察を行なった。その結果は、基板付近に凝集体の存在が多く、凝集体があまり存在していないことがわかった。すなわち、実施の形態で自己組織化膜の作成について原理の説明を行なったとおり、基板付近に適度に凝集体が形成されていると、電子放出効率が良いということが推察される。
【0066】
図9は、シリカ粒子の割合が90w%の面電子放出源を用いて、V1=1〜15V,V2=200Vとして、大気中で電子放出実験した際の、電子放出電流および素子内電流を測定した結果を示すグラフである。
【0067】
図9に示すように、大気中で、V1=15Vの電圧印加で10−10A程度の電流が観測された。
【0068】
さらに、図10は、図9と同様シリカ粒子の割合が90w%の面電子放出源を用いて、こでは、V1=15V,V2=200Vの電圧印加で連続駆動させた際の、電子放出電流および素子内電流を測定した結果を示すグラフである。図10に示す通り、6時間経っても安定的に電流を放出し続けた。
(比較例)
図11に、本発明に係る面電子放出源の構成の、別の一例である面電子放出源1’の電子加速層4’付近の断面を拡大した模式図を示す。本比較例では、第二の誘電体物質5’は、シート状で基板2に積層されており、積層方向に貫通する複数の開口部51を有する形状となっている。
【0069】
基板2には30mm角のSUS基板を用い、その上に第二の誘電体物質5’として厚さが6μmのポリカーボネートのシートを積層した。なお、このポリカーボネートのシートには、φ50nmの開口部(孔)51が1μmあたり6個の割合で開いており、その開口率は約1.2%である。開口部51は、シートの積層方向に貫通している。
【0070】
次に、絶縁被膜された金属微粒子6として金ナノ粒子(平均粒径10nm、うち絶縁皮膜水溶性高分子1nm)を2.5mmol/Lの濃度で溶媒である水に分散させた。この溶液を上記ポリカーボネートのシートの上に適量滴下し、上記開口部51に浸透させた後、自然乾燥させた。上部電極3には金を用い、マグネトロンスパッタにより層厚を12nmにして開口部51に金ナノ粒子が埋まっているポリカーボネートのシート(電子加速層4’)上に堆積させた。電極面積は0.28cmであった。
【0071】
上記のように作製した面電子放出源1’について、図6に示すような測定系を用いて電子放出実験を行ったところ、10Vの電圧印加で10−9A程度の電子放出による電流が確認された。
【0072】
ここで、実施例のシリカ粒子の割合が90w%の面電子放出源と比較例(図11)での面電子放出源の比較を行った結果について考察する。
【0073】
実施例のシリカ粒子の割合が90%の割合の面電子放出源の電子加速層では、絶縁体であるシリカ粒子はほぼ球形であり、基板との境界はくさび形状になっている。しかし、比較例のポリカーボネートのシートに50nmの開口部を形成し、そこに金属微粒子が堆積させており、基板に対する角度はほぼ垂直に形成されている。ここで、溶媒の蒸発速度を考えると、くさび形状のほうが閉塞空間になっているため、蒸発速度が遅くなっているため自己組織化には適しているといえる(原理説明参照)。また、蒸発速度は周囲環境、例えば周囲の風速とその分布、雰囲気湿度などによって変化するが、本実施例では、最適な膜厚で塗布するために、スピンコートの回転数の設定を行なっているが、状況に応じて適宜設定するのが良い。
【0074】
また、閉塞空間を作成するために、実施例では、シリカ粒子を用いてくさび状の空間を構成したが、絶縁体のシートをテーパ状にエッチングすることにより、くさび状の空間を構成し、使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、粒子の自己組織化作用を用いて、3次元的に微粒子構造体を得る方法に関するものであり、この方法を用いて、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等のディスプレイや、電子線照射装置、光源、電子部品製造装置、電子回路部品のような、電子線を利用した種々の装置における電子線源として適用され得る面電子放出源などに応用される。
【符号の説明】
【0076】
1,1’ 面電子放出源
2 第一の導電性部材(電極基板)
3 第二の導電性部材(薄膜電極)
4,4’ 微粒子層(電子加速層)
5,5’ 絶縁体の微粒子(誘電体部材)
6 金属微粒子(絶縁皮膜ナノ微粒子)
6‘ 金属微粒子の絶縁皮膜
7 電源(電源部)
8 対向電極
9 絶縁体スペーサ
10 開放空間部
11 閉塞空間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ微粒子を溶媒で分散させる工程と、前記ナノ微粒子を溶媒で分散させた溶液を基板上に塗布する工程と、前記ナノ微粒子を自己組織的に基板の垂直方向に成長させる工程を有する自己組織化膜の作成方法。
【請求項2】
上記ナノ微粒子を自己組織的に成長させる工程は、溶媒の蒸発が他の空間領域より遅延する空間領域を形成し、その空間領域は、該基板に対し垂直方向の成分を有するように形成し、その空間領域でナノ微粒子を自己組織的に成長させることを特徴とする請求項1記載の自己組織化膜の作成方法。
【請求項3】
上記空間領域は、上記ナノ微粒子より大きな粒子と基板とで形成されていることを特徴とする請求項2記載の自己組織化膜の作成方法。
【請求項4】
上記空間領域はエッチングにより作成されることを特徴とする請求項2記載の自己組織化膜の作成方法。
【請求項5】
前記溶媒の蒸発が遅延する空間領域は基板と該基板に対して90度以内の角度をなすように配置された部材で形成される空間領域であることを特徴とする請求項1〜4何れかに記載の自己組織化膜の作成方法。
【請求項6】
第一の導電性部材と、第二の導電性部材が略平行に形成され、該導電性部材間に電圧を印加することにより、電子を放出する面電子放出源において、
該導電性部材に対し略平行方向に配列された第一の誘電体部材と、第一の誘電体部材間に前記導電性部材に対して略垂直方向成分を有するように配列された第二の誘電体部材により覆われたナノ微粒子とを備え、前記第一の誘電体部材に第二の誘電体部材に覆われたナノ微粒子が担持されていることを特徴とする面電子放出源。
【請求項7】
上記担持された第二の誘電体部材で覆われたナノ微粒子を第一の誘電体部材と導電性部材で形成される略くさび状の領域で自己組織的に結晶成長させた請求項6記載の面電子放出源。
【請求項8】
上記第二の誘電体部材で覆われたナノ微粒子の平均径は、3〜20nmであることを特徴とする、請求項6あるいは7の何れかに記載の面電子放出源。
【請求項9】
上記第一の誘電体部材が微粒子であり、上記面電子放出源における上記第一の誘電体部材と第二の誘電体部材で覆われたナノ微粒子の割合が、重量比で4:1〜19:1であることを特徴とする、請求項6〜8の何れかに記載の面電子放出源。
【請求項10】
上記第二の誘電体部材は、電子をトンネルさせることが可能な厚みであることを特徴とする請求項6〜9の何れかに記載の面電子放出源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−269372(P2010−269372A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120430(P2009−120430)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】