説明

自己組織型キラルプローブおよびこれを用いた被検査キラル物質の絶対配置決定方法

【課題】被検査キラル物質の絶対配置を容易により安価に決定する手段および方法を提供すること。
【解決手段】クラウンエーテルを共役させたポルフィリンからなる自己組織型キラルプローブ。この自己組織型キラルプローブと被検査物質を、金属イオン存在下で相互作用をさせ、相互作用した物質のスペクトルを測定することを含む、被検査物質の絶対配置を決定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己組織型キラルプローブおよびこのプローブを用いた被検査キラル物質の絶対配置決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子式が同じであっても、その構造が“右手”と“左手”のような関係で重ね合わすことができない異性体が存在する分子はキラリティーをもつ。医薬品のなかには、それら光学異性体間で薬理作用・毒性などに差異がある事実が報告され、光学純度の高い医薬品の開発が強く求められている。そこで、創薬事業においてその絶対配置と光学純度を決める過程が不可欠となる。
【0003】
直接的に絶対配置を決定できる方法にX線結晶構造解析があるが、非結晶性のキラル化合物に適用できないばかりか、一検体ごとに単結晶を作成し大型装置にかけるのは効率的でない。このようなキラル化合物については、円二色性スペクトルを用いた経験則が有効であり、分析使用量も少なくてすむ利点もある。しかしながら、検査対象となるキラル化合物の多くは発色団を持たないので、その利用も制限されてきた。そこで、井上らは、高い分子吸光係数を有するポルフィリンの二量体を合成し、光学活性アミンとキラルな超分子錯体を形成することで、ふたつのポルフィリン間の大きな励起子相互作用を利用して、絶対配置が決定できる円二色性スペクトルを得ている〔特許第3416776号公報(特許文献1)、特開2004-264049号公報(特許文献2)〕。
【特許文献1】特許第3416776号公報
【特許文献2】特開2004-264049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の説明のように、ふたつのポルフィリン間の大きな励起子相互作用を利用して円二色性スペクトルを測定する方法が、被検査キラル物質の絶対配置を決定するうえで優れている。しかしながら、ふたつのポルフィリンが、被検査キラル物質を挟み込むように配向させなければならず、そのポルフィリン二量体の合成は手間がかかる。事実、上記特許に関連したポルフィリン二量体が和光純薬(株)から市販されているが、20mgが20,000円と高額である。
【0005】
そこで本発明の目的は、被検査キラル物質の絶対配置を容易により安価に決定する手段および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は以下のとおりである。
[1]クラウンエーテルを共役させたポルフィリンからなる自己組織型キラルプローブ。
[2]クラウンエーテルが15−クラウン−5、9−クラウン−3、12−クラウン−4、13−クラウン−4、14−クラウン−4、16−クラウン−5、および18−クラウン−6から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である[1]に記載のプローブ。
[3]ポルフィリンがテトラフェニルポルフィリン、エチオポルフィリン、オクタエチルポルフィリン、メソポルフィリン、およびヘマトポルフィリンから成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である[1]または[2]に記載のプローブ。
[4]ポルフィリンが中心金属としてアルカリ土類金属イオンおよび遷移金属イオンからなる群から選択される2価の金属イオンを含む[1]〜[3]のいずれかに記載のプローブ。
[5]ポルフィリンが中心金属として亜鉛またはマグネシムを含む[1]〜[3]のいずれかに記載のプローブ。
[6]被検査物質と[1]〜[5]のいずれか1項に記載の自己組織型キラルプローブとを、金属イオン存在下で相互作用をさせ、相互作用した物質のスペクトルを測定することを含む、被検査物質の絶対配置を決定する方法。
[7]被検査物質がキラル物質である[6]に記載の方法。
[8]被検査物質がジアミン類,アミノアルコールおよびアミノ酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の物質である[6]または[7]に記載の方法。
[9]金属イオンがカリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、バリウムイオン、ストロンチウムイオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンである[6]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]スペクトルが円二色性スペクトルである[6]〜[9]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のクラウンエーテルを共役させたポルフィリンからなる自己組織型キラルプローブを用いることで、絶対配置未知の試料溶液に、このプローブと適当な金属イオン(例えば、K+)を溶かして円二色性スペクトルを測定するだけで、即座に被検査キラル物質の絶対配置を決定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[自己組織型キラルプローブ]
本発明の自己組織型キラルプローブは、クラウンエーテルを共役させたポルフィリンからなる。本発明で用いることができるクラウンエーテルとしては、例えば、15−クラウン−5であることができる。15−クラウン−5以外に、適当な金属イオンとサンドイッチ型錯体を形成できるクラウンエーテル、または類縁体であれば任意のものでよい。たとえば、9−クラウン−3、12−クラウン−4、13−クラウン−4、14−クラウン−4、16−クラウン−5、18−クラウン−6などがあげられる。また当該クラウン化合物は酸素以外のヘテロ原子が含まれていてもよく、窒素を含むクラウン化合物はアザクラウン化合物、硫黄を含むチアクラウン化合物があげられる。さらにその環状体のなかにベンゼンやピリジンなどの芳香族基やエステル基が含まれていてもよい。
【0009】
本発明で用いることができるポルフィリンとしては、例えば、テトラフェニルポルフィリンであることができる。テトラフェニルポルフィリン以外に、エチオポルフィリン、オクタエチルポルフィリン、メソポルフィリン、ヘマトポルフィリンなどがあげられる。また、ポルフィリンをなす4つのピロール環のうち一部が還元されたクロリンであってもよい。
【0010】
ポルフィリンは、中心金属として亜鉛またはマグネシムを含むことができる。さらに、亜鉛またはマグネシム以外に、アルカリ土類金属イオンや遷移金属イオンからなる群から選択される2価の金属イオンを挙げることもできる。自己組織化構造における二つのポルフィリンの中心金属は互いに同一でもよいし異なっていてもよい。
【0011】
クラウンエーテルとポルフィリンは共役させられている。クラウンエーテルとポルフィリンとの共役は、ポルフィリンがテトラフェニルポルフィリンの場合、テトラフェニルポルフィリンのフェニル基を介して行うことができる。テトラフェニルポルフィリンのフェニル基を介して共役したクラウンエーテルとポルフィリンは、例えば、以下に示すように合成することができる。反応の詳細は実施例1に示す。
【0012】
【化1】

【0013】
3, 4-ジヒドロベンズアルデヒトとテトラエチレングリコールジトシレートとをCsFの存在下で反応させてホルミルベンゾ−15−クラウン−5 (化合物1)を得る。この反応は、例えば、CH3CN中、Ar雰囲気、還流条件で行うことができる。反応後、カラムクロマトグラフィー、再沈殿等による精製を行うことができる。次いで、ホルミルベンゾ−15−クラウン−5 (化合物1)をベンズアルデヒドおよびピロールと反応させて、テトラフェニルポルフィリン−15−クラウン−5 (化合物2)を得る。この反応は、例えば、プロピオン酸中:還流条件で行うことができる。反応後、カラムクロマトグラフィー、GPC等による精製を行うことができる。テトラフェニルポルフィリン−15−クラウン−5 (化合物2)の金属錯体は、金属錯体を形成したい金属化合物とテトラフェニルポルフィリン−15−クラウン−5 (化合物2)とを反応させることで得られる。反応後、カラムクロマトグラフィー、あるいは再沈殿等による精製を行うことができる。
【0014】
上記は、テトラフェニルポルフィリン−15−クラウン−5 (化合物2)の金属錯体の合成方法であるが、テトラフェニルポルフィリン−15−クラウン−5 (化合物2)の金属錯体以外の物質についても同様にして合成することができる。
【0015】
[被検査キラル物質の絶対配置決定方法]
本発明の被検査物質の絶対配置決定方法は、被検査物質と上記本発明の自己組織型キラルプローブとを、金属イオン存在下で相互作用をさせ、相互作用した物質のスペクトルを測定することを含む。
【0016】
被検査物質は限定されないが、金属ポルフィリンに配位可能な塩基性基をもつキラル化合物であり、塩基性基としてはアミノ基やヒドロキシル基があげられる。具体的には、ジアミン類、アルコールアミン類およびアミノ酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の物質であることができる。ジアミン類としては、1,2−ジフェニレンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、3−アミノピロリジン、3−(メチルアミノ)ピロリジン、N,N'−ジメチルアミノシクロヘキサンなどがあげられる。一方、アルコールアミンとしては、α−フェニルグリシンやα−メチル−4−ピリジンメタノールなどを挙げることができる。また、アミノ酸としては、必須アミノ酸が対象となる。
【0017】
金属イオンとしては、例えば、カリウムイオンを挙げることができる。カリウムイオン以外に、イオン半径が比較的大きいルビジウムイオン、セシウムイオン、バリウムイオン、ストロンチウムイオン等を用いることができる。
【0018】
被検査物質、キラルプローブおよび金属イオンの量比は以下のようにすることができる。すなわち、ジアミン類の絶対キラリティーの決定には、金属ポルフィリンが約10-6mol/Lの濃度で、カリウムイオンが0.5から1当量、被検定ジアミン類が5当量を超えない範囲が望ましく、これらの範囲を念頭に用いる溶媒に応じて適宜条件(測定温度も含めて)を設定する。アルコールアミン類の絶対キラリティーの決定には、金属ポルフィリンが約10-6mol/Lの濃度で、カリウムイオンが1当量、被検定アルコールアミン類が10-3mol/L程度が望ましく、これらの範囲を念頭に用いる溶媒に応じて適宜条件(測定温度も含めて)を設定する。
【0019】
本発明では、上記被検査物質とキラルプローブとが相互作用した物質のスペクトルを測定する。被検査物質とキラルプローブとの相互作用は、以下の条件で行うことができる。例えば、金属ポルフィリン、カリウムイオン、キラル被検査物質を非リガンド性溶媒に混合させる。ここでいう非リガンド性溶媒は、塩化メチレン、クロロホルム、二塩化エタン、四塩化エタン、四塩化炭素のようなハロゲン化脂肪族炭化水素やアセトニトリル等があげられる。
【0020】
測定するスペクトルは、例えば、円二色性スペクトルであることができる。円二色性スペクトルは、以下のように測定することができる。例えば、金属ポルフィリン、カリウムイオン、および被検査キラル化合物を前記溶媒に溶解させる。金属ポルフィリンの濃度は限定されないが、通常10-6mol/Lの濃度で充分検出できる。またカリウムイオンと被検査キラル物質の濃度のついては、ジアミン類とアルコールアミン類のそれぞれについて、前記の量比を勘案して決めるのが望ましい。また測定温度は0℃から25℃で設定することが適当である。
【0021】
なお、アミノ酸の絶対キラリティーの決定には、対象となるアミノ酸をカリウム塩に誘導して行うことができる。例えば、アミノ酸カリウム塩約5mgを4×10-6mol/Lの金属ポルフィリンの溶液(CH2Cl2:MeCN = 2:8)10mLに加え、一週間攪拌し、その後メンブレンフィルターを用いて溶液を濾過し、その濾液を測定することができる。
【0022】
本発明の方法によれば、被検査物質の絶対配置を容易に決定することができる。すなわち、キラルなジアミンやアルコールアミンとカリウムイオンが共存すると、ポルフィリンの自己組織化とともに不斉が誘起され、CDスペクトルが観測される。そのCDスペクトルは特徴的な第一コットン効果(長波長側)と第二コットン効果(短波長側)を示すが、各ピークの符号は、被検査物質のキラリティーに相関する。その対応関係を成立させることにより、絶対配置不明の化合物の絶対配置を決定することができる。
【実施例】
【0023】
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1:合成
【化2】

【0025】
(1)ホルミルベンゾ−15−クラウン−5 (1) の合成
反応で用いたCH3CNはモレキュラーシーブス4Aで乾燥させたものを使用した。
3, 4-ジヒドロベンズアルデヒト:5.27 g (38.2 mmol)とCsF:12.4 g (81.6 mmol)をCH3CN:700mLに加えAr雰囲気下で還流させた後に、テトラエチレングリコールジトシレート:26.8g (CH3CN溶液:350mL) (53.3mmol)を徐々に加えた。次にCsF (3): 12.6 g (CH3CN溶液:700mL) (82.9mmol)をゆっくりと滴下し、21時間反応させた。反応液をブフナー漏斗でろ過し、エバポレーションした。その後1N HClaq.‐CHCl3および、H2O‐CHCl3で洗浄しMgSO4を用いて乾燥させ、オープンカラムクロマトグラフィー (6wt% H2O処理シリカ / 5% MeOH in Et2O) で分離、ヘキサンによる再沈殿による精製をおこない化合物(1)を得た (収率:62%)。
【0026】
1H NMR (400MHz, CDCl3, room temp.):δ(ppm) 3.76 - 3.79 (m, 8H, -CH2O-), 3.91 - 3.96 (m, 4H, -CH2O-), 4.19 - 4.22 (m, 4H, - CH2O- ), 6.94 (d, 1H, J = 8.0 Hz, ArH), 7.39 (d, 1H, J = 1.6 H z, ArH), 7.44 (dd, 1H, J = 8.0 Hz and J = 2.1 Hz, ArH), 9.84 (s, 1H, ArCHO); FAB mass spectrum m/z = 297 [M+H]+:m-ニトロベンジルアルコールをマトリックスとして使用した。
【0027】
(2)テトラフェニルポルフィリン−15−クラウン−5 (2) の合成
ベンズアルデヒド:0.850 mL (8.37 mmol)とホルミルベンゾ−15−クラウン−5 (1):0.818 g (2.76mmol )およびPyrrole:0.750 mL (10.8 mmol)をプロピオン酸:100 mLに溶かし1時間refluxさせた。その後、溶媒を完全に除去し、MeOHで繰り返し残渣を洗浄した。残渣をオープンカラムクロマトグラフィー (6wt% H2O処理シリカ / CHCl3:AcOEt:MeOH=10:2:1) および、GPCで精製し化合物(2)を得た (収率:6.3%)。
【0028】
1H NMR (400MHz, CDCl3, 296.8K):δ(ppm) -2.77 (s, 2H, pyrrole-NH), 3.82 (s, 4H, -CH2O-), 3.84-3.89 (mult, 4H, -CH2O-), 3.92 (t, 2H, J = 4.1Hz, -CH2O-), 4.05 (t, 2H, J = 4.2Hz, -CH2O-), 4.25 (t, 2H, J = 4.1Hz, -CH2O-), 4.34 (t, 2H, J = 4.1Hz, -CH2O-), 7.15 (d, 1H, J = 8.1Hz, ArH), 7.68 - 7.76 (m, 11H, ArH), 8.20 (d, 6H, J = 6.6Hz, ArH), 8.84 (s, 6H, pyrrole-H), 8.89 (d, 2H, J = 4.7Hz, pyrrole-H); FAB mass spectrum m/z = 805 [M+H]+:m-ニトロベンジルアルコールをマトリックスとして使用した。
【0029】
(3)テトラフェニルポルフィリン−15−クラウン−5−亜鉛錯体 (3) の合成
2:120.3 mg (0.149 mmol)をCHCl3 150 mLに溶解させ、そこにMeOHに飽和させたZn(OAc)2を6mL添加し、室温で15時間撹拌した。その後CHCl3‐H2Oで洗浄し、MgSO4を用いて乾燥させヘキサンを用いて結晶化し化合物(3)を得た(収率:quant.)。
【0030】
1H NMR (400MHz, CDCl3, 298.3K):δ(ppm) 2.85 (s, 2H, -CH2O-), 3.02 (s, 2H, -CH2O-), 3.07 (s, 2H, -CH2O-), 3.13 (s, 2H, -CH2O-), 3.15 (s, 2H, -CH2O-), 3.36 (s, 2H, -CH2O-), 3.66 (s, 2H, -CH2O-), 3.91 (s, 2H, -CH2O-), 6.92 (d, 1H, J = 8.1 Hz, ArH), 7.56 (d, 1H, J = 1.6 Hz, ArH), 7.61 (dd, 1H, J = 8.0 Hz and J = 1.7 Hz, ArH), 7.70-7.76 (mult, 9H, ArH), 8.20 (d, 6H, J = 7.3 Hz, ArH), 8.92 (s, 8H, pyrrole-H); FAB mass spectrum m/z = 867 [M+H]+:m-ニトロベンジルアルコールをマトリックスとして使用した。
【0031】
(4)テトラフェニルポルフィリン−15−クラウン−5−マグネシウム錯体 (4) の合成
反応で用いたCH2Cl2は30分間 N2でバブリングしたものを用いた。50mLのCH2Cl2に2 :50.4 mg (0.0626 mmol) を溶解させ、Et3N: 0.25 mL (1.80 mmol) とMgBr2・OEt2:200 mg (0.775 mmol) を加え室温・Ar雰囲気下で5時間攪拌した。その後CH2Cl2‐Sat. NaHCO3aq.で洗浄しMgSO4を用いて乾燥させ、エバポレーション後オープンカラムクロマトグラフィー(アルミナカラム / CH2Cl2:MeCN=10:3からCH2Cl2:AcOEt:MeOH=10:2:1までグラジエント溶出)で精製し化合物(4)を得た (収率33%)。
【0032】
1H NMR (400MHz, CDCl3 contains 1%v/v CD3OD, 297.2K):δ(ppm) 2.50 (br, 4H, -CH2O-), 2.62 (br, 4H, -CH2O-), 2.95 (s, 2H, -CH2O-), 3.00 (s, 2H, -CH2O-), 3.49 (s, 2H, -CH2O-), 3.55 (s, 2H, -CH2O-), 6.75 (d, 1H, J = 8.0 Hz, ArH), 7.45 (s, 1H, ArH), 7.56 (d, 1H, J = 7.0 Hz, ArH), 7.70 (br, 9H, ArH), 8.19 (d, 6H, J = 4.3 Hz, ArH), 8.80-8.86 (mult, 8H, pyrrole-H); FAB mass spectrum m/z = 826 [M]+:m-ニトロベンジルアルコールをマトリックスとして使用した。
【0033】
実施例2−1
キラルジアミン類に対するキラルセンシング
クラウン化ポルフィリン(1, M = Zn, R = H; 4.0 × 10-6 M)と被検査物質として、(1S,2S)-ジメチルアミノシクロヘキサンをCH2Cl2-MeCN (9:1 v/v)に溶解させ、25 ℃、K+の非存在下および存在下(0.5 当量)における円二色性(CD)を測定した。(1S,2S)-ジメチルアミノシクロヘキサンの結果が図1である。K+フリーではCD不活性であった(図 1左図)のに対して、K+存在下では被検査物質に由来するCDスペクトルを観測した(図 1右図)。この結果から、K+添加による共働効果によって被検査物質のキラリティーの読み出しができることが分かる。
【0034】
尚、上記実験では、10 当量のジアミンの添加でCD強度が減少するので、ジアミン類の絶対キラリティーの決定には、ポルフィリン(3)が約10-6 mol/Lの濃度で、K+が0.5〜3当量、被検定ジアミン類が5当量を超えない範囲が望ましい。
【0035】
実施例2−2
被検査物質として(1R,2R)-(-)-1,2-ジフェニルエチレンジアミン、(1S,2S)-(+)-1,2-ジアミノシクロヘキサン、または(3S)-(-)-3-アミノピロリジンを用いた以外、実施例2−1と同様にしてK+存在下では被検査物質に由来するCDスペクトルを観測した(図2)。実施例2-1と同様に、被検査物質のキラリティーの読み出しができることが分かる。
【0036】
ジアミン類の絶対キラリティーの決定には、ポルフィリン(3)が約10-6 mol/Lの濃度で、K+および被検定ジアミン類が、それぞれ1当量および10当量を超えない範囲が望ましく、これらの範囲を念頭に用いる溶媒に応じて適宜条件(測定温度も含めて)を設定することが適当である。
【0037】
実施例2−3
キラルアミノアルコール類にたいするキラルセンシング
アルコール類と錯体形成能が期待されるマグネシウムポルフィリン誘導体(4)を用いて、実施例2−1と同様にしてK+存在下では被検査物質に由来するCDスペクトルを観測した(図3)。実施例2−1と同様に、被検査物質のキラリティーの読み出しができることが分かる。
【0038】
アルコールアミン類の絶対キラリティーの決定には、ポルフィリン(4)が約10-6mol/Lの濃度で、K+が1当量、被検定アルコールアミン類が10-3 mol/L程度が望ましく、これらの範囲を念頭に用いる溶媒に応じて適宜条件(測定温度も含めて)を設定することが適当である。
【0039】
実施例2−4
アミノ酸カリウム塩の固液抽出によるキラルセンシング
実施例1で合成した亜鉛ポルフィリン誘導体(3)を用いて、アミノ酸カリウム塩(L-Val-・K+)に対してキラルセンシングをおこなった。その結果、L-Val-・K+においてCD活性が認められた(図4)。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例2−1の実験条件および結果。
【図2】実施例2−2の実験条件および結果。
【図3】実施例2−3の実験条件および結果。
【図4】実施例2−4の実験条件および結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウンエーテルを共役させたポルフィリンからなる自己組織型キラルプローブ。
【請求項2】
クラウンエーテルが15−クラウン−5、9−クラウン−3、12−クラウン−4、13−クラウン−4、14−クラウン−4、16−クラウン−5、および18−クラウン−6から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
ポルフィリンがテトラフェニルポルフィリン、エチオポルフィリン、オクタエチルポルフィリン、メソポルフィリン、およびヘマトポルフィリンから成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1または2に記載のプローブ。
【請求項4】
ポルフィリンが中心金属としてアルカリ土類金属イオンおよび遷移金属イオンからなる群から選択される2価の金属イオンを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のプローブ。
【請求項5】
ポルフィリンが中心金属として亜鉛またはマグネシムを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のプローブ。
【請求項6】
被検査物質と請求項1〜5のいずれか1項に記載の自己組織型キラルプローブとを、金属イオン存在下で相互作用をさせ、相互作用した物質のスペクトルを測定することを含む、被検査物質の絶対配置を決定する方法。
【請求項7】
被検査物質がキラル物質である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
被検査物質がジアミン類,アミノアルコールおよびアミノ酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の物質である請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
金属イオンがカリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、バリウムイオン、ストロンチウムイオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンである請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
スペクトルが円二色性スペクトルである請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−218823(P2007−218823A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41991(P2006−41991)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】