説明

自己融着性絶縁電線、及び圧縮機駆動用モータ

【課題】耐摩耗性等の機械的強度や耐熱性が優れた融着皮膜を有し、高占積率仕様のモータの製造に使用する場合でも優れた巻線性を示す自己融着性絶縁電線、及び、この自己融着性絶縁電線を用いるモータを提供する。
【解決手段】ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーを共重合させてなるフェノキシ樹脂、並びに架橋剤を含有する樹脂組成物からなる融着皮膜を有することを特徴とする自己融着性絶縁電線、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂、並びに架橋剤を含有する樹脂組成物からなる融着皮膜を有することを特徴とする自己融着性絶縁電線、及び、これらの自己融着性絶縁電線を用いるモータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機駆動用モータの巻線として使用される自己融着性絶縁電線、及びこの自己融着性絶縁電線を用いた圧縮機駆動用モータに関する。
【背景技術】
【0002】
空調機器や冷蔵庫等の冷凍機器に使用される圧縮機の駆動モータ(圧縮機駆動用モータ。以下、単に「モータ」とも言う)では、モータ出力が大きい場合のコイル振動を抑制するため、自己融着性絶縁電線を巻回してコイルを形成している。自己融着性絶縁電線とは、絶縁皮膜の最外層に、融着性を有した樹脂を塗布してなる融着皮膜を設けた絶縁電線であり、融着皮膜間の融着により電線相互が固着されコイル振動が抑制される。
【0003】
従って融着皮膜には、良好な融着性が求められ、又、巻線時のクラック等の発生を抑制するため良好な可とう性も求められる。さらに、モータの効率を向上するために、融着皮膜には、優れた機械的強度や表面の良好な滑り性が望まれ、特に優れた耐摩耗性や耐熱性が求められている。
【0004】
即ち、モータの効率を向上するために、モータ鉄心のスロット内により多くの絶縁電線を巻線し高占積率化することが望まれるが、融着皮膜の耐摩耗性が低く又、表面の滑り性が悪い場合は、高占積率仕様のモータでは巻線時に融着皮膜が削れやすいとの問題が生じるのでこれらの向上が望まれる。又、モータがロックしたときや稼働時の発熱により絶縁層が軟化し導体同志が接触してショートする等の問題を防止するため、高い耐軟化温度(絶縁層が軟化する温度)が求められ、即ち耐熱性の向上が望まれるのである。
【0005】
融着皮膜が熱可塑性樹脂からなる場合、高温雰囲気下で使用されるモータでは、モータ運転中の融着皮膜の融解を防ぐため高融点の樹脂が必要となる。すると、融着は高温で行う必要があり、モータの鉄心の絶縁樹脂やリード線被覆樹脂等を劣化又は融解させる問題が生じる。
【0006】
そこで、高温雰囲気下で使用されるモータの絶縁電線の融着皮膜には、一般的に、熱硬化型樹脂が用いられ、半硬化又は未硬化の状態で熱硬化型融着皮膜を形成し、巻線後に融着皮膜を硬化させることにより電線相互を固着する方法が採用されている。この熱硬化型樹脂としては、例えば特許文献1に、分子量20000以上のポリヒドロキシエーテル樹脂、ポリサルホン系樹脂、及び1分子中に2個の官能基を有する架橋剤を混合して得られる熱硬化型樹脂(熱硬化型自己融着絶縁材)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−352962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の熱硬化型樹脂により得られた融着皮膜の機械的強度は、未だ充分とは言えず、特に耐摩耗性が不充分でありその向上が望まれる。又、耐熱性についてもその向上が望まれている。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決して、耐摩耗性等の機械的強度や耐熱性がより優れた融着皮膜を有し、高占積率仕様のモータの製造に使用する場合でも優れた巻線性を示す自己融着性絶縁電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーを共重合させてなるフェノキシ樹脂と、架橋剤とを含有する熱硬化型樹脂(熱硬化型融着樹脂組成物)を用いて融着皮膜を形成することにより、又は
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂の混合物と、架橋剤とを含有する熱硬化型融着樹脂組成物を用いて融着皮膜を形成することにより、
耐摩耗性等の機械的強度や耐熱性に優れた融着皮膜が得られることを見出し、以下に示す構成からなる本発明を完成した。
【0011】
請求項1に記載の発明は、ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーを共重合させてなるフェノキシ樹脂、並びに架橋剤を含有する樹脂組成物からなる融着皮膜を有することを特徴とする自己融着性絶縁電線である。
【0012】
ここでフェノキシ樹脂とは、ビスフェノールやビフェニル等の水酸基と、エピハロヒドリンや低分子量エポキシを反応させて合成される高分子量ポリヒドロキシポリエーテルであり、又高分子量エポキシ樹脂でもある。
【0013】
前記フェノキシ樹脂を構成するビスフェノールAとは、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパンであり、ビスフェノールSとは、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホンであるが、それらの芳香環にアルキル基やブロモ基等の置換基を有するものも、本発明においてビスフェノールA又はビスフェノールSとして使用することができる。
【0014】
ビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーとは、下記式で表されるビフェニル骨格を有するエポキシ化合物である。
【0015】
【化1】

【0016】
式中、Rは、水素、アルキル基、ブロモ基等であり、それぞれのRは互いに異なっていてもよい。又、nは通常1であるが、2以上のものも用いられる。ビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーは、ジp−ヒドロキシビフェニル(芳香環に置換基を有するものも含む。)とエピハロヒドリンの縮合により得ることができる。縮合反応の条件等は、公知の縮合反応と同様な条件を採用することができる。本発明の趣旨を損ねない範囲で、ビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーと併用して、前記ビフェニル骨格を含まないエポキシモノマーを用いてもよい。
【0017】
本発明に用いられるビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーとしては、市販品を使用してもよい。具体的には、ジャパンエポキシレジン社製の商品名:YX4000、YX4000H、YL6121H、YL6640、YL6677等を挙げることができる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、フェノキシ樹脂の重量平均分子量が5000以上であることを特徴とする請求項1に記載の自己融着性絶縁電線である。ここで、重量平均分子量は、GPCにより測定したポリスチレン換算の値である。フェノキシ樹脂の重量平均分子量は、機械的強度、可とう性の観点より、5000以上が好ましく、さらに好ましくは15000以上である。
【0019】
請求項3に記載の発明は、樹脂組成物中に含まれる前記ビスフェノールSの含有量が、ビスフェノールSとビスフェノールAの全量に対し、モル比で0.2〜0.5となる範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自己融着性絶縁電線である。本発明の自己融着性絶縁電線が使用される圧縮機駆動用モータは、冷媒及び冷凍機油環境下で運転されるので、絶縁電線には耐冷媒性及び耐冷凍機油性が望まれるが、樹脂組成物中に含まれるビスフェノールSの含有量が、ビスフェノールSとビスフェノールAの合計1モルに対し、0.2モル未満であると、冷媒や冷凍機油中に融着層の成分が抽出され濁りが生じやすくなる。一方、0.5モルを超えると、冷媒処理後に皮膜が白くなる白化が生じやすくなり又融着開始温度が高くなるとの問題がある。従って、モル比で0.2〜0.5となる範囲内が好ましい。
【0020】
本発明の自己融着性絶縁電線の製造に用いられる前記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーを共重合させて得られる。この共重合反応では、ビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーのエポキシ基と、ビスフェノールA及びビスフェノールSの水酸基が反応して、これらがエーテル結合を形成して共重合体が得られる。なお、本発明の趣旨を損ねない範囲で、他のビスフェノール類、他の2官能エポキシ化合物やエピハロヒドリン等を、ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーに加えて、前記共重合を行うこともできる。
【0021】
共重合反応が、ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーのみで行われる場合、ビスフェノールA及びビスフェノールSの合計の当量数とビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーの当量数が等しい値に近い程、高分子量の共重合体が得られる。このフェノキシ樹脂の重量平均分子量は15000以上が好ましいので、好ましくは、この分子量が得られるように、両者の比率が選定される。
【0022】
この共重合反応は、例えば、シクロヘキサノン等の溶媒中で、ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマー等の原料と触媒を混合し、反応温度120〜160℃程度で加熱することにより行うことができる。通常反応終点までの時間は5〜10時間程度であるが、反応の終点は、粘度変化のモニター等により確認することができる。
【0023】
この共重合反応に使用される触媒としては、アルカリが用いられるが、中でもアミン系触媒が好ましい(請求項4)。アミン系触媒を使用することにより、耐冷媒性、耐冷凍機油性がさらに優れた自己融着性絶縁電線が得られる。イミダゾール系等、アミン系以外の触媒を使用して得たフェノキシ樹脂を使用した場合には、モータの運転中に、融着皮膜のガラス転移温度Tgの低下を招き、冷凍機油へ融着材料の抽出量が大きくなる等の問題が発生しやすくなる。
【0024】
例えば、架橋剤が安定化イソシアネートの場合は、融着処理後、モータの運転により冷凍機油が高温になると、フェノキシ樹脂と架橋剤との間のウレタン結合が残存触媒により乖離され、ガラス転移温度Tgが低下するとともに、抽出物が多くなり冷凍機油を白濁させる問題が発生しやすい。しかし、アミン系触媒は沸点が比較的低く、電線作製の際に行われる半硬化状態にするための焼付け時に揮発しやすいため、皮膜中に残存する触媒量が比較的少ない。又、残存した場合でも、触媒としての活性が低いため、ウレタン結合を乖離させガラス転移温度Tgを低下させる問題も小さく、冷凍機油の白濁の問題も発生しにくい。アミン系触媒としては沸点が250℃以下のものが好ましい。
【0025】
なお、アミン系触媒を使用した場合でも、電線作製の際の半硬化状態にするため程度の焼付けではその際にアミン系触媒を全て揮発させることは困難である。そこで、共重合後に触媒残存量を減少させる工程を設けることが好ましく、特に、アミン系触媒の残存量をフェノキシ樹脂に対して100ppm以下とすると、冷凍機油の白濁を効果的に抑制できるのでさらに好ましい。又、アミン系触媒の残存量を100ppm以下とすると、融着皮膜の融着力が経時的に低下する問題も抑制することができる。
【0026】
共重合後に触媒残存量を減少させる方法としては、例えば、反応後の反応系をアミン系触媒の沸点以上に加熱してアミン系触媒を揮発させて除去する方法が挙げられる。アミン系触媒の揮発を容易にするため、溶媒により希釈した後加熱してもよい。
【0027】
本発明に用いられる架橋剤とは、1分子中に2個以上の官能基を有し、フェノキシ樹脂間を架橋する化合物であり、例えば、2価の安定化イソシアネート、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、2価の有機酸、2価の有機酸の誘導体が挙げられる。
【0028】
2価の安定化イソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4”−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート等のイソシアネート化合物を、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基等を有する化合物でマスクしたもの等が挙げられる。
【0029】
具体的には、日本ポリウレタン工業社製の商品名:ミリオネートMS−50、コロネート2501、2507、2513、2515や、旭化成社製の商品名:デュラネート17B60−PX、TPA−B80X、MF−B60X、MF−K60X、E402−B−80T等の市販品を用いることができる。
【0030】
また、尿素樹脂としては、日本サイテック社製の商品名:UFR65、UFR300、ベンゾグアナミン樹脂としては、日本サイテック社製の商品名:サイメル1123、マイコート102、105、106、1128等の市販品を例示することができる。
【0031】
また、2価の有機酸としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。2価の有機酸の誘導体としては例えばこれらの酸塩化物が挙げられる。
【0032】
架橋剤の含有量は、前記フェノキシ樹脂、即ち、ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーの合計重量に対して、10〜20重量%の範囲が好ましい(請求項5)。架橋剤量が10重量%未満であると、高温雰囲気下および冷媒・冷凍機油中における融着力が低下しやすく冷媒抽出率が増大する場合があり、逆に20重量%を超えると融着が困難になる場合がある。
【0033】
前記のフェノキシ樹脂及び架橋剤の所要量を、有機溶媒に溶解することにより、フェノキシ樹脂及び架橋剤を含有する樹脂組成物の溶液(ワニス)が得られる。有機溶媒としては、シクロヘキサノン等が挙げられる。このワニスを絶縁電線の絶縁皮膜上に塗布し、常法により半硬化状態にエナメル焼付けすることにより融着皮膜が形成され、本発明(請求項1〜5に記載の発明)の自己融着性絶縁電線が得られる。
【0034】
請求項6に記載の発明は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂、並びに架橋剤を含有する樹脂組成物からなる融着皮膜を有することを特徴とする自己融着性絶縁電線である。ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂の混合物に、架橋剤を加えた樹脂組成物によっても、耐摩耗性等の機械的強度や耐熱性が優れた融着皮膜を形成することができ、優れた自己融着性絶縁電線を製造することができる。
【0035】
ここで、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピハロヒドリンを反応させて得られるものであり、この反応は、公知の方法、条件により行うことができる。ビスフェノールS型エポキシ樹脂は、ビスフェノールSとエピハロヒドリンを反応させて得られるものであり、この反応は、公知の方法、条件により行うことができる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールS型エポキシ樹脂は、フェノキシ樹脂と称することができる程度の分子量を有するものが好ましい。ある程度の分子量を有することにより、可とう性等の物性を満足しやすくなる。
【0036】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールS型エポキシ樹脂としては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、YP−40ASM40、YP−50(ビスフェノールA型フェノキシ樹脂:東都化成社製)、YPS−007A30(ビスフェノールS型フェノキシ樹脂:東都化成社製)等を挙げることができる。
【0037】
請求項6に記載の発明に用いられるビフェニル型エポキシ樹脂とは、請求項1に記載の発明に用いられる前記のビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーの重合体である。ただし、フェノキシ樹脂と称することができる程度の高分子量を有するものが好ましい。具体的には、ジャパンエポキシレジン社製の商品名:YX8100BH30、YX6954BH30等を挙げることができる。
【0038】
請求項6に記載の発明に用いられる架橋剤としては、請求項1に記載の発明に用いられる前記の架橋剤と同様なものを用いることができる。
【0039】
前記のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂、並びに架橋剤の所要量を有機溶媒に溶解することにより、フェノキシ樹脂及び架橋剤を含有する樹脂組成物の溶液(ワニス)が得られる。有機溶媒としてはシクロヘキサノン等が挙げられる。このワニスを絶縁電線の絶縁皮膜上に塗布し、常法により半硬化状態にエナメル焼付けすることにより、融着皮膜が形成され、本発明(請求項6に記載の発明)の自己融着性絶縁電線が得られる。
【0040】
請求項1に記載の発明及び請求項6に記載の発明のいずれにおいても、融着皮膜に、滑剤が含有されていると、巻線の滑り性が向上するため、巻線性が向上し高占積率化を図ることが容易になるので好ましい(請求項7)。
【0041】
滑剤としては、ポリエチレン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ワックス、ステアリン酸アミド等のアミド系ワックス、ミツロウ、カルナバワックス、モンタンワックス等及びこれらワックスの分子末端を変性させたものを単独もしくは複数選択して配合することができる。
【0042】
滑剤を、前記フェノキシ樹脂及び架橋剤を含有する樹脂組成物(ワニス)に直接添加して、融着皮膜を形成させてもよい。又、滑剤を含有しない融着皮膜を形成させた後、最外層に滑剤を含有する融着皮膜を形成させて多層構造としてもよい。
【0043】
融着皮膜中(融着皮膜が多層構造の場合は最外層の融着皮膜中)の滑剤の添加量としては、前記樹脂組成物(請求項1に記載の発明では前記フェノキシ樹脂及び前記架橋剤からなる樹脂組成物、請求項6に記載の発明では、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂及びビフェニル型エポキシ樹脂並びに架橋剤からなる樹脂組成物)の合計樹脂分に対して、1〜10重量%の範囲であることが好ましい。1重量%未満であると、高占積率仕様のモータの巻線を容易にする滑り性が得られず、一方、10重量%を超えると、融着処理における融着力が低下する問題がある。
【0044】
本発明の自己融着性絶縁電線(請求項1〜7)を、巻線してコイルを作製後、加熱処理を施すことにより、電線相互が固着されコイル振動が抑制されたモータが得られる。本発明に係る自己融着性絶縁電線は、優れた巻線性を有するため、この絶縁電線を使用することにより、高占積率仕様の圧縮機駆動用モータが得られる。本発明はこの圧縮機駆動用モータも提供するものである(請求項8)。
【発明の効果】
【0045】
本発明の自己融着性絶縁電線は、耐摩耗性等の機械的強度や耐熱性が優れた融着皮膜を有し、高占積率仕様のモータでも優れた巻線性を示す。又、前記自己融着性絶縁電線を用いて得られる圧縮機駆動用モータは、コイル振動が抑制されたものであり、高占積率仕様とすることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
次に、本発明を実施するための最良の形態につき、実施例により説明するが、本発明の範囲はこの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を損ねない範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0047】
[樹脂組成物の作製]
実施例1、比較例1
表1に示す処方に基づき、以下の手順により、樹脂組成物溶液(ワニス)を作製した。具体的には、先ず、温度計、冷却管、塩化カルシウム充填管、攪拌器を取り付けたフラスコ中に、シクロヘキサノンを投入し、さらに、ビスフェノールA、ビスフェノールS、及びビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマー(商品名:YX4000H、ジャパンエポキシレジン社製)又はビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:YD−128、東都化成社製)、並びに触媒としてトリエチルアミン(アミン系触媒、和光純薬社製)を投入する。その後、室温から80℃まで撹拌しながら昇温し、各材料をシクロヘキサノンに溶解させる。
【0048】
溶解を確認した後、80℃から135℃へ2時間かけて昇温し135℃に保ちながら反応を進行させる。粘度をモニターすることで反応の状態を観察し、反応終点に達したことを確認した後、RC−140(精製クレゾール、河野薬品社製)(1)を添加し室温まで冷却する。
【0049】
次に、架橋剤としてミリオネートMS−50(安定化イソシアネート、日本ポリウレタン社製)の35重量%溶液(溶媒RC−140)、滑剤としてT−15P−2(ポリエチレンワックス、岐阜セラック社製)、及びRC−140(2)を投入、混合して、実施例1、比較例1のそれぞれの熱硬化型融着樹脂組成物ワニスを得た。
【0050】
【表1】

【0051】
[自己融着性絶縁電線の作製]
直径約0.75mmの銅線(導体)表面に、絶縁性樹脂ワニスIsomid 40SM−45(ポリエステルイミドワニス、日立化成社製)を常法によって塗布し、450℃で焼付けして厚み約18μmの第1層を形成した。次に第1層の表面に、絶縁性樹脂ワニスHI406E−34(ポリアミドイミドワニス、日立化成社製)を常法によって塗布し、450℃で焼付けして厚み約7μmの第2層を形成し、2層からなる絶縁皮膜を形成した。その後、絶縁皮膜上に、前記[樹脂組成物の作製]で得た熱硬化型融着樹脂組成物ワニスのそれぞれを常法によって塗布し300℃で焼付けして、表2に示す厚みの融着皮膜を形成し自己融着性絶縁電線を得た。
【0052】
【表2】

【0053】
[機械強度試験]
得られた各自己融着性絶縁電線を用いて、機械強度を以下の項目について、以下に示す方法で測定した。
(耐摩耗性)JIS C3003 9の「一方向摩耗」により測定した。
(絶縁破壊電圧) JIS C3003 2)の「2個より法」により測定した。測定は3回行いその平均を計算した。
[耐熱性] JIS C3003 11の「A法」により測定した。
これらの測定結果を、表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表3に示された結果より明らかなように、ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーを共重合させてなるフェノキシ樹脂を用いた実施例1(本発明例)では、ビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーの代わりにビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた比較例1と比べて、優れた耐摩耗性、耐熱性が得られている。即ち、本発明により、耐摩耗性等の機械的強度や耐熱性が優れた融着皮膜を有する自己融着性絶縁電線が得られることが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールA、ビスフェノールS及びビフェニル型エポキシ単位を含むエポキシモノマーを共重合させてなるフェノキシ樹脂、並びに架橋剤を含有する樹脂組成物からなる融着皮膜を有することを特徴とする自己融着性絶縁電線。
【請求項2】
前記フェノキシ樹脂の重量平均分子量が5000以上であることを特徴とする請求項1に記載の自己融着性絶縁電線。
【請求項3】
樹脂組成物中に含まれる前記ビスフェノールSの含有量が、ビスフェノールAとビスフェノールSの全量に対し、モル比で0.2〜0.5となる範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自己融着性絶縁電線。
【請求項4】
前記フェノキシ樹脂の共重合が、アミン系触媒を使用して行われることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の自己融着性絶縁電線。
【請求項5】
前記架橋剤の含有量が、前記フェノキシ樹脂に対して10〜20重量%であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の自己融着性絶縁電線。
【請求項6】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂、並びに架橋剤を含有する樹脂組成物からなる融着皮膜を有することを特徴とする自己融着性絶縁電線。
【請求項7】
前記融着皮膜が、滑剤を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の自己融着性絶縁電線。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の自己融着性絶縁電線を用いることを特徴とする圧縮機駆動用モータ。

【公開番号】特開2010−170711(P2010−170711A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9732(P2009−9732)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(309019534)住友電工ウインテック株式会社 (67)
【Fターム(参考)】