説明

自立固体膜組成物および無加湿電解質膜

【課題】リン酸もしくは亜リン酸をプロトン源とする有機−無機ハイブリッド膜を簡便な製膜法で作製し、無加湿で動作する燃料電池用の電解質膜を提供する。
【解決手段】リン酸もしくは亜リン酸とシルセスキオキサンよりなる自立固体膜を形成する組成物であって、リン酸もしくは亜リン酸とシルセスキオキサンもしくはシランカップリング剤のモル比が、3≧P/Si≧0.1において自立固体膜を形成し、あるいはゼオライトとリン酸の重量比が、40%≧ゼオライト/H3PO4もしくはH3PO3≧3%とする。更に好ましくは、シルセスキオキサンに対して、ジエポキシ化合物、ジアミン化合物、酸無水物、ジイソシアネート化合物、ジチオシアネート化合物、ジイソチオシアネート化合物のいずれか一つかまたは複数が、モル比で2.5≧全化合物/Si≧0.1で混合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルセスキオキサンもしくはシランカップリング剤を用いてリン酸もしくは亜リン酸を自立した固体膜組成物となし、外部から加湿することなくプロトン伝導性を有する自立膜に関するものであり、当該膜組成物はゼオライトを含有する場合もある。
【背景技術】
【0002】
リン酸が無加湿でプロトン伝導性を有することは知られている。リン酸を膜状組成物となすことができれば、燃料電池やエレクトロクロミック素子、またセンサーなどのデバイスに用いるプロトン伝導膜として利用が可能である。この際リン酸が有機物とともに膜組成物として成型されていれば、これらのデバイスは200℃以下で動作することが可能である。
【0003】
従来は亜リン酸等とゼオライトとの反応でゼオライト中の超強酸を利用するという方法がとられた。この方法であればプロトン伝導を有する粉末固体は得られるが、自立膜として成型することは困難であった(特許文献1参照)。
【0004】
またリン酸類似物を含んだゼオライトを圧力成型膜もしくは焼結膜とするという方法が考えられるが、この方法であると膜の柔軟性は皆無となり、デバイス用プロトン伝導膜として利用する道は狭くなる。
【0005】
柔軟性のあるプロトン伝導膜としては、現在、ポリパーフルオロスルホン酸やアルキルリン酸がドープされたポリベンズイミダゾール、さらにはスルホン化ポリカーボネートが開示されているが(特許文献2,3参照)、これらはいずれも加湿される必要がある。
【0006】
また、無機系のプロトン伝導性固体としては過塩素酸をドープした複合シリカゲルやヘテロポリ酸であるリンモリブデン酸結晶が有効であることが開示されており(非特許文献1参照)、リン酸複合型のシリカガラスが効果を発することも開示されている(非特許文献2参照)。しかしこれらの膜もプロトン伝導を有効に行なうためには、加湿が前提である。
【0007】
一方、完全無加湿プロトン伝導性固体として、硫酸水素セシウムが142℃以上で、伝導度が10−5S/cm台の高伝導率を発現することが報告されている(非特許文献3参照)が製膜に難点がある。
【0008】
有機−無機ハイブリッド膜のプロトン伝導体は、無機材料としてシルセスキオキサン、有機材料としてポリエチレンオキサイドが使われたものが見られるが、この膜の使用は高温領域に限られる(特許文献4参照)。
【0009】
炭素原子含有化合物と無機酸とを含むプロトン伝導製膜は、所定の伝導度を得るためには水蒸気雰囲気(95〜100%RH)が必要であり、本プロトン伝導膜を用いる燃料電池は、システム全体としては簡便でない(特許文献5参照)。
【0010】
SiO−P2O複合体と有機成分からなる共重合体に、タングストリン酸などの無機成分イオン伝導体を含むハイブリッド体は、無加湿であると、伝導度は80℃でも10−5S/cm台より大きくはならず、実用レベルに達していない(特許文献6参照)。
【0011】
炭素高分子骨格に様々な置換基を有する3次元架橋体にリン酸等の無機酸成分を含んだ有機−無機ハイブリッド膜は、相対湿度60%の条件であっても、伝導度は25℃で10−4S/cm台より大きくはならず、実用レベルに達していない(特許文献7参照)。
【0012】
メソゲン基を有する有機ケイ素化合物を前駆体とした架橋構造の有機−無機ハイブリッド膜も開示されているが、伝導度は25℃で10−3S/cm以上を達成しているものの、相対湿度60%の加湿条件が前提である(特許文献8参照)。
【0013】
有機−無機ハイブリッドポリウレタン用組成物に固体及び/又は酸性官能基を複合させたプロトン伝導膜は、伝導度が80℃で10−3S/cm以上を達成しているものの、RH90%の加湿条件が前提である(特許文献9参照)。
【0014】
シラノール基を有するポリオルガノシロキサンと、アルコキシ基及びエポキシ基を有するシランカップリング剤と、無水無機固体酸を含む組成物を硬化させたプロトン伝導膜は、無加湿ではあるが、150℃でも伝導度が10−6S/cm程度であり、実用に資する状態に無い(特許文献10参照)。
【0015】
重合性基と加水分解性のケイ酸アルコキシドを置換基として導入した化合物および、SH基もしくはSO3H基を導入した化合物を用い、ゾル−ゲルプロセスによる縮重合で得られる有機−無機ハイブリッド膜についても開示されているが、伝導度は25℃で10−4S/cm程度であり、しかも相対湿度95%の加湿条件が前提である(特許文献11参照)。
【0016】
また、シルセスキオキサンにスルホン酸基、リン酸基などが結合した固体酸を、ナフィオン(登録商標)などのアニオン性基を含み且つ炭素を主骨格とする高分子材料に含有させたプロトン伝導製膜は、室温における伝導度は10−2S/cmを達成しているが、その試料は測定直前まで水中に浸漬されていたもので、無加湿状態での伝導度は測定されていない。
【0017】
【特許文献1】特願2006−014937号
【特許文献2】特開平9−110982号公報
【特許文献3】特開2000−235812号公報
【特許文献4】特開2000−90946公報
【特許文献5】特開2000−157863公報
【特許文献6】特開2004−6142公報
【特許文献7】特開2004−119242公報
【特許文献8】特開2004−143446公報
【特許文献9】特開2004−273386公報
【特許文献10】特開2005−276721公報
【特許文献11】特開2004−288582公報
【特許文献12】特開2006−73357公報
【非特許文献1】MasahiroTatsumisagoet.al J.Am.Ceram.Soc.,Vol.72,NO.3,484〜486(1989)
【非特許文献2】MasayukiNogami et.al J.Electrochem.Soc.,Vol 144,NO.6,2175〜2178(1997)
【非特許文献3】PhilippeColonban, “Proton conductors”, pp172-pp177, Cambridge University Press 1992,New York
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記従来のゼオライトの超強酸を利用した材料は、製膜性に困難が伴う。
一方、上記従来の有機−無機ハイブリッド膜では、無加湿では実用に耐える伝導度を示さないという問題点を有している。
さらには、加湿が必要なプロトン伝導膜は温度の変化で伝導度が大きく変化するという問題点を有している。
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、無加湿で動作し、0℃から160℃までの温度領域で実用に資するプロトン伝導膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、リン酸もしくは亜リン酸を含んだシルセスキオキサンの自立固体膜組成物と、リン酸もしくは亜リン酸とシルセスキオキサンもしくはシランカップリング剤とゼオライトの自立固体膜組成物で上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
請求項1に記載の自立固体膜組成物は、上記の課題を解決するために、無加湿で良好な伝導度を示すことを特徴としている。
請求項2に記載の自立固体膜組成物は、無加湿で良好な伝導度を示すことを特徴としている。
上記の構成によれば、ゼオライトの超強酸の特性を利用することができる。
請求項3に記載の自立固体膜組成物は、無加湿で良好な伝導度を示しかつ高耐水性を特徴としている。
請求項4に記載の自立固体膜組成物は、無加湿で良好な伝導度を示しかつ高耐水性を特徴としている。
請求項5に記載の自立固体膜組成物は、長期に使用可能で無加湿で動作するプロトン伝導膜となすことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の自立固体膜組成物は、以上のように、プロトン伝導膜であり、リン酸もしくは亜リン酸とシルセスキオキサンもしくはシランカップリング剤とを含みさらにはゼオライトを含む構成である。
それゆえ、を提供できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態について説明すれば以下のとおりである。
本発明の自立固体膜組成物は、プロトン供与体としてリン酸もしくは亜リン酸と、膜マトリックス構成体としてシルセスキオキサンもしくはシランカップリング剤を含んでいる。
本発明の自立固体膜組成物には、必要に応じて、ゼオライトがさらに含まれていてもよい。ゼオライトとしては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウムを含まないものが望ましい。
本発明に係るシルセスキオキサンとは、下記一般式(A)で表される籠型構造体シルセスキオキサン及び/又は、一般式(B)で表される籠型構造体シルセスキオキサンの部分開裂構造体又はラダー構造体である。
(RSiO3/2(A)
nは4又は4以上の整数
(RSiO3/2(RSiOH) (B)
mは2又は2以上の整数、n+mは4または4以上の整数。Rはエポキシ基、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基またはアリロキシ基、炭素数1〜20の飽和炭化水素基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアラルキル基、炭素数7〜20のアリール基、及びケイ素数1〜10のケイ素原子含有基、およびそれらの置換体から一種類以上の置換基が選択される。
【0022】
本発明に係るシランカップリング剤とは、トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレイトのほか下記一般式(C)で表される化合物をいい、例えば、メトキシシランがこれに含まれる。
R−SiXY2 (C)
Rはエポキシ基、アミノ基を含む有機鎖。Xはエポキシ基、アミノ基を含む有機鎖もしくはメチル基、エチル基またはメトキシ基もしくはエトキシ基もしくはハロゲン。Yはメトキシ基、エトキシ基もしくはハロゲンである。
【0023】
本発明に係るゼオライトとしては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウムを含まないものが望ましい。
【0024】
本発明の自立膜固体組成物の製造方法としては、例えば、まず、所定の組成成分を混練し、ついで、ロールプレス機で圧延して膜を得る方法が等が挙げられる。混練と圧延工程では温度コントロールされることが望ましい。
【実施例】
【0025】
(製膜)
Y型ゼオライト(H置換体、SiO/Al2O3=14、NaO=0.05%)1.0gとリン酸(85%)
3.0gとを乳鉢で3時間混練する。その後、トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレイト0.4gを滴下し、さらに90℃に加熱しながら混錬を5時間続ける。この混練過程でゲルが起こる。ゲルはフッ素系樹脂シートもしくはエチレン系樹脂シート、プロピレン系樹脂シートで挟まれて、ロールプレス機で圧延されて膜状に成形される。圧延過程で50℃から180℃の間で温度コントロールされることもある。
【0026】
(伝導度測定)
試料膜を直径10mmに打ち抜き、膜の両面を白金電極で挟んで交流インピーダンス法で伝導度を測定した。温度は−20℃、0℃、20℃、40℃、60℃、80℃、100℃、120℃、140℃、160℃で行ない、無加湿で測定した。結果は図1のとおり、0℃から160℃まで10−3S/cmの伝導度を示した。
【0027】
(比較例1)
市販のナフィオン117(商品名)を直径10mmに打ち抜き、両面を白金電極で挟み込み交流インピーダンス法で伝導度を測定した。温度は0℃、20℃、40℃、60℃、80℃、100℃で行い、膜は測定直前まで水に浸漬し、かつ測定中は水蒸気飽和状態を保った。
【0028】
図1に示されるように、Y型ゼオライトとリン酸とトリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレイトとを含む本発明の自立固体膜組成物は、ナフィオン117と比較して、無加湿でプロトン伝導が実現され、温度特性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の固体膜組成物の用途としては、燃料電池用の電解質膜である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態に係るプロトン伝導性能に関するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸もしくは亜リン酸とシルセスキオキサンのモル比が、3≧P/Si≧0.1において自立固体膜を形成することを特徴とする組成物。
【請求項2】
リン酸もしくは亜リン酸とシルセスキオキサンもしくはシランカップリング剤のモル比が、3≧P/Si≧0.1において自立固体膜を形成することを特徴とし、あるいはゼオライトとリン酸の重量比が、40%≧ゼオライト/H3PO4もしくはH3PO3≧3%であることを特徴とする組成物。
【請求項3】
請求項1に記述のシルセスキオキサンに対して、ジエポキシ化合物、ジアミン化合物、酸無水物、ジイソシアネート化合物、ジチオシアネート化合物、ジイソチオシアネート化合物のいずれか一つかまたは複数が、モル比で2.5≧全化合物/Si≧0.1において混合されることを特徴とする自立固体膜組成物。
【請求項4】
請求項2に記述のシルセスキオキサンもしくはシランカップリング剤に対して、ジエポキシ化合物、ジアミン化合物、酸無水物、ジイソシアネート化合物、ジチオシアネート化合物、ジイソチオシアネート化合物のいずれか一つかまたは複数が、モル比で2.5≧全化合物/Si≧0.1において混合されることを特徴とする自立固体膜組成物。
【請求項5】
前記の自立固体膜が、膜を外部から加湿することなく0℃から160℃までプロトン伝導を有することを特徴とする自立膜組成物。



【図1】
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【公開番号】特開2008−291097(P2008−291097A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137033(P2007−137033)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】