説明

自立支持型動的高分子膜、その製造方法及びその使用

本発明は、金属イオンを取り入れたポリイミン型の自立支持型動的高分子膜(「ダイナマー」膜)、その製造方法及びその特にガス種の分離方法における使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンを取り入れたポリイミン型の自立支持型動的高分子膜(「ダイナマー」膜)、その製造方法及びその特にガス種の分離方法における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
化学種を分離するために、深令分離法、蒸留、溶媒吸収(化学的又は物理的)、吸着及び膜分離などの様々なタイプの方法が存在する。
【0003】
ガス種の分野では、特に天然ガス又は合成ガスの処理において、増大するユーザーのニーズを満足させるために、これらの成分の分離と精製とが必ず必要である。すなわち、粗天然ガス及びそれから誘導される成分は、特に、脱酸として知られている操作により、含まれる二酸化炭素が分離されなければならない。
【0004】
従来技術において知られている様々な分離方法のうち、膜分離は、最もエネルギー消費が少なく、産業レベルで最も幅広く使用されている方法の一つである。
【0005】
これらの膜方法は、次のように分類される:
・アルミナ、シリカ、ゼオライト又は炭素から本質的になる多孔質無機膜を使用する方法。これらの方法は、効率的で、中程度の流れのみならず高温及び高圧にも耐えるが、高価である。さらに、分離される化学種に対する無機膜の選択率は中程度のままである;
・高分子膜を使用する方法は、原料及びエネルギーの点では安価である。しかし、使用する膜は急速に劣化する。非常に様々な重合体により有機膜を開発し、そしてそれらをガス分離のために使用することが想定されている。産業上使用されている方法の大部分は、一般に選択性が大きくかつ機械的性質が良好であるとの理由からガラス状重合体、例えばポリイミド、ポリスルホン及びポリフェニレンとして製造された膜を必要とするが、その一方で、これらは透過性が不十分なため無機膜よりも小さいな分離流れを許容する。また、他の重合体、例えばポリシロキサンなどのエラストマーも使用されている。これらは、ガラス状重合体から製造された膜よりも高い透過性を有するが、分離すべきガス種に対する選択性は小さい(A.Stern,J.of Membr.Sci,1994,94;S.T.Hwang外,Separation Science,1974,9(6))。一般に、選択性と透過性との間には反比例関係があることが分かっている:選択性が良好であればあるほど、透過性は低い。したがって、たとえ膜プロセスがより標準的な方法と比較して進歩を示したとしても、なおこれらを具体的に改善させることが必要である。というのは、使用する膜は依然として高価であり、しかも高い流れ(高い透過性)と高い選択性との間の選択をすることが必要な場合が多いからである。
【0006】
さらに、使用する分子膜の、分離される化学種に対する選択性は、その化学的性質及び/又はそれを構成する単量体の含有量を変更する場合にのみ、調節可能である。、例えば、エチレンオキシド(EO)とエピクロルヒドリン(EP)との共重合体から形成された、ガスの選択的分離用の膜が、特に欧州特許第1322409号で既に提案されている(ここで、エチレンオキシド単位のいくらかはプロピレンオキシド(PO)単位で置換されていてよい)。これらの膜は、ガス混合物に含まれる二酸化炭素(CO2)の選択的分離のために特に有用である。CO2に対する最も高い選択性は、85/2/13(モル%)の割合のEO/EP/PO単位から形成された膜で得られる。Sanchez J外による論文(Membrane Science,2002,205,259−263)は、ポリエチレンオキシド(PEO)とエピクロルヒドリンとの架橋共重合体から得られた自立膜の透過性の研究に関する。この論文では、PEO/エピクロルヒドリン(PEO/EP)比を変化させることによってCO2透過特性を変化させることが可能であることが示唆されている。最もよい結果が87%〜96%のエチレンオキシド単位を含む共重合体で得られ、最大のCO2透過率が93%の含有量で得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第1322409号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A.Stern,J.of Membr.Sci,1994,94
【非特許文献2】S.T.Hwang外,Separation Science,1974,9(6)
【非特許文献3】Sanchez J外,Membrane Science,2002,205,259−263
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、単純で安価なプロセスにより製造することができ、しかも分離するのが望ましい種に対する高い選択性を与えると同時に、許容できる流れで機能する可能性を維持することのできる高分子膜に対する要望がある。
【0010】
また、化学的性質及び/又は構成する単量体の含有量を変更する必要なしに選択性を単純に調節することのできる利用可能な高分子膜を得ることも望ましい。
【0011】
したがって、本発明の目的は、分離される化学種に対する高い選択性を有し、しかも容易に調節できると同時に良好な透過性を有する、単純で安価なプロセスにより製造することのできる有機高分子膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の主題の一つは、自立支持型高分子膜であって、次式(I)の反復単位から形成される動的重合体から形成されることを特徴とする自立支持型高分子膜である:
【化1】

式中、
・Dは、次式(ID)のサブユニットを表し:
【化2】

(式中、
・xは10〜20の範囲の整数であり;
・p=0又は1であり;そして
・*は、イミン結合によるDのGへの結合点である。);
・Gは、次式(IG)のサブユニットを表し:
【化3】

(式中、
・R1は、水素原子又は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
・Yは窒素原子又はC−OHを表し、
・#はイミン結合によるGのDへの結合点である。);
ここで、該重合体中に存在する式(IG)の該サブユニット数の少なくとも50%が遷移金属イオンと錯体を形成するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、各種膜の示差走査熱量測定分析を示す図である。
【図2】図2は、膜M0(上のスペクトル)及びM2(下のスペクトル)のFTIRスペクトルを示す図である。
【図3】図3は、ヘリウム(He:四角)、窒素(N2:丸)及び酸素(O2:三角)に対する、Zn2+イオン含有量(当量)に応じた膜の透過係数(Barrer)の変化を示す図である。
【図4】図4は、二酸化炭素についてのZn2+イオン含有量(当量)に応じた膜の透過係数(Barrer)の変化を示す図である。
【図5】図5は、Zn2+イオン含有量(当量)の関数として表される、「タイムラグ」法により決定される二酸化炭素拡散係数(DCO2)(10-7.cm2.s-1)の値の変化を示す図である。
【図6】図6は、全CO2透過性における溶解パラメーターを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
これらの膜は、良好な弾性と高い熱安定性(約280℃)とを有する。また、これらはCO2透過性も改善されている。さらに、金属イオンは、重合体鎖のための架橋点を創り出し、かつ、分離されるべき化学種に応じて膜の選択性を調節することを可能にする。さらに、本質的に可逆的な結合であるイミン結合は、膜再構成、自己分配及び選択性の特性を付与し(そのため、「動的重合体」という用語が生まれる)、これは、それらのリサイクルを推進するため、環境に優しい。
【0015】
本発明によれば、遷移金属イオンは、好ましくはZn2+、Fe2+、Cu+、Ni2+、Co2+及びAg+から選択される。
【0016】
式(IG)のサブユニットのR1基について述べたアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル及びt−ブチル基が挙げられる。本発明の好ましい一実施形態によれば、R1は、t−ブチル基、より好ましくはYに対してパラ位にあるt−ブチル基を表す。
本発明の好ましい一実施形態によれば、サブユニット(IG)は、以下のサブユニット(IG1)及び(IG2)から選択される:
【化4】

上記式(IG1)のサブユニットにおいて、R1基は、式(IG)のサブユニットについて上記したのと同じ意味を有する。本発明の特に好ましい一実施形態によれば、R1はt−ブチル基を表す。
【0017】
式(IG)のサブユニットは、遷移金属と錯体を形成することができるという特定の性質を有するが、これは、まず式(I)の重合体の架橋点として機能し、続いて分離されるべき種に可逆的に結合し、そして該種が膜を通過するのを促進させる。
【0018】
すなわち、所定の化学種に対する膜の選択性を、使用する遷移金属の性質を変更することによって変更できる(Ag(I)又はCu(I)によるオレフィン/パラフィンの分離、CO(II)によるO2に対するN2の分離など、二酸化炭素に対する錯化部位を形成するZn(II)によるCO2の分離。)。
【0019】
このタイプのサブユニットを取り入れた膜は、さらに、CO2などの所定のガス種に対して改善された透過性及び溶解性特性を有する。
【0020】
本発明の好ましい一実施形態によれば、遷移金属イオンに錯化する式(IG)のサブユニットのパーセンテージ(数)は、50%〜200%の範囲にある。
【0021】
本発明者は、実際、このパーセンテージが50未満であると、膜は極めて透過性ではあるが、十分な選択性がなく、また、このパーセンテージが200を超えると、膜は非常に高い選択性を有するが、透過性が不十分であることを発見した。
【0022】
本発明に従う自立支持膜は、約300〜600μm、好ましくは約200〜400μmの範囲の厚さを有することができる。
【0023】
また、本発明の主題は、上記式(I)の反復単位から形成された少なくとも1種の動的重合体により形成される自立支持型高分子膜の製造方法であって、次の工程を含むことを特徴とする方法でもある:
(a)少なくとも1種の有機溶媒への溶液の状態で次のものを含む反応混合物を製造する工程:
・次式(I’D)の先駆物質から選択されるサブユニットDの少なくとも1種の先駆物質:
【化5】

(式中、x’は10〜20の範囲の整数であり、p'=0又は1である。)、及び
・次式(I’G)の先駆物質から選択されるサブユニットGの少なくとも1種の先駆物質:
【化6】

(式中、R’1は水素原子又は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、Y'は窒素原子又はC−OHを表す。);
(b)該反応混合物を還流するように加熱することによって該先駆物質を重縮合させて次式(I')の反復単位から形成される動的重合体を得る工程:
【化7】

(式中、
・Dは、次式(ID)のサブユニットを表し:
【化8】

(式中、
・xは10〜20の範囲の整数であり;
・p=0又は1であり;そして
・*は、イミン結合によるDのGへの結合点である。);
・Gは、次式(IG)のサブユニットを表す:
【化9】

(式中、
・R1は、水素原子又は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
・Yは窒素原子又はC−OHを表し、
・#はイミン結合によるGのDへの結合点である。));
(c)このようにして得られた重合体を有機溶媒に溶解させて重合体溶液(溶液P)を得る工程:
(d)次式(II)の遷移金属塩:
m(A)n (II)
(式中、
・Mは遷移金属イオン、好ましくはZn2+、Fe2+、Cu+、Ni2+、Co2+及びAg+から選択されるものであり、
・Aは1価又は2価の陰イオンであり、
・m及びnは、該塩の電気的中性が満たされるように選択される。)
を溶媒に溶解させて該式(II)の塩の溶液(溶液S)を得る工程:
(e)該溶液Pに溶液Sを、該重合体中に存在する式(IG)のサブユニット数の少なくとも50%、好ましくは50%〜200%が遷移金属イオンに錯化する量で添加する工程:
(f)膜を形成させ、そして該反応媒体から該溶媒を蒸発させる工程。
【0024】
式(II)の塩の陰イオンAとしては、特に酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、硝酸及び過塩素酸陰イオンが挙げられる。これらの陰イオンのなかでは、酢酸が特に好ましい。
【0025】
式(II)の塩は、好ましくは式(I')の反復単位の総質量に対して0.5〜2当量を占める。
【0026】
該溶剤は、好ましくは、テトラヒドロフラン(THF)、トリクロルメタン(CHCl3)、ジクロルメタン(CHCl2)及びそれらの混合物から選択される有機溶媒によって形成される。
【0027】
この方法の好ましい一実施形態によれば、使用する溶媒は、無水の形態にある。
【0028】
様々なサブユニットの重縮合は、12〜24時間を範囲とすることができる時間にわたって還流で実施される。
【0029】
溶液Sの溶媒、すなわち式(II)の塩を溶解させるために使用される溶媒は、好ましくは、エタノール、メタノールなどの低級アルコール及びアセトニトリルから選択される。メタノールが特に好ましい。
【0030】
膜の形成は、例えば、得るのが望まれる膜の形状に対応する形状を有する型に反応混合物を注ぎ又は好適な基材に被覆し、続いて有機溶媒を蒸発させることによって実施できる。
【0031】
この方法は、実施するのが簡単で、再現性があり、しかも安価であり、かつ、重合体を100%の収率で製造することになる。大きなエネルギー消費を必要とせず、かつ、重縮合反応の副生成物としての水を少量しか生じない範囲で、環境に優しい。
【0032】
本発明の自立支持膜は、特に化学種の膜分離方法に使用できる。
【0033】
本発明の膜は、ガス混合物の選択的分離に特に有効である。式(IG)のサブユニットがZn2+イオンと錯体を形成した膜は、特に二酸化炭素に対する選択性が改善されている。そのため、本発明の膜は、二酸化炭素を伴う様々な産業分野で重要なものである。
【0034】
したがって、本発明の主題は、上記自立支持膜の、化学種の選択的分離、特に天然ガス又は産業ガスに含まれるガス種の選択的分離のための使用でもある。好ましい一実施形態によれば、金属イオンはZn2+イオンであり、膜は二酸化炭素の選択的分離のために使用される。
【0035】
したがって、本発明の別の主題は、化学種、特に二酸化炭素などのガス種の分離方法であって、分離することが望まれる種を含有する気体又は液体混合物を、金属イオンが好ましくはZn2+イオンである本発明に従う前記自立支持型高分子膜に通すことからなる方法である。
【0036】
また、本発明に従う膜は、
・炭化水素を分離する、
・揮発性有機化合物を回収する、
・Na+/K+イオンの輸送を容易にする
ためにも使用できる。
【0037】
本発明を次の製造例により例示するが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0038】

以下の例で製造された膜の構造を、パーキン・エルマー社がTA機器2920変調DSCという商品名で販売する熱量計を使用した示差走査熱量測定により検討した。
【0039】
フーリエ変換赤外分光法(又はFTIR)による分析を、サーモフィッシャー社がNicolet Nexus FTIR/ATR Diamondという商品名で販売する分光計で実施した。
【0040】
各種膜の透過係数及び拡散係数の決定を、試験膜によって分離された2個の透過セルから形成された前部透磁率計を使用してタイムラグ法により行った。まず、この膜及び2個の区分を二次真空下で少なくとも48時間にわたりレイボールド社がTurbovac50という商品名で販売する50l.s-1の吐出量の分子ターボポンプを使用して脱気した。続いて、これら2つの区分を分離し、その後検討すべきガスを膜の上流に位置した区分に3.0×105Paの圧力で導入する(この圧力は、膜の下流に位置した区分で測定される圧力よりも高い)。膜の下流にある区分での圧力上昇を、MKSインストルメンツ社がBaratronという商品名で販売する圧力伝送器を使用して記録した。この方法は、一定容積及び可変圧力での測定に基づくものである。得られる曲線は、フィックの第2法則の分解により、過渡状態の間の拡散係数と、擬定常状態に達したときの透過係数とを決定することを可能にする。
【0041】
各種膜の溶解度(S)係数を、カーン社(米国)が販売する、機能が重量測定の原理に基づくCahn−1000型式電気てんびんを使用して決定した。
【0042】
例1
(1)様々な量の亜鉛塩の存在下での式(I)反復単位から形成された重合体からなる膜の合成
膜を、次の先駆物質を使用してサブユニットD及びGの重縮合により得た:
・サブユニットDの先駆物質:アミン末端基を有するポリ(テトラヒドロフラン)ビス(3−アミノプロピル):
【化10】

(式中、x’は、式(I’D1)の先駆物質が約1100g/molの分子量を有するようなものである。);
・サブユニットGの先駆物質:4−t−ブチル−2,6−ジホルミルフェノール:
【化11】

【0043】
1当量(0.2g)の4−t−ブチル−2,6−ジホルミルフェノール及び1当量(1.0668g)のアミン末端基を有するポリ(テトラヒドロフラン)ビス(3−アミノプロピル)(I’D1)を250mLのTHFに溶解させ、次いで48時間にわたって撹拌しつつ加熱して還流させた。このようにして得られた重合体溶液を蒸発させ、そして真空下で乾燥させた。
【0044】
続いて、4つの同じ重合体溶液を、0.7gの重合体を4mLのTHFに溶解させることによって調製した。
並行して、各種酢酸亜鉛(Zn(CH3COO)2)の2mLメタノール溶液を製造する:
・0.5当量のZn(CH3COO)2(すなわち0.060g)を含有する溶液S0.5
・1当量のZn(CH3COO)2(すなわち0.121g)を含有する溶液S1、及び
・2当量のZn(CH3COO)2(すなわち0.242g)を含有する溶液S2
【0045】
これらの溶液S0.5、S1及びS2において、酢酸亜鉛の当量数は、重合体の反復単位の質量に対して表される(M反復単位t=1270.24g.mol-1)。
【0046】
続いて、各種膜M05、M1及びM2を、それぞれ溶液S0.5、S1及びS2を4つの重合体溶液のうちの3つに滴下で撹拌しつつ添加することによって製造した。黄色から橙色への色の変化が観察された。この色の変化は、サブユニットGとZn2+イオンとが即座に錯体を形成したことの証拠である。次いで、このようにして得られた混合物のそれぞれを直径3.7cmのテフロン(商標)ペトリ皿に注いだ。比較する目的のために、上記4つの重合体溶液を、酢酸亜鉛溶液を予め添加することなく3.7cmのテフロン(商標)ペトリ皿に直接注いだ。これらの混合物を室温で2日間にわたりダストを存在させずに乾燥させ、続いて真空下において60℃でさらに3日間乾燥させた。こうして、膜M0.5、M1及びM2並びにZn2+イオンを含まない膜M0を得た。
【0047】
得られた自立支持膜の厚さは、およそ300〜600μmであった。
【0048】
このようにして製造された膜のそれぞれの特徴及び構造は次のとおりであった:
膜M0
【化12】

1H NMR(300MHz、CDCl3):8.49(br、2H、CH=N);7.57(br、2H、CH−2);3.55(t、4H、CH−5);3.41(t、4H、CH−3);3.39(br、5’H、CH−6);1.92(t、4H、CH−4);1.53(br、54H、CH−7);1.14−1.24(m、9H、tBu)。
【0049】
IR(cm-1):2937、2852、2795、1636.1598、1465、1446、1364、1206、1103。
【0050】
示差走査熱量測定(DSC)による分析:
・第1サイクル:ガラス転移温度:Tg=−68.5℃、
結晶化温度:Tc=−14.80℃、
融点:Tm=9.23℃、
融解熱:DHm=23.06 J/g。
・第2サイクル:Tg=−68.25℃
Tc=−24.11℃
Tm=10.16℃
DHm:30.62J/g。
【0051】
膜M0.5
【化13】

1H NMR(300MHz、CDCl3):8.32−8.18(d br、2H、CH=N);7.42(br、2H、CH−2);3.53(br、4H、CH−5);3.22(br、58H、CH−6.3);1.76−1.62(m、5.5H、CH−4、CH3−COO-);1.41(br、54H、CH−7);1.1(m、9H、tBu)。
【0052】
DSC第1サイクル:Tg:−68.25℃;29.50℃
DSC第2サイクル:Tg:−69.51℃;20.04℃。
【0053】
膜M1
【化14】

1H NMR(300MHz、CDCl3):8.11(br、2H、CH=N);7.45 and 7.31(d br、2H、CH−2);3.51(br、4H、CH−5);3.28(br、58H、CH−6.3);1.92(s、3H、CH3−COO-);1.82(br、4H、CH−4);1.47(br、54H、CH−7);1.11(m、9H、tBu)。
【0054】
IR(cm-1):2933、2652、2794、1609、1581、1412、1363、1232、1206、1104、1023、841、777、667、614、498。
【0055】
DSC第1サイクル:Tg:−67.30℃;12.41℃
DSC第2サイクル:Tg:−67.81℃;7.37℃。
【0056】
膜M2
【化15】

1H NMR(300MHz、CDCl3):8.13(br、2H、CH=N);7.25(br、2H、CH−2);3.70(br、4H、CH−5);3.40(br、58H、CH−6.3);1.90(s、6H、CH3−COO-);1.82(br、4H、CH−4);1.51(br、54H、CH−7);1.20(m、9H、tBu)。
【0057】
IR(cm-1):2933、2652、2794、1609、1581、1412、1363、1232、1206、1104、1023、841、777、667、614、498。
【0058】
DSC第1サイクル:Tg=−63.77℃;129.97℃
DSC第2サイクル:Tg=−65.28℃;104.24℃。
【0059】
上に与えた値から、Zn2+の存在がTg値に僅かな影響を与え、−68.25(M0)から−63.77(M2)に増加することが明らかになる。膜M0の重合体は−24.11℃の結晶化温度を有するが、これはZn2+を取り込んだ膜については消失する。Zn2+の存在下でのサブユニットGの錯化により生成された架橋は、重合体の結晶部分を排除する。
【0060】
さらに、重合体の物理的及び機械的強度は、架橋剤、すなわちZn2+イオンの量が多ければ多いほど比例的に大きくなる。
【0061】
これらの膜についての粉末X線回折分析を実施したところ、重合体の非晶質の性質が示された。これらの回折図(図示しない)は、本質的に、ファン・デル・ワールス接触距離を有する平行な重合体鎖間における水素相互作用の距離を代表する2θ=21−23°(d=4.5−4.8Å)の値でハロー(広がった線)を示す。
【0062】
各種膜の示差走査熱量測定分析を添付した図1に示しており、図中、熱流(ワット/g)は、温度(℃)に応じたものである。この図では、曲線は、それぞれこの順序で、上の曲線から、膜M0、M05、M1及びM2に相当する。
【0063】
これらの曲線から、膜を構成する重合体が−69.51〜−63.77℃のガラス転移温度を有するエラストマーであることが明らかになる。
【0064】
サブユニットGとZn2+イオンとの錯体形成現象の実証を、特にフーリエ変換赤外分光法で行った。
【0065】
添付した図2は、膜M0(上のスペクトル)及びM2(下のスペクトル)のFTIRスペクトルを示している。この図では、透過率は波数(cm-1)の関数である。
【0066】
2つの膜M2及びM0のスペクトルを比較することで、振動バンドνCHN=1636.54cm-1が低い波数の方にシフトし、またνCHAr=1446.75cm-1についても1412.26cm-1にシフトすることが分かる。
【0067】
666.76cm-1でのν(Zn−O)及び477.81cm-1でのν(Zn−N)という2つのバンドの出現は、膜M2中に存在するサブユニットGとZn2+イオンとが錯体を形成したことを示している。
【0068】
また、膜M0、M0.5、M1及びM2の水又は水/THF混合物(8/2)への膨潤度も検討した。溶媒交換部位は実際に溶媒和する場合があるのに対し、重合体鎖の架橋により生じる自由空間は、溶媒により満たされた状態になることができる。膨潤度は、膜が様々な分子と相互作用することができる能力の指標となる。
【0069】
実験的には、膨潤度は、水取込/損失法により決定した。これを行うために、膜を乾燥状態で秤量し、続いて5時間にわたって、すなわち膜の質量が安定化するまで水中に沈め、そして表面を拭った後に秤量した。質量を基準とした膨潤度G質量を関係式G質量=(m−m0)/m0×100(m0=乾燥膜の質量及びm=水中に沈めた後の膜の質量)に従って算出した。
【0070】
膜のそれぞれについて得られた結果を以下の表1で報告する。
【0071】
【表1】

【0072】
これらの結果は、膨潤度が0.5当量のZn(CH3COO)2以上で突如増大し、そして1及び2当量のZn2+で実質的に一定になることを示す。この金属イオンは、水及び溶媒分子に容易に結合するが、これは、高分子膜の膨潤に寄与する。
【0073】
(2)合成膜の透過及び収着特性の検討
2つの測定を実施して、この例で合成された膜(すなわち様々なZn2+イオン含有量を有するもの)のガス輸送特性を特徴付ける。
【0074】
透過係数及び拡散係数の決定並びに溶解度係数(S)の決定
添付した図3は、ヘリウム(He:四角)、窒素(N2:丸)及び酸素(O2:三角)に対する、Zn2+イオン含有量(当量)に応じた膜の透過係数(Barrer)の変化を示している。
【0075】
二酸化炭素についても同じ測定を行い、結果を添付図4に報告している。その図において、二酸化炭素に対する透過係数(Barrer)の変化は、Zn2+イオン含有量(当量)の関数である。
【0076】
CO2に対する膜の透過性(32〜84Barrer)が他のガスに対するものよりも大きいことを注記することができる。これらの曲線は鐘形である。ヘリウムに対する透過性の値(2.63Å)及び窒素に対する透過性の値(3.64Å)は、それらの分子のサイズの影響によって説明できるが、CO2に対する透過性の高い値は、Zn2+イオンの存在により、重合体内における溶解又は相互作用の影響を示唆するものである。
【0077】
CO2に対する膜の透過性は、0.5当量のZn2+の存在下で42から84Barrerまで増大する。
【0078】
添付した図5は、Zn2+イオン含有量(当量)の関数として表される、「タイムラグ」法により決定される二酸化炭素拡散係数(DCO2)(10-7.cm2.s-1)の値の変化を示している。
【0079】
得られた曲線はこの場合も鐘形であるが、これは、最良の結果がZn2+イオンの含有量を最大0.5当量で変化させた膜により得られることを示している。
【0080】
全CO2透過性における溶解パラメーターを、膜M0、M05及びM2についてカーン天秤を使用してCO2の吸着量を測定することによって評価した。
【0081】
得られた結果を添付した図6に示しており、図中、CO2の収着係数(S CO210-3.cm3(STP).cm-1)は、Zn2+イオン 含有量(当量)の関数である。
【0082】
これらの結果は、収着係数が、0当量のZn2+ について7.25cm3(STP)cm3.cm-1Hgから2当量のZn2+について18.8cm3(STP)cm3.cm-1Hg、sfrまで、膜中におけるZn2+イオンの含有量と共に増大することを示している。
【0083】
0.5及び2当量のZn2+イオンでは、Sの値が純粋なポリエチレンオキシドフィルムについてLin及びFreedmanが報告したものよりも高く(Journal of Membrane Science,2004,239,105−117)、また、様々なシリコーン重合体についてStern S.A外によって得られたものよりも高い(Journal of Polymer Science B:Polymer Physical.,1987,25,1263−1298)。
【0084】
これらの結果は、全体として、膜の二酸化炭素に対する透過性が0.5Zn2+に近い値までZn2+の量と共に増大し、その後1当量のZn2+以上で低下することを示している。しかし、選択性は増大(αCO2N2=12)するところ、拡散係数の値についても同様である。収着係数はZn2+の添加量と共に増大する。これらの結果は、次の2つの要因を考慮することによって説明される:0.5当量のZn2+では、透過係数の値の増加は、錯化ー脱錯化現象を生じさせることによって二酸化炭素と相互作用すると思われるZn2+陽イオンが存在するためである。さらに量が多いと、多数の錯化部位の形成によって生じる架橋の増加が観察される。架橋は、一般に透過性を減じる。
【0085】
二酸化炭素に対する透過性の実験で得られた溶解度係数の値Sタイムラグ(S=Pe/Dexp)及びその実験値S’を以下の表2に報告する。
【0086】
【表2】

【0087】
2つの値S及びS’は非常に類似しているため、測定の正確さが認められる。
【0088】
予め試験された膜の透過係数から算出される理想選択性を以下の表3に報告する。
【0089】
【表3】

【0090】
理想選択性α(CO2/N2)が膜M0についての1.9から膜M1についての12まで増大することが観察される。膜M2について、溶解度係数の増加(S=10-3 18.8cm3(STP)cm3.cm-1Hg)は、自由体積分率の減少(M2のD=1.6×10-7.cm2.s-1)を相殺するのには不十分であった。
【0091】
これらの結果は、プロセスが本質的にはZn2+による収着減少によって制御されるものの、拡散パラメーターが架橋の影響下ではより有力になることを示している。
【0092】
拡散及び溶解度に関して最良の性能品質を併せ持つ膜は、0.5〜1当量のZn(II)イオン量の存在下で得られたものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自立支持型高分子膜であって、次式(I)の反復単位から形成された動的重合体から形成されることを特徴とする自立支持型高分子膜:
【化1】

式中、
・Dは、次式(ID)のサブユニットを表し:
【化2】

(式中、
・xは10〜20の範囲の整数であり;
・p=0又は1であり;そして
・*は、イミン結合によるDのGへの結合点である。);
・Gは、次式(IG)のサブユニットを表す:
【化3】

(式中、
・R1は、水素原子又は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
・Yは窒素原子又はC−OHを表し、
・#はイミン結合によるGのDへの結合点である。);
ここで、該重合体中に存在する式(IG)の該サブユニット数の少なくとも50%が遷移金属イオンと錯体を形成するものとする。
【請求項2】
前記遷移金属イオンがZn2+、Fe2+、Cu+、Ni2+、Co2+及びAg+から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記式(IG)のサブユニットのR1基について記載したアルキル基がメチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル及びt−ブチル基から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の膜。
【請求項4】
前記式(IG)のサブユニットのR1基がYに対してパラ位にあるt−ブチル基であることを特徴とする、請求項3に記載の膜。
【請求項5】
前記サブユニット(IG)が以下のサブユニット(IG1)及び(IG2)から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の膜:
【化4】

(該式(IG1)のサブユニットにおいて、R1基は、式(IG)のサブユニットについて請求項1〜3のいずれかで示したのと同じ意味を有するものとする。)。
【請求項6】
前記遷移金属イオンに錯化する式(IG)のサブユニットのパーセンテージ(数)が50%〜200%の範囲にあることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の膜。
【請求項7】
300〜600μmの範囲の厚みを有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の膜。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の式(I)の反復単位から形成された少なくとも1種の動的重合体によって形成される自立支持型高分子膜の製造方法であって、次の工程を含むことを特徴とする方法:
(a)少なくとも1種の有機溶媒への溶液の状態で次のものを含む反応混合物を製造する工程:
・次式(I’D)の先駆物質から選択されるサブユニットDの少なくとも1種の先駆物質:
【化5】

(式中、x'は10〜20の範囲の整数であり、p'=0又は1である。)、及び
・次式(I’G)の先駆物質から選択されるサブユニットGの少なくとも1種の先駆物質:
【化6】

(式中、R’1は水素原子又は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、Y'は窒素原子又はC−OHを表す。);
(b)該反応混合物を還流させるように加熱することによって該先駆物質を重縮合させて次式(I’)の反復単位から形成される重合体を得る工程:
【化7】

(式中、
・Dは、次式(ID)のサブユニットを表し:
【化8】

(式中、
・xは10〜20の範囲の整数であり;
・p=0又は1であり;そして
・*は、イミン結合によるDのGへの結合点である。);
・Gは、次式(IG)のサブユニットを表す:
【化9】

(式中、
・R1は、水素原子又は1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
・Yは窒素原子又はC−OHを表し、
・#はイミン結合によるGのDへの結合点である。));
(c)このようにして得られた重合体を有機溶剤に溶解させて重合体溶液(溶液P)を得る工程;
(d)次式(II):
m(A)n (II)
(式中、
・Mは遷移金属イオンであり
・Aは1価又は2価の陰イオンであり、
・m及びnは、該塩の電気的中性が満たされるように選択される。)
の遷移金属塩を好適な溶媒に溶解させて該式(II)の塩の溶液(溶液S)を得る工程;
(e)該溶液Pに該溶液Sを該重合体中に存在する式(IG)のサブユニット数の少なくとも50%が遷移金属イオンに錯化するような量で添加する工程;
(f)膜を形成させ、そして該反応媒体から該溶媒を蒸発させる工程。
【請求項9】
MがZn2+、Fe2+、Cu+、Ni2+、Co2+及びAg+から選択される遷移金属イオンであることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
溶液Sを溶液Pに前記重合体中に存在する式(IG)のサブユニット数の50%〜200%が遷移金属イオンに錯化するような量で添加することを特徴とする、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記式(II)の塩の陰イオンAが酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、硝酸及び過塩素酸陰イオンから選択されることを特徴とする、請求項8〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記式(II)の塩が式(I’)の反復単位の総質量に対して0.5〜2当量を占めることを特徴とする、請求項8〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記溶剤がテトラヒドロフラン、トリクロルメタン及びジクロルメタン及びそれらの混合物から選択される有機溶媒によって形成されることを特徴とする、請求項8〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記溶液Sの溶媒が低級アルコール及びアセトニトリルから選択されることを特徴とする、請求項8〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜7のいずれかに記載の自立支持型高分子膜の、化学種の膜分離方法における使用。
【請求項16】
パーベーパレーション、逆浸透、ナノろ過及び気体分離方法における請求項15に記載の使用。
【請求項17】
金属イオンがZn2+イオンである請求項1〜7のいずれかに記載の自立支持型高分子膜の、二酸化炭素の選択的分離のための使用。
【請求項18】
分離することが望まれている化学種を含む気体又は液体混合物を請求項1〜7のいずれかに記載の自立支持型高分子膜に通すことからなることを特徴とする、化学種の分離方法。
【請求項19】
請求項1〜7のいずれかに記載の自立支持型高分子膜の、炭化水素の分離、揮発性有機化合物の回収又はNa+/K+イオン輸送の容易化のための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−521880(P2012−521880A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502737(P2012−502737)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際出願番号】PCT/FR2010/050422
【国際公開番号】WO2010/112722
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(506369944)サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク (45)
【Fターム(参考)】