説明

自走型防除機

【課題】本発明の課題は、畦際に近い散布ブームへの散布コックを開閉する散布レバーに減圧手段を入り切りする減圧スイッチを設けることによって、標準散布と減圧散布の切り替えを容易にし、操作性の向上を図ることにある。そして、隣の圃場への薬液の飛散を防止することである。
【解決手段】自走しながら圃場の作物に薬液を散布する散布ブーム(9)を備えた自走型防除機において、左側散布ブーム(9L)又は右側散布ブーム(9R)へ薬液を送る左散布コック(C1)又は右散布コック(C3)を開閉する左散布レバー(12L)又は右散布レバー(12R)と、散布圧を通常圧よりも低く設定する減圧手段(46)を設け、該減圧手段(46)を制御可能な減圧スイッチ(50,50)を前記散布レバー(12L、12R)毎に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自走しながら圃場の作物に薬液を散布する自走型防除機に関し、農業機械の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、薬液を散布する防除装置には、1反あたり100Lの薬液を散布する際に使用する慣行散布用ノズルと、1反当り25Lの薬液を散布する際に使用する小量散布用ノズルが設けられ、薬液の多量散布と少量散布を使い分けできるようにしたものが開示されている。
【特許文献1】特開平10−108609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
水田防除を行う際、圃場の畦畔を介して隣接する圃場や畑などにキャベツやピーマン等の野菜が作付けされている場合、これらに農薬が飛散し、残留農薬量が増加して出荷が停止されることがある。特に最近施工された残留農薬のポジティブリスト制により農薬規制が非常に厳しくなっている。上記従来技術のように、農薬散布を少量散布に切り替えても、畦際では隣接圃場への農薬飛散は免れず、隣の作物に被害をもたらす問題があった。最近では、かかる問題点を解消するため、特に圃場の畦際においてのみ、農薬の散布圧を他の通常圧より低く抑えることによって隣接圃場への農薬飛散を防止する案が講じられている。
【0004】
そこで,本発明は、上記の点に鑑み、畦際の散布ブームへの散布コックを開閉する散布レバーに減圧手段をON・OFFする減圧ボタンスイッチを設けることによって、標準散布と減圧散布の切り替えを容易にし、操作性の向上を図らんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1記載の本発明は、自走しながら圃場の作物に薬液を散布する散布ブーム(9)を備えた自走型防除機において、左側散布ブーム(9L)又は右側散布ブーム(9R)へ薬液を送る左散布コック(C1)又は右散布コック(C3)を開閉する左散布レバー(12L)又は右散布レバー(12R)と、散布圧を通常圧よりも低く設定する減圧手段(46)を設け、該減圧手段(46)を制御可能な減圧スイッチ(50,50)を前記散布レバー(12L、12R)毎に設けてあることを特徴とする自走型防除機としたものである。
【0006】
畔際での農薬散布にあたり、隣接する圃場にピーマンやキャベツ等の別の野菜作物がある場合には、散布レバー(12L,12R)毎に設けられた減圧スイッチ(50,50)を入りにすると、減圧手段(46)の作動によって畦際に位置する左側散布ブーム(9L)又は左側散布ブーム(9R)からの散布圧が他の散布ブームの通常(標準)散布圧より低く設定され、畦際の作物は減圧された散布圧でもって散布されることになり、隣接圃場の作物への薬液飛散が防止される。
【0007】
減圧スイッチ(50,50)は、散布コックを開閉する左右散布レバー(12L,12R)に設けられているので、左右散布レバー(12L,12R)による散布コックの開閉操作と同時に散布レバーのグリップ部から把持する手の持ち替えをなくして、迅速な操作を行なえ操作性を高めることができる。
【0008】
請求項2記載の本発明は、前記減圧スイッチ(50,50)を入り状態に操作すると、予め設定された減圧割合で散布できるように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の自走型防除機としたものである。
【0009】
減圧スイッチ(50,50)の入り操作により予め決められた減圧割合にて散布することができるので、減圧する度にいちいち調整する必要がなく、即座に対応することができ、作業の能率化を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上要するに、請求項1の本発明によれば、減圧手段を入り切りする減圧スイッチ(50,50)を、左右散布ブーム(9L,9R)への散布コックを開閉する左右の散布レバー(12L,12R)に設けたので、これら左右いずれかの散布レバー(12L又は12R)による散布コックの開閉操作と同時に左右散布レバー(12L,12R)のグリップ部から把持する手の持ち替えをなくして、迅速な操作を行うことができ、操作性を高めることができる。
【0011】
請求項2の本発明によれば、請求項1の発明効果を奏するものでありながら、減圧スイッチ(50,50)を入り操作すれば、予め決められた減圧割合にて散布することができ、減圧する度にいちいち調整する必要がなく、即座に対応することができ、散布作業の能率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は、乗用型防除機を示すものであり、この車体1の前部にエンジンEを搭載し、このエンジンEの回転動力をミッションケ−ス2内の変速装置に伝え、この変速装置で減速された回転動力を前輪3と後輪4とに伝えるようにしている。機体後部には薬液を収容しているタンク5が設置され、該薬液タンク5の上部に運転席6が、その前方にはステアリングハンドル7が装備されている。薬液タンク5内の薬液は、ポンプ8により後述する散布ブーム9に設けられた散布ホ−ス10のノズル11から噴出されるようになっている。
【0013】
機体の左右両側には散布ブームを収納支持するためのブーム収納支持枠13,13が立設され、受け具14によって係止保持されるようになっている。
次に、散布ブーム9の構成について説明すると、中央の散布ブーム(センタブーム)9Cは機体の横幅に略一致し、その左右両側に連結される左・右散布ブーム(サイドブーム)9L,9Rは中央のそれよりも長さが長く構成されている。左右のサイドブーム9L,9Rは、中央のセンターブーム9Cに対し回動自在に連結され、サイドブーム上下シリンダ15により上方へ回動させて収納状態に保持させたり、或いは地面と略平行となる散布作業姿勢状態に回動させて支持させたりすることができる。
【0014】
次に、自走型防除機の車速連動噴霧システムを有したブームスプレーヤ(薬液散布装置)の散布制御装置について説明する。防除コントローラ20、コントローラパネル21及び防除ポンプ8の駆動を入切する防除ポンプスイッチ19や、手動で開閉できる各ブーム9L,9C,9Rの散布コックC1,C2,C3等が運転席6の側部に設置される。散布コックC1,C2,C3は散布レバー12L,12C,12Rの操作に各対応して開閉する。
【0015】
図4に示すように、防除コントローラ20を備えた表示パネル21には、中央上部のディスプレイ22の左側に上位から散布設定23、圧力24、畦際の散布圧を設定する畦圧25、流量累計26等の表示部が表示されていて、ディスプレイ22の左端部に点灯されるインジケータ(三角マーク)27によって、このディスプレイに表示されるデータ内容が指示される。ディスプレイ22右側には表示切替手段である表示切替ボタン28が設けられる。また、これらの下方には、手動モード選択ボタン(手動ボタンスイッチ)29が設けられ、この入り状態をパイロットランプ30で表示するようになっている。更に、散布設定ボタンスイッチ31、増減ボタンスイッチ32,33、累計リセットスイッチ34等が配置される。
【0016】
散布制御装置の薬液吸込吐出経路は、薬液タンク5から防除ポンプ8間に至る低圧吸水経路35と、ポンプ8から流量制御弁36を経て各散布ブーム9L,9C,9R間に至る高圧吐水経路37とからなり、ホース等で連結される。高圧吐水経路37には、一定圧以上の液圧を逃がす安全弁38を有した余水戻し経路40が設けられてタンク5に還元できるようになっている。また、このタンク5の底部との間には撹拌経路41が連通されて、一部の薬液をタンク内へ常時噴出還元させて、このタンク5内の薬液を撹拌する。
【0017】
前記流量制御弁36と各ブーム9L,9C,9Rへの散布コックC1,C2,C3間における高圧吐水経路37には、この液圧を検出する圧力センサ42と、流量を検出する第1流量センサ43が設けられる。なお、39はエアチャンバである。
【0018】
また、前記低圧吸水経路35には、薬液タンク5とポンプ8との間においてサクションフィルタ44が設けられ、更に、このサクションフィルタ44とポンプ8との間には吸水経路内の流量を検出する第2流量センサ45が設けられる。
【0019】
そして、上記防除コントローラ20には、防除ポンプ8を駆動する防除ポンプスイッチ19を押してスイッチオンし、散布レバー12の開閉操作で散布コックC1〜C3を開き、走行クラッチを入れて機体を前進させると自動的にマイコン防除作業が開始されるように自動散布制御手段が制御プログラム形式で備えられている。そして、この自動散布制御中に途中で手動散布したい時には、手動ボタン29を押すことによって手動モードに切り替え、散布圧を任意に設定することによって手動散布作業が容易に行えるように構成している。
【0020】
更に、図5に示すように、散布ブーム9への高圧吐出経路37中には、左右散布ブーム9L,9Rのいずれか一方側の散布圧を通常圧より低く設定して散布することのできる減圧手段(減圧装置)46が設けられている。かかる減圧装置46は、減圧制御弁47の高圧入口ポートが高圧側に接続され、スプールの移動によって開度可変なポートを通じて、減圧された圧油が減圧出口ポートから取り出されるようになっており、通常の散布圧を決定制御する流量制制御弁36よりは下手側に位置し、且つ散布ブーム9への散布コックC1〜C3に対してはこれらよりも上手側に配置した構成としている。また、この減圧装置には圧力を任意に設定できる減圧用圧力センサ48が具備されている。
【0021】
また、図4に示すように、防除コントローラ20内には、畦際散布圧力の設定機能をもつ「畦圧」25の表示部が設けられていて、インジケータ27による畦圧25の指示によって畦際独自の散布圧が設定されるものであり、通常の散布圧とは独立させた構成としている。これにより、圧力の設定が容易にでき、通常の散布圧とは区別しているため、設定ミスがなくなる。
【0022】
また、畦際左散布ブーム9L(又は右側散布ブーム9R)の減圧をON・OFFする専用の畦際減圧スイッチ50,50が左右の散布コックC1,C3を開閉する散布レバー12L,12Rのグリップ部先端に設けられている。
【0023】
例えば、左側の散布ブーム9Lにて減圧散布したい場合には、左散布レバー12Lの操作で左散布コックC1を「開」とした後、減圧スイッチ50をON操作すると、内蔵ランプが点灯し,予め決められた設定圧まで減圧制御弁47が作動し標準圧力より低圧力で散布されることになる。なお、再度、減圧スイッチ50の操作でOFFにすると、ランプは消灯し、通常の所定散布圧になるようバルブが開き通常散布に戻るようになっている。
【0024】
畦際散布圧は、左右の減圧スイッチ50,50に対応させることによって左右それぞれに対し畦際散布圧を設定しなくて良いので操作が容易となる。また、この左右減圧スイッチ50,50を入り操作すると、これに連動して作動開始したことを報知する告知ランプ51L,51Rを点灯するように構成しておくと、作動開始したことをオペレータが容易に認識することができる。
【0025】
散布レバー12L,12Rの操作経路中には、散布レバーを中間位置で係止保持することのできる係止凹部52を設けることによって手動で散布流量の調整ができる構成としている。
【0026】
枕地での旋回散布は、圃場に凹凸があり、機体が左右に揺れることが多い。この場合は、散布ブームも上下に揺れるので農薬飛散が高まり、周辺作物に悪影響を与える可能性がある。そこで、図6に示すように、前輪3の切れ角を検出する切れ角検出センサ53を設け、前輪が所定角度以上切れると、枕地での旋回散布とみなし、自動的に減圧装置46が作動するよう構成し、次行程で切れ角検出センサが所定範囲内に収まると、減圧を解除するように構成しておくと、上記問題点を解消することができ、減圧スイッチ等を押す必要もなくなる。
【0027】
また、本機と散布ブームとの間には、散布ブーム9の揺れを検出する角速度センサ54を設けることによって前記前輪切れ角検出センサ53と併用して減圧装置46を作動させることもできる。従って、散布作業中、圃場のどの位置に自走型防除機があっても圃場の凹凸による散布ブームの揺れ及び旋回散布を検出するので、農薬散布による周辺への影響を最小に抑えることができる。
【0028】
なお、角速度センサ54と切れ角検出センサ53を併用した減圧装置において、前輪の切れ角を検出するセンサの出力を角速度センサのそれよりも優先させた自動減圧装置とすることで、枕地が荒れていない圃場にあっても、確実に旋回散布を認識するので、より隣接する圃場への農薬飛散精度を高められる。
【0029】
散布作業中、散布ブームが上下に揺れる場合、散布薬液の粒子が飛散しやすくなるため、本機側に角速度センサを設け、該センサの出力値が所定値を越えると揺れが激しいとマイコンが判断し、減圧装置が作動して減圧散布されるように構成することもできる。
【0030】
また、図7に示す実施例は、左サイドブーム9L側と右サイドブーム9R側との両方に減圧手段46L,46Rを設けた構成例を示したもので、左右の散布ブーム9L,9Rにて、個別に減圧が可能であるため、追肥となる葉面散布作業中、ある範囲のみ肥料過多部位があると、その範囲のみ減圧処理して散布量を少なくでき、生育ムラの発生を無くすことができて便利である。
【0031】
左右の散布減圧装置46L,46Rは、散布コックC1,C3(散布レバー12L,12R)の後方配管内部に設けることによって散布コック全開で減圧散布することができ、減圧散布をOFFにした場合は、直ちに通常の基本散布制御に戻るので操作性が非常に簡便である。また、図7に示すように、圧力センサ48,48を左右散布ブーム9L,9Rの減圧装置46L,46R内に同時に設けることで、作業条件により任意の圧力を設定可能で、ノズルや作物条件に幅広く対応でき、左右散布ブームで圧力をそれぞれ個別に設定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】自走型防除機の側面図
【図2】圃場での散布作業状態を示す自走型防除機の平面図
【図3】防除機の要部の正面図
【図4】防除コントローラボックスの平面図
【図5】散布減圧装置の配管系統図
【図6】防除機の要部の平面図
【図7】散布減圧装置の配管系統図
【符号の説明】
【0033】
9 散布ブーム
9C センタブーム
9L 左サイドブーム
9R 右サイドブーム
C1〜C3 散布コック
12 散布レバー
46 減圧手段(減圧装置)
47 減圧制御弁
48 圧力センサ
50 減圧スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走しながら圃場の作物に薬液を散布する散布ブーム(9)を備えた自走型防除機において、左側散布ブーム(9L)又は右側散布ブーム(9R)へ薬液を送る左散布コック(C1)又は右散布コック(C3)を開閉する左散布レバー(12L)又は右散布レバー(12R)と、散布圧を通常圧よりも低く設定する減圧手段(46)を設け、該減圧手段(46)を制御可能な減圧スイッチ(50,50)を前記散布レバー(12L、12R)毎に設けてあることを特徴とする自走型防除機。
【請求項2】
前記減圧スイッチ(50,50)を入り状態に操作すると、予め設定された減圧割合で散布できるように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の自走型防除機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−34026(P2009−34026A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200189(P2007−200189)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】