説明

自転車用路面表示材及びその施工方法

【課題】自転車道又は自転車専用帯において、自転車運転者に対して、転倒やスリップ等の危険を伴うことなく、体感及び視覚により交差点手前における減速及び一時停止の注意を喚起することができる自転車用路面表示材及びその施工方法を提供する。
【解決手段】自転車停止位置2から10m以上30m以下までの範囲において、停止位置2の手前に平坦な停車区間5を設け、かつ、リブ塗膜21a,22a,23aがリブピッチ(P1,P2,P3)100〜500mmの等間隔で形成され凹凸区間21,22,23と平坦な区間11,12,13とを交互に設け、進行方向に向かって後方の凹凸区間のリブピッチよりも前方の凹凸区間のリブピッチの方が狭くなるようにし、リブ塗膜21a,22a,23aは、リブ高さを3〜8mm、リブ幅を25〜90mmとし、反射材を3〜15重量%含有させたことを特徴とする自転車用路面表示材を施工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車運転者に注意を喚起し、自転車搭乗者の交差点での事故を防止するための自転車用路面表示材及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通事故全体に占める自転車関連事故の割合が増加している。原因として、自転車の歩道走行や自転車運転者のルール・マナー違反等が指摘されている。これに対しては、対策として、平成19年6月に道路交通法の改正により、自転車の車道通行の原則維持が示され、また、自転車道の整備が推進されているものの、交差点での自転車と自動車の接触事故は増加傾向にある。
【0003】
このため、交差点での事故防止のためのさらなる対策が求められており、運転者に対する種々の注意喚起表示等も提案されている。
例えば、自転車運転者に対する注意喚起表示として、交差点手前に「自転車も止まれ」等の補助標識や表示が設置されている。また、自転車が通過する際に振動により注意を強要するための自転車の道路ハンプが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
なお、自動車運転者に対して、路面標示の視認性を向上させ、かつ、凸状塗膜に乗り上げた車両に適度な振動を与えるものとして、リブ状の路面標示が知られている(例えば、特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−32155号公報
【特許文献2】特開平9−3842号公報
【特許文献3】特開平9−3840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような「自転車も止まれ」等の補助標識や表示は、自転車運転者からの視認性に劣り、法規制もなく、効果が低いのが現状である。
また、上記特許文献1に記載されている自転車の道路ハンプは、歩行者、車いすと自転車が混在する自転車歩行者道において、歩行者と車いす使用者の安心な通行区間確保のために自転車を通行区分誘導することを目的として、舗装や構造物によって設置されるものであり、設置施工が容易ではなく、また、自転車の転倒の危険性がある。
【0007】
一方、特許文献2,3に記載されているようなリブ状の路面塗膜標示は、雨天夜間時の視認性改良や自動車運転者に対する居眠り運転防止を目的としたものであり、自転車運転者に対する注意喚起標示に適しているものではなかった。
【0008】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、自転車道又は自転車専用帯において、自転車運転者に対して、転倒やスリップ等の危険を伴うことなく、体感及び視覚により交差点手前における減速及び一時停止の注意を喚起することができる自転車用路面表示材及びその施工方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る自転車用路面表示材は、自転車道又は自転車専用帯において、自転車停止位置から10m以上30m以下までの範囲に設けられる自転車用路面表示材であって、前記停止位置の手前に平坦な停車区間が設けられ、かつ、リブ塗膜がリブピッチ100〜500mmの等間隔で形成された凹凸区間と平坦な区間とが交互に設けられ、進行方向に向かって後方の凹凸区間のリブピッチよりも前方の凹凸区間のリブピッチの方が狭く、前記リブ塗膜は、リブ高さが3〜8mm、リブ幅が25〜90mmであり、反射材を3〜15重量%含有していることを特徴とする。
交差点手前に上記のような凹凸のある路面表示材を設置することにより、自転車運転者に対して、体感振動と視覚を通じて効果的に、停止位置手前で減速及び一時停止の注意喚起を行うことができる。
【0010】
また、本発明に係る自転車用路面表示材の施工方法は、前記自転車用路面表示材を施工する際、前記凹凸区間の塗布施工を、路面用塗料を150〜200℃に加熱し、粘度15,000〜120,000mPa・sとして行うことを特徴とする。
このような高粘度の溶融型塗料によれば、前記リブ塗膜を好適に形成することができ、前記凹凸区間の塗布施工を容易に行うことができる。
【0011】
前記施工方法においては、反射材は、塗料混入とともに、塗布時に散布して塗膜表面に固着させることが好ましい。
このような方法によれば、塗膜の再帰反射効果をより高めることができ、また、施工の際の反射材量の調整等も容易となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る自転車用路面表示材によれば、自転車道又は自転車専用帯において、自転車運転者に対して、転倒やスリップ等の危険を伴うことなく、体感及び視覚により交差点手前における減速及び注意を喚起することができ、交差点での自転車と自動車の接触事故の低減を図ることができる。
また、本発明に係る施工方法によれば、本発明に係る自転車用路面表示材を簡便に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る自転車用路面表示材の一例を示した概略図である。
【図2】リブ塗膜の断面形状の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、図面を参照して、より詳細に説明する。
図1に、本発明に係る自転車用路面表示材の一例を示す。図1に示すように、本発明に係る自転車用路面表示材1は、車道3と歩道4との間の自転車道2(又は自転車専用帯)に設置され、交差点手前等の自転車停止位置5から10m以上30m以下までの範囲に設けられる。
この自転車用路面表示材1は、停止位置5の手前に平坦な停車区間11が設けられている。また、リブピッチP1,P2,P3が100〜500mmの等間隔でリブ塗膜21a,22a,23aが形成された凹凸区間21,22,23と、平坦な区間11,12,13とが交互に設けられている。リブピッチP1,P2,P3は、進行方向に向かって後方の凹凸区間よりも前方の凹凸区間の方が狭く形成されている。すなわち、P1<P2<P3である。
【0015】
自転車道又は自転車専用帯において、交差点手前に上記のような凹凸のある路面表示材を設置することにより、体感振動と視覚を通じて、交差点手前で減速及び一時停止するよう自転車運転者に対して効果的に注意喚起することができる。
【0016】
前記自転車用路面表示材の設置範囲は、自転車運転者に対して効果的に注意喚起できる長さとする観点から、交差点手前等の自転車停止位置から10m以上30m以下までの範囲とする。
設置範囲が自転車停車位置から10m未満では、自転車運転者に対する注意喚起のタイミングが遅く、交差点手前での急な減速又は急停止を招くため、かえって転倒や衝突等の事故を引き起こすおそれがある。
一方、自転車停止位置から30m以上手前まで設置しても、注意喚起効果は向上せず、逆に、自転車の適度なスピードでの走行が妨げられ、快適な通行ができなくなるおそれがある。
【0017】
自転車は通常の自動車(四輪車)と異なり、停止時において転倒しやすいことを考慮して、停止位置5の手前の停車区間11の路面は、リブ塗膜による凹凸を形成せず、平坦な区間とする。
【0018】
また、前記路面表示材においては、凹凸区間21,22,23と、平坦な区間11,12,13とを交互に設けて変化をつけることにより、注意喚起効果を高めることができる。
なお、各区間の長さ及び繰り返し回数等は、道路環境や交通状況等に応じて適宜定めることができる。
【0019】
さらに、各凹凸区間のリブピッチP1,P2,P3は、P1<P2<P3として、進行するにつれて狭い間隔となるように設定される。これにより、上記のような凹凸区間と平坦な区間とを繰り返すことと併せて、体感振動のインパクトが強くなり、自転車運転者に減速及び一時停止の意識を徐々に高めることができ、より一層の注意喚起効果を奏することができる。
【0020】
図2に、前記リブ塗膜の形状の一例を示す。リブ塗膜21a,22a,23aは、リブ高さHが3〜8mm、リブ幅Wが25〜90mm、リブピッチPが100〜500mmである。
前記リブ塗膜は、その上を自転車が走行するものであり、自転車の走行時速は通常、時速5〜20km程度であり、かつ、車輪の幅が細く、左右には不安定であることを考慮して、上記のようなサイズで形成することが好ましい。
なお、図2においては、リブ塗膜の断面形状は、長方形であるが、台形やかまぼこ形等の角部が丸みを帯びた矩形状であってもよい。
【0021】
前記リブ塗膜のリブ高さHは3〜8mmとし、好ましくは、4〜6mmとする。
リブ高さHが3mm未満の場合、自転車運転者に振動を十分に体感させることができず、注意喚起効果が不十分となる。一方、8mmを超える場合は、自転車の上下振動が大きくなりすぎ、転倒の危険性があるため好ましくない。
【0022】
リブ幅Wは25〜90mmとし、好ましくは、25〜50mmとする。
リブ幅Wが25mm未満の場合、リブ塗膜上に自転車の前輪が乗り上げた際に転倒する危険性があり、また、施工上困難となる。一方、90mmを超える場合は、自転車運転者に振動を十分に体感させることができず、注意喚起効果が不十分となる。
なお、リブ長さは、自転車道又は自転車専用帯に幅に応じて適宜設定される。
【0023】
リブピッチPは100〜500mmとする。
リブピッチPは狭いほど振動体感の程度は大きくなるが、100mm未満とすることは施工効率に劣る。一方、500mmを超える場合は、自転車運転者に振動を十分に体感させることができず、注意喚起効果が不十分となる。
【0024】
また、前記リブ塗膜には、反射材を3〜15重量%含有させる。
特に、再帰反射機能を有する高輝度反射材であるガラスビーズや、例えば、砂粒の表面を高屈折ビーズでコーティングしたような反射素子を用いることにより、色彩のみならず、夜間や雨天時においても、街路灯や車のヘッドライト等の様々な光の再帰反射によって視覚に訴えることができ、路面表示材の視認性を向上させることができる。
反射材の含有量が3重量%未満の場合、塗膜の再帰反射効果が十分に得られず、特に、雨天時の視認性に劣る。一方、15重量%を超える場合、コスト高となり、経済的に好ましくなく、また、多すぎると、塗膜の耐剥離性、耐クラック性が低下することとなる。
なお、前記反射材は、少なくとも前記凹凸区間のリブ塗膜に含まれていることが好ましいが、それ以外の部分に含まれていてもよく、凹凸区間全体、さらに、平坦な区間も含む路面表示材全体に含まれていてもよい。
【0025】
前記反射材としてガラスビーズを用いる場合は、通常、JIS R3301 1号の規格品である路面標示塗料用ガラスビーズを使用することができるが、これに限定されるものではない。高輝度反射材であるガラスビーズの場合には、屈折率が1.9以上のものが用いられる。
また、前記ガラスビーズの材質は、シリカ以外に、チタン、バリウム、カルシウム、ストロンチウム、マグネシウム、亜鉛、ジルコニウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、コバルト、アルミニウム等の金属又はこれらの金属酸化物を含んでいてもよい。
前記反射材には、ガラスビーズ以外の反射素子を用いることもできる。
【0026】
前記反射材は、予め路面用塗料に混入させているが、それとともに、塗料の塗布時に別途散布して塗膜表面に固着させることが好ましい。
このようにすることにより、塗膜表面に反射材を露出させることができるため、塗膜の再帰反射効果をより高めることができ、また、施工の際、部分毎の反射材量の調整等も容易であるという利点を有している。
【0027】
前記自転車用路面表示材の施工においては、前記凹凸区間の塗布施工を、路面用塗料を150〜200℃に加熱し、粘度15,000〜120,000mPa・sとして行うことが好ましい。
このように溶融型塗料を高粘度で用いることにより、リブ塗膜を所望の形状を保持して形成することができ、前記凹凸区間の塗布施工を容易に行うことができる。
前記塗料の粘度が15,000mPa・s未満の場合、流動性が良すぎて、リブ塗膜の形状を保持して形成することができず、塗布施工が困難となる。一方、120,000mPa・sを超える場合は、流動性が悪すぎて、塗布及びリブの形成が困難となる。
前記粘度は、20,000〜40,000mPa・sであることがより好ましい。
【0028】
前記路面用塗料は、上記のように高粘度であるが、配合組成は、合成樹脂、体質材、骨材等を含む一般的な溶融型塗料と同様のものを使用することができ、必要に応じて、粘度調節剤等を添加する。
なお、すべり抵抗性や乱反射性の向上の観点から、シリカ鉄、炭化珪素、アルミナ、石灰石、硅石等の顆粒体からなる硬質骨材を3〜20重量%配合したものが好適に用いられる。前記硬質骨材は、上記のようなすべり抵抗性向上等の効果やそのための配合量の調整容易性等の観点から、前記反射材と同様に、塗料に混入させるとともに、塗料の塗布時にも別途散布して塗膜表面に固着させることが好ましい。
また、視覚による注意喚起効果の観点から、カラー塗料を用いることが好ましい。
例えば、下記実施例に示すような配合からなる路面用塗料を好適に用いることができる。
【0029】
前記自転車用路面表示材は、交互に設けられる凹凸区間と平坦な区間とを個別に施工してもよいが、プログラミングによって両区間に対応可能な塗布装置(施工機)を用いれば、効率的に全区間を連続的に施工することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
C5系石油樹脂13.5重量%、バイプロワックス0.5重量%、合成ゴム1重量%、可塑剤2重量%、顔料3重量%、体質材59重量%、硬質骨材15重量%、粘度調節剤1重量%、高輝度反射材(ガラスビーズ又は反射素子)5重量%からなる路面用塗料により、これを150〜200℃で加熱溶融し、粘度を20,000〜40,000mPa・sとして、塗布装置(施工機)を用いて、図2に示すようなリブ塗膜を備えた自転車用路面表示材を施工した。なお、前記反射材は、塗料混入とともに、塗料塗布時に別途散布して塗膜表面に固着させた。
前記自転車用路面表示材は、図1に示すような態様とし、平坦な区間11,12,13を3m、リブピッチP1=100mmの凹凸区間21を2m、リブピッチP2=200mmの凹凸区間22を5m、リブピッチP3=300mmの凹凸区間23を5mとした。リブ塗膜21a,22a,23aは、リブ高さHを4mm、リブ幅Wを25mm、長さを280mmとした。
【0031】
このような自転車用路面表示材によれば、自転車運転者に対して、停止位置手前において、転倒やスリップ等の危険を伴うことなく、リブ塗膜に乗り上げる際の体感振動及び塗膜の再帰反射や乱反射による視覚効果によって注意を喚起することができ、減速、さらに一時停止を促すことができることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車道又は自転車専用帯において、自転車停止位置から10m以上30m以下までの範囲に設けられる自転車用路面表示材であって、
前記停止位置の手前に平坦な停車区間が設けられ、かつ、リブ塗膜がリブピッチ100〜500mmの等間隔で形成された凹凸区間と平坦な区間とが交互に設けられ、進行方向に向かって後方の凹凸区間のリブピッチよりも前方の凹凸区間のリブピッチの方が狭く、
前記リブ塗膜は、リブ高さが3〜8mm、リブ幅が25〜90mmであり、反射材を3〜15重量%含有していることを特徴とする自転車用路面表示材。
【請求項2】
請求項1記載の自転車用路面表示材を施工する方法において、前記凹凸区間の塗布施工を、路面用塗料を150〜200℃に加熱し、粘度15,000〜120,000mPa・sとして行うことを特徴とする自転車用路面表示材の施工方法。
【請求項3】
前記反射材は、塗料混入とともに、塗料塗布時に散布して塗膜表面に固着させることを特徴とする請求項2記載の自転車用路面表示材の施工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−49957(P2013−49957A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186972(P2011−186972)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000190172)信号器材株式会社 (19)
【Fターム(参考)】