説明

臭化水素酸エスシタロプラム(escitalopramhydrobromide)およびその製造方法

臭化水素酸塩の形態でのエスシタロプラム (S-シタロプラム)、その製造方法、およびその薬学的調合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、よく知られている抗うつ薬シタロプラムのS−エナンチオマー、すなわち(S)-1-[3-(ジメチル-アミノ)プロピル]-1-(4-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロ-5-イソベンゾフランカルボニトリルで表されるエスシタロプラムの臭化水素酸塩とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シタロプラムは数年来上市されている抗うつ薬であり、以下の式
【0003】
【化1】

【0004】
で表される。
【0005】
これは、選択的に、中枢作用を示すセロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン; 5-HT)再取り込み阻害剤であり、抗うつ活性を有する。シタロプラムは最初に特許文献1(特許文献2に対応)に開示された。
【0006】
シタロプラムの製造におけるジオール、4-[4-(ジメチルアミノ)-1-(4’-フルオロフェニル)-1-ヒドロキシ-1-ブチル]-3-(ヒドロキシメチル)-ベンゾニトリル、およびその中間体としての使用は例えば特許文献3において開示されている。
【0007】
以下の式、
【0008】
【化2】

【0009】
で表されるS−エナンチオマー(エスシタロプラム) および上記エナンチオマーの抗うつ効果は特許文献4に開示される。特許文献5には神経症の治療においてエスシタロプラムを使用する方法が記載されており、特許文献6には、従来のSSRIsには応答しないうつ病患者の治療、およびその他多くの疾患の治療においてエスシタロプラムを使用する方法が記載されている。
【0010】
エスシタロプラムの製造方法は特許文献4およびその他多くの特許出願に開示されている。
【0011】
上記出願では、油状物としてのエスシタロプラムの遊離塩基、エスシタロプラムのシュウ酸塩、パモン酸(pamoic acid)およびL-(+)-酒石酸付加塩についてもまた記載されている。パモン酸付加塩の毒性のため、これらは調合薬に適さない。
【0012】
エスシタロプラムは現在抗うつ剤として開発されており、エスシタロプラムの、代替の塩の必要性が明らかになってきている。
【特許文献1】ドイツ特許第2,657,013号明細書。
【特許文献2】米国特許第4,136,193号明細書。
【特許文献3】米国特許第4,650,884号明細書。
【特許文献4】米国特許第4,943,590号明細書。
【特許文献5】欧州特許第1.200.081号明細書。
【特許文献6】特許出願公開(WO)第02/087566号明細書。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
薬学的調合物に適している塩の探索において、種々の溶剤系および種々の条件のもとで、30以上の有機酸および無機酸について調べた。これらの酸により、中度から高度の吸湿特性を有する油状物または非結晶の固体が得られた。1個のカルボキシル基をもつ有機酸からは非含水性の結晶の固体は得られず、これらの酸からは主に油状物が形成された。二価および三価の(Di- and triphasic)有機酸からは非結晶の固体が得られた。興味深いことにL-酒石酸で形成される塩は非結晶の固体だった。
【0014】
このように、結晶の、安定な、非吸湿性のエスシタロプラムの塩はほとんど知られていない。
【0015】
塩酸および臭化水素酸で結晶の塩を形成することはいまだに成功されていない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
無水条件下、気体の臭化水素酸を用いることで、結晶の臭化水素酸エスシタロプラムを形成できることが見出された。
【0017】
(発明の概要)
本発明は、臭化水素酸塩の形態でのエスシタロプラム (S-シタロプラム)に関する。
【0018】
特定の実施態様において、本発明は、非結晶または結晶状のような固体形状での、臭化水素酸エスシタロプラムに関する。
【0019】
さらに特定の実施態様において、本発明は、結晶状の臭化水素酸エスシタロプラムに関する。
【0020】
本発明はまた、臭化水素酸エスシタロプラムおよび一種の薬学的に許容される担体(carriers)または希釈剤を含む薬学的調合物に関する。
【0021】
さらにまた、本発明は、従来のSSPIsによる初期治療に応答しない患者の治療を含む、うつ病、神経症(全般性不安障害、社会不安障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、パニック障害を含むパニック発作、社会恐怖、特定の恐怖症(specific phobias)、広場恐怖症)、急性ストレス障害、および過食症、食欲不振症のような摂食障害、肥満症、気分変調、月経前症候群、認知障害、衝動制御障害、注意欠陥多動性障害および薬物乱用(drug abuse)の治療のための薬学的調合物の製造において、請求項1または2記載の臭化水素酸エスシタロプラムを使用する方法に関する。
【0022】
(発明の詳細な説明)
塩の形成には水の存在が大きな影響を及ぼすため、塩の形成は無水の条件下で行われなければならないことが知られている。塩の形成は、エスシタロプラムを、アセトンまたは大きな分子量を有するケトン(例えばメチル−イソブチルケトン)のような無水の溶剤に溶解させて実施するのが好ましい。無水の溶剤は簡単に水を獲得しないものが好ましい。臭化水素酸は気体として適時添加される。
【0023】
結晶の臭化水素酸エスシタロプラムのもう一つの製造方法は、有機溶剤を通して無水臭化水素ガスを吹き込む(bubbling anhydrous hydrogen bromide gas)ことによって、有機溶剤中(例えばイソ−プロピルアルコール)で臭化水素の無水溶液またはほぼ無水の溶液を製造すること、を含む。その後、この溶液のアリコート(aliquot)が適切に、有機溶剤中のエスシタロプラム塩基の溶液に添加される。
【0024】
結晶の臭化水素酸エスシタロプラムを製造する三つ目の方法は、臭化水素酸の水溶液をエスシタロプラム遊離塩基に添加することで、塩を形成させ、その後に、当業者に知られる方法(例えば、トルエンまたはイソ−プロピルアルコールのようなものを用いた共沸蒸留による乾燥、または固体乾燥剤(solid drying agent)を用いた乾燥)で水を除去すること、を含む。エスシタロプラム遊離塩基は固体状でも油状物または溶液でもよい。
【実施例】
【0025】
A)塩酸ガスを用いた実験: 250mlの丸底フラスコに5.7gのエスシタロプラム遊離塩基と120mlのイソプロパノールを加えた。前記混合物は均一な溶液が得られるまで攪拌した。混合物を5℃で冷却し、冷却しながら塩酸ガスを20分間吹き込んだ(bubbled)。混合物は一晩、冷却装置中に置いた。固体物質はなにも形成されなかった。その後、上記混合物を真空中で油状物になるまで濃縮し、油状残留物は45℃に加熱することでアセトンに溶解させた(該溶液はアセトンにおいて、0.5モル溶液であった)。核形成を開始するために、フラスコをスクラッチ(scratched)すると、溶液は濁った。該溶液を5℃で一晩冷却した。綿毛状の物質を濾過により収集し、乾燥して(50 °C HI-VAC)粉状にするためにアンバーボトル(an amber bottle)へ移した。この粉状サンプルは、空気にさらされて、空気から水分を獲得すると油状物になる。種々の溶剤を用いて、上記油状物の再結晶化を試みた。これらの試行の結果、固体生成物は得られなかった。
【0026】
B)臭化水素酸ガスを用いた実験: この実験は、臭化水素酸ガスをイソ−プロパノール中で溶液に吹き込む点を除いては、正確に上記実験のとおりに行った。イソ−プロパノールでは固体物質は何も形成しなかったが、溶剤をアセトンに変えると(0.5モル溶液)、オフホワイト(off-white)の固体が形成した。上記固体を収集し、冷アセトンで洗浄することで結晶物質を得た。上記結晶の臭化水素酸エスシタロプラムは融点、HPLC、プロトンNMRにより良質であることが見出された。該物質サンプルは空気にさらしても、非吸湿性を示した。
【0027】
C)種々の溶剤を用いた実験: これらの実験は以下のように実施した。: 乾燥2−プロパノールを用いたエスシタロプラム遊離塩基溶液(約20% w/w)に、乾燥2−プロパノールに溶解した0.9−1.0g当量の臭化水素酸を滴加した。通常、30分以内に固体の沈殿が生じた。沈殿が2−プロパノール以外の溶剤中で生じさせた場合には、最終の結晶化の前に、得られた混合物を減圧下で蒸発させて適当な溶剤を添加し、再び蒸発させた後にもう一度適当な溶媒を該混合物に添加した。
【0028】
以下の表は、種々の溶剤において得られる結果を示す。
【0029】
種々の溶剤での臭化水素酸エスシタロプラムの沈殿
【0030】
【表1】

【0031】
MTBE = t-ブチルメチルエーテル; IPA = イソ−プロパノール; MIBK = メチルイソブチルケトン;THF = テトラヒドロフラン; EtOAc = 酢酸エチル

アセトニトリル、メタノール、エタノールおよびプロピレンカルボナート(propylencarbonate)のような他の溶剤についても試行したが、結晶は得られなかった。
【0032】
塩基を2−プロパノールに溶解し、0.9−1.0等量の臭化水素酸水溶液を添加、溶剤を蒸留除去し、共沸蒸留(例えば2−プロパノールおよびトルエン)の反復により水を除去する、という他の方法も存在する。この方法で得られる結果はいくらか低収率なようである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭化水素酸塩の形態でのエスシタロプラム (S-シタロプラム)。
【請求項2】
固体状の、請求項1記載のエスシタロプラム。
【請求項3】
結晶状の、請求項2記載の臭化水素酸エスシタロプラム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の臭化水素酸エスシタロプラム、および薬学的に許容される担体(carriers)および希釈剤を含む、薬学的調合物。
【請求項5】
従来のSSPIsによる初期治療に応答しない患者の治療を含む、うつ病、神経症(全般性不安障害、社会不安障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、パニック障害を含むパニック発作、社会恐怖、特定の恐怖症(specific phobias)、広場恐怖症)、急性ストレス障害、および過食症、食欲不振症のような摂食障害、肥満症、気分変調、月経前症候群、認知障害、衝動制御障害、注意欠陥多動性障害および薬物乱用(drug abuse)の治療のための薬学的調合物の製造において、請求項1から3のいずれか1つに記載の臭化水素酸エスシタロプラムを使用する方法。

【公表番号】特表2006−514952(P2006−514952A)
【公表日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−561083(P2004−561083)
【出願日】平成15年12月18日(2003.12.18)
【国際出願番号】PCT/DK2003/000902
【国際公開番号】WO2004/056791
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(591143065)ハー・ルンドベック・アクチエゼルスカベット (129)
【Fターム(参考)】