説明

舗装材、舗装工法、及び舗装路

【課題】 吸水性・保水性・遮熱性の付与による路面のヒートアイランド現象の抑制、水濡れ時の路面滑り性増加の防止が可能な舗装材、舗装工法及び舗装路を提供する。
【解決手段】 ラピリ、セメント、水の混合物(ラピリ入りセメントミルク)からなる舗装材を、開粒度アスファルトコンクリートの空隙部分に充填することにより、上記課題を解決する。また、上記ラピリ入りセメントミルクの組成比を特定の組成比にして上記の効果を最大限に発揮させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球温暖化、特にヒートアイランド現象の抑制が可能で、且つ路面が水濡れ時に滑りやすくならない(即ち、防滑性を保持する)こと等を目的とした舗装材およびこのような舗装材を用いる舗装工法及びその舗装工法によって構築される舗装路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られた環境型舗装として保水性舗装や遮熱性舗装がある。特に遮熱性舗装により夏季の路面のヒートアイランド現象を抑制することが、地球温暖化と共に大きな課題となっている。路面のヒートアイランド現象の抑制を目的とした公知文献の例としては、開粒度アスファルトコンクリートの間隙部に石炭灰を主体とするスラリーを充填させた表層のアスファルト保水層と、この下側に石炭灰固化砕石を主体とする石炭灰固化砕石貯水層とから構成される給水型保水性舗装(特許文献1)や、上下2層の多孔質アスファルトの下層空隙に主成分の珪砂微粒体を充填するアスファルト舗装体(特許文献2)などがある。
【0003】
また、ヒートアイランド現象を抑制するための保水性舗装には透水性舗装も含まれ、空隙のある開粒度アスファルトコンクリート舗装体に保水材を充填して路面の剛性をアスファルトコンクリート舗装よりも高めることにより、特に交差点付近に於ける自動車の停止・発進に伴う減速・加速による路面の剪断力に対する抵抗性を高めた半たわみ性舗装もある。
【特許文献1】特開2006−214147
【特許文献2】特開2008−31679
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の舗装工法、舗装体は遮熱性と水濡れ時の防滑性の二つの機能を併せ持つことは難しかった。路面の条件として自然の気象変化に対応できるために、いろいろの機能を併せ持つことが必要であり、また一方において施工性も重要である。施工後に使用できるまでの期間が長くかかる施工方法は用途に限界がある。
【0005】
本発明の主な目的は、このような課題を解決することができる舗装材、舗装工法及び舗装路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1の要旨は、ラピリ、セメント、水の混合物からなる舗装材に存する。
本発明の請求項2の要旨は、前記混合物のラピリ、セメント、水の混合比は、ラピリ/セメント/水=1.5〜2.5/1/3であることに存する。 本発明の請求項3の要旨は、請求項1又は2記載の舗装材が充填された舗装路であることに存する。
本発明の請求項4の要旨は、請求項1又は2記載の舗装材を開粒度アスファルトコンクリートに充填する舗装工法であることに存する。 本発明の請求項5の要旨は、前記開粒度アスファルトコンクリートの大きさ(最大粒径)が、13mm〜20mmである請求項4記載の舗装工法であることに存する。
本発明の請求項6の要旨は、前記開粒度アスファルトコンクリートへの請求項1又は2記載の舗装材の浸透深さを、前記開粒度アスファルトコンクリートの厚さの30〜60%とする請求項4又は5に記載の舗装工法であることに存する。
本発明の請求項7の要旨は、請求項4〜6のいずれか一項に記載の舗装工法によって構築された舗装路であることに存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の舗装材の一つを構成するラピリ(火山礫)は軽量で保水性に優れ、また断熱性、調湿性、更には防滑性等の特性を有し、道路の舗装材料に用いた場合の遮熱性機能や路面が水に濡れていても防滑性を保持する長所がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、図面には、発明の構成又は効果を判り易く表すこと等を目的として、模式的に誇張、省略等された部分が含まれる。
【0009】
本発明の舗装工法に係る最良の実施の形態であるラピリを用いた半たわみ性舗装(以下、ラピリバージョンと称する。)につき図1及び図2を用いて説明する。
本発明は開粒度アスファルトコンクリート10の空隙部分1に、表面からラピリ・セメント・水の混合物(以下、ラピリ入りセメントミルクと称する。)を浸透させる舗装工法であり、図1にその概略の厚さ方向断面図を示す。また、その施工手順は下記の通りである。
1)先ず、図1・図2の下部の斜線を引いた部分である符号3の路面土台(通常は砕石)の上に、開粒度アスファルトコンクリート10を舗設する。該開粒度アスファルトコンクリート10の舗設は加温して行うため、舗設直後は未だ熱い。そのため、ラピリ入りセメントミルク11を浸透させる前に、数時間放置して開粒度アスファルトコンクリート10を冷ます。尚、図1・図2の符号2が大きさや形状の様々な開粒度アスファルトコンクリートの粒を表している。
2)次に、舗装材である、ラピリ入りセメントミルク11を所定組成にて計量し、それぞれ混合容器に投入する。
3)それら混合物(乳白色のラピリ入りセメントミルク11)を、常温にてハンドミキサーやグラウトミキサーで均一になるまで混合する。
4)その後、均一に混合されたラピリ入りセメントミルク11を、図1の符号1に示した黒色部分である開粒度アスファルトコンクリート10の空隙部分に、表面からホース等で充填する。その際、図2に例示した如く、開粒度アスファルトコンクリート10の空隙空間の広さと、充填時のラピリ入りセメントミルク11の粘度との関係で、開粒度アスファルトコンクリート10の開粒度アスファルトコンクリート層全体の厚みt0までは充填物であるラピリ入りセメントミルク11が浸透せず、途中の深さであるラピリ入りセメントミルクが空隙に充填された厚み(浸透厚み)t1までに留まる。
5)充填後に舗装路表面を振動ローラー等でならす。
尚、上記の施工手順のうち、2)及び3)と、1)との順番についての後先は問わない。
【0010】
このラピリバージョンの配合は、例えば重量比でラピリと水の量を多くした、ラピリ/セメント/水=2/1/3や、ラピリと水の量を少なくした1/1.5/0.75、さらにはラピリの量のみ多くしたラピリ/セメント/水=1.5/1/0.75という配合もあり、それらの配合比に応じてラピリ入りセメントミルク11の、開粒度アスファルトコンクリート10の空隙部分1に浸透する深さは異なってくる。また浸透深さが異なると、それと共に路面土台3の上の空間部分の空気の容積が異なってくるので、遮熱効果や吸水効果等も変わってくる。
【0011】
また、ラピリは多孔質なので混練り時に表乾状態(表面が乾いた状態)を保持することが難しく、また配合比における水分の量が浸透性に大きく影響する。従って単位水量を少なくし、且つ分散性を向上させる目的で若干の減水剤を添加して、乾燥時にラピリの空隙に存在する空気の膨張による乾燥膨張に起因するクラックの発生を抑えたり、界面活性剤を加えてラピリ入りセメントミルク11の流動性を改良することがある。
【0012】
以下、本発明の舗装工法実施例の工程を具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0013】
(ラピリバージョンの作成)
最大粒径20mmの開粒度アスファルトコンクリート10を50mm厚さに舗設した後、十分転圧を行い、その後常温まで冷却して透水性舗装とした。次に粉砕して得られた4mm以下の大きさのラピリとセメントと水とを表1下の組成比(重量比)で計量混合したラピリ入りセメントミルク11の充填剤を混練りし、充填する用意をした。次に、開粒度アスファルトコンクリート10の空隙部分1へラピリ入りセメントミルク11をホースで流し込んだ後、振動、転圧を行った。これらの操作を繰り返し実施し、施工対象とする領域の全面へのラピリ入りセメントミルク11の充填が完了した。
サンプル舗装路の概略の広さは3m×2mであった。尚、遮熱性効果を比較する比較対象の舗装路は、たわみ性舗装路の代表である密粒度アスファルトコンクリートとした。
【0014】
(舗装路の養生と浸透深さの測定)
上記のラピリバージョンの作成の後、ラピリ入りセメントミルク11の養生を十分に行った。養生後に路面穴あけ機で穴を空け、舗装体をサンプリングしてラピリ入りセメントミルク11の浸透深さをスケールで測定したところ21mmであり、その下の29mmは浸透の無い空間のままとなっていた。
【0015】
(路面温度の測定)
二つの異なる夏の日に路面表面温度を、下記仕様の温度計の感知部を舗装面に接触させ、1時間毎に測定した。
測定に用いた温度計は下記の通りである。
メーカー名 株式会社佐藤計量器製作所
機種 防水型デジタル温度計 MODEL SK−1250MC IIIα
(K熱電対を使用した接触式表面温度計)
【0016】
(測定結果)
測定結果を表1に示す。
この様に、比較対象とした標準路面である密粒度アスファルトコンクリート路面との最大温度差が両日とも10℃以上となっており、「遮熱性舗装技術研究会」が定義している、「最大10℃以上の表面温度の上昇抑制が期待できる舗装」である遮熱性舗装の条件を満たしている。
【0017】
【表1】

【実施例2】
【0018】
実施例2と比較例1は、実施例1と同じ開粒度アスファルトコンクリート10及びラピリを用い、ラピリ入りセメントミルク11の組成比のみ変更して、実施例1と同一工程にてラピリ入り舗装体を作成し、同様にラピリ入りセメントミルク11の浸透深さ及び路面温度を測定した。
結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【実施例3】
【0020】
実施例3と比較例2は、実施例1と異なる最大粒径の開粒度アスファルトコンクリート10及びラピリを用い、実施例1と同一のラピリ入りセメントミルク11の組成比で、実施例1と同一工程にてラピリ入り舗装体を作成し、同様にラピリ入りセメントミルク11の浸透深さ及び路面温度を測定した。
結果を表3に示す。
【0021】
【表3】

【0022】
これらのように、開粒度アスファルトコンクリート10の空隙部分1にラピリ入りセメントミルク11を充填する場合、ラピリ入りセメントミルク11の組成比や開粒度アスファルトコンクリート10の最大粒径との関係において、適する範囲が存在することが判明した。従って、遮熱性舗装の定義を満たすことができる、即ち「夏場に密粒度アスファルトコンクリートとの路面温度差が10℃以上」が達成されるラピリ入りセメントミルク11の組成や、開粒度アスファルトコンクリート10の最大粒径の適する範囲が得られた。
【0023】
即ち、舗装路の遮熱性とラピリ入りセメントミルク11の組成との関係において、比較例1のラピリ入り4の場合は水の量が少な過ぎて、ラピリ入りセメントミルク11の流動性が低下し、浸透深さが浅くなり、結果的にラピリの浸透量も少なくなるために遮熱効果が出なかったものと考えられる。また、ラピリ入り5の場合はラピリの量が少なく、一方水が多いので浸透深さが大きくなり、開粒度アスファルトコンクリート10の空気の存在する空間部分が少なくなり、空気による断熱性が低下し、また実質のラピリ充填量が減少するために遮熱効果が低下したものと考えられる。さらに同じくラピリ入り6の場合は、セメント量が多いので粘度が上がって浸透深さが浅くなり、それとともに遮熱効果が低下したものと考えられる。
【0024】
また、開粒度アスファルトコンクリート10の最大粒径も遮熱効果に影響があり、実施例3のラピリ入り7の場合は実施例1の開粒度アスファルトコンクリートの最大粒径よりも多少小さいことで、開粒度アスファルトコンクリートの空隙部分1の大きさが減少し、それと共にラピリ入りセメントミルク浸透深さが少し浅くなったが、遮熱性能の低下は少なく、「遮熱性舗装技術研究会」が定義している、「最大10℃以上の表面温度の上昇抑制できる舗装」の条件は満たしていた。一方、比較例2のラピリ入り8の場合は、開粒度アスファルトコンクリートの最大粒径が8mmと小さいため、開粒度アスファルトコンクリートの空隙部分1の大きさが極端に小さくなり、浸透深さも極端に浅くなった結果、遮熱効果も低下した。同様にして、ラピリ入り9の場合は開粒度アスファルトコンクリートの最大粒径が大き過ぎ、この結果開粒度アスファルトコンクリートの空隙部分1が著しく大きくなり、この空隙1に充填されるラピリ入りセメントミルク11の量が多くなって、その下の空気が存在する部分の空間が少なくなり、却って遮熱性能が低下したものと考えられる。
【0025】
種々実験した結果、ラピリ入りセメントミルク11の浸透深さが、開粒度アスファルトコンクリート10の厚さの30〜60%の範囲であれば、遮熱性能の低下が少なく、上記「最大10℃以上の表面温度の上昇抑制が期待できる舗装」の条件を満たすことが判った。
【実施例4】
【0026】
(水濡れ時の滑り性評価)
次に、本発明による舗装材の水濡れ時の滑り性を、日本道路公団等が路面の調査に採用している屋外使用舗装材料の評価として最も普及している下記方法により評価した。
尚、表4に記載したBPN値はBritish Portable Number値の略で、車道舗装の滑り抵抗の評価値とされており、この値は摩擦係数の約100倍に当たる。また、摩擦が路面温度により大きく左右されるので、通常は測定値に対して温度補正を掛け、20℃時の値としてまとめることとされている。評価方法とサンプルは下記の通りである。
評価方法;英国式振り子抵抗試験機を用いる表面摩擦特性の測定法(ASTM E303)
サンプル;全容積の約40%がラピリ且つ、(ラピリ+セメント)と水との重量比が約100対45であるラピリ入りセメントミルク11を最大粒径13mmの開粒度アスファルトコンクリート10の空隙部分1に充填した300mm×300mm×60mm厚みの平板
この平板の表面をホース水で洗出しし、水濡れしたものを気乾状態(乾燥状態)と表乾状態(表面は乾いているが内部は湿っている状態)の両方で、振り子式スキッドレジスタンステスターを用いた滑り抵抗試験を、それぞれ5回行った結果を表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
通常の舗装材の場合は水濡れ時(表乾状態での測定)のBPN値が乾燥時(気乾状態での測定)のBPN値に比べて10程度下がるのに対し、ラピリ入りセメントミルク11を開粒度アスファルトコンクリートの空隙部分1に充填した舗装材の路面は水濡れ時にもBPN値が全く下がらず、舗装材として極めて防滑性に優れ、有効であることが判った。
【0029】
以上、具体的な実施の形態により本発明を説明したことから判る様に、本発明によれば、「舗装路の遮熱性によるヒートアイランド現象の防止効果のみならず、路面水濡れ時の防滑性、保水性、吸水性、排水性、吸音性や、更には路面温度が上昇しにくいことによるアスファルト舗装路面の寿命の延長」など様々な効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明によるラピリ入りセメントミルクが開粒度アスファルトコンクリートの空隙部に充填される場合の厚み方向断面図
【図2】本発明による舗装材の実施の形態を示す図であり、実際にラピリ入りセメントミルクが開粒度アスファルトコンクリートの空隙部に充填される場合、下部に充填されない空間が存在することを示す厚み方向断面図
【符号の説明】
【0031】
1 開粒度アスファルトコンクリート間の空隙部分
2 開粒度アスファルトコンクリートの粒
3 路面土台部分(通常は砕石)
10 開粒度アスファルトコンクリート層全体
11 ラピリ入りセメントミルクが空隙に充填された部分
ラピリ入りセメントミルクが空隙に充填された厚み(浸透厚み)
開粒度アスファルトコンクリート層全体の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラピリ、セメント、水の混合物からなる舗装材。
【請求項2】
前記混合物のラピリ、セメント、水の混合比は、ラピリ/セメント/水=1.5〜2.5/1/3であることを特徴
とする請求項1記載の舗装材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の舗装材が充填された舗装路。
【請求項4】
請求項1又は2記載の舗装材を開粒度アスファルトコンクリートに充填することを特徴とする舗装工法。
【請求項5】
前記開粒度アスファルトコンクリートの大きさ(最大粒径)が、13mm〜20mmであることを特徴とする請求項4記載の舗装工法。
【請求項6】
前記開粒度アスファルトコンクリートへの請求項1又は2記載の舗装材の浸透深さを、前記開粒度アスファルトコンクリートの厚さの30〜60%とすることを特徴とする請求項4又は5に記載の舗装工法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項に記載の舗装工法によって構築された舗装路。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−90530(P2010−90530A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258238(P2008−258238)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(596037943)
【出願人】(501380379)朝日土木株式会社 (3)
【Fターム(参考)】