説明

舗装材及び施工方法並びにこれらに用いるバインダー剤及び凝固剤

【課題】ウッドチップ、バークチップ等の舗装基材を用いた舗装道路を施工するための舗装材であって、有毒性の問題がなく、施工を容易に行うために、適当な硬化速度に調整することができる舗装材及び施工方法を提供する。
【解決手段】舗装基材用チップに天然ゴムラテックスを主成分とするバインダー剤を混合すると共に、酸性系凝固剤を混入してなる舗装材であり、前記天然ゴムラテックスの硬化を促進する酸性系凝固剤の散布量を調整することによって、施工時に最適な硬化速度を得ることを可能とする施工方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウッドチップ、バークチップ等の舗装基材を用いた舗装道路を施工するための舗装材及び施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、公園、遊歩道、ジョギング道路等を舗装する方法として、ウッドチップ等の舗装基材を用いる施工法が普及しつつある。このような木質系舗装基材は、適度の弾性を有するため、歩行感覚の優しい舗装面を形成することが可能である。また、チップの原材料として間伐材等の小径木材や建築廃材を利用することによって、天然の美観や質感を有する舗装面を形成することができ、資源の有効利用を図り、地球温暖化防止にも有益となる。
【0003】
ところで、上記の舗装基材を施工するには、ウッドチップの場合、木材をチップに細分化し、これをバインダー(結合材)で固める必要がある。このバインダーとして、合成樹脂製バインダー、特に湿気硬化型ウレタン樹脂、湿気硬化型シリコン樹脂、或いは湿気硬化型エポキシ樹脂を用いてウッドチップを結合した場合、これらの樹脂は、有機溶剤であるため、施工作業時の有害性が問題となり、作業者等の健康を害するおそれがある。
【0004】
なお、現在において、有機溶剤として主流である酢酸エチル等は、刺激臭を有すると共に、皮膚等への影響や頭痛等の原因となるおそれがある。さらに、酢酸エチルは引火性液体であり、これらの有機溶剤を主とする接着材においては、引火点が低く、着火しやすいという問題があった。
【0005】
また、上記の有機溶剤は、固化する速度が速いため、作業時間が極めて短時間に限定され、舗装基材と混ぜた後は、作業を迅速に完了させる必要がある。
【0006】
一方、ウッドチップは微生物に分解され老朽化するため、取り替えの際に舗装材が投棄されると、合成樹脂バインダーが自然環境中に残存し、また舗装材が焼却されると、多量の二酸化炭素が発生するため、地球温暖化を増長するという問題がある。
【0007】
このような問題を解消するために、特許文献1には、耐用期間経過後の舗装材の処理を考慮し、天然の樹脂系結合材である生分解性樹脂エマルジョンをバインダーとして使用することにより、その舗装材を堆肥として自然還元することができるようにしたものが記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、ウッドチップのバインダーとして、高分子化合物水性エマルジョンを用いた舗装材が記載されている。ところが、このような水性エマルジョンを用いた舗装材は、水分が蒸発することによって固化するため、固化に時間がかかるだけではなく、バインダーがウッドチップに吸収されるため、バインダー効率が悪いという問題があった。また、バインダーの中心部分が乾燥固化しないため、バインダーの耐水性に劣り、雨に弱く、舗装路の浸水時に白化し、舗装材の耐水強度を確保し難いという問題もあった。
【特許文献1】特開2003−34904号公報
【特許文献2】特開2000−120011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、ウッドチップ、バークチップ等の舗装基材を用いた舗装道路を施工するための舗装材であって、有毒性の問題がなく、施工を容易に行うために、適当な硬化速度に調整することができる舗装材及び施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1の舗装材は、舗装基材用チップに天然ゴムラテックスを主成分とするバインダー剤を混合すると共に、酸性系凝固剤を混入してなることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2の舗装材は、請求項1において、前記舗装基材用チップは、ウッドチップ、バークチップ、ゴムチップ、又はこれらの混合物であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3の舗装材は、請求項1又は2において、前記天然ゴムラテックスを主成分とするバインダー剤の主材料は、天然ゴムラテックス、前加硫型天然ゴムラテックス、後加硫型天然ゴムラテックス、天然ゴムラテックス−アクリルモノマー共重合体であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項4の舗装材は、請求項1、2又は3において、前記酸性系凝固剤の主材料は、クエン酸、乳酸、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩酸、硝酸、酢酸又はギ酸等の酸性水溶液であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項5の舗装材の施工方法は、舗装基材用チップに天然ゴムラテックスを主成分とするバインダー剤を混合すると共に、前記天然ゴムラテックスの硬化を促進する酸性系凝固剤の散布量を調整することによって、施工時に最適な硬化速度を得ることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項6の舗装材用バインダー剤は、天然ゴムラテックス、前加硫型天然ゴムラテックス、後加硫型天然ゴムラテックス、天然ゴムラテックス−アクリルモノマー共重合体などの天然ゴムラテックスを主成分とすることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項7の舗装材用凝固剤は、クエン酸、乳酸、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩酸、硝酸、酢酸又はギ酸等の酸性水溶液を主材料とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
上記の本発明の舗装材において、天然ゴムラテックスは舗装基材用チップのバインダー剤として作用する。また、酸性系凝固剤は天然ゴムラテックスを不安定化させることによって、天然ゴムラテックスの硬化を促進する作用を有する。このため、酸性系凝固剤の散布量を調整することにより、天然ゴムラテックスの硬化速度を調整することが可能となる。
【0018】
即ち、従来においては、舗装基材用チップにバインダーのみを混合することによって舗装材を構成していたのに対し、本発明の舗装材は、バインダーとして有害性の低い天然ゴムラテックスを使用すると共に、この天然ゴムラテックスを不安定化させる酸性系凝固剤を適量だけ混入し、天然ゴムラテックスの硬化速度を調整することによって、施工時の最適な硬化速度を得ることを可能としたものである。
【0019】
また、天然ゴムラテックスは低有害性であり、施工時における作業者の健康を害するおそれを解消すると共に、施工後の短期硬化を目的とする場合、酸性凝固剤の散布量を多く調整することにより、天然ゴムラテックスは、本来の硬化速度に近づいて素早く固化でき、施工後、すぐに通行が可能となる。
【0020】
また、雨等によるバインダー剤の流出を即時に防止することができる。さらに、この天然ゴムラテックスは安価であり、ウッドチップ、バークチップ又はゴムチップによる舗装基材用チップが安価であることと併せて、舗装材の低コスト化にも有益となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の舗装材は、舗装基材用チップに天然ゴムラテックスを主成分とするバインダー剤を混合すると共に、酸性系凝固剤を混入してなるものである。このような舗装材について、詳細に述べると、舗装基材用チップは、ウッドチップ(木材)、バークチップ(樹皮)、ゴムチップ、又はこれらの混合物を使用することができる。
【0022】
木材系のウッドチップの原材料としては、各種の間伐材等の小径木材や廃木材等の建築廃材を利用し、これを細分加工してチップ化したものを使用することができる。また、樹皮系のバークチップの原材料としては、パインバーグ樹皮を細分加工してチップ化した他、杉、ヒノキ、トドマツ、カラマツ等の素材生産に伴って発生する産業廃棄物を利用し、細分加工してチップ化したものを使用することができる。このようなウッドチップ或いはバークチップを使用した場合、特に、透水性、保水性及び保温性に優れた弾性舗装材として使用することが可能となる。
【0023】
さらに、ゴム系のゴムチップの原材料としては、各種の廃材ゴムの利用のほか、廃タイヤを破砕したときに発生する破砕ゴム等を使用することができる。このようなゴムチップを使用した場合、透水性に優れる他、特に弾力性に優れた舗装材として使用することが可能となる。
【0024】
なお、上記の舗装基材用チップは、ウッドチップ、バークチップ、ゴムチップを夫々単独に混合したものの他、選択した適量の材料を混合することによって、舗装材の目的用途に応じた特質を発揮することが可能となる。
【0025】
また、上記の舗装基材用チップを結合するバインダー剤として、有害性の低い天然ゴムラテックスを主成分とするバインダー剤を使用する。その主材料は、天然ゴムラテックス、前加硫型天然ゴムラテックス、後加硫型天然ゴムラテックス、天然ゴムラテックス−アクリルモノマー共重合体を使用する。
【0026】
さらに、上記の天然ゴムラテックスを不安定化させる酸性系凝固剤の主材料として、クエン酸、乳酸、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩酸、硝酸、酢酸又はギ酸を使用する。本発明においては、このような酸性系凝固剤を適量だけ散布し、天然ゴムラテックスの硬化速度を調整することによって、施工時の最適な硬化速度を得ることが可能となる。
【0027】
本発明は、上記のように、天然ゴムラテックスを主成分とするバインダー剤を酸性系凝固剤により固化するものであり、天然ゴムラテックス系バインダー剤に酸性凝固液を散布することにより素早く固化させることができる。また、凝固剤の散布量を調整することにより、天然ゴムラテックスの硬化速度を緩やかにすることができ、最適な施工時間を確保することが可能となる。
【実施例1】
【0028】
本発明の実施例として、以下の試験結果について説明する。下記の表1「強度・白濁試験」は、下記の各舗装材(本発明による舗装材と、比較例としての2種の舗装材)に対する養生時間を、3分、20分、1時間、1日とし、夫々の養生時間後に、各舗装材の上から水を1000mL(ミリリットル)散布し、夫々のチップの固化強度と散布した水の白濁度によって評価を行った結果を表したものである。
【0029】
試験方法としては、舗装基材用チップとして、ウッドチップ、バークチップ、ゴムチップという3種のチップを用いてある。各チップの大きさは、ウッドチップの場合、1〜2cm角、2〜5mm厚とし、バークチップの場合は、1〜2cm角、2〜8mm厚とし、ゴムチップの場合は、3〜8mm角、2〜5mm厚としてある。
【0030】
上記の各チップ別に、本発明のバインダー剤として前加硫型天然ゴムラテックス(この天然ゴムラテックス60%に水40%を混合したもの)を容積比100:15の割合で混合すると共に、凝固剤としてクエン酸水溶液(水75%にクエン酸25%を混合したもの)を用い、上記のバインダー剤と凝固剤を容積比100:30の割合で散布した場合と、散布しない場合とに分ける。
【0031】
また、これに比較するバインダー剤として、従来の水性エマルジョンとして水性ウレタンエマルジョン(水性ウレタン50%+水50%)を用いた場合と、従来の溶剤系エマルジョンとして溶剤系湿気硬化型ウレタン(ウレタンに酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、トルエン、キシレンのいずれかの有機溶剤を溶かしたもの。ウレタン50〜60%+有機溶剤40〜50%)を用いた場合とに分ける。ただし、上記の各バインダー剤の混合比は、ウッドチップ、バークチップ、ゴムチップの夫々に対して、各バインダー剤が、容積比100:15となるように混合する。
【0032】
上記の試験方法をまとめると、各チップ(ウッドチップ、バークチップ、ゴムチップ)に対して本発明によるバインダー剤(前加硫型天然ゴムラテックスに凝固剤を散布した場合と、散布しない場合)と、比較例としての2種の舗装材(バインダー剤として、水性ウレタンエマルジョンを用いた場合と、溶剤系湿気硬化型ウレタンを用いた場合)に対する養生時間を、3分、20分、1時間、1日とし、夫々の養生後に、各舗装材の上から水を1000mL散布し、夫々のチップの固化強度と散布した水の白濁度によって評価を行ったものである。
【0033】
その結果、下記の表1「強度・白濁試験」に示す結果を得た。この表1において、「評価項目」に記載した「強度」「白濁」についての評価基準について述べると、「評価項目」の「強度」に関しては、チップを持ち上げて、崩壊の有無等の固化強度の確認を行ったものである。
【0034】
また、表1の「養生時間」の各欄に記載してある「◎」、「○」、「△」、「×」は、次の評価基準によるものである。
「◎」は、持ち上げて衝撃を与えても崩壊は見られず、完全に固化している。
「○」は、持ち上げて崩壊はないが、衝撃により崩壊する。
「△」は、持ち上げることはできないが、一部は固化している。
「×」は、持ち上げることができず、固化していない。
【0035】
また、表1において、「白濁」に関する評価は、水1000mLを散布して、バインダー剤の流出による白濁の有無を確認した(湿気硬化型は透明なため、評価は行わない)ものであり、「○」、「△」、「×」は、次の評価基準によるものである。
「○」は、全く白濁することはない。
「△」は、やや白濁する。
「×」は、白濁する。
【0036】
(表1)
表1「強度・白濁試験」


【0037】
さらに、下記の表2「施工可能時間試験」は、上記のように各チップ(ウッドチップ、バークチップ、ゴムチップ)に対して本発明によるバインダー剤(前加硫型天然ゴムラテックス)と、比較例としての2種の舗装材(バインダー剤として、水性ウレタンエマルジョンを用いた場合と、溶剤系湿気硬化型ウレタンを用いた場合)に対し、夫々のチップが固化せずに施工可能である時間を確認したものである。表2の各欄に記載してある「○」、「△」、「×」は、次の評価基準によるものである。
「○」は、施工可能である。
「△」は、一部が固化している。
「×」は、完全に固化している。
【0038】
(表2)
表2「施工可能時間試験」


【0039】
なお、舗装基材用チップに天然ゴムラテックスを主成分とするバインダー剤を混合する際、その混合比率によっては、舗装材の透水性が悪化することがある。例えば、舗装基材用チップとしてバークチップを使用し、バインダー剤として前加硫型天然ゴムラテックスを容積比100:15の割合で混合した場合、上記のように強度及び白濁に加えて、透水性に関しても最適となるが、バークチップに上記のバインダー剤を容積比100:10の割合で混合した場合、強度(チップに対する接着固化力)が不足となる。また、バークチップに上記のバインダー剤を容積比100:30の割合で混合した場合、透水性が悪化し、白濁はしないが、この舗装材を用いて施工した場合、水たまりができたり、樹木の根に対して水が浸透し難くなるという不都合が生じる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の舗装材及び施工方法は、有害性を克服し、且つ硬化速度を調整することによって、最適な施工時間を確保することができるもので、透水性を有すると共に、適度の弾性を有する舗装面を得ることができるため、子供や年配者にも優しい舗装面を形成し、公園、遊歩道、ジョギング道路等、その他広い範囲での利用が可能である。
【0041】
また、舗装材の無害性、透水性、保温性等を適用して、例えば、本発明の舗装材を樹木の根元に敷き詰めて固化することにより、樹木の根元を保護すると共に、樹木の根筋を引き立たせるという外観的な効果を強調するような用途にも利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
舗装基材用チップに天然ゴムラテックスを主成分とするバインダー剤を混合すると共に、酸性系凝固剤を混入してなることを特徴とする舗装材。
【請求項2】
前記舗装基材用チップは、ウッドチップ、バークチップ、ゴムチップ、又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載の舗装材。
【請求項3】
前記天然ゴムラテックスを主成分とするバインダー剤の主材料は、天然ゴムラテックス、前加硫型天然ゴムラテックス、後加硫型天然ゴムラテックス、天然ゴムラテックス−アクリルモノマー共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の舗装材。
【請求項4】
前記酸性系凝固剤の主材料は、クエン酸、乳酸、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩酸、硝酸、酢酸又はギ酸等の酸性水溶液であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の舗装材。
【請求項5】
舗装基材用チップに天然ゴムラテックスを主成分とするバインダー剤を混合すると共に、前記天然ゴムラテックスの硬化を促進する酸性系凝固剤の散布量を調整することによって、施工時に最適な硬化速度を得ることを特徴とする舗装材の施工方法。
【請求項6】
天然ゴムラテックス、前加硫型天然ゴムラテックス、後加硫型天然ゴムラテックス、天然ゴムラテックス−アクリルモノマー共重合体などの天然ゴムラテックスを主成分とする舗装材用バインダー剤。
【請求項7】
クエン酸、乳酸、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩酸、硝酸、酢酸又はギ酸等の酸性水溶液を主材料とする舗装材用凝固剤。

【公開番号】特開2008−75394(P2008−75394A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257943(P2006−257943)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(596055039)株式会社レヂテックス (8)
【Fターム(参考)】