説明

舶用内燃機関のスカッフィング防止方法及び装置

【課題】機関回転数変動時にシリンダライナに対するピストンリングの摺動状態が厳しくなることを緩和し得、スカッフィングの発生を防止し得る舶用内燃機関のスカッフィング防止方法及び装置を提供する。
【解決手段】レベル検出器10からの検出信号10aに基づき燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1が存在している場合、機関回転数モニタ装置12でモニタされた機関回転数モニタ信号12aに基づく平水での機関回転数安定時にのみ、燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1から燃料をエンジン7の各気筒8内に供給することが可能であることを表示する燃料タンク切換可能表示器13を設け、機関回転数変動時には、燃料レベルが設定値以下に減少していない燃料タンク1から燃料をエンジン7の各気筒8内に供給するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舶用内燃機関のスカッフィング防止方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、舶用内燃機関においては、燃料タンク内に貯留された燃料を燃料ポンプにより圧送し、燃料噴射弁を介してエンジンの各気筒内に供給するようになっている。
【0003】
尚、舶用内燃機関の燃料供給に関する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【特許文献1】特開2004−308528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、入出港時や運河通過時等の機関回転数変動時には、シリンダライナに対するピストンリングの摺動状態が厳しくなり、該シリンダライナの摺動面に引っかき傷が付くことにより、その後の運転でいわゆるスカッフィングが発生しやすくなるが、従来の場合、前記機関回転数変動時に特別な配慮はなされていなかった。
【0005】
又、燃料中には、該燃料の改質用触媒として利用されたアルミナやシリカ等のセラミックス系の硬質粒子が含まれているため、燃料タンク内に貯留された燃料が減少した際に、該燃料を燃料タンクの底部から抜き出すと、該燃料タンクの底部に沈殿した高濃度の硬質粒子も燃料と一緒に抜き出される形となり、該硬質粒子は燃料清浄機やフィルタでは除去しきれず、エンジンに大量に入り込み、特に、前記機関回転数変動時に硬質粒子がエンジンに大量に入り込んだ場合、シリンダライナに対するピストンリングの摺動状態が更に厳しくなり、スカッフィング発生の起点が形成され、その後の高負荷運転時にスカッフィングが発生するという欠点を有していた。
【0006】
本発明は、斯かる実情に鑑み、機関回転数変動時にシリンダライナに対するピストンリングの摺動状態が厳しくなることを緩和し得、スカッフィングの発生を防止し得る舶用内燃機関のスカッフィング防止方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、燃料タンク内に貯留された燃料を底部から抜き出して燃料ポンプにより圧送し、燃料噴射弁を介してエンジンの各気筒内に供給する舶用内燃機関のスカッフィング防止方法であって、
機関回転数を検出してモニタし、少なくとも機関回転数変動時には、硬質粒子濃度の低い燃料をエンジンの各気筒内に供給する一方、スカッフィング防止剤をエンジンの各気筒内に供給することを特徴とする舶用内燃機関のスカッフィング防止方法にかかるものである。
【0008】
前述の如く構成すると、機関回転数が検出されてモニタされ、少なくとも機関回転数変動時には、硬質粒子濃度の低い燃料がエンジンの各気筒内に供給される一方、スカッフィング防止剤がエンジンの各気筒内に供給される。
【0009】
この結果、機関回転数変動時に硬質粒子がエンジンに大量に入り込むことがなくなる一方、スカッフィング防止剤がエンジンの各気筒内に供給されることから、シリンダライナに対するピストンリングの摺動状態が厳しくならず、スカッフィング発生の起点が形成されにくくなって、その後の高負荷運転時にもスカッフィングが発生しなくなる。
【0010】
前記舶用内燃機関のスカッフィング防止方法においては、複数の燃料タンクを備え、所望の燃料タンクから燃料の抜き出しを可能とし、燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンクが存在している場合、平水での機関回転数安定時にのみ、前記燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンクから燃料をエンジンの各気筒内に供給し、機関回転数変動時には、燃料レベルが設定値以下に減少していない燃料タンクから燃料をエンジンの各気筒内に供給するようにすることができる。
【0011】
前記舶用内燃機関のスカッフィング防止方法においては、前記スカッフィング防止剤をエンジンの各気筒内に注入される潤滑油とし、機関回転数変動時には、潤滑油注入率を上昇させるようにすることもできる。
【0012】
前記舶用内燃機関のスカッフィング防止方法においては、前記スカッフィング防止剤を燃料に混入される研磨剤とし、機関回転数変動時又は機関回転数変動終了後に、研磨剤が混入された燃料をエンジンの各気筒内に供給するようにしても良い。
【0013】
一方、本発明は、燃料タンク内に貯留された燃料を底部から抜き出して燃料ポンプにより圧送し、燃料噴射弁を介してエンジンの各気筒内に供給する舶用内燃機関のスカッフィング防止装置であって、
機関回転数を検出する回転検出器と、該回転検出器で検出された機関回転数をモニタする機関回転数モニタ装置とを備え、少なくとも機関回転数変動時には、硬質粒子濃度の低い燃料をエンジンの各気筒内に供給する一方、スカッフィング防止剤をエンジンの各気筒内に供給するよう構成したことを特徴とする舶用内燃機関のスカッフィング防止装置にかかるものである。
【0014】
該舶用内燃機関のスカッフィング防止装置の場合、回転検出器により機関回転数が検出され、該回転検出器で検出された機関回転数が機関回転数モニタ装置によってモニタされ、少なくとも機関回転数変動時には、硬質粒子濃度の低い燃料がエンジンの各気筒内に供給される一方、スカッフィング防止剤がエンジンの各気筒内に供給される。
【0015】
この結果、機関回転数変動時に硬質粒子がエンジンに大量に入り込むことがなくなる一方、スカッフィング防止剤がエンジンの各気筒内に供給されることから、シリンダライナに対するピストンリングの摺動状態が厳しくならず、スカッフィング発生の起点が形成されにくくなって、その後の高負荷運転時にもスカッフィングが発生しなくなる。
【0016】
前記舶用内燃機関のスカッフィング防止装置においては、複数の燃料タンクと、
所望の燃料タンクから燃料を抜き出し可能となるよう抜出弁が配設された抜出ラインと、
前記各燃料タンクの燃料レベルを検出するレベル検出器と、
該レベル検出器からの検出信号に基づき燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンクが存在している場合、前記機関回転数モニタ装置でモニタされた機関回転数モニタ信号に基づく平水での機関回転数安定時にのみ、前記燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンクから燃料をエンジンの各気筒内に供給することが可能であることを表示する燃料タンク切換可能表示器と
を備え、
前記機関回転数モニタ装置でモニタされた機関回転数モニタ信号に基づく機関回転数変動時には、燃料レベルが設定値以下に減少していない燃料タンクから燃料をエンジンの各気筒内に供給するよう構成することができる。
【0017】
前記舶用内燃機関のスカッフィング防止装置においては、前記スカッフィング防止剤としての潤滑油が貯留された潤滑油タンクと、
該潤滑油タンクに貯留された潤滑油をエンジンの各気筒内に注入可能となるよう潤滑油投入機構及び潤滑油投入量調節機構が配設された潤滑油注入ラインと、
前記機関回転数モニタ装置でモニタされた機関回転数モニタ信号に基づく機関回転数変動時には、前記潤滑油注入ラインの潤滑油投入量調節機構へ潤滑油注入率を上昇させる開度指令信号を出力する潤滑油注入率制御装置と
を備えるようにすることもできる。
【0018】
前記舶用内燃機関のスカッフィング防止装置においては、前記スカッフィング防止剤としての研磨剤が貯留された研磨剤タンクと、
該研磨剤タンクに貯留された研磨剤を燃料に混入可能となるよう研磨剤ポンプ及び研磨剤混入弁が配設された研磨剤混入ラインと、
前記機関回転数モニタ装置でモニタされた機関回転数モニタ信号に基づく機関回転数変動時又は機関回転数変動終了後に、前記研磨剤混入ラインの研磨剤混入弁へ混入指令信号を出力する研磨剤混入制御装置と
を備えるようにしても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明の舶用内燃機関のスカッフィング防止方法及び装置によれば、機関回転数変動時にシリンダライナに対するピストンリングの摺動状態が厳しくなることを緩和し得、スカッフィングの発生を防止し得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1は本発明を実施する形態の第一例であって、燃料タンク1内に貯留された燃料を底部から抜出ライン2に抜き出して燃料ポンプ3により圧送し、セットリングタンク4と供給ポンプ5と燃料噴射弁6とを介してエンジン7の各気筒8内に供給するようにした舶用内燃機関において、前記燃料タンク1を燃料が満たされた状態で複数(図1の例では三個)設置し、所望の燃料タンク1から燃料を抜き出し可能となるよう前記抜出ライン2に抜出弁9を配設すると共に、前記各燃料タンク1に、燃料レベルを検出するレベル検出器10を設け、前記エンジン7に、機関回転数を検出する回転検出器11と、該回転検出器11で検出された機関回転数の検出信号11aをモニタする機関回転数モニタ装置12とを設け、更に、前記レベル検出器10からの検出信号10aに基づき燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1が存在している場合、前記機関回転数モニタ装置12でモニタされた機関回転数モニタ信号12aに基づく平水(水面が波立っていない状態)での機関回転数安定時にのみ、前記燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1から燃料をエンジン7の各気筒8内に供給することが可能であることを表示する燃料タンク切換可能表示器13を設け、前記機関回転数モニタ装置12でモニタされた機関回転数モニタ信号12aに基づく機関回転数変動時には、燃料レベルが設定値以下に減少していない燃料タンク1から燃料をエンジン7の各気筒8内に供給するよう構成したものである。
【0022】
尚、前記機関回転数安定時とは、例えば、図2に示す如く、前記機関回転数の単位時間(一時間)当たりの変動が3%未満となる状態を指し、又、機関回転数変動時とは、例えば、図3に示す如く、前記機関回転数の単位時間(一時間)当たりの変動が15%以上となる状態を指す。
【0023】
又、船舶の航行中は燃料の補充が行えないため、前記複数の燃料タンク1のトータル容量は、一回の航行距離を充分にカバーできる容量とし、最後に燃料が抜き出される燃料タンク1の燃料レベルが設定値以下に減少する前に少なくとも燃料を補充するものとしてある。
【0024】
次に、上記図示例の作用を説明する。
【0025】
本図示例の場合、燃料が満たされた複数の燃料タンク1のうち、所望の燃料タンク1の抜出弁9を開くことにより、該燃料タンク1の底部から抜出ライン2を経て燃料が抜き出され、燃料ポンプ3によりセットリングタンク4へ圧送され、該セットリングタンク4内に一旦貯留された燃料が供給ポンプ5により燃料噴射弁6へ圧送され、該燃料噴射弁6からエンジン7の各気筒8内に噴射される。
【0026】
このとき、前記エンジン7の回転数は、回転検出器11によって検出され、その検出信号11aが機関回転数モニタ装置12に入力され、該機関回転数モニタ装置12において前記回転検出器11で検出された機関回転数の検出信号11aがモニタされ、現在の状態が機関回転数安定時であるか、或いは機関回転数変動時であるかを乗員が把握できるようになっていると共に、前記機関回転数モニタ装置12でモニタされた機関回転数モニタ信号12aが燃料タンク切換可能表示器13へ入力されている。
【0027】
又、前記燃料タンク1の燃料レベルがレベル検出器10によって検出され、該レベル検出器10によって検出された燃料レベルの検出信号10aが燃料タンク切換可能表示器13へ入力され、該燃料タンク切換可能表示器13において、前記レベル検出器10からの検出信号10aに基づき燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1が存在しているか否かの判断が行われ、図1の仮想線で示す如く燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1が存在している場合、前記機関回転数モニタ装置12でモニタされた機関回転数モニタ信号12aに基づく平水での機関回転数安定時にのみ、前記燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1から燃料をエンジン7の各気筒8内に供給可能であることが表示される。
【0028】
この時点で、燃料レベルが設定値以下に減少していない燃料タンク1から燃料の抜き出しが行われている場合、乗員は、前記燃料タンク切換可能表示器13に、燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1から燃料をエンジン7の各気筒8内に供給可能であることが表示されている場合にのみ、前記燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1の抜出弁9を開き、それ以外の燃料タンク1の抜出弁9を閉じ、これにより、前記燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1から燃料がエンジン7の各気筒8内に供給される。
【0029】
因みに、平水での機関回転数安定時に、前記燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1から硬質粒子を多く含む燃料がエンジン7の各気筒8内に供給されても、シリンダライナに対するピストンリングの摺動状態はあまり厳しくならず、スカッフィングが発生する心配はほとんどない。
【0030】
一方、前記機関回転数モニタ装置12でモニタされた機関回転数モニタ信号12aに基づく機関回転数変動時には、前記燃料タンク切換可能表示器13に、燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1から燃料をエンジン7の各気筒8内に供給可能であることが表示されなくなるため、乗員は、前記燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンク1の抜出弁9を閉じ、それ以外の燃料レベルが設定値以下に減少していないいずれか一つの燃料タンク1の抜出弁9を開き、これにより、燃料レベルが設定値以下に減少しておらず底部に高濃度の硬質粒子が沈殿していない燃料タンク1内の燃料が燃料ポンプ3とセットリングタンク4と供給ポンプ5と燃料噴射弁6とを経てエンジン7の各気筒8内に供給される。
【0031】
この結果、機関回転数変動時に硬質粒子がエンジン7に大量に入り込むことがなくなり、シリンダライナに対するピストンリングの摺動状態が厳しくならず、スカッフィング発生の起点が形成されにくくなって、その後の高負荷運転時にもスカッフィングが発生しなくなる。
【0032】
こうして、入出港時や運河通過時等の機関回転数変動時にシリンダライナに対するピストンリングの摺動状態が厳しくなることを緩和し得、スカッフィングの発生を防止し得る。
【0033】
図4は本発明を実施する形態の第二例であって、図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図1に示すものと同様であるが、本図示例の特徴とするところは、図4に示す如く、スカッフィング防止剤としての潤滑油が貯留された潤滑油タンク14と、
該潤滑油タンク14に貯留された潤滑油をエンジン7の各気筒8内に注入可能となるよう潤滑油投入機構としての潤滑油ポンプ15及び潤滑油投入量調節機構としての潤滑油流量調節弁16が配設された潤滑油注入ライン17と、
前記機関回転数モニタ装置12でモニタされた機関回転数モニタ信号12aに基づく機関回転数変動時(図3参照)には、前記潤滑油注入ライン17の潤滑油流量調節弁16へ潤滑油注入率を上昇させる開度指令信号18aを出力する潤滑油注入率制御装置18と
を備えるようにした点にある。
【0034】
図4に示す例の場合、回転検出器11により機関回転数が検出され、該回転検出器11で検出された機関回転数が機関回転数モニタ装置12によってモニタされ、該機関回転数モニタ装置12でモニタされた機関回転数モニタ信号12aに基づく機関回転数変動時には、潤滑油注入率制御装置18から潤滑油注入ライン17の潤滑油流量調節弁16へ潤滑油注入率を上昇させる開度指令信号18aが出力され、機関回転数安定時より多い量のスカッフィング防止剤としての潤滑油がエンジン7の各気筒8内に供給される。
【0035】
因みに、機関回転数安定時(図2参照)の潤滑油注入率が例えば1[g/kw−h]程度である場合、機関回転数変動時の潤滑油注入率は、1.5[g/kw−h]程度に上昇させることが有効となる。
【0036】
この結果、機関回転数変動時には機関回転数安定時より多い量のスカッフィング防止剤としての潤滑油がエンジン7の各気筒8内に供給されることから、潤滑が促進され、仮に硬質粒子が多く存在していたとしてもそれは潤滑油によって洗い流される形となり、シリンダライナに対するピストンリングの摺動状態が厳しくならず、スカッフィング発生の起点が形成されにくくなって、その後の高負荷運転時にもスカッフィングが発生しなくなる。
【0037】
こうして、図4に示す例の場合も、図1に示す例の場合と同様、入出港時や運河通過時等の機関回転数変動時にシリンダライナに対するピストンリングの摺動状態が厳しくなることを緩和し得、スカッフィングの発生を防止し得る。
【0038】
図5は本発明を実施する形態の第三例であって、図中、図1及び図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしており、基本的な構成は図1及び図4に示すものと同様であるが、本図示例の特徴とするところは、図5に示す如く、スカッフィング防止剤としてのスラリー状の研磨剤が貯留された研磨剤タンク19と、
該研磨剤タンク19に貯留された研磨剤を燃料に混入可能となるよう研磨剤ポンプ20及び研磨剤混入弁21が配設された研磨剤混入ライン22と、
前記機関回転数モニタ装置12でモニタされた機関回転数モニタ信号12aに基づく機関回転数変動時又は機関回転数変動終了後に、前記研磨剤混入ライン22の研磨剤混入弁21へ混入指令信号23aを出力する研磨剤混入制御装置23と
を備えるようにした点にある。
【0039】
尚、前記研磨剤は、一般にエンジンコンパウンド等と称されるものであって、エンジン7の各気筒8内での燃料の燃焼時に微細な研磨粒子を生成するものを使用すれば良い。
【0040】
図5に示す例の場合、回転検出器11により機関回転数が検出され、該回転検出器11で検出された機関回転数が機関回転数モニタ装置12によってモニタされ、該機関回転数モニタ装置12でモニタされた機関回転数モニタ信号12aに基づく機関回転数変動時又は機関回転数変動終了後には、研磨剤混入制御装置23から研磨剤混入ライン22の研磨剤混入弁21へ混入指令信号23aが出力され、スカッフィング防止剤としての研磨剤が燃料と一緒にエンジン7の各気筒8内に供給される。
【0041】
因みに、機関回転数変動時又は機関回転数変動終了後の研磨剤の混入量は、その時点での燃料供給量の3[%]程度とすることが有効となる。
【0042】
この結果、機関回転数変動時又は機関回転数変動終了後にはスカッフィング防止剤としての研磨剤が燃料と一緒にエンジン7の各気筒8内に供給されることから、燃料の燃焼時に微細な研磨粒子が生成され、該研磨粒子によってスカッフィング発生の起点が研磨除去され、その後の高負荷運転時にもスカッフィングが発生しなくなる。
【0043】
こうして、図5に示す例の場合、入出港時や運河通過時等の機関回転数変動時又は機関回転数変動終了後にシリンダライナに対するピストンリングの摺動状態が厳しくなることを緩和し得、スカッフィングの発生を防止し得る。
【0044】
尚、本発明の舶用内燃機関のスカッフィング防止方法及び装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、燃料タンクの個数は三個に限らず、複数であれば二個或いは四個以上とすることも可能であること、図1、図4、図5に示す例をそれぞれ単独ではなく複数組み合わせて実施することも可能であること等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明を実施する形態の第一例を示す全体概要構成図である。
【図2】本発明を実施する形態の第一例における機関回転数モニタ装置でモニタされた機関回転数安定時の例を示す線図である。
【図3】本発明を実施する形態の第一例における機関回転数モニタ装置でモニタされた機関回転数変動時の例を示す線図である。
【図4】本発明を実施する形態の第二例を示す全体概要構成図である。
【図5】本発明を実施する形態の第三例を示す全体概要構成図である。
【符号の説明】
【0046】
1 燃料タンク
2 抜出ライン
3 燃料ポンプ
6 燃料噴射弁
7 エンジン
8 気筒
9 抜出弁
10 レベル検出器
10a 検出信号
11 回転検出器
11a 検出信号
12 機関回転数モニタ装置
12a 機関回転数モニタ信号
13 燃料タンク切換可能表示器
14 潤滑油タンク
15 潤滑油ポンプ(潤滑油投入機構)
16 潤滑油流量調節弁(潤滑油投入量調節機構)
17 潤滑油注入ライン
18 潤滑油注入率制御装置
18a 開度指令信号
19 研磨剤タンク
20 研磨剤ポンプ
21 研磨剤混入弁
22 研磨剤混入ライン
23 研磨剤混入制御装置
23a 混入指令信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内に貯留された燃料を底部から抜き出して燃料ポンプにより圧送し、燃料噴射弁を介してエンジンの各気筒内に供給する舶用内燃機関のスカッフィング防止方法であって、
機関回転数を検出してモニタし、少なくとも機関回転数変動時には、硬質粒子濃度の低い燃料をエンジンの各気筒内に供給する一方、スカッフィング防止剤をエンジンの各気筒内に供給することを特徴とする舶用内燃機関のスカッフィング防止方法。
【請求項2】
複数の燃料タンクを備え、所望の燃料タンクから燃料の抜き出しを可能とし、燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンクが存在している場合、平水での機関回転数安定時にのみ、前記燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンクから燃料をエンジンの各気筒内に供給し、機関回転数変動時には、燃料レベルが設定値以下に減少していない燃料タンクから燃料をエンジンの各気筒内に供給するようにした請求項1記載の舶用内燃機関のスカッフィング防止方法。
【請求項3】
前記スカッフィング防止剤をエンジンの各気筒内に注入される潤滑油とし、機関回転数変動時には、潤滑油注入率を上昇させるようにした請求項1記載の舶用内燃機関のスカッフィング防止方法。
【請求項4】
前記スカッフィング防止剤を燃料に混入される研磨剤とし、機関回転数変動時又は機関回転数変動終了後に、研磨剤が混入された燃料をエンジンの各気筒内に供給するようにした請求項1記載の舶用内燃機関のスカッフィング防止方法。
【請求項5】
燃料タンク内に貯留された燃料を底部から抜き出して燃料ポンプにより圧送し、燃料噴射弁を介してエンジンの各気筒内に供給する舶用内燃機関のスカッフィング防止装置であって、
機関回転数を検出する回転検出器と、該回転検出器で検出された機関回転数をモニタする機関回転数モニタ装置とを備え、少なくとも機関回転数変動時には、硬質粒子濃度の低い燃料をエンジンの各気筒内に供給する一方、スカッフィング防止剤をエンジンの各気筒内に供給するよう構成したことを特徴とする舶用内燃機関のスカッフィング防止装置。
【請求項6】
複数の燃料タンクと、
所望の燃料タンクから燃料を抜き出し可能となるよう抜出弁が配設された抜出ラインと、
前記各燃料タンクの燃料レベルを検出するレベル検出器と、
該レベル検出器からの検出信号に基づき燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンクが存在している場合、前記機関回転数モニタ装置でモニタされた機関回転数モニタ信号に基づく平水での機関回転数安定時にのみ、前記燃料レベルが設定値以下に減少した燃料タンクから燃料をエンジンの各気筒内に供給することが可能であることを表示する燃料タンク切換可能表示器と
を備え、
前記機関回転数モニタ装置でモニタされた機関回転数モニタ信号に基づく機関回転数変動時には、燃料レベルが設定値以下に減少していない燃料タンクから燃料をエンジンの各気筒内に供給するよう構成した請求項5記載の舶用内燃機関のスカッフィング防止装置。
【請求項7】
前記スカッフィング防止剤としての潤滑油が貯留された潤滑油タンクと、
該潤滑油タンクに貯留された潤滑油をエンジンの各気筒内に注入可能となるよう潤滑油投入機構及び潤滑油投入量調節機構が配設された潤滑油注入ラインと、
前記機関回転数モニタ装置でモニタされた機関回転数モニタ信号に基づく機関回転数変動時には、前記潤滑油注入ラインの潤滑油投入量調節機構へ潤滑油注入率を上昇させる開度指令信号を出力する潤滑油注入率制御装置と
を備えるようにした請求項5記載の舶用内燃機関のスカッフィング防止装置。
【請求項8】
前記スカッフィング防止剤としての研磨剤が貯留された研磨剤タンクと、
該研磨剤タンクに貯留された研磨剤を燃料に混入可能となるよう研磨剤ポンプ及び研磨剤混入弁が配設された研磨剤混入ラインと、
前記機関回転数モニタ装置でモニタされた機関回転数モニタ信号に基づく機関回転数変動時又は機関回転数変動終了後に、前記研磨剤混入ラインの研磨剤混入弁へ混入指令信号を出力する研磨剤混入制御装置と
を備えるようにした請求項5記載の舶用内燃機関のスカッフィング防止装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−286133(P2008−286133A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133095(P2007−133095)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】