説明

船舶の航行状態分析装置

【課題】船舶の航行条件および外乱条件に応じた船舶の燃費の変化をリアルタイムに分析し得るようにする。
【解決手段】船舶の航行条件および航行時に船舶に加わる外乱条件に基づいて所定時間における燃費の変化と対地速度の変化が燃費指標表示部に表示される。対水速度と対地速度と船舶の前進方向と横方向の対水速度の所定時間における変化が対地対水速度表示部と対水速度表示部に表示され、斜航表示部には船舶の針路と対地コースが表示され、舵角表示部には舵角の変化と対地速度の変化が表示される。風向風圧表示部には風圧と風向の所定時間における変化が表示され、動揺表示部には波浪の影響によるピッチングとローリングの角度の変化が表示される。このように、船舶航行時に加わる種々の外乱に応じた燃費の変化に基づいて船舶の航行状態が分析される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は客船や貨物船等の船舶が航行している際に潮流等の外乱が船舶に加わることに起因した燃費の変化をリアルタイムに表示して航行状態を分析し得るようにした船舶の航行状態分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
貨物船等の船舶が航海する際には、船舶の到達位置に向けて航海の安全を図りつつ効率的な航海を行うことができるように最短距離の航路が通常選択される。選択された航路または針路を船舶が航行するように船舶の前進方向が自動的に制御されており、船舶が潮流、風圧および波浪等の外乱条件によって船舶の前進方向が変化すると、船舶が所定の航路または針路となるように舵が自動的に操舵制御される。
【0003】
船舶の目的地までの最適航路を探索してその航路を表示するようにした最適航路探索システムが特許文献1に記載され、レジャーボートや釣り船等の小型船舶のために水中カメラによる岩礁や浅瀬の画像を表示部に表示するようにした船舶用のマルチ情報表示装置が特許文献2に記載されている。さらに、特許文献3には船体運動状態や船舶操作状態等の船舶の運航状況をモニタリングする船舶の運航状態モニタリング装置が記載されている。
【特許文献1】特開2007−57499号公報
【特許文献2】特開2001−138993号公報
【特許文献3】特開2003−118689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出発地から目的地に船舶が航行する際には、如何にして少ない燃料消費量で船舶を航行させるかが重要であり、ただ単に目的地に向けて最短距離を航行するようにしたのでは、潮流等の外乱条件によっては燃料消費量を低減することができない。このため、特許文献3に記載されるように、船体の横揺れ等の船体運動状態および船舶の位置等の船舶操作状態をモニタリングするようにしたのでは、船舶に作用する外乱と燃費との関係を分析して最適な航行制御を行うことができない。特に近年ではエンジンから排出される二酸化炭素の排出量を低減することが船舶にも求められ、潮流等の船舶に加わる外乱条件に応じて船速や操舵制御を行うことが必要となっている。
【0005】
航行時に船舶の燃費に影響を与える外乱としては、基本的には潮流、風および波浪があり、これらの基本的条件に起因したドリフトつまり船舶の横滑りや主にピッチングによる船舶の動揺等がある。一方、船舶自体の航行状況が燃費に与える要因としては、積載量に応じた排水量(ディスプレースメント)、前後のドラフト、操舵角に加えてプロペラを駆動するためのエンジンにより駆動される軸発電機の負荷がある。
【0006】
このように、種々の要因によってエンジンの燃費が大きく影響を受けることが判明しているが、それぞれの要因がどの程度の割合で燃費に影響を与えているかを分析することは燃費に与える要因が多岐にわたるので従来では困難であった。
【0007】
本発明は船舶の航行条件および外乱条件に応じた船舶の燃費の変化をリアルタイムに分析し得るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の船舶の航行状態分析装置は、船舶推進用のエンジンに供給される燃料の流量を検出するフローメータと、船舶の現在位置を検出する現在位置検出手段と、船舶の対地速度を演算する対地速度演算手段と、前記対地速度演算手段により得られた対地速度に基づいて単位時間当たりの対地航行距離を演算する航行距離演算手段と、前記対地航行距離と前記燃料の流量とに基づいて燃費を演算する燃費演算部と、所定時間における燃費の変化と対地速度の変化とを表示する燃費指標表示部とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の船舶の航行状態分析装置は、船舶の対水速度を検出する対水速度検出手段からの信号に基づいて演算された対水速度と前記対地速度とについての所定時間における変化を表示する対地対水速度表示部とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明の船舶の航行状態分析装置は、船舶の対水速度を検出する前記対水速度検出手段からの信号に基づいて演算された船舶の前進方向の対水速度と横方向の対水速度とについての所定時間における変化を表示する対水速度表示部を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の船舶の航行状態分析装置は、船舶の船首方位を検出するジャイロコンパスからの信号に基づいて演算された船舶の針路と、対地コース演算手段により求められる船舶の対地コースとについての所定時間における変化を表示する斜航表示部を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の船舶の航行状態分析装置は、舵の角度を検出する舵角センサからの信号に基づいて演算される舵角と、前記対地速度とについての所定時間における変化を表示する舵角表示部を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の船舶の航行状態分析装置は、風向と風速を検出する風向風速検出センサからの信号に基づいて演算される風向および風速についての所定時間における変化を表示する風向風速表示部とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明の船舶の航行状態分析装置は、船舶の姿勢を検出する姿勢センサからの信号に基づいて演算される船舶のローリングとピッチングとについての所定時間における変化を表示する動揺表示部を有することを特徴とする。
【0015】
本発明の船舶の航行状態分析装置は、エンジンの回転数センサにより検出されるエンジン回転数と、エンジン出力トルクセンサにより検出されるエンジントルクおよびエンジン回転数の信号に基づいて演算されるエンジン出力とについての所定時間における変化を表示するエンジン出力表示部を有することを特徴とする。
【0016】
本発明の船舶の航行状態分析装置は、前記エンジンからのCO2の排出量について所定時間における変化を示す排出CO2ガス表示部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、船舶の航行時に航行時点から所定時間前までの燃費の変化と対地速度の変化が燃費指標表示部に表示されるので、乗員はこの燃費指標表示部によってリアルタイムに対地速度と燃費との相関関係を分析することができる。この燃費の変化に対応させて、船舶の対水速度と対地速度の変化を観察することにより、潮流の影響による燃費の変化を分析することができる。対水速度は船舶の前進方向と横方向とについて表示されるので、両方向の対水速度の変化によって潮流の速さと方向と燃費との相関関係を分析することができる。また、斜航表示部によって潮流による船舶の横滑りの程度と燃費との相関関係を分析することができる。
【0018】
舵角表示部によって操舵角と燃費との相関関係を分析することができ、風向、風圧表示部によって風向および風速と燃費との相関関係を分析することができる。動揺表示部によって波浪による船舶のピッチングとローリングと燃費との相関関係を分析することができる。エンジン出力表示部によってエンジン出力とエンジン回転数により実際に船舶の推進に利用される推進力と燃費との相関関係を分析することができる。さらに、排出CO2ガス表示部により船舶の航行状況に応じて船舶から排出されるCO2ガスの排出量が分析されるので、より経済的かつ環境保護を達成することできる航行条件を分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態である船舶の航行状態分析装置を示すブロック図であり、図2は船舶の航行条件の分析指標を示す分析表であり、図3は船舶航行時に船舶に加わる外乱条件の分析指標を示す分析表である。
【0020】
この分析装置は各種センサからの信号に基づいて表示部11に信号を送信する演算部10を有している。この表示部11は航行状態を分析するための種々の指標の相関関係を表示する。演算部10はセンサからの信号を演算するマイクロプロセッサCPUと、制御プログラム、演算式およびマップデータ等が格納されるROMと、一時的にデータを格納するRAMとに加え、それぞれのセンサからのアナログ信号をデジタル信号に変換する変換器等を有しており、演算部10は各種センサからの信号に基づいて燃費等を演算する演算手段を構成している。演算部10には船舶自体の航行条件を入力するための操作パネルが入力部12として接続されており、入力した条件は入力表示部13に表示される。
【0021】
入力部12により乗員の手入力により入力されるデータとしては、船舶が水に浸されている距離つまりドラフトがあり、このドラフトには船舶の前側のドラフト(FORE)と後側のドラフト(AFT)とがある。さらに、船舶の重心とメタセンターとの距離(GM)と、波向、波高、波周期、燃料比重、排水量(ディスプレースメント)、プロペラのピッチおよびフローメータ付近の燃料温度が入力データとして手入力される。ドラフトとGMと排水量は出帆時に入力され、波向、波高、波周期については、数時間毎に入力される。燃料比重については、摂氏15度における比重が入力される。これらの入力値は船舶の燃費を演算する際の補正値として使用されることになり、それぞれの入力値は入力表示部13に表示される。
【0022】
船舶の燃費は単位重量の燃料で航行する対地距離により求められる。演算部10にはエンジンに供給される燃料流量を検出するフローメータ14と、GPS(Global Positioning System)15からの信号が送られるようになっており、燃料流量はフローメータ14からの信号により演算される。GPS15つまり汎地球測位システムは、人工衛星からの電波を受信する受信機つまり専用ターミナルを有し、電波に基づいて船舶の現在位置を検出する機能と、単位時間当たりの船舶の対地距離から対地速度を演算する機能と、船舶が航行したコースつまり対地コースとを演算する機能を有しており、GPS15は現在位置演算手段と、対地速度演算手段と、対地コース演算手段を構成している。ただし、人工衛星からの信号によって現在位置のみを演算し、対地速度と対地コースとを演算部10によって行うことも可能である。
【0023】
船舶の対地航行距離は、GPS15から演算部10に送られる対地速度に基づいてこれを積分することにより演算され、船舶の燃費は単位時間当たりの航行距離とその航行に要した燃料消費量つまり燃料流量とに基づいて演算部10により演算される。
【0024】
図2に示される対地速度(SOG)は、上述のように、GPS15により演算されるが、同じ船舶であっても、搭載される荷物や燃料の重量により水面下の容積が燃費に影響を与えることになり、燃費は船舶の排水量つまりディスプレースメントと、船舶の前後方向の傾きによる前後のドラフトが燃費に与える付随的な要因となる。排水量と前後のドラフト(FORE)、(AFT)は、上述のように入力部12のキー操作により入力される。
【0025】
さらに、付随的要因としては、プロペラを駆動するためのエンジンの回転数、エンジン総出力、エンジンによって駆動される軸発電機の負荷と舵の操舵角とがある。軸発電機は船舶内の電気機器に対して供給される電力を発電するために使用される。船舶がコースを変更する際に舵角が大きくなると、船速が低下することになり、燃費に影響を与える。軸発電機の発電出力を検出するための軸発電機出力センサ16からの検出信号が演算部10に送られるようになっており、発電力検出手段としての軸発電機出力センサ16からの信号に基づいて発電出力が演算される。舵角を検出するための舵角センサ17からの検出信号が演算部10に送られるようになっており、舵角は舵角センサ17からの信号に基づいて演算される。これらの付随的要因による条件が、単位重量の燃料により航行する対地距離により演算される燃費の値に補正値として加味される。
【0026】
エンジンの総出力はエンジン回転数とエンジン出力軸のトルクとにより演算される。回転数センサ18とトルクセンサ19からの出力信号が演算部10に送られるようになっており、これらの検出値に基づいてエンジンの総出力が演算される。プロペラの回転により船舶の推進に利用される推進力は、エンジンの総出力から軸発電機の駆動のための負荷を減算することにより演算される。軸発電機の駆動出力つまり発電機負荷は、軸発電機出力センサ16からの検出信号に基づいて演算された発電出力を発電効率ηによって割ることにより演算される。
【0027】
一方、図3に示されるように、船舶に加えられる外乱条件の分析指標としては、潮流、風圧よび波浪が基本的指標として設定されている。潮流は対水速度(LOG)を求めることにより対地速度(SOG)と対水速度(LOG)との差により演算される。対水速度(LOG)には船舶の前進方向の対水速度(LWS)と横方向の対水速度(TWS)とがあり、いずれもドップラーソナー21から演算部10に送られる信号に基づいて演算される。風向および風速は風向風速センサ22から演算部10に送られる検出信号に基づいて演算され、向かい風が船舶に加わると航行抵抗が増加し、追い風が加わると推進力が高められる。
【0028】
このように潮流、風圧および波浪は、外乱のうち直接的に燃費性能に影響を与える自然条件となっており、これらの条件に加えて付随的条件としては、船舶のドリフトつまり横滑りと、船舶の動揺とがある。船舶の動揺としては、縦揺れ(ピッチング)と横揺れ(ローリング)とがあるが、横揺れよりも縦揺れの方が燃費には大きく影響を与えることになる。ドリフトはジャイロコンパス23からの信号に基づいて演算される船舶の針路と、GPS15により演算される船舶の対地コースとにより求められる。図1に示されるように、船舶の針路を演算するためにジャイロコンパス23からの信号が演算部10に送られ、姿勢センサ24からの信号に基づいて、船舶の縦揺れ(ピッチング)と、横揺れ(ローリング)の角度が演算部10により演算される。
【0029】
図1に示した表示部11つまりディスプレイには、以下の複数の表示部が表示されるようになっており、これら複数の表示部のいずれか、または全てを表示部11に表示するようにしたり、以下の各表示部のみを表示したりすることが選択される。
【0030】
図4は表示部11に表示される主画面11aを示す正面図であり、主画面11aはそのときの航行時における燃料流量つまり燃料消費量(FOC)が、フローメータ14からの信号に基づいてリアルタイムに表示される。主画面11aには単位切り換えスイッチ部31a〜31cが表示されるようになっており、それぞれの部分を作業者が触れることによって表示単位の切り換え操作が行われ、操作された単位で燃費が燃費表示部32に表示される。例えば、単位切り換えスイッチ31aが操作されると、1海里nm(Nautical Mile)当たりの燃料消費量(ton)が燃費表示部32に表示され、単位切り換えスイッチ31bが操作されると、燃料消費量1トン当たりの航行距離が海里単位で表示される。また、単位表示切り換えスイッチ31cが操作されると、1日当たりの燃料消費量がトン単位で表示される。このように、燃料消費量(FOC)がton/nm、nm/ton、およびton/dayのいずれかの単位によって燃費表示部32に表示される。この主画面11aには平均燃費表示部33が設けられており、平均燃費表示部33には燃費の平均値が単位切り換えスイッチ31a〜31cにより設定された単位で表示される。さらに、主画面11aにはCO2ガス排出量を表示する排出CO2ガス表示部34が設けられており、スイッチ部35が操作されると、この排出CO2ガス表示部34にCO2ガスの排出量が表示される。CO2ガスの排出量は、燃料消費量に基づいて演算される。
【0031】
図5は燃費指標表示部11bを示す正面図であり、この燃費指標表示部11bには対地速度(SOG)と燃料流量(FOC)とに加えて燃費(mile/FOC)についての所定時間にわたる変化が表示される。これらを表示する時間としては、例えば30分前から現時点までの30分間に設定されている。燃費(mile/FOC) は、フローメータ14からの信号に基づいて演算される燃料流量(FOC)と、船舶の対地航行距離(mile)との比により演算される。対地航行距離は、GPS15により演算される対地速度に基づいて演算部10により演算される。この燃費指標表示部11bには、所定時間における燃費の変化と対地速度の変化と燃料流量の変化とが比較して表示されるので、燃費の向上ないし低下が燃料消費量の増減によるものか、あるいは対地速度の増減によるものであるかが乗員によってリアルタイムに分析される。例えば、図5には所定時間前よりも燃料流量が低下し、対地速度が増加したことにより、燃費が向上した場合が示されている。
【0032】
燃費の表示単位としては、図5に示すように単位燃料流量当たりの対地航行距離(mile)との比により表示するようにしても良く、図4に示すように単位海里nm当たりの燃料消費量としても良く、燃料消費量1トン当たりの航行距離を海里単位で表示するようにしても良い。上述したように、CO2ガスの排出量は、燃料消費量に基づいて演算されるので、図5の燃費指標表示部11bに燃料流量に併せてCO2ガスの排出量の変化を表示することにより、所定時間におけるCO2ガスの排出量の変化が示される。ただし、CO2ガスの排出量については、日単位や1航海単位の総量を数値により表示するようにしても良い。
【0033】
図6は対地対水速度表示部11cを示す正面図であり、この対地対水速度表示部11cには燃費指標表示部11bと同様に例えば30分間における対水速度と対地速度の変化が表示される。対水速度(LOG)はドップラーソナー21からの信号に基づいて演算部10により演算され、対地速度(SOG)は上述のようにGPS15により演算される。潮流が変化すると、対水速度と対地速度との差が大きくなり、潮流が船舶の航行方向であれば対水速度よりも対地速度が大きくなり、逆方向であれば対水速度よりも対地速度が小さくなる。したがって、この対地対水速度表示部11cを観察することによって、乗員は所定時間における潮流の変化をリアルタイムに分析することができる。例えば、図6には所定時間にわたって対地速度が対水速度よりも低く、船舶が潮流の影響を受けていることが示されている。
【0034】
図7は対水速度表示部11dを示す正面図であり、この対水速度表示部11dには船舶の前進方向の対水速度(LWS)と横方向の対水速度(TWS)との所定時間における変化が表示される。所定時間としては上述した場合と同様に、例えば30分間に設定されている。これにより、上述した対地速度と対水速度に相違が発生していたときには、対水速度表示部11dに示された前進方向の対水速度と横方向の対水速度の差を比較することによって、潮流の状態をより詳細に分析することができる。例えば、図7には前進方向の対水速度が一時的に大きく低下するとともに横方向の対水速度が上昇したことが示されている。
【0035】
図8は斜航表示部11eを示す正面図であり、この斜航表示部11eには船舶のヘディングつまり針路(Heading)と対地コース(Course)との所定時間における変化が表示され、これらの差によってドリフトつまり船舶の横滑り量が分析される。ヘディングはジャイロコンパス23からの信号に基づいて演算され、対地コースはGPS15により演算される。このように、斜航表示部11eを観察することにより、乗員は潮流による船舶のドリフト量を分析することができる。例えば、図8にはヘディングと対地コースとが変化した時点とその角度量とが表示されており、これらの比較により船舶のドリフトが分析される。
【0036】
図9は舵角表示部11fを示す正面図であり、この舵角表示部11fには舵角(rudder)と対地速度(SOG)の所定時間における変化が表示される。舵角は舵角センサ17からの信号に基づいて演算され、対地速度は上述したようにGPS15により演算され、それぞれの演算結果が舵角表示部11fにより表示される。舵角は船舶が到達位置に向かうように自動的に制御され、僅かではあるが頻繁に揺動して操舵を繰り返しており、潮流や風圧等に起因して舵角が大きく操作されると、対地速度が低下することになるので、舵角の変化に起因して対地速度が変化しているのか否かが分析される。例えば、図9には舵角と対地速度とに対応関係があることが示されている。
【0037】
図10は風向風圧表示部11gを示す正面図であり、この風向風圧表示部11gには風向と風速の所定時間における変化が表示される。風向および風速はそれぞれ風向風速センサ22からの信号に基づいて演算され、それぞれの演算結果が風向風圧表示部11gに表示される。乗員はこの風向風圧表示部11gを観察して、図5に示される燃費指標表示部11bと比較することによって風圧による対地速度、燃料流量および燃費の影響を分析することになる。例えば、図10には風向が一度大きく変化し、この風向の変化とともに風速が大きく低下したことが示されている。
【0038】
図11は動揺表示部11hを示す正面図であり、この動揺表示部11hにはローリングとピッチングの所定時間における変化が表示される。ローリングとピッチングは姿勢センサ24からの信号に基づいて演算され、それぞれの演算結果が動揺表示部11hに表示される。乗員はこの動揺表示部11hを観察して、図5に示される燃費指標表示部11bと比較することによって波浪による燃費の影響を分析することになる。例えば、図11にはピッチングに比してローリングが大きく変化したことが示されている。
【0039】
図12はエンジン出力表示部11iを示す正面図であり、このエンジン出力表示部11iにはエンジン回転数、エンジン出力および燃料流量の所定時間における変化が表示される。エンジン回転数は回転数センサ18により検出され、エンジン出力は回転数センサ18により検出されるエンジン回転数と、トルクセンサ19により検出されるエンジントルクとに基づいて演算される。例えば、図12にはエンジン回転数は大きく変化することなくほぼ一定に保持されているが、エンジン出力が変動するとともに燃料流量が変動し、軸発電機出力や潮流等の影響によってエンジン出力が変化したことが示されている。図12に軸発電機出力センサ16からの信号に基づいて演算される軸発電機出力の変化を併せて表示するようにすると、エンジン出力の変化と発電容量の変化との関係が分析される。船舶の推進に利用される推進力は、エンジン出力から軸発電機出力を減算することにより求められ、軸発電機出力の減算に際しては発電効率ηが加味される。
【0040】
図5〜図12に示すそれぞれの表示部11b〜11iは、30分前からの変化を示すようになっているが、変化を示す時間としては、モード切換スイッチによって1時間の範囲毎等のように複数の時間ないし日数に切り換えられる。また、出帆時から到達地までにおけるそれぞれの演算結果はメモリに記憶され、日時を指定することにより任意の日時の演算結果を表示することができる。
【0041】
本発明においては、図5に示される燃費指標表示部11bにより燃費が変化したことが観察され、図6に示される対地対水速度表示部11cと、図7に示される対水速度表示部11dと、図8に示される斜航表示部11eと燃費の変化とを比較することによって、燃費が潮流によって影響を受けたことが分析される。また、図9に示される舵角表示部11fと燃費との関係を比較することによって操舵角の変化による燃費の影響が分析される。同様に、図10に示される風向風圧表示部11gと動揺表示部11hと燃費の変化を観察することによって、波浪による燃費の影響が分析される。
【0042】
上述したようにそれぞれの表示部11a〜11iは、船舶に設けられたディスプレイに表示されるようになっているが、これに併せて、表示されるデータは陸側の管理センタに対して衛生通信を経由して送信される。これにより、出港地や到達地の管理センタにおいては、燃費性能のデータを他の指標データとともに所定時間毎に監視し、燃費やCO2ガス排出量と船舶に及ぼす外乱との関係を陸側でも分析することができる。
【0043】
それぞれの表示部11a〜11iは、船舶が実際に航行する際の航行状態を分析する際に使用されるが、それぞれの指標の相関関係のデータを造船後の船舶の航行試験のデータとしても利用することができる。航行試験が行われるときには、それぞれのデータを所定の時間毎にメモリに記憶するとともに表示部に点灯表示することになる。このようにして得られたデータに基づいて、船舶の性能評価を行うことができる。
【0044】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施の形態である船舶の航行状態分析装置を示すブロック図である。
【図2】船舶の航行条件の分析指標を示す分析表である。
【図3】船舶航行時に船舶に加わる外乱条件の分析指標を示す分析表である。
【図4】表示部に表示される主画面を示す正面図である。
【図5】燃費指標表示部を示す正面図である。
【図6】対地対水速度表示部を示す正面図である。
【図7】対水速度表示部を示す正面図である。
【図8】斜航表示部を示す正面図である。
【図9】舵角表示部を示す正面図である。
【図10】風向風圧表示部を示す正面図である。
【図11】動揺表示部を示す正面図である。
【図12】エンジン出力表示部を示す正面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 演算部(演算手段)
11 表示部
11a 主画面
11b 燃費指標表示部
11c 対地対水速度表示部
11d 対水速度表示部
11e 斜航表示部
11f 舵角表示部
11g 風向風圧表示部
11h 動揺表示部
11i エンジン出力表示部
12 入力部
13 入力表示部
14 フローメータ
15 GPS
17 舵角センサ
18 回転数センサ
19 トルクセンサ
21 ドップラーソナー
22 風向風速センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶推進用のエンジンに供給される燃料の流量を検出するフローメータと、
船舶の現在位置を検出する現在位置検出手段と、
船舶の対地速度を演算する対地速度演算手段と、
前記対地速度演算手段により得られた対地速度に基づいて単位時間当たりの対地航行距離を演算する航行距離演算手段と、
前記対地航行距離と前記燃料の流量とに基づいて燃費を演算する燃費演算部と、
所定時間における燃費の変化と対地速度の変化とを表示する燃費指標表示部とを有することを特徴とする船舶の航行状態分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の船舶の航行状態分析装置において、船舶の対水速度を検出する対水速度検出手段からの信号に基づいて演算された対水速度と前記対地速度とについての所定時間における変化を表示する対地対水速度表示部とを有することを特徴とする船舶の航行状態分析装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の船舶の航行状態分析装置において、船舶の対水速度を検出する前記対水速度検出手段からの信号に基づいて演算された船舶の前進方向の対水速度と横方向の対水速度とについての所定時間における変化を表示する対水速度表示部を有することを特徴とする船舶の航行状態分析装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の船舶の航行状態分析装置において、船舶の船首方位を検出するジャイロコンパスからの信号に基づいて演算された船舶の針路と、対地コース演算手段により求められる船舶の対地コースとについての所定時間における変化を表示する斜航表示部を有することを特徴とする船舶の航行状態分析装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の船舶の航行状態分析装置において、舵の角度を検出する舵角センサからの信号に基づいて演算される舵角と、前記対地速度とについての所定時間における変化を表示する舵角表示部を有することを特徴とする船舶の航行状態分析装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の船舶の航行状態分析装置において、風向と風速を検出する風向風速検出センサからの信号に基づいて演算される風向および風速についての所定時間における変化を表示する風向風速表示部とを有することを特徴とする船舶の航行状態分析装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の船舶の航行状態分析装置において、船舶の姿勢を検出する姿勢センサからの信号に基づいて演算される船舶のローリングとピッチングとについての所定時間における変化を表示する動揺表示部を有することを特徴とする船舶の航行状態分析装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の船舶の航行状態分析装置において、エンジンの回転数センサにより検出されるエンジン回転数と、エンジン出力トルクセンサにより検出されるエンジントルクおよび前記エンジン回転数の信号に基づいて演算されるエンジン出力とについての所定時間における変化を表示するエンジン出力表示部を有することを特徴とする船舶の航行状態分析装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の船舶の航行状態分析装置において、前記エンジンからのCO2の排出量について所定時間における変化を示す排出CO2ガス表示部を有することを特徴とする船舶の航行状態分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−248745(P2009−248745A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99141(P2008−99141)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)
【出願人】(304035975)株式会社MTI (46)
【出願人】(599030688)郵船商事株式会社 (8)
【Fターム(参考)】