説明

船舶バラスト水処理方法ならびに生物を殺滅した液体の製法

【課題】
船舶バラスト水を環境基準に適合すべく殺滅する方法を含む、特に保守性・経済性に優れた船舶バラスト水処理方法の提供。一般の自然水を原水とした生物を殺滅した液体の製法の提供。
【解決手段】
濾過助剤には濾過中に生物が集中し、かつ、フィルタエレメント表面に比較的薄く延ばされた薄膜状となっているので、その状態で殺滅の熱エネルギー、電気エネルギーが効率よく付与できる。また殺滅のあとの死骸残渣を前工程で分離した清浄水と混合した液体をバラスト水として航行中貯留する。この混合水は生物を殺滅してあるので船舶貨物の搭載の際に排水可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船舶バラスト水の生物を国際環境基準に適合するレベルに殺滅する船舶バラスト水処理法である。また本発明は、より一般的には、自然水を原水とした生物を殺滅した液体の製法技術である。
【0002】
船舶バラスト水は国際的な生態系破壊や細菌感染という問題の原因となるため、2009年から外海でのバラスト水交換(または無生物化処理)、バラストタンク容量によって2014または2016年より無生物化が義務付けられる。よって、船舶バラスト水の生物を殺滅する技術が求められている。環境基準は図7に示す厳しいものである。本明細書で記載される生物の殺滅とは、図7の表に記載された生物に関して同表に記載されたレベルの生物数削減(無生物化)を意味するものである。
【0003】
生物の殺滅を意図した従来の船舶バラスト水処理方法については、船舶の熱機関の熱を利用する熱殺滅が処理コスト上もっとも有利で実用的と考えられる。熱殺滅の方法にはタンク底部にエンジン冷却用熱水を注入する(特許文献1)、熱交換器をバラスト配管系の途中に配設する(特許文献2)などがある。しかし、殺滅の確実性に疑問があるし、熱エネルギー効率も改善の余地がある。すなわち、特許文献1のように生物の存在しやすい船底に熱エネルギーを与えるとすると与えるべき部位が広いので膨大な熱量を要する。特許文献2ではバラスト配管系全域にわたって殺滅に十分な熱エネルギーを供給せねばならず熱エネルギー効率は悪い。
【0004】
熱殺滅以外にも、オゾンまたはオゾンと蒸気の混合による殺滅(特許文献3)、高電圧パルスなどによる電気的殺滅(特許文献4、10、11)、酸度濃度を変化させることによる殺滅(特許文献5)、噴流衝突・爆発・キャビテーションなどで機械エネルギーを水中生物に与え破壊する殺滅、紫外線や光触媒による方法など、多くの新方式が開発されているが、実用レベルに達しているものはない。発明者らは、これら新方式の採用は避け、殺滅コストが小さくて実用的と考えられる熱殺滅の改善に注目した。さらに同時に、発明者らは、これらの方式のなかで電気的殺滅法については比較的有望と考え、本案の別態様を発明するに至った。
【0005】
電気的殺滅法の原理は、処理水に電圧を印加して電解によって種々のラジカル(活性酸素など)を生成し、その酸化力により殺滅効果を得ることであり、また、電位差が直接的に細胞膜などの生体を破壊することである。さらにまた、大腸菌,酵母,動物細胞等では、細胞の呼吸活性に必要不可欠な酵素:補酵素A(CoA:Co-enzyme A)の存在が確認されていて、細胞を電極に接触させ細胞内外に電位差を与えていくと、+0.74V付近に酸化のピークが出現し、補酵素Aもこの電位で酸化ピークとなることが知られている。したがって、電気的殺滅法の別原理は、生物細胞に補酵素Aが酸化する+0.74V程度の電位差を細胞内外に与え、補酵素Aを不活化し細胞の呼吸活性に損傷を与え死滅させることである。
【0006】
生物の殺滅工程の一方で、濾過・浄化工程も船舶バラスト水処理に必要である。すなわち濾過・浄化も殺滅に組み合わせて船舶上で行われるべきであり、保守性・経済性で有利な濾過・浄化法も必要である。発明者らは、円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントによる濾過装置の保守性・経済性に注目した(特許文献6−9、12、13参照)。
【0007】
円筒状中空フィルタエレメントそのもの、および濾過装置に円筒状中空フィルタを利用することは公知である(特許文献6−9、12、13参照)。本案にて円筒状中空フィルタの好適なる選択例は、金属の「バネ状フィルタ」である。以下簡単のためバネ状フィルタの例を主体として説明するが、本案はこれに限定されず、特許文献12、13のような焼結フィルタでもよい。さて、「バネ状フィルタ」は「コイル状フィルタ」、「スプリングフィルタ」とも呼ばれ、これらは同一である。バネ状フィルタは構造上細長い空隙をもつので、細長い物体はすり抜けてしまう。そのため、とりわけ不定形である生物を濾過する場合には珪藻土などの濾過助剤を濾過前にフィルタ表面にあらかじめ被覆(プリコート)している。濾過助剤が細長い空隙にブリッジングし、そのブリッジング部位が濾過作用する。すなわち、バネ状フィルタ自体は濾過助剤がブリッジングして濾過助剤が固定され濾過作用を行う場所を形成させるためにある。
【0008】
濾過排除すべき物体の形状が扁平でなく、必ずバネ状フィルタの細長い空隙に捕獲されるという保証があれば濾過助剤は不要である。しかし、このようなケースはごく稀である。バネ状フィルタ濾過装置は前記の濾過助剤と組み合わせて用いる必要がある。一方、特許文献12、13のような焼結フィルタでは助剤は必ずしも必要とせず、焼結体内に形成した微細迷路構造で濾過排除すべき物体を捕獲する。焼結フィルタでは、助剤不要というメリットの一方、フィルタ自体が高価である、微細迷路構造に捕獲された濾過排除すべき物体を逆洗でも排除できず特殊な抽出洗浄を必要とする場合がある、というディメリットがある。焼結フィルタとバネ状フィルタとは、たとえば精密濾過(10ミクロンレベル)と一般濾過(10ミクロン超)といった用途で使い分けられている。本案は焼結フィルタとバネ状フィルタのいずれにも適用可能だが、簡単のためバネ状フィルタを用いた説明を継続する。
【0009】
図5がバネ状フィルタ濾過装置の模式図である。1はバネ状フィルタエレメント、2は原水(被処理水)流入孔、3はフィルタ1で濾過した水流出孔である。図4がバネ状フィルタ濾過装置を用いた公知の水処理フローである。ここでCwは濾過処理された清浄水、Dwは処理前の原水(バラスト水用途であれば港湾などで吸引した港湾水)である。図6がバネ状フィルタエレメントの状態遷移図であって、(a)濾過スタンバイ、(b)助剤のプリコート、(c)濾過、(d)逆洗、(e)フィルタ洗浄状態である。ここで、Jは珪藻土などの濾過助剤、Pwは逆洗用の高圧液体または高圧気体である。公知のバネ状フィルタエレメントによる濾過装置の構造と機能は特許文献7−9に記載されているので略す。
【0010】
【特許文献1】特許第2794537号「バラストタンクの熱処理方法およびその装置」日本郵船株式会社
【特許文献2】米国特許第5816181号「Balllast Water Treatment System」T.W.Sherman
【特許文献3】特開2004-160437号「水浄化方法およびその装置」日本郵船株式会社、郵船商事株式会社ほか
【特許文献4】特開2002-192161号「船舶のバラスト水の処理方法及びその処理装置」三菱重工業株式会社
【特許文献5】米国特許第5932112号「Method and Apparatus for Killing Microorganisms inShip Ballast Water」Browning Transport Management, Inc.
【特許文献6】特許第3124901号「液体濾過フィルターエレメント」加藤耕一、株式会社モノベエンジニアリング
【特許文献7】特許第3394490号「濾過装置」株式会社モノベエンジニアリング、イワブチ株式会社
【特許文献8】特許第3069955号「濾過装置および濾過方法」東芝プラント建設株式会社
【特許文献9】特開2003-71500号「排水処理装置および処理方法」東芝プラント建設株式会社
【特許文献10】特開2004−188404号「海洋生物死滅方法」菱洋産業株式会社
【特許文献11】特開2003−334563号「バラスト水」菱洋産業株式会社
【特許文献12】特許第2791737号「焼結フィルタの製造方法」東京特殊電線株式会社
【特許文献13】特許第2763751号「フィルタエレメント及びその製造方法」シーケーディ株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、船舶バラスト水を環境基準に適合すべく殺滅する方法を含む、特に保守性・経済性に優れた船舶バラスト水処理方法の提供を課題とする。本発明の別課題は一般の自然水を原水とした生物を殺滅した液体の製法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本案の船舶バラスト水処理方法フロー図を図1(b)に、比較すべき公知の船舶バラスト水処理方法フロー図1(a)に示す。これらは、円筒状中空(バネ状)フィルタ濾過装置の利用を前提としている。図1(a)の公知法では濾過後に生物を殺滅した死骸残渣については、脱水手段・混合像流手段で固化するなど、濾過分離された清浄水とは別ルートで処理される(特許文献9参照)。それに対し図1(b)の本案は、生物を殺滅した死骸残渣と濾過分離された清浄水とを混合する。公知法では清浄水をバラスト水として貯留・排水するに対し、本案では死骸残渣と清浄水を混合してなる生物を殺滅した液体をバラスト水として貯留・排水する。これが本案の第一の特徴である。
【0013】
すなわち本案は、(請求項1)船舶貨物の荷卸の際にバラスト水として船舶内に吸引した港湾水を原水として、該原水を濾過して生物を含む残渣分を残し清浄水を分離する第一工程、残留した生物を含む残渣分を殺滅する第二工程、第二工程の死骸残渣と前記第一工程で分離した清浄水とを混合する第三工程を行うことで、死骸残渣と清浄水を混合してなる生物を殺滅した液体を得て、該生物を殺滅した液体をバラスト水として航行中貯留し、船舶貨物の搭載の際に該生物を殺滅した液体を排水するものである船舶バラスト水処理方法である。第一工程・第二工程・第三工程は船舶に搭載された機器で航行中に、または停泊中に行う。
【0014】
ここで、第二工程で得た死骸残渣に対して、即時に清浄水とを混合する第三工程を行う必要性はなく、船舶内の汚物貯留槽等に一次貯留してから第三工程を実施してもよい。つまり、第三工程(混合)は、排水の直前までに行えばよいということである。早々に第三工程(混合)を行って、液相にすると殺滅を免れた生物が増殖しやすい。むしろスラリー状として酸素や水分を不十分にしたほうが得策となる場合がある。また一次貯留状態で、完璧でなかった場合の第二工程の生物殺滅操作を補完する操作もできる。
【0015】
ところで、以上説明した本案は、より一般的には、(請求項4)自然水を原水とした生物を殺滅した液体の製法であって、原水を濾過して生物を含む残渣分を残し清浄水を分離する第一工程、残留した生物を含む残渣分を殺滅する第二工程、第二工程の死骸残渣と前記第一工程で分離した清浄水とを混合する第三工程で、死骸残渣と清浄水を混合してなる生物を殺滅した液体を得る製法である。
【0016】
本案の第二の特徴である殺滅工程の態様は、円筒状中空(バネ状)フィルタエレメント表面にプリコートした濾過助剤に生物を捕獲し、その濾過助剤を円筒状中空(バネ状)フィルタエレメント表面に残留させたまま円筒状中空(バネ状)フィルタを加熱することで、熱効率のよい熱殺滅を行う、である。これは図3の(c1)(c2)に示すように熱水や高温蒸気などの流動熱源を円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントの内部に流入することで好適に実現される。図3にて、Hwは生物を殺滅するための流動熱源(熱水など)、Pwは逆洗用の高圧液体または高圧気体である。図3にて、(c1)(c2)以外の部分は図6と同様である。すなわち、(a)濾過スタンバイ、(b)助剤のプリコート、(c)濾過、(d)逆洗、(e)フィルタ洗浄状態である。
【0017】
(請求項2、請求項6)すなわち、助剤の利用有り無しにかかわらず、第一工程の操作が、複数の円筒状中空フィルタエレメントに生物を捕獲しつつ原水を通過させ清浄水を分離する操作であり、第二工程の操作が、円筒状中空フィルタエレメントの温度を40℃以上所定の時間保持することで生物を殺滅する操作である。特に、助剤を用いたバネ状フィルタの場合は、(バネ状限定請求項2、請求項6) 第一工程の操作が、複数のバネ状フィルタエレメントを内蔵した濾過槽で濾過助剤をバネ状フィルタエレメントにプリコートし、プリコートした濾過助剤に生物を捕獲しつつ原水を通過させ清浄水を分離する操作であり、 第二工程の操作が、前記第一工程で残留した生物を捕獲した濾過助剤をフィルタエレメント表面に残留させたまま、バネ状フィルタエレメントの温度を40℃以上所定の時間保持することで生物を殺滅する操作である。
【0018】
ここで生物殺滅の温度を40℃以上としている。その理由は、40℃以上で生物を構成する蛋白質が変性、ならびに蛋白質等からなる酵素活性が40℃以上で失活、これらの複合効果で生物を死滅させうるからである。港湾ごとに生態系が異なり、耐熱生物も存在するので、生物を殺滅するのに必要な温度は実験的に決定する必要がある。場合によっては60℃以上が必要である。温度保持時間(所定の時間)も同様に実験的に決定する必要がある。
【0019】
本案の殺滅工程(第二の特徴)の別態様は、円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントに通電することで生物を殺滅する、または、フィルタエレメントに生物が捕獲されたあと(濾過工程のあと)で、フィルタエレメントに通電することで生物を殺滅する、である。。
【0020】
上記の電気殺滅を実施する構成を図8と図9(図8の部分拡大図)で説明する。1Aは二群に分けられた複数の円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントの一群に属する円筒状中空(バネ状)フィルタエレメント、1Bは二群に分けられた複数の円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントの他群に属する円筒状中空(バネ状)フィルタエレメント、EL1が円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントの一群(1A)に接続された外部端子、EL2が円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントの他群(1B)に接続された外部端子、ELAがEL1と1Aを電気的に接続する配線、ELBがEL2と1Bを電気的に接続する配線である。この構成で二群の一群と他群の間に電圧を印加する。
【0021】
つまり、EL1とEL2間に電圧を印加して、あたかも1Aの表面電極と1Bの表面電極をもちいた原水(被処理水)の電気分解と同様の状態で生物殺滅する。すなわち、原水に電圧を印加して電解によって種々のラジカル(活性酸素など)を生成し、その酸化力により殺滅効果を得る。また、電位差が直接的に濾過助剤に捕獲された生物の細胞膜などの生体を破壊する。さらにまた、大腸菌,酵母,動物細胞等では、生物細胞に補酵素Aが酸化する+0.74V程度の電位差が細胞内外に与えられ、補酵素Aを不活化し細胞の呼吸機序にダメージを与え死滅させる。
【0022】
電気的生物殺滅の上記原理は公知だが電子レベルの電気化学反応、およびインビボ、インビトロの生化学反応の機序解明は研究段階にある。そのため、こういった殺滅装置において機能仕様を満たす電気エネルギーのヒントは現状理論からは得られない。しかし、実用的には装置を組んで特定の殺滅生物ターゲットにつき、電気的殺滅前後のターゲット生物生存数を比較しつつ最適電圧仕様をきめる実験を実施すればよい。
【0023】
ただし、電気エネルギーの付与仕様として、装置保守の条件から直流電圧を極性同一のまま印加するのは好ましくない。特定の円筒状中空(バネ状)フィルタエレメント表面が電気腐食されるからである。また、電気分解で正極にあらわれるラジカル種と量は、負極のそれとは大きく異なる。そのため、極性同一印加では二群に分けられた一群と他群の表面電極での殺滅効果に差があらわれ好ましくない。電気腐食分散の装置保守上の条件、ならびに、ラジカル種と量の極性差を平準化するため、二群の一群と他群の間に少なくとも一回の極性反転を伴う電圧を印加することが望ましい。これは、持続時間の長い電圧を印加する場合でも、パルス状の電圧を繰り返し印加する場合でも同様である。
【0024】
以上を記載した本案の第二の特徴である殺滅工程の別態様は以下の通り。(請求項3、請求項7)第一工程が、複数の円筒状中空フィルタエレメントを内蔵した濾過槽で円筒状中空フィルタエレメントに生物を捕獲しつつ原水を通過させ清浄水を分離する操作であり、第二工程が、前記第一工程中に円筒状中空フィルタエレメントに通電することで生物を殺滅する操作である、または第二工程が、前記第一工程のあとで円筒状中空フィルタエレメントに通電することで生物を殺滅する操作である。ここで第二工程は、第一工程の工程中であっても、第一工程のあとであってもよいことが明示されている。第二工程は、電圧印加するだけであるので、これらいずれでも実施可能であることは自明である。
【0025】
特に、助剤を用いたバネ状フィルタの場合は、(バネ状限定請求項3、請求項7)第一工程が、複数のバネ状フィルタエレメントを内蔵した濾過槽でバネ状フィルタエレメントにプリコートした濾過助剤に生物を捕獲しつつ原水を通過させ清浄水を分離する操作であり、第二工程が、第一工程中にバネ状フィルタエレメントに通電することで生物を殺滅する操作である、または第二工程が、第一工程のあとでバネ状フィルタエレメントに残留した濾過助剤を残留させたまま該バネ状フィルタエレメントに通電することで生物を殺滅する操作である。ここでも、第二工程は、第一工程の工程中であっても、第一工程のあとであってもよいことが明示されている。第二工程は、電圧印加するだけであるので、これらいずれでも実施可能であることは自明である。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、清浄水をバラスト水として貯留・排水する従来法に対し、死骸残渣と清浄水を混合してなる生物を殺滅した液体をバラスト水として貯留・排水する。これが本発明の第一の特徴である。従来法のように固化のための独立した別装置・別工程を設ける必要がなく、設備コストが小さく、固化した固形物の処理に窮することもない。
【0027】
特にバネ状フィルタ濾過の場合にて、本案殺滅は、バネ状フィルタエレメント表面にプリコートした濾過助剤に熱または電気エネルギーを与えることで行われる。濾過助剤には濾過中に生物が集中し、かつ、フィルタエレメント表面に比較的薄く延ばされた薄膜状となっているので、殺滅のための熱を与えやすい。他の方法で、たとえば生物がバルク(塊)状であると、バルク(塊)中心にまで熱または電気エネルギーを与えるのは比較的難しい。すなわち、濾過のために濾過助剤に捕獲された状態が殺滅のために熱エネルギーまたは電気エネルギー付与するのにきわめて好適な状態であると認識した。これが本発明の第二の特徴である。同様に焼結フィルタを用いた濾過等で濾過助剤を用いない場合でも、フィルタエレメント内部の微細迷路構造に生物が比較的薄く延ばされた薄膜状となっているので、殺滅のための熱エネルギーまたは電気エネルギーを与えやすい。
【0028】
第一・第二の特徴の効果で、固化装置の設備費が不要、固化した固形物の処理や貯蔵スペースが不要、殺滅熱効率がよく運転コストが安い、といった限られたスペースとエネルギー資源しかない船舶搭載条件に好都合であるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図2が、本案方法に好適な生物の殺滅浄化装置を示し、その殺滅浄化フローを示した図である。この装置は、熱水注入による殺滅(e)(f)にて、熱水または高温蒸気などの熱源流体を濾過容器の下部から注入している。このような構成で、フィルタエレメント表面の濾過助剤に捕獲された生物が容器底部に落下しても底部は高温に熱せられているのでより確実に殺滅される。図中のBwは濾過槽底部を満たすために注入されるダミー水であって熱水でもよい。Eは液体を排出した空の状態を示す。
【0030】
図2にて、(a)助剤のプリコート、(b)濾過、(c)フィルタエレメントが目詰まり状態の濾過限界、(d)水抜き、(e)熱水を下部から注入、(f)熱水による熱殺滅、(g)逆洗・死骸を希釈して流し出し、(h)下部にダミー水注入が繰り返される。
【0031】
本案を実際に船舶に採用するとなると、殺滅後の微生物の再生・繁殖が心配である。そこで航行中に、(請求項4)生物を殺滅した液体の貯留槽を、所定の時間置きにサンプリングして生物の生存を検査する工程を有することが望ましい。生物の生存検査で生存が判明した対象貯留槽を再度原水として再度第一・第二・第三工程を行うことが望ましい。サンプリングインターバル(所定の時間)は、生存検査の所要時間、検査コスト、生物繁殖リスクなど複雑な要因から決定されるもので一概には決まらないが、概ね数日に一回である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)公知の船舶バラスト水処理方法フロー図、(b)本案の船舶バラスト水処理方法フロー図
【図2】本案方法に好適な生物の殺滅装置の動作フロー図、(a)助剤のプリコート、(b)濾過、(c)フィルタエレメントが目詰まり状態の濾過限界、(d)水抜き、(e)熱水を下部から注入、(f)熱水による熱殺滅、(g)逆洗・死骸を希釈して流し出し、(h)下部にダミー水注入の各動作が繰り返される
【図3】図6のフローに加熱による殺滅工程(c1)(c2)が加わった本案の円筒状中空(バネ状)フィルタエレメント状態遷移図
【図4】円筒状中空(バネ状)フィルタ濾過装置を用いた公知の水処理フロー(特許文献9図1)
【図5】バネ状フィルタ濾過装置(特許文献9図5)
【図6】公知のバネ状フィルタエレメントの状態遷移図、(a)濾過スタンバイ、(b)助剤のプリコート、(c)濾過、(d)逆洗、(e)フィルタ洗浄が繰り返されるバネ状フィルタエレメントの状態遷移を示す
【図7】船舶バラスト水の環境基準
【図8】二群に分けられた円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントの一群に属する円筒状中空(バネ状)フィルタエレメント1Aと他群1Bとの間に電圧を印加して通電する例の説明図
【図9】隣接する円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントに電圧を印加することで液体中の生物を殺滅することの説明図(図8の部分拡大図)
【符号の説明】
【0033】
1 円筒状中空(バネ状)フィルタエレメント
1A 二群に分けられた複数の円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントの一群に属する円筒状中空(バネ状)フィルタエレメント
1B 二群に分けられた複数の円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントの他群に属する円筒状中空(バネ状)フィルタエレメント
2 原水(被処理水)流入孔
3 フィルタ1で濾過した水流出孔
Bw 濾過槽底部を満たすために注入されるダミー水であって熱水でもよい。
Cw 濾過処理された清浄水 Clear water
Dw 処理前の原水(自然水)、バラスト水用途であれば港湾などで吸引した港湾水 Dirty water
E 液体を排出した空の状態 Empty
EL1 円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントの一群(1A)に接続された外部端子
EL2 円筒状中空(バネ状)フィルタエレメントの他群(1B)に接続された外部端子
ELA EL1と1Aを電気的に接続する配線
ELB EL2と1Bを電気的に接続する配線
Hw 生物を殺滅するための流動熱源(熱水など)Hot water
J 珪藻土などの濾過助剤
Pw 逆洗用の高圧液体または高圧気体
Qw 殺滅死骸を清浄水で混合希釈した液
S 流動熱源Hwを加熱・保温するために導入する低圧の蒸気
SS バネ状フィルタの間隙を開口させ逆洗するために導入する高圧の蒸気
Z 電気絶縁材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶貨物の荷卸の際にバラスト水として船舶内に吸引した港湾水を原水として、該原水を濾過して生物を含む残渣分を残し清浄水を分離する第一工程と、残留した生物を含む残渣分を殺滅する第二工程と、第二工程の死骸残渣と第一工程で分離した清浄水とを混合する第三工程を行って得た混合液体をバラスト水として船舶内貯留槽に貯留し、船舶貨物の搭載の際に該混合液体を排水するものである船舶バラスト水処理方法
【請求項2】
第一工程が、複数の円筒状中空フィルタエレメントを内蔵した濾過槽で該円筒状中空フィルタエレメントに生物を捕獲しつつ原水を通過させ清浄水を分離する操作であり、第二工程が、円筒状中空フィルタエレメントの温度を40℃以上所定の時間保持することで生物を殺滅する操作である請求項1の船舶バラスト水処理方法
【請求項3】
第一工程が、複数の円筒状中空フィルタエレメントを内蔵した濾過槽で該円筒状中空フィルタエレメントに生物を捕獲しつつ原水を通過させ清浄水を分離する操作であり、第二工程が、第一工程中に前記円筒状中空フィルタエレメントに通電して生物を殺滅する操作である、または第二工程が、第一工程のあとで前記円筒状中空フィルタエレメントに通電して生物を殺滅する操作である請求項1の船舶バラスト水処理方法
【請求項4】
バラスト水貯留槽の液体を、所定の時間置きにサンプリングして生物の生存を検査する工程を有し、該生存検査で生存が判明した貯留槽の液体を原水として第一工程・第二工程・第三工程を行う請求項1の船舶バラスト水処理方法
【請求項5】
自然水を原水とした生物を殺滅した液体の製法であって、原水を濾過して生物を含む残渣分を残し清浄水を分離する第一工程と、残留した生物を含む残渣分を殺滅する第二工程と、第二工程の死骸残渣と第一工程で分離した清浄水とを混合する第三工程とからなる一連の工程で生物を殺滅した液体を得る製法
【請求項6】
第一工程が、複数の円筒状中空フィルタエレメントを内蔵した濾過槽で該円筒状中空フィルタエレメントに生物を捕獲しつつ原水を通過させ清浄水を分離する操作であり、第二工程が、円筒状中空フィルタエレメントの温度を40℃以上所定の時間保持することで生物を殺滅する操作である請求項5の生物を殺滅した液体の製法
【請求項7】
第一工程が、複数の円筒状中空フィルタエレメントを内蔵した濾過槽で該円筒状中空フィルタエレメントに生物を捕獲しつつ原水を通過させ清浄水を分離する操作であり、第二工程が、第一工程中に前記円筒状中空フィルタエレメントに通電して生物を殺滅する操作である、または第二工程が、第一工程のあとで前記円筒状中空フィルタエレメントに通電して生物を殺滅する操作である請求項5の生物を殺滅した液体の製法


【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−102283(P2006−102283A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294482(P2004−294482)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(502037638)株式会社アイ・ピー・ビー (28)
【出願人】(592250540)株式会社大島造船所 (32)
【Fターム(参考)】