説明

船舶推進構造および船舶駆動装置

【課題】船舶の操船性、燃費、バランスが悪く、また、スピードや整備容易性を向上させる余地があった。
【解決手段】
船外機または船内外機において一つのエンジンから生み出される動力をメインドライブシャフトの左右方向へと夫々に伝達し、最終的には、メインドライブシャフトを中心として左右略均等の距離において夫々に進行方向を向いた右プロペラと左プロペラとを回転させ、かつ、プロペラの正回転、逆回転、無回転といった回転状況について左右個別の制御を可能とする左右のシフトカムアッセンブリを備えるとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のプロペラを用いて船舶を推進させる船舶推進構造および船舶駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ボート等の船舶を推進させる場合に操船性の向上等を図るため、単エンジンと当該エンジンによって稼動するプロペラとを備えるいわゆる船外機や船内外機を、船舶後部の所定位置に二台設置する手法が採られていた。
【0003】
また、従来技術として、一本のプロペラ軸上にタンデムプロペラを構成する前後二枚のプロペラを取り付けたタンデムプロペラ取付構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
同様に、一本のシャフト上に複数のスクリューを取り付けた構成が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平5‐58389号公報
【特許文献2】実開昭58‐40498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでのように船舶に船外機等を二つ設置した場合、二つのエンジンを稼動させるための燃費の増大や、船舶後部の重量増による船舶のバランス悪化や、整備費用の増加という問題が生じていた。
また、従来文献のように、一本のプロペラ軸上に複数のプロペラを取り付ける構造においては、船舶の方向転換は舵に頼ることになるため細かな操船が難しく、例えば狭いハーバー内で船舶の方向を操作する場合などに高度な操船技術を必要としていた。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、方向転換やその場回頭といった操船が容易であり、走行中の船舶のバランスが安定し、かつ駆動に要する燃費および整備負担を軽減することの可能な船舶推進構造および船舶駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の船舶推進構造の発明は、所定の動力を受けて回転するメインドライブ軸から、当該メインドライブ軸に対する複数方向に動力を伝達し、この伝達された各動力によって同複数方向に夫々に設けたサブドライブ軸を回転させる動力伝達機構と、各サブドライブ軸における動力を、各サブドライブ軸毎に対応させて設けたプロペラ軸およびプロペラに伝達することによって各プロペラを夫々に回転させるプロペラ回転機構と、プロペラの回転状況を各プロペラ毎に独立して制御するシフトコントローラとを備える構成としてある。
【0007】
上記のように構成した請求項1の発明においては、動力伝達機構では、所定の動力を受けて回転するメインドライブ軸から、メインドライブ軸に対する複数方向に動力を伝達し、この伝達された各動力によって同複数方向に夫々に設けたサブドライブ軸を回転させる。そして、プロペラ回転機構では、各サブドライブ軸における動力を各サブドライブ軸毎に対応させて設けたプロペラ軸およびプロペラに伝達することによって、各プロペラを夫々に回転させる。また、シフトコントローラは、プロペラの回転状況を各プロペラ毎に独立して制御する。
【0008】
つまり、本発明においては、プロペラおよびプロペラ軸の組が複数あり、メインドライブ軸における動力が、各組に対応しているサブドライブ軸を介して伝達されるため、元の動力を発生させるエンジンは一つでよい。また、プロペラは同一軸上ではなく互いに異なる位置に設置されているため、各プロペラ毎にその回転状況を制御することで、舵きりに頼らずに容易に方向転換等の操船を行うことができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の船舶推進構造において、上記メインドライブ軸の所定位置と、各サブドライブ軸におけるメインドライブ軸に接近する各位置とには夫々にベベルギヤが設けられ、各サブドライブ軸のベベルギヤはメインドライブ軸のベベルギヤに対して夫々に螺合している構成としてある。
【0010】
つまり、メインドライブ軸と各サブドライブ軸との間を夫々にベベルギヤによって接続すれば、メインドライブ軸における回転力を各サブドライブ軸に確実に伝達することができる。その結果、各サブドライブ軸から対応するプロペラ軸及びプロペラに動力が伝達される。より具体的には、メインドライブ軸の端部には一つのベベルギヤを、当該端部に対して接近する各サブドライブ軸の端部には夫々にベベルギヤを設け、各サブドライブ軸のベベルギヤをメインドライブ軸の共通のベベルギヤに対して夫々に螺合する構成が考えられる。
【0011】
船舶のバランスや操船性を考えると、プロペラはドライブ軸を中心として左右対称の位置に設置されることが望ましい。そこで、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の船舶推進構造において、上記プロペラは、メインドライブ軸の左右であってメインドライブ軸から略同一距離を保った位置において夫々のプロペラ軸を略平行とした状態で二つ設けられる構成としてある。また、二つのプロペラは、前進のための正回転の方向が互いに逆である。
【0012】
その結果、二つのプロペラの正回転、逆回転、無回転の選択を夫々コントロールすることで、プロペラの推進力によって方向転換やその場回頭といった操船ができ、操船性が向上する。また、一般にプロペラを回転させるときのトルクによって走行中の船舶が傾斜することがあるが、本発明においては、直進時には各プロペラを回転させるトルクが互いに逆方向にかかるために、船舶の傾斜が打ち消され、直進時のバランスが安定する。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の船舶推進構造において、対応し合うサブドライブ軸とプロペラ軸との間にはプロペラを正回転させるための前進ギヤとプロペラを逆回転させるための後進ギヤとが介在し、上記シフトコントローラは、前進ギヤと後進ギヤとの一方を有効にし、あるいはいずれも無効にする切り替えを実行可能である構成としてある。
【0014】
上記のように構成した請求項4の発明においては、シフトコントローラは、サブドライブ軸とプロペラ軸との各組において夫々介在させてある前進ギヤと後進ギヤとを、一方を有効に、またはいずれも無効する切り替えを実行することによって、各プロペラ毎のの回転状況を制御する。かかる構成によれば、各プロペラの正回転、逆回転、無回転の選択を容易にコントロールすることができる。
【0015】
これまでは、供給された動力を各プロペラへと伝達し、かつ各プロペラの回転状況を制御するという視点で発明を説明したが、本発明にかかる技術的思想はエンジンを含む船舶駆動装置としても実現される。
【0016】
そこで、請求項5の発明は、所定の動力を生み出す単エンジンと、当該単エンジンが生み出す動力によって回転するメインドライブ軸から当該メインドライブ軸に対する複数方向に動力を伝達し、この伝達された各動力によって同複数方向に夫々に設けたサブドライブ軸を回転させる動力伝達機構と、各サブドライブ軸における動力を各サブドライブ軸毎に対応させて設けたプロペラ軸およびプロペラに伝達することによって各プロペラを夫々に回転させるプロペラ回転機構と、プロペラの回転状況を各プロペラ毎に独立して制御するシフトコントローラとを備える構成としてある。
【0017】
かかる構成においては、上記請求項1の発明と同様の作用及び効果を発揮する。特に、プロペラの数にかかわらず搭載するエンジンは一つであるため、エンジンを夫々に有する船外機等を船舶に複数搭載して各プロペラを回転させていた場合と比較して、燃料の低減および船舶のバランスの安定および整備負担の軽減といった点が優れている。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、一本のメインドライブ軸に供給された動力を、別々のプロペラ軸に伝達して各プロペラを回転させ、かつ各プロペラ毎の回転状況を個別にコントロールするため、搭載するエンジンは一つで済み、船舶の操船性とバランスとが向上し、かつ船舶の駆動に要する燃費および整備負担を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態について、以下の順序に従って説明する。
(1)第一の実施形態
(2)第二の実施形態
(3)まとめ
【0020】
(1)第一の実施形態
図1は、本発明の船舶駆動装置に相当する船外機の外観を、簡略的に斜視図により示している。
船外機100は、ボート等の船舶後方においてその縦の中心線が船舶の長手方向の中心位置に合うようにバランスを取って設置され、そのプロペラを回転させることで船舶の水上走行を実現する。船外機100の外観は、概略上から、トップカウリング10と、アッパーケーシング20と、ロアケーシング30と、ロアケーシング30の下方両端において外部に露出する二つの右プロペラ61と左プロペラ62とから構成される。
【0021】
船外機100内部においては、トップカウリング10に一つのエンジン11を始め、スタータモータ等を含むパワーユニットが内蔵され、トップカウリング10からアッパーケーシング20を通過してロアケーシング30にかけては、上記エンジン11と接続するメインドライブシャフト40が支持されている。なお、エンジン11としては、2サイクルまたは4サイクルのガソリンエンジンや、ディーゼルエンジンなど、種々のエンジンを適用できる。また、燃料タンクやバッテリは、船外機100の馬力の程度によって、トップカウリング10に内蔵されたり、別途、船舶の所定位置に設置されたりする。
その他にも、船外機100内部には、図示しない冷却装置や、吸排気装置や、潤滑装置等が内蔵される。
【0022】
図2は、ロアケーシング30を中心として船外機100の内部構造などを正面図により示している。同図においては、ロアケーシング30と右プロペラ61と左プロペラ62とを二点鎖線により示している。
本実施形態においては、正面とは図1の後進側から船外機100に対面したときに向き合う面を言うものとし、左右についても、この正面に対する左右を言うものとする。
同図に示すように、ロアケーシング30内の略中心には、メインドライブシャフト40が鉛直方向に支持されており、当該メインドライブシャフト40は、エンジン11が生み出す動力を受けて一定方向に回転する。
【0023】
メインドライブシャフト40の下端付近からは、右に向かってサブドライブシャフト41が、左に向かってサブドライブシャフト42が夫々に略水平に支持されている。サブドライブシャフト41とサブドライブシャフト42とは同じ長さに設計してある。
サブドライブシャフト41のメインドライブシャフト40と接近する端部とは逆の端部付近には、右プロペラ61を回転させるためのプロペラシャフト71が、サブドライブシャフト42のメインドライブシャフト40と接近する端部とは逆の端部付近には、左プロペラ62を回転させるためのプロペラシャフト72が、夫々に船舶の進行方向(図1における前進後進の方向)に向かって、略水平に支持されている。つまり、プロペラシャフト71,72は互いに略平行に支持されている。
【0024】
かかる構成においては、エンジン11によって回転するメインドライブシャフト40から、左右のサブドライブシャフト41,42を介して左右のプロペラシャフト71,72へと動力が伝達され、右プロペラ61と左プロペラ62とを夫々に回転させることができる。
より詳しく説明すると以下のようになる。メインドライブシャフト40の下端にはメインドライブシャフト40とともに回転する傘歯車型であるベベルギヤ40aが取り付けられており、左右のサブドライブシャフト41,42における当該下端に接近する両端部には、サブドライブシャフト41とともに回転するベベルギヤ41a、サブドライブシャフト42とともに回転するベベルギヤ42aが、夫々に取り付けられている。
【0025】
そして、メインドライブシャフト40のベベルギヤ40aは、上記ベベルギヤ41a,42aとそれぞれに噛み合わさっている。ここで、噛み合わさったベベルギヤは、異なる方向に支持される二つの回転軸(通常、直交する二つの回転軸)間において動力伝達を実現する。そのため、上記構成とすることで、左右のサブドライブシャフト41,42は、夫々独立してメインドライブシャフト40からの動力伝達を受けて所定方向に回転することになる。ベベルギヤ40aとベベルギヤ41a,42aとは、これらを合わせてディファレンシャルベベルギヤとも呼べる。
【0026】
図3は、ロアケーシング30の下方部分の内部構造などを上面図により示している。ただし、右プロペラ61と左プロペラ62とについては断面図により示している。
同図の略中央には、メインドライブシャフト40下端のベベルギヤ40aを二点鎖線により示しており、当該ベベルギヤ40aの左右両側において、サブドライブシャフト41,42などを図示している。右のサブドライブシャフト41とプロペラシャフト71との間には、ピニオンギヤ81と前進ギヤ71aと後進ギヤ71bとが、左のサブドライブシャフト42とプロペラシャフト72との間には、ピニオンギヤ82と前進ギヤ72aと後進ギヤ72bが、夫々に介在している。これら各ギヤは、回転するサブドライブシャフト41,42の動力をプロペラシャフト71,72に伝達して右プロペラ61、左プロペラ62を回転させるための役割を果たす。
【0027】
ここで、メインドライブシャフト40よりも前進側であって右側には縦シフトロッド51が、同前進側であって左側には縦シフトロッド52が夫々に支持されている。縦シフトロッド51はその下端において、サブドライブシャフト41と略同じ高さに略水平に支持されている水平シフトロッド53の端部と接触している。同様に、縦シフトロッド52はその下端において、サブドライブシャフト42と略同じ高さに略水平に支持されている水平シフトロッド54の端部と接触している。なお、水平シフトロッド53,54は、サブドライブシャフト41,42よりも前進側にあるため、図2では図示していない。
【0028】
水平シフトロッド53,54における縦シフトロッド51,52と接触していない側の端部には、夫々にシフトカム53a,54aが取り付けられている。すなわち、縦シフトロッド51と水平シフトロッド53とシフトカム53aとは右用シフトカムアッセンブリを形成し、縦シフトロッド52と水平シフトロッド54とシフトカム54aとは左用シフトカムアッセンブリを形成する。両シフトカムアッセンブリは、後述するように、右プロペラ61、左プロペラ62におけるシフトチェンジを夫々独立して実現するために用いられる。
【0029】
なお、本実施形態においては、右プロペラ61と左プロペラ62として、正回転の方向が互いに逆のものを採用する。正回転とは、前進のためのスラストを得る回転方向である。後進へのスラストを得る回転を逆回転という。つまり、図2に示したように、右プロペラ61は右回転が正回転となり、左プロペラ62は左回転が正回転となる。
【0030】
サブドライブシャフトからプロペラへと動力が伝達される原理について、より詳しく説明する。ここでは、左右のプロペラのうち代表して右プロペラ61に関する構造を示して説明を行う。
図4は、サブドライブシャフト41とプロペラシャフト71との接近部分を断面図により示している。同図においては、見易さのため一部ハッチングを略してある。
ピニオンギヤ81は、傘歯車型のギヤであって、サブドライブシャフト41とともに回転している。また、前進ギヤ71aおよび後進ギヤ71bは、いずれもピニオンギヤ81と噛み合った状態であるため、ピニオンギヤ81が回転している間は同ピニオンギヤ81からの伝達動力を受けて回転している。むろん、前進ギヤ71aは右回転(正回転)しており、後進ギヤ71bは左回転(逆回転)している。
【0031】
ただし、前進ギヤ71a及び後進ギヤ71bは、後述のドッグクラッチ71eと噛み合っていない状態においては、プロペラシャフト71上を空転しているだけであり、その回転力をプロペラシャフト71に伝えることはできない。よって、ドッグクラッチ71eが前進ギヤ71aと後進ギヤ71bとのいずれとも噛み合っていない場合は、右プロペラ61は無回転となる。
【0032】
プロペラシャフト71の内部には、シフトプランジャ71cおよびスプリング71dが設けられている。当該シフトプランジャ71cは、スプリング71dによって同図前進方向に付勢されて、前進側および後進側に所定距離だけ移動可能である。そして、ドッグクラッチ71eは、シフトプランジャ71cとともにその位置を変位させることができる。
【0033】
つまり、シフトプランジャ71cを同図の前進側に変位させれば、これに伴いドッグクラッチ71eが前進ギヤ71aと噛み合うため、右回転している前進ギヤ71aの回転力がドッグクラッチ71eを介してプロペラシャフト71に伝わる。その結果、右プロペラ61は正回転し、前進のスラストが発生する。逆に、シフトプランジャ71cを同図の後進側に変位させるとドッグクラッチ71eが後進ギヤ71bと噛み合うため、右プロペラ61は逆回転し、後進のスラストが発生する。
正回転、逆回転、中立(無回転)の選択は、水平シフトロッド53の端部に取り付けたシフトカム53aの位置を変位させることにより実現する。
【0034】
シフトカム53aは、先端に近付く程に、同図の前進、後進方向において階段状に幅狭となる形状であり、同方向の幅の異なる部位において接触面53a1,53a2,53a3を夫々に形成している。
つまり、シフトカム53aを同図の左右方向に変位させて、最も幅狭な接触面53a3をシフトプランジャ71の先端に接触させれば、ドッグクラッチ71eは前進ギヤ71aに向かって押し出され、右プロペラ61は正回転する。逆に、最も幅広な接触面53a1をシフトプランジャ71の先端に接触させれば、ドッグクラッチ71eは後進ギヤ71bに向かって押し込まれ、右プロペラ61は逆回転する。中立状態は、接触面53a2をシフトプランジャ71cの先端に接触させることで実現できる。
【0035】
なお、左プロペラ62を回転させる機構も、基本的には上記説明と同様となる。ただし、左プロペラ62は左回転が正回転となるため、サブドライブシャフト42およびピニオンギヤ82の回転を受けて左回転するギヤが前進ギヤ72aとなり、サブドライブシャフト42およびピニオンギヤ82の回転を受けて右回転するギヤが後進ギヤ72bとなる。そして、正回転を選択する場合には、ドッグクラッチが前進ギヤ72aと噛み合うようにシフトカム54aの位置を変位させ、逆回転を選択する場合には、ドッグクラッチが後進ギヤ72bと噛みあうようにシフトカム54aを変位させる。
【0036】
シフトカム53a,54aの位置の変位は、船舶の操縦席から遠隔操作により実行可能である。
図5は、船外機100を搭載した船舶の操縦席に設置したリモートコントロール装置90を斜視図により示している。同図に示すように、リモートコントロール装置90には、ボディ95の両側において、右プロペラ61のギヤチェンジのためのシフトレバー91と、左プロペラ62のギヤチェンジのためのシフトレバー92とが設けられている。リモートコントロール装置90の構成としては、例えば機械式リモートコントロールを採用できる。この場合、シフトレバー91の角度を変化させることで、同シフトレバー91に対応するケーブル93がボディ95側に引張られたり、ボディ95とは逆方向に押されたりする。
【0037】
ケーブル93の他端は上記縦シフトロッド51の一端に接続しており、ケーブル93の機械的変位は、縦シフトロッド51に作用する。すなわち、縦シフトロッド51は、外部からの制御動作であるシフトレバー91の角度変化に合わせて上下動し、水平シフトロッド53およびシフトカム53aは、縦シフトロッド51の上下動に連動して水平方向に変位する。その結果、シフトレバー91の角度を変化させることでシフトカム53aにおけるシフトプランジャ71cに接触する接触面を切り替えることが可能となる。
【0038】
本実施形態においては、シフトレバー91の角度を図中の“F(前進)”方向に倒した場合に、接触面53a3がシフトプランジャ71cに接触して前進ギヤ71aがドッグクラッチ71eと噛み合わさり、“R(後進)”方向に倒した場合に、接触面53a1がシフトプランジャ71cに接触して後進ギヤ71bがドッグクラッチ71eと噛み合わさり、“N(中立)”の角度に保った場合に、接触面53a2がシフトプランジャ71cに接触してドッグクラッチ71eが前進ギヤ71aと後進ギヤ71bとのいずれとも噛み合わなくなるようにする。
【0039】
上記ギアチェンジを実現するにあたっては、水平シフトロッド53と接触する縦シフトロッド51の下端においても、シフトカム53aと同様に、先端に近付く程に階段状に幅狭となる形状であって幅の異なる部位において複数の接触面を形成するカム部品を取り付けておく。その結果、縦シフトロッド51の上下動に伴って、水平シフトロッド53との接触面が切り替わるため、同上下動に伴って水平シフトロッド53およびシフトカム53aを水平方向に変位させることができる。
【0040】
シフトレバー92および左用シフトカムアッセンブリにおいても、基本的には上記と同様の構成を採ることで左プロペラ62のギアチェンジを実現する。具体的には、シフトレバー92の角度を“F”方向に倒した場合に、これに連動してシフトカム54aが変位して前進ギヤ72aとドッグクラッチが噛み合い、その角度を“R”方向に倒した場合に、これに連動してシフトカム54aが変位して後進ギヤ72bとドッグクラッチが噛み合い、その角度を“N”に保った場合に、ドッグクラッチが前進ギヤ72aと後進ギヤ72bとのいずれとも噛み合わなくなるようにする。
【0041】
なお、リモートコントロール装置90としては、上記機械式に限られず、油圧式によるリモートコントロールや電気式によるリモートコントロールを採用することができる。この場合、各シフトレバー91,92の角度変化に対応して発生した所定の油圧や電気信号をアクチュエータによって機械的な動きに変換してケーブル93,94を所定距離だけ変位させる。
【0042】
このように、本発明においては、正回転の方向が互いに反対であるプロペラ61とプロペラ62との回転状況を各プロペラ毎に制御できる。従って、船舶を前進させたい場合には両プロペラを何れも正回転とすればよいし、後進させたい場合は両プロペラを逆回転とすればよい。また、左右への方向転換は、一方のプロペラを正回転にし他方のプロペラを中立とするか、或いは一方のプロペラを逆回転にし他方のプロペラを中立とすればよく、その場回頭する場合は、一方のプロペラを正回転にし他方のプロペラを逆回転とすればよい。
【0043】
(2)第二の実施形態
図6は、本発明の船舶駆動装置に相当する船内外機を、簡略的に一部透視図により示している。
船内外機200は、上述の船外機100とは異なり、そのエンジン230は船舶300の内部の所定位置に設置され、プロペラを含むドライブユニットが船外に設置されている。また、船内外機200も、船外機100と同様に、船舶後方においてその縦の中心線が船舶300の長手方向の中心位置に合うようにバランスを取って設置されている。
ここで、第一の実施形態との違いは、メインドライブシャフトの構成にある。
【0044】
船内外機200のメインドライブシャフトは、エンジン230が生み出す動力を直接に受けて回転する略水平に支持された第一メインドライブシャフト210と、第一メインドライブシャフト210からの動力を受けて回転する略鉛直方向に支持された第二メインドライブシャフト220とからなる。第一メインドライブシャフト210と第二メインドライブシャフト220とは、互いに接近する端部においてベベルギヤ210aとベベルギヤ220aとを備えており、当該ベベルギヤ210a,220a同士を螺合させることで、動力伝達を実現している。
【0045】
第二メインドライブシャフト220から下方の構成は、第一の実施形態の図2〜4に示したメインドライブシャフト40より下方の構成と同じになる。
すなわち、キャビテーションプレート240より下方については内部を図示していないが、同内部においては、第二メインドライブシャフト220の下端を中心として、左右方向(図6の紙面に対する垂直方向)に、ディファレンシャルベベルギヤを介在させて二本のサブドライブシャフトが夫々に支持されている。また、各サブドライブシャフトに対応した二本のプロペラシャフトと、各プロペラシャフトの先端に取り付けられた二つのプロペラが存在する。
【0046】
図6では船内外機200を真横から見ているため、外部に露出している二つのプロペラのうち紙面の手前側に存在する左プロペラ62のみを図示している。さらに、図示を略してあるが、船内外機200内部には、第一の実施形態と同じ構成の右用シフトカムアッセンブリおよび左用シフトカムアッセンブリが備えられており、操縦席に備えたリモートコントロール装置によって両シフトカムアッセンブリを操作することで、右プロペラと左プロペラとの回転状況を独立して制御することができる。
すなわち、本発明の構成は、船内に搭載された一つのエンジンと船外に露出したドライブユニットとからなる船内外機に対しても適用可能である。
【0047】
なお本発明は、単エンジンが生み出す動力によって左右二つのプロペラを回転させるという視点に立てば、上記船外機100や船内外機200としてだけでなく、いわゆるロアケーシングアッセンブリという部品として把握できる。つまり、図1のロアケーシング30部分や、図6のキャビテーションプレート240より下部分といった、メインドライブシャフトの下方部分とこれを中心とした左右の構成を特徴ある部品として把握できる。
【0048】
上記ロアケーシングアッセンブリは、単エンジンおよび単エンジンと接続した一本のドライブシャフトを備える、従来からの船外機や船内外機に対する取替え部品として有用である。つまり、上記従来からの船外機等の下方部分をロアケーシングアッセンブリと取り替え、左右のシフトカムアッセンブリと操縦席とを接続すれば、船外機等の全体を交換することなく、本発明を用いた操船を少ない手間と工費によって実現できる。
【0049】
(3)まとめ
このように、本発明によれば、一つのエンジンから生み出される動力を左右方向へと夫々に伝達し、最終的には、船舶の中心から左右略均等の距離において夫々に進行方向を向いた右プロペラと左プロペラとを回転させ、かつ、プロペラの正回転、逆回転、無回転といった回転状況を左右個別に制御可能とした。そのため、各プロペラの回転状況を個別にコントロールすることで方向転換やその場回頭といった動きを正確に実現でき、従来のように熟練を要していた、船舶中心線上の一軸上に設けたプロペラが生み出す推進力と舵切りによる方向転換等と比べて、操船性が格段に向上する。その結果、狭いハーバー内などでの細かな操船も容易となる。
【0050】
また、プロペラを回転させるトルクにより船舶が左右のいずれかに傾斜することがある。しかし、本発明においては、左右のプロペラはその正回転の方向が反対であるので、各プロペラを回転させるトルクが互いに逆方向となる。その結果、前進または後進する船舶においては、左右の一方に傾斜することが防止されてバランスが取れ、水による無駄な抵抗も受けずに速度が向上する。
【0051】
さらに、一般にプロペラを水中で高速回転させた場合、回転速度をある値にまで上げるとプロペラ周囲に真空状態が発生し、それ以上は回転速度が上がらなくなる。つまり、プロペラの回転速度を上げることで船舶のスピードを上げようとしても限界がある。しかし、本発明においては、二つのプロペラが生み出す推進力によって船舶を走行させるため、一つのプロペラの回転速度を上限値にまで上げなくともトータルで十分な推進力が得られ、その結果走行スピードが上がる。
【0052】
さらに、右プロペラおよび左プロペラを単エンジンによって稼動させるとしたため、従来のように単エンジンと一軸上に設けたプロペラがセットになった船外機や船内外機を二つ用いた場合と比較して、以下のような効果がある。
なお、エンジンは単にその台数の多少では種々の効果を比較できないため、以下では、250あるいは300馬力といった大馬力のエンジン一つを用いて本発明にかかる船外機を構成した場合(条件1)と、当該大馬力エンジンの半分の馬力のエンジンを有する従来の船外機を二つ用いた場合(条件2)のように、合計馬力が等しい場合において比較を行う。
【0053】
まず第一に、条件1においては条件2と比較して船舶の駆動に要する燃料を節約する事ができる。これは、一般に、エンジンの馬力が半分であってもその消費燃料は、馬力が倍であるエンジンの半分にまでは低くならないからである。
同様に、馬力が半分であっても船外機自体の重量は半分にはならない。よって、条件2では船舶後部の重量が増し、そのため一層燃料の消費が速くなる。
【0054】
第二に、条件1では条件2のような船舶後部の重量化を避けられるため、船舶後部が前部よりも沈んでしまうことによる船舶のバランス悪化、さらに悪化したバランスを修正するために別の対処を要するといった不都合が避けられ、船舶の大馬力化とバランスの安定化との両立が容易である。
【0055】
第三に、整備負担についても、条件1は条件2と比較して軽減される。これは、馬力が半分のエンジンであっても整備負担まで半分にはならないからである。
【0056】
第四に、条件1においては、条件2よりも船舶のスピードが向上する。水中では水の抵抗が大きいため、走行スピードを上げるには、大きなトルクによってプロペラを回転させて推進力を得る必要がある。ここで、条件2では各エンジンが低馬力でありトルクも弱いため各プロペラが生み出す推進力も弱いものとなるが、条件1ではエンジンが大馬力であるため各プロペラを大きなトルクによって回転させることができ、その結果、各プロペラにおいて強力な推進力が得られ走行スピードが増す。むろん、条件2よりも船舶全体の重量が軽いという点も、よりスピードを向上させる要因となる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明にかかる船外機を示した斜視図。
【図2】ロアケーシングの内部構造等を示した正面図。
【図3】ロアケーシングの内部構造等を示した上面図。
【図4】サブドライブシャフトとプロペラシャフトとの接続部分を示した断面図。
【図5】リモートコントロール装置を示した斜視図。
【図6】本発明にかかる船内外機を示した一部透視による側面図。
【符号の説明】
【0058】
10…トップカウリング
11,230…エンジン
20…アッパーケーシング
30…ロアケーシング
40…メインドライブシャフト
40a,41a,42a,210a,220a…ベベルギヤ
41,42…サブドライブシャフト
51,52…縦シフトロッド
53,54…水平シフトロッド
53a,54a…シフトカム
53a1,53a2,53a3…接触面
61…右プロペラ
62…左プロペラ
71,72…プロペラシャフト
71a,72a…前進ギヤ
71b,72b…後進ギヤ
71c…シフトプランジャ
71d…スプリング
71e…ドッグクラッチ
81,82…ピニオンギヤ
90…リモートコントロール装置
91,92…シフトレバー
93,94…ケーブル
95…ボディ
100…船外機
200…船内外機
210…第一メインドライブシャフト
220…第二メインドライブシャフト
240…キャビテーションプレート
300…船舶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の動力を受けて回転するメインドライブ軸から、当該メインドライブ軸に対する複数方向に動力を伝達し、この伝達された各動力によって同複数方向に夫々に設けたサブドライブ軸を回転させる動力伝達機構と、
各サブドライブ軸における動力を、各サブドライブ軸毎に対応させて設けたプロペラ軸およびプロペラに伝達することによって各プロペラを夫々に回転させるプロペラ回転機構と、
プロペラの回転状況を各プロペラ毎に独立して制御するシフトコントローラとを備えることを特徴とする船舶推進構造。
【請求項2】
上記メインドライブ軸の所定位置と、各サブドライブ軸におけるメインドライブ軸に接近する各位置とには夫々にベベルギヤが設けられ、各サブドライブ軸のベベルギヤはメインドライブ軸のベベルギヤに対して夫々に螺合していることを特徴とする請求項1に記載の船舶推進構造。
【請求項3】
上記プロペラは、メインドライブ軸の左右であってメインドライブ軸から略同一距離を保った位置において夫々のプロペラ軸を略平行とした状態で二つ設けられ、かつ前進のための正回転の方向が互いに逆であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の船舶推進構造。
【請求項4】
対応し合うサブドライブ軸とプロペラ軸との間にはプロペラを正回転させるための前進ギヤとプロペラを逆回転させるための後進ギヤとが介在し、上記シフトコントローラは、前進ギヤと後進ギヤとのいずれかを有効にし、あるいはいずれも無効にする切り替えを実行可能であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の船舶推進構造。
【請求項5】
所定の動力を生み出す単エンジンと、当該単エンジンが生み出す動力によって回転するメインドライブ軸から当該メインドライブ軸に対する複数方向に動力を伝達し、この伝達された各動力によって同複数方向に夫々に設けたサブドライブ軸を回転させる動力伝達機構と、各サブドライブ軸における動力を各サブドライブ軸毎に対応させて設けたプロペラ軸およびプロペラに伝達することによって各プロペラを夫々に回転させるプロペラ回転機構と、プロペラの回転状況を各プロペラ毎に独立して制御するシフトコントローラとを備えることを特徴とする船舶駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−205990(P2006−205990A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23634(P2005−23634)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(305017136)有限会社アークシステム (1)
【Fターム(参考)】