説明

良性および悪性の前立腺組織におけるPCA3メッセンジャーRNA種

【課題】前立腺の非悪性状態および/または悪性状態と関連する異なる種々のPCA3 RNAの提供。
【解決手段】第3エキソンと第4aエキソンとの間に挿入された228bpのさらなる配列を有する特定の配列からなる長鎖PCA3 RNA分子が非悪性の前立腺状態と関連しており、このさらなる配列を有していない短鎖PCA3 RNA分子が前立腺ガンと関連しており、これらの2つのPCA3 RNA種の示差的な発現に基づいて、前立腺疾患を診断するためのプロトコルからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は前立腺ガンに関する。より詳細には、本発明は、PCA3の遺伝子によってコードされる種々の核酸分子(メッセンジャーRNA);非悪性および悪性の前立腺状態におけるこれらのRNA種の2つの示差的な発現;前立腺ガンに関連するこれらのRNA種の検出に基づく前立腺ガンを特異的に診断するための方法;これらの2つのRNA種を伴う前立腺ガンに対する治療法;示差的に発現するこれらのmRNAに対する結合親和性を有する核酸分子および抗体;核酸プローブまたは抗体を含有するキット;前立腺ガンに冒された哺乳動物または前立腺ガンを発症することが疑われる哺乳動物を診断、評価または予後予測するための、本発明の示差的に発現するこれらのmRNAの核酸配列を使用するバイオアッセイ;ならびに本発明のmRNAの発現を調節する化合物をスクリーニングするためのバイオアッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
この10年間にわたって、前立腺のガンは、男性における最も一般的に診断される悪性疾患になっており、肺ガンに次いで、西洋社会における男性のガン死亡の2番目に大きな原因になっている(Landisら、1998、CA Cancer J. Clin.、48(1):6-29)。すべてのガンの中で、前立腺ガンの発生率は年齢とともに非常に急激に増大している。西洋社会における寿命が増大するにつれ、前立腺ガンの数がそれに対応して増大し続けており、この10年間だけで60%の増大が予想されている。死亡率は、それよりも低い割合で増大しているが、全体的にはこの50年間で2倍になっている。この疾患は典型的には65歳以上の男性において診断されているが、その影響は、前立腺ガンで死亡する人の平均寿命が9年-10年短くなる点で依然として大きい。早期の前立腺ガンが発見された場合、早期の前立腺ガンは、現在、約90%の症例が手術により治療され得る。残念ながら、この疾患は、腫瘍が前立腺の領域外に広がり、遠くに転移が形成されるとゆっくり死に至らせる。前立腺に依然として限られている間にこの疾患を早期に検出すること、および適切な治療を選択するために進行段階を正確に判定することは、死亡率を改善させるはずである。
【0003】
近年における多くの進歩にも関わらず、前立腺ガン罹患者の進行段階が判定され得る正確度は、依然として最適とはいえない。この主な原因は、前立腺以外に広がった腫瘍は、一般に、肉眼で認められるほどではなく、むしろ顕微鏡で認められるほど小さいということである。前立腺の指による直腸検査は、何十年間にわたって前立腺ガンの進行段階を局所的に判定するための基礎となっているが、多くの場合、疾患の程度を過少評価している。経直腸的超音波診断そのものは、前立腺ガンの進行段階を判定する手段としては限られた価値を有するにすぎない。コンピューター断層撮影法および磁気共鳴画像法は、前立腺ガンの進行段階を判定することにおいては一般に満足できるものではない(Kirby、1997、Prostate cancer and Prostate Diseases、1:2-10)。前立腺ガンの進行段階を判定することに対して有望な最近の方法は、前立腺細胞において示差的に発現しているタンパク質またはそれらの対応する核酸に集中する生化学的技術および分子的技術を使用することを伴う(Lange、1997、Principles and Practices of Genitourinary Oncology、発行:Lippincott-Raven Publishers、41章、417頁-425頁)。最も有名な前立腺マーカーはPSA(前立腺特異抗原)およびPSM(前立腺特異膜)抗原である。
【0004】
PSAは、第19染色体に存在するPSA遺伝子によってコードされる分泌型糖タンパク質である。PSAは、前立腺の腺上皮細胞によってアンドロゲン制御下で発現し、精漿中に分泌される。PSAタンパク質は、通常の場合、ガンまたはBPH(良性前立腺肥大症)などの前立腺疾患の場合を除き、前立腺に限られている。PSAは、PSAが種々の形態(タンパク質複合体に結合している形態およびタンパク質複合体に結合していない形態を含む)で存在する場合には血液中に漏出する(El-Shirbiny、1994、Adv. Clin. Chem.、31:99)。PSAの総血清中濃度の測定は、前立腺ガン患者のスクリーニングおよび管理における最も頻繁に使用されているFDA承認の生化学的試験の1つである。今日までの研究は、指による直腸検査および経直腸的超音波診断と組み合わせたPSAによるスクリーニングにより、多くの場合、前立腺ガンが前立腺そのものに依然として局在化している間における早期の前立腺ガンの検出が高められることを示唆している(Brawerら、1992、J. Urol.、147:841)。血清PSAはまた、治療後の患者、特に、手術による前立腺切除術の後の患者をモニターするために有用である。しかし、異常に上昇したレベルを有するが、前立腺ガンを有しないことがその後に見出される非常に多くの患者もまた、総PSAの測定により確認されている。近年、遊離PSA/総PSAのパーセント比を測定するという考えは、PSAが4ng/mL-10ng/mLである男性における前立腺ガンスクリーニングの特異性を増大させることが示された(Letranら、1998、J. Urol.、160:426)。
【0005】
PSM遺伝子は、正常な前立腺、良性前立腺肥大症の上皮細胞によって発現され、そしてより大きな程度で悪性の前立腺組織によって発現される膜貫通糖タンパク質をコードする。低レベルのPSMがいくつかの他の組織においてもまた検出されている(Israeliら、1994、Cancer Res.、54:1807)。PSAおよびPSMはまた、RT-PCR(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)を使用する前立腺ガンに対する分子的方法の標的である。この非常に高感度な核酸増幅技術は、特定のメッセンジャーRNAの発現に基づいて細胞を確認するために使用されている。この技術は、組織または体液からRNAサンプルを調製すること、RNAをcDNAに逆転写すること、および目的とする特定の遺伝子を標的とするプライマーの使用によって特定のcDNAを増幅することを伴う。PSAおよびPSMを使用した、前立腺ガン患者に由来する血液、リンパ節および骨髄のRT-PCR分析は、この方法が極めて高感度であることを明らかにしている。しかし、分子的試験の臨床的価値は依然として確認しなければならない(Verkaikら、1997、Urol. Res.、25:373;Gomellaら、1997、J. Urol.、158;326)。
【特許文献1】PCT国際特許出願番号PCT/CA98/00346
【非特許文献1】Landisら、1998、CA Cancer J. Clin.、48(1):6-29
【非特許文献2】Kirby、1997、Prostate cancer and Prostate Diseases、1:2-10
【非特許文献3】Lange、1997、Principles and Practices of Genitourinary Oncology、発行:Lippincott-Raven Publishers、41章、417頁-425頁
【非特許文献4】El-Shirbiny、1994、Adv. Clin. Chem.、31:99
【非特許文献5】Brawerら、1992、J. Urol.、147:841
【非特許文献6】Letranら、1998、J. Urol.、160:426
【非特許文献7】Israeliら、1994、Cancer Res.、54:1807
【非特許文献8】Verkaikら、1997、Urol. Res.、25:373
【非特許文献9】Gomellaら、1997、J. Urol.、158;326
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、前立腺ガンを診断するために、より高感度な試験を提供することが引き続き求められている。前立腺ガンの進行段階を判定するためのより良好な試験を提供することもまた引き続き求められている。より特異的で、かつより信頼できる前立腺ガンマーカーを前立腺ガンの検出方法、進行段階判定方法および処置方法に提供することもまた引き続き求められている。
【0007】
本発明は、これらの要求および他の要求を満足させようとするものである。
【0008】
新しい前立腺ガンマーカーであるPCA3が、前立腺ガンの発症に関連した遺伝子を強調することを目的したディファレンシャルディスプレイ分析によって数年前に発見された(PCT国際特許出願番号PCT/CA98/00346)。PCA3は、第9染色体に存在し、4つのエキソンから構成される。PCA3は、選択的スプライシングおよびポリアデニル化によって生じる少なくとも4つの異なる転写物をコードしている。RT-PCR分析によって、PCA3の発現が前立腺に限定され、そして精巣、卵巣、乳房および膀胱を含むすべての他の組織には存在しないことが見出された。ノーザンブロット分析は、PCA3が、調べられた前立腺ガンの大部分(47/50)において非常に発現していること、これに対して、良性前立腺肥大症または同じ患者に由来する正常な前立腺細胞では発現が検出されないか、または非常に低い発現が検出されることを示していた。正常な組織またはBPH組織と比較して、前立腺ガンでは、PCA3は少なくとも20倍過剰に発現している。PCA3の発現は、腫瘍の進行度とともに増大しているようであり、そして転移病巣において検出される。
【0009】
まとめると、PSAおよびPSMなどの特異的なマーカーに基づいて前立腺ガンの進行段階を判定することは、この疾患の管理に対する非常に有望な方法である。前立腺ガンの進行段階を判定するためにPSAまたはPSMを使用することの欠点は、それらが、ガン性細胞だけでなく、正常な細胞において発現しているということである。さらに、分化度が低い腫瘍は、あまり攻撃的でない腫瘍よりも著しく少ないPSAタンパク質を産生する傾向を有するので診断から漏れることがある。これは、すべての前立腺ガンの10%に当てはまる。一方、PCA3はガン性の前立腺細胞および正常な前立腺細胞において示差的に発現しており、その発現は、腫瘍の進行度の増大とともに低下しない。従って、PCA3は、前立腺ガン患者の診断、進行段階判定および処置におけるPSAおよびPSMの欠点を克服し得る有用なツールであり得る。
【0010】
本明細書は多数の文書を参照しているが、その内容はその全体が参考として本明細書中に組み込まれる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前立腺の非悪性状態および/または悪性状態と関連する異なる種々のPCA3 RNAの発見に関する。
【0012】
本発明はまた、これらのPCA3 mRNAのレベルのバランスが前立腺の非悪性状態または悪性状態と相関するという確認に関する。
【0013】
これらのRNAの1つは、第3エキソンと第4aエキソンとの間に挿入された228bpのさらなる配列を有する(配列番号1に示される)PCA3 RNA分子に対応し、これに対して、それ以外のRNAはこのさらなる配列を有していない(配列番号2)。このさらなる配列を有していないRNAが前立腺ガンと関連しており、これに対して、このさらなる配列を含むRNAが非悪性の前立腺状態と関連している。これらの2つのPCA3 RNA種の示差的な発現に基づいて、前立腺疾患を診断するためのプロトコルが提供される。上記の発見はまた、前立腺ガンに対する治療法につながり得る。
【0014】
本発明はさらに、配列番号1またはそのフラグメントあるいはその変異体を配列番号2またはそのフラグメントあるいはその変異体に対して定量することを含む、動物における前立腺状態を評価するための試薬および方法に関する。
【0015】
従って、本発明は、PCA3 mRNAにおいて発現する新規な配列の発見および特徴付けに関する。そのような配列により、2つの示差的に発現するPCA3 mRNAの相対的な存在量を測定することに基づいて動物の前立腺状態を決定することができる。
【0016】
本発明は一般に、前立腺状態の決定を可能にする能力を保持している、示差的に発現する様々なPCA3 mRNAをコードする単離された核酸分子、およびその変異体または一部を提供する。
【0017】
本発明はさらに、本発明の示差的に発現する様々なPCA3 mRNAによってコードされる精製されたポリペプチド、またはそのエピトープ結合部分を提供する。
【0018】
本発明はまた、前立腺ガンと関連して示差的に発現する様々なPCA3 mRNAあるいはそのようなmRNAによってコードされるタンパク質またはポリペプチドのサンプル中の存在を特異的に検出するための核酸を提供する。
【0019】
本発明はさらに、示差的に発現する様々なPCA3 mRNAをコードする核酸の検出方法を提供する。
【0020】
本発明はまた、示差的に発現する様々なPCA3 mRNAをコードする核酸のサンプル中の存在を検出するためのキットを提供する。
【0021】
本発明はさらに、宿主細胞における転写を開始させるために効果的なプロモーターと、示差的に発現する様々なPCA3 mRNAをコードする上記の単離された核酸分子、その変異体またはフラグメントとを5’から3’に含む組換え核酸分子を提供する。
【0022】
本発明はまた、ベクターと、示差的に発現する様々なPCA3 mRNAをコードする上記の単離された核酸分子とを含む組換え核酸分子を提供する。
【0023】
本発明はさらに、示差的に発現する様々なPCA3 mRNAに対して特異的なアンチセンス核酸分子を提供する。
【0024】
本発明はまた、上記に記載される組換え核酸分子を含有する細胞を提供する。
【0025】
本発明はさらに、示差的に発現するPCA3 mRNAをコードする上記に記載される組換え核酸分子を含有する非ヒト生物に関する。特に、本発明は、さらなる配列を第3エキソンと第4aエキソンとの間に有するPCA3 mRNAをコードする組換え核酸分子を含有する非ヒト生物に関する。特に好ましい実施形態において、このさらなる配列は、配列番号1の配列、その一部の変異体を含む。
【0026】
本発明はまた、示差的に発現するPCA3 mRNAによってコードされるポリペプチドまたはそのエピトープ含有部分に対して特異的に結合する親和性を有する抗体に関する。
【0027】
本発明はさらに、サンプル中の示差的に発現する様々なPCA3 mRNAを検出する方法を提供する。同様に、本発明はまた、示差的に発現する様々なPCA3 mRNAのサンプル中の量を測定する方法を提供する。
【0028】
本発明はさらに、示差的に発現するPCA3 mRNAによってコードされるポリペプチドに対して特異的に結合する親和性を有する抗体を検出する方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
1つの実施形態において、本発明はさらに、示差的に発現するPCA3 mRNAに対して特異的な核酸分子を含有する第1の容器手段と、示差的に発現するPCA3 mRNAに対して特異的なプローブを含有する第2の容器手段とを含む診断キットに関する。
【0030】
別の実施形態において、本発明は、上記に記載される抗体を含有する第1の容器手段と、モノクローナル抗体の結合パートナーおよび標識を含む結合体(コンジュゲート)を含有する第2の容器手段とを含む診断キットに関する。
【0031】
本発明はまた、上記に記載されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを提供する。
【0032】
同様に、本発明はさらに、ヒト疾患(特に、前立腺ガン)の診断方法に関する。好ましくは、患者における前立腺ガンの存在または前立腺ガンを発症させる素因を診断する方法が本明細書中に提供される。
【0033】
本発明はまた、(1)示差的に発現する様々なPCA3 mRNAをコードする核酸配列、その変異体または一部、(2)示差的に発現する様々なPCA3 mRNA分子に対するアンチセンス、その変異体または一部、(3)示差的に発現するPCA3 mRNAによってコードされるタンパク質、その変異体または一部、あるいは(4)示差的に発現する様々なPCA3のmRNAによってコードされるタンパク質に対する抗体のすべてまたは一部を含む治療的使用方法を提供する。
【0034】
さらに、本発明は、示差的に発現する第1のPCA3 mRNA(例えば、長いmRNA)および第2のPCA3 mRNA(例えば、短いmRNA)のレベルを、第1または第2の示差的に発現するmRNAの一方を発現させることによって調節する方法を提供する。好ましい実施形態において、本発明は、第1のPCA3 mRNAのレベルが第2のPCA3 mRNAのレベルよりも多くなるような、示差的に発現する様々なPCA3 mRNAの調節を提供する。
【0035】
動物の前立腺状態に対するマーカーとしてmRNAの示差的な発現を確認すること、より詳細には、PCA3によってコードされるタンパク質のコード配列を中断させるさらなる配列の存在を示すことにより、非悪性状態との相関が得られ、一方、さらなる配列の非存在およびそれによってコードされるタンパク質の中断がないことにより、悪性のガンとの相関が得られる。従って、本発明は、当業者に知られている遺伝子工学の任意の手段を使用してPCA3タンパク質のコード配列を中断させる手段を提供し、そしてそのような中断が悪性の表現型を復帰させ得るかどうかを評価するための方法を提供する。
【0036】
本明細書中で使用されている用語の明確で一致した理解を行うために、多数の定義が下記に示される。
【0037】
本明細書中で使用されている用語「非悪性の前立腺または状態」は、非ガン性の前立腺状態を包含することが意味される。従って、これらの用語は、正常な状態ならびに良性の前立腺状態(例えば、BPHなど)を包含することが意味される。
【0038】
悪性の前立腺状態と非悪性の前立腺状態とを区別するマーカーはmRNAレベルおよびタンパク質レベル(すなわち、発現したマーカー)であるので、本発明の利点の1つは、当業者が利用できる多数の手段を使用して、動物における前立腺状態が決定できることである。そのような手段の非限定的な例には、これらの区別するマーカーを発現する容易に得られる細胞における核酸プローブ、抗体、リガンドおよびPNAが含まれる。その非限定的な例はリンパ球であり、それにより、単純な血液サンプルからの決定が可能になる。
【0039】
用語「サンプル」は、本発明の短型および/または長型のPCA3核酸またはPCA3タンパク質の示差的な発現が分析され得る動物由来のすべてのタイプのサンプルを示すために本明細書中では広く使用されている。その非限定的な例には、生検物、血液、微細な針による吸引物、尿および骨髄が含まれる。
【0040】
ヌクレオチド配列は、本明細書中では、この分野で広く使用され、かつIUPAC-IUB生化学命名委員会の勧告に従った一文字ヌクレオチド記号を使用して、5’から3’の方向で、左から右に一本鎖で示されている。
【0041】
別途定義されない限り、本明細書中で使用されている科学的および技術な用語および名称は、本発明が関連する当業者によって広く理解されているのと同じ意味を有する。一般に、細胞培養、感染、分子生物学の方法などに関する手順は、この分野で使用されている一般的な方法である。そのような標準的な技術は、例えば、Sambrookら(1989、Molecular Cloning-A Laboratory Manual、Cold Spring Habor Laboratories)およびAusubelら(1994、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York)などの参考マニュアルにおいて見出すことができる。
【0042】
本明細書は、多数の日常的に使用されている組換えDNA(rDNA)技術の用語を参照している。それにも関わらず、そのようなrDNA用語の選択されたいくつかの定義が明確化および整合性のために示される。
【0043】
本明細書中で使用されている「核酸分子」は、ヌクレオチドのポリマーをいう。その非限定的な例には、DNA(すなわち、ゲノムDNA、cDNA)分子およびRNA分子(すなわち、mRNA)が含まれる。核酸分子は、クローニング技術によって得ることができ、または合成することができる。DNAは、二本鎖または一本鎖(コード鎖または非コード鎖[アンチセンス])であり得る。
【0044】
この分野で知られている用語「組換えDNA」は、DNAセグメントを連結することから生じるDNA分子をいう。これは、遺伝子工学と呼ばれることが多い。
【0045】
用語「DNAセグメント」は、ヌクレオチドの線状領域または配列を含むDNA分子を示すために本明細書中で使用されている。この配列は、遺伝暗号に従って読まれた場合、ポリペプチド、タンパク質、タンパク質フラグメントなどと呼ばれ得るアミノ酸の線状領域または配列をコードし得る。
【0046】
用語「増幅対」は、本明細書中では、多数のタイプの増幅プロセスの1つによって、好ましくはポリメラーゼ連鎖反応によって、選択された核酸配列を増幅する際に一緒に使用されるために選択される本発明の1対のオリゴヌクレオチド(オリゴ)をいう。他のタイプの増幅には、より詳しくは下記に例示されているように、リガーゼ連鎖反応、鎖置換増幅、または核酸配列に基づく増幅が含まれる。この分野で広く知られているように、オリゴは、選択された条件のもとで相補的な配列に結合するように設計されている。
【0047】
1つの特定の実施形態において、患者に由来する核酸サンプルの増幅は、最も多く存在する示差的に発現する核酸を増幅するために好都合である条件のもとで増幅される。1つの好ましい実施形態において、RT-PCRは、最も多く存在するPCA3 mRNAを増幅するために好都合である条件のもとで、患者に由来するmRNAサンプルに対して行われる。別の好ましい実施形態では、示差的に発現する様々なPCA3核酸の増幅が同時に行われる。当然のことではあるが、そのような方法は、示差的に発現する核酸配列の変わりに、示差的に発現するタンパク質を検出するために適合させられ得ることが当業者により理解される。
【0048】
本発明を実施するための核酸(すなわち、DNAまたはRNA)は、十分に知られている方法に従って得ることができる。
【0049】
本発明のオリゴヌクレオチドプローブまたはオリゴヌクレオチドプライマーは、用いられる特定のアッセイ形式および特定の必要性および用いられる標的化されたゲノムに依存して任意の好適な長さであり得る。一般に、オリゴヌクレオチドプローブまたはオリゴヌクレオチドプライマーは、長さが少なくとも12ヌクレオチドであり、好ましくは15分子-24分子であり、そして、選ばれた核酸増幅システムに特に適するように適合させることができる。この分野で広く知られているように、オリゴヌクレオチドプローブおよびオリゴヌクレオチドプライマーは、その標的化された配列とのそのハイブリダイゼーションの融解温度を考慮に入れて設計され得る(下記およびSambrookら、1989、Molecular Cloning-A Laboratory Manual、第2版、CSH Laboratories;Ausubelら、1989、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons, Inc.、N.Y.を参照のこと)。
【0050】
用語「オリゴヌクレオチド」または用語「DNA」の分子または配列は、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)および/またはシトシン(C)のデオキシリボヌクレオチドから構成される分子をいう。二本鎖形態である場合、それは、この用語が本明細書中において定義されているように、本発明により「調節エレメント」を構成し得るか、または含み得る。用語「オリゴヌクレオチド」または用語「DNA」は、線状DNA分子またはフラグメント、ウイルス、プラスミド、ベクター、染色体、または合成的に得られたDNAにおいて見出され得る。本明細書中で使用されているように、特定の二本鎖DNA配列は、5’から3’の方向で配列のみを示す通常的な慣例に従って記載され得る。「オリゴヌクレオチド」は一本鎖形態であり得ることもまた認識される。
【0051】
「核酸ハイブリダイゼーション」は、一般には、相補的な塩基配列を有する2つの一本鎖核酸分子のハイブリダイゼーションを示し、それらは、適切な条件のもとで、熱力学的に有利な二本鎖構造を形成する。ハイブリダイゼーション条件の例を、上記に示された2つの実験室マニュアル(Sambrookら、1989、上記;Ausubelら、1989、上記)に見出すことができ、そしてこの分野では広く知られている。例えば、十分に知られているサザンブロッティング手法のように、ニトロセルロースフィルターに対するハイブリダイゼーションの場合、ニトロセルロースフィルターは、50%ホルムアミド、高濃度の塩(5xSSCまたは5xSSPE)、5xデンハルト溶液、1%SDSおよび100μg/ml変性キャリアDNA(すなわち、サケ精子DNA)を含有する溶液中において、標識されたプローブとともに65℃で一晩インキュベーションされ得る。非特異的に結合しているプローブは、その後、所望するストリンジェンシーを考慮して選択される温度において、すなわち、室温(低ストリンジェンシー)、42℃(中程度のストリンジェンシー)または65℃(高ストリンジェンシー)において0.2xSSC/0.1%SDSでの数回の洗浄によってフィルターから洗い流すことができる。選択された温度は、DNAハイブリッドの融解温度(Tm)に基づいている。当然のことではあるが、RNA-DNAハイブリッドもまた形成させることができ、そして検出することができる。そのような場合、ハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件は、当業者によって、十分に知られている方法に従って適合させることができる。ストリンジェントな条件が好ましくは使用される(Sambrookら、1989、上記)。
【0052】
本発明のプローブは、天然に存在する糖-リン酸骨格、ならびにホスホロチオアート、ジチオナート、アルキルホスホナートおよびアルファ-ヌクレオチドなどを含む修飾された骨格とともに用いることができる。修飾された糖-リン酸骨格は、Miller、1988、Ann. Reports Med. Chem.、23:295、およびMoranら、1987、Nucleic acid molecule. Acids Res.、14:5019によって一般的に教示されている。本発明のプローブは、リボ核酸(RNA)またはデオキシリボ核酸(DNA)のいずれかから構築することができ、好ましくはDNAから構築することができる。
【0053】
プローブが使用され得る検出方法のタイプには、サザンブロット(DNA検出)、ドットブロットまたはスロットブロット(DNA、RNA)、ならびにノーザンブロット(RNA検出)が含まれる。それほど好ましくないが、標識されたタンパク質もまた、それが結合する特定の核酸配列を検出するために使用することができる。より近年には、PNAが記載されている(Nielsenら、1999、Current Opin. Biotechnol.、10:71-75)。PNAもまた、本発明のmRNAを検出するために使用することができる。他の検出方法には、ディップスティック機構などにプローブを含有するキットが含まれる。
【0054】
本発明は、特定の核酸配列を検出するための標識の使用に特に依存しないが、そのような標識は、検出感度を増大させることによって有益であり得る。さらに、そのような標識は自動化を可能にする。プローブは、多数の十分に知られている方法に従って標識することができる(Sambrookら、1989、上記)。標識の非限定的な例には、3H、14C、32Pおよび35Sが含まれる。検出可能なマーカーの非限定的な例には、リガンド、蛍光基、化学発光剤、酵素および抗体が含まれる。本発明の方法の感度を増大させることができる、プローブとともに使用される他の検出可能なマーカーには、ビオチンおよび放射能ヌクレオチドが含まれる。特定の標識を選ぶことにより、標識がプローブに結合する様式が規定されることは、当業者には明かであろう。
【0055】
広く知られているように、放射能ヌクレオチドをいくつかの方法で本発明のプローブに取り込ませることができる。その非限定的な例には、ガンマ-32P ATPおよびポリヌクレオチドキナーゼを使用してプローブの5’末端をキナーゼ処理すること、大腸菌のPol Iのクレノウフラグメントを放射能dNTPの存在下で使用すること(すなわち、低融点ゲルにおいてランダムオリゴヌクレオチドプライマーを使用して均一に標識されたDNAプローブ)、1つまたは複数の放射能NTPの存在下でDNAセグメントを転写するためにSP6/T7システムを使用することなどが含まれる。
【0056】
本明細書中で使用されている「オリゴヌクレオチド」または「オリゴ」により、2つ以上のヌクレオチド(リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチド)を有する分子が定義される。オリゴのサイズは、特定の状況によって、そして最終的には、その特定の使用に基づいて決定され、従って当業者によって適合される。オリゴヌクレオチドは、十分に知られている方法に従って、化学合成することができ、またはクローニングによって得ることができる。
【0057】
本明細書中で使用されている「プライマー」により、標的配列にアニールすることができ、それによって好適な条件のもとでのDNA合成の開始点として役立ち得る二本鎖領域を生じさせることができるオリゴヌクレオチドが定義される。
【0058】
選択された核酸配列、すなわち標的核酸配列の増幅を多数の好適な方法で行うことができる。一般的には、Kwohら、1990、Am. Biotechnol. Lab.、8:14-25を参照のこと。多数の増幅技術が記載されており、そして当業者の特定の要求に合わせるために容易に適合させることができる。増幅技術の非限定的な例には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換増幅(SDA)、転写に基づく増幅、QベータレプリカーゼシステムおよびNASABAが含まれる(Kwohら、1989、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、86:1173-1177;Lizardiら、1988、BioTechnology、6:1197-1202;Malekら、1994、Methods Mol. Biol.、28:253-260;Sambrookら、1989、上記)。好ましくは、増幅は、PCRを使用して行われる。
【0059】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、知られている技術に従って行われる。例えば、米国特許第4,683,195号;同第4,683,202号;同第4,800,159号および同第4,965,188号を参照のこと(すべての3つの米国特許の開示は参考として本明細書中に組み込まれる)。一般に、PCRは、検出しようとする特定配列のそれぞれの鎖に対して1つのオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ハイブリダイゼーション条件のもと、(例えば、熱安定性のDNAポリメラーゼの存在下で)核酸サンプルを処理することを伴う。合成される各プライマーの伸長生成物は、それとハイブリダイゼーションする特定の配列のそれぞれの鎖に対して十分に相補的なプライマーとともに、2つの核酸鎖のそれぞれに対して相補的である。各プライマーから合成された伸長生成物もまた、同じプライマーを使用する伸長生成物のさらなる合成のためのテンプレートとして役立ち得る。十分な回数の伸長生成物の合成が行われた後、サンプルは、検出される配列(1つまたは複数)が存在するかどうかを評価するために分析される。増幅された配列の検出は、知られている技術に従って、ゲル電気泳動後にDNAをEtBr染色後に可視化することによって、または検出可能な標識を使用することなどによって行うことができる。PCR技術に関する総説については、PCR Protocols, A Guide to Methods and Amplifications、Michaelら編、Acad. Press、1990を参照のこと。
【0060】
リガーゼ連鎖反応(LCR)が、知られている技術に従って行われる(Weiss、1991、Science、254:1292)。所望する要求を満たすためのプロトコルの適合化が当業者によって行われ得る。鎖置換増幅(SDA)もまた、知られている技術、または特定の要求を満たすためのその適合化に従って行われる(Walkerら、1992、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:392-396;同、1992、Nucleic Acids Res.、20:1691-1696)。
【0061】
本明細書中で使用されている用語「遺伝子」は、この分野では十分に知られており、1つのタンパク質またはポリペプチドを規定する核酸配列をいう。「構造遺伝子」により、RNAに転写され、そして特定のアミノ酸配列を有するタンパク質に翻訳され、それによって特定のポリペプチドまたはタンパク質を生じさせるDNA配列が定義される。本発明の核酸配列は、この分野で十分に知られている多数の確立されたキット形式のいずれかに組み入れられ得ることが当業者によって容易に認識される。
【0062】
DNA分子の「異種」(すなわち、異種遺伝子)領域は、自然界においてそれとの結合状態で見出されない、より大きなセグメント内のDNAの部分セグメントである。用語「異種」は、自然界において一緒に連結されていない2つのポリペプチドセグメントを定義するために同様に使用され得る。異種遺伝子の非限定的な例には、異種の制御領域または異種のポリペプチドに近接させられ得るか、または連結され得る、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼなどのレポーター遺伝子が含まれる。
【0063】
用語「ベクター」は、この分野では広く知られており、これにより、本発明のDNAがクローン化され得るDNAビヒクルとして役立ち得るプラスミドDNA、ファージDNA、ウイルスDNAなどが定義される。多数のタイプのベクターが存在し、これらはこの分野では十分に知られている。
【0064】
用語「発現」により、遺伝子がmRNAに転写され(転写)、その後、そのmRNAが1つまたは複数のポリペプチド(またはタンパク質)に翻訳される(翻訳)プロセスが定義される。
【0065】
用語「発現ベクター」により、上記に記載されているが、宿主への形質転換の後において挿入された配列の発現を可能にするように設計されているベクターまたはビヒクルが定義される。クローン化された遺伝子(挿入された配列)は、通常、プロモーター配列などの制御エレメント配列の制御下に置かれる。クローン化された遺伝子をそのような制御配列のもとに置くことは、制御エレメントまたは制御配列に機能的に連結されると呼ばれることが多い。
【0066】
機能的に連結された配列はまた、同じRNA転写物上に転写される2つのセグメントを含むことができる。従って、プロモーターおよび「レポーター配列」などの2つの配列は、プロモーター内で開始する転写により、レポーター配列のRNA転写物が産生される場合には機能的に連結されている。「機能的に連結させる」ために、2つの配列を互いに直接的に隣接させることは必ずしも必要ない。
【0067】
発現制御配列は、ベクターが、機能的に連結された遺伝子を原核生物宿主または真核生物宿主またはその両方(シャトルベクター)において発現させるように設計されているかどうか、そしてベクターがエンハンサーエレメント、終結配列、組織特異的エレメントなどの転写エレメントおよび/または翻訳開始部位および翻訳終結部位をさらに含むかどうかに依存して変化する。
【0068】
原核生物での発現は、目的とするDNA配列によってコードされるタンパク質を大量に調製するためには有用である。このタンパク質は、サイズおよび電荷などのその固有的な性質を利用する標準的なプロトコル(すなわち、SDSゲル電気泳動、ゲルろ過、遠心分離、イオン交換クロマトグラフィーなど)に従って精製することができる。さらに、目的とするタンパク質は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を使用するアフィニティークロマトグラフィーによって精製することができる。精製されたタンパク質は治療的適用のために使用することができる。
【0069】
DNA構築物は、本発明のオリゴヌクレオチド配列に機能的に連結されているプロモーターを含むベクターであり得る。これは、次いで、ルシフェラーゼレポーター分子の遺伝子などの異種遺伝子に機能的に連結される。「プロモーター」は、細胞内においてRNAポリメラーゼに直接的または間接的に結合して、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始させることができるDNA調節領域をいう。本発明の目的のために、プロモーターは、バックグラウンドを越える検出可能なレベルで転写を開始させるのに必要な最少数の塩基またはエレメントを含むために、転写開始部位がその3’端に結び付けられ、上流(5’方向)に広がる。プロモーター内には、RNAポリメラーゼを結合させるためのタンパク質結合部位(コンセンサス配列)だけでなく、(S1ヌクレアーゼを用いたマッピングによって都合よく範囲が明らかにされる)転写開始部位が見出される。真核生物のプロモーターは、常ではないが、多くの場合、「TATA」ボックスまたは「CCAT」ボックスを含む。原核生物のプロモーターは、転写を開始させるために役立つ-10および-30のコンセンサス配列を含み、そして転写物産物は、翻訳開始時のリボソーム結合配列としての役割を果たすShine-Dalgarno配列を含む。
【0070】
本明細書中で使用されている表現「機能的な誘導体」は、核酸配列またはアミノ酸配列に関わらず、配列の機能的な誘導体に関連して、元の配列の生物学的活性に実質的に類似している生物学的活性(機能または構造的のいずれか)を保持している分子を意味する。このような機能的な誘導体または等価体は、天然の誘導体であってもよく、あるいは合成的に調製することができる。そのような誘導体には、タンパク質の生物学的活性が保存されているならば、1つまたは複数のアミノ酸の置換、欠失または付加を有するアミノ酸配列が含まれる。配列の生物学的活性が一般に維持されているならば、同じことが、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、欠失または付加を有し得る核酸配列の誘導体に適用される。タンパク質配列に関する場合、置換アミノ酸は、置換されるアミノ酸の化学的物理的性質に類似している化学的物理的性質を有する。類似する化学的物理的性質には、電荷、嵩高さ、疎水性、親水性などにおける類似性が含まれる。用語「機能的な誘導体」は、本発明の対象物の「フラグメント」、「セグメント」、「変異体」、「アナログ」または「化学的誘導体」を包含するものとする。
【0071】
従って、用語「変異体」は、本明細書中では、本発明のタンパク質または核酸に対して構造および生物学的活性が実質的に類似しているタンパク質分子または核酸分子を示す。
【0072】
本発明の機能的な誘導体は、化学合成することができ、あるいは組換えDNA技術によって作製することができる。これらの方法はすべて、この分野では十分に知られている。
【0073】
本明細書中で使用されている「化学的誘導体」は、通常の場合には本発明の対象物の一部ではないさらなる化学的成分を含むことが意味される。そのような成分は、誘導体の物理的化学的特性(すなわち、溶解性、吸収、半減期など、毒性の低下)に影響を及ぼし得る。そのような成分は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1980年)に例示されている。このような化学的物理的成分をポリペプチドに結合させる方法はこの分野では十分に知られている。
【0074】
用語「対立遺伝子」により、染色体上において特定の遺伝子座を占める遺伝子の代わりの形態が定義される。
【0075】
広く知られているように、「変異」は、娘細胞に伝達され得る遺伝物質における検出可能な変化である。十分に知られているように、変異は、例えば、1つまたは複数のデオキシリボヌクレオチドにおける検出可能な変化であり得る。例えば、ヌクレオチドが、新しい位置に付加され得るか、または欠失され得るか、または置換され得るか、または逆位にされ得るか、または新しい位置に転位され得る。自然の突然変異または実験的に誘導された変異が存在する。核酸分子の変異の結果は、変異型核酸分子である。変異型ポリペプチドが、この変異型核酸分子からコードされ得る。
【0076】
本明細書中で使用されている用語「精製された」は、細胞成分から分離されている分子をいう。従って、例えば、「精製されたタンパク質」は、自然界では見出されないレベルに精製されている。「実質的に純粋」な分子は、すべての他の細胞成分を有していない分子である。
【0077】
本明細書中で使用されている用語「分子」、用語「化合物」または「薬剤(agent)」は、天然、合成または半合成の分子または化合物を示すために交換可能かつ広く使用されている。従って、用語「分子」は、例えば、化学物質、高分子、(植物または動物に由来する)細胞抽出物または組織抽出物などを意味する。分子の非限定的な例には、核酸分子、ペプチド、リガンドが含まれ、抗体、炭水化物および薬学的薬剤が含まれる。薬剤は、ランダムスクリーニング、合理的な選択を含む様々な手段によって、そして例えば、コンピューターモデリングなどのタンパク質またはリガンドのモデリング法を使用する合理的な設計によって選択およびスクリーニングされ得る。用語「合理的に選択される」または用語「合理的に設計される」は、本発明の相互作用ドメインの立体配置に基づいて選ばれる化合物を定義することが意味される。当業者によって理解されるように、天然に存在しない修飾を有する高分子もまた、用語「分子」の範囲に含まれる。例えば、製薬業界において十分に知られ、そして一般にはペプチドアナログと呼ばれるペプチドミメティクスを、上記において言及されているようなモデリングによって作製することができる。同様に、好ましい実施形態において、本発明のポリペプチドは、その安定性を高めるために修飾される。ほとんどの場合、このような修飾は、タンパク質の生物学的活性を変化させるべきではないことを理解しなければならない。本発明の教示に従って同定される分子は、細胞および/または組織の生理学または恒常性が、PCA3 mRNAの発現が不十分であることによって損なわれている疾患または状態において治療的価値を有する。あるいは、本発明の教示に従って同定される分子は、示差的に発現するPCA3 mRNAの発現を調節することができるか、またはPCA3 mRNAによってコードされるタンパク質の活性もしくはレベルを調節することができる化合物の開発において有用である。
【0078】
本明細書中で使用されているように、アゴニストおよびアンタゴニストには、そのようなアゴニスト特性またはアンタゴニスト特性を有する既知化合物の増強剤もまた含まれる。1つの実施形態において、本発明のさらなる配列を有しないPCA3タンパク質のレベルまたは活性の調節因子が、指標細胞を化合物あるいは分子の混合物またはライブラリーと所定時間にわたって接触させることによって同定され、そして選択され得る。いくつかの実施形態において、さらなる配列を含むPCA3タンパク質はコントロールとして役立ち得る。
【0079】
本発明はまた、例えば、本発明のさらなる配列を有しないPCA3 mRNAまたはそれによってコードされるタンパク質の発現を低下または阻止するために使用することができるアンチセンス核酸分子を提供する。本発明によるアンチセンス核酸分子は、その標的化された核酸配列(DNAまたはRNA)の一部との安定な二重鎖または三重鎖を形成することができる分子をいう。アンチセンス核酸分子の使用ならびにそのような分子の設計および改変は、例えば、国際特許出願公開WO96/32966、同WO96/11266、同WO94/15646、同WO93/08845および米国特許第5,593,974号に記載されているようにこの分野では十分に知られている。本発明によるアンチセンス核酸分子は、十分に知られている方法に従って、核酸配列から得ることができ、そして改変することができる。例えば、いくつかのアンチセンス分子は、この分野で広く知られているように、ヌクレオチドアナログを使用し、かつ/またはその選ばれた化学的フラグメントに置換することによって、分解に対する抵抗性を大きくしてその標的化された配列に対するその親和性を増大させるために、かつ/または選ばれた細胞タイプもしくは細胞区画へのその輸送に影響を及ぼすために、かつ/またはその脂質溶解性を高めるために設計することができる。
【0080】
本発明による指標細胞は、アンタゴニストを同定するために使用することができる。例えば、試験分子(1つまたは複数)は、一定の濃度で保たれた1つまたは複数のアゴニストと一緒に宿主細胞とインキュベーションされる。試験分子のアンタゴニスト特性の効能(indication)および相対的な強さを、アゴニスト存在下での指標細胞における遺伝子発現のレベルを、試験物質の非存在下と、試験物質の存在下とで比較することによって得ることができる。当然のことではあるが、分子のアンタゴニスト作用はまた、試験分子の存在下および非存在下におけるレポーター遺伝子産物の発現レベルを単に比較することによって、アゴニストの非存在下でも測定することができる。
【0081】
「インビボ」実験モデルはまた、「インビトロ」アッセイを行うために使用できることを理解しなければならない。例えば、指標細胞に由来する細胞抽出物を調製して、上記の「インビトロ」試験の1つにおいて使用することができる。
【0082】
本明細書中で使用されている用語「指標細胞」は、本発明による示差的に発現するPCA3 mRNAを発現する細胞をいう。いくつかの実施形態において、この核酸配列によってコードされるタンパク質は、同定可能または選択可能な表現型または特性に結合することができる。そのような指標細胞は、本発明のスクリーニングアッセイにおいて使用することができる。特定の実施形態において、指標細胞は、本発明による示差的に発現するPCA3 mRNAの選ばれた誘導体、フラグメント、ホモログまたは変異体を発現するように操作されている。細胞は、酵母細胞、または哺乳動物細胞などの高等真核生物細胞であり得る。PCA3タンパク質に対する結合パートナーが同定されてた場合、その2つのパートナー間の相互作用は、PCA3によってコードされるこのタンパク質の活性を調節するための標的として役立たせることができるであろう。1つの具体的な実施形態において、指標細胞は、この分野で十分に知られているようなツーハイブリッドシステム技術(Ausubelら、1994、上記)の使用を可能にするベクターを有する酵母細胞であり、化合物またはそのライブラリーを試験するために使用することができる。1つの実施形態において、選択マーカーまたはアッセイ可能なタンパク質をコードするレポーター遺伝子を、選択マーカーまたはアッセイ可能なタンパク質の発現が、PCA3によりコードされるタンパク質とその結合パートナーとの相互作用に依存するようにして制御エレメントに機能的に連結することができる。そのような指標細胞は、膨大な数の試験分子を高処理能で迅速にアッセイするために使用することができる。特定の実施形態において、レポーター遺伝子はルシフェラーゼまたはベータ-Galである。
【0083】
いくつかの実施形態において、本発明のタンパク質を融合タンパク質として発現させることは有益であり得る。そのための構築物の設計ならびに融合タンパク質の発現および産生はこの分野では十分に知られている(Sambrookら、1989、上記;Ausubelら、1994、上記)。
【0084】
そのような融合タンパク質の非限定的な例には、ヘマグルチニン融合体およびグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)融合体およびマルトース結合タンパク質(MBP)融合体が含まれる。特定の実施形態においては、融合されている2つのポリペプチド配列の間にプロテアーゼによる切断可能な部位を導入することは有益であり得る。異種的に融合している2つのポリペプチドの間におけるそのようなプロテアーゼ切断可能部位はこの分野では十分に知られている。
【0085】
特定の実施形態においては、本発明のタンパク質を、宿主細胞からの融合タンパク質の分泌を可能にするシグナルペプチド配列に融合することは有益であり得る。様々な生物に由来するシグナルペプチドがこの分野では十分に知られている。細菌のOmpAおよび酵母のSuc2は、シグナル配列を含むタンパク質の2つの非限定的な例である。特定の実施形態においては、(広く知られている)リンカーを相互作用ドメインと異種のポリペプチド部分との間に導入することはまた有益であり得る。そのような融合タンパク質は、本発明のアッセイにおいて、そして精製目的、検出目的およびその他のために有用である。
【0086】
明らかに、本発明を実施するために有用な配列およびポリペプチドには、変異体、ホモログ、サブタイプ、対立遺伝子などが含まれるが、これらに限定されない。一般に、本発明の配列は(不完全とはいえ)機能的なPCA3タンパク質をコードしなければならないことが理解されるものとする。本発明のPCA3、その変異体、誘導体またはフラグメントがその機能を保持するかどうかが、本発明の教示およびアッセイならびにこの分野の一般的な教示を使用することによって決定され得ることは当業者には明かである。
【0087】
本明細書中下記に例示されているように、本発明のPCA3タンパク質は、その構造-機能の関係を解明し、そして調節化合物のより良好な設計および同定を可能にするために、例えば、インビトロ変異誘発法によって改変することができる。しかし、その生物学的機能を失っているいくつかの誘導体またはアナログも、例えば、抗体を生じさせるために依然として有用である。この抗体は、検出目的または精製目的に使用することができる。さらに、この抗体は、競合的阻害剤または非競合的阻害剤として作用することができ、そして本発明のPCA3タンパク質の活性の調節因子であることを見出すことができる。
【0088】
宿主細胞または指標細胞は、外来または異種のDNA(例えば、DNA構築物)によって、そのようなDNAが細胞の内部に導入されている場合には「トランスフェクション」されている。トランスフェクションDNAは、細胞のゲノムを構成する染色体DNAに組み込まれて(共有結合して)いてもよく、またはそうでなくてもよい。例えば、原核生物、酵母細胞および哺乳動物細胞では、トランスフェクションDNAは、プラスミドなどのエピソームエレメントにおいて維持され得る。真核生物細胞に関しては、安定にトランスフェクションされた細胞は、トランスフェクションDNAが染色体に組み込まれ、その結果、トランスフェクションDNAが染色体複製を介して娘細胞によって受け継がれる細胞である。この安定性は、トランスフェクションDNAを含有する娘細胞の集団から構成される細胞株または細胞クローンを確立する真核生物細胞の能力によって明らかにされる。トランスフェクション方法はこの分野では十分に知られている(Sambrookら、1989、上記;Ausubelら、1994、上記)。指標細胞として哺乳動物細胞を使用することは、例えば、下等真核生物または原核生物には存在しないと考えられる、試験される2つのポリペプチドの相互作用を可能にする媒介因子を提供するという利点をもたらし得る。例えば、哺乳動物細胞の抽出物が、いくつかの実施形態では、特定の因子がないことを補うために使用され得ることが理解される。
【0089】
一般に、抗体(モノクローナル抗体およびハイブリドーマを含む)を調製するための技術、および抗体を使用して抗原を検出するための技術は、この分野(Campbell、1984、「Monoclonal Antibody Technology: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology」、Elsevier Science Publisher、Amsterdam、オランダ)において、そしてHarlowら、1988(Antibody-A Laboratory Manual、CSH Laboratories)において十分に知られている。本発明はまた、それらのそれぞれの相互作用ドメインを阻害もしくは中和し、かつ/またはそれらに対して特異的であるポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、またはそれらのヒト化体、キメラ抗体などを提供する。
【0090】
本明細書および添付された請求項から、治療剤の用語は、少なくとも2つの当該治療剤の組合せをも含むように広い意味で理解しなければならない。さらに、本発明によるDNAセグメントまたはタンパク質は多数の方法で個体に導入することができる。例えば、多数の方法で、前立腺細胞を罹患した個体から単離して、本発明によるDNA構築物で形質転換して、罹患した個体に再導入することができる。あるいは、DNA構築物を罹患した個体に直接投与することができる。DNA構築物はまた、特定の細胞タイプに対して標的化されるように設計され、そして種々の経路によって投与されるように操作され得るリポソームなどのビヒクルによって送達することができる。
【0091】
ヒトに投与する場合、処方する医師は、特定の患者に対する適切な形態および投薬量を最終的に決定するが、これは、疾患の重篤度だけでなく、選ばれた治療方法(すなわち、DNA構築物、タンパク質、細胞)、患者の応答および状態に従って変化することが予想され得る。
【0092】
本発明の範囲に含まれる組成物は、活性な薬剤(すなわち、融合タンパク質、核酸および分子)を、有害な副作用を避けながら、所望する治療効果を達成するために効果的な量で含有しなければならない。典型的には、本発明による核酸は、哺乳動物(すなわち、ヒト)に、0.005mg-1mgの範囲の用量が処置される哺乳動物の体重1kgあたり1日に投与され得る。活性な薬剤の薬学的に受容可能な調製物および塩は本発明の範囲に含まれ、そしてこの分野では十分に知られている(Remington’s Pharmaceutical Science、第16版、Mack Ed.)。ポリペプチド、アンタゴニスト、アゴニストおよびその他を投与する場合、投与量は、有害な副作用を避けるように選ばなければならない。投薬量は、疾患の程度および患者に由来する種々のパラメーターなどの従来的な要因に従って医師によって適合させられる。典型的には、0.001mg/kg/日-50mg/kg/日が哺乳動物に投与される。
【0093】
本発明は、本発明による核酸、タンパク質またはリガンドを含む、前立腺ガンまたは前立腺ガンになる素因を診断し、かつ/または前立腺ガンの進行段階を判定するためのキットに関する。例えば、本発明による区画化されたキットには、試薬が別々の容器に含有されている任意のキットが含まれる。そのような容器には、小さいガラス容器、プラスチック容器、あるいはプラスチックまたは紙の細片が含まれる。そのような容器は、サンプルおよび試薬が相互に混入せず、そしてそれぞれの容器の薬剤または溶液が、定量的な様式で、ある区画から別の区画に加えることができるように、ある区画から別の区画への試薬の効率的な輸送を可能にする。そのような容器には、試験サンプル(DNA、タンパク質または細胞)を受け入れる容器、アッセイにおいて使用されるプライマーを含有する容器、酵素を含有する容器、洗浄試薬を含有する容器、および伸長生成物を検出するために使用される試薬を含有する容器が含まれる。
【0094】
本発明はまた、本発明のさらなる配列を有しないPCA3 mRNAまたは本発明のさらなる配列を含むPCA3 mRNAのいずれか一方に対して特異的である本発明のオリゴヌクレオチドプライマーを含むキットに関する。
【0095】
本発明のさらなる目的および利点は下記の説明から明らかになる。
【0096】
本発明をこのように一般的に記載してきたが、本発明の好ましい実施形態を例示として示す添付された図面が次に参照される。
【0097】
本発明の他の目的、利点および特徴は、添付された図面を参照して、例示的であり、かつ本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない好ましい実施形態の下記の非限定的な説明を理解したときにより明らかになる。
【0098】
(好ましい実施形態の説明)
1つの実施形態において、本発明は、単離および/または精製された示差的に発現するPCA3 mRNA分子に関する。好ましくは、PCA3 mRNA分子またはPCA3 mRNA核酸分子は、下記の[a]および[b]のヌクレオチド配列からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%の同一性(より好ましくは、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性)を有するポリヌクレオチド配列を含む:
[a]配列番号3における完全なアミノ酸配列を含む示差的に発現するPCA3ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
[b][a]または[b]におけるヌクレオチド配列のいずれかに対して相補的なヌクレオチド配列。
【0099】
1つの好ましい実施形態において、単離された核酸分子は、配列番号1に存在するヌクレオチド配列に対して90%よりも大きな同一性または類似性(好ましくは、95%、96%、97%、98%、99%よりも大きく、または100%の同一性または類似性)を有する示差的に発現するPCA3 mRNAヌクレオチド配列を含む。別の好ましい実施形態において、単離された核酸分子は、配列番号2に存在する、さらなる配列を有しない示差的に発現するPCA3 mRNA配列を含む。別の実施形態において、示差的に発現するさらなる配列を含まない単離されたmRNA配列核酸分子は、配列番号3に存在する示差的に発現するPCA3アミノ酸配列をコードする。
【0100】
PCT国際特許出願CA98/00346には、本発明よりも前に、多数の選択的にスプライシングされたmRNAが教示されているが、第3エキソンと第4aエキソンとの間にさらなる配列を含むPCA3 mRNAは確認されていなかった。さらに、前立腺の状態を識別するマーカーとしてこのさらなる配列を同定することは行われていなかった。また、(非前立腺ガン[すなわち、正常またはBPH]においてこのさらなる配列を含有するPCA3 mRNAとは対照的に)このさらなる配列を含まないPCA3 mRNAと前立腺ガンとを相関させることも行われていなかった。従って、PCA3 mRNAにおけるこのさらなる配列により、患者における前立腺疾患の予後予測および診断が可能になる。好ましくは、PCA3核酸分子は、上記に記載された示差的に発現するmRNAの1つに対して少なくとも90%の同一性(より好ましくは、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性)を有するポリヌクレオチド配列を含む。
【0101】
本発明の範囲にはまた、本明細書中に記載される単離された核酸分子およびその誘導体の機能的な等価体も含まれる。例えば、配列番号1および配列番号2に示される核酸配列は、機能的に等価な分子を規定する置換、付加または欠失によって変化させることができる。ヌクレオチドがコードする配列の重複性のために、配列番号3に示されているのと同じアミノ酸を実質的にコードする別のDNA配列を、本発明を実施する際に使用することができる。
【0102】
また、核酸配列は、配列番号1または2またはその誘導体に示される核酸式の5’端および/または3’端に対する少なくとも1つのヌクレオチドの付加、欠失または置換から生じるヌクレオチド配列を含むことができる。その付加、欠失または置換が、さらなる配列を含有するヌクレオチド配列によってコードされる配列番号3のアミノ酸配列を実質的に変化させないならば、任意のヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをこれに関して使用することができる。さらに、本発明の核酸分子は、必要に応じて、制限エンドヌクレアーゼ認識部位をその5’端および/または3’端に付加させることができる。従って、遺伝暗号によって可能になる、PCA3ヌクレオチドのコード配列およびそのフラグメントのヌクレオチド配列の変異体はすべて本発明に含まれる。
【0103】
さらに、構造的に改変されたポリペプチドではあるが、改変されていない核酸分子によってもたらされるポリペプチドの同じ有用性または活性を実質的に有しているポリペプチドを作製するために、コドンを欠失させるか、あるいは1つまたは複数のコドンを縮重コドン以外のコドンによって置換することが可能である。この分野において認識されているように、核酸分子間の違いが遺伝暗号の重複性に関連しない場合でさえ、それらの産生をもたらす2つの核酸分子が機能的に等価であるように、このような2つのポリペプチドは機能的に等価である。
【0104】
当業者は、ゲノムには、多くの場合、個体間においてわずかな対立遺伝子の変化が含まれることを理解する。従って、単離された核酸分子もまた、配列が、示差的に発現するPCA3 mRNAのコード配列の機能的な誘導体である限り、対立遺伝子変異体を含むものとする。PCA3対立遺伝子が配列番号1または2に見出される配列と同一の配列をコードしない場合、単離された核酸分子は、本明細書中において使用される同じ技術を使用して、そして特に、本明細書中に開示された配列に基づくプライマーを用いて適切な遺伝子を増幅するためにPCR技術を使用してPCA3として単離および同定することができる。
【0105】
当業者は、ヒト以外の生物(例えば、真核生物;より詳細には、哺乳動物、鳥類、魚類および植物;より詳細には、ゴリラ、アカゲザル、サルおよびチンパンジー)もまた示差的に発現するPCA3 mRNAを含み得ることを理解する。本発明は、上記の生物から単離される示差的に発現するPCA3 mRNA(これに限定されない)を含むものとする。
【0106】
本発明の単離された核酸分子はまた、化学的に合成された核酸分子を含むものとする。例えば、本明細書中に記載されるヌクレオチド配列を有するか、またはPCA3遺伝子の本明細書中に記載される示差的に発現する産物をコードする核酸分子を設計することができ、これらは、必要な場合には、適切なより小さいフラグメントに分割することができる。その場合、核酸分子に対応するか、または分割されたフラグメントのそれぞれに対応するオリゴマーを合成することができる。そのような合成オリゴヌクレオチドは、例えば、Matteucciら、J. Am. Chem. Soc.、103:3185-3191(1981)のトリエステル法によって、または自動化されたDNA合成機を使用することによって調製することができる。
【0107】
別の実施形態において、本発明は、本明細書中に記載されるPCA3に対応するアミノ酸配列を有する精製された示差的に発現するポリペプチド(好ましくは、実質的に純粋なポリペプチド)、またはその機能的な誘導体に関する。好ましい実施形態において、このポリペプチドは、配列番号3に示されるアミノ酸配列、その変異体または種変異体、あるいはその少なくとも80%の同一性または少なくとも90%の類似性(好ましくは、その少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性あるいは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の類似性)、あるいはその少なくとも6個の連続したアミノ酸(好ましくは、その少なくとも10個、15個、20個、25個または50個の連続したアミノ酸)を有する。
【0108】
好ましい実施形態において、本発明は、示差的に発現するPCA3エピトープに関する。これらのポリペプチドのエピトープは免疫原性エピトープまたは抗原性エピトープである。免疫原性エピトープは、タンパク質全体が免疫原である場合、抗体応答を誘発するタンパク質のそのような部分である。抗原性エピトープは、抗体応答を誘発し得るタンパク質のフラグメントである。抗原性エピトープのフラグメントを選択する方法はこの分野では十分に知られている。Sutcliffeら、Science、219:660-666(1983)を参照のこと。抗原性エピトープを有する本発明のペプチドおよびポリペプチドは、そのポリペプチドを特異的に認識する免疫応答を生じさせるために有用である。抗原性エピトープを有する本発明のペプチドおよびポリペプチドは、本発明のタンパク質の少なくとも7個のアミノ酸(好ましくは、9個、10個、12個、15個または20個のアミノ酸)を含む。抗原性ペプチドの様々な例が、http://134.2.96.221/scripts/hlaserver.dll/EpPredict.htmにおいてRammenseeの方法を使用して予測されるように、図5に示されている。当然のことではあるが、他のエピトープ含有PCA3ペプチドを、抗体を生じさせるために予測および使用できることが理解される。
【0109】
この分野で知られている様々な方法論を、本発明のペプチドを得るために利用することができる。1つの実施形態において、ペプチドは、ペプチドを自然状態で産生する組織または細胞から精製される。あるいは、上記に記載される単離された核酸フラグメントは、示差的に発現するPCA3タンパク質を任意の生物において発現させるために使用することができる。本発明のサンプルには、細胞、細胞のタンパク質抽出物または膜抽出物、あるいは生物学的流体が含まれる。サンプルは、アッセイ形式、検出方法、およびサンプルとして使用される組織、細胞または抽出物の性質に基づいて変化する。
【0110】
供給源の生物がそのようなタンパク質を自然状態で含有する限り、任意の生物を本発明のペプチドの供給源として使用することができる。本明細書中で使用されている「供給源の生物」は、サブユニットを発現し、かつそのサブユニットが最終的に単離される生物にも関わらず、サブユニットのアミノ酸配列が得られる元の生物をいう。
【0111】
別の実施形態において、本発明は、サンプル中におけるPCA3核酸の存在を特異的に検出するための核酸に関する。この核酸は、ストリンジェントな条件のもとでPCA3核酸に結合する上記に記載される核酸分子または少なくともそのフラグメントを含む。
【0112】
1つの好ましい実施形態において、本発明は、
[a]配列番号3における完全なアミノ酸配列を含むPCA3ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
[b]配列番号1または2におけるヌクレオチド配列を含むPCA3遺伝子をコードするヌクレオチド配列;
[c][a]または[b]におけるヌクレオチド配列のいずれかに対して相補的なヌクレオチド配列;および
[d]上記に記載されているようなヌクレオチド配列
からなる群から選択される配列に対して少なくとも90%の同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む核酸分子に由来する少なくとも10個の連続したヌクレオチド(好ましくは、15個、18個、20個、25個または30個)からなるヌクレオチド配列に対して相補的である核酸プローブに関する。
【0113】
上記に記載される方法の1つの実施形態において、核酸プローブは固体支持体に固定化される。そのような固体支持体の例には、ポリカーボネートなどのプラスチック、アガロースおよびセファロースなどの複合炭水化物、ならびにポリアクリルアミドなどのアクリル樹脂、およびラテックスビーズが含まれるが、これらに限定されない。核酸プローブをそのような固体支持体に結合させる技術はこの分野では十分に知られている。
【0114】
本発明の核酸プローブ方法に好適な試験サンプルには、例えば、細胞、または細胞の核酸抽出物、または生物学的流体が含まれる。上記の方法において使用されるサンプルは、アッセイ形式、検出方法、およびアッセイされる組織細胞または抽出物の性質に基づいて変化する。細胞の核酸抽出物を調製するための方法はこの分野では十分に知られており、用いられる方法と適合するサンプルを得るために容易に適合させることができる。
【0115】
別の実施形態において、本発明は、サンプル中における示差的に発現するPCA3 mRNAの存在を検出する方法に関する。この方法は、a)特異的なハイブリダイゼーション条件のもとで、そのようなハイブリダイゼーションが生じるようにサンプルを上記に記載される核酸プローブと接触させること、およびb)核酸分子に結合したプローブの存在を検出することを含む。当業者により、核酸プローブが、上記に記載されているようなこの分野で知られている技術に従って選択される。試験されるサンプルには、ヒト組織に由来するRNAサンプルが含まれるが、これに限定されるものではない。
【0116】
本発明のさらなるPCA3配列が、悪性の前立腺状態と非悪性の前立腺状態とを識別するためのマーカーとして使用され得ることが確認されているので、このさらなる配列(あるいはその変異体またはフラグメント)に対して特異的であるプローブもまた本発明に従って使用することができる。当然のことではあるが、特定の実施形態では、そのようなプローブによりゲノムDNAが検出され得るので、示差的に発現するPCA3 mRNAを特異的に検出するためには、ゲノムDNAから生じる陽性のシグナルを除かなければならない場合がある。
【0117】
本発明は、第3エキソン配列および第4aエキソン配列にハイブリダイゼーションするプライマーを使用して具体的に示されているが、PCA3の他の領域に由来するプライマーが使用され得ることは当業者には明かであるに違いない。例えば、プライマーは、第2エキソン、第4bエキソン、第4cエキソンの配列に由来し得るか、またはそれらのさらなる配列に対するものであり得る。既知の配列から特異的なプライマーを得るための方法はこの分野では十分に知られている。
【0118】
別の実施形態において、本発明は、サンプル中における示差的に発現するPCA3 mRNAの存在を検出するためのキットに関する。このキットは、上記の核酸プローブがその中に配置されている少なくとも1つの容器手段を含む。好ましい実施形態において、キットは、下記試薬の1つまたは複数を含む他の容器をさらに含む:洗浄試薬、および結合した核酸プローブの存在を検出することができる試薬。検出試薬の例には、放射能標識プローブ、酵素標識プローブ(西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)、およびアフィニティー標識プローブ(ビオチン、アビジンまたはストレプトアビジン)が含まれるが、これらに限定されない。
【0119】
より詳細には、区画化されたキットには、試薬が別々の容器に含有されている任意のキットが含まれる。そのような容器には、小さいガラス容器、プラスチック容器、あるいはプラスチックまたは紙の細片が含まれる。そのような容器は、サンプルおよび試薬が相互に混入せず、そしてそれぞれの容器の薬剤または溶液が、定量的な様式で、ある区画から別の区画に加えることができるように、ある区画から別の区画への試薬の効率的な輸送を可能にする。そのような容器には、試験サンプルを受け入れる容器、アッセイにおいて使用されるプライマーを含有する容器、洗浄試薬(リン酸塩緩衝化生理食塩水、Tris緩衝液およびその他など)を含有する容器、ハイブリダイゼーションしたプローブ、結合した抗体、増幅された産物などを検出するために使用される試薬を含有する容器が含まれる。
【0120】
当業者は、本発明において記載される核酸プローブが、この分野で十分に知られている確立されたアッセイ形式の1つに容易に組み込まれ得ることを容易に認識する。
【0121】
本発明の別の実施形態において(そして本発明のプローブに類似して)、本発明の抗体は固体支持体に固定化することができる。そのような固体支持体の例には、ポリカーボネートなどのプラスチック、アガロースおよびセファロースなどの複合炭水化物、ならびにポリアクリルアミドなどのアクリル樹脂、およびラテックスビーズが含まれる。抗体をそのような固体支持体に結合させる技術はこの分野では十分に知られている。本発明の固定化された抗体は、免疫クロマトグラフィーにおいてだけでなく、インビトロアッセイ、インビボアッセイおよびインサイチュアッセイのために使用することができる。
【0122】
別の実施形態において、本発明は、サンプル中における示差的に発現するPCA3ポリペプチドを検出する方法に関する。この方法は、a)免疫複合体が形成されるような条件のもとで、サンプルを上記の抗体(またはタンパク質)と接触させること、およびb)ポリペプチドに結合した抗体の存在を検出することを含む。詳細には、この方法は、試験サンプルを本発明の1つまたは複数の抗体とインキュベーションすること、および抗体が試験サンプルに結合しているかどうかをアッセイすることを含む。サンプル中における示差的に発現するPCA3の相対的なレベルにより、悪性の前立腺状態と非悪性の前立腺状態との区別が可能になる。
【0123】
さらなる実施形態において、本発明は、サンプル中におけるPCA3抗体を検出する方法に関する。この方法は、a)免疫複合体が形成されるような条件のもとで、サンプルを上記に記載される示差的に発現するPCA3タンパク質と接触させること、およびb)抗体に結合したタンパク質の存在、またはタンパク質に結合した抗体の存在を検出することを含む。詳細には、この方法は、試験サンプルを本発明の1つまたは複数のタンパク質とインキュベーションすること、および抗体が試験サンプルに結合しているかどうかをアッセイすることを含む。
【0124】
本発明の別の実施形態において、前記に記載された検出方法を行うために必要な試薬のすべてを含むキットが提供される。
【0125】
キットは、i)上記に記載される抗体を含有する第1の容器手段と、ii)抗体の結合パートナーおよび標識を含む結合体を含有する第2の容器手段とを含むことができる。
【0126】
キットは、i)上記に記載されるタンパク質を含有する第1の容器手段と、そして好ましくは、ii)タンパク質の結合パートナーおよび標識を含む結合体を含有する第2の容器手段とを含むことができる。より詳細には、診断キットは、冒された可能性のある動物またはヒトの血清中における抗体を検出するために、上記に記載されているような示差的に発現するPCA3タンパク質を含む。
【0127】
別の好ましい実施形態において、キットは、1つまたは複数の下記試薬を含む1つまたは複数の他の容器をさらに含む:洗浄試薬、および結合した抗体の存在を検出することができる試薬。検出試薬の例には、標識された二次抗体が含まれ、あるいは代替法において、一次抗体が標識されている場合には、標識された抗体と反応し得る発色試薬、酵素試薬または抗体結合試薬が含まれるが、これらに限定されない。区画化されたキットは、核酸プローブキットに関して上記に記載されているようなものであり得る。
【0128】
当業者は、本発明において記載される抗体が、この分野で十分に知られている隔離されたキットの1つに容易に組み込まれ得ることを容易に認識する。
【0129】
下記の議論は特にヒト患者に対するものであるが、その教示は、PCA3 mRNAを示差的に発現する任意の動物に対してもまた適用可能であることを理解しなければならない。
【0130】
本発明の診断方法およびスクリーニング方法は、家族歴に基づいてPCA3の変化した発現レベルに関連する疾患を発症する危険性にあることが疑われる患者に対して、あるいはPCA3に関連する疾患(例えば、前立腺ガン)を診断することが所望される患者に対して特に有用である。
【0131】
本発明に従い、当該スクリーニングを必要とする個体の前徴スクリーニングが、本発明のPCA3タンパク質をコードするDNAまたは本発明のPCA3遺伝子またはそれらのフラグメントを使用して今や可能である。本発明のスクリーニング方法により、さらなる配列を含まないPCA3、示差的に発現するPCA3 mRNAの個体中における存在の前徴診断が可能になり、従って、そのような個体がPCA3に関連する疾患を発症するか、またはPCA3に関連する疾患を発症しているか、あるいは正常な前立腺状態を有しているという可能性に関する見解が可能になる。これは、例えば、PCA3に関連した疾患の家族歴を有する個体から、変化したPCA3遺伝子の保因者を同定することに関して特に有益である。早期診断はまた、適切な時期での介入を最大限にするために所望される。
【0132】
スクリーニング方法の1つの好ましい実施形態において、組織サンプルが、そのような個体から採取され、そして(1)本発明のさらなる配列を有しないPCA3 mRNAの存在について、(2)さらなる配列を含有するPCA3 mRNAの存在について、かつ/または(3)示差的に発現するPCA3タンパク質の存在についてスクリーニングされる。PCA3 mRNAは、示差的に発現するPCA3 mRNAの(a)レベルおよび/または(b)サイズを決定するために特徴付けおよび比較が行われ得る。最後に、示差的に発現するPCA3タンパク質は、PCA3活性に対する生物学的アッセイを使用して、または免疫学的アッセイおよびPCA3抗体を使用して、(a)検出かつ/または(b)定量され得る。さらなる配列を有しないPCA3 mRNA(あるいは、PCA3のコード配列を変化かつ/または中断させていないmRNA)の存在および/またはそれによってコードされるタンパク質の存在により、その患者が前立腺ガンを発症する危険性にあること、または前立腺ガンを発症していることが示される。本発明のさらなる配列を含有するPCA3 mRNAの存在および/またはそれによってコードされるタンパク質の存在は、さらなる配列を有しないPCA3 mRNAおよび/またはそれによってコードされるタンパク質が存在しない場合、あるいはさらなる配列を有しないmRNAおよび/またはそれによってコードされるタンパク質のレベルを超えるレベルである場合、その患者は前立腺ガンを未だ発症していないこと、および/または前立腺ガンを発症する危険性がより低いことを示している。
【0133】
治療的核酸の治療効果には、本発明のさらなる配列を有しない示差的に発現するPCA3 mRNAのプロセシングを停止または改変させることが含まれ得るが、これらに限定されない。また、さらなる配列を含む示差的に発現するPCA3 mRNAを、さらなる配列を有しないPCA3 mRNAのレベルよりも大きなレベルに本発明に従って発現させることは、細胞に対するガン阻止作用を有し得る。
【0134】
本発明にはまた、さらなる配列を有しないPCA3 mRNAに対する少なくとも1つのアンチセンスオリゴヌクレオチドの効果的な量を薬学的に受容可能なキャリアとの組合せで含む薬学的組成物も含まれる。そのようなアンチセンスオリゴは、配列番号2の少なくとも一部に対して相補的である、長さが12塩基-500塩基である少なくとも1つのヌクレオチド配列(これに限定されない)を含む。
【0135】
従って、広範囲に、本発明は、細胞の悪性状態を調節することができるように、示差的に発現する様々なPCA3 mRNAの量のバランスを変化させるための手段を提供する。
【0136】
前立腺ガンにおける遺伝子発現に対する特異性は、細胞特異的なエンハンサーおよびプロモーターなどの適切な細胞特異的調節配列を使用することによってもたらされ得る。従って、遺伝子治療は、PCA3の特定形態の不適切な発現を阻害することによって、PCA3に関連する病理を緩和するために使用することができる。また、遺伝子治療は、PCA3の特定形態の適切な発現レベルをもたらすことによって、そのような病理を緩和するために使用することができる。この場合、特定のPCA3核酸配列が、上記に記載されているように、ウイルスの形態で投与されるDNA構築物またはRNA構築物によってコードされ得る。
【0137】
本発明は、PCA3の生物学的活性をインビボで阻害または中和し、かつPCA3に対して特異的である上記に記載されるPCA3抗体(好ましくは、PCA3ネズミ抗体およびキメラなPCA3ネズミ-ヒト抗体、ならびにそのフラグメントおよび領域)を提供する。これらの抗体は異常なPCA3発現の存在に関連する病理または状態を有する対象体において、治療目的に使用することができる。本発明の抗体、ならびにそのフラグメント、領域および誘導体は、阻害および/または中和する生物学的活性をインビボで有する、PCA3のエピトープを認識する少なくとも1つの領域を好ましくは含む。
【0138】
処置は、抗体、フラグメントまたは誘導体の単回用量または多回用量を非経口的に投与することを含む。ヒトへの治療的使用に関して好ましいものは、大きな親和性を有する、PCA3を阻害および/または中和する強力な本発明のネズミ抗体およびキメラ抗体、フラグメントおよび領域である。
【0139】
本発明のモノクローナル抗体は、活性薬剤を哺乳動物体内の薬剤作用部位に到達させることができる任意の手段によって投与され得る。タンパク質は、経口投与されたときには消化されやすいので、非経口投与(すなわち、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与)が、通常、吸収を最適にするために使用される。
【0140】
本発明のモノクローナル抗体は、個々の治療剤として、または他の治療剤との組合せで投与することができる。本発明のモノクローナル抗体は単独で投与することができるが、一般には、選ばれた投与経路および標準的な製薬規範に基づいて選択される薬学的なキャリアとともに投与される。
【0141】
投与される投薬量は、当然のことではあるが、特定薬剤の薬理学的特性、ならびにその投与様式および投与経路;被投与者の年齢、健康状態および体重;症状の性質および程度、同時処置の種類、処置頻度、ならびに所望する効果などの知られている要因に依存して変化する。通常、活性成分の1日あたりの投薬量は約0.1-100ミリグラム/kg体重であり得る。普通の場合には、分割用量で1日あたり1回-6回投与される0.5-50ミリグラム/kg/日(好ましくは、1-10ミリグラム/kg/日)が、所望する結果を得るためには効果的である。
【0142】
内部投与に好適な投薬形態物(組成物)は、一般に、ユニットあたり約1ミリグラム-約500ミリグラムの有効成分を含有する。このような薬学的組成物において、有効成分は、通常、組成物の総重量に基づいて約0.5重量%-95%重量%の量で存在する。
【0143】
抗体に結合され、続いてインビボ治療のために使用され得る細胞傷害性薬物には、ダウノルビシン、ドキソルビシン、メトトレキサートおよびマイトマイシンCが含まれるが、これらに限定されない。
【0144】
本発明の非ヒト動物には、内因性遺伝子(1つまたは複数)の遺伝子導入的な中断または変化を有する任意の動物(ノックアウト動物)、および/または示差的に発現するヒトPCA3 mRNAの発現を行わせる1つまたは複数の遺伝子がそのゲノム内に導入されている任意の動物が含まれる。より好ましくは、悪性のPCA3核酸の導入である。
【0145】
そのような非ヒト動物には、齧歯類、ヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、両生類、爬虫類などの脊椎動物が含まれる。好ましい非ヒト動物は、ヒト以外の哺乳動物種の動物から選択され、最も好ましくは、ラットおよびマウスを含む齧歯類から選択される動物であり、最も好ましくはマウスである。
【0146】
本発明のトランスジェニック動物は、その動物において天然には存在しない1つまたは複数の遺伝子、例えば、外来遺伝子、遺伝子操作された内因性遺伝子などが非天然的な手段によって(すなわち、ヒトの操作によって)導入されている動物である。トランスジーンとして知られている非天然的に導入された遺伝子は、その動物と同じ種またはその動物とは異なる種に由来し得るが、トランスジーンによってもたらされる配置および/または染色体遺伝子座で動物において天然には見出され得ない。トランスジーンは、外来DNA配列(すなわち、宿主動物のゲノムにおいて通常的には見出されない配列)を含んでもよい。あるいは、またはさらに、トランスジーンは、遺伝子発現の正常なインビボでのパターンを変化させるために、あるいは遺伝子によってコードされる内因性の遺伝子産物の生物学的活性を変化または除去するために、インビトロでの再配置または変異を受けている点で異常である内因性のDNA配列を含むことができる。
【0147】
本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、トランスジーンを非ヒト動物の生殖系列に導入することによって作製される。様々な発達段階にある胚の標的細胞が、本発明のトランスジーンを導入するために使用される。種々の方法が、胚の標的細胞の発達段階に依存して使用される。これらの方法はこの分野では十分に知られている。
【0148】
トランスジーンは、ヒト疾患に対する動物モデルを提供するために、非ヒト動物に導入することができる。そのような動物モデルを生じさせるトランスジーンには、例えば、悪性の前立腺状態(すなわち、前立腺ガン)または非悪性の前立腺状態に関連する示差的に発現するPCA3 mRNAをコードするトランスジーンが含まれる。
【0149】
示差的に発現するPCA3 mRNAにおけるマーカー配列、および示差的に発現するPCA3 mRNA(またはそれによってコードされるタンパク質)の発現レベルのバランスと悪性または非悪性の前立腺状態との相関を同定することによって、本発明は、前立腺ガンの予後、診断、進行段階判定、素因および治療に関する多数の方法、アッセイおよび試薬に対する道筋を切り開いた。広い実施形態において、本発明は、本発明によるさらなる配列を有しないPCA3 mRNA(またはそれによってコードされるタンパク質)を確認することによって前立腺ガンを評価するための手段を提供する。多数の方法、プライマー、プローブ、抗体および試薬を、本発明が関連する当業者には明かであるように、そのような核酸分子(またはそのようなタンパク質)を確認するために使用することができる。
【0150】
本発明は、下記の非限定的な実施例によってさらに詳しく具体的に説明する。
【実施例】
【0151】
(実施例1:示差的に発現するPCA3 mRNAの同定および前立腺疾患とのその発現の相関)
PCA3に特異的なPCRプライマーを、種々のサンプルにおけるPCA3の発現を分析するために開発した。mRNA(メッセンジャーRNA)から増幅された配列とゲノムDNAから増幅された配列との識別を可能にするために、これらのプライマーを、1つのイントロン(特に、第3イントロン)にまたがるように設計した。図1に例示されているように、PCA3のセンスプライマーは第3エキソン内に位置し、PCA3のアンチセンスプライマーは第4aエキソン内に位置する。PCA3の発現について分析されるサンプルは、前立腺の経尿道的切除術により除去され、凍結された組織片(BPH、4名の患者)、または根治的前立腺切除術により得られ、凍結された前立腺(前立腺ガン、6名の患者)からなった。根治的前立腺切除術のサンプルを、前立腺ガン細胞を含有する領域を特に選択するために凍結切片に処理した。RNAを、液相RNA抽出法(Trizol)を使用して凍結サンプルから抽出した。抽出された核酸は、続いて、ゲノムDNAを消化するためにDNaseで処理した。DNaseで処理されたRNAを、逆転写酵素を使用してcDNAに逆転写し、その後、上記のPCA3プライマーを使用するPCR分析に供した。PCRを、Taq DNAポリメラーゼを用いて35サイクル行い、増幅物をアガロースゲルで分離し、臭化エチジウム染色により可視化した。図2に示されているように、PCA3のPCR増幅は、サイズによって分離することでき、そして相対的な存在量が異なる2つの生成物を生じさせる。小さい方のアンプリコン(277bp)は、前立腺ガン患者(図2、上段)に由来するサンプルにおいて優勢的またはもっぱら見出され、これに対して、大きい方のアンプリコン(505bp)は、非悪性の前立腺状態の患者(BPH[図2、下段])に由来するサンプルにおいてより顕著である。患者の生検物の病理学的検査により、前立腺ガンを有することが見出されていた患者BPH1を除く患者のそれぞれに対する最初の診断が確認された。
【0152】
増幅されたフラグメントの起源を確認するために、増幅されたフラグメントをゲルから単離して、配列決定した。配列を図3に示す。予想されるように、小さい方の277bpフラグメントは、PCA3のPCRプライマーがまたがる第3エキソンおよび第4aエキソンの領域に対応することを示していた。大きい方の505bpフラグメントは、第3エキソンと第4aエキソンとの間に位置する本明細書中で同定される配列を除いて、小さい方のフラグメントと同一である。注目されることに、逆転写を伴わないすべてのサンプルの直接的なPCR分析は増幅物をもたらさなかった。これにより、大きい方の増幅産物がゲノムDNAに起源を有するという仮説が除外される。
【0153】
従って、PCA3 mRNAは、少なくとも2つの異なる形態で細胞内に存在する:本明細書中で同定されるさらなる配列を有しない短型(下記においては配列2と呼ばれる;配列番号2)、およびこのさらなる配列を有する長型(下記においては配列1と呼ばれる;配列番号1)。このさらなる配列が配列1に存在することにより、PCA3タンパク質をコードする予測されるオープンリーディングフレームが中断される。この長型のPCA3 mRNAによってコードされるタンパク質の予測される配列が図4に示されている。図2に例示されているように、この2つのPCA3 mRNA配列の相対的な発現レベルは、細胞タイプに依存して変化している。前立腺ガン細胞は配列2を優勢的に発現し、これに対して、BPH細胞は主として配列1を発現している。
【0154】
これらの観測結果は、前立腺の悪性状態と非悪性状態との識別が可能であることを明らかにしている。同様に、これは、2つのタイプのPCA3 mRNAの相対的なレベルによって、良性の状態を悪性の状態から識別できることを予測しようとするものである。
【0155】
(実施例2:RT-PCRを使用する患者の前立腺状態の評価)
患者サンプルを得て、RNAを、広く知られているようにしてサンプルから調製した。逆転写混合物を調製して、その後、RTを続けた:50mMのTris-HCl(pH8.3)、75mMのKCl、3mMのMgCl2、10mMのDTTにおいて、0.2μgの総RNA+0.6μgのpdN6(ランダムヘキサマープライマー)+1.25mMの各dNTP+200UのM-MLV逆転写酵素。混合物を40℃で1時間インキュベーションした。
【0156】
上記のRT反応物の4μlを、20mMのTris-HCl(pH8.4)、50mMのKCl、2.5mMのMgCl2、0.5mMの各dNTP、0.5μMの各プライマーおよび2.5UのTaq DNAポリメラーゼの50μLに混合した。PCR分析のために、増幅を35サイクル(94℃、60℃、72℃においてそれぞれ1分間)行い、その後、72℃で10分間の伸長を行った。PCR産物を従来のアガロースゲル電気泳動によって分析した。
【0157】
本発明がその好ましい実施形態として上記に記載されているが、本発明は、添付された請求項において規定される本発明の精神および性質から逸脱することなく改変することができる。
【0158】
[参考文献]

【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】図1は、PCA3のゲノム構造、およびPCRのために使用されるオリゴヌクレオチドの位置を示す。
【図2】図2は、実施例1のプライマーを使用して、前立腺ガンおよび良性前立腺肥大症の組織生検物から増幅されたPCA3のRT-PCR産物を分離するゲルを示す。
【図3】図3は、本発明のさらなる配列を有するRT-PCR増幅されたPCA3フラグメントおよび本発明のさらなる配列を有しないRT-PCR増幅されたPCA3フラグメントの核酸配列を例示する。これらの配列は、第3エキソンおよび第4aエキソンに位置するPCRプライマーを使用して増幅された。プライマー配列は太字で示されている。大文字は、両方の配列に共通する核酸を表す。
【図4】図4は、本発明のさらなる配列を含有するPCA3 mRNAから予測されるアミノ酸配列を示す。この配列は、元のPCA3ポリペプチドのアミノ酸1-23に対応する。
【図5】図5は、(H.G. Rammenseeに従って、http://134.2.96.221/scripts/hlaserver.dll/EpPredict.htmにおいて計算される)8個のアミノ酸を含む抗原性エピトープ含有PCA3ペプチドの様々な例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクソン3及び4aの間に付加的配列を含む、単離された、差分発現した前立腺ガン抗原3(PCA3)のmRNAであって、これによって長鎖PCA3mRNAを生じさせるmRNA。
【請求項2】
前記の付加的配列が、PCA3タンパク質の読取枠を中断し、これによって、トランケートしたPCA3タンパク質を生じる、請求項1に記載の単離されたmRNA。
【請求項3】
(a)配列番号1のヌクレオチド配列;
(b)配列番号3のアミノ酸配列を含んで差分的に発現するPCA3ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;及び
(c)(a)又は(b)の何れかのヌクレオチド配列に対して相補的なヌクレオチド配列;
からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%の同一性を有するポリヌクレオチド配列を含む、請求項1又は2に記載の単離されたmRNA。
【請求項4】
前記の分子が、配列番号1のPCA3をコードするヌクレオチド配列を含む、請求項1乃至3の何れか一項に記載の単離されたmRNA。
【請求項5】
前記の分子が、配列番号3のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする、請求項1乃至4の何れか一項に記載の単離されたmRNA。
【請求項6】
エクソン3及び4aの間に付加的なPCA3配列を含んだ差分的に発現する長鎖PCA3mRNAに特異的にハイブリダイズする、10乃至50のヌクレオチドからなる単離された核酸分子であって、当該核酸分子が、配列番号1のPCA3配列に由来する少なくとも10の連続するヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であるか、又はこれに対して相補的であるものである核酸分子。
【請求項7】
サンプル中の差分発現したPCA3mRNAを検出する方法であって、
a)当該サンプルを請求項6に記載の核酸分子と、ハイブリダイゼーションが生じる条件下で接触させ、そして
b)PCA3mRNAに結合した当該分子の存在を検出する
ことを含み、
エクソン3及び4aの間の当該付加的配列を欠く短鎖PCA3mRNAの検出が、前立腺ガン又は前立腺ガンに罹りやすい体質の指標であり、当該長鎖PCA3mRNAが、前立腺の非悪性状態の指標である方法。
【請求項8】
前記の長鎖PCA3mRNAに対する、短鎖PCA3mRNAを定量することによって、前立腺の悪性状態の決定を可能にする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
サンプル中の差分発現したPCA3mRNAの存在を検出するためのキットであって、内部に請求項6に記載の核酸分子を配置した少なくとも1の容器手段を含み、
短鎖PCA3mRNAの検出が、前立腺ガン又は前立腺ガンになりやすい体質の指標であり、長鎖PCA3mRNAの検出が、前立腺の非悪性状態の指標であるキット。
【請求項10】
宿主細胞内で転写を開始するのに有効なプロモータと、請求項1乃至5の何れか一項に記載の核酸分子を、5’から3’の方向に含む組換え核酸分子。
【請求項11】
請求項10に記載の組換え核酸分子を含む細胞。
【請求項12】
請求項10に記載の組換え核酸分子を含む非ヒト生物。
【請求項13】
エクソン3と4aとの間に付加的配列を含み、これがPCA3の読取枠を中断し、それによって当該PCA3ポリペプチド又はそのエピトープ保持部分が短くなった、精製された、差分発現したPCA3ポリペプチドの、前立腺ガンの存在又はこれに罹りやすい体質の診断又は予知のための使用であって、短鎖PCA3ポリペプチドの検出が、非悪性の予知、又は前立腺ガンに罹りやすい体質と関連する使用。
【請求項14】
(a)配列番号3の完全なアミノ酸配列を含むPCA3ポリペプチドのアミノ酸配列;及び
(b)(a)又は(b)の何れかのポリペプチドのエピトープ保持部分のアミノ酸配列;
からなる群より選択される配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
PCA3ポリペプチド又はそのエピトープ保持部分に対する特異的結合親和性を有する抗体であって、配列番号3のアミノ酸配列を除くPCA3の部分又はそのエピトープ保持部分を特異的に認識する抗体の、前立腺ガンの存在又はこれに罹りやすい体質の診断又は予知のための使用であって、当該PCA3の部分の検出が、前立腺ガンの予知、又は前立腺ガンに罹りやすい体質に関連する使用。
【請求項16】
a)請求項15に記載の抗体を含む第1の容器手段;及び
b)前記のモノクローナル抗体の結合パートナー及び標識を含む結合体を含む第2容器手段
を含む診断キット。
【請求項17】
哺乳動物の前立腺ガンを治療する方法であって、第一の差分発現したPCA3mRNAのレベルを、第二の差分発現したPCA3mRNAに対して増大させることを含み、当該第一のPCA3mRNAがエクソン3と4aとの間に付加的配列を含み、当該第二の差分発現したPCA3mRNAが当該付加的配列を欠く方法。
【請求項18】
患者が前立腺ガンに罹っていること、又は前立腺ガンになりやすい体質を有することを診断する方法であって、
a)当該患者よりサンプルを採取し、
b)当該サンプル中の差分発現したPCA3mRNA、又はPCA3タンパク質の量を測定し、
c)患者が前立腺ガンに罹っているか、又は前立腺ガンになりやすい体質を有することを診断する(ここでトランケートしたPCA3タンパク質を産生する長鎖PCA3のmRNAは、前立腺の非悪性状態の指標であり、短鎖PCA3のmRNA又はこれによりコードされたタンパク質は、前立腺ガン又は前立腺ガンになりやすい体質の指標である)
ことを含む方法。
【請求項19】
患者が前立腺ガンのどの段階にあるかを評価する方法であって、
a)当該患者よりサンプルを採取し、
b)当該サンプル中の差分発現したPCA3のRNA又はタンパク質の量を測定し、
c)当該患者が前立腺ガンのどの段階にあるかを、短鎖PCA3のmRNA(ここで、当該短鎖PCA3mRNAは、配列番号2の配列を含む)又はこれによってコードされるタンパク質のレベルの上昇と、前立腺ガンの悪性度の上昇との相関で評価する、
ことを含む方法。
【請求項20】
患者の前立腺の状態を調査する方法であって、短鎖PCA3mRNA(ここで当該短鎖PCA3mRNAは、配列番号2の配列を含み、前立腺の悪性状態と関連している)、及び長鎖PCA3mRNA(ここで、当該長鎖PCA3mRNAは、前立腺の非悪性状態と関連した、トランケートされたPCA3タンパク質を生じる)を定量的に測定し、当該長鎖PCA3mRNAに対する短鎖PCA3mRNAのレベルと、当該患者の前立腺の状態との相関を見る方法 。
【請求項21】
前記の短鎖及び長鎖PCA3mRNAの定量を同時に行う、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項6に記載の単離された核酸分子であって、配列番号1のヌクレオチド27から254までの配列に特異的にハイブリダイズする分子。
【請求項23】
前記の核酸分子が配列番号4に記載されたものである、請求項22に記載の単離された核酸分子。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−67704(P2008−67704A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237116(P2007−237116)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【分割の表示】特願2006−203473(P2006−203473)の分割
【原出願日】平成12年9月29日(2000.9.29)
【出願人】(502104837)ディグノキュアー・インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】