説明

色変換フィルタおよびこれを用いた多色発光デバイス

【課題】耐久性に優れた特定の構造を持つクマリン化合物を含有する色変換フィルタおよび多色発光デバイスを提供する。
【解決手段】特定の構造を有するクマリン化合物を新規合成し、これを色変換フィルタの蛍光色素として用いること、およびこの色変換フィルタと有機EL素子とを組み合わせて多色発光デバイスを形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性に優れ、高精細で高輝度高効率および生産性に優れた多色表示を可能にする色変換フィルタ、およびこれを用いた、イメージセンサ、パーソナルコンピュータ、ワードプロセッサ、オーディオ、ビデオ、カーナビゲーション、電話機、携帯端末機ならびに産業用計測器などの表示用に使用する多色発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光色素として知られているクマリン化合物は、紫外光域から可視光域ないし赤外光域の広範囲にわたって光吸収能を持つこと、また顕著な発光能を有することから、光吸収剤、発光剤、発光補助剤、光学記録材料等の光学要素や、増感色素、レーザー色素等の色素として広く用いられている。
中でも、可視光域に吸収極大波長及び発光波長を有するクマリン6、クマリン7、クマリン153あるいはクマリン343等のクマリン化合物は、色純度に優れた高輝度の可視光を発光することを活かして、有機エレクトロルミネセンス(以下ELという)素子において発光材料、色変換材料等として利用されている。
【0003】
近年、有機EL素子は実用化に向けての研究開発が活発に行われている。有機EL素子は低電圧で高い電流密度が実現できるため、無機EL素子等に比較して高い発光輝度および発光効率を実現することが期待され、特に薄型軽量のフラットパネルディスプレイへの応用が期待されている薄膜発光素子である。車載用途の緑色単色有機ELディスプレイがパイオニア社により1997年11月に既に製品化されているが、今後は多様化する社会のニーズに応えるべく、高輝度で高精細なフルカラー表示が可能で長期安定性および高速応答性を有する有機ELカラーディスプレイの実用化が急がれている。
【0004】
有機EL素子を用いたフルカラーディスプレイの作製方式としては、電界をかけることにより赤色・青色・緑色にそれぞれ発光する有機EL素子を配列する「3色発光方式」、および、有機EL素子の白色発光を、カラーフィルタでカットし、赤色・青色・緑色を取り出す「カラーフィルタ方式」、さらに、有機EL素子が発光する近紫外光、青色光、青緑色光または白色光を吸収し、波長分布変換を行って可視光域の光を発光する色変換色素をフィルタに用いる「色変換方式」が提案されている(特許文献1および2参照。)。
【0005】
中でも、色変換方式は高い色再現性・効率を実現でき、また、3色発光方式と異なり、有機EL素子は単色でよいことから大画面化の難易度が低いことが言われており、次世代ディスプレイの候補として有望視されている。また、色変換方式では、有機EL素子の発光色は白色に限定されないため、より輝度の高い有機EL素子を光源に適用することができる。さらに、色変換層とカラーフィルタとを備えた色変換フィルタを形成することにより、高い色変換効率と高い色純度が実現可能である。以下、色変換層とカラーフィルタとを積層して、変換効率と色純度の向上を図る機能を有する複合層を色変換フィルタと呼ぶ。光源として青色発光の有機EL素子を用いた色変換方式においては、青色光を波長変換して緑色光および赤色光を得ている。特に、波長変換により緑色光を得るための色素としてクマリン化合物が検討され、赤色光を得るための色素としてローダミン化合物が検討されてきている。
【0006】
ディスプレイとして必要な要件としては、高い色再現性・効率は勿論であるが、さらに高い安定性が挙げられる。しかし、有機蛍光色素を高分子樹脂へ分散させた色変換フィルタにおいては、色素を励起する波長の光の照射に伴い、蛍光輝度が低下することが知られている(特許文献3参照。)。これは、励起状態にある色素が蛍光を発し、基底状態へと変化するのではなく、高分子樹脂成分と反応し、機能を失活することが原因と推定される。
【0007】
また、上記問題を解決するためにクマリン色素を新規骨格としたものを高分子樹脂成分に分散させることが提案されているが、この形態でもまだ十分とはいえない(特許文献4参照。)。
さらに、蛍光色素の失活防止を目的として、蛍光色素を不活性な微粒子中に包含したものを、高分子樹脂中に分散させることが提案されている(特許文献5参照。)。しかし、この形態においても、微粒子表面付近の色素と樹脂との反応を完全に防止するまでには至っていない。
【0008】
大画面TVのように、数万時間の耐久性を要求される用途に対し、十分な耐久性を有する色変換フィルタが実現できていないのが現状である。
【特許文献1】特開平8−279394号公報
【特許文献2】特開平8−286033号公報
【特許文献3】特許第2795932号公報
【特許文献4】特開2004−263179号公報
【特許文献5】特開2000−212554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、特定の構造を持つクマリン化合物を含有した耐久性に優れた色変換フィルタを提供することにある。さらに、前記色変換フィルタを一つもしくは複数備えた耐久性に優れた多色発光デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために鋭意研究した結果、色変換フィルタに特定の構造を持つクマリン化合物を含有させることにより、耐久性が向上することを知見して本発明を完成するに至ったものである。
即ち、本発明の第1の手段は、色変換フィルタに下記化学式(I)あるいは(II)で表されるクマリン化合物を含有させることを特徴とする。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

(式中、R、RおよびR3はそれぞれ独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基、又は炭素原子数7〜30のアリールアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基を表し、R及びRはベンゾピラン環と連結して環構造を形成していてもよく、あるいは互いに連結して環構造を形成していてもよい。)
本発明の第2の手段は、多色発光デバイスにおいて、前記色変換フィルタと有機EL素子とを備えて形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るクマリン化合物は、非常に高い光および熱に対する安定性を有し、これを用いた色変換フィルタの耐久性が顕著に向上する。また、本発明のクマリン化合物を含有するフィルムを色変換膜として使用することにより、光安定性に優れた色変換層、及び該色変換層を備えた色変換フィルタ並びに多色発光デバイスを提供できる。従って、本発明によれば、高い発光輝度を有し、かつ駆動耐久性に優れている色変換フィルタ及び多色発光デバイスを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図2は、第1の実施形態の構成例を説明するための断面模式図で、カラーディスプレイ用の色変換フィルタの例を示している。透明支持体10の上に、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のカラーフィルタ層30R,30G,30Bが設けられている。これらのカラーフィルタ層は、色変換層により変換された光の色座標または色純度を最適化するために、必要に応じて設けられるものである。各色のカラーフィルタ層の上に赤色、緑色、青色の色変換層20R、20G、および20Bが設けられており、それぞれの色変換層/カラーフィルタ層積層体(以下、総称として色変換フィルタ層と呼ぶ場合がある)の間隙に黒色のブラックマトリクス40が設けられている。このブラックマトリクス40は、コントラストの向上に有効である。光源となるEL素子は、色変換フィルタの色変換層側に設けられ、当該EL素子が出射する光は色変換層20、カラーフィルタ層30、透明支持体10の順に通過して外部に取り出される。
【0015】
ここで赤色変換層20R、緑色変換層20Gおよび青色変換層20Bのいずれかに、前記化学式(I)あるいは(II)で表されるクマリン化合物を含有している。クマリン化合物の具体例としては下記化合物No. I-1〜I-7およびNo. II-1〜II-5が挙げられる。
【0016】
【化3】

前記一般式(I)あるいは(II)で表されるクマリン化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば、下記[化4]のように、クマリンのアルデヒド誘導体にリン化合物を反応させて目的のクマリン化合物を得ることができる。なお、クマリンのアルデヒド誘導体は、例えばChem. Pharm. Bull., 1983, 31, 3014に記載の方法により、容易に合成することができる。
【0017】
【化4】

前記一般式(I)あるいは(II)で表されるクマリン化合物は、450〜600nmの範囲の入射光を波長分布変換して、より長波長の光を放射する色変換色素としても有用である。色変換色素とは、光源から発せられる近紫外領域ないし可視領域の光を吸収して波長分布変換を行い、異なる波長の可視光を出射するものである。特に青色ないし青緑色領域の光を吸収することが好ましい。前記一般式(I)あるいは(II)で表されるクマリン化合物は、波長分布変換により緑色光を出射する緑色変換色素として用いるのに好適である。青色ないし青緑色領域の光を発光する光源を用いて、該光源からの光を単なる緑色カラーフィルタに通して緑色領域の光を得ようとすると、元々緑色領域の波長の光が少ないために極めて暗い出射光になってしまう。しかしながら、青色ないし青緑色領域の光を吸収する色変換色素によって緑色領域の光に変換することにより、十分な強度を有する緑色領域の光の出射が可能となる。
【0018】
本発明の第1の実施形態の色変換フィルタは、前記一般式(I)あるいは(II)で表されるクマリン化合物とバインダー(マトリクス)とを含有してなるフィルムを有する。該バインダーとしては、例えば、ゼラチン、カゼイン、澱粉、セルロース誘導体、アルギン酸等の天然高分子材料、あるいはポリメチルメタクリレート、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、スチレン−ブタジエンコポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミドなどの有機合成高分子材料、あるいはシリコーンポリマー、含リンポリマー等の無機合成高分子材料等が用いられる。前記一般式(I)あるいは(II)で表されるクマリン化合物は、前記バインダーと相溶してもよいし、あるいは前記バインダー中に分散されていてもよい。
【0019】
あるいはまた、ウェットエッチングを伴うパターニングの必要がある用途に本発明の第1の実施形態の色変換フィルタを使用する場合には、本発明のフィルムは、前記一般式(I)あるいは(II)で表されるクマリン化合物と光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂(レジスト)とを含むことが好ましい。この場合には、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂(レジスト)の硬化物が、パターニング後のフィルムのバインダーとして機能する。また、パターニングを円滑に行うために、該光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂は、未露光の状態において有機溶媒またはアルカリ溶液に可溶性であることが好ましい。
【0020】
本発明の色変換フィルタの形成方法としては、前記一般式(I)あるいは(II)で表されるクマリン化合物とバインダーとを含む混合物を、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法などによって恒久支持体または一時支持体上に塗布することにより形成することができる。
あるいはまた、前記一般式(I)あるいは(II)で表されるクマリン化合物と高分子材料とを含む混合物を、押出成形、キャスト成形またはロール成形して、直接的に自立フィルムを形成してもよい。該高分子材料として、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース等のセルロースエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリオキシエチレン、ノルボルネン樹脂などを用いることができる。
【0021】
本発明の色変換フィルタは、青色変換層、緑色変換層、赤色変換層などのように有機EL素子からの光を吸収し波長分布変換して特定波長の光を出射する色変換層を備えている。更に、色変換層によって波長分布変換を受けた光の色純度を向上させることを目的として、色変換層の光出射側にカラーフィルタ層(光吸収層)を積層してもよい。色変換層の出射する光に対応して、特定波長域の光を透過させる青色カラーフィルタ層、緑色カラーフィルタ層、赤色カラーフィルタ層などを設けることができる。
【0022】
前記化学式(I)あるいは(II)で表されるクマリン化合物を含有しない色変換層を併用することも可能である。
透明な支持基板の材料としては、可視光透過率に優れ、また、本発明の第2の実施形態における色変換フィルタを用いた多色発光デバイスの形成プロセスにおいて、色変換フィルタあるいは多色発光デバイスの性能低下を引き起こさないものであれば良く、例えば、ガラス基板、各種プラスチック基板、もしくは各種フィルム等があげられる。
【0023】
各色のカラーフィルタ層30は、所望される波長域の光のみを透過させる機能を持つ。カラーフィルタ層30は、色変換層20によって波長分布変換されなかった光源からの光を遮断し、また色変換層20によって波長分布変換された光の色純度を向上させることに対して有効である。カラーフィルタ層30は、例えば、液晶ディスプレイ用カラーフィルタ材料などを用いて形成してもよい。
【0024】
光源から発せられる近紫外ないし可視領域の光を吸収して、青色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、たとえば前記一般式(I)あるいは(II)で表されるクマリン化合物の他に、クマリン466、クマリン47、クマリン2、およびクマリン102などのクマリン系色素が挙げられる。さらに、各種の蛍光性染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)を使用してもよい。
【0025】
図2に示したRGBの色変換層を一組の画素(ピクセル)として、複数の画素を基板10上にマトリクス状に配置することによって、カラーディスプレイ用の色変換フィルタを形成する事ができる。色変換フィルタ層の所望されるパターンは、使用される用途に依存する。赤、緑、および青の矩形または円形もしくはその中間の形状の区域を一組として、それをマトリックス状に透明支持体全面に作製してもよい。あるいはまた、微小の区域に分割された適当な面積比で配設される二種の色変換層を用いて、単独の色変換層では達成できない単一色を示すようにしてもよい。
【0026】
図2の例ではRGB各色の色変換層を設けた場合を示したが、青色から青緑色の光を出射する有機EL素子を光源として用いる場合には、青色に関して色変換層を用いずに、カラーフィルタ層のみを用いてもよい。さらに、該光源の発光が緑色領域の光を十分に含むならば、緑色についても色変換層を用いること無しに、該光源からの光を単に緑色フィルタのみを通して出射してもよい。
【0027】
本発明の第2の実施形態における多色発光デバイスは、発光部(光源)と色変換部とを有する。色変換部としては、前記の色変換フィルタ層を用いることができる。発光部としては、近紫外光から可視光域、好ましくは青色から青緑色の光を発する任意の光源を用いることができる。そのような光源の例は、有機EL素子、プラズマ発光素子、冷陰極管、放電灯(高圧・超高圧水銀灯およびキセノンランプなど)、発光ダイオード等を含むが、薄形ディスプレイ用としては有機EL素子を利用することが好適である。
【0028】
図1は本発明の多色発光デバイスの構成例を示すための断面模式図である。第1の実施形態の色変換フィルタ上に保護層5、ガスバリア層4を介して有機EL素子を配置したもので、有機EL素子は、第1電極2と第2電極1の間に有機EL層3を形成している。なお、本構成例は、色変換層として赤色変換層20R、緑色変換層20Gを用い、青色変換層は省略した例を示している。青色変換層の位置には、膜厚差を補正する目的で透明膜層20Pを設けている。色変換部として、図1に示されるカラーフィルタ30を有する色変換フィルタを用いる場合、発光部は色変換層20の側に配置される。あるいはまた、色変換部として色変換層そのものを用いる場合、該色変換層を光源の表面に直接積層してもよい。また、色変換層の表面を保護する保護層5を配設しても良い。
【0029】
保護層5は、その名の通りに色変換フィルタを保護する目的、および必要な場合には膜面の平滑化を目的に配設されるものである。保護層は、光透過性に富む材料から形成され、かつ色変換フィルタを劣化させることのないプロセスを選択して配設する必要がある。また、保護層の上面に無機ガスバリア膜または電極として用いられる透明導電膜等を形成する場合、保護層には、さらにスパッタ耐性も要求されることとなる。
【0030】
保護層5が平滑化の目的も併せ持つ場合には、一般的には塗布法で形成されることが好ましい。その際、適用可能な材料としては、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂を、光および/または熱処理して、ラジカル種やイオン種を発生させて重合または架橋させ、不溶不融化させたものが一般的である。また、該光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂は、硬化をする前は有機溶媒またはアルカリ溶液に可溶性であることが好ましい。
【0031】
具体的に光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂とは、(1)アクロイル基やメタクロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと、光または熱重合開始剤を有する組成物膜を光または熱処理して、光ラジカルや熱ラジカルを発生させて重合させたもの、(2)ポリビニル桂皮酸エステルと増感剤を有する組成物を光または熱処理により二量化させて架橋したもの、(3)鎖状または環状オレフィンとビスアジドを有する組成物膜を光または熱処理によりナイトレンを発生させ、オレフィンと架橋させたもの、(4)エポキシ基を有するモノマーと光酸発生剤とを含む組成物膜を光または熱処理により、酸(カチオン)を発生させて重合させたものなどが挙げられる。特に(1)の光硬化性又は光熱併用型硬化性樹脂が、高精細でパターニングが可能であり、耐溶剤性、耐熱性等の信頼性の面でも好ましい。
【0032】
その他、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルホン、ポリビニルブチラール、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ノルボルネン系樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、イソブチレン無水マレイン酸共重合樹脂、環状オレフィン系等の熱可塑性樹脂、または、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、イミド系樹脂、ウレタン系樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いて保護層5を形成することができる。あるいはまた、色変換フィルタのマトリクスにも適用しているストレート型シリコーンポリマー、あるいはポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート等と3官能性あるいは4官能性のアルコキシシランとから形成される樹脂変性型シリコーンポリマー等も利用することができる。
【0033】
本発明の第2の実施形態において色変換フィルタ基板を、有機EL素子と組み合わせる場合、色変換フィルタから発生する水分による劣化から有機EL素子を守る目的で、保護層上面にガスバリア層4を積層しても良い。ガスバリア層4は透明且つピンホールのない緻密な膜が求められ、例えばSiO、SiN、SiN、AlO、TiO、TaO、ZnO等の無機酸化物または無機窒化物等が使用できる。該ガスバリア層の形成方法としては特に制約はなく、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法、ディップ法等の慣用の手法により形成できる。
【0034】
有機EL素子は、一対の電極(第1電極および第2電極)の間に有機EL層を挾持し、有機EL層は、少なくとも有機発光層を含み、必要に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層および/または電子注入層を介在させた構造を有している。あるいはまた、正孔の注入および輸送の両方の機能を有する正孔注入輸送層、電子の注入および輸送の両方の機能を有する電子注入輸送層を用いてもよい。具体的には、有機EL素子は下記のような層構造からなるものが採用される。
【0035】
(1)陽極/有機発光層/陰極
(2)陽極/正孔注入層/有機発光層/陰極
(3)陽極/有機発光層/電子注入層/陰極
(4)陽極/正孔注入層/有機発光層/電子注入層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
上記の層構成において、陽極および陰極の少なくとも一方は、該有機EL素子が発する光の波長域において透明であることが好ましく、および透明である電極を通して光を出射し、前記色変換フィルタまたはカラーフィルタに光を入射させる。当該技術において、陽極を透明にすることは容易であることが知られており、本発明においても第1電極を透明な陽極として、および第2電極を陰極として用いることが好ましい。
【0036】
前記各層の材料としては、公知のものが使用される。例えば、有機発光層として青色から青緑色の発光を得るためには、例えばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などが好ましく使用される。
第1電極あるいは第2電極は、例えば図3に示す電極パターニング用マスク50を用いることにより、開口部51に形成することができ、開口部51のパターンを所望の形状に設定することにより、所望の形状の電極を形成することができる。、また、第1電極と第2電極の相対関係は、それぞれ平行なストライプ状をなすように形成してもよく、あるいは該パターンが互いに交差するように形成されてもよい。交差する場合には、本発明の有機EL素子はマトリクス駆動を行うことができる。すなわち、陽極の特定のストライプと、陰極の特定のストライプに電圧が印加された時に、それらのストライプが交差する部分において有機EL層が発光する。したがって、第1電極および第2電極の選択されたストライプに電圧を印加することによって、特定の色変換フィルタおよび/またはカラーフィルタが位置する部分のみを発光させることができる。
【0037】
また、第1電極を、ストライプパターンを持たない一様な平面電極とし、および第2電極を各画素に対応するようにパターニングしてもよい。その場合には、各画素に対応するスイッチング素子を設けて各画素に対応する第2電極に1対1で接続して、いわゆるアクティブマトリクス駆動を行うことが可能になる。
(合成例)
(クマリン化合物I-1の合成)
Chem. Pharm. Bull., 1983, 31, 3014記載の方法により合成した7-Diethylamino- coumarin-4-carbaldehyde2.5g、Benzylphosphonic acid diethyl ester(東京化成)2.3gとDimethylformamide(関東化学)50mLを窒素雰囲気下、室温で攪拌・混合しながら、t-BuOKを少しづつ添加した。そのまま室温で5時間攪拌した後、反応液を氷水に注ぎ込み、得られた沈殿をろ別した。これをエタノールから再結晶することにより、クマリン化合物I-1を1.9g得た。
(その他のクマリン化合物の合成)
その他のクマリン化合物についても、クマリン化合物I-1と同様にそれぞれ対応するアルデヒド体とリン試薬との反応により合成した。
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【実施例1】
【0039】

多色発光デバイスの作製
以下、実施例1において、図1を参照することとする。
(カラーフィルタの形成)
透明基板10であるコーニング社製1737ガラス上に、スピンコート法を用いて富士フィルムARCH製カラーモザイクCK−7800を塗布し、フォトリソグラフ法を用いてパターニングを行い、幅0.03mm、膜厚1μmの複数のストライプ状部分がピッチ0.11mmで配列されているブラックマトリクスを形成した。
【0040】
引き続いて、富士フィルムARCH製カラーモザイクCR−7001、CG−7001、CB−7001を用い、フォトリソグラフ法にて、それぞれが重ならないように、幅0.10mm、ピッチ0.33mmのストライプパターンを形成して、赤色カラーフィルタ30R、緑色カラーフィルタ30G、および青色カラーフィルタ30Bを得た。各カラーフィルタの膜厚は1.0μmであった。さらに、青色カラーフィルタであるCB−7001の上にのみ、新日鐵化学製フォトレジストV259PAP5を用い、フォトリソグラフ法にて、厚み10μm、幅0.10mm、ピッチ0.33mmの透明なストライプパターンを形成し、透明膜層20Pを得た。これは、赤色・緑色の色変換フィルタが形成された際に、色ごとの膜厚差を生じないように形成するものである。
(赤色変換フィルタの形成)
蛍光色素として、クマリン化合物No. I-1(0.6重量部)とローダミン6G(0.3重量部)、ローダミンB(0.3重量部)を100重量部の信越化学工業製シリコーンポリマーKP854に溶解させ、塗布液を得た。この塗布液を用い、スクリーン印刷法により、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、膜厚10μmのパターンの赤色変換層20Rを形成して、赤色変換フィルタを得た。
(緑色変換フィルタの形成)
蛍光色素として、クマリン化合物No. I-1(0.7重量部)を、100重量部の信越化学工業製シリコーンポリマーKP854に加えて溶解させ、塗布液を得た。この塗布液を用い、スクリーン印刷法により、幅0.1mm、ピッチ0.33mm、膜厚10μmのパターンの緑色変換層20Gを形成して、緑色変換フィルタを得た。
(保護層の形成)
新日鐵化学製フォトレジストV259PAP5を用い、前記色変換フィルタの上へ保護層5を形成した。保護層の膜厚は5μmとした。
(ガスバリア層の形成)
スパッタ法にて、0.5μmのSiOx膜からなるガスバリア層4を得た。スパッタ装置はRF−ブレーナマグネトロン、ターゲットはSiOを用いた。成膜時のスパッタガスはArを使用した。形成時の基板温度は80℃で行った。
(有機EL素子の形成)
前記のようにして製造した色変換フィルタ部の上に、陽極/有機EL層(正孔注入層/正孔輸送層/有機発光層/電子注入輸送層の4層)/陰極を順次形成し、図1に示すような有機EL素子を形成して、多色発光デバイスを得た。
【0041】
まず、色変換フィルタ部の最外層をなすガスバリア層4の上にスパッタ法にて透明電極(ITO)を全面成膜した。ITO上にレジスト剤OFRP−800(東京応化製)を塗布した後、フォトリソグラフ法にてパターニングを行い、それぞれの色の発光部(赤色,緑色、および青色)に位置する、幅0.094mm、ピッチ0.10mm、膜厚100nmのストライプパターンからなる第1電極2(陽極)を得た。
【0042】
次いで、前記陽極を形成した基板を抵抗加熱方式蒸着装置内に装着し、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子注入輸送層を、真空を破らずに順次成膜した。成膜に際して真空槽内圧は1×10−4Paまで減圧した。正孔注入層は銅フタロシアニン(CuPc)を100nm積層した。正孔輸送層は4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)を20nm積層した。発光層は4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を30nm積層した。電子注入輸送層はトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)を20nm積層した。
【0043】
この後、真空を破ることなしに、第1電極2(ITO)のラインと直交する幅0.30mm、ピッチ0.33mmギャップのストライプパターンが得られるマスクを用いて、厚さ200nmのMg/Ag(10:1の重量比率)層を堆積させ、第2電極1(陰極)を形成した。
こうして得られた多色発光デバイスを、グロープボックス内乾燥窒素雰囲気(酸素および水分濃度ともに10ppm以下)下において、封止ガラス(図示せず)とUV硬化接着剤を用いて封止した。
【実施例2】
【0044】

実施例2〜12については、クマリン化合物I-1に換えてクマリン化合物I-2〜I-7およびII-1〜II-5をそれぞれ用い、実施例1と同様に多色発光デバイスを形成した。
(比較例1)
緑色変換フィルタの作製において、蛍光色素としてクマリン6(0.7重量部)を100重量部の新日鐵化学製フォトレジストV259PAP5に加えて溶解させたものを塗布液とし、フォトリソグラフ法で緑色変換フィルタを形成した。
【0045】
赤色変換フィルタの作製において、蛍光色素としてクマリン6(0.6重量部)とローダミン6G(0.3重量部)、ローダミンB(0,3重量部)を100重量部の新日鐵化学製フォトレジストV259PAP5に加えて溶解させたものを塗布液とし、フォトリソグラフ法で赤色変換フィルタを形成した以外は、実施例1と同一の形成方法にて多色発光デバイスを形成した。
(評価)
実施例及び比較例にて形成した多色発光デバイスを電流量一定にして駆動し、各発光色の輝度の駆動時間依存性を評価した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

表1より明らかなように、本発明に係るクマリン化合物を用いて作製した色変換フィルタは、クマリン6を用いた比較例1よりも、初期において優れた変換効率を示し、かつ優れた耐久性を示した。この結果は、本発明に係るクマリン化合物が、優れた色変換効率の実現および色変換膜の光劣化の抑制に非常に有効であることを示している。
【0047】
本発明のクマリン化合物は、色素自身の安定性向上により、励起状態でのバインダー(マトリクス)類との反応を抑制したものであり、実施例以外のマトリクスを用いた場合においても、輝度保持率の向上を実現することができる。また、マトリクス類と同様に、ローダミンなどの混合色素類との相互作用も抑制されることから、配合比率などの変更により初期輝度は変化するものの、輝度保持率については影響されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の多色発光デバイス(1画素分)の一つの実施形態を示す断面模式図である。
【図2】本発明の色変換フィルタ(1画素分)の一つの実施形態を示す断面模式図である。
【図3】パターニング用ストライプ状マスクの模式図である。
【符号の説明】
【0049】
1 第2電極(陰極)
2 第1電極(陽極)
3 有機EL層
4 ガスバリア層
5 保護層
10 透明基板
20R 赤色変換層
20G 緑色変換層
20B 青色変換層
20P 透明膜層
30R 赤色カラーフィルタ
30G 緑色カラーフィルタ
30B 青色カラーフィルタ
40 ブラックマトリクス
50 電極パターニング用マスク
51 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある波長の光を吸収し、吸収した波長と異なる波長を含む光を出射する色素をマトリクス中に分散してなる色変換フィルタにおいて、一般式(I)で表されるクマリン化合物を含有することを特徴とする色変換フィルタ。
【化1】

(式中、R、RおよびR3はそれぞれ独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基又は炭素原子数7〜30のアリールアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基を表し、R及びRはベンゾピラン環と連結して環構造を形成していてもよく、あるいは互いに連結して環構造を形成していてもよい。)
【請求項2】
ある波長の光を吸収し、吸収した波長と異なる波長を含む光を出射する色素をマトリクス中に分散してなる色変換フィルタにおいて、一般式(II)で表されるクマリン化合物を含有することを特徴とする色変換フィルタ。
【化2】

(式中、R、RおよびR3はそれぞれ独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基又は炭素原子数7〜30のアリールアルキル基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基を表し、R及びRはベンゾピラン環と連結して環構造を形成していてもよく、あるいは互いに連結して環構造を形成していてもよい。)
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2に記載の色変換フィルタと有機EL素子とを備えることを特徴とする多色発光デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−91282(P2008−91282A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273526(P2006−273526)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】