色消しレンズとその製造方法、および色消しレンズを備えた光学装置
【課題】真空紫外線領域で透過率の高い色消しレンズを提供する。
【解決手段】 屈折レンズと、複数のバイナリ形状の格子を有する回折レンズとを備えている色消しレンズを提供する。この色消しレンズでは、屈折レンズは、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて形成されており、回折レンズは、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて形成されており、回折レンズの格子の表面粗さの平均二乗偏差値(rms値)は、5nm以下である。この色消しレンズは、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの屈折率が大きく変化する200nmから短波長側の吸収端波長までの真空紫外線領域の色収差を補正する。
【解決手段】 屈折レンズと、複数のバイナリ形状の格子を有する回折レンズとを備えている色消しレンズを提供する。この色消しレンズでは、屈折レンズは、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて形成されており、回折レンズは、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて形成されており、回折レンズの格子の表面粗さの平均二乗偏差値(rms値)は、5nm以下である。この色消しレンズは、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの屈折率が大きく変化する200nmから短波長側の吸収端波長までの真空紫外線領域の色収差を補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空紫外線領域で利用可能な色消しレンズとその製造方法に関し、この色消しレンズを備えた光源、分光計測装置、ラジカル計測装置等の光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学材料は、一般に、屈折率の波長依存性、すなわち波長分散特性を有するため、例えば、レンズ系に異なる波長の光を通すと、結像位置のずれが発生する。このずれが色収差であり、色収差を補正することを色消しという。色消しは、複数のレンズを適当な間隔を開けて配置したレンズ系や、複数のレンズを貼り合わせて1つのレンズとしたレンズ系によって行うことができる。色収差を補正したレンズ系を色消しレンズという。
【0003】
複数のレンズを貼り合わせて1つのレンズとした色消しレンズとしては、例えば、正の屈折力を有する凸形状のクラウンレンズと、負の屈折力を有する凹形状のフリントレンズとを貼り合わせて、2波長の色収差を補正したアクロマートレンズが提案されている。また、光軸について同心円状に配置された複数の格子を有し、各格子に矩形形状が形成されている回折レンズと屈折レンズとを組み合わせた色消しレンズが提案されている。このような色消しレンズは、例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1に開示されている。特許文献1、特許文献2に開示されている色消しレンズは、400nm程度以上の波長領域での色収差を補正可能であると記載されている。特許文献2に記載されているように、回折レンズの矩形形状は、切削によって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−304741号公報
【特許文献2】特表平8−508116号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Scientific American, May 1992, 50-55, “Binary Optics”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
真空紫外線領域(10〜200nm)では好適な色消しレンズを実現することが困難であり、光源の集光や分光器のコリメータ等に表面反射鏡が多く用いられている。しかし、表面反射鏡を用いる場合に他の光学素子に表面反射鏡を近接することができない上、表面反射鏡によって光学系が屈曲するために光学装置が大型になってしまう場合が多い。
【0007】
波長が200nm以下となる真空紫外線領域での色収差を補正可能な色消しレンズが求められている。真空紫外線領域において多くの光学材料は吸収が大きくなり、光が完全に透過しなくなる波長(吸収端)近傍において屈折率が急激に増大する。また、一般に吸収端の波長が近い光学材料は、屈折率の波長分散特性が類似してしまう。このため、吸収端の波長が近い光学材料同士は波長に対して屈折率差の変化が少なく、アクロマートレンズのように正の屈折力を有する屈折レンズと負の屈折力を有する屈折レンズとを貼り合わせた色消しレンズを用いる場合には、それぞれの屈折レンズの曲率を大きくする必要があり、色消しレンズの厚みが厚くなる。
【0008】
一方、回折レンズは、屈折レンズとは波長分散特性が逆であり、真空紫外線を透過する光学材料を用いた回折レンズを、同様に真空紫外線を透過する光学材料を用いた屈折レンズと組み合わせ、色消しレンズとして利用すれば、厚みの小さい色消しレンズを実現することができる。
【0009】
しかしながら、波長が短くなるほど、散乱によって光の損失が大きくなる。このため、波長の短い真空紫外線領域で高い効率を確保するためには、回折レンズの表面を滑らかにして散乱を抑制する必要がある。従来、回折レンズは、レンズ材料を機械的に切削や研削する方法、あるいはレンズ材料のエッチング処理を行う方法によって、回折レンズの材料を削り取ることによって加工されており、これらの方法によって真空紫外線を透過する光学材料を加工する場合には、回折レンズの効率を確保するために必要な表面粗さを得ることができなかった。
【0010】
一方、回折レンズの材料として、樹脂材料を用いれば、回折レンズの加工精度を確保することが比較的容易だが、樹脂材料は、280nm以下の紫外線を透過することはできないため、樹脂の回折レンズを屈折レンズと組み合わせた色消しレンズは、真空紫外線領域での色収差を補正することはできない。
【0011】
上記の課題に鑑み、本願では、吸収損失および散乱損失が少なく、真空紫外線領域で好適に用いることができる色消しレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、屈折レンズと、複数のバイナリ形状の格子を有する回折レンズとを備えている色消しレンズであって、前記屈折レンズは、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて形成されており、前記回折レンズは、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて形成されており、前記回折レンズの格子の表面粗さの平均二乗偏差値(rms値)は、5nm以下であり、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの屈折率が大きく変化する短波長側の吸収端より長い波長の真空紫外線領域の色収差を補正する、色消しレンズを提供する。尚、本明細書では、屈折レンズの材料として用いたレンズ材料を特に屈折レンズ材料と呼び、回折レンズの材料として用いたレンズ材料を特に回折レンズ材料と呼ぶ。
【0013】
尚、本願では、「色消しレンズ」は、光軸を共有する複数のレンズを有するレンズ系であってもよく、単一のレンズであってもよい。
【0014】
本願に係る色消しレンズによれば、屈折レンズと回折レンズとを備えており、回折レンズの格子の表面粗さの平均二乗偏差値(rms値)は、5nm以下であるため、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの屈折率が大きく変化する短波長側の吸収端より長い波長の真空紫外線領域での光の吸収損失および散乱損失が少ない、真空紫外線領域の色収差を補正するための色消しレンズを提供することができる。この色消しレンズは、真空紫外線領域、特に波長が120〜200nmの真空紫外線領域での色収差を補正する目的に用いる場合にも、光の吸収損失および散乱損失を少なくすることができる。
【0015】
前記複数のバイナリ形状の格子の格子間隔は、前記色消しレンズの光軸に近い側で広く、前記色消しレンズの光軸に遠い側で狭くなっており、前記複数のバイナリ形状の格子は、前記色消しレンズの光軸に垂直な平面と光軸に平行な曲面によって区画される2x段の階段形状を有していてもよい。
【0016】
前記回折レンズの格子の表面粗さの平均二乗偏差値(rms値)は、3nm以下であることが好ましい。色消しレンズの散乱損失をより小さくすることができる。
【0017】
前記回折レンズのバイナリ形状は、前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面に、樹脂を主成分とする有機材料の鋳型を形成し、前記鋳型を用いて前記基板を常温または100℃以下の基板温度で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料を積層し、前記鋳型を除去することによって形成されることが好ましい。回折レンズの表面粗さのrms値を3nm以下にすることができ、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの屈折率が異常分散を起こす波長領域を含む真空紫外線領域で、散乱損失が少ない回折レンズを提供することができる。
【0018】
前記回折レンズのバイナリ形状は、前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面にシリコンまたはシリカ(シリコン酸化物)を主成分とする無機材料の鋳型としての犠牲層を形成し、前記鋳型を用いて前記基板を200℃以上1200℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料を積層し、前記犠牲層を除去することによって形成されることが好ましい。回折レンズの表面粗さのrms値を3nm以下にすることができ、散乱損失が少ない回折レンズの格子が実現できる。これによって、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの屈折率が異常分散を起こす波長領域を含む真空紫外線領域での損失がより少ない色消しレンズを提供することができる。
【0019】
本願に係る色消しレンズでは、屈折レンズの表面と裏面の少なくともいずれか一方に、バイナリ形状の回折格子が形成されていてもよい。
【0020】
本願に係る色消しレンズは、真空紫外線光源、分光計測装置、ラジカル計測装置に好適に用いることができる。これによって、光学装置の真空紫外線領域での吸収損失及び散乱損失を軽減することによる効率の向上、計測装置等の光学装置の小型化を両立することが可能となる。
【0021】
本発明は、屈折レンズと、回折レンズとを備えている色消しレンズの製造方法を提供することもできる。本発明に係る色消しレンズの第1の製造方法は、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて屈折レンズを形成する屈折レンズ形成工程と、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて回折レンズを形成する回折レンズ形成工程と、を含んでいる。前記回折レンズ形成工程は、前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面に、樹脂を主成分とする有機材料の鋳型を形成する鋳型形成工程と、前記鋳型を用いて前記基板を常温あるいは100℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料をスパッタ法により積層する積層工程と、前記熱処理工程後に鋳型を除去する鋳型除去工程とを含む。
【0022】
本発明に係る色消しレンズは、第2の製造方法を用いることによっても製造できる。本発明に係る色消しレンズの第2の製造方法は、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて屈折レンズを形成する屈折レンズ形成工程と、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて回折レンズを形成する回折レンズ形成工程と、を含んでいる。前記回折レンズ形成工程は、前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面にシリコンまたはシリカ(シリコン酸化物)を主成分とする無機材料の鋳型としての犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、前記鋳型を用いて前記基板を200℃以上1200℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料を積層する積層工程と、前記犠牲層を除去する犠牲層除去工程とを含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、真空紫外線領域での吸収損失および散乱損失が少ないことにより効率が高い、真空紫外線領域の色収差を補正するための色消しレンズを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係る色消しレンズを回折レンズ側から見た図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】実施例1の色消しレンズの光学特性を示す図である。
【図4】色消しレンズを用いたラジカル計測装置を示す概念図である。
【図5】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図6】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図7】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図8】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図9】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図10】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図11】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図12】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図13】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図14】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図15】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図16】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図17】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図18】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図19】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図20】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図21】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図22】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図23】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図24】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(色消しレンズ)
図1は、実施形態に係る色消しレンズ10を回折レンズ11側から見た図であり、図2は、図1のII−II線断面図である。図1、図2に示すように、色消しレンズ10は、回折レンズ11と屈折レンズ12とを有している。回折レンズ11は、表面側は平面上に形成されたバイナリ形状であり、裏面側は平面である回折レンズである。屈折レンズ12は、表面側は凸レンズ形状であり、裏面側は平面である屈折レンズである。回折レンズ11の裏面と屈折レンズ12の裏面は、接触面13において接するように配置されている。色消しレンズ10では、回折レンズ11と屈折レンズ12とは、フッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)からなる群から選ばれる少なくとも一種である、同一のレンズ材料によって形成されている。フッ化リチウム、フッ化マグネシウムは、120nmより長波長の真空紫外線透過率に優れた材料であるため、色消しレンズ10は、120nmより長波長の真空紫外線透過率に優れている。レンズ材料としてフッ化リチウムを用いる場合、吸収短波長は105nm近傍であり、屈折率が大きく変化する屈折率変化領域(短波長側の吸収端波長から吸収端波長の2倍近傍における屈折率が急激に変化する波長領域)は110〜200nmである。レンズ材料としてフッ化マグネシウムを用いる場合、吸収短波長は110nm近傍であり、屈折率が大きく変化する屈折率変化領域は115〜200nmである。ただし、どちらの物質も吸収端の波長から120nm未満までは吸収が大きく、実用性が低い。
【0026】
色消しレンズ10を構成する回折レンズ11と屈折レンズ12は、図1および図2に示す軸Zを中心とする円形状のレンズであり、図2に斜線で示す断面図の図形を、軸Zを中心に回転させた形状を有している。回折レンズ11は、バイナリ形状(階段形状)の格子が軸Zを中心に同心円状に形成されている回折レンズである。図1に示す1つの同心円が1つの格子を示しており、格子間隔は、軸Zから遠ざかるにつれて狭くなっている。この格子間隔は、隣り合う格子の最も高い部分同士の距離(例えば、図2に図示する距離D)である。回折光学素子では、格子間隔が大きいほど、回折角度が小さくなることから、回折レンズ11に入射する光線は、軸Zに近い側(格子間隔が大きい側)ほど回折角度が小さくなり、軸Zに遠い側(格子間隔が小さい側)ほど回折角度が大きくなる。その結果、回折レンズ11は、軸Zを光軸とするレンズとして機能する。回折レンズ11では、複数の格子のそれぞれにおいて、色消しレンズ10の光軸(軸Z)から周縁部に向けて下降しており、光軸に垂直な平面と光軸に平行な曲面によって区画される2x段の階段形状を有している。このように、階段形状が光軸から周縁部に向かって下降している場合、回折レンズは、正の屈折力を有する。各格子の格子高さ(階段形状の最も高い段の上面から、最も低い段までの距離)はHであり、全て同じである。格子高さHは、波長の整数倍となるように設計されている。各格子において、複数の段の幅は同じであり、隣接する段の高低差は同じである。
【0027】
本実施形態に係る色消しレンズ10は、正の屈折力を有する回折レンズ11と、正の屈折力を有する屈折レンズ12とを組み合わせた、正の屈折力を有する色消しレンズである。尚、色消しレンズは、負の屈折力を有する色消しレンズであってもよい。この場合、回折レンズとして、バイナリ形状が、回折レンズ11とは逆に光軸から周縁部に向けて上昇している回折レンズを用い、屈折レンズとして、例えば凹レンズ形状の屈折レンズを用いればよい。
【0028】
図2では、各格子の段数が4段である場合を図示しているが、これに限定されない。段数は、2のx乗(2x、但しx≧1)であればよく、例えば、2段、4段、8段、16段としてもよい。各格子の段数が多いほど回折効率が高くなるが、段数が16段以上となると、滑らかな斜面のノコギリ型形状の格子の回折効率に漸近する。非特許文献1によれば、ノコギリ型形状の格子の回折効率を100%とした場合、段数が2段の場合の回折効率の最大値は41%であり、4段の場合には81%、8段の場合には95%、16段の場合には99%である。また、ノコギリ形状の格子において、格子間隔が波長の10倍である場合には回折効率の最大値は85%程度となり、格子間隔が波長の5倍である場合には回折効率の最大値は80%程度となり、格子間隔が波長の4倍である場合には、回折効率の最大値は75%程度となり、格子間隔が波長の3倍である場合には、回折効率の最大値は60%程度となる(Proc. SPIE 5005, 8-19, (2003), “Optimization of a Volume Phase Holographic Grism for Astronomical Observation using the Photopolymer” を参照)。バイナリ形状の格子を有する回折レンズ11の回折効率は、上記に説明したノコギリ型形状の格子の回折効率に、ノコギリ形状の格子を100%とした場合のバイナリ形状の段数による回折効率の割合を乗じることによって求めることができる。例えば、格子間隔が波長の5倍であり、バイナリ形状の段数が8段の場合には、80%と95%とを乗じた76%程度の回折効率を得ることができる。尚、全ての格子の段数を同じにする必要は無い。回折レンズ11は、例えば、4段、8段、16段の段数を有する格子を少なくとも1つずつ備えていてもよい。この場合、軸Zに近い格子(格子間隔の大きい格子)ほど段数が多くなるように設計することが好ましい。例えば、軸Zに最も近い側に位置する1つまたは複数の格子を16段とし、これよりも外側に位置する1つまたは複数の格子を8段とし、最も軸Zから遠い側(最外周)に位置する1つまたは複数の格子を4段とすることができる。
【0029】
散乱は光学系の効率を低下させるばかりではなく、迷光の一因にもなるため、散乱損失が少ないほど望ましい。散乱が大きくなると測定値に誤差が生じてしまうことがあり、実用的には目的に応じて光学素子の散乱損失が1%以下から24%以下であることが求められる場合が多い。特に強い背景光がある場合の分光計測等においては、より散乱損失が少ない色消しレンズが求められる。一方、単色光源を用いた吸光度測定等においては散乱損失が50%程度の色消しレンズであっても実用的に使用できる。
【0030】
色消しレンズ10の回折レンズ11における散乱損失Lsは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)によって1nm間隔で測定した場合に表面粗さの平均二乗偏差の値(rms値)が大きくなるほど大きくなる。表面粗さのrms値をσとし、波長λを与えると、散乱損失Ls(%)は、下記の式(1)によって求めることができる。
Ls=[1−exp{−(4πnσcosθ/λ)2}]×100 …… (1)
ここでθは光束の入射角であり、nは媒質の屈折率である。
【0031】
式(1)を用いて回折レンズの散乱損失Lsを計算すると、波長120nmにおいて、垂直入射(θ=0)、屈折率n=1、表面粗さのrms値σが1nmである場合の散乱損失Lsは1%、表面粗さのrms値σが3nmである場合の散乱損失Lsは10%、表面粗さのrms値σが5nmである場合の散乱損失Lsは24%、表面粗さのrms値σが10nmである場合の散乱損失Lsは67%である。波長が短い真空紫外線領域で色消しレンズを用いる場合には、表面粗さが大きくなるほど、散乱の影響によって真空紫外線の透過率が低減する割合が多くなる。回折レンズ11をAFMによって1nm間隔で測定した場合に表面粗さのrms値は5nm以下であるため、波長120nmにおける散乱損失が24%以下である。波長が短いほど、散乱損失は大きくなることから、回折レンズ11は、波長120nm以上200nm以下の真空紫外線において散乱損失が24%以下であり、用途によって波長120nm以上200nm以下の真空紫外線において実用的に使用することができる。回折レンズ11の表面粗さのrms値は、3nm以下であればより好ましく、1nm以下であれば、特に好ましい。回折レンズ11の表面粗さのrms値を3nm以下とすれば、波長120nm以上200nm以下の真空紫外線における散乱損失は10%以下に低減でき、その表面粗さのrms値が1nm以下とすれば、散乱損失は1%以下に低減することができる。
【実施例1】
【0032】
次に、実施形態に係る色消しレンズをさらに具現化した実施例1について説明する。
図3は、実施形態に係る色消しレンズ10の一実施例について、シミュレーションを行い、その光学特性を調べた結果を示している。横軸は色消しレンズ等に透過させる光線の波長を示しており、縦軸は、焦点距離を示している。シミュレーションを行った色消しレンズ10は、材質がフッ化マグネシウムであり、屈折レンズ12の曲率半径が28mmであり、回折レンズ11の半径6.25mmにおける格子間隔が696nmであり、図3に参照番号101として示している。また、比較のため、回折レンズを用いた場合のシミュレーション結果を参照番号151として示しており、屈折レンズを用いた場合のシミュレーション結果を参照番号152として示している。比較例として用いた回折レンズは、半径6.25mmにおける格子間隔が420nmの回折レンズであり、屈折レンズは、曲率半径が11.6mmの平凸レンズであり、いずれのレンズも125nmにおける焦点距離が20mmになるように設計されている
【0033】
尚、回折レンズまたは回折レンズは、回折格子から出てきた光が波長の整数倍の行路差を持つように設計されている。すなわち、回折次数m、波長をλ、格子間隔をd、入射角をθ1、回折角をθ2とすると、下記の式(2)によって表される回折格子の式を満たしている。
mλ=d(sinθ1+sinθ2) …… (2)
ここでm=1、θ1=0(垂直入射)とすると、
λ=dsinθ2 …… (3)
になる。一方、回折レンズの半径rの格子による回折角θ2は焦点距離fから
r/f=tanθ2 …… (4)
によって与えられる。波長λ、回折レンズの半径rの格子による回折角θ2が与えられると式(3)と式(4)より、格子間隔dは
d=λ/sin{tan−1(r/f)} ……(5)
より求めることができる。すなわち、式(5)を用いれば、回折レンズまたは回折レンズの特定の半径における格子間隔から、波長と焦点距離との関係を求めることができる。
【0034】
尚、屈折レンズ(屈折レンズ)の焦点距離をf1、回折レンズ(回折レンズ)の焦点距離をf2とすると屈折レンズと回折レンズを密着させた場合の色消しレンズの焦点距離f0は下記の式(6)によって求めることができる。
1/f0=1/f1+1/f2} ……(6)
また、最外周の半径をrとすると平行光束が入射した場合に結像側の開口数N.A.は、下記の式(7)によって求めることができる。
N.A.=sin {tan−1 (r/f)} ……(7)
【0035】
図3に示すように、比較例(151,152)では、いずれも焦点距離の波長依存性が大きくなっている。屈折レンズ(151)を用いた場合には、波長が短いほど焦点距離が短くなっており、回折レンズ(152)を用いた場合には、波長が短いほど焦点距離が長くなっている。これに対して、実施例に係る色消しレンズを用いた場合には、焦点距離の波長依存性が小さくなっており、色収差が補正されている。
【0036】
上記のとおり、本実施形態に係る色消しレンズ10は、真空紫外線の透過率に優れており、真空紫外線領域での色収差を補正可能な色消しレンズとして好適に利用することができる。本実施形態に係る色消しレンズは、例えば、真空紫外線を用いた光学装置に利用可能であり、真空紫外線を用いて測定を行う分光計測装置に好適に用いることができる。
【0037】
本実施形態に係る色消しレンズ10は、特に、プラズマ中に存在する水素ラジカル(H),窒素ラジカル(N)、酸素ラジカル(O)、炭素ラジカル(C)等の絶対数を計測するラジカル計測装置に好適に用いることができる。これらのラジカルの基底状態の電子遷移吸収線が観測可能な波長は、窒素ラジカルが120nm、水素ラジカルが121.6nm、酸素ラジカルが130.4nm、炭素ラジカルが165.7nmである。かかるラジカル計測装置では、窒素ラジカル、水素ラジカル、酸素ラジカルを測定する場合には120nm〜130.4nmの真空紫外線領域における電子遷移吸収線を測定する。さらに、炭素ラジカルも測定したい場合には、120nm〜165.7nmの真空紫外線波長領域における電子遷移吸収線を測定する。このような波長領域の真空紫外線を透過する材料としては、フッ化マグネシウムとフッ化リチウムが挙げられるが、従来、これらの材料を用いて、屈折レンズと回折レンズとを組み合わせ、これによって真空紫外線領域での色収差を補正可能な色消しレンズを提供することはできなかった。これは、従来提案されていたレンズ材料を切削や研削する方法や、エッチング加工する方法によって製作された格子の表面粗さでは真空紫外線の散乱損失が大きくて実用的ではなく、良好な表面粗さが得られる回折レンズの実現方法が提案されていなかったことが一因であると考えられる。
【0038】
本実施形態に係る色消しレンズ10のように、回折レンズ11の階段形状が光軸から周縁部に向けて下降しており、光軸に垂直な平面と光軸に平行な曲面によって区画される2x段の階段形状を有する、複数のバイナリ形状の格子を有していれば、回折レンズ11の平面部分に用いられるレンズ材料からなる基板の表面に鋳型を形成し、この鋳型を用いて基板の表面に回折レンズ11の階段形状として用いられるレンズ材料を積層し、鋳型を取り除くリフトオフ工程を行うことによって、容易に精度よく加工することができる。この鋳型を用いて回折レンズを成形し、その後、鋳型を除去すれば、回折レンズの形状を十分に確保し、回折レンズのバイナリ形状の表面粗さを小さくすることができる。回折レンズ11をAFMによって1nm間隔で測定した場合に表面粗さのrms値が5nm以下である色消しレンズ10を実現することができるため、光の散乱損失を小さくすることができ、真空紫外線の透過率を向上させることができる。また、基板を熱処理してもよい。熱処理は、基板温度が200℃以上1200℃以下となる条件で行うことが好ましく、これによって、真空紫外線の透過率をさらに向上させることが可能となる。
【0039】
本実施形態に係る色消しレンズを、真空紫外線を用いる光学装置や真空紫外線の光源、真空紫外線を含む波長領域において測定を行う分光計測装置に用いれば、これらの装置を小型化することが可能となる。例えば、上記において説明したラジカル計測装置に適用すれば、真空紫外線の光源部と分光計測装置部を手の平サイズに納めて小型化されたラジカル計測装置を実現することも可能である。このように小型化されたラジカル計測装置は、様々な製造装置に組み込むことができる。例えば、半導体製造装置にラジカル計測装置を組み込んで、製造プロセスを実行しながら、実行中の製造プロセスで現に発生しているラジカル計測を行うことができる。ラジカルの計測値に基づいて半導体装置の製造プロセスの条件を制御できるため、製造における歩留まりを向上させることができる。
【0040】
図4は、本実施形態に係る色消しレンズ10を設置したラジカル計測装置30を模式的に示す図である。ラジカル計測装置30は、真空紫外線光源310と、真空紫外線分光器320と、真空チャンバ330とを備えている。真空紫外線光源310のレンズ312と真空紫外線分光器320のレンズ322とは、真空チャンバ330内に発生するプラズマ340の内部に設置されている。
【0041】
本実施形態に係る色消しレンズ10を、レンズ312とレンズ322として用いれば、測定する波長ごとにレンズの焦点位置を調整する必要が無くなり、真空紫外線光源310と真空紫外線分光器320とを手の平サイズに納めて小型化することができる。このように、本実施形態に係る色消しレンズ10によれば、ラジカル計測装置30を小型化することが可能となり、波長を変えても計測を速やかに能率よく行うことができるようになる。
【0042】
(色消しレンズの第1の製造方法)
次に、実施形態に係る色消しレンズ10の第1の製造方法について説明する。
本実施形態に係る第1の製造方法は、屈折レンズ12を形成する屈折レンズ形成工程と、回折レンズ11を形成する回折レンズ形成工程と、を含んでいる。
本実施形態に係る屈折レンズ12は、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて形成され、一般的な凸形状のレンズの製造方法を用いて容易に形成することができるため、詳細な説明を省略する。以下、本実施形態に係る回折レンズ11を形成する回折光学素子形成工程について、図5〜図12を参照しながら説明する。
【0043】
第1の製造方法に係る回折光学素子形成工程では、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種であるレンズ材料を用いて、回折レンズ11を形成する。尚、本明細書では、屈折レンズの材料として用いたレンズ材料を特に屈折レンズ材料と呼び、回折レンズの材料として用いたレンズ材料を特に回折レンズ材料と呼ぶ。
【0044】
回折レンズ形成工程では、第1のリフトオフ工程をx回繰返す。x回行われるそれぞれの第1のリフトオフ工程を「i回目のリフトオフ工程」(i=1,2,…,x)と呼ぶ。i回目の第1のリフトオフ工程は、鋳型形成工程と、積層工程と、鋳型除去工程とを含んでいる。必要に応じて、鋳型除去工程の後あるいは最終工程において熱処理工程を追加することもできる。
【0045】
i回目の第1のリフトオフ工程において、鋳型形成工程では、レジストとして一般に用いられている、樹脂を主成分とする有機材料を用いて鋳型を基板(回折レンズ11の材料となる回折レンズ材料によって形成されている基板)の表面に形成する。この鋳型形成工程では、バイナリ形状の格子間隔をDとした場合に、D/(2i−1)の間隔で鋳型が配置される。積層工程では、樹脂の鋳型を用いて基板の表面に回折レンズ材料をスパッタリング法等によって積層する。積層工程では、基板温度は常温であってもよく、基板温度が100℃以下となるように基板を加熱してもよい。鋳型除去工程では、有機溶剤等によって有機材料の鋳型を取り除く。必要に応じて、熱処理工程を行ってもよい。熱処理工程では、回折レンズ材料を積層した後の基板を、200℃以上1200℃以下の基板温度で焼結する。熱処理工程は、リフトオフ工程中に行ってもよいし、x回のリフトオフ工程が全て完了した後に行ってもよい。鋳型形成工程、積層工程、鋳型除去工程、(熱処理工程)は、同様の手順によって繰返して実行してもよい。
以下、x=2の場合、すなわち4段のバイナリ形状を例示して、回折レンズ形成工程について具体的に説明する。
【0046】
(1回目の第1のリフトオフ工程)
(1回目の鋳型形成工程)
まず、図5に示すように、回折レンズ材料からなる基板800(例えばMgF2基板)の表面に、樹脂を主成分とする有機材料であるレジスト820を形成し、マスク830を介して、レジスト820に露光を行う。マスク830は、開口部831と遮光部832とを有しているため、レジスト820の開口部831の下方に位置する部分にのみ光が照射される。マスク830を平面視すると、遮光部832は同心円状に形成されており、遮光部832の同心軸が回折レンズ12の格子の同心軸である軸Zに一致するように、マスク830は配置される。バイナリ形状の格子間隔をDとした場合に、開口部831と遮光部832のピッチは、Dとなっている。
【0047】
露光を行った後、現像すると、図6に示すように、レジスト820をパターニングすることができる。レジスト820は、回折レンズ12の軸Zを同心軸とする環状にパターニングされている。
【0048】
(1回目の積層工程)
図6の状態の基板に対して、回折レンズ材料を積層すると、図7に示すように、基板800の表面に回折レンズ材料802が積層され、レジスト820の表面に回折レンズ材料803が積層される。積層工程では、回折レンズが有する階段形状の2段分の高さまで、回折レンズ材料が積層される。尚、1回目の積層工程において、レジスト820の表面に形成された回折レンズ材料層803が、基板800の表面に積層された回折レンズ材料層802と接触しないように、上述の1回目のレジスト形成工程で形成するレジスト820の厚さが調整されている。回折レンズ材料は、例えば、スパッタリング法によって積層することができる。スパッタリング法によるレンズ材料の積層に際しては、基板800の温度は常温であってもよく、100℃以下となるように基板800を加熱してもよい。
【0049】
(1回目の鋳型除去工程)
次に、回折レンズ材料803をレジスト820とともに有機溶剤によって除去すると、図8に示す状態となる。
【0050】
必要に応じて図8の状態の基板の熱処理を行う。熱処理は、基板800の温度が200℃以上1200℃以下となる条件で行うことが好ましい。200℃以上1200℃以下の基板温度でレンズ材料の熱処理を行うことにより、レンズ材料の真空紫外線透過率をより高くすることが可能となる場合がある。
【0051】
以上で、1回目の第1のリフトオフ工程を終了し、次に、2回目の第1のリフトオフ工程を実施する。
【0052】
(2回目の第1のリフトオフ工程)
(2回目の鋳型形成工程)
次に、2回目の鋳型形成工程を行う。図8に示す状態の基板の表面に、図9に示すように、樹脂を主成分とする有機材料であるレジスト822を形成し、マスク840を介して、レジスト822に露光を行う。マスク840は、開口部841と遮光部842とを有しているため、レジスト820の開口部841の下方に位置する部分にのみ光が照射される。マスク840を平面視すると、遮光部842は同心円状に形成されており、遮光部842の同心軸が回折レンズ12の格子の同心軸である軸Zに一致するように、マスク840は配置される。バイナリ形状の格子間隔をDとした場合に、開口部841と遮光部842のピッチは、D/2となっている。開口部841の幅は開口部831の半分であり、遮光部842の幅は遮光部832の幅の半分である。
【0053】
露光を行った後、現像すると、図10に示すように、レジスト822をパターニングすることができる。レジスト822は、回折レンズ12の軸Zを同心軸とする環状にパターニングされている。
【0054】
(2回目の積層工程)
図10の状態の基板に対して、回折レンズの材料となる回折レンズ材料を積層すると、図11に示すように、基板800と回折レンズ材料802の表面に回折レンズ材料804が積層され、レジスト822の表面に回折レンズ材料805が積層される。積層工程では、回折レンズが有する階段形状の1段分の高さまで、回折レンズ材料がスパッタリング法等により積層される。尚、2回目の積層工程において、レジスト822の表面に形成された回折レンズ材料層805が、回折レンズ材料802の表面に積層された回折レンズ材料804と接触しないように、上述の2回目のレジスト形成工程で形成するレジスト822の厚さが調整されている。
【0055】
(2回目の鋳型除去工程)
1回目の鋳型除去工程と同様に、2回目の鋳型除去工程を行って、回折レンズ材料805をレジスト822とともに有機溶剤によって除去すると、図12に示す状態となる。必要に応じて図12の状態の基板の熱処理を行ってもよい。
【0056】
以上で、2回目の第1のリフトオフ工程を終了し、回折レンズのバイナリ形状を形成する第2工程が完了する。図12に示すように、4段のバイナリ形状を有する回折レンズを形成することができる。
【0057】
上記のとおり、回折レンズの2x段の階段形状を有するバイナリ形状は、回折レンズ材料によって形成されている基板の表面に、樹脂を主成分とする有機材料の鋳型を形成し、この鋳型を用いて、基板を常温あるいは100℃以下で加熱しながら基板の表面に回折レンズ材料をスパッタリング法等により積層し、回折レンズ材料を積層した後の基板から鋳型を取り除き、必要に応じて、鋳型を取り除いた後の基板を200℃以上1200℃以下の基板温度で熱処理する、第1のリフトオフ工程をx回繰返すことによって形成することができる。x回繰返される第1のリフトオフ工程のうち、i回目の第1のリフトオフ工程では、バイナリ形状の格子間隔をDとした場合に、D/(2i−1)の間隔で鋳型が配置される。必要に応じて、第1のリフトオフ工程をx回繰返した後の基板を熱処理してもよい。
【0058】
上記に説明した手順の回折レンズ形成工程により、回折レンズ11を形成することができ、さらに、回折レンズ11を原子間力顕微鏡(AFM)によって1nm間隔で測定した場合に、表面粗さのrms値を3nm以下とすることができる。従来提案されていた、レンズ材料を切削や研削する方法や、エッチング加工する方法を用いた場合には、原子間力顕微鏡によって1nm間隔で測定した場合の表面粗さのrms値が5nm以下(真空紫外線領域で実用的に利用可能なrms値)である回折レンズを有する色消しレンズを製造することは非常に困難であり、実質不可能であったが、上記の第1の製造方法によれば、それよりもさらに小さいrms値(3nm以下)を有する色消しレンズを、簡易な製造方法によって製造することができる。さらに、200℃以上1200℃以下の基板温度での熱処理によって回折レンズの材料となる材質が緻密化し、内部散乱がより少なく(透過率が高く)なるため、より散乱損失が少ない色消しレンズを製造することができる。
【0059】
(色消しレンズの第2の製造方法)
本実施形態に係る色消しレンズ10は、以下に説明する第2の製造方法によっても製造することができる。色消しレンズ10の第2の製造方法は、回折レンズ11を形成する回折レンズ形成工程において上記に説明した第1の製造方法と異なっている。
【0060】
第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程では、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて、第2のリフトオフ工程をx回繰返すことによって、回折レンズ11を形成する。x回行われるそれぞれの第2のリフトオフ工程を「i回目の第2のリフトオフ工程」(i=1,2,…,x)と呼ぶ。i回目の第2のリフトオフ工程は、有機材料の鋳型を形成する鋳型形成工程と、無機材料の鋳型としての犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、有機材料の鋳型を除去する鋳型除去工程と、積層工程と、犠牲層除去工程とを含んでいる。
【0061】
有機材料の鋳型形成工程では、回折レンズ材料によって形成されている基板の表面に有機材料であるレジストの鋳型を形成する。
【0062】
第2の製造方法では、第1の製造方法と異なり、有機材料の鋳型を用いて、リフトオフ法によってシリコンまたはシリコン化合物を主成分とする犠牲層を形成し、この犠牲層を回折レンズ材料を積層するための鋳型として用いる。この犠牲層を形成する犠牲層形成工程においては、バイナリ形状の格子間隔をDとした場合に、D/(2i−1)の間隔で犠牲層が配置される。犠牲層形成工程の後で、有機材料の鋳型を除去する鋳型除去工程を実施する。その後、積層工程を行う。積層工程では、この犠牲層を用いて基板を200℃から1200℃で加熱しながら表面に回折レンズ材料を抵抗加熱蒸着法や電子ビーム蒸着法等により積層する。犠牲層除去工程では、回折レンズ材料を積層した後の基板から等方性エッチングにより余分に積層した回折レンズ材料を犠牲層とともに取り除く。
【0063】
例えば、図13、図14に示すように、基板900の表面に有機材料の鋳型としてレジスト920を形成し、開口部931と遮光部932とを有するマスク930を用いて間隔Dでレジスト920をパターニングする(1回目の有機材料の鋳型形成工程)。その後、図15に示すように、スパッタリング法等によってシリコンあるいはシリカを積層して、犠牲層950,951を形成する(1回目の犠牲層形成工程)。これによって、基板900の表面に犠牲層950が積層され、レジスト920の表面に犠牲層951が積層される。その後、犠牲層951をレジスト920とともに有機溶剤によって除去すると、図16に示す状態となる(1回目の有機材料の鋳型除去工程)。
【0064】
図16に示すように、基板900の表面に形成された犠牲層950を鋳型にして、図17に示すように、回折レンズが有する階段形状の2段分の高さまで、回折レンズ材料層902および903を積層する。これによって、基板900の表面に回折レンズ材料層902が積層され、犠牲層950の表面に回折レンズ材料層903が積層される。等方性エッチングにより犠牲層950を除去すると、図18に示すように、犠牲層950とともにその表面に形成された回折レンズ材料層903が除去される(1回目の犠牲層除去工程)。
【0065】
次に、図19,図20に示すように、基板900の表面にレジスト922を形成し、開口部941と遮光部942とを有するマスク940を用いて間隔D/2でレジスト922をパターニングする(2回目の有機材料の鋳型形成工程)。その後、2回目の犠牲層形成工程によって、図21に示すように、回折レンズ材料層902の表面に犠牲層952が積層され、レジスト922の表面に犠牲層953を積層する(2回目の犠牲層形成工程)。その後、レジスト922を除去すると、図22に示すように、レジスト922とともにその表面に形成された犠牲層953が除去される(2回目の有機材料の鋳型除去工程)。その後、犠牲層952を鋳型にして2回目の回折レンズ材料の積層工程によって回折レンズ材料を積層すると、基板900および回折レンズ材料層902の表面に回折レンズ材料層904が積層され、犠牲層952の表面に回折レンズ材料層905が積層される。その後、犠牲層952を除去すると、図23,図24に示すように、犠牲層952とその表面に形成された回折レンズ材料層905が除去される(2回目の犠牲層除去工程)。上記の第2の製造方法によっても、回折レンズ11を原子間力顕微鏡(AFM)によって1nm間隔で測定した場合に、表面粗さのrms値を3nm以下とすることができる。表面粗さのrms値が、真空紫外線領域で実用的に利用可能なrms値(5nm以下)よりもさらに小さい回折レンズを実現することができる。
【0066】
尚、上記に説明した第1の製造方法と第2の製造方法では、色消しレンズ10の回折レンズ11と屈折レンズ12が同一の材料であるために、回折レンズ材料と屈折レンズ材料には、同一の材料を用いることができる。屈折レンズ材料と回折レンズ材料とは、同一材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0067】
上記の実施形態では、回折レンズと屈折レンズが別々のレンズであり、平行平面の回折レンズ11と平凸形状の屈折レンズ12の平面状の裏面同士が接触している、色消しレンズ10を例示して説明したが、これに限定されない。例えば、下記の(a)〜(e)に示すような形態を備えた色消しレンズであってもよい。
(a)回折レンズと屈折レンズとは、光軸を共有するように配置されていれば、表面と裏面を逆にして配置してもよい。また、回折レンズと屈折レンズとは、密着して配置されていてもよいし、離間して配置されていてもよい。回折レンズと屈折レンズとの間隔を調整することによって、色収差や焦点距離を調整することができる。
(b)屈折レンズは、平凸形状の屈折レンズに限定されず、例えば、両凸レンズ、両凹レンズ、メニスカスレンズ等であってもよい。
(c)回折レンズは、平行平面の回折レンズに限定されない。例えば、回折レンズが凸面や凹面上に形成されていてもよい。
(d)回折レンズの裏面が凸面や凹面であってもよい。
(e)色消しレンズは、回折光学素子と屈折光学素子が一体に形成された1つのレンズであってもよい。
(f)色消しレンズは、回折光学素子と屈折光学素子が一体に形成された1つのレンズであって、屈折レンズの表面と裏面の両方に、バイナリ形状の回折格子が形成されていてもよい。
【0068】
上記(b)(c)(f)およびこれらを組み合わせることによって、より開口数N.A.が大きい色消しレンズや波長帯域が広い色消しレンズが実現できる。
【0069】
上記においては、回折レンズ11と屈折レンズ12が別々のレンズである色消しレンズ10を例示して、第1の製造方法と第2の製造方法を説明したが、上記の(a)〜(f)およびこれらを組み合わせた色消しレンズであっても、第1の製造方法、第2の製造方法を有効に利用することができ、回折レンズを原子間力顕微鏡(AFM)によって1nm間隔で測定した場合に、表面粗さのrms値を3nm以下とすることができる。尚、第1の製造方法と第2の製造方法においては、色消しレンズの形態によっては、回折レンズ材料の基板を用いて鋳型形成工程を行ったが、屈折レンズ材料によって形成されている基板を用いて1回目の鋳型形成工程を行ってもよいことは、当業者であれば当然に理解することができる。例えば、回折レンズと屈折レンズが一体となっている色消しレンズを製造する場合には、屈折レンズ材料によって形成されている基板を用いて1回目の鋳型形成工程を行い、その後、積層工程によって、屈折レンズ材料の基板上に、回折レンズ材料を積層してもよい。また、屈折レンズ材料と回折レンズ材料は、同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0070】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0071】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0072】
10 色消しレンズ
11 回折レンズ
12 屈折レンズ
13 接合面
800,900 基板
802,803,804,805,902,903,904,905 レンズ材料層
820,822,920,922 レジスト
830,840,930,940 マスク
831,841,931,941 開口部
832,842,932,942 遮光部
950,952,953 シリコン層
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空紫外線領域で利用可能な色消しレンズとその製造方法に関し、この色消しレンズを備えた光源、分光計測装置、ラジカル計測装置等の光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学材料は、一般に、屈折率の波長依存性、すなわち波長分散特性を有するため、例えば、レンズ系に異なる波長の光を通すと、結像位置のずれが発生する。このずれが色収差であり、色収差を補正することを色消しという。色消しは、複数のレンズを適当な間隔を開けて配置したレンズ系や、複数のレンズを貼り合わせて1つのレンズとしたレンズ系によって行うことができる。色収差を補正したレンズ系を色消しレンズという。
【0003】
複数のレンズを貼り合わせて1つのレンズとした色消しレンズとしては、例えば、正の屈折力を有する凸形状のクラウンレンズと、負の屈折力を有する凹形状のフリントレンズとを貼り合わせて、2波長の色収差を補正したアクロマートレンズが提案されている。また、光軸について同心円状に配置された複数の格子を有し、各格子に矩形形状が形成されている回折レンズと屈折レンズとを組み合わせた色消しレンズが提案されている。このような色消しレンズは、例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1に開示されている。特許文献1、特許文献2に開示されている色消しレンズは、400nm程度以上の波長領域での色収差を補正可能であると記載されている。特許文献2に記載されているように、回折レンズの矩形形状は、切削によって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−304741号公報
【特許文献2】特表平8−508116号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Scientific American, May 1992, 50-55, “Binary Optics”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
真空紫外線領域(10〜200nm)では好適な色消しレンズを実現することが困難であり、光源の集光や分光器のコリメータ等に表面反射鏡が多く用いられている。しかし、表面反射鏡を用いる場合に他の光学素子に表面反射鏡を近接することができない上、表面反射鏡によって光学系が屈曲するために光学装置が大型になってしまう場合が多い。
【0007】
波長が200nm以下となる真空紫外線領域での色収差を補正可能な色消しレンズが求められている。真空紫外線領域において多くの光学材料は吸収が大きくなり、光が完全に透過しなくなる波長(吸収端)近傍において屈折率が急激に増大する。また、一般に吸収端の波長が近い光学材料は、屈折率の波長分散特性が類似してしまう。このため、吸収端の波長が近い光学材料同士は波長に対して屈折率差の変化が少なく、アクロマートレンズのように正の屈折力を有する屈折レンズと負の屈折力を有する屈折レンズとを貼り合わせた色消しレンズを用いる場合には、それぞれの屈折レンズの曲率を大きくする必要があり、色消しレンズの厚みが厚くなる。
【0008】
一方、回折レンズは、屈折レンズとは波長分散特性が逆であり、真空紫外線を透過する光学材料を用いた回折レンズを、同様に真空紫外線を透過する光学材料を用いた屈折レンズと組み合わせ、色消しレンズとして利用すれば、厚みの小さい色消しレンズを実現することができる。
【0009】
しかしながら、波長が短くなるほど、散乱によって光の損失が大きくなる。このため、波長の短い真空紫外線領域で高い効率を確保するためには、回折レンズの表面を滑らかにして散乱を抑制する必要がある。従来、回折レンズは、レンズ材料を機械的に切削や研削する方法、あるいはレンズ材料のエッチング処理を行う方法によって、回折レンズの材料を削り取ることによって加工されており、これらの方法によって真空紫外線を透過する光学材料を加工する場合には、回折レンズの効率を確保するために必要な表面粗さを得ることができなかった。
【0010】
一方、回折レンズの材料として、樹脂材料を用いれば、回折レンズの加工精度を確保することが比較的容易だが、樹脂材料は、280nm以下の紫外線を透過することはできないため、樹脂の回折レンズを屈折レンズと組み合わせた色消しレンズは、真空紫外線領域での色収差を補正することはできない。
【0011】
上記の課題に鑑み、本願では、吸収損失および散乱損失が少なく、真空紫外線領域で好適に用いることができる色消しレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、屈折レンズと、複数のバイナリ形状の格子を有する回折レンズとを備えている色消しレンズであって、前記屈折レンズは、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて形成されており、前記回折レンズは、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて形成されており、前記回折レンズの格子の表面粗さの平均二乗偏差値(rms値)は、5nm以下であり、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの屈折率が大きく変化する短波長側の吸収端より長い波長の真空紫外線領域の色収差を補正する、色消しレンズを提供する。尚、本明細書では、屈折レンズの材料として用いたレンズ材料を特に屈折レンズ材料と呼び、回折レンズの材料として用いたレンズ材料を特に回折レンズ材料と呼ぶ。
【0013】
尚、本願では、「色消しレンズ」は、光軸を共有する複数のレンズを有するレンズ系であってもよく、単一のレンズであってもよい。
【0014】
本願に係る色消しレンズによれば、屈折レンズと回折レンズとを備えており、回折レンズの格子の表面粗さの平均二乗偏差値(rms値)は、5nm以下であるため、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの屈折率が大きく変化する短波長側の吸収端より長い波長の真空紫外線領域での光の吸収損失および散乱損失が少ない、真空紫外線領域の色収差を補正するための色消しレンズを提供することができる。この色消しレンズは、真空紫外線領域、特に波長が120〜200nmの真空紫外線領域での色収差を補正する目的に用いる場合にも、光の吸収損失および散乱損失を少なくすることができる。
【0015】
前記複数のバイナリ形状の格子の格子間隔は、前記色消しレンズの光軸に近い側で広く、前記色消しレンズの光軸に遠い側で狭くなっており、前記複数のバイナリ形状の格子は、前記色消しレンズの光軸に垂直な平面と光軸に平行な曲面によって区画される2x段の階段形状を有していてもよい。
【0016】
前記回折レンズの格子の表面粗さの平均二乗偏差値(rms値)は、3nm以下であることが好ましい。色消しレンズの散乱損失をより小さくすることができる。
【0017】
前記回折レンズのバイナリ形状は、前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面に、樹脂を主成分とする有機材料の鋳型を形成し、前記鋳型を用いて前記基板を常温または100℃以下の基板温度で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料を積層し、前記鋳型を除去することによって形成されることが好ましい。回折レンズの表面粗さのrms値を3nm以下にすることができ、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの屈折率が異常分散を起こす波長領域を含む真空紫外線領域で、散乱損失が少ない回折レンズを提供することができる。
【0018】
前記回折レンズのバイナリ形状は、前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面にシリコンまたはシリカ(シリコン酸化物)を主成分とする無機材料の鋳型としての犠牲層を形成し、前記鋳型を用いて前記基板を200℃以上1200℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料を積層し、前記犠牲層を除去することによって形成されることが好ましい。回折レンズの表面粗さのrms値を3nm以下にすることができ、散乱損失が少ない回折レンズの格子が実現できる。これによって、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの屈折率が異常分散を起こす波長領域を含む真空紫外線領域での損失がより少ない色消しレンズを提供することができる。
【0019】
本願に係る色消しレンズでは、屈折レンズの表面と裏面の少なくともいずれか一方に、バイナリ形状の回折格子が形成されていてもよい。
【0020】
本願に係る色消しレンズは、真空紫外線光源、分光計測装置、ラジカル計測装置に好適に用いることができる。これによって、光学装置の真空紫外線領域での吸収損失及び散乱損失を軽減することによる効率の向上、計測装置等の光学装置の小型化を両立することが可能となる。
【0021】
本発明は、屈折レンズと、回折レンズとを備えている色消しレンズの製造方法を提供することもできる。本発明に係る色消しレンズの第1の製造方法は、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて屈折レンズを形成する屈折レンズ形成工程と、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて回折レンズを形成する回折レンズ形成工程と、を含んでいる。前記回折レンズ形成工程は、前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面に、樹脂を主成分とする有機材料の鋳型を形成する鋳型形成工程と、前記鋳型を用いて前記基板を常温あるいは100℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料をスパッタ法により積層する積層工程と、前記熱処理工程後に鋳型を除去する鋳型除去工程とを含む。
【0022】
本発明に係る色消しレンズは、第2の製造方法を用いることによっても製造できる。本発明に係る色消しレンズの第2の製造方法は、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて屈折レンズを形成する屈折レンズ形成工程と、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて回折レンズを形成する回折レンズ形成工程と、を含んでいる。前記回折レンズ形成工程は、前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面にシリコンまたはシリカ(シリコン酸化物)を主成分とする無機材料の鋳型としての犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、前記鋳型を用いて前記基板を200℃以上1200℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料を積層する積層工程と、前記犠牲層を除去する犠牲層除去工程とを含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、真空紫外線領域での吸収損失および散乱損失が少ないことにより効率が高い、真空紫外線領域の色収差を補正するための色消しレンズを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係る色消しレンズを回折レンズ側から見た図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】実施例1の色消しレンズの光学特性を示す図である。
【図4】色消しレンズを用いたラジカル計測装置を示す概念図である。
【図5】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図6】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図7】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図8】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図9】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図10】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図11】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図12】色消しレンズの第1の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図13】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図14】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図15】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図16】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図17】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図18】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図19】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図20】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図21】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図22】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図23】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【図24】色消しレンズの第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(色消しレンズ)
図1は、実施形態に係る色消しレンズ10を回折レンズ11側から見た図であり、図2は、図1のII−II線断面図である。図1、図2に示すように、色消しレンズ10は、回折レンズ11と屈折レンズ12とを有している。回折レンズ11は、表面側は平面上に形成されたバイナリ形状であり、裏面側は平面である回折レンズである。屈折レンズ12は、表面側は凸レンズ形状であり、裏面側は平面である屈折レンズである。回折レンズ11の裏面と屈折レンズ12の裏面は、接触面13において接するように配置されている。色消しレンズ10では、回折レンズ11と屈折レンズ12とは、フッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)からなる群から選ばれる少なくとも一種である、同一のレンズ材料によって形成されている。フッ化リチウム、フッ化マグネシウムは、120nmより長波長の真空紫外線透過率に優れた材料であるため、色消しレンズ10は、120nmより長波長の真空紫外線透過率に優れている。レンズ材料としてフッ化リチウムを用いる場合、吸収短波長は105nm近傍であり、屈折率が大きく変化する屈折率変化領域(短波長側の吸収端波長から吸収端波長の2倍近傍における屈折率が急激に変化する波長領域)は110〜200nmである。レンズ材料としてフッ化マグネシウムを用いる場合、吸収短波長は110nm近傍であり、屈折率が大きく変化する屈折率変化領域は115〜200nmである。ただし、どちらの物質も吸収端の波長から120nm未満までは吸収が大きく、実用性が低い。
【0026】
色消しレンズ10を構成する回折レンズ11と屈折レンズ12は、図1および図2に示す軸Zを中心とする円形状のレンズであり、図2に斜線で示す断面図の図形を、軸Zを中心に回転させた形状を有している。回折レンズ11は、バイナリ形状(階段形状)の格子が軸Zを中心に同心円状に形成されている回折レンズである。図1に示す1つの同心円が1つの格子を示しており、格子間隔は、軸Zから遠ざかるにつれて狭くなっている。この格子間隔は、隣り合う格子の最も高い部分同士の距離(例えば、図2に図示する距離D)である。回折光学素子では、格子間隔が大きいほど、回折角度が小さくなることから、回折レンズ11に入射する光線は、軸Zに近い側(格子間隔が大きい側)ほど回折角度が小さくなり、軸Zに遠い側(格子間隔が小さい側)ほど回折角度が大きくなる。その結果、回折レンズ11は、軸Zを光軸とするレンズとして機能する。回折レンズ11では、複数の格子のそれぞれにおいて、色消しレンズ10の光軸(軸Z)から周縁部に向けて下降しており、光軸に垂直な平面と光軸に平行な曲面によって区画される2x段の階段形状を有している。このように、階段形状が光軸から周縁部に向かって下降している場合、回折レンズは、正の屈折力を有する。各格子の格子高さ(階段形状の最も高い段の上面から、最も低い段までの距離)はHであり、全て同じである。格子高さHは、波長の整数倍となるように設計されている。各格子において、複数の段の幅は同じであり、隣接する段の高低差は同じである。
【0027】
本実施形態に係る色消しレンズ10は、正の屈折力を有する回折レンズ11と、正の屈折力を有する屈折レンズ12とを組み合わせた、正の屈折力を有する色消しレンズである。尚、色消しレンズは、負の屈折力を有する色消しレンズであってもよい。この場合、回折レンズとして、バイナリ形状が、回折レンズ11とは逆に光軸から周縁部に向けて上昇している回折レンズを用い、屈折レンズとして、例えば凹レンズ形状の屈折レンズを用いればよい。
【0028】
図2では、各格子の段数が4段である場合を図示しているが、これに限定されない。段数は、2のx乗(2x、但しx≧1)であればよく、例えば、2段、4段、8段、16段としてもよい。各格子の段数が多いほど回折効率が高くなるが、段数が16段以上となると、滑らかな斜面のノコギリ型形状の格子の回折効率に漸近する。非特許文献1によれば、ノコギリ型形状の格子の回折効率を100%とした場合、段数が2段の場合の回折効率の最大値は41%であり、4段の場合には81%、8段の場合には95%、16段の場合には99%である。また、ノコギリ形状の格子において、格子間隔が波長の10倍である場合には回折効率の最大値は85%程度となり、格子間隔が波長の5倍である場合には回折効率の最大値は80%程度となり、格子間隔が波長の4倍である場合には、回折効率の最大値は75%程度となり、格子間隔が波長の3倍である場合には、回折効率の最大値は60%程度となる(Proc. SPIE 5005, 8-19, (2003), “Optimization of a Volume Phase Holographic Grism for Astronomical Observation using the Photopolymer” を参照)。バイナリ形状の格子を有する回折レンズ11の回折効率は、上記に説明したノコギリ型形状の格子の回折効率に、ノコギリ形状の格子を100%とした場合のバイナリ形状の段数による回折効率の割合を乗じることによって求めることができる。例えば、格子間隔が波長の5倍であり、バイナリ形状の段数が8段の場合には、80%と95%とを乗じた76%程度の回折効率を得ることができる。尚、全ての格子の段数を同じにする必要は無い。回折レンズ11は、例えば、4段、8段、16段の段数を有する格子を少なくとも1つずつ備えていてもよい。この場合、軸Zに近い格子(格子間隔の大きい格子)ほど段数が多くなるように設計することが好ましい。例えば、軸Zに最も近い側に位置する1つまたは複数の格子を16段とし、これよりも外側に位置する1つまたは複数の格子を8段とし、最も軸Zから遠い側(最外周)に位置する1つまたは複数の格子を4段とすることができる。
【0029】
散乱は光学系の効率を低下させるばかりではなく、迷光の一因にもなるため、散乱損失が少ないほど望ましい。散乱が大きくなると測定値に誤差が生じてしまうことがあり、実用的には目的に応じて光学素子の散乱損失が1%以下から24%以下であることが求められる場合が多い。特に強い背景光がある場合の分光計測等においては、より散乱損失が少ない色消しレンズが求められる。一方、単色光源を用いた吸光度測定等においては散乱損失が50%程度の色消しレンズであっても実用的に使用できる。
【0030】
色消しレンズ10の回折レンズ11における散乱損失Lsは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)によって1nm間隔で測定した場合に表面粗さの平均二乗偏差の値(rms値)が大きくなるほど大きくなる。表面粗さのrms値をσとし、波長λを与えると、散乱損失Ls(%)は、下記の式(1)によって求めることができる。
Ls=[1−exp{−(4πnσcosθ/λ)2}]×100 …… (1)
ここでθは光束の入射角であり、nは媒質の屈折率である。
【0031】
式(1)を用いて回折レンズの散乱損失Lsを計算すると、波長120nmにおいて、垂直入射(θ=0)、屈折率n=1、表面粗さのrms値σが1nmである場合の散乱損失Lsは1%、表面粗さのrms値σが3nmである場合の散乱損失Lsは10%、表面粗さのrms値σが5nmである場合の散乱損失Lsは24%、表面粗さのrms値σが10nmである場合の散乱損失Lsは67%である。波長が短い真空紫外線領域で色消しレンズを用いる場合には、表面粗さが大きくなるほど、散乱の影響によって真空紫外線の透過率が低減する割合が多くなる。回折レンズ11をAFMによって1nm間隔で測定した場合に表面粗さのrms値は5nm以下であるため、波長120nmにおける散乱損失が24%以下である。波長が短いほど、散乱損失は大きくなることから、回折レンズ11は、波長120nm以上200nm以下の真空紫外線において散乱損失が24%以下であり、用途によって波長120nm以上200nm以下の真空紫外線において実用的に使用することができる。回折レンズ11の表面粗さのrms値は、3nm以下であればより好ましく、1nm以下であれば、特に好ましい。回折レンズ11の表面粗さのrms値を3nm以下とすれば、波長120nm以上200nm以下の真空紫外線における散乱損失は10%以下に低減でき、その表面粗さのrms値が1nm以下とすれば、散乱損失は1%以下に低減することができる。
【実施例1】
【0032】
次に、実施形態に係る色消しレンズをさらに具現化した実施例1について説明する。
図3は、実施形態に係る色消しレンズ10の一実施例について、シミュレーションを行い、その光学特性を調べた結果を示している。横軸は色消しレンズ等に透過させる光線の波長を示しており、縦軸は、焦点距離を示している。シミュレーションを行った色消しレンズ10は、材質がフッ化マグネシウムであり、屈折レンズ12の曲率半径が28mmであり、回折レンズ11の半径6.25mmにおける格子間隔が696nmであり、図3に参照番号101として示している。また、比較のため、回折レンズを用いた場合のシミュレーション結果を参照番号151として示しており、屈折レンズを用いた場合のシミュレーション結果を参照番号152として示している。比較例として用いた回折レンズは、半径6.25mmにおける格子間隔が420nmの回折レンズであり、屈折レンズは、曲率半径が11.6mmの平凸レンズであり、いずれのレンズも125nmにおける焦点距離が20mmになるように設計されている
【0033】
尚、回折レンズまたは回折レンズは、回折格子から出てきた光が波長の整数倍の行路差を持つように設計されている。すなわち、回折次数m、波長をλ、格子間隔をd、入射角をθ1、回折角をθ2とすると、下記の式(2)によって表される回折格子の式を満たしている。
mλ=d(sinθ1+sinθ2) …… (2)
ここでm=1、θ1=0(垂直入射)とすると、
λ=dsinθ2 …… (3)
になる。一方、回折レンズの半径rの格子による回折角θ2は焦点距離fから
r/f=tanθ2 …… (4)
によって与えられる。波長λ、回折レンズの半径rの格子による回折角θ2が与えられると式(3)と式(4)より、格子間隔dは
d=λ/sin{tan−1(r/f)} ……(5)
より求めることができる。すなわち、式(5)を用いれば、回折レンズまたは回折レンズの特定の半径における格子間隔から、波長と焦点距離との関係を求めることができる。
【0034】
尚、屈折レンズ(屈折レンズ)の焦点距離をf1、回折レンズ(回折レンズ)の焦点距離をf2とすると屈折レンズと回折レンズを密着させた場合の色消しレンズの焦点距離f0は下記の式(6)によって求めることができる。
1/f0=1/f1+1/f2} ……(6)
また、最外周の半径をrとすると平行光束が入射した場合に結像側の開口数N.A.は、下記の式(7)によって求めることができる。
N.A.=sin {tan−1 (r/f)} ……(7)
【0035】
図3に示すように、比較例(151,152)では、いずれも焦点距離の波長依存性が大きくなっている。屈折レンズ(151)を用いた場合には、波長が短いほど焦点距離が短くなっており、回折レンズ(152)を用いた場合には、波長が短いほど焦点距離が長くなっている。これに対して、実施例に係る色消しレンズを用いた場合には、焦点距離の波長依存性が小さくなっており、色収差が補正されている。
【0036】
上記のとおり、本実施形態に係る色消しレンズ10は、真空紫外線の透過率に優れており、真空紫外線領域での色収差を補正可能な色消しレンズとして好適に利用することができる。本実施形態に係る色消しレンズは、例えば、真空紫外線を用いた光学装置に利用可能であり、真空紫外線を用いて測定を行う分光計測装置に好適に用いることができる。
【0037】
本実施形態に係る色消しレンズ10は、特に、プラズマ中に存在する水素ラジカル(H),窒素ラジカル(N)、酸素ラジカル(O)、炭素ラジカル(C)等の絶対数を計測するラジカル計測装置に好適に用いることができる。これらのラジカルの基底状態の電子遷移吸収線が観測可能な波長は、窒素ラジカルが120nm、水素ラジカルが121.6nm、酸素ラジカルが130.4nm、炭素ラジカルが165.7nmである。かかるラジカル計測装置では、窒素ラジカル、水素ラジカル、酸素ラジカルを測定する場合には120nm〜130.4nmの真空紫外線領域における電子遷移吸収線を測定する。さらに、炭素ラジカルも測定したい場合には、120nm〜165.7nmの真空紫外線波長領域における電子遷移吸収線を測定する。このような波長領域の真空紫外線を透過する材料としては、フッ化マグネシウムとフッ化リチウムが挙げられるが、従来、これらの材料を用いて、屈折レンズと回折レンズとを組み合わせ、これによって真空紫外線領域での色収差を補正可能な色消しレンズを提供することはできなかった。これは、従来提案されていたレンズ材料を切削や研削する方法や、エッチング加工する方法によって製作された格子の表面粗さでは真空紫外線の散乱損失が大きくて実用的ではなく、良好な表面粗さが得られる回折レンズの実現方法が提案されていなかったことが一因であると考えられる。
【0038】
本実施形態に係る色消しレンズ10のように、回折レンズ11の階段形状が光軸から周縁部に向けて下降しており、光軸に垂直な平面と光軸に平行な曲面によって区画される2x段の階段形状を有する、複数のバイナリ形状の格子を有していれば、回折レンズ11の平面部分に用いられるレンズ材料からなる基板の表面に鋳型を形成し、この鋳型を用いて基板の表面に回折レンズ11の階段形状として用いられるレンズ材料を積層し、鋳型を取り除くリフトオフ工程を行うことによって、容易に精度よく加工することができる。この鋳型を用いて回折レンズを成形し、その後、鋳型を除去すれば、回折レンズの形状を十分に確保し、回折レンズのバイナリ形状の表面粗さを小さくすることができる。回折レンズ11をAFMによって1nm間隔で測定した場合に表面粗さのrms値が5nm以下である色消しレンズ10を実現することができるため、光の散乱損失を小さくすることができ、真空紫外線の透過率を向上させることができる。また、基板を熱処理してもよい。熱処理は、基板温度が200℃以上1200℃以下となる条件で行うことが好ましく、これによって、真空紫外線の透過率をさらに向上させることが可能となる。
【0039】
本実施形態に係る色消しレンズを、真空紫外線を用いる光学装置や真空紫外線の光源、真空紫外線を含む波長領域において測定を行う分光計測装置に用いれば、これらの装置を小型化することが可能となる。例えば、上記において説明したラジカル計測装置に適用すれば、真空紫外線の光源部と分光計測装置部を手の平サイズに納めて小型化されたラジカル計測装置を実現することも可能である。このように小型化されたラジカル計測装置は、様々な製造装置に組み込むことができる。例えば、半導体製造装置にラジカル計測装置を組み込んで、製造プロセスを実行しながら、実行中の製造プロセスで現に発生しているラジカル計測を行うことができる。ラジカルの計測値に基づいて半導体装置の製造プロセスの条件を制御できるため、製造における歩留まりを向上させることができる。
【0040】
図4は、本実施形態に係る色消しレンズ10を設置したラジカル計測装置30を模式的に示す図である。ラジカル計測装置30は、真空紫外線光源310と、真空紫外線分光器320と、真空チャンバ330とを備えている。真空紫外線光源310のレンズ312と真空紫外線分光器320のレンズ322とは、真空チャンバ330内に発生するプラズマ340の内部に設置されている。
【0041】
本実施形態に係る色消しレンズ10を、レンズ312とレンズ322として用いれば、測定する波長ごとにレンズの焦点位置を調整する必要が無くなり、真空紫外線光源310と真空紫外線分光器320とを手の平サイズに納めて小型化することができる。このように、本実施形態に係る色消しレンズ10によれば、ラジカル計測装置30を小型化することが可能となり、波長を変えても計測を速やかに能率よく行うことができるようになる。
【0042】
(色消しレンズの第1の製造方法)
次に、実施形態に係る色消しレンズ10の第1の製造方法について説明する。
本実施形態に係る第1の製造方法は、屈折レンズ12を形成する屈折レンズ形成工程と、回折レンズ11を形成する回折レンズ形成工程と、を含んでいる。
本実施形態に係る屈折レンズ12は、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて形成され、一般的な凸形状のレンズの製造方法を用いて容易に形成することができるため、詳細な説明を省略する。以下、本実施形態に係る回折レンズ11を形成する回折光学素子形成工程について、図5〜図12を参照しながら説明する。
【0043】
第1の製造方法に係る回折光学素子形成工程では、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種であるレンズ材料を用いて、回折レンズ11を形成する。尚、本明細書では、屈折レンズの材料として用いたレンズ材料を特に屈折レンズ材料と呼び、回折レンズの材料として用いたレンズ材料を特に回折レンズ材料と呼ぶ。
【0044】
回折レンズ形成工程では、第1のリフトオフ工程をx回繰返す。x回行われるそれぞれの第1のリフトオフ工程を「i回目のリフトオフ工程」(i=1,2,…,x)と呼ぶ。i回目の第1のリフトオフ工程は、鋳型形成工程と、積層工程と、鋳型除去工程とを含んでいる。必要に応じて、鋳型除去工程の後あるいは最終工程において熱処理工程を追加することもできる。
【0045】
i回目の第1のリフトオフ工程において、鋳型形成工程では、レジストとして一般に用いられている、樹脂を主成分とする有機材料を用いて鋳型を基板(回折レンズ11の材料となる回折レンズ材料によって形成されている基板)の表面に形成する。この鋳型形成工程では、バイナリ形状の格子間隔をDとした場合に、D/(2i−1)の間隔で鋳型が配置される。積層工程では、樹脂の鋳型を用いて基板の表面に回折レンズ材料をスパッタリング法等によって積層する。積層工程では、基板温度は常温であってもよく、基板温度が100℃以下となるように基板を加熱してもよい。鋳型除去工程では、有機溶剤等によって有機材料の鋳型を取り除く。必要に応じて、熱処理工程を行ってもよい。熱処理工程では、回折レンズ材料を積層した後の基板を、200℃以上1200℃以下の基板温度で焼結する。熱処理工程は、リフトオフ工程中に行ってもよいし、x回のリフトオフ工程が全て完了した後に行ってもよい。鋳型形成工程、積層工程、鋳型除去工程、(熱処理工程)は、同様の手順によって繰返して実行してもよい。
以下、x=2の場合、すなわち4段のバイナリ形状を例示して、回折レンズ形成工程について具体的に説明する。
【0046】
(1回目の第1のリフトオフ工程)
(1回目の鋳型形成工程)
まず、図5に示すように、回折レンズ材料からなる基板800(例えばMgF2基板)の表面に、樹脂を主成分とする有機材料であるレジスト820を形成し、マスク830を介して、レジスト820に露光を行う。マスク830は、開口部831と遮光部832とを有しているため、レジスト820の開口部831の下方に位置する部分にのみ光が照射される。マスク830を平面視すると、遮光部832は同心円状に形成されており、遮光部832の同心軸が回折レンズ12の格子の同心軸である軸Zに一致するように、マスク830は配置される。バイナリ形状の格子間隔をDとした場合に、開口部831と遮光部832のピッチは、Dとなっている。
【0047】
露光を行った後、現像すると、図6に示すように、レジスト820をパターニングすることができる。レジスト820は、回折レンズ12の軸Zを同心軸とする環状にパターニングされている。
【0048】
(1回目の積層工程)
図6の状態の基板に対して、回折レンズ材料を積層すると、図7に示すように、基板800の表面に回折レンズ材料802が積層され、レジスト820の表面に回折レンズ材料803が積層される。積層工程では、回折レンズが有する階段形状の2段分の高さまで、回折レンズ材料が積層される。尚、1回目の積層工程において、レジスト820の表面に形成された回折レンズ材料層803が、基板800の表面に積層された回折レンズ材料層802と接触しないように、上述の1回目のレジスト形成工程で形成するレジスト820の厚さが調整されている。回折レンズ材料は、例えば、スパッタリング法によって積層することができる。スパッタリング法によるレンズ材料の積層に際しては、基板800の温度は常温であってもよく、100℃以下となるように基板800を加熱してもよい。
【0049】
(1回目の鋳型除去工程)
次に、回折レンズ材料803をレジスト820とともに有機溶剤によって除去すると、図8に示す状態となる。
【0050】
必要に応じて図8の状態の基板の熱処理を行う。熱処理は、基板800の温度が200℃以上1200℃以下となる条件で行うことが好ましい。200℃以上1200℃以下の基板温度でレンズ材料の熱処理を行うことにより、レンズ材料の真空紫外線透過率をより高くすることが可能となる場合がある。
【0051】
以上で、1回目の第1のリフトオフ工程を終了し、次に、2回目の第1のリフトオフ工程を実施する。
【0052】
(2回目の第1のリフトオフ工程)
(2回目の鋳型形成工程)
次に、2回目の鋳型形成工程を行う。図8に示す状態の基板の表面に、図9に示すように、樹脂を主成分とする有機材料であるレジスト822を形成し、マスク840を介して、レジスト822に露光を行う。マスク840は、開口部841と遮光部842とを有しているため、レジスト820の開口部841の下方に位置する部分にのみ光が照射される。マスク840を平面視すると、遮光部842は同心円状に形成されており、遮光部842の同心軸が回折レンズ12の格子の同心軸である軸Zに一致するように、マスク840は配置される。バイナリ形状の格子間隔をDとした場合に、開口部841と遮光部842のピッチは、D/2となっている。開口部841の幅は開口部831の半分であり、遮光部842の幅は遮光部832の幅の半分である。
【0053】
露光を行った後、現像すると、図10に示すように、レジスト822をパターニングすることができる。レジスト822は、回折レンズ12の軸Zを同心軸とする環状にパターニングされている。
【0054】
(2回目の積層工程)
図10の状態の基板に対して、回折レンズの材料となる回折レンズ材料を積層すると、図11に示すように、基板800と回折レンズ材料802の表面に回折レンズ材料804が積層され、レジスト822の表面に回折レンズ材料805が積層される。積層工程では、回折レンズが有する階段形状の1段分の高さまで、回折レンズ材料がスパッタリング法等により積層される。尚、2回目の積層工程において、レジスト822の表面に形成された回折レンズ材料層805が、回折レンズ材料802の表面に積層された回折レンズ材料804と接触しないように、上述の2回目のレジスト形成工程で形成するレジスト822の厚さが調整されている。
【0055】
(2回目の鋳型除去工程)
1回目の鋳型除去工程と同様に、2回目の鋳型除去工程を行って、回折レンズ材料805をレジスト822とともに有機溶剤によって除去すると、図12に示す状態となる。必要に応じて図12の状態の基板の熱処理を行ってもよい。
【0056】
以上で、2回目の第1のリフトオフ工程を終了し、回折レンズのバイナリ形状を形成する第2工程が完了する。図12に示すように、4段のバイナリ形状を有する回折レンズを形成することができる。
【0057】
上記のとおり、回折レンズの2x段の階段形状を有するバイナリ形状は、回折レンズ材料によって形成されている基板の表面に、樹脂を主成分とする有機材料の鋳型を形成し、この鋳型を用いて、基板を常温あるいは100℃以下で加熱しながら基板の表面に回折レンズ材料をスパッタリング法等により積層し、回折レンズ材料を積層した後の基板から鋳型を取り除き、必要に応じて、鋳型を取り除いた後の基板を200℃以上1200℃以下の基板温度で熱処理する、第1のリフトオフ工程をx回繰返すことによって形成することができる。x回繰返される第1のリフトオフ工程のうち、i回目の第1のリフトオフ工程では、バイナリ形状の格子間隔をDとした場合に、D/(2i−1)の間隔で鋳型が配置される。必要に応じて、第1のリフトオフ工程をx回繰返した後の基板を熱処理してもよい。
【0058】
上記に説明した手順の回折レンズ形成工程により、回折レンズ11を形成することができ、さらに、回折レンズ11を原子間力顕微鏡(AFM)によって1nm間隔で測定した場合に、表面粗さのrms値を3nm以下とすることができる。従来提案されていた、レンズ材料を切削や研削する方法や、エッチング加工する方法を用いた場合には、原子間力顕微鏡によって1nm間隔で測定した場合の表面粗さのrms値が5nm以下(真空紫外線領域で実用的に利用可能なrms値)である回折レンズを有する色消しレンズを製造することは非常に困難であり、実質不可能であったが、上記の第1の製造方法によれば、それよりもさらに小さいrms値(3nm以下)を有する色消しレンズを、簡易な製造方法によって製造することができる。さらに、200℃以上1200℃以下の基板温度での熱処理によって回折レンズの材料となる材質が緻密化し、内部散乱がより少なく(透過率が高く)なるため、より散乱損失が少ない色消しレンズを製造することができる。
【0059】
(色消しレンズの第2の製造方法)
本実施形態に係る色消しレンズ10は、以下に説明する第2の製造方法によっても製造することができる。色消しレンズ10の第2の製造方法は、回折レンズ11を形成する回折レンズ形成工程において上記に説明した第1の製造方法と異なっている。
【0060】
第2の製造方法に係る回折レンズ形成工程では、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて、第2のリフトオフ工程をx回繰返すことによって、回折レンズ11を形成する。x回行われるそれぞれの第2のリフトオフ工程を「i回目の第2のリフトオフ工程」(i=1,2,…,x)と呼ぶ。i回目の第2のリフトオフ工程は、有機材料の鋳型を形成する鋳型形成工程と、無機材料の鋳型としての犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、有機材料の鋳型を除去する鋳型除去工程と、積層工程と、犠牲層除去工程とを含んでいる。
【0061】
有機材料の鋳型形成工程では、回折レンズ材料によって形成されている基板の表面に有機材料であるレジストの鋳型を形成する。
【0062】
第2の製造方法では、第1の製造方法と異なり、有機材料の鋳型を用いて、リフトオフ法によってシリコンまたはシリコン化合物を主成分とする犠牲層を形成し、この犠牲層を回折レンズ材料を積層するための鋳型として用いる。この犠牲層を形成する犠牲層形成工程においては、バイナリ形状の格子間隔をDとした場合に、D/(2i−1)の間隔で犠牲層が配置される。犠牲層形成工程の後で、有機材料の鋳型を除去する鋳型除去工程を実施する。その後、積層工程を行う。積層工程では、この犠牲層を用いて基板を200℃から1200℃で加熱しながら表面に回折レンズ材料を抵抗加熱蒸着法や電子ビーム蒸着法等により積層する。犠牲層除去工程では、回折レンズ材料を積層した後の基板から等方性エッチングにより余分に積層した回折レンズ材料を犠牲層とともに取り除く。
【0063】
例えば、図13、図14に示すように、基板900の表面に有機材料の鋳型としてレジスト920を形成し、開口部931と遮光部932とを有するマスク930を用いて間隔Dでレジスト920をパターニングする(1回目の有機材料の鋳型形成工程)。その後、図15に示すように、スパッタリング法等によってシリコンあるいはシリカを積層して、犠牲層950,951を形成する(1回目の犠牲層形成工程)。これによって、基板900の表面に犠牲層950が積層され、レジスト920の表面に犠牲層951が積層される。その後、犠牲層951をレジスト920とともに有機溶剤によって除去すると、図16に示す状態となる(1回目の有機材料の鋳型除去工程)。
【0064】
図16に示すように、基板900の表面に形成された犠牲層950を鋳型にして、図17に示すように、回折レンズが有する階段形状の2段分の高さまで、回折レンズ材料層902および903を積層する。これによって、基板900の表面に回折レンズ材料層902が積層され、犠牲層950の表面に回折レンズ材料層903が積層される。等方性エッチングにより犠牲層950を除去すると、図18に示すように、犠牲層950とともにその表面に形成された回折レンズ材料層903が除去される(1回目の犠牲層除去工程)。
【0065】
次に、図19,図20に示すように、基板900の表面にレジスト922を形成し、開口部941と遮光部942とを有するマスク940を用いて間隔D/2でレジスト922をパターニングする(2回目の有機材料の鋳型形成工程)。その後、2回目の犠牲層形成工程によって、図21に示すように、回折レンズ材料層902の表面に犠牲層952が積層され、レジスト922の表面に犠牲層953を積層する(2回目の犠牲層形成工程)。その後、レジスト922を除去すると、図22に示すように、レジスト922とともにその表面に形成された犠牲層953が除去される(2回目の有機材料の鋳型除去工程)。その後、犠牲層952を鋳型にして2回目の回折レンズ材料の積層工程によって回折レンズ材料を積層すると、基板900および回折レンズ材料層902の表面に回折レンズ材料層904が積層され、犠牲層952の表面に回折レンズ材料層905が積層される。その後、犠牲層952を除去すると、図23,図24に示すように、犠牲層952とその表面に形成された回折レンズ材料層905が除去される(2回目の犠牲層除去工程)。上記の第2の製造方法によっても、回折レンズ11を原子間力顕微鏡(AFM)によって1nm間隔で測定した場合に、表面粗さのrms値を3nm以下とすることができる。表面粗さのrms値が、真空紫外線領域で実用的に利用可能なrms値(5nm以下)よりもさらに小さい回折レンズを実現することができる。
【0066】
尚、上記に説明した第1の製造方法と第2の製造方法では、色消しレンズ10の回折レンズ11と屈折レンズ12が同一の材料であるために、回折レンズ材料と屈折レンズ材料には、同一の材料を用いることができる。屈折レンズ材料と回折レンズ材料とは、同一材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0067】
上記の実施形態では、回折レンズと屈折レンズが別々のレンズであり、平行平面の回折レンズ11と平凸形状の屈折レンズ12の平面状の裏面同士が接触している、色消しレンズ10を例示して説明したが、これに限定されない。例えば、下記の(a)〜(e)に示すような形態を備えた色消しレンズであってもよい。
(a)回折レンズと屈折レンズとは、光軸を共有するように配置されていれば、表面と裏面を逆にして配置してもよい。また、回折レンズと屈折レンズとは、密着して配置されていてもよいし、離間して配置されていてもよい。回折レンズと屈折レンズとの間隔を調整することによって、色収差や焦点距離を調整することができる。
(b)屈折レンズは、平凸形状の屈折レンズに限定されず、例えば、両凸レンズ、両凹レンズ、メニスカスレンズ等であってもよい。
(c)回折レンズは、平行平面の回折レンズに限定されない。例えば、回折レンズが凸面や凹面上に形成されていてもよい。
(d)回折レンズの裏面が凸面や凹面であってもよい。
(e)色消しレンズは、回折光学素子と屈折光学素子が一体に形成された1つのレンズであってもよい。
(f)色消しレンズは、回折光学素子と屈折光学素子が一体に形成された1つのレンズであって、屈折レンズの表面と裏面の両方に、バイナリ形状の回折格子が形成されていてもよい。
【0068】
上記(b)(c)(f)およびこれらを組み合わせることによって、より開口数N.A.が大きい色消しレンズや波長帯域が広い色消しレンズが実現できる。
【0069】
上記においては、回折レンズ11と屈折レンズ12が別々のレンズである色消しレンズ10を例示して、第1の製造方法と第2の製造方法を説明したが、上記の(a)〜(f)およびこれらを組み合わせた色消しレンズであっても、第1の製造方法、第2の製造方法を有効に利用することができ、回折レンズを原子間力顕微鏡(AFM)によって1nm間隔で測定した場合に、表面粗さのrms値を3nm以下とすることができる。尚、第1の製造方法と第2の製造方法においては、色消しレンズの形態によっては、回折レンズ材料の基板を用いて鋳型形成工程を行ったが、屈折レンズ材料によって形成されている基板を用いて1回目の鋳型形成工程を行ってもよいことは、当業者であれば当然に理解することができる。例えば、回折レンズと屈折レンズが一体となっている色消しレンズを製造する場合には、屈折レンズ材料によって形成されている基板を用いて1回目の鋳型形成工程を行い、その後、積層工程によって、屈折レンズ材料の基板上に、回折レンズ材料を積層してもよい。また、屈折レンズ材料と回折レンズ材料は、同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0070】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0071】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0072】
10 色消しレンズ
11 回折レンズ
12 屈折レンズ
13 接合面
800,900 基板
802,803,804,805,902,903,904,905 レンズ材料層
820,822,920,922 レジスト
830,840,930,940 マスク
831,841,931,941 開口部
832,842,932,942 遮光部
950,952,953 シリコン層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折レンズと、複数のバイナリ形状の格子を有する回折レンズとを備えている色消しレンズであって、
前記屈折レンズは、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて形成されており、
前記回折レンズは、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて形成されており、
前記回折レンズの格子の表面粗さの平均二乗偏差値(rms値)は、5nm以下であり、
フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの屈折率が大きく変化する200nmから短波長側の吸収端波長までの真空紫外線領域の色収差を補正する、色消しレンズ。
【請求項2】
前記複数のバイナリ形状の格子の格子間隔は、前記色消しレンズの光軸に近い側で広く、前記色消しレンズの光軸に遠い側で狭くなっており、
前記複数のバイナリ形状の格子は、前記色消しレンズの光軸に垂直な平面と光軸に平行な曲面によって区画される2x段の階段形状を有する、請求項1に記載の色消しレンズ。
【請求項3】
前記回折レンズの格子の表面粗さの平均二乗偏差の値(rms値)は、3nm以下である、請求項1または2に記載の色消しレンズ。
【請求項4】
前記回折レンズのバイナリ形状は、
前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面に、樹脂を主成分とする有機材料の鋳型を形成し、
前記鋳型を用いて前記基板を常温あるいは100℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料を積層し、
前記鋳型を除去することによって形成される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の色消しレンズ。
【請求項5】
前記回折レンズのバイナリ形状は、
前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面にシリコンまたはシリカ(シリコン酸化物)を主成分とする無機材料の鋳型としての犠牲層を形成し、
前記鋳型を用いて前記基板を200℃以上1200℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料を積層し、
前記犠牲層を除去することによって形成される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の色消しレンズ。
【請求項6】
屈折レンズの表面と裏面の少なくともいずれか一方に、バイナリ形状の回折レンズがさらに形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の色消しレンズ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の色消しレンズを備えている、真空紫外線の光源。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の色消しレンズを備えている、真空紫外線領域を計測範囲に含む分光計測装置。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の色消しレンズを備えている、真空紫外線領域を計測範囲に含むラジカル計測装置。
【請求項10】
屈折レンズと、回折レンズとを備えている色消しレンズの製造方法であって、
フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて屈折レンズを形成する屈折レンズ形成工程と、
フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて回折レンズを形成する回折レンズ形成工程と、を含んでおり、
前記回折レンズ形成工程は、
前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面に、を主成分とする有機材料の鋳型を形成する鋳型形成工程と、
前記鋳型を用いて前記基板を常温あるいは100℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料をスパッタ法により積層する積層工程と、
前記熱処理工程後に鋳型を除去する鋳型除去工程とを含む、色消しレンズの製造方法。
【請求項11】
屈折レンズと、回折レンズとを備えている色消しレンズの製造方法であって、
フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて屈折レンズを形成する屈折レンズ形成工程と、
フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて回折レンズを形成する回折レンズ形成工程と、を含んでおり、
前記回折レンズ形成工程は、
前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面にシリコンまたはシリカ(シリコン酸化物)を主成分とする無機材料の鋳型としての犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記鋳型を用いて前記基板を200℃以上1200℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料を積層する積層工程と、
前記犠牲層を除去する犠牲層除去工程とを含む、色消しレンズの製造方法。
【請求項1】
屈折レンズと、複数のバイナリ形状の格子を有する回折レンズとを備えている色消しレンズであって、
前記屈折レンズは、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて形成されており、
前記回折レンズは、フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて形成されており、
前記回折レンズの格子の表面粗さの平均二乗偏差値(rms値)は、5nm以下であり、
フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの屈折率が大きく変化する200nmから短波長側の吸収端波長までの真空紫外線領域の色収差を補正する、色消しレンズ。
【請求項2】
前記複数のバイナリ形状の格子の格子間隔は、前記色消しレンズの光軸に近い側で広く、前記色消しレンズの光軸に遠い側で狭くなっており、
前記複数のバイナリ形状の格子は、前記色消しレンズの光軸に垂直な平面と光軸に平行な曲面によって区画される2x段の階段形状を有する、請求項1に記載の色消しレンズ。
【請求項3】
前記回折レンズの格子の表面粗さの平均二乗偏差の値(rms値)は、3nm以下である、請求項1または2に記載の色消しレンズ。
【請求項4】
前記回折レンズのバイナリ形状は、
前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面に、樹脂を主成分とする有機材料の鋳型を形成し、
前記鋳型を用いて前記基板を常温あるいは100℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料を積層し、
前記鋳型を除去することによって形成される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の色消しレンズ。
【請求項5】
前記回折レンズのバイナリ形状は、
前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面にシリコンまたはシリカ(シリコン酸化物)を主成分とする無機材料の鋳型としての犠牲層を形成し、
前記鋳型を用いて前記基板を200℃以上1200℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料を積層し、
前記犠牲層を除去することによって形成される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の色消しレンズ。
【請求項6】
屈折レンズの表面と裏面の少なくともいずれか一方に、バイナリ形状の回折レンズがさらに形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の色消しレンズ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の色消しレンズを備えている、真空紫外線の光源。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の色消しレンズを備えている、真空紫外線領域を計測範囲に含む分光計測装置。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の色消しレンズを備えている、真空紫外線領域を計測範囲に含むラジカル計測装置。
【請求項10】
屈折レンズと、回折レンズとを備えている色消しレンズの製造方法であって、
フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて屈折レンズを形成する屈折レンズ形成工程と、
フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて回折レンズを形成する回折レンズ形成工程と、を含んでおり、
前記回折レンズ形成工程は、
前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面に、を主成分とする有機材料の鋳型を形成する鋳型形成工程と、
前記鋳型を用いて前記基板を常温あるいは100℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料をスパッタ法により積層する積層工程と、
前記熱処理工程後に鋳型を除去する鋳型除去工程とを含む、色消しレンズの製造方法。
【請求項11】
屈折レンズと、回折レンズとを備えている色消しレンズの製造方法であって、
フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である屈折レンズ材料を用いて屈折レンズを形成する屈折レンズ形成工程と、
フッ化リチウム、フッ化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である回折レンズ材料を用いて回折レンズを形成する回折レンズ形成工程と、を含んでおり、
前記回折レンズ形成工程は、
前記屈折レンズ材料あるいは前記回折レンズ材料によって形成されている基板の表面にシリコンまたはシリカ(シリコン酸化物)を主成分とする無機材料の鋳型としての犠牲層を形成する犠牲層形成工程と、
前記鋳型を用いて前記基板を200℃以上1200℃以下で加熱しながら前記基板の表面に前記回折レンズ材料を積層する積層工程と、
前記犠牲層を除去する犠牲層除去工程とを含む、色消しレンズの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2011−215267(P2011−215267A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81781(P2010−81781)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成20年度、文部科学省、知的クラスター創成事業「東海広域ナノテクものづくりクラスター構想」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成20年度、文部科学省、知的クラスター創成事業「東海広域ナノテクものづくりクラスター構想」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】
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