説明

色素がペプチドを介して導電性基板に結合する構造体、およびその構造体を備えた光電変換素子

【課題】導電性基板に色素が結合した構造体において、色素の位置を空間的に制御して基板上に結合させ、これにより色素による光電エネルギー変換能力を向上させること、また光電エネルギー変換能力の向上した構造体を、安価で簡便な処理により得る方法を提供すること。
【解決手段】導電性基板への色素の結合にペプチドを用いた構造体による。本発明の構造体では、導電性基板に対する色素の位置の空間的制御が可能となる。色素と、1以上のアミノ酸ユニットからなるペプチドとが結合した色素修飾ペプチドを作製し、前記色素修飾ペプチドと、導電性基板とを接触させる、という簡便かつ安価な方法による。本方法を用いれば、ペプチドにより色素を導電性基板に結合可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素がペプチドを介して導電性基板に結合している構造体および当該構造体の製造方法に関し、さらには当該構造体からなる電極ならびに、当該構造体を備える光電変換素子、色素増感太陽電池および光電センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、太陽光エネルギーを直接電気エネルギーに変換するデバイスであり、このような太陽光エネルギーの利用は、石油を使わず、CO2を排出しないため、環境にやさしく、近年注目を浴びている。
太陽電池の1つとして、シリコン系太陽電池が挙げられるが、シリコン系太陽電池には、製造に必要なエネルギーやコストの点で問題がある。別の太陽電池として、色素分子を用いた太陽電池、すなわち色素増感太陽電池が挙げられる。色素増感太陽電池は、低エネルギー、低コストで作製することができ、次世代の太陽電池として大いに期待されている。
【0003】
色素増感太陽電池は、例えば、透明導電膜を上に有する透明基板、透明導電膜に接して形成された多孔性半導体層で電極を構成する。一般的には、多孔性半導体層は酸化チタン等の酸化物半導体から構成される。
色素増感太陽電池では、色素が光を吸収すると色素内の電子が励起され、この励起電子が、酸化物半導体に移動し、透明導電膜に注入され、さらに電気回路を通って対極に移動する。電子を失うことにより正に帯電した色素は、電荷移動相層中に拡散したイオンにより、電極に戻り、この過程により光起電力が発生する。
【0004】
色素増感太陽電池においては、色素のエネルギー変換能力を極大化することが重要であり、種々の手段が検討されている。例えば、単位投影面積当りの担持色素量を増やし、光の捕獲率を高くするよう、半導体層の厚さを調節する(特許文献1)、色素を半導体表面に化学的に結合する際、エネルギー変換効率を低下させてしまう水分子を発生させないようにする(特許文献2)、太陽光中の短波長領域の光を光電変換可能な長波長領域に波長変換する蛍光物質を利用する(特許文献3)といった手段である。
【0005】
従来、色素を半導体に結合させる方法には、色素を直接基板に吸着させる方法(特許文献4)や、色素を添加した高分子のポリマー樹脂等の層を基板上に設ける方法(特許文献5)などがある。これらの方法では、色素分子間が近づきすぎて色素分子が凝集してしまう、色素分子と酸化チタン基板上との距離が遠く、十分にエネルギーが注入できない、などの問題があり、色素のエネルギー変換能力を十分に引き出すことは難しい。
【特許文献1】特開2001-273936号公報
【特許文献2】特開2008-226528号公報
【特許文献3】特開2006-269373号公報
【特許文献4】特開2003-123859号公報
【特許文献5】特表2005-516365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、導電性基板に色素が結合した構造体において、色素の位置を空間的に制御して導電性基板上に結合させ、これにより色素による光電エネルギー変換能力を向上させること、また光電エネルギー変換能力の向上した構造体を、安価で簡便な処理により得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、導電性基板にペプチドを介して色素を結合させた構造体により、導電性基板に対する色素の位置の空間的制御が可能となることを見出した。また、本願発明者は、色素と、1以上のアミノ酸ユニットからなるペプチドとが結合した色素修飾ペプチドを作製し、前記色素修飾ペプチドと、導電性基板とを接触させる、という簡便かつ安価な方法により、ペプチドにより色素を導電性基板に結合させた構造体を得ることができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.導電性基板と、1以上のアミノ酸ユニットからなるペプチドと、色素とを有する構造体であって、色素がペプチドを介して導電性基板に結合している構造体。
2.色素が、アミノ酸ユニットに結合可能な結合基を有する、前項1に記載の構造体。
3.前記構造体において、以下のいずれかの原子数が、5以上1000以下である、前項1または2に記載の構造体:
(i)色素が色素分子自体である場合には、ペプチドの一方の末端のアミノ酸ユニットに結合している色素中の原子から
ペプチドの導電性基板への結合部位であるアミノ酸ユニット中の原子であって、導電性基板に結合し得る結合基の原子までの原子数、または
(ii)色素が色素分子とペプチド結合可能な結合基とを含む場合には、ペプチドの一方の末端のアミノ酸ユニットに結合している結合基に結合している、色素中の原子から
ペプチドの導電性基板への結合部位であるアミノ酸ユニット中の原子であって、導電性基板に結合し得る結合基の原子までの原子数。
4.ペプチドに含まれるアミノ酸ユニットのうち少なくとも1つが、二価の炭化水素基、エステル基、エーテル基、アミド基、アミノ基、およびチオエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種類の構成単位を1以上含む、前項1〜3のいずれか1に記載の構造体。
5.ペプチドに含まれるアミノ酸ユニットのうち少なくとも1つが、オキシアルキレン基またはオキシアリーレン基のいずれか1種類の構成単位を1以上含む、前項1〜4のいずれか1に記載の構造体。
6.ペプチドに含まれるアミノ酸ユニットのうち少なくとも1つが、オキシエチレン基またはオキシフェニレン基のいずれか1種類の構成単位を1以上含む、前項5に記載の構造体。
7.前項1〜6のいずれか1に記載の構造体の製造方法であって、
色素と、1以上のアミノ酸ユニットからなるペプチドとが結合した色素修飾ペプチドを作製し、
前記色素修飾ペプチドと、導電性基板とを接触させることを含む方法。
8.前項1〜6のいずれか1に記載の構造体からなる電極。
9.前項1〜6のいずれか1に記載の構造体または前項8に記載の電極と、電解質と、対極とを含む、光電変換素子。
10.電解質が液状である、前項9に記載の光電変換素子。
11.前項9または10に記載の光電変換素子を備える、色素増感太陽電池。
12.前項9または10に記載の光電変換素子を備える、光電センサー。
【発明の効果】
【0009】
本発明の構造体によれば、色素であるTMRそのものを導電性基板に結合させた場合は、光電変換効率が0.027、0.017%であったのに比べて、ペプチドを用いて色素を結合させた構造体では、光電変換率が0.092%と高いものであり、色素が良好に空間的に制御されて配置されたことが示唆された。また本発明の構造体は、ペプチド固相合成法を用いることにより、安価で、簡便に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、導電性基板と、1以上のアミノ酸ユニットからなるペプチドと、色素とを有する構造体であって、色素がペプチドを介して導電性基板に結合している構造体に関する。
【0011】
本発明において、「導電性基板」とは、半導体自体または、支持体と半導体層とを含むものを意味し、好ましくは支持体に半導体層が積層されてなるものを意味する。半導体層とは、支持体上に形成された半導体粒子を含む層である。
【0012】
本発明の構造体において、光吸収およびこれによる電子および正孔の発生は主として色素において起こり、導電性基板の半導体がこの電子を受け取り、伝達する役割を担う。本発明で用いる半導体は光励起下で伝導体電子がキャリアーとなり、アノード電流を与えるn型半導体であることが好ましい。
【0013】
半導体は、金属酸化物半導体が好ましく、具体的には、チタン、ジルコニウム、ストロンチウム、亜鉛、インジウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデンあるいはタングステンなどの遷移金属の酸化物、カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、またはビスマスの硫化物、カドミウム、または鉛のセレン化物、カドミウムのテルル化物等が挙げられる。他の半導体としては、亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物、ガリウム−ヒ素、または銅−インジウムのセレン化物、銅−インジウムの硫化物等が挙げられる。
【0014】
本発明に用いる半導体の好ましい具体例は、Si、TiO2、SnO2、Fe2O3、WO3、ZnO、Nb2O5、CdS、ZnS、PbS、Bi2S3、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS2、CuInSe2等であり、より好ましくはTiO2またはNb2O5であり、最も好ましくはTiO2である。
【0015】
本発明に用いる半導体は単結晶でも多結晶でもよい。半導体がTiO2の場合、アナタース、ルチルの多結晶を用いてもよく、TiO2(Degussa P25)(アナタース:ルチル=7:3)(Deggusa社)を用いることができる。
【0016】
導電性基板が支持体を含む場合、支持体は、支持体の単層であっても、他の導電層等と支持体との複数の層からなるものであってもよい。例えば、本発明の導電性基板としてはTiO2をガラス支持体に塗布してなるものを用いることが好ましい。
【0017】
支持体としては、例えば、ガラス、磁性体、またはプラスチック、ソーダ石灰フロートガラスや透明ポリマーフィルムが挙げられる。また、支持体が導電性である場合は、強度や密封性が十分に保たれるようなもの、例えば金属などを用いればよい。導電性材料としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム等の金属、または炭素、またはインジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等の導電性金属酸化物などが挙げられる。支持体が、導電性の層と支持体の複数の層からなるものである場合、半導体層側に上記導電性材料からなる導電層を設けた支持体を使用することができる。
【0018】
導電性基板側から色素に光を照射する場合には、導電性基板は実質的に透明であるのが好ましい。実質的に透明であるとは光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であるのが好ましく、70%以上が特に好ましい。
【0019】
透明な支持体としては、ガラスまたはプラスチックが挙げられ、さらに詳細にはソーダ石灰フロートガラスや透明ポリマーフィルムが挙げられる。透明ポリマーフィルムの材料としては、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリステレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAr)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ等がある。
支持体が導電層と支持体の複数の層からなるものである場合、上記透明な支持体の表面に導電性金属酸化物からなる透明な導電層を塗布または蒸着等により形成したものを、支持体として用いることが好ましい。十分な透明性を確保するために、導電性金属酸化物の塗布量はガラスまたはプラスチックの支持体1m2当たり0.01〜100gとするのが好ましい。
【0020】
本発明において、色素はペプチドに結合可能な結合基を有するものであればよく、色素分子そのもの、もしくは色素分子にペプチドに結合可能な結合基(例えばリシンユニット)が結合したものを意味する。ペプチドに結合可能な結合基は、特に制限されないが、例えば、カルボン酸基、アミノ基、チオール基(-SH)、スルホン酸基、シアノ基、アルデヒド基、ジアゾ基、ハロゲン基、アルケン基、アルキン基などが挙げられ、これらを含む官能基も結合基に含まれる。色素が色素分子そのものである場合には、色素分子がペプチドに結合可能な結合基を有するものであればよい。また、色素分子は、可視光領域および/または赤外光領域に吸収スペクトルを有する化合物であればよい。
【0021】
色素分子は、特に制限されるものではなく、例えば、ビピリジン構造、ターピリジン構造などを含む配位子を有するルテニウム錯体、鉄錯体、ポルフィリン系やフタロシアニン系の金属錯体、およびキサンテン系、ローダミン系、トリフェニルメタン系、シアニン系、クマリン系などの有機色素などが挙げられる。ローダミン系としては、TMR(テトラメチルローダミン)(図1)が挙げられる。TMRを使用する場合、TMRにリシンユニットを結合した色素を用いてもよい。
【0022】
用途などに応じて上記色素分子の1種類又は2種類以上を適宜選択して用いることができる。光電変換の波長域をできるだけ広くし、かつ変換効率を上げるため、2種類以上の色素を混合することができる。また目的とする光源の波長域と強度分布に合わせるように、混合する色素とその割合を選ぶことができる。
【0023】
本発明において、ペプチドとは、1以上のアミノ酸ユニットが結合してなる化合物を意味する。アミノ酸ユニットとは、1つの同一分子中に、アミノ基とカルボン酸基を含むものである。アミノ酸ユニットには、天然アミノ酸ユニット、非天然アミノ酸ユニットのいずれも含まれる。非天然アミノ酸ユニットとは、カルボン酸基およびアミノ基以外の側鎖に、もしくは、カルボン酸基およびアミノ基を連結する部分に、種々の化合物(例えばポリエチレングリコール、ポリ(オキシエチレン)基とも称する)を結合させた分子を意味する。非天然アミノ酸ユニットには、公知の非天然アミノ酸ユニットに加えて、将来得られるであろう非天然アミノ酸ユニットも含まれる。
【0024】
ペプチドを構成するアミノ酸ユニットの個数は特に制限されないが、本発明の目的に沿うペプチドの長さを与えることが必要である。ペプチドを構成するアミノ酸ユニットの個数は、1以上、好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、好ましくは25以下、さらに好ましくは15以下、より好ましくは10以下である。
本発明において「ペプチドの長さ」は、本発明の目的を達成するものであれば特に制限されないが、原子数が5以上1000以下、好ましくは10以上250以下、さらに好ましくは16以上210以下、より好ましくは16以上101以下、中でも好ましくは16以上57以下である。本発明において、ペプチドの長さの「原子数」とは、以下のいずれかの、共有結合を順にたどった場合における最短経路上の原子の数と定義する。
(i)色素が色素分子自体である場合には、ペプチドの一方の末端のアミノ酸ユニットに結合している色素中の原子から
ペプチドの導電性基板への結合部位であるアミノ酸ユニット中の原子であって、導電性基板に結合し得る結合基の原子までの原子数、または
(ii)色素が色素分子とペプチド結合可能な結合基とを含む場合には、ペプチドの一方の末端のアミノ酸ユニットに結合している色素内の結合基に結合している、色素分子中の原子から
ペプチドの導電性基板への結合部位であるアミノ酸ユニット中の原子であって、導電性基板に結合し得る結合基の原子までの原子数。
【0025】
原子数について、図5を例示して説明する。図5に示す色素修飾ペプチドは、色素が色素分子自体とリシンユニットである官能基を含むものであり、上記(ii)に該当する。ペプチドの一方の末端のアミノ酸ユニットに結合している結合基に結合している、色素中の原子は、矢印アで示す炭素原子であり、導電性基板に結合し得る結合基の原子は矢印イで示す炭素原子である。この間の原子数は、35である。
【0026】
本発明の構造体では、色素がペプチドを介して導電性基板に結合されている。これは、ペプチドが、一方の末端のアミノ酸ユニットに色素分子を結合可能な構造を持ち、他方の末端のアミノ酸ユニットに導電性基板を結合可能である構造を持つことを意味する。末端のアミノ酸ユニットとは、ペプチドにおいて実質的に末端に存在するアミノ酸ユニットであればよく、つまりペプチド全体に対して相対的に末端部分にあるアミノ酸ユニットであればよく、厳密に最末端のアミノ酸である必要はない。
【0027】
ペプチドは、導電性基板に結合可能な構造として、導電性基板に結合可能な結合基を含むアミノ酸ユニットを含む必要がある。例えば、かかる結合基としては、カルボン酸基、ヒドロキシル基、スルホン酸基(-SO3H)、シアノ基、-P(O)(OH)2基、-OP(O)(OH)2基、アミノ基、SH基、またはオキシム、ジオキシム、ヒドロキシキノリン、サリチレートおよびα-ケトエノレートのようなキレート化基が挙げられる。導電性基板に結合可能な結合基を含むアミノ酸ユニットとしては、グルタミン酸ユニットやアスパラギン酸ユニットが挙げられる。これらのアミノ酸ユニットの側鎖に含まれるカルボン酸基が、導電性基板に結合可能な結合基として機能すると考えられる。
【0028】
ペプチドを構成するアミノ酸ユニットのうち、カルボン酸基およびアミノ基を連結する部分に、種々の化合物を結合させた分子について説明する。当該種々の化合物は親溶媒性を持ち、色素とペプチドが結合した化合物(以下「色素修飾ペプチド」とも称する:図5)において、色素の位置を決定するスペーサーとして機能することができる。かかるスペーサー部位の構造は導電性基板に結合を起こさないものが好ましく、導電性基板への結合の抑制は、色素の空間的制御を行う観点から重要である。
【0029】
スペーサー部位の構成単位に制限は無いが、二価の炭化水素基(-R1-)、エステル基(-C(=O)O-R2-、-OC(=O)-R2-)、エーテル基(-O-R2-(オキシアルキレン基(-O-R3-)およびオキシアリーレン基(-OAr-)を含む))、シリレン基(-Si-R2-)及びオキシシリレン基(-OSi-R2-)、アミド基(-C(=O)-N-R2-)、アミノ基(-N-R2-)、チオエーテル基(-S-R2-)からなる群より選ばれる少なくとも一種類の構成単位を1以上含むものが好ましい。
【0030】
ここで、「-R1-」は炭素数が2以上12以下の炭化水素基であり、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよく、鎖状でも環状でもよく、本発明の目的に沿うような置換基を1以上含んでいてもよく、置換基が2以上の場合は、置換基は互いに同じものであっても、異なっていてもよい。「-R2-」は炭素数が1以上12以下の二価の炭化水素基であり、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよく、鎖状でも環状でもよく、本発明の目的に沿うような置換基を1以上含んでいてもよく、置換基が2以上ある場合、置換基は互いに同じものであっても、異なっていてもよい。「-R3-」は、炭素数が1以上12以下の二価の炭化水素基であり、飽和炭化水素基であって、本発明の目的に沿うような置換基を1以上含んでいてもよく、置換基が2以上ある場合、置換基は互いに同じものであっても、異なっていてもよい。「-Ar-」は炭素数6以上10以下のアリーレン基であり、本発明の目的に沿うような置換基を1以上含んでいてもよく、置換基が2以上ある場合、置換基は互いに同じものであっても、異なっていてもよい。「置換基」とは、水素原子、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基およびアルキルカルボニル基などが例示されるが、これらに限定されない。
【0031】
スペーサー部位の構成単位としては、二価の炭化水素基、エステル基、エーテル基(オキシアルキレン基およびオキシアリーレン基を含む)、アミド基、アミノ基、チオエーテル基が好ましい。二価の炭化水素基としては、ビニル基が例示される。さらに、スペーサー部位の構成単位はエーテル基が好ましく、エーテル基のうちでは、オキシエチレン基(-OCH2CH2-)またはオキシフェニレン基(-OC6H4-)が好ましい。
【0032】
スペーサー部位は、上記の構成単位の少なくとも1種類を繰り返して2以上含むものが好ましい。かかるスペーサー部位における構成単位の繰り返し構造として、ポリエーテル基(ポリ(オキシアルキレン)基またはポリ(オキシアリーレン)基を含む)が例示される。スペーサー部位は、ポリエーテル基以外の構成単位とポリエーテル基とが結合してなるものでもよく、ポリエーテル基のみからなるものでもよい。
【0033】
ポリ(オキシアルキレン)基((-O-R3-)m)は、2価の炭化水素基が複数、酸素原子を介して交互に結合してなるものである。ポリエーテル基の構成単位となる2価の炭化水素基の炭素数は、通常1以上が好ましく、通常12以下、中でも6以下、更には4以下、特に3以下が好ましく、炭素数2が最も好ましい。このような2価の炭化水素基としては、デシレン基(-n-C10H20-)、ノニレン基(-n-C9H18-)、オクチレン基(-n-C8H16-)、ヘプチレン基(-n-C7H14-)、ヘキシレン基(-n-C6H12-)、ペンチレン基(-n-C5H10-)、ブチレン基(-n-C4H8-)、プロピレン基(-C3H6-)、エチレン基(-C2H4-)が好ましく、中でもブチレン基、プロピレン基、エチレン基が好ましく、特にエチレン基が好ましい。なお、上記例示式中、「-n-」は、その化学式で表わされる炭化水素基が直鎖状であることを示す。
【0034】
ポリ(オキシアルキレン)基としては、例えばポリ(オキシメチレン基)((-OCH2-)m)、ポリ(オキシエチレン)基((-OCH2CH2-)m)などが挙げられる。ポリ(オキシアリーレン)基としては、例えばポリ(オキシフェニレン基)((-OC6H4-)m)、ポリ(オキシナフチレン)基((-OC10H6-)m)などが挙げられる。
【0035】
アミノ酸ユニットに含まれるスペーサー部位における構成単位の繰り返しの数(m)は、特に制限されず、ペプチド全体の長さ、ペプチド全体を構成するアミノ酸ユニットの種類や個数、アミノ酸ユニット内のスペーサー部位の構成単位の種類などに応じて選択すればよい。mは、通常2以上、好ましくは3以上、また、通常30以下、好ましくは15以下、更に好ましくは6以下の範囲である。複数種の構成単位を含む場合は、各々の構成単位の繰り返しの数は同じであっても異なっていてもよい。
【0036】
本発明において、1以上の色素と1以上のペプチドは、本発明の目的に沿えばいかなる順番で結合していてもよく、導電性基板側にペプチドが存在していればよい。かかる1以上の色素と1以上のペプチドの結合したものを、色素修飾ペプチドと称する。色素修飾ペプチドとして以下の9種類が例示されるが、このうちTMR-O(6)を用いることが好ましい。
TMR-G: Ac-TMR-G-EE-NH2 (原子数16)
TMR-O(2): Ac-TMR-O(2)-EE-NH2 (原子数22)
TMR-O(6): Ac-TMR-O(6)-EE-NH2 (原子数35)
TMR-O(12): Ac-TMR-O(6)-O(6)-EE-NH2 (原子数57)
TMR-O(28): Ac-TMR-O(28)-EE-NH2 (原子数101)
{TMR-O(6)}2: Ac-TMR-O(6)-TMR-O(6)-EE-NH2 (原子数60,35)
{TMR-O(6)}4: Ac-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-EE-NH2 (原子数 110,85,60,35)
{TMR-O(6)}8: Ac-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-EE-NH2 (原子数 210,185,160,135,110,85,60,35)
TMR4-O(6): Ac-TMR-TMR-TMR-TMR-O(6)-EE-NH2 (原子数 44,41,38,35)
AcはペプチドのN末端がアセチル化されていることを示している。NH2はペプチドのC末端が第一アミドであることを示している。Gはグリシンユニットである。Eはグルタミン酸ユニットである。TMRはリシンユニットを有する色素であり、O(2), O(6), O(28)はいずれもスペーサー部位にポリ(オキシエチレン)基を含むアミノ酸ユニットであり、それぞれ繰り返しの数mが、2,6,28である。これらの構造式を図1に示す。TMRが複数結合している色素修飾ペプチド({TMR-O(6)}2、{TMR-O(6)}4、{TMR-O(6)}8、TMR4-O(6))では、括弧内の原子数は、左から順に、各色素修飾ペプチドにおけるN末端側からの各TMRからの原子数にそれぞれ対応しており、大きい原子数から小さい原子数の順に記載されている。
【0037】
本発明の構造体の製造方法は、色素と、1以上のアミノ酸ユニットからなるペプチドとが結合した色素修飾ペプチドを作製し、前記色素修飾ペプチドと、導電性基板とを接触させることを含む。
【0038】
色素と、1以上のアミノ酸ユニットからなるペプチドとが結合した色素修飾ペプチドの作製は、自体公知のペプチド固相合成法を用いて行うことができる。
ペプチド固相合成法は、脱保護工程、カップリング工程、キャッピング工程を繰り返すことによりペプチドを伸長するものであり、以下の工程を含むものである:
(a)樹脂を脱保護する。
(b)所望のアミノ酸ユニットのFmoc体(色素のFmoc体も含む)を溶媒に溶解させ、樹脂に添加してカップリングを行う。
(c)キャッピング溶液を、(a)で得られた樹脂とアミノ酸ユニットの混合物に添加し、キャッピングを行う。
(d)樹脂表面上に目的のペプチドが伸長するまで、脱保護、カップリング、キャッピングの操作を繰り返す。
(e)最後のFmoc体のFmoc基を脱保護し、目的のペプチドを切り出す。
【0039】
ペプチド固相合成法は、具体的には以下の手順で行えばよい。まず、樹脂であるFmoc-NH-SAL-PEG-resinを膨潤するためジクロロメタン/ジメチルホルムアミド(DMF)混合溶媒で室温3時間撹拌する。樹脂をDMFで洗浄後、20%ピペリジンを含むDMF溶液で40℃にて10分間撹拌した後、DMFで洗浄する(脱保護工程)。次に、目的のペプチドのシークエンスを作るのに対応するFmoc体(Fmoc化されたエチレングリコールユニットから成るアミノ酸ユニット(Merck社より購入))、Fmoc-グルタミン酸、Fmoc-グリシン、HATU(O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩)、およびDIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)をDMFに溶解させた後、樹脂に加える。40℃にて30〜60分間撹拌した後、DMFで洗浄する(カップリング工程)。続いて、5%無水酢酸および6%ルチジンを含むDMF溶液で40℃にて3分間撹拌した後、DMFで洗浄する(キャッピング工程)。樹脂表面上に目的のシークエンスのペプチドが伸長するまで、脱保護、カップリング、キャッピングの工程を繰り返す。最後のFmoc体のFmoc基を脱保護した後、キャッピングを行い、さらに樹脂にトリフルオロ酢酸/水/トリイソプロピルシラン(= 95/2.5/2.5 v/v/v)を加えて、室温にて60分間撹拌する。樹脂から切り出された目的のペプチドの溶液は、風乾後、メタノール溶液として冷凍庫に保管すればよい。なお、ペプチド合成に用いる試薬類は特別に注記のないもの以外、いずれも渡辺化学工業株式会社より購入することができる。
【0040】
導電性基板と色素修飾ペプチドの結合は、色素の溶液中に導電性基板を浸漬するか、色素の溶液を導電性基板に塗布する方法を用いることができる。前者の場合、浸漬法、ディップ法、ローラ法、エアーナイフ法等が使用可能である。なお浸漬法の場合、色素の結合は室温で行ってもよい。また後者の塗布方法としては、ワイヤーバー法、スライドホッパー法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法等があり、印刷方法としては、凸版、オフセット、グラビア、スクリーン印刷等がある。溶媒は、色素の溶解性に応じて適宜選択できる。例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、t-ブタノール、ベンジルアルコール等)、ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等)、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、ジメチルスルホキシド、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセタミド等)、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、3-メチルオキサゾリジノン、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭酸エステル類(炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等)、ケトン類(アセトン、2-ブタノン、シクロヘキサノン等)、炭化水素(へキサン、石油エーテル、ベンゼン、トルエン等)やこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0041】
導電性基板に結合していない色素の存在は、素子性能の外乱になるため、結合処理後、速やかに導電性基板から洗浄により除去するのが好ましい。アセトニトリル等の極性溶剤、アルコール系溶剤のような有機溶媒で洗浄を行うのが好ましい。
【0042】
本発明の構造体は、電極として使用することができ、さらに、電解質と、対極と組み合わせることにより、光電変換素子を得ることができる。本発明はこれらの電極および、光電変換素子にも及ぶ。
【0043】
電解質は色素の酸化体に電子を補充する機能を有するものであり、一般的に液状、ゲル状、固体状のものが知られているが、本発明では液状のものを用いることが好ましい。さらに詳細には、電解質は、酸化還元対のイオンが溶解した溶液である。電解液は電解質、溶媒、および添加物から構成されることが好ましい。本発明の電解質はI2とヨウ化物の組み合わせ(ヨウ化物としてはLiI、NaI、KI、CsI、CaI2などの金属ヨウ化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩など)、Br2と臭化物の組み合わせ(臭化物としてはLiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr2などの金属臭化物、あるいはテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイドなど4級アンモニウム化合物の臭素塩など)のほか、フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩やフェロセン−フェリシニウムイオンなどの金属錯体、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィドなどのイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノン−キノンなどを用いることができる。この中でもI2とLiIやピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩を組み合わせた電解質が本発明では好ましい。上述した電解質は混合して用いてもよい。
【0044】
好ましい電解質濃度は0.1M以上15M以下であり、さらに好ましくは0.2M以上10M以下である。また、電解質にヨウ素を添加する場合の好ましいヨウ素の添加濃度は0.01M以上0.5M以下である。
【0045】
本発明で電解質に使用する溶媒は、粘度が低くイオン移動度を向上したり、もしくは誘電率が高く有効キャリアー濃度を向上したりして、優れたイオン伝導性を発現できる化合物であることが望ましい。このような溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、3-メチル-2-オキサゾリジノンなどの複素環化合物、ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテルなどの鎖状エーテル類、メタノール、エタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物、ジメチルスルフォキシド、スルフォランなど非プロトン極性物質、水などを用いることができる。
【0046】
対極は、光電変換素子の正極として作用するものである。対極は導電性であればよく、前記の支持体そのもの及び、支持体に導電性の層を設けたものを用いることができる。対極に用いる導電材料としては、金属(例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、ロジウム、インジウム等)、炭素、または導電性金属酸化物(インジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)が挙げられる。この中でも白金、金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウムを好ましく使用することができ、より好ましいのは白金である。また、ガラスまたはプラスチックの支持体に、導電材料を塗布または蒸着して用いることも好ましい。対極は、実質的に透明であってもよいし、光を反射する性質を有していてもよい。
【0047】
本発明の光電変換素子は、色素を結合させた導電性基板の上に先に対極を貼り合わせておき、その間隙に液状の電解質を挟み込む方法と、色素を結合させた導電性基板もしくは対極上に直接電解質を付与し、対極もしくは色素を結合させた導電性基板をその後付与することにより、作製される。
【0048】
前者の場合の電解質の挟み込み方法として、浸漬等による毛管現象を利用する常圧プロセスと常圧より低い圧力にして気相を液相に置換する真空プロセスが利用できる。後者の場合、電解質が未乾燥のまま対極を付与し、エッジ部の液漏洩防止措置を施せばよい。
【0049】
本発明の色素増感太陽電池は、上記光電変換素子に外部回路で仕事をさせるようにしたものである。太陽電池は構成物の劣化や内容物の揮散を防止するために、側面をポリマーや接着剤等で密封するのが好ましい。導電性基板および対極にリードを介して接続される外部回路自体は公知のもので良い。本発明の光電変換素子をいわゆる太陽電池に適用する場合、そのセル内部の構造は基本的に上述した光電変換素子の構造と同じである。使用目的や使用環境に合わせて様々な形状・機能を持つ太陽電池を製作することができる。
また、本発明は、本発明の光電変換素子を用いた光電センサーにも及ぶ。光電センサーは、可視光線、赤外線などの光を受光部にて受光し、出力信号を得るものが例示される。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1) 構造体の作製
以下の9種類の色素修飾ペプチドを、Fmocペプチド固相合成法によって得た。
TMR-G: Ac-TMR-G-EE-NH2
TMR-O(2): Ac-TMR-O(2)-EE-NH2
TMR-O(6): Ac-TMR-O(6)-EE-NH2
TMR-O(12): Ac-TMR-O(6)-O(6)-EE-NH2
TMR-O(28): Ac-TMR-O(28)-EE-NH2
{TMR-O(6)}2: Ac-TMR-O(6)-TMR-O(6)-EE-NH2
{TMR-O(6)}4: Ac-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-EE-NH2
{TMR-O(6)}8: Ac-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-TMR-O(6)-EE-NH2
TMR4-O(6): Ac-TMR-TMR-TMR-TMR-O(6)-EE-NH2
AcはペプチドのN末端がアセチル化されていることを示している。NH2はペプチドのC末端が第一アミドであることを示している。Gはグリシンユニットである。Eはグルタミン酸ユニットである。TMRはリシンユニットを有する色素であり、O(2), O(6), O(28)はいずれもスペーサー部位にポリ(オキシエチレン)基を含むアミノ酸ユニットであり、それぞれ繰り返しの数mが、2,6,28である。これらの構造式を図1に示す。
【0052】
ペプチド合成に用いた試薬類は特別に注記のないもの以外、いずれも渡辺化学工業株式会社より購入した。まず、樹脂であるFmoc-NH-SAL-PEG-resinを膨潤するためジクロロメタン/ジメチルホルムアミド(DMF)混合溶媒で室温3時間撹拌した。樹脂をDMFで洗浄後、20%ピペリジンを含むDMF溶液で40℃にて10分間撹拌した後、DMFで洗浄した(この操作を以下「脱保護」と表記する)。次に、目的のペプチドのシークエンスを作るのに対応するFmoc体(Fmoc化されたエチレングリコールユニットから成るアミノ酸ユニット(Merck社より購入))、Fmoc-グルタミン酸、Fmoc-グリシン、HATU(O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩)、およびDIPEA(N,N-ジイソプロピルエチルアミン)をDMFに溶解させた後、樹脂に加えた。40℃にて30〜60分間撹拌した後、DMFで洗浄した(この操作を以下「カップリング」と表記する)。続いて、5%無水酢酸および6%ルチジンを含むDMF溶液で40℃にて3分間撹拌した後、DMFで洗浄した(この操作を以下「キャッピング」と表記する)。樹脂表面上に目的のシークエンスのペプチドが伸長するまで、脱保護、カップリング、キャッピングの操作を繰り返した。最後のFmoc体のFmoc基を脱保護した後、キャッピングを行い、さらに樹脂にトリフルオロ酢酸/水/トリイソプロピルシラン(= 95/2.5/2.5 v/v/v)を加えて、室温にて60分間撹拌した。これにより樹脂から切り出された目的のペプチドの溶液は風乾後、メタノール溶液として冷凍庫に保管した。
【0053】
上記9種類の色素修飾ペプチドをそれぞれ溶解させたメタノール溶液 2mL(モル濃度はいずれも0.9mM)に、TiO2基板(TiO2(Degussa P25)(Degussa社);アナタース:ルチル=7:3のペーストをガラス支持体に塗布したもの)を浸漬させた。浸漬は室温で30分間行った。浸漬後、基板を取り出し、結合していない色素を取り除くため、メタノールで数度洗浄し、色素の結合した構造体を得た。
また、参考例として、上記9種類の色素修飾ペプチド以外に、5(6)-TMRおよびFmoc-Lys(TMR)-OHを用いて、構造体を作製した。5(6)-TMRおよびFmoc-Lys(TMR)-OHの構造式を図1示す。
【0054】
(実施例2)色素増感太陽電池の作製
実施例1にて得られた構造体を用いて、色素増感太陽電池を作製した。対極である白金電極にヨウ素液を滴下した後、各構造体で挟んだ。
【0055】
(1)まず、作製された色素増感太陽電池を用いて、各構造体のIPCEスペクトルを測定した。IPCEスペクトルとは、作製された太陽電池がどの波長のフォトン(光子)のエネルギーを吸収して、エレクトロン(電子)に変換しているかを表したものである。
【0056】
5(6)-TMR, Fmoc-Lys(TMR)-OH, TMR-G, TMR-O(2), TMR-(6), TMR-O(12), TMR-O(28)を結合した色素増感太陽電池の各IPCEスペクトルを図2に示す。いずれも色素分子であるTMRの吸収に相当する550nm付近でIPCEスペクトルの極大が観測されることから、各構造体において、TMRから基板への電子注入が、良好に行われていることがわかった。
図3に、各IPCEスペクトルから得られる極大波長を示す。従来法に用いられるような5(6)-TMRのような分子は比較的、極大波長が長い(568nm)。一方でスペーサー部位の長さが長くなり、ペプチドの長さの原子数が増加するにつれ、極大波長は短くなる(例えば、TMR-O(28)では549nm)ことがわかった。一般的に波長の変化は、導電性基板上での色素分子の凝集状態を示していると考えられている。すなわち、極大波長が長いものほど密度が高い凝集状態を保ち、一方、極大波長が短いものほど、凝集していないことを示している。図3に示された結果は妥当なものと考えられる。すなわち、ペプチドの長さの原子数が多いものほど極大波長が短くなっている。これはペプチドの長さの原子数が多くなることで、色素分子間の距離(側方空間)が広がるためであると考えられる。また、同時にペプチドの長さの原子数が多くなることにより、色素分子が基板表面上から離れ、より溶液に近い状態の場所で存在できるためとも考えられる。
【0057】
次に、作製された色素増感太陽電池を用いて、I-Vカーブを測定した。そして、I-Vカーブより得られる短絡電流Isc(mA・cm-2)および開放光起電圧Voc(mV)より以下の式を用いて、光電変換効率η(%)を求めた。なお光電変換効率は、光をどの程度電子に変換できるかを表した割合であり、太陽電池を考える上で最も重要な値の一つといえる。
[式]η(%)=(Isc×Voc×ff/φ)×100
ここでffはフィルファクター、φは入射光強度(60 mW・cm-2)である。
【0058】
以下の表1に、TMR-OH, Fmoc-Lys(TMR)-OH, TMR-G, TMR-O(2), TMR-O(6), TMR-O(12), TMR-O(28)のIPCEスペクトルおよびI-Vカーブから得られた結果をまとめた。
【表1】

TMR-O(6)が最も高い光電変換効率(0.092%)を示すことがわかった。導電性基板への結合部位(グルタミン酸ユニット)と色素(TMRユニット)との間のペプチド長さの原子数がO(6)よりも少なくなっても(例えば、TMR-O(2);0.073%)、また多くなっても(例えば、TMR-O(12);0.032%)、ηは低下した。特に、従来法で用いられるような色素分子の結合(5(6)-TMR;0.027%)と比べると、TMR-O(6)のηは3.4倍増加した。これらの結果より、第一に、色素分子には光電変換を行うのに、導電性基板に対して最適な空間が存在していることがわかった。第二に、色素分子は密にパッキングした(凝集した状態)では色素分子間の電子移動により、導電性基板へうまく電子が注入できないので、色素分子間の側方空間がある程度広がっていることが必要であることがわかった。これらのことは色素分子(色素分子間も含めて)が導電性基板に対して最適な空間位置に配置されていることが光電変換効率を向上させるのに重要であることを示している。また、本実施例中、O(6)を含むペプチドが最適であることがわかった。
【0059】
(実施例3)色素増感太陽電池の作製2
O(6)を用いて、1ペプチド分子中の色素分子の数を増やすことで、基板表面上の色素分子の密度を増加させ、光電変換効率が向上するかについて実験を行った。
まず、実施例1および2と同様の方法を用いて、{TMR-O(6)}4とTMR4-O(6)を合成し、これらを用いた構造体および色素増感太陽電池を作製した。ここで{TMR-O(6)}4とTMR4-O(6)はいずれも1ペプチド分子中に色素分子TMRを4個並べたものであるが、TMR4-O(6)は連続的にTMRを4個並べてあるのに対し、{TMR-O(6)}はTMR間にO(6)を介している。
【0060】
かかる色素増感太陽電池を使用して得られた、IPCEスペクトルおよびI-Vカーブの結果を表2にまとめた。
【表2】

{TMR-O(6)}4の方がTMR4-O(6)よりもηが1.5倍良いことがわかった。これは、TMR間の距離が近すぎるとアクセプター-ドナー間の電子移動により、導電性基板へのTMRの電子注入が阻害されているためと考えられる。ここからもTMRの間には適当な距離が必要であることがわかった。
【0061】
(実施例4)色素増感太陽電池の作製3
1ペプチド中の色素分子の数を増やすことによって、さらに単位面積当たりの光電変換効率を向上できないかについて検討した。
まず、実施例1および2と同様の方法を用いて、1ペプチド中にO(6)を介して色素分子であるTMRを連結させた{TMR-O(6)}2, {TMR-O(6)}4, {TMR-O(6)}8を合成し、これらを用いた構造体および色素増感太陽電池を作製した。
【0062】
これらの色素増感太陽電池を使用して得られた、IPCEスペクトルおよびI-Vカーブの結果を表3にまとめた。参考としてTMR-O(6)の結果も含めた。
【表3】

色素分子が最も少ない(1個)のTMR-O(6)のηが0.092%と最も高く、以下、{TMR-O(6)}4 (0.024%), {TMR-O(6)}2 (0.006%), {TMR-O(8)}8 (0.004%)の順になった。本実施例では、色素分子とペプチドが増えていくことで色素修飾ペプチド1分子全体が大きくなり、色素分子が増える効果よりもむしろ、側方空間が広がってしまい、単位面積当たりの色素分子の密度が減少したものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、ペプチド固相合成技術により、簡単に色素分子を導入したペプチドを作製し、空間的に制御されて色素を導電性基板に結合させた電極を作製することが出来る。ペプチド上で色素分子を簡単に任意の位置に、空間的に制御して配置させることは、色素分子がペプチド上で共有結合していることに起因する。また、本発明では、必要に応じてペプチドの構成単位や色素分子を変更することも容易に可能である。導電性基板への色素の結合は、基板を試料溶液に30分間浸漬させるだけなので簡便であり、本発明は有用である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1にて用いられた化合物の構造式を示す図である。(実施例1)
【図2】色素増感太陽電池の各IPCEスペクトルを示す図である。(実施例2)
【図3】各IPCEスペクトルから得られる極大波長を示す図である。(実施例2)
【図4】本発明の概念図である。
【図5】本発明の色素修飾ペプチドを、TMR-(6)を例示して説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基板と、1以上のアミノ酸ユニットからなるペプチドと、色素とを有する構造体であって、色素がペプチドを介して導電性基板に結合している構造体。
【請求項2】
色素が、アミノ酸ユニットに結合可能な結合基を有する、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記構造体において、以下のいずれかの原子数が、5以上1000以下である、請求項1または2に記載の構造体:
(i)色素が色素分子自体である場合には、ペプチドの一方の末端のアミノ酸ユニットに結合している色素中の原子から
ペプチドの導電性基板への結合部位であるアミノ酸ユニット中の原子であって、導電性基板に結合し得る結合基の原子までの原子数、または
(ii)色素が色素分子とペプチド結合可能な結合基とを含む場合には、ペプチドの一方の末端のアミノ酸ユニットに結合している結合基に結合している、色素中の原子から
ペプチドの導電性基板への結合部位であるアミノ酸ユニット中の原子であって、導電性基板に結合し得る結合基の原子までの原子数。
【請求項4】
ペプチドに含まれるアミノ酸ユニットのうち少なくとも1つが、二価の炭化水素基、エステル基、エーテル基、アミド基、アミノ基、およびチオエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種類の構成単位を1以上含む、請求項1〜3のいずれか1に記載の構造体。
【請求項5】
ペプチドに含まれるアミノ酸ユニットのうち少なくとも1つが、オキシアルキレン基またはオキシアリーレン基のいずれか1種類の構成単位を1以上含む、請求項1〜4のいずれか1に記載の構造体。
【請求項6】
ペプチドに含まれるアミノ酸ユニットのうち少なくとも1つが、オキシエチレン基またはオキシフェニレン基のいずれか1種類の構成単位を1以上含む、請求項5に記載の構造体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載の構造体の製造方法であって、
色素と、1以上のアミノ酸ユニットからなるペプチドとが結合した色素修飾ペプチドを作製し、
前記色素修飾ペプチドと、導電性基板とを接触させることを含む方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1に記載の構造体からなる電極。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1に記載の構造体または請求項8に記載の電極と、電解質と、対極とを含む、光電変換素子。
【請求項10】
電解質が液状である、請求項9に記載の光電変換素子。
【請求項11】
請求項9または10に記載の光電変換素子を備える、色素増感太陽電池。
【請求項12】
請求項9または10に記載の光電変換素子を備える、光電センサー。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−153293(P2010−153293A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332287(P2008−332287)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】