説明

色素増感型太陽電池用光電極の製造方法

【課題】低コストかつ低プレス圧で、高光電変換効率を達成することができる色素増感型太陽電池用光電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法は、プラスチック製の透光性支持体、及び該透光性支持体上に形成された透明導電層を有する透光性基板を準備する工程と、チタニア粒子を含むペーストを前記透明導電層の表面に塗布、乾燥して塗膜を形成する工程と、前記塗膜を、ロールプレスにより40〜180MPaの圧力でプレスし、機能性半導体層を形成する工程と、前記機能性半導体層に増感色素を担持させる工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池用光電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対応型のクリーンなエネルギー源として、太陽光エネルギーを利用した太陽電池の研究開発が進められている。太陽電池には様々な種類があるが、光電変換効率の向上、及び低コスト化の可能性のある太陽電池として、色素増感型太陽電池が注目されている。
【0003】
色素増感型太陽電池は、透光性支持体及び当該透光性支持体上に形成された透明導電層を有する透光性基板と、前記透明導電層上に形成された光電変換層とを有する光電極と;光電極に電気的に接続された対極と;光電極と対極の間に封入された電解質溶液と、から構成される。光電変換層は、機能性半導体層を構成するチタニア粒子等の半導体粒子に増感色素を担持させたものである。
【0004】
透光性支持体としては、一般的にガラス基板が使用されている。ガラス製の透光性支持体を有する色素増感型太陽電池では、一般に、導電性ガラス基板上に有機バインダー及びチタニアナノ粒子を含むペーストを塗布し、次いでこれを400℃以上の温度で焼成して有機バインダーを燃焼させることによって、透光性基板に接合された酸化物半導体膜を作製する。
【0005】
一方、前記透光性支持体として、近年、プラスチック板やプラスチックフィルム等のプラスチック製基板を用いることが注目され、検討されている。これは、プラスチック製の透光性支持体を使用した色素増感型太陽電池は、軽量化、低コスト化、強靭性、可撓性に優れるなどの長所を有するためである。このような太陽電池は、例えば、屋根の上等に設置したり、自動車のボディーのような曲面に適用したりすることができ、また、携帯電話の電力源として用いることが期待される。
【0006】
しかしながら、プラスチック製の透光性支持体を使用する場合、その耐熱限界から、ガラス製の透光性支持体のように、無機半導体粒子を含むペーストを400℃以上の高温で焼成して、機能性半導体層を形成して透光性基板と接合させることができない。そこで、機能性半導体層及びプラスチック製透光性基板を、プレス機を用いて所定のプレス圧でプレスすることにより、機能性半導体層とプラスチック製透光性基板とを接合することが行われている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0007】
特許文献1には、平板式のプレス機(以下、「平プレス」ともいう)である油圧式プレス機を用いて、プレス圧480MPaでプレス処理を行うことが記載されている。特許文献2および4には、油圧式プレス機を用いて、プレス圧100MPaで60秒間プレス処理を行うことが記載されている。また、特許文献3には、油圧式プレス機を用いて、プレス圧40〜80MPaで60秒間プレス処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−5023号公報
【特許文献2】特開2008−251517号公報
【特許文献3】特開2008−251518号公報
【特許文献4】特開2008−251519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記平プレスによるプレス処理には、高い光電変換効率を達成するために高いプレス圧を加える必要があり、光電極の製造が高コストになるという問題があった。
【0010】
一般的に、プレス処理により機能性半導体層とプラスチック製透光性基板とを接合して、一定以上の光電変換効率を達成するためには、高いプレス圧を加える必要がある。しかしながら、上記の平プレスを用いた場合、広い面積を高圧プレスするためには、1,000ton以上の大型プレス機が必要であり(例えば、30cm×30cmの面積に1ton/cmの荷重をかけるためには、1,000ton以上のプレス機が必要)、設備コストが高い。また、平プレスの場合、プレスがバッチ処理となるため生産性が低くなっていた。
【0011】
さらに、平プレスは、平プレス天板と底板の微細な湾曲や凹凸、及び被プレス材の凹凸を緩和するために、クッション材を必要とする。しかしながら、プレス圧力が高いため、このクッション材は使い捨てであり、高コストとなっていた。また、クッション材によって圧力が逃げて、見かけ加重圧力と実測加重圧力との差が大きくなることがあった。これにより、圧力効率が60%以下になることもあり、更に大きいプレス圧を加える必要があった。
【0012】
本発明は、かかる点を鑑みてなされたものであり、低コストかつ低プレス圧で、高光電変換効率を達成することができる色素増感型太陽電池用光電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、プレス機として、平プレスの代わりにロールプレス機(以下、「ロールプレス」ともいう)を採用することを検討した。しかしながら、平プレスで通常採用されるような比較的高いプレス圧でロールプレスすると、透光性基板の透明導電層(ITO皮膜、FTO皮膜等)にクラックが入るだけでなく、透明性基板がロールによる圧延効果により伸ばされるため導電性が低下し、光電変換効率が大幅に低下することを見出した。そこで、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ロールプレスを使用し、かつそのプレス圧を所定の範囲とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法に関する。
【0015】
[1] プラスチック製の透光性支持体、及び該透光性支持体上に形成された透明導電層を有する透光性基板を準備する工程と、チタニア粒子を含むペーストを前記透明導電層の表面に塗布、乾燥して塗膜を形成する工程と、前記塗膜を、ロールプレスにより40〜180MPaの圧力でプレスし、機能性半導体層を形成する工程と、前記機能性半導体層に増感色素を担持させる工程と、を含む色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
[2] 前記塗膜は、70〜130MPaの圧力でプレスされる、[1]に記載の光電極の製造方法。
[3] 前記塗膜は、0.5〜8.0m/minの速度でプレスされる、[1]または[2]に記載の光電極の製造方法。
[4] 前記チタニア粒子はアナターゼ結晶型である、[1]〜[3]のいずれかに記載の光電極の製造方法。
[5] 前記チタニア粒子は、平均粒子径が3〜40nmの粒子と、平均粒子径が50nm以上の粒子とを含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の光電極の製造方法。
[6] 前記機能性半導体層の厚みは、3〜40μmである、[1]〜[5]のいずれかに記載の光電極の製造方法。
[7] 前記ロールプレスは、ロールを具備するロールプレス機で行われ、前記ロールのロール表面粗度Raが0.3μm以下である、[1]に記載の光電極の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低コストかつ低プレス圧で、光電変換効率が高い色素増感型太陽電池用光電極を製造することができる。よって、本発明によれば、光電変換効率が高い色素増感型太陽電池及び色素増感型太陽電池モジュールを、効率よく安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法を説明するための図である。
【図2】平プレス及びロールプレスのプレス圧と光電変換効率との関係を示すグラフである。
【図3】色素増感型太陽電池セルの例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法によって製造される色素増感型太陽電池用光電極(以下、「光電極」ともいう)は、色素増感型太陽電池を構成する光電変換素子(以下、「セル」ともいう)の負極として機能する。
【0019】
光電変換素子は、一般的に、光電極と、対極と、光電極及び対極の間に封入された電解質部分と、封止部とを有する。
【0020】
[光電極]
光電極は、透光性支持体および当該透光性支持体上に形成された透明導電層を有する透光性基板と、前記透明導電層上に形成された光電変換層とを有する。
【0021】
透光性支持体は、弾性を有するプラスチック板であり、その大きさ、厚さは特に限定されない。プラスチック板の材料は、透光性、耐熱性、耐化学薬品特性等の観点から、例えば、板状又はフィルム状のシクロオレフィン系ポリマー、板状又はフィルム状のアクリル尿素系ポリマー、板状又はフィルム状のポリエステル、板状又はフィルム状のポリエチレンナフタレート等が好ましい。
【0022】
透明導電層は、透明かつ導電性がある透明電極として機能するものであれば、材質、厚さ等は特に限定されない。透明導電層は、例えば、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)等から形成される。また、透明導電層の表面抵抗は100Ω/□以下であることが好ましく、16Ω/□以下であることがより好ましい。
【0023】
光電変換層は、チタニア粒子等の半導体粒子を含む機能性半導体層における半導体粒子に増感色素を担持させてなる層である。
【0024】
半導体粒子は、電子伝達作用を発揮するものであって、このような半導体粒子を構成する半導体の具体例には、TiO、SnO、ZnO、WO、Nb、In、ZrO、Ta、TiSrO等の酸化物半導体;CdS、ZnS、InS、PbS、MoS、WS、Sb、Bi、ZnCdS、CuS等の硫化物半導体;CdSe、InSe、WSe、PbSe、CdTe等の金属カルコゲナイド;GaAs、Si、Se、InP等の元素半導体が含まれる。また、例えば、SnOとZnOとの複合体、TiOとNbとの複合体など、上記半導体2種以上よりなる複合体を用いることもできる。また、半導体の種類はこれらに限定されるものではなく、2種類以上混合して用いることもできる。半導体粒子を構成する半導体としては、上記の中でも、Ti、Zn、Sn、Nbの酸化物が好ましく、特にTiOが好ましい。TiOよりなるチタニア粒子としては、アナターゼ結晶型のもの、またはルチル結晶型のものが使用可能である。特に、アナターゼ結晶型のチタニア粒子は、所望の光電変換効率を有する色素増感型太陽電池が確実に得られるので好ましい。
【0025】
また、半導体粒子は、平均粒子径の異なる少なくとも2種の半導体粒子(以下、「特定の半導体粒子群」という。)を含むことが好ましい。例えば、平均粒子径20nm程度のナノサイズの半導体粒子は、長波長の光を透過しやすく、また、例えば平均粒子径100nm程度の大粒径の半導体粒子が混在することにより光が散乱される。これにより、機能性半導体層中における光路長が増大される、いわゆる「光閉じ込め効果」を十分に得ることができる。その結果、増感色素が十分な光吸収効率を有し、色素増感型太陽電池において高い光電変換効率が達成される。
【0026】
特定の半導体粒子群を構成する半導体粒子のうち、平均粒子径が小さい半導体粒子(以下、「半導体小粒子」ともいう。)の平均粒子径は好ましくは3〜40nm、より好ましくは15〜25nmである。また、特定の半導体粒子群を構成する半導体粒子のうち、平均粒子径が大きい半導体粒子(以下、「半導体大粒子」ともいう。)は、光散乱能を有するものであって、その平均粒子径は好ましくは50nm以上、より好ましくは80〜400nm、特に好ましくは90〜120nmである。
【0027】
光電変換層における半導体小粒子の含有割合は、50〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは60〜70質量%である。半導体小粒子の割合が過多であると、半導体大粒子による十分な光閉じ込め効果を得ることができず、増感色素について高い光吸収効率が得られない。一方、半導体小粒子の含有割合が過少であると、光電変換能が十分に得られないことがある。
【0028】
光電変換層はプレス処理された機能性半導体層から形成されているため、光電変換層は多数のナノ細孔が形成されている。したがって、透光性基板の単位面積当たりの半導体粒子の表面積が極めて大きくなり、これにより、十分な量の増感色素を担持させることができ、高い光吸収効率が得られる。
【0029】
また、光電変換層を形成する機能性半導体層の厚みは、3〜40μmであることが好ましく、より好ましくは6〜15μmである。機能性半導体層の厚みが過小である場合は、十分な量の増感色素を担持できないため、色素増感型太陽電池の光電変換効率が不十分となってしまう。一方、機能性半導体層の厚みが過大である場合は、光電変換層において増感色素から注入された電子の拡散距離が増大するため、電荷の再結合によるエネルギーロスが大きくなってしまう。
【0030】
光電変換層において半導体粒子に担持される増感色素は、増感作用を示すものであれば特に限定されず、例えば、N3錯体、N719錯体(N719色素)、Ruターピリジン錯体(ブラックダイ)、Ruジケトナート錯体等のRu錯体;クマリン系色素、メロシアニン系色素、ポリエン系色素等の有機系色素;金属ポルフィリン系色素やフタロシアニン色素等が含まれる。中でも、Ru錯体が好ましく、特に、可視光域に広い吸収スペクトルを有するため、N719色素およびブラックダイが好ましい。N719色素は(RuL(NSC)・2TBA)で表される化合物であり、ブラックダイは(RuL’(NCS)・2TBA)で表される化合物である。ただし、Lは、4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン、L’は、4,4’,4”−テトラ−カルボキシ−2,2’,2”−ターピリジン、TBAは、テトラブチルアンモニウムカオチンである。これらの増感色素は、単独でも2種類以上を混合して用いることもできる。
【0031】
光電変換層における増感色素の担持量は、機能性半導体層の単位表面積当たりの量で1×10−8〜1×10−7mol/cm、好ましくは3×10−8〜7×10−8mol/cmとすることが好ましい。増感色素の担持量がこの範囲内であることにより、半導体粒子の表面に増感色素が単分子層として担持されるため、増感色素において励起された電子が電解質部分の電解質を還元するなどのエネルギーロスが発生せずに十分な光吸収効率が得られる。
【0032】
[対極]
対極は、光電変換素子の正極として機能する。対極を構成する材料の例には、白金、金、銀、銅、チタン、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属、炭素、ITO、FTO等の導電性金属酸化物が含まれる。対極は、通常、導電性の支持体や、またはそれと同様の導電性層を有する支持体に、上記の金属や炭素、導電性酸化物からなる導電性膜を設けた構成としてもよい。しかしながら、十分な強度及び密封性が得られるのであれば、その構成は特に限定されない。
【0033】
[電解質部分]
電解質部分は、電解質、溶媒、及び添加物を含むことが好ましい。また、電解質部分は、液体状、固体状、凝固体状、常温溶融塩状態のいずれであってもよい。電解質としては、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム等の金属ヨウ化物とヨウ素との混合物;テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等の第4級アンモニウム化合物のヨウ素塩とヨウ素との混合物などが挙げられる。あるいは、前記ヨウ素とヨウ素化合物との混合物の代わりに、臭素と臭素化合物との混合物としてもよい。また、電解質がイオン性液体の場合は、特に溶媒を用いなくてもよい。
【0034】
電解質部分が液体状のものである場合の溶媒の例には、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒、エチレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒が含まれる。
【0035】
電解質部分が液体状のものである場合、電解質溶液における電解質の濃度は、電解質の種類によっても異なる。例えば、電解質がヨウ素塩−ヨウ素の組み合わせである場合は、0.1〜5.0Mであることが好ましく、更に好ましくは0.1〜1.0Mである。また、電解質部分の厚み、すなわち光電極と対極との離間距離は、例えば1〜100μmであればよい。
【0036】
[封止部]
封止部は、液状の電解質部分がセル周囲へ漏れるのを防止するため部材である。封止部の材料としては、液漏れを防止できるものであれば特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂を用いることができる。また、封止部は、所望の大きさのものを用いて、透光性基板と対極を所定の距離だけ離間させるスペーサとしての機能も兼ねたものとすることができる。
【0037】
次に、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法について説明する。
【0038】
本発明の製造方法は、1)プラスチック製の透光性支持体、及び当該透光性支持体上に形成された透明導電層を有する透光性基板を準備する第1の工程と、2)チタニア粒子を含むペーストを前記透明導電層の表面に塗布、乾燥して塗膜を形成する第2の工程と、3)前記塗膜を、ロールプレスにより40〜180MPaの圧力でプレスし、機能性半導体層を形成する第3の工程と、4)前記機能性半導体層に増感色素を担持させる第4の工程と、を含む。
【0039】
第1の工程では、プラスチック製の透光性支持体の表面に透明導電層を形成して、透光性基板を準備する。透光性基板は、ITO等の透明導電層をスパッタリング法等の公知の手段によって、透光性支持体の表面に形成することによって得られうる。透明導電層の形成は、透明導電層の透光性支持体に対する密着性や耐久性の観点から、加熱処理しながら行われることが好ましい。加熱処理の温度は、透光性支持体を構成するプラスチックの耐熱温度より低い温度とされ、例えば、100〜150℃であればよい。ここで、「耐熱温度」とは、プラスチックの軟化点温度または融点温度のいずれか低い方の温度を意味する。
【0040】
図1(a)は、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法の第1の工程を説明するための図である。図1(a)に示されるように、透光性基板21は、透光性支持体21a上に透明導電層21bを形成することで得られる。透明導電層21b上に、さらに集電用の電気配線を形成してもよい。集電用の電気配線は、例えばチタン配線である。
【0041】
第2の工程では、チタニア粒子を含むペーストを透明導電層の表面に塗布した後、乾燥して、チタニア粒子を含む塗膜を形成する。「ペースト」とは、チタニア粒子等の半導体粒子と溶媒とを含む組成物をいう。ペーストは、水性ペーストであっても非水性ペーストであってもよい。水性ペーストの溶媒は水を含み、非水性ペーストの溶媒は水を含まない。ペーストに含まれる水以外の溶媒の例には、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコールなどのアルコール類がある。非水性ペーストとしては、水とtert-ブチルアルコールの混合溶媒を含む昭和電工株式会社製チタニアペーストSP−210(平均粒径30〜150nmのチタニア粒子混合物)に、平均粒径250nmのチタニア水ペーストをチタニア粒子含有割合が30質量%になるように混合した後にエタノールを添加して、水を共沸により除去したペーストが挙げられる。
【0042】
塗布されるペーストは水性ペーストが好ましく、さらにチタニア粒子と水のみからなり、バインダーや有機溶剤を含有しない水性ペーストが特に好ましい。ただし、大粒径チタニアの作製工程を含むペーストの調製工程で有機溶剤を使用する場合があるので、その残渣としての有機溶剤がペーストに含まれていることがある。前記残渣としての有機溶剤を含むペーストも、作製する光電極の性能に影響しない限り、本発明における「有機溶剤を含有しないペースト」と定義される。
【0043】
チタニア粒子を含むペーストの調製方法は特に限定されるものではないが、例えば、以下に示す、アルコキサイドを4級アンモニウム塩により加水分解する塩基性法が好ましく用いられる。
【0044】
塩基性法では、所定のチタニウムアルコキサイドを、4級アンモニウム塩によってそれぞれ加水分解して、小粒径チタニア粒子及び大粒径チタニア粒子を得る。そして、これらを混合することにより、チタニア粒子を含むペーストを調製する。得られるチタニア粒子の平均粒子径は、加水分解に供される4級アンモニウム塩の添加量を調整することにより適宜制御することができる。4級アンモニウム塩の添加量を大きくするに従って、平均粒子径の小さいチタニア粒子を得ることができる。
【0045】
4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を用いることができるが、メチル基については限定されず、炭素数が1〜4個のアルキル基を有するものを例示することができる。また、大粒径チタニアを得るためのアルコキサイドとしては、チタンのアルコキサイドを用いることができる。例えば、アルコキサイドとしてTi(OCを用い、4級アンモニウム塩としてTMAHを用いることができる。ペースト中のチタニア粒子の含有割合は、5〜30質量%であることが好ましく、8〜15質量%であることがより好ましい。
【0046】
チタニア粒子を含むペーストの塗布方法は特に限定されず、ドクターブレード法、スプレー法、スピンコート法等、公知の種々の方法により塗布することができる。乾燥方法も特に限定されず、例えば室温で静置することで乾燥させることができる。
【0047】
図1(b)は、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法の第2の工程を説明するための図である。図1(b)に示すように、チタニア粒子を含むペーストは透明導電層21bの表面に塗布、乾燥され、塗膜23Aが形成される。
【0048】
第3の工程では、第2の工程で形成したチタニア粒子を含む塗膜をロールプレスにより40〜180MPaの圧力でプレスし、チタニア粒子を含む機能性半導体層を形成する。ロールプレス機は、所望の線圧を加えることができれば特に限定されないが、ロール材質はS45C、SKD-11、SKH-51等の硬合金が適しており、さらに表面硬度を増すために硬質クロムめっきを施してもよい。また、ロール表面の中心線平均粗さRaは0.3μm以下が好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。中心線平均粗さRaが0.3μmを超えるとロールプレス時に透明導電層にクラックが入ることにより表面抵抗値の上昇が著しくなる。中心線平均粗さRaが0.1μm未満では100〜130MPaの高圧でプレスしても透明導電層の表面抵抗値の上昇はほとんどない。
【0049】
プレス処理を行うことによって、塗膜中のチタニア粒子同士が密着し、電子伝達能を向上させることができる。プレス圧が40MPa未満では、チタニア粒子同士が十分に密着できないため、電子の伝達性が低く高い変換効率を得ることができない。また、プレス圧が180MPaを超えると、透光性基板の透明導電層(ITO皮膜、FTO皮膜等)にクラックが入るだけでなく、透明性基板がロールによる圧延効果により伸ばされるため透光性基板の導電性が低下し、変換効率が大幅に低下してしまう。プレス圧は、より高い光電変換効率を得られるため、70〜130MPaの範囲であることがより好ましい。また、プレス処理は、室温で行われることが好ましい。なお、「室温」とは、通常、20〜35℃である。
【0050】
プレス速度は、0.5〜8m/min、好ましくは2〜6m/minである。プレス速度が0.5m/minよりも遅いと、100MPa以上の高圧プレス時に透明導電層にクラックが入り易くなり、抵抗が上昇することがある。また8.0m/minよりも速いと、チタニア粒子等からなる半導体粒子層にかかる圧力が不均一となり、一部の半導体粒子層が剥離する場合がある。
【0051】
ロールプレスは、被プレス材に対して、線接触かつロール間のクリアランス制御により加圧を行うため、ロールに加重をかける必要がない。また、ロールの管理を十分に行えば、クッション材を使用しなくても均一に加圧することができる。さらに、プレス処理がロール・トゥ・ロールであるため、生産性が高い。
【0052】
図1(c)は、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法の第3の工程を説明するための図である。図1(c)に示すように、ロールプレスにより塗膜23Aを所定のプレス圧でプレスして機能性半導体層23αを形成し、光電極構造体20Kを得る。
【0053】
第4の工程では、前記機能性半導体層に増感色素を担持させる。増感色素を機能性半導体層に担持させる方法としては特に限定されない。担持方法の例には、浸漬法、スプレー塗布法、印刷塗布法が含まれる。浸漬法では、アルコール類、ニトリル類、ニトロメタン、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ジメチルスルホキシド、アミド類、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、3−メチルオキサゾリジノン、エステル類、炭酸エステル類、ケトン類、炭化水素、水等の溶媒1種又はこれら2種以上の混合溶媒に増感色素を溶解して調製した溶液に、機能性半導体層が形成された光電極構造体を浸漬する。
【0054】
図1(d)は、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法の第4の工程を説明するための図である。図1(d)に示すように、増感色素が光電極構造体20Kの機能性半導体層23αに担持されて、光電変換層23が形成される。
【0055】
本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法は、上記第1〜4の工程の他に、任意の工程を含んでもよい。任意の工程の例には、透光性基板の表面処理工程、機能性半導体層のUV−オゾン処理工程が含まれる。
【0056】
透光性基板の表面処理工程は、透光性基板の作製後(第1の工程後)に行われうる工程である。超音波洗浄処理、エッチング処理及びUV−オゾン処理等の表面処理のうち1又は2以上を組み合わせて、透明導電層の表面に表面処理を施す。このような表面処理が施された透光性基板は、得られる色素増感型太陽電池が優れた光電変換効率を示すものとなりうる。これは、表面処理を施すことによって透光性基板上にペーストを塗布する際の濡れ性およびプレス処理後の半導体粒子の透光性基板との密着性が共に向上するためと考えられる。例えば、表面処理前の透光性基板の表面の水に対する接触角は90°より大きく、表面処理後の表面の水に対する接触角は80〜90°程度に減少することが確認されている。この透光性基板の表面処理法としては、超音波洗浄処理、エッチング処理及びUV−オゾン処理以外に、スパッタリング等の他の処理法も適宜使用可能であり、これらに限定されない。
【0057】
超音波洗浄処理は、超音波洗浄器および超音波洗浄用洗剤を用い、洗浄剤を入れた容器内に透光性基板を浸漬し、その容器を水で満たした超音波洗浄器に入れ、数分〜10分間超音波を印可することにより、当該透光性基板の表面における微細な付着物等を洗浄・除去する処理である。また、エッチング処理は、高周波スパッタ装置「SVC−700RFII」(サンユー電子株式会社製)に透光性基板をセットし、高真空条件(5Pa)とした後、逆スパッタ(エッチング)処理を20W、10分間の条件で行うものである。具体的には、高周波の交流電位をかけることによりプラズマを発生させ、その内のプラス電荷を帯びたアルゴン原子を、マイナス電荷をかけた基板に衝突させることによって、基板上の付着物を除去する。UV−オゾン処理は、処理対象物をUV−オゾン洗浄装置「OC−2506」(岩崎電気株式会社製)に入れ、5分間前後紫外線照射を行うことにより、行うものである。
【0058】
プレス処理工程後であって次の色素担持工程前(第3の工程と第4の工程との間)に、必要に応じて、機能性半導体層の表面処理としてUV−オゾン処理を行うことができる。透光性基板の表面処理としてUV−オゾン処理を行った場合も行わなかった場合も、このUV−オゾン処理を行うことができる。このUV−オゾン処理を施すことによって、機能性半導体層を構成するチタニア粒子の表面を洗浄できるばかりでなく、チタニア粒子の親水基を増加させて、増感色素を吸着しやすい状態とすることができると考えられる。その結果、得られる色素増感型太陽電池を光電変換効率の高いものとすることができる。なお、ペースト調製工程において塩基性法によるチタニア粒子の作製に使用されるTMAHが、未反応物として機能性半導体層中に残留してしまうことがあるが、UV−オゾン処理によってこのTMAHを分解してチタニア粒子を表面洗浄することができる。このUV−オゾン処理は、透光性基板についてのUV−オゾン処理と同様にして行うことができる。
【0059】
以上の手順により、色素増感型太陽電池用光電極を製造することができる。このように、プレス処理にロールプレスを用いて、かつプレス圧を所定の範囲に設定し、さらに好ましくはロールの表面粗度を低下させることで、低コストかつ低プレス圧で、高光電変換効率を有する色素増感型太陽電池用光電極を製造することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明の範囲は、これら実施例によって限定されるものではない。
【0061】
(チタニア半導体粒子懸濁液の調製)
オルトチタン酸テトライソプロピル56.8gを、イオン交換水200mL中によく撹拌しながら滴下した。さらに1時間撹拌を続けることで加水分解を完結させ、目的とする水酸化チタンの沈殿物を得た。沈殿物は濾紙を用いて濾別し、イオン交換水で十分に洗浄した。次いで、この沈殿物を、5.8gのテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を溶解させたイオン交換水に加え、さらにイオン交換水を追加して全量を160gとした。この試料を140℃で4時間加熱還流を行った後、ガラスフィルターでマイクロクリスタルを除去することで、白濁半透明なコロイド溶液を得た。得られたコロイド溶液を密閉したオートクレーブ容器に移し、260℃で8時間水熱合成を行った。その後、エバポレーターを用いてコロイド溶液の溶媒をエタノールに置換した。次いで、超音波分散を行い、平均粒子径20nmのアナターゼ結晶型のチタニア粒子〔A〕を含むエタノール懸濁液〔A〕を得た。なお、TMAHが分解して生成されるトリメチルアミンは、コロイド溶液の溶媒をエタノールに置換する操作の際にほぼ全量除去される。
【0062】
このチタニア粒子懸濁液の調製操作において、TMAHの添加量を1.5gとした以外は同様にして、平均粒子径100nmのアナターゼ結晶型のチタニア粒子〔B〕を含むエタノール懸濁液〔B〕を得た。エタノール懸濁液〔A〕及び〔B〕に含有されるチタニア粒子について、以下の手順で平均粒子径を算出した。まず、エタノール懸濁液をスライドガラス上にドクターブレード法で塗布・乾燥後、XRDパターンを測定し、得られたXRDパターンから半価幅を求めた。そして、Scherrerの式:D=K×λ/βcosθ(式中、Dは結晶子の長さ、βは半価幅、θは回折角、K=0.94、λ=1.5418である)から、平均粒子径を算出した。チタニア粒子の結晶型を確認したところ、チタニア粒子〔A〕およびチタニア粒子〔B〕は、ほぼ100%アナターゼ結晶型であり、ルチル結晶型の粒子の存在は確認されなかった。
【0063】
(光電変換層形成用水性ペーストの調製)
上記2種類のエタノール懸濁液〔A〕及び〔B〕について、各々のチタニア粒子の濃度を以下の手順で求めた。まず、るつぼの質量(W)を電子天秤で秤った。その後、るつぼにエタノール懸濁液を取り、るつぼとエタノール懸濁液の総質量(W)を秤った。るつぼを電気炉内に入れ、150℃で2時間保持してエタノール懸濁液の溶媒を完全に除去し、再び質量(W)を秤った。そして、式:チタニア粒子の濃度(wt%)=(W−W)/(W−W)×100から、チタニア粒子の濃度を求めた。次いで、それぞれの濃度に基づいて、チタニア粒子〔A〕およびチタニア粒子〔B〕が重量比で7:3となるように混合し、この混合液から再びエバポレーターを用いて溶媒を留去した。次いで、水を添加して濃縮することにより、チタニア粒子の濃度が10wt%の水を媒体とする光電変換層形成用水性ペーストを得た。
【0064】
(小型色素増感型太陽電池用光電極および小型セル作製)
光電変換層形成用ペーストの塗布:アルカリ脱脂処理したITO/PEN(ポリエチレンナフタレート)基板(シート抵抗:13Ω/□、厚さ:200μm、王子トービ株式会社製)からなる透光性基板の作用極領域(5mm×5mm)に、前記光電変換層形成用水性ペーストを、ドクターブレード法で塗布した。塗布膜を室温で乾燥させて、厚み15μmの乾燥塗膜を得た。このようにして、チタニア粒子を含む塗膜が表面に形成された、小型色素増感型太陽電池用光電極の透光性基板を得た。
【0065】
ロールプレス処理及び平プレス処理:次いで、上記塗膜が形成された透光性基板を、下記表1〜4に示すプレス条件でロールプレス又は平プレスし、機能性半導体層が形成された光電極構造体を得た。表1は、プレス処理を行わなかったサンプル(比較例1)と、所定のプレス圧のロールプレスをプレス速度0.5m/minで行ったサンプル(実施例1〜9、比較例2〜4)を示す。表2は、所定のプレス圧のロールプレスをプレス速度8.0m/minで行ったサンプル(実施例10〜18、比較例5〜7)を示す。また、表3は、平プレスを行ったサンプル(比較例8〜19)を示す。表4は、ロール表面の中心線平均粗さRaを0.05〜0.8μmに調整してロールプレスしたサンプル(実施例19〜20、比較例20〜22)を示す。
【0066】
ロールプレス処理には、表面を硬質クロムメッキして中心線平均粗さRaを0.05〜0.8μmに調整した直径70mmの金属ロールを、冷間圧延機GT1(株式会社日立製作所製)に取り付けたロールプレス機を使用した。感圧フィルム(「プレスケール」、富士フィルム社製)に透光性基板を積層して積層体を得た。感圧フィルムは、チタニア塗布膜が形成されていない基板面に配置した。この積層体を、両面から、所定のプレス条件でロールプレスした。プレス圧力は、ロールクリアランスを調整して感圧フィルムで実測プレス加重を確認しながら設定した。
【0067】
平プレス処理には、ホットプレスMHPC−550×60(株式会社名機製作所製)を使用した。5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)、感圧フィルム(「プレスケール」、富士フィルム社製)、透光性基板、フッ素離型フィルム、及び5mmのコーネックスフェルト(デュポン株式会社製)を順次積層し、上から「コーネックスフェルト」/「感圧フィルム」/「フッ素離型フィルム」/チタニア塗布ITO−PEN基板/「コーネックスフェルト」の層構成とした積層体を得た。この積層体を、感圧フィルムで実測プレス加重を確認しながら60秒間プレスした。
【0068】
表面抵抗値の測定:中心線平均粗さRaが0.05〜0.8μmの範囲の各金属ロールでロールプレス処理したサンプルを用意した。次いでチタニア層をエタノール中に浸漬しながら、やわらかい布で擦ることにより除去して、透明導電層であるITOの表面抵抗値(Ω/□)をそれぞれ測定した(実施例19〜20、比較例20〜22)。結果を表4に示す。表面抵抗値の測定は、表面抵抗計(株式会社三菱化学アナリテック製ロレスタGP)を用いて行った。
【0069】
増感色素の担持:増感色素として、N719色素をエタノール中に0.2mMの濃度で溶解させて、色素溶液を得た。この色素溶液中に上記光電極構造体をそれぞれ24時間浸漬させ、機能性半導体層に増感色素が担持された小型色素増感型太陽電池用光電極を得た。
【0070】
小型セルの作製:小型色素増感型太陽電池用光電極の作用極領域の周囲四辺の幅0.2cmの枠状スペースに、厚さ50μmの絶縁性の光硬化性樹脂フィルム「サーリン」(商品名、三井デュポンポリケミカル株式会社製)を載置した。更に、当該光硬化性樹脂フィルムを含む光電極上に、白金が蒸着されたSUS316箔(厚さ0.2mm、シート抵抗13Ω/□)の対極箔を載置して対極とした。その後、半田ごてを用いて加熱、固定した。対極箔には、マイクロシリンジの針が入る程度の大きさの注入穴が設けられている。
【0071】
ペクセル・テクノロジーズ株式会社製の実験用電解液PECE−K01を、対極箔に設けられた注入穴からマイクロシリンジを用いて注入した後、当該注入穴を光硬化性樹脂で封止した。さらに光電極と対極の一辺にインジウムを塗布することにより、小型セルを作製した。
【0072】
(大型色素増感型太陽電池用光電極および大型セルの作製)
作用極領域が10mm×95mmであること以外は、小型色素増感型太陽電池用光電極のITO/PEN(ポリエチレンナフタレート)基板と同様の基板を準備した(表5の実施例21および比較例23)。さらに、準備した基板にチタン集電電極を設けた基板も準備した(表5の実施例22)。チタン集電電極は、ITO層上にチタンをスパッタリングして設けた(図3を参照)。
【0073】
準備した基板に、小型色素増感型太陽電池用光電極の透光性基板の作製と同様に、光電変換層形成用ペーストを塗布、乾燥して乾燥塗膜を形成し、大型色素増感型太陽電池用光電極の透光性基板を得た。
【0074】
ロールプレス処理及び平プレス処理:次いで、上記塗膜が形成された透光性基板を、下記表5に示すプレス条件でロールプレス又は平プレスした。
【0075】
増感色素の担持:小型色素増感型太陽電池用光電極の作製と同様にして、増感色素を担持し、大型色素増感型太陽電池用光電極を作製した。
【0076】
大型セルの作製:小型セルの作製と同様にして、大型色素増感型太陽電池用光電極に対極を設けた。さらに、ヨウ素、ヨウ化リチウム、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドおよびt−ブチルピリジンを、それぞれ0.05M、0.1M、0.6Mおよび0.5Mとなるように、窒素雰囲気下でアセト二トリルに溶解した電解質溶液を得た。得られた電解質溶液を、小型セルの作製と同様にして、対極箔に設けられた注入穴から注入し、大型セルを作製した。
【0077】
図3には、得られた大型色素増感型太陽電池セル10の断面図が示される。透光性基板21と対極16との間に、電解質溶液12が封止部19によって封止されている。透光性基板21には、透光性支持体21aと、透明導電層21bと、集電電極22と、光電変換層23とを有する。
【0078】
(太陽電池セルの性能評価)
得られたセル(小型セルおよび大型セル)に、ソーラーシミュレータ(ペクセル・テクノロジーズ株式会社製)を用いて、AM1.5、100mW/cmの擬似太陽光を照射しながら、2400型ソースメータ(KEITHLEY社製)を用いてI−V特性を測定した。測定されたI−V特性から、短絡電流、開放電圧、形状因子ffの値を得た。そして、これらの値を用いて下記式(1)により、光電変換効率を算出した。結果を表1〜5及び図2に示す。表1〜4は、5mm×5mmサイズの色素増感太陽電池セル(小型セル)の性能を評価した結果を示し;表5は、10mm×95mmサイズの色素増感型太陽電池セル(大型セル)の性能を評価した結果を示す。
式(1): 光電変換効率(%)=[短絡電流値(mA/cm)×開放電圧値(V)×{形状因子ff/照射光量(mW/cm)}]×100
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【0084】
ロールプレスを用い、かつプレス圧を40〜180MPaの範囲とした場合は、比較的高い光電変換効率が達成された。また、プレス圧を70〜130MPaの範囲とした場合、平プレスよりも一段と高い光電変換効率が得られた。これは、ロールプレスでは、平プレスとは異なり、線圧を加えるためチタニア粒子に剪断力が加わり、機能性半導体層の膜厚がより均一となって、電荷伝達効率が安定したからだと考えられる。一方、プレス圧が180MPaを超えると、光電変換効率が低下した。これは、高圧プレスによりITO皮膜にクラックが生じたからだと考えられる。
【0085】
また、ロールプレスを用いて110MPaで加圧したとき、5mm×5mmサイズの色素増感型太陽電池セルよりも面積が38倍大きい10mm×95mmサイズのセルにおいても、5.97%という高光電変換効率を得ることができた。
【0086】
また、中心線平均粗さRaが0.3μmを超えるロールで、ロールプレスを行った比較例20〜22では、透明電極層の表面抵抗値が著しく上昇した。これは、透明導電層であるITO皮膜にクラックが発生したためだと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上に説明したように、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法は、低コストかつ低プレス圧で、高光電変換効率の色素増感型太陽電池用光電極を効率よく安価に製造することができる。そのため、本発明の色素増感型太陽電池用光電極の製造方法は、色素増感型太陽電池や色素増感型太陽電池モジュールの製造に用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
10 :太陽電池セル
12 :電解質溶液
16 :対極
19 :封止部
20K:光電極構造体
21 :透光性基板
21a:透光性支持体
21b:透明導電層
22 :集電電極
23A:塗膜
23 :光電変換層
23α:機能性半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製の透光性支持体、及び該透光性支持体上に形成された透明導電層を有する透光性基板を準備する工程と、
チタニア粒子を含むペーストを前記透明導電層の表面に塗布、乾燥して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を、ロールプレスにより40〜180MPaの圧力でプレスし、機能性半導体層を形成する工程と、
前記機能性半導体層に増感色素を担持させる工程と、を含む色素増感型太陽電池用光電極の製造方法。
【請求項2】
前記塗膜は、70〜130MPaの圧力でプレスされる、請求項1に記載の光電極の製造方法。
【請求項3】
前記塗膜は、0.5〜8.0m/minの速度でプレスされる、請求項1に記載の光電極の製造方法。
【請求項4】
前記チタニア粒子はアナターゼ結晶型である、請求項1に記載の光電極の製造方法。
【請求項5】
前記チタニア粒子は、平均粒子径が3〜40nmの粒子と、平均粒子径が50nm以上の粒子とを含む、請求項1に記載の光電極の製造方法。
【請求項6】
前記機能性半導体層の厚みは、3〜40μmである、請求項1に記載の光電極の製造方法。
【請求項7】
前記ロールプレスは、ロールを具備するロールプレス機で行われ、
前記ロールのロール表面粗度Raが0.3μm以下である、請求項1に記載の光電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−142010(P2011−142010A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1990(P2010−1990)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】