説明

色素増感型太陽電池

【目的】ガラス板面に形成した透光性導電層の上に形成した、増感色素を担持させた多孔質半導体電極と、対極をなす触媒電極との間に電解液を介在させてなる色素増感型太陽電池で、ガラス板に半導体電極を形成できる面積を大きく確保できるようにする。
【構成】 触媒電極61における半導体電極31に対向する側と反対側に、絶縁層81を介して負極側集電電極層91を形成した。この負極側集電電極層91と透光性導電層21との間を、平面視、相互に間隔をおいて、多数の箇所で導電性接着剤5により電気的に接続した。負極側集電電極層91が、従来のように、ガラス板11の面に線として延びることや面として広がるものではないから、半導体電極31を形成できる面積を大きく確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電では、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン及びこれらを組み合わせたHIT(Heterojunction with Intrinsic Thin−layer)等を用いた太陽電池が広く実用化されている。このようなシリコン系太陽電池では、光電変換効率も優れており、近時においてはそれが20%近くにも達しているものもあるが、シリコン系太陽電池は、その素材の製造にかかるエネルギーコストが高い上に、環境負荷などの面において課題が多い。
【0003】
こうした中で、Gratzel等により提案された、色素増感型太陽電池が安価な太陽電池として、近年、注目を集めている(例えば、特許文献1及び非特許文献1)。このような色素増感型太陽電池の基本的な構成は、増感色素を担持させた多孔質の半導体電極(例えば、チタニア多孔質電極)と、対極をなす触媒電極と、その間に介在させられた電解液(ヨウ素溶液)とから構成されたものであり、その構造がシンプルである。その上に、シリコン半導体を使用しないことから、シリコン系太陽電池に比べると、変換効率は低いものの、低コストの太陽電池として多くの期待を集めている。
【0004】
このような色素増感型太陽電池においては、通常、半導体電極及び触媒電極の各々に、それぞれの電極から効率よく集電するために集電電極が設けられる。そして、半導体電極に接続される集電電極は、半導体電極が形成されるガラス板などの透光性基板に、銀ペーストを線状または格子状などに印刷又は塗布して、焼き付けることにより形成されるのが普通である(例えば、特許文献2)。また、このような焼付けに代えて、スパッタ又は蒸着によって、金属膜を形成、堆積させることで集電電極を形成することも知られている。
【0005】
ところで、色素増感型太陽電池(以下、単に太陽電池ともいう)に用いられる電解液は腐食性が極めて高い。このため、集電電極を銀ペーストの焼付けで形成したものにおいては、その集電電極が電解液に接触したり、晒されるのを防止する必要がある。したがって、通常は、その集電電極(層)の表面を耐腐食性のある樹脂で被覆(コーティング)してその保護が図られていた。
【特許文献1】特開平1−220380号公報
【非特許文献1】Nature誌紙(第353巻、pp,730−740,1991年)
【特許文献2】特開2000−285977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、半導体電極を形成する透光性基板(通常、ガラス板)に負極側集電電極を格子状などに形成し、その上に、この負極側集電電極を覆うように樹脂層を形成すると、これらの形成面の面積分、その透光性基板のうち、半導体電極を形成することのできる面積が減少することになる。このため、従来の色素増感型太陽電池においては、半導体電極を形成することのできる面積を効率的に確保することができないため、発電効率の低下を招いていたといった問題があった。
【0007】
そこで、このような銀ペーストの焼付けに代えて、電解液に対する耐食性の高い金属を、スパッタ又は蒸着によって透光性基板に金属配線層(膜)として形成し、これを厚く堆積させることで低抵抗の集電電極を形成する、ということも考えられる。しかし、スパッタや蒸着によって金属膜を形成して集電電極とする場合には、例え透光性基板にガラス板を使用したとしても、それに十分な耐熱性があるとは言えず、したがって、金属膜を厚く形成することは困難である。このため、スパッタリング等による金属膜によって集電電極を形成する場合でも、低抵抗の電極とするためにはその形成面積を大きくせざるを得ず、結果として、銀の焼付けによる場合と同様、半導体電極を形成することのできる面積が減少することになる。
【0008】
本発明は、こうした問題点を解消するためになされたもので、その目的は、透光性基板に半導体電極を形成することのできる面積をできるだけ大きく確保できるようにし、もって発電効率の高い色素増感型太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の本発明は、透光性基板の一面側に、増感色素を担持させた半導体電極を表面に形成した透光性導電層を備える一方、前記半導体電極に対向して対極をなす触媒電極を備え、この両電極間に電解液が介在されてなる色素増感型太陽電池において、
前記触媒電極における半導体電極に対向する側と反対側には、絶縁層を介して負極側集電電極層が形成されており、
この負極側集電電極層と前記透光性導電層との間が、平面視、相互に間隔をおいて、多数の箇所で導電性接着剤により前記触媒電極と電気的絶縁を保持して電気的に接続されてなることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の本発明は、透光性基板の一面側に、増感色素を担持させた半導体電極を表面に形成した透光性導電層を備える一方、前記半導体電極に対向して対極をなす触媒電極を備え、この両電極間に電解液が介在されてなる色素増感型太陽電池において、
前記触媒電極における半導体電極に対向する側と反対側には、絶縁層を介して負極側集電電極層が形成されていると共に、この負極側集電電極層には、平面視、相互に間隔をおいて、多数の箇所に貫通孔が設けられており、
この負極側集電電極層と前記透光性導電層との間が、多数の前記貫通孔の部位において導電性接着剤により前記触媒電極と電気的絶縁を保持して電気的に接続され、しかも、前記負極側集電電極層における前記触媒電極の形成面側と反対側には、前記電解液が前記貫通孔内を通過して外部に漏出するのを防止する電解液漏出防止層が形成されてなることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の本発明は、前記電解液漏出防止層が、金属板又はガラス板からなることを特徴とする請求項2に記載の色素増感型太陽電池である。そして、請求項4に記載の本発明は、前記触媒電極と前記絶縁層との間に、その触媒電極に電気的に接続された正極側集電電極層が形成されていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の色素増感型太陽電池である。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、前記負極側集電電極層と前記透光性導電層との間が、平面視、相互に間隔をおいて、多数の箇所で導電性接着剤により前記触媒電極と電気的絶縁を保持して電気的に接続されてなる構造を有している。すなわち、本発明では負極側集電電極層が、従来のように、透光性基板の面に、線状又は格子状に、線として延びることや面として広がる形態のものではない。したがって、本発明では、従来の色素増感型太陽電池に比べて、透光性基板における負極側集電電極層の形成面積の大幅な低減が図られるため、透光性基板に形成できる半導体電極の形成エリアを大きく確保できることから、発電効率を高めることができる。
【0013】
しかも、本発明においては次のような注目すべき効果も得られる。すなわち、請求項1に記載の本発明は、負極側集電電極層を金属板(金属箔又は金属膜)で形成した場合には、その金属板が電解液を通過させないことから、電解液の外部への漏出を有効に防止することができると共に、外部から電池内への水分等の異物の浸入を有効に防止する。すなわち、樹脂板に比べて金属板は電解液の浸透を防止することができるため、電解液が外部に漏出するのを防止できるので、太陽電池としての耐久性が高められる。
【0014】
また、請求項2に記載の本発明においても、前記した請求項1に記載の本発明と同様の効果が得られる。そして、上記したいずれの本発明の色素増感型太陽電池においても、両電極間には電解液が充填されているものであることから、その両電極間の周囲には両電極間を封止するための封止用(シール用)の接着剤を介在させて両電極間の空間を封止することになる。この場合、請求項1では、その封止に接着剤を用いる場合は、半導体電極が形成されてなる透光性基板と、触媒電極が形成されてなる対極側の基板とを両電極が対向するようにして重ね合わせて圧着し、接着することになる。この接着において導電性接着剤は封止用の接着剤と同時に接着硬化させることになる。これに対して請求項2の発明では、導電性接着剤は、周囲を封止用の接着剤で接着した後で負極側集電電極層の貫通孔から充填してその接着を行い、その後で、電解液漏出防止層を形成することも可能となる。つまり、請求項2の発明では、その構造上から、周囲の封止用の接着剤により両電極間を封止した後、別工程において導電性接着剤を用い、負極側集電電極層と透光性導電層との間の導通を保持できるため、封止用の接着剤と、導電性接着剤に熱硬化条件など接着条件の異なるものを採択、使用できるため、導電性接着剤及び製造工程の選択性を広げることができる。
【0015】
請求項2における電解液電解液漏出防止層としては、請求項3に記載のように金属板又はガラス板が例示されるが、その漏出が防止できればよく、したがってこれらに限定されるものではない。そして、請求項4に記載の発明のように、前記触媒電極と前記絶縁層との間に、その触媒電極に電気的に接続された正極側集電電極層が形成されているものでは、触媒電極が薄くても、その正極側集電電極層により電池内の回路の低抵抗化が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態について、図1〜図5に基いて詳細に説明する。図1は、本実施形態として具体化した単セル構造の色素増感型太陽電池1を模式的(概略的)に示した縦断面図である。図2は、それを積層、圧着して組立てる前の説明用分解縦断面図であり、図3は、図2の半導体電極31側から見た平面図(矢印Aから見た図)、図4は、図2の触媒電極61側から見た平面図(矢印Bから見た図)であり、図5は、図2の触媒電極61側をなす積層体の説明用分解縦断面図である。
【0017】
本例の太陽電池1は、全体が一定厚さ(例えば5mm)で、平面視、四角形を呈する板状に形成されている(図3,4参照)。そして、透光性基板としては四角形(例えば正方形)で一定厚さのガラス板(板ガラス)11が用いられており、その一面(図1、図2の下面)の略全体には、透光性及び導電性を有する透光性導電層21として、導電性酸化物(例えば、酸化スズ、フッ素ドープ酸スズ(FTO)、酸化インジウム、スズドープ酸インジウムなど)からなる薄膜が所定の厚さ(例えば200nm)で形成されている。
【0018】
この透光性導電層21の表面(図1、図2の下面)には、増感色素を担持させた多孔質の半導体電極31が一定厚さ(例えば30μm)で略全面に層として形成されている。ただし、この半導体電極31には、縦横(碁盤目状)に所定の間隔(ピッチ)P(例えば、10.0mm)で多数の開口(例えば直径3.0mmの円形の開口。図3参照。)33が設けられている。すなわち、透光性導電層21の表面には、半導体電極31が形成されていない部位(開口33)があり、その開口33内には、ガラス板11に形成した透光性導電層21が透光性導電層部23(開口の円形部分)として多数、露出しており、図3に示したように、ガラス板11を半導体電極31の形成面側から見たときは、透光性導電層部23が多数、群をなして設けられている(図3参照)。なお、図3においてはその開口33は9箇所設けられている状態が図示されているが、この数はガラス板11の大きさによってはもちろん数百、数千、或いは数万となる。また、半導体電極31は、ガラス板11の周縁(辺)に沿って、所定の幅分、設けられておらず、その部位には次に述べる、触媒電極61を含む積層体(基板)を接着剤41で接着する際の接着代(接合代)が設けられている。本形態では、増感色素担持させた半導体電極31は、例えば、チタニア(TiO)からなる多孔質電極基体と、この多孔質電極基体の細孔内及び表面に付着させた増感色素からなっている。
【0019】
一方、色素増感型太陽電池1を構成する対極をなす触媒電極61は、Pt(白金)からなっており、金属薄板(金属箔又は金属膜)71の表面(図1の上面)に、例えばスパッタリングで所定の厚さ(例えば200nm)に、層として形成されている。本形態では、この金属薄板71が、正極側集電電極層(以下、正極側集電電極層71ともいう)をなすように形成されている。ただし、この正極側集電電極層71は、チタン又はステンレス鋼(SUS)などの金属薄板(厚さ200μm)からなり、一定厚さ(例えば50μm)の電気的絶縁性のある絶縁層81として、本形態では樹脂(例えばエポキシ樹脂、アイオノマー樹脂)からなる接着剤の層(以下、絶縁層81という)における図1の上面に接着されている。なお、正極側集電電極層71は、ガラス板11と同じ大きさ、形状とされているが、その一側部(図1の左側)には外方に突出するように形成された正極側の電極端子75が設けられている。本明細書において、単に「接着剤」又は「樹脂」というとき、これらは電気的絶縁性があるもの(導電性を有しないもの)である。
【0020】
正極側集電電極層71の表面(図1上面)に形成された触媒電極61は、前記したガラス板11に形成された半導体電極31の形成面に対応してそれと同じ配置、同じ平面形状及び同じ面積又はそれより広い面積で層として形成されている。なお、触媒電極61は、半導体電極31に対向するように、所定の空隙(空間)Kを保持して配置されており、ガラス板11の外周縁寄り部位に接着剤41で接着されている。このような両電極31,61間である電池の内部は周囲の接着剤41でシールが保持されており、その内部(空間内部)には図示はしないが電解液Yが充填されている。なお、この電解液Yには、電解質の他、プロピレンカーボネート等の溶剤及び添加剤等が含まれている。そして、電解質としては、従来の太陽電池の電解質として使用されているものの中から適宜に選択して使用すればよい。
【0021】
一方、絶縁層81の触媒電極61の形成面側と反対側には、負極側集電電極層91をなす金属層が積層状態で接着されている。この負極側集電電極層91は、正極側集電電極層71と同素材からなる一定厚さ(200μm)の金属薄板(金属箔又は金属膜)とされ、ガラス板11と平面上、同じ外形状、大きさをなしている。ただし、負極側集電電極層91の一側部(図1の右側)には外方に突出するように形成された負極側の電極端子95が設けられている。また、負極側集電電極層91における触媒電極61の形成面側と反対側(図1の下面)には、負極側集電電極層91の全面を被覆するように一定厚さ(50μm)の樹脂層(例えば、アイオノマー樹脂)101が積層状態で接着されており、負極側集電電極層91の保護膜(表皮材)をなしている。なお、触媒電極61から絶縁層81に至る各層のうち、平面視、透光性導電層部23に対応する部位には、それと同寸、同形状で、図4に示したように開口3が設けられており、負極側集電電極層91が負極側集電電極層部93(開口3の円形部分)として多数、露出されている。なお、このような対極をなす触媒電極61側は、正極側集電電極層71をなす開口3付きの金属薄板の表面に触媒電極61を形成したものと、樹脂層101に負極側集電電極層91をなす金属薄板(金属箔又は金属膜)を積層したラミネート材とを絶縁層81を介して接着することで形成される。
【0022】
しかして、負極側集電電極層91と透光性導電層21との間が、平面視、相互に間隔Pをおいて設けられた多数の透光性導電層部23と、これらと対応するように設けられた負極側集電電極層部93とにおいて、例えば横断面が円形で柱状に配置形成された導電性接着剤5により、触媒電極61と電気的絶縁が保持されて電気的に接続されている(図1参照)。すなわち、本形態では、多数の透光性導電層部23(図3参照)と、それらに対向する配置の負極側集電電極層部93(図3参照)とにおいて、導電性接着剤5をインターコネクタとして負極側集電電極層91と透光性導電層21との間が多数の箇所で電気的に接続されている。この導電性接着剤5は、触媒電極61と電気的絶縁が保持されるように、各開口3内において、その内壁面との間に間隔を保持され、中心位置に存在するように配置されている。また、各導電性接着剤5は、図1に示されるように、太陽電池1をなしているとき、両電極31,61間に所定の空隙Kが保持される高さに設定されている。
【0023】
本形態では、図2に示したように、対極をなす触媒電極61から樹脂層101までの各層を含む積層体(図2の下の積層体)200と、半導体電極31の形成されたガラス板11とが、外周縁寄り部位において接着剤41を介して接着されることで形成されるのであるが、この触媒電極61側の積層体200自体は、ガラス板11に接着される前には、可撓性(又は柔軟性)のあるシート状をなしている。
【0024】
このような本形態の太陽電池1は、正極側集電電極層71と、負極側集電電極層91の各一側部に突出形成された配線取り出し用の各電極端子75,95間を電線で接続して電気回路を構成し、透光性導電層21側(図1の上側)から光を照射することで両電極31,61間に電気回路を構成する色素増感型太陽電池をなすのであるが、次のような作用ないし効果がある。
【0025】
すなわち、本形態の色素増感型太陽電池1においては、ガラス板11に形成された透光性導電層21における多数の透光性導電層部23と、半導体電極31に対向する側に形成された負極側集電電極層91における多数の負極側集電電極層部93とが、層間において、多数の箇所で、導電性接着剤5をインターコネクタとして電気的に接続されている。つまり、ガラス板の面に沿って線状又は格子状に形成されていた従来の負極側集電電極層のように、ガラス板の面に沿って線として延びることや面として広がるものではなく、ガラス板11を平面視したとき、いわば散点状に多数配置された導電性接着剤5がインターコネクタをなして、各層間をその厚さ方向に貫き、透光性導電層21と負極側集電電極層91とが接続されている。このため、従来の負極側集電電極のように、ガラス板の面に沿ってその形成面積が大きくなることはない。すなわち、本例では、ガラス板11を平面視したとき、透光性導電層21が露出する開口33の面積分が、ガラス板11における半導体電極31の形成面積の減少を招くだけであるから、半導体電極31の形成面積を大きく損なうことなく確保できる。よって、その分、集電効率の高い太陽電池となすことができる。
【0026】
そして、本形態においては、対極側の基板をなす負極側集電電極層91をガラス板11に対応してチタン又はステンレス鋼製の金属板(金属箔又は金属膜)で形成している。したがって、この対極側の基板を通過して電解液Yが外部へ漏出することを防止することができると共に、外部から電池内への水分等の異物の浸入を有効に防止することもできるから、太陽電池としての耐久性が高められる。加えて、本形態では、対極をなす触媒電極61側の積層体200自体に可撓性があるため、半導体電極31が形成されるガラス板11が曲面の太陽電池としても具体化できる。つまり、そのようなガラス板11における透光性導電層21における透光性導電層部23と、負極側集電電極層91における負極側集電電極部93との間に導電性接着剤を介在させ、そのガラス板の面になじませるようにして積層体200を接着をすることで、半導体電極が形成されるガラス板が曲面であっても太陽電池として容易に具体化できる。
【0027】
また、本形態では、負極側集電電極層91をなす金属板に貫通孔を設ける等の格別の加工を要しないことから、それ自体の厚さを加工性を考慮して薄くする必要もないため、負極側集電電極層91は電気的抵抗の増大を招かない十分な厚さに設定できる。なお、この負極側集電電極層91は1枚の金属層(金属箔又は金属膜)でなく、複数層からなる積層構造のものとしてもよい。さらに、本形態では、触媒電極61に加えて正極側集電電極層71を設けたことから、触媒電極61自体の厚さが薄くても、抵抗の小さい回路となすことができる。ただし、触媒電極61は、それ自体に十分な厚さ(1.0μm以上)があれば、それ自体を正極側集電電極としてもよく、したがって、その場合には、触媒電極61は絶縁層81の上に直接形成してもよい。
【0028】
なお、本実施の形態に係る太陽電池1は、上記もしたように、対極をなす触媒電極61を含む上記した積層体200と、増感色素を担持させた半導体電極31を形成したガラス板11側とを別途に製造し、各透光性導電層部23と各負極側集電電極部93とにそれぞれ適量の導電性接着剤を印刷又は塗布しておき、両電極31,61が対向するようにして、周囲において接着して、両電極31,61間に電解液Yを注入することで製造される。そして、対極をなす積層体200については、上記したようにして製造されるが、増感色素を担持させた半導体電極31を形成したガラス板11側については、次のようにして製造すればよい。
【0029】
すなわち、増感色素を担持させた半導体電極31を形成するガラス板11側の製造工程は次のようである。ガラス板11の全面(図2の下側面)にスパッタリングなどによって透光性導電層21を形成する。その後、図3に示したように、透光性導電層部23が相互に所定の間隔Pをおいて所定形状で開口33して露出するように、透光性導電層21の上に、多孔質の半導体電極基体(チタニア)を形成する。なお、多孔質の半導体電極基体の形成は、市販のチタニアペーストを上記した平面形状に透光性導電層21の上に印刷し、その後、公知の条件下で焼成すればよい。そして、例えば、こうして形成された半導体電極基体をガラス板11ごと、増感色素(錯体色素、有機色素)を有機溶媒に溶解させた溶液に浸漬してその溶液を、その多孔質内に含浸させ、その後、有機溶媒を除去することにより増感色素をその細孔内に付着させる。
【0030】
次に、このように形成された半導体電極31付きのガラス板11と、対極をなす積層体200とにおける、各透光性導電層部23と各負極側集電電極部93とにそれぞれ適量の導電性接着剤5を印刷又は塗布すると共に、対向する面(対面)の周囲(接着代)に、それぞれ電解液Yの封止用の接着剤41を印刷(又は塗布)し、各電極31,61が対向するようにして位置決めして両者を重ねて圧着する。こうして、周囲の接着剤41で内部を封止して接着するとともに、多数の透光性導電層部23と負極側集電電極部93とを導電性接着剤5で接着する。なお、導電性接着剤5については、対向する透光性導電層部23と各負極側集電電極部93とのいずれか一方にのみ印刷しておいてもよいが、いずれにしても、適切な面圧で押付けられて接着された後において両電極31,61間に所定の空隙Kが保持されるように印刷すべき導電性接着剤の厚さないし量を設定する。なお、接着剤41については、接着後に、周囲から電解液が漏れ出ないようにその厚さ、幅等を設定する。
【0031】
導電性接着剤5および周囲の封止用の接着剤41に、熱硬化性の接着剤を用いた場合には、その接着部位にガラス板11側からレーザー光を照射するなどして加熱して硬化させればよい。そして、例えば、周囲の封止用の接着剤(層)41の適所に設けた、両電極31,61間の空隙Kに連通する貫通孔(図示せず)から、所要の電解液Yを注入して充填し、その充填後において、その貫通孔を閉塞することで、本形態の色素増感型太陽電池(単セル)1が得られる。
【0032】
なお、負極側集電電極層と透光性導電層との間を多数の箇所で接続している導電性接着剤の周囲は、前記形態では両電極間に介在される電解液に直接晒されることになる。しかし、その導電性接着剤の周囲は、このように電解液に直接晒されないように、それぞれの周囲に、その電解液に耐食性のある被覆層(例えば、樹脂、ガラス、酸化物又はセラミックからなる被覆層ないし被覆膜)で、被覆しておくとよい。このようにしておくと、導電性接着剤が電解液に直接触れることがないことから、電解液による導電性接着剤の腐食に起因する電気的性能の低下が防止されるためである。すなわち、導電性接着剤は電解液に晒される(触れる)場合には容易に腐食されてしまうが、このようにしておけば、導電性接着剤の周囲が電解液に耐食性のある被覆層で被覆されていることから、こうした問題も解消できる。さらに、このようにしておけば、電解液に対する耐腐食性を考慮する必要なく導電性接着剤を選択して使用できるから、その選択範囲を拡げることができる。加えて、導電性接着剤が電解液に晒されないため、導電性接着剤から電解液に向けて逆電子移動が起こることも防止されるから、発電効率の低下防止にも寄与できる。
【0033】
さて次に、本発明の別の実施の形態(第2実施例)について、図6及び図7に基づいて説明する。ただし、この形態は、上記した形態の変形例ないし改良とでも言うべきものであるため、その相違点を中心として説明し、同一部位には同一の符号を付すに止める。すなわち、上記した形態では、負極側集電電極層91における触媒電極61の形成面側と反対側(図1の下側)に形成した樹脂層101が保護膜(表皮材)をなしていた。これに対して、本形態では、負極側集電電極層91における各負極側集電電極層部93の中心部位に層間方向に貫通する貫通孔(円形の開口)94が設けられており、この多数の各貫通孔94の部位において、導電性接着剤5により、透光性導電層部23と負極側集電電極層部93とが電気的に接続されている。なお、導電性接着剤5は、触媒電極61と電気的絶縁が保持されている。このような本形態では、負極側集電電極層91における触媒電極61の形成側と反対側に、樹脂層101を接着層として負極側集電電極層91と同素材の金属薄板(厚さ500μm)からなる電解液漏出防止層111が積層状に接着され、貫通孔94及びその内部に充填された導電性接着剤5を封止している。すなわち、電解液漏出防止層111が樹脂層101の全面を被覆する保護膜をなしており、両電極31,61間に充填されている電解液Yが貫通孔94内を通過して外部に漏出するのを防止している。
【0034】
このような本形態の太陽電池2においては、上記した形態の太陽電池1の効果と同様の効果が得られる。そして、電解液漏出防止層111が電解液Yの液漏れ、及び外部からの異物の侵入を防止する遮蔽膜をなしている。本形態では、このような効果に加えて、次のような特有の効果も得られる。すなわち、本形態では、負極側集電電極層91における各負極側集電電極層部93に貫通孔94が設けられているため、太陽電池2の製造においては次のように行うことができる。図7−Aに示したように、対極をなす基板として、貫通孔94付きの負極側集電電極層91の上に絶縁層81を介して正極側集電電極層71及び触媒電極61を形成し、この状態のものにおいて、周囲の接着剤41で、半導体電極31を含むガラス板11側の基板に接着して図7−Bに示した仕掛かり品を得る。そして、その段階(図7−B参照)において、負極側集電電極層91における貫通孔94内に外部(図7−Bの下側)から導電性接着剤5を充填することで、透光性導電層部23と負極側集電電極層部93とを接着して電気的に接続する(図7−C参照)。その後で、図7−C中に2点鎖線で示したように、電解液漏出防止層111を樹脂層101を介して積層し、上記した太陽電池1の製造におけるのと同様に内部に電解液を充填することで、図6に示した太陽電池2を得ることができる。
【0035】
このように、本形態では導電性接着剤5を周囲の接着剤41とは、別工程で接着できる。すなわち、本形態では、周囲の封止用の接着剤41で接着して両電極31,61間を封止した後、導電性接着剤5で負極側集電電極層91と透光性導電層21との間の導通を保持できるため、封止用の接着剤41と、導電性接着剤5に熱硬化条件など接着条件の異なるものを採択、使用できることから、製造工程の制約を小さくできる。なお、導電性接着剤5についても、ガラス板11の外側からレーザー光を照射するなどして加熱して硬化させることができる。なお、図7−C中に2点鎖線で示したように、電解液漏出防止層111を樹脂層101を介して積層する際には、充填された導電性接着剤5が層間方向に圧縮されるようにするのがよい。
【0036】
本形態では電解液漏出防止層111を、負極側集電電極層91と同素材の金属薄板からなるものとしたが、これについてはその他の材質からなる金属板又はガラス板など、電解液が通過しない材質のもので形成すればよい。なお、本形態においても、触媒電極61は、それ自体に十分な厚さ(1.0μm以上)があれば、それ自体を正極側集電電極としてもよく、したがって、その場合には、触媒電極61は絶縁層81の上に直接形成してもよい。
【0037】
本発明の太陽電池において用いる導電性接着剤は、その基材をなす樹脂が熱硬化樹脂又は光硬化樹脂であるのが好ましい。前記もしたように周囲の封止用の接着剤の接着におけるのと同様に、透光性基板を通してレーザー光などを照射して硬化させることができるためである。なお、本発明に係る太陽電池ではその製造において積層、圧着工程が含まれることから、導電性接着剤には、導電性ないしその信頼性を高めるため、加圧されることで導電性が向上する導電性接着剤(加圧導電性接着剤)を用いるのがよい。
【0038】
本発明において、導電性接着剤を設ける間隔(ピッチ)Pは、上記のように、格子状配置とする場合には、縦横においてそれぞれ5.0〜10.0mmの範囲で設定することを例示できる。また、これらの横断面形状(平面形状)は、通常は円であるが、いずれの形状としても具体化できる。ただし、それらの横断面の直径ないし面積は材質(導通抵抗)や厚さを考慮して適宜に設定すればよい。
【0039】
なお、本発明の色素増感型太陽電池をなす透光性基板としては、ガラス板の他、透明樹脂板又は樹脂シート(フイルム)で形成してもよいが、なるべく透光性(可視光透過率)の高いもの(少なくとも10%以上あるもの)を使用するのが好ましい。また、透光性導電層としては、上記もしたように酸化スズなどが例示されるが、その膜厚は、1nm〜100nmの範囲とするのが好ましい。そして、半導体電極は酸化チタンの他、酸化亜鉛、酸化タンタルなどを用いることができるが、その膜厚は、5.0〜30.0μm、好ましくは10.0〜20.0μmである。
【0040】
一方、触媒電極(対極)として用いる金属(金属膜)は、白金が好ましいが、活性炭、導電性高分子など、従来の太陽電池の対極として公知のものを用いることができる。因みに、その膜厚は、1nm〜1μm、好ましくは100nm〜500nmである。さらに、半導体電極と触媒電極の両電極間に介在される電解質の厚さは、200μm以下、好ましくは50μm以下である。
【0041】
なお、上記した実施の形態では、触媒電極から、半導体電極に対向する側と反対側に形成された各層を含む積層体を可撓性(又は柔軟性)を有するものとしたが、可撓性のないものとしても具体化できる。そして、集電電極層と絶縁樹脂層とが直接積層される(貼り合わされる)ものでは、金属薄板(金属箔)を片面に積層してなる樹脂(シート又は基板)を用いてもよい。すなわち、これらは、絶縁樹脂層(絶縁樹脂フイルム)に、金属層(金属箔)が形成されたラミネート材などのシート材を用いてもよい。
【0042】
本発明は、上記した内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜に変更して具体化できる。上記においては単セル構造の太陽電池として説明したが、もちろん、多数の太陽電池セルを直列又は並列で接続したものとしても具体化できるし、必要な外装を施して太陽電池モジュールとしても具体化できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の色素増感型太陽電池を模式的(概略的)に示した縦断面図、及びその要部拡大図。
【図2】図1の色素増感型太陽電池を積層、圧着して組立てる前の説明用分解縦断面図。
【図3】図2の半導体電極側から見た平面図(矢印Aから見た図)。
【図4】図2の触媒電極側から見た平面図(矢印Bから見た図)。
【図5】図2の触媒電極側をなす積層体の説明用分解縦断面図。
【図6】本発明の色素増感型太陽電池の別例を模式的(概略的)に示した縦断面図、及びその要部拡大図。
【図7】図6の色素増感型太陽電池を積層、圧着して組立てる工程を説明する縦断面図。
【符号の説明】
【0044】
1、2 色素増感型太陽電池
5 導電性接着剤
11 ガラス板(透光性基板)
21 透光性導電層
31 半導体電極
61 触媒電極
71 正極側集電電極層
73 第1の正極側集電用凸部
75 第1の正極側集電用凸部の先端
81 絶縁層
91 負極側集電電極層
93 負極側集電電極層部
94 負極側集電電極層の貫通孔
101 樹脂層
111 電解液漏出防止層
P 露出する透光性導電層部相互の間隔
Y 電解液
K 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板の一面側に、増感色素を担持させた半導体電極を表面に形成した透光性導電層を備える一方、前記半導体電極に対向して対極をなす触媒電極を備え、この両電極間に電解液が介在されてなる色素増感型太陽電池において、
前記触媒電極における半導体電極に対向する側と反対側には、絶縁層を介して負極側集電電極層が形成されており、
この負極側集電電極層と前記透光性導電層との間が、平面視、相互に間隔をおいて、多数の箇所で導電性接着剤により前記触媒電極と電気的絶縁を保持して電気的に接続されてなることを特徴とする色素増感型太陽電池。
【請求項2】
透光性基板の一面側に、増感色素を担持させた半導体電極を表面に形成した透光性導電層を備える一方、前記半導体電極に対向して対極をなす触媒電極を備え、この両電極間に電解液が介在されてなる色素増感型太陽電池において、
前記触媒電極における半導体電極に対向する側と反対側には、絶縁層を介して負極側集電電極層が形成されていると共に、この負極側集電電極層には、平面視、相互に間隔をおいて、多数の箇所に貫通孔が設けられており、
この負極側集電電極層と前記透光性導電層との間が、多数の前記貫通孔の部位において導電性接着剤により前記触媒電極と電気的絶縁を保持して電気的に接続され、しかも、前記負極側集電電極層における前記触媒電極の形成面側と反対側には、前記電解液が前記貫通孔内を通過して外部に漏出するのを防止する電解液漏出防止層が形成されてなることを特徴とする色素増感型太陽電池。
【請求項3】
前記電解液漏出防止層が、金属板又はガラス板からなることを特徴とする請求項2に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項4】
前記触媒電極と前記絶縁層との間に、その触媒電極に電気的に接続された正極側集電電極層が形成されていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の色素増感型太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−317454(P2007−317454A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144661(P2006−144661)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】