色素増感型太陽電池
【課題】透光性ガラスよりなる管状容器の内部に、増感色素を担持した半導体層よりなる光電極と、該光電極に接触して設けられた集電極と、該集電極に対向する対向電極と、前記管状容器内に封入された電解液とを有する色素増感型太陽電池において、電池の内部抵抗を低く抑えて、電圧降下をもたらすことのない円柱形状の色素増感型太陽電池を提供することである。
【解決手段】前記光電極は、前記管状容器の内面上に塗布・焼成されて設けられており、前記集電極は、電解液が通過可能な開口を有する金属層よりなり、前記光電極に接触して設けられていることを特徴とする。
【解決手段】前記光電極は、前記管状容器の内面上に塗布・焼成されて設けられており、前記集電極は、電解液が通過可能な開口を有する金属層よりなり、前記光電極に接触して設けられていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する色素増感型太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池は、環境にやさしく、クリーンなエネルギー源として積極的な研究開発が進められている。中でも、光電変換効率が高く、低コストの太陽電池として、色素増感型太陽電池が注目されて、各種の提案がなされている。
【0003】
この色素増感型太陽電池では、半導体層に増感色素を担持させて負電極とし、対向する正電極との間に電解液を封入して、該負電極に太陽光を入射させてこれを励起して、電気エネルギーとして取出すものであり、特開2000−323189号公報(特許文献1)などがこれである。
図10にかかる構造の太陽電池が示されていて、透明ガラスや透明樹脂フィルムなどの透明基板80上に透明導電層(例えばITO膜)を積層して集電極81とする。この集電極81上に二酸化チタンなどの多孔質の金属酸化物半導体層82を設け、この半導体層82に増感色素(例えばRu色素)を担持させて光電極(負電極)83を構成する。
一方、基板84上には対向電極(正電極)85が形成され、この対向電極85が前記光電極83に対向配置され、これらの間に電解液86が封入されてなる構造を有している。
【0004】
すなわち、光の入射する側から、透明基板80、集電極(透明導電層)81、半導体層82(光電極83)、電解質層(電解液)86、対向電極85、基板84が、順に積層されて構成される。
このような構造の色素増感型太陽電池では、光電極(負電極)83側から可視光(太陽光)が照射されると、該光電極83中の増感色素が励起され、基底状態から励起状態へと遷移し、励起された色素の電子は、半導体81の多孔質層の伝導帯に注入され、外部回路88を通って対向電極(正電極)85に移動する。この正電極85に移動した電子は、電解液86中のイオンによって運ばれ、前記色素に戻る。このような過程の繰り返しにより電気エネルギーが取り出されるものである。
【0005】
上記のように、このような色素増感型太陽電池では、光電極(半導体層)83は透光性基板80上に、透明導電層からなる集電極81を介して設けられていることが一般的である。この透明導電層81は、金属に比べると高抵抗であるので、電池の内部抵抗を高めるため、わずかな電流で大幅な電圧降下をもたらしてしまう。
一方、色素増感型太陽電池は、単一のセルのみでは電圧が低いので、多数のセルを直列に繋げて電圧値を稼ぐ必要があり、直列にセルを並べると前述の内部抵抗もまた累積される。つまり、実用化に際して非常に大きなロスとなってしまうという不具合もある。
【0006】
このような問題に鑑みて、近年、特開2010−225317号公報(特許文献2)に見られるように、集電極として、透明基板上に設けた金属酸化物層上に、有孔の金属蒸着やメッシュ金属を積層する構造が提案されている。
図11にこの構造が示されている。
図11において、透明基板80上に設けた金属酸化物からなる光電極83を設け、その上に複数の開口90aを有する金属板を設けて集電極90とする。これを、基板84上設けた対向電極85と対向配置して、その間に電解液86を封入してなるものである。
上記構成において、電解液86は集電極90の開口90aから多孔質である光電極83に浸透し、該光電極83内に担持された増感色素が外部からの光に反応するものである。
【0007】
このように、図10に示された従来技術の、透明導電層からなる集電極81に代えて抵抗値の低い金属板を集電極90としたので、ITO層などからなる透明導電層81のもつ、高抵抗、僅かな電流での大幅な電圧降下といった不具合を解消できるものとして期待されている。
しかしながら、この構造は、全体が矩形箱型形状の太陽電池には適用できるものの、円柱状の太陽電池構造には適用することができない。
これを図12によって説明する。円筒状の多口金属板からなる集電極90の外周面に光電極83が形成されとともに、前記集電極90に対向するようにこれと同心状の円筒状対向電極85が設けられ、これら集電極90と対向電極85の間に電解液86が封入される。
そして、前記光電極83の外周には円筒状の透明基板80が設けられるものである。
【0008】
ところが、これらの透明基板80や光電極83は共に円筒形状であるために、これらを密着するように互いに当接することができず、どうしてもこれらの間には隙間Sが生じてしまうことが避けられない。
そのため、前記集電極90の開口90aを通じて多孔質の光電極83内に浸透してきた電解液86が、前記隙間S内に浸入してここに充填されてしまうという事態が発生する。
この隙間Sに電解液86が充填されると、外部からの光が該電解液86に過剰に照射され、該電解液86が劣化するとともに、該電解液86により光電極83が遮光されるため、該光電極83にまで到達する光量が不足してしまい変換効率が低下して、所望の電力が得られなくなるという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−323189号公報
【特許文献2】特開2010−225317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点に鑑みて、管状の容器を備えた色素増感型太陽電池において、内部抵抗を低くすることができて、かつ、電解液が外部からの光により劣化したり、光が電解液よって吸収されて光電極に到達する光量が減少したりすることがないような構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明に係る色素増感型太陽電池では、透光性ガラスよりなる前記管状容器の内部に、増感色素を担持した半導体層よりなる光電極と、該光電極に接触して設けられた集電極と、該集電極に対向する対向電極と、前記管状容器内に封入された電解液とを具備し、前記光電極は、前記管状容器の内面上に塗布・焼成されて設けられており、前記集電極は、電解液が通過可能な開口を有する金属層よりなり、前記光電極に接触して設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、前記集電極は、金属を溶射することにより形成されたものであることを特徴とする。
また、前記集電極は、前記光電極の内面上に設けられていることを特徴とする。
また、前記集電極は、前記光電極の内面上に焼成された多孔質ガラスに金属を溶射することにより形成されものであることを特徴とする。
また、前記光電極の一部が、前記集電極と前記対向電極の間に存在して、前記対向電極との間の絶縁スペーサとして機能することを特徴とする。
また、前記集電極は、前記管状容器の内面上に形成されていることを特徴とする。
また、前記集電極は、前記管状容器の内面から離隔して、前記光電極の半導体層内部に埋設されてなることを特徴とする。
また、前記光電極は、前記対向電極に向けて突出する複数の突出部を有し、
前記集電極は、前記光電極上に積層されて形成されてなり、該光電極の突出部は、前記集電極に形成された開口から前記対向電極に向けて突出していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明の色素増感型太陽電池によれば、光電極が直接に管状容器の内面に形成されるので、その間に隙間が形成されることがないから、従って電解液がこれらの間に浸入することがなく、電解液の劣化や光量の減少がなく、より効率的な金属製集電極を用いた円柱形状の色素増感型太陽電池の実現を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の光照射装置の概略図。
【図2】(A)は、図1の横断面図。(B)は、その拡大図。
【図3】集電極の溶射マスクパターン。
【図4】本発明の色素増感型太陽電池の製造工程の説明図。
【図5】(A)は、金属集電極の他の実施例の断面図。(B)は、その拡大図。
【図6】他の実施例の拡大断面図。
【図7】更に他の実施例の拡大断面図。
【図8】更に他の実施例の拡大断面図。
【図9】図8の実施例の製造工程の説明図。
【図10】従来の矩形箱型の色素増感型太陽電池の断面図。
【図11】他の従来の矩形箱型の色素増感型太陽電池の断面図。
【図12】他の従来例の色素増感型太陽電池を円柱形状とした断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の色素増感型太陽電池の全体を示す断面図であり、図2(A)はその横断面図、図2(B)はその拡大図である。
円筒状の管状容器1は、透光性材料、例えば石英ガラスやソーダガラスなどのガラス管からなり、中央本体部2と、その両端の封止部3、3とからなる。前記管状容器1の本体部2の内面には、光電極(負電極)4が形成されている。
該光電極4は、太陽光を光電変換するための半導体層であり、例えば、金属酸化物または金属硫化物である半導体微粒子を堆積させて形成した多孔質層により構成される。
このような半導体微粒子は、金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タンタル、または酸化ジルコニウム等を用いることができ、金属の複合酸化物としては、例えば、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム等を用いることもできる。また、金属硫化物の場合は、例えば、硫化亜鉛、硫化鉛、硫化ビスマス等を用いることができる。
該半導体層は、上記金属酸化物、金属硫化物の微粒子を含有するペーストを、管状容器1の内面に塗布し、これを焼成することにより作製される。ペーストの塗布方法は、例えば、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スキージ法などを用いることができる。
【0016】
前記光電極4を構成する半導体微粒子には増感色素が担時されている。
この増感色素は、可視光領域、或いはそれに加えて赤外光領域に吸収特性を有する金属錯体や有機色素などの色素であり、適宜選択して用いることができる。
金属錯体としては、例えば、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン、クロロフィル、もしくはその誘導体、ヘミン、ルテニウム、オスミウム、鉄、または亜鉛の錯体などを用いることができる。
有機色素としては、例えば、メタルフリーフタロシアニン、シアニン系色素、メタロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、フタロ/ナフタロ混合フタロシアニン系色素、ジピリジルルテニウム錯体色素、ターピリジルルテニウム錯体色素、フェナントロリンルテニウム錯体色素、フェニルキサンテン色素、トリフェニルメタン色素、クマリン色素、アクリジン色素、またはアゾ金属錯体色素などを好適に用いることができる。
【0017】
そして、前記光電極4の内面には、金属からなる集電極5が積層された状態で形成されている。この集電極5は、集電補助として作用するものである。
図2(A)(B)に示されるように、該集電極5は、後述する電解液13が光電極4側に通過可能な開口5aを備えて形成された金属層よりなり、例えばメッシュ状、ストライプ状等、適宜のパターンを形成して設けられたものである。
この集電極5の製造方法としては、例えば図3に示すようなマスクパターンMPを管状容器1の内部に挿入し、所定の金属を溶射により吹き付けて成膜することにより形成される。
溶射方法は限定されないが、ガス式の場合、溶線式フレーム溶射、粉末式フレーム溶射、高速フレーム溶射、コールドスプレー等の方法を採用することができる。また電気式の場合、アーク溶射、減圧プラズマ溶射等の方法を採用することができる。
【0018】
このように、溶射によって集電極5を形成するので、管状容器1の内部のような成膜作業が困難な部分においても、均一かつ均質な膜を形成することができ、更には、光電極4との密着性を損ねることなく形成することができるので、集電機能を十分に発揮することができるようになる。
集電極5を構成する金属としては特に限定されるものではないが、具体的な金属材料としては、例えば、チタン、アルミ、鉄、ニッケル、鉄−ニッケル合金、銅、銅−ニッケル合金、ニオブ、タングステン、タンタル、クロム、ステンレス系合金等を挙げることができる。これらのいずれの金属材料でも、従来技術における集電極材料である透明電極(ITO)より内部抵抗を抑えることができるので、効率のよい太陽電池とすることができる。
なお、本発明においては、中でも金属チタン、アルミ、銅、または銅−ニッケル合金、ステンレス系合金が用いられることが好ましい。その理由は、これらの金属材料によると、電解液による耐食性に優れるので、本発明に係る太陽電池のように集電極が電解液と接触する構成を備える構成を備えるものにおいて優位だからである。
【0019】
前記管状容器1の内部には、前記集電極5とは離間するように対向電極(正電極)6が設けられている。この実施例では、該対向電極6はコイル状をなし、その材料としては、例えば、白金、または導電性材料表面に白金の薄膜を形成したもの、ロジウム、ルテニウム、酸化ルテニウム、カーボン等の導電性材料を用いることができる。これらの導電性材料は、電解液の還元反応を十分な速さで行わせる触媒能を持っており、好適である。
なお、該対向電極6の形状はコイル状に限らず、棒状や板状のもの等であってもよい。
また、該対向電極6の外周には、絶縁スペーサ7が互いに周方向に離間して配設されていて、前記対向電極6と集電極5とが接触することを防止している。
なお、このスペーサ7は必須構成ではなく、両電極5、6間の絶縁性を安定的に維持できる場合には、これを具備しない構成とすることも可能である。また、スペーサ7の代わりに二次電池に使用されるセパレータを用いることも可能である。セパレータは、正極と負極を電気的に隔離し、電解液中のイオンを通過させるものであり、絶縁性とイオン流通性において、スペーサと同等の機能を備える。
【0020】
前記対向電極6の両端はそれぞれ内部リード8a、8bに接続されていて、これら内部リード8a、8bは、管状容器1の両端の封止部3a、3b内に埋設された金属箔9a、9bを介して外部リード10a、10bに接続される。このとき、一方の内部リード8aは直接対向電極6に接続されて電気的に導通状態にあるが、他方の内部リード8bは、絶縁性連結部11を介して対向電極6に接続されていて、該対向電極6と内部リード10bとは電気的に絶縁されている。
そして、前記内部リード8bは、集電端子12を介して前記集電極5と電気的に接続されている。
こうして、管状容器1の両端から、それぞれ対向電極(+)の外部リード8bおよび集電極5(−)の外部リード8aが導出されている。
【0021】
上記管状容器1の両端の封止部3a、3bは、ランプにおけるピンチシールなどの封止部構造と同様なものであり、両端の封止部3a、3b内に埋設される金属箔9a、9bにそれぞれ内部リード8a、8bと外部リード10a、10bが溶接接合され、前記封止部3a、3bを加熱して前記金属箔9a、9b部分を中心としてこれを圧潰して封止し、管状容器1内を液密状態に密閉するものである。
【0022】
そして、この管状容器1内には、電解液13が密封封入されていて、前記光電極4、集電極5、対向電極6等が、該電解液13に浸されている。
この電解液13は、具体的には、I−/I3−系、Br−/Br3−系、キノン/ハイドロキノン系などのレドックス電解質を、アセトニトリル、炭酸プロピレン、エチレンカーボネートなどの、電気化学的に不活性な溶媒、例えば水、アルコール類、エーテル類、エステル類、又はその他の不活性溶媒、或いは、これらの混合溶媒に溶かした電解液を用いることができる。例えば、I−/I3−系の電解液としては、ヨウ素のアンモニウム塩、またはヨウ化リチウムとヨウ素を混合したものを用いることができる。また、ゲル状の電解質層とする場合は、上述した電解質に加え、ゲル化剤を含有してもよい。その他、ヨウ素を含まないイオン性電解質を用いても良い。
【0023】
上記構成の色素増感型太陽電池の製造方法を、図4を用いて説明すると以下のとおりである。
図4(A)において、管状容器1の軸方向の中央領域の内面には、内周面側から光電極4および集電極5が積層形成されている。なお、管状容器1の両端の一部には、光電極4や集電極5などによる導電性物質が形成されていない電極非形成領域Xが存在している。
この管状容器1の内部に、対向電極6を備えた電極マウントMが挿入される。
この電極マウントMは、コイル状に形成された対向電極6の一方の端部に内部リード8a、金属箔9a及び外部リード10aが接続されると共に、当該対向電極6の他方の端部には絶縁性連結部11、内部リード8b、金属箔9b及び外部リード10bが接続されて構成されたものである。そして、前記内部リード8bは集電端子12を介して集電極5に電気的に接続されている。
また、前記対向電極6の外周には、周方向に間隔をおいて絶縁スペーサ7が取り付けられている。
【0024】
図4(B)に示すように、管状容器1の内部に挿入された電極マウントMを、対向電極6に張力をかけた状態で保持しつつ、管状容器1の両端部の電極非形成領域Xを加熱してガラスを軟化させ、金属箔9の面に対して垂直な方向から圧潰し、平坦な形状の封止部3a、3bを形成する。
この結果、ランプにおける発光管の封止部と同様な構造で、管状容器1の両方の開口が封止され、管状容器1内は密封状態となる。
【0025】
図4(C)に示すように、このように密閉された管状容器1の側面に、細いガラス管14を接続する。このガラス管14は、内部が管状容器1内部と連通するよう設けられ、電解液注入用の管として機能する。
この電解液注入用ガラス管14から、内部へ電解液13を注入し、管状容器1内を満たした後、この注入管14の端部を熱して封止する。この結果、電解液13が充填された管状容器1が液密に密閉された状態が得られる。
なお、同図においては、構造を理解し易くするために、管状容器1内の電極マウントなどの構造物は省略して記載している。
こうして、図4(D)に示すような色素増感型太陽電池が得られる。
【0026】
図2で示されるように、上記構成を備えた色素増感型太陽電池によれば、管状容器1内に密閉された電解液13は、金属製の集電極5の開口5aを介して光電極4内に浸透していく。そして、透光性の管状容器1に入射した光は、この光電極4に照射される。
これにより、該光電極4の半導体層に担持された色素が励起され、基底状態から励起状態へと遷移し、励起された色素の電子は、半導体層の伝導帯へ注入され、金属製の集電極5に移動する。
電子を失った色素は、電解液13のイオンから電子を受け取る。電子を渡した分子は、対向電極6から電子を受け取る。
このような過程の繰り返しにより電気エネルギーが取り出されるものである。
【0027】
以下、本発明の他の実施例について説明する。
図5は、第2の実施例であって、図2(B)に対応する管状容器1の横断面拡大図である。
この実施例では、集電極5の形状が前記図2に示す実施例と相違していて、光電極4上に多孔質ガラス膜15を形成し、その上に金属を溶射して形成されている。
即ち、シラス多孔質ガラス(SPG[Shirau Porous Glass])などの多孔質ガラスを光電極4上に塗布焼成して多孔質ガラス膜15を形成し、その上に金属を溶射して金属性の集電極5を形成するものである。
溶射された金属は、多孔質ガラス膜15の多孔質ガラス粒子15a間に浸入して前記光電極4上に被覆される。そして、前記多孔質ガラス粒子15aが、前記図2に示す実施例の開口4aとして機能するものであって、電解液13は該多孔質ガラス粒子15a自体の細孔を通通して光電極4内に浸透していくものである。
なお、この実施例においても、対向電極6の外周には、必要に応じて絶縁スペーサ7が設けられている。
この実施例によれば、集電極5を形成する際に、前記図3に示すような溶射マスクパターンを用いることなく多孔質ガラス膜上に金属を溶射すればよいので、多孔質ガラス膜の形成工程が増えるものの、溶射に係る作業性が良くなる。
また、製造上の問題として、例えば管状容器が細管から構成されるような、マスクパターンを装着することができない場合においても、集電極を設けることができて優位である。
なお、マスクパターンを使用せずに集電極を形成する例では、上記の多孔質ガラス膜を用いるほか、例えば、金属溶射溶液に界面活性剤など加えて起泡させて塗布したり、金属溶射溶液に熱揮発剤(例えば環状ジメチルシリコーンオイル)を添加して加熱して揮発させたりする手段を採用してもよい。
【0028】
図6〜図8に示す実施例は、管状容器1内に形成された光電極4の一部が、集電極5と対向電極6の間に存在して、前記対向電極6との間の絶縁スペーサとして機能する態様のもので、前記図2および図5に示す実施例において対向電極6上に設けられた絶縁スペーサ7を省略することができるものである。
【0029】
図6において、集電極5は管状容器1の内面に金属溶射により直接形成されていて、光電極4を構成する半導体層が、この集電極5上から塗布されると、該集電極5の多数の開口5aから前記管状容器1の内面に付着塗布される。このとき、該光電極4は集電極4を超えて対向電極6側まで塗布される。その後に、該光電極4を焼成するものである。
こうすることで、集電極5は光電極4内に埋設された状態となり、該集電極5の一部が光電極5より対向電極6側に存在して、該対向電極6との間の絶縁スペーサとして機能する。したがって、対向電極6には絶縁スペーサを設ける必要がなくなる。
外部からの光は、前記集電極5の開口5aを経て光電極4に照射されて、該光電極4に浸透した電解液13と反応する。
【0030】
図7に示す実施例では、集電極5が管状容器1の内面上に形成されず、完全に光電極4の内部に埋設した形態である。
この形態は以下の手順で作成される。
まず、管状容器1の内面に光電極4を構成する半導体層を塗布焼成により形成する。半導体層はナノサイズの空孔を備えており、この空孔の内面に適宜の錯体色素を担持する。このようにして構成された光電極4の内面上に、金属溶射により集電極5を積層して形成する。なお、この場合、図3に示されたような溶射マスクパターンを用いて溶射することは同様である。そして、更に該金属集電極5の上に半導体層を塗布してこれを焼成する。
この実施例によれば、管状容器1の内面はすべて光電極4により被覆されるので、外部光は集電極5に遮断されることなく、該光電極4の全てに照射されて、変換効率が集電極5によって低下することがない。
【0031】
図8に示す実施例は、管状容器1に形成される光電極4が突出部4aを有していて、その上に形成される集電極5の開口5aから、前記突出部4aが対向電極6側に突出する形態のものである。
その作成手順を図9により説明する。まず、管状容器1内に光電極4を構成する半導体微粒子を含有するペーストを塗布する(A)。次いで半焼結状態の半導体層に、凹凸面を有する治具を押圧して、半導体層に突出部4aを形成する(B)。これを焼結して表面に突出部4aを有する光電極4を形成する(C)。そして、該光電極4の上に金属溶射して集電極5を形成する(D)。このとき、前記光電極4の突出部4aが、集電極5の開口5aから対向電極6側に突出するようにしていて、この突出部4aが該対向電極6との絶縁スペーサとして機能する。
なお、この突出部4aの先端に金属が溶射されないようにするためには、該先端部にマスクをして溶射すればよく、あるいは溶射後に該先端部を研磨して金属被覆を剥離してもよい。
この実施例によれば、図7の実施例と同様に、管状容器1は全て光電極4によって被覆されて、外部光が集電極5によって遮断されることがなく、かつ、光電極4は一度の塗布焼成で形成できるという利点がある。
【0032】
以上説明したように、本発明に係る色素増感型太陽電池によれば、光電極が管状容器の内面上に塗布・焼成されて設けられており、集電極は、電解液が通過可能な開口を有する金属層よりなり、前記光電極に接触して設けられていることにより、集電極を透明電極とした従来のものに比べて、電池の内部抵抗を低く抑えることができるので、電圧降下を抑制することができる。
従って、電圧を高くする目的で多数のセル(電池)を直列に繋げて使用する場合、セルの直列接続によって累積されるロスを大幅に低減することができる。
また、管状容器を用いて、円柱状の太陽電池を作成するにあたって、光電極を構成する半導体層を管状容器の内面に直接塗布・焼成しているので、光電極と管状容器の内面の間に隙間を形成することなく設けることができる。
そのため、管状容器の内面に電解液のみが存在するような部分を形成することなく光電極を設けることができので、光電極に効率よく光を照射できると共に、電解液に過剰に光が照射することも回避できて、電解液の劣化を抑制することができる。
こうして、矩形箱型の色素増感型太陽電池に比べて利点の多い円柱状の色素増感型太陽電池を実現できることになった。
なお、管状容器1は円筒形状のものを説明したが、四角筒形状など適宜の管状断面形状であってよい。
【符号の説明】
【0033】
1 管状容器
2 本体部
3 封止部
4 光電極
4a 突出部
5 集電極
5a (電解液用)開口
6 対向電極
7 絶縁スペーサ
8 内部リード
9 金属箔
10 外部リード
11 絶縁性連結部
12 集電端子
13 電解液
15 多孔質ガラス
15a 多孔質粒子
MP 金属溶射用マスクパターン
X 電極非形成領域
M 電極マウント
【技術分野】
【0001】
この発明は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する色素増感型太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池は、環境にやさしく、クリーンなエネルギー源として積極的な研究開発が進められている。中でも、光電変換効率が高く、低コストの太陽電池として、色素増感型太陽電池が注目されて、各種の提案がなされている。
【0003】
この色素増感型太陽電池では、半導体層に増感色素を担持させて負電極とし、対向する正電極との間に電解液を封入して、該負電極に太陽光を入射させてこれを励起して、電気エネルギーとして取出すものであり、特開2000−323189号公報(特許文献1)などがこれである。
図10にかかる構造の太陽電池が示されていて、透明ガラスや透明樹脂フィルムなどの透明基板80上に透明導電層(例えばITO膜)を積層して集電極81とする。この集電極81上に二酸化チタンなどの多孔質の金属酸化物半導体層82を設け、この半導体層82に増感色素(例えばRu色素)を担持させて光電極(負電極)83を構成する。
一方、基板84上には対向電極(正電極)85が形成され、この対向電極85が前記光電極83に対向配置され、これらの間に電解液86が封入されてなる構造を有している。
【0004】
すなわち、光の入射する側から、透明基板80、集電極(透明導電層)81、半導体層82(光電極83)、電解質層(電解液)86、対向電極85、基板84が、順に積層されて構成される。
このような構造の色素増感型太陽電池では、光電極(負電極)83側から可視光(太陽光)が照射されると、該光電極83中の増感色素が励起され、基底状態から励起状態へと遷移し、励起された色素の電子は、半導体81の多孔質層の伝導帯に注入され、外部回路88を通って対向電極(正電極)85に移動する。この正電極85に移動した電子は、電解液86中のイオンによって運ばれ、前記色素に戻る。このような過程の繰り返しにより電気エネルギーが取り出されるものである。
【0005】
上記のように、このような色素増感型太陽電池では、光電極(半導体層)83は透光性基板80上に、透明導電層からなる集電極81を介して設けられていることが一般的である。この透明導電層81は、金属に比べると高抵抗であるので、電池の内部抵抗を高めるため、わずかな電流で大幅な電圧降下をもたらしてしまう。
一方、色素増感型太陽電池は、単一のセルのみでは電圧が低いので、多数のセルを直列に繋げて電圧値を稼ぐ必要があり、直列にセルを並べると前述の内部抵抗もまた累積される。つまり、実用化に際して非常に大きなロスとなってしまうという不具合もある。
【0006】
このような問題に鑑みて、近年、特開2010−225317号公報(特許文献2)に見られるように、集電極として、透明基板上に設けた金属酸化物層上に、有孔の金属蒸着やメッシュ金属を積層する構造が提案されている。
図11にこの構造が示されている。
図11において、透明基板80上に設けた金属酸化物からなる光電極83を設け、その上に複数の開口90aを有する金属板を設けて集電極90とする。これを、基板84上設けた対向電極85と対向配置して、その間に電解液86を封入してなるものである。
上記構成において、電解液86は集電極90の開口90aから多孔質である光電極83に浸透し、該光電極83内に担持された増感色素が外部からの光に反応するものである。
【0007】
このように、図10に示された従来技術の、透明導電層からなる集電極81に代えて抵抗値の低い金属板を集電極90としたので、ITO層などからなる透明導電層81のもつ、高抵抗、僅かな電流での大幅な電圧降下といった不具合を解消できるものとして期待されている。
しかしながら、この構造は、全体が矩形箱型形状の太陽電池には適用できるものの、円柱状の太陽電池構造には適用することができない。
これを図12によって説明する。円筒状の多口金属板からなる集電極90の外周面に光電極83が形成されとともに、前記集電極90に対向するようにこれと同心状の円筒状対向電極85が設けられ、これら集電極90と対向電極85の間に電解液86が封入される。
そして、前記光電極83の外周には円筒状の透明基板80が設けられるものである。
【0008】
ところが、これらの透明基板80や光電極83は共に円筒形状であるために、これらを密着するように互いに当接することができず、どうしてもこれらの間には隙間Sが生じてしまうことが避けられない。
そのため、前記集電極90の開口90aを通じて多孔質の光電極83内に浸透してきた電解液86が、前記隙間S内に浸入してここに充填されてしまうという事態が発生する。
この隙間Sに電解液86が充填されると、外部からの光が該電解液86に過剰に照射され、該電解液86が劣化するとともに、該電解液86により光電極83が遮光されるため、該光電極83にまで到達する光量が不足してしまい変換効率が低下して、所望の電力が得られなくなるという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−323189号公報
【特許文献2】特開2010−225317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点に鑑みて、管状の容器を備えた色素増感型太陽電池において、内部抵抗を低くすることができて、かつ、電解液が外部からの光により劣化したり、光が電解液よって吸収されて光電極に到達する光量が減少したりすることがないような構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明に係る色素増感型太陽電池では、透光性ガラスよりなる前記管状容器の内部に、増感色素を担持した半導体層よりなる光電極と、該光電極に接触して設けられた集電極と、該集電極に対向する対向電極と、前記管状容器内に封入された電解液とを具備し、前記光電極は、前記管状容器の内面上に塗布・焼成されて設けられており、前記集電極は、電解液が通過可能な開口を有する金属層よりなり、前記光電極に接触して設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、前記集電極は、金属を溶射することにより形成されたものであることを特徴とする。
また、前記集電極は、前記光電極の内面上に設けられていることを特徴とする。
また、前記集電極は、前記光電極の内面上に焼成された多孔質ガラスに金属を溶射することにより形成されものであることを特徴とする。
また、前記光電極の一部が、前記集電極と前記対向電極の間に存在して、前記対向電極との間の絶縁スペーサとして機能することを特徴とする。
また、前記集電極は、前記管状容器の内面上に形成されていることを特徴とする。
また、前記集電極は、前記管状容器の内面から離隔して、前記光電極の半導体層内部に埋設されてなることを特徴とする。
また、前記光電極は、前記対向電極に向けて突出する複数の突出部を有し、
前記集電極は、前記光電極上に積層されて形成されてなり、該光電極の突出部は、前記集電極に形成された開口から前記対向電極に向けて突出していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明の色素増感型太陽電池によれば、光電極が直接に管状容器の内面に形成されるので、その間に隙間が形成されることがないから、従って電解液がこれらの間に浸入することがなく、電解液の劣化や光量の減少がなく、より効率的な金属製集電極を用いた円柱形状の色素増感型太陽電池の実現を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の光照射装置の概略図。
【図2】(A)は、図1の横断面図。(B)は、その拡大図。
【図3】集電極の溶射マスクパターン。
【図4】本発明の色素増感型太陽電池の製造工程の説明図。
【図5】(A)は、金属集電極の他の実施例の断面図。(B)は、その拡大図。
【図6】他の実施例の拡大断面図。
【図7】更に他の実施例の拡大断面図。
【図8】更に他の実施例の拡大断面図。
【図9】図8の実施例の製造工程の説明図。
【図10】従来の矩形箱型の色素増感型太陽電池の断面図。
【図11】他の従来の矩形箱型の色素増感型太陽電池の断面図。
【図12】他の従来例の色素増感型太陽電池を円柱形状とした断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の色素増感型太陽電池の全体を示す断面図であり、図2(A)はその横断面図、図2(B)はその拡大図である。
円筒状の管状容器1は、透光性材料、例えば石英ガラスやソーダガラスなどのガラス管からなり、中央本体部2と、その両端の封止部3、3とからなる。前記管状容器1の本体部2の内面には、光電極(負電極)4が形成されている。
該光電極4は、太陽光を光電変換するための半導体層であり、例えば、金属酸化物または金属硫化物である半導体微粒子を堆積させて形成した多孔質層により構成される。
このような半導体微粒子は、金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タンタル、または酸化ジルコニウム等を用いることができ、金属の複合酸化物としては、例えば、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム等を用いることもできる。また、金属硫化物の場合は、例えば、硫化亜鉛、硫化鉛、硫化ビスマス等を用いることができる。
該半導体層は、上記金属酸化物、金属硫化物の微粒子を含有するペーストを、管状容器1の内面に塗布し、これを焼成することにより作製される。ペーストの塗布方法は、例えば、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スキージ法などを用いることができる。
【0016】
前記光電極4を構成する半導体微粒子には増感色素が担時されている。
この増感色素は、可視光領域、或いはそれに加えて赤外光領域に吸収特性を有する金属錯体や有機色素などの色素であり、適宜選択して用いることができる。
金属錯体としては、例えば、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン、クロロフィル、もしくはその誘導体、ヘミン、ルテニウム、オスミウム、鉄、または亜鉛の錯体などを用いることができる。
有機色素としては、例えば、メタルフリーフタロシアニン、シアニン系色素、メタロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、フタロ/ナフタロ混合フタロシアニン系色素、ジピリジルルテニウム錯体色素、ターピリジルルテニウム錯体色素、フェナントロリンルテニウム錯体色素、フェニルキサンテン色素、トリフェニルメタン色素、クマリン色素、アクリジン色素、またはアゾ金属錯体色素などを好適に用いることができる。
【0017】
そして、前記光電極4の内面には、金属からなる集電極5が積層された状態で形成されている。この集電極5は、集電補助として作用するものである。
図2(A)(B)に示されるように、該集電極5は、後述する電解液13が光電極4側に通過可能な開口5aを備えて形成された金属層よりなり、例えばメッシュ状、ストライプ状等、適宜のパターンを形成して設けられたものである。
この集電極5の製造方法としては、例えば図3に示すようなマスクパターンMPを管状容器1の内部に挿入し、所定の金属を溶射により吹き付けて成膜することにより形成される。
溶射方法は限定されないが、ガス式の場合、溶線式フレーム溶射、粉末式フレーム溶射、高速フレーム溶射、コールドスプレー等の方法を採用することができる。また電気式の場合、アーク溶射、減圧プラズマ溶射等の方法を採用することができる。
【0018】
このように、溶射によって集電極5を形成するので、管状容器1の内部のような成膜作業が困難な部分においても、均一かつ均質な膜を形成することができ、更には、光電極4との密着性を損ねることなく形成することができるので、集電機能を十分に発揮することができるようになる。
集電極5を構成する金属としては特に限定されるものではないが、具体的な金属材料としては、例えば、チタン、アルミ、鉄、ニッケル、鉄−ニッケル合金、銅、銅−ニッケル合金、ニオブ、タングステン、タンタル、クロム、ステンレス系合金等を挙げることができる。これらのいずれの金属材料でも、従来技術における集電極材料である透明電極(ITO)より内部抵抗を抑えることができるので、効率のよい太陽電池とすることができる。
なお、本発明においては、中でも金属チタン、アルミ、銅、または銅−ニッケル合金、ステンレス系合金が用いられることが好ましい。その理由は、これらの金属材料によると、電解液による耐食性に優れるので、本発明に係る太陽電池のように集電極が電解液と接触する構成を備える構成を備えるものにおいて優位だからである。
【0019】
前記管状容器1の内部には、前記集電極5とは離間するように対向電極(正電極)6が設けられている。この実施例では、該対向電極6はコイル状をなし、その材料としては、例えば、白金、または導電性材料表面に白金の薄膜を形成したもの、ロジウム、ルテニウム、酸化ルテニウム、カーボン等の導電性材料を用いることができる。これらの導電性材料は、電解液の還元反応を十分な速さで行わせる触媒能を持っており、好適である。
なお、該対向電極6の形状はコイル状に限らず、棒状や板状のもの等であってもよい。
また、該対向電極6の外周には、絶縁スペーサ7が互いに周方向に離間して配設されていて、前記対向電極6と集電極5とが接触することを防止している。
なお、このスペーサ7は必須構成ではなく、両電極5、6間の絶縁性を安定的に維持できる場合には、これを具備しない構成とすることも可能である。また、スペーサ7の代わりに二次電池に使用されるセパレータを用いることも可能である。セパレータは、正極と負極を電気的に隔離し、電解液中のイオンを通過させるものであり、絶縁性とイオン流通性において、スペーサと同等の機能を備える。
【0020】
前記対向電極6の両端はそれぞれ内部リード8a、8bに接続されていて、これら内部リード8a、8bは、管状容器1の両端の封止部3a、3b内に埋設された金属箔9a、9bを介して外部リード10a、10bに接続される。このとき、一方の内部リード8aは直接対向電極6に接続されて電気的に導通状態にあるが、他方の内部リード8bは、絶縁性連結部11を介して対向電極6に接続されていて、該対向電極6と内部リード10bとは電気的に絶縁されている。
そして、前記内部リード8bは、集電端子12を介して前記集電極5と電気的に接続されている。
こうして、管状容器1の両端から、それぞれ対向電極(+)の外部リード8bおよび集電極5(−)の外部リード8aが導出されている。
【0021】
上記管状容器1の両端の封止部3a、3bは、ランプにおけるピンチシールなどの封止部構造と同様なものであり、両端の封止部3a、3b内に埋設される金属箔9a、9bにそれぞれ内部リード8a、8bと外部リード10a、10bが溶接接合され、前記封止部3a、3bを加熱して前記金属箔9a、9b部分を中心としてこれを圧潰して封止し、管状容器1内を液密状態に密閉するものである。
【0022】
そして、この管状容器1内には、電解液13が密封封入されていて、前記光電極4、集電極5、対向電極6等が、該電解液13に浸されている。
この電解液13は、具体的には、I−/I3−系、Br−/Br3−系、キノン/ハイドロキノン系などのレドックス電解質を、アセトニトリル、炭酸プロピレン、エチレンカーボネートなどの、電気化学的に不活性な溶媒、例えば水、アルコール類、エーテル類、エステル類、又はその他の不活性溶媒、或いは、これらの混合溶媒に溶かした電解液を用いることができる。例えば、I−/I3−系の電解液としては、ヨウ素のアンモニウム塩、またはヨウ化リチウムとヨウ素を混合したものを用いることができる。また、ゲル状の電解質層とする場合は、上述した電解質に加え、ゲル化剤を含有してもよい。その他、ヨウ素を含まないイオン性電解質を用いても良い。
【0023】
上記構成の色素増感型太陽電池の製造方法を、図4を用いて説明すると以下のとおりである。
図4(A)において、管状容器1の軸方向の中央領域の内面には、内周面側から光電極4および集電極5が積層形成されている。なお、管状容器1の両端の一部には、光電極4や集電極5などによる導電性物質が形成されていない電極非形成領域Xが存在している。
この管状容器1の内部に、対向電極6を備えた電極マウントMが挿入される。
この電極マウントMは、コイル状に形成された対向電極6の一方の端部に内部リード8a、金属箔9a及び外部リード10aが接続されると共に、当該対向電極6の他方の端部には絶縁性連結部11、内部リード8b、金属箔9b及び外部リード10bが接続されて構成されたものである。そして、前記内部リード8bは集電端子12を介して集電極5に電気的に接続されている。
また、前記対向電極6の外周には、周方向に間隔をおいて絶縁スペーサ7が取り付けられている。
【0024】
図4(B)に示すように、管状容器1の内部に挿入された電極マウントMを、対向電極6に張力をかけた状態で保持しつつ、管状容器1の両端部の電極非形成領域Xを加熱してガラスを軟化させ、金属箔9の面に対して垂直な方向から圧潰し、平坦な形状の封止部3a、3bを形成する。
この結果、ランプにおける発光管の封止部と同様な構造で、管状容器1の両方の開口が封止され、管状容器1内は密封状態となる。
【0025】
図4(C)に示すように、このように密閉された管状容器1の側面に、細いガラス管14を接続する。このガラス管14は、内部が管状容器1内部と連通するよう設けられ、電解液注入用の管として機能する。
この電解液注入用ガラス管14から、内部へ電解液13を注入し、管状容器1内を満たした後、この注入管14の端部を熱して封止する。この結果、電解液13が充填された管状容器1が液密に密閉された状態が得られる。
なお、同図においては、構造を理解し易くするために、管状容器1内の電極マウントなどの構造物は省略して記載している。
こうして、図4(D)に示すような色素増感型太陽電池が得られる。
【0026】
図2で示されるように、上記構成を備えた色素増感型太陽電池によれば、管状容器1内に密閉された電解液13は、金属製の集電極5の開口5aを介して光電極4内に浸透していく。そして、透光性の管状容器1に入射した光は、この光電極4に照射される。
これにより、該光電極4の半導体層に担持された色素が励起され、基底状態から励起状態へと遷移し、励起された色素の電子は、半導体層の伝導帯へ注入され、金属製の集電極5に移動する。
電子を失った色素は、電解液13のイオンから電子を受け取る。電子を渡した分子は、対向電極6から電子を受け取る。
このような過程の繰り返しにより電気エネルギーが取り出されるものである。
【0027】
以下、本発明の他の実施例について説明する。
図5は、第2の実施例であって、図2(B)に対応する管状容器1の横断面拡大図である。
この実施例では、集電極5の形状が前記図2に示す実施例と相違していて、光電極4上に多孔質ガラス膜15を形成し、その上に金属を溶射して形成されている。
即ち、シラス多孔質ガラス(SPG[Shirau Porous Glass])などの多孔質ガラスを光電極4上に塗布焼成して多孔質ガラス膜15を形成し、その上に金属を溶射して金属性の集電極5を形成するものである。
溶射された金属は、多孔質ガラス膜15の多孔質ガラス粒子15a間に浸入して前記光電極4上に被覆される。そして、前記多孔質ガラス粒子15aが、前記図2に示す実施例の開口4aとして機能するものであって、電解液13は該多孔質ガラス粒子15a自体の細孔を通通して光電極4内に浸透していくものである。
なお、この実施例においても、対向電極6の外周には、必要に応じて絶縁スペーサ7が設けられている。
この実施例によれば、集電極5を形成する際に、前記図3に示すような溶射マスクパターンを用いることなく多孔質ガラス膜上に金属を溶射すればよいので、多孔質ガラス膜の形成工程が増えるものの、溶射に係る作業性が良くなる。
また、製造上の問題として、例えば管状容器が細管から構成されるような、マスクパターンを装着することができない場合においても、集電極を設けることができて優位である。
なお、マスクパターンを使用せずに集電極を形成する例では、上記の多孔質ガラス膜を用いるほか、例えば、金属溶射溶液に界面活性剤など加えて起泡させて塗布したり、金属溶射溶液に熱揮発剤(例えば環状ジメチルシリコーンオイル)を添加して加熱して揮発させたりする手段を採用してもよい。
【0028】
図6〜図8に示す実施例は、管状容器1内に形成された光電極4の一部が、集電極5と対向電極6の間に存在して、前記対向電極6との間の絶縁スペーサとして機能する態様のもので、前記図2および図5に示す実施例において対向電極6上に設けられた絶縁スペーサ7を省略することができるものである。
【0029】
図6において、集電極5は管状容器1の内面に金属溶射により直接形成されていて、光電極4を構成する半導体層が、この集電極5上から塗布されると、該集電極5の多数の開口5aから前記管状容器1の内面に付着塗布される。このとき、該光電極4は集電極4を超えて対向電極6側まで塗布される。その後に、該光電極4を焼成するものである。
こうすることで、集電極5は光電極4内に埋設された状態となり、該集電極5の一部が光電極5より対向電極6側に存在して、該対向電極6との間の絶縁スペーサとして機能する。したがって、対向電極6には絶縁スペーサを設ける必要がなくなる。
外部からの光は、前記集電極5の開口5aを経て光電極4に照射されて、該光電極4に浸透した電解液13と反応する。
【0030】
図7に示す実施例では、集電極5が管状容器1の内面上に形成されず、完全に光電極4の内部に埋設した形態である。
この形態は以下の手順で作成される。
まず、管状容器1の内面に光電極4を構成する半導体層を塗布焼成により形成する。半導体層はナノサイズの空孔を備えており、この空孔の内面に適宜の錯体色素を担持する。このようにして構成された光電極4の内面上に、金属溶射により集電極5を積層して形成する。なお、この場合、図3に示されたような溶射マスクパターンを用いて溶射することは同様である。そして、更に該金属集電極5の上に半導体層を塗布してこれを焼成する。
この実施例によれば、管状容器1の内面はすべて光電極4により被覆されるので、外部光は集電極5に遮断されることなく、該光電極4の全てに照射されて、変換効率が集電極5によって低下することがない。
【0031】
図8に示す実施例は、管状容器1に形成される光電極4が突出部4aを有していて、その上に形成される集電極5の開口5aから、前記突出部4aが対向電極6側に突出する形態のものである。
その作成手順を図9により説明する。まず、管状容器1内に光電極4を構成する半導体微粒子を含有するペーストを塗布する(A)。次いで半焼結状態の半導体層に、凹凸面を有する治具を押圧して、半導体層に突出部4aを形成する(B)。これを焼結して表面に突出部4aを有する光電極4を形成する(C)。そして、該光電極4の上に金属溶射して集電極5を形成する(D)。このとき、前記光電極4の突出部4aが、集電極5の開口5aから対向電極6側に突出するようにしていて、この突出部4aが該対向電極6との絶縁スペーサとして機能する。
なお、この突出部4aの先端に金属が溶射されないようにするためには、該先端部にマスクをして溶射すればよく、あるいは溶射後に該先端部を研磨して金属被覆を剥離してもよい。
この実施例によれば、図7の実施例と同様に、管状容器1は全て光電極4によって被覆されて、外部光が集電極5によって遮断されることがなく、かつ、光電極4は一度の塗布焼成で形成できるという利点がある。
【0032】
以上説明したように、本発明に係る色素増感型太陽電池によれば、光電極が管状容器の内面上に塗布・焼成されて設けられており、集電極は、電解液が通過可能な開口を有する金属層よりなり、前記光電極に接触して設けられていることにより、集電極を透明電極とした従来のものに比べて、電池の内部抵抗を低く抑えることができるので、電圧降下を抑制することができる。
従って、電圧を高くする目的で多数のセル(電池)を直列に繋げて使用する場合、セルの直列接続によって累積されるロスを大幅に低減することができる。
また、管状容器を用いて、円柱状の太陽電池を作成するにあたって、光電極を構成する半導体層を管状容器の内面に直接塗布・焼成しているので、光電極と管状容器の内面の間に隙間を形成することなく設けることができる。
そのため、管状容器の内面に電解液のみが存在するような部分を形成することなく光電極を設けることができので、光電極に効率よく光を照射できると共に、電解液に過剰に光が照射することも回避できて、電解液の劣化を抑制することができる。
こうして、矩形箱型の色素増感型太陽電池に比べて利点の多い円柱状の色素増感型太陽電池を実現できることになった。
なお、管状容器1は円筒形状のものを説明したが、四角筒形状など適宜の管状断面形状であってよい。
【符号の説明】
【0033】
1 管状容器
2 本体部
3 封止部
4 光電極
4a 突出部
5 集電極
5a (電解液用)開口
6 対向電極
7 絶縁スペーサ
8 内部リード
9 金属箔
10 外部リード
11 絶縁性連結部
12 集電端子
13 電解液
15 多孔質ガラス
15a 多孔質粒子
MP 金属溶射用マスクパターン
X 電極非形成領域
M 電極マウント
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性ガラスよりなる管状容器を有する色素増感型太陽電池において、
前記管状容器の内部に、増感色素を担持した半導体層よりなる光電極と、該光電極に接触して設けられた集電極と、該集電極に対向する対向電極と、前記管状容器内に封入された電解液とを具備し、
前記光電極は、前記管状容器の内面上に塗布・焼成されて設けられており、
前記集電極は、電解液が通過可能な開口を有する金属層よりなり、前記光電極に接触して設けられていることを特徴とする色素増感型太陽電池。
【請求項2】
前記集電極は、金属を溶射することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項3】
前記集電極は、前記光電極の内面上に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項4】
前記集電極は、前記光電極の内面上に焼成された多孔質ガラスに金属を溶射することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項5】
前記光電極の一部が、前記集電極と前記対向電極の間に存在して、前記対向電極との間の絶縁スペーサとして機能することを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項6】
前記集電極は、前記管状容器の内面上に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項7】
前記集電極は、前記管状容器の内面から離隔して、前記光電極の半導体層内部に埋設されてなることを特徴とする請求項5に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項8】
前記光電極は、前記対向電極に向けて突出する複数の突出部を有し、
前記集電極は、前記光電極上に積層されて形成されてなり、該光電極の突出部は、前記集電極に形成された開口から前記対向電極に向けて突出していることを特徴とする請求項5に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項1】
透光性ガラスよりなる管状容器を有する色素増感型太陽電池において、
前記管状容器の内部に、増感色素を担持した半導体層よりなる光電極と、該光電極に接触して設けられた集電極と、該集電極に対向する対向電極と、前記管状容器内に封入された電解液とを具備し、
前記光電極は、前記管状容器の内面上に塗布・焼成されて設けられており、
前記集電極は、電解液が通過可能な開口を有する金属層よりなり、前記光電極に接触して設けられていることを特徴とする色素増感型太陽電池。
【請求項2】
前記集電極は、金属を溶射することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項3】
前記集電極は、前記光電極の内面上に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項4】
前記集電極は、前記光電極の内面上に焼成された多孔質ガラスに金属を溶射することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項5】
前記光電極の一部が、前記集電極と前記対向電極の間に存在して、前記対向電極との間の絶縁スペーサとして機能することを特徴とする請求項1または2に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項6】
前記集電極は、前記管状容器の内面上に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項7】
前記集電極は、前記管状容器の内面から離隔して、前記光電極の半導体層内部に埋設されてなることを特徴とする請求項5に記載の色素増感型太陽電池。
【請求項8】
前記光電極は、前記対向電極に向けて突出する複数の突出部を有し、
前記集電極は、前記光電極上に積層されて形成されてなり、該光電極の突出部は、前記集電極に形成された開口から前記対向電極に向けて突出していることを特徴とする請求項5に記載の色素増感型太陽電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−256459(P2012−256459A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127845(P2011−127845)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】
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