説明

芳香族エーテル化合物の分解方法

【課題】芳香族エーテル化合物を、温和な条件下で効率よく分解し得る分解方法、当該分解方法を用いた分析方法を提供する。
【解決手段】<1>溶媒の存在下、25℃における酸解離定数(pKa)が14以上の塩基性化合物により芳香族エーテル化合物を分解する分解方法。
<2>前記芳香族エーテル化合物が高分子化合物である、<1>の分解方法。
<3>エーテル結合を有する構造単位からなるセグメントと、エーテル結合を有しない構造単位からなるセグメントとを有する共重合体を、<1>又は<2>の分解方法によって分解せしめて、後者のセグメントを含む高分子量成分を得る分解工程と、該分解工程で得られた高分子量成分を分析する分析工程とを有する、分析方法。
<4>芳香族エーテル化合物と有価金属とを含む複合化製品から、<1>の分解方法を用いて有価金属を回収するケミカルリサイクル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族エーテル化合物の分解方法に関する。また、本発明は、該分解方法を用いる製造方法及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エーテル結合は化学的に安定であり、比較的屈曲性に富む結合であるため、主鎖構造が、芳香族基がエーテル結合で連結されてなるエンジニアリングプラスチック(例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等がある。以下、「芳香族エーテル高分子」という)は、自動車分野や電気・電子分野において、成形が容易で、耐熱性及び耐薬品性に優れた成形体を与える工業材料として利用されている。一方、産業廃棄物の増加が社会的問題として着目され、前記工業製品を廃棄する際には、廃棄物のリサイクルの要望が近年高くなってきた。当該リサイクルには、廃棄物を焼却して放出される熱エネルギーを回収・再利用するエネルギーリサイクル、廃棄物を機械的に破砕して、得られた破砕物から他の工業材料を新たに製造するマテリアルリサイクル、廃棄物を化学的処理等により再利用可能な化学物質に転換するケミカルリサイクルがある。しかしながら、前記工業製品は、エンジニアリングプラスチックのみからなるものは稀であり、通常金属材料等のプラスチック以外の材料と複合化された製品(複合化製品)となっている。このような複合化製品は、焼却処理を行うと、有害金属の漏出が生じる恐れがあり、また、希少金属を有する複合化製品の場合には、当該希少金属を回収することが困難となりやすい。マテリアルリサイクルにおいても、エンジニアリングプラスチック以外に含有される材料が不純物として機能するので、得られる再生製品は所望の特性が得られないことがある。このような問題を鑑みて、ケミカルリサイクルが特に期待されている。
【0003】
しかしながら、既述のように芳香族エーテル高分子は、耐薬品性や耐熱性に優れることから比較的分解され難く、高効率で省エネルギー性に優れ、ケミカルリサイクルに適用可能な分解方法はほとんど検討されていない。当該分解方法として、例えば、特許文献1には、250℃より高い温度で、アルカリ金属水酸化物中でエンジニアリングプラスチックを溶融させて、その分子構造を破壊するという方法が提案されている。
【0004】
また、前記芳香族エーテル高分子は、その分子内に機能性基を導入したり、エーテル基を有しない共重合成分を共重合させたり、して新たな機能材料とする試みがある。例えば、芳香族エーテル高分子にイオン交換基を導入した機能材料は、分離材料や電池の隔膜材料として検討が進められており、芳香族エーテル高分子に反応基を導入した機能材料は、半導体デバイスの封止材料や絶縁材料として検討されている。このような機能材料の特性評価や品質安定化のためには、当該機能材料の化学構造を詳細に分析する必要がある。しかしながら、芳香族エーテル高分子自体が耐溶剤性に優れていることから、芳香族エーテル高分子を用いてなる種々の機能材料も、一般に溶剤への溶解性が低く、比較的限られた溶媒にしか溶解できない。そして、このように溶解可能な溶媒が制限されているので、該機能材料の分析に適用可能な方法も制限されることになる。したがって、芳香族エーテル高分子を効率よく分解して、良好な溶剤溶解性を有する分解物に転化することや、エーテル基を連結基として有していない共重合成分を分解物として得て、当該分解物の化学構造を同定することは、このような機能材料の特性評価等に極めて有用となることが期待される。しかしながら、芳香族エーテル高分子のケミカルリサイクルがほとんど検討されていないという現状において、これらの機能材料を分解して分析するといった分析方法や特性評価方法はこれまで何ら検討されていない。
【0005】
【特許文献1】特表2002−520196号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1で提案されている分解方法では、極めて多大な熱エネルギーを要し、省エネルギーの面からは十分と云えるものではなく、特許文献1の実施例において具体的に効果を実証しているのはエポキシ樹脂のごとき、脂肪族基がエーテル結合で連結されているような化合物のみであり、芳香族エーテル化合物の分解については何ら実証されていない。
かかる状況下、本発明の目的は、芳香族エーテル化合物、特に芳香族エーテル高分子を、温和な条件下で効率よく、分解し得る分解方法を提供することにある。さらに、当該分解方法を利用して、主鎖にエーテル結合を有する芳香族エーテル高分子の特性評価等に適用できる分析方法、該芳香族エーテル高分子から再利用可能な化学物質を製造する製造方法(ケミカルリサイクル)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の<1>の分解方法を提供する。
<1>溶媒の存在下、25℃における酸解離定数(pKa)が14以上の塩基性化合物により芳香族エーテル化合物を分解する、分解方法
【0008】
さらに、本発明は前記<1>に係る好適な実施態様として、以下の<2>、<3>を提供する。
<2>前記塩基性化合物が、水酸化4級アンモニウムである、<1>の分解方法;
<3>前記塩基性化合物が、アルカリ金属アルコキシド及び/又はアルカリ土類金属アルコキシドである、<1>の分解方法;
【0009】
本発明の分解方法は、特にケミカルリサイクルの要求が高い芳香族エーテル高分子のリサイクルや、芳香族エーテル高分子又は芳香族エーテル高分子を用いた機能材料の分析方法又は特性評価方法として有用であり、以下の<4>〜<7>を提供する。
<4>前記芳香族エーテル化合物が高分子化合物である、<1>〜<3>の何れかの分解方法;
<5>前記芳香族エーテル化合物が、分子内に下記式(1)で表される部分構造を有する高分子化合物である、<1>〜<3>の何れかの分解方法;

(式中、Ar1は2価の芳香族基を表し、2つのAr1は互いに同一でも異なっていてもよい。)
<6>前記芳香族エーテル化合物が、下記式(2)で表される構造単位を有する第1のセグメントと、エーテル結合を有しない構造単位からなる第2のセグメントとを含み、その共重合様式がブロック共重合又はグラフト共重合の高分子化合物である、<1>〜<3>の何れかの分解方法;

(式中、Ar1は2価の芳香族基を表す。)
<7>下記式(2a)で表される第1のセグメントと、エーテル結合を有しない構造単位からなる第2のセグメントとを有し、共重合様式がブロック共重合又はグラフト共重合である高分子化合物を、<1>〜<3>の何れかの分解方法によって分解せしめて、前記第2のセグメントを有する高分子量成分を得る分解工程と、
該分解工程で得られた高分子量成分の分子量又は化学構造を分析する分析工程とを
有する、分析方法;

(式中、Ar1は2価の芳香族基を表し、nは当該セグメントの重合度を表す。)
<8>下記式(2c)で表される分子鎖を有する高分子化合物を、<1>〜<3>の何れかの分解方法によって分解せしめ、得られた分解物をさらに酸処理することにより式(2d)で表される化合物を得る、製造方法;

(式中、Ar2は2価の芳香族基を表し、n’は当該分子鎖の重合度を表す。)

(式中、Ar2は前記と同じ意味を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の分解方法によれば、80〜150℃程度といった比較的低温の温度条件においても、芳香族エーテル化合物を、簡便且つ効率的に分解することができる、そして、本発明の分解方法は、芳香族エーテル高分子のケミカルリサイクルを容易にすることが可能であることから、工業的に非常に有用である。また、芳香族エーテル高分子を有する複合化製品に含まれる貴金属等の有価金属を、該芳香族エーテル高分子を分解することにより回収することができる。
さらに、本発明の分解方法を用いることにより、芳香族エーテル高分子又は該芳香族エーテル高分子を用いた機能材料の特性評価等に有用な分析方法を提供できる。当該分析方法は、該芳香族エーテル高分子又は該機能材料における優れた品質管理にも適用が期待できるため、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0012】
<塩基性化合物>
本発明に適用する塩基性化合物は、25℃での酸解離定数(pKa)が14以上である塩基性化合物である。ここで、酸解離定数とは、測定温度25℃で酸塩基滴定を行って求められる値であり、水溶性塩基性化合物の場合は水を測定溶媒とする酸塩基滴定を行って求めればよく、水との接触によって分解する塩基性化合物の場合は、適当な脱水有機溶媒を測定溶媒として、酸塩基滴定を行って求められるものである。また、後述する好適な塩基性化合物の一つである金属アルコキシドは、その酸解離定数が、例えば、クラム有機化学[I]第3版(日本語版)p.300−303(廣川書店)に記載されているので、このような文献値によって、酸解離定数(pKa)が14以上の金属アルコキシドを選択することもできる。該酸解離定数は大であるほど好ましく、酸解離定数が15以上の塩基性化合物を適用するとさらに好ましい。
【0013】
本発明者等は、このような塩基性化合物を用いると、芳香族エーテル化合物を低温条件下で効率よく分解できるということを見出した。かかる塩基性化合物の作用については、必ずしも明らかではないが、当該塩基性化合物が反応剤として作用し、芳香族エーテル化合物のエーテル結合を切断すると推定される。
【0014】
前記塩基性化合物の中でも、とりわけ水酸化4級アンモニウム、アルカリ金属アルコキシド又はアルカリ土類金属アルコキシドが好ましく、これらを混合して使用することもできる。
【0015】
具体的に、前記水酸化4級アンモニウムを例示すると、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化ヘキシルトリメチルアンモニウム、水酸化セチルトリメチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等を挙げることができる。
入手や取扱いの容易さからは、水酸化テトラメチルアンモニウムや水酸化セチルトリメチルアンモニウムが好ましく用いられる。
これらは、そのまま本発明の分解反応に用いてもよいが、メタノールやエタノール等の炭素数1〜4程度の低級アルコール又は水、あるいは水と低級アルコールとの混合溶媒に溶解させて溶液の形態とした後、分解反応に用いてもよい。
【0016】
前記のアルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類金属アルコキシド、その酸解離定数が14以上であればよいが、より酸解離定数が大である点では、アルカリ金属アルコキシド又は、アルカリ金属アルコキシド及びアルカリ土類金属アルコキシドの混合物が好ましい。該アルカリ金属アルコキシドを具体的に例示すると、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等が挙げられる。
これらは、通常、アルコール溶液の形態で使用される。好適なアルカリ金属アルコキシドであるナトリウムメトキシドやナトリウムエトキシドは、アルコール溶液の形態で市販されているので、そのような市販品を使用してもよい。
【0017】
<分解方法>
次に、本発明の分解方法の条件に関して具体的に説明する。
前記塩基性化合物は、基質である芳香族エーテル化合物100重量部に対して、10〜300重量部、好ましくは50〜200重量部使用する。より好ましくは、基質である芳香族エーテル化合物のエーテル結合を形成している酸素原子の総当量数(酸素総当量数)を基準として、塩基性化合物の使用量を決定する。すなわち、基質である芳香族エーテル化合物の酸素総当量数に対し、1〜30当量の範囲で用いることが好ましく、さらに好ましくは、1〜20当量の範囲であり、より一層好ましくは、2〜10当量の範囲であり、特に好ましくは、2〜5当量の範囲である。なお、前記芳香族エーテル化合物にあるエーテル結合の当量数が不明である場合は、当該芳香族エーテル化合物の元素分析を行って酸素含有重量比を求め、当該酸素含有重量比から求められた酸素原子が全てエーテル結合を形成していると仮定して、前記酸素総当量数を求めればよい。
【0018】
本発明の分解方法においては、溶媒を使用することにより、温和な条件下で分解反応を進行させることができる。また、このように溶媒を使用すると、本発明の分解反応の再現性をより良好にすることもできる。また、溶媒を使用すると、該分解反応の反応温度を、より低温にできるという利点もある。以下、本発明の分解方法に使用する溶媒を「反応溶媒」という。
該反応溶媒としては、適用する芳香族エーテル化合物が溶解可能であるか、芳香族エーテル化合物が適度に分散できる溶媒であればよいが、使用する塩基性化合物を溶解できるような溶媒がより好ましい。さらに、分解反応を行った後の反応液を濃縮して、分離精製等によるケミカルリサイクルを行うのであれば、該反応溶媒の沸点が低いことが、分離精製等の操作がより容易になるので好ましい。
具体的に適用可能な反応溶媒を例示すると、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、水が好適なものとして挙げられる。該反応溶媒は、これらの中から、使用する塩基性化合物の種類により、該塩基性化合物の塩基度を著しく失活させないものを選択する。また、該反応溶媒は、前記に例示した溶媒を単独で用いることもできるが、必要に応じて、前記に例示した溶媒から選ばれる2種以上を混合して用いることもできる。中でも、DMSO、クロロホルム、THF、DMF、DMAc、メタノール、エタノール、水が好ましい。
反応溶媒の使用量も、分解反応に供する芳香族エーテル化合物や塩基性化合物の種類によって、適宜最適化できる。芳香族エーテル化合物が反応溶媒に溶解可能な場合は、該芳香族エーテル化合物を0.05〜10重量%の範囲で溶解できるようにして該反応溶媒の使用量を決定することが好ましく、0.1〜5重量%の範囲で溶解できるようにして該反応溶媒の使用量を決定することが特に好ましい。また、芳香族エーテル化合物が高分子化合物である場合は、反応液中の芳香族エーテル化合物濃度が大であると、この反応液が高粘度化して分解反応が進行し難くなることもあるので、粘度を勘案して反応溶媒の使用量を最適化することが好ましい。
また、反応溶媒に芳香族エーテル化合物が不溶又は難溶の場合は、該芳香族エーテル化合物が、この反応溶媒に良好に分散するか、この反応溶媒に十分浸漬できるようにして、反応溶媒の使用量を決定する必要がある。この場合、芳香族エーテル化合物1容量部に対して、該反応溶媒が1〜100容量部で使用することが好ましく、2〜10容量部で使用することがより好ましい。
【0019】
本発明の分解方法は、反応温度0〜200℃で実施することができる。特定の酸解離定数を有する前記塩基性化合物を用いることによって、このような比較的低温下で芳香族エーテル化合物を分解できることは、従来のケミカルリサイクルとして提案されていた技術に比して、驚くべきものであり、本発明者らが独自に見出した分解方法により、初めて実現可能となったものである。該反応温度は、より高いほど反応時間の短縮化が実現でき、一方、より低いほど省エネルギーの観点からは好ましい。したがって、該反応温度は、50〜180℃の範囲であるとより好ましく、80〜150℃の範囲であると特に好ましい。反応時間としては、好ましくは10分〜20時間の範囲であり、より好ましくは30分〜10時間の範囲であり、特に好ましくは30分〜5時間の範囲である。この反応温度や反応時間は、分解反応に供する芳香族エーテル化合物の種類や、使用する塩基性化合物の種類及びその使用量によって適宜最適化できる。なお、この最適化には、適当な予備実験を行えばよい。
【0020】
本発明の分解反応は、加圧下又は減圧下でも実施可能であり、使用する反応溶媒の種類と反応温度とを勘案して分解反応での圧力を決定すればよいが、操作上の容易さという点でみれば、常圧(約1気圧)下が好ましい。
【0021】
<芳香族エーテル化合物>
本発明の分解方法に供される芳香族エーテル化合物は、分子内にエーテル結合を有し、該エーテル結合を介して芳香環同士が連結しているような化合物である。中でも、該芳香族エーテル化合物が高分子化合物である場合は、前記背景技術で述べたようにケミカルリサイクルに対する要求が特に高く、産業上の利用価値が高いものとなる。このような高分子化合物とは、分子内に下記式(1)で表される部分構造を有する高分子化合物を意味する。

なお、上式中、Ar1は2価の芳香族基を表し、2つのAr1は互いに同一でも異なっていてもよい。また、該芳香族基は、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜10程度のアルキル基、フェニル基、トルイル基、ナフチル基等に代表される炭素数6〜10程度のアリール基、アセチル基、ブチリル基、ベンゾイル基等に代表される炭素数1〜10程度のアシル基を置換基として有していてもよく、イオン交換基や(架橋)反応基等の機能性基を有していてもよい。
このような式(1)で表される部分構造は、本発明の分解方法によって切断されることから、当該部分構造を有する高分子化合物の低分子量化を実現する。そして、該高分子化合物が、このようなエーテル結合を多数有しているほど、本発明の分解方法によって低分子量化が進行し、このようにして低分子量化されるほど、該高分子化合物のケミカルリサイクルを容易にする。
【0022】
また、芳香族エーテル化合物が分子内に、前記式(1)で表される部分構造を有する高分子化合物であり、該高分子化合物と金属材料とからなる複合化製品に対し、本発明の分解方法を適用する場合、該高分子化合物を分解することによって、該金属材料を回収することが容易となる。そして、本発明の分解反応は既述のように、比較的温和な条件下で実施可能であるので、この金属材料が、例えば溶媒可溶性の金属錯体となって、環境に漏出するといった不都合を良好に防止することができる。また、該金属材料が有価金属を含む場合、本発明の分解反応を用いてケミカルリサイクルを行うことにより、このような有価金属の回収を容易にするといった利点がある。
【0023】
前記のような分子内に多数のエーテル結合を有する高分子化合物(芳香族エーテル高分子)は、好適には下記式(2)で表される構造単位からなる芳香族エーテル高分子を挙げることができる。

(式中、Ar1は前記と同義である。)
具体的に式(2)で表される構造単位を例示すると、例えば、下記のA−1〜A−15に示すような構造単位を挙げることができる。また、主鎖を構成する連結基にスルホニル基、カルボニル基、アルキレン基又はハロゲン化アルキレン基を有するような、下記のB−1〜B−12に示すような構造単位も挙げることができる。

【0024】

【0025】
<ケミカルリサイクル>
また、前記背景技術で述べたように、分子内にエーテル結合を有する芳香族エーテル高分子は、種々の機能性基を導入したり、エーテル結合を有しない共重合成分を共重合させたり、して機能材料に転化し、様々な用途に使用されている。中でも、芳香族エーテル高分子にイオン交換基を導入した高分子化合物(高分子電解質)は、分離材料や電池の構成材料として検討が進められている高分子化合物であり、本発明の分解方法はこのような高分子化合物を温和な条件下で分解できることから、省エネルギー性に優れ、効率的なケミカルリサイクルを可能とする。
例えば、固体高分子形燃料電池に用いられる膜電極接合体(複合化製品)には、前記高分子電解質とともに、酸化還元反応触媒として有価金属の一つである白金が使用されることがある。本発明の分解反応によれば、該膜電極接合体中のエーテル結合を有する高分子電解質を効率的に分解して、容易に白金を回収することが可能となる。
【0026】
さらに前記ケミカルリサイクルの別の側面において、本発明の分解方法は、既述のような芳香族エーテル高分子から再利用可能な化合物を製造できる製造方法としても有用である。この製造方法に関し、一例を挙げて説明する。下記式(2c)で表される分子鎖を有する芳香族エーテル高分子を、本発明の分解方法により分解せしめると、前記塩基性化合物は式(2c)で表される分子鎖のエーテル結合を切断して、以下の式(2d’)で表される化合物を生成する。

(式中、Ar2は2価の芳香族基を表し、n’は当該分子鎖の重合度を表す。)


(式中、Ar2は前記と同じ意味であり、Mはカチオンを表す。)
式(2d’)におけるMは、Ar2にあるフェノラート基と静電的に結合しているカチオンであり、本発明の分解方法に使用した塩基性化合物の種類等により、様々なカチオンが混在することがある。このように、Mが結合しているフェノラート基は適当な酸処理により、フェノール性水酸基に転換することができる。すなわち、式(2d’)で表される化合物から酸処理により、下記式(2d)で表される化合物が生成する。

(式中、Ar2は前記と同じ意味を表す。)
なお、ここでいう酸処理には、通常強酸が使用される。この強酸としては、塩酸、硝酸あるいは硫酸を挙げることができる。
このように、本発明の分解方法による分解処理と、酸処理とを、合わせて用いることにより、前記式(2c)で表される分子鎖を有する芳香族エーテル高分子から前記式(2d)で表される化合物を製造することが可能となる。換言すれば、前記式(2c)で表される分子鎖を有する芳香族エーテル高分子から、再利用可能な化学物質として、前記式(2d)で表される化合物を得ることが可能となる。
【0027】
以上のように、本発明の分解方法をケミカルリサイクルに使用するに当たり、前記膜電極接合体のような複合化製品のケミカルリサイクルや、前記式(2c)で表される分子鎖を有する芳香族エーテル高分子から、再利用可能な化学物質を製造することが可能である。ここで、他の複合化製品に関しても、具体例を挙げて説明しておく。
芳香族エーテル高分子を分解して有価金属等を回収できる複合化製品として、電気・電子部品がある。以下、このような電気・電子部品を例にとって、本発明の分解方法を用いたケミカルリサイクルを説明する。
RF-IDタグ(例えば、特開2007−274379号公報参照)、ビルドアップ配線基板(例えば、特開2002−151848号公報参照)、銅張積層板(例えば、特開平6−179965号公報参照)では、芳香族エーテル高分子を含むフィルム(芳香族エーテル高分子フィルム)の上に、銀や銅等を含む金属配線が形成されている。このような複合化製品の場合、本発明の分解方法を用いることにより、前記芳香族エーテル高分子フィルム中の芳香族エーテル高分子を分解することにより、該金属配線に含まれている銅又は銀を効率よく回収・再利用することができる。
フィルムコンデンサー(例えば、特開平5−13272号公報参照)は、上述のような芳香族エーテル高分子フィルムと金属箔と交互に積層されて形成されている。このフィルムコンデンサーに関しても、前記芳香族エーテル高分子フィルム中の芳香族エーテル高分子を分解することにより、金属箔に使用されている有価金属を効率よく回収・再利用することができる。
その他にも、あえて公知技術を記載しないが、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、電子ペーパー等のフラットパネルディスプレイ用基板や、液晶ディスプレイ、信号、ネオンサイン等のバックライト用基板に、上述のような芳香族エーテル高分子フィルムが使用されることがある。このようなディスプレイ関連の基板に関しても、前記芳香族エーテル高分子フィルム中の芳香族エーテル高分子を分解することにより、有用な金属材料、例えばITO(インジウム錫酸化物)等を回収・再利用するうえで、本発明の分解方法は極めて有用である。
また、前記芳香族エーテル高分子と金属との複合化製品として、リレー部品、コネクター、バーンインソケットに代表されるICソケットなどの電子部品や、ランプリフレクター、ランプホルダー、コンパクトディスクなどの電気部品などがある。このような電気・電子部品のケミカルリサイクルに関しても、本発明の分解方法は好適に使用することができる。
【0028】
<分析方法>
また、別の側面において、本発明の分解方法は前記機能材料の特性評価等に有用な分析方法を提供できる。
例えば、互いに機能性基(イオン交換基、架橋反応基等)の異なる構造単位を併せて有するような機能材料(共重合体)が、これら異なる構造単位が発現する機能を両立することができるので、活発に検討されている。中でも、近年、互いに機能性基の異なる構造単位からなる複数のセグメントを有し、その共重合様式がブロック共重合又はグラフト共重合の共重合体(ブロック共重合体又はグラフト共重合体)が、種々の機能材料として検討されている。本発明の分解方法は、このような機能材料の特性評価や品質管理における分析方法としても極めて有用である。
【0029】
具体的に前記のブロック共重合体又はグラフト共重合体(以下、まとめて「含エーテル共重合体」という。)の分析方法について説明する。
本発明の分解方法に供する含エーテル共重合体としては、少なくも1つのセグメントが、前記式(2)で表される構造単位が複数連結されてなるセグメントであり、好適には下記式(2a)で表されるセグメントを有するような含エーテル共重合体である。

上式中、Ar1は前記と同義であり、nは当該セグメントの重合度を表す。なお、式(2a)で表されるセグメントを有する含エーテル共重合体において、当該セグメントが求められる機能によって、その重合度nは決定されるが、通常5〜1000の範囲であると、このセグメントに係る機能が発現されやすいため好ましく、本発明の分解方法をより短時間で完了させる点では、nが5〜500の範囲であると、さらに好ましい。
【0030】
特に、前記含エーテル共重合体においては、イオン交換基を有するセグメント(イオン性セグメント)と、イオン交換基を有さないセグメント(非イオン性セグメント)とを合わせて有し、これらのセグメント同士の共重合様式がブロック共重合又はグラフト共重合である高分子電解質が、2つのセグメントによる互いに相反する特性を両立できるので、これまで種々のセグメントの組み合わせからなるものが提案されている。
例えば、燃料電池用高分子電解質として、特開2005−190675号公報には、イオン性セグメントとして特定のポリアリーレン骨格のセグメントを有し、非イオン性セグメントとしてポリエーテル骨格のセグメントを有し、共重合様式がブロック共重合又はグラフト共重合である含エーテル共重合体が、高度のイオン伝導性を発現しながらも、熱水耐性に優れるといった特性が発現できることが開示されている。
また、分離膜として、特開平6−172559号公報では、イオン性セグメントとしてポリエーテルエーテルスルホン骨格のセグメントを有し、非イオン性セグメントとしてポリチオエーテルスルホン骨格のセグメントを有する含エーテル共重合体が、イオン選択性に優れたイオン分離膜材料となることが提案されている。
このように互いに相反する特性を、セグメントの組み合わせとして発現させる含エーテル共重合体は、そのセグメントの存在比率を最適化することが、求める特性を安定的に得るうえで重要となる。そして、このような含エーテル共重合体においては、一方のセグメントにエーテル結合を有し、他方のセグメントにエーテル結合を有していないような共重合体であるので、本発明の分解方法を適用することにより、前者のセグメントを効率的に分解し、後者のセグメントを主として含む分解処理物(高分子量成分)を残存させることが可能となる。こうすることにより、これらセグメントの共重合体中の存在比率や、分解処理物として残存するセグメントにおいては、その化学構造の同定が極めて容易となる。
【0031】
本発明の分解方法を用いた分析方法において、エーテル結合を有するセグメントを選択的に分解するためには、他方のエーテル基を有さないセグメントが、本発明の分解方法によって容易に分解し得ないセグメントであることが好ましい。このようなセグメントとしては、前記に挙げた公報で提案されているような、ポリアリーレン骨格のセグメントや芳香族チオエーテルスルホン骨格のセグメント等が挙げられ、中でも下記式(3)で表されるポリアリーレン骨格を有するセグメントが好適である。

上式中、Ar10は2価の芳香族基を表し、mは当該セグメントの重合度を表す。なお、Ar10の例示は、前記Ar1の例示と同じものが挙げられる。また、重合度mは、前記式(2a)で表されるセグメントの重合度nと同様に、式(3)で表されるセグメントに係る機能が発現されやすいという点で、5〜1000の範囲が好適である。
このような含エーテル共重合体において、本出願人は、イオン性セグメントとして、下記式(3a)で表されるポリアリーレン骨格のセグメントを有し、非イオン性セグメントとしてエーテル結合を有するセグメントからなるブロック共重合体を提案し、該ブロック共重合体が固体高分子形燃料電池用の高分子電解質として、極めて高水準のイオン伝導性と吸水寸法安定性とを両立できることを提案した(特開2007−177197号公報)。

(式中、mは前記と同義である。)
そして、本発明の分解方法によれば、このようなブロック共重合体において、非イオン性セグメントを効率よく分解して、前記式(3a)で表されるポリアリーレンセグメントを有する高分子量成分を得、該高分子量成分の化学構造の詳細を分析したり、イオン性セグメントと非イオン性セグメントの存在比率、特に存在重量比率を求めたり、して当該ブロック共重合体の安定生産に係る品質管理をより容易にすることが可能となる。このブロック共重合体の製造における品質管理の手段について例示すると、製造されたブロック共重合体から無作為にサンプリングし、得られたブロック共重合体を前記分析方法によって、各セグメントの存在重量比率等の分析値を求め、該分析値を用いて、統計的品質管理の手法を用いた母集団の標準偏差の推定、母集団の平均値の推定等を行い、また、以前に製造して分析したブロック共重合体との差の検定を行うことにより、品質管理を行うことができる。また、管理図を作成して安定したブロック共重合体が製造できるように管理することができる。
【0032】
本発明の分解方法を、前記したような含エーテル共重合体に適用したとき、分解処理物として得られる高分子量成分は、種々の分析手段で分析することができる。例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法によって分子量(数平均分子量又は重量平均分子量)を求めることや、1H−核磁気共鳴スペクトル、13C−核磁気共鳴スペクトル、赤外吸収スペクトル、可視紫外吸収スペクトルあるいは質量分析によって化学構造を同定することが可能となる。本発明の分解方法によれば、エーテル結合を有するセグメントを分解して、ポリアリーレンセグメントのようなセグメントを残存させることができるので、分解前の含エーテル共重合体よりも化学構造が簡略化され、化学構造の同定がより容易になる。したがって、このような含エーテル共重合体の分析手段として、本発明の分解方法は極めて利用価値が高いものである。また、前記SEC法において、その検出手段として可視紫外吸収スペクトルを用い、前記含エーテル共重合体の一方のセグメントを検出せず、他方のセグメントを検出するような測定波長を選択すれば、本発明の分解方法の進行具合を追跡することができる。例えば、エーテル結合を有するセグメントを検出せず、エーテル結合を有しないセグメントを検出する測定波長を用いて、SEC測定により分解反応を追跡すると、該分解反応の進行に伴って、高分子量側のピークが減少し、最終的には分解処理物であるエーテル結合を有しないセグメントを主として含む成分を表すピークになるので、分解反応の完了を判定することが容易となる。
また、本発明の分解方法を用いて分解せしめた含エーテル共重合体は、分解処理物として、前記高分子量成分と比較的分子量の小さい分解物が得られるので、SEC法を用いて、両セグメントの存在重量比率を求めることができる。また、透析膜等を用いて該高分子量成分と該分子量の小さい分解物とを分離すれば、両セグメントの存在重量比率を、さらに容易に求めることができる。このようにして求められた両セグメントの存在重量比率は、分解前の含エーテル共重合体を安定的に生産するうえで有用な情報となる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0034】
分子量測定
数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)測定は、下記の条件でサイズ排除クリマトグラフィー(SEC)分析を行った。
[SEC条件]
カラム :東ソー製 TSK−GEL GMHHR−M
カラム温度 :40℃
移動相溶媒 :ジメチルホルムアミド
(臭化リチウムを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 :0.5mL/min
検出 :示差屈折率検出、
フォトダイオードアレイ型可視-紫外線吸収検出
(測定波長190〜800nm)(300nm、275nm)
分子量標準試料 :ポリスチレン
【0035】
イオン交換容量の測定
測定に供する芳香族エーテル化合物の高分子電解質を、そのプロトン交換基をプロトン型である電解質膜の形態に加工し、加熱温度105℃に設定されたハロゲン水分率計を用いて、乾燥重量を求めた。次いで、この電解質膜を0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液5mLに浸漬した後、更に50mLのイオン交換水を加え、2時間放置した。その後、この芳香族エーテル化合物が浸漬された溶液に、0.1mol/Lの塩酸を徐々に加えることで滴定を行い、中和点を求めた。そして、芳香族エーテル化合物の乾燥重量と上記の中和に要した塩酸の量から、芳香族エーテル化合物のイオン交換容量(単位:meq/g)を算出した。
【0036】
合成例1
特開2003−113136号公報の実施例8〜11に記載の方法を参考にして、下記式で示される構造単位からなる芳香族エーテル高分子A(Mw=6,300、Mn=3,300)を得た。

【0037】
合成例2
特開2005−133081号公報の実施例1に記載の方法を参考にして、下記式で示される構造単位からなる芳香族エーテル高分子B(Mw=33,000、Mn=15,000)を得た。

【0038】
合成例3
国際公開2007/043274号パンフレットの実施例7、実施例21記載の方法を参考にして、スミカエクセルPES 5200P(住友化学株式会社製)を使用して合成した、下記式(10)

で示される構造単位からなるスルホン酸基を有するセグメントと、下記式(11)


で示される、イオン交換基を有さない構造単位からなるセグメントとを有するブロック共重合体型の芳香族エーテル高分子C(Mw=360,000、Mn=180,000、イオン交換容量=2.5meq/g)を得た。
【0039】
合成例4
特開2003−113136号公報の実施例8〜11、13に記載の方法を参考にして、合成例1で合成した芳香族エーテル高分子Aを使用して、下記式(20)

で示される構造単位からなるスルホン酸基を有するセグメントと、下記式(21)

で示される構造単位からなる、イオン交換基を有さないセグメントとを有する芳香族エーテル高分子D(Mw=330,000、Mn=110,000、イオン交換容量=2.0meq/g)を得た。
【0040】
合成例5
特開2005−248143号公報の実施例1記載の方法を参考にして、下記

で示される繰り返し単位からなるエーテル基を有さないポリアリーレン化合物E(Mwが260,000、Mnが120,000)を得た。
【0041】
実施例1
芳香族エーテル高分子として、両末端に塩素原子を有するポリエーテルスルホン(スミカエクセルPES 5200P(住友化学株式会社製;Mw=75,000、Mn=40,000))4.6mgを用い、これにジメチルスルホキシド2.3mLとを混合・溶解して溶液とした後、この溶液に水酸化テトラメチルアンモニウム溶液(多摩化学工業株式会社製 TAMAPURE−AA−1000,25%水溶液)を22μL加え混合した。100℃で3時間加熱後、放冷し、分子量測定を行った。その結果、分子量500以上の領域にピークを検出することはできず、このスミカエクセルPES5200Pが、分子量500未満の成分に分解したことが判明した。分解物において、分子量500未満に検出された成分は、その紫外線吸収波長が、スミカエクセルPES5200Pとほとんど同じであり、分子量500未満の成分に分解されたものは、ポリエーテルスルホンに由来するものであると推測された。
【0042】
実施例2
芳香族エーテル高分子として、スミカエクセルPES 5200P(住友化学株式会社製;Mw=75,000、Mn=40,000)4.2mgを用い、これにジメチルスルホキシド2.1mLを混合し、スミカエクセルPES 5200Pを溶解後、水酸化セチルトリメチルアンモニウム塩溶液(ACROS社製,25%メタノール溶液)を66μL加え混合した。100℃で3時間加熱後、放冷し、分子量測定を行った。その結果、分子量500以上の領域にピークを検出することはできず、このスミカエクセルPES5200Pが、分子量500未満の成分に分解したことが判明した。
【0043】
実施例3
芳香族エーテル高分子として、スミカエクセルPES 5200P(住友化学株式会社製;Mw=75,000、Mn=40,000)4.8mgを用い、これに、ジメチルスルホキシド2.4mLを混合し、スミカエクセルPES 5200Pを溶解後、ナトリウムメチラート溶液(和光純薬工業株式会社製,28%メタノール溶液)を12μL加え混合した。100℃で3時間加熱後、放冷し、分子量測定を行った。その結果、分子量500以上の領域にピークを検出することはできず、このスミカエクセルPES5200Pが、分子量500未満の成分に分解したことが判明した。
【0044】
実施例4
芳香族エーテル高分子として、合成例1で得た芳香族エーテル高分子A4.1mgを用い、これに、溶媒としてジメチルスルホキシド2.1mL、塩基性化合物として水酸化テトラメチルアンモニウム溶液(多摩化学工業株式会社製 TAMAPURE−AA−1000,25%水溶液)18μLを用いたこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、分子量500以上の領域にピークを検出することはできず、この芳香族エーテル化合物Aが、分子量500未満の成分に分解したことが判明した。
【0045】
実施例5
芳香族エーテル高分子として、合成例2で得た芳香族エーテル高分子Bを4.0mgを用い、これに、溶媒としてジメチルスルホキシド2.0mL、塩基性化合物として水酸化テトラメチルアンモニウム溶液(多摩化学工業株式会社製 TAMAPURE−AA−1000,25%水溶液)20μLを用いたこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、分子量500以上の領域にピークを検出することはできず、この芳香族エーテル化合物Bが、分子量500未満の成分に分解したことが判明した。
【0046】
実施例6
芳香族エーテル高分子として、合成例3で得たブロック共重合体型の芳香族エーテル高分子C(Mw=360,000、Mn=180,000)4.0mgを用い、これに、溶媒としてジメチルスルホキシド2.0mL、塩基性化合物として水酸化トラメチルアンモニウム塩溶液10μLを用いたこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、Mwが170,000、Mnが66,000の高分子量成分がSEC測定により検出された。ここで、紫外吸収検出(測定波長300nm)では、ポリエーテルスルホン骨格セグメント(式(11)で示される構造単位からなるセグメント)はほとんど検出されず、紫外吸収検出(測定波長275nm)では、ポリエーテルスルホン骨格のセグメント及びスルホン酸基を有するポリアリーレン骨格のセグメント(式(10)で示される構造単位からなるセグメント)を検出できることを利用して、両波長(300nm及び275nm)で分解後の分解物のSEC測定を行ったところ、分解物の低分子量成分はポリエーテルスルホン骨格のセグメントに由来するものであることが判明した。
【0047】
実施例7
芳香族エーテル高分子として、合成例4で得たブロック共重合体型の芳香族エーテル高分子D4.7mgを用い、これに、溶媒としてジメチルスルホキシド2.4mL、塩基性化合物として水酸化テトラメチルアンモニウム塩溶液20μLを用いたこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、Mwが19,000、Mnが14,000となり、低分子量化していることが判明した。
【0048】
実施例8
特開2007−274379号公報に記載されているようなポリエーテルスルホンフィルムと銀配線とを有するRF-IDタグ(10.4mg)を分解対象の複合化製品として用い、溶媒としてジメチルスルホキシド5.2mL、塩基性化合物として、水酸化テトラメチルアンモニウム塩溶液25μLを用いたこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。その後、ろ別し、銀を回収することができた。
【0049】
実施例9
例えば、特開平5−13272号公報に記載されているようなフィルムコンデンサーを分解対象の複合化製品として用い、溶媒としてジメチルスルホキシド、塩基性化合物として、水酸化テトラメチルアンモニウム塩溶液を用いて、実施例1と同様の実験を行うことにより、当該フィルムコンデンサーに用いられている陽極及び陰極の金属材料を回収することが可能となる。
【0050】
実施例10
国際公開2007/043274号パンフレットに記載されているような膜電極複合体(MEA)を分解対象の複合化製品として用い、溶媒としてジメチルスルホキシド、塩基性化合物として、水酸化テトラメチルアンモニウム塩溶液を用いて、実施例1と同様の実験を行う。その後、ろ別し、固形分をジメチルホルムアミドで洗浄すると、カーボンに担持された白金を回収することができる。
【0051】
比較例1
基質として合成例5で得たポリアリーレン化合物E2.9mg、溶媒としてジメチルスルホキシド0.6mL、塩基性化合物として水酸化テトラメチルアンモニウム塩溶液14μLを用い、150℃で2時間加熱したこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。結果、Mwが260,000、Mnが120,000となり、ポリアリーレン化合物Eは分解していなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒の存在下、25℃における酸解離定数(pKa)が14以上の塩基性化合物により芳香族エーテル化合物を分解することを特徴とする分解方法。
【請求項2】
前記塩基性化合物が、水酸化4級アンモニウムであることを特徴とする請求項1記載の分解方法。
【請求項3】
前記塩基性化合物が、アルカリ金属アルコキシド及び/又はアルカリ土類金属アルコキシドであることを特徴とする請求項1記載の分解方法。
【請求項4】
前記芳香族エーテル化合物が高分子化合物であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の分解方法。
【請求項5】
前記芳香族エーテル化合物が、分子内に下記式(1)で表される部分構造を有する高分子化合物であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の分解方法。

(式中、Ar1は2価の芳香族基を表し、2つのAr1は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項6】
前記芳香族エーテル化合物が、下記式(2)で表される構造単位を有する第1のセグメントと、エーテル結合を有しない構造単位からなる第2のセグメントとを含み、その共重合様式がブロック共重合又はグラフト共重合の高分子化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分解方法。

(式中、Ar1は2価の芳香族基を表す。)
【請求項7】
下記式(2a)で表される分子鎖を第1のセグメントとして有し、さらにエーテル結合を有しない構造単位からなる第2のセグメントを有し、共重合様式がブロック共重合又はグラフト共重合である高分子化合物を準備する準備工程と、
該高分子化合物を、請求項1〜3の何れかに記載の分解方法によって分解せしめて、前記第2のセグメントを有する高分子量成分を得る分解工程と、
該分解工程で得られた高分子量成分の分子量又は化学構造を分析する分析工程とを
有することを特徴とする分析方法。

(式中、Ar1は2価の芳香族基を表し、nは当該セグメントの重合度を表す。)
【請求項8】
下記式(2c)で表される分子鎖を有する高分子化合物を、請求項1〜3の何れかに記載の分解方法によって分解せしめ、得られた分解物をさらに酸処理することにより式(2d)で表される化合物を得ることを特徴とする製造方法。

(式中、Ar2は2価の芳香族基を表し、n’は当該分子鎖の重合度を表す。)

(式中、Ar2は前記と同じ意味を表す。)

【公開番号】特開2009−173902(P2009−173902A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327875(P2008−327875)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】