説明

芳香族カルボン酸の製造方法

【課題】本発明は、酸化反応による芳香族カルボン酸の製造方法において、経済上および効率上有利な芳香族カルボン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】芳香族カルボン酸の製造方法において、酸化反応工程から分離乾燥工程に至るまでの最適なプロセスおよび運転条件を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族カルボン酸類は基礎化学品として重要であり、特に芳香族ジカルボン酸は繊維、樹脂等の原料として有用である。例えば、テレフタル酸はポリエステル原料として、近年その需要が増大している。
【0003】
芳香族カルボン酸の製造方法としては、一般に酸化反応器において、重金属化合物および臭素化合物を触媒とし、酢酸等の低級脂肪族カルボン酸を含む反応溶媒中で、アルキル置換芳香族化合物を分子状酸素含有ガスと接触させて液相酸化する方法が採用されている。このような製造方法では、酸化反応器に、原料としてパラキシレン等のアルキル置換芳香族化合物、酢酸等の低級脂肪族カルボン酸を含む反応溶媒および触媒を含む液相混合物、ならびに空気等の酸素含有ガスを導入して酸化反応を行うことにより、テレフタル酸等の芳香族カルボン酸が生成されている。一般に芳香族カルボン酸は低級脂肪族カルボン酸に溶け難いため、上記酸化反応で生成した芳香族カルボン酸は通常、結晶として析出し、スラリーを形成する。
【0004】
このようにして得られた芳香族カルボン酸の結晶を含むスラリーから、芳香族カルボン酸を固液分離することにより、芳香族カルボン酸を得ることができる。
例えば、テレフタル酸は、酢酸溶媒中で、コバルト、マンガン及び臭素化合物を主体とする触媒の存在下、パラキシレンを分子状酸素で液相酸化して得られたテレフタル酸と溶媒とからなるスラリー(以下「テレフタル酸スラリー」とも記す。)から、酢酸溶媒を除去することにより得られる。テレフタル酸スラリーから酢酸溶媒を除去する方法としては、デッドエンド型フィルター等で吸引濾過、ケーキ剥離などの一連の連続的な操作による方法が挙げられる。
【0005】
デッドエンド型フィルターとしては、ロータリーフィルターまたはベルトフィルターなどがあり、特許文献1には回転式単室型濾過機が記載されている。
しかしながら、これらのデッドエンド型フィルターは、プラント建設費削減のために小型化することが求められている。デッドエンド型フィルターを小型化するためには、デッドエンド型フィルターへ供給されるスラリー中の固形分濃度、即ちスラリー濃度を予め上げておく必要がある。特許文献2には、スラリー濃度を予め上げておくための濃縮装置等として、ハイドロサイクロン、遠心分離器、クロスフローフィルター等が記載されている。しかしながら、これらの濃縮装置等を用いると、機器費、電力費等が増加する場合があり、経済上不利となる。特許文献2には、固液分離工程での濃縮装置が列記されているのみで、テレフタル酸製造のプロセス全体を考慮した最適な組合せは記載されていない。
【0006】
また、別の方法として、酸化反応に用いる溶媒量を少なくすることにより、得られるテレフタル酸のスラリー濃度を高くすることも可能である。
【特許文献1】特開平8−112509号公報
【特許文献2】特表2001−513102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
反応溶媒中で、触媒存在下、アルキル芳香族化合物を液相酸化して得られたスラリーから、反応溶媒を除去する芳香族カルボン酸の製造方法において、スラリーの固体分が反応
器に付着することや配管に詰まることを防止し、またスラリーを均一に混合するために、反応器内のスラリー濃度は低い方が望ましい。しかしながら、固液分離工程で濃縮装置等によりスラリー濃度を上げる必要があり、経済上不利となる。
【0008】
また、固液分離工程における負荷を下げるため、酸化反応に用いる溶媒量を少なくし、反応器内のスラリー濃度を高くすると、スラリーの均一な混合のために高価で強力な攪拌機が必要となる。
【0009】
本発明の目的は、酸化反応による芳香族カルボン酸の製造方法において、酸化反応工程から分離乾燥工程に至るまでの最適なプロセスおよび運転条件を設定し、経済上および効率上有利な芳香族カルボン酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記従来技術の問題点を鋭意検討した結果、芳香族カルボン酸の製造方法において、酸化反応工程から分離乾燥工程に至るまでの最適なプロセスおよび運転条件を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の芳香族カルボン酸の製造方法は、以下の(1)〜(5)の工程をこの順序で含むことを特徴としている。
(1)酸化反応器中で低級脂肪族カルボン酸を含む反応溶媒中、重金属及び臭素を含む触媒存在下、圧力0.8〜2.0MPa-G、温度180〜220℃で、アルキル芳香族化
合物を酸素含有ガスにより液相酸化して、スラリー濃度20〜40重量%の芳香族カルボン酸スラリーを得る工程。
【0012】
(2)前記芳香族カルボン酸スラリーを含む雰囲気を、減圧することにより、前記芳香族カルボン酸スラリーから反応溶媒の一部を蒸発させて、プレ濃縮スラリーを得る工程。
(3)前記プレ濃縮スラリーを、クロスフロー型フィルターでろ過することにより、前記プレ濃縮スラリーから反応溶媒の一部を除去し、スラリー濃度40重量%以上の濃縮スラリーを得る工程。
【0013】
(4)前記濃縮スラリーを、デッドエンド型フィルターでろ過することにより、前記濃縮スラリーから、芳香族カルボン酸の結晶を分離する工程。
(5)分離された芳香族カルボン酸の結晶を、低級脂肪族カルボン酸を含む洗浄液で洗浄する工程。
前記(5)工程における洗浄液は、前記(2)工程において蒸発させた反応溶媒であることが好ましい。
【0014】
前記酸化反応器は、気泡塔酸化反応器であることが好ましい。また、前記クロスフロー型フィルターは、セラミック製であることが好ましく、前記クロスフロー型フィルターの孔径(目開き)は、1μm以下であることがより好ましい。さらに前記クロスフロー型フィルターにおける原液側圧力と濾過液側圧力との差圧は、0.01〜0.5MPaの範囲にあることが好ましい。また、前記デッドエンド型フィルターは、回転型フィルターであることが好ましい。
【0015】
また、本発明の芳香族カルボン酸の製造方法は、前記アルキル芳香族化合物がパラキシレンであって、前記芳香族カルボン酸がテレフタル酸である場合に好適に用いられる。
また、前記(1)工程と前記(2)工程との間で、前記芳香族カルボン酸スラリーを、0.1MPa以下の差圧により二段目の酸化反応器に抜き出して、温度160〜220℃で追酸化する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
芳香族カルボン酸の製造方法において、酸化反応工程から分離乾燥工程に至るまでの最適なプロセスおよび運転条件を設定するにより、高価で大型の機器を用いず、攪拌機を有しない気泡塔や、小型の固液分離用フィルターを用いて、設備費や製造費を抑えて、効率よく芳香族カルボン酸を製造できる。本発明の芳香族カルボン酸の製造方法は、パラキシレンを液相酸化してテレフタル酸を製造するプロセスにおいて特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の芳香族カルボン酸の製造方法は、以下の(1)〜(5)の工程をこの順序で含むことを特徴としている。
(1)酸化反応器中で低級脂肪族カルボン酸を含む反応溶媒中、重金属及び臭素を含む触媒存在下、圧力0.8〜2.0MPa-G、温度180〜220℃で、アルキル芳香族化
合物を酸素含有ガスにより液相酸化して、スラリー濃度20〜40重量%の芳香族カルボン酸スラリーを得る工程。
【0018】
(2)前記芳香族カルボン酸スラリーを含む雰囲気を、減圧することにより、前記芳香族カルボン酸スラリーから反応溶媒の一部を蒸発させて、プレ濃縮スラリーを得る工程。
(3)前記プレ濃縮スラリーを、クロスフロー型フィルターでろ過することにより、前記プレ濃縮スラリーから反応溶媒の一部を除去し、スラリー濃度40重量%以上の濃縮スラリーを得る工程。
【0019】
(4)前記濃縮スラリーを、デッドエンド型フィルターでろ過することにより、前記濃縮スラリーから、芳香族カルボン酸の結晶を分離する工程。
(5)分離された芳香族カルボン酸の結晶を、低級脂肪族カルボン酸を含む洗浄液で洗浄する工程。
【0020】
以下、各工程について詳細に説明する。
工程(1)における酸化反応器としては、気泡塔酸化反応器であることが好ましい。気泡塔酸化反応器は攪拌機がなく設備コストが安価であり、また、攪拌機の電力も不要であり、芳香族カルボン酸の製造コスト的にも優位である。
【0021】
工程(1)において、原料として用いるアルキル芳香族化合物は、液相酸化により芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族トリカルボン酸等の芳香族カルボン酸に変換されるモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、トリアルキルベンゼン等のアルキルベンゼンであり、これらのアルキル基の一部は酸化されていてもよい。
【0022】
アルキル芳香族化合物としては、例えばm−ジイソプロピルベンゼン、p−ジイソプロピルベンゼン、m−シメン、p−シメン、m−キシレン、p−キシレン、トリメチルベンゼン類またはテトラメチルベンゼン類等の炭素数1〜4のアルキル基を2〜4個有するジもしくはポリアルキルベンゼン類;
ジメチルナフタレン類、ジエチルナフタレン類またはジイソプロピルナフタレン類等の炭素数1〜4のアルキル基を2〜4個有するジもしくはポリアルキルナフタレン類;
ジメチルビフェニル類等の炭素数1〜4のアルキル基を2〜4個有するポリアルキルビフェニル類等を挙げることができる。
【0023】
また、アルキル基の一部が酸化されたアルキル芳香族化合物としては、例えば上記アルキル芳香族化合物におけるアルキル基の一部が、前記アルデヒド基、アシル基、カルボキシル基またはヒドロキシアルキル基等に酸化された化合物等を挙げることができる。具体的には、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、m−トルイル酸、p−トルイル酸、3−ホルミル安息香酸、4−ホルミル安息香酸またはホルミルナフタレ
ン類等を挙げることができる。
【0024】
上記アルキル芳香族化合物は、1種単独で、または2種以上の混合物として用いられる。
特に本発明は、テレフタル酸の製造に適用するのが好ましく、この場合に原料となるアルキル芳香族化合物としてはパラキシレンが挙げられる。
【0025】
工程(1)において用いる反応溶媒は、低級脂肪族カルボン酸を含んでいる。また、前記反応溶媒は、低級脂肪族カルボン酸以外の成分を含有していてもよい。例えば、前記反応溶媒には、若干の水、具体的には20重量%以下の水を含有していてもよい。前記反応溶媒とアルキル芳香族化合物との重量比(反応溶媒:アルキル芳香族化合物)は、2:1〜6:1であり、好ましくは3:1〜5:1である。
【0026】
前記低級脂肪族カルボン酸としては、通常炭素数1〜8の低級脂肪族カルボン酸であり、具体的には酢酸、プロピオン酸または酪酸等が挙げられる。これらの低級脂肪族カルボン酸は1種単独で用いてもよく、または2種以上の混合物として用いてもよい。これらの中では、酢酸が好ましい。
【0027】
パラキシレンなどのアルキル芳香族化合物を酸化するには、分子状の酸素含有ガスを用いる。酸素含有ガスとしては、簡単な設備で低コストであることから、通常は空気が用いられる。その他に空気より酸素含有量が少ない酸素貧化空気、空気より酸素含有量が多い酸素富化空気なども使用できる。酸素含有ガスとして空気を使用する場合、酸化反応器の上部から排出される排気ガス中の酸素濃度が、1〜7容量%、好ましくは3〜5容量%になるような量の空気を酸化反応器に供給する。
【0028】
工程(1)における触媒は、重金属及び臭素を含んでいる。前記重金属としては、コバルト(Co)、マンガン(Mn)等が挙げられる。工程(1)における触媒は、例えば、コバルト(Co)、マンガン(Mn)等の重金属を構成元素として含む化合物及び臭素を構成元素として含む化合物から形成される。以下、これらの化合物について例示する。
【0029】
コバルトを構成元素として含む化合物(以下「コバルト化合物」とも記す。)としては、コバルトの酢酸塩、硝酸塩、アセチルアセトナート塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩または臭化物等を挙げることができるが、特に酢酸塩あるいは臭化物が好ましい。これらのコバルト化合物は1種単独で、または2種以上の混合物として用いられる。
【0030】
マンガンを構成元素として含む化合物(以下「マンガン化合物」とも記す。)としては、マンガンの酢酸塩、硝酸塩、アセチルアセトナート塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩または臭化物等を挙げることができるが、特に酢酸塩あるいは臭化物が好ましい。これらのマンガン化合物は1種単独で、または2種以上の混合物として用いられる。
【0031】
また、臭素を構成元素として含む化合物(以下「臭素化合物」とも記す。)としては、分子状臭素、臭化水素、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム等の無機臭素化合物;
臭化メチル、臭化メチレン、ブロモホルム、テトラブロモメタン、臭化ベンジル、ブロモメチルトルエン、ブロモメチル安息香酸、ジブロモエタン、トリブロモエタン、テトラブロモエタンおよびN−ブロモスクシンイミド等の有機臭素化合物等を挙げることができる。これらの臭素化合物としては、臭化水素が好ましい。また、臭素化合物は1種単独で、または2種以上の混合物として用いられる。
【0032】
コバルト化合物の使用量は、前記反応溶媒と触媒との合計100重量%あたり、コバル
ト原子換算で、300〜900重量ppmであり、好ましくは500〜800重量ppmである。
【0033】
コバルト化合物の使用量が前記範囲を超えると、酸化反応が加速し低級脂肪族カルボン酸の燃焼によって、反応溶媒原単位の悪化を招くおそれがある。また、コバルト化合物の使用量が増加することにより、例えば芳香族カルボン酸の結晶を濾過により固液分離した場合、濾過後の濾液中のコバルト量が増加する。その結果、該濾液を冷却し固形分を析出させた後、固液分離する残渣回収工程において、残渣中に同伴するコバルト量が増加し、コバルト原単位の悪化につながるために好ましくない。
【0034】
マンガン化合物の使用量としては、コバルト対マンガンのグラム原子比(コバルト:マンガン)が、1:1〜6:1、好ましくは1:1〜4:1となる量である。
コバルト対マンガンのグラム原子比が、上記グラム原子比の範囲外である場合は、同一の反応速度で反応を行った際に低級脂肪族カルボン酸の燃焼を加速してしまい、反応溶媒原単位の悪化につながる。したがって、上記の範囲内のコバルト対マンガンのグラム原子比となる量のマンガン化合物を用いることが好ましい。
【0035】
臭素化合物の使用量は、コバルトとマンガンとの合計1グラム原子あたり0.5〜1.5グラム原子、好ましくは0.6〜1.2グラム原子の臭素となる量である。臭素は触媒として反応速度の上昇を促進するため、上記範囲より低い臭素濃度の場合、反応温度を上げなければ、同一の反応速度を維持できない。しかしながら、温度の上昇は低級脂肪族カルボン酸の燃焼を起こしやすく、反応溶媒原単位の悪化につながるため好ましくない。また上記範囲を超える臭素濃度の場合、酸化反応器の上部から排出される排気ガスや生成した芳香族カルボン酸のスラリーに同伴される臭素量の増加につながる。その結果、臭素の腐食性のため金属の孔食等が起こりやすくなることが有り、プラントの運転上好ましくない。
【0036】
工程(1)における酸化反応温度は、通常180〜220℃であり、好ましくは、180〜200℃である。工程(1)は加圧下で行う。工程(1)における酸化反応圧力は、少なくとも反応温度で混合物が液相を保持できる圧力またはそれ以上の高圧であり、通常0.8〜2.0MPa−Gであり、好ましくは0.8〜1.5MPa−Gである。
【0037】
工程(1)において、前記アルキル芳香族化合物を酸素含有ガスにより液相酸化して、得られる芳香族カルボン酸スラリーのスラリー濃度は、20〜40重量%であり、好ましくは22〜38重量%であり、より好ましくは23〜34重量%である。スラリー濃度が前記範囲内であると、スラリーの固体分の反応器への付着及び配管における詰まりの懸念がなく運転安定上で好ましい。
【0038】
工程(2)において、加圧下の前記芳香族カルボン酸スラリーを含む雰囲気を、減圧することにより、前記芳香族カルボン酸スラリーから反応溶媒の一部を蒸発させて、ある程度スラリーを濃縮しておくと、後の濃縮工程での負荷を軽減でき、芳香族カルボン酸製造効率上が非常に好ましい。本発明において、工程(2)によりある程度濃縮したスラリーを、プレ濃縮スラリーという。
【0039】
工程(2)において、減圧するとは、加圧下の前記芳香族カルボン酸スラリーを含む雰囲気を開放し、工程(1)よりも圧力を減ずることをいい、好ましくは常圧下に脱圧することをいう。加圧下にあった反応溶媒は、常圧下で平衡状態の気液を生成する。
【0040】
具体的には、アルキル芳香族化合物を酸化して得られた芳香族カルボン酸スラリーを、高温高圧の反応器から大気圧であるスラリー受槽に送液する際に、芳香族カルボン酸スラ
リー中の反応溶媒の一部が蒸発することによって、芳香族カルボン酸スラリーの温度が100〜120℃程度まで降温し、スラリー濃度が上昇する。
【0041】
上記範囲内のスラリー濃度である芳香族カルボン酸スラリーを濃縮するための手法として、特許文献2に列記されているような装置のみにより固体と液体とに分離するのではなく、該装置の前段で工程(2)のような簡便な技術を用いることが経済上も好ましい。
【0042】
工程(3)において、前記プレ濃縮スラリーを、クロスフロー型フィルターでろ過することにより、前記プレ濃縮スラリーから反応溶媒の一部を除去し、スラリー濃度40重量%以上のスラリーとすることで、工程(4)のデッドエンド型フィルターによる固液分離の負荷が低くなり好ましい。本発明において、工程(3)により得られるスラリー濃度40重量%以上のスラリーを濃縮スラリーという。低いスラリー濃度のままでデッドエンド型のフィルターを用いて固体と液体とを分離する場合、大型のフィルターが必要となり望ましくない。
【0043】
クロスフロー型フィルターとは、原液の流れに対して濾過する構造物が平行方向にあり、濾過液を原液の流れに対して垂直方向に取り出す装置である。クロスフロー型フィルターにより固体と液体との完全な分離は出来ないが、スラリー濃度は40重量%以上に高めることができる。
【0044】
特許文献2に記載された濃縮装置の中では、設備費、運転費、濾液への固体分のロス等を総合的に考慮すると、クロスフロー型フィルターが効率上および経済上好ましい。
クロスフロー型フィルターとしては、セラミック製、金属製など挙げられるが、腐食の観点からセラミック製であることが好ましい。
【0045】
また、クロスフロー型フィルターの孔径(目開き)は1μm以下であるのが好ましく、0.05〜0.8μmであることがより好ましく、0.1〜0.5μmであることが特に好ましい。クロスフロー型フィルターの孔径(目開き)が前記上限を超えると、分離する固形分がフィルター細孔に目詰まりし、濾過能力の低下を引き起こすため好ましくない。
【0046】
クロスフロー型フィルターにおける原液側圧力と濾過液側圧力との差圧は、0.01〜0.5MPaの範囲にあることが好ましく、0.05〜0.4MPaであることがより好ましく、0.1〜0.3MPaであることが特に好ましい。クロスフロー型フィルターにおける原液側圧力と濾過液側圧力との差圧は、大きい方が濾過能力が向上しフィルターが小型化するが、目詰まりが起こりやすくなるため、前記範囲内であることが好ましい。
【0047】
さらにクロスフロー型フィルターを運転中、定期的にフィルターの外側から濾過液、濾過液と同じ溶媒、不活性ガスもしくはその組合せからなるもので洗浄し目詰まりを解消させ、苛性洗浄なしで長時間運転を継続させることも可能である。
【0048】
工程(4)において、前記濃縮スラリーを、デッドエンド型フィルターでろ過することにより、前記濃縮スラリーから、芳香族カルボン酸の結晶と反応溶媒とを固液分離することができる。
【0049】
工程(5)において、分離された芳香族カルボン酸の結晶を、低級脂肪族カルボン酸を含む洗浄液で洗浄する。
デッドエンド型フィルターとは、原液を濾布等の濾過する構造物に対して垂直方向に供給する装置である。すなわち、濾液の流れの方向は原液と同じ流れの方向となる。
【0050】
前記デッドエンド型フィルターとしては、回転型フィルターであることが好ましい。回
転型フィルターで固液分離される際、フィルター上に付着したケーキを上部から大量の低級脂肪族カルボン酸で洗浄することにより、固液分離後のケーキに残存する不純物の量を低下させることが可能である。
【0051】
工程(5)において、デッドエンド型フィルター上の分離された芳香族カルボン酸の結晶を、洗浄するための脂肪族カルボン酸は、前記(2)工程で蒸発させて得た反応溶媒を用いることができる。このような反応溶媒で洗浄することにより、経済上極めて有利でプロセス構成として最適となる。
【0052】
本発明の芳香族カルボン酸の製造方法は、前記アルキル芳香族化合物がパラキシレンであって、前記芳香族カルボン酸がテレフタル酸である場合に特に好適である。
また、本発明の芳香族カルボン酸の製造方法は、前記(1)工程と前記(2)工程との間で、前記芳香族カルボン酸スラリーを、0.1MPa以下の差圧により二段目の酸化反応器に抜き出して、温度160〜220℃、好ましくは160〜200℃で追酸化する工程を含むことが好ましい。
【0053】
次に、本発明の芳香族カルボン酸の製造方法の一例を、図1を用いて具体的に説明する。
前記アルキル芳香族化合物の液相酸化は、気泡塔酸化反応器1で行う。
【0054】
アルキル芳香族化合物を酸化して得られた芳香族カルボン酸スラリーを、高温高圧の気泡塔酸化反応器1から大気圧のスラリー受槽3に送液する際に、芳香族カルボン酸スラリー中の低級脂肪族カルボン酸溶媒が蒸発することによって、芳香族カルボン酸スラリーの温度が100〜120℃程度まで降温し、スラリー濃度が上昇する。
【0055】
前記スラリー受槽3のスラリー濃度をさらに高めるため、クロスフロー型フィルター6を用いる。濾過液7は、クロスフロー型フィルター供給ライン5からの原液の流れる方向に対して垂直方向にフィルターを通過する。
【0056】
前記クロスフロー型フィルターを用いて濃縮された濃縮液8は、原液と濾過液とが同じ方向に流れるデッドエンド型フィルター12により、芳香族カルボン酸の結晶と溶媒とに完全に固液分離される。
【0057】
デッドエンド型フィルター12で固液分離される際、フィルター上に付着したケーキを上部から大量の低級脂肪族カルボン酸で洗浄することにより固液分離後のケーキに残存する不純物を低下することが可能である。この洗浄するための低級脂肪族カルボン酸は、酸化反応後に加圧下から常圧下へ脱圧する際に、蒸発させて得た低級脂肪族カルボン酸溶媒凝縮液11を用いるのが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
90重量%酢酸水溶液(酢酸:水=90:10(重量比))に、コバルト原子として720重量ppmの酢酸コバルト・四水和物と、マンガン原子として360重量ppmの酢酸マンガン・四水和物と、臭素原子として1300重量ppmの臭化水素酸水溶液とを加えて、酢酸触媒水溶液を調製した。さらにパラキシレンを、酢酸触媒水溶液:パラキシレン=4.8:1.0(重量比)となる量で加えて混合液を調製した。該混合液を気泡塔酸化反応器に導入して、圧力1.0MPa−G、温度188℃、滞留時間45分の条件で、
空気を通気することによりパラキシレンを液相酸化してスラリー濃度25重量%のテレフタル酸スラリーを得た。空気の通気量は、パラキシレン1kg当たり4.25m3/時間
とした。その後、大気圧に脱圧することによって、酢酸水溶液を蒸発させ、テレフタル酸スラリーはスラリー濃度35重量%まで濃縮された。引き続いて、孔径0.2μmのセラミック製クロスフロー型フィルター(日本ポール社製)を用いてスラリー濃度45重量%まで濃縮した。該クロスフロー型フィルターにおけるフィード温度は110℃で、濾過差圧は0.1MPaであり、濾過能力は0.7Ton-濾液/時間/m2であった。その後、デッドエンド型フィルターである回転フィルターを用いて、テレフタル酸スラリーの固液分離を行った。次に、前記回転フィルター上の分離されたテレフタル酸の結晶を、大気圧まで脱圧した時に蒸発分離した酢酸水溶液によりケーキ洗浄した。該ケーキ洗浄に用いた酢酸水溶液は、テレフタル酸量の0.8倍量とした。その後乾燥し、テレフタル酸の結晶を得た。
【0060】
[比較例1]
実施例1と同じ条件でパラキシレンを液相酸化してスラリー濃度25重量%のテレフタル酸スラリーを得た。その後、大気圧に脱圧することによって、酢酸水溶液を蒸発させ、テレフタル酸スラリーはスラリー濃度35重量%まで濃縮された。引き続いて、遠心分離機を用いてテレフタル酸スラリーの固液分離を行った。分離したテレフタル酸の結晶を、酢酸水溶液(分離したテレフタル酸量の0.5倍量)に加えて再スラリー化した。該酢酸水溶液は、大気圧まで脱圧した時に蒸発分離した酢酸水溶液とした。その後、デッドエンド型フィルターである回転フィルターを用いて、テレフタル酸スラリーの固液分離を行った。次に、前記回転フィルター上の分離されたテレフタル酸の結晶を、大気圧まで脱圧した時に蒸発分離した酢酸水溶液によりケーキ洗浄した。該ケーキ洗浄に用いた酢酸水溶液は、テレフタル酸量の0.3倍量とした。この際、回転フィルターにおける濾過面積は実施例1と同等であった。その後乾燥し、テレフタル酸の結晶を得た。得られたテレフタル酸の結晶中に残留する金属(Co)触媒の量は実施例1と同等であった。回転フィルターにおける濾過面積及びテレフタル酸残留触媒量は実施例1と同等であるが、クロスフロー型フィルターの代わりに遠心分離機を用いることにより機器費、電力費が実施例1と比較して増加した。また遠心分離機による濃縮後に再スラリー工程が増えるため機器費が実施例1と比較して増加した。
【0061】
[比較例2]
実施例1と同じ条件でパラキシレンを液相酸化してスラリー濃度25重量%のテレフタル酸スラリーを得た。その後、大気圧に脱圧することによって、酢酸水溶液を蒸発させ、テレフタル酸スラリーはスラリー濃度35重量%まで濃縮された。その後、デッドエンド型フィルターである回転フィルターを用いて、テレフタル酸スラリーの固液分離を行った。次に、前記回転フィルター上の分離されたテレフタル酸の結晶を、大気圧まで脱圧した時に蒸発分離した酢酸水溶液によりケーキ洗浄した。該ケーキ洗浄に用いた酢酸水溶液は、テレフタル酸量の0.8倍量とした。この際、回転フィルターにおける濾過面積は実施例1の1.4倍であった。その後乾燥し、テレフタル酸の結晶を得た。得られたテレフタル酸の結晶中に残留する金属(Co)触媒は実施例1の2倍であった。クロスフロー型フィルターによる濃縮工程が無いため、回転フィルターにおける濾過面積及びテレフタル酸残留触媒量が実施例1と比較して増加した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す系統図である。
【符号の説明】
【0063】
1 気泡塔酸化反応器
2 芳香族カルボン酸スラリー排出ライン
3 大気圧スラリー受槽
4 フィルター供給ポンプ
5 クロスフロー型フィルター供給ライン
6 クロスフロー型フィルター
7 濾過液
8 濃縮液(デッドエンド型フィルター供給ライン)
9 低級脂肪族カルボン酸蒸気
10 熱交換器
11 低級脂肪族カルボン酸凝縮液(デッドエンド型フィルター洗浄液供給ライン)
12 デッドエンド型フィルター
13 濾液
14 ウェット芳香族カルボン酸
15 乾燥機
16 乾燥芳香族カルボン酸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)酸化反応器中で低級脂肪族カルボン酸を含む反応溶媒中、重金属及び臭素を含む触媒存在下、圧力0.8〜2.0MPa-G、温度180〜220℃で、アルキル芳香族化
合物を酸素含有ガスにより液相酸化して、スラリー濃度20〜40重量%の芳香族カルボン酸スラリーを得る工程、
(2)前記芳香族カルボン酸スラリーを含む雰囲気を、減圧することにより、前記芳香族カルボン酸スラリーから反応溶媒の一部を蒸発させて、プレ濃縮スラリーを得る工程、
(3)前記プレ濃縮スラリーを、クロスフロー型フィルターでろ過することにより、前記プレ濃縮スラリーから反応溶媒の一部を除去し、スラリー濃度40重量%以上の濃縮スラリーを得る工程、
(4)前記濃縮スラリーを、デッドエンド型フィルターでろ過することにより、前記濃縮スラリーから、芳香族カルボン酸の結晶を分離する工程、および
(5)分離された芳香族カルボン酸の結晶を、低級脂肪族カルボン酸を含む洗浄液で洗浄する工程
をこの順序で含むことを特徴とする芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項2】
前記(5)工程における洗浄液が、前記(2)工程において蒸発させた反応溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項3】
前記酸化反応器が気泡塔酸化反応器であることを特徴とする請求項1または2に記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項4】
前記クロスフロー型フィルターがセラミック製であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項5】
前記クロスフロー型フィルターの孔径(目開き)が1μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項6】
前記クロスフロー型フィルターにおける原液側圧力と濾過液側圧力との差圧が、0.01〜0.5MPaの範囲にあることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項7】
前記デッドエンド型フィルターが、回転型フィルターであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項8】
前記アルキル芳香族化合物がパラキシレンであって、前記芳香族カルボン酸がテレフタル酸であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の芳香族カルボン酸の製造方法。
【請求項9】
前記(1)工程と前記(2)工程との間で、前記芳香族カルボン酸スラリーを、0.1MPa以下の差圧により二段目の酸化反応器に抜き出して、温度160〜220℃で追酸化する工程を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の芳香族カルボン酸の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−1251(P2010−1251A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161837(P2008−161837)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】