説明

芳香族ジアミン化合物、ポリアミック酸、ポリイミド樹脂および光学素子

【課題】加工性の高い高屈折率樹脂材料である芳香族ジアミン化合物、それを用いたポリアミック酸およびポリイミド樹脂、光学素子を提供する。
【解決手段】下記一般式で表される1,5−ビス(アミノベンゾイル)ナフタレン化合物(1)、およびこれを含有するジアミン化合物と酸二無水物化合物とを反応させて得られるポリアミック酸およびポリイミド樹脂、さらに前記ポリイミド樹脂からなる光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナフタレン骨格を有する新規芳香族ジアミン化合物、それからなる重合体、特にポリアミック酸およびポリイミド樹脂、さらにそれからなる光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高屈折率を有する樹脂材料は、従来のガラス材料と比較して高い加工性を有していることなどから、メガネレンズ、カメラ等のレンズ、光ディスク用レンズ、fθレンズ、画像表示媒体の光学系素子、光学膜、フィルム、基板、各種光学フィルター、プリズム、通信用光学素子等に幅広く応用が検討されている。
【0003】
一方、ナフタレン構造は樹脂材料を高屈折化させることが広く知られており、非特許文献1にはポリビニルナフタレンはd線における屈折率が1.682と一般的なポリマーの中で屈折率が高いものの一つとして記載されている。また、ナフタレン骨格はその平面構造からなる高い対称性と長い共役系を有している。このことから、ナフタレン構造をポリマー中に導入することで、ポリマーの機械的物性の向上も期待することが出来る。
【0004】
このような背景から、ナフタレン構造を導入した樹脂材料は種々検討されており、例えば特許文献1および特許文献2が提案されている。
特許文献1では優れた透明性、高屈折率を示すナフタレン系オリゴマーと、このオリゴマーからなる各種樹脂の屈折率を調整するための屈折率調整剤について開示されている。
【0005】
また、特許文献2ではジメチルナフタレン骨格を有し、機械的強度と耐熱性に優れ、加工性がよい芳香族ポリアミド及びポリイミド樹脂原料となる新規な芳香族ジアミンについて開示されている。
【特許文献1】特開2003−192755号公報
【特許文献2】特開平9−316190号公報
【非特許文献1】井手文雄著「ここまできた透明樹脂」、株式会社工業調査会、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のナフタレン系オリゴマーは、分子量が比較的小さいことからオリゴマー成分のみでの使用の際に、機械的物性が実用上十分であるとは言い難いことが容易に推測される。そのため、屈折率差が0.01以上異なる樹脂、例えば、ナイロン66、ポリアセタール、ポリカーボネート、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、MMA樹脂、AS樹脂、石油樹脂等に配合して用いる屈折率調整剤としての使用に限定されている。これはナフタレン系オリゴマーが本来有している高い屈折率を有効に活用する場合においては制限となりうる。
【0007】
また、特許文献2に記載のジメチルナフタレン骨格を有する芳香族ジアミン化合物からなる芳香族ポリアミド及びポリイミド樹脂は、共重合モノマーが芳香族カルボン酸誘導体である。そのため、ポリマー自体の着色により可視光領域で高い透明性を求められる用途に対して使用が制限される懸念がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、実用上十分な機械特性を発現し、高分子量体のマトリックス樹脂を形成可能であり、かつ実用上十分な透明性を発現し、加工性の高い高屈折率樹脂材料である芳香族ジアミン化合物を提供することを目的とするものである。
【0009】
また、本発明は、上記の芳香族ジアミン化合物からなるポリアミック酸およびポリイミド樹脂、さらにそれからなる光学素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、下記のように構成した芳香族ジアミン化合物、および該芳香族ジアミン化合物からなるポリアミック酸およびポリイミド樹脂、および当該ポリイミド樹脂からなる光学素子を提供するものである。
【0011】
上記の課題を解決する芳香族ジアミン化合物は、下記一般式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、R1、R2は各々独立して炭素数1から6のアルキル基を示す。〕
で表されることを特徴とする。
上記の課題を解決するポリアミック酸およびポリイミド樹脂は、酸二無水物化合物と、ジアミン化合物を反応させて得られるポリアミック酸およびポリイミド樹脂であって、少なくとも前記ジアミン化合物の一部が上記一般式(1)で表される芳香族ジアミン化合物であることを特徴とする。
【0014】
また、上記の課題を解決するポリアミック酸およびポリイミド樹脂は、酸二無水物化合物と、ジアミン化合物を反応させて得られるポリアミック酸およびポリイミド樹脂であって、少なくとも前記ジアミン化合物の一部が下記一般式(1)および一般式(2)で表される芳香族ジアミン化合物であることを特徴とする。
【0015】
【化2】

【0016】
〔式中、R1、R2は各々独立して炭素数1から6のアルキル基を示す。〕
【0017】
【化3】

【0018】
〔式中、R3、R4は各々独立して水素原子もしくは炭素数1から6のアルキル基を示す。〕
前記酸二無水物化合物の少なくとも一つが脂環式酸二無水物化合物であることが好ましい。
【0019】
前記酸二無水物化合物の少なくとも一つが1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物であることが好ましい。
前記酸二無水物化合物の少なくとも一つが5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物であることが好ましい。
【0020】
上記の課題を解決する光学素子は、上記のポリイミド樹脂からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、実用上十分な機械特性を発現し、高分子量体のマトリックス樹脂を形成可能であり、かつ実用上十分な透明性を発現し、加工性の高い高屈折率樹脂材料である芳香族ジアミン化合物を提供することができる。
【0022】
また、本発明によれば、上記の芳香族ジアミン化合物からなるポリアミック酸およびポリイミド樹脂、さらにそれからなる光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、上記構成により本発明の課題を達成することができるが、具体的にはつぎのような形態によることができる。
【0024】
本発明に係る芳香族ジアミン化合物は、下記一般式(1)
【0025】
【化4】

【0026】
〔式中、R1、R2は各々独立して炭素数1から6のアルキル基を示す。〕
で表されることを特徴とする。
R1、R2は炭素数1から6のアルキル基を示すが、好ましくはR1、R2は、メチル基、エチル基、プロピル基であり、更に好ましくはメチル基である。R1およびR2は互いに同じであっても、異なっていてもよい。またR1、R2の置換位置はナフタレン環の2、3、4位および6、7、8位であることが好ましいが、更に好ましくは2位および6位であることが好ましい。またアミノ基の置換位置はベンゼン環の2から6位であることが好ましいが、更に好ましくは4位であることが好ましい。
【0027】
本発明の芳香族ジアミン化合物は、下記一般式(3)
【0028】
【化5】

【0029】
〔式中、R1、R2は各々独立して炭素数1から6のアルキル基を示す。〕
で表されるナフタレン化合物を、下記一般式(4)
【0030】
【化6】

【0031】
〔式中、Xは塩素原子または臭素原子を示す。〕
で表されるニトロベンゾイルハライド化合物とルイス酸触媒存在下で反応させ、下記一般式(5)で表される芳香族ジニトロ化合物を得た後、
【0032】
【化7】

【0033】
〔式中、R1、R2は各々独立して炭素数1から6のアルキル基を示す。〕
得られた芳香族ジニトロ化合物をNiまたはPdまたはPt等の触媒存在下で水素と反応させることで製造することができる。
【0034】
一般式(3)および一般式(4)で示される化合物は、それぞれ一般式(1)で示される所望の芳香族ジアミン化合物のジニトロ体(一般式(5))を誘導するための所望の構造である必要がある。そのため、一般式(3)のR1、R2は炭素数1から6のアルキル基であるが、R1およびR2は互いに同じであっても、異なっていてもよい。R1、R2はメチル基、エチル基、プロピル基であることが好ましく、更に好ましくはメチル基である。またR1、R2の置換位置はナフタレン環の2、3、4位及び6、7、8位であることが好ましいが、更に好ましくは2位および6位であることが好ましい。また、一般式(4)のニトロ基の置換位置はベンゼン環の2から6位であることが好ましいが、更に好ましくは4位であることが好ましい。
【0035】
一般式(3)のナフタレン化合物と一般式(4)のニトロベンゾイルハライド化合物との反応は、いわゆるFriedel−Craftsアシル化反応であり、ルイス酸触媒としては塩化アルミニウムや塩化鉄(III)、フッ化ホウ素のような強いルイス酸を用いることができる。この場合、一般式(3)のナフタレン化合物と一般式(4)のニトロベンゾイルハライド化合物の化学量論比は、(一般式(3)のモル数)/(一般式(4)のモル数)が2から10であることが好ましく、更には2から6であることがより好ましい。ルイス酸は一般式(3)のナフタレン化合物に対して2等量以上であることが好ましいが、更には2から4等量であることがより好ましい。また、反応溶媒を用いる場合は、ニトロメタン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、クロロホルム等の有機溶媒を用いることができる。反応温度は10℃から50℃であることが好ましく、反応時間は12から48時間であることが好ましい。
【0036】
一般式(5)で示される芳香族ジニトロ化合物は、再結晶法もしくはクロマトグラフィー法等の方法により容易に精製可能であるが、再結晶法でより好適に精製することができる。
【0037】
次いで行われる一般式(5)で示される芳香族ジニトロ化合物のアミノ基への還元は、公知の方法により容易に反応を進行させることができる。例えば、Ni、PdまたはPt等の触媒存在下で水素と反応させる接触水素化、もしくはFe、ZnまたはSn等の活性金属と硫酸等を用いた酸性条件下で還元することができる。本発明の芳香族ジアミン化合物への還元反応においては、接触水素化反応をより好適に用いることができ、例えばジメチルホルムアミド等の有機溶媒中、パラジウム炭素等の存在下で反応系内を水素置換することで還元可能である。反応温度は80℃から120℃であることが好ましく、反応時間は12から48時間であることが好ましい。
【0038】
得られた反応生成物は再結晶法もしくはクロマトグラフィー法等の方法により容易に精製可能であるが、再結晶法でより好適に精製することができる。
本発明の芳香族ジアミン化合物は、分子中の複数の芳香環をカルボニル基で連結された構造となっている。一般に、高屈折率化された高分子材料は加工性が比較的劣る傾向があり、言い換えると、溶融成形時の加工温度が比較的高い傾向があり、成形コストの増大や、樹脂の黄変を引き起こす可能性がある。しかしながら、本発明の芳香族ジアミン化合物からなるポリマーは、ジアミン化合物由来のカルボニル残基がポリマー主鎖の屈曲性を増す効果があると考えられるため、比較的高い屈折率を有しているにもかかわらず、高い加工性を期待することができる。
【0039】
本発明のポリアミック酸およびポリイミド樹脂は、酸二無水物化合物と、ジアミン化合物を反応させて得られるポリアミック酸およびポリイミド樹脂であって、少なくとも前記ジアミン化合物の一部が上記一般式(1)で表される芳香族ジアミン化合物であることを特徴とする。
本発明のポリアミック酸およびポリイミド樹脂は一般式(1)で示される芳香族ジアミン化合物から由来する2価の有機基を含有することを特徴とする。その他の共重合成分としては、所望の特性を満たすものであれば特に限定されるものではないが、以下の化合物を挙げることができる。
【0040】
ジアミン化合物としては、フェニレンジアミン、ジアミノトルエン、キシレンジアミン、ジメチルジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)ジアミノビフェニル、ジアミノジフェニルメタン、メチレンビス(ジメチルアニリン)、メチレンビス(ジエチルアニリン)、メチレンビス(ジイソプロピルアニリン)、(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス{(アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{(アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{(アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、ビス(アミノフェニル)フルオレン、ビス(トルイジン)フルオレン等の芳香族ジアミン化合物が樹脂の屈折率を高めるとの観点から好適に用いられる。これらの化合物は、単独で用いても、もしくは複数種類混合して用いてもよい。
【0041】
また、本発明のポリアミック酸およびポリイミド樹脂は、酸二無水物化合物と、ジアミン化合物を反応させて得られるポリアミック酸およびポリイミド樹脂であって、少なくとも前記ジアミン化合物の一部が上記一般式(1)および一般式(2)で表される芳香族ジアミン化合物であることを特徴とする。
ジアミン化合物として、前記一般式(1)で示される芳香族ジアミン化合物と、下記一般式(2)で表される芳香族ジアミン化合物を共に用いるのが好ましい。
【0042】
【化8】

【0043】
〔式中、R3、R4は各々独立して水素原子もしくは炭素数1から6のアルキル基を示す。〕
【0044】
一般式(2)で表される芳香族ジアミン化合物はフルオレン化合物であり、とくにビス(アミノフェニル)フルオレン、ビス(トルイジン)フルオレン等のフルオレン系ジアミン化合物を共重合成分として本発明の樹脂に用いた場合、高屈折率、低複屈折性を有した樹脂となるため、より好適に用いることができる。これは、ポリイミドは、一般にイミド基構造の平面性、分極性からイミド基間の相互作用が強く、比較的屈折率、複屈折性の高い樹脂材料となり易いが、本発明の芳香族ジアミン化合物、フルオレン系ジアミン化合物を用いることで、高複屈折性を比較的抑制しているものと考えられる。更には、本発明の芳香族ジアミン化合物とフルオレン系ジアミン化合物の双方が共に、各々のナフタレン環、フルオレン環構造のなす平面に対して、大きく異なる角度の異なる二つの平面上に二つのベンゼン環を有していることに由来すると考えることができる。この二つのベンゼン環からポリマー分子鎖が形成されていることで、ポリマーの高次構造がより好ましく制御され、ポリマー鎖方向とそれに直行する方向の分極率の差が小さくなり、結果として低複屈折性を有するに至っていると推察される。
【0045】
酸二無水物化合物としては、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、ビシクロ(2,2,2)オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等の公知な酸二無水物が好適に用いられる。これらの化合物は、単独で用いても、もしくは複数種類混合して用いてもよい。
【0046】
より好ましくは、得られる重合体に高い透明性を付与することが可能となるため、ビシクロ(2,2,2)オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等の脂環式酸二無水物化合物を挙げることができる。更に好ましくは、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物を挙げることができる。
【0047】
一般にポリイミド樹脂は黄色や茶褐色等に着色しており、この着色は微量の不純物や未反応のモノマー残基の変質が要因となる場合もあるが、ポリマー分子間および、または分子内の電荷移動錯体の形成が要因となる場合もある。一般的な全芳香族系のポリイミドは酸二無水物化合物由来の基が電子受容体として、ジアミン化合物由来の基が電子供与体としてポリマー中で機能することで電荷移動錯体を形成し、結果として可視光領域で吸収を持つ原因となっている。つまり可視光領域内で透明性の高いポリイミドを得るには、ポリマー中で電子受容性の低い基となりうる酸二無水物および、または電子供与性の低い基となりうるジアミン化合物を用いる必要がある。
【0048】
本発明の芳香族ジアミン化合物やビス(アミノフェニル)フルオレン、ビス(トルイジン)フルオレン等のフルオレン系ジアミン化合物は、前述のようにナフタレン環、フルオレン環構造のなす平面に対して、大きく異なる角度の異なる二つの平面上に二つのベンゼン環を有していると考えられる。そのため、電子供与性は一般的な芳香族ジアミン化合物のそれと比較してより低いと推察することができる。さらに酸二無水物化合物に脂環式化合物を用いることで、ポリイミドが本来有している高い耐熱性、機械特性を犠牲にすることなく、電子受容性をより低めることができ、より高い透明性を得ることが可能となる。
【0049】
本発明のポリアミック酸およびポリイミド樹脂は上記ジアミン化合物と上記酸二無水物化合物を重合することにより得られる。重合体を得るための反応は、公知の方法により容易に反応を進行させることができる。例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン等の有機極性溶媒中で、ピリジン/無水酢酸等の触媒を用いて行うことができる。反応温度は0℃から反応溶媒の沸点までが好ましい。重合体の分子量は反応時間により調節が可能である。
【0050】
得られた重合体は、公知の方法で精製可能であり、例えばメタノール、水等の貧溶媒で再沈殿法により精製することができる。
本発明の光学素子は、上記のポリイミド樹脂からなることを特徴とする。光学素子としては、メガネレンズ、カメラ等のレンズ、光ディスク用レンズ、fθレンズ、画像表示媒体の光学系素子、光学膜、フィルム、基板、各種光学フィルター、プリズム、通信用光学素子等が挙げられる。光学素子は、上記のポリイミド樹脂を用いて、公知の成形、成膜法等により製造することができる。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の実施例について説明する。
合成例1
不活性ガスにて置換した容器に2,6−ジメチルナフタレン8.50gとp−ニトロベンゾイルクロライド、ニトロメタン50mLを加え、室温で十分に攪拌し、無水塩化アルミニウム17.6mgを少量ずつ添加した。その後、室温で24時間攪拌した後に、反応溶液を1M塩酸200mLに注ぎ1時間攪拌した。上澄みの水溶液を除去後、残渣にメタノール100mLを加え、生じた沈殿物をろ取し、水、メタノールで洗浄後N,N−ジメチルホルムアミドから再結晶させることで14.5g(32.0mmol,58.6%)の固体精製物を得た。
【0052】
得られた固体精製物についてH−NMR等を行い、構造を同定した。
H−NMRは日本電子株式会社製JNM−GSX400(製品名)を用いて観測周波数=(1H)400MHz、標準物質:TMS、溶媒:CDCl、測定温度:室温で測定した。得られた物質のH−NMRスペクトル図を図1に示す。また、ケミカルシフトを以下に示す。
【0053】
2.28ppm(s,6H)、7.31〜7.33ppm(m,2H)、7.46〜7.52ppm(m,2H)、7.98〜8.09ppm(m,4H)、8.30〜8.33ppm(m,4H)
【0054】
これらのケミカルシフト、およびカップリングによりニトロベンゾイル基の置換基数および置換位置等を確認し、得られた固体精製物が1,5−ビス(4−ニトロベンゾイル)−2,6−ジメチルナフタレンであることが確認された。
【0055】
実施例1
容器に1,5−ビス(4−ニトロベンゾイル)−2,6−ジメチルナフタレン21.0gと5%パラジウム炭素4.20gにN,N−ジメチルホルムアミド220mLを加え、系内を水素置換した。その後100℃で24時間攪拌し、セライトろ過によりパラジウム炭素を取り除いた。得られた溶液に5%食塩水を200mL加え、生じた沈殿物をろ取し水、次いでクロロホルムにて沈殿物を洗浄した。得られた固体をN,N−ジメチルアセトアミドより再結晶させることで11.6gの固体精製物を得た。
【0056】
得られた固体精製物についてH−NMR等を行い、構造を同定した。
H−NMRは日本電子株式会社製JNM−GSX400(製品名)を用いて観測周波数=(1H)400MHz、標準物質:TMS、溶媒:DMSO−d、測定温度:100℃で測定した。得られた物質のH−NMRスペクトル図を図2に示す。また、ケミカルシフトを以下に示す。
【0057】
3.05ppm(s,6H)、5.92ppm(s,4H)、6.58〜6.60ppm(m,4H)、7.29〜7.31ppm(m,2H)、7.29〜7.43ppm(m,4H)
【0058】
これらのケミカルシフト、およびカップリングによりアミノ基の置換基数および置換位置等を確認し、得られた固体精製物が1,5−ビス(4−アミノベンゾイル)−2,6−ジメチルナフタレン(以降BANと称す。)であることが確認された。
【0059】
実施例2
不活性雰囲気下、容器にBAN7.61mmolにN−メチル−2−ピロリドン8mLを加え加熱溶解させた後、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物7.61mmolを加え、N−メチル−2−ピロリドン2mLで容器内壁面を洗い流した後、50℃で20時間攪拌した。その後、反応溶液にピリジン1.84mL、無水酢酸2.16mLを加え、室温で20時間攪拌した。得られた反応溶液をメタノール中で再沈殿し、生じた沈殿物をろ取した後に、メタノール次いでエーテルで洗浄することで白色固体を得た。
得られた固体精製物について赤外線吸収スペクトル分析、H−NMR等を行い、構造を同定した。
【0060】
赤外線吸収スペクトル分析は日本分光株式会社製FT/IR−460 plus(製品名)を用いてシングルビーム方式でKBr法にて行った。その結果、赤外線吸収スペクトルより1,720cm−1付近にイミド環の特性吸収が認められた。
【0061】
分子量の測定は東ソー株式会社製HCL−8220(製品名)を用いてカラム:Shodex KD−806M(製品名)2本(プレカラム Shodex KD−G(製品名)1本)、溶媒:N−メチル−2−ピロリドン、検出器:示差屈折率検出器を使用し、ポリスチレン換算により数平均分子量、重量平均分子量を求めた。得られた分子量の値は、実用上十分な機械特性を発現しえる指標値として用い、ポリスチレン換算の数平均分子量が5,000以上を良、5,000未満を不良とした。結果を表1に示す。
【0062】
また、溶融成形性の評価のために、ガラス転移温度を測定しその指標とした。株式会社島津製作所製DSC−60(製品名)を用いて、昇温速度10℃/分でのガラス転移温度を評価した。結果を表1に示す。
【0063】
屈折率は、ガラス基板上に得られたポリイミド膜を形成し、カルニュー光学工業株式会社社製アッベ屈折率計により波長587.6nmでの屈折率の値を評価した。結果を表1に示す。
【0064】
屈折率測定サンプルは、得られたポリイミド粉末をN−メチル−2−ピロリドンに溶解させ、スピンコート法によりガラス基板上に塗布し、その後ホットプレートにより250℃で2時間加熱することにより作製した。ポリマー溶液濃度やスピンコート条件は、加熱後に得られるポリイミド膜の膜厚が20μmとなるように任意に調整した。得られた膜厚20μmのポリイミド膜は実用上十分な透明性を有するものであった。
【0065】
実施例3
実施例2で用いた1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物に替わり5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物を用いて実施例2と同様にポリイミド樹脂を作成し、実施例2と同様に特性を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
また、得られた精製物は白色固体であり、赤外線吸収スペクトルより1,720cm−1付近にイミド環の特性吸収が認められた。得られた膜厚20μmのポリイミド膜は実用上十分な透明性を有するものであった。
【0067】
比較例1
実施例3で用いたBANに替わり9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンを用いて実施例2と同様にポリイミド樹脂を作成し、実施例2と同様に特性を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
また、得られた精製物は白色固体であり、赤外線吸収スペクトルより1,720cm−1付近にイミド環の特性吸収が認められた。得られた膜厚20μmのポリイミド膜は実用上十分な透明性を有するものであった。
【0069】
実施例4
実施例2で用いたBAN7.61mmolに替わりBAN3.805mmolと9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン3.805mmolを用いて実施例2と同様にポリイミド樹脂を作成し、実施例2と同様に特性を評価した。結果を表1に示す。
【0070】
また、得られた精製物は白色固体であり、赤外線吸収スペクトルより1,720cm−1付近にイミド環の特性吸収が認められた。得られた膜厚20μmのポリイミド膜は実用上十分な透明性を有するものであった。
【0071】
実施例5
実施例3で用いたBAN7.61mmolに替わりBAN3.805mmolと9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン3.805mmolを用いて実施例2と同様にポリイミド樹脂を作成し、実施例2と同様に特性を評価した。結果を表1に示す。
【0072】
また、得られた精製物は白色固体であり、赤外線吸収スペクトルより1,720cm−1付近にイミド環の特性吸収が認められた。得られた膜厚20μmのポリイミド膜は実用上十分な透明性を有するものであった。
【0073】
実施例6
実施例2で用いたBAN7.61mmolに替わりBAN3.805mmolとビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン3.805mmolを用いて実施例2と同様にポリイミド樹脂を作成し、実施例2と同様に特性を評価した。結果を表1に示す。
【0074】
また、得られた精製物は白色固体であり、赤外線吸収スペクトルより1,710cm−1付近にイミド環の特性吸収が認められた。得られた膜厚20μmのポリイミド膜は実用上十分な透明性を有するものであった。
【0075】
比較例2
実施例6で用いたBANに替わり9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンを用いて実施例6と同様にポリイミド樹脂を作成し、実施例2と同様に特性を評価した。結果を表1に示す。
【0076】
また、得られた精製物は白色固体であり、赤外線吸収スペクトルより1,710cm−1付近にイミド環の特性吸収が認められた。得られた膜厚20μmのポリイミド膜は実用上十分な透明性を有するものであった。
【0077】
【表1】

【0078】
実施例2から実施例6、比較例1および2において、数平均分子量および屈折率を評価した結果をまとめたものである。
全ての例において数平均分子量の評価結果は良であり、ガラス基板上に形成された膜厚20μmのポリイミド膜はクラック等の発生の無い、実用上十分な塗膜を形成した。また、屈折率も全ての例においてほぼ同等の1.63以上の優れた高屈折率を示した。
【0079】
しかしながら、ほぼ同等の共重合組成である実施例3と比較例1、実施例6と比較例2を比較すると、本発明の芳香族ジアミン化合物を用いた実施例3および実施例6は、より低いガラス転移温度を有していることが確認された。これは、本発明の芳香族ジアミン化合物が有している複数の芳香環を連結している2つのカルボニル基による屈曲性により、それからなるポリマーが比較的低いガラス転移温度、ひいては高い加工性を発現していると考えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の芳香族ジアミン化合物を用いたポリアミック酸およびポリイミド樹脂は、実用上十分な機械特性を発現し、高分子量体のマトリックス樹脂を形成可能であり、かつ実用上十分な透明性を発現し、加工性の高い高屈折率樹脂材料であるので光学素子に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】合成例1において得られた物質のH−NMRスペクトル図である。
【図2】実施例1において得られた物質のH−NMRスペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

〔式中、R1、R2は各々独立して炭素数1から6のアルキル基を示す。〕
で表されることを特徴とする芳香族ジアミン化合物。
【請求項2】
酸二無水物化合物と、ジアミン化合物を反応させて得られるポリアミック酸およびポリイミド樹脂であって、少なくとも前記ジアミン化合物の一部が下記一般式(1)で表される芳香族ジアミン化合物であることを特徴とするポリアミック酸およびポリイミド樹脂。
【化2】

〔式中、R1、R2は各々独立して炭素数1から6のアルキル基を示す。〕
【請求項3】
酸二無水物化合物と、ジアミン化合物を反応させて得られるポリアミック酸およびポリイミド樹脂であって、少なくとも前記ジアミン化合物の一部が下記一般式(1)および一般式(2)で表される芳香族ジアミン化合物であることを特徴とするポリアミック酸およびポリイミド樹脂。
【化3】

〔式中、R1、R2は各々独立して炭素数1から6のアルキル基を示す。〕
【化4】

〔式中、R3、R4は各々独立して水素原子もしくは炭素数1から6のアルキル基を示す。〕
【請求項4】
前記酸二無水物化合物の少なくとも一つが脂環式酸二無水物化合物であることを特徴とする請求項2または3に記載のポリアミック酸およびポリイミド樹脂。
【請求項5】
前記酸二無水物化合物の少なくとも一つが1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする請求項2または3に記載のポリアミック酸およびポリイミド樹脂。
【請求項6】
前記酸二無水物化合物の少なくとも一つが5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物であることを特徴とする請求項2または3に記載のポリアミック酸およびポリイミド樹脂。
【請求項7】
請求項2乃至6のいずれかに記載のポリイミド樹脂からなることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−70513(P2010−70513A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241642(P2008−241642)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】