説明

芳香族ポリアミド及びその製造方法、それからなるフィルム

【課題】
高温・高湿の条件下で出現する粗大突起を抑制し、繰り返し走行などの厳しい条件下に於いても寸法安定性、走行性、出力特性の優れた、芳香族ポリアミド及びその製造方法、それからなるフイルムを提供することを課題とする。
【解決手段】
ジクロリドまたはジカルボン酸と、ジアミンとから製造された芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量が、20ppm以下であることを特徴とする芳香族ポリアミド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温・高湿条件において粗大突起の出現の少ない優れた、芳香族ポリアミド及びフイルムおよびフイルムを提供しうる芳香族ポリアミドおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミドをはじめとする高機能フイルムは、優れた耐熱性、高剛性を活かし、繰り返し走行などの厳しい条件下でも走行性、出力特性が優れている。このため近年、芳香族ポリアミドを初めとする高機能フイルムの海外への輸出が急増している。
【0003】
海外輸出の増加に伴い輸出手段として船舶による方法が多く用いられるようになった。熱帯地方の海洋を通行する輸送は、高温かつ高湿の過酷な条件下で輸出されるため、通常状態で問題ないフイルムも、高温・高湿条件下で新たに粗大突起が出現するという新たな問題が発生している。このため、高温・高湿の条件下でも粗大突起が出現しないフイルムの開発が求められてきた。
【0004】
従来、過酷な条件下でも耐久性に優れたフイルムを得るために、芳香族ポリアミド組成物のカルボン酸末端基量と金属イオン量を規定することが示されている(特許文献1参照)。しかしながら、上記の方法では、高温・高湿の条件化において新たに出現する粗大突起の抑制に対して十分に満足できるものでなかった。
【0005】
また、フイルム中の粗大突起を抑制する方法として、粒子を予め10ポイズ以下の溶媒中に分散させる方法や、分散助剤などの添加による分散、および攪拌分散機、ボールミル、超音波分散機などによる分散により、滑剤粒子の凝集粒子をコントロールする方法が提案されている(特許文献2参照)。さらに製膜時の乾燥条件を室温〜220℃の範囲で実施することにより、粗大突起を減少させる方法などが提案されている。(特許文献3参照)
しかしながら、上記の方法はいずれも、フイルム製造直後あるいは通常条件下保管時のフイルム中の粗大突起を抑制する方法であり、高温・高湿の条件下において、新たに出現する粗大突起の抑制に対して十分に満足できるものではなかった。
【0006】
さらに、カルボン酸末端基を減らす方法として、アミンあるいはカルボン酸クロライドと反応性を有する、テレフタル酸ジクロライド、パラフェニレンジアミン以外の物質を1種以上添加し、末端のカルボン酸クロライドと反応せしめ分子鎖末端を封鎖する方法が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、上記の方法においても、高温・高湿の条件において新たに出現する粗大突起の抑制に対して十分に満足できるものでなかった。
【特許文献1】特開平10−279797号公報
【特許文献2】特開平8−147671号公報
【特許文献3】特開平8−235568号公報
【特許文献4】特開昭63−46222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決し、高温・高湿の条件下で出現する粗大突起を抑制し、繰り返し走行などの厳しい条件下に於いても寸法安定性、走行性、出力特性の優れた、芳香族ポリアミド及びその製造方法、それからなるフイルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、ジクロリドまたはジカルボン酸と、ジアミンとから製造された芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量が、20ppm以下であることを特徴とする芳香族ポリアミド及びその製造方法、それからなるフイルムによって達成できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量を20ppm以下とすることで得られるフイルムは、高温・高湿の条件下で出現する粗大突起が低減し、高温・高湿下、繰り返し走行などの厳しい条件下での走行性、出力特性が優れ、磁気記録媒体に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の芳香族ポリアミドは、ジクロリドまたはジカルボン酸と、ジアミンから製造されるものである。本発明において用いられるジクロリドとしては、例えばテレフタル酸ジクロリド、イソフタル酸ジクロリド、4,4’−ジフェニルジカルボン酸ジクロリド、2,6’−ナフタレンジカルボン酸ジクロリド、2−クロロテレフフタル酸ジクロリド、2,5’−ジクロロテレフタル酸ジクロリド、2,6’−ジクロロテレフタル酸ジクロリド等が挙げられる。これらの中で、ポリマーの溶媒への溶解性及び吸湿性の改善の点から2−クロロテレフタル酸ジクロリドが好ましい。
【0011】
また、ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、モノクロロテレフタル酸、ジクロロテレフタル酸、テトラクロロテレフタル酸、メチルテレフタル酸、イソフタル酸、2・6−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0012】
また、ジアミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4’−ジアミノクロロベンゼン、2,6’−ナフチレンジアミン、4,4’−ビフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2−クロロ−p−フェニレンジアミン、2,5’−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、2,6’−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン等が挙げられる。これらの中で、ポリマーの溶媒への溶解性、吸湿性及び剛性の改善の点から、2−クロロ−p−フェニレンジアミンまたは4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。これらのジアミンは単独または2種類以上用いることもできる。
【0013】
本発明における芳香族ポリアミドの製造方法としては、ジクロリドまたはジカルボン酸とジアミンからなる反応溶液を、例えば低温溶液重合法、界面重合法、脱水触媒を用い直接重合させる方法等が挙げられる。これらの中で、高重合度のポリマーを得やすい点から低温溶液重合法が好ましい。この場合、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性有機極性溶媒中の溶液重合で合成される。また、溶解助剤として、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、臭化リチウム、硝酸リチウムなどの存在下に重合してもよい。
【0014】
上記重合反応に用いる重合槽としては、竪型重合槽の場合、ダブルヘリカルリボン型、パドル型、プロペラ型等の撹拌翼を用いることができる。さらに重合槽内温度をコントロールすることができるように、ジャケット付き重合槽を用いることができる。また、ニーダの場合は、フィッシュテール型またはゼット型等のブレードを取り付けたものを用いることができる。
【0015】
また、本発明においては、ジクロリドまたはジカルボン酸と、ジアミンとの反応により副生する塩化水素を、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化リチウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウムなどの無機系中和剤、あるいはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機系中和剤で中和してもよい。また、重合工程と中和工程は、同一槽でも可能である。
【0016】
得られたポリマー溶液は、そのまま製膜原液として使用してもよいが、ポリマーを一旦再沈などで単離し再度上記有機溶媒や硫酸などの無機溶媒に再溶解して製膜原液を調製してもよい。製膜原液としては、さらに溶解助剤として、無機塩たとえば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、臭化カリウム、臭化リチウム、硝酸カリウム、硝酸リチウムなどを添加する場合もある。また、フィルムの物性を損なわない程度に、酸化防止剤その他の添加剤などがブレンドされていてもよい。この製膜原液中の溶媒はポリマー溶液に対して、70重量%以上97重量%以下であることが好ましい。
【0017】
上記方法で製造した芳香族ポリアミドの固有粘度ηinh(芳香族ポリアミド0.5gを硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5dl/g以上であることがフィルムに加工した場合に十分な強度を有し好ましい。
【0018】
本発明における芳香族ポリアミドは、高温・高湿の条件下で新たに出現する粗大突起を抑制する点から、芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量を20ppm以下とする必要がある。好ましくは10ppm以下、より好ましくは7ppm以下である。芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量が20ppmを超えると得られるフイルムは、高温・高湿の条件下で保管した場合、粗大突起が新たに出現する。
【0019】
本発明における芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物は、下記式(1)で表されるものであり、芳香族ポリアミドから単離した化合物である。
【0020】
R−(COOX)n・・・・式(1)
(但し、式中のXはH及び/又はアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属である。式中のRは、特に限定されるものでないが、ベンゼン、ナフタレン、アントラセンを挙げることができ、クロルなどの置換体を有していてもよい。式中のnは、1から6である。)
また、本発明の芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物は、本発明の芳香族ポリアミドを製造する際、例えば、ジアミンを非プロトン性有機極性溶媒で溶解した中に、ジクロリドまたはジカルボン酸を添加した反応溶液の重合反応後の中和工程、あるいは溶解助剤の添加工程において、炭酸リチウムなどの無機系中和剤あるいは塩化リチウムなどの溶解助剤との反応により、カルボン酸の一部がリチウム、ナトリウムなどのアルカリ金属やマグネシウム、カルシウムなどの金属塩となり生成すると考えられる。
【0021】
この化合物は、芳香族ポリアミドをフイルムにした場合、もともとフイルム中では粗大突起とはならない程度の高さであるが、高温・高湿の環境下に置かれると水分を吸着することで体積膨張し、結果として粗大突起になるものと考えられる。なお、本発明における芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物は、通常ポリマー溶液中に溶存するため高精度濾過フイルターなどで除去することができない。
【0022】
本発明は、芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物を減少せしめることで、高温・高湿の条件下で出現する粗大突起を抑制するものである。芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物を減少せしめるためには、芳香族ポリアミドの製造工程で生成するカルボン酸を有する化合物を減少せしめることが重要である。このカルボン酸を有する化合物は、例えば芳香族ポリアミドの原料であるジクロリドが、ジクロリド添加前の重合開始前反応溶液の水と加水分解反応を起こし、カルボン酸を有する化合物が生成するものと考えられる。
【0023】
そこで本発明は、芳香族ポリアミドの重合開始前の反応溶液の水分量を低下させ、ジクロリドと水との加水分解反応で生成するカルボン酸を有する化合物を減少せしめ、上述した芳香族ポリアミドの中和工程や溶解助剤を添加する製造工程での金属塩を含むカルボン酸を有する化合物の生成を抑制することを見出した。
【0024】
本発明の芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量を20ppm以下とする、芳香族ポリアミドを製造する方法は、ジクロリドまたはジカルボン酸とジアミンとからなる反応溶液を重合して芳香族ポリアミドを製造するに際し、反応溶液の水分量を2000ppm以下とすることが好ましい。より好ましくは1000ppm以下、更に好ましくは500ppm以下である。反応溶液の水分量が2000ppmを超えると、例えばジクロリドと水が加水分解反応を起こし、カルボン酸を有する化合物となり、そのカルボン酸を有する化合物が、無機系中和剤などの金属化合物と反応し金属塩を含むカルボン酸を有する化合物が生じる。さらに反応溶液の水分量が高いと、芳香族ポリアミドの重合反応が阻害されるなどの問題を生じる。
【0025】
本発明の芳香族ポリアミドの製造方法において、反応溶液の水分量を2000ppm以下とする方法としては、例えば芳香族ポリアミドの製造で用いる溶媒の水分率を、好ましくは500ppm以下、より好ましくは200ppm以下、更に好ましくは100ppm以下とすることがより好ましい。溶媒の水分率が500ppmを超えると、反応溶液の水分量が高くなり、芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物の生成が増加してしまう。
【0026】
また、反応溶液の水分量を減少させる方法として、低水分率のジアミン原料を用いる方法や、反応溶液中に脱水剤を投入したり、窒素ガスを吹き込んで水分率を減らしてもよい。
【0027】
さらに、芳香族ポリアミドは、ジクロリドまたはジカルボン酸とジアミンの重合反応中和工程において、水が発生し得られるポリマー中には多量の水分が含まれ、芳香族ポリアミドを連続的に製造する場合においては、重合槽内に残存するポリマー中の水分によって、反応溶液の水分量が大きく左右される。このため、芳香族ポリアミドを連続的に製造する場合には、この残存ポリマーを減少させることが有効であり、芳香族ポリアミドの製造量に対して4重量%以下とすることが好ましく、より好ましくは2重量%以下、更に好ましくは1重量%以下である。残存ポリマーが4重量%を超えると、残存ポリマー中の水分によって、反応溶液中の水分量が高くなり、芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物が増え、最終的に高温・高湿の条件下で出現するフイルムの粗大突起が増加する場合がある。
【0028】
重合槽内の残存ポリマーを減らす方法としては、例えば芳香族ポリアミドを製造した後に重合槽内を毎回洗浄し、残存ポリマーが無い状態で製造する方法、あるいは、例えばポリマー排出時の重合槽ジャケット温度を、重合槽内のポリマー温度と同じかそれ以上の温度にして重合槽内の残存ポリマーを減少せしめる方法を挙げることができる。重合槽ジャケット温度としては、40℃〜120℃が好ましく、より好ましくは50℃〜100℃、更に好ましくは60℃〜80℃である。ポリマー排出時のジャケット温度が40℃未満であると、ポリマー粘性が高くなり重合槽壁面などにポリマーが多量に残存してしまい、芳香族ポリアミドを連続製造する場合、反応溶液の水分量が高くなる場合がある。一方120℃を超えると、ポリマー排出後の重合槽内温度を冷却するのに時間を要し芳香族ポリアミドの生産性が悪くなったりする。
【0029】
さらに、重合槽内の残存ポリマーを減らす方法として、ポリマー排出時間を長くする方法を挙げることができ、ポリマーの排出時間は30分〜600分が好ましく、より好ましくは90分〜300分、更に好ましくは120分〜240分である。ポリマー排出時間が30分未満であるとポリマーが多量に残存し、反応溶液の水分量が高くなる場合がある。一方、600分を超えると、芳香族ポリアミド製造のタイムサイクルが長くなり生産性が悪くなったりする。
【0030】
本発明の芳香族ポリアミドからなるフイルムは、該フイルムの磁性層が形成される側の表面において、45℃×80%RHで48時間放置後のフイルム表面に出現する、高さ0.275μm以上の粗大突起個数は、100個/100cm2以下が好ましく、より好ましくは80個/100cm2以下、さらに好ましくは60個/100cm2以下である。100個/100cm2超えると磁気記録媒体としたときの表面性が悪化しドロップアウトが発生し、高密度の磁気記録媒体として適正に劣る。
【0031】
本発明の芳香族ポリアミドのフイルムが適度な粗さを持つためには、基材フイルム中に粒子を存在させておくことが好ましい。粒子の種類としては、特に限定されないが、例えば酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、コロイダルシリカ、炭酸カルシウム、酸化ジルコニウム、硫化カルシウム、硫化バリウム、ゼオライトなどの金属化合物、カーボンブラック、金属微粉末などの無機粒子や、シリコン粒子、ポリイミド粒子、架橋共重合体粒子、架橋ポリエステル粒子、テフロン粒子などの有機粒子などがあるが、耐熱性の点から無機粒子の方がより好ましい。更に本発明のフイルムに含有される粒子の平均一次粒径は0.005〜5μmとすることが好ましく、0.01〜2μmの範囲である場合には電磁変換特性、走行性とも良好となるのでさらに好ましい。フイルム中に上記粒子を含有させる方法としては、本発明の芳香族ポリアミドに添加する方法が挙げられ、特に限定されないが例えば芳香族ポリアミドの重合前に添加、あるいは重合終了後に添加する方法を挙げることができ、目的に応じて適宜選択することができる。この際、上記粒子をホモジナイザー、超音波分散機、攪拌式分散機、ボールミル、サンドミルなどで機械的に分散処理してもよく、またフイルター等で濾過し凝集粒子を除去してもよい。本発明の芳香族ポリアミドフイルムに含有される粒子の含有量は0.01〜5重量%とすることが好ましく、より好ましくは0.05〜3重量%である。粒子の含有量が上記の範囲より少ないとフイルムの走行性が不良となり易く、逆に多くても電磁変換特性が不良となり易い。
【0032】
このようにして製造された芳香族ポリアミドと溶媒からなるポリマー溶液は製膜原液として、いわゆる溶液製膜法によりフィルムに加工される。溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがあり、いずれの方法で製膜してもよいが、ここでは乾湿式法を例にとって説明する。
【0033】
乾湿式法で製膜する場合は、製膜原液を口金からドラム、エンドレスベルトなどの支持体上に押し出して薄膜とし、次いで、かかる薄膜層から溶媒を蒸散させ薄膜が自己保持性を持つまで乾燥する。乾燥条件は、好ましくは、室温以上220℃以下、60分以内であり、より好ましくは室温以上200℃以下である。
【0034】
乾燥されたフィルムは支持体から剥離されて、凝固浴(通常は水系)内で脱塩、脱溶媒、縦延伸などが行なわれ、さらにテンター内で延伸、乾燥、熱処理が行なわれてフィルムとなる。延伸倍率は面倍率(延伸後のフィルム面積を延伸前のフィルム面積で除した値で定義する。1未満はリラックスを意味する)で0.8以上8.0以下が好ましく、1.1以上5.0以下がより好ましい。
【0035】
また、本発明の芳香族ポリアミドからなるフィルムは、積層フィルムであってもよい。たとえば2層の場合には、重合した芳香族ポリアミド溶液を二分し、それぞれ異なる粒子を添加した後に積層すればよい。3層以上の場合でも同様であり、積層方法としては、周知の技術たとえば、口金内での積層、複合管での積層や、一旦1層を形成してからその上に他の層を形成する方法などがある。
【0036】
本発明のフイルムが適用される高密度記録媒体の磁性層は、特に限定されないが、強磁性金属薄膜層であれば好ましい。強磁性金属薄膜層の形成手段としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法が好ましく用いられるが、強磁性粉と有機バインダからなる磁性層を塗布法により形成してもよい。強磁性金属材料としてはR−Co、NiR−Cr、Feなどの金属やこれらを主成分とする合金などを用いることができる。
【0037】
磁性層を形成後、ダイヤモンドライクコーテングの付与及び潤滑保護層の付与を行うことは磁気記録媒体の耐久性向上の点で好ましい。さらに磁性層と反対側の面により走行性を向上させるために、バックコート層を設けてもよい。
【0038】
こうして得られた磁気記録媒体は、小型化、薄膜化が可能であり、コンパクトで大容量のデータを記録することができ、ビデオ、オーディオ用にはもちろん、高温・高湿の条件下でも新たな粗大突起の出現がなく寸法変化が少ないので、特にコンピュータのデータテープなどのデジタル記録材として好適である。また高温、高湿下での走行性及び電磁変換特性に優れるので、屋外使用向きビデオカメラ用テープなどにも好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の特性の測定は、以下の通りである。
・ 反応溶液の水分量(ppm)
重合開始前の反応溶液をサンプリングし、株式会社ダイアインスツルメンツ社製微量水分測定装置(CA−21型)を用いて、カールフィッシャ法で測定した。
(2)固有粘度(dl/g)
芳香族ポリアミド0.5gを硫酸に溶解し100mlの溶液として、ウベローデ粘度計を使用して30℃で測定した。
(3)芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量(ppm)
100ml三角フラスコに芳香族ポリアミド0.5gと純水50mlを入れ、60℃で超音波処理を1時間行い金属塩を含むカルボン酸を有する化合物の抽出を行う。その後、柴田製ガラスフイルター(3G1)を使って濾過を行い、濾液についてエバポレータ(温度100℃)で固形分が析出するまで濃縮を行う。その濃縮液を乾燥機(70℃×1Hr)で乾固させる。その後、安息香酸を内標に用いたメタノール10mlを加え再溶解し、濾過精度1μmのテフロンフイルターで濾過を行い、濾液について島津製作所製高速液体クロマトグラフィー(LC−10AD VP)を使って芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量を定量した。
【0040】
測定条件
・カラム:ODS−2 5μm(充填剤)、6×250mm(カラム寸法)
・カラム温度:40℃
・移動相:アセトニトリル60%+水40%(0.1%リン酸水溶液)
・流量:1.2ml/min
・波長:UV235nm
(4)フイルムの粗大突起個数(個/100cm2
A4版に揃えたフイルムサンプルを4枚重ね通常条件(温度25℃、湿度65%RH)及び高温・高湿条件(温度45℃、湿度80%RH)にセットした恒温恒湿器に入れ48時間放置し、その後、このフイルムを取り出し、中心部の2枚のフイルムについて、フイルム表面100cm2の範囲を実体顕微鏡により偏光下、異物を観察し、マーキングする。マーキングした異物の高さを波長275nmで多重干渉計を用いて観測し、干渉縞の数でチェックし、一重環以上のものをカウントし、フイルムの粗大突起個数を求めた。
【0041】
実施例1
翼径1.14m、翼幅0.16mのアンカー型攪拌翼を有する、槽内径1.2mのジャケット付き重合槽を、芳香族ポリアミドの溶媒であるN−メチルピロリドン(以下NMPと記す)で洗浄した後、芳香族ポリアミドの製造量が800kgとなるように、水分率90ppmのNMPに芳香族ジアミン成分として85モル%に相当する2−クロロ−p−フェニレンジアミン(以下CPAと記す)と、15モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下DPEと記す)とを溶解させ反応溶液を調製した。重合開始前の反応溶液の水分量は、390ppmであった。次いで反応溶液の中に、平均粒径80nmであるコロイダルシリカをポリマー当たり0.05重量%添加した。これに芳香族ジアミンに対して98.4モル%に相当する2−クロロテレフタル酸ジクロリド(以下CTPCと記す)を添加し、線速度4.0m/秒で攪拌し、重合槽ジャケット温度を−25℃に保ち重合反応を開始した。溶液温度が上昇するに従い、重合槽内温度を35℃以下に保持できるよう段階的に攪拌速度を下げ、最終的に線速度2.0m/秒にし、2時間攪拌し重合反応を完了し、次いで重合反応で副生した塩化水素を炭酸リチウムで中和し、芳香族ポリアミド製造の全工程を終了し、引き続きジャケット温度を70℃に保ちながら、150分掛けて排出を行い794kgの芳香族ポリアミドを得た。重合槽内の残存ポリマーは、芳香族ポリアミドの製造量に対し0.75重量%であった。
【0042】
上記、芳香族ポリアミドの残存ポリマーが残った重合槽に、芳香族ポリアミドの製造量が800kgとなるように、上記の方法と同様にして、水分率90ppmのNMPを用いて反応溶液を調製した。重合開始前の反応溶液の水分量は、440ppmであった。次いで上記の方法と同様にして、反応溶液にコロイダルシリカを添加した後、CTPCを添加し重合反応を完了後に中和反応を実施し、芳香族ポリアミドの全工程を終了した。次いで、ジャケット温度を70℃に保ちながら、150分掛けて排出を行い、800kgの芳香族ポリアミドを得た。得られた、芳香族ポリアミドの特性は、ポリマー濃度10.5wt%、溶液粘度3610ポイズ、固有粘度ηinh2.59dl/g、芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量は2ppmであった。
【0043】
この原液を5μmカットのフィルターを通した後、径が30μm以上の表面欠点の頻度が0.006個/mmのベルト上に流延し、180℃の熱風で2分間加熱して溶媒を蒸発させ、自己保持性を得たフィルムをベルトから連続的に剥離した。次にNMP濃度勾配のつけた水槽(3槽)内へフィルムを導入して残存溶媒と中和で生じた無機塩の水抽出を行ない、テンターで水分の乾燥と熱処理を行なって、厚さ6μmのフィルムを得た。この間にフィルムの長手方向と幅方向にそれぞれ1.2倍、1.3倍延伸を行ない、280℃で1.5分間乾燥と熱処理を行なった後、20℃/秒の速度で徐冷した。得られた芳香族ポリアミドフイルムの粗大突起個数を測定し測定値を表1に示す。フイルムの粗大突起個数は、高温・高湿条件下(45℃×80%RH)で56個/100cm2であり、新しく出現した粗大突起個数は、極少数であった。
【0044】
実施例2〜4
実施例2のポリマー排出時ジャケット温度を50℃、ポリマー排出時間を150分、実施例3のポリマー排出時ジャケット温度を70℃、ポリマー排出時間を100分、実施例4のポリマー排出時ジャケット温度を70℃、ポリマー排出時間を150分とし、重合槽内の残存ポリマーおよびNMP水分率を表1に示した通りに変更した以外は、実施例1と同様にして芳香族ポリアミドを製造した。得られた芳香族ポリアミドの固有粘度ηinh及び芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量を表1に示す。実施例2〜4ともに本発明の範囲内であった。つぎにこの芳香族ポリアミドを用いて、実施例1と同様にして芳香族ポリアミドフイルムを得た。得られた芳香族ポリアミドフイルムの粗大突起個数を表1に示す。実施例2〜4ともに本発明の範囲内であり、高温・高湿条件下(45℃×80%RH)のフイルムの粗大突起個数は良好であった。
【0045】
実施例5
毎回、芳香族ポリアミドの溶媒であるNMPで重合槽を洗浄した後に、芳香族ポリアミドの製造量が800kgとなるように、実施例1と同様にして、水分率90ppmのNMPを用いて反応溶液を調製した。重合開始前の反応溶液の水分量は390ppmであった。次いで実施例1と同様にして、反応溶液にコロイダルシリカを添加した後、CTPCを添加し重合反応を完了後に中和反応を実施し、芳香族ポリアミド製造の全工程を終了した。次いで、ジャケット温度を70℃に保ちながら、150分掛けて排出を行い、794kgの芳香族ポリアミドを得た。
【0046】
得られた、芳香族ポリアミドの特性は、ポリマー濃度10.5wt%、溶液粘度3620ポイズ、固有粘度ηinh2.59dl/g、芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量は2ppmであった。
【0047】
この原液を5μmカットのフィルターを通した後、径が30μm以上の表面欠点の頻度が0.006個/mmのベルト上に流延し、180℃の熱風で2分間加熱して溶媒を蒸発させ、自己保持性を得たフィルムをベルトから連続的に剥離した。次にNMP濃度勾配のつけた水槽(3槽)内へフィルムを導入して残存溶媒と中和で生じた無機塩の水抽出を行ない、テンターで水分の乾燥と熱処理を行なって、厚さ6μmのフィルムを得た。この間にフィルムの長手方向と幅方向にそれぞれ1.2倍、1.3倍延伸を行ない、280℃で1.5分間乾燥と熱処理を行なった後、20℃/秒の速度で徐冷した。得られた芳香族ポリアミドフイルムのフイルム粗大突起個数は、通常条件下(25℃×65%RH)で40個/100cm2、高温・高湿条件下(45℃×80%RH)で53個/100cm2であった。
【0048】
比較例1
水分率が1850ppmのNMPを用いて、実施例1と同様にして反応溶液を調製した。重合開始前の反応溶液の水分量は、2510ppmであった。次いで実施例1の方法と同様にして、反応溶液にコロイダルシリカを添加した後、CTPCを添加し重合反応の完了後に中和反応を実施し、芳香族ポリアミド製造の全工程を終了した。次いで、ジャケット温度を70℃に保ちながら、150分掛けて排出を行い、800kgの芳香族ポリアミドを得た。
【0049】
得られた、芳香族ポリアミドの特性は、ポリマー濃度10.5wt%、溶液粘度3610ポイズ、固有粘度ηinh2.58dl/g、芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量が37ppmと本発明の範囲外であった。
【0050】
引き続いて、得られた芳香族ポリアミドを実施例1と同様にしてフイルム化し、厚さ6μmの芳香族ポリアミドフイルムを得た。得られたフイルムの粗大突起個数は、通常保管(25℃×65%RH)で44個/100cm2、、高温・高湿条件下(45℃×80%RH)で210個/100cm2と著しく出現した。
【0051】
比較例2,3
比較例2のポリマー排出時ジャケット温度を25℃、ポリマー排出時間を150分、比較例3のポリマー排出時ジャケット温度を70℃、ポリマー排出時間を20分とし、かつ重合槽内の残存ポリマーおよびNMP水分率を表1に示した通りに変更した以外は、実施例1と同様にして芳香族ポリアミドを製造した。得られた芳香族ポリアミドの固有粘度ηinh及び芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量を表1に示す。比較例2,3ともに重合槽内の残存ポリマー及び重合開始前の反応溶液の水分量が本発明の範囲外となり、芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量が本発明の範囲外となった。つぎにこの芳香族ポリアミドを使って、実施例1と同様にして芳香族ポリアミドフイルムを得た。得られた芳香族ポリアミドフイルムの粗大突起個数を表1に示す。比較例2,3とも高温・高湿条件下(45℃×80%RH)のフイルムの粗大突起が著しく出現した。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロリドまたはジカルボン酸と、ジアミンとから製造された芳香族ポリアミド中の金属塩を含むカルボン酸を有する化合物量が、20ppm以下であることを特徴とする芳香族ポリアミド。
【請求項2】
ジクロリドまたはジカルボン酸とジアミンからなる反応溶液を重合して芳香族ポリアミドを製造するに際し、反応溶液の水分量が2000ppm以下であることを特徴とする芳香族ポリアミドの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の芳香族ポリアミドからなるフイルム。
【請求項4】
45℃×80%RHで48時間放置後のフイルム表面が高さ0.275μm以上の粗大突起個数が100個/100cm2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の芳香族ポリアミドフイルム。

【公開番号】特開2007−238695(P2007−238695A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60679(P2006−60679)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】