説明

芳香族ポリアミド及びそれからなる繊維

【課題】カーボンナノチューブの分散性が大きく改善され、それによって引張強度、及び引張弾性率などの機械的特性が可及的に向上された芳香族ポリアミド及びそれからなる繊維を提供すること。
【解決手段】カーボンナノチューブが分散された芳香族ポリアミドであって、該芳香族ポリアミドは、芳香族ジアミンと、芳香族ジカルボン酸誘導体とを有機溶媒中で縮重合した後、該芳香族ポリアミド溶液中に副生する塩化水素を中和する際、表面にカーボンナノチューブが固着された無機アルカリで中和させることにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミド及びそれからなる繊維に関するものであり、より詳しくは、カーボンナノチューブが分散された芳香族ポリアミド及びそれからなる繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなる芳香族ポリアミドは、その高強度、高弾性率等の特性を生かして産業資材用途や機能性衣料用途に広く利用されている。そして、これら芳香族ポリアミドに対しては、さらなる強度、弾性率向上のニーズがあり、これまで種々の方法が検討されている。
【0003】
そして、近年、カーボンナノチューブが脚光を浴び、樹脂との複合方法が種々検討されている。例えば、特開2002−97375号公報、或いは特開2003−138040号公報には、カーボンナノチューブを含有する熱可塑性樹脂が開示されているが、これらの樹脂は、導電性の向上をその目的とするものである上、カーボンナノチューブの熱可塑性樹脂中への分散方法も、溶融混練以外は明記されておらず、カーボンナノチューブを凝集無く、高度に樹脂中に分散させることが困難であるため、強度、弾性率などの機械的特性を向上させることは不可能である。
【0004】
さらに、特開2003−327722号公報、特開2003−231810号公報、特開2003−119622号公報には、ポリベンザゾールフィルムや繊維に対して、カーボンナノチューブを複合させ、種々の機能を発現させることが記載されているものの、具体的なカーボンナノチューブの分散方法は記載されておらず、カーボンナノチューブの分散は不十分であると考えられる。
【0005】
つまり、樹脂の機械的強度向上のためには、カーボンナノチューブが樹脂中で充分に分散していることが必要であるが、前述の様に、カーボンナノチューブが高度に分散した芳香族ポリアミドは未だ得られていないので実情である。
【0006】
【特許文献1】特開2002−97375号公報
【特許文献2】特開2003−138040号公報
【特許文献3】特開2003−327722号公報
【特許文献4】特開2003−231810号公報
【特許文献5】特開2003−119622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、カーボンナノチューブの分散性が大きく改善され、それによって機械的特性が可及的に向上された芳香族ポリアミド及びそれからなる繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、芳香族ポリアミドを重縮合する際に副生する塩化水素を、表面にカーボンナノチューブが固着された無機アルカリで中和するとき、所望の芳香族ポリアミドが得られることを究明し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、(1)カーボンナノチューブが分散された芳香族ポリアミドであって、該芳香族ポリアミドは、芳香族ジアミンと、芳香族ジカルボン酸誘導体とを有機溶媒中で縮重合した後、該芳香族ポリアミド溶液中に副生する塩化水素を中和する際、表面にカーボンナノチューブが固着された無機アルカリで中和させることにより得られた芳香族ポリアミドであることを特徴とする芳香族ポリアミド、及び(2)芳香族ポリアミドドープを紡糸することにより得られる芳香族ポリアミド繊維であって、該芳香族ポリアミドが上記(1)記載の芳香族ポリアミドであることを特徴とする芳香族ポリアミド繊維が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カーボンナノチューブの分散性が大きく改善され、それによって機械的特性が可及的に向上された芳香族ポリアミド及びそれからなる繊維が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で使用する芳香族ジカルボン酸成分は、芳香族ポリアミドを縮重合により得る為の原料であればどの様なものでも使用でき、例えば、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド等を挙げることができ、また、これらを複合して使用することもできる。
【0012】
また、本発明で使用する芳香族ジアミン成分は、芳香族ポリアミドを縮重合により得る為の原料であればどの様なものでも使用でき、例えば、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、3、4‘オキシジフェニレンジアミン等を挙げることができ、また、これらを複合して使用することもできる。
【0013】
本発明でいう芳香族ポリアミドとは、1種又は2種以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、該芳香族基は2個の芳香環が酸素、硫黄又はアルキレン基で結合されたものであってもよい。また、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、メトキシ基、クロル基などのハロゲン基等が含まれていてもよい。さらには、これらアミド結合は限定されず、パラ型、メタ型のどちらでもよい。
【0014】
かかる芳香族ポリアミドの具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン・フェニルベンゾイミダゾールテレフタルアミドなどが挙げられる。
【0015】
本発明で使用する有機溶媒はN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルカプロラクタム(NMC)などを挙げることができる。 上記有機溶媒は単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。
【0016】
本発明で使用する無機アルカリは、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ性金属化合物を挙げることができる。
【0017】
無機アルカリは、その表面にカーボンナノチューブを固着させるため、固体である必要があり、その平均粒径は、500ミクロン未満であることが好ましい。さらに好ましくは、100ミクロン未満であることが好ましい。該粒子の平均粒径が小さい程、比表面積が増加するために、固着することのできるカーボンナノチューブは増加する。また、無機アルカリの中和反応性から考えても、粒径の大きなものは、使用するのが困難である。
【0018】
該芳香族ポリアミド溶液中に副生した塩化水素を中和する際、無機アルカリを該溶液中へ導入する方法としては、無機アルカリ粉末を直接添加しても良いし、有機溶媒を用いたスラリー状態のものを添加しても良く、また、上記方法に限定されるものではない。
【0019】
但し、本発明に使用する無機アルカリは、その全てに、カーボンナノチューブが固着されている必要はなく、一部の無機アルカリは、カーボンナノチューブと複合されていなくても、本発明の効果を阻害するものではない。さらに、本発明で使用するカーボンナノチューブは、その全てが無機アルカリに固着されている必要は無く、常法により、ポリマーへ導入することも可能で、これも、やはり、本発明を阻害するものでは無い。
【0020】
ここで言う常法とは、原料に対して乾式、または、湿式で導入する方法、重合溶媒に対してビーズミル等を用い湿式で導入した後、重合を実施する方法、重合後、ポリマードープに対しルーダーやミキサを使用し導入する方法、さらには、これらを組み合わせることにより導入する方法等がある。
【0021】
本発明で使用されるカーボンナノチューブは、炭素六角網面が円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造をした材料のことを言い、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。
【0022】
また部分的にカーボンナノチューブの構造を有している炭素材料も使用できる。また、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。さらには、本発明では、C60やC70に代表される炭素原子が球状またはチューブ上に閉じたネットワーク構造を形成したフラーレンをも使用することができる。
【0023】
カーボンナノチューブは、例えば炭素電極間にアーク放電を発生させ、放電用電極の陰極表面に成長させる方法、シリコンカーバイドにレーザービームを照射して加熱・昇華させる方法、遷移金属系触媒を用いて炭化水素を還元雰囲気下の気相で炭化する方法などによって製造することができる。製造方法の違いによって得られるカーボンナノチューブのサイズや形態は変わって来るが、いずれの形態のものも使用することができる。
【0024】
本発明において、芳香族ポリアミドに分散されるカーボンナノチューブの重量は、特に制限されるものでは無いが、無機アルカリに対する固着量の点、重合時の再凝集防止の点、繊維、フィルム、樹脂への成型性の点を考慮すると、ポリマーに対する重量比で、0.1重量%〜20重量%であることが好ましい。さらに好ましくは、0.3重量%〜10重量%であることが好ましい。
【0025】
本発明においては、無機アルカリの表面にカーボンナノチューブを固着させることが肝要であり、その固着方法は特に限定されるものではないが、機械的エネルギーを加えることにより、メカノケミカル的にナノレベルで結合させ、その界面で強固な結合を創成し、複合微粒子を創り出す技術等が知られている。さらには、プラズマエネルギー等により、カーボンナノチューブと芳香族ジクロライドの結合を、さらに、強固にすることも可能である。
【0026】
上述の、メカノケミカル的な分子レベルでの結合を創り出すことは、表面融合と呼ばれ、機械的エネルギーにより、メカノケミカル的に分子レベルで微粒子同士を結合させ、その界面で強固な結合を創成し、複合微粒子を創り出する技術である。表面融合のための設備の基本原理は、回転容器内に投入された粉体原料が、遠心力によりその内壁に押しつけられて固定され、曲率半径の異なるインナーピースとの間で強力な圧縮・剪断力を受ける。また、回転ロータ壁面のスリットを通してロータ外側に送られた粉体原料が、それに取り付けられた循環用ブレードによって、再び回転ロータ内に戻され,インナーピースから強力な力を受ける。このような粉体原料の3次元的な循環と効果的な圧縮・剪断処理が高速で繰り返されて、粒子複合化等の処理が行われる。
【0027】
上述の方法により得られたカーボンナノチューブが分散された芳香族ポリアミドは、次いで常法により芳香族ポリアミド繊維とされる。得られた繊維中には、カーボンナノチューブが高度に分散している。また、その引張強度は20cN/dtex以上、引張弾性率は500cN/dtex以上であることが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各特性は、以下の方法に従って評価した。
(1)カーボンナノチューブの分散状態
繊維断面を透過型電子顕微鏡を用いて観察し、20μm×10μmの視野中においてカーボンナノチューブが凝集している箇所の数を数えて、以下の基準で判定した。
○:カーボンナノチューブの凝集が見当たらない
△:カーボンナノチューブの凝集が3箇所以下
×:カーボンナノチューブの凝集物が4箇所以上
【0029】
[実施例1]
窒素を内部にフローしている攪拌槽に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、パラフェニレンジアミンと3,4‘ジアミノジフェニルエーテルとが当モルとなる様に秤量して投入し溶解させた。
【0030】
このジアミン溶液に、テレフタル酸ジクロライドを、ジアミン総モル量と略当モルとなるように秤量し投入した。反応終了後、カーボンナノチューブが表面に固着された水酸化カルシウムで中和し、カーボンナノチューブが高度に分散した芳香族ポリアミドドープを得た。この際、芳香族ポリアミドドープの濃度は、ドープ総重量に対して、5重量%となる様に、前記2種類の芳香族ジアミン、芳香族ジクロライド、及びカーボンナノチューブの固着量を変化させた。
【0031】
カーボンナノチューブを水酸化カルシウムへ固着させる際、使用した水酸化カルシウムの平均粒径は100μmであった。平均粒径は、水酸化カルシウム微粒子をイオン交換水中に0.3重量%となる様に分散させ、回折式粒度分布測定装置SALD−200V ERを使用し、粒度分布を測定することにより求めた。
【0032】
カーボンナノチューブの、水酸化カルシウムへの固着は、カーボンナノチューブと水酸化カルシウムとを予め窒素置換された、曲率半径の異なるインナーピースを備えた回転容器へ投入し、回転容器内に投入された粉体原料を、4000rpmの速度で15分間回転させて、回転ロータの遠心力によりインナーピースと回転容器内壁との隙間で強力な圧縮・せん断力を与え、水酸化カルシウム微粒子表面にカーボンナノチューブを凝集させることなく固着させた。この際、水酸化カルシウムへのカーボンナノチューブの固着量の調整は、それぞれの投入量割合を変化させることにより実施した。
【0033】
この様にして得られた、カーボンナノチューブが高度に分散した芳香族ポリアミドドープを、孔径0.3mm、孔数100ホールの紡糸口金から吐出し、エアーギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出して凝固した後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、500℃の温度下で10倍に延伸した後、巻き取ることにより、カーボンナノチューブが高度に分散した芳香族ポリアミド繊維(コポリパラフェニレン・3.4‘オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維)を得た。
得られた繊維の引張強度、引張弾性率(モジュラス)、及び繊維中のカーボンナノチューブの分散状態を表1に示す。
【0034】
[実施例2〜4]
実施例1において、カーボンナノチューブの添加量を表1に示す如く変化させた以外は実施例1と同様に実施した。
得られた繊維の引張強度、引張弾性率(モジュラス)、及び繊維中のカーボンナノチューブの分散状態を表1に示す。
【0035】
[比較例1]
実施例1において、カーボンナノチューブを添加しなかった以外は実施例1と同様に実施した。
得られた繊維の引張強度、引張弾性率(モジュラス)、及び繊維中のカーボンナノチューブの分散状態を表1に示す。
【0036】
[比較例2]
実施例1において、水酸化カルシウムにカーボンナノチューブを固着させず、NMPに対して分散させた後、芳香族ポリアミドドープに全量をブレンドした以外は実施例1と同様に実施した。
【0037】
尚、この際、カーボンナノチューブのNMPへの分散は、浅田鉄工株式会社製ビーズミル(Nano Grain Mill)を使用し、2重量%のカーボンナノチューブ/NMP分散体を調整した。メディアとして、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。また、該カーボンナノチューブ/NMP分散体の芳香族ポリアミドドープへのブレンドは、浅田鉄工株式会社製プラネタリミキサを使用して実施した。
得られた繊維の引張強度、引張弾性率(モジュラス)、及び繊維中のカーボンナノチューブの分散状態を表1に示す。
【0038】
[比較例3]
実施例1において、水酸化カルシウムにカーボンナノチューブを固着させず、上記のプラネタリミキサを使用して、芳香族ポリアミドドープに全量をブレンドした以外は実施例1と同様に実施した。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、カーボンナノチューブの分散性が大きく改善され、それによって引張強度、及び引張弾性率などの機械的特性が可及的に向上された芳香族ポリアミド及びそれからなる繊維が提供されるので、産業資材用途や機能性衣料用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブが分散された芳香族ポリアミドであって、該芳香族ポリアミドは、芳香族ジアミンと、芳香族ジカルボン酸誘導体とを有機溶媒中で縮重合した後、該芳香族ポリアミド溶液中に副生する塩化水素を中和する際、表面にカーボンナノチューブが固着された無機アルカリで中和させることにより得られた芳香族ポリアミドであることを特徴とする芳香族ポリアミド。
【請求項2】
芳香族ポリアミドが、パラ型芳香族ポリアミドである請求項1記載の芳香族ポリアミド。
【請求項3】
芳香族ポリアミドがコポリパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項2記載の芳香族ポリアミド。
【請求項4】
芳香族ポリアミドがポリパラフェニレンテレフタルアミドである請求項2記載の芳香族ポリアミド。
【請求項5】
芳香族ポリアミドドープを紡糸することにより得られる芳香族ポリアミド繊維であって、該芳香族ポリアミドが請求項1〜4のいずれか1項に記載の芳香族ポリアミドであることを特徴とする芳香族ポリアミド繊維。
【請求項6】
その引張強度が20cN/dtex以上、引張弾性率が500cN/dtex以上である請求項5記載の芳香族ポリアミド繊維。

【公開番号】特開2006−232931(P2006−232931A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47554(P2005−47554)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】