説明

芳香族ポリカーボネート樹脂からなる樹脂スタンパ

【課題】精密転写性と離型性と離型時の強度と紫外光の透過性及びリサイクル性に優れた、UVナノインプリントに好適な、樹脂スタンパを提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂からなる樹脂スタンパであって、特定の芳香族ポリカーボネートおよび2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン成分からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、その割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として20mol%以上で、比粘度が0.2〜0.4、蒸留水との接触角が85〜95°と言う条件を同時に具備する硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UVナノインプリント技術を用いた製品の製造に好適な樹脂スタンパに関する。中でも本発明は、光学多層記録媒体の製造に好適な樹脂スタンパに関する。より詳しくは、本発明は、特定構造の繰り返し単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂から形成された樹脂スタンパであって、成形時の精密転写性、硬化性樹脂組成物層からの離型性、に優れ、かかる特性に加えて、スタンパ樹脂としての離型時の強度や紫外光(UV光)の透過性及び使用後のリサイクル性にも優れた樹脂スタンパを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
高精度なパターン形成を低コストで行うための技術として、ナノインプリント技術が知られている。ナノインプリント技術は、基板上に形成するパターンと凹凸が逆のスタンパを、該基板表面上に形成された硬化性樹脂組成物層に対して型押しすることで、所定のパターンを転写する技術である。特に、硬化性樹脂組成物としてUV硬化性樹脂を用いたUVナノインプリント技術は、加熱が不要であり、室温でのパターン形成が可能であるためパターンの変形が少なく、透明の型を使用することで基板と型の位置合わせが容易との利点がある。かかるナノインプリント技術は、半導体デバイスの回路、コイル・アンテナ類、マイクロ流体デバイス、フィルム型光導波路、バイオデバイス、モスアイパターン、並びにフォトニック結晶デバイス等の形成手法として期待されている。また、DVDやブルーレイディスクに代表される光ディスクの光学多層記録媒体における光透過性中間層を形成する際にも同様な手法がなされている。かかる点について以下により詳細を説明する。
【0003】
光ディスクの分野においては、ハイビジョン映像等の情報技術における進展に伴い、情報記録媒体の大容量化が求められ、種々の方式が提案されている。その中でも、2層以上の記録面を有する多層記録媒体は従来の光ディスクと同サイズでありながら大容量化が達成できる技術として様々な検討が行われている。このような記録媒体の中でも光学多層記録媒体としては、図1のような断面を有する媒体構造が一般的に用いられている。図1では片面、2層タイプの書き換え可能な光学記録媒体を示す。
【0004】
図中、ポリカーボネート樹脂やガラスあるいは金属等の素材からなる基板1の片面に第1相変化記録層2が設けられている。基板1の第1相変化記録層2形成側には、螺旋状、あるいは、同心円状に記録ピット形成用凹凸パターンが形成されており、この基板1の凹凸部に該当する部分の第一相変化記録層2は凹凸パターンが形成されている。第1相変化記録層2の上には光透過性素材(通常は樹脂)からなる光透過性中間層3、第2相変化記録層4、及び、カバー層5がこの順で形成されている。光透過性中間層3の第2相変化記録層4側の面には螺旋状に、あるいは、同心円状に記録ピット形成用凹凸パターンが形成されており、この基板1の凹凸部に該当する部分の第2相変化記録層4は凹凸パターンが形成されている。第2相変化記録層4は硬化性樹脂組成物、または、ポリカーボネート樹脂等の素材からなるカバー層5によって保護されている。
【0005】
このような光学多層記録媒体は、図2、図3のような製造プロセスにより製造されている。
まず、樹脂成形やエッチングにより形成された記録ピット形成用凹凸パターンを片面に有する基板1(図2(a)参照)上に第1相変化記録層2を形成し(図2(b)参照)、その上に未硬化の硬化性樹脂組成物3aをスピンコートなどの手段により塗布する。その後、硬化性樹脂組成物3aが未硬化状態でスタンパ6を積層する(図2(c)参照)。
【0006】
スタンパ6はガラス、あるいは、ポリカーボネート、非晶性ポリオレフィン等の樹脂からなり、光を透過する。一方、第1相変化記録層2は、金属反射層を有するため、全くあるいはほとんど光を透過しない。
【0007】
次いで図3(a)に示すように未硬化の硬化性樹脂組成物にその硬化に適した波長の光をスタンパ6を透過して照射することで、光透過性中間層3を形成する。その後、図3(b)に示すようにスタンパ6を取り去り、光透過性中間層3上に第2相変化記録層4及びカバー層5をこの順に形成する。
【0008】
このような光学多層記録媒体の製造方法において、硬化性樹脂組成物3aが硬化して形成された光透過性中間層3とスタンパ6との離型性、並びに離型時のスタンパの強度が問題となる。例えば、ポリカーボネート樹脂以外の公知の技術として、非晶性ポリオレフィンを用いた樹脂スタンパが知られている。該樹脂スタンパは、硬化性樹脂組成物層からの離型に優れているが、樹脂スタンパは数回の繰り返し使用後に破棄するため、非晶性ポリオレフィンを用いた場合、高コスト並びにリサイクル性が劣る点で使用が困難であった。一方光ディスク基板材料として使用されているポリカーボネート樹脂からなるスタンパは、ニッケル電鋳製のマザースタンパを利用した成形により多量複製が可能で、製造プロセスの低コスト化ができる。さらにポリカーボネート樹脂は、多くの光学記録媒体の基板や、その難燃性他の優れた性質を利用して各種の筐体などに幅広く利用され、更には縮重合系のポリマーであることからケミカルリサイクルも実用化されている。故に幅広い再生方法の選択肢があり、樹脂スタンパの如き極めて寿命の短い樹脂製品への適用性に優れている。しかしながら、概して硬化性樹脂組成物層との密着性が高いことから、離型が困難であるとの問題がある。
【0009】
かかる離型性の改良のため、ポリカーボネート樹脂からなるスタンパに離型剤を塗布する方法が考えられる。しかし、前記の方法は、離型剤を塗布する工程が増え塗布する過程でごみや埃などを巻き込んでしまった場合、忠実な凹凸部形成ができない等の欠点がある。
【0010】
また、特定の末端基構造を有するポリカーボネート樹脂に汎用される脂肪酸エステル系離型剤を配合した樹脂スタンパ(特許文献1参照)、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキン共重合体からなる樹脂スタンパ(特許文献2参照)、汎用されるポリカーボネート樹脂にヒンダードフェノール化合物を配合した樹脂スタンパ(特許文献3参照)、汎用されるポリカーボネート樹脂に亜リン酸エステル化合物を配合した樹脂スタンパ(特許文献4参照)が公知である。しかしながら、いずれの方法も硬化性樹脂組成物からの離型性は未だ不十分である。
【0011】
尚、上記は光学多層記録媒体を一例として説明したが、基板上に、硬化性樹脂組成物を積層し、該硬化性樹脂組成物をスタンパにより押圧して凹凸パターンが転写された構造を有する各種の製品は、基本的に同様の手法を用いて製造される。基板は、用途により平坦表面およびパターン化された表面を有することができ、基板表面は、有機物および無機物のいずれであってもよい。かかる製造において、上記スタンパにおける課題は程度の差はあるものの共通であり、殊に離型性の問題は、凹凸形状が微細であるほど、またそのアスペクト比が高くなるほど重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−096117号公報
【特許文献2】特開2009−096924号公報
【特許文献3】特開2009−193646号公報
【特許文献4】特開2009−193647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、成形時の精密転写性、硬化性樹脂組成物層からの離型性に優れた樹脂スタンパを提供することにある。本発明の更なる目的は、かかる特性に加えて、スタンパ樹脂としての離型時の強度や紫外線光(UV)の透過性及びリサイクル性にも優れた樹脂スタンパを提供することにある。更に本発明の目的は、殊にUVナノインプリント技術に好適な硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従来ポリカーボネート樹脂は成形時の精密転写性、硬化性樹脂組成物層からの離型性に優れず、樹脂スタンパには不向きであるとの認識があるが、本発明者らは、驚くべきことに特定構造の繰り返し単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることにより、上記目的を達成する樹脂スタンパが得られることを見出した。かかる知見に基づき更に検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。かくして本発明によれば、下記構成1〜6が提供される。
【0015】
(構成1):芳香族ポリカーボネート樹脂からなる硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパであって、芳香族ポリカーボネートが、以下の(A)〜(C)
(A)主たる芳香族ジヒドロキシ成分が、下記式[α]で示される成分(成分a)および2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン成分(成分b)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、成分aの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として20mol%以上であること、
(B)比粘度が0.2〜0.4の範囲にあること、
(C)蒸留水との接触角が85〜95°の範囲にあること
を同時に具備することを特徴とする硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。
【0016】
【化1】

(式(α)中、Rは水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rは炭素数2〜8のアルキル基を表す。)
【0017】
(構成2):成分aが2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン成分、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン成分、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン成分である上記構成1に記載の硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。
(構成3)成分aの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として80mol%以上である上記構成1または2に記載の硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。
(構成4):成分aの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として20〜90モル%であり、成分bの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として10〜80モル%である上記構成1〜構成3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。
(構成5):樹脂スタンパの表面に微細な凹凸パターンを有し、該凸部の高さまたは凹部の深さが10〜400nm、凹凸部のピッチが0.01〜1.0μmである上記構成1〜構成4のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。
(構成6):樹脂スタンパは、マザースタンパを備えた金型キャビティ内に溶融状態のC成分を充填するかもしくは開いた型に備えられたマザースタンパ上に溶融状態のC成分を塗布することにより、該マザースタンパを転写して製造されてなる上記構成1〜構成6のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。
【発明の効果】
【0018】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂からなる樹脂スタンパは、成形時の精密転写性、硬化性樹脂組成物層からの離型性に優れる。さらに、紫外光(UV)の透過性にも優れるので特に、光学多層記録媒体の製造方法に好適である。殊に本発明は、特定構造の繰り返し単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることより、硬化性樹脂組成物層からの離型性が優れていることを見出したものであり、光学多層記録媒体の製造やモスアイパターンやバイオデバイス等の精密転写が必要な光学素子等の幅広い分野に利用され、さらにスタンパ樹脂としての離型時の強度や紫外光(UV)の透過性及びリサイクル性にも優れる。したがって、その奏する産業上の効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】片面2層構造の書き換え可能な光学記録媒体の層構成概略を説明する図である。
【図2】該2層構造光記録媒体の製造プロセスのうち、(a)記録ピット形成用凹凸パターンを片面に有する基板上に、(b)第1相変化記録層を形成し、(c)該層上に未硬化の硬化性樹脂組成物をスピンコート法で塗布し、該樹脂に樹脂スタンパを積層し押圧する工程の概略を説明する図である。
【図3】該2層構造光記録媒体の製造プロセスのうち、(a)樹脂スタンパを押圧後、UV光を照射して硬化性樹脂組成物を硬化させ、(b)樹脂スタンパを剥離し、(c)更に該光硬化性樹脂組成物層上に第2相変化記録層を形成し、(d)カバー層を形成する工程の概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を以下に詳細に説明する。
<芳香族ポリカーボネート樹脂について>
本発明の樹脂スタンパとして使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、主たる芳香族ジヒドロキシ成分が、下記式[α]で示される成分(成分a)および2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン成分(成分b)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、成分aの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として20mol%以上で構成されたポリカーボネート樹脂である。
【0021】
【化2】

(式(α)中、Rは水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rは炭素数2〜8のアルキル基を表す。)
【0022】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂を構成する前記式(α)中のRの炭素数は、好ましくは、2〜5である。
【0023】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂を構成する前記成分aの具体例としては、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン等が挙げられ二種以上併用してもよい。その中でも成分aが2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタンのいずれかに選択される芳香族ヒドロキシ成分であり、且つ成分bが2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンがよく、更に、成分aが2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタンが特に好ましい。
【0024】
本発明のスタンパに用いる芳香族ポリカーボネートの中でも成形時の精密転写性、硬化性樹脂組成物層からの離型性の観点からは、前記成分aと成分bの合計の割合が、全芳香族ジヒドロキシ化合物のモル数を基準にして20モル%以上、好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。
【0025】
この前記成分aの割合が20モル%未満の場合、得られた硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパは、成形時の精密転写性あるいは硬化性樹脂組成物からの離型性のいずれかの性質が不満足となり、これら特性を全て満足する樹脂スタンパは得られない。なお、前記成分aは、100モル%でもよい。
【0026】
また、離型時の強度の観点からは、前記成分bを共重合したものが好ましく、特に成分aの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として20〜90モル%であり、成分bの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として10〜80モル%である共重合ポリカーボネート樹脂は硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパとして特に好ましい。
【0027】
前記共重合ポリカーボネート樹脂の好ましい態様は、で成分aの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として30〜80モル%、さらに40〜70モル%であり、成分bの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として20〜70モル%、さらに30〜60モル%である。
【0028】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂において、成分aおよび成分bの合計が全芳香族ジヒドロキシ成分の少なくとも80モル%が必要である。さらに、他のジヒドロキシ成分(成分c)を本発明の効果を損なわない範囲内で、例えば全芳香族ジヒドロキシ成分当り20モル%以下、好ましくは10モル%以下含有していても特に差支えない。かかる成分cとしては、通常芳香族ポリカーボネートのジヒドロキシ成分として使用されている、成分aおよび成分b以外の成分であればよく、例えばハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、4,4’−ビス(2,6−ジメチル)ジフェノール、2,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチル−3−メトキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2−フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2−クロロフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)デカン、および1,1−ビス(2,3−ジメチルー4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3メチルフェニル)シクロヘキサン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドおよびビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられる。
【0029】
本発明において芳香族ポリカーボネート樹脂は、ポリオルガノシロキサン単位を含有する構成単位を、少量含むこともできる。かかるポリオルガノシロキサン単位を含有する構成単位を含有するポリカーボネートは、好ましくは、下記一般式[β]で表される構成単位からなるポリオルガノシロキサン部を分子内に有する共重合体を挙げることができる。
【0030】
【化3】

(ここで、R、R、RおよびRは炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基を示し、同一でも異なっていてもよく、好ましくはメチル基である。RおよびRは脂肪族または芳香族化合物からの二価の有機残基を示し、好ましくは、o−アリルフェノール残基、p−ヒドロキシスチレン残基、4−アリル−2−メトキシフェノール残基、およびイソプロペニルフェノール残基である。)
【0031】
上記の中でも、特にo−アリルフェノール残基が好ましい。また上記式[β]におけるnはカッコ内の構成単位の重合度を示すが、かかる構成単位は2種以上の混合物であってもよい。かかるnの範囲はその数平均値において1〜500、好ましくは5〜200、より好ましくは10〜70、更に好ましくは15〜30である。尚、各成分n数の上限は、好ましくは500、より好ましくは200、更に好ましくは70である。
【0032】
本発明の樹脂スタンパとして用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造するそれ自体公知の反応手段、例えば芳香族ジヒドロキシ成分にホスゲンや炭酸ジエステル等のカーボネート前駆物質を反応させる方法により製造される。次にこれらの製造方法について基本的な手段を簡単に説明する。
【0033】
カーボネート前駆物質として例えばホスゲンを使用する反応では、通常酸結合剤および溶媒の存在下に反応を行う。酸結合剤としては例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。溶媒としては例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために例えば第三級アミンまたは第四級アンモニウム塩等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は数分〜5時間である。
【0034】
カーボネート前駆物質として炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応は、不活性ガス雰囲気下所定割合の芳香族ジヒドロキシ成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点等により異なるが、通常120〜300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。また反応を促進するために通常エステル交換反応に使用される触媒を使用することもできる。前記エステル交換反応に使用される炭酸ジエステルとしては、例えばジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート等が挙げられる。これらのうち特にジフェニルカーボネートが好ましい。
【0035】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、前記したように芳香族ジヒドロキシ成分として、前記一般式[α]または[α]および成分bで表される芳香族ジヒドロキシ成分と他の芳香族ジヒドロキシ成分との混合物を使用し、それ自体公知のポリカーボネート形成の反応に従って製造することができる。
【0036】
その重合反応において、末端停止剤として通常使用される単官能フェノール類を使用することができる。殊にカーボネート前駆物質としてホスゲンを使用する反応の場合、単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られた芳香族ポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。
【0037】
かかる単官能フェノール類としては、芳香族ポリカーボネート樹脂の末端停止剤として使用されるものであればよく、一般にはフェノールあるいは低級アルキル置換フェノールであって、下記一般式[γ]で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0038】
【化4】

(式中、Aは炭素数1〜9の直鎖または分岐のアルキル基あるいはアリールアルキル基であり、rは1〜5、好ましくは1〜3の整数である。)
【0039】
前記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。
これら単官能フェノールは、得られた芳香族ポリカーボネート樹脂の全末端に対して少なくとも5モル%、好ましくは少なくとも10モル%末端に導入されることが望ましい。
【0040】
本発明の樹脂スタンパとして用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂はその樹脂の0.7gを100mlの塩化メチレンに溶解し、20℃で測定した比粘度が0.2〜0.4の範囲のものであり、好ましくは0.25〜0.35の範囲のものである。比粘度が0.2未満では成形品が脆くなり、0.4より高くなると溶融流動性が悪く、精密転写性が悪化し、良好な樹脂スタンパが得られ難くなる。
【0041】
本発明におけるポリカーボネートの比粘度(ηSP)は、オストワルド粘度計を用いて次式にて算出した数値である。
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
【0042】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂は、常温、常圧で厚み2mmの平滑平板を用いて測定された蒸留水の接触角が85〜95°である。かかる下限未満では硬化性樹脂組成物との離型性が劣る。また、上記上限はベースとなるポリカーボネート樹脂表面の接触角を考慮すると適切である。このような接触角は、成分aと成分bから構成される芳香族ポリカーボネート樹脂中の成分aの割合を増やすことや、成分aとして式(α)のRまたはRのアルキル鎖長を長くすることで高くすることができる。
【0043】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂は、その紫外線透過光量が50〜80%の範囲である。ここで紫外線透過光量とは、硬化性樹脂組成物の硬化に汎用されるUV−A領域における透過光量を表す指標である。100%の紫外線透過光量とは、横軸に波長を、縦軸に光線透過率を取ったとき、横軸:300〜400nmの範囲、縦軸:0〜100%の範囲で囲まれる長方形の面積といえる。よって紫外線透過光量とは、横軸:315〜400nmの範囲における紫外線透過率の曲線、両縦軸、および横軸により囲まれる面積のかかる長方形の面積に対する割合(%)となる。紫外線透過光量は、好ましくは55〜75%、より好ましくは60〜72%である。かかる下限未満では紫外線透過性が劣るため硬化性樹脂組成物の硬化時間を長くなり生産性に劣る。上記上限の紫外線透過光量は、生産性に十分である一方、ベースとなるポリカーボネートの紫外線透過光量を考慮すると適切である。本発明の好適な樹脂スタンパが有する、かかる紫外線透過光量の特性は、特にメタルハライドランプにより硬化される硬化樹脂組成物に対して好適である。このような紫外線透過光量は、成分aとしてRまたはRとして鎖長の長いものを選択し、成分aと成分bから構成される芳香族ポリカーボネート樹脂中の成分aの割合を増やすこと、すなわち芳香族ポリカーボネート中の芳香族成分の割合を減少させることで高められる。
【0044】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が100℃〜180℃であることが好ましい。さらには110〜170℃であることが好ましい。Tgが100℃以下では、樹脂スタンパの耐熱性が低下するため好ましくない。本発明におけるガラス転移温度とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を使用し、JISK7121に準拠した昇温速度20℃/minで測定し得られるものである。
【0045】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂は、その20gを塩化メチレン1Lに溶解した溶液をハイアックロイコ社製液体パーティクルカウンターモデル4100を用いたレーザーセンサー法にて散乱光をラテックス粒子の散乱光に換算する方法で求めた径0.5μm以上の未溶解粒子が該ポリカーボネート樹脂1g当り25,000個以下且つ1μm以上の未溶解粒子が500個以下であることが好適である。0.5μm以上の未溶解粒子が25,000個を超えるか、または1μm以上の未溶解粒子が500個を超えると樹脂スタンパの凹凸形状を硬化性樹脂組成物に転写する際に悪影響を及ぼす場合がある。さらに好ましくは、0.5μm以上の未溶解粒子が20,000個以下、且つ1μm以上の未溶解粒子が200個以下である。また、10μm以上の未溶解粒子は実質的に存在しないことが好ましい。
【0046】
<芳香族ポリカーボネート樹脂以外の成分>
本発明の樹脂スタンパは、本発明の効果を損なわない範囲で、離型剤、熱安定剤、および流動改質剤などのそれ自体公知の機能剤を含有できる。
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂には、必要に応じて燐系熱安定剤を加えることができる。燐系熱安定剤としては、亜燐酸エステルおよび燐酸エステルが好ましく使用される。亜燐酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス( 2 ,4 − ジ− t e r t − ブチルフェニル) ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス( 2 ,6 − ジ− t e r t − ブチル− 4 − メチルフェニル) ペンタエリスリトールジホスファイト、2 ,2 − メチレンビス(4 ,6 − ジ− t e r t − ブチルフェニル) オクチルホスファイト、ビス( ノニルフェニル) ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2 ,4 − ジ− t e r t − ブチルフェニル) ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス( 2 ,4 − ジ− t e r t − ブチルフェニル) − 4 ,4 − ジフェニレンホスホナイト等の亜燐酸のトリエステル、ジエステル、モノエステルが挙げられる。これらのうち、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス( 2 ,4− ジ− t e r t − ブチルフェニル) ホスファイトが好ましい。
【0047】
一方、熱安定剤として使用される燐酸エステルとしては、例えばトリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート等が挙げられ、なかでもトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートが好ましい。
前記燐系熱安定剤は、単独で使用してもよく、また二種以上を組み合わせて使用してもよい。燐系熱安定剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂に基づいて0.0001〜0.05重量%の範囲で使用するのが適当である。
【0048】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂には、その成形加工時の熱安定性、および耐熱老化性を向上させることを主たる目的としてヒンダードフェノール系安定剤を配合することができる。かかるヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、α−トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェル)プロピオネート、2−tert−ブチル−6−(3’−tert−ブチル−5’−メチル−2’−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネートジエチルエステル、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2’−ジメチレン−ビス(6−α−メチル−ベンジル−p−クレゾール)2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ブチリデン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−へキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1,−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4’−ジ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリ−チオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N’−ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス2[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアヌレート、およびテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが例示される。上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤の量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、好ましくは0.0001〜1重量部、より好ましくは0.001〜0.1重量部、さらに好ましくは0.005〜0.1重量部である。安定剤が上記範囲よりも少なすぎる場合には良好な安定化効果を得ることが難しく、上記範囲を超えて多すぎる場合は、逆に耐衝撃性等の物性低下や、マザースタンパ、金型汚染を起こす場合がある。
【0050】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂には、適宜上記ヒンダードフェノール系酸化防止剤以外の他の酸化防止剤を使用することもできる。かかる他の酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、およびグリセロール−3−ステアリルチオプロピオネートなどが挙げられる。これら他の酸化防止剤の使用量は、ポリカーボネート(A成分)100重量部に対して0.001〜0.05重量部が好ましい。
【0051】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂は、優れた離型性を発現するが、本発明の効果を損なわない範囲で、離型剤を併用しても良い。離型剤としては、例えば、シリコーン化合物、脂肪酸エステル、ポリオレフィン系ワックス(ポリエチレンワックス、1−アルケン重合体など。酸変性などの官能基含有化合物で変性されているものも使用できる)、フッ素化合物(ポリフルオロアルキルエーテルに代表されるフッ素オイルなど)、パラフィンワックス、蜜蝋などを挙げることができる。これらの中でも入手の容易さ、離型性および透明性の点からシリコーン化合物、及び脂肪酸エステルが好ましい。しかしながら、これらの離型剤は入れ過ぎると成形時の金型、マザースタンパ汚染やブリードアウトによる精密転写性が低下する等の問題が起き易い。そのため、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、好ましくは0.005〜0.2重量部、より好ましくは0.007〜0.1重量部、更に好ましくは0.01〜0.06重量部である。含有量が上記範囲の下限未満では、離型性の改良効果が得られず、上限を超える場合、金型表面、またはマザースタンパの汚染などの悪影響を与えやすい。
【0052】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂は流動改質剤を含むことができる。かかる流動改質剤としては、スチレン系オリゴマー、ポリカーボネートオリゴマー(高度分岐型、ハイパーブランチ型および環状オリゴマー型を含む)、ポリアルキレンテレフタレートオリゴマー(高度分岐型、ハイパーブランチ型および環状オリゴマー型を含む)高度分岐型およびハイパーブランチ型の脂肪族ポリエステルオリゴマー、テルペン樹脂、並びにポリカプロラクトン等が好適に例示される。かかる流動改質剤は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部当たり、0.1〜30重量部が適切であり、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは2〜15重量部である。特にポリカプロラクトンが好適であり、組成割合は芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部あたり、特に好ましくは2〜7重量部である。ポリカプロラクトンの分子量は数平均分子量で表して1,000〜70,000であり、1,500〜40,000が好ましく、2,000〜30,000がより好ましく、2,500〜15,000が更に好ましい。
【0053】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂は、他にも、ブルーイング剤、蛍光染料、帯電防止剤、および染顔料などの各種の添加剤を含有することができる。これらは、樹脂スタンパおよび該スタンパを用いた部材製造プロセスに支障のない剤および配合量を適宜選択して含有することができる。
【0054】
ブルーイング剤は樹脂材料中0.05〜3.0ppm(重量割合)含んでなることが好ましい。ブルーイング剤としては代表例として、バイエル社のマクロレックスバイオレットB及びマクロレックスブルーRR、並びにクラリアント社のポリシンスレンブルーRLSなどが挙げられる。
【0055】
蛍光染料(蛍光増白剤を含む)としては、例えば、クマリン系蛍光染料、ベンゾピラン系蛍光染料、ペリレン系蛍光染料、アンスラキノン系蛍光染料、チオインジゴ系蛍光染料、キサンテン系蛍光染料、キサントン系蛍光染料、チオキサンテン系蛍光染料、チオキサントン系蛍光染料、チアジン系蛍光染料、およびジアミノスチルベン系蛍光染料などを挙げることができる。蛍光染料(蛍光増白剤を含む)の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.0001〜0.1重量部が好ましい。
【0056】
<芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造について>
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造に当たっては、その製造方法は特に限定されるものではなく公知の方法が利用できる。最も汎用される方法として、芳香族ポリカーボネート樹脂と、更に必要に応じて添加剤を予備混合した後、押出機に投入して溶融混練を行い、押出されたスレッドを冷却し、ペレタイザーにより切断して、ペレット状の成形材料を製造する方法が挙げられる。
【0057】
上記方法における押出機は単軸押出機、および二軸押出機のいずれもが利用できるが、生産性や混練性の観点からは二軸押出機が好ましい。かかる二軸押出機の代表的な例としては、ZSK(Werner&Pfleiderer社製、商品名)を挙げることができる。同様のタイプの具体例としてはTEX((株)日本製鋼所製、商品名)、TEM(東芝機械(株)製、商品名)、KTX((株)神戸製鋼所製、商品名)などを挙げることができる。押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部手前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。
【0058】
更に添加剤は、独立して押出機に供給することもできるが、前述のとおり樹脂原料と予備混合することが好ましい。かかる予備混合の手段には、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、および押出混合機などが例示される。より好適な方法は、例えば原料樹脂の一部と添加剤とをヘンシェルミキサーの如き高速攪拌機で混合してマスター剤を作成した後、かかるマスター剤物を残る全量の樹脂原料とナウターミキサーの如き高速でない攪拌機で混合する方法である。
【0059】
押出機より押出された樹脂組成物は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。更にかかるペレットの製造においては、光学ディスク用ポリカーボネート樹脂において既に提案されている様々な方法を用いて、ペレットの形状分布の狭小化、ミスカット物の更なる低減、運送または輸送時に発生する微小粉の更なる低減、並びにストランドやペレット内部に発生する気泡(真空気泡)の低減を行うことが好ましい。ミスカットの低減には、ペレタイザーでの切断時のスレッドの温度管理、切断時のイオン風の吹き付け、ペレタイザーのすくい角の適正化、および離型剤の適切な配合などの手段、並びに切断されたペレットと水との混合物を濾過してペレットと水およびミスカットとを分離する方法などが挙げられる。その測定方法の一例は例えば特開2003−200421号公報に開示されている。これらの処方により成形のハイサイクル化、およびシルバーの如き不良発生割合の低減を行うことができる。
【0060】
本発明の成形材料におけるミスカット量は、好ましくは10ppm以下、より好ましくは5ppm以下である。ここで、ミスカットとは、目開き1.0mmのJIS標準篩を通過する所望の大きさのペレットより細かい粉粒体を意味する。ペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱(楕円柱を含む)であり、かかる円柱の直径は好ましくは1.5〜4mm、より好ましくは2〜3.5mmである。楕円柱において長径に対する短径の割合は、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上である。一方、円柱の長さは好ましくは2〜4mm、より好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0061】
<樹脂スタンパの形状について>
本発明の樹脂スタンパは、表面に形成された微細な凹凸パターンの該凸部の高さまたは凹部の深さが10〜400nm、凹凸部のピッチが0.01〜1.0μmであることが好ましい。本発明の樹脂スタンパは、かかる微細な凹凸パターンを精密に転写するのに良好な離型性を有する。該凸部の高さまたは凹部の深さの上限は、より好ましくは200nm、更に好ましくは100nmであり、かかる下限は、より好ましくは20nm、更に好ましくは30nmである。凹凸部のピッチの上限は、より好ましくは0.5μm、更に好ましくは0.4μmであり、かかる下限は、より好ましくは0.1μm、更に好ましくは0.2μmである。
【0062】
また、本発明の樹脂スタンパの厚みは特に限定されないが、好ましくは0.3〜1.5mm、より好ましくは0.4〜1.0mm、更に好ましくは0.5〜0.8mmの範囲である。樹脂スタンパは、上述のように使用寿命が短いため、できる限り薄い方が樹脂材料を節約でき好ましいものの、あまりに薄いとスタンパの生産効率が低下しやすい。更に樹脂スタンパの厚さがこの範囲にあると、樹脂スタンパが適度な柔軟性を有するために樹脂スタンパを硬化樹脂組成物層から離型する際に、樹脂スタンパを変形させながら引き剥がすことができるので、離型が容易かつ、離型強度に優れ、積層体の表面を傷つけにくいので好ましい。
【0063】
<樹脂スタンパの製造について>
本発明の樹脂スタンパは、マザースタンパの凹凸パターンを各種の方法で転写して製造することができる。かかる転写方法としては、第1にいわゆるホットエンボス法や熱ナノンイプリント法と称される熱プレス法(以下“方法−I”と称することがある)が、第2に射出成形(射出圧縮成形を含む)に代表される溶融転写法(以下“方法−II”と称することがある)が好適に例示される。上記方法−Iは、生産性の高いシート状成形体を利用できる利点はあるが、全体として工数が増える欠点がある。上記方法−IIは、ペレット形状の如き樹脂組成物から直接に樹脂スタンパが製造される点で効率的である。特に射出成形の適用は製造効率が高く好ましい。尚、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、汎用されるポリカーボネート樹脂に比較して、良好な離型性を有することから、上記樹脂スタンパ製造方法のいずれにおいても、良好な転写性およびその形状保持性を有する。上記樹脂スタンパ製造方法において使用されるマザースタンパは、シリコンモールド、SiC、石英、GaAs、ダイヤモンド、ガラス、並びにアルミニウムおよびチタン(これらの陽極酸化処理品を含む)などから作成できる。
【0064】
成形工程での環境は、本発明の目的から考えて、可能な限りクリーンであることが好ましい。また、成形に供する材料を十分乾燥して水分を除去することや、溶融樹脂の分解を招くような滞留を起こさないように配慮することも重要となる。
【0065】
以下、上記樹脂スタンパ製造方法について詳細に説明する。
(方法−1)
方法−1は、(1)芳香族ポリカーボネート樹脂からなる基材シートを準備する工程、(2)該基材シートの内、少なくともマザースタンパの凹凸パターンを転写する表面を軟化する工程、(3)かかる軟化された表面をマザースタンパに押圧して該マザースタンパの凹凸パターンを写し取る工程、並びに(4)凹凸パターンの転写された基材シートを冷却した後、マザースタンパから離型し、樹脂スタンパを回収する工程からなる。
【0066】
ここで基材シートは、厚みムラが低減されていることが好ましく、かかる厚みムラの範囲としては、好ましくは±5μmの範囲、より好ましくは±3μmの範囲、更に好ましくは±2μmの範囲である。また該基材シートは、5μm以上の異物が100個/g以下であることが好ましい。上記好ましい厚みムラを有するシートの製造は、例えば特開2006−277914号公報および特開2007−141408号公報に記載された製造方法に従い適宜条件を調整することにより製造することができる。
【0067】
工程(1)および(3)は、従来公知の熱ナノインプリント法が適用できる。軟化温度は対象となる樹脂組成物のガラス転移温度Tg(℃)に対して、好ましくはTg+5(℃)〜Tg+50(℃)の範囲、より好ましくはTg+10(℃)〜Tg+40(℃)の範囲である。ここでTgはJISK7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。基材シートの加熱は、該基材シートと、スタンパもしくはスタンパを備えた型のいずれかと接触させ、かかるスタンパもしくは型の加熱によりなされることが好ましい。スタンパもしくは型の加熱は、高温媒体の流通、電気ヒーター、誘電加熱、超音波加熱、および赤外線加熱などの方法により行うことができる。赤外線加熱は、特開2008−188953号公報に開示された如く、スタンパを通して赤外線照射される方法で行うこともできる。
【0068】
マザースタンパへの押圧の圧力は、好ましくは1〜20MPa、より好ましくは3〜15MPa、更に好ましくは4〜10MPaである。かかる押圧においては、系内を減圧することができる。また、マザースタンパへの濡れ性の改善、および樹脂の可塑化の促進を目的として、亜臨界および超臨界の流体を含浸させた状態で押圧し、その後該流体をガス化する方法を選択してもよい。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、かかる超臨界流体、殊に可塑性の良好な超臨界炭酸ガスの含浸性に優れる点で、かかる方法を適用し易い特徴も有する。
【0069】
(方法−2)
方法−2は、(1)芳香族ポリカーボネート樹脂を溶融状態とする工程、(2)マザースタンパを備えた金型キャビティ内に溶融状態のC成分を充填するかもしくは開いた型に備えられたマザースタンパ上に溶融状態のC成分を塗布する工程、(3)溶融状態のC成分をマザースタンパに押圧して該マザースタンパの凹凸パターンを写し取る工程、並びに(4)凹凸パターンの転写された成形品を冷却した後、マザースタンパから離型し樹脂スタンパを回収する工程からなる。
【0070】
(1)における溶融状態にする方法は、通常射出成型機や押出成形機に備えられたスクリュー式可塑化装置が好適に利用される。(2)における金型キャビティ内への溶融樹脂組成物の充填は、通常の射出成形法が好適に利用でき、特に射出圧縮成形が好ましい。かかる射出圧縮成形は、ポリカーボネート樹脂から光学記録媒体を成形する方法として幅広く利用されており、その成形条件は、成形時間、成形品の精度、歩留り、およびそれらのバラツキの点で、極限に近い条件を達成し、膨大な知見を有する。かかる光記録媒体の成形において従来公知のさまざまな方法および条件を、本発明の樹脂スタンパの成形においても適宜利用することができる。射出圧縮成形における型のプレス圧力は好ましくは1〜20MPa、より好ましくは3〜15MPaである。
【0071】
一方、(2)における開いた型上への溶融樹脂組成物の塗布は、マザースタンパ表面に溶融樹脂を塗布し、その後型を閉じて溶融樹脂にスタンパを押圧し成形する方法であり、該方法は例えば、特開2004−188822号公報および特開2007−283714号公報等に記載された方法を適用することができる。かかる方法における押圧の圧力は、好ましくは1〜30MPa、より好ましくは5〜25MPa、更に好ましくは10〜20MPaである。
【0072】
<樹脂スタンパの用途>
本発明の樹脂スタンパは、半導体デバイスの回路、コイル・アンテナ類、マイクロ流体デバイス、フィルム型光導波路、バイオデバイス、モスアイパターン、フォトニック結晶デバイス、並びに記録媒体におけるトラックまたは信号の形成などに利用できる。中でも記録媒体のトラックまたはビット等の信号の複製が好ましい。かかる記録媒体の代表的な事例としては、光学多層記録媒体における光透過性中間層の形成が挙げられる。また、スタンパは、通常は1回使用した後、再度、粉砕・精製し、スタンパ成形用材料に再生する。実用上一回限りの利用が望ましいが、原料樹脂を選択し、あるいは、硬化性樹脂組成物やその硬化条件を最適化して、あるいは、再利用前に検査を行うなどして2回以上用いることも可能である。
【0073】
<硬化性樹脂組成物について>
本発明が対象とする硬化性樹脂組成物は、特に限定されないが、光硬化性樹脂組成物が好ましく、特に紫外線硬化性樹脂組成物が好ましい。かかる硬化性樹脂組成物は、通常、上記分子中に重合性不飽和結合またはエポキシ基を有するプレポリマー、オリゴマーとともに光重合開始剤を含む。重合性の官能基は、ラジカル重合性、カチオン重合性のいずれであってもよく、更にその重合開始は、光化学重合のいずれであってもよい。より好適な官能基としては、例えば、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、およびエポキシ基等が例示され、特にアクリレート基および/またはメタクリレート基を有するアクリル系硬化性樹脂組成物が好ましい。
【0074】
かかる硬化性樹脂組成物を構成する重合性モノマーの一態様としては、シクロペンチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルシクロヘキシルメタクリレート、トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、ノルボルニルメタクリレート、ノルボルニルメチルメタクリレート、イソボニルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ヘキサンジオールメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリメチルプロパントリアクリレート、トリメチルプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、およびテトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、並びにこれらの組み合わせが例示される。
【0075】
光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルギリオキシレート、2−ヒトロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−エチルアントラキノン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド等の硫黄化合物;2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド;等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0076】
光重合開始剤の配合量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、重合性モノマー100重量部当たり、通常0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部の範囲である。重合開始剤の配合剤がこの範囲にあるときに大きな成形物でも、均一な硬化が可能となり、斑や黄変のなく、色合いものにも生産性良く製造できるので好適である。
【0077】
<積層体(Z)の製造法について>
本発明によれば、下記の工程により基体層、並びに表面側に微細な凹凸パターンを有する硬化性樹脂組成物層が該基体層上に形成されてなる積層体(Z)が製造できる。なお、積層体として光学多層記録媒体を例にあげて説明する。
【0078】
即ち、トラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを第1の表面に有する基体層(S−1)、並びに該基体層(S−1)の第1の表面側にトラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを有する硬化性樹脂組成物層(S−4)が該基体層上に形成されてなる光学多層記録媒体(Z’)
(1):トラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを第1の表面に有する基体層(S−1)上に未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)を積層し、基体層(S−1)および未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)からなる積層体(Z’−1)を得る工程、
(2):積層体(Z’−1)の未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)側に、トラックまたは信号たる微細な凹凸パターンを有する樹脂スタンパ(S−3)を積層し、未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)の表面に、樹脂スタンパの有する微細な凹凸パターンを転写する工程であって、該樹脂スタンパは、上記ポリカーボネート樹脂組成物(C’成分)から形成されている工程、
(3):硬化性樹脂組成物層(S−2)を硬化させ、基体層(S−1)、硬化した硬化性樹脂組成物層(S−4)、および樹脂スタンパ(S−3)からなる積層体(Z’−2)を得る工程、並びに
(4):該積層体(Z’−2)から樹脂スタンパを除去し、基体層(S−1)および樹脂スタンパ表面の微細な凹凸パターンが転写された硬化性樹脂組成物層(S−4)からなる積層体(Z’)を得る工程
【0079】
上記基体層(S−1)は、特に限定されないが、例えばエッチング等により必要な形状としたガラス、またはポリカーボネート成形品からを好適に形成される。かかる成形方法としては、射出成形、射出プレス成形、プレス成形、および溶融熱転写成形などが挙げられる。これらの中でも、射出成形法及びプレス成形法が、凹凸形状の面内のバラツキを小さくでき好適である。プレス成形法としては、溶融押出法により作製したシート又はフィルム等を成形しようとする凹凸状の金型内で加温・加圧する方法が挙げられる。
【0080】
上記基体層(S−1)の厚みは0.5mm〜1.5mmであり、ピットの凸部高さ10nm〜200nm、凸部のトラックピッチが0.2μm〜1.0μmが好ましく用いられる。かかる基板層(S−1)上には、未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)を形成する前に、蒸着やCVDあるいはスパッタリング等により金属膜が形成される。金属膜としてはアルミニウム、銀合金が好適に用いられる。金属膜は光を透過しない、またはほとんど透過しない。更に該金属膜上には、第1相変化記録層として、第1誘電体膜、相変化記録膜、および第2誘電体膜がこの順で積層される。相変化記録膜の光学的特性を変化させることにより情報の記録及び消去が可能である。未硬化の硬化性樹脂組成物層(S−2)は、かかる第1相変化記録層上に形成され、光透過性中間層となる。
【0081】
光学多層記録媒体の製造にあたり、2層目となる第2相変化記録層の構成として2つのタイプが汎用され、本発明においても好適に利用できる。一つは、第2相変化記録層は、光透過性中間層側から、第1誘電体膜、相変化記録膜、および第2誘電体膜の順で積層されるタイプである。2つ目は、第2相変化記録層は光透過性中間層側から、第0誘電体膜、半透明金属薄膜、第1誘電体膜、相変化記録膜、および第2誘電体膜の順で積層されるタイプである。記録層が3層になる場合には第2相変化記録層とカバー層との間に、さらに光透過性中間層と第2相変化記録層と同様の構成を有する第3相変化記録層を積層する。3層を超える記録層を有する光学多層記録媒体の場合はその数に応じて光透過性中間層と相変化記録層とを増やしていくことが可能である。
【0082】
本発明の光学多層記録媒体の製造方法として、上記第1相変化記録層までが積層された基板に、例えば上記硬化性樹脂組成物を公知の方法により塗布した後、本発明の樹脂スタンパを貼り合せる。塗工法としては、ワイヤバーコート法、ディップ法、スプレー法、スピンコート法、およびロールコート法等が挙げられる。特にスピンコート法が好適に用いられる。硬化性樹脂組成物の粘度としては未硬化の状態で50〜800mPa・secが好ましい。その後、樹脂スタンパの垂直上方から紫外線を照射して、硬化性樹脂組成物を硬化させる。例えば、硬化後の硬化性樹脂組成物層の厚みは10〜30μmが好ましい。
最後に、樹脂スタンパを硬化樹脂組成物層から引き剥がす。引き剥がす方法としては、鉤状になったフックを使用して、樹脂スタンパの外周端又は内周囲端の一部を浮かせて、そこにエアブローを吹き付けることにより引き剥がすことができる。
【0083】
以上のようにして、溝または凹凸形状を有し、光学多層記録情報媒体を構成する高い面精度の溝または凹凸形状を有する、基板及び硬化性樹脂組成物からなる積層体を得ることができる。
【0084】
第1誘電体膜、および第2誘電体膜には、記録再生用のレーザー光の適用波長に対して吸収能のないものが好ましく、具体的には消衰係数kの値が0.3以下である材料が望ましい。かかる材料としては、例えばZnS−SiO混合体(モル比約4:1)を挙げることができる。ZnS−SiO混合体以外にも、従来から光学記録媒体製造用に用いられている誘電体の材料をいずれも用いることができる。例えば、Al、Si、Ta、Ti、Zr、Nb、Mg、B、Zn、Pd、Ca、La、およびGe等の金属および半金属等の元素の窒化物、酸化物、炭化物、フッ化物、窒酸化物、窒炭化物、および酸炭化物等からなる層、並びにこれらを主成分とする材料を適用することができる。
【0085】
相変化記録層としては、レーザー光の照射により、可逆的な状態変化を生じる材料であり、特にアモルファス状態と結晶状態との可逆的相変化を生じる材料が好適であり、カルコゲン化合物あるいは単体のカルコゲン等、従来公知の材料をいずれも適用することができる。例えば、Te、Se、Ge−Sb−Te、Ge−Te、Sb−Te、In−Sb−Te、Ag−In−Sb−Te、Au−In−Sb−Te、Ge−Sb−Te−Pd、Ge−Sb−Te−Se、In−Sn−Se、Bi−Te、Bi−Se、Ge−Sb−Te−Bi、Ge−Sb−Te−Co、およびGe−Sb−Te−Auを含む系、あるいはこれらの系に窒素、酸素等のガス添加物を導入した系を挙げることができる。特に好適なのは、Sb−Te系を主成分とするものである。
【実施例】
【0086】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の製造例、実施例、および比較例において、各特性の測定法は次のとおりである。
【0087】
(1)比粘度
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、以下の方法で測定・算出したものである。
まず、押出により得られたポリカーボネート樹脂ペレット0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から、その溶液の20℃における各比粘度(ηsp)を測定した。
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
【0088】
(2)ガラス転移温度
得られたポリカーボネート樹脂組成物ペレットを測定試料として用い、TAインスツルメント社製の熱分析システムDSC−2910を使用して、JISK7121に従い窒素雰囲気下(窒素流量:40ml/min)、昇温速度:20℃/minの条件下で測定した。
【0089】
(3)紫外線透過光量
算術平均粗さ(Ra)が0.03μmであるキャビティ面を持つ金型を使用し、日本製鋼所製の射出成形機J−75E3を用いてシリンダ温度280℃、金型温度80℃の条件で、保圧時間20秒および冷却時間20秒にて幅50mm、長さ90mm、厚みがゲート側から3mm(長さ20mm)、2mm(長さ45mm)、1mm(長さ25mm)である3段型プレートを成形した。かかる3段型プレートの厚み2.0mm部における300〜400nmの光線透過率を日立製分光光度計U−4100型にて測定した。横軸:300〜400nmの範囲、縦軸:0〜100%の範囲で囲まれる長方形の面積に対する、横軸:300〜400nmの範囲における紫外線透過率の曲線、両縦軸、および横軸により囲まれる面積のかかる長方形の面積に対する割合(%)を算出し、紫外線透過光量とした。
【0090】
(4)接触角
上記成形した3段型プレートを温度23℃、湿度50%RHの室内に24時間静置させた後、同室内で厚み2.0mm部にマイクロシリンジを用いて液滴直径1.5mmのイオン交換水を滴下し、接触角を測定した。測定装置には協和界面科学製FACE接触計、型式CA−Aを用いた。
【0091】
(5)樹脂スタンパの成形転写性
作成された樹脂スタンパについて、ニッケル製メタルスタンパから転写した平坦部からの凸部の高さを、原子間力顕微鏡(セイコー電子工業製SPI3800N)を用いて、樹脂スタンパの中心から半径25、40、および55mmの位置にて測定した。転写性は各3点の平均値を樹脂スタンパの凸高さとし、下記式により算出した。
【0092】
【数1】

【0093】
(6)樹脂スタンパの離型性
作成された光学多層記録媒体中間層のピンセットを用いて樹脂スタンパの最外周部分を1cmの高さにつまみ上げ、得られた硬化性樹脂組成物から樹脂スタンパが剥離するか否かを確認した。かかるつまみ上げによって樹脂スタンパ全面が剥離したものを「良好」、剥離しなかったものを「離型せず」として表中に記載した。
【0094】
(7)樹脂スタンパの離型強度
樹脂スタンパを硬化性樹脂組成物層から離型させる際に、仮に大きな変形があっても割れないことを確認するため、以下の要領で変形させて割れの有無を確認した。即ち、作成した樹脂スタンパの中心部分を固定し、外周部を2cm持ち上げて樹脂スタンパの割れ発生状況の有無を確認した。10個の樹脂スタンパ成形品においてクラック等の割れが確認された枚数を記載した。
【0095】
(8)光学多層記録媒体中間層の外観評価
上記(6)の離型性評価と同様の操作により、硬化性樹脂組成物層から樹脂スタンパを離型し、得られた硬化性樹脂組成物層の外観を目視にて観察した。硬化性樹脂組成物層が透明で硬化しているものを「良好」とし、硬化性樹脂組成物層が白濁や未硬化等の不具合が生じた場合は、具体的に表中に記載した。
【0096】
(9)光学多層記録媒体中間層の転写性
上記(6)の離型性評価と同様の操作により、硬化性樹脂組成物層から樹脂スタンパを離型し、得られた硬化性樹脂組成物層の平坦部からの溝深さ及びトラックピッチを、原子間力顕微鏡(セイコー電子工業製SPI3800N)を用いて、樹脂スタンパの中心から半径25、40、55mmの位置にて測定した。溝深さは各3点の平均値から下記式により算出した(尚、離型しなかったものは評価しなかった)。また、トラックピッチは、各溝の最大深さ点間の距離を測定した。
【0097】
【数2】

【0098】
ポリカーボネート樹脂の製造には以下の原料を用いた。原料であるBIS−1〜BIS−7は本州化学工業製のビスフェノールを使用した。原料であるBIS−8は三井化学製のビスフェノールを使用した。
【0099】
(モノマー成分)
BIS−1:2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン
【化5】

BIS−2:2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン
【化6】

BIS−3:2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン
【化7】

BIS−4:1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン
【化8】

BIS−5:1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン
【化9】

BIS−6:1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン
【化10】

BIS−7:1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン
【化11】

BIS−8:2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)
(他の成分)
RA:分子量343のグリセリンと脂肪族カルボン酸からなるモノエステル(理研ビタミン(株)製:リケマールS−100A)
【0100】
[実施例1]
(1)ポリカーボネート樹脂の製造
表1記載の配合割合からなるポリカーボネート樹脂パウダーを以下の要領で作成した。温度計、撹拌機および還流冷却器の付いた反応器に、48%水酸化ナトリウム水溶液およびイオン交換水を仕込み、これにビスフェノールモノマー(BIS−1)およびハイドロサルファイトを溶解した後、塩化メチレンを加え、撹拌下、15〜25℃でホスゲンを約60分かけて吹き込んだ。ホスゲンの吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液およびp−tert−ブチルフェノールを加え、撹拌を再開、乳化後トリエチルアミン0.25部を加え、さらに28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後、塩酸酸性にして水洗し、さらに水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになるまで水洗を繰り返し、ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液を得た。次いで、この溶液を目開き0.3μmのフィルターに通過させ、さらに軸受け部に異物取出口を有する隔離室付きニーダー中の温水に滴下、塩化メチレンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化し、引続き該含液フレークを粉砕、乾燥してパウダーを得た。得られたパウダーをスクリュー径30mmのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX30α−35BW−3V)を用いて、最後部の第1投入口に供給した。シリンダ温度およびダイ温度は270℃に設定した。スクリュー回転数は250rpm、1時間当りの吐出量は15kg/時、並びにベントの真空度は10kPaで行った。尚、スクリューセグメントの構成は、ベントの位置の上流および下流側にニーディングディスクにより構成された混練ゾーンを有していた。押出されたストランドを水浴において冷却した後、ペレタイザーで切断しペレット化した。得られた樹脂ペレットは、数平均直径2.8mm、数平均長さ3.0mmであり、ミスカットは3ppmであった。かかる樹脂ペレットを120℃で6時間、熱風乾燥機にて乾燥した。該樹脂ペレットを用いて、比粘度、ガラス転移温度を測定し、表1に記載した。
【0101】
(2)樹脂スタンパの製造
樹脂スタンパを以下の要領で作成した。得られた乾燥後の樹脂ペレットを用いて、シリンダ温度は360℃、金型温度は固定側、可動側ともに110℃、並びに型締圧力を20MPaの条件において、外径120mm、内径15mm、厚さ0.6mmのディスク形状樹脂スタンパを射出成形により成形した。射出成形機[住友重機械工業(株)製SD−40E]には、BD−R用のニッケル製メタルスタンパ(トラックピッチ0.32μmおよび深さ0.05μmのグルーブ(溝)を有する)を装着した。
得られた樹脂スタンパの各凸部の最大高さと最大高さ点間の距離(トラックピッチ)を測定し、表1に記載した。トラックピッチはいずれも0.32μmであった。
【0102】
(3)光学多層記録媒体中間層の作成
光ディスク用ポリカーボネート樹脂(帝人化成製パンライト(登録商標)CM−1000)を用いてシリンダ温度360℃および金型温度115℃で外径120mm、内径15mm、厚さ1.1mmのディスク状基板を射出成形により作成した。射出成形機[住友重機械工業(株)製SD−40E]には、BD−R用のニッケル製メタルスタンパ(トラックピッチ0.32μmおよび深さ0.05μmのグルーブ(溝)を有する)を装着した。得られた基板の凹凸パターン側に高周波マグネトロンスパッタ装置(アネルバ製ILC3102型)によるDCスパッタリングによって0.1μmの金属薄膜を堆積させた。かかるスパッタリングは、Ndを5.0原子%、Biを1.0原子%含んだAg合金スパッタリングターゲット(コベルコ科研製)を用い、放電電力500Wで実施した。その他の成膜条件は、基板温度:22℃、アルゴンガス圧:2m、成膜速度:5nm/sec、背圧:<5×10−6とした。かかる光反射層の形成された基板をスパッタリング装置から取り出し、スピンコーターに取り付けた。ディスクを回転させながら、金属反射膜上に大日本インキ化学工業製の硬化性樹脂組成物(品番SD318)をスピンコート法により塗布し、樹脂スタンパを硬化樹脂組成物層側に押し当てた。その後、樹脂スタンパ側からFUSION製UVランプ(型式558434−D)にて紫外線を照射強度100mW/cmで3秒間照射し、約20μmの硬化性樹脂層を得た。樹脂スタンパの外径側からエアブローにより樹脂スタンパを硬化性樹脂組成物層から離型させた。得られた光学多層記録媒体中間層の凹凸パターンの深さを測定し、結果を表1に記載した。
【0103】
[実施例2]
モノマー成分としてBIS−2を用いて表1記載の配合割合となるように変更した他は、実施例1と同様の手法にて樹脂スタンパおよび光学多層記録媒体中間層を作成し、各測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0104】
[実施例3]
モノマー成分としてBIS−3を用いて表1記載の配合割合となるように変更した他は実施例1と同様の手法にて樹脂スタンパおよび光学多層記録媒体中間層を作成し、各測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0105】
[実施例4]
モノマー成分としてBIS−4を用いて表1記載の配合割合となるように変更した他は実施例1と同様の手法にて樹脂スタンパおよび光学多層記録媒体中間層を作成し、各測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0106】
[実施例5]
モノマー成分としてBIS−5を用いて表1記載の配合割合となるように変更した他は実施例1と同様の手法にて樹脂スタンパおよび光学多層記録媒体中間層を作成し、各測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0107】
[実施例6]
モノマー成分としてBIS−6を用いて表1記載の配合割合となるように変更した他は実施例1と同様の手法にて樹脂スタンパおよび光学多層記録媒体中間層を作成し、各測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0108】
[実施例7]
モノマー成分としてBIS−6(80モル%)とBIS−8(20モル%)を用いて表1記載の配合割合となるように変更した他は実施例1と同様の手法にて樹脂スタンパおよび光学多層記録媒体中間層を作成し、各測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0109】
[実施例8]
モノマー成分としてBIS−1(50モル%)とBIS−8(50モル%)を用いて表1記載の配合割合となるように変更した他は実施例1と同様の手法にて樹脂スタンパおよび光学多層記録媒体中間層を作成し、各測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0110】
[実施例9]
モノマー成分としてBIS−1(20モル%)とBIS−8(80モル%)を用いて表1記載の配合割合となるように変更した他は実施例1と同様の手法にて樹脂スタンパおよび光学多層記録媒体中間層を作成し、各測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0111】
[比較例1]
ポリカーボネート樹脂パウダーとして帝人化成製パンライトCM−1000を使用し、実施例1と同様の手法にて樹脂スタンパおよび光学多層記録媒体中間層を作成し、各測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0112】
[比較例2]
モノマー成分としてBIS−7を用いて表1記載の配合割合となるように変更した他はからな実施例1と同様の手法にて樹脂スタンパおよび光学多層記録媒体中間層を作成し、各測定を実施した。結果を表1に記載した。
【0113】
【表1】

【0114】
表1の結果から明らかなように、特定の繰り返し構造単位を有する芳香族ポリカーボネート樹脂から形成された樹脂スタンパでは、精密転写性、硬化性樹脂組成物層からの離型性、紫外光の透過性に優れることが分かる。即ち、本発明の樹脂スタンパによれば、汎用される光ディスク用ポリカーボネート樹脂からなる樹脂スタンパでは得られない光学多層記録媒体中間層が得られることが分かる。
【0115】
[実施例10]
実施例1の使用済みの樹脂スタンパを各々粉砕機で粉砕した。かかる各々の粉砕物:5重量部に対して、ポリカーボネート樹脂(帝人化成製パンライト(登録商標)CM−1000:95重量部、衝撃改質剤(三菱レイヨン製メタブレンSX−005):4重量部、および上記ST:0.05重量部を配合し、均一にブレンドして予備混合物を得た。かかる予備混合物をスクリュー径15mmのベント式二軸押出機(テクノベル(株)製KZW15−25MG)を用いて、最後部の第1投入口に供給した。シリンダ温度およびダイ温度は、いずれも280℃、スクリュー回転数は200rpm、吐出量は2kg/時、並びにベントの真空度は3kPaで行った。得られた樹脂組成物ペレットを120℃で6時間、熱風乾燥機にて乾燥処理した後、射出成形機((株)日本製鋼所製J75EIII型)によりシリンダ温度230℃、金型温度90℃、成形サイクル40秒で成形し、衝撃試験片(寸法:長さ80mm×幅10mm×厚み4mm)を成形し、23℃および−30℃におけるノッチ付きシャルピー衝撃強さをISO−179に従い測定した。かかるシャルピー衝撃強さは、23℃では44〜50kJ/mの範囲に、−30℃では30〜42kJ/mの範囲にあった。かかる良好な衝撃強さから、使用済みの樹脂スタンパが他の有用な素材へのリサイクルに適していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の樹脂スタンパは、半導体デバイスの回路、コイル・アンテナ類、マイクロ流体デバイス、フィルム型光導波路、バイオデバイス、モスアイパターン、フォトニック結晶デバイス、並びに情報記録媒体におけるトラックまたはビット等の信号形成などに利用できる。
【符号の説明】
【0117】
1基板
2第1相変化記録層
3光透過性中間層
3a硬化性樹脂組成物層
4第2相変化記録層
5カバー層
6スタンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂からなる硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパであって、
芳香族ポリカーボネートが、以下の(A)〜(C)
(A)主たる芳香族ジヒドロキシ成分が、下記式[α]で示される成分(成分a)および2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン成分(成分b)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、成分aの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として20mol%以上であること、
(B)比粘度が0.2〜0.4の範囲にあること、
(C)蒸留水との接触角が85〜95°の範囲にあること
を同時に具備することを特徴とする硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。
【化1】

(式(α)中、Rは水素原子、または炭素数1〜3のアルキル基を表し、Rは炭素数2〜8のアルキル基を表す。)
【請求項2】
成分aが2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン成分、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン成分、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン成分である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。
【請求項3】
成分aの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として80mol%以上である請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。
【請求項4】
成分aの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として20〜90モル%であり、成分bの割合が、全芳香族ヒドロキシ化合物のモル数を基準として10〜80モル%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。
【請求項5】
樹脂スタンパの表面に微細な凹凸パターンを有し、該凸部の高さまたは凹部の深さが10〜400nm、凹凸部のピッチが0.01〜1.0μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。
【請求項6】
樹脂スタンパは、マザースタンパを備えた金型キャビティ内に溶融状態のC成分を充填するかもしくは開いた型に備えられたマザースタンパ上に溶融状態のC成分を塗布することにより、該マザースタンパを転写して製造されてなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物用樹脂スタンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−143674(P2011−143674A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8164(P2010−8164)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】