説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および成形体

【課題】機械特性および難燃性に優れ、かつ環境負荷を低減し得るとともに、環境負荷低減のために天然由来の有機充填剤を配合してもカビの発生が抑制され、臭気も改善された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)芳香族ポリカーボネート‐ポリオルガノシロキサン共重合体、(C)脂肪族ポリエステル及び(D)天然由来の有機充填剤からなる組成物に対し、さらに(E)ナノポーラスカーボンを含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および同ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリカーボネート‐ポリオルガノシロキサン共重合体、脂肪族ポリエステル樹脂並びに安定化剤を含有してなる、機械特性、難燃性に優れた樹脂組成物ならびにそれを用いた成形体に関するものである。この樹脂組成物は、OA機器・情報通信機器・家庭電化機器分野などに利用が可能である。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は耐衝撃性などの機械的特性に優れ、耐熱性、透明性に優れているため、電気、電子、OA機器、機械、自動車などの様々な分野で用いられているが、原料が石油に由来するものであり、また使用後の分解性の面から近年問題とされている環境への負荷を低減させることが課題となっている。
一方、脂肪族ポリエステル樹脂は生分解性を有するものも多く、利用後の環境への負荷が小さいという点で非常に注目を集めている。特にトウモロコシやサトウキビといった植物由来の原料から作られるポリ乳酸樹脂は、最終的には水と二酸化炭素に分解される(カーボンニュートラル)という点から環境負荷を低減できるため、環境対応型樹脂として開発が進んでいる。更に植物性プラスチックとしては高い融点を持ち、溶融成形が可能であることから実用上優れた植物性・生分解性樹脂としての利用が期待されている(例えば、特許文献1等)。また、石油由来の脂肪族ポリエステル樹脂(例えば、特許文献2等)の中にも将来的に原料の一部から全てを植物由来に切り替えるとされているものもあり注目が集まっている。
しかしながら、ポリ乳酸をはじめとした脂肪族ポリエステル樹脂は、耐熱性を中心とした機械的物性が低いため、単体を成形品として機械的強度が要求される部材に利用することは困難である。
そこで脂肪族ポリエステル樹脂を芳香族ポリカーボネートとアロイ化することにより本問題を解決しようとする試みがなされてきた(例えば、特許文献3、4等)。
一方、脂肪族ポリエステル樹脂の機械特性や耐熱性を改良するための方法の一つとして、ガラス繊維などの無機充填剤を使用する方法が検討されているが、大量に加える必要があるため、成形品の比重が増大したり、焼却または廃棄時にゴミとなる残留物が増加して環境に負荷がかかるなどの問題がある。これらの方法を解決するために、無機充填剤と比較して比重が軽く、環境に負荷の小さい天然由来の有機充填剤を配合する方法が検討されている。
【0003】
ガラス繊維、炭素繊維といった無機充填剤を用いて剛性を増加させる方法については、流動性低下と比重の増加を伴うことが問題となる。このため代替として有機充填剤の利用が検討されてきた。例えば、特許文献5にはポリ乳酸をはじめとするポリエステル樹脂に対して天然由来の有機充填剤を配合する内容の記述があるが、流動性、剛性の改善に関しては記述が見られない。
また、前記のようなアロイ化した芳香族ポリカーボネート/脂肪族ポリエステルに対しカーボンナノチューブやカーボンブラックを配合して物性を改善する試みが特許文献6や7で提案されている。
しかしながら、アロイ化した芳香族ポリカーボネート/脂肪族ポリエステルに対し天然由来の有機充填剤を添加した組成物の難燃性向上や天然由来の有機充填剤を配合することにより生じるカビ発生への改善や、溶融混合・成形の際に天然由来の有機充填剤が高温になることから生じる臭気を改善できることについて言及した特許文献はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−245866号公報
【特許文献2】特開平7−330954号公報
【特許文献3】特開平7−324159号公報
【特許文献4】特開2006−28299号公報
【特許文献5】特開2006−117768号公報
【特許文献6】特開2006−104335号公報
【特許文献7】特開2007−211110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような状況下になされたもので、機械特性および難燃性に優れ、かつ環境負荷を低減し得るとともに、環境負荷低減のために天然由来の有機充填剤を配合してもカビの発生が抑制され、臭気も改善された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびそれを用いた成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、芳香族ポリカーボネート樹脂および/または芳香族ポリカーボネート‐ポリオルガノシロキサン共重合体、脂肪族ポリエステル樹脂、天然由来の有機充填剤およびナノポーラスカーボンをそれぞれ所定の量で含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物により、その目的を達成し得ることを見出した。本発明はこのような知見に基づいて閑静したものである。
すなわち、本発明は、下記
(1)(A)芳香族ポリカーボネート樹脂98〜0質量%、(B)芳香族ポリカーボネート‐ポリオルガノシロキサン共重合体0〜98質量%〔(A)と(B)がともに0であることはない〕、(C)脂肪族ポリエステル1質量%以上、99質量%未満及び(D)天然由来の有機充填剤1〜80質量%からなる組成物〔(A)〜(D)の合計量は100質量%〕100質量部に対し、さらに(E)ナノポーラスカーボン0.01〜30質量部を含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(2)前記(E)ナノポーラスカーボンが、平均粒子径20〜50nmの中空粒子であり、且つ粒子表面に平均ポア径5nm以下のポアを有する上記(1)に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(3)前記(C)脂肪族ポリエステルが、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトンから選ばれる少なくとも1種である上記(1)又は(2)に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(4)前記(D)天然由来有機充填剤が、長繊維ペレット化されたものであり、かつ、平均繊維長が3〜12mmのものである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(5)前記(D)天然由来有機充填剤が、ジュート繊維、レーヨン繊維、竹繊維、ケナフ繊維及びヘンプ繊維から選ばれる少なくとも一種を長繊維ペレット化したものである上記(4)に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(6)さらに、(F)成分としてハロゲン非含有リン系難燃剤を含有する上記(1)〜(5)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(7)さらに、(G)成分として無機充填剤を含有する上記(1)〜(6)のいずれかに 記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(8)さらに、(H)成分としてポリフルオロエチレンを含有する上記(1)〜(7)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(9)さらに、(I)成分としてカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、イソシアネー ト化合物、オキサゾリン化合物から選ばれる少なくとも一つを含有する上記(1)〜( 8)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形 してなる成形体を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、機械的特性および難燃性に優れ、かつ環境負荷を低減し得るとともに環境負荷低減のために天然由来の有機充填剤を配合してもカビの発生が抑制され、臭気が改善された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびそれを用いた成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、(A)成分について詳細に説明する。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物〔以下、芳香族PC樹脂組成物〕中の(A)成分である芳香族ポリカーボネート〔以下、芳香族PC〕としては、特に制限はなく種々のものが挙げられる。通常、2価フェノールとカーボネート前駆体との反応(例えば、特開2000−169692号公報等参照)により製造される芳香族PCを用いることができる。
具体的には、2価フェノールとカーボネート前駆体とを不活性有機溶媒を用いた溶液法あるいは溶融法、すなわち、2価フェノールとホスゲンの反応、2価フエノールとジフェニルカーボネートなどとのエステル交換反応により製造されたものを使用することができる。
2価フェノールとしては、様々なものが挙げられるが、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシフェニル)アルカリ系、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンなどが挙げられる。
特に好ましい2価フェノールとしては、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系、特にビスフェノールAである。また、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、またはハロホルメートなどであり、具体的にはホスゲン、2価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどである。この他、2価フェノールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール等が挙げられる。これらの2価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、本発明における芳香族PCは、分岐構造を有していてもよく、分岐剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α',α"−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログリシン、トリメリット酸、イサチンビス(o−クレゾール)などがある。
【0009】
また、分子量の調節のためには、通常、PCの重合に用いられるものなら、各種のものを用いることができる。具体的には、一価フェノールとして、例えば、フェノール、o−n−ブチルフェノール、m−n−ブチルフェノール、p−n−ブチルフェノール、o−イソブチルフェノール、m−イソブチルフェノール、p−イソブチルフェノール、o−t−ブチルフェノール、m−t−ブチルフェノール、p−t−ブチルフェノール、o−n−ペンチルフェノール、m−n−ペンチルフェノール、p−n−ペンチルフェノール、o−n−ヘキシルフェノール、m−n−ヘキシルフェノール、p−n−ヘキシルフェノール、p−t−オクチルフェノール、o−シクロヘキシルフェノール、m−シクロヘキシルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、o−n−ノニルフェノール、m−ノニルフェノール、p−n−ノニルフェノール、o−クミルフェノール、m−クミルフェノール、p−クミルフェノール、o−ナフチルフェノール、m−ナフチルフェノール、p−ナフチルフェノール;2,5−ジ−t−ブチルフェノール;2,4−ジ−t−ブチルフェノール;3,5−ジ−t−ブチルフェノール;2,5−ジクミルフェノール;3,5−ジクミルフェノール;p−クレゾール、ブロモフェノール、トリブロモフェノール、平均炭素数12〜35の直鎖状又は分岐状のアルキル基をオルト位、メタ位又はパラ位に有するモノアルキルフェノール;9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−(4−メトキシフェニル)フルオレン;9−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−9−(4−メトキシ−3−メチルフェニル)フルオレン;4−(1−アダマンチル)フェノールなどが挙げられる。これらの一価フェノールのなかでは、p−t−ブチルフェノール、p−クミルフェノール、p−フェニルフェノールなどが好ましく用いられる。
【0010】
溶液法で用いられる不活性有機溶媒としては、各種のものがある。例えば、ジクロロメタン(塩化メチレン);トリクロロメタン;四塩化炭素;1,1−ジクロロエタン;1,2−ジクロロエタン;1,1,1−トリクロロエタン;1,1,2−トリクロロエタン;1,1,1,2−テトラクロロエタン;1,1,2,2−テトラクロロエタン;ペンタクロロエタン;クロロベンゼンなどの塩素化炭化水素や、トルエン、アセトフェノンなどが挙げられる。これらの有機溶剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中では、特に塩化メチレンが好適である。
本発明の(A)成分である上記の芳香族PCは、機械的強度および成形性の点から、その粘度平均分子量は、10,000〜100,000、好ましくは、11,000〜40,000、特に12,000〜25,000のものが好適である。(A)成分である芳香族PCの芳香族PC樹脂組成物中の含有量は98質量%〜0質量%、好ましくは80〜0質量%である。
【0011】
次に、(B)成分について詳細に説明する。
本発明の芳香族PC樹脂組成物中の(B)成分である芳香族ポリカーボネート‐ポリオルガノシロキサン共重合体は芳香族ポリカーボネート部分とポリオルガノシロキサン部分を分子内に有する共重合体であり、例えば、特開昭50−29695号公報、特開平3−292359号公報、特開平4−202465号公報、特開平8−81620号公報、特開平8−302178号公報および特開平10−7897号公報に開示されている共重合体を挙げることができる。
本発明の芳香族PC樹脂組成物中の(B)成分である芳香族ポリカーボネート‐ポリオルガノシロキサン共重合体は以下のような方法で得られる。
例えば、予め製造された芳香族ポリカーボネート部分を構成する芳香族ポリカーボネートオリゴマーと、ポリオルガノシロキサン部(セグメント)を構成する末端に反応性基を有するポリオルガノシロキサンとを、塩化メチレン、クロロベンゼン、クロロホルム等の溶媒に溶解させ、二価フェノールの水酸化アルカリ水溶液を加え、触媒として、第三級アミン(トリエチルアミン等)や第四級アンモニウム塩(トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等)を用い、フェノール化合物からなる一般の末端停止剤の存在下、界面重縮合反応することにより製造することができる。
芳香族ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン中のポリオルガノシロキサン部分の含有量は、最終的な芳香族PC樹脂組成物として要求される難燃性のレベルに応じて適宜選択すればよい。
(B)成分中のポリオルガノシロキサン部分の割合は、(A)〜(D)成分の合計量に対して、好ましくは0.3〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%である。ポリオルガノシロキサン部分の割合が10質量%を超えると、芳香族PC樹脂組成物および同成形体の耐熱性が著しく低下するおそれがあり、樹脂のコストアップにもなる。好ましい範囲ではより優れた難燃性のものが得られる。
上記のような方法で得られた(B)成分の芳香族PC樹脂組成物中の配合量は0〜98質量%、好ましくは0〜80質量%である。
なお、本発明の芳香族PC樹脂組成物中において、上記(A)成分と(B)成分がともに0であることはない。
【0012】
次に、(C)成分について詳細に説明する。
(C)成分の脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸又は乳酸類とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリグリコール酸樹脂や多塩基酸と多価アルコールとの脱水重縮合により得られたポリエステルを用いることができる。
ポリ乳酸は、通常ラクタイドと呼ばれる乳酸の環状二量体から開環重合により合成され、その製造方法は、米国特許第1,995,970号明細書、米国特許第2,362,511号明細書、米国特許第2,683,136号明細書等に開示されている。
また、乳酸とその他のヒドロキシカルボン酸の共重合体は、通常ラクタイドとヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体から開環重合により合成され、その製造方法は、米国特許第3,635,956号明細書、米国特許第3,797,499号明細書等に開示されている。
開環重合によらず、直接脱水重縮合により乳酸系樹脂を製造する場合には、乳酸類と必要に応じて、他のヒドロキシカルボン酸を、好ましくは有機溶媒、特に、フェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは、共沸により留出した溶媒から水を除き、実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより、本発明に適した重合度の乳酸系樹脂が得られる。
原料の乳酸類としては、L−及びD−乳酸、又はその混合物、乳酸の二量体であるラクタイドのいずれも使用することができる。
また、乳酸類と併用できる他のヒドロキシカルボン酸類としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などがあり、更にヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、グリコール酸の二量体であるグリコライドや6−ヒドロキシカプロン酸の環状エステルであるε−カプロラクトンを使用することもできる。乳酸系樹脂の製造に際し、適当な分子量調節剤、分岐剤、その他の改質剤などを配合することもできる。また、乳酸類及び共重合体成分としてのヒドロキシカルボン酸類は、いずれも単独又は2種以上を使用することができ、更に得られた乳酸系樹脂を2種以上混合し使用してもよい。
(C)成分の脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸が流動性と熱的・機械的物性の点で優れており、分子量の大きいものが好ましく、重量平均分子量3万以上のものがさらに好ましい。
多塩基酸と多価アルコールとの脱水重縮合により得られたポリエステルとしては、ポリエチレンアジペート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペート樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリエチレンサクシネート−アジペート樹脂、ポリブチレンサクシネート−アジペート樹脂等がある。中でも、入手のし易さ、優れた生分解性の観点からポリブチレンサクシネート樹脂が好ましい。
脂肪族ポリエステルに関しては脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール及び乳酸を原料としたポリエステルも用いることができる。また、異なる脂肪族ポリエステル同士の共重合体であっても構わない。2種類以上であっても構わない(高剛性を有する材料を得るためにはポリ乳酸が好ましい)。
ポリエステル樹脂の分子量や分子量分布については、特に制限されないが、成形加工性の観点から、重量平均分子量としては、2万以上が好ましく、4万以上がより好ましく、8万以上がさらに好ましい。上限としては特に制限はないが、成形加工性の点で、50万以下が好ましく、30万以下がより好ましく、25万以下がさらに好ましい。
上記のような(C)成分である脂肪族ポリエステルの芳香族PC樹脂組成物中の含有量は1以上、99質量%未満であるが、成分(C)の配合量が多すぎると熱変形温度の著しい低下が起こるため、(A)および(B)成分の合計量80〜50質量%に対して(C)成分が20〜50質量%であれば好ましい。
成分(C)の配合量を20質量%以上とすることにより、脂肪族ポリエステルの特性を発現させることができる。
【0013】
次に、(D)成分について詳細に説明する。
(D)成分の天然由来の有機充填剤の具体例としては、籾殻、木材チップ、おから、古紙粉砕材、衣料粉砕材などのチップ状のもの、綿繊維、麻繊維、竹繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナッツ繊維などの植物繊維もしくはこれらの植物繊維から加工されたパルプやセルロース繊維および絹、羊毛、アンゴラ、カシミヤ、ラクダなどの動物繊維などの繊維状のもの、紙粉、木粉、竹粉、セルロース粉末、籾殻粉末、果実殻粉末、キチン粉末、キトサン粉末、タンパク質、澱粉などの粉末状のものが挙げられ、耐熱性の観点から、紙粉、木粉、竹粉、セルロース粉末、籾殻粉末、果実殻粉末、キチン粉末、キトサン粉末、タンパク質粉末、澱粉などの粉末状のもの、綿繊維、麻繊維、竹繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナッツ繊維などの植物繊維が好ましく、紙粉、木粉、竹粉、竹繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維がより好ましい。また、これらの天然由来の有機充填剤は、天然物から直接採取したものを用いてもよいが、地球環境の保護や資源保全の観点から、古紙、廃木材および古衣などの廃材をリサイクルして用いてもよい。古紙とは、新聞紙、雑誌、コピー用紙などのOA用紙、その他の再生パルプ、もしくは、段ボール、ボール紙、紙管などの板紙であり、植物繊維を原料として加工されたものであれば、いずれを用いてもよいが、耐熱性の観点から、新聞紙および段ボール、ボール紙、紙管などの板紙の粉砕品が好ましい。また、木材の具体例としては、松、杉、檜、もみ等の針葉樹材、ブナ、シイ、ユーカリなどの広葉樹材などがあり、その種類は問わない。
天然由来の有機充填剤は、表面処理したものを用いてもよく、アルカリ処理、熱処理、アセチル化処理、シアノエチル化処理、シランカップリング処理、グリオギザール処理など各種公知の方法で表面処理した天然由来の有機充填剤を用いることにより、耐熱性だけでなく、機械特性も向上する傾向にあり好ましい。
(D)成分は予め(C)成分に配合し、長繊維ペレット化したものを用いることが好ましい。配合の方法については例えば長繊維ペレット製造装置等を用いる方法が挙げられる。平均繊維長は3〜12mmが好ましい。天然由来の有機充填剤(D)としては、引っ張り強度が高いという点で特にジュート繊維、レーヨン繊維、竹繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維等の中から選ばれる少なくとも1種類以上を含むことが好ましい。配合量は剛性と諸物性のバランスから、(A)〜(D)成分の合計量は100質量%であり、(D)成分の配合量は1〜80質量%、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜25質量%である。
(D)成分の配合量を1質量%以上とすることにより、剛性の向上、比重の低減および環境への負荷軽減に寄与し、40質量%以下とすることにより、機械的特性が低下することを防止する。
【0014】
次に、(E)成分について詳細に説明する。
本発明における(E)成分はナノポーラスカーボンで、形状は、特に平均粒径20〜50nmの球状で中空であり、表面に5nm以下、特に約2nmの細孔が無数に存在することを特徴とする。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物におけるナノポーラスカーボン(B)は、従来のカーボンナノチューブ、ナノダイヤモンド、セラミックスナノファイバー、ナノセラメタルに次ぐ新しいナノ素材であり、その製造方法が、たとえば、特表2007−529403などに記載されている。
ナノポーラスカーボンは、粒子表面に多孔(ポア)を有する炭素粒子であり、その拡張された表面積および微孔性の構造の故に、フィルタ、膜、吸収剤、触媒担体および電極材料などに用いられている。ポアのディメンション(直径又は幅)により、2nm未満のものはミクロポア、2〜50nmのものはメソポア、50nmを超えるものはマクロポアとみなされる。
本発明においては、平均粒子径20〜50nmの中空粒子であり、且つ粒子表面に平均ポア径5nm以下のポアを有するナノポーラスカーボンが好適に使用される。
(E)成分の配合量は(A)〜(D)成分の合計量100質量部に対して0.01〜30質量部、好ましくは0.1〜20質量部である。
0.01質量部以上配合することで難燃性が向上し、電気伝導性が発現することによる帯電防止効果、抗菌性や消臭効果を付与することが可能である。配合量を30質量部以下とすることにより、コストが増大するのを防ぐとともに樹脂組成物から形成される成形物の樹脂としての特性が低下するのを防止する。
【0015】
次に、必要に応じて配合される(F)成分であるハロゲン非含有リン系難燃剤について説明する。
ハロゲン非含有リン系難燃剤としては、リン原子を有し、ハロゲンを含まない有機化合物であれば特に制限なく用いることができる。中でも、リン原子に直接結合するエステル性酸素原子を1つ以上有するリン酸エステル化合物や赤リン(有機化合物、無機化合物等による各種表面処理赤リン)が好ましく用いられる。
リン酸エステル化合物は、モノマー、ダイマー、オリゴマー、ポリマーまたはこれらの混合物であってもよい。具体的には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、レゾルシノール−ジフェニルホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、またはこれらの置換体、縮合物等が挙げられる。
ハロゲン非含有リン系難燃剤を配合する場合は、前記成分(A)〜(D)の合計量100質量部に対して好ましくは0.05〜20質量部、より好ましくは3〜15質量部である。
配合量を0.05質量部以上とすることにより、目標とする難燃性(V−0)が得られ、また、配合量を20質量部以下とすることにより、衝撃強度等の物性が低下するのを防止する。
市販のハロゲン非含有リン酸エステル化合物としては、例えば、大八化学工業株式会社製の、TPP〔トリフェニルホスフェート〕、TXP〔トリキシレニルホスフェート〕、CR−733S〔レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)〕、CR−741[ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート]、PX200〔1,3−フェニレン−テスラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル]、PX201〔1,4−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル]、PX202〔4,4'−ビフェニレン−テスラキス)2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル]等を挙げることができる。
【0016】
次に、必要に応じて配合される(G)成分である無機充填剤について説明する。
無機充填剤は、成形品の剛性、さらには難燃性をさらに向上させることができる。無機充填剤としては、タルク、マイカ、カオリン、珪藻土、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維などをあげることができる。なかでも、板状であるタルク、マイカなどや、繊維状の充填剤が好ましく、特にタルクが好ましい。
タルクはマグネシウムの含水ケイ酸塩であり、一般に市販されているものを用いることができる。タルクには、主成分であるケイ酸と酸化マグネシウムの他に、微量の酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化鉄を含むことがあるが、本発明の芳香族PC樹脂組成物を製造するには、これらを含んでいてもかまわない。また、タルクなどの無機充填剤の平均粒径は通常、0.1〜50μm、好ましくは、0.2〜20μmである。これら無機充填剤、特にタルクを含有させることにより、剛性向上とともに難燃剤としてのハロゲン非含有リン酸エステルの配合量を減少させることができる。
ここで、(G)成分である無機充填剤を配合する場合の配合量は前記成分(A)〜(D)の合計量100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは、2〜30質量部である。ここで、1質量部未満であると、目的とする剛性、難燃性改良効果が十分でない場合があり、50質量部を越えると、耐衝撃性、溶融流動性が低下する場合があり、成形品の厚み、樹脂流動長など、成形品の要求性能と成形性を考慮して適宜決定することができる。
【0017】
次に、必要に応じて配合される(H)成分であるポリフルオロオレフィンについて説明する。
ポリフルオロオレフィンは、難燃性試験等における燃焼時の溶融滴下防止を目的に使用される。ここで、ポリフルオロオレフィンとしては、通常フルオロエチレン構造を含む重合体または共重合体であり、例えば、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンとフッ素を含まないエチレン系モノマーとの共重合体である。好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、その平均分子量は、500,000以上であることが好ましく、特に好ましくは500,000〜10,000,000である。本発明で用いることができるポリテトラフルオロエチレンとしては、現在知られている全ての種類のものを用いることができる。
なお、ポリテトラフルオロエチレンのうち、フィブリル形成能を有するものを用いると、さらに高い溶融滴下防止性を付与することができる。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)には特に制限はないが、例えば、ASTM規格において、タイプ3に分類されるものが挙げられる。その具体例としては、例えば、テフロン6−J(三井・デュポンフロロケミカル社製)、ポリフロンD−1、ポリフロンF−103、ポリフロンF201(ダイキン工業社製)、CD076(旭硝子フロロポリマーズ社製)等を挙げることができる。
また、上記タイプ3に分類されるもの以外では、例えば、アルゴフロンF5(モンテフルオス社製)、ポリフロンMPA、ポリフロンFA−100(ダイキン工業社製)等を挙げることができる。これらのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせてもよい。上記のようなフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、例えばテトラフルオロエチレンを水性溶媒中で、ナトリウム、カリウム、アンモニウムパーオキシジスルフィドの存在下で、6.9〜689.5kPaの圧力下、温度0〜200℃、好ましくは20〜100℃で重合させることによって得られる。
ポリフルオロオレフィンの配合量は、前記(A)〜(D)成分の合計量100質量部に対して、好ましくは0〜2質量部であり、より好ましくは0.05〜1質量部である。配合量を0.05質量部以上とすることにより、目的とする難燃性における溶融滴下防止性が十分となる。また、配合量を2質量部以下とすることにより、配合量に見合った効果が得られ、耐衝撃性および成形品外観に好影響を与える。従って、それぞれの成形品に要求される難燃性の程度及び肉厚等により、使用量等を考慮して適宜決定することができる。
【0018】
次に、必要に応じて配合される(I)成分であるカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物について説明する。
(I)成分を配合する場合の配合量は前記成分(A)〜(D)の合計量100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましい。
この(I)成分は前記各成分の相溶化を促進し、特に(C)成分を安定化する効果(加水分解防止効果)を有する。特にエポキシ化合物、カルボジイミド化合物が好ましい。これらの化合物は2種類以上組み合わせて添加してもよい。
(I)成分の添加時期は、特に限定されないが、(C)成分を安定化するだけでなく、機械特性や耐久性を向上させることができるという点で、(C)成分であるポリエステル樹脂と予め溶融混練した後、他の成分と混練することが好ましい。
【0019】
本発明の芳香族PC樹脂組成物には、前記各成分の他に必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を配合してもよい。例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系等の光安定剤、脂肪族カルボン酸エステル系、パラフィン系、シリコンオイル、ポリエチレンワックスなどの内部潤滑剤、常用の難燃化剤、難燃助剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤等が挙げられる。
【0020】
次に、本発明の芳香族PC樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の芳香族PC樹脂組成物は、前記の各成分(A)〜(E)を上記割合で、さらに必要に応じて配合される(F)〜(I)の各種任意成分、さらには他の一般的な成分を適当な割合で配合し、混練することにより得られる。
配合および混練は、通常用いられている機器、例えばリボンブレンダー、ドラムタンブラーなどで予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等を用いる方法で行うことができる。混練の際の加熱温度は、通常220〜280℃の範囲で適宜選択される。 本発明の芳香族PC樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機、あるいは、得られたペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、発泡成形法などにより各種成形品を製造することができる。しかし、上記溶融混練方法により、ペレット状の成形原料を製造し、ついで、このペレットを用いて、離型性がもっとも問題となるところの射出成形、射出圧縮成形による射出成形品の製造に特に好適に用いることができる。なお、射出成形方法としては、外観のヒケ防止のため、あるいは軽量化のためのガス注入成形方法を採用することもできる。
なお、前記(C)成分である脂肪族ポリエステルと、前記(D)成分である天然由来有機充填剤は別途マスターバッチとして製造しておくのが好ましい。
溶融成形可能な脂肪族ポリエステル〔前記(C)成分〕と、天然由来有機充填剤〔前記(D)成分〕とを主原料としてマスターバッチの製造を行なうのが好ましい。
マスターバッチの製造においては、製造工程は特に限定されず、例えば、通常の2軸混練機等を使用した溶融混練方法〔天然由来有機充填剤と溶融状態の脂肪族ポリエステルとを混練する方法〕、天然由来有機充填剤に溶融した脂肪族ポリエステルを含浸させた後、冷却し切断する方法、脂肪族ポリエステルの粉末をドライ法又はウェット法により天然由来有機充填剤に付着させ、これを溶融した後、冷却し切断する方法のいずれを用いてもよい。
マスターバッチの製造には長繊維ペレット製造装置を用いる方法等を適用すればよい。
上記長繊維ペレットの製造に際し、いずれの製造方法による場合でも脂肪族ポリエステルとしては溶融し得ることが必要である。又、長繊維ペレット等の中間材料から本発明の芳香族PC樹脂組成物を得るに際し、この中間材料としては射出成形等の成形加工が可能であることが必要である。本発明において、脂肪族ポリエステルが溶融成形可能なことを条件としているのは、かかる必要性を充たすためである。
なお、マスターバッチの製造に用いられる脂肪族ポリエステルと、本発明の芳香族PC樹脂組成物における成分(C)として用いられる脂肪族ポリエステルとは、同一であっても異なっていてもよい。
前記(D)成分である天然由来有機充填剤を長繊維ペレット化する際には、天然由来有機充填剤の繊維長が長い程、その成形加工後に得られる芳香族PC樹脂組成物に含有される繊維の繊維長が長く、機械的物性が向上する。したがって、(D)成分である天然由来有機充填剤の繊維長は長い程よく、例えば長繊維ペレットにおいては天然由来有機充填剤の繊維長をペレット長と同等程度にしておくことが望ましい。
【0021】
本発明はまた、前述した本発明の芳香族PC樹脂組成物を成形してなる成形体をも提供する。
本発明の芳香族PC樹脂組成物を成形してなる成形体、好ましくは射出成形体(射出圧縮を含む)は、複写機、ファックス、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、パソコン、プリンター、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジなどのOA機器、家庭電化製品、電気・電子機器のハウジングや各種部分品などに用いられる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0023】
<製造例1:芳香族ポリカーボネート(PC)−ポリオルガノシロキサン(PDMS)共重合体の製造>
(1)PCオリゴマーの製造
400リットルの5質量%水酸化ナトリウム水溶液に、60kgのビスフェノールAを溶解させ、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
次いで、室温に保持したこのビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を138リットル/時間の流量で、また、塩化メチレンを69リットル/時間の流量で、内径10mm、管長10mの管型反応器にオリフィス板を通して導入し、これにホスゲンを並流させて10.7kg/時間の流量で吹き込み、3時間連続的に反応させた。
ここで、用いた管型反応器は二重管となっており、ジャケット部分には冷却水を通して反応液の排出温度を25℃に保った。
また、排出液のpHは10〜11となるように調整した。
このようにして得られた反応液を静置することにより、水相を分離・除去し、塩化メチレン相(220リットル)を採取して、PCオリゴマー(濃度317g/リットル)を得た。ここで得られたPCオリゴマーの重合度は2〜4であり、クロロホーメイト基の濃度は0.7モル/リットルであった。
【0024】
(2)末端変性ポリカーボネートの製造
内容積50リットルの攪拌付き容器に、上記(1)で得られたPCオリゴマー10リットルを入れ、p−ドデシルフェノール(分岐状ドデシル基含有)〔油化スケネクタディ社製〕162gを溶解させた。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム53g、水1リットル)とトリエチルアミン5.8ミリリットルを加え、300rpmで攪拌しながら1時間反応させた。
その後、上記の系にビスフェノールAの水酸化ナトリウム溶液(ビスフェノールA:720g、水酸化ナトリウム412g、水5.5リットル)を混合し、塩化メチレン8リットルを加え、500rpmで攪拌しながら1時間反応させた。
反応終了後、塩化メチレン7リットル及び水5リットルを加え、10分間、500rpmで攪拌し、攪拌停止後静置し、有機相と水相を分離した。
得られた有機相を5リットルのアルカリ(0.03モル/リットル−NaOH)、5リットルの酸(0.2モル/リットル−塩酸)及び5リットルの水(2回)の順で洗浄した。
その後、塩化メチレンを蒸発させ、フレーク状のポリマーを得た。粘度平均分子量は17,500であった。
【0025】
(3)反応性PDMSの製造
1,483gのオクタメチルシクロテトラシロキサン、96gの1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン及び35gの硫酸(86質量%)を混合し、室温で17時間攪拌した。その後、油相を分離し、25gの炭酸水素ナトリウムを加え1時間攪拌した。
濾過した後、150℃、4×102 Pa(3torr)で真空蒸留し、低沸点物を除き油状物を得た。
60gの2−アリルフェノールと0.0014gの塩化白金−アルコラート錯体としてのプラチナとの混合物に、上記(2)で得られた油状物294gを90℃の温度で添加した。この混合物を90〜115℃の温度に保ちながら3時間攪拌した。
生成物を塩化メチレンで抽出し、80質量%の水性メタノールで3回洗浄し、過剰の2−アリルフェノールを除いた。その生成物を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、真空中で115℃に加熱して溶剤を留去した。
得られた末端フェノールPDMSは、NMRの測定により、ジメチルシラノオキシ単位の繰り返し数は30であった。
【0026】
(4)PC−PDMS共重合体の製造
上記(3)で得られた反応性PDMSの182gを塩化メチレン2リットルに溶解させ、上記(1)で得られたPCオリゴマー10リットルを混合した。
そこへ、水酸化ナトリウム26gを水1リットルに溶解させたものと、トリエチルアミン5.7ミリリットルを加え、500rpmで室温にて1時間攪拌、反応させた。
反応終了後、上記反応系に、5.2質量%の水酸化ナトリウム水溶液5リットルにビスフェノールA600gを溶解させたもの、塩化メチレン8リットル及びp−tert−ブチルフェノ−ル96gを加え、500rpmで室温にて攪拌しながら2時間反応させた。
【0027】
反応後、塩化メチレン5リットルを加え、さらに、水5リットルで水洗、0.03モル/リットル水酸化ナトリウム水溶液5リットルでアルカリ洗浄、0.2モル/リットル塩酸5リットルで酸洗浄、及び水5リットルで水洗2回を順次行い、最後に塩化メチレンを除去し、フレーク状のPC−PDMS共重合体を得た。
得られたPC−PDMS共重合体を120℃で24時間真空乾燥した。粘度平均分子量は17,000であり、PDMS含有率は3.0質量%であった。
【0028】
なお、粘度平均分子量、PDPS含有率は下記の要領で求めた。
(1)粘度平均分子量(Mv)
ウベローデ型粘度計にて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求めた後、次式にて算出した。
[η]=1.23×10-5Mv0.83
(2)PDMS含有率
1H−NMRで1.7ppmに見られるビスフェノールAのイソプロピルのメチル基のピークと、0.2ppmに見られるジメチルシロキサンのメチル基のピークとの強度比を基に求めた。
【0029】
<評価特性の測定方法>
(1)難燃性
厚み1.5mmの試験片を用いてUL94燃焼試験に準拠して評価した。
(2)引張弾性率
JIS K 7161に準拠して測定した(表1および2中の単位:MPa)。
(3)曲げ弾性率
ASTM D790に準拠して測定した(単位:MPa)。
(4)防カビ性
JIS Z2911に準拠して測定し、下記の基準で評価した。
○:試験片に接種したカビの発育が認められない、若しくは発育面積が1/3を越えない。
×:試験片に接種したカビの発育面積が1/3を越える。
(5)脱臭効果
成形時に天然繊維が発する臭いの有無で判断し、下記の基準で評価した。
○:臭いがしない。
×:独特の臭気がある。
(6)電気伝導性(帯電防止効果)
1/8インチ厚みの平板状試験片を用い、23℃、湿度50%の雰囲気下で測定し、下記の基準で評価した(単位:Ω/□)。
○:抵抗値が10-13Ω/□以上である。
×:抵抗値が10-13Ω/□未満である。
【0030】
[実施例1〜9および比較例1〜7]
成分(C)と成分(D)を含むマスターバッチの製造には株式会社神戸製鋼所製の長繊維ペレット製造装置「KOSLFP-112」を用いて温度280℃で行った。
各成分の押し出しペレット化は二軸押出成形機(東芝機械社製・機種名:TEM35)を用いて温度260℃で行った。
試験片の成形は、射出成形機(東芝機械社製・機種名:IS100EN)を用いて温度240℃で行った。
使用した各成分は以下の通りである。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂:タフロンA1900
〔粘度平均分子量:19,500、出光興産社製〕
(B)芳香族ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(芳香族ポリカーボネート‐ポリジメチルシロキサン共重合体):製造例1で得られたPC−PDMS共重合体を使用した。
(C)脂肪族ポリエステル樹脂1:ポリ乳酸LACEA H−100(三井化学社製)
(C)脂肪族ポリエステル樹脂2:ポリブチレンサクシネート「GSPla AZ81T(三菱化学社製)」
(D)天然物由来有機充填剤1:ジュート(平均繊維長3〜12mm)にポリ乳酸を含浸させた長繊維
(D)天然物由来有機充填剤2:レーヨン(平均繊維長3〜12mm)にポリ乳酸を含浸させた長繊維
(E)ポーラスカーボン(ナノポーラスカーボン):平均粒径20〜50nm、球状(中空)の表面に約2nmの細孔を有するもの(EAZY−N、INC社製)
(E)カーボンブラック(商品名:三菱カーボンブラックM−100、三菱化学社製)
(F)ハロゲン非含有リン系難燃剤1:芳香族リン酸エステル系難燃剤(商品名:PX−200、大八化学社製)
(F)ハロゲン非含有リン系難燃剤2:フェノール系樹脂安定化処理赤リン(商品名:ノーバレッドエクセル140、燐化学工業社製)
(G)無機充填剤:タルク「TP−A25(富士タルク社製)」
(H)ポリフルオロオレフィン:ポリテトラフルオロエチレン「CD076(旭硝子フロロポリマーズ社製)」
(I)エポキシ化合物:ビスフェノールAエポキシ樹脂「エピクロンAM‐040‐P(大日本インキ社製)」
(I)カルボジイミド化合物:ジシクロヘキシルカルボジイミド「カルボジライトLA‐1(日清紡績社製)」
(I)イソシアネート化合物:1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン「タケネート600(三井化学ポリウレタン社製)」
(I)オキサゾリン化合物:オキサゾリン基含有反応性ポリスチレン「エポクロスRPS‐1005(日本触媒社製)」
表1および表2に実施例および比較例における各成分の配合組成および得られた結果を示した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
表1および表2に示す結果より、以下のことが明らかである。
実施例1〜4および6〜9においては、ナノポーラスカーボンを配合することで、それを配合していない比較例1、2、4〜6、8、9と較べていずれも難燃性の向上が見られ、防カビ、消臭性が付与されている。
カーボンブラックを配合した比較例3、7においては、実施例2、6のようにナノポーラスカーボンを配合した際に発現する防カビ、消臭性がみられない。
実施例5においては、ナノポーラスカーボン配合量を増加させることで、表面固有抵抗値が低い、すなわち、電気伝導性が向上し、帯電防止効果が付与されている。それを配合していない比較例5では表面固有抵抗値が高い、すなわち、電気伝導性が低く、帯電防止性に劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の芳香族PC樹脂組成物は、優れた特性を有しており、OA機器・情報通信機器・家庭電化機器分野などに利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂98〜0質量%、(B)芳香族ポリカーボネート‐ポリオルガノシロキサン共重合体0〜98質量%〔(A)と(B)がともに0であることはない〕、(C)脂肪族ポリエステル1質量%以上、99質量%未満及び(D)天然由来の有機充填剤1〜80質量%からなる組成物〔(A)〜(D)の合計量は100質量%〕100質量部に対し、さらに(E)ナノポーラスカーボン0.01〜30質量部を含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
前記(E)ナノポーラスカーボンが、平均粒子径20〜50nmの中空粒子であり、且つ粒子表面に平均ポア径5nm以下のポアを有する請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)脂肪族ポリエステルが、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトンから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)天然由来有機充填剤が、長繊維ペレット化されたものであり、かつ、平均繊維長が3〜12mmのものである請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記(D)天然由来有機充填剤が、ジュート繊維、レーヨン繊維、竹繊維、ケナフ繊維及びヘンプ繊維から選ばれる少なくとも一種を長繊維ペレット化したものである請求項4に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、(F)成分としてハロゲン非含有リン系難燃剤を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、(G)成分として無機充填剤を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、(H)成分としてポリフルオロエチレンを含有する請求項1〜7のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、(I)成分としてカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物から選ばれる少なくとも一つを含有する請求項1〜8のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2010−241943(P2010−241943A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91588(P2009−91588)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(000104364)カルプ工業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】